酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第18回】 「建替え建築は『新築』か『改築』か?(その3)」 ~住宅借入金等特別控除と借用概念~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 前回の内容 建替え建築が住宅ローン控除の対象となる「改築」に該当するか否かが争点とされた事例において、静岡地裁平成13年4月27日判決は、「措置法41条にいう『改築』の意義については建築基準法上の『改築』と同一の意義に解すべきである。」とする。 すなわち、措置法41条の「改築」とは、建築基準法にいう「改築」と同様に、「用途、規模、構造において著しく異ならない建築物を造ること」と理解した上で、本件建築にこの「改築」概念を当てはめたところ、「改築」とはいえないと断じたのである。 これはYが主張する見解と同様であり、課税処分は適法と判示されたのである。 これに対して、Xは控訴した。 Ⅵ 控訴審東京高裁判決の要旨 東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)は、次のように判示した。 このように、東京高裁は、「改築」という概念の理解をするに当たって、そもそも建築基準法が前提とされているかどうかという点について、懐疑的な姿勢を見せている。 私法準拠という考え方を基礎に借用概念を考えるとしても、また予測可能性を担保することが要請されるという文脈で借用概念を考えるとしても、私法からの借用ということが借用概念論の前提にあるとすれば、東京高裁の考え方には理があるというべきであろう。 このような説示の上で、同高裁は、措置法41条の「改築」を建築基準法の「改築」と同義に解すべき実質的な理由があるか否かについて、次のように検討する。 このように建築基準法において「改築」が用途、規模、構造によって画されているのは、同法に特有の理由があるからであると論じている。この点が同高裁判断のポイントになる。 このように、東京高裁は、本件特別控除の適用において、「用途」「規模」「構造」によって、改築に該当するかどうかを判断する合理的な理由はないとする。それどころか、「むしろ、構造について先に検討したところからすると、建築基準法の概念を借用することは、優良な住宅ストックの確保という措置法の本来の目的に反する結果をもたらすとさえいえるのである。」と論じているのである。 Yは、控訴審において、本件特別控除は、その創設時においては「新築」のみを適用の対象としており、その際「新築」が建築基準法からの借用概念であったから、後に適用の対象とされた「改築」も建築基準法からの借用概念であると主張していた。そして、本件特別控除の創設時において対象とされた「新築」が建築基準法からの借用概念であった理由として、建築基準法上の通知書が本件特別控除適用のための添付書類とされていたことを指摘していた。これに対して、東京高裁は次のようにYの主張を排斥した。 「改築」が建築基準法からの借用概念か否かについての結論は次のとおりである。 ところで、東京高裁がいうように、建築基準法からの借用概念ではないとすると、固有概念ということになるのであろうか。租税法上の概念には、借用概念と固有概念しかないと考える見地を二分論というのに対して、それ以外に「一般概念」たるものがあるとする考え方が三分論である。 同高裁は、この点につき、三分論に立って、次のように論じている。 そして、一般概念の理解として、東京高裁は次のように断じている。 Yは、「改築」を社会通念上の用法に従って解釈することになると、「改築」に該当するかどうかを一義的に解釈することが不可能になり、税務実務に大きな支障が生じ、かつ租税負担の公平に反する結果をもたらすことになりかねないと主張していた。 この点については、東京高裁は次のように判断し、Yの主張を斥けている。 Ⅶ まとめ 上記のように、東京高裁判決は、二分論ではなく三分論に立って、一般概念として措置法41条にいう「改築」を理解している。 このような判断は、法律には法律の趣旨目的があるのであって、租税法上の概念を理解するに当たっては、そのような趣旨や目的を無視して、単に、借用概念であるとしてこれを他の法律と同様の意義に解するとすることに対する疑問を提示したものともいえよう。 このような考え方は、前回紹介した目的適合説の理解に近いものであるが、法律の趣旨や目的を考慮に入れるとした場合に、そもそも検討している「他の法分野」が公法であるのか、あるいは私法であるのかという点は極めて重要であると考える。 すなわち、公法の場合は私法とは異なり、「法条」そのものが特別の公法上の目的に基づいて構築されることが多いのであるから、当該法条に使用されている概念の意味についても、当然にかかる目的の制約を受けることを念頭に置く必要があると思われるのである。 ここで取り上げた東京高裁判決は、機械的、無批判的あるいは無制限的な借用概念論に対する警鐘を鳴らしたものとみることができよう。 (了)
