常識としてのビジネス法律 【第15回】 「各種代金の請求・取立てに関する法律実務(その3)」 弁護士 矢野 千秋 (16 担保を利用した債権回収方法(確実化)) (2) 物的担保とは 「物的担保」とは、財産を担保にとるものである。 物的担保には、「法定担保」と「約定担保」の2種がある。 ① 法定担保 「法定担保」とは、ある一定の債権について法律上当然に成立する担保権で、「先取特権」と「留置権」がある。 ② 約定担保 「約定担保」とは、当事者の約定によって設定される担保権で、抵当権、質権、譲渡担保、仮登記担保、所有権留保がある。 人的担保(前回参照)はその者の資力如何によって不確実なので、物的担保が担保力に優り、なかんずく抵当権が有力である。 (3) 抵当権 担保物は主として不動産であり、債務者に利用を継続させながら優先弁済権を確保、すなわち担保にとることができる。 抵当権を設定したらすぐに第三者対抗要件である登記をしておくことが必要である。他の債権者に先立って弁済を受けるのであるから、これから債権者になろうとする第三者を害さないための手続、すなわち登記による公示が要求されているからである。 これにより第三者は先行する担保権のあることを知ることができ、不測の損害を被ることがなく、取引の安全が保たれる。 一般的に価値の高い不動産を担保物にとるのであるから、担保方法として極めて有力なのであるが、金融機関の担保に入っていることが多いのが難点である。 継続的取引の場合は根抵当が便利であるが、ある程度被担保債権の範囲を特定しておかねばならない。これも根保証と類似して、ある一定の範囲の取引から生ずる不特定(ある程度の範囲の限定が必要)・多数の債権を包括的に担保するものである。 (4) 質権 担保物は主として動産であり、その引渡しが質権の成立要件である。占有が第三者対抗要件であるから、担保物を債権者の手元に移しておくことが必要である。これは、先年まで動産には登記のような公示方法がなかったため、債務者の手元に担保物を残したまま質権の成立を認めてしまうと、第三者は質権の存在自体が分からず、不測の損害を被ってしまう恐れがあったからである。 担保物が不動産の場合は質権設定登記が第三者対抗要件となるが、不動産を質にとると管理が必要になり面倒なので、不動産質は使われていない。 有体物ではない財産権(例えば著作権、特許権などの知的財産権、金銭債権、ゴルフ会員券など)の上にも質権を設定することができる(362条1項)。 権利質においては債権質権者が自己の名において債務者に履行を請求できるというメリットがある(366条2項)。取り立てた債権が金銭債権であれば、そのまま自己の債権の弁済に充当することもできる。 実務上、最も多く利用されるのは、建物に抵当権の設定を受けるときに、抵当権者がその建物に付された火災保険の保険金請求権に債権質の設定を受け、抵当権の目的たる建物が滅失しても、火災保険の保険金から優先弁済を受けるというケースである。 権利質の第三者対抗要件は、指名債権の場合は債務者への確定日付のある通知または承諾である。これには債権譲渡の場合の対抗要件が準用されているが、その理由は債権譲渡が今その債権をとってしまうものであるのに対して、債権質は債務不履行などになった場合に優先弁済を受ける、つまり後からとるものであり、現在か将来かの違いだけでその他は同じことなので準用したものである。 目的物が主として動産、債権であるので、担保物としての価値は不動産に比べて落ちるのが通常であるが、そのため金融機関の担保に入っていないことが多く、素早い担保設定が望まれる。 (5) 所有権留保・譲渡担保の利用 これらは慣習法上の担保権として実務の必要性から生み出された担保方法である。問題は、質権が第三者を害さないために、目的物の占有を奪ってしまうことにある。 質物の占有を奪うことは、弁済を促す効果もあるが、質物が営業用動産などの場合に占有を奪ってしまうと営業に困難を来たし、かえって弁済力を殺いでしまうことにもなる。そこで質権の欠点を是正し、動産の占有を奪わない担保方法として広く利用されている。 対抗要件は動産においては引渡しである(民法178条)が、この引渡しは目的物の占有を設定者に留める占有改定によることが多い。ただ占有改定は占有を債権者に移さず債務者の手元に残すために、第三者を害さない必要性から、第三者に優先する担保権が存在することをどのように公示するかが問題となる。 譲渡担保設定契約等を公正証書にしておくと公正証書には確定日付の効力があり、日付の早い債権者・譲渡担保権者が優先する。近年、動産の登記の制度がスタートしており、第三者対抗要件として登記を使うこともできる。公正証書(占有改定)と登記との間に優劣はなく、いずれか設定日付の早い債権者・譲渡担保権者が優先する。 ただこれでは債権者・譲渡担保権者間の優劣は決せられるが、それ以外の例えば目的物を取得した第三者の即時取得(民法192条)の可否の問題が残る(判例は第三者の善意・無過失を容易には認めないが)。そのために使われる公示方法が「明認方法」である。 ① 所有権留保 自動車等の割賦販売で、代金完済まで売主に商品の所有権を留保しておき、代金を完済して初めて商品の所有権が買主に移転する特約を結ぶという担保形式である。 すなわち売主・債権者は優先弁済権を保持しながら(不払いになれば所有権に基づいて返還請求をし、それを他に売却して弁済に充てる)、買主・債務者はそれを占有して(代金完済まで借りていることになる)使用することができる。 登録制度のある物(例えば自動車)であれば第三者対抗要件となり得るが、それがない物の場合には、第三者の即時取得の問題が残る。機械類であればプラークを取り付ける等の明認方法を施すことが考えられる(これにより第三者を悪意にする)。明認方法は後述する。 ② 譲渡担保 所有権を一旦債権者に移転し、債務者はそれを借りて利用し、債務を弁済すれば所有権を債務者に戻し、弁済がなければ債権者は所有権に基づいて物を引き渡させ、それを他に売却して優先弁済をとることになる。