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生産性向上設備投資促進税制の実務 【第2回】「生産ライン・オペレーション改善設備の要件」

生産性向上設備投資促進税制の実務 【第2回】 「生産ライン・オペレーション改善設備の要件」   税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行   前回は、生産性向上設備投資促進税制(措法42の12の5)の制度概要と対象設備のうち「先端設備」の要件について解説した。 今回は本制度のもう1つの対象設備である「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」(経産規5②)の要件について解説する。 生産ラインやオペレーションの改善に資する設備については、機械装置、工具、器具備品(サーバー用の電子計算機については、情報通信業のうち自己の電子計算機の情報処理機能の全部又は一部の提供を行う事業を行う法人が取得又は製作をするものを除く)、建物、建物附属設備、構築物、ソフトウエアで、以下の要件1及び2をすべて満たす設備が対象となる。 なお、要件1については、経済産業大臣(経済産業局)の確認、証明が必要となる。   1 投資利益率要件 (1) 投資利益率の計算 事業者が策定した投資計画で、その投資計画におけるその設備投資による効果として年平均の投資利益率が15%以上(中小企業者等(※1)にあっては5%以上)となることが見込まれるものであることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けたものであることが要件となる。 (※1) 中小企業者等とは、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人等又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するものをいう。 また、対象となる設備は、その投資計画に記載されている設備で、その事業者にとって投資目的を達成するために必要不可欠なものとする。 なお、年平均の投資利益率は、次の算式によって算定する。 (※2) 会計上の減価償却費 (※3) 設備の取得等をする年度の翌年度以降3年度の平均額 (※4) 設備の取得等をする年度におけるその取得等をする設備の取得価額の合計額   (2) 経済産業大臣(経済産業局)確認までの手続の流れ 経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けるまでの手続については、経済産業省のホームページに具体的な申請書類のサンプル等が公開されている。 それらの詳細については、次回以降において具体例に基づき解説するため、まずは全体的な申請手続の流れを確認していくことにする。   2 最低取得価額要件 最低取得価額以上のものであることが要件となる。 最低取得価額については、前回解説した「先端設備」の最低取得価額と同じ(構築物は建物と同条件とする)。 (了)

#No. 70(掲載号)
#石田 寿行
2014/05/22

貸倒損失における税務上の取扱い 【第18回】「判例分析④」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第18回】 「判例分析④」   公認会計士 佐藤 信祐   第15回目、第16回目においては、日本興業銀行事件に係る第1審判決の内容について解説を行い、第17回目においては控訴審判決についての解説を行った。 第18回目にあたる本稿においては、最高裁判決についての解説を行う。なお、紙面の関係上、当事者が主張を行った内容については割愛し、裁判所の判断についてのみ解説を行う。 (3) 最高裁・平成16年12月24日判決(民集58巻9号2637頁、訟月52巻3号1020頁、裁時1378号12頁、判時1883号31頁、判タ1172号129頁、税資254号順号9877、金法1739号42頁、集民215号1121頁) このように、最高裁においては納税者側の主張が認められ、結果的に、貸倒損失の損金算入が認められることになった。本事件については、貸倒損失の計上の要否について、債務者側の事情だけでなく、債権者側の事情も考慮すべきであるという点を明らかにした判決として意義のある判決であるとは言われている。 また、判決文においては、債権放棄の効力が平成8年3月期に生じていたかどうかについて書かれておらず、「本件債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかとなっていたというべきである。」としているため、法人税基本通達9-6-2により判断がなされたようにも思える。 この点につき、谷口勢津夫教授は、 と指摘されている。 すなわち、「第1審では債権放棄の有無にかかわらず」としたのに対し、最高裁では「本件債権の放棄が解除条件付きでされたことによって左右されるものではない」としているため、債権放棄がなされていなければ、第1審では納税者が勝訴しただろうが、最高裁では敗訴していた可能性があるという見解にも繋がってくる、 その結果、法人税基本通達9-6-1(3)(4)、9-4-1のいずれかで判断がなされた可能性もあり、法人税基本通達のいずれに該当するのかという点については議論のあるところである。この点については、「本件債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかになっていたというべきである。」と判示していることから、債権放棄の効力が確定しているのであれば法人税基本通達9-6-1(3)又は(4)により判断し、債権放棄の効力が確定していないのであれば法人税基本通達9-6-2で判断したようにも思えるが、谷口勢津夫教授が言われるように、債権の放棄を前提として貸倒損失が認められるか否かを判断したという意見についてはあえて反対したい。もしそうであるならば、債権放棄の効力が確定しているかどうかについては裁判における主要な争点であり、最高裁判決がこれにほとんど触れていないという点については疑問が残るからである。 そうなると、第一審判決にあるように、平成8年3月末の時点で既に全額回収不能の状態にあり経済的な価値はなくなっていたと評価されるのであれば、債権放棄の有無にかかわらず、その全額を損金に算入できるという判断がなされ、債権放棄の効力が確定しているかどうかについては、ほとんど検討がなされなかったと考えるべきではなかろうか。すなわち、最高裁判決においても、法人税基本通達9-6-2による判断がなされたと考えるべきである。 日本興業銀行事件については、様々な論者が指摘をしており、様々な見解があるというのも事実である。さらに、最高裁判決に至るまでの間に、納税者側も国側も様々な主張をしていることから、その論点は多岐にわたるにもかかわらず、最高裁判決において指摘された論点は限定的であり、未だに明らかにされていない部分も少なくない。 次回以降においては、さらなる詳細な分析を行い、本判決が実務に与える影響について考察を加えることとする。 (了)

