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平成31年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】「「設備投資促進税制の延長・見直し」「適用除外事業者の適用除外措置の範囲の拡大」「事業税の税率の改正」」

平成31年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】 「「設備投資促進税制の延長・見直し」 「適用除外事業者の適用除外措置の範囲の拡大」 「事業税の税率の改正」」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [3] 設備投資促進税制の延長・見直し 設備投資促進税制については、連結納税の場合も、単体納税と同様に各連結法人ごとに適用要件の判定と特別償却限度額又は税額控除額の計算が行われる(つまり、研究開発税制や所得拡大促進税制のように連結納税グループでの全体計算の仕組みになっていない)。 ただし、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 そのため、対象設備や適用要件などの制度設計そのものは、連結納税の場合も単体納税と変わらない。 平成31年度税制改正において、設備投資促進税制について、連結納税でも単体納税と同様に、次に掲げる改正が行われている。 この場合、適用要件の見直しは、平成31年4月1日以後に取得等した資産から適用される(平成31年所法等改正法附則1、67、68)。 1.中小企業投資促進税制について、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の11、措令39の41)。 2.中小企業経営強化税制について、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の15の5、措令39の46)。 3.商業・サービス業活性化税制について、適用要件の見直しを行い、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の15の4、措令39の45の4)。 4.地域未来投資促進税制について、付加価値額が8%以上増加していることの要件を満たす場合に、機械装置及び器具備品について、特別償却率を50%(改正前:40%)に、税額控除率を5%(改正前:4%)に、それぞれ引き上げる、また、適用投資額の上限を80億円(改正前:100億円)に引き下げる、などの見直しを行い、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の14の3、措令39の44の3)。 5.中小連結法人(適用除外事業者を除く)について、中小企業の災害に対する事前対策のための設備投資に係る特別償却制度(中小企業防災・減災投資促進税制)を創設する(令和元年(2019年)7月16日から令和3年(2021年)3月31日まで)(措法68の20、措令39の52)。 6.平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制について、適用除外事業者を適用対象から除外することになった(平成31年所法等改正法附則1、48)。また、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、中小連結法人の範囲が見直されている(『[2] 中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し』参照)。   [4] 適用除外事業者の適用除外措置の範囲の拡大 平成31年度税制改正において、適用除外事業者が適用できない中小企業者向けの租税特別措置の範囲が拡大した(単体納税、連結納税の適用除外事業者の定義は、『[2] 中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し』を参照)。 具体的には、平成31年度税制改正によって適用期限が延長された中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制、中小企業者の法人税率の特例(19%ではなく15%を適用)について、適用除外事業者が適用対象外となった(設備投資促進税制については、『[3] 設備投資促進税制の延長・見直し』を参照)。 平成31年度税制改正を踏まえた、平成31年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度において適用除外事業者が適用対象外となる中小企業者向け租税特別措置は、下記のとおりとなる。 (※)は、平成31年度税制改正によって創設又は適用期限が延長されたものである。 このうち、①~⑨は、中小企業者又は中小連結法人に該当する場合でも適用除外事業者に該当する場合は適用できないものである。 一方、⑩と⑪については、中小法人に該当しても、適用除外事業者に該当する場合は適用できないものである(措法42の3の2①、57の9①②、68の8①、68の59①②)。 中小法人の特例措置のうち、適用除外事業者の適用関係は次のとおりとなる。 [中小法人の特例措置に係る適用除外事業者の適用関係] [5] 事業税の税率の改正 都市・地方の持続可能な発展のための地方税体系の構築を目的として、事業税の一部を分離して特別法人事業税を創設することになった。 具体的には、令和元年(2019年)10月1日以後に開始する事業年度から、事業税の税率(所得割及び収入割に限る)を引き下げるとともに、標準税率により計算した事業税額(所得割額)を課税標準とした特別法人事業税を課すことになった(地法72の24の7①②③。特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律(平成31年法律第4号))。 この事業税と特別法人事業税については、現行の事業税と地方法人特別税の計算の仕組みと同じであり、税率の内訳は異なることになるが、合計した事業税の税率と法定実効税率はほとんど変わらないため、実務に与える影響はほとんどないだろう。 改正前後の法定税率と法定実効税率について、以下に【税率の一覧表】を示しておく。 なお、東京都については、この改正を盛り込んだ「東京都都税条例等の一部を改正する条例」(令和元年東京都条例第4号)が、令和元年第2回東京都議会定例会において可決され、令和元年6月26日に公布されているが、東京都は、現行の超過課税の規模を変更しない(現行の標準税率と超過税率の差分をそのまま、税制改正後の標準税率に加算する)こととしている。 【法定税率と法定実効税率の一覧表】 ※画像をクリックすると別ページで拡大して表示されます。   (了)

