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空き家をめぐる法律問題 【事例48】「所在等が不明な共有者がいる場合の共有関係の解消方法」

空き家をめぐる法律問題 【事例48】 「所在等が不明な共有者がいる場合の共有関係の解消方法」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 次の事情がある場合に、空き家の共有関係を解消して当該共有者の持分を取得するためには、どのような方法によることができるでしょうか。 ① 共有者のうちXが外国籍の者で、登記簿上の住所も海外の住所となっており、当該外国住所宛に手紙を送付しても返信されてきた場合のXの持分 ② Xの相続(相続人はB、C)が10年前に発生し、遺産分割協議が行われないうちにCの相続(相続人はD、E)も発生した場合のDの持分(ただし、Dの所在は不明なものとする)   1 はじめに 共有不動産は権利者が複数存在するため、所在の不明な共有者がいると、当該不動産の利用や管理に支障が生じる。そこで所在の不明な共有者との共有関係の解消を図る方法について、令和5年4⽉1⽇から施⾏される予定の改正⺠法も踏まえて検討する。なお、便宜上、改正前・後の⺠法を「改正前民法」「改正後⺠法」と表記する。   2 共有物分割請求訴訟による方法と外国における送達の問題 共有物分割請求訴訟は固有必要的共同訴訟であるため、共有者全員を訴訟の当事者にする必要がある。訴えを提起するにあたって、訴状等の訴訟上の書類を被告に送達する必要があるところ、外国への送達は、民事訴訟法第108条に基づいて、外国の権限を有する当局や当該国に駐在する日本国の大使、公使、領事に嘱託して行うことになる。 民事訴訟法第108条の外国における送達を行う前提として、各種の条約や司法共助の取決めのように相手国の応諾が必要となり、相手国と締結している条約の種類や司法共助の有無によって、嘱託の手続が異なる。また、外国における送達は、関係機関が複数関与するため、1年以上要することもある。一方で、民事訴訟法第110条第1項第3号は「外国においてすべき送達について、第108条の規定に・・・によっても送達をすることができないと認めるべき場合」には、公示送達によることができる旨規定している。 外国にいる共有者については、現在の住所等を把握できない場合があり、登記簿等から把握できた過去の外国の住所宛に郵便物を送付しても配達できないこともある。このような状況が当初から見込まれる場合にまで、外国における送達を求めることは、訴えを提起しようとする者にとって少なくない負担となる。 そこで問題となるのは、外国における最後の住所宛への郵便物の送付ができないことを理由に、訴え提起の時点から民事訴訟法第110条第1項第3号による公示送達が認められるかである。 この問題に関して、訴訟の相手方の手続保障の観点から、外国の住所に郵便物を配達できないとしても、原則として、そのことを理由に直ちに公示送達は認められず、外国における送達を一度試みるべきものとされている。 もっとも、例外的に、「相当以前に日本を去り、以後来日したことがない者については同人にあてた手紙等が不送達になり返送されている事実及び受送達者の近親者や知人等の陳述書あるいは証明書等を総合して、所在不明であるとの要件が証明されたと判断される」場合には、公示送達を認める余地があるものとされている(以上につき、裁判所書記官実務研究報告書「民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-」(司法協会・2006年)181頁等)。 このように、所在の不明な外国の共有者に対して共有物分割請求訴訟を提起することには相当の制約がある。手続的には煩瑣であるが、特別代理人(民事訴訟法第35条)の選任要件を満たす場合には、特別代理人の選任を申し立てた上で訴訟を行うことや、当該共有者の不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人との間で共有物分割手続(訴訟含む)を行うことが妥当と考えられる。   3 改正後民法による方法-所在等不明共有者の持分の取得手続の創設 (1) 手続の概要 改正後民法は、所在の不明な共有者がいる場合に訴訟によらずに共有関係の解消を行うための手続を創設した。すなわち、共有者が「他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」に、裁判所の裁判に基づいて当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という)の持分を取得することができることになった(改正後民法第262条の2第1項)。 所在等不明共有者の持分を取得したい共有者は、裁判所による公告と届出期間の経過等を経て、供託命令に従って供託金を納付した場合に、所在等不明共有者の持分の取得の裁判を受けることになる。申立人となった共有者は、当該裁判が確定すれば、所在等不明共有者の持分を取得することができる。 所在等不明共有者に該当するかは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名や名称、所在を知ることができないかどうかによって判断される。自然人の場合には、少なくとも公的書類(戸籍、住民票、登記簿)に記載された住所の調査を行うことになる。外国の住所しか判明しないような場合には、その外国の住所宛の郵便物の送付、関係者からの事情聴取、外国籍の者の場合は外国人登録原票の調査を行うことなどが考えられる。 (2) 数次相続が発生している場合の取扱い 所在等不明共有者の持分の取得手続は、遺産共有の場合であっても適用される。もっとも、相続人の具体的相続分による遺産分割への期待を保護するため、所在等不明共有者の持分権が相続財産に属する場合には、相続開始の時から10年を経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分取得の手続を利用できない(改正後民法第262条の2第3項)。 所在等不明共有者が生じる事例においては、数次相続が発生していることも少なくない。このような数次相続の事例においては、改正後民法第262条の2第3項に規定する「相続開始の時」を、いつの相続を基準にして10年の経過を判断するかが問題となりうる。 改正後民法の立法段階の議論によると、一次相続から10年経過し、二次相続から5年経過した数次相続の事例を題材にして、以下の【数次相続の場合の整理表】のように、所在等不明共有者の持分が誰の相続財産と評価できるかによって判断しているように思われる。 (出所) 法務省ホームページ「法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議」の「蓑毛幹事提供資料」から抜粋 【数次相続の場合の整理表】 (※) E及びFが所在等不明共有者の前提   4 本件について (1) ①の場合 Xを被告として共有物分割請求訴訟を提起する場合、訴えの提起時点から公示送達を利用できるような例外的事情がなければ、共有物分割請求訴訟による方法は相当の時間と労力を要することになり妥当ではない。 そこで、Xに相続が発生しており、相続人が存在しないと認められるような事情がある場合には、特別代理人の選任の申立てによって対応するべきであろう。また、特別代理人の選任が難しいようなときは、Xの不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人との間で共有物分割協議を行うこと、所在等不明共有者の持分の取得手続によってXとの共有関係を解消することも考えられる。 (2) ②の場合 Dの所在が不明のため、不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人及び他の共有者との間で遺産分割協議を行うことが考えられる。なお、Cの相続開始の時から10年を経過していないため、Dの持分を取得するために、所在等不明共有者の持分取得の手続は利用できない。 (了)

