女性会計士の奮闘記 【第17話】 「正しい提案は正しい状況把握から」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 * * * 《生産性向上設備投資促進税制について》 平成26年1月20日に産業競争力強化法が施行され、質の高い設備投資の促進によって事業者の生産性向上を図り、もって我が国経済の発展を図るため、「先端設備」や「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」を導入する際の以下のような税制措置が新設されました。 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様からのご依頼については、すぐに対応する必要がありますが、お客様の現状をきちんと把握してからシミュレーションをしなければなりません。 そうでなければ、社長の意思決定に資する資料を作ることはできず、的外れになってしまいます。 (了)
《速報解説》 「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」 及び「接待飲食費に関するFAQ」の公表について 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成26年度税制改正において交際費課税が見直されたことに対応して、国税庁は下記の情報を公表した。 「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」 「接待飲食費に関するFAQ」 以下では、その内容について解説する。 1 「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」 平成26年度税制改正における、交際費課税の改正の概要を解説している。内容としては、これまでに様々な記事等で解説されている内容の確認であり、新たな事項が公表されているというものではない。 ① 交際費等の損金不算入制度について ② 中小法人における選択適用 資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)では、平成28年3月31日までに開始する事業年度においては、「接待飲食費の50%損金算入」と「年間800万円まで全額損金算入」を選択適用できる。 したがって、接待飲食費が年間1,600万円を超える中小法人では「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が有利となる。 ③ 交際費等の損金不算入制度の適用期限 交際費等の損金不算入制度そのものの適用期限が、平成28年3月31日まで2年延長されている。 2 「接待飲食費に関するFAQ」 平成26年度税制改正において交際費課税が見直されたことに対して、国税庁に寄せられた主な質問とそれに対する回答をQ&A形式で公表している。 また、その前文でいわゆる「1人当たり5,000円基準」を満たす飲食費については、従来どおりそもそも交際費等には該当しない(全額損金に算入される)ことを確認している。 ① 改正の概要 上記「平成26 年度 交際費等の損金不算入制度の改正のあらまし」と内容が重複するので、ここでは省略する。 ② 飲食費の範囲 50%損金算入の対象となる飲食費を、次のとおり例示している。 ③ 飲食費に該当しない費用 50%損金算入の対象となる飲食費に「該当しない」費用を、次のとおり例示している。 ④ 社内飲食費に該当しない費用 一見社内飲食費に該当しそうだが実は該当せず、50%損金算入の対象となる費用を次のとおり例示している。 ⑤ 出向者 自社から他法人へ出向している者を接待等した際の飲食費については、その出向者がどのような立場でその場に出席したかに応じて、次のとおり取り扱うとしている。 (※) その出向者以外にも、他法人の役員等が出席している場合は社内飲食費ではない。 ⑥ 帳簿書類への記載事項 50%損金算入の対象となる接待飲食費について、領収書等の帳簿書類に記載すべき事項を列挙している。 ⑦ 帳簿書類への記載事項の注意点 帳簿書類の記載事項として「飲食等に参加した得意先等の氏名又は名称及びその関係」が要求されているが、これには原則として というように、相手方の氏名や名称のすべての記載が必要としている。 ただし、相手方の氏名の一部が不明の場合や、多数の者が参加したような場合には、 という記載でも差し支えないとしている。 ⑧ 中小法人における選択適用 資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)では、「接待飲食費の50%損金算入」と「800万円まで全額損金算入」を、事業年度ごとに選択して適用できる。 具体的には法人税申告書別表15(下記【参考】参照)において、選択した方法に従った記入をして申告することになるとしている。 ⑨ 申告に誤りがあった場合 接待飲食費として50%損金算入の対象となる飲食費の一部又は全部を、接待飲食費以外の交際費等に含めて全額を損金不算入としてしまった場合には、更正の請求が可能であるとしている。 【参考】 法人税申告書(別表15) 交際費等の損金算入に関する明細書 〔新様式〕 (了)