#No. 329(掲載号)
#足立 好幸
2019/08/01

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第12回】「もし第二鬼ヶ島にも行くことになったら~契約の変更」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第12回】 「もし第二鬼ヶ島にも行くことになったら ~契約の変更」 公認会計士 石王丸 周夫   1 「第二鬼ヶ島」を発見! 桃太郎一行が船に乗って鬼ヶ島に向かっていると、物見に出ていたキジが戻ってきました。 「桃太郎さん、鬼ヶ島の向こうに、もう1つ別の鬼ヶ島を見つけました!」 「えっ!別の鬼ヶ島!?」 キジの報告を聞いた一同はびっくりしましたが、桃太郎はすぐにこう言いました。 「それなら、こうしよう!鬼ヶ島で鬼を成敗したら、その足でもう1つの鬼ヶ島に行き、そこの鬼も成敗する。ちょうど今、ほんの少し小さなきびだんごが3つあるから、もう1つの鬼ヶ島に向かう途中で、それをみんなに1つずつあげることにしよう。」 「そうしましょう!」 イヌ・サル・キジたちは、喜んで賛成しました。 今回は、鬼ヶ島(第一鬼ヶ島)のほかに、もう1つ別の鬼ヶ島(第二鬼ヶ島)があったという設定にしました。桃太郎たちは、当初の鬼退治に向かう途中で第二鬼ヶ島を発見し、急きょ計画を変更したようです。 イヌ・サル・キジは、桃太郎と鬼退治同行サービスの契約を結んでいます。その遂行途中で内容に変更が生じた場合、イヌ・サル・キジの収益認識処理に何か影響が出るでしょうか。 以下、収益認識会計基準に照らして考えていきましょう。   2 「契約の変更」とは 収益認識会計基準では、「契約の変更」という考え方が示されています。それによると、「契約の変更」とは、契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更で、当事者が承認したもののことを言います。 今回の内容変更は、以下のとおり、「契約の変更」に該当します。   3 契約変更時の処理方法は4つ 「契約の変更」が生じた場合、会計処理の方法は以下の4つ([ⅰ]~[ⅳ])に分かれます。 いずれの処理方法になるかは、次に説明するような所定の要件があって、それらを満たすかどうかで判断していきます。   4 独立した契約として会計処理するための要件 では、第二鬼ヶ島に行くことになった件について、上記4つの処理方法([ⅰ]~[ⅳ])のうちどれに該当するのかを判定していきましょう。 判定の流れは以下のようになります。 第1段階の判定として、「契約の変更」について、次の2つの要件がいずれも満たされるなら、当該契約変更を既存の契約とは独立した契約として会計処理します。 少し難しい表現になっていますが、順番に見ていきましょう。 まず(1)の要件です。今回の話では、「第二鬼ヶ島に行く」という別個のサービスが追加され、契約の範囲が拡大されています。したがって、(1)の要件は満たされます。 次に(2)の要件です。イヌ・サル・キジは、「第二鬼ヶ島に行く」という追加的サービスの報酬として、ほんの少し小さなきびだんごを1つずつもらいます。当初の契約価格(きびだんご1つ)に、ほんの少し小さなきびだんご1つが上乗せされるので、「増額」されたことは間違いありません。この増額が、「独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額」かどうかを確かめましょう。 当初の話では、鬼退治に1回同行することの見返りとして「通常の大きさのきびだんご1つ」をもらいました。つまり、鬼退治同行1回につき「通常の大きさのきびだんご1つ」というのが独立販売価格(市場価格)と考えられます。 今回追加された第二鬼ヶ島行きは、第一鬼ヶ島に行ったついでに立ち寄るということから、サービスを一からすべて提供するわけではありませんね。そのため、報酬はきびだんご1つではなく、ほんの少し小さなきびだんご1つになっています。この「ほんの少し小さくなった」というのは、「独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整」と言えます。したがって(2)の要件も満たされます。 以上から、第二鬼ヶ島行きは、上記2つの要件をいずれも満たし、「[ⅰ]既存の契約とは独立した契約として会計処理する」ことになります。 具体的な会計処理としては、イヌ・サル・キジたちは、第二鬼ヶ島同行サービスの履行義務を充足した時点で、各自「ほんの少し小さなきびだんご1つ」を収益計上することになります。 なお、上記2つの要件のいずれかを満たせなかった場合は、独立した契約として処理されない場合となります。 ここから先は複雑な話になってしまうため、詳しい説明は割愛しますが、第二段階の判定では、契約変更日において未移転のサービスについて、契約変更日以前に提供したサービスと別個のものであるかどうかにより、[ⅱ]~[ⅳ]のいずれかであるかを判断します。 ▷今回のまとめ 収益認識会計基準では、契約変更について、所定の要件に基づき複数の処理を定めています。 (了)

#No. 329(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/08/01

企業結合会計を学ぶ 【第22回】「親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第22回】 「親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 個別財務諸表上の会計処理 1 概要 親会社が子会社を吸収合併する場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針205項、206項、438項)。 下記のほか、中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い、子会社と孫会社との合併の場合についても規定されている。 ◎子会社(吸収合併消滅会社) 子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定する。 ◎親会社(吸収合併存続会社) 【資産及び負債の会計処理】 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 増加すべき株主資本は次のように会計処理する。 【株主資本】 親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分し、それぞれ次のように処理する。 ① 親会社持分相当額の会計処理 親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、特別損益に計上する。 ② 非支配株主持分相当額の会計処理 ・非支配株主持分相当額と、取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価)(結合分離適用指針37 項から47項)との差額をその他資本剰余金とする。 ・合併により増加する親会社の株主資本の額は、払込資本とし、結合分離適用指針79項から82項に準じて会計処理する。 【株主資本以外の項目】 ・親会社は子会社の合併期日の前日の評価・換算差額等(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く)及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。 ・例えば、子会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額のうち、支配獲得後に当該子会社が計上したものをそのまま引き継ぐことになる。 2 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 前述のように、親会社と子会社が合併する場合、親会社の個別財務諸表では、原則として、子会社の適正な帳簿価額により資産及び負債を受け入れる会計処理を行う。 親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときは、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む)により会計処理することになる(企業結合会計基準(注9)、結合分離適用指針207項)。 当該取扱いは、子会社とその子会社との合併(例えば、子会社と孫会社との合併)についても適用し、この場合の連結財務諸表上の帳簿価額とは、子会社にとっての連結財務諸表上の帳簿価額である(結合分離適用指針207項)。 子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときの会計処理の具体例は、次のとおりである(結合分離適用指針207項、439項)。 3 連結財務諸表上の帳簿価額が算定されていない場合の取扱い 親会社(子会社とその子会社との合併の場合における子会社を含む)が、連結財務諸表を作成していないことにより、「連結財務諸表上の帳簿価額」が算定されていない場合であっても、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定できるときには当該帳簿価額を用いることとし、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定することが困難と認められるときは、子会社の適正な帳簿価額を用いる(結合分離適用指針207-2項)。 親会社が他の会社の株式を取得して子会社化した直後に合併した場合(子会社が他の会社の株式を取得して子会社(親会社からみて孫会社)とし、その直後に子会社が孫会社を吸収合併した場合も含む)は、通常、連結財務諸表上の帳簿価額を合理的に算定できる場合に該当するものと考えられている(結合分離適用指針207-2項)。   Ⅲ 連結財務諸表上の会計処理 吸収合併が行われた後も親会社が連結財務諸表を作成する場合には、結合分離適用指針206項(2)①アの損益は連結財務諸表上、過年度に認識済みの損益となるため、相殺消去する(結合分離適用指針208項)。 子会社とその子会社との合併(子会社と孫会社の合併)においても、当該取扱いに準じて処理する。 (了)

