金融商品会計を学ぶ 【第26回】 「ヘッジ会計⑦」 公認会計士 阿部 光成 引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 連結会社間取引のヘッジ 連結会社間取引をヘッジ対象として個別財務諸表上繰延処理されたヘッジ手段に係る損益又は評価差額については、連結上、修正を行い、ヘッジ関係がなかったものとみなして当期の純損益として処理することになる(金融商品実務指針163項)。 連結会社間取引をヘッジ対象として、ヘッジ会計を適用した場合、親会社又は子会社の個別財務諸表上は、両者に有効なヘッジ関係が成立していればヘッジ会計の適用が可能である。 連結財務諸表上は、当該取引は内部取引として消去されることとなり、ヘッジ対象となるリスクも存在しないこととなるので、個別財務諸表上認識された繰延ヘッジ損益は、連結財務諸表上、ヘッジ会計の適用がないものとして取り扱われ、連結決算手続において当期の純損益に振り戻すこととなる(金融商品実務指針333項)。 ただし、次の事項に注意する(金融商品実務指針163項、333項)。 連結会社間で行っているデリバティブ取引が、個別財務諸表上でヘッジ手段として指定されている場合、連結上は当該デリバティブ取引を消去し、ヘッジ関係がなかったものとして処理する(金融商品実務指針164項、333項)。 ただし、次の事項に注意する(金融商品実務指針164項、333項)。 Ⅱ デリバティブ取引以外のヘッジ手段 デリバティブ取引以外のヘッジ手段としては、次のいずれかのみについてヘッジ会計の適用を認めるとし、限定的な取扱いが規定されている(金融商品実務指針165項、334項)。 Ⅲ 売建オプションによるヘッジ 売建オプション(買建オプションとの相殺の結果、売り持ちとなる場合を含む)は、損失削減の効果がオプション料の範囲に限定されているため、リスクの有効な減殺とはいえないので、ヘッジ手段とは認められていない(金融商品実務指針166項、335項)。 ただし、次の事項に注意する(金融商品実務指針166項、335項)。 Ⅳ 外貨建取引に係るヘッジ 決算日レートで換算される外貨建金銭債権債務及び外貨建有価証券について、為替予約等(通貨オプション、通貨スワップ等を含む)により為替変動リスクのヘッジを行った場合、「外貨建取引等会計処理基準」の規定により、次のいずれかの方法で処理する(金融商品実務指針167項、336項)。 振当処理が認められるのは「当分の間」とされており、ヘッジ会計の要件を満たすことが適用の条件となっている(「外貨建取引等会計処理基準」注解6、「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第4号))。 Ⅴ 外貨による予定取引の為替リスクのヘッジ 外貨による予定取引についての為替変動リスクのヘッジは、金融商品会計基準に従って処理し、ヘッジ会計の要件を満たす場合にはヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰延ヘッジ損益として繰り延べる(金融商品実務指針169項、174項、337項)。 ただし、次の事項に注意する(金融商品実務指針169項、337項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第120回】 引当金の会計処理⑥ 「投資損失引当金」 仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:百万円) (X1年3月決算時) ① 子会社設立に係る当社の仕訳 ② 子会社設立に係るA社の仕訳 ③ 連結仕訳 (X2年3月決算時) ④ A社に対する投資に係る引当金の計上(当社の仕訳) ⑤ 連結仕訳 (X3年3月決算時) ⑥ A社株式の減損処理及び投資損失引当金の取崩し(当社の仕訳) ⑦ 連結仕訳 〈会計処理の解説〉 (1) 非上場子会社等に対する投資に係る減損処理 子会社等に対する投資は、通常はグループの事業戦略や事業拡大等の理由により実施され、投資額を上回るリターンが期待されています。しかしながら、特に新規ビジネスの開拓等においては損失計上が先行する例も多く見受けられます。 現行の「金融商品に関する会計基準」や「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品に関する会計基準等」という)においては、非上場株式等の時価を把握することが極めて困難と認められる株式の減損処理については、少なくとも株式の実質価額が取得価額に比べて50%程度以上下落した場合に相当の減額をすることが要求されています。 また、実務的には、会社で定めた減損ルールに従い、50%程度以上の下落が見られない場合でも、一定程度の下落が数年間続いた場合等には、相当の減額をする事例もあります。 (2) 投資損失引当金の会計実務 上記の非上場子会社等に対する投資に係る減損処理は、金融商品に関する会計基準等が公表された平成12年頃にその会計処理が明らかにされましたが、それ以前の会計実務では、監査委員会報告第22号「子会社又は関係会社の株式及びこれらに対する債権評価の取扱い」(平成12年7月6日付で廃止)において投資損失引当金の計上が認められており、その会計処理が定着していました。 そのため、金融商品に関する会計基準等の適用後においても、監査委員会報告第71号「子会社株式等に対する投資損失引当金に係る監査上の取扱い」が平成13年4月17日に公表され、以下の場合には投資損失引当金の計上が認められることが明らかにされています。 なお、金融商品に関する会計基準等による減損処理の対象となる子会社株式等については、投資損失引当金による会計処理は認められないことに留意が必要です。 ◆投資損失引当金の計上が認められる場合 (※) 本事例では上記Ⅰの要件に該当するため、投資損失引当金の計上を行っています(仕訳④参照)。 ◆投資損失引当金の計上額 子会社等の財政状態が悪化し、その株式の実質価額が低下した場合には、その低下に相当する額を投資損失引当金として計上します。 (※) 本事例ではA社がX2年3月期に計上した20百万円の当期純損失がA社株式の実質価額の低下に相当する額として、投資損失引当金として計上しています(仕訳④参照)。 ◆投資損失引当金の取崩しが必要な場合 (※) 本事例では上記Ⅲに該当するため、投資損失引当金を取り崩し、A社株式を減損処理しています(仕訳⑥参照)。 (了) ※9月は退職給付を取り上げます。