〈条文解説〉 地方法人税の実務 【第1回】 「法人税割の税率変更と地方法人税の創設」 税理士 小谷 羊太 税理士 伊村 政代 Ⅰ 概要 平成26年度税制改正の一環として、地域間の偏差性を是正し、財政力格差の縮小を図ることを目的として、法人住民税法人税割の税率が引き下げられ、地方交付税の財源確保のための地方法人税が創設されることになった。 この改正は、平成26年10月1日以後に開始される事業年度から適用される。 本連載では、地方法人税法の条文構成に準じ、その取扱いを解説する。 Ⅱ 法人住民税法人税割の税率 改正前と改正後の法人税割の税率は次のとおりである。 改正後の税率は、平成26年10月1日以後に開始される事業年度から適用される。 Ⅲ 地方法人税の創設 1 法律案における創設趣旨 地方法人税法(法律案概要)によると、平成26年度税制改正の一環として、法人の道府県民税及び市町村民税の法人税割の税率の引下げにあわせて、地方団体の税源の偏差性を是正してその財源の均衝化を図ることを目的として、地方交付税の財源を確保するために地方法人税が創設された。 2 地方法人税法の条文構成 地方法人税法の条文は、次のように構成されている。 3 納税義務者 地方法人税を納めるべき納税義務者は、法人税を納める義務がある法人である。 つまり、法人税法に定める法人税の納税義務者が、地方法人税の納税義務者となる。 4 課税事業年度 法人の各事業年度が、地方法人税の課税事業年度となる。 5 課税対象及び課税標準 地方法人税の課税対象は、基準法人税額となる(詳細は次回以降に解説)。 また、各課税事業年度の課税標準法人税額を課税標準とし、課税標準法人税額は基準法人税額を使用することとなっている。 なお、基準法人税額とは、各事業年度の所得の金額につき、所得税額控除、外国税額控除などの法人税額の控除に関する規定を適用しないで計算した法人税の額である。 つまり、一定の計算による基準法人税額を課税標準法人税額として、地方法人税の計算を行うこととなる。 6 税額の計算 上記5による課税標準法人税額に、4.4%の税率を乗じて計算する。 (了)
中小法人の〈交際費課税〉 平成26年度改正のポイント 【第3回】 (最終回) 「新しい申告書別表15の書き方と計算例」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成26年度税制改正において、消費税率の引上げに伴う景気後退を防ぐ施策として、交際費課税の見直しが行われた。 本連載は中小法人向けに、第1回ではこの改正のあらましについて、第2回ではこの改正によって生じた実務上の疑問点についてそれぞれ解説を行った。 最終回となる第3回は、交際費等の損金算入額の計算例と、この改正に対応した新様式の別表15の書き方について解説する。 ◆ ◆ ◆ 本稿の解説においては、「年間800万円まで全額損金算入」と「接待飲食費の50%損金算入」を選択適用できる中小法人を前提とする。具体的には、資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)である。 このような中小法人においては、第2回で解説したとおり、接待飲食費(5,000円基準を満たすものは除く)が年間1,600万円を超える場合は、「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が有利となる。 したがって、以下では接待飲食費が年間1,600万円を超える場合とそうでない場合について、計算例と別表15の書き方を解説する。 また実際には、接待飲食費が1,600万円にせまるどころか、交際費等(5,000円基準を満たすものは除く)の合計でも800万円に届かない中小法人が多いと考えられる。 このような法人における計算例と別表15の書き方も最後に解説しておく(事例3)。 [事例1] 接待飲食費が年間1,600万円(5,000円基準を満たすもの除く)を超えない場合 当事業年度の交際費等の状況が、次のとおりであったとする。 この場合、まず「5,000円基準」を満たす接待飲食費400万円は、交際費等から控除されて全額損金に算入される。 それ以外の交際費等については、次のとおりである。 したがって、「年間800万円まで全額損金算入」を選択した方が損金算入額が大きくなり有利なので、こちらを選択することになる。 最終的に、別表調整が必要となる損金不算入額は次のとおりである。 これを別表15に記載すると、次のとおりである。 【記載例】 別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 [事例2] 接待飲食費が年間1,600万円(5,000円基準を満たすもの除く)を超える場合 当事業年度の交際費等の状況が、次のとおりであったとする。 この場合、まず「5,000円基準」を満たす接待飲食費500万円は交際費等から控除され全額損金に算入される。 それ以外の交際費等については、次のとおりである。 したがって、「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が損金算入額が大きくなり有利なので、こちらを選択することになる。 最終的に、別表調整が必要となる損金不算入額は次のとおりである。 これを別表15に記載すると、次のとおりである。 