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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第39回】「法人税法にいう『法人』概念(その3)」~株主集合体説について考える~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第39回】 「法人税法にいう『法人』概念(その3)」 ~株主集合体説について考える~   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 (2) 判決の要旨 (イ) 大阪地裁判決 大阪地裁平成22年12月17日判決(判時2126号28頁)は、実体法的観点から法人該当性を以下の2つの基準で判断すべき旨説示している。 同地裁はこれのみではなく、手続法的観点からも法人該当性を判断すべきとして、次の3つ目の判断基準を示した。 その理由は、実体法上権利義務の帰属主体となることができる者は当然に訴訟上の当事者能力を有するということができるからである(民事訴訟法28条参照)。 この判断は、Yの主張に沿ったものであった。結論として、Yの主張を採用し、納税者敗訴となっている。 (ロ) 大阪高裁判決 この事件は控訴され、控訴審大阪高裁平成25年4月25日判決(税資263号順号12208)では、Yが主張した基準である上記①ないし③に対して、否定的な態度が示された。 このように説示し、さらに、Yの主張する基準①ないし③は、任意組合や人格のない社団等についても該当し得るため、これら基準は法人と法人でない団体(事業体)とを区別する基準として機能し得ないとし、原審におけるYの判断基準を採用することはできないとした。 そこで、大阪高裁は、法人該当性について次のように論じた。 により判断し、さらに そして、法人該当性については次の4つの観点から判断すべきであると論じたのである。 これらを本件に当てはめると、次のとおりとなる。 その上で、次のように論じて、本件LPSの法人該当性を肯定している。   4 LPS事件の検討 (1) 参考となる最高裁判決 上記LPS事件で議論されたのは、米国で組成されたLPSが我が国所得税法上の「法人」に該当するか否かという問題である。この事件は、第一審及び控訴審のいずれにおいても、X(納税者側)がした本件LPSの法人該当性を否定する主張に与せず、その理論構成自体は異なるものの、法人該当性を肯定している。 すなわち、結論としては、本件LPSは我が国租税法上の「法人」に該当するため、本件LPSの営む不動産賃貸事業から生じた損失は、本件LPSをパススルーしてXらに帰属するものとはいえず、その損失の金額をもってXらの他の所得と損益通算することはできないとしたものである。 この事件は、現在、X側が上告受理申立てをしており、最高裁での判断が注目されているところである。 ところで、いわゆるLPS事件と称される事案は、上記に紹介した大阪地裁・大阪高裁のものだけではない。すでに類似事案において、最高裁判決が示されているので、これも確認することとしよう。 最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決(民集69巻5号1253頁)は、次のように判断して、LPSの法人該当性を肯定している。 まず、最高裁は、外国法に基づいて設立された組織体のうち、法人に「租税負担を負担させることが相当であると認められるものを外国法人」として自然人以外の納税義務者とすると論じる。 その上で、所得税法上の「外国法人」に該当するか否かは、 としている。 そして、どのようにして、納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を判断するかについて、我が国の租税法上の法人概念は民法上の法人概念に依拠していることを前提とし、次のように権利義務の帰属主体となるか否かで判断することが相当であると説明するのである。 他面、設立の根拠法となった外国法の規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているかどうかについて明白性が認められるのであれば、それらを基準として考えることもできるというのである。 これらの説示から、次の2段階の基準で法人該当性を判断すべきであるとし、まず、 とし、次に、それができない場合に、当該組織体の属性に係る観点の検討として、 というのである。 このような判断基準に従うことになるが、結局のところ、 と判示する。 結論的には、州LPS法やデラウェア州一般会社法をみても、対象となるLPSが、日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難いとする。 すなわち、上記①の基準では結論付けることができないというのである。 そこで、本件各LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かという上記②の基準について検討を行い、 とし、 と説示した。 (続く)