#No. 329(掲載号)
#阿部 光成
2019/08/01

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第7回】「『テレワーク』導入時に特に注意したい労働時間管理」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第7回】 「『テレワーク』導入時に特に注意したい労働時間管理」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   「今日も電車が混雑しているかも・・・」そんなことを思いながら毎朝、「通勤」を「痛勤」と感じている方は多いのではないでしょうか。実は、筆者もその1人です。 昨今は東京オリンピック開催に向けた取組や柔軟な働き方の1つとして、多くの会社で「テレワーク」の導入が検討されています。「テレワーク」とは、従業員が「働く場所」と「働く時間」を自由に選択することを可能とする働き方であり、従業員の「仕事」と「生活」の両立が実現できる魅力的な制度の1つとして、今後ますます注目されていくでしょう。 しかし、この「通勤をしないでいい!」夢のような制度を実現するためには、いくつか注意しなければならないポイントがあります。   ▷テレワークとは「働く場所」の自由度(裁量)です 労働基準法では、「働く場所」に関する制限は規定されていません。職場内で仕事をしようが、自宅で仕事をしようが、カフェで仕事をしようが、労働基準法においては何の問題もない、ということです。 つまり、 については、会社が自由に決めればよいということになります。 しかし、今まで1つ屋根の下で働いていた従業員が、それぞれ別の場所にいるということは、労務管理もそれなりに手間がかかります。また、従業員としては相談したくても相談できないということで、孤独感を感じる方も少なからずいらっしゃるようです。   ▷「テレワークの導入=労働時間短縮」となる!? 「テレワークの導入=労働時間短縮」であるかのような議論が少なからず聞かれます。もちろん、通勤時間がない分、従業員にとっては「時間を効率的に使える」ことにはなるでしょう。 しかし、テレワークを導入するだけで、労働時間が短縮するわけではありません。集中して業務が行える反面、労働時間が長くなってしまう恐れがあります。また、まとまった勤務時間を確保しようとすると、働く時間が深夜や休日にまで及んでしまうことも懸念されます。 このように、せっかくの制度が従業員の健康を害することになってしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。会社はテレワーク対象者に対する「働き方」を、健康管理の観点からも配慮しなければなりません。 筆者自身も月に数日テレワークを行うことがあります。特に自宅で業務を行う場合は、家族が寝静まった深夜にこそ集中して行えることから、深夜の時間を利用することが多いのが現状です。また、業務以外のことに気が向いてしまい、効率的に業務を行えず、1日中机の前に座っているだけ・・・ということもあります。 また、従業員本人の自律も求められます。従業員自身が、勤務する時間帯や自らの健康に十分注意しつつ、業務効率を勘案して業務を遂行しなければなりません。会社がいくら仕組みを整えたとしても、最終的には、従業員自身の「働き方」に委ねることになるからです。 効率的に業務を進めて生産性を上げることが、このテレワーク導入の目的であることを労使双方ともに理解した上で、「短い時間で効率的に業務を行うための仕組みづくり」を整えると同時に「従業員の自律を促す意識改革」が求められるところです。   ▷テレワークと「働く時間(労働時間)」 テレワークは従業員に対して「働く場所」の裁量は与えていますが、「働く時間」についての裁量を与えているわけではありません。 テレワーク対象者であっても労働契約が成立している以上は、労働基準法等、労働関係法令が適用されます。したがって、会社はテレワーク対象者の「始業、終業の時刻、休憩時間」を定めなければなりません。 厚生労働省が示す「情報通信機器を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日策定)によると、テレワークを行う従業員に対しても、「使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」とされています。 テレワークを行う従業員の「労働時間」を把握する方法の1つとして、メールや電話等により業務開始・終了の時刻を会社に報告させる方法が挙げられます。いずれにしろ、こういった従業員の申告に基づく管理、いわゆる「自己申告制」による労働時間の把握に頼らざるを得ないのが現状だと思われます。 これについては、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)によって、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置として、以下のような措置を講ずることが求められています。 (※) 詳細については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)p.3を参照。 会社がテレワークを行う従業員に対して効率的な働き方を求めるあまり、従業員が正しい労働時間の申告をしづらくなってしまうケースも考えられます。管理者としては、少なくとも「長時間労働になっていないか」、「メールの送信が深夜や休日に行われていないか」などを定期的に検証する必要があります。   ▷テレワークと事業場外労働のみなし労働時間制 「会社以外の場所で働くこと」=「事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法38条の2)」(以下「事業場外みなし労働時間制」)とはなりません。「事業場外みなし労働時間制」が適用されるのは、使用者の「具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なとき」に限定されており、以下の条件のいずれも満たす場合とされています。 最近の勤怠管理システムは、安価で従業員のスマートフォンなどを利用して外出先からも利用できるものもあり、スマートフォンのGPS機能を利用すれば打刻した場所まで分かるシステムも普及しています。こういったシステムが活用できる状況で「労働時間を算定することが困難なとき」があるのかは疑問ですが・・・。 なお、「事業場外みなし労働時間制」を適用できる場合であっても、労働したものとみなされる時間が、深夜もしくは休日の労働となった場合には、法定の割増賃金を支払わなければならないことや健康確保を図る必要があることから、「使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」とされています。   ▷「テレワーク+フレックスタイム制」で「働く場所」と「働く時間」を自由に! テレワークに加えて、「働く時間」を自由に選択することができる「フレックスタイム制」を適用することで、従業員は「働く場所」と「働く時間」を自由に選択することが可能となります。 フレックスタイム制は、従業員の都合に合わせて働く時間を自由に設定することが可能となるため、最もテレワークのメリットを生かせる制度といえます。 なお、フレックスタイム制について詳しくは、前回を参照してください。 ちなみに筆者の事務所は東京にオフィスがありますが、テレワークを活用して福岡で働いてもらっている従業員がおり、フレックスタイム制(フレキシブルタイム(5時~22時)、コアタイムなし)を導入し、勤怠管理システムを利用して労働時間管理を行っています。 その従業員には、朝の早めの時間や子どもたちが幼稚園に通っている時間を活用して仕事をしてもらったり、打ち合わせが必要な際には、テレビ会議を利用して遠隔地でも問題ないような工夫をしています。 また、セキュリティの問題も気になるところですよね。例えば、カフェで資料を広げて業務を行うとなると、隣の人に見えてしまったり、出先で資料を忘れてきてしまうという心配もあります。このため、原則的には「自宅での勤務」ということを、筆者の事務所ではお願いしています。 (了)

