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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例2】「役員に対する土地建物の現物支給」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例2】 「役員に対する土地建物の現物支給」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 わが社はある地方都市において建設業を営む株式会社(3月決算)です。わが社は創業者であるB前会長が先日退任した際に、役員退職慰労金規定に基づき、役員退職慰労金を支給しましたが、その全額につき現金を用意することができなかったため、その一部を土地及び建物(B前会長の自宅)で現物支給することとなりました。その際わが社は、土地及び建物は帳簿価額(合計3,000万円)で評価し、その金額と現金支給額(7,000万円)の合計額(1億円)を役員給与として損金経理しました。 ところが、この度受けた税務調査において、課税庁は、他の課税所得が増額となる指摘事項とともに、役員退職慰労金のうち土地及び建物はその時価相当額(合計1億5,000万円)で評価すべきことを指摘しましたが、そうなると時価と簿価との差額部分1億2,000万円相当額については追加で損金算入すべきこととなり、結果として調査による増差所得は大幅に減少することとなります。しかし課税庁は、当該差額部分については損金経理が行われていないとして、損金算入はできないと主張しています。 仮に、現物支給した土地建物部分については時価相当額で評価すべきという課税庁の指摘が正しいとしても、現金ではなく土地建物という現物そのものを全部、役員退職慰労金として支給したことには変わりがないのであり、それを損金経理したのであるから、その意思表示を尊重し、いわば時価相当額を損金経理したものとみなして処理するのが相当であるため、本件については全額の損金算入が認められるべきと考えます。わが社の場合、課税庁の指摘にどのように対処すべきでしょうか、教えてください。 〇役員退職慰労金と現物支給   【A】 法人が役員退職慰労金として現物支給した土地及び建物については、時価評価により損金に算入すべき金額を決定すべきとなりますが、損金経理した金額が時価より低い帳簿価額に過ぎない場合であっても、現行法人税法においては役員退職給与につき損金経理要件は撤廃されたことから、更正の請求により、土地建物の時価と帳簿価額との差額は「不相当に高額」でない限り損金に算入されるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員退職慰労金と損金算入 法人税法上、役員退職慰労金は役員給与(役員退職給与)に該当するものとされている。平成18年度の税制改正前は、役員退職給与の額のうち、損金経理しなかった金額及び損金経理した金額のうち不相当に高額な部分の金額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されなかったところである(旧法法36)。 しかし、平成18年度の税制改正で、役員退職給与の課税のあり方が見直され、役員の職務執行の対価としての性格を有する点で役員給与と同じであることや、会社法において利益処分による支給ができないこととされたこと等を踏まえ、従来の損金経理要件が廃止された。この点は平成18年度改正前の法人税法の規定につき、後述(2)の東京山手青果事件控訴審(東京高裁平成8年3月26日判決・税資215号1114頁)判決で、「法人税法は、法人の役員に対する退職給与について、それが報酬の後払い的性格のほかに功労報償的なもの、つまり賞与的性格をも併有する点に鑑み、損金経理により報酬の後払いであることを要件に退職金の損金控除性を認めている」と判示されている。改正前の役員退職給与は利益処分である賞与(損金不算入)としての性格をも有していたことから、損金算入を認める要件として、損金経理要件が課されていたというのである。 一方で、役員退職給与のうち、不相当に高額な部分の金額は損金不算入であるという「不相当に高額」要件は、改正後も引き続き存続している(法法34②)。ここでいう「不相当に高額」な部分の金額とは、政令で以下の通り定められている(法令70二)。 すなわち、平成18年度税制改正以降における法人税法上の役員退職給与の取扱いは、以下の図の通りである。 〇役員退職給与の法人税法上の取扱い なお、平成29年度の税制改正で、退職給与で利益その他の指標(功績倍率法によるものを除く)を基礎として算定されるもののうち、業績連動給与(旧利益連動給与)の損金算入要件(法法34①三)を満たさないものは、その全額が損金不算入とされた(法法34①)。これは、平成18年度の改正後、役員退職給与は原則全額損金算入とされたものの、近年、役員退職給与についても業績に連動した指標を基礎として支給されるものが登場し、退職を基因として支給するか否かで損金算入要件が大きく異なるのは制度として不整合といえるため、業績連動給与の損金算入要件を満たさないものは損金不算入とされたものである(※1)。 (※1) 財務省『平成29年度税制改正の解説』307頁。   (2) 現物資産による役員退職金支給と損金経理 上記(1)で見た通り、現行の法人税法においては、役員退職給与には損金経理要件はなく、「不相当に高額」な部分を除き全額損金算入される。 この点につき、平成18年度の税制改正前の法人税法に係る事案で、現物資産による役員退職金の支給と損金経理との関係が争われたものがある(東京山手青果事件)。当該事案においては、原告である法人が、その前代表者に対して退職慰労金の一部として土地建物を現物支給し、当該土地建物を帳簿価額(土地の簿価:2,500万円、建物の簿価:159万6,659円)で損金経理していたが、その後の税務調査において課税庁は、土地の評価額は簿価ではなく時価(1億6,053万4,360円)を用いるべきであるにもかかわらず、時価と簿価との差額部分は法人が損金経理を行っていなかったとして損金算入を否認したことから、法人が更正処分の取消しを求めて提訴した。 一審(東京地裁平成6年11月29日判決・税資206号449頁)において裁判所は、 と判示して、原告の主張を斥けた。当該判断については、もともと法人税法が退職金について損金経理を要求するのは、簿外資産からの支出を認めないという趣旨であり、本件のような含み益があるものの支給についての経理方法まで規制するものではない、という批判がある(※2)。 (※2) 武田昌輔「プロからの税務相談」『T&A master』115号(2005年5月23日号)参照。 また、当該事案の控訴審(東京高裁平成8年3月26日判決・税資215号1114頁)において裁判所は、 と判示して、法人の主張を再度斥けている。 なお、上記高裁の判断は最高裁においても維持されている(最高裁平成10年6月12日判決・集民188号619頁・税資232号600頁)。   (3) 平成18年度税制改正後の現物支給役員退職給与と損金経理 平成18年度税制改正後の法人税法においては、役員退職給与について損金経理要件は撤廃されている。したがって、上記(2)の裁判例の判示は本件の射程外となる。それでは、現行法人税法の下では、本件はどのように解することとなるのであろうか。 法人が役員退職慰労金として現物支給した土地及び建物については、時価評価により損金に算入すべき金額を決定すべきとなるが、当初申告において損金経理した金額が時価より低い帳簿価額に過ぎない場合であっても、現行法人税法においては役員退職給与につき損金経理要件は撤廃されたことから、更正の請求により、土地建物の時価と帳簿価額との差額は「不相当に高額」でない限り損金に算入されるものと考えられる。 現物財産の評価額は客観的に算定可能であり、内部取引とはいえず恣意性の排除(※3)も考慮する必要がないことから、損金経理の問題とはならないのは当然といえるだろう。そう考えると、改正前の規定において損金経理を要求していた理論的根拠(役員退職給与の賞与的要素?)は、必ずしも適切ではないといえる。法人税法における損金経理要件の理論的根拠については、今後も問われていくことになるであろう。 (※3) 酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』(中央経済社・2016年)135頁参照。 (了)

