〔会計不正調査報告書を読む〕 【第169回】 株式会社不動テトラ 「社内調査委員会調査報告書(開示版)(2025年3月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社不動テトラ社内調査委員会の概要】 【株式会社不動テトラの概要】 株式会社不動テトラ(以下「不動テトラ」と略称する)は、2006(平成18)年、株式会社テトラと不動建設株式会社が合併し、不動建設株式会社を存続会社とするとともに、商業を不動テトラに変更した。 不動建設株式会社は、1947(昭和22)年、建設業を主たる事業目的として設立。設立時の社名は株式会社瀧田ノ組。1956(昭和31)年、不動建設株式会社に社名を変更。 株式会社テトラは、1961(昭和36)年、テトラポッドの製作、販売及び同工事の設計、施工を事業目的として設立。設立時の社名は首都圏印刷製本株式会社。1995(平成7)年、株式会社テトラに社名を変更。 不動テトラは、土木事業、地盤事業及びブロック事業を主たる事業とし、子会社7社と持分法適用関連会社1社を有している。連結売上高67,947百万円、連結経常利益2,947百万円、資本金5,000百万円。従業員数986名(2024年3月期連結実績)。本店所在地は東京都中央区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は、有限責任あずさ監査法人。 【社内調査委員会による調査報告書の概要】 1 社内調査委員会設置の経緯 不動テトラでは、2024年12月上旬頃、外部機関の指摘を受け、東京地盤工事部に属する管理職従業員が、同事業に係る一部の取引において、複数年にわたって特定の工事資機材販売業者に対し、水増し又は架空発注を行い、その発注相当額の一部で商品券を購入する形をとって自らに還流させて着服するほか、地盤本部に属し工事現場の所長(以下「工事所長」という)を務める従業員が同工事資機材販売業者に対する水増し又は架空発注の方法を用いて、当該発注額を同業者にプールさせたうえで、別工事の工事資機材代金に充てるよう依頼し、又は正規に処理できない領収書を買い取らせていたこと(以下「本件架空発注等」と総称する)が判明した。 これを受け、不動テトラは、同月10日、社外取締役を含む全取締役に対し本件架空発注等の状況を報告するとともに、緊急の対応として、管理本部を中心に初期的な状況把握を行い、同月23日開催の臨時リスク管理委員会で審議・承認された対応方針に従い、翌24日、地盤本部以外の管理本部、監査部を中心とする役職員によって構成される緊急対策本部を設置して本件架空発注等の事案解明のための調査を開始し、直ちに関与者のヒアリング、上記各従業員の直近1年間のメールデータの保全、解析等を実施した(以下「予備調査」という)。予備調査の結果、地盤本部に属する他の複数の従業員においても、当該工事資機材販売業者等を通して実際と異なる経費処理等を行っているのではないかとの疑念が生じた。 予備調査の結果を受けて、不動テトラは、不動テトラとは利害関係を有せず、不正調査の経験が豊富な外部専門家2名(弁護士1名、公認会計士1名)と社外取締役監査等委員(弁護士)を委員とすること、その補助者(弁護士及び公認会計士数名)を確保することを進めたうえで、2025年1月23日の臨時リスク管理委員会の審議を経て、同月27日開催の取締役会において社内調査委員会を発足させる旨を決議し、同日、第1回社内調査委員会を開催した。 2 2022年3月に判明した不適切な会計処理(2022年案件) 不動テトラでは、2022年3月まで行われた税務調査において、中部支店の地盤改良工事について、協力業者に支払う工事費の仮装計上等の不適切な会計処理が判明し、社内調査を行い、同年6月に調査結果をまとめ、再発防止策を策定してそれを実行してきた。この2022年案件は、地盤改良事業の一部工事において、工事の業績が予想以上に好業績となった反面、協力業者における窮状や損失負担の状況を慮って架空や仮装の発注処理をし、相手方への利益供与や工事現場の原価付替を行ったものであった。 同調査の結果、2022年案件が生じた原因として、(1)コンプライアンス意識の欠如、(2)業績管理への過度なプレッシャー、(3)不適切処理のチェック体制の不備が指摘された。 なお、2022年案件は、その規模等から業績や会計処理に与える影響が僅少であったため、不動テトラは、社内調査として必要な調査を行い、対外的な開示は実施しなかった。 不動テトラでは、再発防止策として、以下の項目について、詳細な実行計画を策定し、この計画に従い進捗状況が管理されるとともに、取締役会への定期的な報告が行われてきた。 3 社内調査委員会による調査の結果判明した事実 (1) 調査結果の概要 社内調査委員会は、調査の結果、不動テトラ東京地盤工事部部長であるA氏及び地盤本部工事部工事課に所属するB氏その他9名の従業員並びに東京本店地盤営業部の従業員1名が、工事資機材販売業者であるX社との間で本件架空発注等の不適切な取引を行っていたこと、X社以外の燃料・資機材販売業者との間でも、X社との間で行われた本件架空発注等と類似した不適切な取引が行われていたことが判明したとしている。 本件架空発注等は、従業員が外部の協力業者に対して架空の発注又は本来の金額よりも水増した金額での発注を行う形で実行されていた。こうした架空又は水増しの発注の目的としては、以下のものがある。 調査の結果判明した架空発注等の金額は約40百万円であり、資金使途としては、「従業員による金品受領(上記③)」が約15百万円、「同一工事内での費目付替(上記①)」が約5百万円、「別工事への原価付替(上記②)」が約7百万円、残額が約13百万円となっている。 (2) 作業所決裁 不動テトラでは、工事原価の発注については、基本的に購入要求書により拠点の部課長や購買部のチェックを経る体制が整えられていたものの、その例外として、工事の施工品質に影響を及ぼさない範囲における業務の迅速化・省力化の目的で、下請負契約を除く50万円以下の発注など一定の取引について、購入要求書による発注手続を省略することができる取引として定め、拠点の部課長や購買部のチェックを経ることなく、工事所長において発注を行うことが可能となっていた。 不動テトラは、2022年案件を受けて、工事費の仮装計上といった不適切な会計処理の防止を図るため、発注の実在性についての確認を強化していたが、作業所決裁による発注については、拠点の部課長や購買部のチェックを経ることなく行われ、実態として納品書が残されないこともあって、管理部門や監査部による事後的な実在性の確認が困難な取引類型として残されており、実際に社内調査委員会の調査の結果判明した不適切な取引の多くは、拠点の部課長や購買部のチェックを経て発注がなされたものではなく、上記の下請負契約を除く50万円以下の発注の類型として、作業所決裁による発注が認められたものであった。 (3) 東京地盤工事部部長A氏による不適切行為 社内調査委員会の調査によれば、A氏は、東京地盤工事部課長であった 2017年9月以降、商品券を受領したい旨の意向と受領したい商品券の金額をX社の担当者に伝え、実際には現場で納品を受けない架空の品物について、それらの合計金額が希望する商品券の金額の倍額程度となるように複数リストアップし、架空の納品リストをメール又はファックスによりX社の担当者に送付し、さらに同担当者に対して請求先の工事現場を複数指定して、X社から当社に対する請求書に、当該架空の品物とそれらの金額を上乗せした金額を記載させ、X社から不動テトラに対して架空発注額を含めた金額での請求をさせていた。 A氏は、自身が部長としての立場で管轄する東京地盤工事部の複数の工事現場において、X社からの請求書に架空の品物とそれらの金額を上乗せした金額を記載させ、架空発注額の請求を行っていたものであるが、対象となった各工事現場を担当する工事所長の中には、X社からの請求書に、自身が発注しておらず、実際には納品を受けていない品物が含まれていることに気が付いた者もいたものの、A氏が他の現場で発注した品物を当該工事現場に請求させているものと考えたり、東京港総合事務所等に備える共通の物品を当該現場に対して請求しているものと理解したりして、特段実際の取引の有無の確認や、架空水増請求ではないことの確認を行う者はいなかった。 