#No. 329(掲載号)
#飯野 正明
2019/08/01

空き家をめぐる法律問題 【事例16】「空き家の管理を事業者へ委託する場合の留意点」

空き家をめぐる法律問題 【事例16】 「空き家の管理を事業者へ委託する場合の留意点」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、A市の自宅で生活をしておりますが、隣のB市に空き家となった実家を相続して所有しています。職場も含め日常の生活はA市で行っているため、なかなかB市の実家まで様子を見に行く時間的余裕はありません。庭木の雑草など隣家に迷惑をかけることを防ぐため、空き家の管理を委託しようと考えています。空き家管理委託をする際に、どのようなことに留意するべきでしょうか。   1 はじめに 近年、空き家の所有者に代わって、空き家の管理を行う事業が注目されている。このような空き家管理事業は、比較的低額で行われているため、地方の実家(空き家)を離れて大都市圏で生活をする者だけでなく、実家の近隣都市で生活をしている者にとっても、自身で空き家の管理をする場合に比べて、時間や費用を削減できる点でメリットがある。 今後も空き家が増加することが見込まれていることから、このような空き家管理事業は一定の需要があるものと思われる。そこで今回は、空き家所有者が、空き家の管理を委託する場合の留意点について数点説明することにしたい。   2 空き家の管理委託契約の主な内容と留意点 (1) 管理委託の委託内容 受託事業者にもよるが、空き家の管理委託契約における委託内容は、おおむね次の内容を含む準委任契約(民法第656条)としての性質を有するものと考えられる。 また、空き家の管理委託者は消費者であり、受託者は空き家管理事業のために契約当事者となる者であることが通常であろうから、その場合、当該契約は、消費者契約(消費者契約法第2条第3号)としての性質も有することになる。 受託事業者は、委託者に対して、上記の各業務を実施し、その結果を定期的に書面等に基づいて報告することになっているものが多い。 以上を踏まえ、空き家の所有者が、上記の各業務を委託する際に留意しておくべきことを検討する。 (2) 契約当事者には誰がなるか? 空き家の管理委託契約は、当該空き家の敷地内に入り点検・確認することを内容とするものであるから、当該契約の当事者は、空き家の所有者等のような管理権限を有している者であることが求められる。 空き家の所有権を単独相続した者はもちろん、共同相続した場合でも、上記(1)の①から⑤のような内容の業務であれば、共同相続人の1人が保存行為を理由に単独で契約を締結することはできる。 なお、相続発生後も建物の名義人が被相続人名義のままとなっている場合には、受託事業者が委託者に契約締結権限があることを確認するため、戸籍等の書面の提出を求められることになるものと思われる。 (3) 空き家の所有者と受託事業者の法的責任 空き家の管理委託契約の法的性質は、上記(1)のとおり準委任契約と解されることから、受託事業者は、委託者に対して、各業務の履行について善管注意義務を負う。 それでは、受託事業者が空き家の点検・確認・報告を適切に行わなかった結果、空き家の所有者が適時に修繕等を行えず、これによって第三者に損害が生じた場合、空き家の所有者や受託事業者は、誰に対してどのような責任を負うだろうか。 (ア) 第三者に対する不法行為責任について 上記(1)①から⑤の事業内容のとおり、空き家管理の受託事業者の業務内容は、定期的に空き家を訪問し、点検・管理をして、その結果を所有者に報告するに留まるものである。一般論としては、空き家の占有者は、所有者であり、受託事業者ではないと考えられる。そのため、空き家の外壁等の剥離や外壁ブロックの倒壊によって、第三者に損害が生じた場合、空き家の所有者が損害賠償責任(民法第717条)を負うことになるであろう。 これに対して、受託事業者が、建物内部の点検や確認業務まで受託しており、これに伴い所有者から鍵を預かり、1ヶ月のうちに点検や確認のために複数回空き家を訪れているような場合、受託事業者が、民法第717条に規定する占有者として、所有者とは別に、第一次的に責任を負うかは一応問題となりうる。 この点に関し、民法第717条に規定する占有者は、損害の発生を防止するために必要な注意義務を履行したときは、損害賠償責任を負わない(同条第1項ただし書)ことから、同条の占有者とは、工作物を事実上支配し、その瑕疵を修補するなどして、損害の発生を防止できる関係にある者をいうものと解される(東京高判昭和29年9月30日等)。 そうすると、受託事業者が同条の占有者として認められる可能性は低い。したがって、空き家の所有者は、委託契約後も単独で民法第717条の損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられるので、留意が必要である。 なお、空き家管理委託契約書には、不法行為によって第三者に損害が生じた場合に、所有者の負担と責任で第三者に対応することを定める条項を設けている例もあり、空き家の所有者としては、損害賠償責任のリスクを回避するために、施設の賠償責任保険に加入する等してしておくことが重要である。 (イ) 受託事業者の委託者に対する債務不履行責任について 上記(ア)のとおり、受託事業者は、委託者に対して善管注意義務を負うことから、点検・確認・報告義務を怠った結果、委託者に損害が生じた場合、委託者に対して、債務不履行に基づいて損害賠償責任を負うことになる。 この場合、空き家の所有者が、賠償責任保険に加入しておらず、自ら損害賠償金を第三者に支払ったような場合には、当該賠償金相当額が、受託事業者の債務不履行に基づく損害と主張していくことになるものと考えられる。 ただし、委託者が第三者に損害賠償金を支払ったという場合、当該支出が受託事業者の債務不履行から社会取引観念に従って通常発生する損害(通常損害:民法第416条第1項)であるかは、所有者が土地工作物責任を負っていることや、受託事業者の業務の内容に照らして疑問の余地もある。また、当該支出が特別事情によって生じた損害(特別損害:同条第2項)であるとしても、損害が発生するまでの事情が受託事業者にとって予見可能なものであるかをめぐって争いになりうるものと思われる。 ところで、管理委託契約が消費者契約である場合に、契約書上に、①受託事業者の債務不履行責任を全面的に免責する条項や②受託事業者に故意又は重過失がある場合でも損害賠償責任を限定する条項等が設けられていたとしても、このような条項は、消費者契約法第8条第1項第1号又は第2号によって無効となる。 もっとも、条項は無効となるとしても、契約書上に、当該条項が存在することを理由に、受託事業者が責任を限定する旨の主張をする可能性もあるので、契約締結の際は、契約書の条項の内容を十分に確認するべきことは言うまでもない。 (了)