売買の形式をとっているが、結局は金銭債権の担保である。売り渡した時の価格と、買い戻すときの価格の差がその間の利息ということになる。 もちろん、既存の売掛債権の担保として機械等に譲渡担保権を設定することも可能であるし、債権担保の有力な手段である。 動産が譲渡担保の目的物の場合は、前述の通り引渡し(占有改定。公正証書の日付による)や動産の登記の制度があるが、なお所有権留保と同じく第三者の即時取得の問題が残るので、第三者を悪意にするための明認方法を施すことを考えねばならない。 さて明認方法であるが、これも「4W」を考えればよい。 目的物は、機械類に限らず、原材料や仕掛品も可能である。原材料などは使用・補充がなされ流動的なものであるが、これらも包括して担保目的物とできる。そしてその場合の明認方法は、倉庫の入り口に看板を打ちつけるなどの方法によることになる。担保権者間の優劣は公正証書(引渡・占有改定)の日付、登記の日付で決せられるが、それ以外の第三者の即時取得を防ぐためには先述の明認方法がある。 しかし、明認方法を施すと債務者が譲渡担保権を設定させられた、すなわち窮状にあることを一般に知らしめてしまうという欠点もあるため、このあたりは弁護士や司法書士と相談して検討するべきである。 17 法的手段を利用した債権回収方法 (1) 保全処分の利用(仮差押と仮処分) 「保全処分」とは、債務者の財産処分を事前(主として訴訟提起前)に防止し、保全しておく手続をいう。訴訟追行に長期間を要して結果勝訴判決をとっても、それ以前に債務者の財産が散逸しては、判決をとったことが無に帰するからである。したがって、これは本来債権保全の手続であり、債権回収の手段ではない。 しかし、心理的圧力により弁済を促す効果があるので、回収の手段としても使われる。そして弁済促進のためには効果的な財産を仮差押すべきである。銀行の担保不動産、当座預金、家財道具、知的財産権等がこれにあたる。 ① 仮差押 金銭債権の執行保全に限る。以下の2要件を疎明(裁判官に確からしいと信ぜしめる程度で足りる。これに対して「証明」とは裁判官が確信を抱く程度を意味する)する必要がある。 仮差押の手続は、①仮に差し押さえようとする財産を明示し②被保全債権と保全の必要性を記載した申請書に、③これらの事実の疎明資料を添付し、④印紙(当事者が複数の場合には、多い方の一方当事者の人数に2,000円を乗じた金額となる。債権者が2人で債務者が1人の場合には、2,000円×2となる。その他郵券が必要。)を貼付して、本訴を管轄する裁判所か、仮差押財産の所在地を管轄する裁判所に申請する。 通常その日のうちに裁判官との面接があって説明を求められ、仮差押命令を発令する場合には保証金の額(対象財産の1から3割程度)を呈示されるので、これを法務局に供託し、供託書とそのコピーを持って裁判所に行くと仮差押命令を出してくれる。 ② 仮処分 金銭債権以外(例えば物の引渡請求権等)の債権の執行を保全するものであり、2要件は仮差押と同じである。手続も類似するので省略する。 「現状凍結型」のものと「権利実現型」のものとがある。 前者は処分禁止の仮処分等であり、後者は商品陳腐化、生活の必要等のさしせまった特別の理由がある場合に認められる。 (2) 訴え提起前の和解の利用 訴え提起前の和解手続とは、財産上の争いについて、訴訟や調停によるまでもなく、双方の合意による解決の見込みがある場合に、裁判所で和解をする手続である。 この申立は、争いの相手方の住所のある地区の裁判を担当する簡易裁判所に対して訴訟提起以前に和解の申立を行い、裁判所で成立した和解の内容を調書に記載してもらう和解のことである。これにより債務名義(当該請求権ありとの公文書)、すなわち裁判を経ずに強制執行が可能となる。 当事者間で大筋の合意ができているときにメリットがある。言わば、相手方が争ってもおらず、積極的な協力も期待できる場合に適する手続といえる。 訴え提起前の和解の手続は、①当事者の住所氏名②申立の趣旨及び申立の実情(紛争内容)を書面にし、③2,000円の印紙を貼付して(その他郵券必要)④当事者間の話し合いで決まったことを「和解条項」として別紙で添付し、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に提出する。 双方が裁判所に出頭し、和解条項が勧告され、和解が成立すると和解調書が作成される。 (3) 支払督促の利用 金銭債権や一定の有価証券の請求に限られるが、出廷する必要もなく、簡易迅速で費用も廉価に債務名義がとれるというメリットがある。 債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に支払督促申立書を提出する(郵送でよい)。申立書は裁判所の売店で販売されており、これに書き込めばよいようになっている。手数料は訴訟の場合の半額である。書類審査のみなので、訴訟の場合のように審理のために裁判所に行く必要はない。 支払督促の申立が成されると、裁判所は形式審査の上で支払督促を出し、正本を当事者に送達する。その上で相手方から2週間以内に異議が出なければ、債権者は2週間を過ぎた日の翌日から30日以内に、裁判所に対して仮執行宣言を申し立てることができる。30日以内にその申立をしないときは支払督促は効力を失う点に注意が必要である。 債権者が仮執行宣言を申し立てると、裁判所は仮執行宣言を付けた支払督促正本を債務者に送達し(これにより強制執行を開始できる)、やはり債務者は2週間以内に異議申立ができる。これにも異議申立がなければこれにより債務名義が確定する、すなわち裁判を経ずに強制執行が可能となる。 このように異議申立がなければ証人調べ、証拠調べもなく、進行が早い。したがって、当事者間に争いのないケースに向いており、加えて相手方との距離が近い場合が適する。 