2014年5月8日(木)AM10:30、Profession Journal No.68 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第17回】 「建替え建築は『新築』か『改築』か?(その2)」 ~住宅借入金等特別控除と借用概念~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 前回の内容 本件では、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建店舗兼居宅(旧建物)を取り壊し、その残地に鉄骨造アルミニウム板葺3階建店舗兼居宅(本件建物)を建てたこと(本件建築)が、「改築」に当たるかどうかが問題となっている。 「改築」に当たれば、住宅借入金等特別控除(本件特例)の適用があるため、X(納税者)は改築に当たると主張し、Y(税務署長)は改築に当たらないと主張した。 具体的には、措置法上の「改築」の意義について、用途・規模・構造が著しく異なる建築を「改築」と扱う建築基準法上のそれと同義に解釈すべきとするYと、別意に解釈すべきとするXの主張が対立したのである。 Ⅳ 第一審静岡地裁判決の要旨 静岡地裁平成13年4月27日判決(税資250号順号8892)は、 として、課税処分を適法と判示した。 これはYが主張する見解と同様である。 Ⅴ 解説―固有概念と借用概念 1 条文に定義のない用語の意味 学説は、 と理解する(金子宏『租税法〔第19版〕』115頁(弘文堂2014))。 その意味で、 とされているのである(金子・同書116頁)。 このように租税法に定義のない用語を考えるに当たっては、他の法律から借用している場合には、その法律におけると同じ意義に解釈をすべきとする考え方が通説とされている。 しかしながら、そのほかの見解もある。学説を簡単に見ておこう。 (1) 独立説 エンノ・ベッカー(Enno Becker)は、租税法が民法上の概念を使用するのはやむを得ずしてしていることであって、それは応急手段にすぎず、その概念の解釈に当たって私法上の解釈に固執すべきではないと論じられる。この見解は独立説と呼ばれている。 しかしながら、独立説に対しては、法秩序の一体性や法的安定性を顧慮しないものとの批判がなされている。 (2) 統一説 中川一郎教授は、法秩序の統一の観点から統一説を展開される(中川一郎『税法の解釈及び適用』90頁以下(三晃社1961))。 また、金子宏教授は、租税法が用いている概念を固有概念と借用概念の二種類に区分し、このうち、借用概念を他の法分野で用いられている概念と捉えた上で、借用概念の解釈について、 とされる(金子・前掲書115頁)。 法的安定性を強調する文脈から、租税法上の概念を私法と同一の意義に解釈すべきであると主張する立場は、多くの学説上の支持を得ている。もっとも、立法趣旨等を考慮すべきか否かについては個々に若干の見解の相違も見られるところであるが、私法と同じ用語が使用されている場合は「借用概念」と捉え、原則としては統一的に解すべきとする見解が通説であるといえよう。 (3) 目的適合説 田中二郎教授は、統一説を法的安定性の見地から一理ある考え方とした上で、 と述べられる(田中二郎『租税法〔第3版〕』126頁(有斐閣1990))。 これに対して、金子宏教授は、「別意に解すべきことが租税法規の明文またはその趣旨から明らかな場合」については別意に解する余地があるとしつつも、目的適合説に対しては、 と批判論を展開されている(金子宏「租税法と私法」租税6号11頁)。 金子教授が指摘されるように、租税法における用語について目的論的に解釈する場合には、法的安定性や予測可能性が損なわれる懸念が伴うことは否めないであろう。 このように、学説の対立はあるものの、通説は、予測可能性や法的安定性の観点から、統一説に従い、他の法分野での用語の意味に合わせて解釈をすべきという見解に立っているのである。 そうであるとすると、本件事案の場合、Yが建築基準法にいう「改築」の意義に合わせて、措置法上の「改築」も理解すべきとした主張は妥当であるということになるのであろうか。静岡地裁は、そのように考えているようであるが・・・。 (続く)