#No. 70(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/05/22

〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第22回】 「申告作業の前段階で対応すべき点」

〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第22回】 「申告作業の前段階で対応すべき点」   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   前回までで、相続人の確定、相続財産の確定、遺産分割について見てきた。 今回からは、相続税申告についての説明を行う。 〔納税資金の準備への対応〕 相続税申告を行う際には、相続税申告及び納税を、他界してから10ヶ月以内に完了させる必要がある。このため相続税の申告業務は、逆算して作業スケジュールを立てなければならない。 さらに重要なのは、納税が必要な場合で納税資金が不足しているケースでは、納税準備に時間が必要となるという点である(延納・物納手続が可能かという検討時間も含め、納税計画・準備の時間が必要である)。 したがって相続税申告を行う際には、以下の点につき概算計算を行った上で、依頼者へ早期報告を行い、検討していく必要がある(*1)。 上記(1)(2)(3)は、相続人の範囲、相続財産の範囲(評価含む)が確定すれば算定することができる(*2)。 相続財産が小規模な案件では、一般的には納税資金が不足するケースは少ないと考えられるが、相続財産が大規模である案件では納税資金が不足するケースが多々あるため、迅速に対応する必要がある。 相続財産が大規模である案件では、不動産が複数あり、評価に時間がかかる可能性が高いが、そのような案件であるほど、迅速さが求められるのである。   〔時間を要する作業への対応〕 相続税申告を行う上での作業としては、 に時間を要する(*3)。 ただし、非上場会社オーナーの相続税申告案件以外については、(C)は該当しないケースがほとんどであるため、一般的には(A)(B)(D)ということになる。 (A) 依頼者からの資料・情報入手 依頼者からの資料・情報入手には、時間がかかることが多い。 対応としては、依頼資料・確認情報一覧をチェックリストとして作成しておき、それを依頼者に最初の段階で依頼することが考えられる。 なお、一般的に依頼者は相続手続に明るくないことが多く、専門用語なども理解していないことが多いため、単に依頼資料・確認情報一覧を渡すだけでは、理解すること自体に時間がかかってしまうこともある。 そこで、依頼資料・確認情報一覧を渡す際には、依頼者へ口頭で説明しながら、必要な資料や確認する必要がある情報が、依頼資料・確認情報一覧のうちどれであるかを明確・限定しておくと、結果として、資料・情報入手の時間が短縮できることになる。 加えて、我々税理士の理解が不足している場合に、追加で資料依頼・情報確認する状況になるケースがあるため、相続税申告業務(相続税及び相続関連法務、評価上必要な不動産関連法務など)に精通することも、結果として資料・情報入手の時間短縮化に必要なことである(我々税理士が書籍等で調べる時間が必要な場合、その時間、及び依頼者へ連絡する時間が追加で必要となり、全体スケジュールを遅延させる要因となりうる)。 (B) 土地評価 土地評価は、資料・情報さえ整えば、作業時間のみの問題となる。 ただし、現地調査、役所調査を行う必要が原則あるため、その時間を早いタイミングでとっておく必要がある。 時間をとることが難しい場合には、机上評価のみを行い、第1回目の報告を依頼者へ行う際、自宅(多くの場合、被相続人の自宅、またはその周辺)へ出向き、同時に、評価対象地の現地調査、役所調査を行うことも考えられる。 また、(A)と同様に、我々税理士の知識が不足している場合には、書籍などを調べながら業務を行うことになるため、作業時間が多くかかる結果となる。 この時間を短縮するためには、土地評価の知識を十分に習得しておくこと、テンプレート・チェックリストなどを事前に準備しておくことで、作業時間の短縮化と正確性の向上を図ることが可能と思われる。 (D) 預貯金取引検証 預貯金取引の検証は、相続税・贈与税の対象となる可能性のあるものがないかという視点から行う(相続税申告後、税務署では一般的に、被相続人・相続人の預貯金取引のチェックを行うことが多いと考えられるため、指摘を受けそうな事項については事前に検証しておく必要があると考えられる)。 その場合に、依頼者に預貯金通帳を準備してもらうと同時に、まず、贈与に該当するようなものがないか否か(あれば、贈与税申告の有無についても確認する必要がある)など口頭で確認したうえで、預貯金通帳チェックを行ったほうが効率的である。 また、預貯金通帳チェックを行い、依頼者へ確認すべき項目については、一覧表にして確認結果を文書にメモしておく必要がある。 内容によっては依頼者もわからない場合がありえるが、相続税申告においてどのように取り扱うことが可能か、また、その場合の税負担、否認リスク(ペナルティの金額など)を報告したうえで、依頼者の同意のもとで対応を決める必要がある。 (了)