#No. 160(掲載号)
#酒井 克彦
2016/03/10

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第10回】「創設規定と確認規定④」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第10回】 「創設規定と確認規定④」   公認会計士 佐藤 信祐   前回では、最高裁昭和45年7月16日判決の解説を行った。本稿では、広島高裁昭和43年3月27日判決の解説を行うこととする。 本判決は、役員からの貸付金に対する過大な利息の支払いが損金の額に算入することが認められるか否かについて争われた事件であるが、現在であれば、同族会社等の行為計算の否認によらずに否認されるべきものである。   (5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712) ① 控訴審 ② 評釈 このように、広島高裁は、被告である課税庁の主張を認め、銀行からの借入金利を上回る部分の金額につき、過大役員報酬または役員賞与として損金の額に算入することができないものとした。 また、判決文を見てみると、同族会社等の行為計算の否認規定を用いたに等しい否認がなされていることが分かる。これは、【第5回】で解説したように、昭和25年に改正された法人税基本通達にて、株主、社員に特に多額の利子又は賃借料を支払った場合には、同族会社等の行為計算の否認が適用されることが明らかにされているため、課税庁もこれを根拠として否認を行ったものと考えられる。しかしながら、控訴人の主張にあるように、同族会社ではないことから、同族会社等の行為計算の否認を適用することができないため、直接に本規定の適用を争った事件ではない。そのため、傍論ではあるものの、同族会社等の行為計算の否認のような条文がないからといって、「経済的合理性を無視した不自然な行為計算をとることにより、法人税を回避軽減したこととなるような場合に、その行為計算の否認が許されないと解すべき理由はない」という判旨に繋がっていったと考えられる。 このように、本判決は、同族会社等の行為計算の否認と実質主義を明確に区分できておらず、実質主義の用語そのものもかなり曖昧であった時代のものであるということができる。本事件のように、実質主義の適用により、過大な利息を役員報酬又は役員賞与であるとみなすというのは、明文の規定がなくても容認されるべき範疇ではなかろうか。この点につき、現行法人税法34条4項では、「前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。」として明文化を図っているが、本規定を確認規定とみることも可能であると思われるし、学術的にはともかくとして、実務的には、そのように考える実務家も少なくないと思われる。 さらに、神戸地裁昭和45年7月7日判決(訟月16巻12号1513頁)、東京地裁昭和46年3月30日判決(TAINSコード:Z062-2710)でも同様の争いがなされているが、とりわけ、東京地裁昭和46年3月30日判決にて、 と判示されている。 このように、本稿で紹介した広島高裁昭和43年3月27日判決においても、本来であれば、事実認定により処理されるべき内容であったということが言えることから、同族会社等の行為計算の否認が創設規定なのか、確認規定なのかを判断したものではないと考えられる。 次回は、最高裁昭和54年9月20日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 160(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/03/10

特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い ~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第2回】「欠損等法人の特定資産の譲渡等損失額の損金算入制限の取扱い・欠損等法人が組織再編を行う場合の取扱い」