#No. 305(掲載号)
#安部 和彦
2019/02/07

租税争訟レポート 【第41回】「太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題(国税不服審判所平成30年3月27日裁決、同6月19日裁決)」

租税争訟レポート 【第41回】 「太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題 (国税不服審判所平成30年3月27日裁決、同6月19日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国の再生可能エネルギー転換政策への後押しもあって、一時期、太陽光発電事業への参入がブームとなっていたこともあり、近時の公表裁決事例でも、太陽光発電設備に関係した裁決が多く取り上げられている。 太陽光発電設備を設置してから、電力会社への供給を開始するためには、発電設備を商用電力系統に接続することを意味する「系統連系」が必要であり、一般的には、系統連系が実施された日である売電が可能となった日をもって、「事業の用に供した日」と判断されている。 本稿では、こうした太陽光発電設備の減価償却をめぐる問題について、2つの公表裁決事例を参考に、検討を行いたい。 〈事案その1〉   【事案の概要】 本件は、審査請求人が、太陽光発電設備等を取得した事業年度において当該設備等に係る償却費の額を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該設備等は当該事業年度において事業の用に供していないから当該設備等に係る償却費の額を損金の額に算入することはできないなどとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 争点のうち、国税不服審判所は、[争点2]に掲げる太陽光発電設備等を囲むフェンス等については、売電事業が行われる前であっても、事業の用に供していたとして、フェンス等に係る減価償却費の損金算入を認めたため、本稿では、この[争点2]に絞って、審判所の判断の過程を検討したい。   【フェンス等は事業年度内に事業の用に供したと認められるか否か[争点2]】 国税不服審判所の事実認定に基づいて、請求人による太陽光発電事業への参入から売電開始までを時系列でまとめておく。 以上の事実認定から、国税不服審判所は、[争点1]においては、発電システム本体に係る系統連系のための工事が完了して系統連系が行われたのは平成28年9月28日であり、減価償却費の損金算入が争点となった事業年度の末日(平成28年3月31日)において、電気事業者へ売電していなかったのであるから、発電システム本体は、当該事業年度内にその属性に従ってその本来の目的のために使用を開始したとは認められないことから、請求人の主張を斥ける判断を行っている。 それでは、発電システムを囲うフェンス等について、事業の用に供した日はいつであると認定したのか、当事者の主張及び審判所の判断を見ておきたい。 1 原処分庁の主張 フェンス等は、平成28年3月28日までに工事を完了し、請求人に引き渡されていると認められるものの、①請求人は、フェンス等を含む発電所が生産性の向上に資する設備であることの確認を受けていること、②フェンス等は、単独では生産活動等の用に直接供される減価償却資産とは認められないことから、請求人は、フェンス等を生産活動等の用に直接供される本件発電システム本体と一体として取得し、一体として事業の用に供したものとみるのが相当であることから、フェンス等は、発電システム本体の事業供用日である平成28年9月28日に事業の用に供したものであるから、平成28年3月31日に終了する事業年度内に事業の用に供したとは認められない。 2 審査請求人の主張 フェンス等は、隣地との境界を画するとともに、発電所に対する不法侵入又は動物などによる侵害を防いで発電設備の財産的価値を維持するために設置されたものであるから、引渡日から、その属性に従って本来の目的のために使用を開始したと認められるため、フェンス等は平成28年3月31日に終了する事業年度内に事業の用に供したものである。 3 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、フェンス等の構造について、最上部に有刺鉄線を有する高さ約2メートルの金属製の構築物であり、本件発電設備が設置されている敷地部分を囲む形で、本件発電所とその隣地及び道路との境界に沿って敷設されており、発電所は、田畑、雑木林及び道路に囲まれて周辺に民家等はなく、本件フェンス等以外に本件発電所内への立入りを遮蔽する構築物はないと事実認定を行った。 そのうえで、平成29年3月に資源エネルギー庁が策定した「太陽光発電に関する事業計画策定ガイドライン」を引用する形で、発電設備によって第三者が感電等により被害を受けるおそれがあることなどから、危険防止のために発電設備の周辺に柵や塀などを設置し、容易に第三者が発電設備に近づくことができないよう適切な措置を講ずる必要があること、太陽光発電所においてケーブルやその他の発電設備の一部が盗難に遭うなどの被害が報告されていることなどを挙げた。 そして、生産等設備が複数の減価償却資産によって構成され、それらの資産がそれぞれ特定生産性向上設備等に該当する場合においても、それぞれの減価償却資産ごとに、事業の用に供した日を判断すべきであるという一般論を述べたうえで、本件フェンス等は、発電システム本体から物理的に独立した構築物であり、発電、変電及び送電といった機能はなく、発電システム本体と一体となって売電のための機能を果たすものでもないこと、外部からの侵入等を防止することにより発電システム本体を保護することをその属性に従ってその目的のために設置され、使用されたことが認められることから、発電システム本体とフェンス等は、物理的にも機能的にも一体とはいえないため、別個の減価償却資産であると認定して、フェンス等は、引渡日から、その属性に従ってその本来の目的のために使用を開始されたと認めるのが相当であると判断し、原処分庁の主張を斥けた。 *  *  * 〈事案その2〉   【事案の概要】 審査請求人は、太陽光発電設備を取得した事業年度において、同設備に係る償却費の額を損金の額に算入して法人税の確定申告をした後、同設備を当該事業年度内に事業の用に供していなかったことから当該償却費の額を償却超過額として修正申告するとともに、翌事業年度に電力の供給を開始して同設備を事業の用に供したことから、当該翌事業年度の法人税について、同設備に係る償却費の額を損金の額に算入すべきであるとして更正の請求を行った。 これに対して、原処分庁が、同設備を事業の用に供した当該翌事業年度において償却費の損金経理額はないとして当該更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分及び欠損金の損金算入額が過大であるなどとして各更正処分等を行った。本件は、請求人が、当該翌事業年度において、前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入すべきであるとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。   【請求人の主張する償却額は平成27年3月期の損金の額に算入できるか否か】 本事案でも、はじめに、国税不服審判所による事実認定に基づいて、請求人による、太陽光発電事業への参入から電力会社への売電開始までを、時系列に沿ってまとめておきたい。 1 審査請求人主張 審査請求人は、まず、本件発電設備は、平成27年3月期に事業の用に供したことにより、売電収入が発生しているため、請求人が主張する減価償却額(以下「請求人主張償却額」という)を損金の額に算入しないのは、費用収益対応の原則を法人税法が否定することになるから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反すると主張した。 また、平成26年3月期償却費計上額は、請求人が国の再生エネルギー導入拡大に資する趣旨をくみ取り、多額の設備投資を行ったことにより生じたものであることからすれば、平成26年3月期に取得した減価償却資産から生じた償却超過額と認められるべきであるから、請求人主張償却額は、平成27年3月期以後において、前期から繰り越した償却超過額の認容額として損金の額に算入することができるとして、請求人が主張する減価償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入できると主張した。 2 原処分庁の主張 これに対して、原処分庁は、本件発電設備は、電力会社に対して電力を供給し、事業の用に供した平成27年3月期において、減価償却資産に該当することになるのであり、平成26年3月期においては減価償却資産には該当しないことから、平成26年3月期償却費計上額は、減価償却資産に該当しない資産について償却費を計上したことになり、平成26年3月期における償却超過額が存在しないことになるから、平成27年3月期において、請求人主張償却額を損金の額に算入することはできないと主張した。 また、特別償却費についても、本件発電設備を事業の用に供した日の属する事業年度に限って適用されることから、請求人は、本件発電設備を事業の用に供した平成27年3月期の確定申告時において、特別償却の適用を受けていないため、平成27年3月期の更正の請求において、請求人主張償却額を所得金額から減算することは認められないとした。 3 国税不服審判所の判断 こうした当事者の主張を受けて、国税不服審判所は、まず、発電設備について、平成26年10月3日以降に、電力会社に対する電力の供給が開始されたことから、本件発電設備を事業の用に供した日は同日以降であると認められ、平成26年3月期終了の時においては事業の用に供されていないから、本件発電設備は、平成26年3月期終了の時において有する法人税法上の減価償却資産に該当しないと認定した。 そうすると、平成26年3月期償却費計上額については、平成26年3月期において償却費として損金経理していたとしても、減価償却資産に該当しない資産に係るものであるから、減価償却資産に係る損金経理額に該当しない。また、平成26年3月期償却費計上額は、平成26年3月期において本件発電設備を事業の用に供していなかったことから、資産として計上すべきところを償却費として損金の額に算入していたため損金不算入額として平成26年3月期の所得金額に加算されたにすぎず、平成26年3月期における法人税法上の減価償却資産に係る償却超過額にも当たらない。 以上の事実認定から、国税不服審判所は、審査請求人の平成26年3月期償却費計上額は、平成27年3月期において、償却超過額には該当せず、平成27年3月期の損金経理額に含まれないことになるため、本件発電設備に係る損金経理額はないことから、請求人主張償却額は、平成27年3月期の損金の額に算入することはできないと判断して、審査請求人の主張を斥けた。   【解説】 どちらの事案も、請負工事の完了予定日が決算期末である3月31日までに設定されているように、こと事業開始初年度に関しては、太陽光発電事業による営利目的というよりは、減価償却費を損金の額に算入することによる節税効果を狙っていることは明らかである。ところが、電力会社との間の系統連系に係る工事が翌事業年度にずれ込み、太陽光発電設備を購入した事業年度では、減価償却費を損金の額に算入することが認められないこととなった。 電力会社への売電事業が始まる前の事業年度において太陽光発電設備に関する減価償却費の計上が認められないことは言うまでもないことである。しかし、その一方で、発電設備に付属する資産の属性によっては、売電事業開始前であっても事業の用に供していることが認められる場合もあること(平成30年6月19日裁決)や事業の用に供していない資産に係る減価償却費の計上は、償却超過額ではなく、資産として計上すべきところを償却費として損金の額に算入していたため損金不算入額となること(平成30年3月27日裁決)など、国税不服審判所の示した判断は、太陽光発電設備を設置してから売電事業を開始するまでの間に、事業年度終了の日が到来する場合の減価償却費の計算について、示唆に富んだものであると評価できよう。   (了)

