暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第22回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 (2) 譲渡所得該当性を否定する国税庁の根拠 国税庁のFAQ「2-2 暗号資産取引の所得区分」は、暗号資産取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得に区分されるとしており、暗に譲渡所得に区分されることを否定しているといえる。 かかる説明に接すると、暗号資産の譲渡による所得の所得区分に関して、次のような疑問が浮かぶ。 これらの疑問に関連して、暗号資産の譲渡による所得の譲渡所得該当性を否定する国税庁の見解の根拠を推察する。 所得税法33条1項は次のとおり定めている。 すなわち、譲渡所得とは「資産の譲渡」による所得である。 よって、ある所得が譲渡所得に該当するか否かについては、基本的に、「資産」該当性と「譲渡」該当性を検討することになる。 ただし、譲渡所得になりうる資産の譲渡であったとしても、営利を目的として継続的に売買している場合には、譲渡所得に該当せず、事業所得や雑所得になる(所法27、33②、35)。 また、例えば、BTCの場合、ブロックチェーン上、BTCが送り手から受け手にそのまま移転するような仕組みになっていないから、資産の「譲渡」に該当しないのではないかという見解がありうる。それは所得税法33条の「譲渡」の意味をどう考えるかという論点であるが、国税庁がこのような見解を採用していることをうかがわせる手掛かりは見当たらない。 このように、国税庁は暗号資産の譲渡による所得について、所得税法33条の譲渡該当性を否定するものではないという理解を前提とした上で、本連載では、譲渡所得該当性を否定する国税庁の根拠として、営利継続性肯定説と資産性否定説を確認しておく。 営利継続性肯定説の根拠は明確である。所得税法33条2項1号が「たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」は譲渡所得に含まれないと定めているから、営利目的で継続的に暗号資産を譲渡している場合の所得はこれに該当して譲渡所得から除かれることになる。 他方、次の資産性否定説の根拠はややわかりづらい。 この説の背後には次のような考え方((増加益)清算課税説。最高裁昭和43年10月31日第一小法廷判決・集民92号797頁など)が存在する。 ここから、資産の値上りを観念できないようなものは譲渡所得の基因となる資産に該当しないという考え方に向かう。 あるいは、次のような考え方を背後に有している可能性もある(最高裁昭和29年11月5日第二小法廷判決・刑集8巻11号1675頁、最高裁昭和39年1月24日第二小法廷判決・集民71号331頁)。 ここから、金銭は、それ自体が他のものや利益の価値をはかる価値尺度であり、値上がりや値下がりを考えることができないため、資産の値上り益というキャピタルゲインを生まず、譲渡所得の基因となる資産に該当しないと解するのである。いわば譲渡所得に固有の資産概念に依拠する理解である。 資産性否定説を採用する場合には、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当する余地はないという帰結になるはずである。 譲渡所得とは資産、とりわけ譲渡所得の基因となる資産を譲渡したことによる所得をいうところ、暗号資産はこの場合の譲渡所得の基因となる資産に該当しないというのであるから、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当する余地はないということである。 他方、営利継続性肯定説は暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当する余地を認めるものである。同説は、暗号資産が譲渡所得の基因となる資産に該当することを認めた上で、言い換えれば、譲渡所得該当性を判断する際に暗号資産を門前払いするようなことはしないことを前提とした上で、個別の事案において、暗号資産の譲渡の態様等が、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当するため、譲渡所得に該当しないという立場であると解される。 このように、営利継続性肯定説は、営利目的性や継続的譲渡性が否定される場合などに、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当する余地を残すものである。 両説のこの相違は実務への影響が大きいため、よく理解しておく必要がある。 以上により、①暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当する余地を認めるものであるか、②なぜ暗号資産の譲渡による所得が原則として雑所得となるのかという、冒頭で掲げた2つの疑問に対する回答も示されたことになる。 注意すべきは、仮に暗号資産の譲渡所得の基因となる資産該当性が認められた場合でも、暗号資産の譲渡による所得が、譲渡所得から除外される「たな卸資産・・・の譲渡その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得」(所法33②一)に該当する場合には、当然、その譲渡所得該当性は否定される。 さて、FAQにおいて暗号資産の譲渡による所得の譲渡所得該当性を暗に否定している国税庁は、営利継続性肯定説と資産性否定説のいずれを採用しているのであろうか。 