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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第83回】「立法資料から税法を読み解く(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第83回】 「立法資料から税法を読み解く(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   Ⅱ 立法当時の議論を紐解く 1 国税通則法小委員会 さて、この点どのように考えるべきであろうか。 ここでは、国税通則法が制定される前の行政当局内の議論を参照してみたい(昭和35年7月2日付け「国税通則法小委員会総会議事速記録」より。なお、下記の引用については、議事を速記したものであるため、読みやすさを考慮し必要に応じて筆者が区切っている。下線も筆者加筆。)。 ここでは、所得税については、暦年終了によって抽象的な租税債権債務が成立するものの、その具体的な納税額は、申告によって確定するとしている。これは、申告納税制度の基本的な考え方である。 上記の議論に沿って考えると、2月16日に申告がなされてから、3月15日までの間に申告書の差し替えがあった場合の問題が議論されている。 とりわけ、2月16日に申告と同時に納税もなされた場合に、その後申告期限内に差し替えがなされた場合の期限の利益が議論されている。 なお、ここで「期限の利益」とは、期限が到来するまでは、当事者は債務の履行を請求されない、あるいは権利を失わないといった利益を持つところ、期限がまだ到来しないために当事者が受けるこのような利益をいう(金子宏ほか『法律学小辞典〔第4版補訂版〕』178頁(有斐閣2008))。 すなわち、3月15日に二度目の申告がなされた場合、2月16日の申告をどのように取り扱うべきであろうか。この辺りの議論は、上記Ⅰで触れた問題と接続してくるわけである。 仮に、【図表1】のようなケースにおいては、議論はより複雑なものになろう。 つまり、当初申告において「100万円」と申告されていたところ、期限内に「70万円だった」という訂正があったとする。その後、さらに期限内に「やはり100万円だった」という申告がなされる場合もあり得よう。 【図表1】 当初申告と複数回の訂正申告 この問題は、前述引用箇所でも指摘されているとおり、還付加算金の算定にも影響を及ぼし得るものである。かような場合、期限の利益を如何に捉えるかが問題となるのである。 ここでの議論では、次にみるように、吸収説的な問題としてこれを取り扱うべきではないかとの解決策の提案がなされている。 併存説と吸収説の対立があったように、ここでは2つの考え方が紹介されている。すなわち、「今後訂正補充するかもしれないという条件付きで〔筆者注:当初申告や1回目の訂正申告を〕一応出しているので、その効果は今一番最初の申告書を出したときにさかのぼる」という考え方と、本人の意思の観点から「後法優先的に考え、あとの申告の方に本人の意思があるとして考えるということで、吸収的にあとの申告に一体となって置きかえられていく」とする考え方である。 これは、それぞれ併存説と吸収説の考え方によるものであるといえよう。 このような議論が当時、行政内部でなされていたようである。 〔参考〕 前の遺言と後の遺言との抵触 上記で紹介されている「一番最後に出した意思が一番正しいのだというふうに、本人の一番現在のところの気持ちを表している」という考え方は、先の遺言と後の遺言との効力問題に親和性があるように思われる。 すなわち、民法1023条《前の遺言と後の遺言との抵触等》は、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」と規定するが、これは、遺言者の意思を明らかにする遺言書の最終意思を尊重する立場から、作成日時の異なる複数の遺言書がある場合には、一番最近(最後)の遺言が優先されると考えるものである。 もっとも、前の遺言の内容が後の遺言の内容と抵触するときには、かかる「抵触する部分」についてのみ、前の遺言を撤回したものとみなされると規定されているのであるから、前の遺言がただちに無効になるという法律構成になっているわけではない。 ここにいう「抵触」とは、前の遺言と後の遺言を同時に執行することが不能な程度に矛盾していることを指すと解されることから、抵触関係にない場合には、同条の規定の適用を受けるものではないと解するべきであろう。例えば、前後の遺言が完全に関係性を有しないそれぞれ別個の内容のものであったり、いずれの遺言も両立し得るような場合には、前後どちらの遺言も有効と解されよう。 2 当初申告と一体とされる訂正申告書 さて、かような議論が国税通則法制定前にあったことは注目すべきであろう。 前述したとおり、裁判例においては吸収説的な取扱いが示されており、しばしば同様の判断が散見されるところである。 例えば、贈与税の申告期限内に提出された税額零の「修正申告書」なる書面は、当初申告を訂正する期限内申告書であり、国税通則法19条《修正申告》にいう修正申告書には該当しないとした静岡地裁昭和55年3月28日判決(税資110号1058頁)は、「原告がF税務署長に提出した税額零とする修正申告書が国税通則法19条の修正申告書、同法23条の更正の請求に該当しないことは明らかである」とした上で、次のように論じる。 【理由1】 この点が、本稿における関心事項であるといってもよい。 上記静岡地裁は、これに加えて、第2の点として、次のように述べる。 【理由2】 これら2つの理由に鑑みて、かかる「修正申告書」をもって当初申告に対する「訂正申告」と解することは適法というべきであると判示している。 なお、この事例は、控訴されたが、控訴審東京高裁昭和56年10月14日判決(税資121号64頁)においても原審判断は維持されている。 〔参考〕 後法優先の原則 上記の国税通則法小委員会では、吸収説的な取扱いがいわゆる後法優先の原則の考え方と親和性を有するという。 「後法優先の原則」とは、「後法は前法に勝る」とか、「後法は前法を破る」という法諺と同様の考え方である。 これは、その効力が同等である2つ以上の法令の矛盾抵触を、①法令の所管事項の原則によっても、②法令の形式的効力の原則によっても、③特別法優先の原則によっても解決できない場合に、時間的に後から制定されたものが前に制定されたものよりも優越するということを表す考え方である(伊藤義一『税法の読み方 判例の見方〔改訂版〕』84頁(TKC出版2007))。 配当異議事件最高裁昭和35年12月21日大法廷判決(民集14巻14号3140頁)の事例の控訴審において、控訴人は、控訴人の債権が民法306条《一般の先取特権》の規定するいわゆる共益費用(1号)に該当するとし、この共益費用は第一順位において他の債権に優先すべきことを主張した。 これに対し、東京高裁昭和30年8月9日判決(民集14巻14号3152頁)は、控訴人の主張については、同費用が旧国税徴収法2条《定義》6項にいわゆる強制執行費用に該当するものでないことは明白でありかつ被控訴人の交付要求に係る債権が控訴人主張の債権に優先することは同法2条に明定するところである旨判示して控訴人の請求を排斥した。 これに対して、控訴人は上告し、「国税徴収法は明治30年7月1日から施行せられ民法は明治31年7月16日の施行であるから後法は前法に優るの法諺によっても後法即ち民法の規定により優劣を定むべきであったに拘わらずこの点を顧慮しなかった原判決は法律の解釈を誤ったものである。」と主張したが、かかる主張は排斥されている。 つまり、控訴人としては、明治30年に施行された国税徴収法よりも、翌31年に施行された民法の規定の方が後法として優先されるべきと主張したのである。 民法と国税徴収法との関係が、一般法と特別法との関係にあることからすれば、これは、特別法優先の原則によって適用関係が整理されるべきところを、後法優位の原則を適用して主張した事例であるということもできよう。 上記のとおり、「後法優先の原則」が適用されるのは、特別法優先の原則によっても解決できない場合(上記③)等であるとすれば(酒井克彦『フォローアップ租税法』22頁(財経詳報社2010))、特別法優先として解決がなされる本件においては、控訴人の主張は妥当でないといえよう。 (続く)