不動テトラは、X社から請求を受けた架空発注額を、X社に対してそのまま支払い、X社は、受領した架空発注額のおよそ半額に相当する商品券を、A氏が指定する東京港総合事務所又は工事事務所に郵送し、A氏は同所において商品券を受領したあと、金券ショップにおいて換金し、現金化していたものである。 調査対象期間(2019年4月1日から2024年12月31日。以下、同じ)においてA氏がX社に請求させた架空発注額は合計13,393,880円(税別)であり、このうち、A氏がX社から受領した商品券の金額の合計は6,400,000円であった。 (4) 地盤本部工事部工事課B氏による不適切行為 社内調査委員会の調査によれば、地盤本部工事部工事課B氏は、2018年1月以降、自己の担当する現場で利益が確保できた際に、次の現場での工事資機材を購入するための費用をプールする目的で、X社に対して、実際には現場で納品を受けない架空の工事資機材及び数量を指定して、X社から当社に対する請求書に架空の工事資機材とそれらの金額を上乗せした金額を記載させ、X社から不動テトラに対して架空発注額を含めた金額での請求をさせることで、その架空発注額の一部をX社にプールさせていた。 また、B氏は、X社に対し、社内で正規に処理できない私的利用に基づく領収書も含む領収書を送付し、後日、X社に、そのプール金を原資として領収書記載金額に相当する現金を郵送させ、自ら受け取っていた(プール金による領収書の買取り)。 調査対象期間においてB氏がX社に請求させた架空発注額は合計8,337,400円(税別)であり、B氏がプール金による原価付替を行った金額は合計1,100,000円(税別)、B氏がプール金による領収書の買取りによって受領した金額は合計3,390,404円であるとともに、B氏へのヒアリング等によれば、2024年12月末日時点のX社に対するB氏のプール金の残高は170,546円であると推計される。 (5) X社との間のその他の不適切な取引 社内調査委員会の調査によれば、地盤本部工事部工事課のC氏以下8名、東京地盤営業部のL氏が、X社との間で不適切な取引を行っていたことが判明している。 (6) その他の協力業者との間で生じた不適切な取引 社内調査委員会の調査によれば、X社以外の12社に対して、架空発注が行われ、その総額は9,435,000円(税別)であったことが判明している。 4 発生原因の分析(調査報告書44ページ以下) 社内調査委員会は、調査の結果から、なぜ、地盤改良事業、特に東京地盤工事部管轄の現場において不適切行為が2022年以降も発生し、かつ、複数発生したのか、本件の行為者に共通する事情及び特有な事情は何か、2022年案件への対応はそれらの点にどのような影響を与えていたのか、といった点の分析が必要と判断し、A氏に関する行為とB氏に代表される行為を評価したうえで、原因分析を行った。 (1) A氏の行為の評価 社内調査委員会は、A氏は、その地位・権限、行為態様、規模等から本件の不適切行為の行為者の中で異例であり、その行為の原因としても、A氏固有の事情が左右した面は否定できないと考えるとしたうえで、動機については、東京地盤工事部課長時代の上司や他の拠点幹部等を交えた飲み会等の費用精算担当となる中で、個人でその費用を負担し、会社費用としての精算をできなかったこと等から、カード債務が嵩んで経済的に困難を抱え、飲み会等の支払やカード債務の返済のために金銭を必要としていたことを挙げ、機会という点では、A氏は、工事所長の経験を経て、東京地盤工事部長に昇格し、その地位、仕事ぶり等から、周囲から相当程度の信頼を得ており、各工事現場に必要と思われるような物品を負担させることを各工事所長から不自然に思われない、あるいは、工事所長からの指摘を容易に回避できる状況にあったことを指摘している。 さらに、A氏は、多くの仕事をこなして周囲からも信頼を得、順調に地位も上がり、会社の屋台骨である地盤事業、特に重要な拠点である東京地盤工事部を支えているという意識を有しており、2022年案件はあるにせよ、多少会社のお金を自分が使っても、それは実質会社が負担すべきものでありながら自分が負担している債務を支払うため、また、仕事に役立てるためであって、自分がこれだけ頑張って会社のためになっているからよいのではないか、という誤った意識をもって、自身の行為を正当化しながらX社との不適切な取引を繰り返していたと評価している。 (2) B氏その他の行為者の評価 社内調査委員会は、B氏とC氏その他の行為者は、ほぼ同種類型と評価できるとしたうえで、ただ、B氏は、規模、私的流用の大きさという点では特異性を有していることから、B氏について検討している。 B氏の認識では、工事現場の売上総利益率の確保と予算と実績との整合性は工事所長の人事評価の考慮要素の1つであり、B氏は、自身が担当する地盤改良工事について、現場によっては予算が限られており利益が出しづらいものもあったため、利益が予算上の想定を上回ることが見込まれる現場の予算を転用したいとの希望を有していたところ、Y社長から、プール金を使って原価付替に対応するという提案を受けるという機会を得て、実際に次の現場に備えるためのプール金を作りたいとの動機を実現できることになり、架空発注額の支払及びプール金による原価付替を行うようになった。 さらに、B氏は、Y社長からプール金による領収書買取りのスキームにも応じるとの話を聞き、業務上発生した交際費であって正規に処理しにくい領収書を処理したいという動機に合致するものとして、領収書の買取りを求めるようになり、コロナ禍以降は、Y社長からX社の期末処理の要請(プール金を期末で0にする)を機会として、プール金消化のために私的利用に基づく領収書の買取りも可能と認識し、自身の欲求を満たす意味でもこのスキームを利用するようになった。B氏は、これらのスキームが作業所決裁によって可能となることを認識し、その機会を利用するとともに、プール金原価付替、領収書買取りについて、単に工事費用の付替を行っているという、本来は会社が負担すべき経費の精算であるとの認識であり、不正に当社の費用を流出させてはいないという意識の下で自己の行為を正当化していた。 B氏に比較して、C氏以下の他の行為者については、個々に多少の違いはあるものの、B氏における私的利用の領収書の買取りの部分以外は、一人所長である点、作業所決裁を利用していること、X社を中心に自身の意向を拒絶することなく従う協力業者を利用したことなど、動機、機会、正当化の点で、ほぼ同様の分析があてはまるとしたうえで、費用の付替の点は、作業所決裁という現場への牽制が弱い中(機会)で、業務上の費用とそれを処理する面倒さ、より効率的に費用を充足できる簡便な手段の存在(動機)と、業務に必要であって会社の経費となることは変わらないし、2022年案件と性質が異なる(正当化)といった意識も原因となっていたと考えられるとまとめている。 (3) 事業特性・風土、企業文化と一部従業員のコンプライアンス意識の低さの残存 社内調査委員会は、地盤改良事業の事業特性・慣習・実態を分析して、地盤改良事業は、主に下請事業であり、個々の工事は土木事業などに比べると小規模かつ短期間の工事であることが大半であって、従業員の配置も1人の工事所長のみであり、工種が単一であることも相まって協力業者として取引相手となる業者が固定化する傾向があり、また、海上地盤工事等では臨機に物品等を調達することに不便さがみられ、長年付き合いのある協力業者を頼るとともに協力業者側でも工事所長の要請に従う状況があったことなどが認められ、土木事業、ブロック事業と異なる特徴であり、本件架空発注等が地盤改良事業で生じた原因の背景と考えられるとしている。 