今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第11回】 「意思能力の明文化・意思表示に関する規定の見直し(その2)」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 前回の解説で意思表示に問題があるケースのうち「心裡留保」の見直しについてはわかりましたが、「錯誤」と「詐欺」についてはどのように変わるのでしょうか。 【A】 「錯誤」と「詐欺」については、以下のように改正される。 ◎ 意思表示に問題があるケース 1 錯誤 「錯誤」とは、契約当事者(売買の売主と買主など)の取引内容などの理解に誤解がある場合について、手当を行う制度である。錯誤がある場合、現行法では、以下のように定められている(下線筆者)。 この「法律行為の要素に錯誤」があるというためには、判例において(ⅰ)表意者に錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められること、(ⅱ)通常人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められるほど、その錯誤が客観的に見て重要であることが必要とされている。 また、錯誤は、契約書に売買代金を100万円と書くべきところを、10万円と書いてしまったように、表意者の意思表示の内容と真意が一致しない「表示の錯誤」と、意思表示の内容と真意は一致しているが、その真意が誤解に基づいていた場合の「動機の錯誤」に区別されている。 【表示の錯誤】 【動機の錯誤】 動機の錯誤の場合は、表意者の相手方からは、どのような真意を表意者が持っているかはわからないため、判例では、上述した(ⅰ)(ⅱ)の要件に加えて(ⅲ)動機が相手方に表示されて法律行為の内容となっていることが必要とされている。上記図表【動機の錯誤】の例で、表意者である買主が錯誤を主張するには、売主に対して「A先生の絵だから買う」又は「A先生の作品を探している」などと伝えていることが必要となる。 改正法では、現行法下におけるこれらの規律を明文化することとしている。なお、改正法の規律は、従来の判例の言い回しとは表現が異なるが、判例の考え方を変更するものではないと解されている。 また、現行法では、錯誤があったときのその法律行為(契約)は「無効」になるとされていた。もっとも、錯誤に陥った者の契約の相手方から、その契約が無効であることを主張させることに意味はない。そこで、現行法では、錯誤による無効を主張できるのは、錯誤に陥った者に限られると解されていた。 改正法では、錯誤があったときの効果を無効とするのではなく、錯誤に陥った者がその法律行為(契約)を取り消すことができるものとされた。 2 詐欺 「詐欺」とは、例えば相手方から騙されて契約をしたときなどに、その騙された表意者を保護するための制度である。詐欺によって行われた意思表示(契約など)は取り消すことができるとされている。詐欺について改正が行われたのは以下の点である。 ① 第三者による詐欺の場合 現行法では、第三者により詐欺が行われた場合、表意者の相手方がその事実を知っていたときに限って取消しが可能とされていたが、これを「第三者が詐欺を行ったことを相手方が知ることができた」ときも取り消すことができることとした(改正法96条2項)。 例えば、売主Aが所有する素人が描いた絵画について、Bが買主Cに対して、「Aが持っている絵画は有名な画家が描いたものなので買った方がいい」などと騙し、騙されたCがAからその絵画を買ったときに、Aが、CがBに騙されていることを知っていたときと、CがBに騙されていることを知ることができたときは、Cはその契約を詐欺による意思表示として取り消すことができる。 ② 第三者保護規定 現行法では、詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができないとされており、第三者の過失の有無は問題とされていない。これについては詐欺により意思表示をした者の保護を図る必要性があるという観点から、第三者が保護されるためには善意・無過失であることが必要であることとされた(改正法96条3項)。 例えば、ある不動産を所有するAがBに騙されてBにその不動産を売却してしまい、その後にBからCにその不動産が転売されていたときに、Cが、Aが騙されてBに売却したことについて知らないとき(善意)や、知らないことについてCに過失がないとき(無過失)には、Aの詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者であるCに対抗できず、Aは移転登記の抹消や引渡しを主張できないことになる。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例43】 ユニゾホールディングス株式会社 「ユニゾホールディングス株式会社代表取締役及び全役員並びに グループ会社代表取締役及び全役員異動(辞任)のお知らせ」 (2019.12.22) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、ユニゾホールディングス株式会社(以下、「ユニゾ」という)が2019年12月22日に開示した「ユニゾホールディングス株式会社代表取締役及び全役員並びにグループ会社代表取締役及び全役員異動(辞任)のお知らせ」である。同社と同社グループ会社の取締役、監査役、執行役員全員が辞任するという内容である(筆者がこれだけたくさん「辞任」という言葉が並んだ開示を見たのは、おそらく初めて)。 