#No. 348(掲載号)
#酒井 克彦
2019/12/12

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第25回】「租税法律主義と租税回避との相克と調和」-租税回避論の沿革(淵源)-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第25回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避論の沿革(淵源)-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 第20回以降の主題は「租税法律主義と租税回避との相克と調和」であるが、同回では「実質主義と租税回避との相克」という副題の下、わが国における実質主義の沿革との関連で租税回避の沿革にも若干触れた(第20回Ⅲ参照)。 今回は、わが国における租税回避をめぐる議論(租税回避論)の沿革のうち特にその「淵源」を概観することにしたい。   Ⅱ 租税回避論の「萌芽」 「租税あるいは税法のあるところ必ず租税回避あり。」(第21回Ⅰ)といえる以上、わが国における税制の歴史を振り返って、「租税回避」という言葉の使用はともかく、そのような「租税現象」の淵源を突き止めることは実際上不可能といってよかろう。 ただ、第二次大戦後「独立した学問分野」として発展してきた税法学における租税回避研究(清永敬次『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)はその代表的業績といえる)では、その「淵源」を大正12年の所得税法改正による同族会社の行為計算否認規定(73条の3)の創設に見出すことについて、おそらく異論はないであろう。 その当時は、まだ「租税回避」という言葉は使われておらず、同族会社の行為計算否認規定については下記のとおり「合法的脱税行為」の防止措置としてその立法理由が解説されていた(大蔵省編纂『明治大正財政史 第6巻』(財政経済学会・1937年)1159-1161頁。下線筆者。旧漢字は改めた[以下同じ])。 上記の「所得税法中改正法律案」は、その後、衆議院での修正を受け、さらに貴族院特別委員会・本会議可決を経て、同改正法律は大正12年3月27日法律第8号を以て公布されたが、同族会社の行為計算否認規定(73条の3)は次のとおり定めていた(大蔵省編纂・前掲書1162-1166頁参照)。 以上の概観からは、①同族会社の行為計算否認規定は同族会社の留保金課税制度を補完するため(「尚逋脱の途を講ぜんとする者の取締を図る為め」)同制度とともに創設されたこと、及び②同制度は大正9年所得税法によって採用された配当総合課税(総合課税主義)の「欠陥の最も重要なるもの」としての、法人の所得留保による「合法的脱税行為」という「弊害」を是正するために創設されたこと、を確認することができる。つまり、大正12年所得税法改正において「至急之を是正するの必要あり」とされたのは、②同族会社の所得留保による「合法的脱税行為」であり、①同族会社の行為計算による「合法的脱税行為」はその補完的地位を占めるものであったとみてよかろう。 なお、上記②に関して、「[大正]9年法は内部留保課税を重視して作成されたのであったが、累進税率の間差をつかれるということは予想しなかったようである。この対策として、12年には個人的色彩の濃い同族会社や保全会社の、ある一定限度以上の留保を配当とみなすことに改正した。」(大蔵省主税局編『所得税百年史』(大蔵省主税局・1988年)39頁。下線筆者)と指摘されているが、「合法的脱税行為」も、立法者の「想定外」という点では、租税回避(第21回等の行為態様アプローチの解説参照)と共通のものとされていたことは興味深い。加えて、租税回避という言葉が使われていなくても、後に「租税回避」と呼ばれるようになる租税現象について、当初から「合法的」という法的評価がされていたことも興味深いところである(租税回避の適法性については前回Ⅱ参照)。 その後の展開をごく簡単にみておくと、大正15年所得税法改正で「計算」という文言が追加された(条名も73条の2に変更された)ほか、昭和15年に法人税法が制定され「所得税逋脱ノ目的」が「法人税逋脱ノ目的」(28条)とされ、これが昭和22年法人税法全文改正では「法人税の負担を免れる目的」(34条)とされ、さらに昭和25年法人税法によって「法人税の負担を不当に減少させる結果」(31条の2)という現行法(132条1項)と同じ文言に変更された(大正12年所得税法改正から昭和15年法人税法制定までの沿革については清永・前掲書第3編第1章[初出・1962年]、その後の沿革については同「税法における同族会社の行為計算の否認に関する戦後の判例」法学論叢74巻2号(1963年)2-8頁参照。ほかに、拙稿「同族会社税制の沿革及び現状と課題」税研192号(2017年)34頁も参照)。   Ⅲ 租税回避論の継受と定着 1 租税回避論の継受 「租税回避」という言葉がわが国で初めて用いられたのは、おそらく、杉村章三郞教授が「『独逸連邦租税法』の研究(二・完)」法学協会雑誌48巻6号(1930年)899頁で「租税法と私法との関係」に関して(910-911頁=下記①。903頁も参照)、また、「租税逋脱」に関して(938頁=下記②)、「租税回避」に言及された次の叙述(下線筆者)においてであろう(清永・前掲書352頁注(42)[初出・1962年]参照)。 