なぜなら異議申立があると通常訴訟に移行し、管轄は相手方住所地の裁判所となる。したがって相手方が遠隔地にある場合は、相手方から異議が出されると相手方の住所地を管轄する裁判所に訴訟が継続することになるので、注意が必要である。遠隔地での裁判ということになると、通常費用がかさむからである。 (4) 手形訴訟の利用 「手形訴訟」とは、手形金の支払請求に関する略式訴訟であり、手形所持人が簡易迅速に債務名義を得られるようにした判決手続である。小切手訴訟にも準用される。 手形の支払地を管轄する裁判所に(手形金額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円超えなら地方裁判所。手形が何通かある場合は合計金額)、手形訴訟であることを明示して提訴する。極めて進行が早く、通常1~2ヶ月で判決がとれる。 その特徴は以下の2つである。 ① 証拠方法の制限 提出する証拠は原則として書証のみに限られ、その書証は当事者が任意に提出できるものに限られる。補充的に当事者尋問は許されるが、文書の成立の真否や呈示に関する事実の立証のためにしか利用できない。 ② 仮執行宣言付判決 手形訴訟では、原則として第1回口頭弁論期日で弁論を終結すべきとされ、ほとんどが1回で結審される。判決に異議を申し立てれば通常訴訟になるが、勝訴判決には仮執行宣言が付いているので、構わずそれで強制執行することができる。 (5) 民事調停の利用 民事調停は、債権者債務者のいずれからも相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申立ができる。申立書、請求の価額に応じた収入印紙、決められた額の郵券、証拠書類を添えて申し立てる。申立から1ヶ月くらいで、裁判所から調停期日、場所等が記載された呼出状が送達される。 調停の場では調停委員(裁判官と民事調停委員2名以上で調停委員会が構成される)が、個別に当事者の言い分を聞き、調停委員を交えて話し合いをし、調停案を模索することになる。調停が成立すれば裁判所によって調停調書(債務名義)が作成され、申立により双方に送達される。これにより債務名義、すなわち裁判を経ずに強制執行が可能となる。 以上の通り、裁判所で行う話し合いであり、結論を強制されることはない。したがって、まとまらないときは調停不成立(不調)として手続が終わる。そして、調停終了の通知から2週間以内に訴訟を提起すれば調停申立のときに時効中断したことになり、訴訟手数料は調停手数料分を差し引くことができる。 前述したとおりあくまで裁判所で行われる話し合いであるので、双方が合理的に話し合いができるような場合に適する。 (6) 民事訴訟の利用 債権回収の最終的かつ本格的手続である。判決が確定すれば、短期消滅時効の債権でも確定から10年間の時効に延長される。 どのような場合でも利用できる「最後の受け皿」とでも言うべき手続であるが、本格的な手続であることから欠点は時間、手間、費用がかかることである。判決の確定により債務名義、すなわち強制執行が可能となる。 訴えの目的物の価額が、140万円以下は簡易裁判所、140万円超は地方裁判所の管轄となる。 原則として管轄裁判所は被告の住所地を管轄する裁判所であるが、金銭債務は通常持参債務であるので、債務の履行地、すなわち債権者の住所地の裁判所にも管轄があることに注意する。 自社の住所地で裁判ができれば極めて有利であるからである。 (7) 少額訴訟制度を利用した債権回収方法 民事訴訟がいかなる場合にも利用できる手続であると述べたが、実際には主として費用の点から請求額が少額の場合には救済が不十分であった。そこで手続などを簡略化して少額の場合の救済を設けたものである。 ① どのような事件に利用できるか 訴額60万円以下の金銭支払を請求の目的とする事件に限られる。一人の原告につき、同一簡易裁判所、同一年内に計10回まで利用でき、手続を利用するときは、訴訟提起時にその旨を申述してその年の利用回数を届け出なければならない。利用回数の虚偽届出には過料の制裁がある。 ② 通常訴訟との対比 原則として第1回期日で審理を完了する。当事者は第1回期日までにすべての攻撃防御方法を提出する。即時に証拠調べができる証拠に限って調べる。証人尋問は宣誓不要、尋問事項書の提出不要、電話会議システムによる証人尋問可能、その場合はファクシミリで書証提出可能等の簡略化が図られている。 ③ 判決の柔軟性、その他 原則として口頭弁論終結後直ちに判決を言い渡す。認容判決(原告勝訴の判決)の場合、事情により、3年以内の支払期限猶予または分割払いを定めることができる。分割払いの場合、遅滞無く元本を完済したときは、訴訟提起後の遅延損害金の免除を定めることもできる。認容判決には職権で仮執行宣言を付す。 判決には異議申立(2週間以内)のみが認められ、異議審では通常手続により審理・裁判される。 (了)
《速報解説》 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」等の公開草案について ~品質の高いエクイティ・ファイナンスを支援・促進するための原理・原則を取りまとめ。パブコメ後10月に正式決定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年8月26日付で、日本取引所自主規制法人から下記①の公開草案が公表され、また、平成26年9月3日付けで、東京証券取引所から②の公開草案が公表された。それぞれの公開草案は意見募集がなされている。 ①「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」は、プリンシプル・ベースのアプローチの考え方を基礎にして、尊重されるべき原理・原則(プリンシプル)を「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)として取りまとめている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」 1 基本的な認識 現状において、次の問題意識がある。 