詳しくは後述するが、筆者は、国税庁は資産性否定説の立場であると理解しつつ、最近の説明を見る限り、少なくとも、およそあらゆる種類の暗号資産に対して、同説の立場から譲渡所得該当性を否定することはしないという姿勢に傾きつつあるのではないかと推察している。 日々、利ザヤを稼ぐ目的で暗号資産の売買を繰り返しているような場合は、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡の典型例であろう。他方、数年前に購入し、そのまま塩漬けにしていた暗号資産を譲渡するような場合や、(この点は反論もありうるが)純粋に支払手段として暗号資産を利用しているような場合については、たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡には該当しない可能性がある。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2023年7月】 第1四半期決算(2023年6月30日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第1四半期決算(2023年6月30日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 基本的に2023年4月1日から6月30日までに公開した速報解説を対象としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 会計関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている(②については、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所とともに公表)。 ① 「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)(内容:グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示す。公表日(2023年3月31日)以後適用) ② 改正「中小企業の会計に関する指針」(内容:収益の計上基準の注記に関する改正) また、国際会計基準審議会(IASB)によるIAS第12号「法人所得税」の修正が公表されている。これは、国際的な税制改革から生じる繰延税金の会計処理からの一時的な救済措置を企業に与えるものである。 Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則実務ガイダンス第2号「倫理規則に関するQ&A-監査法人監査における監査人の独立性について-(実務ガイダンス)」(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査法人の計算書類を対象とする監査業務における倫理規則の適用上の留意点などを示す) ② 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 の改正(内容:報酬関連情報の開示、独立性に関する規定の強化などに対応) ③ 監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正(内容:「監査事務所における品質管理」(品質管理基準報告書第1号)などの改正や、2022年7月の倫理規則の改正に対応し、多くの様式を見直している) ④ 「2022年度 品質管理レビューの概要」等(内容:のれんの評価・固定資産の減損会計に係る改善勧告事項等を解説している) ⑤ 「品質管理レビュー基本方針(2023年度~2025年度)」及び「2023年度品質管理レビュー方針」(内容:上場会社等監査人登録制度の導入や、改訂品質管理基準の適用を踏まえて、品質管理レビューの3ヶ年及び単年度の方針を明文化するもの) ⑥ 「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」(内容:上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示す) Ⅳ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 改定版「監査役監査実施要領」(内容:会社法の改正及び改正会社法に係る法務省令の改正及びコーポレートガバナンス・コードの改訂などを反映したもの) Ⅴ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2023年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(2022年8月26日、実務対応報告第43号)(内容:「金融商品取引業等に関する内閣府令」における電子記録移転有価証券表示権利等の発行・保有等に係る会計上の取扱いを示すもの。2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる) ② 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日、改正企業会計基準第27号)等(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果についての取扱いを示すもの。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) (了)
