公開日: 2026/05/14 (掲載号:No.668)
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〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』~ある国税不服審判所の記録~【第4話】「お天気の葛本審査官②」

筆者: 八ッ尾 順一

カテゴリ:
〈小説〉

国税審査官エイトの勤務日誌

~ある国税不服審判所の記録~

第4話

お天気の葛本審査官②

公認会計士・税理士 八ッ尾 順一

 

職員の食堂は、合同庁舎の14階にある。永途は、黒田と一緒にやってきた。まだ、正午前なので、人は少ない。あじのフライとサラダ、冷や奴、味噌汁とご飯で、500円である。

永途は、味噌汁をこぼさないように、お盆を持ち、座席を探していると、窓際で、葛本審査官が一人で食べている。
「・・・葛本さん・・・ここで食べても良いですか?」
永途が声をかける。

黙々とカレーライスを食べていた葛本は、驚いたように顔を上げる。
永途の後ろに立っている黒田に気がつき、大きく頷く。
「良い天気だね」
黒田は笑いながら、葛本に言う。
葛本は、大きく頷く。

「・・・今回の人事異動で、審判所の第二部に来た・・・新人の永途君だ」
黒田は、永途の横に座りながら、紹介する。
葛本は、永途をちらっと見て、頷く。

「・・・ところで、近ごろ、事件が増えたので審理部がとても忙しいと聞いているが・・・どうだい?」
黒田は、年下の葛本に尋ねる。

「・・・そうですね・・・一般事件が増加したため・・・審理に要する時間が増えました・・・何故か、法人税の事案が多くあります・・・」
葛本はカレーライスを食べながら言う。

「・・・法人の事案って・・・どんな内容のものが多いのですか?」
横から、永途が尋ねる。

「・・・そうですねえ・・・いろいろとあるのですが・・・」
葛本は、口の中のカレーを咀嚼しながら、考える。

「・・・例えば・・・交際費とか・・・貸倒損失の計上時期を争うものや法人税法22条2項の収益に係る事案など・・・それと・・・法人税法132条か・・・」
「今度、田中審判官から貰った初めての事案が交際費なんですよ」
永途は、嬉しそうに葛本に告げる。

「・・・ほう、そうですか」
葛本は、冷たい水を飲みながら答える。

「・・・事件の資料については、まだ、詳しく読んでいないんですけど、交際費になるのか、役員の賞与に該当するのか・・・それが争点なんですけれど・・・」
永途は葛本の顔を窺う。

「・・・よくあるケースですね・・・もともと、中小企業の交際費については、定額控除限度額として800万円がある・・・この非課税枠って、いわゆる中小企業の社長の小遣いとして認められたものだという人もいる・・・そうすると、800万円は社長の小遣いなんだから、なんに使おうと問題がないじゃないのかと考えることもできる・・・」
葛本は、笑いながら、カレーを口に運ぶ。

「・・・措置法に規定している交際費課税は、改正が繰り返されていることから、法人税の理論を前提として、まじめに考えすぎると、辻褄が合わなくなるかも知れない・・・」
永途は、最近の交際費の改正を、以下思い浮かべる。

[主な改正内容]

① 平成18年度税制改正

⇒ 交際費の範囲から1人当たり5,000円以下の一定の飲食費が除外される。

② 平成26年度税制改正

⇒ 飲食のための支出(社内接待費を除く)の50%を損金算入することができるようになる(中小法人については800万円との選択可能)。

③ 令和2年度税制改正

⇒ 資本金の額等が100億円を超える法人については、50%相当額の損金算入を適用できなくなる。

④ 令和6年度税制改正

⇒ 令和6年4月1日以後に支出する飲食費について、1人当たり5,000円以下が1万円以下に改正される。

結局、現在の法人規模別交際費等の取扱いは、次のようになっている。

飲食費 1 万円以下 飲食費 50% 飲食費 以外
資本金の額等
100 億円超
損金算入 損金不算入 損金不算入
資本金の額等
1 ~ 100 億円以下
損金算入 損金算入 損金不算入
中小法人・資本金の
額等 1 億円以下
損金算入 800 万円又は飲食費 50%の選択

