《速報解説》 ASBJ、約20年ぶりの抜本改正の検討に向け 「金融商品会計基準の改正について」意見募集を開始 ~IFRSの規定を基礎とした場合に主要な論点となる3項目を提示~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年8月30日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準の改正についての意見の募集」を公表し、意見募集を行っている。 これは、金融商品に関する会計基準の開発(改正)に着手するか否かを決定する前の段階で、適用上の課題とプロジェクトの進め方に対する意見を幅広く把握するためのものである。もし、改正する場合には、約20年ぶりの抜本的な改正となる。なお、意見募集に際して、「別紙 日本基準・IFRS・米国会計基準における取扱いの簡略的な比較」があり、参考になる。 意見募集期間は平成30年11月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 方針 今回のプロジェクトにおいて検討する範囲として、次の3つの分野が考えられており、意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、具体的なプロジェクトの計画を策定する予定である。 また、次の点については、会計基準の開発に着手した場合に、その開発過程で検討される事項であるが、プロジェクトの進め方を検討する際には関連するため、参考までに記載している。 2 主要な論点 次のものは、IFRSの規定を基礎とした場合に主要な論点になると考えられる項目である。 意見募集文書では、それぞれに関して、我が国における基本的な考え方との相違、実務上の困難さについて記載されている。 (了)
2018年8月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.283を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第52回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (3) 繰越欠損金 平成19年に『組織再編における繰越欠損金の税務詳解』(中央経済社)を上梓したが、その後、平成21年に第2版を上梓したため、本稿では、第2版に基づいて解説を行う。 ① 繰越欠損金を利用するための適格合併 拙著『組織再編における繰越欠損金の税務詳解(第2版)』(中央経済社)37-38頁では、繰越欠損金を利用するために、支配関係が生じてから5年を経過しているグループ会社と合併を行う場合につき、ペーパー会社との合併を例に挙げて、清算をした場合と比較しても、事務上の手間が変わらないことから、包括的租税回避防止規定を適用することが困難であるとした。 その後、平成22年度税制改正により、清算により、完全子法人の残余財産が確定した場合であっても、適格合併を行った場合と同様に、繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったため、現行法上は、なおさら包括的租税回避防止規定が適用されるリスクは少ないと解される。 ただし、【第32回】で解説したように、財務省及び国税庁から、玉突き型の組織再編については包括的租税回避防止規定が適用されるリスクが指摘されており、平成28年7月7日には、実際に否認された事例がTAINS(F0-2-672)に掲載されるようになった。 玉突き型の組織再編を行う場合には、新会社に事業、資産及び負債のほとんどを移転し、子会社を抜け殻にしてから適格合併を行うことが考えられる。ペーパー会社を合併する場合と異なり、わざわざ事業を外出ししてから合併するわけであるため、経済人として不自然、不合理であるということが言える。 さらに、現行法上、移転資産に対する支配の継続が行われていた場合に繰越欠損金の引継ぎを認めているものの、制度の簡便化のために会社分割における繰越欠損金の引継ぎを認めなかった結果として、本来であれば繰越欠損金が移転すべき新会社ではなく、親会社に繰越欠損金が移転していることから、このような玉突き型の組織再編は、制度趣旨に反するということが言える。 そのため、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクがあるという財務省及び国税庁の見解について異論はない。 しかしながら、実務上、子会社を抜け殻にする事例はほとんどなく、合併の直前に、当該子会社に事業、従業者の一部が残っていたり、重要な資産(ex.不動産、有価証券など)が残っていたりすることが多いため、実際に、包括的租税回避防止規定が適用される事例はほとんどないと思われる。 ② 繰越欠損金を利用するための企業買収と適格合併 前掲の拙著38-39頁では、支配関係が生じてから5年を経過していない場合には、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入がそれぞれ規定されていることや、平成18年度税制改正により、欠損等法人の規制が導入されたことから、繰越欠損金や資産の含み損を利用するために企業買収を行った後に、適格合併を行ったとしても、包括的租税回避防止規定を適用することが困難である旨を記載した。 その後のヤフー事件(最一小判平成28年2月29日TAINSコードZ888-1984)では、IDCSとの支配関係が生じる前に、ヤフーの代表取締役社長をIDCSの副社長として送り込むことにより、特定役員引継要件を満たした事案に対して、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用された。 