〈事例で学ぶ〉
法人税申告書の書き方
【第42回】
「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の
特別償却の償却限度額の計算に関する付表」
公認会計士・税理士
菊地 康夫
Ⅰ はじめに
本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。
今回は、近年の自然災害が頻発している状況下において、サプライチェーンや地域の雇用等を支える中小企業及び小規模事業者の事業継続力を強化し、防災・減災設備への投資を促す観点から、平成31年(令和元年)度の税制改正により導入されたいわゆる「中小企業防災・減災投資促進税制」における「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」の記載の仕方を採り上げる。
Ⅱ 概要
この別表は、いわゆる中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却)を適用する場合に記載する。
本制度は、青色申告を提出する中小企業者(※1)が、改正中小企業等経営強化法(以下、「中小企業強靱化法」という)の施行の日(令和元年(2019年)7月16日)から令和3年(2021年)3月31日までの間に、中小企業強靭化法による経済産業大臣の認定を受けた「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」(※2)に基づいて、一定の設備(以下「特定事業力強化設備等」という)を新規取得し事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、取得価額の20%の特別償却ができる制度である。
(※1) 中小企業等経営強化法の中小企業者であって、租税特別措置法第42条の4第8項第6号の中小企業者その他これに準ずる法人に該当するものをいう。
(※2) 「事業継続力強化計画」は中小企業が単独で取り組む場合、「連携事業継続力強化計画」は複数の中小企業が連携して取り組む場合をいう。
本制度の対象となる特定事業力強化設備等をまとめると次のようになる。
なお制度の詳細については、中小企業庁のホームページを参考にしていただきたい。
Ⅲ 「特別償却の付表(15)」の書き方と留意点
(1) 設例
▷ 会社名:(株)プロネット工業
▷ 適用事業年度:平成31年(2019年)4月1日~令和2年(2020年)3月31日
当社は、2019年9月10日に中小企業強靱化法における「事業継続力強化計画」の認定を受け、以下の特定事業力強化設備等を取得し、当社の工場に設置して直ちに事業の用に供している。
令和2年(2020年)3月期の決算において、特定事業継続力強化設備等について特別償却を適用することとした。詳細は次の通り。
▷ 業種:金属製品製造業
▷ 資本金:20,000千円(発行済株式数400株)
▷ 常時使用する従業員の数:150人
▷ 株主のうち大規模法人(※3)の保有する株式数:0
(※3) 資本金の額もしくは出資金の額が1億円を超える法人、又は資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。
対象設備①:自家発電機
- 種類と類型:機械及び装置「金属製品製造業用設備」
- 購入先:ABC電機(株)
- 取得価額:1,200千円
- 取得日:令和元年(2019年)10月15日
- 使用開始日:同上
対象設備②:消火・排煙設備
- 種類と類型:建物附属設備「消火、排煙又は災害報知設備」
- 購入先:(株)ABC防災
- 取得価額:2,500千円
- 取得日:令和元年(2019年)10月15日
- 使用開始日:同上
(2) 今回の付表が適用される事業年度
令和元年(2019年)7月16日以後終了する事業年度。
(3) 付表の記載例
※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。
(4) 付表の各記載欄の説明
〔1欄〕(機械・装置の耐用年数表の番号) 特定事業継続力強化設備等の種類等
耐用年数省令別表に基づいて、特定事業継続力強化設備等の種類、構造、細目等を記載。また、その特定事業継続力強化設備等が機械及び装置である場合には、( )内に耐用年数省令別表第二の該当の番号を記載。
事例ではそれぞれ、「(16) 機械及び装置・金属製品製造業用設備」、「建物附属設備・消火、排煙又は災害報知設備」と記入。
〔2欄〕特定事業継続力強化設備等の名称
特定事業継続力強化設備等に該当する資産の名称を記載。事例ではそれぞれ、「自家発電機」、「消火・排煙設備」と記入。