《編集部レポート》 太陽光パネルの設置で特定事業用等特例の適用が可能!? ~遊休地にパネルを設置して小規模宅地特例の適用を狙う場合は、ここに注意~ Profession Journal 編集部 本誌No.67(5月1日号)に既報のとおり、来年1月の小規模宅地特例の特定居住用等と特定事業用等との完全併用のスタートを前に、特定事業用等の活用に注目が集まっている。 こうした状況にあって、今、注目されているスキームが遊休地に太陽光パネルを設置することによって特定事業用等特例の適用を狙うというものだ。 〇売電が事業所得となる場合=小規模宅地特例の適用OK ソーラーパネルの設置メリットは、 ――など、まさに良いこと尽くめ。 これに加えて、遊休地にパネルを設置した場合に、小規模宅地特例の適用が可能となれば、魅力は倍増する。 では、パネルを設置するだけで、特例の適用が可能なのだろうか? その判断ポイントは、No.67のとおり、パネルの設置により売電して稼得した所得が事業所得に該当するか否かが、判断の分かれ目となりそうだ。 では、その売電が事業所得となるか否かは、どう判断するのだろうか。 ここで注目したいのが資源エネルギー庁がホームページ上で事業所得に該当するか否かの判断の目安として掲げている、次のポイントだ。 50kWの発電システムに必要な面積は500㎡程度とされており、およそ150坪程度の敷地が必要となるため、都心部などでは特例が適用できるケースは限定的。だが、資源エネルギー庁のホームページには、出力量50kW未満の場合であっても、次のように一定の管理を行っているときは、一般的に事業所得になると考えられる、として4つの要件を掲げている。 つまり、小規模のパネル設置であっても、「特段の管理」が行われていれば事業所得として認められるため、小規模宅地特例の適用が認められそうだ。 だが国税庁は、所得税と相続税の取扱いは別であり、たとえこの4要件を満たしたとしても、小規模宅地特例は「建物又は構築物の用に供されている土地」であることが求められるため、パネルが簡単に撤去できるなどの場合は特例から外れる、と注意を喚起する。 太陽光パネルを設置する場合は、通常、発電量を阻害する雑草の育成を抑えるために砂利敷きをしたり、コンクリートを張り巡らす工夫を施すため、こうした場合には構築物として認定されよう。 〇余剰電気の売電の場合は・・・? さて、上記は発電した電気をすべて販売している場合を想定したものだが、では、発電の一部を自家消費し、その余剰電気を販売しているケースではどうであろうか。 ちなみに、国税庁ホームページの質疑応答事例では、余剰電力の売却収入については、それを事業として行っている場合や、他に事業所得がありその付随業務として行っているような場合には事業所得に該当すると考えられるが、給与所得者が太陽光発電設備を家事用資産として使用し、その余剰電力を売却しているような場合には、雑所得に該当するとしている。だが、これもまた所得税法の扱いであり、相続税法は別の見方となる。 国税庁は「売電量がゼロのケースは当然ながら特定事業用宅地等には該当しない。だが、一部を売電している場合については、主目的が自家消費なのか売電なのかなどケース・バイ・ケースであり、その適否については状況に応じて判断する」と事実認定によるとしている。 全発電量が売電とはならないケースについては、事前照会に対する文書回答手続を利用するなどして、個々のケースで確実に特例の適用が可能であるかを確認されたい。 (了)
生産性向上設備投資促進税制の実務 【第1回】 「先端設備の要件」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 1 制度の概要 青色申告書を提出する法人が、産業競争力強化法施行の日(平成26年1月20日)から平成29年3月31日までに生産等設備を構成する「先端設備」及び「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」で一定の規模以上のものの取得等をして、国内にあるその法人の事業の用に供した場合には、特別償却又は税額控除の選択適用ができる。 ただし、税額控除における控除額は、当期の法人税額の20%を上限とする。 特別償却の割合、税額控除の割合は以下の通りである(措法42の12の5①②⑦⑧)。 (注) 平成26年4月1日前に終了する事業年度において産業競争力強化法施行日(平成26年1月20日)から平成26年3月31日までの間に対象資産の取得をした場合には、平成26年4月1日を含む事業年度において特別償却又は税額控除ができる(措法42の12の5③⑨)。 2 対象設備 具体的な対象設備は、 の大きく2つに分類される(産強法2、経産規5)。 今回は「先端設備」について解説し、「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」については次回取り上げる。 3 先端設備の要件 対象となる設備は以下のものであり、後述する3つの要件(最新モデル要件・生産性向上要件・最低取得価額要件)をすべて満たすものをいう。 (注1) サーバー用の電子計算機については、中小企業者等(情報通信業のうち自己の電子計算機の情報処理機能の全部又は一部の情報提供を行う事業を行う法人を除く)が取得又は製作をするものに限る。 (注2) ソフトウエアについては、中小企業者等が取得又は製作をするものに限る。 (1) 最新モデル要件 最新モデルであること。 「最新モデル」とは各メーカーの中で、下記のいずれかのモデルをいう。 ① 一定期間内(下表参照)に販売が開始されたもので、最も新しいモデル ② 販売開始年度が取得等をする年度及びその前年度であるモデル * * * (2) 生産性向上要件 ●旧モデル(最新モデルの一世代前モデル)と比較して、「生産性」が年平均1%以上向上しているものであること。ただし、ソフトウエアについては、この生産性向上要件は不適用。 ●「生産性」の指標については、「単位時間当たりの生産量」「精度」「エネルギー効率」等、メーカーの提案を元に、各工業会がその設備の性能を評価する指標として妥当であるかを判断する。 ●あくまで比較するのは同メーカー内での新モデル・旧モデルのみであり、他メーカーとの比較や、ユーザーが元々使用していたモデルとの比較は行わない。 ●特注品であっても、カスタムのベースとなる汎用モデルや中核的構成品がある場合は、そのベースとなる旧モデルとの比較を行う。 ◆ ◆ ◆ (3) 最低取得価額要件 ●最低取得価額以上のものであること(下記参照)。 ●工具、器具備品、建物附属設備及びソフトウエアについては、単品価額での要件に準ずるものとして、年度合計での要件を設定。 ●単品とは、機械装置、工具、器具備品においては1台又は1基、建物、建物附属設備、構築物、ソフトウエアにおいては一の設備を指す。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第17回】 「判例分析③」 公認会計士 佐藤 信祐 第15回目、第16回目においては、日本興業銀行事件に係る第1審判決の内容について解説を行った。 第17回目にあたる本稿においては、控訴審判決についての解説を行う。なお、紙面の関係上、当事者が主張を行った内容については割愛し、裁判所の判断についてのみ解説を行う。 (2) 控訴審・東京高裁平成14年3月14日判決(民集58巻9号2768頁、訟月49巻5号1571頁、判時1783号52頁、税資252号順号9086、金判1141号34頁) このように、控訴審判決においては、第一審判決と異なり、国側の主張を認め、平成8年3月期ではなく、平成9年3月期の損金として処理すべきであると判断した。控訴審判決の根拠としては、債権放棄の効力が平成9年3月期に確定しているということであり、解除条件が付されているという点がその根拠となっていると考えられる。また、法人税基本通達9-6-2、9-6-1(4)、9-4-1、9-6-1(3)について、それぞれ順番に検討していることから、国側の主張や理論構成に従った判決であると考えられる。 たしかに、実務の現場においても、解除条件を付すという行為については、損失の確定性を阻害するという判断がなされることもあり、もし、債権放棄を行う前に相談を受けた場合には、細かな事実関係を聞く前であれば、直感的にそのリスクを感じる税務専門家も存在するであろう。 次回においては、最高裁判決について解説し、その後、さらなる詳細な分析を行う予定である。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第30問】 (最終回) 「離婚訴訟中の配偶者が居住している家屋を譲渡した場合」 -配偶者等の居住用家屋- 税理士 大久保 昭佳 Q X(夫)とY(妻)は、6年ほど前から別居し、現在離婚訴訟中です。 Xは、横浜市にあるアパートに単身で生活しており、YはXの所有する藤沢市にある家屋に子供と一緒に居住しています。 