法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例1】 「即時償却と損金経理」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 わが社は電気設備工事を主たる業務とする青色申告を行っている株式会社(3月決算)ですが、平成25年度の税制改正で導入された環境関連投資促進税制の適用を受ける目的で、平成27年3月中にエネルギー環境負荷低減推進設備等(旧措法42の5①)に該当する太陽光発電設備(法定耐用年数17年)を設置しました。わが社は平成27年3月中に当該設備を取得しかつ事業の用に供したと認識し、環境関連投資促進税制(即時償却制度)の適用を受け、その取得価額の全額を損金算入しました(旧措法42の5⑥)。 ところがその後平成30年10月に、わが社は課税庁の税務調査を受け、当該設備を実際に取得し事業の用に供したのは平成27年4月以降であることから、即時償却の適用は受けられないという指摘を受けました。そればかりか、平成28年3月期から平成30年3月期の各事業年度についても、「損金経理」を行っていないため、減価償却費の計上は認められないと言い渡されました。 太陽光発電設備を取得しかつ事業の用に供したタイミングが平成27年4月にずれ込んだという指摘はやむを得ず認めますので、即時償却の適用が受けられないというのは致し方がないと思いますが、平成27年4月以降現在まで毎月売電収入を計上しているにもかかわらず、その後の減価償却費の計上を認めないとする課税庁の指摘は全く納得がいきません。この場合、課税庁の指摘に従うべきなのでしょうか、教えてください。 〇太陽光発電設備への投資と減価償却費の計上 【A】 法人が平成27年3月期に取得しかつ事業の用に供していたと考え、同事業年度において損金経理により即時償却を行っていた場合、その後税務調査で課税庁から取得・事業の用に供していたタイミングが翌期にずれこんでいたと指摘されたとしても、指摘されるまでの時期について損金経理を行うことは物理的に不可能といえます。その場合、指摘されるまでの時期について収益は計上していても、費用は計上できないという不合理が生じますが、これは法人税法の所得計算の基本原則である費用収益対応の原則に反しており、妥当ではないと考えられます。 そのため、仮に取得・事業の用に供していたタイミングが翌期にずれこんでいたという課税庁の指摘が正しい場合であっても、平成27年3月期に損金経理により全額償却費を計上しているという事実を重視し、費用収益対応の原則から、平成28年3月期~平成30年3月期についても毎期減価償却費相当額を損金に算入できると解する余地があるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 環境関連投資促進税制 本件で問題となっている環境関連投資促進税制の即時償却制度とは何か、まず簡単に確認しておきたい。 当該制度はもともと、エネルギー需要構造改革推進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(エネルギー需給構造改革推進投資促進税制)の一環として、平成21年度の税制改正で導入された措置がその前身となっている。それによれば、太陽光発電設備などのエネルギー需給構造改革推進設備等については、普通償却限度額に加え、取得価額まで特別償却ができることとされ、つまりはその事業の用に供した事業年度において即時償却が認められるという制度(旧措法42の5⑥、平成24年3月31日まで)となっている。 その後上記制度は、平成24年度税制改正で、エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(環境関連投資促進税制)に改組され、太陽光又は風力の利用に資する機械その他の減価償却資産のうち、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法の認定発電設備に該当するもので一定規模以上のものについて、その取得等した日から1年以内に事業の用に供した場合における特別償却限度額は、その取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額とされた(即時償却措置、旧措法42の5①、平成25年3月31日まで)。 また、当該環境関連投資促進税制は翌年度の税制改正で、上記即時償却措置の適用が一部見直しの上2年間延長された(旧措法42の5⑥)。更に、平成27年度税制改正で、即時償却措置の対象となる特定エネルギー環境負荷低減推進設備等の範囲から、太陽光発電設備が除外されたことから、即時償却を行うためには、太陽光発電設備を平成27年3月31日までに取得等をし、その取得等した日から1年以内に事業の用に供する必要があった。 (2) 本件への適用 それでは、本件の場合、環境関連投資促進税制の即時償却制度の適用は受けられるのであろうか。まず当該制度の適用要件のうち、太陽光発電設備を平成27年3月31日までに取得等をし、その取得等した日から1年以内に事業の用に供するというものを満たす必要があるが、その取得及び事業の用に供した日が平成27年4月にずれ込んでいる場合には、当該要件を満たせなかったことになる(※1)。 (※1) 太陽光発電設備を事業の用に供した日について、「系統連系工事を了して電力の供給を開始したかどうかによって判断するのが相当であ」るとした裁決事例がある(国税不服審判所平成29年12月21日裁決・TAINS:F0-2-768参照)。 仮にその通りである場合には、平成27年3月期における即時償却はできないこととなり、代わりに、太陽光発電設備を取得・事業の用に供した事業年度以降において通常の減価償却を行うこととなる。太陽光発電設備の法定耐用年数は17年であるため、平成28年3月期以降17年にわたって減価償却費(通常定率法)を計上していくこととなるが、本件の場合、平成27年3月期において損金経理により即時償却を行っており、課税庁の税務調査を受ける平成28年3月期から平成30年3月期の3事業年度については、帳簿価額が備忘価格の1円となっているため(法令61①二イ)、当該期間において損金経理により減価償却費を計上するということは論理的にあり得ず、物理的にも不可能な状況となっている。 そもそも法人税法において減価償却費の計上に「損金経理」を要求しているのは、一般に、それが「内部取引」であり、費用化された金額がいくらであるのか企業外部の課税庁等が外形的に判断することは困難であることから、当該費用を計上した企業の意思決定を尊重し、その表れとしての「確定した決算」において費用として経理することを要件とするのが合理的であるからと解されている(総論【第5回】参照)。 そのため、法人税法上減価償却費として計上できる金額は、その法人が当該事業年度において償却費として損金経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額とされている(法法31①)。