#No. 509(掲載号)
#羽柴 研吾
2023/03/02

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第66話】「実質所得者課税の原則」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第66話】 「実質所得者課税の原則」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   浅田調査官は、先ほどから中尾統括官の机の前に立っている。 「これって、父親の所得だと思うのですが・・・」 昨日、浅田調査官は、甲の税務調査をしているときに、父親である甲が子供(乙)に甲所有のA土地を無償で貸与し、そのA土地を乙が第三者に駐車場として貸与している事実を把握した。 浅田調査官は、中尾統括官に自分で描いた図を見せながら、昨日の税務調査の報告をしている。 「もちろん、子である乙は、不動産所得を申告はしているのですが・・・こんな方法を安易に認めれば、所得の分散なんか、簡単にできるじゃないですか・・・」 浅田調査官は、少し興奮した口調になっている。 中尾統括官は、黙って聞いている。 「・・・要は、不動産所得が誰に帰属するかということで・・・不動産所得の申告それ自体が漏れているということではないのだな」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「ええ、そうですが・・・しかし、父親は資産家で、不動産を多く所有しており、高額所得者ですから、税金は・・・父親の所得とする方が多く徴収できます・・・」 浅田調査官は、頭を搔きながら苦笑いする。 「・・・このケースでは、親が子にA土地をそのまま無償で貸し付け、子がA土地から賃料を得るということだが・・・例えば、子がその土地の上に銀行から借入れをして、賃貸マンションを建て、不動産所得を得た場合、税務署は、土地の地代相当分を親の所得として区分(認識)しないし、したがって、子が賃貸マンションから得る収入を不動産所得として申告していればよく・・・それに対して特に税務署は是正を求めない」 中尾統括官は、机の上で、図を描きながら、ハッキリと言う。 「・・・例えば、マンションの年間の賃料が5,000万円あり、その土地に係る地代相当分が1,000万円だとすると、地代相当分の1,000万円は、父親に帰属する不動産所得として認定しないのですか?」 浅田調査官は尋ねる。 「・・・税務署は、そのような更正処分をしない」 中尾統括官は、強い口調で言う。 「・・・何故なんですか?」 浅田調査官は、食い下がる。 「・・・所得税では、建物から得た所得と土地から得た所得を正確にそれぞれ按分することが困難であるということもあり・・・要は・・・全ての所得が漏れなく、申告されていれば良いということなのだろう・・・もっとも、これは僕の考えだが・・・」 中尾統括官は、笑い顔になる。 「・・・ということは・・・子が銀行から借入れをし、賃貸マンションを建て、土地の付加価値を増価させ、更に、子がビジネス上のリスクも負うということですから、所得税では、賃貸マンションのすべてを子の所得としてもかまわないということですか・・・」 浅田調査官は、思案顔になる。 「そうだな」 中尾統括官は、頷く。 「・・・ところで、先ほどの税務調査の件に戻りますが・・・子は親から無償で貸与された土地をそのまま第三者に駐車場として賃貸して、年間600万円の不動産所得を得ていたのです・・・これも父の不動産所得と認定することは難しいのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を覗く。 「・・・所得税法12条の『実質所得者課税の原則』の問題だな・・・」 中尾統括官は、そう言いながら条文を捲る。 「・・・ということは、子は『単なる名義人』であって、『その収益を享受せず』であれば、所得税法12条で、親の所得とすることができるということですか?」 浅田調査官は、所得税法12条を見ながら、言葉を続ける。 「・・・しかし、甲と乙の親子間で・・・書面でA土地の使用貸借契約を締結していることから・・・法律上は、子にA土地の使用収益権があることになり、子は『単なる名義人』であるといえないのでは・・・それに・・・子は・・・第三者との賃貸契約に基づいて、年間600万円の賃料を直接得ているので・・・『その収益を享受せず』には該当しないと考えられますが・・・」 浅田調査官は、残念そうに呟く。 「・・・ただ、必ずしもそのような解釈が・・・絶対的なものでもないように思えるのだが・・・」 中尾統括官は、考えながら言う。 「・・・親子で形式的な使用貸借契約を締結していれば・・・直ちに使用収益権が子にあるともいえない・・・それを認めると、所得分散を簡単に認めてしまうことになるので・・・課税実務上、使用貸借契約に至った経緯、目的等を総合的に勘案して、『単なる名義人』であるか否かを判断しなければならない・・・」 中尾統括官は、言葉を続ける。 「・・・また、『その収益を享受せず』についても・・・賃料を直接受け取らなくても、最終的に当該金員を誰が享受するかによって判断することから、子が直接賃料を第三者から受け取ったとしても、必ずしも享受していることにはならない・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の言葉に大きく頷く。 「分かりました・・・明日、もう一度、調査で確認してきます」 浅田調査官は、中尾統括官に一礼をすると、足早に席に戻る。 (つづく)

#No. 509(掲載号)
#八ッ尾 順一
2023/03/02

プロフェッションジャーナル No.508が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年2月22日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.508を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/02/22