#No. 305(掲載号)
#米澤 勝
2019/02/07

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第66回】「請負に関する契約書⑥(住宅リフォーム工事申込書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第66回】 「請負に関する契約書⑥(住宅リフォーム工事申込書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は住宅リフォーム工事業者です。 住宅リフォーム工事の申込みがあった場合、申込者から申込書を記入してもらいます。申込書は2枚複写で1枚目は当社用、2枚目は申込者控え用となっており、申込者控え用については契約担当者が署名・押印のうえ申込者に交付していますが、課税文書に該当しますか。 (1枚目:会社用) (2枚目:申込者控え)   1枚目の会社用は不課税文書に該当する。2枚目の申込者控えについては記載金額300万円の第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、印紙税額は軽減税率適用の500円となる。   [検討1] 申込書は印紙税法上の契約書に該当するか 通常、契約の申込みの事実を証明する目的で作成される単なる申込書については契約書には該当しないが「申込書」等と表示されたものであっても、相手方の申込みに対する承諾の事実を証明する目的で作成されるものは、契約書に該当する。 事例の住宅リフォーム工事申込書の会社用については、住宅リフォーム約定事項第3条において、別途リフォーム工事請負契約書を作成することとされており、申込みにより自動的に契約が成立することとなっていないため、契約書には該当しない。 また、申込者控えについては会社用と同様の状態で渡すこととすれば、会社用と同様に、契約書には該当しない。しかし、事例の場合は、申込者からの申込みに対して、リフォーム会社の担当者が押印して交付しているものであり、相手方の申込みに対する承諾の事実を証明するものとなり、契約書に該当する。 [検討2] 申込金の受領について第17号文書(金銭の受取書)に該当しないか 契約書に記載された金額であっても、契約金額とは認められない内入金額などは記載金額に該当しないが、内入金額であっても、内入金額の受領事実が記載されている場合には、第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当することとされている(基通第28条)。 事例の場合は、申込書中に申込着手金5万円の領収済印を押しており、受領事実が記載されていることから、第17号の1文書に該当する。 [検討3] 第2号文書と第17号文書に該当した場合の所属は 第17号文書に該当する申込着手金5万円が第2号文書の記載金額である工事予定額300万円より少ないので、通則3のイの規定により、第2号文書に該当する。 ▷まとめ 事例の申込者控えについては、申込者からの申込みに対して、受注者であるリフォーム会社の担当者が内容を確認のうえ、承諾印を押印し申込者へ交付するものであり、単なる申込書控えではなく、契約の事実を証明する目的で作成されるものと認められることから、印紙税法上の契約書に該当し、第2号文書と第17号文書に該当するが、通則3のイにより第2号文書に該当する。   (了)