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第5回】 「社内の逆風を回避するためには」 中小企業診断士 西田 純 前回は、F/Sの結果が思わしくない場合、社内の協力が得られにくくなるプロセスについて、人間は本来リスク回避型の行動を取りがちであるという考え方を参照しつつご説明しました。今回は、どうすればそのような逆風を回避し、社内の重要な部門から協力を取り付けることができるかについてお伝えしたいと思います。 ▷ 会社にとってF/Sが持つ価値を決めるのは損益予測ではなく経営ビジョンである 筆者もかつてサラリーマン時代、某大企業が社運を賭けた新規事業として実施した地域開発プロジェクトに携わったことがあります。 その会社は素材産業、しかも国内の製造業各社にとってサプライチェーン全体のかなり上流に位置する典型的なBtoBビジネスの会社だったのですが、地域開発プロジェクトを通じて同社が目指したのは工場跡地の有効活用でした。 商業施設の誘致に止まらず、典型的なBtoC事業であるエンターテインメント施設を自力で建設し営業してしまうという画期的なもので、社内はおろか国内にも全く前例のないプロジェクトでした。前例がないということは、参照できるデータが少ないということを意味します。当然ながら、F/S段階で成功を裏付けるような力強い観測や説得力のある情報はほとんどありませんでした。 しかしながらプロジェクトが発足した当時、地元自治体や工場側の反応は、むしろ前向きな、熱気に満ちたものでした。それは新規事業を通じて地元に貢献する、新しい街に生まれ変わらせるといった魅力的なビジョンが、社長自らの口を通じて繰り返し伝えられていたからです。当然ですが、自前でやるということは、地元での雇用を自ら確保するのだという強いメッセージになったはずです。 極端な話ですが、「プロジェクトの損益は当然重要だが、それより重要なものがある、それは経営がこれまで訴えてきたビジョンの実現である」というようなメッセージがトップから伝わること、これに勝る追い風はありません。 正直なところ、それまでも社内では「構造改革」や「第〇次合理化」などというタイトルで、今日でいうリストラが間断なく実施されていて、必ずしも明確なビジョンを伴わない新規事業が手当たり次第に実施されているような印象が強かったのです。そうした事業の多くは短期的な雇用提供の場にしかなりえず、最終的には残念な結果に終わることも少なくありませんでした。 ▷ 良い損益予測はプロジェクト実施の十分条件だが必要条件とは言えない F/S財務計算を通じて損益予測を行っていると、非常によく聞く話です。でも考えてみてください、F/Sではなく、日常携わっている仕事の損益は、そんなに素晴らしいものばかりでしょうか? むしろ日常業務でも目標値の達成は常に「厳しい状態」にあり、良くはなくてもどうにか収まりのつく「落としどころ」みたいなものが社内の関係者で共有されていて、忍耐強く日々の大変な仕事をこなし続けることを通じ、ようやく何とか目標を達成できている、という例も少なくないのではないでしょうか。 そうは言っても、実際始めてみないとどんなリスクがあるかわからない新規事業の損益が最初からあまり良くないのは、モチベーションを下げる要因になるという意見には一理あります。狩人は、獲物がいると思うから山に入るわけで、あまり獲物がいそうにないところへ好き好んで入るという人は多くはないでしょう。 経営者の立場で考えると、これは重要なポイントで、そこで無理をすると前回お話したように、社内の協力をどんどん失ってプロジェクトは失敗へと追い込まれていきかねないのです。 ここまでにお話した内容を下の表にまとめてみました。損益は厳しいことが予想されるが、どうしても社内の協力を得たいプロジェクトというのは、経営者の手腕の見せ所です。すなわち、トップが経営ビジョンに基づいた強力なリーダーシップを執ることにより、リスク回避型の忌避行動を未然に防止する、あるいは重要な箇所から排除することが可能になるからです。 【経営ビジョンと損益予測】 損益が厳しく、かつ経営ビジョン的にサポートが難しいプロジェクトについては、撤退という厳しい決断をしなくてはなりません。しかし、そこは経営トップとして果断な対応が求められるところでしょう。 トップのサポートが得られ、厳しい損益予測の中でも社内の協力が得られるところまで漕ぎつけられたとします。これは、社内プロジェクトを実施していく上での必要条件を確保したことを意味します。 そこから先は、成功への十分条件である損益をいかに確保して行くのか、プロジェクトマネージャーの腕の見せ所ということになります。損益予測を見直しつつ、今一度どうやればプロジェクトを成功に導けるのか、検討を深めます。その手始めに求められるのは、当たり前に聞こえるかもしれませんが「プロジェクトの目的を再確認すること」に尽きます。 * * * 次回は「F/Sの目的を再確認する」と題して、プロジェクトマネージャーに期待される役割についてお伝えします。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第11話】 「受益者等のいない信託」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「信託課税ってなかなか難しくて・・・おまけに、その課税の仕組みにおかしなところがありますよね。」 谷垣調査官は向かい合って座っている田中統括官に話しかけた。2人は河内税務署の地下にある食堂でランチBを食べている。正午の税務署の食堂はごった返している。 ランチBの価格は480円だが、その内容は近所のレストランで食べる800円程度の定食にもひけをとらない。むしろこのランチBの方が量も多く、しかも美味しいと評判だ。河内税務署の食堂では、550円のランチAよりも人気が高い。 「どこがおかしいんだ?」 田中統括官はナイフを使って丁寧にハンバーグを切りながら尋ねた。 「ええ・・・特に受益者等のいない信託のケースなんですけど・・・」 谷垣調査官は豆腐の入ったみそ汁を啜りながら答える。 「統括官もご存じのように、受益者等がいない信託は、受託者に課税するということになっているでしょう?」 谷垣調査官は、田中統括官の皿の上にある野菜炒めと、きれいに4等分に切られたハンバーグを見ながら説明を続けた。 