#No. 329(掲載号)
#羽柴 研吾
2019/08/01

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第23話】「男女平等と寡婦(寡夫)控除」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第23話】 「男女平等と寡婦(寡夫)控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   中尾統括官は、昼休みに、椅子にもたれながら書類を見ている。 「・・・それって、税理士会の建議書ですか?」 突然、背後から、声がする。 「えっ!」 中尾統括官が驚いて振り向くと、浅田調査官がニコニコしながら立っている。 「僕もたまに読んでいるのですが、なかなか面白いですよね。えーとこれは・・・令和2年度税制改正に関する建議書・・・ですね。」 浅田調査官は、中尾統括官が持っている書類の表紙を覗きながら尋ねる。 日本税理士会連合会の「令和2年度税制改正に関する建議書」の「はじめに」では、税制に対する基本的な視点として、次の5つを挙げている。 「この建議書は、税務に関する専門家(税理士)からの税制に関する意見ですね。」 浅田調査官が言う。 「そのとおり。」 中尾統括官は頷く。 「ところで・・・何か参考になる意見は述べられていますか?」 浅田調査官が尋ねる。 「そうだなあ・・・ここに・・・寡婦(寡夫)控除について書かれているんだが・・・」 中尾統括官はページをめくりながら言う。 「・・・寡婦(寡夫)控除について・・・建議書は、次のように書かれている。」 「・・・男女平等の観点から、「寡婦控除」と「寡夫控除」との間で差を設けるべきでないと建議書に書かれているが・・・」 中尾統括官は、そう言いながら、両制度の適用要件等を罫紙に書く。 「・・・以上がそれぞれの適用要件なのだが・・・これを見ても分かるように、寡婦控除は、夫と死別した場合、子供等がいなくても、合計所得金額が500万円以下であれば適用できる。それに対し寡夫控除は、生計を一にする子がいなければ、適用されない・・・すなわち、寡婦控除(②)には、扶養親族などの要件がない・・・」 そう言うと、中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「それに寡婦控除の場合、離婚した後に自分の親を養っている場合も適用されるが、寡夫控除は適用されない・・・」 浅田調査官は頷く。中尾統括官は説明を続ける。 「ところで寡婦控除又は寡夫控除は、それぞれ27万円控除できるが・・・特定寡婦控除は、35万円の控除額になる・・・」 「特定寡婦控除の適用要件は・・・何でしたっけ?」 浅田調査官が尋ねる。 「特定寡婦控除は・・・①夫と死別又は離婚して、②扶養親族である子がいる人で、さらに③合計所得金額が500万円以下であること・・・という適用要件が必要になる。」 中尾統括官がスラスラと答える。 「ところで・・・なぜ所得税法は、寡婦控除と寡夫控除の適用要件を異にしているのでしょうか?」 浅田調査官は頸を傾げる。 「それは・・・社会的に女性よりも男性の方が、経済力があるとされているから、その適用要件に差を設けている(男性の適用要件を厳しくしている)と思う・・・」 中尾統括官は、腕を組みながら言う。 「でもそれって・・・時代遅れの考え方なんでしょうか?」 浅田調査官の口調は、強くなる。 「いや・・・私も、現実の経済社会では、まだ男性の方が優位だと思うから、必ずしも、男女平等の観点から差を設けるべきではない・・・という税理士会が述べている建議書の意見には賛同しがたい・・・」 中尾統括官は、建議書の文章を見つめながら答える。 「・・・この場合、男女平等の観点から差をなくすべきという意見は、経済社会の実態から少し乖離しているように思われます・・・むしろ女性を優遇することによって、女性は男性と平等になると考えるべきなのでは・・・」 そう言って、浅田調査官は、赤い舌をペロッと出す。 (つづく)

#No. 329(掲載号)
#八ッ尾 順一
2019/08/01

プロフェッションジャーナル No.328が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年7月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.328を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/07/25