上告審では、 と判示した。 さらに、①事業上の目的や必要性が具体的に協議された形跡はないこと、②取締役副社長に就任していた期間はわずか3ヶ月であり、支配関係が生じる前の期間に限ればわずか2ヶ月程度に過ぎないこと、③副社長の業務内容はおおむね合併に向けた準備やその後の事業計画に関するものに留まること、④代表権のない非常勤の取締役であった上、具体的な権限を伴う選任の担当業務を有していたわけでもなく、役員報酬も受領していなかったことを理由として、 としたうえで、 と判示した。 このように、繰越欠損金を利用するために、企業買収を行ったうえで適格合併を行うこと自体が問題となるのではなく、みなし共同事業要件を潜脱する行為が問題とされている。 ヤフー事件の前に公表された斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号32-42頁(平成24年)でも、(イ)組織再編税制の基本的な考え方からの乖離、(ロ)組織再編成の濫用、(ハ)個別防止規定の潜脱に類型化されており、みなし共同事業要件を潜脱する行為は、上記(ハ)に該当することから、このような例外的な行為に対して、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクがあるということが言える。 なお、前掲の拙著92頁では、支配関係発生日前に規模を増減させることにより、事業規模要件、事業規模継続要件を満たそうとする行為について、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクについて指摘した。ヤフー事件が公表されたことから、そのリスクはさらに強まったと考えられる。 ③ 100%子会社化後の適格合併 前掲の拙著39-40頁では、50%超100%未満グループ内の関係から100%グループ内の関係に変更したとしても、支配関係が洗い替えられるわけではないことから、事業継続要件、従業者引継要件を満たすことができない場合であっても、100%グループ内の関係に変更することにより、税制適格要件を満たすことができ、かつ、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が適用されないものとした。 また、(イ)事前に株式を取得してから合併することを前提に税制適格要件が定められていること、(ロ)100%子会社化のような単純な行為に対して適用すべきでないこと、(ハ)100%の関係にすることで実務上の手間を軽減することができるという経済合理性が認められることから、包括的租税回避防止規定を適用することが困難であるものとした。 佐藤信祐「組織再編税制、連結納税制度およびグループ法人税制の残された課題」ビジネス法務17巻10号142-143頁(平成29年)でも解説したように、経済合理性のある取引により、結果的に納税者に有利な形で組織再編成を行うことが可能になった理由としては、50%超100%未満グループ内の適格組織再編成を認めてしまったからである。もし、100%グループ内の適格組織再編成のみであれば、100%の関係が生じてから5年を経過していない場合に、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課されるという制度になっていたはずである。 もちろん、100%グループ内の適格組織再編成だけだと、実務のニーズに対応しきれないことから、3分の2以上の適格組織再編成や80%以上の適格組織再編成に統一する形で組織再編税制の大幅な見直しを行うなど、立法的な解決を図る必要があると考えられる。 * * * 次回では、引き続き繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の内容について触れる予定である。 (了)
特別事業再編(自社株対価M&A)に係る 課税繰延措置等特例制度の解説 【第1回】 「M&Aをめぐる創設の背景」 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 1 創設の背景 自社株式を対価とする買収は、手元資金の確保や外部からの資金調達を要しない買収手法として、大規模なM&Aの際に、欧米等では広く用いられている。日本では、会社法の規制、株主に強いられる譲渡益課税がネックとなり、普及に至っていないというのが現状であった。 ◆会社法の規制とその緩和措置について 会社法において、買付会社の自社株式を対価とする公開買付け(以下「自社株対価TOB」という)は、対象会社株式を現物出資財産として買付会社が株式の発行又は自己株式の処分(以下「株式の発行等」という)を行うこととなることから、①対象会社の株式の時価に一定のプレミアムを付した交換比率で自社株対価TOBを行った場合、買付会社において有利発行の株主総会決議(会社法199)が必要となる可能性がある。また、現物出資に係る規制がかかることから、②検査役の調査(会社法207)が原則必要となり、公開買付けの日程が確定できないという不都合が生じ得る。 株式の発行等に係る募集事項の決定から当該株式の発行等まで一定の間隔が生ずることにより、当該期間中に対象会社株式の価格が下落し、株式の発行等の際の対象会社株式(現物出資財産)の価額が、募集事項に定めた価額に著しく不足する場合は、③応募株主の出資財産価額填補責任(会社法212)や④買付会社の取締役等の同責任(会社法213)が生じる可能性がある。 