特定株主等によって支配された欠損等法人の 欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い ~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第2回】 「欠損等法人の特定資産の譲渡等損失額の損金算入制限の取扱い・ 欠損等法人が組織再編を行う場合の取扱い」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   3 欠損等法人の特定資産の譲渡等損失額の損金算入制限の取扱い 欠損等法人については、繰越欠損金の使用制限だけではなく、特定資産の譲渡等損失額の損金算入制限も適用されることとなる。その点、組織再編税制と同様の仕組みとなっている。 具体的には、欠損等法人が特定事由に該当することとなった場合、その該当することとなった日の属する事業年度(適用事業年度)開始の日から同日以後3年を経過する日(その経過する日が特定支配日以後5年を経過する日後となる場合にあっては、同日)までの適用期間(注1)において生ずる特定資産(注2)の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由(譲渡等特定事由)(注3)による損失の額(注4)は、欠損等法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入できないこととなる(法法60の3①)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (注1) その期間に終了する各事業年度において、連結納税の開始又は加入に伴う時価評価(法法61の11①、61の12①)、非適格株式交換又は非適格株式移転の時価評価(法法62の9①)の適用を受ける場合は、適用事業年度の開始の日からこれらの時価評価の適用を受ける事業年度終了の日までの期間とする。 (注2) 特定資産とは、欠損等法人が特定支配日において有する次に掲げる資産をいう(法法60の3①、法令118の3①)。ただし、含み損益の金額が特定支配日における欠損等法人の資本金等の額の2分の1に相当する金額と1,000万円とのいずれか少ない金額に満たないものは、特定資産から除かれる(法令118の3①)。 ● 固定資産 ● 土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く) ● 有価証券(売買目的有価証券(法法61の3①一)及び償還有価証券(法令119の14)を除く) ● 金銭債権 ● 繰延資産 ● 譲渡損益調整資産に係る譲渡損失額に相当する調整勘定に係る資産(法令122の14⑬) ● 資産調整勘定(法法62の8①) また、欠損等法人が適用事業年度の開始の日以後に行われる次に掲げる適格組織再編により移転を受けた資産(上記の資産に限る。非適格合併の場合は、譲渡損益の繰延べ規定(法法61の13①)の適用がある資産に限る)は特定資産に含まれる(法法60の3①、法令118の3①)。この場合、含み損益の金額の判定は、組織編成日を基準に判定する(法法60の3①、法令118の3①)。 ● 欠損等法人に係る他の者を分割法人、現物出資法人とする適格分割、適格現物出資 ● 関連者(当該他の者との間に当該他の者による特定支配関係がある者)を被合併法人、分割法人、現物出資法人、現物分配法人とする適格組織再編(適格合併、譲渡損益の繰延べ規定(法法61の13①)の適用がある非適格合併、適格分割、適格現物出資、適格現物分配) (注3) 連結納税の開始又は加入に伴う時価評価(法法61の11①、61の12①)、非適格株式交換又は非適格株式移転の時価評価(法法62の9①)による評価損等は、損金不算入の対象となる損失の額に含まれる(法令118の3②)。 (注4) 譲渡等特定事由が生じた日の属する事業年度の適用期間において生ずる特定資産の譲渡又は評価換えによる利益の額がある場合には、当該利益の額を控除した金額とする。   4 欠損等法人が組織再編を行う場合の取扱い 欠損等法人が特定事由に該当することとなった日(該当日)以後に組織再編を行う場合は、次のような取扱いとなる(法法57の2②③⑤、法令113の2[21項])。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます (※1) 「合併法人等」とは、合併法人、分割承継法人、被現物出資法人、被現物分配法人、残余財産確定法人の株主とする。 (※2) 「被合併法人等」とは、被合併法人、分割法人、現物出資法人、現物分配法人、残余財産確定法人とする。 (※3) 「適格分割等」とは、適格分割、適格現物出資、適格現物分配、譲渡損益の繰延べ規定(法法61の13①)の適用がある非適格合併とする。 なお、欠損等法人が、特定資産の譲渡等損失額の損金算入制限が適用される適用期間内に、自己を被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人とする適格組織再編によりその有する特定資産(【第1回】2①(注5)で定める評価損資産に該当するものに限る)を適格組織再編に係る合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人(合併法人等)に移転した場合には、合併法人等を欠損等法人とみなして、特定資産の譲渡等損失額の損金算入制限の規定を適用する(法法60の3②、法令118の3③)。 *   *   * 次回以降では、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の取扱いについて、実務上、その適用が検討されるようなケースを紹介したい。 (了)

#No. 160(掲載号)
#足立 好幸
2016/03/10

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第23回】「金銭又は有価証券の受取書④(相殺等に係る領収書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第23回】 「金銭又は有価証券の受取書④(相殺等に係る領収書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   取引先との間で、売掛金を自己の買掛金と相殺する場合があります。この場合、領収書を作成し相手方に交付しますが、金銭の受取書に該当しますか。 また、売掛金の一部を前金で受け取った後、残金を領収する場合に交付する領収書の取扱いはどうなりますか。 【事例1】 売掛金と買掛金の同額を相殺 【事例2】 当社売掛金の一部を相殺 【事例3】 内金を受領している旨の記載あり 【事例4】 相殺あるいは内金があるものの、文書にその旨の記載なし   【事例1】は「領収書」という文言があるものの、金銭の受領事実を証明するものではないため、第17号文書(金銭の受取書)には該当しない。 【事例2】は3,000,000円のうち、相殺分の2,000,000円は金銭を受領しているものではないため、記載金額には含めず、記載金額1,000,000円の第17号文書(金銭の受取書)に該当する。 【事例3】は3,000,000円のうち、既に受領済みの内金2,000,000円を引いた1,000,000円が第17号文書(金銭の受取書)の記載金額となる。 【事例4】は相殺あるいは内金が発生していたとしても、文書上にその旨の記載がないため、記載金額3,000,000円の第17号文書(金銭の受取書)に該当する。   [検討1]  金銭又は有価証券の受取書とは 第17号文書の金銭又は有価証券の受取書とは、金銭又は有価証券の引渡しを受けた者が、その受領事実を証明するため作成し、その引渡者に交付する単なる証拠証書をいう(基通第17号文書の1)。 文書の表題、形式がどのようなものであっても、また「相済」、「完了」等の簡略な文言を用いたものであっても、その作成目的が当事者間で金銭又は有価証券の受領事実を証するものであるときは、第17号文書に該当する。 [検討2] 相殺に係る文書の取扱い 売掛金等と買掛金等とを相殺する場合において作成する領収書等と表示した文書で、当該文書に相殺による旨を明示しているものについては、第17号文書(金銭の受取書)に該当しないものとして取り扱う。 また、金銭又は有価証券の受取書に相殺に係る金額を含めて記載してあるものについては、当該文書の記載事項により相殺に係るものであることが明らかにされている金額は、記載金額として取り扱わないものとする(基通第17号文書の20)。   ▷ まとめ (了)