給与計算の質問箱 【第43回】 「遅刻・早退と残業の相殺」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 以下の①~③において、遅刻・早退と残業を相殺して給与計算することはできるのでしょうか。 なお、給与計算に関して前提となる情報は以下のとおりです。 A 以下、①~③の場合についてそれぞれ解説する。 * * 解 説 * * 労働基準法第37条は、1日の労働時間が法定労働時間である8時間を超えた場合、超えた部分の割増賃金を支給することを使用者に義務付けている。 上記①の当日の労働時間は、「所定労働時間8時間 - 遅刻1時間 + 残業1時間 = 8時間」なので、法定労働時間8時間を超えていない。したがって、残業1時間は割増賃金の対象にならず、遅刻と残業を相殺できる。 上記②と③の翌日の労働時間は、「所定労働時間8時間 + 残業1時間 = 9時間」なので、法定労働時間8時間を超えている。したがって、残業1時間は割増賃金の対象となり、遅刻・早退と残業は相殺できず残業手当を支給しなければならない。 上記①~③の場合の給与計算例(税金・社会保険料の控除前)は以下のとおりである。 〔①の場合〕 〔②と③の場合〕 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第2回】 「表示登記について」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 表示登記とは 「表示登記」とは、登記記録のうち土地や建物の所在地や種類、大きさなどを表す「表題部」に関する登記である。表示登記が必要になるのは主に以下のようなケースである。 【記載例1:表題部(土地)】 【記載例2:表題部(建物)】 2 表示登記と過料 表示登記のなかには、登記申請が義務付けられているものがある。代表的なものは建物表題登記で、新築した建物や表題登記がされていない建物(未登記建物)の所有権を取得した者は、取得の日から1ヶ月以内に表題登記を申請しなければならないとされている(不動産登記法47条1項)。これに違反した場合は、10万円以下の過料に処せられる場合がある(不動産登記法164条)。 もし、必要な表示登記が行われていないことが発覚したら、すみやかに登記を進めていくことが必要になるが、表示に関する登記の専門家は「土地家屋調査士」になる。土地家屋調査士は、建物表題登記以外に土地の境界等の問題についても専門的な知見を有している。特に不動産オーナーを顧客に抱える税理士は、連携を深めておくとよいだろう。 3 固定資産税の課税明細書の注目ポイント 税理士は顧客の固定資産税の課税明細書に目を通すことがあると思うが、表示登記との関係で注目してもらいたいポイントがいくつかある。 こうしたポイントに気づいたら、顧客に表示登記が必要になる可能性を伝えるとよいだろう。表示登記が正しくなされていないまま放置すると、先述した過料の問題もあるが、資料等の散逸により処理に余計な時間やコストがかかることにつながる。 表示登記は、実際に土地家屋調査士が、現地で測量や写真撮影などを行って申請することになる。天候によって測量が困難となることや、他人の土地や建物に入って作業を行う場合には許可を得る必要があるなどの事情により、想定よりも時間がかかってしまうことがある。 4 「農地」に注意 登記記録の土地の地目を見たときに、「田」「畑」と登記されている場合は、注意が必要である。農地の売買などを行う場合には、農地法により許可が必要とされており、所有者といえども自由に所有権を第三者に移せるわけではない。税理士として親族間売買などを提案する場合には、頭に置いておく必要があるといえる。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第43回】 「「借地権はあっても借地権の価格はない」ケース」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 本連載の【第3回】では、借地権の価格を評価するに当たっては、相続税の路線価図に記載された当該地域の借地権割合を更地価格に乗じて求める方法が必ずといってよいほど活用されていること、しかし、不動産鑑定士が適用している手法はこれだけに限らないことを述べました。その詳細は【第3回】を参照していただくこととし、今回は、借地権の評価の本質にかかる内容で、筆者が最近、税理士の方から受けた質問を格好の素材とし、借地権の価格を評価するに当たっては、すべてのケースで「更地価格 × 借地権割合 = 借地権価格」という算式を安易に適用してはならないことを述べておきます。 ちなみに、筆者が受けた質問は、その税理士の方がある不動産鑑定士から、「借地権はあっても借地権の価格はない」というケースがあると聞いたのですが、よく理解できないのでその意味を解説してもらえないかということでした。 2 「借地権」と「借地権の価格」の相違 借地権の評価に当たって煩わしいことは、「借地権」と「借地権の価格」との区別です。それでは、両者はどのように異なるのでしょうか。 「借地権」と「借地権の価格」とは、しばしば混同され使用されています。すなわち、この2つを全く同じものだと考えている人もいれば、何となく相違していることは分かるけれどその区別を明確に説明することはできないという人もいます。また、本来は「借地権の価格」のことを相手に説明するつもりでいながら、実は「借地権」そのものの説明に終始したため、相手がますます混乱してしまったということもあります。 