これからの国際税務 【第14回】「平成31年度改正で追加されたタックスヘイブン税制改革」

これからの国際税務 【第14回】 「平成31年度改正で追加されたタックスヘイブン税制改革」   21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二   1 TH税制見直しの背景 グローバルビジネスの税務環境は、新しい課税対象取引の出現や各国における個別対応立法の導入により、常に変化して留まるところを知らない。ただ、国際的なコンセンサスを必要とする大きな課税枠組みについては、幸いなことに2015年10月に最終報告をまとめたBEPSプロジェクトが租税回避防止対応に向けた国際協調のガイダンスを提示したため、一定の立法的集約が図られつつある。 タックスヘイブンを利用した租税回避の防止策もその1つであり、我が国も平成29年度改正により、20%の実効税率を閾値に経済活動基準を満たさない外国子会社につき会社単位での合算を(受動的所得については経済活動基準を満たすものについても合算対象)、更に、ペーパーカンパニーやいわゆるキャッシュボックス法人については30%の閾値で会社単位合算を行うことと整理していた。 ところで、米国では2017年末のトランプ税制改革で、法人税の実効税率が30%未満にまで引き下げられたため、米国で稼働する本邦法人の関連会社につき、上記のペーパーカンパニー該当の有無について審査対象となる法人が増加したという変化がみられた。それらの中には、外形上ペーパーカンパニーに該当しているように見えても、事業の実態がないとは言えなかったり或いは租税回避に資する類型ではなかったりして、合算税制の趣旨に照らして適用除外とすべきものも含まれており、これらについては、法制上明確に適用除外とすべきとの要請がビジネス界から高まっていた。31年度改正のタックスヘイブン税制の部分は、この要請に応えたものである。   2 改正概要とその意義 平成31年度改正では、次の3つの類型の関係会社について、ペーパーカンパニーに該当しないことが明記された。すなわち、 である。 このほか、保険会社特例についてもペーパーカンパニー該当性を実質判断するとともに、関連者保険料(キャプティブ保険)に着目した事実上のキャッシュボックス認定ルールが創設されている。 これらの改正は、外国子会社の所得についてその実質的帰属が親会社に属するものを、所得種類別に個別認定して合算対象を精緻化しようとする方向に向かうものであり、個別否認規定を明確に規定して納税者の予測可能性を高めるという我が国税制の伝統的手法に合致した改正と評価できよう。   3 電子経済課税ルールの議論との整合性 ところで、本年6月のG20サミットで合意された電子経済課税ルールの作業計画では、第2の柱として、低税率国への所得移転に対する処方箋の1つとして、国際的に定めた最低限の税負担を下回る国への利益移転については、ミニマム税的な仕組みで取り戻し課税ができるとする案が提起されている。 トランプ税制改革で登場したGILTI税制(低課税グローバル無形資産所得の合算税制)及びBEAT税制(低課税関連会社への損金算入支払いの否認税制)を参照したといわれるこのプランは、関連会社の事業用資産の一定率に相当する所得(通常所得)を超える所得についての課税権の流出を認めないとするものであり、実質的には外形標準でのミニマム税の負担を関連会社所得に対して求めるものとなっている。 我が国の31年度改正にみられる取引単位或いは法人単位での個別の機能、リスク分析に基づくタックスヘイブン税制の対応とは異なる方向性を持っており、この新制度が仮に合意された場合には、我が国をはじめ精緻なタックスヘイブン税制を導入している先進国では、既存税制との調整という課題に直面することになろう。米国のGILTI税制等については執行が始まったばかりであり、我が国は米国の状況を見ながら慎重に対応すべきと考える。 (了)

#No. 328(掲載号)
#青山 慶二
2019/07/25

山本守之の法人税“一刀両断” 【第61回】「所得課税とデジタル課税」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第61回】 「所得課税とデジタル課税」   税理士 山本 守之   Ⅰ 所得課税 1 各事業年度の所得に対する法人税 法人は解散、合併等をしない限りは永続的に存在するものです。したがって、法人がどれだけの利潤を得たかを最終的に測定するためには、設立してから解散、合併までの期間について計算をしてみなければ分かるものではありません。 しかし、企業利潤の計算を解散又は合併時まで待っていたのでは、企業と投資家との関係は成立しません。投資家にしてみれば、投資に対する利益の分配(配当)を期待しているでしょうし、その分配の基準となる利益の計算が長期に及べば、配当を受けられる時期の見込みもつかないことになります。 そこで、事業年度という人為的に区切られた期間(法人の財産及び損益の計算の単位となる期間-会計期間)の中で企業利益を算出し、その利益の中から配当を支払うという仕組みになっています。 国と企業との関係も同じで、事業年度という区切られた期間の中で所得金額を計算し、その所得金額に対して法人税を課すのです。 これが「各事業年度の所得に対する法人税」です。 2 消費型所得概念 所得概念は次のように区分できます。 このうち、「消費型所得概念」は、効用又は満足の源泉である財貨や人的役務の購入に充てられる部分だけを所得としてみる考え方で、蓄積に充てられた部分を所得から除外するというものです。