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第23回】「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」-ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第23回】 「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」 -ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は異なる個別分野別一般的否認規定(法税132条1項と132条の2)の不当性要件について統一的解釈(個別分野別不当性要件の統一的解釈)に基づく検討を行ったが、今回は個別分野別一般的否認規定について個別的否認規定との適用関係を検討する。 その検討の素材としては、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)57条3項と132条の2との適用関係に関する未処理欠損金額引継規定濫用[ヤフー]事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)と同[TPR]事件・東京高判令和元年12月11日訟月66巻5号593頁(以下「TPR事件東京高判」という)を取り上げることにする。なお、TPR事件東京高判は、原審・東京地判令和元年6月27日訟月66巻5号521頁をほぼそのまま引用し控訴審における当事者の主張に対する判断を付加するにとどまるものであるから、以下では、引用部分については「原判決引用」と付記することにする。 法人税法57条3項と132条の2との適用関係については、TPR事件東京高判に関するある評釈の中で次の見解が示されている(平川雄士「TPR事件判決はPGM事件裁決の批判的検討-法人税法57条2項の趣旨の理解は正しいのか-」週刊税務通信3720号(2022年)15頁、18-19頁)。 確かに、TPR事件東京高判は法人税法132条の2について上記見解にいう「入口」段階で止まらず「実体判断」に立ち入ってその適用を肯定し、これに対する上告受理申立てを最高裁は不受理と決定したが(週刊税務通信3662号(2021年)8頁参照)、そうである以上、同条の適用に当たっては、上記見解の説くように、「入口」段階ではなく「実体判断」段階が「主戦場」となるということが「司法の立場」として固まっているといえるかもしれない。 しかしながら、そのように結論づけるのは早計ではないかと思われる。その前に次のような疑問の解明が必要であるように思われるからである。すなわち、TPR事件における法人税法132条の2の適用上「入口」要件ともいうべき特定資本関係5年超要件は、ヤフー事件ではそもそも問題になっておらず、同法57条3項が同要件不充足を前提として定めるみなし共同事業要件のうち特定役員引継要件の充足の有無が、いきなり・・・・、同法132条の2の「実体判断」段階で争われたが、両事件の事案の違いを前提とするこのような要件判断の違いは、同条の適用において意味をもたないのであろうか。 換言すれば、ヤフー事件最判が判示した制度濫用基準(前回Ⅲ参照)は、「組織再編税制に係る各規定」の「租税回避の手段として」の「濫用」の有無を法人税法132条の2の判断基準とするものであるが、そこでいう「組織再編税制に係る各規定」には同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件の規定も含まれるところ、ヤフー事件においてはそもそも同要件が充足されていない事案であったが故に同要件規定の「濫用」は問題にならなかったのに対して、TPR事件においては同要件が充足されている事案であったが故に、同要件の充足が同要件規定の「濫用」として同法132条の2によって否認されない限り、同法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無という「実体判断」には、同項の規定の文理からしてもその構造からしても、立ち入ることはできないはずであるが、それにもかかわらず、TPR事件東京高判はヤフー事件最判を「平成28年最判」として参照しながら次のとおり(下線筆者)判示したのはなぜであろうか。 以上のような疑問について検討するに当たって、まず、次のⅡで法人税法57条3項と132条の2との適用関係に関するヤフー事件最判の考え方を明らかにし整理しておこう。 なお、今回の検討は、基本的には、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第31回及び第32回で既に検討したところをベースにし、その後の検討も加味しつつ、行うものである。   Ⅱ 法人税法57条3項と132条の2との「重畳的」適用 ヤフー事件最判は、法人税法132条の2の解釈により定立した制度濫用基準への事案の当てはめに関する判示の中で、「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る各規定」として、次のとおり(下線筆者)、①法人税法57条2項、②同条3項及び③同法施行令112条7項5号の各規定を挙げている。 この判示から明らかなように、②法人税法57条3項は①同条2項の例外規定(適用除外規定)であるが、③同法施行令112条7項5号(の定める特定役員引継要件を含むみなし共同事業要件を定める同項)は、次の判示(下線筆者)から明らかなように、②同法57条3項の例外規定(適用除外規定)とされている。 要するに、未処理欠損金額引継ぎに関する「組織再編税制に係る各規定」は、①法人税法57条2項について②同条3項が例外規定(適用除外規定)として定められ、②同条3項については③同法施行令112条7項5号が例外規定(適用除外規定)として定められる、という規定構造を形成しているのである。 これを規定内容の観点からみると、①法人税法57条2項は被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎを定める課税減免規定であり、②同条3項は①の濫用による租税回避の否認規定であり、③同法施行令112条7項5号は特定資本関係5年超要件不充足の場合における①の濫用による租税回避の否認規定であるといえよう。 ②法人税法57条3項と③同法施行令112条7項5号は、このように、結論的には、同じく①同法57条2項の濫用による租税回避の否認規定であるといえようが、しかし、論理構成の点では、否認の意味を異にする。この点についてヤフー事件最判に即して次のとおり敷衍しておこう。 税法上の課税減免規定の濫用による租税回避の場合において濫用される「課税減免規定」には、ヤフー事件に即していえば、未処理欠損金額の引継ぎを認める①法人税法57条2項(以下「本来的課税減免規定」という)が該当するほか、同規定の濫用による租税回避を否認する②同条3項について適用除外要件を定める③同法施行令112条7項5号も該当する。というのも、その適用除外要件は、いわば「否認緩和要件」として、本来的課税減免規定の濫用による租税回避が否認される場合に比べて、「課税減免」の効果をもたらすからである。その意味で、そのような「課税減免」の効果をもたらす適用除外要件(否認緩和要件)を定める③同法施行令112条7項5号は、「派生的課税減免規定」ということができよう。要するに、ヤフー事件最判は、税法上の本来的課税減免規定の濫用による租税回避それ自体を否認したのではなく、税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避を否認したのである。 税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避に対する法人税法132条の2の適用を筆者は、②同法57条3項との「重畳的」適用と呼んできた(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)236頁[初出・2015年]参照)。そのような呼称は、「個別防止規定の潜脱」に関して述べられている、法人税法57条3項と132条の2との次のような適用関係(斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税務大学校論叢73号(2012年)1頁、78-79頁。下線筆者)を念頭に置いたものである。   Ⅲ 制定法踰越的法創造に基づく法人税法132条の2の適用 1 TPR事件東京高判の租税回避手段論 ヤフー事件では、特定資本関係5年超要件が充足されていないことは事実関係から明らかであり当事者間でも争われていなかったので、最高裁は②法人税法57条3項の定める要件のうち特定資本関係5年超要件についてその濫用の有無を判断することなく、いきなり、③同法施行令112条7項5号の特定役員引継要件についてその濫用の有無を判断したものと解される。これに対して、TPR事件では、逆に、特定資本関係5年超要件が充足されていることについて当事者間に争いがなく、裁判所もそのことを前提として法人税法132条の2の適用について判断しこれを肯定した。 ここで注目されるのは、ヤフー事件最判が「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る規定」の1つとして②法人税法57条3項を挙げており、かつ、TPR事件東京高判がヤフー事件最判を参照しているところ、それにもかかわらず、同東京高判が同法132条の2の適用を判断するに当たって、②同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無について判断しなかったことである。このことを換言すれば、特定資本関係5年超要件規定も派生的課税減免規定の1つであるから、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、特定資本関係5年超要件規定の濫用による租税回避に対しても法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったのである。 この点について、TPR事件東京高判がその検討をしなかった理由は、②法人税法57条3項に関する次の判示(原判決引用。下線筆者)から、読み取ることができるように思われる。 この判示は、②法人税法57条3項について「未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く」と述べているところに端的に表現されているように、租税回避の類型(第20回Ⅲ参照)のうち税法(組織再編税制)上の課税減免規定の濫用による租税回避について、「租税回避の手段」として組織再編成に係る私法上の形成可能性を想定したものと解される。このことは、法人税法132条の2に関するTPR事件東京高判の次の判示(原判決引用。下線筆者。前記Ⅰで引用した判示も参照)に相呼応したものと解される。 この判示にいう「租税回避の手段」は、ヤフー事件最判が法人税法132条の2の「趣旨及び目的」に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」と同じく、組織再編成に係る私法上の形成可能性を意味すると解されるが、しかし、ヤフー事件最判が不当性要件について定立した制度濫用基準に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」、すなわち、「組織再編税制に係る各規定」は意味しない(ヤフー事件最判における2種類の「租税回避の手段」については第20回Ⅰの引用判示参照)。