2022年案件の発生とその再発防止策により、企業トップの強いメッセージが発出され、問題点を社内に周知し、教育研修にも力を入れるなど、コンプライアンス意識を向上させる対策が繰り返し取られたことから、その効果は一定程度あって、風土・文化の改善が進んでおり、それ以前のような工事原価の付替はほぼなくなったのでないかと評価しているが、地盤改良事業の一部の現場におけるコンプライアンス意識が完全に変わったとは言えず、2022年案件で社内調査の対象となった工事間の原価付替以外は問題ないとの誤った解釈を述べる者や、社長通達に関して具体性がなく効き目がない、マインド面を訴えただけで当社としての仕組みが変わっていない等と述べる者もおり、依然として、企業風土に根ざすコンプライアンス意識の低さの問題は払拭されていなかったことが今回の原因になっていると分析している。 (4) 不適切な対応を許容する協力業者の存在 社内調査委員会は、本件架空発注等は一部他の協力業者によるものがあったものの、特にA氏の特有な事象は、X社の関与なしでは成立しなかったとしたうえで、証拠に基づく明確な認定はできないものの、X社が薄々A氏の意図等に気づきつつ、頼まれた以上何でも調達するのが自らの仕事であり、使い道はA氏側(会社側)の問題という整理をして、拒否することなく応じてきた(工事所長からすれば容易に頼めた)ことが本件の原因の1つと評価できるのではないかとの見解をまとめている。 (5) 業務フロー上の問題点(一人所長による作業所決裁) 社内調査委員会は、土木事業では、工事所長の決裁ではありながら、工事現場には複数の担当者が存在して一人所長という状況はなく、発注の必要性、現実の納品等について所長以外の担当者の目に触れ、事実上チェックされる状況があり、不正をすると発覚するかもしれないとの抑制が働くものと考えられるが、他方、地盤改良事業の一人所長の場合の作業所決裁フローが、工事所長のレベルだけでなく、拠点の管理職による監督の面でも、内部統制上の牽制を事実上緩和してしまう可能性が存在することは否定できず、本件の原因の1つと解されると評価した。 しかし、年間300件に上る短期間工事を効率的にこなしていくうえで、全ての現場購買について、発注段階から拠点又は本部の管理下に置くことは極めて煩雑であり、現場の作業効率を下げ、工期遵守面でも影響を及ぼすとともに、本部等の体制としても応対できない面があり、こうした管理を実行することは当社の利益の稼ぎ頭である地盤改良事業の売上総利益率を落とし、当社の企業価値自体を下げるおそれがあるという側面も理解できるとして、一人所長による作業所決裁の存在は、本件の原因ではあるものの、それをどのように再構築すべきかは、今後の従業員に対する教育、人事対応、システムによる補完等も考慮しつつ、対応内容、実施時期、期間等との兼ね合いで検討すべきではないかとまとめている。 (6) コンプライアンス体制上の問題 社内調査委員会は、コンプライアンス体制上の問題として、まず、内部監査について、監査部3名体制では、全国に多数の工事現場を抱える中、十分な内部監査を完遂することは困難であり、業務効率性も重視される作業所決裁について内部監査の目が及ばなかったことは原因の1つであると評価している。 さらに、内部通報制度の周知や、実効性を確保するための対応が不足していたことも原因の1つであると分析している。 5 再発防止策の内容(調査報告書52ページ以下) 社内調査委員会は、再発防止策検討のための視点として、まず、不適切事案の再発を許した当社の風土・文化の面及び従業員のコンプライアンス意識の面で改善すべき点は何かを再度真摯に検討すべきであるものの、2022年案件の対応により当社の多くの従業員がコンプライアンス意識を変えている中で、不適切行為者は一定範囲の行為にとどまっていること、個人的な理由も背景に特異な行為態様を示した者はごく一部にとどまることからすると、業務フローの見直しの対象及び内容の検討において、それに要するコスト、業務効率性への影響との比較などの考慮要素を踏まえ、当社の現状を踏まえた最適な業務フロー等をどのように構築するか、といった観点で十分な検討が必要になるという見解を示したうえで、再発防止策として以下の項目を列挙している。 社内調査委員会は、架空発注に利用された作業所決裁について、作業所決裁自体は、人員が不足する中で効率化を図るために必要な制度であると理解を示したうえで、納品書を確実に保存するルールを明確化して事後的なチェックを可能にすること、工事現場の予算、特に交際費の使用に関するルールの曖昧さを解消することを挙げている。 また、協力会社については、不動テトラのトップとして、協力業者に対してコンプライアンスを最重視する当社の姿勢を示したうえで、今後、万一当社側関係者からの不適切な要求があれば、頑なにこれを拒絶すること、そして当社の内部通報窓口に対し通報を行うことを、改めて強く要請すること、当社の考えるコンプライアンスの水準や不適切な取引を、協力業者に理解してもらうために、協力業者向けの教育・研修を行うこと、さらに、当社従業員との間で新たな不適切な取引が行われていないか、平時から協力業者へのコンプライアンスアンケートを実施することなどを提言している。 【調査報告書の特徴】 老舗の土木会社で発生した従業員不正は、過年度の有価証券報告書を訂正するには至らない程度の損益インパクトではあったが、2022年3月に不適切な会計処理事案が発覚して、再発防止策を履行している中で、管理職を含む複数の従業員が同時多発的に不正を行っていたという点は、経営陣に与えた衝撃は大きかったのではないかと思料する。 調査報告書では、2022年3月に行われた調査の内容についての評価が述べられておらず、社内調査の対象となったのは工事間の原価付替が対象であったことに触れられているにすぎないが、この時点で、大規模な調査が行われていれば、被害額はより少なくて済んだ可能性は高い。不正による損害額は約40百万円であり、過去の各期に与える業績への影響は軽微であることを強調した不動テトラではあるが、5月9日に公表された2025年3月期の決算短信によれば、「不正調査費用」が111百万円計上されている。 1 不正を助長した協力会社 A氏をはじめ、多くの社員の不正を手助けてしてきたX社は、神奈川県横浜市に本社をおく土木建設資材の製造及び販売を目的とする会社であり、代表取締役はY社長である。X社の主力事業である土木資材卸部門は、海洋土木や浚渫工事、作業船舶に使用される資材を取り扱っており、不動テトラの海上地盤改良工事との親和性が高く、また工事現場に必要な仮資機材等の適時な納品対応が可能であるため、1件当たりの取引金額は少額ではあるが、多くの工事所長と長年の取引関係を有していた。2024年3月期の取引実績は、104件約17百万円であり、過去5年において、13百万円から20百万円の間で推移している。 社内調査委員会によるインタビューに対して、Y社長は以下のように答えている。 2 関係者の処分 不動テトラは、調査報告書の公表と同じリリースにおいて「役員報酬の減額と関係者の処分」という項目を設けて、代表取締役を含む取締役4名と執行役員4名の報酬について減額し、不正行為の対象者及び対象者を管理監督する立場にあった従業員については、就業規則等の社内規定に則り、厳正な処分を行うことを公表している。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2025年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 〇 企業会計基準公開草案第83号「期中財務諸表に関する会計基準(案)」等 (内容:中間会計基準及び四半期会計基準等を統合するもの。意見募集期間は2025年6月30日まで) Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第31号) (内容:「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)の改正を受けたもの) ② 「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」 (内容:有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項等を記載している。