「ここに、それを図解したものがあるのですが・・・」 谷垣調査官はポケットから1枚の4つ折になっている紙を拡げる。 「委託者がマンションを受託者に信託すると、この場合、受託者が法人とみなされることによって、委託者ではみなし譲渡課税が発生する・・・所得税法59条1項1号だな。」 田中統括官は野菜炒めを箸でつかみ、口に入れる。 「そして、受託者は個人であっても法人とみなされるから、受託者に受贈益課税が生じる・・・これは法人税法22条2項によってですね。」 谷垣調査官の説明に対し、田中統括官はうなずきながら黙々と食べている。 「次に、これが一番の問題なのですが・・・」 谷垣調査官は、田中統括官の半分になったハンバーグをチラリと見る。 「この受託者に受贈益課税が生じるとき、将来、受益者となる者が委託者の親族であることが判明していれば、受託者に課される受贈益課税の他に、相続税又は贈与税が課税されるのですよ。」 そう言うと谷垣調査官は再びみそ汁を飲んだ。 「もっとも、相続税又は贈与税から法人税は控除されるのですが・・・」 田中統括官は、「確かに、そうだな」と言いながら、今度は別皿にある千切りのキャベツに箸を伸ばした。 「・・・しかし、受託者に対し、法人とみなしたり、個人とみなしたりして、法人税や相続税などを課税するって、少しおかしいと思うのですけど・・・たとえそれが代替課税であったり、租税回避を防止する目的であったとしても・・・」 谷垣調査官は田中統括官の顔を見た。 「・・・ところで、その受益者のいない信託って、具体的にはどのようなケースを想定しているんだい?」 田中統括官は爪楊枝を口にくわえながら尋ねた。 「例えば、まだ生まれていない孫のために祖父が信託を設定するときなどが考えられます。しかし、今述べたように、このような受益者がいない信託を設定すると、課税上、納税者は不利になるので、できませんよね。なんでこんな手枷足枷のような規定を設けたのか、課税庁側にいる私でさえ理解できないのですが・・・」 谷垣調査官は少し興奮気味である。 「しかし、受益者が親族でなければ、受託者から受益者にマンションが移ったとしても、受益者には課税されないんだろう。そしてそのマンションは、受託者から受益者へ帳簿価額によって引き継がれることになる・・・これは受託者において既に課税されているから・・・すなわち設定時の法人課税が受益者への代替課税であり、受益者が受託者の課税関係をそのまま引き継ぐという考えだな。」 田中統括官は谷垣調査官の言葉に付け加えた。 「ただ、受益者が親族であれば話は別で、受益者が出現したときに、受益者にもう一度、贈与税が課税されることになります。」 谷垣調査官は不満そうに言う。 「・・・確かに、君の言うとおりなのかもしれない。」 田中統括官は爪楊枝をくわえたままうなずく。 田中統括官のお皿には、まだ、ハンバーグが4分の1残っている。 「ところで君は、さっきから僕のハンバーグをしきりに見ているけど・・・もしよかったら、これ、食べないか?」 「いいんですか?」 谷垣調査官はうれしそうな表情で確認する。 「もちろんさ。食べる前にハンバーグをナイフで切っているから、僕の箸は付いていないよ。年をとるとこんな大きなハンバーグは全部食べられないな。君なんて、僕の息子の年齢ぐらいだから・・・」 田中統括官は笑いながら、ハンバーグを食べる谷垣調査官を見た。 (つづく)
《速報解説》 秋の臨時国会における税制関連法案の成立へ向け、 与党、「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」を公表 ~インボイスまでの経過期間は4年を存置、大規模事業者の税額計算特例は「措置せず」 Profession Journal編集部 自由民主党・公明党は8月2日(火)、6月に行われた安倍首相による消費税率10%引上げの平成31年10月1日への2年半延期の表明を受け、消費課税だけでなく資産課税や地方法人課税、個人所得課税など関連する税制の改正方針を示した「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」を公表した。 今後はこの方針に従い、9月に召集される臨時国会において税制関連法案の成立を目指すこととなる。 〇インボイス導入は平成35年10月1日 まず、軽減税率の導入時期については6月に首相が言及したとおり、10%引上げ時(H31.10.1)の導入とされている。 またインボイス(適格請求書等保存方式)の導入時期については、当初、簡易な「区分記載請求書等保存方式」による4年の経過期間が短縮されるのではと見る向きもあったが、こちらも2年半延期の平成35年10月1日(当初は平成33年4月1日)に導入されることが明記された。これによりインボイス導入までの経過期間4年は存置されることとなる(適格請求書発行事業者の登録申請受付も平成33年10月1日へ延期)。 なお、消費税転嫁対策法の適用期限(現行:平成30年9月30日)も平成33年3月31日まで2年半の延長、総額表示義務の特例についても2年半延長となる。 上記を踏まえ、今後の流れをまとめると次のようになる。 なお今回の延期期間が2年6ヶ月であるという特性上、当初のスケジュールと異なり3月決算法人などは期中での改正対応を求められるため、特に、10%引上げに係る平成32年3月期、インボイス導入に係る平成36年3月期については、経理処理から申告実務まで、留意すべき事項が多くなることが予測される。 〇大規模事業者は税額計算特例の時限適用が認められず 平成28年度税制改正による現行規定では、大規模事業者(基準期間(法人:前々事業年度、個人:前々年)における課税売上高5,000万円超)についてもシステム整備が間に合わない場合を想定し、複数税率に対応した売上税額・仕入税額の計算において中小事業者向けに講じられた計算特例(※)を時限的に適用できるとされていたが、今回の延期によりその準備期間が確保されたとするためか、この経過措置は「措置しない」こととされた。 (※) 計算特例の内容については[こちら]を参照されたい。 2年半の延期後もこの特例措置の適用を見込んでいた企業にとっては方針の見直しが必要となる。 