そうなると、文理解釈上は、損金経理を行っていない平成28年3月期~平成30年3月期については、減価償却費の計上は一切認められないということになるだろう。 また、法人税法上、事業の用に供していない有形固定資産は、そもそも減価償却の対象となる減価償却資産ではないとも解される(※2)。この点につき最近出された裁決事例においても、「事業年度終了の時において事業の用に供していない資産は、その事業年度における法人税法上の減価償却資産に該当しないこととな」り、事業の用に供する前の事業年度において計上した償却費については、当該事業年度「において償却費として損金経理していたとしても、それは法人税法上の減価償却資産に該当しない資産に係るものであるから、法人税法第31条第1項に規定する減価償却資産に係る損金経理額に該当しない。(下線部筆者)」とされている(国税不服審判所平成30年3月27日裁決・TAINS:J110-3-12)。 (※2) 最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁(フィルムリース・パラツィーナ事件)参照。 しかも、環境関連投資促進税制の即時償却制度というのは税制優遇措置であるので、その適用を受けるためには要件を厳格に守ることが求められるのであり、それが納税者間の公平にもつながるという考え方もあるだろう。 (3) 即時償却と損金経理要件の解釈 本件については、上記(2)で見てきた解釈が常識的なものであると思われるが、それをすんなりと受け入れることにも若干の躊躇を覚える。その理由は、以下の2点にあるといえるだろう。 まず①についてみていくと、納税者側に減価償却資産の事業の用に供した日の解釈の誤りがあるにしても、申告時点においては正しいと解しており、それに基づき損金経理により即時償却を行うという明確な意思表示を行っているのであるから、当該意思表示は尊重されるべきではないだろうか。 損金経理を行った事業年度以降の事業年度において、損金経理を行っていない(行うことができない)のは、本件が即時償却という減価償却制度の例外的な措置に基づく案件だからであり、即時償却以外の償却制度(耐用年数が2年以上の減価償却資産に係るもの)の案件であれば、当然、翌事業年度以降も損金経理により償却費の計上を行うこととなる。そうなると、償却費の計上額はともかくとして、そもそも損金経理要件が問題となることはないのである。 即時償却を行った時点において損金経理を行ったという納税者の明確な意思表示を無視し、翌事業年度以降物理的に実行不可能な損金経理要件を満たしていないという「不備」を殊更にあげつらって、償却費の計上を認めないというのは、法人税法の解釈としての妥当性を欠くばかりでなく、租税政策としても問題があると思われる。 要するに、法人税法は果たして実行不可能な要件を課しているのか、仮にそのような要件を課しているという結論に至る場合、それはそもそもその解釈に誤りがあるからではないか、ということである。 次に②についてみていくと、減価償却費については、収益(益金)を計上した事業年度において、それに対応する費用(損金)を計上するという費用収益対応の原則の適用があるべきではないかという論点である。この点に関して問題となるのは、費用収益対応の原則の法人税法上の位置付けである。 費用収益対応の原則は、本連載の総論【第4回】において既に説明したとおり、もともと会計学において形成された概念であり、法人税法は公正処理基準を通じてそれを取り込み(※3)、受容したのである。仮に費用収益対応の原則を採用しなかったとしたならば、法人税法には減価償却費という概念も取り入れられず、むしろキャッシュフロー法人税のように、収益の計上のタイミングにかかわらず、取得時において即時損金化する(事実上即時償却と同じ経済的効果がある)ものと思われる。そう考えると、減価償却費の計上は、費用収益対応の原則を基に認識するのが妥当ということになるであろう。 (※3) 岡村忠生『法人税法講義』(成文堂・2004年)38頁。 それでは、上記①②を合わせて本件の取扱いを考えるとどうなるのか。 法人が平成27年3月期に取得しかつ事業の用に供していたと考え、同事業年度に損金経理により即時償却を行っていた場合、その後税務調査において課税庁から取得・事業の用に供していたタイミングが翌期にずれこんでいたと指摘されても、指摘されるまでの期間について損金経理を行うことは物理的に不可能といえる。その場合、指摘されるまでの期間(事業年度)について収益は計上していても、費用は計上できないという不合理が生じるが、これは法人税法の所得計算の基本原則であり減価償却を行う根拠と考えられる費用収益対応の原則に反しており、妥当ではない。また、少なくとも平成28年3月期~平成30年3月期については、太陽光発電設備を事業の用に供していることも明らかである。 そのため、仮に取得・事業の用に供していたタイミングが翌期にずれこんでいたという課税庁の指摘が正しい場合であっても、平成27年3月期に損金経理により全額償却費を計上しているという事実を重視し、費用収益対応の原則から、平成28年3月期~平成30年3月期についても毎期減価償却費相当額(耐用年数17年で再計算)を損金に算入できると解する余地があるものと考えられる。 (4) 即時償却制度の政策的意義と限界 実務家による損金経理の解釈論としては、上記で議論はほぼ尽きていると思われるが、本連載の事例研究のパートに関し、最初に当該事例を取り上げた意図を最後に述べておきたい。 まずここで強調しておきたいのは、即時償却制度の例外性と不合理性である。 ここでいう「例外性」とは、即時償却制度は法人税法上、減価償却の一類型と位置付けられているが、減価償却はあくまで2年以上の耐用年数にわたって少しずつ費用計上するものであり、取得時に全額費用化する即時償却は、費用計上のタイミングという観点からは、減価償却費というよりも減価償却費以外の費用項目に近い性格を持つといえる、ということを指す。また「不合理性」とは、本件のように取得・事業の用に供したタイミングにつき、納税者の主張と課税庁の認定とがズレてしまうと、損金経理の要件を満たしていないとされ、償却費の計上ができなくなるリスクがあるということである。 次に、現行の法人税法上、即時償却制度を減価償却の一類型と捉えることは、必ずしも適切ではないと考えられる。なぜなら、減価償却というのは費用収益対応の原則に基づき、有形固定資産が耐用年数にわたり使用されることで生じる減価とそれによる収益の獲得とを対応させることで、適切な期間損益計算を行う趣旨により法人税法に採用された、費用化(固定資産の原価配分)の仕組みだからである。 即時償却制度を減価償却の一類型と捉えると、仮に即時償却が認められない場合には、通常の減価償却による費用化に自動的に切り替えられることになるが、その場合これまで何度も指摘しているように、物理的に要件を満たすことのできない「損金経理」要件の壁にぶち当たることとなる。