#No. 160(掲載号)
#山端 美德
2016/03/10

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第9回】「生命保険年金二重課税事件」~最判平成22年7月6日(民集64巻5号1277頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第9回】 「生命保険年金二重課税事件」 ~最判平成22年7月6日(民集64巻5号1277頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 160(掲載号)
#菊田 雅裕
2016/03/10

平成28年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】「金融庁の平成26年度有価証券報告書レビューの審査結果」

平成28年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回) 「金融庁の平成26年度有価証券報告書レビューの審査結果」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   平成27年11月20日に「平成26年度有価証券報告書レビューの重点テーマ審査及び情報等活用審査の実施結果について(以下、「レビュー」という)」が公表されている。 レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の平成28年3月期決算においても参考となる箇所がある。そのため、ここでは、平成26年度有価証券報告書レビューの重点テーマ審査及び情報等活用審査の実施結果について解説する。   1 退職給付 退職給付の開示について、以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー3.(1))。   2 企業結合及び事業分離等 企業結合及び事業分離等について、以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー3.(2))。   3 固定資産の減損 固定資産の減損について、以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー3.(3))。ここの記載のすべては、上場会社及び非上場会社の両方とも留意する必要がある。   4 その他 その他に以下のような事例が確認され、また、留意点が挙げられている(レビュー3.(4))。 (連載了)

#No. 160(掲載号)
#西田 友洋
2016/03/10

『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針』の要点・留意点 【第5回】「適用指針の適用時期に関するポイント」

『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針』の 要点・留意点 【第5回】 (最終回) 「適用指針の適用時期に関するポイント」   公認会計士 阿部 光成   今回は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号。以下「適用指針」という)における企業の適用時期について解説する。 適用指針の公表に際して、「企業会計基準適用指針公開草案第54号『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』の主なコメントの概要とそれらに対する対応」も公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   ◆適用時期の定めと主な留意点 適用指針49項では適用時期等について規定している。 (連載了)

