社長からの無理難題の
断り方・かわし方

SNS投稿用の衣装・バッグ等の購入費用
Question
【遭遇率 ★★☆☆☆】
先生、私は個人事業主としてSNSで収益を得ているんですけど、投稿用に買った衣装やバッグが結構な金額になっているの。
実際にSNSの投稿で使ってるから、これって全部経費でいいわよね?
プライベートでも使えそうだけど、ちゃんと仕事で使ってるんだから問題ないと思うのだけど・・・
Answer
一定の要件を満たすことで経費計上が可能です!
ただし、「業務専用」であることを客観的に証明できなければ、家事費(生活費)として扱われ、経費計上が認められません。
経費として認められるか否かを判断する上で最も重要なのは、①その支出が「事業遂行上の必要性」を持つこと、②「家事関連費と峻別」できることです。
これらの要件を客観的な証拠をもって証明できるかどうかが、税務上の判断の分かれ目となります。正しく処理しないと、税務調査で否認されるリスクがありますよ!
《確認すべき事項》
・事業遂行上の必要性
⇨ その支出が事業所得と直接関連し、事業の遂行上必要な費用であるか。
・家事関連費との峻別
⇨ 私的に使用される可能性が低いか。業務専用であることを証明できるか。
・客観的な証拠の保持
⇨ 実際に業務で使用したことを証明する写真、動画、契約書、記録などがあるか。
* * 解 説 * *
1 事実関係の把握
社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。
【会社の状況】
- 社長は本業とは別に個人事業主として、SNSで収益を得ている。
- 主な収入源は、企業とのタイアップ案件による広告収入と、アフィリエイト収入。
- 年間の事業所得は約300万円。
【購入物品の状況】
- 社長は、SNS投稿用として以下を購入している。
① ブランドバッグ(30万円)
② カジュアルウェア(Tシャツ、ジーンズ等、計15万円)
③ アクセサリー類(5万円)
- これらの物品は、実際にSNS投稿の写真・動画で使用されている。
- 購入時の領収書には「SNS投稿用」とメモ書きがある。
【使用状況】
- 社長は「これらは全て業務専用で、プライベートでは一切使っていない」と主張している。
- しかし、カジュアルウェアは普段着としても使用可能なデザインである。
- 業務専用であることを客観的に証明する資料(使用記録等)は特に作成していない。
【経理処理】
- 現在、これらの購入費用は「広告宣伝費」として全額必要経費に計上している。
2 法的論点の整理
(1) 必要経費の要件
所得税法37条1項には、必要経費について次のように定められています。
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
(2) 家事費と家事関連費
所得税法45条1項1号は、家事費について次のように定めています。
家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるものは、必要経費に算入しない。
また、所得税法施行令96条は、家事関連費について次のように定めています。
法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
① 主たる部分が業務の遂行上必要であること
② 必要である部分を明らかに区分することができること
3 本件事例への当てはめ
(1) ブランドバッグ(30万円)
① 事業遂行上の必要性
SNS投稿に実際に使用されているため、一定の業務関連性は認められます。
② 家事関連費との峻別
しかし、ブランドバッグは私的にも使用可能であり、業務専用であることを客観的に証明することは困難です。
使用記録等で業務使用割合を合理的に算定できる場合には、家事按分による一部経費計上の可能性がありますが、実務上は困難です。
(2) カジュアルウェア(15万円)
① 事業遂行上の必要性
SNS投稿に使用されているとはいえ、Tシャツやジーンズは日常着として一般的なものです。
② 家事関連費との峻別
私的使用との境界が極めて曖昧であり、業務専用であることを証明することは非常に困難です。
(3) アクセサリー類(5万円)
カジュアルウェアと同様、私的使用との区別が困難であり、必要経費として計上することは認められません。
4 認められる可能性が高いケース
(1) タイアップ案件で着用が指定された衣装やバッグ等
広告主との契約に基づき着用が義務付けられている場合、契約書等で業務関連性を明確に証明できるため、「事業遂行上の必要性」が客観的に担保されます。
(2) 明らかに業務専用と認められる衣装
【具体例】
- 企業ロゴ入りのユニフォーム
- 特殊な撮影用衣装(コスプレ衣装、時代劇の衣装等)
- 舞台衣装
5 参考裁決事例