即時償却の対象となる資産の取得そのものは「外部取引」であり、仮に即時償却制度を減価償却の一類型と捉えるのでなければ、損金経理要件は不要となり、通常の資産と同様に、取得により一時の損金となる。 即時償却制度を減価償却の一類型と捉えることにより生じるこのような不合理は、上記で指摘した「例外性」とも通ずるが、特に本件のように耐用年数が17年と比較的長い有形固定資産の場合、とりわけ顕著かつ歪に表れるといえる。 〇即時償却制度と減価償却との関係 即時償却制度というのは、現行の法人税法の枠組みとはやや距離を置いた制度で、むしろキャッシュフロー法人税の枠組みに接近したものではないかといえる。また、設備投資を取得時に全額控除するという意味で、消費税法における仕入税額控除とも親近性がある。そうなると、減価償却による費用化の概念とは乖離している即時償却制度は、現行法人税法を前提とするのであれば、その導入については慎重であるべきということが言えるだろう。仮に導入した場合には、その損金経理要件に関し、これまで説明してきたような不合理が生じ、それに伴う混乱を招来し得ることを覚悟しなければならない。 環境関連投資促進税制の即時償却制度は既に廃止されたが、今後、経済産業省等の要求により、即時償却制度を導入して景気浮揚を図ろうとする政策が採用されることも、可能性としてあるだろう。その際にわれわれは、本件で問題となったような、即時償却制度の負の側面というものを十分理解して、それでも導入するのか否かを冷静に検討する姿勢というものが求められるといえよう。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第23回】 「課税処分取消訴訟の勝訴に係る還付加算金を雑所得として申告するにあたり、その訴訟に要した弁護士費用は必要経費に算入できないとした事例」 税理士 佐藤 善恵 〔概要等〕 原告X(納税者)は、課税処分取消訴訟に勝訴して所得税及び住民税の過納金(計約7,321万円)及び還付加算金(計約1,661万円)を受領した。Xは、その還付加算金を雑所得として申告した後、前記訴訟に要した弁護士費用の按分額(過納金と還付加算金の金額に応じて按分して還付加算金に対応する金額)を雑所得の必要経費に算入すべきとの更正の請求を行った。これについて、税務署長は、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたために争いとなった。 本件の争点は、弁護士費用がXの雑所得に係る必要経費に当たるか否かである。 〔納税者の主張〕 違法な課税処分に係る取消訴訟の提起は、単に課税処分の取消しを求めるものにとどまらず、課税処分の取消しの結果として当然に生ずる納付税額相当額の還付及び納付から還付までの期間に応じた還付加算金の支払をも求めるものというべきである。 原告は、弁護士との委任契約において還付加算金を含む勝訴分の20%を上限とする成功報酬を支払う旨の取決めをし、過納金だけでなく還付加算金の支払を受けることをも目的として訴訟を提起したものである。 〔原処分庁の主張〕 還付加算金は、課税処分の取消判決の確定によって生じた形成力を端緒として発生する場合があるものの、その処分に係る税金が納付されていることが前提となっており、必ず発生するものではない。また、過納金がどのような事情で生じたかに関わらず、還付加算の要件を満たせば当然に発生するものである。 課税処分の取消訴訟に要した弁護士費用は、客観的には、更正処分等の取消判決を求めて提起した訴訟の遂行上生じた費用というほかなく、還付加算金という収入と直接の対応関係を有するものではない。 〔裁判所の判断〕 処分取消の判決により納税者が受ける直接の経済的利益は、当該判決により取消しの対象とされた納付すべき税額に相当する金額である。 取消訴訟について弁護士に委任する場合、納税者が処分により確定した国税の納付を既にしているか否かによって弁護士に委任する事務内容や弁護士費用の性質が異なるものではない。 本件弁護士費用は、Xが訴訟追行に係る事務を弁護士に委任し、その事務が遂行されたことに対する報酬として支払われたものとみるのが相当である。 Xが前訴判決に基づいて受けた直接の利益は本件過納金の還付による経済的利益というべきであるから、弁護士費用との対応関係を有するのも過納金の還付による経済的利益である。 したがって、弁護士費用按分額は、本件還付加算金と直接の対応関係を有するものではなく、雑所得に係る「総収入金額を得るため直接要した費用」には該当するとはいえない。 〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、弁護士費用との対応関係を有するのは過納金(つまり本税)の還付による経済的利益のみであると解された点である。還付加算金は要件を満たせば自動的に確定して受領することになるため、還付加算金の有無及びその金額については争う余地がないのである。 この解釈は、 などからも説明されている。 (了)
海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第10回】 「移住後に公的年金以外の年金等(生命保険契約に基づく年金など)を受け取る場合」 税理士・行政書士 島田 弘大 Question 私は来年、海外へ移住することを検討しています。夫婦で移住することを検討していますが、移住後に公的年金以外の年金(生命保険契約に基づく年金など)を受け取ることになった場合の課税関係はどうなるのでしょうか。 Answer 1 はじめに リタイア後に海外へ移住してゆっくりと過ごしたいと考える方も多い。前回は移住後の公的年金の取扱いについて検討したが、今回は移住後に生命保険契約に基づく年金などの公的年金以外の年金(以下、「私的年金」)を受領する場合、日本側ではどのような課税関係になるのか解説したい。 2 非居住者が私的年金を受け取る場合の課税関係 今回も非居住者の国内源泉所得の課税関係であるため、まずは国内法によりその年金収入が国内源泉所得に含まれるのかを確認し、さらに日本と居住地国との間の租税条約を確認した上で、日本側の課税関係を整理する流れになる。 (1) 日本の所得税法 ① 非居住者の課税所得の範囲 非居住者は日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされる(所法161)。 ② 国内源泉所得の範囲 上記①の通り、非居住者は「国内源泉所得」のみが課税対象になるが、平成29年分以降の「国内源泉所得」の範囲は下記の通りである(所法161①~⑰)。下記の通り、所得税法第161条1項14号に「保険契約等に基づく年金等(いわゆる、私的年金)」が含まれている。つまり、非居住者が受領する私的年金も公的年金と同様に国内源泉所得に該当する。 ③ 私的年金の範囲と注意点 私的年金のうち、国内源泉所得に該当する範囲をもう少し細かく見ていきたい。 (イ) 日本国内で加入したものに限られる 所得税法161条1項14号では「国内にある営業所又は国内において契約の締結の代理をする者を通じて」と限定されているため、日本国内で加入した私的年金等に限られる。つまり、海外で加入した私的年金等は含まれないことになる。 (ロ) 一時金 所得税法161条1項14号の括弧書きに規定されている通り、年金の支払の開始の日以後に当該年金に係る契約に基づき分配を受ける剰余金又は割戻しを受ける割戻金及び当該契約に基づき年金に代えて支給される一時金も国内源泉所得に含まれるため注意が必要である。 (ハ) 私的年金の範囲 私的年金の範囲の詳細については、さらに所得税法施行令287条に規定されているが、具体的には次に掲げるもので年金を給付する定めのあるものが国内源泉所得の範囲に含まれていることになる。 (ニ) 平成25年1月1日以降に支払いを受ける一定の保険年金 所得税法161条1項14号の括弧書きに「第209条第2号(源泉徴収を要しない年金)に掲げる年金に該当するものを除く。」と規定されている。 これは、平成25年1月1日以降に支払を受ける保険年金については、年金受取人と保険契約者が異なる契約のうち、保険金の支払事由(死亡)が生じた日以後において、その保険金を年金として支給することとされた契約以外の年金の支払は、国内源泉所得からは除かれることを意味している。一定の源泉徴収の対象とならない保険年金については国内源泉所得からは除かれ、つまり源泉徴収も申告も不要という取扱いとなる。 例えば、相続等により生命保険契約に基づく年金受給権を取得して、年金を受領する場合などは一般的にこの規定に該当すると考えられる。この場合、相続税の課税対象とはなるが、所得税の課税対象にはならない可能性が考えられるため、個別に検討が必要である。 ④ 課税方法と税率 上述の通り、非居住者が受領する一定の私的年金はその全額が国内源泉所得に該当する。契約等に基づき支払われる年金等の額から、その契約等に基づいて払い込まれた保険料等の額のうち、その支払われる年金の額に対応するものの額を控除した残額に対して20.42%の税率により源泉徴収する必要がある。源泉分離課税であるため、20.42%の源泉徴収により課税関係は完結し、所得税の確定申告を行う必要はない。 (2) 租税条約の取扱い 租税条約において、保険年金について「居住地国課税」と規定されている場合には、日本での源泉所得税が免除される場合がある。 確認の方法であるが、多くの租税条約では保険年金の個別規定が置かれておらず、その場合には租税条約の「その他所得」の条項において、個別に源泉所得税が免除されるかどうかを検討することになる。 一方で、租税条約において保険年金の規定が置かれている場合には、OECDモデル条約の規定と同様に、原則として「居住地国課税」が採られているため、その場合は日本での源泉所得税が免除される。シンガポールやフィリピンなどがこれに該当する。 なお、租税条約により源泉徴収の免除の適用を受けるために届出を行う必要がある。具体的には、最初の年金の支払いを受ける日の前日までに「租税条約に関する届出書 様式9(退職年金・保険年金に対する所得税及び復興特別所得税の免除)」をその生命保険会社等を経由して税務署に提出する必要がある。 (連載了)
〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第4回】 「鬼ヶ島渡航から宝物輸送までの一連の業務は1つの履行義務か」 公認会計士 石王丸 周夫 1 4つの業務は別個のものか、1つのものか イヌが桃太郎に提供すべきサービスは以下のとおりでした。 3種類のサービスのうち、戦闘については「宣戦布告」と「すねに噛みつく」の2つがあるので、それらを別の業務と捉えると、イヌには合計4つの業務がありますね。 収益認識の手続きでは、これら4つの業務が、それぞれ別個の履行義務なのか、あるいは1つの履行義務なのかを判別する必要があります。 それによって、次のような違いが出るからです。 この判別をするにあたっては、ポイントが2つあります。この2つのポイントを両方満たす場合に、これらの業務は別々の履行義務だと判定されます。 2 第1のポイント 第1のポイントは、イヌが提供する4つの業務が、『個々の業務ごとに桃太郎の役に立つかどうか』です。 イヌが桃太郎に提供する4つの業務は、「漕ぎ手」「宣戦布告」「すねに噛みつく」「車を引く」です。これらはいずれも、それ自体単独で桃太郎の鬼退治に役立ちます。したがって、第1のポイントは満たすと考えられます。 この第1のポイントを考える場合、判定対象の業務単独ではなく、このイヌ以外の別の者が普通に提供する他の業務と組み合わせて桃太郎の役に立つ、ということでもかまいません。ここでは単独で第1のポイントを満たすため、それを考える必要はありません。 3 第2のポイント 第2のポイントは、契約単位で見たときの各業務の相互関連性の話で、『判定対象の業務について、契約に含まれる他の業務と区分して識別できるかどうか』です。第1のポイントは満たしていたので、この第2のポイントも満たせば、4つの業務は別々の履行義務と捉えることになります。 まず、イヌが提供する4つの業務のうち、「漕ぎ手」について考えてみましょう。 鬼ヶ島に渡る船の漕ぎ手をイヌが務めるというのが、その内容ですが、船を漕いで鬼ヶ島に到着したら、鬼との戦いが始まることは自明です。桃太郎としては、漕ぎ手が鬼ヶ島に到着したら、そのまま戦闘に参加することを期待して、イヌを雇っていますよね。 つまり、「漕ぎ手」の業務は、その後の「宣戦布告」「すねに噛みつく」と相互関連性が高いと判断できます。 したがって、第2のポイントは満たされず、その結果、「漕ぎ手」、そしてそのあとの「宣戦布告」「すねに噛みつく」は、いずれも単独の履行義務とはなりません。 イヌの4つの業務のうち、最後の「車を引く」についても考えてみましょう。鬼退治が終わったあとに、分捕り品の宝物を輸送する業務なので、「渡航」や「戦闘」とは関連性が低そうです。これについては、そこに至るまでの3つの業務とは別であるようにも見えます。 しかし、よく考えると、これも「渡航」や「戦闘」と一体をなしていることがわかります。鬼との戦いが終わった後に、宝物の輸送をイヌ・サル・キジ以外の別の者に依頼したとします。 宝物を手に入れた桃太郎は、イヌ・サル・キジにこう言いました。 「このあと宝物を運ぶのは、輸送が得意なクロネコに頼んだよ。だから君たちは、ここでもう帰っていいよ。」 桃太郎に捕まえられていた鬼は、そばでこれを聞いていて、しめしめと思いました。 (イヌ・サル・キジが行ってしまえば、こっちのもんだ。宝物を運ぶのがクロネコなら、取り返すチャンスだぞ!) という具合に、話がおかしな方向に向かってしまいます。 要するに、「輸送」はやはり、イヌ・サル・キジが担当しなければならないのです。鬼に勝ったイヌ・サル・キジが宝物を運ぶからこそ、無事に持って帰れるのです。結局、「輸送」は「戦闘」と一体の履行義務ということになります。 