ただ、これらの叙述は、「独逸連邦租税法(Reichsabgabenordnung[筆者訳:ライヒ租税基本法])」5条(=現行租税基本法[Abgabenordnung]42条の最初の前身)の規定を「租税回避」に関する定めとして論じたものにとどまり、「租税回避」概念の定義それ自体を述べたものではなかった(なお、上記②の叙述では「租税回避」と「租税逋脱」との共通の要素として「故意」が挙げられているが、これについては、租税回避の概念要素ないし要件として「租税回避の意図」が必要か否かという問題として、次回検討することにする)。 租税回避概念の定義がわが国に初めて紹介されたのは、同じく杉村章三郞教授によるヘンゼルの体系書(Albert Hensel, Steuerrecht, 2. Aufl., 1929)の邦訳書(アルベルト・ヘンゼル著/杉村章三郞訳『独逸租税法論』[有斐閣・1931年])155-156頁の次の叙述(下線筆者)においてであったと思われる(清永・前掲書352頁注(42)[初出・1962年]参照。なお、杉村・前掲論文は同邦訳書に「附録」として収録されている)。 以上の叙述は、「代替的課税要件殊に租税回避」という見出しの下で行われており、代替的課税要件による租税回避の「予防」に力点を置くものであるが、「課税要件の回避」やその「方法」(手段)を論じていることからすると、内容的には、第21回Ⅱ2で引用したヘンゼルによる租税回避の定義(Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 223f.)を前提とした叙述であると解される。少し長くなるが、その定義やそれに関連する部分(文中のイタリック体部分の原文は活字間の間隔が広い強調部分)を再度以下に引用しておこう。 この定義は、課税要件論を前提にした「課税要件アプローチと行為態様アプローチとの相互補完による定義」(第21回Ⅱ2)ともいうべき定義であるが、今日のわが国における租税回避の定義がそれらのアプローチのいずれか一方又は両方によっていること(拙稿「租税回避の法的意義・評価とその否認」税法学577号(2017年)245頁、247頁注(6)(7)参照)を考えると、わが国におけるその後の租税回避論の発展に大きな影響を与えたものといえよう。 2 租税回避論の定着 以上のようにドイツから継受された租税回避概念は、その後、同族会社の行為計算否認規定の性格づけに関して用いられるようになった。片岡政一「租税回避と其の否認権(上)」税11巻8号(1933年)84頁は「課税要件の通有性と其の回避」という見出しの下で次のように述べ(84-86頁。下線筆者)、その上で「所得税法中課税権を維持せんとする規定の主なるもの」の1つとして「同族会社の行為計算否認権(法第73条の2)」を挙げたのである。そこでは、課税要件の内容、課税要件と租税回避との関係や租税回避をめぐる問題状況が「極めて的確に」(今日における租税回避論としても十分に通用する内容により)論述されているので、少し長くなるが関連部分も含め引用しておこう。 以上の論述については、その中で杉村教授の『独逸租税法論』が参照されていることからも推察されるように、次の洞察(清永・前掲書326-327頁[初出・1962年])は正鵠を射たものと思われる。 片岡氏の租税回避論は、ドイツ(とりわけヘンゼル)の租税回避論を継受し、同族会社の行為計算否認規定の性格づけを通じて定着させたという意味で、わが国の租税回避論の沿革において特筆すべきものと考えられる。同規定に関するそのような性格づけは、今日においても維持され、広く支持されているといってよかろう(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)43頁、金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)137頁、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【71】等参照)。 しかも先にも述べたが、片岡氏の租税回避論は今日における租税回避論としても十分に通用する内容のものであり、第20回以降の論述内容からもご理解いただけるように、筆者も租税回避論の基本的枠組みの点では同様の立場に立つものである。   Ⅳ おわりに 以上において、わが国の租税回避論の沿革についてその「淵源」を中心に概観したが、その概観を通じて、わが国において租税回避論は、同族会社の行為計算否認規定の創設に端を発し、同規定の対象としての「合法的脱税行為」を「萌芽」とし、ドイツ(とりわけヘンゼル)の租税回避論の継受を経て、同規定の性格づけにおいて定着していった、ということを明らかにすることができたと考えるところである。 ドイツから継受された租税回避論は、租税債務関係説を基礎とする課税要件論を前提にして租税回避を納税義務の不成立要件として構成する考え方であるが、わが国の税法が戦後租税実体法とりわけ課税要件法を基軸に体系化され(税法の体系については金子・前掲書30-31頁参照)、他の法分野と独立した独自の法分野として発展してくるにつれて、租税回避論も課税要件論と「表裏一体」をなす考え方として展開されてきたといってよかろう。 このように、わが国の租税回避論がその「淵源」からして課税要件論と密接不可分の関係にあったことを考えると、わが国における租税回避論は、沿革的視点からも、租税回避の定義について課税要件アプローチを基本とし(第21回Ⅲ1参照)、租税回避の法的評価に関してリベラルな租税回避観(前回Ⅱ2参照)を基本とするものとみることができるであろう。 (了)