「・・・ところで、所得税の交際費は、必要経費として認められているのに対して、法人税は、例外はあるものの、原則、課税されているのは、何故なんですか?」
永途が葛本に質問をする。
葛本のカレー皿は、空になっている。

葛本は、口に爪楊枝を入れながら、歯の掃除をしている。
「・・・もともと事業に必要なものであれば、当然、必要経費になるだろう・・・しかし、事業に関係のない支出であれば、個人であっても、家事関連費として、所得計算上、必要経費は否認される・・・所得税法45条では『家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの』は、必要経費にならないと規定している」
葛本は、すらすらと条文の一部を読み上げる。

「・・・法人税の場合、政策的に、交際費は原則課税で、また、所得税のような区分規定はありませんから、課税実務では、よほどのことがなければ、納税者がその支出を自ら交際費として処理していれば、税務署は、文句をあまり言わないのでしょうか?」
そう言うと、永途は、お盆の上のあじのフライを食べ始めた。

(つづく)

この物語はフィクションであり、登場する人物や団体等は、実在のものとは一切関係ありません。

「〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』~ある国税不服審判所の記録~」は、不定期の掲載となります。

〈小説〉

国税審査官エイトの勤務日誌

~ある国税不服審判所の記録~

第4話

お天気の葛本審査官②

公認会計士・税理士 八ッ尾 順一

 

職員の食堂は、合同庁舎の14階にある。永途は、黒田と一緒にやってきた。まだ、正午前なので、人は少ない。あじのフライとサラダ、冷や奴、味噌汁とご飯で、500円である。

永途は、味噌汁をこぼさないように、お盆を持ち、座席を探していると、窓際で、葛本審査官が一人で食べている。
「・・・葛本さん・・・ここで食べても良いですか?」
永途が声をかける。

黙々とカレーライスを食べていた葛本は、驚いたように顔を上げる。
永途の後ろに立っている黒田に気がつき、大きく頷く。
「良い天気だね」
黒田は笑いながら、葛本に言う。
葛本は、大きく頷く。

「・・・今回の人事異動で、審判所の第二部に来た・・・新人の永途君だ」
黒田は、永途の横に座りながら、紹介する。
葛本は、永途をちらっと見て、頷く。

「・・・ところで、近ごろ、事件が増えたので審理部がとても忙しいと聞いているが・・・どうだい?」
黒田は、年下の葛本に尋ねる。

「・・・そうですね・・・一般事件が増加したため・・・審理に要する時間が増えました・・・何故か、法人税の事案が多くあります・・・」
葛本はカレーライスを食べながら言う。

「・・・法人の事案って・・・どんな内容のものが多いのですか?」
横から、永途が尋ねる。

「・・・そうですねえ・・・いろいろとあるのですが・・・」
葛本は、口の中のカレーを咀嚼しながら、考える。

「・・・例えば・・・交際費とか・・・貸倒損失の計上時期を争うものや法人税法22条2項の収益に係る事案など・・・それと・・・法人税法132条か・・・」
「今度、田中審判官から貰った初めての事案が交際費なんですよ」
永途は、嬉しそうに葛本に告げる。

「・・・ほう、そうですか」
葛本は、冷たい水を飲みながら答える。

「・・・事件の資料については、まだ、詳しく読んでいないんですけど、交際費になるのか、役員の賞与に該当するのか・・・それが争点なんですけれど・・・」
永途は葛本の顔を窺う。

「・・・よくあるケースですね・・・もともと、中小企業の交際費については、定額控除限度額として800万円がある・・・この非課税枠って、いわゆる中小企業の社長の小遣いとして認められたものだという人もいる・・・そうすると、800万円は社長の小遣いなんだから、なんに使おうと問題がないじゃないのかと考えることもできる・・・」
葛本は、笑いながら、カレーを口に運ぶ。