#No. 305(掲載号)
#山端 美德
2019/02/07

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第14回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第14回】 (最終回)   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   26 まとめ ここまで、収益認識基準等及び税務について解説した。収益認識基準等は各社で関係する論点が異なり、自社ではどこまで検討すればよいかということがわかりにくいと考えられる。そして、最初からここの論点は自社では関係ないとある論点については、全く検討しなくてよいと考えている読者もいるのではないだろうか。 しかし、「収益認識が変わる」ということは、経理のみならず、内部統制、システム、人事評価等の変更も検討しなければならず、後になってから、やはりこの論点の検討が必要だったと思っても、その時点においてすでに変更が困難となるケースもあると考えられる。 そのため、収益認識基準等を検討する最初の段階においては、網羅的に論点をつぶすことが欠かせないと考えられる。そこで、最終回となる本稿では、できるだけ網羅的に検討できるように「チェック・リスト」を用意した。 (※) なお、本チェック・リストは、収益認識基準等の論点を全て網羅しているわけではありません。 収益認識基準等を検討する際のチェック・リスト ◆PDF版は[こちら] (連載了)

#No. 305(掲載号)
#西田 友洋
2019/02/07

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第6回】「イヌは一定期間にわたり売上計上していくのか~三要件の検討」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第6回】 「イヌは一定期間にわたり売上計上していくのか~三要件の検討」 公認会計士 石王丸 周夫   1 一定期間にわたる売上計上 桃太郎が、イヌ・サル・キジのサービスを一定期間にわたり享受していくのであれば、イヌ・サル・キジたちは、一定期間にわたり売上を計上していくことになります。これが、前回の最後に説明した履行義務充足の2パターンのうち、[パターン①]の方です。 ここで、「一定期間にわたり享受する」というのは、3つの要件のいずれかに当てはまる場合を指しています。以下、イヌを例として、順に見ていきましょう。   2 第1の要件 第1の要件は、以下のとおりです。 売り手が買い手との契約事項を履行するにつれて、買い手が便益を享受すること イヌは桃太郎に対し、渡航、戦闘、輸送の各サービスを提供しますが、それらのサービスを順に提供していくことにより、桃太郎の立場はどんどん強化されていきます。イヌのサービスは、この第1の要件に当てはまりそうです。 ただし、この要件に当てはまる典型的な例は、清掃サービスのように、同じサービスが反復的に提供されるケースです。イヌの提供するサービスは、同じサービスの反復ではありませんので、この要件に当てはまるかどうかは、はっきりしません。 したがって、買い手である桃太郎が、一定期間にわたって「便益を享受しているかどうか」という重要なポイントを、後で詳しく考えていきましょう。   3 第2の要件 第2の要件は、以下のとおりです。 売り手が買い手との契約事項を履行することにより、資産が生じ(あるいは資産の価値が増加し)、それにつれて、買い手が当該資産を支配すること この要件は、買い手が自己所有の土地に建物を立ててもらうような契約を念頭に置いたものです。桃太郎とイヌの契約とは少し違いますね。   4 第3の要件 第3の要件は、以下のとおりです。 次の要件のいずれも満たすこと ① 売り手が買い手との契約事項を履行することにより、転用できない資産が生じること ② 売り手が、履行完了した部分について、対価を受け取る強力な権利を有していること この要件は、例えばソフトウェアの制作などで、作業の完了した部分について、対価を受け取ることを契約で確約しているようなケースを想定しています。イヌはそこまで強力な権利を持っていませんので、これも該当しません。   5 イヌは途中で別のイヌに交代可能か ここまでの話を整理してみましょう。 まず、3つの要件のうちいずれかに該当する場合は、一定期間にわたり売上計上するということでした。そして、イヌのサービスについては、もし該当するとすれば、第1の要件が最も可能性が高いということでした。 そこで第1の要件ですが、これに当てはまると判断するにあたっては、重要なポイントがありました。それは、イヌがサービス提供する際に、「桃太郎が一定期間にわたって便益を享受したかどうか」を見極めるということです。 どういうことだか、今ひとつピンとこないと思います。 具体的に説明しましょう。 イヌが途中で桃太郎のもとを離れることになって、別の者に交代した場合でも、そこまでにイヌが提供したサービスについては、やり直す必要がないかどうかということです。やり直す必要がないのであれば、そこまでにイヌが提供したサービスについて、桃太郎は便益を享受したと判断します。 イヌの履行義務について、上記の判定をしてみます。 イヌは、渡航、戦闘、輸送のサービスを桃太郎に提供します。これらのサービスに含まれる履行義務は、1つの履行義務であると判定されましたが、この一連のサービスの途中で、イヌが帰ってしまったとします。その場合、どんなことになるでしょうか。 例えば、鬼ヶ島への渡航(「漕ぎ手」という履行義務)が完了し、いよいよ鬼との戦いが始まるという場面で、イヌが「帰る」と言い出したとします。 桃太郎たちが鬼ヶ島につきました。すると、船をこいできたイヌが、鬼の城門に向かわずに、こう言いました。 「桃太郎さん、大事な用事があることを急に思い出したので、私はここで帰らなければなりません。このあとの鬼との戦いは、どうか別のイヌに頼んでください。」 「それは困るよ。ここで帰るのなら、きびだんごは返してくれ。」 「と言われても、もう食べてしまいましたが・・・」 「ん~、仕方がないな・・・とにかくいったん出直そう。」 桃太郎はそう言って船に乗り、出航してきた海岸まで戻ることにしました。 以上のとおり、イヌが帰ると言い出した場合、イヌがこのあと提供する予定だった戦闘・輸送サービスについては、別のイヌが提供することになりますが、鬼ヶ島では別のイヌを探すことはできないため、いったん引き返します。その時点で「渡航」はやり直しとなるわけですが、もっと本質的な問題があります。 このあとの戦闘では、イヌ・サル・キジの連係プレーが期待されるところであり、その打合せは鬼ヶ島到着前に済んでいたはずです。また、鬼との戦いにはチーム内の信頼関係も必要で、それは鬼ヶ島までの道中で構築されたことでしょう。したがって、戦闘段階から別のイヌに交代することは不可能であり、その意味で鬼退治は大幅にやり直しを迫られるのです。 以上から、桃太郎はここまでの便益を享受できなかったことになります。 このように考えると、イヌの提供するサービスは、第1の要件も満たさないことになります。つまり、一定期間にわたり売上計上するための要件のどれにも当てはまらず、一定期間に売上計上する処理の適用はないということになります。 ▷今回のまとめ 一定期間にわたり売上計上するには、3つの要件のいずれか1つを満たす必要があります。 (了)