#No. 160(掲載号)
#阿部 光成
2016/03/10

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第11回】「数字のケタ表示ミスを見落としていないか」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第11回】 「数字のケタ表示ミスを見落としていないか」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例11-1】 数字の表示単位を間違えている科目がある。 一見もっともらしく見える連結損益計算書ですが、誤りが1ヶ所あります。どこだかわかりますか。 ヒントを出しましょう。数字のケタが多すぎる項目がないか、注意してみてください。   2 百万円単位のPLに千円単位の金額を記入してしまった では、答えを見てみましょう。 間違っていたのは「法人税等調整額」の数字でした。 丸で囲んで示したとおり、正解では正しい数字「78」となっていますが、さきほどの【事例11-1】では「78,134」という数字が表示されていました。 「法人税等調整額」のすぐ上の「法人税、住民税及び事業税 4,298」と合計した結果が「4,376」にならなければいけないので、「78,134」は「78」であるとわかります。 おそらく「78,134」は、法人税等調整額の千円単位の金額なのでしょう。   3 これはアップデート・ミス このミスが起きた原因は何でしょうか。単なる転記ミスでしょうか。 こうしたミスに理由などないのかもしれませんが、少し考えてみると思い当たることがあります。 ミスが起きた「法人税等調整額」という科目は、税効果会計に関する勘定科目です。税効果というのは、決算作業の中で最後まで数字が決まらない事項です。税効果の計算自体に間違いがない場合でも、他の項目で何らかの修正仕訳が入ると、それに連動して税効果の数値を動かさなければならないことも多いのです。 計算書類の作成作業では、仮締めの決算数値で決算書のフォームに入力し、その後に変更された数値については個別にアップデートしていくということが実務ではよく行われています。 このアップデートの対象になりやすい項目の1つが、最後まで数字が固まらない「法人税等調整額」というわけです。 アップデート作業にはミスがつきものです。最も多いミスは、「アップデートしなければならない項目をアップデートし忘れる」というものです。 計算書類の作成作業では、数字等が1ヶ所変更になるとそれに連動して他にも変更すべき項目が複数出てくるということがよくあります。そんな場合、すべての要修正箇所をもれなく修正対応できるかというと、これがなかなか難しい。4ヶ所のうち3ヶ所はアップデートしたけれど、1ヶ所は直し忘れていたということはよくあります。 そのようなミスを筆者は「アップデート・ミス」と呼んでいます。 【事例11-1】のミスはアップデート時の修正漏れではありませんが、決算作業の終盤でアップデートの必要が生じ、慌てて数字を直した際にケタを間違えてしまった可能性が高いでしょう。広い意味でのアップデート・ミスです。 しかも、PLの場合、一番右端の列はよく見ますが、その左隣の「内訳を記載する列」は見ているようで見ていないということがありがちです。そのため間違っていても気づかないのですが、最終稿での計算チェックなどでこうしたミスを見つけるようにしたいものです。   4 類似事例の紹介 「数字のケタ表示を間違える」というミスは、【事例11-1】以外にもよくあることです。【事例11-1】はよく見れば気がつくレベルのミスでしたが、中にはどんなに見ていても気がつかないようなミスもあります。それは次のようなものです。 【事例11-2】 注記に記載された金額の表示単位が決算書の表示単位と異なっている。 上の事例は、丸で囲んだ「27百万円」というところが間違いです。 ところがこの注記文章をどんなに注意深く読んだとしても、この間違いには気づきません。 この文章自体は間違っていないからです。 これが間違いだと気がつくのは、この会社の決算書本体との整合性をチェックしたときです。以下のとおりです。 決算書本体は千円単位で作成されており、【事例11-2】で「27百万円」と記述されていた影響額も、「△27,710」と千円単位で載っています。おそらく注記のほうは、標準文例か他社の事例を丸写しして使ったのではないでしょうか。内容的には合っていますが、この会社の決算書とは単位が違ってしまったというわけです。 注記と決算書本体の金額単位を一致させなければいけないという規定はありませんが、ここはやはり一体をなすものである以上、そろえておくべきです。   〈今回のまとめ〉 数字のケタ間違いはよく起こります。最終稿での計算チェックや書類間での整合性チェックなどで、そうしたミスを見つけるようにしましょう。 (了)