「・・・措置法に規定している交際費課税は、改正が繰り返されていることから、法人税の理論を前提として、まじめに考えすぎると、辻褄が合わなくなるかも知れない・・・」
永途は、最近の交際費の改正を、以下思い浮かべる。

[主な改正内容]

① 平成18年度税制改正

⇒ 交際費の範囲から1人当たり5,000円以下の一定の飲食費が除外される。

② 平成26年度税制改正

⇒ 飲食のための支出(社内接待費を除く)の50%を損金算入することができるようになる(中小法人については800万円との選択可能)。

③ 令和2年度税制改正

⇒ 資本金の額等が100億円を超える法人については、50%相当額の損金算入を適用できなくなる。

④ 令和6年度税制改正

⇒ 令和6年4月1日以後に支出する飲食費について、1人当たり5,000円以下が1万円以下に改正される。

結局、現在の法人規模別交際費等の取扱いは、次のようになっている。

飲食費 1 万円以下 飲食費 50% 飲食費 以外
資本金の額等
100 億円超
損金算入 損金不算入 損金不算入
資本金の額等
1 ~ 100 億円以下
損金算入 損金算入 損金不算入
中小法人・資本金の
額等 1 億円以下
損金算入 800 万円又は飲食費 50%の選択

「・・・ところで、所得税の交際費は、必要経費として認められているのに対して、法人税は、例外はあるものの、原則、課税されているのは、何故なんですか?」
永途が葛本に質問をする。
葛本のカレー皿は、空になっている。

葛本は、口に爪楊枝を入れながら、歯の掃除をしている。
「・・・もともと事業に必要なものであれば、当然、必要経費になるだろう・・・しかし、事業に関係のない支出であれば、個人であっても、家事関連費として、所得計算上、必要経費は否認される・・・所得税法45条では『家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの』は、必要経費にならないと規定している」
葛本は、すらすらと条文の一部を読み上げる。

「・・・法人税の場合、政策的に、交際費は原則課税で、また、所得税のような区分規定はありませんから、課税実務では、よほどのことがなければ、納税者がその支出を自ら交際費として処理していれば、税務署は、文句をあまり言わないのでしょうか?」
そう言うと、永途は、お盆の上のあじのフライを食べ始めた。

(つづく)

この物語はフィクションであり、登場する人物や団体等は、実在のものとは一切関係ありません。

「〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』~ある国税不服審判所の記録~」は、不定期の掲載となります。

連載目次

筆者紹介

八ッ尾 順一

(やつお じゅんいち)

大阪学院大学法学部教授
公認会計士・税理士

昭和26年生まれ
京都大学大学院法学研究科(修士課程)修了

【著書】
・『ストーリーで学ぶ 所得税の論点』(令和8年) ※Profession Journal掲載記事を書籍化
・『十七訂版/図解 租税法ノート』(令和8年)
・『第7版/事例からみる重加算税の研究』(令和4年)
・『七訂版/租税回避の事例研究』(平成29年)
・『マンガでわかる税務調査―法人課税第三部門にて』(平成28年) ※Profession Journal掲載記事をマンガ化
・『事例による 資産税の実務研究』(平成28年)
・『法律を学ぶ人の 会計学の基礎知識』共著(平成27年)
・『新装版/入門税務訴訟』(平成22年)
・『マンガでわかる遺産相続』(平成23年)
・『判例・裁決からみる法人税損金経理の判断と実務』(平成23年)以上、清文社
・『入門 税務調査──小説でつかむ改正国税通則法の要点と検証』(平成26年)法律文化社

【論文】
「制度会計における税務会計の位置とその影響」で第9回日税研究奨励賞(昭和61年)受賞
【その他】
平成9~11年度税理士試験委員
平成19~21年度公認会計士試験委員(「租税法」担当)
 
        

関連書籍

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