【ライブチャットサービス業務を行う請求人が主張する各費用のうち、少なくともパソコン等の購入費及びインターネット接続料金については必要経費に算入するのが相当であるとした事例】(裁決年月日:平成26年5月22日、一部取消し)
請求人は、インターネットのウェブサイト上で、当該サイトの男性会員にウェブカメラで撮影した映像を見せながら会話を行う等のいわゆるライブチャットサービス(本件業務)を行って報酬を得ていたところ、本件業務に使用するパソコン、ウェブカメラ、衣服、水着、ソファー、カーテン等を購入した費用及び美容費は、全て本件業務の遂行上必要なものであるから、必要経費に算入されるべきものである旨主張する。
ところで、請求人がいかなる態様で本件業務を行っていたとしても、少なくともパソコン及びウェブカメラを使用し、インターネットへ接続することは本件業務の遂行上必要不可欠なことと認められるから、請求人が本件業務の用に供したパソコン及びウェブカメラの購入費並びにインターネット接続料金については、減価償却費、消耗品費、備品費又は通信費として必要経費にそれぞれ算入するのが相当である。
しかしながら、上記各費用のうちパソコンの購入費等以外の各費用については、請求人から本件業務をどのように行っていたのかを明らかにする動画や静止画等の客観的な証拠の提出はなく、当審判所の調査の結果によっても、これを確認することはできない。そうすると、請求人の当該各費用の必要経費該当性については、業務関連性に関する各答述等から合理的に判断していくほかないところ、各答述は、総じて終始場当たり的で一貫せず、不自然かつ不合理な内容や本件業務に無理に関連づけて述べるものと認められるから信用できない上、請求人が提出した当該各費用に関する書類の内容及び本件業務との関連性を記載したメモ書き等からみても、いずれの費用も客観的にみて本件業務と直接の関係を有し、かつ、本件業務の遂行上必要なものとは認められない。
6 実務上の対応策
(1) 証拠資料の整備
SNS投稿用の衣装等を必要経費として計上する場合、以下の証拠資料を整備することが必要です。
① 実際に使用している場面の写真・動画
SNS投稿そのものが最も強力な証拠となります。投稿のスクリーンショットやURLを記録として保存しておきましょう。
② クライアントとの契約書や指示書
タイアップ案件で着用が義務付けられている場合に有効です。契約書に「指定された衣装を着用すること」等の記載があれば、業務関連性が明確になります。
③ 撮影スケジュールや企画書
どの投稿のために、いつ、どこで使用したかを記録します。
④ 使用記録台帳
各物品について、使用日、使用目的、関連する投稿URL、使用時間などを詳細に記録します。
(2) 業務専用管理の徹底
以下の対策により、業務専用であることを明確化できます。
① 業務専用の保管場所を設ける
自宅内であっても、業務用衣装専用のクローゼットやスペースを確保し、私服と明確に区別する。
② 処分時の記録
使用しなくなった衣装等を処分する際も、処分日と理由を記録しておく。
(3) 家事按分の検討
家事按分を検討する場合は、以下の対応が必要です。
① 合理的な按分基準の設定
SNS投稿に使用されているとはいえ、Tシャツやジーンズは日常着として一般的なものです。
② 按分計算の記録保持
按分の根拠となる計算方法と実績データを記録として保持します。
ただし、日常着として使用可能なカジュアルウェアの場合、業務使用部分を明確に区分することは実務上極めて困難です。
税理士からのコメント
SNS投稿を目的とした衣装やバッグ等の購入費用については、「業務専用であることを客観的な証拠によって証明できるか」が最大のポイントです。
単に「業務で使っています」と主張するだけでは不十分で、実際の使用状況を示す写真や動画、使用記録などの証拠資料が必要です。
特に、日常着として使用可能な衣服については、税務調査で否認されるリスクが非常に高いため、慎重な判断が求められます。
タイアップ案件で着用が指定されている場合や、企業ロゴ入りのユニフォームのように明らかに業務専用と認められる場合を除き、全額を必要経費として計上することは避けるべきです。
また、どうしても経費計上したい場合は、前述の「証拠資料の整備」「業務専用管理の徹底」を行い、税務調査に備えることが不可欠です。客観的な証拠がなければ、家事費として否認されるリスクが高いことを、社長には十分に説明しておく必要があります。
【参考(関連条文等)】
- 所得税法37条1項(必要経費)
- 所得税法45条1項1号(家事費・家事関連費)
- 所得税法施行令96条(家事関連費)
- 平成26年5月22日裁決(ライブチャット事例)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。