#No. 160(掲載号)
#石王丸 周夫
2016/03/10

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第43回】ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社「独立調査委員会報告書(平成27年11月6日、12月8日及び18日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第43回】 ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社 「独立調査委員会報告書(平成27年11月6日、12月8日及び18日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【独立調査委員会の概要】   【ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社の概要】 ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社(以下「JFLA」と略称する)は、明治29年設立の若林合名会社(後に若林酒類販売株式会社から忠勇株式会社へと社名変更)と明治40年設立の丸金醤油株式会社が、2000(平成12)年4月に合併してマルキン忠勇株式会社と社名変更を行った後、持株会社化(平成18年2月)した。連結子会社において、食品類・酒類の製造販売事業及び輸入食品・酒類の販売事業を行っている。連結売上高24,425百万円、包括利益288百万円。従業員数557名(数字はいずれも平成27年9月期)。本店所在地、香川県小豆郡小豆島町。東京証券取引所二部上場。   【第1次調査報告書のポイント】 1 会計監査人による疑義の指摘 JFLAの会計監査人である栄監査法人は、平成27年9月期の監査の過程で、代表取締役会長盛田英夫氏(以下「盛田会長」と略称する)の経費支出について使途不明分が判明したこと、盛田会長が実質的に支配する法人に対する貸付金の回収処理の妥当性、盛田会長と一定の関係がある個人・法人に対する業務委託料の金額の合理性について疑義があることから、7月30日、外部調査が必要であることをJFLA役員に告知した。 これを受けてJFLAは、独立調査委員会を設置して、事実関係等の調査分析及びこれに対する法的評価を委嘱、10月15日付で調査報告書(以下「第1次報告書」と略称する)を受領した。 2 第1次報告書が認定した事実 (1) 盛田会長が実質的に支配する法人に対する貸付金の回収処理(第1次報告書p.11以下) JFLAはモリタフードサービス株式会社(以下「MFS」と略称する)への貸付債権227百万円について全額貸倒引当金を設定している(実質的に回収不能と判断)。MFSは盛田会長が実質的に支配する法人であり、2012年10月に事業の一部譲渡を行い、譲渡対価330百万円を得ている。が、これをJFLAからの貸付金弁済に充当するのではなく、盛田会長が代表取締役を務めている盛田アセットマネジメント株式会社(以下「MAM」と略称する)への貸付金に充てたため、返済ができない状況になっている。 こうした事実関係から、独立委員会は次のように結論づけた。 (2) 業務委託料の支払の問題(第1次報告書p.12以下) 盛田会長を一定の関係を有する者に対する業務委託料の支払いに関し、独立調査委員会は、「疑念を差し挟む余地がある」としながらも、「法的に見て著しく不当、違法であると断定する」には足りない、あるいは、「取締役としての忠実義務違反を認めるまでには至っていない」としている。 (3) 交通費の支払の問題(第1次報告書p.14以下) 盛田会長が使用したJRエクスプレスカードの使用履歴において、JRの回数券と思われる購入履歴235万6,000円分が記録されているが、盛田会長の説明からは、業務関連性、業務上の必要性は必ずしも明らかではない。 そこで、独立調査委員会は次のように結論づけた。 盛田会長も、「経費として取り扱うことが不適切なものについては自己負担する旨明言」しているということである。 3 原因分析(第1次報告書p.17) 独立調査委員会はJFLAの特殊性について、次のように説明する。 そして、「当主意識」の結果、盛田会長は、上場会社の代表者として有すべき株主に対する責任感や基本的な規範意識が欠如し、古くからの知己や血縁関係者で固められた取締役会は、当社の利益と会長ないし一族の利益が相反する状況において、「当社の利益を優先すべきである旨、会長に意見を言うことなど期待できない状況にあったことが容易に推察される」として、体制を抜本的に変えない限り、「当主意識」の払拭を完全になしえないことが明白である、と締め括っている。   