〇直系尊属からの住宅取得等資金贈与特例、本年10月からの大幅拡充は見送りへ 平成29年4月からの消費税率の引上げを見据えて本年10月より大幅な拡充が予定されていた直系尊属からの住宅取得等資金贈与に係る贈与税非課税特例(措法70の2)については、その拡充のタイミングとなる契約時期が下表(1)の通り「平成31年4月~」と2年半延期され、その間は下表(2)の現行制度が継続されることとされた(相続時精算課税制度における住宅取得等資金の贈与の特例の適用期限も平成33年12月31日へ2年半延長)。 (1) 特別住宅資金非課税限度額 ※消費税率10%を前提 (2) 住宅資金非課税限度額 上記の拡充延期についてはすでに想定の上クライアントの贈与計画の見直しを行っていた税理士も多いと思われるが、拡充時期が明示されたことで、改めて今後の資産対策について予測を立てることができよう。 〇住宅ローン控除等の各特例は現行制度を平成33年12月31日まで延長 平成31年6月30日までの適用期限とされていた住宅取得に係る下記特例措置については、現行制度がすべて平成33年12月31日まで延長されることとなった(個人住民税における住宅借入金等特別税額控除についても適用期限を平成33年12月31日まで延長)。また、すまい給付金の対象期間も平成33年12月31日までの延長が明記された。 (※) 各制度の控除限度額等については情報ツール[こちら]を参照。 〇H29.4.1から改正予定の地方法人課税の税率等見直しもそれぞれ2年半延期 消費税率10%引上げを前提(※)として本年度改正で規定されていた地方法人課税の偏在是正を目的とした下記の税率等改正についても、それぞれ適用期限が平成31年10月1日(現行:平成29年4月1日)以後開始事業年度へ延期されることとなった。 (※) 平成26年度の与党税制改正大綱において、消費税率10%段階の対応として、「法人住民税法人税割の地方交付税原資化をさらに進める。また、地方法人特別税・譲与税を廃止するとともに現行制度の意義や効果を踏まえて他の偏在是正措置を講ずるなど、関係する制度について幅広く検討を行う。」とされている。 なお、本年3月31日公布の改正地方税法等に基づき、すでに東京都を含む各地方自治体の一部では平成29年4月1日以後開始事業年度の法人住民税(法人税割)・法人事業税の税率について条例改正により規定しているところもあるが、根拠となる法令が改正されることで、その見直しが必要となる。この点については、今回の方針を受けた今後の動向に注視が必要だ。 〇自動車税・軽自動車税における環境性能割は導入延期も税率区分は一旦白紙に 消費税率引上げを前提としていた自動車取得税の廃止は平成31年10月1日へ変更されたほか、本年度改正で創設された自動車税及び軽自動車税における環境性能割についてはその導入時期をそれぞれ平成31年10月1日としたうえで、その非課税及び税率に関する規定の適用を受ける自動車及び軽自動車の範囲については、平成31年度税制改正において、技術開発の動向等を勘案して見直しを行うとされた。 (了)
《速報解説》 公認会計士・監査審査会、 平成28年版の「監査事務所検査結果事例集」を公表 ~会計上の見積りについては継続して不備が頻出~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月29日、公認会計士・監査審査会は平成28年版の「監査事務所検査結果事例集」を公表した。 今回の事例集の特徴は次のとおりである。 参考資料として、「監査事務所の概況(平成28年版モニタリングレポート)」も公表されており、監査法人の状況などについて、会計専門家ではない一般の利用者にもわかりやすく説明がなされている。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役、監査役、投資者等による活用を期待 事例集は、コーポレートガバナンス・コード等を踏まえ、特に、監査役等に向けて、事例集を十分に活用し、外部会計監査人における品質管理の状況及び品質管理レビューや審査会検査の結果等について積極的に質問するなどにより、外部会計監査人との連携を充実・強化するとともに、外部会計監査人の適切な評価や十分な監査時間の確保等を行い、適正な外部会計監査が行われるための対応をされることを期待していると述べている。 引き続き、会計監査人と監査役等との連携についても述べられている。 Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 会計上の見積りについては、継続して不備が頻出していると述べられている。 (了)
《速報解説》 公認会計士協会、 「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」 及びQ&Aを改正 ~ITの進歩、サイバー攻撃等への対応、クラウドサービス普及やIoTの進化による影響も記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月25日付け(ホームページ掲載日は7月27日)、日本公認会計士協会は次のものを公表した。これにより、平成28年5月27日から意見募集していた公開草案が確定することとなる。 これは、前回の改正(平成24年8月30日)以降のITの進歩への対応、日本年金機構における個人情報流出事案に象徴されるサイバー攻撃等、新たな情報セキュリティリスクとして、サイバーセキュリティへの対応などを行ったものである。 なお、公開草案に対する外部からのコメントはなかったが、内容に影響しない範囲での字句修正を一部行っているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務指針の主な改正内容 1 対象範囲 実務指針は、公認会計士が監査に限定されないすべての業務において留意すべき情報セキュリティについての指針の提供を目的としている。 公認会計士は、実務指針に従って情報漏洩を防ぐ体制を構築し、運用することが必要である。 2 ITの進歩に対応する情報セキュリティ クラウドサービス等のITリソースが、ITの進歩により広く普及し、利用されるようになると、新しいリスクが生じることから、ITの進歩に対応した情報セキュリティ及び体制の見直しを考える必要がある。 電子メールの利用に際しての注意(誤送信防止など)、クラウドサービス等のITリソース利用に係る情報セキュリティ(ログオン時のID、パスワードの漏洩など)、サイバー空間に係る情報セキュリティ(偽装したログイン画面を用意してログオン時のID、パスワードの奪取など)などが述べられている。 