「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」に関する調査実施を表明。金融庁) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準報告書560周知文書第1号「事後判明事実への対応に関する周知文書」 (内容:事後判明事実への対応について、日本公認会計士協会の会員の理解に資するために公表するもの) ② 「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案) (内容:倫理規則改正に伴って記載及び関係様式を変更するもの。意見募集期間は2025年5月21日まで) (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第67回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 27 DeFi取引と課税②:流動性供給開始は課税イベントか 以下では、所得税法上、個人が行うDeFi取引の入り口場面ともいうべきトークンの移転、とりわけ暗号資産(トークン)の流動性供給の開始やラップは課税イベント(含み損益に対する課税の契機となる事象)であるか、言い換えれば、含み損益を課税所得に反映させる事象であるかという点を検討する。 暗号資産の流動性供給の開始やラップに係る各時点の処理は、それぞれ流動性の供給を解除する又はラップとは逆にアンラップする場合にも影響を与える可能性があることとも相まって、関係者の関心が高い論点である。 にもかかわらず、他国の状況も概観する限り、DeFi取引の課税関係を明記する法令がなく、課税庁のガイダンスも乏しい。このため、暗号資産の損益計算ソフトに関連するものも含めて、この点に関して積極・消極両方の見解がある。両論併記されることも少なくない。 このほか、課税リスクを踏まえた保守的見地等から、以下のような対応が取られる場合もある。 以下では、相手方として権利の帰属主体が存在するか、処分権の移転があるかなどの点に着目することで、暗号資産の流動性供給の開始やラップが課税イベントではないという見解を示す。 (1) 課税イベントになるという見解 流動性を供給するユーザーであるLPによる流動性供給開始は課税イベントであるかという点が世界的に問題となっている。 保有する暗号資産の移転と引き換えに、異なる種類の暗号資産を得る場合には、暗号資産同士の交換に該当し、課税イベントであるという見解は珍しくない。 欧州最大のDeFi活用地域ともいわれる英国では、歳入関税庁がDeFiの課税上の取扱いのガイダンスを公表している。同庁のCryptoassets Manualは、次の点を明らかにしている(※)。 (※) GOV.UK「CRYPTO22100」及び「CRYPTO61620」参照 この点に関して、beneficial ownershipの移転の有無を判断するのは納税者の責任であるが、これは複雑な法律問題であり、手助けとなるガイダンスや事例は同庁からほとんど示されていないとの指摘がある(Recap「Is Beneficial Ownership(BO) Transferred?(2022)」)。 また、オーストラリア国税庁のスタッフは、LPトークンと引き換えにトークンをプールに預けることは、トークンの処分とみなされて、キャピタルゲイン課税の対象であると回答している。 他方、オーストラリアとニュージーランドの会計・税務の専門家団体による共同文書は、英国歳入関税庁の上記ガイダンスに触れつつ、第三者が流動性プールと取引するたびに、取引手数料とともに、一方のデジタル資産を他方のデジタル資産の処分の対価として受け取ることになり、その時まで、流動性プールの中の資産に対して継続的なbeneficial connectionを証明できる納税者が多いことを指摘している。 (2) 課税イベントと実現 Uniswapの利用場面を念頭に流動性供給開始が課税イベント(含み損益に対する課税の契機となる事象)であるかを検討する前に、そもそも、所得税法上、どの時点で資産の含み損益が課税の対象となるのかを考察する。 所得税法は、包括的な所得概念を採用しており、個人が保有する資産の値上がり益も所得であると考えられている。ただし、値上がり益に対して課税する場合、時価評価が難しい資産があるという問題や、まだ売却していないので納税資金の用意が難しいといった問題に突き当たる。そこで、実際の所得税法は、所得が実現した時に課税する、裏を返せば所得が実現した時まで課税を繰り延べている。 すなわち、所得税法は、所得を収入、すなわち経済的価値の外部からの流入という形態で捉えた上で、いずれの所得についてもその金額を(総)収入金額として規定するとともに、「その年において収入すべき金額」を各種所得の(総)収入金額としている(所法23~35、36)。 同法は、原則として、収入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得(保有資産の価値の増加益)を課税の対象から除外している(金子宏「租税法における所得概念の構成」同『所得概念の研究』74頁(有斐閣1995)、増井良啓『租税法入門(第3版)』117~119頁(有斐閣2023)参照)。 そうすると、実現の意義が重要な問題となるが、次のとおり、この点については種々の見解がある。 上記のほか、「アメリカ法を前提とするならば、実現とは、何か資産を手放して、その代わりに別の資産をもらったことを指すといえる。ただし、手放した資産と、受領した資産が種類または性質において実質的に異なっていなければならない」とした上で、ここから、いまだ実現に至らない未実現の状態として、資産を手放さず保有し続ける未実現の基本形である第一類型、贈与や相続による財産の移転など資産を手放すが、その代わりに取得した物がない第二類型、一定の譲渡担保など、資産を手放してそれと実質的に異ならない物を取得する第三類型の3つが考えられるという見解もある(渡辺徹也「実現主義の再考」税研147号70頁参照)。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 これらの見解の共通点や法的根拠を意識してみると次のことがいえる。 上述のとおり、所得税法は、原則として、収入、すなわち経済的価値の外部からの流入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得(保有資産の価値の増加益)を課税の対象から除外している。 上記の見解のうち、別の資産をもらう、現金等の資産(対価)と交換されるという叙述は、実現の要素を所得税法36条1項の収入の存在に求めたり、実現の実定法上の根拠を同条に求めるという着想につながる。 また、所得税法33条1項は、譲渡所得とは資産の譲渡による所得であることを定めている。 上記の見解のうち、保有する資産を手放したり、資産の権利を保有する者が変わるという叙述は、資産の譲渡を中心とした人的帰属の変更が実現概念と関係していることを示唆するとともに、実現の実定法上の根拠を所得税法33条ないし同条が定める譲渡に求めるという着想につながる。 実現は、上記のような所得概念や人的帰属のほか、課税のタイミング(所得の年度帰属)とも関係していることに注意を要する。 課税のタイミングに関しては、例えば、「収入すべき金額」とは、実現した収益、すなわちまだ収入がなくても「収入すべき権利の確定した金額」のことであり、したがってこの規定は広義の発生主義のうちいわゆる権利確定主義を採用したものであると説明される(金子宏『租税法〔第24版〕』317頁(弘文堂2021))。 権利確定主義とは、「外部の世界との間で取引が行われ、その対価を収受すべき権利が確定した時点をもって所得の実現の時期と見る」考え方である。