#No. 305(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/02/07

企業結合会計を学ぶ 【第10回】「取得原価の配分方法⑤」-取得企業の税効果会計-

企業結合会計を学ぶ 【第10回】 「取得原価の配分方法⑤」 -取得企業の税効果会計-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回に引き続き、取得原価の配分方法に関して解説する。 今回は、取得企業の税効果会計について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 取得企業の税効果会計 1 基本的な会計処理 組織再編の形式が、事業を直接取得することとなる合併、会社分割等の場合には、取得企業は、企業結合日において、被取得企業又は取得した事業から生じる一時差異等に係る税金の額を、将来の事業年度において回収又は支払が見込まれない額を除いて、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する(結合分離適用指針71項)。 ここでいう一時差異等とは、取得原価の配分額(繰延税金資産及び繰延税金負債を除く)と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額並びに取得企業に引き継がれる被取得企業の税務上の繰越欠損金等である。 次のことに注意する(結合分離適用指針71項、72項、378-3項)。 2 繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の確定 企業結合日に認識された繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の見直しには、次の場合がある(結合分離適用指針73項、379項)。 ①及び②のいずれの場合も、結合分離適用指針70項(暫定的な会計処理の確定処理)に従って会計処理することになる。 3 将来年度の課税所得の見積りの変更等による繰延税金資産の回収見込額の見直し 結合分離適用指針73項(2)(上記2②)については、その見直し内容が明らかに企業結合年度における繰延税金資産の回収見込額の見直しと考えられる場合や、企業結合日に存在していた事実及び状況に関して、その後追加的に入手した情報等に基づいて繰延税金資産の回収見込額の見直しを行う場合に限られている(結合分離適用指針73項ただし書き)。 企業結合日後に追加的に入手した情報等に基づく繰延税金資産の回収見込額の見直しが、企業結合における取得原価の再配分の対象となるかどうかは、当該情報等が企業結合日に存在していた事実及び状況を示す内容であるかどうかに留意する(結合分離適用指針379-2項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針379-2項)。 結合分離適用指針73項(2)(上記2②)の繰延税金資産の回収見込額の修正は、企業結合日と取得企業の事業年度との関係から次のように処理する(結合分離適用指針74項)。 4 繰延税金資産の回収可能性 繰延税金資産の回収可能性は、取得企業の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断し(「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)6項)、企業結合による影響は、企業結合年度から反映させる(結合分離適用指針75項)。 将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて判断する場合には、企業結合年度以後、取得した企業又は事業に係る過年度の業績等を取得企業の既存事業に係るものと合算した上で課税所得を見積る(結合分離適用指針75項。[設例32]取得とされた吸収合併の取得企業(吸収合併存続会社)の税効果会計)。 (了)

#No. 305(掲載号)
#阿部 光成
2019/02/07

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第1回】「年次有給休暇が取得できる仕組みづくり(その1)」-法改正による有給休暇取得義務化の概要-