3 情報漏洩に関するリスクの認識と対応 業務に直接関係する情報がどのように管理されているのかについて、業務の流れとともにITの利用状況を理解し、関連する内部統制を識別した上で、リスクを認識しなければならないと述べている。 4 適用時期等 「IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」の改正について」(平成28年7月25日)は、平成28年7月1日以後開始する事業年度から適用する。 Ⅲ Q&Aの主な改正内容 Q&Aの改正は多くの事項に及んでいるので、下記では特徴的な記載について述べる。 1 サイバーセキュリティと情報セキュリティの違い(Q4) サイバーセキュリティは、サイバー空間を対象としたセキュリティの考え方である。サイバー空間は各種デバイス、コンピュータ、ネットワークその他の電子化された世界のため、サイバーセキュリティにおいては電子化された情報資産がその保護対象となる。 情報セキュリティは、IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」でも記載されているように、その範囲を電子の情報に限定しておらず、紙の資料もその対象に含まれる。サイバー空間固有の特徴はあるものの、サイバーセキュリティにのみ特化した対策を行うのではなく、情報セキュリティの一部として検討することが求められる。 2 サイバーセキュリティ対策に関する全体像の把握に適した資料(Q6) IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」を活用する。 下記のものも参考になる。 3 IoT(Internet of Things)の動向(Q12) IoTが進んでいくことで便利になる一方、情報セキュリティの面からは管理対象が増加し、その特性上、情報漏洩のリスクが顕在化しやすくなる状況にあると言えると述べられている。 具体的な特性として、①管理が意識から漏れやすい点、②モニタリングの困難さが述べられている。 4 マルウェア対策を実施する上での留意点(Q24) マルウェアから防御するためには、すべてのPC・サーバにマルウェア対策ソフトを導入するとともに、常に最新の状態に維持されるようにする。そのため、情報セキュリティ担当者は、すべてのPCにおいてパターン・ファイルの更新の設定が正しく行われるよう留意する。 5 ファイルサーバとしてクラウドサービスを利用する場合の業者を選ぶ際の留意点(Q27) 委託先選定に当たっては、情報セキュリティ対策、サービスの稼働状況、利用者サポート体制、契約終了時のデータの取扱い、事業者の事業継続性についても考慮することが重要であると述べられている。 Q&Aでは、具体的な留意点が記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「専門業務実務指針4400 『合意された手続業務に関する実務指針』に係るQ&A」を公表 ~実務指針において理解を要する事項を解説~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月25日付で(ホームページ掲載は7月28日)、日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会研究報告第29号「専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に係るQ&A」を公表した。これにより、平成28年4月27日から意見募集していた公開草案が確定することとなる。 Q&Aは、平成28年4月27日に日本公認会計士協会が公表した専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(以下「専門実4400」という)に基づく合意された手続業務を実施する際に理解が必要と思われる事項について、Q&A方式によって解説を提供し、会員の理解を支援するためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のQ&Aが取り扱われている。 以下では特徴的な項目について述べる。 1 専門実4400の適用対象となる業務(Q2) すべての調査報告業務に専門実4400の適用が強制されるわけではない。 実施結果の利用者のニーズに応じて合意された手続業務を実施したことを記載する報告書を発行する場合、業務実施者である監査事務所又は監査事務所が支配している事業体には専門実4400を適用することが求められている。 「監査事務所が支配している事業体」とは、公認会計士もしくはその配偶者又は監査法人が実質的に支配しているものと認められる関係(子会社等又は関連会社等との関係)を有する法人その他の団体をいう(Q6、専門実4400第4項及び職業倫理に関する解釈指針Q2-1)。 監査事務所が支配している事業体が合意された手続業務を実施する場合には、監査事務所は専門実4400第3項に関連して品基報第1号を遵守させるように監督することが求められる点に留意が必要である(Q6、専門実4400第4項)。 2 適用対象となる業務の例示(Q3) 専門実4400の適用が想定される業務としては、例えば、次のものがあげられている。 3 会社の買収に関する調査への適用(Q4) 専門実4400付録1には、会社の買収に関連した合意された手続業務に係る実施結果報告書の文例が記載されている。 付録1は例示であり、会社の買収に関する財務状況の調査(以下「買収調査」という)について、常に合意された手続業務として実施することが求められているわけではない。 買収調査について、合意された手続業務として業務を実施するかどうかは、報告書の利用者のニーズに応じて決定されることになる(専門実4400A1項)。具体的には、専門実4400を適用して合意された手続業務として実施するか、合意された手続業務以外の調査報告業務として実施するかを業務契約において定め、業務を実施することとなる。 任意に行う買収調査において、報告書の利用者から「合意された手続」である旨を記載することが特に求められておらず、また手続やその実施結果について、専門実4400の文例のように詳細かつ具体的な記載ではなく概括的なもので足り、むしろ、業務の実施の過程で気が付いた情報の作成や内部統制等に関する助言等の記載が求められているのであれば、報告書の利用者のニーズに照らして、合意された手続以外の調査報告業務として実施することが考えられると述べられている。 (了)