【第2次調査報告書のポイント】 1 金融商品取引法第193条の3 (1) 栄監査法人による「法令等違反事実の通知」 11月6日リリースには「別紙1」として、「金融商品取引法第193条の3第1項の規定による財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある法令等違反事実の通知」が添附されている。 これは、第1次報告書を受けて、「初期的調査のほか類似案件の存否も含め、速やかに事実関係を調査すること」を求める趣旨のものであり、適切な措置がとられなければ、法令等違反の事実を内閣総理大臣(金融庁長官)に申し出るという内容のものであった。 (2) 金融商品取引法第193条の3とは (※) 一部括弧書き等を省略している。 これを受けて、JFLAは、追加調査の必要性を認め、第1次独立調査委員会の委員に2人の公認会計士を加えて、第2次独立調査委員会を設置し、調査を行うことを、同日付のリリースにおいて発表している。 2 第2次報告書が認定した事実 (1) 業務委託契約に基づく委託料(第2次報告書p.21) 第1次独立調査委員会は、業務委託料について、「法的に見て著しく不当、違法であると断定する」には足りない、あるいは、「取締役としての忠実義務違反を認めるまでには至っていない」として判断を留保していた。これに対し、第2次独立調査委員会は、調査の過程において、業務委託の実態がなかったことが判明したと判断し、業務委託料を認識するのは不適切であると結論づけた。 (2) 盛田会長関連取引(第2次報告書p.22) 第1次報告書で指摘されたJRエクスプレスカードによる経費以外にも、コーポレートカードの使用実績、中元歳暮関連費、海外渡航費の中に「会社経費としての蓋然性に疑念を持たざるを得ない」と評されるものが含まれていたり、支出に疑義のある飲食店の掛払いがあったりと、「業務関連性が疑わしい取引が散見された」ことから、報告書に記載のないものも含めて、調査委員会からJFLAの社外監査役へ報告されたことが明記されている。 3 諮問委員会による意見 12月8日付リリースは、第2次報告書を受領したことを受けての再発防止策の策定が公表されているが、それと並行して、「新経営体制への移行」として、以下の施策が示されている。 なお、JFLAは、新役員の人選にあたって、諮問委員会を設置し、その意見を求めており、同日付のリリースには、諮問委員会の結論として、取締役候補者全員について、「独立性の確保」「会社法に定める監視監督機能等の取締役としての職務を遂行できる」という意見が、添附されている。 これを受けて、同じ12月8日付の別リリースで、盛田会長が代表取締役及び取締役を辞任すること、他の代表取締役2名(社長及び副社長)も定時株主総会終結の時をもって退任し、社外監査役を除く経営陣を一新することが公表されている。   【第3次調査報告書のポイント】 1 第3次調査が行われることとなった経緯 第2次報告書の公表に先立つ12月4日、JFLAは、「独立調査委員会からの追加調査報告書の受領の延期、並びに平成27年9月期決算短信の公表の再延期及び平成27年9月期(第79回)定時株主総会の開催の延期の決定等に関するお知らせ」というリリースを出した。その中で、「平成27年9月期決算の監査において検証する必要がある事項の指摘」として、以下の事実を公表している。 2 第3次調査報告書が認定した事実 (1) 2014年9月以降の拡売費の過少見積 第3次独立調査委員会によるヒアリングの結果、盛田株式会社では、2014年9月末以降、四半期末ごとに、拡売費について2,000万円から3,000万円の減額修正を行うよう、JFLAの社長、副社長及び子会社である盛田株式会社の社長によって指示が行われたことが判明した。 (2) 目的及び理由 JFLA社長は、過少見積の理由について、「盛田(株)において拡売費を調整することにより経常利益を確保して、金融機関の信頼を維持すること」が目的であったと説明しているとのことで、これを受けて、調査委員会は、「経営陣としては業績達成の必要性を強く感じていた」としている。   【再発防止策の概要】 JFLAが12月8日付リリースで公表した再発防止策の概要は以下のとおりである。 第1次報告書以降、独立調査委員会が今回の不正の原因としてきた「当主意識」については、2月23日に開催された定時株主総会の決議によって、監査等委員会設置会社への移行と新経営体制が発足したことで、一応の解決を見たと言えよう。 (了)