Xは収入が低いため、Yと子供に対し生活費を送金することはしておらず、このほどXは慰謝料の支払いに充てるため、Yと子供が居住している家屋を売却することとしました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることはできない。 〈解説〉 XとYは離婚を前提としての別居であることから、転勤等の事情のため別居している場合などに認められる措通31の3-2(居住用家屋の範囲)(1)には該当せず、Xは、その所有する家屋を自己の居住の用に供しているとは認められない。 また、Xは、子供を扶養していないことから、措通31の3-6(生計を一にする親族の居住の用に供している家屋)の適用を受けることもできない。 (連載了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第21回】 「遺産分割協議と相続税申告」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 相続税申告業務を進めるにあたり、一般的には、相続税申告期限までに遺産分割協議を完了させ、相続税申告を行うことが多い。 これは、小規模宅地特例、配偶者の税額軽減という相続税の特例について、遺産分割が完了していることが適用条件になっており、遺産分割が完了していないと、相続税額が大きくなるためと考えられる。 今回は、相続税申告業務を行うにあたって必要な遺産分割協議の知識を整理することとする。 1 遺産分割協議 前回述べたとおり、相続にあたり、法定相続人が複数いる場合(*1)には、遺言がなければ遺産分割協議を行う必要がある。遺産分割協議とは、相続人全員が、相続財産(債務含む)につき、誰がどの財産を取得するか、話し合うことを意味し、遺産分割を完了させるためには、この遺産分割協議を行い、相続人全員が合意する必要がある。 遺産分割協議の合意の手続であるが、 という3点を確定した上で、行う必要がある。 合意した内容(*4)は、「遺産分割協議書」として書面に記載し、法定相続人全員が自署(*5)、押印(実印による押印)を行い、印鑑証明書を添付する(*6)。 なお、法律上は、遺産分割協議のやり直しは制限されていないため、一度合意した遺産分割協議の内容を取り消し、再度、遺産分割協議を行い、合意することは可能である。ただし、この場合には、一般的には、一度合意された遺産分割内容から変動した部分については、贈与があったとみなされ、贈与税の対象となるため、留意が必要である。 2 遺産分割協議と相続税申告 相続税申告は、遺産分割協議が合意していなくても行うことは可能である。ただし、この場合には、小規模宅地特例(租税特別措置法69条の4)、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)については、相続税申告時において未分割(遺産分割協議が合意できていない状態をいう)であるため、適用要件を満たさず、適用できずに申告・納税を行うこととなる。 したがって、一般的には、相続税申告期限までに(*7)、遺産分割協議を行い、合意した上で、相続税申告を行うことが多い。 なお、未分割の状態で相続税申告を行う際には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を忘れずに提出しておく必要がある これを提出しておけば、申告期限後3年以内に遺産分割協議が合意されれば、更正の請求を行い、小規模宅地特例・配偶者税額軽減を適用することができる(相続税申告期限までに、一旦相続税を納付する必要があるが、小規模宅地特例・配偶者税額軽減を適用した場合との差額の相続税額につき、更正の請求後、還付される)。 逆に、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を、当初の申告時に失念すると、申告期限後3年以内に遺産分割協議が合意されても、小規模宅地特例・配偶者税額軽減を適用できないため、忘れずに、対応しておく必要がある(*8)。 (了)