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第1回】 「年次有給休暇が取得できる仕組みづくり(その1)」 -法改正による有給休暇取得義務化の概要-   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   ◆連載開始にあたって◆ 昨年(2018年)の6月29日に各種労働法の改正を行う法律、いわゆる「働き方改革関連法」が参議院本会議で可決・成立し、一部の法律は、今年(2019年)の4月1日から早くも施行が始まります。 中小企業は、これらの法改正に対し企業として手当てが必要となる一方で、ここ数年は、そもそも人手不足などの社会問題を背景に、従業員の働き方の見直しの必要性にせまられています。 例えば、生産性・効率性を上げるための有給休暇取得推進や残業時間の見直しをはじめ、人材の獲得・離職防止等を目的とした従業員のライフスタイルに合わせた制度(副業・兼業の容認、テレワーク・フレックス制度の導入等)の整備、また、今後ますますの拡大が予想される海外人材の採用・管理への対応など、労務において検討すべきことが数多くあります。 そこでこの連載では、改正法への対応だけではなく、中小企業における上記のような広い意味での「働き方改革」を進めるにあたって押さえておきたい労務上のポイントについて、わかりやすく解説をしていきます。   ▷はじめに 日本のサラリーマンは、1年間でどのぐらい年次有給休暇(以下「有給休暇」といいます)を利用しているでしょうか。 厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、平成29年の有給休暇の取得率は、51.1%、付与日数18.2日に対して9.3日利用をしています。取得率は、例年このような感じで、1年間に付与された分の半分くらいを取得している状況が続いています。 政府はこの取得率を2020年までに70%とする目標を掲げています。そうすると、前述の付与日数から算出される利用日数は、「12.7日」となり、かなり高いハードルのように感じられます。 また、「働き方改革関連法」により2019年4月1日から5日間の有給休暇の取得が義務付けられることもあり、中小企業にとって年次有給休暇制度の見直しは必須と言えるかもしれません。 そこで今回は、「有給休暇」をテーマに2回に分けて解説していきます。まず、【第1回】では改正法による有給休暇取得義務化の概要について、【第2回】では有給休暇を取得しやすい環境づくりに向けた具体的な施策や管理の方法や、取得に関する留意点について述べていきます。   ▷年次有給休暇制度の基本 有給休暇は、①6ヶ月の継続勤務、②その期間中の全労働日の8割以上出勤している正社員に対して、「10日」付与されます。その後1年経過ごとに、直近1年間の出勤要件である②を満たせば、勤続年数に応じて次の〔図表1〕の通りの有給休暇が付与されます。 〔図表1〕 出勤要件②の「全労働日の8割以上の出勤」とは、厳しい要件だと感じる方もいるかもしれません。しかし、「全労働日」が「240日程度」が一般的な企業の水準です(土日祝祭日に年末年始、夏休みを加えれば休日数は120~125日程度)。そのうちの8割出勤といっても「192日程度」となり、ちょうど2日に1回出勤していれば満たせる要件となっているのです。 なお、パートタイマーやアルバイトについても所定労働日数に応じて有給休暇が付与されます(下記〔図表2〕)。 〔図表2〕 これを見ると、週1日勤務のパートタイマーであっても要件を満たせば最大3日の有給休暇が付与されることが分かります。   ▷2019年4月から有給休暇5日取得が義務付けられる! これまで有給休暇は、従業員が「有給休暇を使って休みます!」と請求しないまま、時効の2年が経過すると、その権利は消滅していました。「有給休暇なんて一度も使ったことない!」といった従業員がいても何の問題もなかったのです。 しかし、2019年4月1日以降は違います。そういった従業員のおかげで会社が処罰を受けることもあるのです。 改正法が施行される2019年4月1日からは、企業規模に関係なく、1年間に付与される有給休暇のうち、「5日」については、使用者が時季を指定して取得させなければならないこととなります。ただし、従業員が自ら申し出て取得した日数や、計画付与により与えた日数は、5日から控除できることとなります。 つまり、従業員が1日も有給休暇を取らなくても、会社が時季を指定することで最低「年5日」は取得させる必要があるのです。 なお、これに違反した場合には、会社は従業員1人につき30万円以下の罰金に科せられる恐れがあります。即罰金となるかどうかは別にして、年休の取得が5日未満の従業員が10人いれば、300万円の罰金が科せられる可能性があるのです。 会社のためにと思って有給休暇を取得せずに働いている従業員が、かえって会社に迷惑をかけることになるのです。会社も有給休暇に対する意識を大きく変えなければなりません。   ▷対象となる従業員は? 1年間に「10日以上」、有給休暇が付与される従業員が対象となります。 なお、パートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働日数が3日以上であれば勤続年数によってその対象となる可能性があります。上記〔図表2〕のに該当する従業員がその対象です。 所定労働日数が「週3日」であれば「勤続年数5.5年以上」、「週4日」であれば「勤続年数 3.5 年以上」の従業員については、パートタイマーであってもこの対象となるのです。   ▷いつ付与された分からが対象となるの? 2019年4月1日以降新たに10日以上付与された場合にその対象となります。 例えば、年休の付与日が毎年1月1日に統一されている場合に、2019年4月1日に新入社員が入社、半年後の10月1日に有給休暇が10日付与されるといったケースでは、既存の社員は、2019年1月1日に取得した有給休暇は法改正の対象となりません。 以下では図を用いて具体的に対象について見ていきましょう。 入社2年目の社員Aは2019年1月1日に「11日」の有給休暇が付与されました。また、2019年4月1日に入社した新入社員Bは、半年後の10月1日に有給休暇が10日付与されます。 〔図表3〕 つまり、社員Aは2019年12月31日までに「5日」有給休暇を取得させなくても問題はありませんが、新入社員Bは、法改正の対象となるため、2020年9月30日までに少なくとも「5日」の有給休暇を取得させる必要があります。 このように新入社員のほうが先に法改正の対象となるケースもあるのです。 *  *  * 次回の後半では、有給休暇を取得しやすい環境づくりに向けた具体的な施策や管理方法や、取得に関する留意点等について解説します。 (了)