同社は、この開示と同時に、「株式会社チトセア投資によるユニゾホールディングス株式会社株券(証券コード:3258)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」及び「株式会社チトセア投資による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」を開示している。ユニゾの従業員が意思決定権を有する株式会社チトセア投資が、ユニゾに対してTOB(株式公開買付け)を行うこととなり(すなわちEBO(従業員による企業買収))、ユニゾはそれに賛同するという内容である。 つまり、これからはユニゾの従業員が同社の経営に当たることになるので、現在の役員は皆辞めるというのである。なぜこのようなことになったのか。 2 始まりはHISによるTOB 発端となったのは、株式会社エイチ・アイ・エス(以下、「HIS」という)によるユニゾに対するTOBだった。それをめぐる開示の流れは、以下のとおりである。ユニゾは、HISによるTOBに対して反対意見を表明し(⑤)、それは結局成立しなかった(⑥)。 ① 2019年7月10日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株式に対する公開買付けに関するお知らせ」 ② 2019年7月16日: 「特別委員会の設置に関するお知らせ」 ③ 2019年7月23日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」 ④ 2019年7月30日: 「当社株券に対する公開買付けに関する当社からの質問に対する対質問回答報告書提出のお知らせ」 ⑤ 2019年8月6日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 ⑥ 2019年8月24日: 「株式会社エイチ・アイ・エスによる当社株券に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」 3 ホワイトナイトのはずが HISによるTOBが成立しなかったのは、ユニゾが反対したからというわけではない。ホワイトナイト(白馬の騎士)が現れたのである。それは、アメリカの投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、「フォートレス」という)である。 フォートレスによるユニゾに対するTOBをめぐる開示の流れは、以下のとおりである(「サッポロ合同会社」はフォートレスが設立)。①で示された条件が、HISによるものよりも良かったのである。 しかし、フォートレスによるTOBも成立しなかった。正確に言うと、本稿執筆時点で成立していない。ユニゾの株価が買付価格を上回り、TOB成立の見通しが立たなくなったため、買付期間を延長しながら、現在に至っている(③、⑤、⑥、⑧、⑨、⑩、⑪、⑫、⑬、⑮)。 そして、ユニゾは、フォートレスによるTOBに対して、当初は賛同意見を表明し(②)、フォートレスのおかげでHISによるTOBが不成立に終わったにもかかわらず、賛同意見を撤回し(④)(買付価格、TOB後の経営方針、従業員の雇用などを理由に)、最終的に今回の開示と同時に反対意見を表明するに至った(⑭)。 ① 2019年8月16日: 「サッポロ合同会社によるユニゾホールディングス株式会社株券(証券コード 3258)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」 ② 2019年8月16日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」 ③ 2019年9月24日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ④ 2019年9月27日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」 ⑤ 2019年10月3日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑥ 2019年10月17日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑦ 2019年10月21日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(留保)のお知らせ」 ⑧ 2019年10月25日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑨ 2019年11月11日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑩ 2019年11月15日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑪ 2019年11月29日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑫ 2019年12月13日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑬ 2019年12月18日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑭ 2019年12月22日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 ⑮ 2019年12月27日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けの買付条件等の変更に関するお知らせ」 ⑯ 2020年1月6日: 「サッポロ合同会社による当社株券に対する公開買付けに係る協議状況に関するお知らせ」 4 ブラックストーンの登場 フォートレスと揉めているうちに、今度は別のアメリカの投資ファンドのブラックストーン・グループ(以下、「ブラックストーン」という)が現れ、TOBを提案してきた。