Profession Journal » 労務・法務・経営 » 法務 » 今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第9回】「定型約款(その2)」

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第9回】「定型約款(その2)」

筆者:奥津 周, 北詰 健太郎

文字サイズ

今から学ぶ

[改正民法(債権法)]

【第9回】

「定型約款(その2)」

 

堂島法律事務所
弁護士 奥津  周
司法書士法人F&Partners
司法書士 北詰 健太郎

 

【Q】

前回の解説で、自社の使っている約款が「定型約款」に当たることがわかりました。

定型約款は、事後的に条項を変更する必要性が生じることがありますが、そのような場合の定型約款の取扱いについて教えてください。

【A】

改正法では定型約款の変更についての規定が設けられた。

そのため、変更の必要性が生じた場合には、当該規定に基づいて定型約款を変更することができる。

 

1 約款の変更の論点

約款は、法律の改正や取引上の問題が生じた場合、それに対応するために事後的に変更が必要となる場合がある。

契約の原則からすると、契約内容を一方的に変更することはできず、契約内容を変更するのであれば、契約の相手方の個別の同意を得る必要がある。約款も契約の内容を画するものであるから、約款の内容を変更するのであれば、契約の相手方の同意を得ることが必要である。

もっとも、多数の顧客に対して、約款を用いた契約をしたうえで、継続的なサービスの提供をしていたり、会員登録をした多数の会員との間で会員規約に基づいて継続的な取引をしている場合、大量に存在する取引先や会員との間で、個別に変更の合意書を締結して約款の変更を行うことは事実上困難である。

そこで、約款を用いた継続的な取引等を行う多くの企業では、下記のような条項を約款に盛り込んでいる。

【記載例:約款の変更をする場合がある旨の条項】

第〇条(約款の変更)

当社は、当社が必要と判断するときは、本約款の各条項を相手方の同意を得ることなく変更できるものとします。

世間一般で用いられる約款には、このような条項が盛り込まれているケースが多いようである。そのため、このような条項のみをもって、約款を用意した事業者側が一方的に約款の内容を変更することが、法的にも許容されていると理解している読者も多いと考えられる。

しかし、許容されるか否かについて実際には議論が分かれるところであったし、あらゆる約款の内容の変更が、上記条項のみで可能となることはない。約款の変更は契約内容の変更にほかならず、契約は合意のみによって成立するのに、相手方が内容を知らず、了解もしていないのに、一方的に契約内容を変更できるというのでは、「契約は合意によって成立する」という原則に反するからである。

改正法では、こうした問題に対応するため定型約款の変更についての規定を設けている。

 

2 定型約款の変更方法

(1) 定型約款の変更が認められる場合

改正法では、定型約款の変更の内容が以下のいずれかに当たる場合に、定型約款準備者(事業者)により一方的に定型約款を変更することを認めることとした(改正法548条の4第1項)。

 定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するとき

又は

 定型約款の変更が契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なとき

は、定型約款準備者の相手方にとって利益しかない変更であれば、一方的に契約内容が変更されても相手方に不利益はないために認められるものであり、これは理解しやすい。

は、(ⅰ)定型約款の変更が契約をした目的に反しないことを前提としたうえで、(ⅱ)変更の必要性等諸々の事情を考慮し、「合理的」といえる場合に、一方的な変更が可能となる。

は、具体的にどのような場合にこれが肯定されるのかは、改正法の条文のみからでは明らかとはいえないし、何らかの具体的な基準があるわけではない。少なくとも、定型約款準備者である事業者の立場からみれば、自己の都合の良いように一方的に変更することは認められないということは、まず理解する必要がある。

なお、上記の【記載例:約款の変更をする場合がある旨の条項】は、の要件の一要素にすぎないため、当該条項があることのみをもって変更が許されるわけではない。また、条文上、「定型約款の変更をすることがある旨の定めの(中略)内容」も合理性判断の考慮要素になることから、単に上記の【記載例】のように、「一方的に変更できる」といった定め方は適切ではなく、どのような場合に、どのような手続をとって変更することができるのかを具体的に定めておくことが重要である。

(2) インターネット等による周知

事業者としては、変更する定型約款の内容が、上記(1)又はのいずれかに該当すると判断した場合には、効力発生時期を定めて、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネット等を通じて周知しなければならない(改正法548条の4第2項)。

周知の方法としては、インターネットにおいて情報提供するほか、取引の態様によりメールや手紙といった方法も考えられる。また、上記(1)に該当する場合で、効力発生日までに周知をしない場合には、変更の効力は生じない(改正法548条の4第3項)。

情報化社会において定型約款は、今後ますます利用されていくことが考えられる。事業者としては改正法の内容を理解し、自社の定型約款の取扱いを検証していく必要がある。

(了)

次回は11月の掲載となります。

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 奥津 周

    (おくつ・しゅう)

    弁護士
    堂島法律事務所 パートナー
    http://www.dojima.gr.jp/

    平成15年3月 京都大学法学部卒業
    大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師

    【主な著書】
    「事業再生ADRのすべて」商事法務(共著/2015年)
    「一問一答 民事再生手続と金融機関の対応」経済法令研究会(共著/2012年)
    「Q&A 震災と債権回収・倒産対応」商事法務(共著/2011年)
    「書式で実践!債権の保全・回収」商事法務(共著/2010年)
    「実践!債権保全・回収の実務対応 担保の取得と実行のポイント」商事法務(共著/2008年)

  • 北詰 健太郎

    (きたづめ・けんたろう)

    司法書士
    司法書士法人F&Partners
    http://www.256.co.jp/

    平成20年3月同志社大学法学部法律学科卒
    同志社大学非常勤講師
    一般社団法人与信管理協会中部関西事務局長
    http://www.yoshin-kanri.com/

    【主な著書、論文】
    「改訂増補 実践一般社団法人・信託活用ハンドブック」清文社(共著/2019年)
    速報版 税理士が押さえておきたい 民法相続編の改正」(共著/2018年)
    「わかる! 相続法改正」中央経済社(共著/2017年)
    「論点解説/商業登記法コンメンタール」きんざい(共著/2017年)
    「少額債権の管理・保全・回収の実務」商事法務(共著/2015年)
    法人・組合と法定公告」全国官報販売協同組合(共著/2014年)
    「実務目線からみた事業承継の実務」大蔵財務協会(共著/2013年)
    他多数

    【事務所】
    司法書士法人F&Partners 大阪事務所
    〒540‐0026
    大阪市中央区内本町一丁目1番1号 OCTビル4階
    TEL:06-6944-5335

    -債権法改正など、勉強会のお知らせ-

    一般社団法人与信管理協会http://www.yoshin-kanri.com/)では、債権法改正の最新動向等を含め、取引実務、法務実務等の毎月定例勉強会を開催しています。他に類を見ない実務に即した勉強会です。


    参加ご希望の方は、下記事務局にお問合せください。

    【本部】
    〒101-0032
    東京都千代田区岩本町1-3-2 日伸ビル2階
    一般社団法人与信管理協会
    TEL:03-5829-4389

    【中部関西事務局】
    〒604-8162
    京都市中京区七観音町623番地 第11長谷ビル5階
    司法書士法人F&Partners
    TEL:075-256-4548

関連書籍

Profession Journal » 労務・法務・経営 » 法務 » 今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第9回】「定型約款(その2)」

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home