このような権利確定主義が妥当し得ない例外的な場合においては「利得が利得者の管理支配の下に入った場合に所得として実現したものとする」考え方である管理支配基準が採用されると解されている(金子・前掲書303頁、金子宏「所得の年度帰属」同『所得概念の研究』284頁(有斐閣1995)参照)。 (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第9回】 「採用内定の法的性質と内定取消しの留意点」 -適正に判断するための取組み- 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社においては、昨今の人手不足などを受けて、従前よりも採用基準を下げて採用を行っていますが、そのためか、入社後に社員に問題を感じるケースが増えているように感じています。何か良い対策はあるでしょうか。 【Answer】 内定期間中(採用内定後、正式入社までの間)における労働契約の解約(いわゆる「内定取消し」)であれば、正式入社後に解雇する場合に比べて、有効性が緩やかに認められる傾向にあります。 よって、内定者と接する機会(研修等)を設けることで、内定期間中に内定者の問題点を把握するよう努めることが、対策の1つとして考えられます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 内定取消し (1) 採用内定の法的性質 新卒採用においては、正式入社日(4月1日)の前年10月1日に内定通知が行われることが多いが、内定通知から正式入社日までの間に内定を取り消すことができるかは、採用内定の法的性質によることになる。 “採用内定の法的性質を定めた法令”はなく、あくまで個々の契約内容の解釈によって決せられることになるが、最判昭和54年7月20日(大日本印刷事件)は以下のとおり判示して、採用内定により労働契約が成立するとした。 上記最判に照らすと、内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない場合には、内定通知により解約権留保付の労働契約が成立すると解される可能性が高いものと思われ、その場合には、会社と内定者の間に労働契約に係る規制が及ぶことになる。 (2) 内定取消しの可否 上記のとおり、採用内定により内定者と会社の間に労働契約が成立することから、内定取消しは労働契約の解約に該当し、解雇規制(労働契約法16条)が及ぶことになる。すなわち、内定取消しについて「客観的に合理的な理由」と「社会的相当性」(労働契約法16条)が認められる場合でなければ、当該内定取消しが無効となることになる。 また、内定取消しの事由として認められるのは、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実に限られる(※1)。 (※1) 前掲大日本印刷事件は内定事由について「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、・・・解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と判示した。 なお、「客観的に合理的な理由」と「社会的相当性」については、採用内定時点では労働者の資質、性格、能力等の適格性を判断するための判断材料を十分に得ることができないことや、正式採用前で現実の就労がなく、会社と内定者の結びつきが比較的弱いことなどに照らし、正式採用後の解雇と比べて比較的緩やかに認められる。 2 「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」を発見する方法 (1) 経歴調査 正式採用後に従業員を解雇することの難しさは本連載において何度か述べてきたとおりであるが、これらに照らすと、会社としては、いかに正式採用前に「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、・・・解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」を発見するかが重要になる。 この点、多くの会社が求職者や内定者の経歴調査を実施しているが、以下のとおり、職業安定法や個人情報保護法による制約があることに留意すべきである。 (※2) 「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号、最終改正:令和6年厚生労働省告示第318号)第5.1(2) (2) 研修・インターン等の利用 一方、経歴上明らかとならない勤務成績や勤務態度上の問題点は、ある程度内定者と接触する機会がなければ発見することは難しい。そこで、内定者に対する研修やインターン等を通じて内定者と接する機会を設けることも検討に値する。 内定者に内定期間中における研修への参加義務が認められるか否かについては、個々の契約の内容によるものと考えられる。上記のとおり、会社と内定者との間に労働契約が成立することに照らすと、使用者が有する指揮命令権に基づいて内定者に対して研修への参加を命じることができるようにも思われる。 しかし、正式採用前で現実の就労がなく、労働と賃金の対価関係が発生していないことに照らすと、特段の合意がない限り、内定者が会社の指示に従う義務を負わないと考えるのが当事者間の合理的意思に即しているのではないかと思われる。よって、内定者に研修やインターンに参加させるのであれば、その旨の合意を内定者と締結しておくべきである。 また、インターンシップには概要以下の2つのタイプがあり、②に該当する場合には内定者から労務の提供を得ているものとして賃金の支払いが必要となる可能性があるため(※3)、注意が必要である。 (※3) 「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」(平成9.9.18基発636号、最終改正:令和4年6月13日) (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第18回】 「任意後見契約における「3つの類型」」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 私(税理士)は顧客から、「将来自分が認知症になった場合に、後見人になってほしい」と依頼を受けています。顧客とはかなり長い付き合いがあるため、私が後見人として活動することが、ご本人やそのご家族にとっても良いように思えます。 そこで任意後見契約を提案しようと思いますが、どのような形で契約を締結すべきでしょうか。 【A】 税理士の仕事は、特定の顧客と継続的な関係が生じやすい仕事であるため、信頼関係が構築されている場合には顧客から税理士に「後見人になってほしい」という依頼が寄せられることがあります。 任意後見契約を締結しておけば、顧客の希望通り税理士が後見人として活動することができますが、契約の内容を検討する上で、任意後見契約には3つのパターンがあることを理解する必要があります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 任意後見契約とは 「任意後見契約」とは、将来自らが認知症等により判断能力が不十分になった場合に備えて、本人と、あらかじめ後見人になってほしいと考える人(任意後見受任者)との間で締結する契約です。いわば「後見人の予約」ともいえます。 任意後見契約は財産の管理など後見人の権限等を定めて、公正証書により締結をすることになりますが、任意後見契約を締結しても直ちにその効力が発生するわけではありません。任意後見契約の締結時点では、本人に一定程度の判断能力は残っているのであり、契約締結時点では任意後見人によるサポートが必要とは限らないからです。 任意後見契約の効力は、本人の判断能力が衰えたときに、本人や任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立て、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで生じます。 2 任意後見契約における3つのパターン 任意後見契約は締結時点では即効力が生じないことから、締結の在り方として以下の3パターンがあります。 税理士が顧客との間で任意後見契約を締結する場合は、任意後見契約をしていなくても本人と継続的な交流があるのであれば、①(将来型)でもいいでしょうが、そうでなければ②(移行型)を選択するとよいでしょう。 本人の意向をしっかりヒアリングしながら進めることが求められます。 (了)
