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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第19回】「医療費控除の対象となる『医薬品』(その1)」

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第19回】

「医療費控除の対象となる『医薬品』(その1)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

はじめに

この連載では、これまで課税要件について述べてきたが、租税法律主義の下、租税法律関係においては文理解釈が優先されると解されている。その理由については、租税法が侵害規範であるからという説明によって整理されることもある。

もっとも、法律の規定にできるだけ忠実に文理解釈をするべきだとしても、条文に使用されている概念(用語)の意味が明らかでなければ文理解釈もままならない。その概念も租税法中に定義があるとか、文脈からその意味するところを明らかにできるのであれば、さしたる問題も起きないが、問題は定義規定のない概念の意味をいかに理解すべきかという点にある。

この点が、租税法の解釈を巡る重大な問題であり、また租税法における要件事実のうち、もっとも大きな論点となっているのである。

今回は、所得税法上の医療費控除にいう「医薬品」の意義を巡る問題を取り上げて考えてみたい。

 

Ⅰ 法令の規定及び通達の取扱いにみる「医薬品」

納税者が購入した自然医食品が、薬事法2条1項に規定される医薬品に該当しないものである場合、その自然医食品の購入は、医薬品の購入の対価として医療費控除の対象となるのであろうか。

所得税法73条《医療費控除》1項は、次のように規定する。

 居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において、その年中に支払った当該医療費の金額・・・の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額・・・を超えるときは、その超える部分の金額・・・を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。

このように規定し、かかる医療費については、第2項が次のように規定する。

 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。

そして、所得税法施行令207条《医療費の範囲》は、次のように規定する。

 法第73条第2項《医療費の範囲》に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。

一 医師又は歯科医師による診療又は治療

二 治療又は療養に必要な医薬品の購入

三 病院、診療所(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)又は助産所へ収容されるための人的役務の提供

四 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律・・・に規定する施術者・・・又は柔道整復師法・・・に規定する柔道整復師による施術

五 保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話

六 助産師による分べんの介助

七 介護福祉士による社会福祉士及び介護福祉士法・・・に規定する喀痰吸引等又は同法附則第3条第1項《認定特定行為業務従事者に係る特例》に規定する認定特定行為業務従事者による同項に規定する特定行為

ここにいう「医薬品」について、所得税基本通達73-5《医薬品の購入の対価》は以下のように通達している。

 令第207条第2号に規定する医薬品とは、薬事法第2条第1項《定義》に規定する医薬品をいうのであるが、同項に規定する医薬品に該当するものであっても、疾病の予防又は健康増進のために供されるものの購入の対価は、医療費に該当しないことに留意する。

この通達の考え方に従えば、「医薬品」とは薬事法の理解に従うということになる。

薬事法2条《定義》
 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。

一 日本薬局方に収められている物

二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具、歯科材料、医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部外品を除く。)

三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)

このように、通達は、薬事法に規定するものを「医薬品」というとしており、特に、日本薬局方に収載されているものを「医薬品」というと解している。

そこで、 納税者が購入した自然医食品が、薬事法2条1項に規定される医薬品に該当しないものである場合、その自然医食品の購入は、医薬品の購入の対価として医療費控除の対象となるのかという疑問はこの通達によって解消されることになるようにも思われる。

しかしながら、通達はあくまでも、国税庁内部における解釈の統一を図る目的の上意下達の命令手段にすぎず、法律としての性質を有するものではないから、租税法律主義の下、何ら法的な拘束力があるわけではないのはいうまでもない。

この点について検討するに当たって、参考となる事例として、福島地裁平成11年6月22日判決(税資243号703頁)がある。

事案の概要は次のようなものである。

Xは、確定申告において、医療費控除の適用を行った上で課税総所得金額を91万6,945円と申告した。これに対し、税務署長Yは、主として、クリニックにおけるいわゆる自然食品の購入費やクリニックへの通院費等が医療費控除の対象となる医療費と認められないことを理由に、申告に係る医療費控除額を認めず、課税総所得金額を145万6,455円として本件処分を行った。