以下に述べるとおり、「借地権」と「借地権の価格」とは本質的に全く別の概念ですが、往々にしてこれらが明確に区別せず使用されていることから、混乱を生じさせているようです。 最初に、「借地権」という場合は、それが建物所有を目的とするものであれば、借地借家法(※1)に基づき他人の土地を利用する権利のことを指します。 (※1) 借地借家法における「借地権」の定義は以下のとおりです。 次に、「借地権の価格」という場合には、その権利に経済的な価値が生じていることを意味しています。 これらのイメージを対比させたものが下記の図です。 〈借地権と借地権の価格の相違〉 大都市の中心部のように借地権の取引慣行が成熟し、これが高額な対価を伴って取引されている地域では、個々の借地契約に法的な意味(借地借家法)での「借地権」と経済的な意味での「借地権の価格」が発生しているケースが通常です(このような地域では、借地契約の開始時には賃借人から賃貸人に対し相当額の権利金の支払いが必要となりますが、借地の新規供給は一部の例外や定期借地権を除き、ほとんど行われていないのが実情です)。 これに対し、地方都市のなかには借地権の取引慣行が形成されていない地域も少なからずあります。このような地域では借地契約の開始(=借地権の設定)時に何らの対価を伴わないことはもちろん、借地権が取引される場合でも、何らの金銭的な対価を伴わないことが一般的です。すなわち、法的な意味での借地権という権利は存在していても、経済的な意味での借地権の価格は生じていないということになります。 このように、その土地に借地権という権利があることと、その権利に経済的な価値があるということとは区別して考える必要がありますが、先程述べたように、往々にしてこれがあいまいになっていることが多いようです。 ちなみに、不動産鑑定評価基準にも、借地権と借地権の価格との関係につき次の記載が見受けられます(下線は筆者によります)。 3 基本的な考え方 (1) 地上権と賃借権 借地借家法第2条に定義されているとおり、借地権には地上権と土地賃借権の2つがあります。 地上権は民法では物権として扱われ、他人の土地を排他的かつ独占的に利用できる強い権利であり(登記も借地人が単独で行うことができます)、地代の有無を問わず成立します。 賃借権は、民法では債権と呼ばれ、平易に表現すれば地主に賃料を支払ってその土地を利用させてもらうことを目的とする権利です(もちろん、借地人は賃料を支払えばその土地を独占的に利用することができますが、賃借権の登記には地主の承諾が必要となります)。 地上権と賃借権の相違は以上のとおりですが、地上権を設定することは地主にとって著しい不利益をもたらすため、現実に設定される借地権は賃借権に基づくものがほとんどです(加えて、賃借権の登記は、地主が寺院等である場合に例外的にこれを認めている事例があるものの、ほとんど行われていないのが実情です)。 (2) 借地権の価格 借地権の価格とは、上記のように借地権を設定する際、権利金の授受をする慣行がある地域(都市部など)で形成される借地権の経済価値のことです。 しばしば、借地権割合が60%とか70%とかいう会話を耳にしますが、これが借地権価格の土地価格(更地価格)に対する割合です。そして、この割合が高ければ高いほど借地権取引の成熟度が高く、低ければ低いほど成熟度も低くなる傾向にあります。 (3) 借地権割合の調査方法 借地権割合の調査方法ですが、1つの目安として相続税の財産評価基準書(路線価図や評価倍率表)に掲載されている割合が参考になります。ここでは、地域ごとに慣行的な借地権割合が掲載されていますが、建物の堅固・非堅固の区別や借地契約の長短等の個別性まで反映された割合となっていない点に留意が必要です。 4 留意点 以上述べた趣旨から、借地権と借地権の価格の相違を理解しておかなければ、借地権の取引に対価を伴わない地域においても、その価値を相当額にわたって評価してしまうことにもなりかねません。そのため、不動産鑑定士が借地権の価格を評価するに当たっては、対象地の属する地域やその周辺部における借地権取引慣行の有無につき地元精通者に十分事情を聞くなど、丹念な調査を行っています。 借地権の価格の評価に当たっては、対象地の属する地域における取引慣行の有無及び慣行がある場合でもその成熟度等に関して十分な分析が不可欠となります。 借地権があるから、その権利はいつでもどこでも有償で売却できるとは限りません。地方の小都市では権利金なしで借地権が設定されているケースが多くあります。 筆者が過去に評価で遭遇した案件のなかには、地方のゴルフ場で土地の一部に借地(クラブハウスのような堅固建物の所有を目的とするもの)を含んだものもありましたが、借地権を設定するに当たって権利金等の対価を何ら授受していなかったケースがありました。このような地域では、借地権という権利が金銭的な対価をもって売買されることはむしろ少ないといえます。 以上述べてきたことから、借地権という「土地を借りて利用する権利」があるからといって、借地権の価格も当然あると即断できない点に留意が必要となります。 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第3回】 「天国と地獄! NISAの金融機関選び」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 前回は、2024年から始まる新NISAの特長を紹介しました。連載3回目となる今回は、NISA口座を開設する際の注意点や、金融機関選びのポイントについて解説します。 