つまり、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避に関する筆者の租税回避手段論の用語法(前回Ⅲ3参照)によれば、TPR事件東京高判の前記判示やヤフー事件最判の前者の「租税回避の手段」は、租税回避の間接的手段であり、ヤフー事件最判の後者の「租税回避の手段」は、租税回避の直接的手段である。 以上の整理によれば、TPR事件東京高判は、②法人税法57条3項と132条の2との適用関係について判断するに当たって、ヤフー事件最判とは異なる「租税回避の手段」を想定して検討を行ったことになる。そうであるからこそ、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、「租税回避の手段」(直接的手段)としての特定資本関係5年超要件規定の濫用に対して法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったと考えられるのである。 2 TPR事件東京高判の制定法踰越的法創造 もし仮にTPR事件東京高判が法人税法132条の2の適用(「重畳的」適用)を検討する前に、②法人税法57条3項のうち特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無を判断しようとしていたとすれば、本件合併が「形式的には」特定資本関係5年超要件を充足するものの、特定資本関係5年超という「実質」を備えているとはいえないかどうかを判断しなければならなかったであろうが、しかし、そのようにはいえない場合は短期の超過期間を人為的に作出する場合等ないわけではないものの、TPR事件東京高判はそのような判断を介在させないまま、直ちに、②法人税法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無に関する判断に立ち入ったのである。 その際、TPR事件東京高判は「同条[=法人税法57条]3項が特定資本関係5年以下の組織再編成と5年超の組織再編成を区別して規定しているからといって、特定資本関係5年超の組織再編成について一般的否認規定の適用が排除されているとはいえない」(原判決引用)と判示したが、この論法によれば、同東京高判は、法人税法132条の2の適用に当たって、特定資本関係5年超要件の充足の有無にかかわらず、すなわち要するに同要件を無視して、制度濫用基準により(法文上は特定資本関係5年以内の組織再編成について定められた)みなし共同事業要件規定の濫用の有無を判断したことになろう。 このことは、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を法創造により創設したことを意味するが、そのことの根本的な問題は、そのような法創造(司法的立法)が租税法律主義の下で許容されるかどうかである。この問題を検討するに当たって、まず、②法人税法57条3項の制定の経緯及び趣旨をみておこう。 組織再編税制の立案段階では、「合併の場合には、租税回避行為を防止するための措置を講じた上、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが適当である。」(税制調査会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年10月3日)の(別紙)一 法人税における諸制度の基本的な取扱い〔繰越欠損金〕(1))という基本的考え方が確認された後も、当初は、「やはり租税回避防止というものを考えると、グループ内再編という怪しげなことが行われやすいこと」(阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎=中里実編『企業組織と租税法』(別冊商事法務252号・2002年)88頁)から、「共同で行うときには繰越欠損金を引き継ぐが、グループ内でやるときはだめだ」(同頁)という考え方が出されていたものの、共同事業による合併とグループ内再編とで「順序が違うと扱いが違う」(同89頁)という「実務的に非常に困ること」(同88頁)が明らかになったことから、次のような議論(同89頁。下線筆者)がなされ、みなし共同事業要件が定められることになった。 以上の経緯を経て定められた②法人税法57条3項について、「未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限措置を講ずる趣旨」は、「一定期間内に資本関係を有することとなった法人間で組織再編成が行われた場合に、その繰越欠損金等について制限を行うもの」であり、「企業グループ内の組織再編成については、共同で事業を営むための組織再編成に比べて適格組織再編成に該当するための要件が緩和されていることから、例えば、繰越欠損金等を有するグループ外の法人を一旦グループ内の法人に取り込んだ上で、グループ内の他の法人と組織再編成を行うこととすれば、容易に繰越欠損金等を利用することも可能となってしまうこと等が勘案されたもの」であると解説されている(中尾睦美ほか『平成13年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・2001年)199頁。下線筆者)。 要するに、法人税法57条3項は、グループ内再編による繰越欠損金の引継ぎの制限のために、まず、「タイムラグ」ないし「一定期間」として「5年」という期間を設定し特定資本関係5年超要件を規定し、「5年超」であれば未処理欠損金額の引継ぎを認め(武田昌輔監修『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規・加除式)3461の3頁も参照)、次に、「5年以内」であればみなし共同事業要件を充たす場合にのみ未処理欠損金額の引継ぎを認める、という二段階の構造を実定法化したものであり、同項の文言・法文はそのような構造を正確に表現していると考えられる。 以上の考察に基づきTPR事件東京高判の根本問題を総括すると、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を創設するという法創造(司法的立法)は、「制定法の元々の構想では定められていなかった新たな法制度を創設」する制定法踰越的法創造(Gesetzesübersteigende Rechtsfortbildung. K. Larenz, Methodenlehre der Rechtswissenschaft, 6. Aufl., Berlin 1991, 413)であるといえよう。これは、制定法の「構想に反した不完全さ(planwidwige Unvollständigkeit)」である制定法の欠缺(Gesetzeslücke)を補充する制定法内在的法創造(Gesetzesimmanente Rechtsfortbildung. S. K. Larenz, oben, 370ff.)とは異なり、租税法律主義の下で許容される余地はないと考えられる(制定法内在的法創造が許容される余地については、前掲拙著119頁以下、特に132頁以下[初出・2021年]、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【46】【49】参照)。   Ⅳ おわりに 今回は、TPR事件東京高判の根本問題を、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造に基づく同法132条の2の適用に認めたが、その問題の原因は、同東京高判がヤフー事件最判における両規定の「重畳的」適用の考え方を正解していなかったことにあるように思われる。 そのことについては、TPR事件東京高判が引用する原判決を対象として、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第32回Ⅲ(その見出しは「TPR事件東京地判にみられる誤解・不可解」)で述べたので繰り返さないが、ここでは、そのこと(「誤解・不可解」)に影響を与えたのではないかと思われる、同東京高判による法人税法57条3項の性格づけについて簡単に整理しておくことにする。同東京高判は同項を「個別的な否認規定」(原判決引用)として性格づけているが、そのような性格づけが、以下に述べるように、同項と132条の2との関係に関する正確な理解を妨げているように思われる。 法人税法57条3項は、確かに、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る本来的課税減免規定(同条2項)に限定・特定されているという意味では、「個別的否認規定」といえるが、しかし、租税回避の間接的手段の観点からみると、納税者が本来的課税減免規定の適用を受けるために行使する、組織再編税制に係る私法上の形成可能性を限定・特定せずそれらを一般的に否認する規定であるという意味では、組織再編成という個別分野における「一般的否認規定」というべきである。 もし仮にTPR事件東京高判が法人税法57条3項を上記の前者の意味で「個別的否認規定」と性格づけていたとすれば、同項の適用をヤフー事件最判による同法132条の2との「重畳的」適用に整合的に接合することができたであろうが、しかし、実際には、同法57条3項を租税回避の間接的手段の観点からみながら、それにもかかわらず「個別的否認規定」と性格づけた上で、同法132条の2との適用関係について判断したところにも、その判断の混乱(「誤解・不可解」)の原因があるように思われる。 これに関連して法人税法132条の2の性格づけについて付言しておくと、この規定は一般には個別分野別の「一般的否認規定」と性格づけられているところ、これは租税回避の間接的手段の観点からの性格づけであって、租税回避の直接的手段の観点からは「個別的否認規定」と性格づけられるべきである。というのも、この規定では、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る派生的課税減免規定(本来的課税減免規定の濫用否認規定に係る適用除外要件規定=否認緩和要件規定)に限定・特定されているからである。 最後に、今回の検討に関連して次の2つの点を指摘しておく。 1つには、法人税法57条3項との関係でヤフー事件最判が認めた同法132条の2の「重畳的」適用に相当するような考え方は、ドイツ税法においても租税回避の一般的否認規定(租税基本法42条)を「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」について適用するという形で議論されている。そのような議論については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第33回を参照されたい。 もう1つには、TPR事件東京高判は、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造によって、同事件の「入口」段階で特定資本関係5年超要件を無視し、同要件充足の場合についてもみなし共同事業要件を創設したと解されるが、さらにその「実体判断」の段階でも、「組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される。」(下線筆者。原判決引用判示も同旨)と判示し、完全支配関係にある法人間の適格合併についても事業継続要件を創設したと解される。このような制定法踰越的法創造はいずれにせよ租税法律主義の下では許容されないと考えるところであるが、この点については、次の見解(吉村政穂「繰越欠損金の引継ぎと組織再編成に係る行為計算否認規定の適用」税務事例研究177号(2020年)1頁、13-14頁。下線筆者)は傾聴に値する妥当な内容のほか、租税回避の一般的否認規定の適用における裁判官による法創造に関して更なる検討を要する課題も含んでいるように思われる。 (了)