#No. 348(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/12/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第12回】「兄弟間で株式を相互保有している場合」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第12回】 「兄弟間で株式を相互保有している場合」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私たちは、建設業を営むA社を経営する長男Xと、サービス業を営むB社を経営する二男Yの兄弟です。A社とB社は、いずれも私たち兄弟の父(故人)が創業した会社で、現在はXがA社の代表取締役を、YがB社の代表取締役を務めています。 15年前に父の相続があった際、自社株に対する相続税の負担がとても大きかったため、税理士のアドバイスに従って、私たちの母Zが自社株の半数を相続し、残りの株式をXとYが半分ずつ取得することにしました。 創業者であった父の死後、私たち兄弟は、力を合わせて2つの会社を経営してきましたが、会社が成長する過程において、A社はXが、B社はYが経営を担い、お互いに経営を任せ合う関係になりました。 母は来年80歳になります。兄弟で相談した結果、A社の株式はXが、B社の株式はYが相続する方向で相続対策を進めることになりました。それぞれが経営する会社の株式を相続し、ゆくゆくは自分の子供にも会社を継がせたいと考えています。 このような場合、私たち兄弟が相互に持ち合っている株式は、どのように整理すれば良いでしょうか。 なお、私たちの会社は業績も好調で、どちらの会社も株価が高くなっているようです。このため、お互いの株式を譲渡で取得するには、相応の資金が必要になりそうです。また、贈与税の負担を考えると、兄弟や兄弟の子供に株式を贈与することも現実的ではなさそうです。さらに顧問税理士からは、経営に関与していない母Zが筆頭株主であるため、事業承継税制(贈与税の納税猶予)を使うこともできないと説明を受けています。 ところで、“株式交換”という言葉を聞いたことがありますが、この仕組みを用いれば、A社株式とB社株式を交換することは可能でしょうか。また、土地を等価交換した場合には所得税が非課税になると聞いたことがあるのですが、株式についても税負担なく交換することは可能でしょうか。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 株式の交換 (1) 株式交換 会社法における株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいいます(会2①三十一)。 仮に、A社が株式交換完全親法人、B社が株式交換完全子法人となる株式交換を行った場合、A社がB社の株主からB社の発行済株式の全部を取得し、対価として金銭等(A社株式又は金銭)を交付することになります。 したがって、株式交換を行っても、株主同士が株式を交換することにはなりませんので、兄弟間の資本関係を整理することはできません。 (2) 固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例 土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換した場合において、譲渡がなかったものとする特例(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)は、対象資産が以下の資産に限られており、株式は含まれません(所法58①)。 したがって、株式を交換した場合は、時価による譲渡と取得が行われたものとして所得税・住民税が課税されることになります。   [2] 兄弟間で相互保有する株式の整理 (1) 相互売買 非上場株式を相互に譲渡した場合、譲渡対価と取得価額の差額(譲渡所得)に対して、20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の所得税・住民税が課されます。また、個人間で低廉譲渡があった場合には、時価と譲渡対価との差額について贈与があったものとして贈与税が課税されます。 仮に、A社株式(二男Y保有株式の税務上の価値1.25億円、取得価額250万円)、B社株式(長男X保有株式の税務上の価値1.25億円、取得価額250万円)を相互売買した場合、X及びYの双方に2,500万円程度の税負担が生じることになります。 保有株式の譲渡対価はもう一方の株式の取得費となりますので、手元に現金は残らず税金分だけ持ち出しになります。したがって、手元に納税資金がない場合には現実的な方法ではありません。 (2) 交換 株式を交換により譲渡した場合は、上記[1]の(2)に記載のとおり、株式を時価で譲渡し、譲渡対価で新たな株式を取得したものとして、譲渡所得が発生します。譲渡所得に対して20.315%の所得税・住民税が発生しますので、(1)の相互売買と同様、X及びYの双方に2,500万円程度の税負担が生じることになります。したがって、手元に納税資金がない場合には交換も現実的な方法ではありません。 (3) 贈与 兄弟間で、A社株式(二男Y保有株式の税務上の価値1.25億円)、B社株式(長男X保有株式の税務上の価値1.25億円)を相互に贈与した場合、X及びYの双方に6,500万円程度の贈与税負担が生じることになります。 株式を相互に贈与した場合は、X及びY双方に多額の贈与税負担が生じることになりますので、贈与も現実的な方法ではありません。 なお、直系卑属(子や孫)である推定相続人以外の者に相続時精算課税が適用できるのは、事業承継税制(贈与税の納税猶予の特例)を適用した場合のみであるため、相続時精算課税を適用することはできません。 (4) 自己株式 A社及びB社に自己株式を取得できるだけの余剰資金がある場合には、X及びYの保有株式を発行会社が自己株式として取得することにより、兄弟間の資本関係を整理することが可能です。 自己株式によりA社及びB社から交付を受けた金銭の額が、発行会社の資本金等の額のうち自己株式として取得される株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額が配当とみなされます(所法25①)。 配当所得は、給与所得等の所得と合算されて総合課税の対象となりますので、譲渡所得20.315%に比べて税負担が大きくなりますが、発行会社から自己株式の譲渡対価を受け取ることができますので、納税資金の面で最も現実的な方法と考えられます。   [3] 結論 交換により譲渡がなかったものとされる特例が存在する土地と違い、株式には株主間で等価交換を行うための制度がありません。したがって、兄弟間で相互に持ち合う株式を整理するためには、それぞれの株式を兄弟間で譲渡又は贈与するか、発行会社が自己株式として取得する他に方法がありません。 納税資金の面でこれらの方法が難しい場合には、資本関係を整理することはできませんが、お互いの保有株式を無議決権化し、相互に経営に干渉しないという方法も検討されてはいかがでしょうか。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 348(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2019/12/12

租税争訟レポート 【第46回】「同族会社等の行為計算の否認(法人税法132条)-ユニバーサル・ミュージック事件-(第一審:東京地方裁判所2019(令和1)年6月27日判決)」