#No. 70(掲載号)
#根岸 二良
2014/05/22

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載60〕 雇用促進税制と所得拡大促進税制の適用比較

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載60〕 雇用促進税制と所得拡大促進税制の適用比較   税理士 竹内 陽一   Ⅰ 雇用促進税制 1 制度概要(改正の経緯) 雇用促進税制は平成23年度改正で創設され、平成23年4月1日から平成26年3月31日開始事業年度までの適用(平成26年度改正で平成28年3月31日開始事業年度まで延長)で、平成25年度改正において、適用年度に65歳以上の高年齢雇用者(雇用保険高年齢継続被保険者)となる者が出た場合、その者は当期雇用者からは除外されるので、前期雇用者から除くこととされた。 税額控除も増加雇用者1人につき20万円から40万円に引き上げられた。 2 適用要件 この制度の雇用者は、雇用者のうち、雇用保険一般被保険者とされた。 役員や親族雇用者を除く点は、所得拡大促進税制と共通である。 【要件1】 当期及び前期に事業主都合離職者がいない。 【要件2】 基準雇用者数5人以上(中小企業の場合は2人以上) ※基準雇用者数=当期末の一般被保険者数-前期末の一般被保険者数 【要件3】 【要件4】 当期給与等支給額≧前期給与等支給額×(1+基準雇用者割合×30%) 【要件5】 ① 期首から2月以内に、職安に雇用促進計画を提出 ② 上記要件についての職安確認書類を添付 【要件5】の添付要件があるので、所得拡大促進税制と選択適用であるが、雇用促進計画を提出していないと、事実上、期末においては所得拡大促進税制の選択しかない。 控除税額は、40万円(平成25年度改正後)×基準雇用者数である。   Ⅱ 所得拡大促進税制 1 制度概要(改正の経緯) 所得拡大促進税制は平成25年度改正で創設され、平成25年4月1日から平成28年3月31日まで開始事業年度の適用であったが、平成26年度改正により平成30年3月31日の開始事業年度まで延長された。 また増加額割合について、平成25・26年度は2%以上、平成27年度は3%以上に引き下げ、延長した平成28・29年度については5%以上の据え置きとした。 これらはいずれも平成24年度である基準年度との比較であり、対前期増加要件がある(詳細は拙稿「所得拡大促進税制の経過措置(平成26年度税制改正)-3月決算法人の場合-」参照)。 さらに平均給与等支給額の計算を、賃金台帳ベースでの日雇労働者給与のみを除く計算から、ここだけ、適用年度の継続雇用者及び前期等の継続雇用者とし、2期にわたって連続して勤務する雇用保険一般被保険者とした。 つまり、日雇労働者給与等を除くというシンプルな規定から、連続する2期において雇用保険の一般被保険者で比較することとした(詳細は拙稿「所得拡大促進税制の平成26年度改正事項と別表6(20)新様式の変更点」参照)。 2 適用要件 【要件1】 【要件2】 当期雇用者給与等支給額≧比較(=前期)雇用者給与等支給額 ※【要件1】【要件2】は、賃金台帳記載者で計算する。 【要件3】 当期平均給与等支給額>比較(=前期)平均給与等支給額 ※【要件3】についてのみ、賃金台帳記載者から、適用期とその前期について、継続して勤務する雇用保険の一般被保険者で計算する。 3 用語の確認 【要件1】【要件2】において、「雇用者」とは賃金台帳記載者をいい、その支給額の合計をいう。 【要件3】の平均給与等支給額の計算において、対象者は継続雇用者とされ、2期において雇用保険の一般被保険者とされた。 雇用保険の一般被保険者であるが、60歳定年退職後、65歳までの継続雇用制度対象者について、次の規定を置いた。 以上をまとめると、次表となる。 〈雇用促進税制と所得拡大促進税制の違い〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (*1) 平成25年度改正(他に控除金額の1人20万円から40万円への引上げ) (*2) 平成26年度改正(他に期間の延長と、当初期間の増加率の引下げ) 〈所得拡大促進税制の適用可否の計算例(26年4月決算法人から)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   4 平成25年度3月決算法人について 上記は、平成26年改正後の法人税申告書別表6(20)に対応しているが、平成25年度3月決算法人については改正前の別表6(20)で計算し、雇用者給与等支給増加割合が5%に達しない場合、平成26年度3月決算の申告において、平成26年度が要件に適合した場合に初めて、改正後別表の下段の各経過年度における計算において、適用の可否を判定することになる。  (了)