〔3欄〕取得等年月日
当該資産を取得又は製作した年月日を記載。事例ではそれぞれ、「2019.10.15」、「2019.10.15」と記入。
〔4欄〕事業の用に供した年月日
当該資産を事業の用に供した年月日を記載。事例ではそれぞれ、「2019.10.15」、「2019.10.15」と記入。
〔5欄〕購入先
当該資産を購入した相手先の名称等を記載。事例ではそれぞれ、「ABC電機(株)」、「(株)ABC防災」と記入。
〔6欄〕取得価額
特定事業継続力強化設備等の取得価額を記載。ただし、その特定事業継続力強化設備等につき法人税法第42条から第49条まで(圧縮記帳)の規定の適用を受ける場合において、圧縮記帳による圧縮額を積立金として積み立てる方法により経理しているときは、その積立額(積立限度超過額を除く)を取得価額から控除した金額を記載する。
事例ではそれぞれ、「1,200,000」、「2,500,000」と記入。
〔7欄〕特別償却率
特に記入すべき事項はない。
〔8欄〕特別償却限度額
〔6欄〕×〔7欄〕の計算結果を記載。事例ではそれぞれ、1,200,000×20/100の計算結果である「240,000」と、2,500,000×20/100の計算結果である「500,000」を記入。
〔9欄〕償却・準備金方式の区分
その特定事業継続力強化設備等につき直接に特別償却を行うか、又は特別償却に代えて特別償却限度額以下の金額を特別償却準備金として積み立てるかの区分に応じ、該当するものを〇で囲む。事例ではそれぞれ、「償却」に〇印を記入。
「適用要件等」
〔10欄〕中小企業等経営強化法の事業継続力強化計画又は連携事業継続力強化計画の認定を受けた日
中小企業等経営強化法第50条第1項又は第52条第1項に規定する事業継続力強化計画又は連携事業継続力強化計画について認定を受けた年月日を記載。また( )内には、認定を受けた計画の区分に応じ、それぞれ「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」を記載。
事例ではそれぞれ、「2019.9.10」(事業継続力強化計画)、「2019.9.10」(同左)と記入。
〔11欄〕事業の用に供した特定事業継続力強化設備等の仕様、性能、型式等判定上参考となる事項
事業の用に供した資産の仕様、性能等その資産が中小企業等経営強化法第50条第2項第2号ロに規定する事業継続力強化設備等に該当するものであることを判定する上で参考となる事項をできるだけ具体的に記載。
事例ではそれぞれ、「認定書、仕様書を添付」、「同左」と記入。
「中小企業者又は中小連結法人の判定」
各欄は、その特定事業継続力強化設備等の取得等をした日及び事業の用に供した日の現況により記載する。
〔12欄〕発行済株式又は出資の総数又は総額
法人の発行済株式等の状況(その法人が連結子法人である場合には、連結親法人の発行済株式等の状況)を記載。なお、自己株式がある場合には、内書として括弧内にその数又は金額を記載。事例では、「400株」と記入。
〔13欄〕常時使用する従業員の数
法人の常時使用する従業員の数を記載。事例では、「150」と記入。
〔14欄〕第1順位の株式数又は出資金の額
〔18欄〕の株式数等を記載。事例では「0」と記入。
〔15欄〕保有割合
〔14欄〕÷〔12欄〕の割合(%)を記載。なお、〔12欄〕に自己株式の内書きがある場合には、その数又は金額を分母から控除して計算する。事例では「0」と記入。
▼ 注意!▼
この保有割合が50%以上となる場合は、本制度を適用することはできない。
〔16欄〕大規模法人の保有する株式数等の計
〔22欄〕の株式数等を記載。事例では「0」と記入。
〔17欄〕保有割合
〔16欄〕÷〔12欄〕の割合(%)を記載。なお、〔12欄〕に自己株式の内書きがある場合には、その数又は金額を分母から控除して計算する。事例では「0」と記入。
▼ 注意!▼
この保有割合が3分の2(66.666・・・%)以上となる場合は、本制度を適用することはできない。
〔18欄〕~〔22欄〕大規模法人の保有する株式数等の明細
その法人の株主等のうち大規模法人について、その所有する株式数又は出資金の額の最も多いものから、各欄にその順位と法人名及びその株式数等を順次記載。〔22欄〕には、その大規模法人の所有する株式数又は出資金の額の合計を記載。事例では、該当がないので〔18欄〕と〔22欄〕にそれぞれ「0」と記入。
(了)
「〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方」は、毎月最終週に掲載されます。