日本の会計について思う 【第5回】 「待機合格者問題が解消された今こそ取り組むべき課題」 関西学院大学教授 平松 一夫 公認会計士法の改正 公認会計士法が改正されて、10年余りが経過した。 新公認会計士法のもとで見直され、新しくなった公認会計士試験制度は、この短い期間中に大きな問題に直面し、矛盾を露呈した。 その一つに、試験合格者が就職できないという、いわゆる「待機合格者問題」があった。 現在この問題は解消されたが、今後のためにもいま一度検討しておく必要があると考えるものである。 現在の公認会計士法は2003年5月30日に成立した。改正に至ったのは、環境の変化に伴いわが国の公認会計士監査制度がいくつかの問題点に直面していたからである。 当時求められていたのは、 などへの対応であった。 そのため公認会計士監査制度の改革が喫緊の課題とされたのである。 新たな公認会計士法により、 公認会計士法についてはこのように大きな改正がなされ、その一環として公認会計士試験制度の見直しが行われたのである。 待機合格者問題の発生 新しい公認会計士試験制度のもとでは、「公認会計士数を5万人にする」という国の方針もあり、大量の合格者が誕生することとなった。 1950年以降の公認会計士数の推移を見てみると、 1950年: 392 1960年: 2,172 1970年: 5,134 1980年: 8,357 1990年:11,401 2000年:16,656 2010年:27,792 2014年3月:34,022 となっている。 1990年まで40年間は10年ごとに約3,000人が安定的に増加していたが、2000年までの10年間に約5,000人の増加となった。その後2010年までの10年間の増加数は11,000人と急増し、最近では4年間で6,000人余りの増加となっている。 このように見てみると、最近の増加が著しいことがわかる。 その理由が試験合格者数の急増にあることは明白である。 年度別の合格者数は次の表のとおりである。なお、2005年まで(点線より上)は旧試験制度の時のデータである。 〈年度別 公認会計士試験 合格者〉 (出所:公認会計士・監査審査会ホームページ) このデータから明らかなように、2007年には合格者数が4,041人と最大になり、合格率も19.3%と最高になった。これに誘われるかのように、試験応募者数も増加し、2010年には25,648人と最高となった。 ところが、その結果として、公認会計士試験に合格しても就職できないという「待機合格者問題」が顕在化したのである。 例えば、2009年には合格者のうち28%に及ぶ約700人が待機合格者となり、 2010年には合格者のうち43%にあたる約1,000人が待機合格者になったといわれる。 社会問題になった待機合格者問題に直面して、会計士業界に対する評判は悪化し、試験応募者数も激減することとなった。 2010年に25,648人であった応募者は、2013年には13,224人と半減したのである。 世界から尊敬される公認会計士育成制度の検討を その後、試験合格者数が絞り込まれた結果、待機合格者問題は2012年にはほぼ解消し、2013年には話題にもされなくなったが、一度低下した一般社会での評判を回復させるのは容易でない。 待機合格者問題の影響は公認会計士試験の応募者数に現れただけではない。厳密なデータを持ち合わせているわけではないが、大学で会計学を専攻する学生の数が減ったようである。とりわけ、高い理念をもって2005年から設立され始めた会計大学院は一時18大学を数えたが、現在は14大学に減少している。また、存続している会計大学院でも定員を削減するところが増えている。 会計大学院は高い理念をもち、国際会計士連盟の「国際教育基準(IES)」に合致するカリキュラムを展開しており、日本として世界に誇ることができる教育の仕組みである。 しかし、現在の試験制度では、その高い理念が生かされることはない。 応募者数が減少すると、公認会計士の質を維持できるかという別の問題が気になるところである。合格者は就職できたとしても業界への社会的評価が回復しなければ長期的な展望は開けない。仮にでも会計士の質に疑念がもたれるようなことになれば、上述した①我が国資本市場の活性化、②監査と会計の複雑化・多様化・国際化、③国際的な信任の確保への対応という公認会計士法改正の趣旨は生かされないことになる。 この間、企業会計審議会で一度は公認会計士試験制度の見直しが審議されたが、頓挫した。 現行の試験制度には、いくつかの問題点がある。 受験資格がまったく設けられていないことや、公認会計士という社会性の高い職務を遂行するにもかかわらず試験科目以外には一般教育(倫理を含む)を履修することすら求められていないなどである。 これでは、強く独立性が求められる公認会計士を生む日本の試験制度が国際的に信任されるか心許ない。 待機合格者問題が解消した今こそ、わが国の公認会計士制度、とりわけ試験制度が国際的に適格とされるのかを再検討し、世界の中でも尊敬に値する公認会計士試験制度としなければならないのではないか。 その時に考慮すべき規範の一つが「国際会計教育基準(IES)」である。 日本公認会計士協会だけでなく、大学も、監督官庁も、IESを踏まえて世界に通用する職業会計人を育てる制度を確立すべきである。 (了)