【記載例】 別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 [事例3] 交際費等(5,000円基準を満たすものは除く)の合計でも800万円に届かない場合 当事業年度の交際費等の状況が、次のとおりであったとする。 この場合、まず「5,000円基準」を満たす接待飲食費100万円は交際費等から控除され全額損金に算入される。 それ以外の交際費等については、次のとおりである。 したがって、「年間800万円まで全額損金算入」を選択した方が損金算入額が大きくなり有利なので、こちらを選択することになる。 最終的に、次のとおり損金不算入額は0円となるので、別表調整は不要となる。 これを別表15に記載すると、次のとおりである。 【記載例】 別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (連載了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第3回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)③」 公認会計士 佐藤 信祐 法人税法132条の2の意義【争点1】についての当事者の主張については前回解説した通りであるが、本事件においては、施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について、法132条の2の規定に基づき否認することができるか否か【争点2】という論点についても、被告の主張と原告の主張が真っ向から対立しており、非常に興味深い。 第3回目に当たる本稿においては、【争点2】についての当事者の主張についてそれぞれ検討を行うこととする。 (6) 施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について、法132条の2の規定に基づき否認することができるか否か(争点2)についての当事者の主張 ① 被告の主張 当該特定役員引継要件が、合併の前後の合併法人と被合併法人の事業の状況を対比していることからして、相当程度の期間、被合併法人の経営に携わる重要な地位に就いて、同法人が持つ独自の強みを築き上げることに貢献した者(すなわち合併後も被合併法人の持つ独自の強みを体現していると見ることのできる者)が、合併後も特定役員に就任して経営に参画することで、被合併法人の独自の強みを生かしてその事業を推進していくものとして、合併前後の双方の特定役員が共同で事業を継続して営むことを想定したものであると捉えなければならない。 施行令112条7項5号の特定役員引継要件が設けられた趣旨・目的を踏まえれば、もともと特定役員引継要件を満たし得ない合併について、合併の直前の時期に、合併法人の特定役員を被合併法人の特定役員に形式上兼任させて、特定役員引継要件を充足したことにするのは、不合理・不自然というべきである。そして、このような形での「要件作り」が、みなし共同事業要件の立法趣旨を著しく逸脱するものであり、これに法132条の2が適用され、未処理欠損金額の引継ぎが否認される可能性があることは、一般の納税者にとっては十分に予測可能というべきであり、納税者の予測可能性及び法的安定性を害するものではないことは明らかである。 本件副社長就任は、組織再編税制の個別規定を形式的に充足させることを主たる目的とした行為であり、本件副社長就任を容認すれば、当該規定の趣旨・目的に著しく反する結果となる。したがって、本件合併に至るまでの一連の行為における本件副社長就任は、組織再編税制における法制度を濫用して税負担の軽減を図る行為であって、法132条の2の適用上、法人税の負担を不当に減少させる結果をもたらすと評価されるべきである。 ② 原告の主張 B社取締役会の機会に乙氏から本件副社長就任の要請を受けた丙氏は、同日、乙氏に対し、本件副社長就任を承諾する意思を伝えた。その理由は、第一に、B社の取締役としての立場から、本件副社長就任を受ければ、乙氏の期待に応え、クラウドコンピューティングを含むC社へのインターネットビジネスのノウハウの提供、同事業分野における原告との協業をC社の内部から実行することのみならず、C社の既存のデータセンター事業においてもやはりC社内部からコスト構造を改善することを通じて、株式上場に向けたC社の企業価値の向上に貢献し、B社グループの価値最大化に資することが可能であると考えたためである。また、B社取締役の中でインターネットビジネスの専門家として最も知見を有しており、当時、B社取締役の中で唯一データセンター事業会社(株式会社K社)の経営にも関与したことがあり、データセンターを利用してサービスを提供するL社の取締役を務めていたこともある自分しか、就任の適任者はいないという考えもあった。なお、丙氏は、原告との北九州データセンターに係る協業関係も踏まえ、C社の既存のデータセンター事業においてC社の内部からコスト構造を改善することができることは原告の代表取締役の立場からもメリットであると感じていたが、丙氏の認識は、本件副社長就任は主にB社取締役としての立場で行ったというものであった。 