2016年7月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.179を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第25回】 「租税法の解釈②」 -通達の読み方とその問題点(貸倒損失を事例として)- 税理士 山本 守之 1 貸倒れの法律規定 法人税法第22条第3項は所得金額の計算上損金の額に算入すべき金額を次のように規定しています。 「貸倒損失」は上記のうち(3)の損失の額に該当します。 損失の額は、元来、収益との対応にも期間との対応にもなじまないものといえます。その点から考える限りは、収益を得るために直接必要なものであったといえない面もあります。 しかし、損失の額は、法人の生み出した剰余を減殺しており、所得計算上のマイナス要素であることは明らかで、しかも、法人は、その活動の全てを通じて剰余を生み出そうとしており、その活動の中で剰余を減殺するものが存在する限り、それが収益を生むために直接必要であったか否かを問わず損金の額に算入されるべきです。 このような考え方から、その事業年度に発生した損失の額は、所得の金額の計算上の損金の額に算入します。 (注) 純資産が減少しても法人の意図した事業に関係のない支出は、ここにいう損失の額には含まれず、利益の処分とするのであるという考え方もあります。 損失の額は、発生の事実によってこれをとらえるから、法人税法においては、臨時巨額の損失を繰り延べることはしません。 「資本等取引以外の取引に係る」と規定されているのは、剰余の減殺される原因が対資本等取引によるものである場合は、資本等取引として資本の払戻しと考えられますので、所得金額の計算上は損金の額に算入しないのです。 なお、損失の額とは、例えば災害による資産の減損失、貸倒れによる債権の喪失、消滅時効完成による債権の消滅等が考えられますが、資産の譲渡損失はこれには含まれません。資産の譲渡対価は益金の額に算入され、譲渡原価が損金の額に算入されます。 2 貸倒れの通達規定 「貸倒損失とは何か」については、法令は全く規定しておらず、法人税基本通達9-6-1~3に定めているため、課税要件法定主義に反するのではないかという疑問が生じます。 これに対して「何が貸倒損失か」は専ら事実認定の問題ですから、課税要件に該当しないという考え方もあります。 そういえば、国税庁では解説書(『法人税基本通達逐条解説』税務研究会)で、 としています。 国税庁、財務省によるOBの解説もほぼこのようになっています。 しかし、法人税基本通達9-6-1~3は次のように法人の経理要件までも定めており、単なる事実認定ではないとも考えられます。やはり課税要件法定主義に反していると考えられます。 法人税基本通達9-6-1~3で貸倒損失とするのは、次の3つの場合です。 ところで、上記3つの場合は次のように経理要件が付されています。 上記のうち、法人税基本通達9-6-1は法律的に金銭債権が消滅したのですから、法人が貸倒損失の経理をしていようといまいと絶対的な損金ですから「損金の額に算入する」と表現したのです。一般的には、法人が法人税基本通達9-6-1を適用した場合は税務調査で「貸倒処理を否認する」という処理はできません。もっとも、回収不能な金銭債権を放棄したような場合は、「寄附金」という処理はなされるでしょう。 法人税基本通達9-6-2については、解説書等に「損金経理を要する」と書かれていますが、これは誤りです。確かに、昭和55年の改正前までは「損金経理した場合はこれを認める」とされていたのを「損金経理することができる」と改められたのです。 この改正理由については、課税庁で、 と解説しています(『税経通信』Vol.36/No.5/通巻488号/1981戸島利夫)。 つまり、回収不能が明確になった事業年度で貸倒処理をすべきで、「当期は赤字だから、次の事業年度で」という処理は認められないということです。経理処理を「損金経理した場合はこれを認める」から「損金経理することができる」とした理由を事例で考えてみましょう。 平成X年3月でA社がB社に対して有する債権の回収不能が明らかになったが、その事業年度では何の処理もせずに、次の事業年度(平成X+1年3月期)で貸倒れとして損金経理したという場合に、損金経理要件を付していると次のようになってしまいます。 これでは、A社は永久に貸倒損失とする機会を失ってしまいます。そこで、経理要件は「損金経理することができる」としたのです。 いずれにしても、通達で経理要件まで定めながら「これは事実認定だから課税要件法定主義に反さない」とする言い訳は通用しません。 3 法律上の債権消滅 法人の有する金銭債権について、次に掲げる場合に該当することになったときのその金額は、金銭債権が法律上も消滅したのですから、貸倒れとして損金の額に算入されます。法人が貸倒処理をしていない場合であっても、税務においては進んで損金の額に算入するのです(法基通9-6-1)。 ここで、③(イ)の関係者協議における「合理的基準」とは何かが問題になります。 課税庁OBの執筆した解説書では、「切捨額は一律でなければならない」としていますが、そのようなことはありません。 『法人税基本通達逐条解説』(税務研究会)では、 としています。 実務では、債務者の親会社は責任があるから切捨額が多く、他の債権者は切捨額は少ないということはいくらでもあります。 ④の書面による債務免除は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、金銭債権の弁済を受けることができないと認められるときに、債務者に書面で通知した額が貸倒損失となるという意味です。 ところで、気になるのは「相当期間」について、「3年~5年と解する」とする解説書や質疑応答集等があります。しかし、ここで重要なことは「その貸金の弁済を受けることができない」と認められる場合であり、「債務超過の状態が相当期間継続」というのは、その弁済不能の判断期間における債務者の状態を表しているに過ぎません。 法人の取引先のなかには、債務超過にあるものが少なからず存在し、それだけで債権者が回収を断念することはないでしょう。 金銭債権の回収に関してさまざまな方途を講じ、回収に関して努力をするものと思われます。