#No. 70(掲載号)
#竹内 陽一
2014/05/22

企業結合会計基準に対応した改正連結実務指針等の解説 【第3回】「一部売却(支配喪失)の会計処理」-子会社株式から関連会社株式・その他有価証券

企業結合会計基準に対応した 改正連結実務指針等の解説 【第3回】 「一部売却(支配喪失)の会計処理」 -子会社株式から関連会社株式・その他有価証券   公認会計士 布施 伸章   ◆ 解説 ◆ 1 子会社株式の一部売却により、投資先が子会社から関連会社になった場合 (1) 支配を喪失する前に親会社の持分の変動がない場合(例えば100%→20%) 子会社株式の一部を売却し連結子会社が関連会社となった場合(例えば持分比率が100%→20%となった場合)には、関連会社株式の連結貸借対照表計上額となる「持分法による投資評価額」は、原則として、親会社の個別貸借対照表に計上された関連会社株式の帳簿価額に、売却直前の「投資の修正額」のうち売却後の持分額(残存する持分額)を加減して算定する(資本連結実務指針45項)。 「投資の修正額」には、当該会社に対する支配を獲得したときから喪失する日までの期間における、以下のものが含まれる(資本連結実務指針66-5項)。 持分法を適用する場合には、資産及び負債の評価並びにのれんの償却は連結の場合と同様の処理を行うものとされており(持分法会計基準8項)、また、平成25年改正会計基準では、投資先が子会社から関連会社となっても残存する関連会社株式に対して投資の継続の会計処理を行うこととされているため、持分法による投資評価額は、上記のように、売却直前の連結上の評価額(持分法による投資評価額)と整合性のある算定を行うことになる。 また、連結損益計算書においては、売却直前の「投資の修正額」と、このうち売却後の株式に対応する部分との差額(その他の包括利益累計額を除く)、すなわち、連結損益に反映済みの額を、個別財務諸表で計上された子会社株式売却損益の修正として処理することになる。 (2) 支配を喪失する前に親会社の持分の変動がある場合 子会社株式の段階売却により関連会社となった場合(例えば持分比率は100%→60%→20%となった場合)や子会社株式の追加取得後に支配を喪失して関連会社となった場合(例えば、持分比率が60%→100%→20%となった場合)にも、持分法による投資評価額は、基本的には(1)と同様に算定することになる。 ただし、平成25年改正の連結会計基準では、子会社株式の追加取得が行われた場合、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額を(のれんではなく)資本剰余金として処理することとされたこと、また、一部売却をしても支配が継続している場合にはのれんの未償却額の減額を行わないこととされたため、支配喪失直前の子会社に対する持分比率とのれんの未償却額の割合が異なることになる。 このため「投資の修正額」には(1)で記載した①から③の項目に加え、次の2項目も考慮する必要がある(資本連結実務指針66-5項)。 上記の意味を、次の2つのケースで考えてみる。 支配喪失時ののれんの未償却額の取崩方法について、資本連結実務指針では、いくつかの考え方があるとしたうえで、支配獲得後の持分比率の推移等を勘案し、以下の方法などの中から、適切な方法に基づき、関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却額を算定することとしている(資本連結実務指針45-2項、66-6項)。   2 子会社株式の一部売却により、投資先が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合 子会社株式の売却等により被投資会社が子会社及び関連会社に該当しなくなった場合には、連結上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされている(連結会計基準29項なお書き)。 連結範囲から除外する場合に留意すべき事項は、次のとおりである。 ①  子会社株式売却損益の修正額 連結範囲から除外する場合の子会社株式売却損益の修正額は、子会社株式の一部売却により関連会社になった場合に準じて算定する(資本連結実務指針46項)。 ②  子会社株式売却後の投資の修正額の処理 連結範囲から除外する場合、売却後の投資の修正額を取り崩す必要があり、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に、「連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)」等その内容を示す適当な名称をもって計上する(資本連結実務指針46項、連結税効果実務指針39-2項)。 取り崩すべき投資の修正額は、以下の項目のうち、残存する当該会社への投資に相当する部分が含まれる。 また、当該処理に係る投資の修正から生じた一時差異の解消額に対応する繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩額も、(法人税等調整額ではなく)利益剰余金増減高から直接控除する(連結税効果実務指針39-2項)。 ③  子会社株式の追加取得及び一部売却等によって生じた資本剰余金の取扱い 子会社株式の追加取得及び一部売却等によって生じた資本剰余金は、連結範囲から除外された後も、引き続き、連結上、資本剰余金として計上する。 資本剰余金を取り崩さないのは、支配継続中の一部売却等の取引は、親会社と子会社の非支配株主との間の取引であり、当該取引によって生じた資本剰余金は子会社に帰属するものではないためである(資本連結実務指針68-2項)。 なお、資本剰余金が負の値となり、当該負の値を利益剰余金から減額する処理を行っていた場合には、連結範囲から除外された後も当該処理は連結上、引き継がれることになる(資本連結実務指針49-2項)。 (了)