〇NISA口座は1人1口座 非課税で投資ができるNISA口座は日本に住む18歳以上の人であれば、原則だれでも開設が可能です(ジュニアNISA口座を除く)。しかし非課税口座を重複して保有することがないように、開設は1人1口座のみと決まっています。またその確認を口座開設の際に税務署が行います。 税務署の調査が必要と聞くと驚いてしまわれそうですが、私たち投資家としては、金融機関にNISA口座開設の申込書とマイナンバー確認書類などの指定された書類を提出するだけで口座開設手続きは完了しますので、特に難しいものではありません。必要なことはすべて金融機関が行います。 〇NISA口座を放置していると・・・ よくあるのは、以前キャンペーン等に勧誘されどこかの金融機関でNISA口座を作って、うっかりそのまま放置しているケースです。この場合、改めてNISA口座を開設しようとした際に、税務署から「口座開設不可」という通知が届きます。 どこの金融機関で開設をしたのかあたりがつけばよいのですが、全く見当がつかないという場合は、e-Taxを利用したり税務署の窓口に出向いたりして確認します。 一般NISAは、2014年にスタートしており当時はそれなりに金融機関でも宣伝をしていたので、「おつきあい」がお好きな方は少し注意が必要です。 とはいえ、そのような場合でも改めて新規で口座開設をすることは可能です。誤って開設してしまった金融機関の口座を解約する手続きを行い、その後別の金融機関でNISA口座を開設すればよいのです。 ただし、忘れていた口座で金融商品を買っていたという場合は、もうワンステップが必要です。その商品を売却して口座を解約するのか、その商品については残りの非課税期間を利用して運用を継続したいのかによって用紙が異なるからです。 このように、NISA口座開設のステップは「非課税」の仕組みであるがゆえに通常の金融機関の取扱いとは異なる点があります。 〇「1人1口座」の意味 NISAは1人1口座ではありますが、年単位で金融機関や区分を変更することができます。また1度NISA口座で購入した運用商品は、その非課税期間中はそのままの口座で保有が可能です。したがって、1人1口座というのは、投資に回すお金を入れる「稼働口座」が年間1口座という意味であり運用のみを継続する口座は複数あっても構いません。 もし新NISAは気分も新たにちゃんと取り組みたいという方は、今のうちに放置されているNISA口座がないか確認するとよいでしょう。もしそのままにしておくと、放置口座が2024年には自動的に新NISA口座に切り替わってしまいます。 〇まずはつみたてNISAから これまでNISAには縁がなく、新NISAからぜひチャレンジしたいという方は今年のうちに「つみたてNISA」を始めるのがお勧めです。なぜならば、つみたてNISAは、国民の健全な資産運用をサポートするために、金融庁が特別に「長期積立運用」に適した条件を設定し、その条件に合致した投資信託のみに投資ができるように予め制限が設けられているからです。 つみたてNISAにおいて今年非課税で投資可能な金額は40万円ですが、すべての枠を利用する必要はないので、まずは助走期間として金融機関を選び、口座を開設し、運用商品を選び無理のない金額で投資をスタートするところまでトライしてみましょう。今年開設した口座はそのまま来年には新NISA口座に切り替わりますので、手間なく新NISAを始めることが可能です。また今年購入した投資信託は今年を入れて20年間非課税で運用を継続できます。 つみたてNISAの口座は多くの金融機関で開設が可能です。ただし普段使っている金融機関でつみたてNISAを行う場合でも、改めてつみたてNISA口座を開設する必要があります。この際ちゃんと「つみたてNISA」口座を指定するのがポイントで、間違って「一般NISA」口座を開設してしまうと非課税期間は今年を入れて5年間のみですから、初心者にとっては対応が難しいことになります。また金融機関にとっては、つみたてNISA対象商品は金融庁の制約が多い分もうけが少ないと言われています。そのため何も知らずに金融機関に出向いてしまうと、金融機関にとって都合の良い商品を一般NISAでお勧めされてしまう可能性もありますから注意が必要です。 〇金融機関の選択ポイント なじみの金融機関が便利だとか、口座はあまり増やしたくないという方もいるかもしれませんが、できれば口座開設をする際は「つみたてNISA」対象商品を何種類くらい扱っているのか事前確認をした方がよいでしょう。 執筆時点ではつみたてNISA対象商品は230本程度ありますが、すべての商品を扱っている金融機関はありません。というよりも多くの金融機関が1桁の品揃えです。もしその少ないセレクションの投資信託があまり良いものでなければ、口座を開いても将来に向けての効率の良い資産形成が期待できないので、金融機関選びは慎重に行いたいものです。 またデビューはつみたてNISAだけれど、将来的には個別株も買って株主優待なども楽しんでみたいという方は、口座を証券会社で開くのが正解です。銀行では個別株は買えないので、注意しましょう。 現在、つみたてNISA対象商品を数多く扱い、かつ将来的に株式投資も可能となると、選択肢はネット証券となります。大手でいえばSBI証券、楽天証券、松井証券、マネックス証券といったところになりますが、インターネットに慣れている方は、この機会にネット証券を見てみるのも良いと思います。特にSBI証券や楽天証券はクレジットカードやポイントと連動するなどお得なサービスが連携されているので、人気もあるようです。 