そこで、ルール・ベースのアプローチに加え、プリンシプル・ベースのアプローチを組み合わせることが有効であると考えられた。 「プリンシプル・ベースのアプローチ」とは、上場会社や市場関係者が、尊重すべき重要な規範や行動原則(プリンシプル)を確認し、互いに共有したうえで、各自がそのプリンシプルに沿って行動することを通じて、市場全体の質的向上の実現を目指す取組みである(「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」2ページ)。 2 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案) エクイティ・ファイナンスのプリンシプルとして、次の事項が述べられている。 より詳細な部分の記述に関しては「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)をお読みいただきたい。 Ⅲ 「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」 ライツ・オファリングについては、業績が悪く公募や第三者割当等での資本調達が困難な会社が、最後に残された手段として利用しているとの懸念があるなど、問題が指摘されている。 【改正案】 新株予約権証券(ノンコミットメント型ライツ・オファリングに係るものに限る)の上場については、既存の上場基準に加え、次の(1)及び(2)のいずれの基準にも適合することを要するものとする。 Ⅳ 適用時期 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」は、平成26年10月を目途に正式決定する予定である。 また「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」は、平成26年10月から実施する予定である。ただし、「新株予約権証券の上場日は、行使期間の初日以降の日とします。」との規定については、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行の日からの実施が予定されている。 (了)
《速報解説》 JICPAから「ジェンダー・ギャップに関する取組(研究報告)」が公表 ~日本企業の「職場における男女格差」に関する調査結果が明らかに~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年9月3日付けで、 日本公認会計士協会は「CSR報告書に見る企業のジェンダー・ギャップに関する取組」(経営研究調査会研究報告第54号)を公表した。 女性の社会での活躍促進に関連する最近の公表物としては、次のものがある。 研究報告第54号では、公認会計士として業務上知っておくべき事項であり、企業の長期的な成長に当たって参考となる事項として、ダイバーシティにおける重要なテーマであるジェンダー・ギャップを取り上げている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 いわゆる「ジェンダー・ギャップ」とは、「職場における男女格差」をいい、研究報告第54号は、ジェンダー・ギャップを解消するための取組は、人権尊重に関わるものと述べている。 研究報告第54号は、ジェンダー・ギャップの解消については、企業はもとより公認会計士も業務上理解しておく必要があるとし、日本企業の職場におけるジェンダー・ギャップに関する取組の現状と課題について情報提供するために、調査を行い、今後の課題を検討している。 1 調査結果 取組状況及び情報開示に関する調査に関して、次表のように述べられている。 詳細な調査結果については、研究報告第54号の本文をお読みいただきたい。 2 女性役員数と業績との関係に関する調査 研究報告第54号は、女性役員数と業績との関係について、日本経済新聞社のウェブサイトに公開されている売上高ランキング(2013年3月6日時点)の上位100社(金融機関を除く)を対象として、これら企業の有価証券報告書データを基礎とする調査を行っている。 各社の女性取締役比率の2010年度及び2012年度の平均値に基づく女性取締役の有無を調べ、女性取締役のいる企業といない企業とに分けて同期間における自己資本利益率の平均値及び売上高経常利益率の平均値との相関関係について調査している。 調査対象100社のうち、2010年度と2012年度の少なくともどちらかで女性取締役の存在が読み取れる企業は28社であり、読み取れない企業は72社であった。 調査結果は次のとおりである。 3 課題と今後に向けて 企業に対して今後求められる事項として、次のものをあげている。 (了)
2014年9月4日(木)AM10:30、Profession Journal No.84 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