#No. 70(掲載号)
#布施 伸章
2014/05/22

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第44回】過年度遡及会計④「過去の誤謬の訂正」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第44回】 過年度遡及会計④ 「過去の誤謬の訂正」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 前期末残高の修正 (*1) 年間売上高1,000,000×2%(*2)=20,000 (*2) 訂正後の実績率5%-当初の実績率3%=2% ② 当期首残高の修正 〈会計処理の解説〉 「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りのことをいいます(過年度遡及会計基準4(8))。 本事例の誤謬は「b.事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り」に該当し、当該見積りによる影響が、前期(X1年度)に係るものであるため、前期の財務数値を訂正します。 すなわち、正しい実績データに基づいた場合の製品保証引当金50,000(=年間売上高1,000,000×訂正後実績率5%)と当初計上額30,000(=年間売上高1,000,000×当初実績率3%)の差額20,000だけ前期末の製品保証引当金を増額させます(①の仕訳)。 一方、前期末の製品保証引当金を20,000増額させることにより、当期首の利益剰余金が20,000減少するため、当期首の利益剰余金を20,000減額させる仕訳を行います(②の仕訳)。 ところで、実務では過年度における引当金の過不足金額が、「過去の誤謬の訂正」と「会計上の見積りの変更」のいずれに該当するのかが1つの論点となります。 例えば、本事例の前提を以下のようにしてみましょう。 この場合、X2年度において充当されなかった製品保証引当金が20,000残ることとなります。 過年度遡及会計基準の適用前は、当該引当金の過不足金額は、前期損益修正として当期の財務諸表で修正していました。しかし、当該引当金の過不足の原因が誤謬によるものであれば、過年度遡及会計基準では、過去の財務諸表における誤謬として「修正再表示」が求められます。 前述したように、事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤りは「誤謬」に該当します。したがって、引当金計上時の見積り誤りに起因する過不足金額は、「誤謬」となり、過去の財務諸表を訂正する必要があります。 一方、過去の財務諸表作成時において、入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合には、「事実の見落としや誤解」はないため、当該過不足金額は「誤謬」ではなく、当期中における状況の変化により生じた「会計上の見積りの変更」と取り扱われます。 したがって、前回解説した「会計上の見積りの変更」の処理に従い、当該過不足金額を過去に遡って反映させず、当期の財務諸表に反映させます。すなわち、引当金戻入益として、当期の収益又は費用のマイナスを認識します。 上記の事例の場合、X2年度において充当されなかった製品保証引当金20,000が、製品保証引当金計上時の見積り誤りに起因するものであれば、当該20,000を「誤謬」として取り扱い、過去の財務諸表を修正再表示します。一方、製品保証引当金計上時において、入手可能な情報に基づき最善の見積りを行った場合には、当該20,000を「会計上の見積りの変更」として取り扱い、製品保証引当金戻入益を認識します。 (了) ※6月は「資産除去債務」を取り上げます。 

#No. 70(掲載号)
#大川 泰広
2014/05/22

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第6回:2014年5月改訂】退職給付会計③「企業年金制度」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第6回:2014年5月改訂】 退職給付会計③「企業年金制度」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   〈事例による解説〉 退職給付債務の計算を依頼している受託機関からの報告によると、期首の退職給付債務は5,000で、当期に発生する勤務費用は500です。また、期末の退職給付債務の実際額は6,000です。一方、年金資産の受託機関からの報告によると、期首の年金資産は1,000で、期末の年金資産の時価は1,100です。 そして、当社で計算した利息費用は100で、利息費用の計算に用いた割引率は2%です。また、期待運用収益相当額は10で、期待運用収益相当額の計算に用いた期待運用収益率は1%です。さらに、年金基金に掛金を200支払っています。 未認識数理計算上の差異は翌期以降、従業員の平均残存勤務期間である15年、定額法で費用処理を行います。なお、税効果会計は適用していません。 〈会計処理〉 1 退職給付費用の計上 2 掛金の拠出 3 数理計算上の差異の計上   (仕訳なし) 〈会計処理の解説〉 1 退職給付費用の計上 退職給付費用は、基本的に「勤務費用+利息費用-期待運用収益相当額」で計算されます。 本事例では、勤務費用500、利息費用5,000×2%=100、期待運用収益相当額1,000×1%=10です。したがって、退職給付費用は、500+100-10=590となります(退職給付に係る会計基準三)。 そして、退職給付費用の相手の勘定科目は、退職給付引当金となります(退職給付に係る会計基準四)。 2 掛金の拠出 年金基金への掛金の拠出により、年金資産が増加します。したがって、企業にとって、退職金や退職年金の支払いのため原資が増えることから、退職給付引当金を減少させます。 3 数理計算上の差異の計上 退職給付費用の計上及び掛金の拠出により、退職給付債務及び年金資産は以下のとおりとなります。数理計算上の差異は、下記の表の「(※)」のとおり510となります。 そして、本事例では、数理計算上の差異は当期に費用処理を行わないため、当期末の未認識数理計算上の差異は510となります。未認識数理計算上の差異は、個別財務諸表上オンバランスされず、当期末の貸借対照表に計上される「退職給付引当金」は4,390となります。 一方、連結財務諸表上は負債に計上します。また、税効果控除後の金額をその他の包括利益に「退職給付に係る調整額」として計上します。本事例では、連結貸借対照表に「退職給付に係る負債」が4,900、「退職給付に係る調整累計額」が510計上されることになります。   (了)  