#No. 508(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/02/22

減資を行い税制上の「中小企業」となった企業の決算・申告にあたっての留意点

減資を行い税制上の「中小企業」となった企業の 決算・申告にあたっての留意点   公認会計士・税理士 新名 貴則   我が国の法人税においては、資本金が1億円以下か1億円超かによって、適用される税制が異なる場面が多々ある。そのため、あえて資本金を1億円以下まで減資をして、いわゆる「中小企業」となることで、節税を図るケースが見られる。 本稿では、このようなケースにおける決算・申告にあたっての留意点について解説する。   1 いわゆる「中小企業」とは 資本金1億円以下のいわゆる「中小企業」にだけ認められている税制上の優遇措置を適用するために、あえて減資をするケースが多く見られる。 法人税における「中小企業」とは、具体的には次の2つに分類される。 (1) 法人税法における「中小法人」 法人税法における「中小法人」とは、普通法人のうち、事業年度終了時における資本金もしくは出資金の額が1億円以下である法人又は資本もしくは出資を有しない法人で、事業年度終了の時において次の①から⑥に該当しないものをいう。 (2) 租税特別措置法における「中小企業者」 租税特別措置法における「中小企業者」とは、資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人(次に掲げる法人を除く)又は資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数1,000人以下の法人をいう。 (※) 「大規模法人」とは次の①から④に掲げる法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。   2 「中小法人」に対する優遇措置 「中小法人」に対する税制優遇措置には、主に次のようなものがある。 ① 法人税率の軽減(適用除外事業者(「4 優遇措置の適用における留意点」において解説)を除く) 普通法人に適用される法人税率は23.2%だが、中小法人においては年間800万円までの課税所得には、法人税率は19%が適用される。さらに、現在は特別措置により15%に引き下げられている。 ② 欠損金の繰越控除 欠損金の繰越控除限度額は、繰越控除前所得の50%相当額を上限として制限されている。ただし、中小法人については、繰越控除前所得の100%相当額を繰越控除限度額とし、制限は行われていない。 ③ 欠損金の繰戻還付 青色申告法人において欠損金が生じた際に、これを過去の事業年度に繰り戻して、法人税の還付を受けられる制度のことである。現在は適用が停止されているが、中小法人においては適用が認められる。 ④ 貸倒引当金の損金算入 過去の税制改正により、貸倒引当金の損金算入は認められなくなった。したがって、貸倒引当金を計上したとしても全額損金不算入となる。ただし、中小法人においては繰入限度額までの損金算入は引き続き認められている。 ⑤ 交際費課税の特例 税務上の交際費等は原則として損金不算入であるが、接待の飲食のために支出したもの(社内飲食費は除く)に限り、その50%を上限なく損金に算入できる(接待飲食費の特例)。 ただし、中小法人においては、年間800万円までの交際費等は全額を損金算入できる(800万円を超える部分は損金不算入)という優遇措置が設けられており、上記の接待飲食費の特例との選択適用が可能である。   3 「中小企業者」に対する優遇措置 「中小企業者」に対する税制優遇措置には、主に次のようなものがある。 ① 中小企業経営強化税制(適用除外事業者を除く) 青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得し指定事業に供用した場合に、即時償却又は税額控除(7%又は10%)を認める制度である。 (※) 資本金又は出資金3,000万円以下の中小企業者等。 ② 中小企業投資促進税制(適用除外事業者を除く) 青色申告書を提出している中小企業者等が、特定の機械装置などを取得等して、指定事業に供用した場合に、その事業の用に供した事業年度において、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。 (※) 資本金又は出資金3,000万円以下の中小企業者等。 ③ 中小企業事業再編投資損失準備金(適用除外事業者を除く) 青色申告書を提出する中小企業者等が、認定経営力向上計画に従ってM&Aを行い、損失に備えるために準備金を積み立てた場合に、その積立額の損金算入を認める措置である。 ④ 中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制)(適用除外事業者を除く) 研究開発税制とは、青色申告書を提出している法人において試験研究費が発生する場合に、その金額の一定割合について税額控除が認められる制度である。これが中小企業者等においては「中小企業技術基盤強化税制」として、より優遇された内容になっている。 ⑤ 中小企業向け「賃上げ促進税制」(適用除外事業者を除く) 中小企業向け「賃上げ促進税制」とは、青色申告書を提出している中小企業者等が給与等支給額を一定以上増加させた場合に、給与等支給額の増加額の一定割合について税額控除が認められる制度である。ただし、当期の法人税額に一定の割合を乗じた金額が控除限度額となる。 中小企業者等以外でも適用できる同様の制度として、大企業向け「賃上げ促進税制」が設けられており、中小企業者等であれば選択適用が可能であるが、中小企業向け「賃上げ促進税制」の方がより優遇された内容になっている。 ⑥ 少額減価償却資産の特例(適用除外事業者を除く) 青色申告書を提出する中小企業者等においては、取得価額10万円以上の減価償却資産であっても、30万円未満であれば少額減価償却資産として取得時に全額損金算入できる制度である。 ただし、次の点に注意が必要である。 ⑦ 中小企業防災・減災投資促進税制(適用除外事業者を除く) 中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」の認定を受けた青色申告書を提出する中小企業者等が、当該計画に基づいて、指定期間内に一定の設備(特定事業継続力強化設備等)への投資を行う場合に、20%の特別償却を認める制度である。   4 優遇措置の適用における留意点 資本金を1億円以下まで減資したからといって、上記の優遇措置を必ず適用できるわけではない。下記の点に留意する必要がある。 ① 適用除外事業者 前3事業年度の平均所得が年15億円を超える事業年度においては、たとえ資本金が1億円以下の法人であっても「適用除外事業者」に該当し、中小企業に対する一定の優遇措置の適用が停止される。 ② 大企業による支配 たとえ資本金が1億円以下の中小企業であっても、大企業による一定の支配関係が存在する場合は、優遇措置の適用対象から除外される。 例えば資本金5億円以上の大法人による完全支配関係が存在する場合は、「中小法人」から除外される。また、資本金1億円超の大規模法人による一定の支配関係が存在する場合は、「中小企業者」から除外される。詳細な要件については「1 いわゆる「中小企業」とは」を参照のこと。 ③ グループ通算制度 グループ通算制度の適用を受ける場合、中小企業の税制優遇措置に、次のような制限が加わる場合がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 508(掲載号)
#新名 貴則
2023/02/22