租税争訟レポート 【第46回】 「同族会社等の行為計算の否認(法人税法132条) -ユニバーサル・ミュージック事件- (第一審:東京地方裁判所2019(令和1)年6月27日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈第一審〉   【事案の概要】 音楽事業を営む日本法人であるユニバーサル・ミュージック合同会社(以下「原告」という)は、平成20年12月期から平成22年12月期までの3事業年度において、同族会社であるユニバーサル・ミュージック・インターナショナル・ファイナンス(フランス法人、以下「UMIF」という)からの借入金に係る支払利息を、法人税の申告に当たり損金の額に計上して申告していたところ、処分行政庁である麻布税務署長は、この支払利息の損金算入は原告の法人税の負担を不当に減少させるものであるとして、法人税法132条1項に基づき、その原因となる行為を否認して原告の所得金額を加算し、各事業年度に係る法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。 《更正処分等の概要(単位:百万円)》 ※単位未満を切り捨てているため、合計額は一致しない。   【判決の概要】 1 事実経緯 事実関係を時系列で整理すると、次のとおりである。 2 争点に対する主張 (1) 被告の主張 被告は、一連の取引は、会計処理上も実際の資金決済のうえでも、原告を含む取引関連企業の属するフランス法人ヴィヴェンディ・グループ内における、資金還流取引であると指摘し、同族会社でなければ通常なし得ない行為であること、また、一連の取引が、ヴィヴェンディ・グループ内の支配関係、事業運営等に与えた実質的な経済的影響はなく、経済的合理性がないことなどを理由に、同族会社でなければ通常なし得ない経済的合理性を欠く行為であるから、それにより生じた税負担減少結果は法人税法132条1項にいう「不当」と評価できると主張した。 (2) 原告の主張 これに対し、原告は、租税回避の意図・目的(主観的要件)について、次のように主張している。 そのうえで、原告の設立から始まった組織再編取引には、次のとおり8項目の目的があり、ヴィヴェンディ・グループが全世界で買収を重ねた結果、錯綜したグループ内の関連会社の関係を整理して事業を効率化するとともに、財務上の利益を図るために実施されたものであると主張した。 3 裁判所の判断 (1) 認定事実 東京地方裁判所は、原告が主張する組織再編取引に関する8つの目的について、組織再編取引等の前において、ヴィヴェンディ・グループでは、本件8つの目的のいずれについても、これを裏付ける客観的事情が存在していたと認めることができ、これらに照らせば、本件再編成等スキームを策定するに当たり本件8つの目的が設定されており、同スキームに基づく本件組織再編取引等は本件8つの目的を同時に達成することを企図したものである旨のヴィヴェンディの税務副部長が作成した陳述書等の説明部分は、信用することができることから、組織再編取引等の当時、その目的として本件8つの目的が存在していたと認めるのが相当であると認めた。 (2) 法人税法132条「同族会社等の行為又は計算の否認」規定 裁判所は、法人税法132条が規定された趣旨として、次のように述べた。 さらに、法人税法132条に規定する「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の意義として、 としたうえで、さらに、 と「不当」の評価について説明した後、結論として、次のようにまとめている。 (3) 本件借入れにおける経済的合理性 裁判所は、組織再編取引等の結果、原告が負担することになった本件借入れに係る約866億円の債務については、①買収した株価が不当に高額であるとは認められないこと、②本件借入れに係る返済条件や借入利率は、原告にとって不当に不利益となるものとは認められないこと、③買収したUMKKは、原告に吸収合併される前の3事業年度において、営業利益を約74~111億円計上していたのであるから、本件借入れにより生ずる支払利息(年約40億円)は、同社の事業をそのまま承継する原告が営業利益によって賄うことができる範囲内のものであったことなどを理由に、組織再編取引等により8つの目的を達成したことは、ヴィヴェンディ・グループ全体にとってだけでなく原告にとっても経済的利益をもたらすものであったといえる一方、本件借入れは原告に不当な不利益をもたらすものとはいえないから、これらが原告にとって経済的合理性を欠くものであったと認めることはできないと判断した。 (4) 結論 裁判所は、事実認定と法解釈から、次のとおり結論を述べた。 結論として、裁判所は、本件においては、法人税法132条1項にいう「その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するということはできないから、これに該当することを前提としてされた本件各更正処分等はいずれも違法であるという判決を出した。   【解説】 ユニバーサル・ミュージック合同会社が、東京国税局の調査を受けて、約90億円の申告漏れを指摘されていたというニュースが流れたのは、2012年7月のことであったから、同社は、約7年にわたる争いを経て、東京地方裁判所で、更正処分等の取消し判決を勝ち取ったこととなる。 当初報道では、法人税法132条の2「組織再編成に係る行為又は計算の否認」の規定を適用したうえでの否認事件かと考えられていたが、実際には、本稿で見てきたとおり、同法132条「同族会社等の行為又は計算の否認」規定を適用したものであった。 1 納税者に有利な判断 上記で引用した、「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に対する裁判所の判断の最後を、もう一度、引用する。 この判示を文字通り解釈すれば、経済的利益が認められさえすれば、税務署長は、同族会社等の行為又は計算の否認はできないこととなり、かなり納税者に有利な法解釈であるといえるのではないだろうか。 また、本件では、原告が主張する組織再編成の8つの目的の中には、原告にとっては直接的な経済的利益があるとはいえないものが多く含まれており、こうしたヴィヴェンディ・グループ全体としての経済的利益が、原告にとっても間接的・抽象的な意味での利益に該当するか否かという論点もあるものの、判決では、こうした間接的な利益も、ヴィヴェンディ・グループ全体の財務体制の強化につながり、同グループ法人である原告にも利益をもたらすものであると判示している。こちらも経済的利益の範囲を広く捉えたものであり、納税者に有利な判断であったということがいえよう。 2 法人税法132条の2に関する最高裁判断との相違 いわゆる「ヤフー事件」で、最高裁判所は、法人税法132条の2「組織再編成に係る行為又は計算の否認」規定における、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」については、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮したうえで、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当であると判示(最高裁判所平成28年2月29日判決)しており、本件判決とはいささか、「不当性」の要件について異なった判断をしているようである。 すなわち、本件判決は、経済合理性が少しでも認められれば、同族会社の行為計算の否認はできないこととなるが、最高裁の判断では、税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するというだけでは十分ではなく、最終的には、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断されるということになる。   (了)

#No. 348(掲載号)
#米澤 勝
2019/12/12

相続空き家の特例 [一問一答] 【第42回】「「所有期間が10年超の軽減税率の特例」との適用関係」-相続空き家の特例と他の特例との重複適用関係-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第42回】 「「所有期間が10年超の軽減税率の特例」との適用関係」 -相続空き家の特例と他の特例との重複適用関係-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年8月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年11月に6,200万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 なお、その家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において、その家屋も土地も所有期間が10年を超えています。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」に係る3,000万円の特別控除額を差し引いた後の課税長期譲渡所得について、「軽減税率の特例(措法31の3)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 「軽減税率の特例」の適用は受けることができません。 ●○●○解説○●○● 個人が譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超える自己の居住用財産(居住用家屋やその敷地)を譲渡した場合には、3,000万円の特別控除額を差し引いた課税長期譲渡所得について、軽減税率を適用することができます(措法31の3)。 しかしながら、「相続空き家の特例(措法35③)」に係る譲渡は、被相続人の居住用財産であることから、軽減税率の特例は適用できません。 したがって、本事例の場合、その家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において、その家屋も土地も所有期間が10年を超えていますが、自己の居住用財産ではないことから、軽減税率の特例の適用は受けることができないこととなります。 〈参考〉自己の居住用財産の場合の「軽減税率の特例」に係る税額計算 イ 原則 ロ 平成25年から平成49年(令和19年)までは、所得税額に復興特別所得税2.1%を乗じた額が上乗せされ、その結果、税率は次のとおりになります。 (了)