以上から、イヌが桃太郎に提供する4つの業務は、4つでもって1つの履行義務であるということになります。 4 取引価格について イヌが桃太郎に提供するサービスと引き換えに得る対価の額についても考えておきましょう。つまり、「取引価格」のことです。 イヌが「渡航」「戦闘」「輸送」のサービスと引き換えに得るのは、きびだんご1つです。取引価格が現金以外の場合は、それを時価により測定することになるのですが、ここではその考察を省略し、取引価格はきびだんご1つとして、そのまま把握しておきます。 仮に履行義務が複数識別され、それに対して取引価格が1つの場合は、取引価格を履行義務に配分する必要が生じます。しかし、前述のとおり、「渡航」から「輸送」までの一連の業務は1つの履行義務と捉えましたので、きびだんごを配分する必要はありません。 このようにして、鬼退治同行サービス全体の取引価格がきびだんご1つと決まります。 ▷今回のまとめ 履行義務が1つなのか複数なのかを判定し、その判定結果に取引価格を対応させることにより、収益計上の準備をします。 (了)
税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第11回】 「法定実効税率と税効果考慮後の負担率の差異」 (最終回) 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 1 はじめに 【第6回】から前回まで、個別の一時差異の取扱いについて説明し、主にどこまで繰延税金資産として計上できるかという、いわば税効果会計における貸借対照表の側面を中心に解説してきた。 今回は、税効果会計における損益計算書の側面、とりわけ、損益計算書上でどのように税引前当期純利益と法人税等の関係が示されているかという点を説明していきたい。 2 税効果会計の目的 この連載の【第1回】で説明しているとおり、税効果会計の目的は、『法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させること』にある。 ここで、【例1】のような会社があったとする。 【例1】 もし、税効果会計がなければ、損益計算書の利用者に【図1】のような疑問を感じさせてしまうであろう。こういった疑問を解消させるために税効果会計がある。 【図1】 税効果会計を適用している場合と適用していない場合の違い 3 「法人税等÷税引前当期純利益」が法定実効税率と一致しない理由 前掲【図1】の「税効果会計を適用している場合」では、法定実効税率と法人税等の金額を税引前当期純利益で除した割合とが概ね一致することを示せた。 この法人税等の金額を税引前当期純利益で除した割合のことを「税効果会計適用後の法人税等の負担率」というが、実務上は、 となるケースが多く、 となるケースはほとんどない。なぜ、税効果会計適用後の法人税等の負担率は法定実効税率と一致しないのか。 それは【図2】のように、税効果会計が適用されない調整項目が存在するためである。 【図2】 申告書上の調整項目とP/L法人税等調整額の関係 もし、すべての調整項目に税効果会計が適用されていたら、【図3】のように、税効果会計適用後の法人税等の負担率は法定実効税率と一致するであろう。 【図3】 交際費等や受取配当等に税効果会計が適用されていた場合 4 法定実効税率と税効果考慮後の負担率の差異の説明 上場会社等の有価証券報告書を提出する会社では、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率とに大きな差がある場合、主な差異原因を注記として開示しなければならない。 【例2】の会社の法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率の主な差異原因を示すと、【図4】のようになる。 【例2】 【図4】 法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率の主な差異原因 交際費等の損金不算入額は、損益計算書上では費用として処理されるが、法人税申告書(別表四)上、費用(損金)にならず加算され所得金額に含まれるため、最終的に交際費等の損金不算入額に対して「法人税、住民税及び事業税」を負担することになる。したがって、交際費等の損金不算入額1,000×法定実効税率30%を税引前当期純利益15,000で除した割合だけ、「税効果会計適用後の法人税等の負担率」が「法定実効税率」よりも大きくなるため、【図4】のように法定実効税率に加えるように表記する。 受取配当等の益金不算入額は、交際費等の損金不算入額と反対で、損益計算書上では収益として処理されるが、法人税申告書(別表四)上、収益(益金)にならず減算され所得金額に含まれないため、最終的に受取配当等の益金不算入額に対して「法人税、住民税及び事業税」を負担しないことになる。したがって、受取配当等の益金不算入額△500×法定実効税率30%を税引前当期純利益15,000で除した割合だけ、「税効果会計適用後の法人税等の負担率」が「法定実効税率」よりも小さくなるため、【図4】のように法定実効税率から減らすように表記する。 5 まとめ 税効果会計により法人税等調整額を計上することで、税効果会計適用後の法人税等の負担率が法定実効税率と近い値になる(税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させる)ように損益計算書上で表現している(【図1】参照)。 さらに、上場会社等の有価証券報告書の提出会社では、税効果会計適用後の法人税等の負担率と法定実効税率との間に大きな差がある場合には、主な差異要因を注記として開示して、税効果会計によって、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応しているということを示さなければならない(【図4】参照)。 今回は上記2点について、それぞれの仕組みについて理解しておいていただきたい。 (連載了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第12回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 25 税務 平成30年度税制改正において、法人税における収益認識基準等への対応のための改正が行われている。 この改正により、「基本的に」法人税法上も収益認識基準等と同様の処理が認められることになった。 ただし、法人税法上でも収益認識に関する会計基準等と異なる部分はある。また、消費税法上は「収益認識に関する会計基準等」への対応による改正は行われていない。 (1) 会計と法人税法の相違点 会計と法人税法の主な相違点は、以下のとおりである。 ① 貸倒れ及び買戻し 法人税法上、資産の販売、役務の提供を行った際に益金算入する金額は、「通常得べき対価の額(=引渡し等の時における価額)」である(法人税法22の2④)。 