これに関する規制緩和の措置として、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(以下「産活法」という)の認定事業再編計画に従った自社株対価TOBに際する株式発行等の場合には、その募集事項の決定(※)において、払込金額の代わりに、自社株式と対象会社株式との交換比率を定めることで足りることとし、現物出資規制や有利発行規制は適用されないこととなった。平成26年に産活法は廃止されたが、産業競争力強化法において同種の定めが規定されている。 (※) 原則として株主総会の特別決議が必要となるが、簡易要件(公開買付けの対価として交付する買付会社の株式の数に1株あたり純資産価額を乗じて得た額が、買付会社の純資産価額の5分の1以下)を満たす場合には、取締役会決議で足りる。 ◆経済産業省からの税制改正要望 上記①~④のような問題が指摘されていたところ、経済産業省は平成24年度及び平成25年度税制改正要望の中で、自社株対価TOBが用いられた場合に、当該TOBに応募した対象会社の株主について生じ得る株式譲渡損益を繰り延べるべきである旨の要望を行っていたが、そのような措置の導入は見送られてきた。 平成30年度税制改正要望においても、下記のような改正要望が挙げられていた(経済産業省「平成30年度税制改正要望書」より一部抜粋)。 2 平成30年度税制改正 平成30年度税制改正において、第4次産業革命に対応し、企業の迅速かつ大胆な事業ポートフォリオの転換を支援するために、欧米で一般的な株式対価M&Aに係る株式譲渡益の課税の繰延措置(特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る所得計算の特例(措法66の2の2))が創設された。 ◆制度概要 法人が、改正産業競争力強化法の施行日(平成30年7月9日)から平成33年3月31日までに改正産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定を受けた事業者の行ったその認定に係る特別事業再編計画に基づく同法の特別事業再編により、その有する株式を譲渡し、その認定を受けた事業者の株式の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べることとされる(措法66の2の2)。所得税についても同様の取扱いとされる(措法37の13の3)。 〈制度イメージ〉 ◆株式対価M&Aの活用について これまで被買収会社の株主に課税が生じることなどが制約要因となって行われてこなかった自社株式等を対価とした株式取得による買収について、今回の税制改正により、それらの制約要因が解消されれば、株式を対価とした大胆な事業再編が促進され、以下のような効果が期待される。 ●株式市場で将来の成長が期待されているが足元の資金に余裕のない企業(新興企業等)にとって、買収が行いやすくなる。 ●大型案件で銀行借入による資金調達に制約がある場合でも、買収が可能になる。 ●買収に自己株式を用いることができるため、手元資金を他の使途(設備投資、人件費等)に回せるようになる。 ●売り手(買収対象会社の元々の株主)が買い手企業の株を持つ結果、売り手がM&Aによるシナジー(相乗効果)を享受できるとともに、売り手にもM&A後の企業価値向上へのインセンティブが生じ、売り手と買い手の協同による企業価値向上が期待される。 * * * 次回は本特例制度の適用を受けるために必要な特別事業再編計画の認定要件について解説する。 (了)
〔平成30年度税制改正で創設された〕 コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)のポイント 【第1回】 「制度創設の背景と概要」 税理士・公認会計士 新名 貴則 平成30年度税制改正において、「革新的情報産業活用設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除制度」(いわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)」)(措法42の12の6)が創設された。本連載では、当該税制の概要や手続等について解説する。 【第1回】では当該税制が創設された背景と、税制の概要について解説する。 1 制度創設の背景 近年のIoT(Internet of Things:様々なモノがインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み)の発達により、データの流通が劇的に増加している。このような状況において、日本の製造現場等に蓄積されている膨大なデータを活用することが、日本の成長のカギとなっている。 そこで、データの収集・活用等を行う民間事業者を支援する措置を講じて、産業競争力の強化や社会問題の解決に向けたデータの利活用を促進するため、生産性向上特別措置法が平成30年6月6日に施行された。 税務面においては、革新的データ産業活用計画の認定を受けた事業者が、当該計画に必要なシステム等の導入を行った際の減税措置が創設されている。 2 税制の概要 ① 概要 生産性向上特別措置法に規定する「認定革新的データ産業活用事業者」である青色申告事業者が、認定革新的データ産業活用計画に基づいて、指定期間内に一定の設備(革新的情報産業活用設備)への投資を行う場合に、30%の特別償却又は3%(一定の賃上げを伴う場合は5%)の税額控除を認める制度である。 ② 適用要件 当該税制を適用するためには、具体的には次の要件を満たすことが必要となる。 (※) 具体例:データ収集機器(センサー等)、データ分析により自動化するロボット・工作機械、データ連携・分析に必要なシステム(サーバ、AI、ソフトウェア等)、サイバーセキュリティ対策製品など ③ 税制措置の内容 対象資産を事業供用した事業年度において、30%の特別償却又は3%(ないし5%)の税額控除を選択適用できる。 ◆特別償却 特別償却限度額 = 革新的情報産業活用設備の取得価額 × 30% ◆税額控除 税額控除限度額 = 革新的情報産業活用設備の取得価額 × 3%又は5%(※) (※) 次の通り3%以上の賃上げを行った場合、控除率は5%が適用される。 適用年度の継続雇用者の給与総額 ≧ 前期の継続雇用者の給与総額 × 103% ただし、次のいずれにも該当しない大企業等については、税額控除の規定は適用されない。 ④ 申告手続 本制度における特別償却の適用を受けるためには、確定申告書等に革新的情報産業活用設備の償却限度額の計算に関する明細書を添付する必要がある。 また本制度における税額控除の適用を受けるためには、確定申告書等に控除の対象となる革新的情報産業活用設備の取得価額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細書を添付する必要がある。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q8】 「「経営力向上が確実に行われたこと」の意義」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q8] 中小企業者等向けの上乗せ控除制度の要件とされている「経営力向上が確実に行われたこと」とは、具体的に何を示せばよいのでしょうか。 [A8] ◆「経営力向上」という用語は中小企業等経営強化法において定義され、経営力向上のためのターゲットとなる指標は事業分野ごとに異なります。その具体的な内容を含めた各種資料は中小企業庁のホームページにおいて公開されています。 ◆経営力向上が確実に行われたことを示すための書類としては、「経営力向上計画に係る実施状況報告書」が該当するものと考えられます。 【解説】 (1) 上乗せ控除のための経営力向上に係る要件(【Q7】参照/再掲) (2) 経営力向上計画の意義 ここでいう「経営力向上」とは、事業者が、事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成、財務内容の分析の結果の活用、商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用、経営能率の向上のための情報システムの構築その他の経営資源を高度に利用する方法を導入して事業活動を行うことにより、経営能力を強化し、経営の向上を図ることをいう(中小企業等経営強化法2⑩)。 そして、中小企業者等の上乗せ控除制度の適用要件として用いられている「経営力向上計画」とは、同法第13条に定める「経営力向上計画」であり、具体的には以下の事項を記載したものである(同法13②)。 中小企業者等は、上の事項を記載した経営力向上計画を主務大臣(経済産業大臣)に提出して、その経営力向上計画が適当である旨の認定を受けることができる(同法13①)。認定を受けた場合、主務大臣から、計画認定書及び計画申請書の写しが交付される。 経営力向上計画を含めた、本制度の詳細なガイドラインについては、中小企業庁のホームページに掲載されている。 (3) 「経営力向上が確実に行われたこと」の意義 「経営力向上が確実に行われたこと」とは、経営力向上計画に記載した指標につき、経営力向上のための取組みの実施期間中に所定の目標に向けて指標が向上していることをいい、具体的には、経済産業大臣に対して提出する「経営力向上計画に係る実施状況報告書」によって明らかにするものと考えられる。 経営力向上計画に係る認定申請書には「経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標」を記載することとされ、その指標は、経営力向上計画に係る事業の属する事業分野において事業分野別指針が定められている場合にはその指標を記載することとし、定められていない場合には労働生産性とすることとされている(経営力向上計画に係る認定申請書 記載要領5)。 〈例〉事業分野別指針に定められている指標 (『事業分野別指針の概要について(平成30年3月)』経済産業省) ここで「労働生産性」は、以下の式によって算定される。 (営業利益+人件費+減価償却費)÷ 労働投入量(※) (※) 労働投入量・・・労働者数又は1人あたり年間就業時間 (4) 添付書類 経営力向上に係る要件を満たしているものとして上乗せ控除制度の適用を受けようとする場合には、これらの規定の適用を受ける事業年度の確定申告書等に経営力向上が確実に行われたことを証する書類として以下のものを添付する必要がある(措規20の10①)。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第29回】 「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(23)付表1 給与等支給額、当期償却費総額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」〈その2〉 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 前回より、平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、賃上げ・投資促進税制(改正前 所得拡大促進税制)関連の別表を次の適用パターンごとに分けて採り上げている。 ※ 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいい、それ以外を大企業等という。 今回は、パターン②の場合における、「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(23)付表1 給与等支給額、当期償却費総額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が平成30年度改正後の租税特別措置法第42条の12の5第1項の規定の適用を受ける場合に作成する。 平成30年度改正のいわゆる賃上げ・投資促進税制は、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度において、以下の(イ)及び(ロ)の要件をすべて満たした場合、国内雇用者(注1)に対する給与等支給額(注2)の対前年度増加額について、その一定割合の税額控除ができる(当期の法人税額の20%が上限)制度である。 (注1) 国内雇用者とは、法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者を除く)のうち国内事業所に勤務する雇用者(労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者)をいう。 (注2) 給与等支給額とは、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合はその金額を控除した額)をいう。 (注3) 継続雇用者給与等支給額とは、雇用者給与等支給額のうち継続雇用者(適用年度及び適用年度の前事業年度の期間内の各月において給与等の支給を受けた国内雇用者)に対する当該適用年度の給与等の支給額をいう。 ▼ 注意!▼ 上記の継続雇用者は、雇用保険の一般被保険者に該当するものに限られる。また、継続雇用制度(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条第1項第2号に規定する制度)の対象者は除く。 ▼ 注意!▼ 改正前の旧所得拡大促進税制における「継続雇用者」は、適用年度及びその前年度において給与等を受けた国内雇用者をいうので、当期と前期にそれぞれ1ヶ月以上の支給実績があれば継続雇用者に該当したが、改正後の新制度では2期間内のすべての月で支給実績がなければ該当しないことに留意する。 (注4) 国内設備投資額とは、適用年度において法人が取得等(取得又は製作もしくは建設をいい、合併等による取得を除く)をした国内資産でその適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額をいう。 この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 給与等支給増加額(給与等支給額-前事業年度の給与等支給額)×15%+加算額※1 ※1 当期の教育訓練費(注5)の額の比較教育訓練費の額(注6)に対する増加割合が20%以上である場合には、控除率を5%上乗せして合計20%の税額控除とすることができる。 ➡ ただし、その適用年度の調整前法人税額の20%相当額を超える場合には、その20%相当額が限度額となる。 (注5) 教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるための費用で次のものをいう。 (注6) 比較教育訓練費の額とは、適用年度開始の日の前2年以内に開始した各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される教育訓練費の額(当該各事業年度の月数とその適用年度の月数とが異なる場合には、その各事業年度の教育訓練費の額にその適用年度の月数を乗じてこれをその各事業年度の月数で除して計算した金額とする)の合計額を当該2年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいう。 なお、改正前の制度(旧 所得拡大促進税制)で採用されていた「基準雇用者給与等支給額」や「平均給与等支給額」などは廃止されている。 Ⅲ 「別表6(23)」及び「別表6(23)付表1」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後開始する事業年度(改正後の制度適用のため)。 (3) 別表の記載例 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(23) 〔継続雇用者給与等支給増加割合の計算〕欄 〔国内設備投資に係る計算〕欄 〔教育訓練費増加割合の計算〕欄 〔税額控除限度額〕欄 ◆別表6(23)付表1 〔基準雇用者給与等支給額の計算〕欄 〔比較雇用者給与等支給額の計算〕欄 〔平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算〕欄 〔継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額の計算〕欄 〔当期償却費総額の計算に関する明細〕欄 〔比較教育訓練費の額の計算に関する明細〕欄 (了)