〇金融機関選びの影響 とはいえ、やはり「いつもの金融機関で問題ないでしょ」と思っている方が圧倒的多数かと思います。しかし、つみたてNISA対象商品の扱いの多寡は、大げさではなく天国と地獄とも言える大きな差になり得ます。 理由は単純で、現在商品数が少ない金融機関は、今後も取扱商品を増やさない可能性が高いからです。つみたてNISAは金融庁が定めた基準をクリアした投資信託のみが対象といいましたが、その基準の1つに低コストが挙げられます。しかし、つみたてNISAスタート以降、投資信託のコスト競争が激化しどんどん安い信託報酬の投資信託がつみたてNISAの対象となっています。投資信託のコストは、私たち投資家からしたら損失ですから安いに越したことはありません。特に一定の指数に連動した運用成果を目指すインデックス型の投資信託においては最重要ポイントです。 例えば日本のTOPIXに連動するインデックス型の投資信託の場合、つみたてNISAにおいて最も信託報酬が安いものが0.14%で、最も高いものが0.55%です。過去5年の平均リターンは前者が6.45%で後者は6.05%です(執筆時点の情報によります)。同じ指数に連動するような運用を目指しているのですから、この差はコストと言えます。 信託報酬とは、日々投資家の資産残高から差し引かれる費用ですから、馬鹿にできません。特に長期的に運用を継続すればその差は開く一方ですから、やはり今後より良い商品が登場した際でも選択肢が持てるよう運用商品の品揃えは多い方が良いと言えるでしょう。 本来であれば、同じ指数に連動するようなインデックス型の投資信託は複数ある意味がありません。例えば運用会社Aが、TOPIXに連動するインデックス型投資信託を複数運用しており一方は信託報酬が高く、一方は信託報酬が安くなっているのが現状です。そもそもTOPIXに連動するような運用を目指しているのですから、運用成績は理論上同じになりますから、コストが高い投資信託を保有している投資家のリターンは低くなります。特に運用期間が長い投資信託の方が高コストのまま放置されていることが多く、ここは投資家としてはしっかりと見極めたいところです。 このように、非課税で投資ができる魅力的なNISAであっても、いくつかのトラップは存在します。何も知らずにハマってしまっては天国と地獄、みなさんの将来を大きく変えてしまうおそれがあります。くれぐれも投資であることを忘れずに、ご自身で勉強するなり、良いアドバイザーから指南を受けるなりされることをお勧めします。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「税制適格SOに係る会計上の取扱いについて照会を 受けている論点に関する解説」を掲載 ~行使価格に係る法令解釈通達等の改正の影響に言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに このほど、企業会計基準委員会のホームページに、「税制適格ストック・オプションに係る会計上の取扱いについて照会を受けている論点に関する解説」として、ASBJの副委員長による解説が掲載された。 昨今、ストック・オプションに関連する税務上の取扱いの改正を踏まえ、ストック・オプションに係る会計上の取扱いに関して照会を受ける機会が増加しているとのことである。 次の点について解説している なお、これは、企業会計基準委員会の公式見解ではないとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 行使価格に係る法令解釈通達等の改正の影響 2023年5月30日に国税庁から「「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)等の一部改正(案)に対する意見公募手続の実施について」が公表されている。 法令解釈通達等が改正された場合、今後、未公開企業において行使価格を(税務上の)1株当たり純資産とするケースの増加が見込まれるとし、費用計上するケースについて説明している。 2 権利確定条件が付されている場合における取扱い 未公開企業が発行するストック・オプションには、「上場するまで行使できない」や、「上場日を起点として1年に50%ずつ行使可能」という条件が付されていることが多く、どのように権利確定日を決めて費用計上すればよいのかという論点がある。 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、まず、権利確定日として合理的に予測される日を見積もることになるが、それでも権利確定日として合理的に予測される日を見積もることが困難であり、予測を行わないこととした場合には、付与日に一時に費用計上することになるとのことである。 (了)