monthly TAX views -No.20- 「アベノミクスと『所得格差・資産格差』」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 世界的に、所得格差、資産格差を論じた書物と論文が大きな注目を浴びている。 1つはフランスの経済学者トマ・ピケティが書いた『21世紀の資本論(原題:Capital)』であり、先進諸国の資産と所得のデータを集めて分析した経済歴史書であるが、フランスよりも米国においてベストセラーとなった。 本書の論理は簡単・明瞭で、 というものである。 本書はさらに、重要な指摘をしている。 それは、人口減少社会では、時代を経るにつれ、前世代の形成した富が世代を超えて引き継がれるから、資産の不平等が拡大する、と主張している点である(以上「週刊東洋経済」2014年7月26日号)。 もう1つの注目は、米国のサマーズ元財務長官が14年に公表した論文「先進諸国の長期停滞論(Secular Stagnation)」である。 先進国の自然利子率が低下してきているとし、その要因として、技術革新に伴い設備投資が割安化してきたこと、人口と技術の伸びが低下してきたこと、消費性向の低い金持ちへの所得分配のシフトによる貯蓄余剰などを挙げている。 実は、この2つには共通する点がある。 それは、最近の米国を中心とした金融資本主義がもたらす「所得や資産の格差が、先進国経済停滞の一因となっている」という認識である。 サマーズによる「金持ちに富が集中すると消費が伸びなくなる」という指摘は、きわめてわかりやすい話だ。 米国では、CEOの報酬のトップ100を見ると全員10億円を超えているが、そのような莫大な金額を彼・彼女がすべて「消費」することは考えられない。生活に必要なお金以外は、金融資産(や実物資産)に再投資するだろう。 つまり、消費性向の低い金持ちに所得や富が集中すれば、社会全体の消費が停滞し、需要不足になるということである。 このように、ピケティとサマーズは、同じような視点から、所得・資産の再分配政策が重要であると主張しているのである。 ではこれに対する処方箋、具体的政策はどうか。 ピケティは、世界が協調してグローバルレベルで資産への累進課税を主張する。その前提として、タックスヘイブンを含んだ資産情報の透明性の確保が必要という。 リーマンショック以降、OECDを中心に情報交換は加速しており、1、2年のうちに先進諸国間で自動的な情報交換が始まる。しかし、タックスヘイブンまで巻き込んだ情報の透明性の確保には、相当の困難が予想され、時間がかかるだろう。 一方サマーズは、職業教育の拡充、企業の技術革新力の強化、低金利政策、インフラ投資の増強などオーソドックスなマクロ政策を挙げる。 ピケティは「資本主義と民主主義とを同じものだと考える人が多いが、資本主義の下でできた格差を是正することは、民主主義によってしかできない」と指摘している。 わが国でも、子どもの貧困率が上昇しているという事実が厚生労働省の調査で明らかにされてきた。 ここでの問題は、子どもの貧困は貧困の連鎖を生み、社会に大きな亀裂を生み出すということである。 それは、アベノミクスに欠けている視点でもある。 (了)
《編集部レポート》 個人事業主に対する事業承継税制の創設を要望 ~経済産業省、生産等設備投資促進税制の廃止を含む27年度税制改正要望を公表~ Profession Journal 編集部 平成27年度税制改正に向け各省庁からの税制改正要望が出揃ったが、その中でも注目が集まるのが経済産業省。わが国経済の活性化に向けて、経済産業省から出された要望項目を概観すると、下記のとおりだ。 〇法人税実効税率の引下げ~中小企業者等の法人税率の特例の拡充 法人税減税については、今年6月に閣議決定された、いわゆる骨太の方針で「数年で法人税実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」としたことを反映したもので、減税効果により税収減となることから、その対応措置として浮上したのが⑦の生産等設備投資促進税制等5制度の廃止だ。 生産等設備投資促進税制(措法42の12の2)とその中小企業向けの中小企業者等の生産等設備投資促進税制(措法42の12の3)は平成25年度税制改正で創設されたものだが、その適用期限である26年度をもって廃止とする考えだ。制度廃止で1,050億円のカットを見込んでいる。 廃止要望がされているのは、他に会社分割に係る登録免許税の軽減措置(措法81)、アジア拠点化のための法人税制に係る税制措置(措法61)、陶磁器製造業の軽油取引税の課税免除の特例措置(地法附則12の2の7)など。 この法人税減税に合わせて、中小企業者等に対する法人税率の特例も引き下げたい、としている。 (※) 経済産業省ホームページ 〇個人事業者の事業用資産に係る事業承継時の負担軽減措置の創設等 事業承継税制関連で目を引くのが、制度創設を求めている個人事業者に対する措置だ。 これまで個人事業主に対しては、特定事業用の小規模宅地特例が用意されているものの、どちらかというと、おざなり感があったが、来年度改正では製造用機械や工場設備等の事業用資産を、一定要件の下に後継者に生前贈与した場合には、贈与者の死亡時に発生する相続税の軽減する措置を創設したいとしている。 (※) 経済産業省ホームページ 〇非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度の拡充 事業承継税制では、25年度改正で非上場株式等についての納税猶予制度の拡充が行われ、来年の1月より施行されるが、これの追加措置として、贈与の場合の特例措置の拡充が盛り込まれている。 非上場株式等の納税猶予制度では、納税が猶予されるパターンは、 というものであり、株式のシフトについては先代の相続開始に伴う相続特例の適用が不可欠であった。 しかし、先代の存命中に2代目から3代目へのシフトを行うとした場合には、このパターンに当てはまらずに納税を余儀なくされることが問題視されていた。 この点が早期の事業承継を阻んでいるという認識の下に、先代から2代目への株式贈与の際に事業承継税制の適用を前提として、先代が存命であっても、2代目から3代目への贈与にあたっても納税猶予を継続させる仕組みを作るよう要望している。 (※) 経済産業省ホームページ (了)