それをめぐる開示の流れは、以下のとおりである。 当初、従業員の保護などをめぐり折り合わず、ブラックストーンの提案を受けないとしていたが(①、②)、特別委員会の答申を受けて協議することにした(④)。しかし、その後、協議を続けたものの(⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪、⑫)、結局、今回の開示と同時に協議終了を発表した(⑬)。 ① 2019年9月27日: 「第三者による当社買収提案に係る検討結果のお知らせ」 ② 2019年10月10日: 「第三者による当社買収提案に係る検討結果のお知らせ」 ③ 2019年10月16日: 「ブラックストーンによる当社の同意を条件とした当社の株式を対象とする公開買付けの意向の表明に関するお知らせ」 ④ 2019年10月21日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る対応方針のお知らせ」 ⑤ 2019年10月24日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議状況のお知らせ」 ⑥ 2019年10月29日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑦ 2019年11月7日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑧ 2019年11月18日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑨ 2019年11月24日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑩ 2019年11月28日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑪ 2019年12月7日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑫ 2019年12月13日: 「ブラックストーンによる当社買収提案に係る協議継続のお知らせ」 ⑬ 2019年12月22日: 「公開買付けに係るスポンサー候補者との協議結果について」 5 日曜日、午後10時30分の開示 HISによるTOBに始まり、役員全員の辞任に至るまでの流れを見ていると(上掲の多数の開示を見ていると)、「策士策に溺れる」といった印象を受けてしまう。なお、今回の開示は、日曜日の午後10時30分に行われている。日曜日、しかもそんな夜遅くに開示が行われることなど、通常ないのだが、ずっと議論や説得が続けられていたのだろうか。あるいは、何か演出の1つなのだろうか(ともかく、これに付き合わされた従業員の方は気の毒である)。 「株式会社チトセア投資による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(賛同)のお知らせ」では、この方法が、他と比べて、最も「従業員保護」に適したものであるとされている。この開示には、「従業員保護」という言葉が(カギ括弧付で)、10回も使用されているのだが、ユニゾの経営陣が自らを正当化するために、ことさら「従業員保護」を強調しているように感じられてならない。彼らは、混乱を引き起こした末に、従業員に重荷を押し付けて、会社を去る方々である。 今回の混乱のそもそもの原因は、何なのだろうか。ユニゾが開示した直近の第42期有価証券報告書によると、2014年以降4回も公募増資を行っている。その結果、株式の希薄化により株価が下落したことに加え、株主構成も、2019年3月末現在で、外国人投資家が17%超、個人投資家が28%超となっている。ユニゾは買収の標的とされやすい会社となっていたのであり、その責任はユニゾの現経営陣にある。買収の標的とされる会社は、良い経営資源があるにもかかわらず、経営のやり方が悪いため、株価が低迷している会社であり、ユニゾは正にそうした会社だったのだ。 (了)
《速報解説》 エンジェル税制、所得控除の対象企業を設立後5年未満へ拡充する等要件の見直しを図る ~認定クラウドファンディングによる確認事務も可能に~ 税理士 仲宗根 宗聡 令和2年度税制改正では、企業によるベンチャー投資促進を図るオープンイノベーション税制が創設されるが、個人投資家によるベンチャー投資を促進する従前のエンジェル税制についても、前回改正から11年ぶりに見直しが行われる。 エンジェル税制とは、ベンチャー企業に対して投資を行った個人投資家へ、税制上の優遇措置を与える制度だが、創業間もないベンチャー企業にとって資金調達は依然大きな課題であり、時代の変化に対応した制度とするために、対象となるベンチャー企業の拡大や、多様な層の投資家がエンジェル税制を利用しやすいよう手続きの簡素化が図られる。 まずはエンジェル税制の概要をおさらいしておきたい。 個人投資家が、創業間もない一定の要件を充たすベンチャー企業へ投資を行った場合、投資を行った年に、所得税の優遇措置(エンジェル税制)を受けることができる。受けられる優遇制度は、次の「優遇措置A」と「優遇措置B」のいずれかを選択する。 