この考え方によれば、人の1年間の消費総額を所得として累進税率を適用するものになります。 この方法によると、投資や貯蓄を奨励するという政策目的を達成する手段としては有効ですが、蓄積に充てられた部分を課税対象から除外すれば、高額所得者又は資産家に有利となり、獲得したすべてを消費に振り向けなければならない勤労者層又は低額所得者層に不利になります。 このような不公平を避けるため、相続税、贈与税や資産保有に係る税を大幅に増税しなければなりませんが、実際問題としてそれは実現不可能です。 また、この所得概念では、高齢者が蓄積を取り崩して消費に充てた分も課税対象となり、借入金によって消費した分も課税されるなど問題が多くあります。 したがって、このような所得概念の下に所得税を構築することは社会正義に反し、一部の学者の学説の範囲にとどまっており、現実の所得税制として実現する可能性はないと考えてよいでしょう。 3 取得型所得概念 取得型所得概念は、個人が新たに取得する経済的価値(経済的利得)を所得とするもので、各国の租税制度の中で一般的に採用されているものです。取得型所得概念は、さらに制限的所得概念と包括的所得概念に区分されます。 制限的所得概念は、利子、配当、利潤、給与のような継続・反覆的な利得だけを所得としてとらえ、一時的・偶発的・恩恵的な利得を所得の範囲から除外する概念です。この考え方はドイツのヘルマンによって代表されるもので、所得源泉説又は反覆的利得説とも呼ばれています。イギリスではこの考え方によって18世紀末に所得税が創設されました。 当時のイギリスは毎年の穀物収穫に依存した農業経済で、停滞的であったばかりではなく、限嗣封土と呼ばれる制度があり、何人も不動産を自由処分することができなかったことも影響しているようです。いずれにしてもイギリス及びヨーロッパ諸国の所得税制度は伝統的にこの考え方に基づいており、キャピタル・ゲインのような一時的・偶発的利得は長い間課税対象から除外されていました。 もっとも、近年では財政事情から、必ずしもこのような制限的所得概念を取ることはできなくなっています。 制限的所得概念に対立するのが包括的所得概念です。ここでは人の担税力を増加させる経済的利得は、継続・反覆的なものであれ、一時的・偶発的・恩恵的なものであれ、すべて所得に含まれます。 この考え方は1892年にドイツのシャンツによって体系化され、後にアメリカのロバート・ヘイグやヘンリー・サイモンズによって主張されました。1913年にアメリカで採用された連邦所得税はこの考え方によっています。もともと19世紀初頭にアメリカで所得税が取り入れられた頃は、いわゆる開拓者経済で、油田、金鉱などを求めてフロンティアが活躍し、一獲千金を夢見た投機をはらむものであったことも影響しています。 このため、アメリカでは、ヨーロッパと異なり、いかなる源泉から生じたものであるかを問わず、すべての所得を課税対象としたのです。 確かに、所得税創設当時こそそれぞれの国の経済事情に合致した制限的所得概念、包括的所得概念と異なるものでしたが、現在では世界各国ともに財政事情等から包括的所得概念の方向に移っています。 包括的所得概念が支持される理由については、理論的には次のように説明されています。 つまり、所得の源泉、形式を問わず課税する方が担税力に見合った税となり得るものであるという考え方で、わが国でも戦前は課税所得の範囲を制限的にとらえていた時期もありましたが、戦後はアメリカの影響を受けて包括的所得概念になっています。 法人税は「全世界所得課税方式」と「源泉地国課税」があり、米国では、企業が外国で稼いだ利益にも課税するという「全世界所得課税方式」でしたが、これは国際競争で不利だという批判に応えて、トランプ税制では米国で稼いだ分だけに課税する「源泉地国課税」に改正しました。   Ⅱ デジタル課税 1 デジタル課税の動き 令和元年6月9日、日本の福岡市で開催されたG20財務省・中央銀行総裁会議で、経済のデジタル化に対応した国際課税ルールを2020年の最終合意を目指して収束することで一致しました。 (1) 収益の源泉 米国のグーグル、アップルなどいわゆる巨大IT企業(「GAFA」)は国境を越えて事業を展開しています。従来の税制では、法人税をかけるための収益の源泉がどこにあるかをとらえきれていません。 (2) OECDの今後の計画 このサービスを利用している者のいる国は、今後税収を多く徴収する方向ですが、多国籍企業の範囲、配分方向は討議する必要があります。 2 デジタル経済化の要因 企業が生む価値は、「GAFA」などにより次のように変わっています。従来は一定の税引前利益があれば、それに応じた税負担額がありました。しかし、現在では税引前利益がどんどん伸びても税負担額は伸びません。これは世界的傾向である企業の税負担率が下がりはじめているということです。 これで公平な法人税が保てるのでしょうか。 実際のところ、税負担率は2000年度の30%から2018年度では23%と下落しました。 次に問題となっているのが経済のデジタル化です。 企業価値の源泉は、製造業が中心であったころの「モノ」からグーグル、アップルなどのデジタル企業の無形資産(ノウハウ、顧客データ)に代わりました。 こうなると、どこで稼いだかが見えなくなってしまいます。知的財産権を低税率国に移すことで節税が行われるのです。 そこで物理的なモノや取引がなくても、サービス利用者に税金が渡るようにするというデジタル課税の手法が出てきたのです。 これが公平か否かは問いません。 (了)