#No. 348(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/12/12

金融・投資商品の税務Q&A 【Q50】「仮想通貨(暗号資産)の売買を行った場合の所得計算」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q50】 「仮想通貨(暗号資産)の売買を行った場合の所得計算」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 仮想通貨取引を通じて得た収益の所得区分 仮想通貨(資金決済に関する法律第2条第5項に規定するものをいいます)は有価証券や固定資産には含まれないため、これを譲渡したことによる収益は譲渡所得ではなく、原則として、雑所得に区分することとされています。 ただし、国税庁が公表している「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)(平成30年11月21日)」の問7において、仮想通貨取引自体が事業と認められる場合、例えば、仮想通貨取引の収入によって生計を立てていることが客観的に明らかである場合などは、事業所得に区分することが明らかにされています。 また、事業用資産として仮想通貨を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として使用する場合に生じた所得についても、事業所得等の基因となる行為に付随するものとして、事業所得として取り扱うとされています。   2 取得価額の計算 購入により取得した仮想通貨の取得価額は、購入代価に購入手数料その他その仮想通貨の購入のために要した費用を加算した金額とされています。 なお、仮想通貨の取得自体には消費税は課されませんが、仮想通貨交換業者に対して支払う手数料は、消費税の課税対象となります。仮想通貨取引を行う個人が消費税の課税事業者ではない場合には、消費税込みの金額を取得価額に含めることとなります。   3 損失が生じた場合の取扱い 上記1に記載したとおり、仮想通貨取引を通じて得た収益は、原則として、雑所得に区分されますが、雑所得の金額の計算上損失が生じた場合、その損失の金額は、他の所得と通算することは認められていません。 したがって、他に雑所得に該当する収益があれば、その範囲内で通算されますが、通算してなお残った損失は切り捨てされることになります。   4 本件へのあてはめ 上記1~3を踏まえると、質問者の当年における雑所得の金額の計算は下記のとおりです。 また、来年残りの2ビットコインも売却予定とのことですが、譲渡対価を1,000,000円とした場合の所得計算は下記のとおりです。   (了)

#No. 348(掲載号)
#西川 真由美
2019/12/12

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第54回】「航空機リース事件」~名古屋地判平成16年10月28日(税務訴訟資料254号順号9800)、名古屋高判平成17年10月27日(税務訴訟資料255号順号10180)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第54回】 「航空機リース事件」 ~名古屋地判平成16年10月28日(税務訴訟資料254号順号9800)、 名古屋高判平成17年10月27日(税務訴訟資料255号順号10180)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 348(掲載号)
#菊田 雅裕
2019/12/12

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第18回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第18回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   エ 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨については、次のとおり説明されている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』273頁 すなわち、資産の販売等に係る収益を益金の額に算入するかどうかについては引き続き法人税法22条2項の規定によることとし、その時期及び金額について22条の2で規定された。かように資産の販売等に係る収益の額について法人税法22条4項と22条の2の両方が適用されると、割賦基準・延払基準のようにこれらの規定が互いに抵触する場合に優先関係が不明確となるおそれがあることから、優先関係を明確にするために、収益認識の時期については法人税法22条4項が適用されないこととしたという説明がなされている。 〈更なる検討〉 ~法人税法22条の2第1項創設後における22条2項の意義~ 本連載第11回において、次のような考え方に言及した。 ここでは、法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨について述べている上記『平成30年度 税制改正の解説』部分との関係で、法人税法22条の2第1項創設後における22条2項の意義について若干の検討を加えておきたい。 仮に、資産の販売等に係る収益の計上時期について、法人税法22条の2第1項が22条2項や同項の収益の額に係る定めである22条4項に優先して適用されるとした場合に、22条の2第1項に劣後する22条2項が、実質的に、22条の2第1項の規律対象外である「無償による資産の譲受けその他の取引」のみを規律する規定になってしまうのではないかという疑問が向けられるかもしれない。 もっとも、収益の計上時期については法人税法22条の2第1項が22条2項や4項に優先して適用されるとしても、益金の額に算入すべき金額は無償による資産の譲渡を含む資産の販売等に係る収益の額であるという、そもそもの規律は法人税法22条の2第1項ではなく22条2項が定めているところである。そうであるとすれば、法人税法22条2項が、実質的に、22条の2第1項の規律対象外である「無償による資産の譲受けその他の取引」のみを規律する規定になってしまうという見方はやや後退する。 このことは、法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨に関する上記『平成30年度 税制改正の解説』部分からも導くことが可能である。 法人税法22条の2第1項の創設後においても、益金の額に算入すべき金額は、無償による資産の譲渡を含む資産の販売等に係る収益の額であることは法人税法22条2項の所管事項であるという説明の仕方もありえよう。 ただし、「法人税法22条の2第1項という『別段の定め』が優先適用された残りは、結局のところ、『無償による資産の譲受けその他の取引』のみとなることになる。それでは、法人税法22条2項の規定は、そうした残滓のような規定にすぎないということになるというべきなのであろうか。」という疑問も示されている(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』254頁(中央経済社2019))。 もっとも、この疑問は、「法人税法22条2項が残滓のようなものの受け皿にすぎないと理解することには抵抗を覚える」ことを論拠の1つとして、法人税法22条の2第1項について、22条2項の「別段の定め」ではなく22条4項の「別段の定め」であるという理解を導く文脈において示されたものであることに留意する必要がある(酒井・同書253頁以下参照)。 オ 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」の具体例 『平成30年度 税制改正の解説』273頁では、法人税法22条の2第1項の「別段の定め」の具体的例示として、以下の法人税法の規定を挙げている。 カ 役務の提供には資産の貸付けが含まれること 『平成30年度 税制改正の解説』273頁は、法人税法22条の2第1項の「役務の提供」には、資産の貸付けが含まれることを明記している(大阪高裁昭和53年3月30日判決を引用)。 法人税法22条2項の「役務の提供」は、受取利子、受取手数料、受取倉庫料、技術役務提供報酬などの収益を生ずべき役務の提供を意味すると解されている(谷口勢津夫『税法基本講義〔第6版〕』380頁(弘文堂2018)参照)。土地や建物の賃貸は、その土地や建物を使用、利用するというサービスの提供であるから、資産の販売等(資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供)に含まれるが、預貯金の預け入れから生じる利息収入、有価証券投資から生じる配当収入又は利息収入はこれに含まれない(よって、利息収入や配当収入については、法人税法22条の2に規定する収益計上時期や収益の額に関する取扱いの適用はない)という見解もある(成松洋一『Q&A収益認識における会計・法人税・消費税の異同点』7~8頁(税務研究会出版局2019)参照)。 他方、法人税法22条2項の「役務の提供」には、資産の貸付けは含まれないという見解もある(高梨克彦「無利息貸付けに係る収益説と批判」日本税法学会「中川一郎先生古稀祝賀税法学論文集」刊行委員会編『中川一郎先生古稀祝賀税法学論文集』1頁以下(日本税法学会1979)参照)。この見解によるならば、仮に無利息融資は法人税法22条2項の「その他の取引」に該当し同項の適用があるとしても、法人税法22条の2第1項の適用はないことになる。 キ 収益認識会計基準の適用対象取引と法人税法22条の2第1項の適用対象取引は異なる部分があること 法人税法22条2項は「無償による資産の譲受けその他の取引」に対しても適用されるが、22条の2第1項は、その文面上、かかる取引を適用対象としていない(本連載第13回参照)。 かように、両規定における適用対象取引の範囲が相違している理由として、立案担当者は、次のとおり、今回は収益認識会計基準の導入に伴う改正であったことを挙げている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』273~274頁 他方、立案担当者は、次のとおり、固定資産の譲渡については、収益認識会計基準の適用対象外であるものの、法人税法上の収益の認識時期及び金額について棚卸資産と固定資産とで異なることとする理由はないことから、法人税法22条の2第1項の適用対象とされたと説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁   (了)

#No. 348(掲載号)
#泉 絢也
2019/12/12

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第17回】(番外編②)「もしおじいさんが桃太郎の絵本を出すことになったら~返品権付販売」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第17回】 (番外編②) 「もしおじいさんが桃太郎の絵本を出すことになったら ~返品権付販売」 公認会計士 石王丸 周夫   1 『桃太郎』の絵本を出版! 桃太郎が鬼退治から帰ってきて、少し落ち着いた頃のことです。 おじいさんが家の前で、山のように本を積み出しています。 桃太郎はそれを見て、おじいさんにたずねました。 「これはいったい何ですか?」 「見てのとおり。本じゃよ。こないだの鬼退治のことを絵本にして売るのさ。」 「えっ! 私の話を絵本にするのですか?」 桃太郎はびっくりして飛び上がりました。 「それで・・・本の題名は?」 「『桃太郎』じゃ。」 「・・・そのまんまですね。」 桃太郎は思わず笑ってしまいましたが、それよりも本当に売れるのかどうか心配です。 「いったい、どうやって売るんですか?」 「神社の前で定期市があるだろ。あそこで本を売ってくれる商人がいるから、その人に頼んで売ってもらうんじゃ。今から100冊届けるんだが、全部買ってくれるそうだよ。」 「でも、売れ残ったらどうするんだろうなぁ・・・」 「そこなんだがな。」おじいさんは小声で言いました。「残ったものは買い戻しになるんじゃよ。」 「・・・。」 桃太郎の心配は、尽きることがないようです。 今回は桃太郎の後日談として、おじいさんが絵本を出版する話にしてみました。 おじいさんが絵本を100部出版し、それを商人に売りさばいてもらいます。商人は、いったん100部すべてを引き受けますが、売れ残った部数については、すべておじいさんのところに返品します。すなわち、返品権付きの販売です。 このような場合、収益認識会計基準では、おじいさんの売上高をどのように会計処理するのでしょうか(今回は、おじいさんが収益計上の主体です)。   2 返金負債と返品資産 収益認識会計基準では、返品権付販売の処理について、指針が示されています。以下の3つについて、すべて処理します。 (1)は、おじいさんがいくらで売上計上すべきかということを定めています。 それによると、返品が見込まれる部数の金額を除いて、売上を計上します。 仮に10部売れ残ると予想した場合、販売見込みは90部です。絵本の卸価格を1部100円とすると、です(100円×90部=9,000円)。 この売上高9,000円は、本の代金が現金決済であるとした場合、実際にやり取りされる現金の額とは異なります。おじいさんが商人に100部引き渡した時、おじいさんは商人から100部の代金10,000円をもらっているのです。 では、差額の1,000円はどう処理するのかというと、それが次の(2)に示されています。 (2)は、返品が見込まれる10部について、どう処理するかを定めています。 それによると、「対価の額で「返金負債」として認識する」とあります。 具体的には、貸借対照表にを負債計上するということになります(100円×10部=1,000円)。 (3)は、売れ残り10部を回収する権利について、その処理を定めています。 それによると「当該売れ残り見込み分を資産に計上する」とあります。 絵本の資産価値は原価の金額になるので、原価を1部30円とすると、具体的処理は、貸借対照表にを計上するということになります(30円×10部=300円)。 以上の処理結果を財務諸表で確認してみましょう。   3 法人税法上の取扱い 前述2の収益認識会計基準における処理については、法人税法上の取扱いにも留意する必要があります。 会計上は、返品見込みの部数を控除して収益計上しましたが、法人税法上はこれが認められません。控除する前の金額で計上するのです。したがって、申告調整が必要になります。 また、従来の会計基準で認められていた返品調整引当金を計上する処理方法は、収益認識会計基準適用後は会計上認められず、法人税法上も、一定の経過措置はありますが、廃止されました(経過措置については、やや複雑な内容となりますので、本稿では割愛させていただきます)。   4 収益計上後の処理 最後に、収益計上後の処理についても確認しておきましょう。 予想どおりに10部売れ残り、それが返品された場合は、おじいさんは商人に1,000円を払って、売れなかった10部を引き取ります。1,000円払えば返金負債は消滅し、10部を回収すれば、返品資産という回収権は棚卸資産現物に振り替わります。 逆に、予想が良い方向に外れて、売れ残りがなかった場合は、返金負債を売上に振り替える処理となります。この時、返品資産を売上原価に振り替えます。 ▷今回のまとめ 返品権付きの販売については、返品見込み分を除いた額で収益計上し、返金負債と返品資産を計上します。 (了)