優遇措置A:株式投資額の所得控除による減税 ⇒(ベンチャー企業への投資額-2,000円)を、その年の総所得金額から控除する。 ※控除対象となる投資額の上限は①総所得金額×40%と②1,000万円のいずれか低い方。 優遇措置B:株式投資額の株式譲渡益からの控除による減税 ⇒ベンチャー企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除する。 ※控除対象となる投資額の上限なし。 ① 対象企業要件等の見直し まず上記のうち優遇措置Aについて、対象企業要件の見直しが行われる 現行では下表のように、設立後3年未満の中小企業を対象としており、設立経過年数(事業年度)によって試験研究費等割合などの要件が異なる。 (※) 中小企業庁「エンジェル税制のご案内」P3より 令和2年度改正では新たに、設立後3年以上5年未満のベンチャー企業のうち、以下の要件を充たすものが加えられる。 また、適用対象となっている設立後1年以上3年未満のベンチャー企業について、試験研究費等割合の要件が5%超(現行:3%超)に引き上げられる。 さらに控除対象限度額について、令和3年1月1日以後から、現行1,000万円が800万円に引き下げられる(経過措置あり)。 ② 経済産業大臣認定制度の拡充 エンジェル税制の適用に当たっては、優遇措置A・B共に、ベンチャー企業が都道府県に対し、自社がエンジェル税制の対象企業であること、及び、個人がエンジェル税制の対象となる投資をしたことについて、書面によって確認申請する手続が必要となる。 【エンジェル税制申請から確定申告までの流れ】※現行 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係税制改正について」P29 現行では優遇措置Bに限り、経済産業大臣の認定を受けたファンドが都道府県に代わり確認事務を行うことができるが、改正後は優遇措置Aについても認定ファンドによる確認事務が可能となり、さらにA・B共に、経済産業大臣の認定を受けたクラウドファンディング事業者による確認事務が可能となる。 【改正後の確認事務を行う者】 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係税制改正について」P30 ③ 申請手続きの重複を改善 ベンチャー企業が都道府県に行う申請書類の重複を改善し、申請手続きの効率化が行われる。具体的には以下の書類について、申請書への添付を要しないこととされる。 (了)
《速報解説》 国税庁、事業者が企業発行ポイントを付与・使用した際の一般的な会計処理・税務上の取扱いを公表 ~ポイント使用時の「課税仕入れに係る支払対価の額」はレシート表記で判断可~ Profession Journal 編集部 従前からの電子マネーの普及に加え政府が推進するキャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)の活況が相まって、商取引におけるポイントの付与・使用が急速に浸透しつつある。この状況を受け国税庁は、事業者や個人がポイントを使用した際の一般的な会計処理や税務上の取扱い等を新たに公表している。 今回公表された情報は下記のように、PDFファイルによる説明資料やタックスアンサーなど複数にわたっているため留意が必要だ。 まず(1)(共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の一般的な処理例)では、Tポイントや楽天ポイントなど、事業者間で共通して使用できる共通ポイント制度の利用に関し、共通ポイントの付与時・使用時における制度加盟店及びポイント会員(ポイントの利用者)が行う会計処理と消費税の取扱いを、制度運営会社との関係を交えて例示している。消費税の取扱いについては、制度加盟店・制度運営会社間の取引については対価性がないこと(消費税不課税)を前提とした処理となっているが、「ポイント制度の規約等の内容によっては、消費税の課税取引に該当するケースも考えられる」としている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国税庁ホームページより 次に(2)(企業発行ポイントの使用に係る経理処理)では、事業者がポイント利用者として、商品購入時にポイントを使った場合に考えられる経理処理の方法として、①ポイント使用後の支払金額を経費算入する「値引処理」と、②ポイント使用前の支払金額を経費算入するとともにポイント使用額を雑収入に計上する「両建処理」のいずれかで経理するとの見解を示している。(2)で示されたレシートの表示別の仕訳例は以下のとおり。 (※) 国税庁ホームページより また(2)のように事業者が商品を購入した際、その取引(課税仕入れ)については仕入税額控除を行うが、その場合の考え方を示したものが(3)のタックスアンサー(事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方(No.6480))だ。(3)では、商品購入時にポイントを使用した場合、消費税の「課税仕入れに係る支払対価の額」は、 となり、①②のいずれに該当するかは、商品を購入した事業者側が、レシートの表記から判断して差し支えないとしている(ただし仕入税額控除の適用を受けるためには、区分経理に対応した帳簿及び区分記載請求書等の保存が必要)。 (※) 国税庁ホームページより なお冒頭述べた、コンビニ等が行っている即時充当(即時に購買金額にポイント等相当額を充当する方法)による「キャッシュレス・消費者還元事業」に係る仕入税額控除の考え方については、すでに昨年11月に下記の見解が示されており、商品対価の合計額が変わるものではないことから、即時充当による消費者還元を受けた場合には、商品対価の合計額が「課税仕入れに係る支払対価の額」となる。 (※) 国税庁ホームページより 最後に(4)(個人が企業発行ポイントを取得又は使用した場合の取扱い(No.1907))だが、これは個人がドラッグストアのポイントなど企業発行ポイントを取得又は使用した場合に所得税の確定申告が必要かというもの。回答として、一般的に企業が発行するポイントのうち決済代金に応じて付与されるポイントについては、通常の商取引における値引きと同様の行為に当たり、原則として課税対象となる経済的利益には該当しないことから、確定申告を行う必要はないとしている。 ただし、「ポイント付与の抽選キャンペーンに当選するなどして臨時・偶発的に取得したポイント」については、値引きと同様の行為が行われたものとは考えられないため、一時所得に当たり、その使用したポイント相当額を使用した日の属する年分の一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入することになる。 また、ポイントを使用して医薬品購入の決済代金の値引きを受けた場合など、所得控除の対象となる支出にポイントを使用したことが明らかな場合には、 のいずれかの方法により、所得金額及び所得控除額を計算することになる。 * * * 今回の(1)~(4)の情報は、キャッシュレス・ポイント還元事業の影響を受ける個人事業など中小・小規模事業者を対象としていることから、確定申告を前にしたこの時期に公表を行ったものと思われるが、上述のようにポイント制度の規約によって消費税の取扱いが異なる可能性もあり、またすでに企業発行ポイントを投資信託に使うなどポイント制度自体のサービス拡充(取引の複雑化)も始まっていることから、さらなる情報の整理・公表が望まれるところだ。 なお、来年適用開始となる「収益認識に関する会計基準」適用企業は対象として想定されていないため、基準適用予定の企業は以前公表された下記の情報を参照されたい。 (了)
2020年1月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.353を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第75回】 「グループ通算制度の特徴」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇令和2年度改正で注目される「グループ通算制度」 2020年1月20日、第201回国会(常会)が召集された(会期は6月17日までの150日間)。 1月下旬あるいは2月上旬には、昨年末に取りまとめられた令和2年度税制改正大綱に基づき、税制改正法案が国会に提出されるものと見込まれる。 今回の改正法案(法人税法関連)において最大のボリュームを占めるのが、連結納税制度の見直しである。この見直しにより、連結納税制度はグループ通算制度へと衣替えすることになる。 まずは大綱を踏まえ、令和4年4月1日以後開始する事業年度から始まる新たな制度を概観することとしたい。 〇納税主体はグループ内の各法人へ 現行の連結納税制度では、連結納税グループをあたかも1つの法人であるかのごとく扱い、連結親法人がグループを代表して申告・納税義務を負うこととされているが、新たな制度では、グループ全体での損益通算については維持する一方、グループに属する各法人が個別にそれぞれ申告・納税義務を負うこととなる。この点こそが今回の見直しの眼目である。 このように、グループ通算制度はあくまでも単体納税制度の枠組みの中に位置づけられるものである。この見直しによって、グループ内の法人に修更正が生じた場合に他の法人に影響を及ぼしてしまうという連結納税制度の実務上の難点を克服することが企図されており、グループ通算制度の随所に修更正の影響を遮断する仕掛けが盛り込まれているのが、グループ通算制度の特徴となっている。 〇グループ内における損益通算 グループ通算制度のもう1つの眼目は、グループ内での損益通算を行うということである。この点は連結納税制度のメリットを維持するものである。 その方法は、各法人で計算した所得をベースに、赤字法人の欠損の合計額を、黒字法人の所得の合計額を限度に、黒字法人の所得の金額で按分して黒字法人の損金として算入するというものである(損金算入された欠損は赤字法人の欠損の金額で按分し、赤字法人側で益金算入する)。 いったん損益通算が行われた後は、個別の法人において修更正が行われても、損益通算の結果には影響を及ぼさず、当該法人において処理される。 〇繰越欠損金の通算 当期の損益のみならず、繰越欠損金も通算が行われる。損金算入限度額は、損益通算後の黒字法人の所得の50%(大法人の場合)の「合計額」とされており、この点は連結納税制度と同様の取扱いである。 ただし、あくまでも単体納税制度であることから、繰越控除により欠損金を損金算入できる法人は損益通算後の黒字法人に限られるため、グループ内の繰越欠損金を有する法人とそれを控除する法人とが別々になる。すなわち、繰越欠損金の授受が生じる場合がある、ということに注意が必要である。 いったん損益通算が行われた後は、他の法人において修更正が行われても、損益通算の結果には影響を及ぼさず、また、自ら修更正を行った場合でも、他の法人との間で授受を行った繰越欠損金の額は当初の額で固定される。 〇適用税率 単体納税制度の枠組みである以上、適用される税率は、各法人の状況によることになるが、中小法人の軽減税率に関しては、800万円の枠は、グループ全体で1つであり、黒字法人の所得の金額で800万円を按分することとなる。 