平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第5回】 (最終回) 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 (4) 平成30年度税制改正の影響 一般社団法人等を用いた節税策に対し、平成30年度の税制改正はどの程度影響があるのであろうか。 まず、前回解説した(3)の①(一般社団法人等に対する贈与税等の課税規定の明確化)の方は、現行規定の文理解釈の明確化を意図した改正であり、一般社団法人等が代表者やその親族といった特定の者によって支配され、その財産をあたかも自分の所有財産のように自由に利用・処分できるというような租税回避的なケースに規制をかけるという意味で、一定程度の効果があるものと考えられる。 また、(3)の②(特定一般社団法人等に対する相続税の課税)の方は、一般社団法人等の理事の過半数が同族関係者によって支配されている場合において、当該法人の理事に相続が発生したときには、当該法人の純資産額のうちの一定金額につき相続税が課されることとなるため、上記①と同様に、一般社団法人等が代表者やその親族といった特定の者によって支配されているケースに規制をかけることが可能となるだろう。 一般社団法人等を用いたものに限らず、相続税の節税・租税回避スキームは一般に、課税庁による「後出しじゃんけん」のリスクにさらされていることを、対策をアドバイスする者及び受ける者ともに認識する必要がある(※1)。 (※1) 拙著『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第2版)』(中央経済社・2017年)92-93頁参照。 すなわち、相続税法の適用(納税義務の成立)は原則として相続発生時(相続又は遺贈による財産取得時)である(通法15②)一方、相続税対策は相続発生の相当程度前から行うため、相続税対策検討・実行時には適用がなかった租税回避否認規定(相続税法、租税特別措置法のみならず通達も含む)が、相続発生時には適用される(それは遡及立法ではない)ということが頻繁に起こるということである。本件はその典型例といえよう。 これに対し、所得税や法人税は原則としてプランニング時に遡っての租税回避否認規定の適用がないため(遡及立法に当たるため)、一般に「後出しじゃんけん」のリスクは小さいこととなる。 これらの関係を図示すると、以下の通りとなる。 〇相続税対策と「後出しじゃんけん」 したがって、相続税のプランニングは、プランニング時と相続発生時との(短くない)タイムラグに伴う(不可避な)否認リスクに常にさらされているということを意識することが不可欠ということになる。 そのため、仮に後出しじゃんけんにより当初のプランニングが意味をなさないことになっても、そのダメージを最小化するような代替的なアイディアである「プランB」を予め用意しておくことができれば、税務アドバイザーに対する納税者の信頼も盤石なものとなるであろう。 (5) 租税回避といえないスキームに対する課税 上記平成30年度税制改正のネガティブな影響としては、租税回避といえないスキームに対する課税が起こり得るという点があるだろう。例えば、以下のようなスキームに対して問題となることが想定される。 子供のいない者がある一定年齢に達して、それまでの人生で稼得した財産をわが国の将来を担う幅広い層の子供たちへの給付型奨学金(※2)に充てる原資として残したいと考えたとき、一般財団法人を設立してそこに遺贈するという方法を採ることで、設立者の生死を超えた奨学金給付事業の持続性・永続性が確保されることとなる。これは正に公益法人制度改革の理念に沿った公益法人の利用方法である。 (※2) 無論、設立者の親族は奨学金給付の対象外である。 このとき、遺贈する財産が巨額で専任の職員を雇用する規模のケースであればともかくとして、それが数千万円から数億円規模であれば、一般財団法人を設立する際に遺贈者(設立者)の身近な親族(兄弟や甥、姪など)を理事や社員とするのが一般的であろう。そうなると、今回の税制改正で、一般財団法人の理事の過半数が同族関係者によって支配されていることから、特定一般社団法人等に該当し、相続税が課税されることとなる。 〇個人財産を奨学金の給付を行う一般財団法人に遺贈する場合 上記のケースのように、純粋で公益的な目的を持った一般財団法人であっても、今般の改正により、単にその構成員につき設立者の親族が多数を占めるという事実のみをもって「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する」又は「相続税等の租税回避スキーム」と解して課税するのは妥当といえるのか、疑問が残るところである。 (連載了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第1回】 「非課税措置の概要と承認特例の改正」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置とはどのようなものですか。また、その手続の簡素化が図られた承認特例制度について教えてください。 - 回 答 - 通常、無償で財産を寄附した場合、寄付者の個人に対しては時価で譲渡したものとみなされ譲渡所得税が課税されます。ただし、寄附の相手が公益法人等であり、その寄附が一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときには、当該所得税について非課税とする制度(以下「非課税措置」という)が設けられています。 