《編集部レポート》 空家の除却等を促進させるための土地に対する固定資産税強化を要望 ~国土交通省、平成27年度改正に向け改正要望を公表~ Profession Journal 編集部 年度改正で経済産業省に並び税理士業務に大きな影響を与える要望を提出するのが国土交通省だ。 来年度改正に向けた同省の要望項目を概観すると、下記のようになる。 〇住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等の延長・拡充 今年末に適用期限が到来する直系尊属からの住宅取得資金贈与の特例(措法70の2)については、3年間の延長に加えて、今年度では省エネ又は耐震性が高い住宅に対する最大1,000万円であった非課税枠について、3,000万円への引上げを要望している。 この背景には、消費税率10%への引上げに伴う住宅購入の落ち込みと、高齢者層の多額な貯蓄残高に着目して、それを吐き出させることで経済の活性化を図る狙いだ。 (※) 国土交通省ホームページ 〇買取再販で扱われる住宅の取得に係る非課税措置の創設 住宅税制については、新たな制度創設を目論むのが、リフォーム業者等が質を向上させるために取得した中古住宅を再販売した場合に、その買取再販売事業者が取得する際の不動産取得税を非課税とする制度の創設だ。 今年度改正では、同様の仕組みでリフォームされた住宅の取得者に対して登録免許税の所有権移転登記に係る登録免許税が軽減されている(0.1%:本則2%、一般住宅特例0.3%。措法74の3)ため、本改正とセットにすることで、欧米に比べて規模が小さいとされる中古住宅の流通やリフォーム市場を活性化させたい、としている。 (※) 国土交通省ホームページ 〇空家の除却等を促進するための土地に係る固定資産税に関する所要の措置 全国的に増加が伝えられている空家については、防犯や火災発生の観点、そして老朽化に伴う倒壊の危険や景観の悪化などの問題点が指摘され、その対策が求められている。 これを受けて次の臨時国会では「空家等対策の推進に関する特別措置法案」が審議される予定だが、そこに盛り込まれる税制上の措置が空家に対する固定資産税の取扱いだ。 これまで空家のまま放置される住宅用地に対して固定資産税の課税標準の軽減措置が設けられている(地法349の3の2)ことから、建物を除却すると固定資産税が跳ね上がることとなるため、それがネックとなっている。 こうした状況に対して、同特別措置法案では、建物を自主的に撤去した所有者に対して、住宅用地と同様に扱う固定資産税の軽減措置が講じられ、建物の除却で課税強化となるはずの固定資産税を一定の期間免除するなどの手当てが予定されている。 (※) 国土交通省ホームページ (了)
《編集部レポート》 金融庁、ジュニアNISAの創設を要望 ~金融庁、文部科学省、厚生労働省の注目改正要望をチェック~ Profession Journal 編集部 平成27年税制改正に対する各省庁からの改正要望のうち、経済産業省、国土交通省以外の省庁から出された注目の要望項目をピックアップしてみよう。 〇若年齢層向けNISAの創設で高齢者から若年層への資産シフト狙う~金融庁 金融庁からは、現行のNISAに関して年間投資上限額の引上げ(100万円から120万円)が要望されているが、この他に「ジュニアNISA」を盛り込んでいる。 ジュニアNISAだが、イギリスが2011年から開始しているものをモデルとしており、親や祖父母等が0~17歳の若年層に対してジュニアNISA口座を開設し、年間80万円を限度に投資を行うとともに運用管理をするもの。本人による口座からの払出しは18歳以降から可能とし、その間に途中払出しをする場合には過去の利益に対して課税するとしている。 ジュニアNISAの創設により、若年層の投資家への裾野を広げ、また高齢者からの資産移転も促したい考えだ。 本要望が制度化されれば、最大で「年80万円×18年(0~17歳)=1,440万円」が無税で贈与可能となることから、昨年度改正の教育資金贈与特例と同様の効果が得られる相続税対策としても期待されるが、教育資金贈与特例が贈与税の基礎控除とは別建てであったのに対して、本制度は80万円という投資限度額は基礎控除に加味される制度設計だ。 なお、教育資金贈与特例とは異なり、本制度では贈与者の範囲について直系尊属などの制限を設けることは想定していないとしている。 ジュニアNISA利用は18歳以降20歳未満まで可能であるが、この2年間は本人自身が口座開設を行い、投資は本人の手持ち資金を利用し、20歳以降は現行のNISAへ自動的に引き継がれることになる。 (※) 金融庁ホームページ 〇教育資金贈与特例で直系尊属以外からの贈与も可能に~文部科学省 上記のとおり、高齢者に遍在する膨大な金融資産のシフトを促進させたのが、教育資金贈与特例(措法70の2の2)だ。信託協会がまとめた26年6月末現在の受託状況によると、教育資金贈与信託の契約数は76,851件、信託財産設定額合計は5,193億円に上るという活況をみせている。 文部科学省は、同特例の贈与者の範囲の要件が直系尊属に限られていることについて、祖父母や両親以外の者からの贈与についても非課税の対象とするよう求めている。 また、現行の特例の対象となる学校等の入学金や授業料、そして習い事に関する費用などの支出の範囲についても拡大させるとともに、来年末に適用期限を迎える本制度の恒久化も要望している。 (※) 文部科学省ホームページ 〇「若者育成認定企業」に対する割増償却制度の創設を要望~厚生労働省 現在、厚生労働省は、就職準備段階から就職活動段階、就職後のキャリア形成に至るまでの若者雇用対策が社会全体で推進されるための総合的な対策として「若者雇用対策法(仮称)」を次期通常国会に提出するよう準備を進めているが、それをバックアップする税制措置が「若者育成認定企業(仮称)」の創設だ。 若者育成認定企業とは、若者(35歳未満程度)の採用・育成に積極的であり、通常の求人情報よりも詳細な企業情報・採用情報を積極的に公表し、離職率や所定外労働時間数等の一定の要件を満たした中小企業等を認定するもので、税制では、この認定企業が取得等した研修施設等の建物やOA機器等の設備についての割増償却制度を創設するというもの。 認定を受けた中小企業等への人材確保・育成の取組みを支援することによって、中小企業等への若者の定着を促し、中長期的成長を促進する上で極めて重要との観点から要望されている。 (※) 厚生労働省ホームページ (了)