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例119(相続税)】 「土地区画整理地内の宅地につき、無道路地で評価できるところ、単なる不整形地として評価してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例119(相続税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆無道路地の評価(財産評価基本通達20-3) 無道路地とは道路(建築基準法における道路は原則として幅員4m以上のものをいう)に接しない宅地又は接道義務(建築基準法において、建築物の敷地は、原則として道路に2m以上接していなければならないと定められている)を満たしていない宅地をいう。 無道路地は、道路に面している画地に比べるとその利用価値が低くなるため、道路に面した画地の価額である路線価を補正してその価額を評価する。具体的には無道路地を不整形地として評価した価額からその価額の100分の40の範囲内において相当と認める金額を控除した価額によって評価する。この場合において、100分の40の範囲内において相当と認められる金額は、無道路地において接道義務に基づき最小限度の通路を設けた場合の通路開設費とする。 ◆「個別評価」と記載されている土地の評価 相続税又は贈与税の申告に際し、課税の対象となる土地等について、財産評価基準書の表示が「個別評価」と表示されているため、路線価等を基に評価することができない場合に、個別評価申出書をその土地等の評価を担当する税務署長に提出して、評価を受けた金額を基に評価する。 ◆土地区画整理事業施行中の宅地の評価(国税庁HPより) 土地区画整理事業の施行地区内にある宅地について、土地区画整理法第98条(仮換地の指定)の規定に基づき仮換地が指定されている場合には、その宅地の価額は、仮換地の価額に相当する価額によって評価する。 ただし、その仮換地の造成工事が施行中で、当該工事が完了するまでの期間が1年を超えると見込まれる場合の仮換地の価額に相当する価額は、その仮換地について造成工事が完了したものとして、路線価方式又は倍率方式によって評価した価額の100分の95に相当する価額によって評価する。 この場合において、換地処分により徴収又は交付されることとなる清算金のうち、課税時期において確実と見込まれるものがあるときには、その金額を評価上考慮して、徴収されるものは仮換地の価額から減算し、交付されるものは加算して評価する。 なお、仮換地が指定されている場合であっても、次の事項のいずれにも該当するときには、従前の宅地の価額により評価する。 ◆仮換地の評価 仮換地としての価額は、路線価方式による評価又は倍率方式による評価により求めた評価額に、私道の用に供されている宅地の評価を考慮して評価する。       (了)

#No. 508(掲載号)
#齋藤 和助
2023/02/22

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第24回】「購入した不動産の内訳について契約書に記載された金額に基づくか、固定資産税評価額による按分額に基づくかで争われた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第24回】 「購入した不動産の内訳について契約書に記載された金額に基づくか、 固定資産税評価額による按分額に基づくかで争われた事例」   税理士 菅野 真美   ▷建物と土地の取得価額の内訳 建物とその敷地の用に供する土地は、同時に取得・譲渡する場合が多い。一般の買い手や売り手は、総額がいくらかには慎重になり、真剣に交渉することが多いが、内訳として土地や建物がそれぞれいくらになるかまで神経質に気に掛ける人は、それほど多くはないと思われる。 しかし、土地、建物を取得するのが、法人や個人で事業等の用に供する場合は、内訳も重要となってくる。事業をしている者の場合は、帳簿に不動産の購入を記帳し、建物の場合は減価償却をする。取得価額が大きいほど必要経費や損金算入できる減価償却費が増加する。 また、消費税についても、度重なる改正で、居住用賃貸建物のうち高額特定資産等に該当するものに係る課税仕入れ等の税額については、仕入税額控除の対象とならないが、オフィスビル等建物の取得については、仕入税額控除の対象となり、支払対価の額が大きいほど仕入税額控除額も大きくなる。 このような税効果があることから、建物と土地を一括取得したい場合、なるべく建物の取得価額を増やしたいというアドバイスをする専門家も多いと思われる。契約書で内訳記載がない場合は、何を基準に按分するかという悩ましい問題が生ずる。では、契約書等に建物と土地の価額が記載され、それに基づいて取得価額処理をした場合、その価額が法人税法上及び消費税法上、是認されるだろうか。内訳書に記載された建物と借地権の価額について、納税者と課税庁の間で争われた事案について検討する。   ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。   ▷事案の争点 争点は以下の3点である。   ▷当事者の主張 甲と課税庁のそれぞれの主張を簡単にまとめると次のようになる。 〈甲(原告)の主張〉 〈課税庁(被告)の主張〉   ▷裁判所の判断は 裁判所は、甲の請求を棄却した。各争点に対する裁判所の判断は簡単に説明すると次のようなものと考える。 ① 不動産の内訳価額に合意があったか 契約書に署名押印しているので契約は真正に成立している。契約書の記載内容の合意を認定すべきでない特段の事情があるとはいえないから、不動産の内訳価額に関する合意があったと認められる。 ② 購入の代価が法人税法上、課税庁主張の建物価額(税抜価額)といえるか 土地と建物が一括で売買される場合、恣意的に代金額の割り付け操作をすることで、容易に減価償却資産である建物の価額に上乗せし、減価償却費を過大に計上できるため、建物価額を「購入の代価」と認めると租税公平の原則に反する。客観的な価値と比較して著しく不合理な場合は、合理的な基準により算定される合理的な価額が「資産の購入の代価」となる。 本件の売買代金と各固定資産税評価額で比較すると次のようになり、借地権が有する経済的価値が建物の価額に不当に過剰に転嫁されている。 甲は、収益還元法で算定した売買代金から、借地権価額を差し引いて建物の価額を求める差引法は、一般に承認された合理的な基準であり、不合理なものではないと主張するが、合理的な基準であったとしても本件においては、差引法で建物価額を求めるのは合理的ではない。 本件建物に係る「購入の代価」の合理的な基準により算定される価額は、按分法により借地権と建物の双方に収益性に係る経済価値が反映されることが合理的であり、按分の基準として固定資産税評価額に基づき、売買代金を借地権と建物の価額に按分するのが相当である。 ③ 建物の支払対価の額が、課税庁主張建物価額(税込金額)といえるか 消費税法30条1項柱書きがいう「課税仕入れに係る支払対価の額」は、その文理に照らし、原則としては 売買契約において定められた代金額がこれに当たると考えられるものの、売買契約において定められた建物と土地(又は借地権)の価額が客観的な価値と比較して著しく不合理なものであるといった事情があるときには、合理的な基準によって算定される合理的な価額をいうと解するのが相当である。本件の建物の譲受けに係る固定資産税評価額により借地権と建物の時価比でもって売買代金を按分する方法によるのが相当である。 差引法自体は価額の按分方法として合理的であるが、本ケースにおいては、価値がほとんどない建物に極端に価額を寄せた事例であるから、裁判所も課税庁の固定資産税評価額による按分を支持したと考える。 この事案は控訴されているが、控訴審の判決はTAINSでは収録されていない。おそらく極端事例であることから地裁判決と変わらないものと考える。 (了)