#No. 70(掲載号)
#西田 友洋
2014/05/22

メンタルヘルス不調と労災 【第4回】「評価表の出来事に潜むリスク」

メンタルヘルス不調と労災 【第4回】 「評価表の出来事に潜むリスク」   社会保険労務士 井下 英誉   はじめに 前回は、「業務による心理的負荷」の強度の評価方法について確認しながら、労災対象になり得る出来事や考え方を紹介した。 今回は、前回の最後で解説した「複数の出来事又は出来事と恒常的な長時間労働を総合評価すると「強」になる場合」について、さらに詳しく解説する。   1 労災認定基準に潜むリスク 前回の「3 心理的負荷の評価が「強」になる出来事」を読んで、読者の皆様はどのような感想を持たれたであろうか。 と安心された方はいないだろうか。 もちろん、「特別な出来事」や「心理的負荷の評価が「強」となる出来事」に該当する出来事については、発生頻度は高くないと思われるので、それほど不安を感じる必要はないかもしれない。 しかしながら、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」の最大の特徴は前回解説した「複数の出来事又は出来事と恒常的な長時間労働を総合評価すると「強」になる」という評価方法にあると考えている筆者は、企業が労働者からの思いがけない労災請求や安全配慮義務違反による損害賠償請求を予防するためには、時間外労働の削減はもちろんであるが、今まで以上に慎重かつ丁寧な労務管理が求められると考える。 それは、評価表に定められた出来事全36項目中、一般的な心理的負荷の強度が「中」と評価される出来事が20項目に及び、それらの中には適法な人事権や日常的な指揮命令権に含まれる行為や個人的な感情の問題として企業が関与してこなかった対人関係に関する出来事も多数含まれているからである。 つまり、これからは従来労務管理の一環として当たり前に行われていた行為や企業が個人的な価値観や性格の問題として積極的に関与してこなかった出来事が原因となって精神障害が発病した場合でも、労災と認められる可能性が高まることを意味しているのである。 それでは、どのような出来事が労災の原因や労務リスクになり得るのか。 次に紹介する。   2 リスクを伴う具体的な業務上の出来事 ① 人事権・指揮命令権に関係する出来事で心理的負荷が「中」と評価されるもの 評価表に定められた項目の中で、次表の出来事は人事権や指揮命令権の行使によって生じ、かつ心理的負荷が「中」と評価される出来事である。 これらは1つだけでは労災の原因として認められないが、他の出来事や長時間労働と組み合わさることにより認められる可能性がある。 ② 対人関係に関する出来事 評価表に定められた項目の中で、次表の出来事は対人関係よって生じ、かつ心理的負荷が「中」と評価される出来事である。 これらは1つだけでは労災の原因として認められないが、他の出来事や長時間労働との組み合わさることにより認められる可能性がある。   3 リスクを伴う具体的な業務外の出来事 評価表にはこれまで取り上げてきた業務上のほかに、業務以外の心理的負荷評価表がある。 〈業務以外の心理的負荷評価表〉  ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイル(厚生労働省ホームページ)が開きます。 これは本連載の第2回で解説した認定要件③「業務外の心理的負荷により対象疾病を発病したと認められない」について判断するためのものである。 労災認定要件に従えば、業務上の出来事の心理的負荷が「強」と評価されても、業務以外で心理的負荷の評価がⅢ(強度はⅠ~ⅢでⅢが一番強い)の出来事があれば、労災と認められない可能性がある。 これは言い換えれば、業務外の出来事があっても、その出来事の心理的負荷の強度がⅠやⅡに該当すれば、業務以外の心理的負荷として認めない、つまり業務上の出来事だけで判断することを意味している。 しかしながら、心理的負荷の評価がⅠやⅡの業務以外の出来事の中にも精神障害の原因となり得る出来事が多数あると筆者は考えている。 もちろん個人差があるので一概に断定はできないが、類型③に含まれる「収入が減少した」、「借金返済が遅れ、困難があった」や類型⑥に含まれる「失恋、異性関係のもつれがあった」等は、十分精神障害の原因になり得る出来事であろう。 (了)

#No. 70(掲載号)
#井下 英誉
2014/05/22

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第8回】「公正取引委員会等による立入検査等調査・指導への対応」~買いたたきへの取り締まりを中心に~