丙氏は、本件副社長就任後、就任の目的であったC社のコスト削減や原告との事業シナジーの追求を達成するため、取締役会への出席だけにとどまらず、C社の代表取締役であった丁氏と複数回にわたりC社の経営方針に関して会議を行うなど、経営及びインターネットビジネスの専門知識に基づき、事業計画の策定、重要な意思決定及び営業方針の決定といったC社の経営の中枢に実際に参画していたのであって、上記で述べた一般の経済社会における非常勤役付役員の職務を十二分に務めていたものといえる。 本件において、丙氏がC社取締役副社長に就任した平成20年12月26日の時点では、本件買収及び本件合併が実行されるかどうかは未定であったのである。そうである以上、本件副社長就任から特定資本関係の発生までの期間を問題にすることは、後付けの結果論にすぎない。本件副社長就任の後、原告において事業上のメリットについて真摯な検討がなされ、さらに、原告及びB社において最も重要な株式譲渡契約の条件であった譲渡価額について当事者間の対等な交渉の結果合意に達したことにより本件買収及び本件合併が最終的に実行された結果、文字どおり結果的に、丙氏の本件副社長就任から本件買収までの期間が2ヶ月程度となったにすぎない。 ③ 総括 被告の主張、原告の主張のいずれも、買収、合併に至るまでの経緯、一連のストラクチャー、副社長としての実態の有無が主張されており、本来であれば判決文の全文をご紹介したいが、本稿においては主要な箇所のみを抽出した。 概要としては、被告においては、副社長就任は繰越欠損金の引継ぎのために行われたものである主張するのに対し、原告においては、副社長としての職務遂行の実態があったことを主張しており、原告における主張はかなり細部にわたっており、副社長としての実態が存在したことを否定できない内容となっている。 すなわち、当初は繰越欠損金の引継ぎを目的として作られたスキームであったのかもしれないが、A社の代表取締役社長がC社の取締役副社長に就任するということを検討する段階で、個別に見ただけでなく、全体を見たとしても、事業目的が存在し、株式譲渡前に取締役副社長に就任するということが不自然ではないという外観を備えてしまったということも推定できる内容となっている。 このような事態が生じた理由としては、 などが推定される。 本事件の特殊性としては、B社がA社の発行済株式の過半数を保有していれば、当初からA社とC社との間の特定支配関係が継続しているため、特定支配関係が生じてから5年を経過している合併としてこのような問題は生じなかったという点である。さらに、A社とB社との間に資本関係がなければ、A社の代表取締役社長がC社の取締役副社長に就任することは、買収価格やその他の条件について交渉が行われている最中であることから、B社が容認することは想像し難い。 すなわち、買い手であるA社と売り手であるB社との間に中途半端に資本関係が存在していたからこそ、特定資本関係発生日前に取締役副社長を送り込むことにより、特定役員引継要件を満たさざるを得なかったということもいえ、さらに、「名ばかり役員」ではなく、実質的に権限を備えた取締役副社長に就任してしまったということが本事件の複雑さを増す要因となっている。 次回以降は、このような当事者の主張を受けて、裁判所がどのような判断を行ったのかについて解説を行う予定である。 (了)
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第8回】 「課税売上割合に準ずる割合を検討すべきケース① 事業部ごとに独立採算制を採用しているケース」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 〈事業部ごとに独立採算制を採用しているケース〉 課税売上割合の計算単位は原則として事業者全体であり、支店ごとや事業部ごとにそれぞれ異なる課税売上割合を適用することはできないこととされている(消基通11-5-1)。 しかし、企業によっては、事業部ごとに独立採算制を採用しているケースがあるが、その場合には事業部ごとに課税売上割合を計算しそれを「課税売上割合に準ずる割合」とした方が事業の実態に即し、かつ事業者にとっても有利となる(仕入控除税額が多くなる)ことがある。 そこで、事業部ごとに独立採算制を採用している事業者などのケースでは、各事業部の課税売上割合を計算し、当該割合を「課税売上割合に準ずる割合」として共通対応分の課税仕入れ税額に適用することが認められている(平成24年3月国税庁消費税室「『95%ルール』の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A[I]【基本的な考え方編】」問24参照)。 その際留意すべき事項は以下のとおりである。 ① 適用要件 独立採算性の対象となっている事業部門や、独立した会計単位となっている事業部門及び本支店についてのみ適用がある。 ② 適用できないケース 事業を行う部門以外の部門、例えば総務や経理といった管理部門については、この割合の適用は認められない。これは、事業を行う部門以外の部門においては、もともと売上自体が計上されないか、あっても少額であるケースが多いが、その場合、たまたま課税売上が生じて課税売上割合が100%となったり、非課税売上(預金金利など)が生じて課税売上割合が0%となったりするなど、特定の要因に課税売上割合が大きく左右されることとなり、不安定かつ不合理な結果となり得るためであると解される。 