「通常得べき対価の額(=引渡し等の時における価額)」とは、原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額をいう(法人税基本通達2-1-1の10)。 この「通常得べき対価の額(=引渡し等の時における価額)」には、収益認識基準等で処理した収益の認識額は基本的に含まれるが、以下の2つについては含まれないこととなった(法人税法22の2⑤)。 したがって、会計上、金銭債権の貸倒れや資産の買戻しを考慮して売上計上した場合、会計上と法人税法上で収益の認識額が異なることになる。また、税効果も検討する必要がある。 ② ポイント引当金 収益認識基準等では、ポイント部分について収益を契約負債として繰り延べる(第8回14参照)。一方、法人税法上、ポイント部分について収益を繰り延べることができる要件として、以下が設けられている(法人税基本通達2―1-1の7)。 上記(ⅰ)から(ⅲ)の要件により会計上と法人税法上で基本的に処理に差が生じることはないと考えられる。 一方、上記(ⅳ)の要件により会計上と法人税法上で処理に差が生じる可能性がある。 ここで、ポイント制度として1,000ポイントためないと使えず、他のポイント制度にも交換できない場合があるとする。この場合、1ポイント1円で交換することができないため、上記(ⅳ)の要件を満たさない。そのため、会計上は、ポイント部分について契約負債として収益を繰り延べるが、法人税法上はポイント部分について収益を繰り延べることはできない。また、税効果も検討する必要がある。 ③ 返品調整引当金の廃止 従来の返品調整引当金について、収益認識基準等(会計上)では、返品部分について返金負債として収益を繰り延べる。一方、法人税法上は、平成30年4月1日以後に終了する事業年度から返品調整引当金は廃止(返品調整引当金の経過措置については、下記【参考】参照)され、上記①(ⅱ)のとおり返品部分についても益金算入する。当然に会計上で認識した返品資産についても法人税法上は損金算入する必要がある。また、税効果も検討する必要がある。 ④ 長期割賦販売等に係る延払基準の廃止 収益認識基準等では、割賦基準(≒延払基準)は認められない(第6回9(3)②参照)。そのため、法人税法上もリース譲渡を除き平成30年4月1日以後に終了する事業年度から延払基準は廃止される。なお、経過措置が設けられている(以下、【参考】参照)。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第8回】 「取得原価の配分方法③」 -企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、取得原価の配分方法に関して解説する。 今回は、企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 企業結合に係る特定勘定への取得原価の配分 「企業結合に係る特定勘定」とは、取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合に認識する負債のことである(企業結合会計基準30項、結合分離適用指針62項)。 企業結合に係る特定勘定は、取得の対価に反映されている場合(結合分離適用指針62項)を前提として計上されるため、暫定的な会計処理の対象外となる(結合分離適用指針377項)。 1 基本的な考え方 企業結合に係る特定勘定を負債として認識する理由は、一定の費用又は損失を負債として認識した方が、その後の投資原価の回収計算を適切に行い得ると考えられたためである(企業結合会計基準99項)。 企業結合の条件交渉の過程で、被取得企業に関連して発生する可能性のある将来の費用又は損失が取得の対価に反映されている場合、取得の対価がそれだけ減額されているはずであり、被取得企業が企業結合日前に当該費用又は損失を負担したと考えられるので、これらの費用等を企業結合日以後の取得企業の業績に反映させない方が取得企業の投資原価の回収計算を適切に行うことができると考えられる(結合分離適用指針372項)。 2 企業結合に係る特定勘定に計上できる費用又は損失の範囲 企業結合に係る特定勘定は、次の結合分離適用指針63項及び64項の要件を満たす場合に限り、負債として認識する(結合分離適用指針62項)。 3 企業結合に係る特定勘定として負債計上する費用又は損失の例示 企業結合に係る特定勘定として負債計上する費用又は損失としては、例えば、次のものが考えられる(結合分離適用指針373項)。 4 企業結合日以後の企業結合に係る特定勘定の会計処理 企業結合に係る特定勘定は、認識の対象となった事象が発生した事業年度又は当該事象が発生しないことが明らかになった事業年度に取り崩すことになる。 企業結合日以後、引当金又は未払金など、他の負債としての認識要件を満たした場合には、企業結合に係る特定勘定から他の適当な負債科目に振り替える(結合分離適用指針66項)。 例えば、当該負債の認識の対象が被取得企業に係る偶発損失の場合には、当該偶発損失が発生したとき、又は発生しないことが明らかとなったときに当該負債を取り崩し、また偶発損失引当金の要件を満たしたときに当該引当金に振り替える(結合分離適用指針377項)。 当該事象が発生しないことが明らかになった場合の取崩額は、原則として、特別利益に計上し、重要性が乏しい場合を除いて、その内容を連結損益計算書及び個別損益計算書に注記する(結合分離適用指針66項、303項)。 5 貸借対照表における表示 企業結合に係る特定勘定は、原則として、固定負債として表示し、その主な内容及び金額を連結貸借対照表及び個別貸借対照表に注記する(企業結合会計基準30項)。 認識の対象となった事象が貸借対照表日後1年内に発生することが明らかなものは流動負債として表示する(結合分離適用指針62項)。 企業結合に係る特定勘定の流動・固定区分の取扱いは、実務を考慮して、認識の対象となった事象が、貸借対照表日後1年内に発生することが明らかな場合にのみ流動負債に計上することとしている(結合分離適用指針451項)。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例10】 「空き家の所有者が行方不明の場合の遺産分割協議」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 祖母が生前居住していた建物は、祖母名義のまま空き家になっています。祖母の相続人は、私の父を含む兄妹5人ですが、そのうち1人は連絡先も分からず行方不明となっています。私の父は、兄妹と空き家の遺産分割協議をせず亡くなりました。 私は、空き家が老朽化しており、また昨今の風水害の被害を受けていることもあり、早急に遺産分割協議をしておきたいと考えています。どのような方法でどのような遺産分割協議をすることが考えられるでしょうか。 (※) なお、本件では相続放棄の可能性はないものとする。 