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第8回】 「公正取引委員会等による立入検査等調査・指導への対応」 ~買いたたきへの取り締まりを中心に~   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳     1 消費税転嫁拒否等の行為に対する立入検査等調査・指導の現状 本連載第7回「公正取引委員会及び中小企業庁による書面調査」において述べたとおり、公正取引委員会と中小企業庁は、平成26年3月までに861件の立入検査を行い、1,199件もの指導を行った。 さらに、同年5月13日には、同年4月までの累計件数が、立入検査について1,051件、指導について1,218件(転嫁拒否等の行為を行っていると回答した事業者に対する下請代金支払遅延等防止法に基づく中小企業庁の指導を含む)、公正取引委員会による勧告について1件(本連載第5回「初の勧告事例」)に上ったことを公表し、さらなる転嫁対策の強化を宣言している(※1)。 上記1,219件の指導・勧告件数の業種別内訳は、製造業が492件と最も多く、次いで、卸売業・小売業が238件という結果になった(※2)。 また、上記指導・勧告の行為類型別内訳は次の表のとおりであり(※3)、買いたたきに対するものが圧倒的に多かったことがわかる。なお、行為類型別合計件数が1,236件となっていて、指導・勧告の対象となった事業者数1,219件と一致しないのは、事業者の中には複数の行為を行っている場合があるためと説明されている。 (※1) 公正取引委員会「平成26年4月までの消費税転嫁対策の取組について」(平成26年5月13日公表)別紙表1 (※2) (※1)の別紙表2 (※3) (※1)の別紙表3 上記の結果から、製造業では下請取引の発注や原材料の仕入れ、卸売業・小売業では商品の仕入れといったように、対価を支払って商品・役務(サービス)の供給を受けるという取引が各事業の根幹にあり、かかる費用を削減するために行われがちである買いたたきに重点をおいて指導の対象とされたことが推測される。なお、初の勧告事例が買いたたきに関するものであったことも、このことを裏付けよう。 また、公正取引委員会は、平成26年4月だけで、大規模小売事業者等の大企業を中心とした特定事業者(買手側)に対して、96件もの集中的な立入検査を行ったことも公表した(※4)。 このような当局による取り締まり状況を受けて、製造業、卸売業・小売業の買手側においては、他の業種以上に、特に買いたたきについての当局の立入検査等調査や指導への注意と準備が必要となる。 (※4) (※1)の2(1)ウ   2 買いたたきに対する立入検査等調査・指導にどのように対応すべきか (1) 買いたたきに対する立入検査等調査・指導におけるポイント 買いたたきとは、商品若しくは役務(サービス)の対価の額を、当該商品若しくは役務(サービス)と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対して通常支払われる対価に比して低く定めることにより、特定供給事業者(売手)による消費税の転嫁を拒むこととされている(消費税転嫁対策特別措置法3条1号後段)。なお、「通常支払われる対価」については、本連載第6回「買いたたきに当たらない「合理的な理由」」をご参照いただきたい。 他方で、例外的に、「合理的な理由」がある場合には、買手側が「通常支払われる対価」よりも低い額で売手側から商品・役務(サービス)の提供を受けても「買いたたき」には該当しない(公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)第1部第1の3(3))。 そして、この「合理的な理由」については、特定事業者(買手側)において、その存在を立証しなければならないとされている。 そこで、当局の立入検査等調査・指導に対応するためのポイントは、買手側が、売手側から、消費税率引上げ分を単純に上乗せした額よりも低い額で商品・役務(サービス)の提供を受けている場合に、当局に対して、いかに的確に「合理的な理由」の存在を説明し、かかる取引が「買いたたき」に当たるとの誤解を受けないようにするかということである。 (2) 「合理的な理由」が認められる場合 「合理的な理由」が認められる場合として公取委ガイドラインが列挙する例については、本連載第6回で示したが、以下のとおりである。 この例のうち、アとイのポイントは、次のとおりであった。 なお、①【客観的事情の存在】について、原材料の値下がりやコストダウン等の客観的事情の存在が認められる場合でも、仕入価格について、原材料価格等の客観的な下落幅を超える値下げや、コストダウンの幅を超える値下げを行った場合には、「合理的な理由」は認められず、買いたたきに該当すると判断される可能性がある。 また、上記②【交渉過程】について、「当事者間の自由な価格交渉の結果」といえるためには、当事者の実質的な意思が合致していること、つまり、特定供給事業者(売手側)との十分な協議の上に、当該特定供給事業者(売手側)が納得して合意していることが必要である(公取委ガイドライン第1部第1の3(3)(注))。 これに対し、上記ガイドラインの例のウは、原材料について、市場連動型の価格決定方式をとる場合(フォーミュラ方式)を想定したものである。この場合には、消費税転嫁対策特別措置法の施行日(平成25年10月1日)前から継続して当該市場連動型の価格決定方式を採用しているという事実そのものが①【客観的事情の存在】の蓋然性を裏付けるとして、当該方式を採用する段階での②当事者間の自由な価格交渉【交渉過程】を要請したものであろう。 ただし、消費税率引上げ前に、フォーミュラ方式で仕入価格の本体価格を決めた上で消費税として5%を上乗せしていた場合に、消費税率引上げ後、消費税込仕入価格を、従来の方式で決められる本体価格に8%を上乗せした額よりも低い額に定めることは、買いたたきに当たると考えられるので注意が必要である。 (3) 当局に説明すべき事情とそれを裏付ける資料の収集・提出 (2)で述べた「合理的な理由」に関する考え方を踏まえると、買手側は、【客観的事情の存在】と【交渉過程】のそれぞれについて、より客観的な資料を残して保管の上、当局の立入検査等調査や指導に対して、これらを示して説明し、「合理的な理由」の存在をアピールすべきことになる。 個々の取引の種類や内容によっても大きく異なるが、説明すべき事情とそれを裏付ける資料については、概ね、次のように整理できる。 (4) 勧告・公表措置の未然防止策としての立入検査等調査への対応 一般に、企業が行政当局から行政処分を受けた場合には、当該企業には取消訴訟等による救済手段が認められるのに対して、消費税転嫁拒否等の行為に対してなされる勧告や指導は行政処分ではないため、法的な救済手段も設けられていない。 このように、当局による勧告をひとたび受けてしまうと、企業は、これを法的に争うことができず、特に初の勧告事例のように勧告の事実を公表されてしまった場合には、これに対する名誉回復措置を講じることも困難となる。 したがって、このような勧告・公表措置による不利益も視野に入れた上で、企業においては、勧告の手前の立入検査等調査や指導の過程で、当局の見解と自社の見解との相違が浮き彫りになった場合には、勧告・公表措置を受けることのないよう、当局と粘り強く交渉を行うことが必要となる。 (了)