また、中小法人の軽減税率を適用できるのは、グループの法人のすべてが中小法人に該当する場合のみであることに注意しなければならない。 〇税額控除額のグループ調整計算 単体納税制度に戻るとは言うものの、現行の税額控除の額等を連結グループ全体で計算するグループ調整計算については、個々の制度趣旨や企業の税負担を踏まえ、きめ細かい対応がなされている。特に控除額の大きい外国税額控除や研究開発税制については、グループ全体での計算が維持されている。 ただし、単体納税制度という枠組みの影響はここでも避けられず、赤字法人に税額控除額を配分するわけにはいかないことから、例えば、研究開発税制においては、グループ内の各法人への税額控除額の配分は研究開発費の比ではなく、損益通算後の所得に対する法人税額の比による。 また修更正が生じた場合の取扱いに関しては、外国税額控除については、過去には影響を及ぼさず、すべて進行年度で処理することとされ、研究開発税制においては、控除額が減少する場合には全体で再計算する必要がある。 〇グループ通算制度の適用開始・グループへの加入・グループからの離脱 グループ通算制度の適用開始やグループへの加入に際しては、組織再編税制との整合性の取れた制度とすることで、現行の連結納税制度の適用開始や連結納税グループへの加入の際の時価評価課税や欠損金の切捨ての対象を縮小する。 これは、現行のように、単体納税制度から連結納税制度という、全く異なる課税制度へ移行するわけではなく、単体納税制度の枠組みの中での損益通算の選択となるため、制度間の断絶を考慮する必要がなくなったことによるものとも考えられる。 この見直しにより、適用開始段階では、完全支配関係が維持されることが見込まれていれば時価評価の心配はなくなり、また、現金買収による完全子会社化の場合であっても、要件を満たせば時価評価を受けないこととなる。ただし、租税回避を防止する観点から、含み損等の利用を制限する措置が追加される。また、個別申告方式に移行することを踏まえ、親法人と子法人の制度適用前の欠損金の取扱いが統一され、自己の所得の範囲内で控除すること(特定欠損金)となる。 グループからの離脱に際しては、連結納税制度における連結個別利益積立金額に基づく複雑な投資簿価修正の仕組みが簡素化されるとともに、損失の二重計上を防止する観点から、一定の場合には離脱法人に対して時価評価課税が行われることとなる。 (了)
これからの国際税務 【第17回】 「令和2年度税制改正大綱における国際課税の焦点(その1)」 -国外の不動産投資を利用した節税策への対応- 21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二 1 提案の背景 2019年12月に閣議決定された令和2年度税制改正大綱は、国際取引に関して個人と法人によって企画されている2種類の租税回避スキームに関する個別否認規定の導入を提案している。そのうち、今回はまず、個人の海外不動産投資に際して発生する不動産所得の損失を利用した節税策をシャットアウトする改正の意義を検討することとしたい。 建物や船舶・航空機の賃貸によって発生する不動産所得については、賃貸不動産の減価償却費計上等により損失が発生した場合に、当該損失を他の所得と損益通算することが所得税の構造上可能とされていることから、この仕組みを利用した不当な租税回避策が問題視されてきた。これまでは、特に航空機・船舶リース等を利用したタックスシェルター商品を念頭に、所得稼得者が不動産事業を担う組合の執行責任を負わない特定組合員に該当する個人である場合に、上記損失をなかったものとみなす個別的否認規定(租特41条の4の2)が設けられている。 しかし、その後平成27年度の会計検査院の税務行政検査によって、更に、海外の中古建物の減価償却に係る簡便法を利用した損失活用の申告事例が指摘され、そのような節税を可能にしている減価償却制度について、「財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。」との指摘を受けていた。 今回の改正案は、中古資産の減価償却制度(耐用年数省令3条)そのものは改訂せず、従来の特定組合員向け対策と同様、減価償却の結果発生する対応損失を所得税法の適用上なかったものとみなす方式で、検査院の指摘に応えるものとなっている。 2 税制改正案の概要 令和2年度税制改正大綱における改正案は、概要以下のとおりである。 3 改正提案の意義 会計検査院は、指摘した事例において、米国や英国の賃貸建物の使用可能期間が我が国に比べて長くかつ時価の経年低下度合いが低いという条件の下では、国内建物と同様の中古建物に係る簡便法の減価償却(経過済み年数の20%の耐用年数適用)の選択を許すと、次の2重の税収漏れリスクがあると指摘した。 すなわち、①一般的に賃貸収入を超える減価償却が可能となり、各年の不動産所得について過大な損失計上とそれに伴う損益通算という節税効果をもたらすこと、にとどまらず、②その後、賃貸人が当該住宅を譲渡し、不動産所得から長期譲渡の特例適用のある譲渡所得に所得類型の転換を図ったり、更には、自身が国外に転出して、我が国課税管轄から離脱するという、追加的な税務メリットも許しているというものである。 今回の改正案では、所得税の中での不動産所得の所得計算上減価償却の仕組みには修正を加えず、租税計画上活用されている特定損失について「ないものとみなす」方式をとり、根元のところで上記①及び②のリスクを断絶するものとなっている。 なお、本件が検討対象としたスキームは、米国では“不動産タックスシェルター”と呼ばれるものである。