国税審査官エイトの勤務日誌
~ある国税不服審判所の記録~
義足の浅川審判官①

公認会計士・税理士 八ッ尾 順一
永途が、審理部のドアを開けると、末席に座っている葛本審査官が、熱心に議決書を読んでいる。
葛本審査官の机の上には、書類が高く積まれている。
「・・・あの・・・」
永途は、葛本審査官の机の傍らに行き、声をかける。
審理部はシーンとしている。
職員は、黙々と書類を読んで、誰も喋っていない。
そのとき、小柄なメガネをかけた初老の職員が立ち上がった。
初老の職員は、永途を見ると、ニコッと笑いかけて、ドアに向かう。
少し足を引きずるように歩くので、そのたびに床の音が響く。
「・・・永途さんか」
葛本審査官は、顔を上げて、永途を見る。
永途は、慌てて、ドアから葛本審査官に振り向く。
「・・・ちょっと、事案についてお伺いしたいことがあって・・・」
永途は、持参してきた袋の中から事案の綴りを取り出す。
葛本審査官は、頷きながら、静かに立ち上がって、座席から少し離れたところにあるテーブルに永途を導く。
「どんな質問ですか?」
葛本審査官は、椅子に座ると、小さな声で訊ねる。
「・・・あの・・・交際費の件ですが・・・」
永途もつられて、小声になる。
「・・・交際費と会議費の区分なのですが・・・」
永途は、言葉を続ける。
「・・・通達で・・・交際費に該当しないものとして『会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用』となっています・・・この場合、会議の場所は、問われないのでしょうか?」
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