なお、広義には管理部門に分類される部門であっても、事業を行う部門、例えば財務部門などについては、この割合の適用が認められるものと考えられる。 ③ 事業を行う部門以外の部門の取扱い 総務や経理といった管理部門のように、事業を行う部門以外の部門における共通対応分の課税仕入れ税額は、その税額すべてを従業員数比率など適宜の比率により各部門に振り分けたうえで、事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合により按分する方法も認められる。 ④ 計算方法 事業部門ごとの課税売上高・非課税売上高に基づき、以下の算式により事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合を求める。 ⑤ 承認後の有利選択の不可 仮に、課税売上割合に準ずる割合が本来の課税売上割合よりも低くなり、事業者にとって不利な結果となる場合であっても、その承認を受けた事業部門における課税売上割合に準ずる割合を使用することが強制されるため、注意を要する。 また、「課税売上割合に準ずる割合」の適用の承認後は、ある事業部門の進行年度の課税売上高が5億円以下で、かつその部門の課税売上割合が95%以上であっても、95%ルールの適用は受けられず、課税仕入れ等の税額の全額控除は認められない。 ⑥ 適用例 電子部品製造業を営むB社は事業部ごとに独立採算制を採用しており、本課税期間における各事業部の課税売上割合は以下の通りであった。 【B事業部ごとの課税売上割合】 (*) 総売上高=課税売上高+非課税売上高 《本来の課税売上割合の計算》 《事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合の適用承認を受けた場合》 ◆第一事業部 ∴本来の課税売上割合を課税売上割合に準ずる割合として承認を受ける ◆第二事業部 ∴第二事業部の課税売上割合を課税売上割合に準ずる割合として承認を受ける ◆第三事業部 ∴第三事業部の課税売上割合を課税売上割合に準ずる割合として承認を受ける * * * 最終回である次回は、今回とは別の課税売上割合に準ずる割合を検討すべきケースとして、単発の土地取引があったケースについて解説を行う。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第3回】 「復興特別法人税廃止後の預金利息等に課される 復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は3月決算の会社です。前期(平成26年3月期)は、預金利息等に課される復興特別所得税を復興特別法人税から控除しましたが、平成26年度税制改正にて復興特別法人税が1年前倒しで廃止になり、当期(平成27年3月期)から復興特別法人税の申告が不要になりました。 当期の預金利息等に課される復興特別所得税の処理についてご教示ください。 預金利息等に課される復興特別所得税を“所得税”とみなし、預金利息等に課される所得税と合算して法人税から控除する。法人税から控除しきれない場合は、還付される。 以下、前期(平成26年3月期)と当期(平成27年3月期)の租税公課の金額を同額と仮定し解説する。 【参考図】 課税事業年度終了後の復興特別所得税の取扱い 出典:国税庁「復興特別法人税の改正の概要」 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【37】 〔第5章〕法令用語 (その23) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 14 不確定概念と宥恕規定 ① 宥恕規定の意義と例示 税法における「宥恕規定」とは、課税額が減額される場合に一定の行為が法律上の要件とされているときに、その要件を充足していないにもかかわらず、一定の場合に、その要件を充たしたと同様の法律効果を認める規定である。 この宥恕規定としては、以下の例がある。 また以下は、宥恕規定とは異なるが、類似の表現の例である。 また税法以外(したがって冒頭に挙げた宥恕規定の定義とは合わないが)でも、このような例がある。 ここに見たように、「正当な」又は「やむを得ない」に「理由」か「事由」か「事情」がつながった文言が使われている。 ―方、「正当な」や「やむを得ない」というのが何を指すのか抽象的で不明確であるため、これらは「不確定概念」といわれている。曖昧な点が租税法律主義の観点から批判があるものの、法令に細部にわたり精緻に規定するにはおのずと限界があるため、立法技術上やむを得ないものとして認められているものである。 また、この「正当な」や「やむを得ない」と同様不確定概念とされている規定例として、以下のものがある。 また税法以外では、以下の刑事訴訟法のような用例もある。 また独占禁止法では、以下の表現もある。 このように「正当」だけではなく、「不当」や「不正」「不適当」「不相当」「不法」「正義に反する」「不公正」という用語が使われている。 法解釈においては「適法」か「違法」が問われるのであり、この「適法」「違法」の概念については説明するまでもないであろうが、ではこの「違法」と「不当」「不正」「不適当」「不相当」「不法」「反正義(正義に反する)」「不公正」はどう異なるのであろうか。 そこで次回は、冒頭に書いた宥恕規定の差を見る前に、「違法」と「不当」「不正」「不適当」「不相当」「不法」「反正義(正義に反する)」「不公正」について、確認する。 (続く)