《速報解説》 国税庁、所得税の基礎控除の見直し等に係る特設ページを開設 ~令和7年分及び8年分以後の給与の源泉徴収事務等に関する留意事項を示す~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和7年度税制改正では、所得税の基礎控除及び給与所得控除に関する見直し、特定親族特別控除の創設が行われた。これらの改正は、原則として、令和7年12月1日に施行され、令和7年分の所得税から適用される。よって、令和7年12月以後の源泉徴収事務に変更が生じることとなる。 このほど国税庁より上記基礎控除の見直し等に関する特設ページが開設され、特設ページ内のパンフレットには、令和7年分の年末調整及び令和8年分以後の源泉徴収事務における留意事項がまとめられている。 以下、留意事項を中心に解説を行う。 【1】 令和7年度税制改正における基礎控除の見直し等の概要 令和7年度は、所得税について以下の改正が行われた。 各改正の詳細については、以下の記事をご参照いただきたい。 【2】 令和7年分の源泉徴収事務における留意事項 【1】の改正は、令和7年分の所得税から適用されるが、その施行は、原則として、令和7年12月1日である。よって、令和7年11月までの給与及び公的年金等の源泉徴収事務に変更は生じない。給与の源泉徴収事務において改正の内容を反映するのは、令和7年12月1日以後に行う年末調整からとなる(※1)。 (※1) 公的年金等の源泉徴収事務においては、基礎控除について改正前と改正後の控除額に基づいて令和7年12月の支払の際に精算が行われる。公的年金等の受給者が、令和7年分の所得税について、特定親族特別控除の適用を受ける場合や、扶養親族等の所得要件の改正により扶養控除等の適用を受けることができることとなった場合には、原則として確定申告をする必要がある。 【3】 令和7年分の年末調整における留意事項 令和7年12月1日以後に行う年末調整における留意事項は、以下のとおりである。 (※2) 「特定親族特別控除申告書」は、「基礎控除申告書」、「配偶者控除等申告書」及び「所得金額調整控除申告書」との兼用様式が予定されている。国税庁ホームページに令和7年6月末頃掲載される予定である。 なお、現在国税庁ホームページに掲載されている令和7年分の各種様式には、改正後の内容が反映されていない。改正後の様式は、令和7年6月末頃から順次掲載される予定である。 【4】 令和8年分以後の給与の源泉徴収事務における留意事項 令和8年分以後の給与の源泉徴収事務における留意事項は、以下のとおりである。 (※3) 国税庁ホームページに、令和7年8月末頃掲載される予定である。 特定親族特別控除の創設に伴い、令和8年分以後の「扶養控除等(異動)申告書」には、源泉控除対象親族を記載することとなった(所法194①五)。源泉控除対象親族とは、次の①又は②のいずれかに該当する人をいう(所法2①三十四の五)。 【参考:親族の範囲】 (出典) 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」の7頁より抜粋 なお、給与や賞与からの源泉徴収税額は、「扶養控除等(異動)申告書」に記載された扶養親族等の数により求めることとされている。令和8年分以後における扶養親族等の数は、源泉控除対象配偶者及び源泉控除対象親族の数に基づいて算定する(所法185①、186①②)。 (※) 本稿では、給与の源泉徴収事務に関連する各申告書を以下のように記載します。 (了)
2025年5月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.617を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.147- 「デジタル民主主義ではポピュリズムは防げない」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 AIエンジニアの安野貴博氏は、昨年の東京都知事選で、子育て政策など具体的な政策とそれにかかる財源を示し、AI活用の有用性を説いた。この目新しさが有権者の注目を浴び、候補者中4番目の投票を得た。 そこで彼の『1%の革命』(文藝春秋社)を読んでみたのだが、具体的な提言には賛同しつつも、違和感を覚えざるを得なかったので、そのことについて書いてみたい。 * * * 氏は、AIの活用によって多様な人々の声を救い上げ、高速で可視化する仕組みを構築し、収集された大量のテキストデータをAIで解析し、今人々が何に関心があり、どんな声を上げているのか概要をとらえ、それを意思決定の参考にすることを「デジタル民主主義で社会をアップデートする」としている。 わが国の政策は“シルバー民主主義”と呼ばれ、有権者の中で高い割合を占め投票率も高い高齢者の声が優先される政治や政策が存在している。年金、医療、介護など高齢者向けの支出が増える一方で、子育て世代や経済的に不安定な勤労世代への支援やセーフティネットは進んでいない。したがって、これまでとは異なるAIの活用により多様な声を拾い上げ政策につなげるということには、大きな意味がありそうだ。 実際に東京都知事選の投票率は60.62%と、前回(2020年)の選挙より5.62ポイント高くなり、30代、40代の投票率の増加は顕著であった。 * * * しかし、世の中にあふれるSNSなどネットの声は、「投票」に代わる民主主義の声になりうるのだろうか。 東京財団では2022年に、経済学者と国民全般を対象として、経済・財政についてのアンケート調査を行った。 これによると、「財政赤字の原因は何だと思いますか」という問いに対して、経済学者は「社会保障費」(72.0%)をトップに挙げたが、国民は「政治の無駄遣い」(71.5%)を挙げた(複数回答)。 このように、国民の考えと専門家の考えは相当異なっており、ネットの声を救い上げるだけでは専門家の声が無視され、政策が大衆迎合(ポピュリズム)になっていく可能性が高い。 * * * もう1つは、最近の財務省解体デモに関することだ。財務省解体の声は日に日に大きくなりつつあるが、当事者である財務省は一切反論していない。 官庁が国民に対して、「その考えには問題がある」と個別に指摘や反論をすることは現実的ではない。そうなるとネットの世論は、人々の耳目を集めることにより経済的な利益も得られるアテンションエコノミーの下で、財務省解体など極端な論調一色になっていく。果たしてそれでいいのだろうか。 デジタル民主主義は、「膨大かつ多様な意見を収集し、自動的に要約・可視化し、それをもとに議論したうえで政策を作る(ブロードリスニング)」ということである。しかし「多様な意見」を収集し政策を作るためには、ネットの声だけでなく、発信は少ないが専門家や表に出ない当事者の声を拾い上げる必要がある。ネットにはない、リアルな声をどのように収集するのか容易ではない。 また、あふれるフェイクニュースを誰がどのようにファクトチェックしていくのかも不明である。データに頼りすぎるデジタル民主主義には、大きな落とし穴がありそうに思えてならない。 * * * 今ネットには消費税減税の声があふれている。一方で減税した場合に生じるかもしれない様々な問題を指摘する専門家の声はほとんど見られない。消費税減税の声を民意ととらえ政策に反映するとなれば、政策ははてしなく財政ポピュリズムに向かう。 耳障りのよいデジタル民主主義の是非については、あらためてじっくり考える必要がありそうだ。 (了)