#No. 305(掲載号)
#飯野 正明
2019/02/07

空き家をめぐる法律問題 【事例11】「成年被後見人が所有する空き家の処分問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例11】 「成年被後見人が所有する空き家の処分問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 母は、父の死後、しばらく自宅で一人暮らしをしていましたが、認知症の程度がひどくなったため自宅を出て、老人ホームに入居することを検討しています。私は、母の成年後見人に選任され、日常の世話も含めて対応していますが、母の預貯金も目減りして、老人ホームに要する費用をどのように確保するか考えています。 そこで、次のような方法を考えていますが、法律上どのような問題がありますか。 また、母の相続発生後、相続した空き家を処分する場合の税務上の留意点はありますか。   1 はじめに 総務省が平成25年に実施した住宅・土地統計調査によると、全国の総住宅数6,063万戸のうち、空き家は820万戸となっている。このうち、賃貸・売却用の住宅や別荘等の二次的住宅を除いた空き家の数は318万戸となっており、増加傾向にある。 その具体例としては、認知症の高齢者が自宅を出て、老人ホーム等に入居して生活するような場合が想定される。このような認知症の高齢者には、その親族が成年後見人に選任されている場合があり、成年後見人は成年被後見人の財産管理と身上監護を行う必要がある。 そこで、今回は、成年後見人が成年被後見人のために行う空き家の処分方法等について検討することとしたい。   2 成年後見人の権限 成年後見人は、成年被後見人が事理弁識能力を欠く常況にあるため、財産行為に関して包括代理権を与えられている。例えば、成年後見人は、成年被後見人が所有する不動産を、成年被後見人の利益のために処分をすることができる(成年後見監督人が選任されている場合は、成年後見監督人の同意が必要である(民法第864条))。 ここで注意が必要なのは、成年被後見人の所有する不動産が「居住の用に供する建物又はその敷地」(以下「居住用不動産」という。民法第859条の3)に当たるかどうかである。なぜなら、成年被後見人が居住用不動産を処分するためには、家庭裁判所の許可を得る必要があるからである。成年後見人が家庭裁判所の許可を得ることなく、居住用不動産の処分を行った場合、当該処分は無効となるので留意が必要である。 居住用不動産を処分するために、家庭裁判所の許可が要件とされた趣旨は、本人の居住環境の変化がその心身及び生活に与える影響の重大さを考慮することにある。そこで、条文解釈に当たっては、この趣旨を比較的広く及ぼし、居住用不動産には、次の場合が含まれると解されている。そのため、成年被後見人が老人ホーム等に入居する前に居住していた建物であっても、居住用不動産に当たることになる。 なお、成年後見人による家庭裁判所に対する許可申請は、①売買契約の締結前の売買契約書案が固まった時期か、②家庭裁判所の許可によって効力が生じる旨の停止条件を付した売買契約締結後か、いずれかの時期に行われることになる。   3 具体的検討 (1) 居住用不動産を売却する場合 成年後見人が、居住用不動産を売却する場合において、成年被後見人に一定の流動資産の存在することが、居住用不動産の売却の必要性に影響を与えるか問題となる。 居住用不動産を売却する理由が、老人ホーム等の費用を確保することにあることからすれば、流動資産が存在する以上、売却の必要性は認められないと考える余地がある。もっとも、近時は、流動資産の有無を基準として判断する運用はされていないようである。このような背景には、「成年被後見人には、親族に空き家の管理という重い負担をかける意思はない」との一種のフィクション又は価値判断があるように思われる。 いずれにしても、成年後見人としては、なぜ居住用不動産を売却する必要があるのかを具体的事実関係(老人ホーム等の入居費用等を支払う必要性等)に基づいて、家庭裁判所に丁寧に説明する必要がある。 実務上、成年後見人が、居住用不動産を売却する場合に、家庭裁判所が職権で成年後見監督人を選任することがある(民法第849条)。これは、処分行為の方法が複雑な場合に、弁護士等の専門家の意見を確認することによって、居住用不動産を処分することの適切性を担保しようとするものである。 また、居住用不動産の売却額が多額になる場合、親族による使込み等を防止するために、売却代金の適正管理が問題となるところ、親族である成年後見人とは別に、後見支援信託のために専門職の成年後見人を選任し、後見支援信託契約(注)を締結させることもある。 (注) 「後見支援信託」とは、成年被後見人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことをいう。 【参考】裁判所ホームページ「後見制度において利用する信託の概要」 (2) 居住用不動産に抵当権を設定する場合 成年後見人が、成年被後見人のために、老人ホーム等に要する費用を得る方法として、リバースモーゲージを利用することが考えられる。 リバースモーゲージとは、自宅等の不動産を担保にして、金融機関から金銭消費貸借契約に基づく貸付けを受け、借主が死亡したときに、当該不動産を処分して債務を弁済する仕組みである(なお、貸付け条件については、金融機関によって諸条件が異なるので適宜確認する必要がある)。 この仕組みによれば、居住用不動産に抵当権を設定することになるため(下図①)は、当然に家庭裁判所の許可が必要となる(民法第859条の3)。 【リバースモーゲージのイメージ】 リバースモーゲージは、死亡するまでの間、自宅に居住できることや、一般的な金銭消費貸借契約と異なり、定期的な返済を行わずに済むという点で、年金等以外に収入のない高齢者の収入を確保できるメリットがある。しかしながら、リバースモーゲージは、貸付限度額が不動産評価額の一定限度になることや、3大リスク(①長寿命のリスク、②不動産価値の下落リスク、③金利変動のリスク)があることから、自宅に戻る予定がある等の場合を除いて、一般論としては売却が選択されるものと思われる。一方で、相当な一時金が求められる老人ホームに入居する等のために、一定のまとまった資金需要はあるが、売却までに時間を要するような場合には、リバースモーゲージは有効な手段になりうるように思われる。 そこで、近年は、空き家問題等に関心のある地方の金融機関を中心に、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(以下「JTI」という)と連携した「賃料返済型リバースモーゲージローン」と呼ばれる商品が提供されている。 このローンの仕組みは、次のスキーム図のように、成年被後見人がJTIに転貸を前提として居住用不動産を賃貸し、JTIに対する賃料債権に担保権を設定するなどして貸付けを受けるというものである。 【賃料返済型リバースモーゲージローン】 このスキーム図のとおり、成年被後見人は、不動産をJTIに賃貸することになるため、自宅を出て老人ホーム等に入居した際に、このローンを利用する場合には、成年後見人は、家庭裁判所の許可を得て賃貸する必要があることになる。もっとも、成年被後見人の相続が開始した場合でも、通常のリバースモーゲージとは異なり、担保権の実行によって居住用不動産の所有権を失うことにはならないため、親族等の関係者からの理解も得られやすいものと思われる。   4 空き家に関係する平成31年度税制改正について 平成28年度税制改正において、被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下「相続空き家の特例」という)が創設された。これは、相続又は遺贈によって取得した被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した場合で、一定の要件に該当するときは、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例の適用を受けることができるようにするものであった。 この点、相続空き家の特例の適用対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人の居住の用に供されていた家屋(租税特別措置法第35条第4項)とされていたため、相続の開始の直前に被相続人が老人ホーム等に入居していて、既にその家屋を居住の用に供していなかった場合には、被相続人居住用家屋には該当しないものと解されていた。 しかしながら、平成31年度税制改正によって、①被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続の開始の直前まで老人ホーム等に入所をしていたことがなく、②被相続人が老人ホーム等に入所をした時から相続の開始の直前まで、その家屋について、その者による一定の使用がなされ、かつ、事業の用、貸付けの用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがない場合でも、「被相続人居住用家屋」に当たり、相続空き家の特例の対象となることが認められることとなるので留意されたい。 (了)