しかし、ある時期には回収を断念しなければならない時期が到来するかもしれません。 「相当期間」は、債務者の経営状態を見るために、ある程度のウォッチ期間が必要であり、「最終判断のために見極めをつける期間」という意味を持っているのです。 したがって、債務者が天災地変などで回収不能の損害を受け、それが基因となって債務超過の状態になったとすれば、経営状態の判断はごく短期間でつくと考えられます。これに反して、取扱商品に対する消費者のニーズが低下したため慢性的に経営状態が悪化していく場合は、新製品の発売等により反発する機会も十分あるのですから、ある程度長期的に経営状態を判断しなければならないでしょう。 「相当期間」は、回収不能を判断することについて合理的と認められる期間と解すべきであって、一律に3年ないし5年と固定すべきものではありません。 債権者による一方的な処理ですから、債務者に支払能力があるなどその免除が相手方に贈与したと認められるときは、寄附金又は賞与等として取り扱われます。 4 会計認識上の貸倒れ 法律的に金銭債権が消滅した場合でなくとも、債務者の資産状況、支払能力等からみて、全額の回収不能が明らかになった場合、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます(法基通9-6-2)。 もっとも、担保物がある場合には、その担保物を処分した後でなければ損金経理することができませんし、保証債務については現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象とはなりません。 「資産状況、支払能力からみて」と抽象的に表現したのは、貸倒れに関する事実認定に関し、個々の事案に即した弾力的運用を行うという意味のほか、通常の回収努力も払わずに意識的に貸倒損失にしたというようなものでない限りは、回収不能に陥るまでの動機なりプロセスを問わないという考え方を表現したものです。 昭和42年の改正前では、事実認定に関して破産、和議、強制執行、資産の整理、死亡、行方不明、債務超過の状況が相当期間継続し事業再起の見通しがない場合、天災事故、経済事情の急変など対象となる事実は列挙されていたのです。しかし、「このような基準は・・・一般的には妥当であるが、個々の債権についてその回収不能を認定するに当っては、この基準は多くの場合厳格すぎるきらいがあり、税務官庁と企業との間にこれを巡って争いが絶えない」(昭和41年11月「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」)という批判によって列挙しないこととしたのです。 5 日本興業銀行事件に学ぶ 法人税基本通達9-6-2では、貸倒れとするか否かは債務者の資産状況、支払能力等から判断することになっています。しかし、平成16年12月24日の最高裁第二小法廷判決では、債務者の事情だけでなく、債権者側の事情や経済的環境も踏まえて判断しなければならないという判示を行いました。 これについての高裁段階の判決では、債権者を同一の地位にあると判断した場合には、計数的には債権の全額回収は可能であるし、 として貸倒れを否認しました。 この考え方の背後には、貸倒れか否かを判定する場合は、専ら債務者側の事情だけで判断するという古い考え方があったようです。 税務訴訟をめぐる古い考え方では、「訴訟で勝つか負けるかは高裁段階が分かれ目であり、最高裁は憲法違反など一定のものしか受け付けないから高裁判決を最終なものとして覚悟しよう」というものでした。 しかし、最近の租税訴訟では上告審(最高裁)で納税者が逆転勝訴することが少なくありません。これは高裁までは裁判官はしょせん官僚であって、最高裁では弁護士出身者も裁判官になっており(例えば裁判長滝井繁男氏(元大阪弁護士会会長))、民間の感覚が強く出てくるからです。 旧日本興業銀行事件も最高裁で納税者が逆転勝訴したものであり、貸倒れの設定をめぐり、債務者の事情だけではなく、債権者の事情、経済的環境も考慮するという民間の血が入った判決となりました。 この事件では、住宅金融専門会社(A社)の設立母体である銀行(旧日本興業銀行)が、A社の経営が破たんしたため放棄した同社に対する貸付債権について、その金額が当時回収不能となっており、法人税法第22条第3項にいう「当該事業年度の損失の額」として損金の額に算入されるべきであるか否かが争われたものです。 この事件でA社の設立母体5社(旧日本興業銀行、D銀行、証券会社3社)は、平成8年3月29日、旧日本興業銀行、D銀行及び一般行の債権放棄額を確認し、旧日本興業銀行とD銀行は、A社の営業譲渡の日までに同債権放棄額に対応する貸出債権を全額放棄するものとすることを確認する旨の書面を作成し、旧日本興業銀行は、同月29日、A社との間で債権放棄約定書を取り交わし、A社の営業譲渡の実行及び解散の登記が同年12月末日までに行われたことを解除条件として本件債権を放棄する旨を合意しました。 これによって旧日本興業銀行は、A社に対する貸倒れを計上したのですが、課税庁はこれを否認する更正を行い、これが争いとなったのです。 これに対して、最高裁第二小法廷では、下記のとおりとしました。 ここでは、A社の母体行である旧日本興業銀行が非母体金融機関に対して債権額に応じた損失の平等負担を主張することは社会通念上不可能であり、A社の資産等の状況からすると本件債権金額の回収不能は客観的に明らかであり、しかも、「このことは、本件債権放棄が解除条件付でされたことによって左右されるものではない。」としています。 回収不能の金銭債権の貸倒れを定めた法人税基本通達9-6-2では「法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全体額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができる。」としています。 この場合の取扱いを適用する場合、「債務者の資産状況、支払能力等からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった」かどうかの事実認定については、 とされており(『法人税基本通達逐条解説』)、ここでは、専ら債務者側の事実については考慮されていますが、最高裁判決でいう「債権者の事情及び経済環境」については考慮されていません。 