日本の会計について思う 【第6回】 「英語による会計学文献を出版する意義」 関西学院大学教授 平松 一夫 英語による研究発表の必要性とジレンマ 最近、政治の世界で、日本を貶める活動が展開されていることを、テレビや新聞でよく見聞きする。 一部の国による反日プロパガンダにより、日本にとって信じられないような展開がしばしば見られるようになっている。それに対して、日本も正しい情報を発信しなければ、とんでもない誤解を生むことになること(海外に対する正しい情報発信の重要性)が少しずつ認識されるようになってきた。 国際的な情報発信において重要なのは、基本的には英語で情報を発信しないと意味がないということである。つまり日本語の情報では、まったく見向きもされないのである。 政治の世界と会計学を同じレベルで論じるのは無理があるかもしれないが、似たことは会計学の世界でも起こりうる。日本の会計研究や会計実務に関する情報は、これを英語で発信しないと世界では相手にされない。 そんなこともあって、私は特に若手研究者には、日本語だけでなく英語で論文を執筆することを勧めてきた。 しかし、最近、この点で衝撃を受けることがあった。 「日本語で書いた論文を英語で出版しても、同じ内容ならもう一つの論文としてカウントしてもらえない。ならば、苦労してまで英語では書きたくない。」と言う研究者がいるというのである。 会計学に限らず、研究者にとって業績評価はきわめて重要な意味をもつ。出版した論文がいくつにカウントされるかは、確かに研究者にとって重大な関心事である。したがって、論文としてカウントされないならば英語で書いても仕方がないという言い分は理解できる。 これは悩ましい問題である。 しかし、わが国における会計学研究の現状を考えると、先に日本語で発表した論文を英語で出版してもカウントしないということでは日本の会計研究の国際化に遅れを生じるなど、別の深刻な問題を生じることになる。 私個人は、上記のような場合でも論文を2つにカウントすることがあってもよいのではないかと考えている。それは、英語での出版が大変な労力を要することを私自身経験して知っていることと、日本語の論文は海外ではまったく評価されないという現実があるからである。 2014年、英語による会計学新刊書 そんなことを考えている時に、思いもかけず、今年になって英語で出版された4冊の会計学文献が手許に届けられた。 これまでも英語による会計学文献がなかったわけではないが、半年で4冊というのは初めて経験することであり、心が踊った。 その4冊とは次の文献である。この段階で英語の書名を見るだけでもダメだ、という方もいるかもしれないが、ここはひとつ我慢していただきたい。 英語ホームページの活用 上記のような研究書が出版されたことは、日本の会計研究に関する情報発信として大変喜ばしいことであるが、通常の場合、自らが情報発信源となることは簡単なことではない。 そこで、誰でも活用できるのが諸機関の英文ホームページである。 金融庁、経済産業省、公認会計士・監査審査会、企業会計基準委員会、日本公認会計士協会等々、いずれも充実した英文ホームページを公開している。 そこに含まれる英文情報を適切に活用することにより、一人ひとりの会計人が日本の「会計大使」としての役割を果たすことができるし、それが強く期待されている。 (了)
減損会計を学ぶ 【第10回】 「グルーピング」 公認会計士 阿部 光成 通常、固定資産については、単独で使用されることは少なく、複数の資産が一体となって使用され、収益獲得に使用されていることが多い。 例えば、工場用地(土地)の上に工場(建物)を建て、その中に製造ライン(機械装置)を設置して製品を製造している工場のようなケースである。 減損会計では、このように複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合には、減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定に際して、合理的な範囲で資産のグルーピングを行う必要がある(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)四、2(6)①)。 今回は、グルーピングを行う際の留意点について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ グルーピング 1 基本的な考え方 資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)二6(1))。