#No. 348(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/12/12

改めて確認したいJ-SOX 【第8回】「ITを利用した内部統制の評価(後編)」

改めて確認したいJ-SOX 【第8回】 「ITを利用した内部統制の評価(後編)」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   前回は「ITを利用した内部統制の評価」の前編として、 という「評価の必要性」と「評価範囲の決定方法」を説明しました。 今回は後編として、 を説明します。   1 ITを利用した内部統制の整備状況及び運用状況の有効性の評価 (1) ITに係る全般統制の評価 前回説明しましたが、ITに係る全般統制とは業務処理統制が意図したとおりに機能する環境を保証するための方針と手続で、次のような項目が該当します。 内部統制の有効性を評価するにあたっても、上記の4項目について、整備及び運用状況を評価することが一般的と考えられます。 では、具体的に「どのように評価するか」ですが、これについては金融庁総務企画局が平成23年3月31日に公表した「内部統制報告制度に関する事例集」(事例4-2)で紹介されている「ITに係る全般統制に関するチェック・リスト例」が参考になります。 〈ITに係る全般統制に関するチェック・リスト例〉 (※) 金融庁総務企画局「内部統制報告制度に関する事例集」(事例4-2)より一部抜粋。 この事例集は、事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織等における事例を集めたものであるため、規模が大きい企業や複雑な構造の組織等では参考とならないこともあるかもしれません。 ただ、ITに係る全般統制の評価にあたっては、このチェック・リスト例を参考に自社のチェック・リストを作成し、チェック・リストに沿って根拠となる資料などを収集して評価しているケースが多いのではないでしょうか。 (2) ITに係る業務処理統制の評価 ITに係る業務処理統制の評価も、前回で説明した評価単位ごとに次のような観点で評価し、有効に整備及び運用されているかを評価します。 ITに係る業務処理統制は、簡単にいうと人が手で行っていた転記や計算、一致確認などの作業を自動化させたものであるため、それが意図したとおりにシステムにプログラムとして組み込まれ、繰り返し意図したとおりに自動的に処理されていれば、有効に整備及び運用されていると評価することができます。 そのため、「入力情報の完全性、正確性、正当性等が確保されているか」や「エラーデータの修正と再処理の機能が確保されているか」といった自動処理を直接的に評価するような視点が「財務報告に係る内部統制基準・実施基準」で例示されていると考えられます。 また、データとデータを自動で照合させて自動で一致を確認させるような処理では、照合するデータそのものが正しくないと意味がありません。それゆえ、「マスタ・データの正確性が確保されているか」や「システムの利用に関する認証・操作範囲の限定など適切なアクセス管理がなされているか」といった視点が例示されていると考えられます。 しかし、実務的には、ITに係る業務処理統制の評価は、どのように整備及び運用状況を評価するかといった具体的な評価方法よりも、いかに網羅的に評価対象を拾い上げていくかといった評価範囲が重要だと思います。したがって、まずはどういったものがITに係る業務処理統制に該当するかを前回などを参考に押さえるとよいでしょう。   2 ITに係る内部統制に不備があった場合 (1) ITに係る全般統制に不備があった場合 ITに係る全般統制は、財務報告の信頼性を直接的に担保するものではなく、有効な業務処理統制のサポートを通じて財務報告の信頼性を間接的に担保しています。 そのため、ITに係る全般統制に不備があったとしても、直ちに財務報告に係る内部統制の有効性に問題があると評価するとは限りません。 ITに係る全般統制に不備があった場合、その統制の代わりになるような統制や補完できるような統制がないかを確かめます。代替的又は補完的な統制が他にあれば、それによって財務報告の信頼性という目的が達成されているかを検討します。代替的な統制も補完的な統制もない、もしくは代替的又は補完的な統制はあるが財務報告の信頼性という目的を達成できるほどのものではない場合は、財務報告の信頼性という目的を阻害するような事象が発生しているかを調べます。 その結果、たまたま該当する事象が発生していなければ結果的に問題ありませんが、該当する事象が発生している場合には、期末日までに是正する必要があります。 〈ITに係る全般統制に不備があった場合の対応〉 当然のことながら、代替的又は補完的な統制の存在やたまたま該当する事象が発生していなかったために結果的に財務報告に係る内部統制は有効と評価された場合でも、ITに係る全般統制に不備があるということは、いずれ業務処理統制に不備が出るということを示しているため、早期に不備を是正することが求められます。 (2) ITに係る業務処理統制に不備があった場合 ITに係る業務処理統制は、個々の業務プロセスに組み込まれているため、不備があった場合には、財務報告の信頼性を揺るがす可能性が比較的高いといえます。しかも、ITに関する部分に不備がある場合には、誤った処理が繰り返されている可能性があるため影響が大きくなるおそれがあります。 したがって、ITに係る業務処理統制に不備があった場合には、直ちに不備を是正する必要があります。内部統制の評価の観点からは、ITに係る業務処理統制の不備によりどの程度の勘定科目等に虚偽表示が及ぶかといった影響の範囲(影響度)を推定するほか、虚偽表示が実際にどのくらいの可能性で発生するか(発生可能性)を評価する必要があります。 *  *  * 今回の連載までで、具体的な内部統制評価の進め方(作業)について説明してきました。次回以降は、作業した結果をどのように取りまとめていくかを説明していきます。 【第9回】となる次回は、「内部統制の不備の評価」をテーマに説明します。 (了)

#No. 348(掲載号)
#竹本 泰明
2019/12/12
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