#No. 70(掲載号)
#大東 泰雄、山田 瞳
2014/05/22

現代金融用語の基礎知識 【第6回】「影の銀行」

現代金融用語の基礎知識 【第6回】 「影の銀行」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 影の銀行とは もともと「影の銀行」(シャドーバンキング:shadow banking)とは、銀行を通さずに行われる金融取引一般を指したが、現在では、通常、中国におけるそうした金融取引を指す。しかし、後述するように、銀行がまったく関与していないわけではなく、間接的には関与している。 中国においては、その「影の銀行」の規模が近年急激に拡大している。中国人民銀行によると、企業や政府系機関などが1年間に調達した資金のうち、銀行融資以外によるものの割合は、2003年は18.9%だったが、2013年は48.6%に達したとのことである。それは影の銀行の拡大を反映したものである。 中国において影の銀行の規模が急激に拡大しているのは、それに対する需要があるからである。 影の銀行から資金を調達しているのは、中小企業や地方政府などであるが、それらは、資金需要はあるものの、銀行から融資を受けるのが困難なため、影の銀行を利用せざるを得ないのである。   2 理財商品とは 影の銀行を説明する際、併せて説明しなければならないのが、理財商品である。 理財商品とは、中国の高利回りの資産運用商品で、銀行などが主に個人投資家向けに販売しているものである。 この理財商品も、その発行規模が急激に拡大している。 中国銀行業協会によると、銀行が販売した理財商品の残高は、2013年9月末時点で約9兆9,000億元(約170兆円)とのことである。ただし、これは過小評価ではないかといわれているし、また、銀行以外が販売するものもあるため、全体の残高はそれよりもはるかに大きい。 理財商品の発行規模の急激な拡大も、それに対する需要があるからだが、上述のとおり理財商品は、主に個人投資家向けに販売されているものである。中国では銀行の預金金利が規制により低く抑えられているため、高利回りの理財商品に個人投資家の資金が流れているのである。   3 理財商品と影の銀行 影の銀行と理財商品を併せて説明する必要があるのは、両者が一体といえるものだからである。理財商品に投じられた資金の中には、銀行からの融資を受けられない中小企業や地方政府などへ投じられるものがある。 これが影の銀行なのである。 上述のとおり理財商品は、主に銀行で販売されている。そして、理財商品に投じられた資金は、銀行からの融資を受けられない中小企業や地方政府などへ投じられている。影の銀行は、確かに銀行による融資ではないが、実質的な迂回融資であるといえなくもない。 〈理財商品と影の銀行〉   4 何が問題か 影の銀行は、銀行からの融資を受けられない中小企業や地方政府などのそれに対する需要と、個人投資家の高利回りの理財商品に対する需要とが合致して成立しているものであるといえる。リーマン・ショックへとつながったサブプライムローン問題を思い起こしてしまうのは、筆者だけではないはずである。理財商品のリスクの高さ、そして、影の銀行の脆弱さは、誰が見ても明らかだろう。 理財商品と影の銀行は、今後どうなるのだろうか。理財商品のデフォルト(債務不履行)が発生し、個人投資家が損失を負担することになるのだろうか。 理財商品に投資している個人投資家の多くは、理財商品のリスクの高さを認識していないようであり、理財商品のデフォルトが発生した場合、彼らの間には混乱が生じ、暴動に発展する可能性が高い。また、今後、理財商品への需要がなくなるだろうから、影の銀行は一気に機能不全となり、中国経済が麻痺してしまうだろう。 それでは、中国政府が公的資金を投入して個人投資家を救済するのだろうか。 その場合、まず財源をどう確保するのかが問題となる。増税などによって対応しようとすれば、中国経済に少なからぬ影響を及ぼすであろうし、政府が保有する金融資産の売却などによって対応しようとすれば、今度は世界の金融市場に少なからぬ影響を及ぼすであろう。また、政府によって救済された場合、個人投資家の間にモラルハザード(倫理の欠如)が生じるといった問題も懸念される。 いずれにしても理財商品と影の銀行をめぐる混乱は避けられそうになく、その影響は、当然、中国内部でおさまるものではなく、日本経済を含む世界経済へ波及することになるだろう。  (了)

#No. 70(掲載号)
#鈴木 広樹
2014/05/22
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