#No. 508(掲載号)
#菅野 真美
2023/02/22

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第10回】「ワールドファミリー事件-移転価格税制における機能分析の考え方-(地判平29.4.11)(その1)」~租税特別措置法66条の4第1項、第2項1号ロ、第8項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第10回】 「ワールドファミリー事件 -移転価格税制における機能分析の考え方- (地判平29.4.11)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、第2項1号ロ、第8項~   税理士 中野 亘   1 移転価格税制における機能分析の考え方 本稿では、租税特別措置法66条の4第2項及び第8項で表す独立企業間価格を算定する方法について勘案すべき「当事者が果たす機能その他の事情」についてどのように解釈しているか検討する。 移転価格税制の適用に当たっての広義の「機能」とは、「取引の当事者の経済的に重要な活動及び責任、当事者が使用又は提供する資産並びに引き受けるリスク」とし、また、多国籍企業グループの経営の中においては「どのように影響を与えているか」としている(※1)。つまり「機能分析」とは「その頻度、性格及び当該取引の各当事者にとっての価値の観点からみたそれら機能の経済的重要性」を特定すること(※2)である。 (※1) OECD,Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Administrations (2017).邦訳として『OECD移転価格ガイドライン2017年版』(日本租税研究協会、2018)パラグラフ1.51 (※2) 前掲(※1)パラグラフ1.43 一般的には、高い機能を果たす法人は高い付加価値を生み出し、高い利益を得ることが期待される反面、法人の経営方針を誤ると会社の存続を脅かすものとなりえることから、機能分析の結果は独立企業間価格の算定方法の選択、比較対象取引の選定等、移転価格税制の適用における多くの論点にも影響する(※3)。 (※3) 国税庁「移転価格税制の適用におけるポイント~移転価格税制の実務において検討等を行う項目~」(2022年1月17日最終閲覧)42頁 基本三法においては特に再販売価格基準法(RP法)(※4)は「第三者が行った再販売価格から通常の利潤を控除したものを比較する方法」であり、通常の利潤(売上総利益)を当事者における機能分析によって比較するため適切な機能分析がなされていないと比較対象取引とされないこととなる。 (※4) 租税特別措置法66条の4第2項1号ロ:「国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額(以下この項において「再販売価格」という。)から通常の利潤の額(当該再販売価格に政令で定める通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法」(RP法:Resale Price Method) また、残余利益分割法における分割指標の配分についても分割対象利益等又は残余利益等の「発生に寄与した程度に応じて、合理的に計算するものとする。」(※5)とし、「無形資産の形成活動との関係が深い・・・費用の中から関係する費用を特定すること」を基本としている(※6)。 (※5) 租税特別措置法関係通達66の4(5)-2:「配分に用いる要因が複数ある場合には、それぞれの要因が分割対象利益等又は残余利益等の発生に寄与した程度に応じて、合理的に計算するものとする。」 (※6) 国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(2019年6月28日(2022年1月17日最終閲覧))94頁 利益分割法において機能分析を検討する際には、①国外関連取引における機能の差がない場合又は相互関係にある、②(国外関連取引が独占・寡占市場であることや外部の影響によって)比較対象取引がない又は比較困難であることにより基本三法を適用することができない場合に利益分割法が適切であると考えられる(※7)。 (※7) 前掲(※6)38-42頁 ここで寄与度利益分割法と残余利益分割法のどちらを選定することが最適かは「国外関連取引における損益について区分することができるかどうか」による。具体例の1つとして「無形資産を用いた国外関連取引であるかどうか」であり、無形資産を用いていない国外関連取引には寄与度利益分割法、用いている国外関連取引には残余利益分割法が適用されると考える。 よって、ベストメソッドルールにおける利益分割法は寄与度利益分割法を第一選択として検討し、無形資産を用いることによって国外関連取引における損益を区分できない場合に残余利益分割法が次の選択として検討されるべきである。   2 東京地裁平成29年4月11日(ワールドファミリー事件) (1) 事実の概要 ① 当事者等 原告は、図書、雑誌、教科書その他印刷物、映画スライド、レコード、録音済みテープ、シート、英語学習用機器(英語の授業、学習、訓練に使用される機械器具)の開発、輸入、買付け、販売割賦販売及び貸付け等を目的とする昭和52年3月30日に設立された内国法人である。Aは、米国に本店を置く外国法人であり、原告及びBの発行済株式の全部を保有している。Bは、bに本店を置く外国法人で、原告とBは兄弟会社の関係(国外関連者)にある。 ② 原告の事業 原告は、本件各事業年度において、国外関連者であるBから、米国ディズニー・エンタプライズ・インク(以下「米国ディズニー社」)が著作権を有するディズニー・キャラクターやディズニー映画の映像、楽曲等(以下「ディズニー・キャラクター等」)を使用して開発及び製造された幼児向け英語学習教材である「ディズニー・ワールド・オブ・イングリッシュ」(以下「DWE」)を輸入し(以下、原告が本件各事業年度に行ったBからDWEを輸入する取引を「本件国外関連取引」という)、国内において訪問販売の方法により再販売するという事業(以下、DWEを輸入して国内において再販売する取引を「DWE取引」という)を行った。本件国外関連取引は、原告が、昭和61年4月1日以後に開始する各事業年度において、Bとの間で資産の購入を行った取引であり、租税特別措置法66条の4第1項の規定する国外関連取引に該当する。 DWEは、①メイン・プログラム、②トークアロング・セット、③ストーリーブック・セット、④DVDセット、⑤シング・アロング・セットの5種類に区分されるが、②トークアロング・セットを構成する商品の一部(プレイメイト )については、Bからではなく、国内の非関連者であるE(現在はAに吸収合併)から仕入れて、これをBから仕入れた他の商品と併せて販売していた。 原告は、DWEの仕入れ代金とは別にC(平成12年4月にAに合併された)との間で締結したライセンス契約に基づき、DWE取引へのディズニー・キャラクター等の仕様に係るロイヤリティをCに直接支払っており、このロイヤリティの支払について、販売費、一般管理費に計上していた。 原告は、DWEを購入した顧客によって構成される「ワールド・ファミリー・クラブ」(以下「WFC」)という会員制クラブによる有償サポートサービスを提供するという事業(以下「WFC取引」)を行っている。WFCでは、電話レッスン、通年日本各地で開催する各種ショー、東京ディズニーランド等で行われる夏の宿泊イベント、米国におけるキャンプ等、様々なイベントを中心とした英語教育に関連した役務が会員に対して提供される。WFCに入会する場合、入会金(2万5,000円)のほか、月々会費(約3,000円)を払う必要があるがDWEの購入と同時に入会を申し込む場合、入会金の支払は免除される。 原告は、DWE取引とは別に、平成11年から、日本において、Cとの間のライセンス契約に基づき、米国ディズニー社が著作権を有するディズニー・キャラクター等を使用した子供向け英語教材である「ディズニー・マジック・イングリッシュ」(以下「DME」)をDに委託して製造し、これを郵便、電話、ファクシミリ、Eメールにより購入の申込みを受けて販売するという事業(以下「DME取引」)を行っている。 ③ 原告の確定申告及び更正処分等の経緯 原告は、平成10年8月期から平成11年8月期を豊島税務署、平成12年8月期から平成15年8月期を新宿税務署へ確定申告書を提出。新宿税務署は、平成13年8月期について更正処分及び過少申告加算税を賦課決定している。 東京国税局は平成14年4月から平成16年11月までの本件国外関連取引について移転価格調査を実施。新宿税務署は、原告に対し、本件各事業年度の法人税について租税特別措置法66条の4第1項の規定を適用して、原告がBからDWEを輸入した対価として支払った額(以下「本件支払対価の額」)が同条2項1号ロの規定する再販売価格基準法で算定した独立企業間価格を超えているとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定をし、原告に通知した。 原告は、平成17年1月20日、東京国税局長に対し異議申立てをするも、東京国税局はこれを棄却決定。原告は、平成19年7月23日、国税不服審判所長に対して各更正処分等についての審査請求をしたが、国税不服審判所長は一部取り消す旨の裁決をした。原告は、平成21年9月25日に訴えを提起した。 〈本件の概要図〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ((その2)へ続く)