1 はじめに 近時、相続が発生しているにもかかわらず、遺産分割協議や相続登記が行われずに放置されている空き家が問題となっている(相続登記の問題については【事例9】を参照)。 この中には、遺産分割協議が行われないまま二次相続が発生している場合もある。孫の世代が相続人となる場合には、相続人数が増えるだけでなく、人間関係も希釈化され、お互いに音信不通で連絡先を把握していないこともある。一方で、遺産分割をせず老朽化した空き家を放置すると、民事上の不法行為責任や行政上の法的責任を追及される可能性がある。 そこで今回は、相続人の中に行方不明者がいる場合に、他の相続人が、どのような方法で、どのような遺産分割協議を行うことができるか検討することとしたい。 2 行方不明者がいる場合に取り得る手段 (1) 失踪宣告 遺産分割協議を有効に行うためには、共同相続人全員で行う必要がある。そのため、生死不明の行方不明者がいる場合に、その行方不明者を除いて行った遺産分割協議は無効となる。 もっとも、不在者の生死が7年間明らかでない場合には、利害関係人の請求によって、家庭裁判所は、当該不在者の失踪宣告をすることができる(民法第30条)。民法上、失踪宣告を受けた者は、7年間の期間が満了したときに、死亡したものとみなされるため(同法第31条)、共同相続人は、行方不明者を除いて遺産分割協議を行うことができる。 なお、ここにいう利害関係は、法的利害関係を意味するところ、遺産分割を求める共同相続人は法的利害関係があるものと認められる。 (2) 高齢者職権削除 失踪宣告とは別に、「高齢者職権削除」と呼ばれる制度がある。この制度は、年齢的に見て、明らかに死亡していると思われる所在不明の高齢者について、市町村が職権で、当該高齢者の戸籍に死亡したものと記載する制度である(戸籍法第44条3項、第24条2項)。しかしながら、この記載の効力は、戸籍上のものに限られ、民法上、死亡したものとは扱われない。 そのため、高齢者職権削除が行われたからといって、行方不明者を除いて遺産分割協議を行っても、その遺産分割協議は無効であるから留意されたい。 (3) 不在者財産管理人 問題は、行方不明者の生死不明の状態が7年経過していない場合に、どのように対応するべきかであるが、このような場合には、不在者財産管理人を利用することが考えられる。 この制度は、「従来の住所又は居所を去った者」が、財産の管理人を置かなかったときに、家庭裁判所が利害関係人等の申立てによって、不在者財産管理人を選任する制度であり、一般的には弁護士、税理士のような士業が不在者財産管理人に選任されている。 不在者財産管理人は、管理行為や保存行為(民法第103条)を自らの判断で行うほか、家庭裁判所の権限外行為の許可を得て処分行為を行うことができる(民法第28条)。ここにいう処分行為には、遺産分割協議、相続放棄の申述、不動産の売却等が含まれる。 不在者財産管理人の申立ての手続は、裁判所のウェブサイトにおいて詳細に記載されているので、下記ページを参照されたい。なお、申立ての際に、不在者財産管理人の報酬等に充てるため、予納金が30~50万円程度求められる場合もあるが、事案によっては免除や減額をされる場合もあるので、申立前に家庭裁判所に問合せをしておくべきであろう。 3 不在者財産管理人と遺産分割協議 (1) 権限外行為許可の必要な行為 上記2(3)のとおり、不在者財産管理人が遺産分割協議を行うためには、家庭裁判所の権限外行為の許可を得る必要がある。最終的な遺産分割協議を行うことについての許可を得なければならないのは当然のことであるが、遺産分割協議の交渉をすること自体に許可を得る必要があるかは議論のあるところである。 もっとも、実務上は、不在者財産管理人は、共同相続人との間で協議を行い、遺産分割協議案がまとまった段階で、遺産分割協議書案を添付して、権限外行為の許可の申立てをしているものと思われる。理論的には、遺産分割協議の交渉を行うことは財産の保全を図るために行うという意味で、保存行為と評価することができ、最終的な遺産分割協議の内容の合理性を家庭裁判所が審査しているため、実務上の運用に問題はないと考えられる。 なお、遺産分割協議は調停や審判で行われる場合もあるところ、調停は当事者間の合意で成立するものであるから、権限外行為の許可が必要であるのに対し、審判は裁判所の職権で行われるものであるから、権限外行為の許可は不要である。 (2) 遺産分割協議の内容の合理性 遺産分割協議の内容に関する家庭裁判所の審査は、不在者の権利や利益を不当に害するものか否かという観点から行われる。具体的には、原則として、不在者に同人の法定相続分が確保されているかどうかが1つの基準になるものと考えられている。これは、不在者が遺産分割協議に参加していれば、少なくとも、法定相続分を相続したと考えられるからである。 このような不在者の権利を保護するという観点からすれば、単に法定相続分が確保されているかどうかという形式的な基準だけでなく、実質的に不利益が発生しないかも含めて審査されるべきであろう。 例えば、老朽化した空き家を不在者に単独で相続させることは、財産的価値が下落する一方の財産を相続させるだけでなく、不在者に民事上や行政上の法的責任を一方的に転嫁するものであるため、遺産分割協議の内容の合理性を欠く場合もあると考えられる。家庭裁判所の適切な審査・指導が期待されるが、家庭裁判所が遺産分割協議の内容の合理性について、どこまで実態に踏み込んで審査できるかは別の問題として残る。 また、不在者財産管理人が遺産分割協議によって空き家等の不動産を相続する旨の遺産分割協議を行うことは、当該協議後も、空き家の管理を継続する必要が生じるため、不在者財産管理人にとって相当な負担となる。また、相続後に空き家の取壊しや売却を行おうとする場合には、改めて権限外行為の許可が必要となるため、手続的にも煩瑣であろう。 (3) 遺産分割の方法について 上記のとおり、不在者に空き家を相続させることには、種々の問題があるものと考えられる。 そこで、共同相続人としては、遺産分割協議において、空き家を売却して、その代金を共同相続人間で相続する換価分割が考えられる。この場合、遺産分割協議の権限外行為の許可の中で売却することの審査も行われる。 しかしながら、空き家の売却が困難である場合や、生家である実家の売却に同意しない共同相続人がいる場合も想定される。このような場合、帰来時弁済型の遺産分割を行うことが考えられる。「帰来時弁済型の遺産分割」とは、遺産分割の時点では、不在者に具体的な財産を相続させず、不在者が帰来した場合には、共同相続人が当該不在者に対して、代償金を支払うこととする方法である。 もっとも、帰来時弁済型の遺産分割を行うためには、①不在者が帰来する可能性が低いこと、②直系卑属がいないこと(失踪宣告による相続発生を回避するため)、③共同相続人が代償金を支払える資力を有していることが必要と解されているので留意が必要である。 なお、換価分割や帰来時弁済型の遺産分割ができない場合、民事上や行政上の法的責任を避けるため、共同相続をした上で各自の費用負担で空き家の取壊しをすることも考えられる。