有料老人ホームをめぐる 税務上の留意点 【第1回】 「『老人ホーム』の種類と特徴」 税理士 齋藤 和助 1 公的施設の老人ホーム 公的施設の老人ホームには、次の5種類がある。 (1) 特別養護老人ホーム(特養) 介護保険制度上では「介護老人福祉施設」といい、「要介護1」から「5」までの人が利用できる(平成27年4月から「要介護3」以上になる予定)。 職員は入所者3人に対して1人が定員基準となっており、常に介護が必要な寝たきりや認知症等の自宅での生活が困難な人が利用できる。 「特養」は入居一時金がかからず、月額費用(部屋代除く)は約5~6万円(食費、雑費、介護保険の1割負担)で、民間の介護施設と比べて割安である。 現在51万人が利用しているが、同じく51万人の人が入所待ちの状態である。 (2) 介護老人保健施設(老健) 上記(1)の「特養」と同じく、「要介護1」から「5」までの人が利用できる。 「老人ホーム」と「老人病院」の双方の機能をもつ中間的な施設であり、介護保険制度に位置付けられている。そのため、ある程度リハビリ等を行った後、退院を勧められる。したがって、終のすみかとはならない。 「老健」は「特養」の待機場所にもなっており、入居期間の目安である3ヶ月ごとに「老健」を移り住む人もいるのが現状である。 「老健」は入居一時金がかからず、月額費用(部屋代除く)は約6~7万円(食費、雑費、介護保険の1割負担)である。 (3) 介護療養型病床 高齢者の慢性的疾患など完治する見込みが少ない病気等の治療を行い、生活を維持していくことを目的とした医療機関である。介護保険制度上では「介護療養施設」という。 外国の病院と比べた際に日本の病院の平均在院日数の長さが問題とされ、平成29年度末までに介護療養病床を廃止し、「新型老健(介護療養型老人保健施設)」へ移行する予定である。 介護療養型病床は入居一時金がかからず、月額費用(部屋代除く)は約10万円(食費、雑費、介護保険の1割負担)である。 (4) 軽費老人ホーム(ケアハウス) 基本的には家庭の事情、住宅事情等で家族との同居が困難又は現在の住居において生活することが困難な人で、60歳以上の人又は夫婦の場合はどちらかが60歳以上の人が入居対象となる。 食事や生活上の世話等日常生活に必要な便宜を受けることができる老人福祉施設であり、「自立型」と「介護型」がある。 軽費老人ホームでは、入居一時金は保証金・敷金などが必要なケースもあり、月額費用は「自立型」で約7~13万円(事務費、生活費、管理費)、「介護型」で約16~20万円(事務費、生活費、管理費、上乗せ介護費、介護保険の1割負担)である。 (5) 養護老人ホーム 家庭環境や経済的な理由により自宅で生活することができない65歳以上の高齢者を受け入れる施設である。 介護保険の対象外の施設であるため、要介護度がなくても入所できるが、基本的には自立した生活を営める程度の健康状況が求められる。 もともとは生活保護法の施設の流れをくんでいるため、主に生活困窮者を対象にしており、入所費用がゼロの人もいる。自治体ごとに入所費用が異なるが、おおむね上限は10万円程度である。 2 民間施設の老人ホーム 民間施設の老人ホームには、次の3種類がある。 (1) 有料老人ホーム 「有料老人ホーム」とは、厚生労働省が定める老入福祉法において、 とされている。 有料老人ホームは、民間企業が経営している例が多く、その設置には都道府県知事への届出義務がある。介護保険の適用の有無、介護サービスの内容に応じて「介護付き」「住宅型」「健康型」の3つのタイプに分けられている。 料金設定もさまざまで、入居一時金を支払う「終身利用権方式」、「賃貸借方式」、「終身建物賃貸借方式」があり、月額費用は約13~25万円(管理費、食費、家賃)である。 (2) グループホーム(認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居) 認知症のある人が家庭的な雰囲気の中で自分が有している能力を最大限発揮して、共同の生活を送るサービスを提供する施設をいう。介護保険法上は施設サービスではなく、地域密着サービスに位置付けられており、「認知症対応型共同生活介護」という。 グループホームは、施設によっては入居一時金が必要であり、月額費用は約12~15万円(管理費、食費、家賃、雑費)である。 (3) サービス付高齢者向け住宅(サ高住) サービス付高齢者向け住宅は、高齢者の居住の安定確保に関する法律で定められた制度で、平成23年10月20日に施行された。 サービスとしては、安否確認・生活相談サービスを提供することとなっている。食事等の提供がある場合は、有料老人ホームの分類となるため、特定施設入居者生活介護の指定を受けることとなるが、基本的には介護保険の対象外施設となっている。 「サ高住」は、新築にあたり、融資制度や所得税・法人税等についての優遇制度があるため、地主が建てて、民間企業、社会福祉法人、医療法人などが一括借上げし、運営しているところがほとんどである。 「サ高住」は、家賃の2ヶ月程度に当たる数十万円の敷金で入居できるのが一般的であり、月額費用は、おおむね10~30万円程である。さらに、必要に応じて介護費用(1割負担)がかかる。 3 老人ホームの現状 上記でみるように、一言で「老人ホーム」といっても様々な種類のものがある。その中で「終のすみか」となる介護保険対象施設は「特養」と「有料老人ホーム」だけである。 ただし「特養」は入所待ちが51万人と、いつ入居できるかわからないのが現状である。 有料老人ホーム等の民間施設に対するニーズは高まるばかりである。 * * * 次回は「有料老人ホームにおける法人税実務のポイント」についてみていく。 (了)