#No. 508(掲載号)
#中野 亘
2023/02/22

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第8回】「金融商品に関する注記③」-金融商品の状況に関する事項-

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第8回】 「金融商品に関する注記③」 -金融商品の状況に関する事項-   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表における金融商品に関する注記の金融商品の状況に関する事項に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表における金融商品に関する注記(金融商品の状況に関する事項)では、原則として、次の事項について記載する必要があります。 ➤金融商品に対する取組方針 ➤金融商品の内容及びそのリスク ➤金融商品に係るリスク管理体制 ➤金融商品の時価等に関する事項についての補足説明 ただし、重要性が乏しいものは注記を省略することができます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 金融商品に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、重要性が乏しいものを除き、連結注記表・個別注記表で記載すべき金融商品に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第109条第1項)。 (※1) 連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における注記を要しません。 (※2) 連結計算書類の作成義務のある会社(会社法第444条第3項に規定する株式会社)以外の株式会社は注記を省略することができます。 (※3) 具体的な注記の内容は、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」を参考にし、各社の実情に応じて、必要な記載をすることになります。 (2) 注記事項の解説 具体的な注記の内容は、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」第3項で次のように定められています(一部抜粋)。 上場会社等が提出する有価証券報告書では、上記の項目に沿って詳細に注記する事例が多いですが、連結注記表や個別注記表では、経団連のひな型のように簡略化して注記しているケースも見受けられます。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [日産車体株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※日産車体株式会社「第99回定時株主総会招集ご通知」52頁より抜粋。 [株式会社ハマキョウレックス 2022年3月期 連結注記表] ※株式会社ハマキョウレックス「法令および定款に基づくインターネット開示事項」11頁~12頁より抜粋。 [亀田製菓株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※亀田製菓株式会社「法令及び定款に基づくインターネット開示事項」22頁より抜粋。 *  *  * 次回の第9回は、「会計方針の変更に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

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#竹本 泰明
2023/02/22

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第63回】「追加情報の注記」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第63回】 「追加情報の注記」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 連結財務諸表や財務諸表には、連結財務諸表規則や財務諸表等規則で特に定める注記のほか、利害関係人が会社(企業集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない(連結財務諸表規則15、財務諸表等規則8の5)。 また、計算書類には、貸借対照表等、損益計算書等及び株主資本等変動計算書等により会社(企業集団)の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要な事項を注記する(会社計算規則116)。 これらの注記を「追加情報の注記」という。今回は、「追加情報の注記」について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 追加情報の注記は、各社ごとに財務諸表等規則等で定めている注記以外で利害関係者にとって重要な事項を注記することになるが、一からどれを注記するか検討することは、時間を要すると考えられる。そこで、監査・保証実務委員会実務指針第 77 号「追加情報の注記について(以下、「監保実77」という)」に例示が記載されているため、まず、これらに該当するものがないかを確認しながら、検討することが考えられる。 監保実77では、以下の例が記載されている(監保実77.5、7~14)。 また、追加情報は上記の項目に限定されるわけではないため、災害やコロナ禍の影響等、重要な事項が発生していれば、追加情報として注記することが考えられる。 追加情報は、実務上、項目によって、「計算書類には注記せず(連結)財務諸表のみに注記する場合」や、「計算書類及び(連結)財務諸表の両方に注記する場合」がある。そのため、各社は計算書類及び有価証券報告書を開示する趣旨も考慮して、(連結)財務諸表のみに注記するか、計算書類及び(連結)財務諸表の両方に注記するか検討する必要がある。 *  *  * 以上、2つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 508(掲載号)
#西田 友洋
2023/02/22
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