この場合、遺産分割時と取壊し時に権限外行為の許可を得る必要がある。 4 まとめ 本件では、行方不明者の行方不明の期間が7年以上経過している場合は、失踪宣告の申立てを行い、他の共同相続人間で遺産分割協議を行うことになる。 一方、失踪宣告の申立てができない場合は、不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人との間で遺産分割協議を行うことになる。この場合、換価分割や帰来時弁済型の遺産分割を行うことが考えられる。状況によってこのような遺産分割が困難な場合には、共同相続した上、各自負担のもとで取壊しをすることも検討するべきであろう。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第16話】 「非居住者からの不動産売買」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「しかし、これは・・・なかなか難しい問題だな・・・」 浅田調査官は、腕を組んで、頸を傾げている。 「・・・何をひとりでつぶやいているんだ?」 昼食から戻った中尾統括官は、爪楊枝を加えながら、浅田調査官に尋ねる。 「はあ・・・非居住者から不動産を購入したときに、買主は売主に対して、源泉徴収をしなければならないという規定なんですけど・・・」 浅田調査官は中尾統括官を見る。 「もちろん、その規定は・・・所得税法にちゃんと書いてあるだろう。」 そう言うと中尾統括官は、机に置いてある税務六法を取り上げる。 「・・・所得税法161条1項は、非居住者の「国内源泉所得」を列挙し、その5号で『国内にある土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構築物の譲渡による対価(政令で定めるものを除く。)』を挙げている。」 中尾統括官は条文を見ながら説明する。 「・・・そして、同法212条1項で、161条1項4号から16号までに掲げる国内源泉所得について、所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、国に納付しなければならないとしている。」 中尾統括官の口調は滑らかである。 「また、徴収税額は、同法213条1項2号で、同法161条1項5号に掲げる国内源泉所得は、『その金額に100分の10の税率を乗じて計算した金額』となっている・・・ただし、所得税法施行令281条の3では、その源泉徴収の対象から除外されるものとして、次のように規定している。」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見ながら、条文をめくる。 「このように、個人が自己又はその親族の居住の用に供するために、非居住者から不動産等を購入した場合であって、その不動産等の譲渡対価が1億円以下である場合には、その個人は、支払の源泉徴収をする必要がない。」 中尾統括官は条文の解説をする。 「しかし・・・賃貸マンションのような収益物件であれば、所得税法施行令281条の3の適用はないので、源泉徴収をしなければならない・・・」 浅田調査官は、困った表情をする。 「最近では、多くの外国人が投資目的で日本の不動産を購入しているので、彼らが不動産を売却するとき、それを購入する者は、源泉徴収の義務を負うことになります。その時に、買主は、売主が非居住者か否かの判定をしなければならない・・・」 浅田調査官の言葉に、中尾統括官は黙って頷く。 「・・・そもそも、土地等を購入する相手が『居住者』であるのか『非居住者』であるのかという判定が困難なケースが多いな・・・法律上の定義では、非居住者とは、居住者以外の者(所法2五)と規定され、居住者は、永住者(所法2三)と非永住者(所法2四)に分かれ、そこでは、「住所」(民22)又は「居所」(民23)の有無等が判定の要素になっている。」 そう言うと、中尾統括官は罫紙に表を描く。 表を見ながら、浅田調査官は、思案顔になる。 「そもそも、国家が、このような判定を買主にさせ、そして、買主に源泉徴収の義務を負わせること自体、問題がないとはいえない・・・」 浅田調査官は不満そうに言う。 「そう言えば・・・住所の有無では、昔、贈与税の武富士事件があったなあ・・・」 中尾統括官は、懐かしそうに言う。 「武富士事件(最高裁平成23.2.18判決)ですか・・・あれは、結局、納税者が勝訴したのですけれど・・・」 浅田調査官は、傍らにあるパソコンから、判例を検索する。 「これが、最高裁が示した住所の意義と判断基準ですね・・・」 浅田調査官はつぶやく。 「しかしどう考えても・・・買主に源泉徴収義務を負わせるのは、国家の税金の課税漏れを防ぐという趣旨でも、納得いきません・・・」 浅田調査官の声のトーンが高くなる。 「まあしかし、君は税務職員だから・・・税金の課税漏れを防ぐことにもっと理解を示してもいいんじゃないか?」 中尾統括官は苦笑しながら、浅田調査官の顔を見る。 (つづく)
《速報解説》 公益法人等又は協同組合等の貸倒引当金の特例(10%割り増し)を廃止 ~平成31年度税制改正大綱~ 税理士 小谷 羊太 1 概要 公益法人等や協同組合等の一括評価貸倒引当金については、特例措置により繰入限度額が10%割り増しされている。本特例は平成31年度税制改正大綱において、適用期限の到来(平成31年3月31日までに開始する事業年度分の計算)をもって廃止されることが明記された(与党大綱p79)。なお後述のとおり、平成35年3月31日までの間、現行の割増率10%に対して1年ごとに1/5ずつ減少した率による割増しを認める経過措置が置かれる。 2 一括評価による繰入限度額の計算 貸倒引当金繰入限度額の計算については、債権を貸し倒れる危険性の高い「個別評価金銭債権」と一般的な債権である「一括評価金銭債権」とに区別して、それぞれの繰入限度額を計算している。 3 一括評価金銭債権の繰入限度額 ① 実績繰入率による計算(原則) その事業年度末の一括評価金銭債権の帳簿価額に、過去3年間の貸倒実績繰入率を乗じて計算する。 貸倒実績率は、次の算式により計算する(小数点以下4位未満切上げ)。 (※) 算式中の「月数」については、暦に従って計算し、1ヶ月に満たない端数が生じたときは、これを1ヶ月とする。 ② 法定繰入率による計算(特例) 中小法人等については①の実績繰入率による計算に代えて、法定繰入率による計算が認められている。 〈法定繰入率〉 なお、一括評価金銭債権へ該当するもの、該当しないものについては、下記国税庁ホームページを参照されたい。 4 公益法人等又は協同組合等の特例 現行制度では、平成10年4月1日から平成31年3月31日までに開始する各事業年度において、公益法人等又は協同組合等は、実績繰入率又は法定繰入率による繰入限度額の10%の割り増しが認められている(措法57の9③)。 上記110%の割増率の適用特例が適用期限をもって廃止され、経過措置として次の割増率の適用が認められる。 (了)