仕入税額控除制度における用途区分の再検討 -ADW事件最高裁判決から考える- 【第1回】 森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士・税理士 栗原 宏幸 1 はじめに 本稿は、消費税の仕入税額控除制度における用途区分の解釈適用が争われたエー・ディー・ワークス事件の最高裁判決(最高裁令和5年3月6日判決・民集77巻3号440頁、以下「ADW事件最高裁判決」)を紹介し、同判決の内容を踏まえ、用途区分の考え方や納税者が注意すべきポイントを5回にわたって検討・整理するものである。なお、筆者は同事件の納税者代理人であったが、同事件に関する本稿の記述は全て公開情報に基づくものである。 2 消費税の仕入税額控除制度の概要 検討に先立ち、消費税の仕入税額控除制度についてその概要を紹介する(※1)。なお、その他の点も含めた消費税の仕組み全般については、いわゆる税大講本や佐藤英明ほか『スタンダード消費税法〔第2版〕』(弘文堂、2025年)などを参照されたい。 (※1) いわゆるインボイス(適格請求書)の保存などの手続的な要件については割愛する。 (1) 仕入税額控除とは 消費税法は、国内において事業者が行った資産の販売・貸付けやサービス提供(資産の譲渡等)などを消費税の課税対象として定めた上で(同法4条)、それらの取引(厳密には、後述する非課税取引を除いたもの)の対価の額の合計額(課税標準額)に適用税率を乗じ、消費税の額を算出することとしている(同法28条、29条、45条)。 もっとも、そのようにして算出された消費税額を各事業者にそのまま納付させると、生産、流通等の各段階で二重、三重に消費税が課税され、税負担の累積を生じてしまう。そこで、かかる税負担の累積を排除するため、各事業者が納付する消費税額は、上述の課税標準額に対する消費税額から、当該事業者がした課税仕入れに係る消費税額を控除した額とするものとされている(同法30条)。つまり、各事業者は、売上げに係る消費税額と仕入れに係る消費税額の差額のみを納付することとなる。この仕入れに係る消費税額の控除のことを「仕入税額控除」という。 (2) 控除税額の計算方法 上記(1)で述べた考え方からすれば、仕入税額控除により控除すべき税額(控除税額)は、その事業者がした課税仕入れに係る消費税額の合計額をそのまま用いることで良いようにも思われるが、話はそう単純ではない。 その理由は非課税取引の存在である。すなわち、消費税の課税対象(国内において事業者が行った資産の販売・貸付けやサービス提供)に該当する取引であっても、消費税の性格や政策的見地から、例外的に消費税が課されない取引(非課税取引)がある(消費税法6条、別表第2)。そして、法は、この非課税取引に関しては上記(1)で述べた税負担の累積がそもそも生じないとして、非課税取引に対応する課税仕入れには仕入税額控除の適用を認める必要がないとの考え方を採用し、事業者がした課税仕入れを「課税取引(課税資産の譲渡等)に対応する課税仕入れ」と「非課税取引に対応する課税仕入れ」に区分し、前者に区分される課税仕入れに限って仕入税額控除の適用を認めることとしている(本則課税)。 ただし、法は、本則課税を行う場合に事業者に生じる事務負担等を考慮し、簡易な方法による控除税額の計算方法も定めている。 法の具体的な仕組みは以下に図示されたとおりである。 【仕入控除税額の計算方法の区分】 (出典) 税務大学校講本『消費税法(基礎編)令和7年度版』の47頁より抜粋 (3) 個別対応方式による控除税額の計算方法 個別対応方式により控除税額を計算する場合、課税仕入れを以下の3つに区分し、それぞれ以下の税額を控除することになる。この区分のことを一般に「用途区分」という。 なお、消費税の課税対象ではない取引(不課税取引。法人からの受取配当など。)に要する課税仕入れは、共通対応課税仕入れと取り扱うというのが国税庁の見解である(消費税法基本通達11-2-16)。 (4) 課税売上割合と「課税売上割合に準ずる割合」 共通対応課税仕入れの控除税額の計算などに用いられる「課税売上割合」とは、その事業者の全売上に対して課税売上が占める割合のことである(消費税法30条6項、同法施行令48条)。 この課税売上割合を共通対応課税仕入れの控除税額の計算に用いるという意味は、共通対応課税仕入れについては、個々の取引内容にかかわらず、その事業者の全社的な課税売上の割合分だけ課税売上に対応するとみなすものであるということができる。 もっとも、個々の課税仕入れに関する事情によっては、全社的な課税売上の割合を用いて控除税額を計算することが適当とはいえない場合があり得る。例えば、全社的には課税売上の割合が低い事業者(金融機関、不動産事業者など)であっても、特定の事業や部署における課税売上の割合が高い場合がある。その場合にそれらの事業や部署に関して行われた共通対応課税仕入れに係る控除税額を課税売上割合を用いて計算すると、控除税額が経済実態よりも少額となってしまう。 そこで、法は、特定の共通対応課税仕入れについて、課税売上割合に代えて、事業者自身が考案した「課税売上割合に準ずる割合」(以下「準ずる割合」)を用いて控除税額の計算を行うことを認めている(同法30条3項)。ただし、準ずる割合を適用するためには、予め所轄税務署長の承認を得ることが必要とされている(同項2号)。 (続く)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例74】 「海外の保険業を営む子会社へ支払う地震保険再保険料の損金性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、東京都内に本社を置き損害保険業を営む東証プライム市場に上場する株式会社で経理部長を務めております。 保険業界は就職する学生の人気が高く、高給で福利厚生が整っているホワイトな企業といったイメージを持たれがちですが、業界内にいる人間からすると損害保険業界で働くことは決して楽ではないということを強調したいと思います。 そもそも保険というものは、将来起こり得る様々なリスクに備えるため、同じような不安を抱える方から一定の保険料を支払ってもらい、その貯まった金額から将来の支払いに充てるという機能を有するものです。当社も顧客の抱える多様なリスクに備えるため、様々な保険商品を開発し顧客の要望に応えようと努力しておりますが、近年、企業活動のグローバル化や気候変動等により、そのリスクが予想外に多額になることも珍しくなく、当社1社でその支払いに対応するというのは、極めて困難なケースもみられるところです。 そこで、当社1社では抱えきれないリスクに備えるため、従来からある再保険というスキームを活用して、そのような事態に備えようとしております。 さて、わが社の場合、ほぼ毎年税務調査を受けておりますが、今回は再保険について課税庁との間で激しい議論が交わされております。すなわち、国税局の主査は、わが社が引き受け、海外子会社に再保険に出した保険契約につき、再保険料のうち一部は海外子会社を利用した単なる「預け金」に過ぎず、租税回避目的のスキームであるため、損金性はないと主張しております。 わが社としては、契約の解釈上、再保険料を預け金とその他のものとに合理的に区分することなどそもそもできず、主査の主張は課税せんがための無理筋の理屈と反論しておりますが、税法上どのように考えるべきでしょうか、教えてください。 【A】 本件の場合、海外の子会社との間で締結した再保険契約について、その内容を具体的に検討する必要があります。 仮に、当該再保険料が、契約上、保険事故が発生したときのリスクに備えるために全額費消されるのであれば、それ以外の「預け金」としての性格の部分の金額が生じる余地はないことから、全額損金に算入されるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 再保険契約の意義 「再保険」とは、保険会社が引き受けた保険のうち、高額の契約などに関し、保険契約のリスク(高額保険金の支払いリスク)を分散するため、国内外の保険会社(再保険引受会社)と締結する保険契約をいう。