2023年7月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.527を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第121回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その15)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅺ 金融教育としての租税リテラシー教育 1 金融経済教育懇談会 節税商品取引を巡る消費者あるいは投資者保護の検討において、成人向け租税リテラシー教育が重要であることは既述のとおりであるが、そこでは、金融教育における成人向け教育の取組みが参考となろう。 金融庁が主催する金融経済教育懇談会は、平成17年6月付け「金融経済教育に関する論点整理」(以下「論点整理」という。)において、「国民一人一人に、金融やその背景となる経済についての基礎知識と、日々の生活の中でこうした基礎知識に立脚しつつ自立した個人として判断し意思決定する能力、すなわち金融経済リテラシーを身につけてもらい、また、必要に応じその知識を充実する機会を提供することは、今や大きな社会的要請となっていると言える。これが、本懇談会における金融経済教育のイメージである。」と報告している(同論点整理5頁)。 その上で、各人のライフステージを、まず大きく初等中等教育段階と社会人・高齢者段階に分けて、金融経済教育の現状の問題点と今後の課題について議論している。 社会人・高齢者段階については、次のように整理している。 (1) 現状認識 (2) 課題 このような現状認識を共有した上で、課題として、社会人・高齢者向けの金融経済教育において重要な事柄として、「〔筆者注:金融経済教育の〕必要性を認識して主体的に学ぼうとする個人を応援すること、また、そのための動機付け」であるとしている。 そこでは、社会人・高齢者の場合、「教育」というより、むしろ「啓発や意欲のある人の学習」という捉え方が適当であるとする。その上で、この分野の初等中等教育との大きな違いは、対象者が極めて多様である中で、必要とされる教育の内容、担い手、場も多様であるとしている。ここにアンドラゴジーの議論があろう(後述)。 具体的には、教育内容については、知識・スキルの平準化が目的となる初等中等教育段階の教育と異なり、対象者のニーズにより内容は大きく異なってくるとして、大多数の社会人・高齢者に対する教育内容としては次のような点を挙げている。 (3) 教育の担い手 成人向け金融経済教育の担い手としては、多様な担い手の役割がそれぞれ期待されるとする。 これらの中で、具体的には、「投資になじみの薄い顧客層も対象としてきた銀行が、投機と投資を区別し、分散投資という資産管理・運用の基本を教えることに適して」いることから、「今後、銀行を教育の担い手として期待する意見があった」という。他方、これに対し、「一般の人々は、銀行のアドバイスには営業目的があるかもしれないという警戒感を拭いきれず、社会人・高齢者教育の主要な担い手として位置づけることは難しい」との反論もあったようである。 そこでは、「特に、ペイオフ解禁を機に高齢者に銀行が投資商品を販売するケースが目立っており、これについては、銀行とは別に投資の基礎知識を教える主体が求められている」との意見があった。既にこの連載においても指摘したところであるが、これに関連していえば、節税商品取引については、特に、販売員の倫理、知識の向上の必要性も議論されなければならないであろう。 また、金融経済教育の担い手としては地域も期待されるところ、特に生涯学習の面では、地域で面的な広がりをどう持たせていくかが鍵となるとする。 (4) 広報活動と教育活動 社会人・高齢者については、小・中・高生と違い、学校といった特定の場(箱物)が予め設定されているわけでない点が解決されるべき重要なポイントとなる。論点整理では、対象者のニーズにマッチした形で裾野を拡げ、教育の機会を確保することが重要になるとする。特に次のように、論点整理では、ニュース作りという点を指摘している。 また、もともと馴染みの少ない人にも受け入れられるためのエンターテイメント性についても次のように言及している。 (5) 金融教育における政府に求められる役割 論点整理は、金融教育における政府に求められる役割として以下のように整理している。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第16回】 「国税通則法32条(31条・33条)」 -賦課課税方式における賦課決定とこれによる納税義務の確定の「本質」- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法32条(賦課決定) 1 「賦課」の意義-課税権の発動方式と税額・納税義務の確定方式- 国税通則法16条1項2号は、賦課課税方式を「納付すべき税額がもつぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式」と規定し、同法第2章(国税の納付義務の確定)第3節で「賦課課税方式による国税に係る税額等の確定手続(第31条-第33条)」を定めている。 ここで、まず、「賦課」という語の意義を確認しておこう。これについては、次の用語の整理(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E651頁[波多野弘執筆]。下線筆者)が的確であると思われる。 この整理によれば、「賦課」という語は、①賦課課税主義の租税における課税権の発動方式について用いられる場合と、②税額の確定方式ないし納税義務の確定方式について用いられる場合があることになるが、今回検討するのは勿論②の意味での「賦課」である。 なお、上記②の意味での「賦課」については、これを行う国の権利を「課税権又は賦課権ともいうべきもの」と説く見解(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)159頁)もあるが、この見解によれば上記①の意味での「賦課」との関係が明確でなくなるおそれがあるように思われるので、次の見解(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)154頁。