平成26年度税制改正における 消費税関係の改正事項 【第3回】 「簡易課税制度のみなし仕入率の見直し③ (個人事業者の適用関係)」 税理士 金井 恵美子 シリーズの第3回は、簡易課税制度のみなし仕入率の見直しについて、個人事業者の適用関係を整理してみよう。 1 適用時期 改正後のみなし仕入率は、平成 27 年4月1日以後に開始する課税期間について適用される(改正消令附則4)。 個人事業者の課税期間は、課税期間の特例を選択しない限り暦年である(消法19①一)。したがって、原則として、平成28年から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 ただし、平成 26 年 10 月1日前に簡易課税制度選択届出書を提出した事業者でその課税期間につき簡易課税制度の強制適用を受けるものについては、簡易課税制度の適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の末日の翌日以後に開始する課税期間について改正後のみなし仕入率が適用される(改正消令附則4)。 2 適用時期に関するケーススタディ(個人事業者:不動産業の場合) (1) 個人事業者が平成26年から簡易課税制度を適用している場合 個人事業者が平成26年から簡易課税制度を適用している場合には、経過措置の適用はなく、平成28年から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (2) 個人事業者が平成26年9月30日までに簡易課税選択届出書を提出し27年から簡易課税制度を適用する場合 平成26年9月30日までに簡易課税制度選択届出書を提出した場合は、その届出により簡易課税制度の適用が強制される課税期間においては、改正後のみなし仕入率は適用されない。 したがって、個人事業者が、平成26年9月30日までに簡易課税選択届出書を提出し、27年から新たに簡易課税制度を適用する場合は、平成29年から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 (3) 個人事業者が平成26年10月1日以後に簡易課税選択届出書を提出し27年から簡易課税制度を適用する場合 平成26年10月1日以後に簡易課税制度選択届出書を提出しているため、経過措置の適用はなく、強制適用期間であるかどうかにかかわらず、平成28年から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 なお、課税期間を短縮する特例を適用している場合には、1ヶ月ごと短縮又は3ヶ月ごと短縮のいずれにおいても、平成27年4月1日に開始する課税期間から改正後のみなし仕入率を適用することとなる。 3 今後の改正の方向~複数税率制度導入との関係~ (1) 複数税率制度 消費税率の引上げは、社会保障・税一体改革における税制面の柱であり、これを定める税制抜本改革法は、その7条において、消費税率の引上げにより負担が増す低所得者に配慮した施策を検討するものとしている。 これを受け、平成26年度与党税制改正大綱は、「消費税の軽減税率制度については、『社会保障と税の一体改革』の原点に立って必要な財源を確保しつつ、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する」旨を掲げた。 この提案は、EU諸国の付加価値税が、高い標準税率にあって食料品等を中心に軽減税率を適用していることに倣ったものと思われる。フランス、ドイツ、イギリスに代表されるEU諸国の付加価値税は、その始まりから複数税率制度を採用している。ただしこれは、付加価値税の逆進性の緩和、あるいは低所得者のための施策というよりは、付加価値税の前身が取引高税であることに由来するところが大きい。 消費税が持つ逆進性は、複数税率制度によって補うことはできないと結論付ける研究者は多く、軽減税率は、低所得者対策としての効率が悪く、その適用範囲の設定が難しい、税収確保のために標準税率をさらに引き上げる必要が生じる、事業者の事務負担が増すなど、消費課税制度を歪める多くの問題が指摘されている。公平、簡素、中立という消費税の長所は、単一税率制度によってもたらされているからである。 しかし、軽減税率の設定は、消費生活に配慮した施策を講じているというメッセージ性が高く、多くの消費者の支持を得ていることから、現在、与党税制協議会は、複数税率制度への移行に向けて具体的な検討を行っており、平成26年6月5日、そのたたき台として、「消費税の軽減税率に関する検討について」を公表した。 (2) 複数税率制度と簡易課税制度 「消費税の軽減税率に関する検討について」においても指摘されているが、複数税率制度へ移行すると、簡易課税制度はその名に反して極めて煩雑な制度になるものと考えられる。現行の単一税率にあって、簡易課税制度のみなし仕入率は6区分となったが、複数の税率が存在することになれば、それぞれの事業区分の内に、適用される税率の度合いを加味した細区分を設ける必要がある。例えば、ドイツには日本の簡易課税制度に当たる平均率制度があるが、その平均率は、40業種に細分化されている。 また、複数税率制度への移行に伴ってインボイス方式に転換した場合には、簡易課税制度は必要がなくなるとする意見もある。しかし、インボイス方式においては、インボイスを発行することができない免税事業者が取引から排除される可能性があり、小規模の事業者がインボイスを発行するために課税事業者を選択するという場合が考えられる。そうすると、かえって、事務能力に乏しい小規模事業者のための簡便な計算という簡易課税制度の意義が鮮明になるだろう。 (了)