例えば、債務者P社の債権者会議が開かれ、債権者代表Q社(親会社)から債権の70%一律カットが提案されたとしましょう。これに対して出席債権者は、親会社の責任で、Q社の債権は全額カットとし、不足分については親会社以外の債権者は50%カットと逆提案し、これが可決されたとします。 これなどは債権者側の事情、経済環境などが配慮されたものといえます。債権者が均一の立場で債権放棄をしなければならないという硬直的な考え方は通用しないでしょう。 貸倒損失を弾力的に行うためには、通達等に依存するのではなく、債権者、債務者双方の関係やそれぞれの事情、経済的環境等が配慮されなければならないということです。 しかし、国税庁では、判例解説における と述べられています(最高裁判所判例解説民事篇平成16年度(下)845頁)。 これを基礎にして、 として債務者を中心として貸倒れを判断する通達の表現を変えていません(『法人税基本通達逐条解説』)。 この点は最高裁判所を尊重して債権者の事情も配慮すべきだとする民間の考え方と合致していません。 この訴訟において最高裁の裁判長を務めた滝井繁男氏はその著書『最高裁判所は変わったか』(岩波書店)で次のように述べています。 6 通達と国税庁ホームページ 国税庁では平成24年11月2日にホームページの質疑応答事例を改訂し、貸倒処理について実質的(弾力的)処理方法を明らかにしました。 これは、従来通達等で硬直的に定めていたことを反省したものです。 この意味では、貸倒れについても通達の表現が硬直的でありましたが、これを実務上の処理として弾力的に改訂されるようになったホームページの記述は評価できます。 ただし、本来は通達を直すべきで、ホームページだけ改めるのはよくないと考えます。 これを事例によって解説します。 【問題点】 税務上の貸倒れについては、法人税基本通達9-6-1~3までに記載されていますが、いずれも官僚的、硬直的なものでした。 例えば、担保物がある場合はそれを処分した後でなければ貸倒処理を認めない。保証債務は現実に履行後でなければ貸倒れ対象としない。第三者に対する債務免除後も貸倒処理はできない等です。 しかし、担保物の順位が劣後だったり、保証人の保証能力がない場合は基本通達を表面的に適用するわけにはいきません。この点について、国税庁では後ればせながらホームページを改訂したというわけです。 【検討】 (1) ケース1について 事例の場合の一般的取扱いについては、国税庁ホームページでは、 としています。 しかし、同時にホームページでは、 としています。ここでは注書きで ともしています。 ケース1の事例では、B社は債務超過の状態が相当期間継続して回収の見込みがないということですから、貸倒処理は容認されます。 なお、国税庁ホームページ注書きで、 としていますが、「相当期間」を従来の庁内の研修で「3年~5年」としていた時代よりもかなり進歩しています。 (2) ケース2について 貸倒れの一般的取扱いについては、法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる(法基通9-6-2)とされています。 しかし、債権に対して担保物がある場合について国税庁ホームページでは、 としています。しかし、これでは、担保物が劣後であってもその担保物を処分した後でなければ貸倒処理ができないことになってしまいます。 幸いなことに今次のホームページ改訂で としています。 ケース2では担保物が第5順位で、担保物を処分しても配当が見込めないのですから、貸倒処理は容認されるでしょう。 (3) ケース3について ケース3の場合は金銭債権に保証人がいる場合について、国税庁ホームページでは、「保証人があるときには、保証人からも回収できないときに貸倒処理ができます。」という簡単な回答になっています。 ただ、ケース3の事情からみると、①保証人の収入は生活保護と変わらない、②有する資産は差押禁止財産(破産法34、民事執行法131)となっているというのですから、実質的に保証人からの回収が見込めない(債務者は自己破産)ので貸倒処理は容認されるでしょう。 7 通達と審理課情報 役員の分掌変更の場合の退職給与については、次のような取扱いがあります(法基通9-2-32)。 通達は分掌変更に際して、「実質的に退職したと同様の事情があること」について、例えば常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、その分掌変更後における報酬が概ね50%以上減少したこと等を例示しています。 通達はあくまで例示で、退職と同様の事情があったか否かはその分掌変更後における職務の内容、役員としての地位の激変等の事実により実質的に判定するべきものなのです。 しかし、一般の税実務では、通達に書かれている例示があたかも課税要件のように受け取れます。 その意味からすれば、このような「例示」は通達に書くものではなく、退職という事実の判定は納税者の法解釈に委ねるべきであったかもしれません。 実は、平成18年2月10日の京都地裁判決(平成18年10月25日大阪高裁同旨)では、法人税基本通達9-2-32に定めた事実に該当するとしても、「退職の事実」はあくまでも実質的に判断すべきだとしています。 この意味では、通達に書かれた事実に盲目的に従っている税実務に対して警鐘を鳴らした判決であるといえましょう。 事例では当期中に保険金1億円を収受しているため法人税額の増額を避けるため、甲、乙を退職させたものと受け取られることも考慮すべきかもしれません。 上記の法人税基本通達9-2-32の(1)から(3)は実質的な退職を判定するための通達上の要件を示しているものに過ぎず、退職の事実はあくまでも実質的に判定すべきです。 また、同通達の(1)から(3)は通達が示した例示に過ぎず、役員としての地位の激変は実質的に判定すべきで、通達に頼って税務の解釈をすることは危険です。 通達を適用する場合は、適用上の背景を無視してはなりません。 税理士が租税法を自ら解釈することなく、通達やQ&Aに頼り、これを課税要件のように受け取っていると、税法自体の耐用年数が経過し、賞味期限を過ぎてしまいます。 ところで、京都地裁判決、大阪高裁判決(平成18年10月25日)の後、国税庁審理室は次のような情報を発信しました。 この情報は、課税要件法定主義に反する通達が判決で敗れたことに対する反省がないと批判されても仕方ないでしょう。 (了)