太字は原文どおり)のように「確定権」という語を用いるのが妥当であると思われる(谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第1回Ⅱ2も参照)。 2 賦課課税方式による国税の範囲 国税通則法は、納付すべき税額が賦課課税方式によって確定される国税を、申告納税方式(16条1項1号)によって確定される国税以外の国税、とのみ定め(同条2項2号)、その国税の範囲は各個別税法の定めるところに委ねているが、ただ、実際上は、戦前における賦課課税方式中心の時代は格別、終戦直前から徐々に納税義務の確定方式が直接税を中心に申告納税方式に移行し、特に国税通則法の制定と同時に酒税等の間接税も原則として申告納税方式に移行し(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)』(昭和36年7月)9頁参照。第10回4も参照)、その結果、賦課課税方式による国税は極めて限定されたものとなっている(中川=清永編・前掲書E655-E656~658頁[波多野執筆]、金子・前掲書941頁参照)。 要するに、「賦課課税方式による国税は、法定の条件違反その他の違法行為による場合、免税物品が免税目的以外に供される場合、又は関税法上賦課課税方式が適用される場合等の例外的な場合の消費税等、各種加算税及び過怠税で、極く限られているということができる。」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)1733頁。個々の税目については同頁のほか、より詳細には志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)279-283頁参照) これに加えて、各個別税法の定めるところにより課税標準申告書の提出義務(税通31条1項)が課されている国税は、更に限定され、「保税地域からの引取りに係る課税物件で申告納税方式によりがたいものに対する消費税等」(志場ほか共編・前掲書415頁)である。この消費税等については、「申告納税方式によりがたい」とはいえ納税者に一定の情報提供を期待することができると認めて、課税標準申告書の提出義務を課したのであろうが、それら以外の賦課課税方式による国税については、「法律又はこれに基づく命令により定められている条件に違反し、又は違法な行為があつたことその他の事情が原因となつているため、適正な申告又は申告そのものが期待し得ないこと、その他徴収手続上の便宜、沿革上の理由等により、課税標準申告書の提出をさせることは適当でない」(武田監修・前掲書1734頁)と判断されたのであろう。 3 賦課決定による納税義務の確定の「本質」 賦課課税方式による課税標準・納付すべき税額の「決定」(税通32条1項・2項)すなわち賦課決定(同条5項括弧書)は「賦課課税方式による国税の確定手続中最も重要」(中川=清永編・前掲書E710~712頁[波多野執筆])といわれるが、賦課課税方式による国税は、前述のとおり、極めて限定されていることから、賦課決定の重要性は実際上は高いとはいえないであろう。 とはいえ、課税標準申告書の提出義務がない場合における賦課決定(税通32条1項3号)は、賦課課税方式による納税義務の確定手続のなかでは相対的に重要な行為(成立した納税義務の内容を確認し確定する「処分」。税通16条1項2号、75条1項1号も参照)であるが、それだけにとどまらず、申告納税方式を含む納税義務の確定手続全体の観点からみると、納税者の少なくとも一定の情報提供行為を前提とせず税務官庁が単独で行うという意味で、決定(税通25条)と同じく、納税義務の確定手続の「最後の砦」となる重要な行為として位置づけることができよう。つまり、申告納税制度と賦課課税制度とにおいて「決定」は、本質的に区別されるべきものではなく、単に国税通則法の用語上区別されているにとどまると解するのが相当である(税通25条、32条1項・2項・5項括弧書参照)。 申告納税制度の実定的把握における租税徴収の観点からみると、納税義務の確定の場面で「後詰め」としての更正(税通24条)に極めて重要な役割が期待されていることは前回の3で述べたが、賦課決定は期間制限(同70条1項2号・3号)内であれば何度も繰り返し行うことができる(同32条2項。いわゆる再賦課決定)という意味で、賦課決定には、繰り返される更正すなわちいわゆる再更正(同26条)と同様に極めて重要な役割が期待されているといえよう。 そうすると、次の見解(中川=清永編・前掲書E656~658頁[波多野執筆])が説くように、更正・決定・賦課決定に共通する観念は、「賦課」と「徴収」(それぞれの意味については前記1の冒頭の囲み内の用語整理参照)とを一連の行為として一体的に捉える場合における「賦課徴収」であり、しかもこの観念こそがまさしく租税徴収の観点からみた納税義務の確定の「本質」であるといってよいように思われる。 納税義務の確定の「本質」に関するこのような捉え方は、「納税義務の確定制度の実定的把握」(その意義については第11回3における「申告納税制度の実定的把握」の解説参照)と呼ぶことができようが、これは、申告納税方式及び賦課課税方式ともに「納税義務が成立する場合」(税通15条1項)を所与の前提とし、「納税義務は法律の定める課税要件の充足によって成立する、という考え方・・・・・・を暗黙の前提としている」(金子・前掲書886頁)点で、国税通則法の体系的構造(第1回3参照)との関係が極めて希薄なものであるといってよかろう。 (了)