#No. 328(掲載号)
#山本 守之
2019/07/25

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第16回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法の目的論的解釈の過形成⑦-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第16回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の目的論的解釈の過形成⑦-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回の冒頭で予告しておいたように、今回は、税法の目的論的解釈について、納税者に有利な「過形成」を検討することにするが、その検討の素材とするのは、延滞税の納付義務の不存在を確認した最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁(以下「本判決」という)である。 本判決は、納税者(上告人ら)が相続税の期限内申告及び納付をした後で更正の請求をしたところ、所轄税務署長において、相続財産の評価の誤りを理由に減額更正をし、これにより「新たに」納付すべきこととなった本税額につき、平成28年度税制改正前の国税通則法60条1項2号、2項及び61条1項1号に基づき、法定納期限の翌日から完納の日までの期間に係る延滞税の納付の催告をしたことから、納税者が国(被上告人)を相手に、上記の延滞税は発生していないとして、その納付義務がないことの確認を求めた事案に関するものである。 本判決は、次のとおり判示して(下線筆者)、納税者の請求を認容した。 本判決の示した解釈(最後の下線部)については、千葉勝美裁判官が補足意見において、「この解釈は、法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もある」と述べているところである。ここでいわれる「目的論的限定解釈」について、本判決における少数意見では、以下で述べるように、2とおりの異なる立場が示されているように思われる。   Ⅱ 「目的論的限定解釈」に対する少数意見の立場 1 千葉勝美裁判官補足意見  千葉勝美裁判官は補足意見において、前記の引用部分に続けて、次のとおり述べている(下線筆者)。 ここで示された考え方は、多数意見において国税通則法60条1項2号の解釈(目的論的限定解釈)によって定立された延滞税不発生に係る規範を「例外的な事案」(千葉裁判官補足意見)に限って適用する、いわば「目的論的限定適用」ともいうべき法適用の方法を説き、もって多数意見(前掲)の説得力を強めようとしたものと解される。 2 小貫芳宣裁判官意見 他方、小貫芳宣裁判官は意見において、まず、次のとおり述べ(下線筆者)、本件の事実関係に即して、国税通則法60条1項2号の規定について延滞税の発生要件の欠缺を認めている。 その上で、小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を、次のとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている(下線筆者)。 以上のように、小貫裁判官の意見は、結論の点では、多数意見と同じく、本件における延滞税の不発生を認めるものではあるが、その理由づけを、多数意見とは異なり、延滞税の発生要件の欠缺に見出すものであると解される。 この点に関し、千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、「条文にはない明確な基準を示すことについては、それが解釈により不文の消極要件を作ることにもな」り、「延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる。」という的確な指摘を行っている(下線筆者)。小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を問題にするが、その欠缺は、論理的には、千葉裁判官の上記の指摘のように、延滞税の発生要件に係る消極要件ないし適用除外要件の欠缺とみるべきであろう。そこで、以下では、小貫裁判官の意見にいう延滞税の発生要件の欠缺について、「延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺」という表現を用いることにする。 このように考えると、小貫裁判官の意見は、国税通則法60条1項2号の規定について、目的論的制限(teleologische Reduktion)という一種の法創造(法の継続形成Rechtsfortbildung)の方法によって消極要件ないし適用除外要件を創造し、本件においてこの要件の適用によって延滞税の不発生を結論づけたものであると解される。 目的論的制限とは、法の欠缺のうちいわゆる隠れた欠缺(verdeckte Lücke)すなわち適用除外規定の欠缺についての欠缺補充方法をいう(【46】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号[以下同じ]。ほかに、広中俊雄『民法解釈方法に関する十二講』(有斐閣・1997年)64頁、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)特に第1章第2節参照)。これは、法の欠缺補充の方法であるが故に、狭義の法解釈(可能な語義の枠内での法解釈)とは区別される法創造ないし法の継続形成の領域に属するものであるが、法的思考方法の点では依然としてなお「解釈的」方法を用いるもの(「解釈的」方法による法創造。第7回Ⅱ参照)である。   Ⅲ 納税者に有利な「過形成」の許容性  1 目的論的限定適用と目的論的制限との異同 千葉裁判官の補足意見と小貫裁判官の意見とは、以上で検討してきたとおり、法解釈適用方法論の観点からすると、法の趣旨・目的を考慮する点では同じであるが、その内容や法的性格の点では、目的論的限定適用と目的論的制限として区別されるべきものであると考えられる。このことは、小貫裁判官の意見と多数意見との違いに関する千葉裁判官によるこれまた的確な整理の中から、読み取ることができる。 千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、前記のとおり「解釈により不文の消極要件を作ることにもなること」を指摘しているが、その前の文章では、次のとおり述べている(下線筆者)。 その上で、千葉裁判官は次のとおり述べている(下線筆者)。 他方、千葉裁判官は、多数意見について、次のとおり述べている(下線筆者)。 なお、この叙述からも、千葉裁判官が目的論的限定適用の観点から多数意見の説得力を強めようとしたことを読み取ることができよう。 千葉裁判官による以上の整理からすると、小貫裁判官の意見における目的論的制限は、「租税の画一性と大量処理の観点」から、延滞税の不発生の処理に関して、「全体的な影響」を及ぼすことになるという意味で、税法の目的論的解釈の「過形成」として性格づけることができるように思われる。もっとも、税法の目的論的解釈の「過形成」といっても、前回まで検討してきたものとは異なり、延滞税の不発生という納税者に有利な結果をもたらす「過形成」(納税者に有利な「過形成」)である。 2 延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺に対する立法的対応 では、千葉裁判官の補足意見(目的論的限定適用)と小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、いずれが妥当であろうか。 確かに、目的論的限定適用の方が、目的論的制限に比べて「全体的な影響が少なくて済む点」(千葉裁判官補足意見)で、個別事案の解決のための司法判断としては、妥当であるようにも思われる。 しかし、司法の役割は、個別事案の解決のみに尽きるのであろうか。いやむしろ、司法は、そのような役割に加えて、法の欠缺が存在する場合には、個別事案の判断を通じてあるいはそれに関連して、そのことを公然と指摘することによって、立法者にその欠缺の存在を認識させ、もってその欠缺を補充するための法改正等の立法的対応を促すべきであるように思われる。そうすることも、三権分立制の下での司法の役割であると考えるところである。 このように考えると、本件当時の延滞税規定(平成28年度税制改正前税通60条・61条)について延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を認め得るか否かあるいは認めるべきか否かが、小貫裁判官の意見の妥当性ないし目的論的制限の許容性を判断する上で、決定的な意味をもつように思われる。 小貫裁判官は、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を、前記Ⅱの2でみたとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている。これらのうち、②の観点は、千葉裁判官が補足意見において目的論的限定適用を理由づけるために依拠した観点(前記Ⅱの1参照)と基本的に同じものといってよかろう。 したがって、小貫裁判官が意見において延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺の存在を指摘するに当たって、決定的な意味をもったのは、前記の①の観点であると考えられる。この観点は、以下でみるとおり、延滞税の根本的な存在意義ないし終局的な趣旨・目的に照らして極めて重要であり、決して等閑視すべきものではない。 本判決においては、多数意見も少数意見も、延滞税の趣旨・目的を「期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すこと」(多数意見)として捉える点では、一致している。ただ、このような趣旨・目的は、いわば「中間的な趣旨・目的」であって、「終局的な趣旨・目的」は申告納税制度の適正な実施の確保にあるとみるべきである。 前記の①における法定期限内の納税の事実という「厳然として存在した」(小貫裁判官意見)事実を、延滞税の課税上なかったことにするとすれば、そのような「フィクション」(同)は、申告納税制度に対する納税者の信頼を大きく損ない、同制度の適正な実施を阻害することになるといっても過言ではなかろう(次回「ちょっと一息:還付金カンプ(フ)?!」も参照)。 立法者としては、そのような事態が現実のものとなることは阻止しなければならない。その意味で、平成28年度税制改正における延滞税の計算期間等の見直し(税通61条2項。財務省「平成28年度税制改正の解説」867頁以下参照)は、適切な立法的対応といえよう。   Ⅳ おわりに 以上を要するに、小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、延滞税規定の目的論的限定解釈(多数意見)や目的論的限定適用(千葉裁判官補足意見)に比べ、本件における納税者の救済を図るにとどまらず、更に一歩踏み込んで、目的論的限定解釈の「過形成」によって、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を補充し、延滞税の発生要件を適正化し、もって申告納税制度の適正な実施を確保しようとしたものとして、妥当な考え方であるといえよう。 しかも、本判決は事例判決ではあるが、小貫裁判官の意見は、税法の目的論的解釈について、納税者に有利な「過形成」が許される場合を明らかにしたものとして、より広い射程を有すると考えるところである。 (了)

#No. 328(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/07/25
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