[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした]
95%ルール改正後の
消費税・仕入税額控除の実務
【第1回】
「仕入税額控除の仕組み」
国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦
1 なぜ今「仕入税額控除」なのか
本連載ではこれから消費税の仕入税額控除の実務についてみていくこととなるが、第1回となる今回は、消費税制度の根幹をなす仕入税額控除の仕組みについて解説する。
それでは、なぜ今「仕入税額控除」について確認する必要があるのだろうか。
この直接のきっかけは、平成23年度の税制改正にある。すなわち、平成23年度の税制改正において、消費税に関してはいわゆる「95%ルール」の見直しが行われたが、これにより改正前は課税仕入れに係る税額が全額控除できた事業者であっても、改正後は実額控除方式である「個別対応方式」又は「一括比例配分方式」のいずれかの選択適用が強いられるところが大幅に増えた。そのため、課税事業者の仕入税額控除制度への関心が大幅に高まったというわけである。実際、新たな事務量負担の増加と不慣れな経理処理に頭を悩ませている企業の経理担当者も少なくないものと思われる。
ところで、消費税の仕入税額控除については、2種類の実額控除方式のうち、一般的には個別対応方式の方が一括比例配分方式よりも有利と考えられている。なぜなら、多くの企業においては、個別対応方式の方が一括比例配分方式よりも仕入控除税額が多くなる傾向にあるからである。
しかし、事業規模の小さい課税事業者であれば、事業計画の内容の変更により、年度ごとの極端な課税仕入れの増加等の現象も起きやすい。また、一括比例配分方式を一度選択すると、2年間の継続適用が求められることから、仕入税額控除に関する有利不利の選択には将来の事業計画を見越した検討が必要となる。
したがって、単年度の仕入控除税額の計算だけで、両者の有利不利が導き出せるというような単純な問題でもないのである。
また、個別対応方式は課税仕入れの分類(用途区分という)が必須であり、手間がかかる。
さらに、本年4月には8%、来年10月には10%に消費税率が引き上げられる予定であり、個別対応方式と一括比例配分方式の選択による有利不利の差はより一層広がることとなる。そのため、両者の選択の重要性は今後益々高まることが容易に想像されるところである。
そこで本連載では、企業の経理実務に役立ててもらおうという趣旨で、「95%ルール」見直し後の仕入税額控除制度につき、個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心に、多角的に解説していきたい。
2 95%ルール改正後の仕入税額控除
(1) 消費税増税と仕入税額控除の意義
消費税法を巡ってはここ数年重要な改正が続いている。一つは平成23年度の95%ルールの改正であり、もう一つは平成24年度の消費税率引き上げを柱とした大改正である。
いずれの改正も実務に与える影響は大きいが、事業者及びそれを支える税理士としては、当該改正により自衛の策として、消費税のプランニングが今後重要性を増すことを心に留めるべきであろう。
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