保険者が、保険の引受けにより自己が負担するリスクが想定以上となり、損害を被るようなケースに備え、その損害を填補するための保険が再保険であるといえる(※1)。 (※1) 山下友信他『保険法(第3版補訂版)』(有斐閣・2015年)225頁参照。 損害保険の分野でいえば、例えば、巨大タンカーや石油コンビナートのような保険金額の高額な契約を引き受けている場合、ひとたび事故が起こると高額の保険金を支払う可能性がある。また、近年わが国においても現実味が高くなっているが、地震や台風といった大規模な自然災害が発生した場合も、保険金の支払総額が高額となる可能性がある。 このように、損害保険は発生するか否か不確実な災害や事故に対して備えるために締結する契約であることから、それを引き受ける損害保険会社は、このような自社の事業成績を不安定にする要因を常に抱えているといえる。 そこで損害保険会社は、高額の保険金支払いを余儀なくされる場合に、どの程度までの損害であれば経営に影響がないのかを判断した上で、引き受けた保険契約上の責任の一部又は全部を他の保険会社に引き受けてもらう工夫が必要となってくるが、それが再保険契約である。同様の再保険契約の仕組みは、生命保険契約においても採用されている(ただし、この場合、再保険自体は損害保険である(※2))。 (※2) 山下前掲(※1)書225-226頁。 再保険契約の基本的な仕組みは以下の図の通りで、再保険契約の出し手を「出再者」、受け手を「受再者」という。 〇再保険契約の仕組み (2) 支払保険料の損金性 法人税法上、法人の支払う保険料(支払保険料)は、原則として損金に算入される。具体的には、「長期の損害保険契約」以外の保険契約に係る保険料は、全額損金に算入される。ここでいう「長期の損害保険契約」とは、保険期間が3年以上で、かつ、当該保険期間満了後に満期返戻金を支払う旨の定めのある損害保険契約をいうものとされている(法基通9-3-9)。 上記の長期の損害保険契約に係る保険料のうち、損金に算入されない部分の金額が存在する理由は、当該保険料には満期返戻金に充てるための積立保険料が含まれており、貯蓄性のある満期返戻金に対応する積立保険料は、掛捨ての保険料(未経過分を除き全額損金算入)とは性格が異なるためである。 なお、長期の損害保険契約に係る保険料のうち、 とされている(法基通9-3-9)。 (3) 海外の保険業を営む子会社へ支払う地震保険再保険料の損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、海外の保険業を営む子会社へ支払う地震保険再保険料の損金性が争われた事例(東京地裁平成20年11月27日判決・判時2037号22頁、TAINSコード:Z258-11085、ファイナイト(※3)再保険事件)について、以下で確認してみたい。 (※3) “Finite”とは「限られた・限りある」という意味であり、ファイナイト保険は、保険により移転するリスクが「限られる」保険契約であるとされる。具体的には、保険を引き受けることに伴う本来的なリスク(アンダーライティング・リスク)は移転せず、保険金支払いのタイミングに関するリスク(タイミング・リスク)のみ移転するという契約であるとされる。渡辺裕泰『ファイナンス課税(第2版)』(有斐閣・2012年)226-227頁参照。 ① 事案の概要 本件は、損害保険業等を営む原告が、アイルランドに設立されたその海外子会社との間で締結した再保険契約(掛捨型の保険契約で、超過損害再保険契約(Excess of Loss Cover,ELC再保険契約)を指す)に基づき支払った再保険料を損金の額に算入して法人税の確定申告を行ったところ、処分行政庁が、上記再保険料には「預け金」に当たる部分があるとして当該部分を損金の額に算入することを認めず、また、預け金に係る運用収益が益金の額に計上されていないとして更正処分をし、原告が預け金部分を上記再保険契約に基づく再保険料であるかのように装って損金の額に算入し、預け金に係る運用収益を益金の額に計上しなかったことが、国税通則法68条1項所定の「隠蔽」又は「仮装」に当たるとして重加算税賦課決定処分をし、過少申告加算税賦課決定処分をしたことから、原告がこれらの各処分の取消しを求めた事案である。 原告のアイルランド子会社は、再保険会社2社との間で、それぞれアイルランド子会社を出再者、同2社を受再者とし、アイルランド子会社が受再者となった再保険契約で本件ELC再保険契約を再保険の対象とした、ファイナイト(Finite)型再保険契約を締結した。 また、本件ファイナイト再保険契約には、成績勘定残高(Experience Account Balance,EAB)に関する取り決めがあり、アイルランド子会社が支払う再保険料のうち一定部分は、成績勘定残高に積み立てられ、再保険契約が終了したときに、保険事故が想定よりも少なかった場合には、一定の金額がアイルランド子会社に払い戻されることとなっていた。 ② 事案の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 争点2 なお、本件は控訴されたが(東京高裁平成22年5月27日判決・訟月58巻5号2194頁、TAINSコード:Z260-11447)棄却され、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件は、争点1のうち、特にファイナイト再保険契約のEAB繰入額に相当する部分は本来の再保険部分と明確に区分して、単独でその損金該当性を判断するのか、またその場合、その性格は預け金に該当するもの(損金算入不可)なのかについての判断が焦点となった。 課税庁は、実体のないアイルランド子会社を経由してファイナイト再保険契約を締結したことは、専ら「租税回避目的」であり経済的な合理性はないと主張し、その結果上記のような課税関係になると主張したが、裁判所は契約の内容につき詳細に検討した上で、「本件ELC再保険契約及び本件ファイナイト再保険契約等によって原告らが行った法律上の行為には経済的な合理性があり、これらが専ら租税回避等の目的で外形を作出したものにすぎないと認めることは到底できないのであるから、本件においては、原告らが行った法律行為に従った法的効果が生じると解すべき」と判断して、課税庁の主張を斥けている。 そもそも本件において論点となるべき事項は、上記のような租税回避目的の有無という「事実認定」の問題というよりはむしろ、ファイナイト保険のようにリスクの移転が限定的な契約を「保険」とみるべきなのか、仮にそうでないとした場合、課税関係はどのように解するべきなのか、という点であるはずである(※4)が、課税庁がその点について特に主張しなかったため、一審において検討されることはなかった。仮に、課税庁がその点について主張した場合、リスクの移転がない部分については、預け金等の資産勘定の科目となり、損金算入が認められなかった可能性も否定できないところである。 (※4) 渡辺前掲(※3)書230頁もその点につき指摘する。 もっとも、本件控訴審(東京高裁平成22年5月27日判決)においては、「ファイナイト再保険料は保険事故が生じた場合、常に全額が保険リスクを負担する部分とされ、返還されない場合があること」という理由で、「EAB繰入額相当部分(事後調整部分)を預け金と断ずることはできない」としており、いずれにせよ課税庁の主張は認められていないが、保険リスクにかかる課税関係の判断として妥当なのか、特に、ファイナイト再保険料が常にその全額が保険リスクを負担する部分とされているという点(ファイナイト保険の法的性格)については、さらなる検討が必要ではないかと考えるところである。 (4) 本件へのあてはめ 本件の場合、海外の子会社との間で締結した再保険契約について、その内容を具体的に検討する必要があるが、仮に、当該再保険料が、契約上、保険事故が発生したときのリスクに備えるために全額費消されるのであれば、それ以外の「預け金」としての性格の部分の金額が生じる余地はないことから、全額損金に算入されるものと考えられる。 (了)