#No. 305(掲載号)
#羽柴 研吾
2019/02/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第17話】「航空機リース事件」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第17話】 「航空機リース事件」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「あの・・・中尾統括官・・・所得税では所得区分について、納税者と課税庁の間で多くの争いがありますよね・・・」 浅田調査官は、昼休みに新聞を読んでいる中尾統括官のところにやって来て、声をかける。 「所得の・・・区分か・・・」 中尾統括官は紙面から顔を上げ、渋い顔をしながら浅田調査官の顔を見る。 「ええ、例えば・・・不動産所得か雑所得か、一時所得か雑所得か、給与所得か事業所得か・・・過去の判例でも・・・このような所得の区分について争われています。」 浅田調査官は真面目に答える。 「それで・・・何を言いたいのだ・・・浅田君は・・・」 中尾統括官は腕時計をチラッとみてたずねる。 「中尾統括官は、航空機リース事件をご存知ですか?」 浅田調査官が問いかける。 「・・・航空機リース事件・・・あの・・・名古屋の事件か?」 中尾統括官は記憶を呼び起こそうとする。 「名古屋地裁平成16年10月28日判決の租税回避の事件です。」 浅田調査官はスラスラと答える。 「・・・平成16年か・・・たしか、法科大学院の制度ができた年だったな・・・」 中尾統括官は懐かしそうにつぶやく。 その当時、既に40歳を過ぎていた中尾統括官は、公務員を辞めて法科大学院に行こうと真剣に考えたことがあった。それは学生時代に二度、司法試験を受験した経験があったからである。 「その航空機リース事件は、不動産所得と雑所得の争いだった・・・かな。」 中尾統括官が事件の内容を確認する。 「はい・・・納税者は不動産所得といい、課税庁は雑所得だと主張して、争った事件です・・・もともと、これは租税回避目的の商品で、納税者はマイナスの不動産所得を得て、他の所得と損益通算をするというスキームのものでした・・・」 浅田調査官の言葉に、中尾統括官は頷く。 「しかし・・・あの処分については、課税庁が少し強引だったな・・・」 そう言いながら、中尾統括官はペンを手に取って、図を描く。 「民法上の組合はパス・スルー課税だから、組合の損益はそのまま出資者に帰属することになる・・・組合は航空機を賃貸していることから・・・所得税法26条1項によって、不動産所得になる・・・」 中尾統括官は税務六法を手に取ってめくる。 「このように条文で、航空機の貸付けは不動産所得だと明記されているものを、雑所得であるというのは難しい・・・」 中尾統括官は、渋い表情になる。 「課税庁は・・・この組合契約は、民法上の組合契約ではなく、実質的には利益配当契約であり、これによる所得は雑所得であるから損益通算は許されない・・・と主張しているのですが、ここで『実質的に』という言葉を使って・・・無理に雑所得にしようとしていますよね。」 浅田調査官の声のトーンが高くなる。 「これに対して、名古屋地裁の判断は次のように、雑所得であるという主張を斥けています。」 浅田調査官は、手に持っている判例のコピーを読む。 「法的実質主義の観点から・・・名古屋地裁の判断は当然だと思う。文理解釈を前提にすると、雑所得ということはあり得ないだろう・・・」 中尾統括官は満足そうにうなずく。 「名古屋高裁の平成17年10月27日判決も同じような判断をしています。」 浅田調査官はページをめくりながら、名古屋高裁の判例を読む。 「まっとうな判決だ。これを否認しようとするならば、立法で解決する以外にはない・・・だから、国も・・・平成17年度の税制改正で、措置法41条の4の2を創った・・・」 そう言いながら、中尾統括官は再び腕時計を見る。 「浅田君と税法の話をすると、いつも、昼休みの時間がなくなってしまうよ・・・」 中尾統括官は苦笑しながら、浅田調査官の顔を見る。 (つづく)

#No. 305(掲載号)
#八ッ尾 順一
2019/02/07

《速報解説》 監査役協会 監査等委員会実務研究会、サクセッション・プラン(後継者計画)への関与を中心とした意見陳述権行使の「対象となる項目と検討の視点」について今後の在るべき姿を提示

《速報解説》 監査役協会 監査等委員会実務研究会、サクセッション・プラン(後継者計画)への関与を中心とした意見陳述権行使の「対象となる項目と検討の視点」について今後の在るべき姿を提示   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年2月4日、日本監査役協会の監査等委員会実務研究会は、「選任等・報酬等に対する意見陳述権に関連して監査等委員会に期待される検討の在り方について-サクセッション・プランへの関与を中心とした分析-」を公表した。 コーポレートガバナンス・コードでは、後継者計画の策定や報酬手続に関する客観性・透明性の確保の重要性と非業務執行役員の関与について取り上げていることから、非業務執行役員としての関与の在り方を意識しながら、サクセッション・プランへの関与等、意見陳述権行使の「対象となる項目と検討の視点」について、今後の在るべき姿について検討している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 ①指名・報酬委員会がそれぞれの決定プロセスを主導し、具体的な取締役候補者や報酬額の決定について主体的・能動的に関与していく方法と、②原案策定は主に執行側が対応し、指名・報酬委員会はその内容の是非を判断する形で決定権を行使する方法の2つの傾向が見られるとのことである(4ページ)。 1 選任等(サクセッション・プラン) サクセッション・プランとは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を確保することを目的として、優れた後継者への交代が最適なタイミングでなされるための取組である(4ページ)。 サクセッション・プランの対象範囲としては、主として社長・CEO について検討されることが多いが、それ以外の社内取締役、あるいは監査等委員でない社外取締役についてもそれぞれサクセッション・プランを検討することは可能であるとしている。 サクセッション・プランの枠組みについては、経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」(平成30年9月28日改訂版)は次の7段階に分けて示している。 アンケート結果では、指名委員会等設置会社では、何らかのサクセッション・プランを「策定している」との回答は半数を超えているとのことである(5、6ページ)。 一方、監査等委員会設置会社では、サクセッション・プランを策定しているか、していなくとも、選任等の原案作成者(大半は執行側)の多くは、何らかの項目を後継者候補の考慮要素として取り上げているとのことである。 2 報酬等 報酬政策そのものの策定は、業務執行行為とする考え方もあることに加え、細部にわたる知見が必要となるので、指名委員会等設置会社においても原案は執行側が作成することがほとんどとのことである(11ページ)。 指名委員会等設置会社であれ、監査等委員会設置会社であれ、監督機能の発揮という観点からは、経営戦略及び経営指標を実現する手段として経営陣に対する適切なインセンティブの付与がなされているかを確認する必要があるとしている(11ページ)。 インセンティブ(業績連動報酬/自社株報酬等)の設定について次の要素について確認すると述べられている(12ページ)。 3 その他 監査等委員である社外取締役の人選に当たっては、監査における専門家としての知見が重視される一面があるのは当然のことであるが、監査等委員会として意見陳述権の行使に向けた検討をより積極的に行うための取組として、経営や人事に対する知見を有する者を委員の一員として起用することも有効であるとしている(14ページ)。 また、指名委員会等設置会社では、いくつかの会社で外部専門家(コンサルタント)を起用している事例が見受けられたとのことである(14ページ)。 (了)

#No. 302(掲載号)
#阿部 光成
2019/02/06
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