Xは、本件処分は、所得税法73条2項及び所得税法施行令207条の解釈を誤り、幸福追求権(憲法13条)によって保障されるべき、Xのクリニックで診療を受ける権利を侵害した違法な処分であるとして、その取消しを求めて提訴した。

本件において、福島地裁は、次のように事実認定を行っている。

 M医師は、クリニックにおいて、浄血自然医食療法なる独自の自然医学理論に基づいて、諸々の難病の根治を図るとして、玄米、菜食、健康強化食品、薬草・野草茶を用いた独自の診療を行っていること、Xは、クリニックにおいて、同医師の診療を受けるとともに、同医師から『食餌箋』の処方を受け、『食餌箋』に記載された『チャイハナ』及び『春寿仙』をクリニックにおいて合計13万4,415円分、 『薬草茶』及び『医食品』をM自然医食品グルージア・・・において合計18万2,155円分購入したこと、『チャイハナ』は、プーアル、ウーロン、サフランを原材料として混合した健康茶であり、『春寿仙』は、田七人参、杜仲茶、霊芝を原材料とした加工食品、『薬草茶』は、ドクダミ、ヨモギ等を原材料とした薬草茶、『医食品』は、ハト麦、小麦、大豆を主原料とした穀物加工食品のパンダンM及びエゾウコギを主原料とした清涼飲料水のアルガトン等の医食品であること、これらの健康茶、加工食品、薬草茶及び医食品は、いずれも薬事法2条1項に規定される医薬品には該当しないことが認められる。

このように認定した上で、同地裁は、次のように、医療費控除該当性を否定している。

 医療費控除の制度は、医療費が多額で異常な出費となる場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものであり、医療費控除の対象となる医療費の範囲について規定した法73条2項が、『通常必要であると認められるもの』と定め、右規定の委任を受けた施行令207条が『その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額』と定めた上で、控除の対象となる費目を限定的に列挙していること、そして右制度が所得税の公平な負担を図るためのものであることに鑑みると、医療費控除の対象となる、医師等による『診療又は治療』の対価(施行令207条1号)や『治療又は療養に必要な医薬品の購入』の対価(同条2号)とは、いずれも社会通念上、疾病の診療又は治療としてあるいは疾病の治療又は療養のために必要と認められるものに限られるというべきである。
 ところが、・・・Xが購入した自然医食品なるものは、独自の医学理論に基き独自の治療法を行うというM医師の処方した『食餌箋』なるものに基づく、およそ薬事法2条1項に規定される医薬品に該当しようもない、健康茶、加工食品、薬草茶、食品の類であり、Xが主観的にその医学的な効能をいかに信奉していたとしても、社会通念上、右自然医食品の購入費用をもって、疾病の診療又は治療として必要な対価とも、疾病の治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価とも認めることができないことは明らかである。
 したがって、Yが自然医食品の購入費について医療費控除の対象となる医療費と認めなかったことに違法はない。

このような判断は正しいのであろうか。

(続く)

次回は8月21日に掲載されます。

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筆者紹介

  • 酒井 克彦

    (さかい・かつひこ)

    法学博士(中央大学)。
    国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学商学部教授として、学部のほか大学院やロースクール等でも教鞭をとる。
    一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

    一般社団法人ファルクラム http://fulcrumtax.net/
    一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

    【著書】
    「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
    「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
    『スタートアップ租税法〔第3版〕』(2015年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
    『裁判例からみる所得税法』(2016年、大蔵財務協会)
    『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(2017年、大蔵財務協会)
    『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
    『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕』(2018年、中央経済社)
    『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -所得税裁判事例精選20』(2018年、第一法規)
    『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年、ぎょうせい)
    その他書籍・論文多数

     

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