米国では、不当な損益通算を制限する制度として長い伝統を持つ趣味の消費活動等から生じた損失控除制限(ホビーロス・ルール)の拡充に加えて、タックスシェルター商品のマーケット拡大に応じて、1969年のミニマムタックスの導入に始まり、受動的活動損失の通算を制限するルールやノンリコースローンに係る資産の減価償却費算入を制限するアットリスクルールなどが開発され、クロスボーダー投資の環境を含めて租税回避への多彩な防御システムが構築されてきている。 これに対して我が国は、米国から輸入されたタックスシェルターに対する対応策の立法が常に後手に回っていたが、ようやく近年立法(上記特定組合員ルールと今回の改正案)及び判例法(フィルムリースに関する最判H.18.1.24判決、米国LPSに関する最判H.27.7.17判決)により、防御態勢が整いつつあると考えられる。ただし、BEPS行動12で勧告された租税回避スキームについての義務的開示制度の立法は、いまだ未処理の立法案件として残っている。 米国ではタックスシェルターの登録義務や登録番号の告知義務が完備されており、納税者にとっての予測可能性を高めている。我が国も今回の改正を補強する意味でも、早期の立法が期待されるところである。 (了)
給与計算の質問箱 【第1回】 「給与所得控除と基礎控除の見直し」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 今年(令和2年)から、給与所得控除が減額されると聞きました。 ということは、給与所得が増えることになりますから、所得税の負担が増えると考えてよいでしょうか。 A 給与所得控除が減額されると同時に基礎控除が増額されるので、すべての給与所得者において所得税の負担が増えるとはいえない。一定額以上の給与収入がある給与所得者のみ所得税の負担が増える。 * * 解 説 * * 1 給与所得控除の減額 令和2年(2020年)から、給与収入が850万円以下の場合は、給与所得控除が10万円減額になる(図表1参照)。給与収入が850万円超の場合は、給与所得控除が段階的に最大で25万円(220万円-195万円)減額になる。 【図表1】令和元年分と令和2年分以降の給与所得控除額 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 基礎控除の増額 令和2年(2020年)から、合計所得金額が2,400万円以下の場合は、基礎控除が10万円増額され48万円になる(図表2参照)。 【図表2】令和元年分と令和2年分以降の基礎控除額 (※) 合計所得金額2,400万円超からは控除額が段階的に引き下げられ、2,500円超からは適用ができない。 3 具体例 ① 令和元年、令和2年ともに年収300万円のケース ② 令和元年、令和2年ともに年収600万円のケース ③ 令和元年、令和2年ともに年収900万円のケース ④ 令和元年、令和2年ともに年収1,200万円のケース (了)
相続税の実務問答 【第43回】 「遺産分割協議が成立した後に遺言書が発見された場合」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出後に遺言書が発見され、分割協議によりあなたが取得することとなったA銀行B支店の定期預金は、従兄の甲さんに遺贈されたものであることが明らかになりました。そうしますとあなたはこの定期預金を取得することはできませんので、相続税の期限内申告書に記載された課税価格は過大であったことになります。そこで相続税法第32条第1項第4号の規定により、あなたは相続税の更正の請求をすることができます。 なお、甲さんは、自分に遺贈があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺言及び先行する遺産分割の効力 遺言者が亡くなると、原則としてその死亡の時から遺言は効力を生じることとなります。特定の財産を遺贈する旨の遺言があった場合には、その財産は遺言者の死亡とともに受遺者に帰属することとなります。 遺言が存在することが知れないまま、相続人間で遺産分割が行われることがあります。その後、遺産の全部又は一部を特定の者に遺贈する旨の遺言の存在が明らかになると、その受遺者はその遺贈の放棄をしない限り、先行する遺産分割の結果にかかわらず、遺贈の目的となった財産を取得することとなります。 2 相続税の申告後に遺言書が発見された場合の相続税の是正 相続税の申告後に遺言書が発見され、その遺言を執行することにより、当初申告において取得財産に含めていた財産を取得することができなくなったため、当初申告における相続税の課税価格が過大となった相続人は、相続税の更正の請求を行うことができます(相法32①四)。 また、この遺言によりはじめて財産を取得することとなった者は、そのことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出する必要があります(相法27①、相基通27-4(8))。 3 遺産分割協議の有効性 遺言の存在を知らずに遺産分割が行われ、その後に遺言書が発見された場合において、遺言の内容が分かっていれば異なった遺産分割が行われた蓋然性が高い場合には、遺贈の対象とされた財産を受遺者に引き渡すにとどまらず、錯誤があったことを理由に当該遺産分割は無効とされるものと考えられます(平成5年12月16日最高裁第一小法廷判決)。 この場合には、遺言内容を踏まえたところで再度の遺産分割が行われることとなりますが、無効が明らかになった時及び再度の分割協議が行われた時に更正の請求等により申告の是正の手続きを行うこととなります。 (参考判決)平成5年12月16日最高裁第一小法廷判決 4 ご質問の場合 あなたは、お姉様との間の遺産分割協議の結果に基づいて相続税の課税価格を計算して、相続税の申告書を提出しましたが、その後に、分割協議によりあなたが取得することとなっていたA銀行B支店の定期預金を従兄の甲さんに遺贈する旨のお父様の遺言書が発見されたとのことです。 そうしますと、あなたはこの定期預金を取得することはできませんので、この定期預金を取得財産に含めていた相続税の当初申告における課税価格は過大であったことになります。したがって、あなたは相続税法第32条第1項第4号の規定により、更正の請求をすることができます。 また、従兄の甲さんがA銀行B支店の定期預金を取得するのは、あなたからの贈与によるものではなく、あなたのお父様からの遺贈によるものです。したがって、甲さんに贈与税が課されることはありません。ただし、甲さんは、遺贈があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 なお、この遺言書の発見前にあなたとお姉様の間で遺産分割協議が成立していますが、この遺言書の内容が事前に分かっていれば、当該遺産分割協議とは異なった遺産分割協議が行われたであろう蓋然性が高い場合には、当初の遺産分割協議には錯誤があり、無効となると考えられます。その場合には、甲さんに遺贈された定期預金を除き、再度の遺産分割協議を行うことができるものと考えられます。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第10回】 「取締役との委任関係で黙示的な有償特約がないとされた事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 取締役と会社の関係 取締役等の役員は(※1)、従業員と異なり、会社と委任の関係にあると理解されている(会社法330)。つまり、所有と経営の分離を前提とし、役員は投資家である株主から経営を任され、会社に利益をもたらすことを期待される立場である。 (※1) ここにいう「役員」とは、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人やその他これらに類する者を意味する。 したがって、役員は職務執行を担うためのいわゆる“経営権”を有し、このような経営権は、会社が組織として企業利益を追求するために必要不可欠である一方、役員が自身の給与額をある程度自由に設定できる権限を有するという側面がある。 この権限を悪用することにより、いわば「お手盛り」で利益を圧縮しようとするケースも想定される。これを防止するため、会社法上・法人税法上共に、お手盛り防止規定を各種設けている。このうち法人税法上のお手盛り防止規定こそ、定期同額給与などの3類型や本連載【第3回】で触れた過大役員給与判断基準である。役員報酬・役員退職金の論点は、損金算入の可否判断がその主軸であり、法人税法上のお手盛り防止規定は、恣意性が介入するのであれば損金算入を認めないという構造になっている。 そして、会社法上のお手盛り防止規定としては、定款又は株主総会にて役員給与額等を定めるとされる規定である(会社法361)。 ここで、上述した「委任」は民法643条の委任を指すが、民法上、特約がなければ委任を受けた受任者は報酬を請求することができないと定められている。 したがって、理論上は委任契約が存在しなければ役員は会社に報酬を求めることができずに無償委任となる。しかし、実務上は、明示がなくとも黙示的に特約が存在するという理解が浸透し、運用がなされている。 (2) 黙示的な特約が存在しないとされた事例 ここで、裁決事例かつ所得税の領域ではあるが、黙示的な特約が存在せず、法人が支出した額が役員給与には当たらないとされた事例がある(※2)。 (※2) 国税不服審判所平成24年12月4日裁決(TAINS:J89-2-05) この事例は、同族会社が収入とした不動産賃借料の帰属が、当該同族会社と代表者である審査請求人のいずれであるかが主たる争点となった事例で、不動産の真の名義人は審査請求人(代表者)であると認定し、賃貸料は当該請求人に帰属すると示されたものである。 基礎事実として、請求人から同社に不動産を譲渡し、当該不動産から生じる賃借料を同社が収益として計上した上で、同社が請求人に役員給与を費用として計上していた。 特筆すべきは、当該事例のもう1つの争点として、当該役員給与が、審査請求人の給与所得を構成するか否かという点があったことである。 この論点に対して、審判所は、当該賃貸料は請求人に帰属するところ、当該賃貸料は同族会社の収入の全てであったため、同社は法人として行う事業を有しておらず、代表取締役であった請求人が行うべき業務はないとし、給与所得を構成しないと示した。 その上で、「会社法第330条及び民法第648条は、役員等と会社との関係について・・・規定しており、取締役は会社に対して特約がなければ無償委任となるところ、これらの職務(筆者注:株主総会の議長としての職務や同社の確定申告を行うという職務)は、法人が組織として存在する上での最小限の職務であるから、これらの職務に対して報酬を支払うことについて、取締役の委任契約において黙示的な支払の特約があったとまではいえず、したがって請求人は、これらの職務について役員給与の支払請求権を有していたとは認められない(下線部筆者)」とした。 この事例は、最低限の職務のみを行う取締役は、委任契約において黙示的な支払特約があったとは言えないと示されていることから、有償特約であるというためには、最低限以上の職務を担う必要があるといえそうである。翻せば、収益の帰属や事業の存在自体が否定されるようなペーパーカンパニーでない限り、黙示的な特約が否定されることは考えにくい。 (了)