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損適用指針」という)は、様々な事業を営む企業における資産のグルーピングの方法を一義的に示すことは困難であり、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることになると考えられると述べている(減損会計意見書四、2(6)①、減損適用指針7項)。 ここでのグルーピングに関するポイントは、次のとおりである。 実務上は、投資を行う際の意思決定の単位だけでなく、資産の処分や事業の廃止に関する意思決定をどのような単位で行うのかについても考慮し、グルーピングの範囲を決定することになると解される。 2 具体的な方法 減損適用指針7項は、グルーピングの手順を例示している。 要約すると【図表1】のようになり、①グルーピングの単位の基礎の識別、②キャッシュ・イン・フローの相互補完性、①②を基礎とする③実務における管理会計上の区分及び投資の意思決定の単位の識別がポイントとなる。 【図表1】 グルーピングの手順の要約 (出所:監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)25ページ) 減損適用指針7項は、例えば、以下のような手順により資産のグルーピングが行われると考えられると規定している。 Ⅱ グルーピングの例示 連結財務諸表には、資産グループがある場合には、当該資産グループに係る資産をグループ化した方法等を注記することになるが(財務諸表等規則95条の3の2、連結財務諸表規則63条の2)、グルーピングの方法を記載している事例としては、次のものがある(出所:金融庁のEDINET)。 協和発酵キリン(株)(平成25年12月31日) 三菱マテリアル(株)(平成25年3月31日) 日本製粉(株)(平成25年3月31日) (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第46回】 資産除去債務② 「適用範囲」 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 X1年4月1日(店舗Aの取得時) 〈会計処理の解説〉 今回の事例は、店舗Aの閉鎖時の原状回復義務が資産除去債務に該当するため、将来の不可避的な義務に関連して生じる原状回復費用の現在価値300を当期の負債として資産除去債務に計上しています。 それでは、どのようなものが資産除去債務に該当するのでしょうか。 今回は資産除去債務について、もう少し詳しく見てみましょう。 「資産除去債務」は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものと定義されています(基準3(1))。 この定義に示されている通り、基準の適用対象は「有形固定資産」であり、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産が対象になります。その他にも有形固定資産に準じる有形の資産も含むとされ、投資その他の資産に区分される投資不動産などについても対象となります(基準23)。 この定義の「通常の使用」は、有形固定資産を除去する義務が、不適切な操業等の異常な原因によって生じたものである場合には資産除去債務に該当しないことを意味しています。この場合には引当金や減損損失の計上を検討することになります(基準23)。 また、「除去」とは、有形固定資産を用益提供から除外することをいい、具体的には売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分が含まれます。しかし、転用、用途変更は用益提供から除外することにはならないため「除去」に含まれません。また、有形固定資産が遊休状態になる場合には「除去」に該当しません。したがって、「除去」に該当しない有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕は、資産除去債務の対象とはなりません(基準3(2)、24)。 「有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務」には、例えば、原子力発電施設の解体に伴う債務、定期借地権契約で賃借した土地の上に建設した建物等を除去する義務、鉱山等の原状回復義務、賃借建物の原状回復義務等があります。 また「有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律上の要求による特別の方法で除去するという義務」には、例えば、アスベストやPCBの除去の義務等があります。 さらに「法律上の義務に準ずるもの」とは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務をいい、法令又は契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当します。具体的には、法律上の解釈により当事者間での清算が要請される義務に加え、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるものが該当すると考えられます(基準28)。 これらのポイントをまとめると、次のとおりとなります。 * * * 次回は「資産除去債務の見積りの変更」です。 (了)