また、手続きが簡素化された承認特例制度(以下「非課税承認特例」という)もあり、こちらの制度では、承認申請書を国税庁長官に提出した場合で、その提出した日から1ヶ月以内(株式の場合は3ヶ月以内)に、その申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったときは、その申請について承認があったものとみなされることになっています。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 1 制度の概要 個人が、土地、建物などの財産を法人に寄附した場合には、これらの財産は寄附時の時価により譲渡があったものとみなされ、これらの財産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課されます(所法59①一)。 ただしその寄附が公益法人等へのもので、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他の公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、当該所得税について非課税とする制度が設けられています(措法40①後段)。 2 非課税措置の承認要件 非課税措置に係る国税庁長官の承認を受けるには、その公益法人等に対する財産の寄附について、以下の3つの要件すべてを満たす必要があります(措令25の17⑤)。 3 非課税承認特例の制度 公益社団・財団法人、学校法人、社会福祉法人に対する現物寄附、かつ、以下の要件がすべて満たされる寄附において、国税庁長官に承認申請書を提出した日から1ヶ月以内に、その申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったときは、その申請について承認があったものとみなされ、所得税は非課税とされます(措令25の17⑦⑧)。 なお、平成30年度税制改正により、次の場合も非課税承認特例の対象となりました。 ただし、国立大学法人等については、寄附者が寄附を受けた法人の役員等及び社員並びにこれらの人の親族等に該当しないこと、の承認特例の要件は不要です。 また、株式についても新たに非課税承認特例の対象となりましたが、申請書の提出があった日から1月以内ではなく、3ヶ月以内に国税庁長官の承認をしないことの決定がなかった場合に、その承認があったものとみなされます。 (了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第9回】 (最終回) 「その他の税制改正」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [5] その他の税制改正 1 収益認識に関する会計基準への対応 企業会計基準委員会(ASBJ)が平成30年3月30日に公表した「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号)」について、その適用に対応するため、税務上の収益の認識基準に関して新たな改正又は既存の取扱いの明確化が行われた。 この「収益認識に関する会計基準」への対応に係る改正について、連結申告法人では、法人税法第81条の3により単体申告法人と同じ条文が適用される。 したがって、具体的な内容は、当該改正に係る他の記事を参照してほしい。 2 組織再編税制に係る改正 組織再編税制に係る改正は以下のとおりである。 これらの組織再編成に係る改正について、連結申告法人では、単体申告法人と同じ条文が適用される(法人税法第81条の3により適用されるものを含む)。 したがって、具体的な内容は、当該改正に係る他の記事を参照してほしい。 3 特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る連結所得の計算の特例の創設 法人が、改正産業競争力強化法の施行日(平成30年7月9日)から平成33年3月31日までの間に、産業競争力強化法に規定する特別事業再編計画について認定を受けた法人の行った、その認定に係る特別事業再編計画に係る特別事業再編により、その有する他の法人(特別事業再編対象法人)の株式等を譲渡し、その認定を受けた法人の株式の交付を受けた場合には、その譲渡に係る対価の額は、その譲渡に係る原価の額とし、その特別事業再編対象法人の株式等の譲渡損益の計上を繰り延べることとされた(措法66の2の2、68の86、措令39の10の3、39の110)。 連結申告法人に係る『特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る連結所得の計算の特例』は、租税特別措置法第68条の86及び租税特別措置法施行令第39条の110で定められているが、その内容は、租税特別措置法第66条の2の2及び租税特別措置法施行令39の10の3で定める単体申告法人に係る取扱いと基本的に同じである。 したがって、具体的な内容は、当該改正に係る他の記事を参照してほしい。 4 外国子会社合算税制に係る『一定の株式譲渡益の適用対象金額からの控除の特例』 M&Aによって傘下に入ったペーパーカンパニーが所有する外国関係会社の株式を一定の期間内に国内親会社又は他の外国関係会社に譲渡した場合に、その株式譲渡益を合算対象から除外する措置を講ずることになった。 連結申告法人の外国子会社合算税制に係る『一定の株式譲渡益の適用対象金額からの控除の特例』は、租税特別措置法施行令第39条の115第1項第5号及び第2項第18号で定められているが、その内容は、租税特別措置法施行令39の15第1項第5号及び第2項第18号で定める単体申告法人に係る取扱いと基本的に同じである。 したがって、具体的な内容は、当該改正に係る他の記事を参照してほしい。 (連載了)