#No. 160(掲載号)
#米澤 勝
2016/03/10

[子会社不祥事を未然に防ぐ]グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第11回】「グループ企業への具体的な関与(その5)」~グループ内部通報が親会社を救う~

[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第11回】 「グループ企業への具体的な関与(その5)」 ~グループ内部通報が親会社を救う~   弁護士 遠藤 元一   1 不正に気づく可能性が最も高いのは「不正が行われている現場」である 筆者は以前、非上場ではあるがその業界では比較的大手企業の子会社の役職員から、当該子会社で不審な取引が繰り返されているという匿名の内部通報を受けたことがある。 通報に基づき親会社のコンプライアンス部門の役職員と連携して通報のあった子会社を調査したところ、子会社のトップが地場の取引先企業からキックバックを受けている可能性が極めて強いという事実が明らかとなった。 この不正取引は、親会社の取締役がかつてその子会社のトップを長年務めていた時代から始まり、子会社のトップが変わっても引き継がれ、交替した子会社のトップはキックバックで還流を受けた金銭の全部又は一部を親会社の取締役に渡していたらしいことも判明した。 調査では、取引先企業から金銭が還流されたことや子会社トップと親会社の取締役との金銭授受を裏づける決定的な証拠は見当たらず、キックバックの当事者との疑いがある取引先企業の役員も、子会社のトップ及び親会社の取締役とも、ヒアリングではキックバックの事実を否認したが、様々な状況証拠から、調査報告書では「キックバックが行われ子会社のトップや親会社の取締役が関与していた可能性が強く疑われる」と記載して親会社に提出し、子会社トップ及び親会社の取締役は、それ相応の責任が問われ、処分が行われた。 上記の通報は、親会社から子会社に出向となり、勤務を始めてしばらくして異常な取引の存在に気づいた役職員からのものであった。しかし、当該子会社の役職員全員に(子会社トップにも、初回のヒアリングではトップに嫌疑があることを知らせないまま)ヒアリングしたところ、通報者以外の役職員も、その地場の企業との取引は子会社トップのみが関与する案件であり、通常の取引ルートとは異なる証票類が使用される等の異例な点があり、何か不正があるのではないかということを認識しつつも沈黙を保っていたことが明らかとなった。 そして、これらの聴取書は、キックバックを疑わせる間接的な証憑類とともに子会社トップ及び親会社取締役が不正に加担していたことが強く疑われるとの事実を認定する際の有力な証拠となった。 やはり不正を最も認知できるのは、不正が行われている、まさにその現場の役職員なのである。   2 グループ会社を含めた内部通報制度の構築・運用の重要性 周知のとおり「内部通報制度」は、早い段階で不正の芽を摘み、不正のインセンティブを減殺する役割を果たすリスクコントロールの有用な手法として、またコンプライアンス経営を実現するインフラツールとして極めて重要な制度である。 内部通報制度については、金融商品取引法適用会社では金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(2011年3月30日改訂)Ⅰ2(4)③において言及がある。また、金融商品取引所ルールに組み込まれた「コーポレートガバナンス・コード」原則2-5では内部通報制度の充実を図るとされている。 しかし、金商法適用会社であるか否かにかかわらず、グループ会社の頂点に立つ親会社にとって、グループ会社で法令違反のおそれや規制当局による指導・勧告等の措置が行われるリスクが顕在化する前に、親会社主導で適切な対応を講じることができるよう、グループ会社を対象とした内部通報制度を構築・運用することは重要な課題であろう。   3 通報件数が多いからといって通報制度が有効に機能しているとは限らない では実際に、内部通報制度はどの程度活用されているのだろうか。 既に内部通報制度が導入されている企業においては相当の割合になると想定されるが、実際に内部通報制度が有効に機能している企業ばかりとは限らない。 一件も通報がないことが、コンプライアンス違反やそのリスクがないことを意味しているわけではなく、通報制度の重要性が役職員に浸透していない可能性や、重要性は理解していても報復等を恐れて通報しない可能性も否定できない。 したがって、「不正が行われていない」と安心するのではなく、むしろ「内部通報制度が機能していない可能性がある」ことに留意する必要がある。 また逆に、通報件数が多いからといって内部通報制度が有効に機能していると楽観視するには慎重さが必要である。 東洋経済オンラインの2015年8月8日付の記事(「初公開!『内部通報が多い』100社ランキング」)によると、内部通報件数を開示している会社約470社のうち、東芝は30位以内にランクインされているとの集計結果であり、一見すると内部通報制度が有効に機能しているようにみえる。しかし、東芝で発覚した会計不祥事について2015年7月21日に公表された同社の第三者委員会調査報告書では、同会計不祥事では内部通報がなされなかったことが明らかになっている。これらの事実から、同社の内部通報が必ずしも有効に機能していたとはいえないように思われる。   4 有効に機能する内部通報制度の構築を目指して 企業不祥事が生じた場合、いかに自浄作用を発揮して早期に抜本的な対応ができるかが、その後の不祥事の命運を左右する。 そこで、パワハラ、処遇の不満等についての通報だけでなく、会社の屋台骨を揺るがすような不祥事が発生したときに、わが社の現在の内部通報制度で通報が行われるように機能しているかという観点から見直しを行う必要がある。 つまり、役職員が自発的・積極的に、不正に関わる情報を通報しやすくなるような、また、通報者の立場・利益が確実に擁護され、通報のモチベーションが担保されるような制度として設計され、構築・運用されることが肝要と考えられる。 グループ会社からの通報制度の制度設計に即して、具体的に考えると次のように、検討を要する多様な論点がある。 さらに、親会社とグループ会社の内部監査部門同士、監査役等同士が定期的に交流を図り協同・連携を図ることや、監査人との連携を図ることも有用である。 最後に、経営トップが企業価値の維持存続のために会社の不祥事を根絶させる機能を果たす内部通報制度が重要であることを理解・認識し、役職員に浸透させようと努力・伝達することも欠かせない。 (了)

#No. 160(掲載号)
#遠藤 元一
2016/03/10
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