空き家をめぐる法律問題 【事例4】 「空き家の管理に関する行政上の責任」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 父は、祖父から相続した老朽化した建物を所有していますが、空き家の状態になっています。今後、私は、その建物を相続する可能性があります。最近、空き家を適切に管理していないと、行政によって建物を取り壊されることがあると聞いたのですが、父の相続に備えて、知っておくべき行政上のルールにはどのようなものがあるのでしょうか。 1 空き家の管理と行政上の責任 空き家の管理に関して、民事上の責任のほかに行政上の責任が問題となる場合がある。行政との関係で問題となる法令として、建築基準法、消防法、道路法、廃棄物処理法、災害救助法などが想定されるところであるが、本事例においては、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空き家特措法」という)を念頭に、空き家の所有者が留意しておくべき事項について解説することとしたい。 なお、上記各法令の概要については、本誌掲載の拙稿「〈実務家が知っておきたい〉空家をめぐる法律上の諸問題【後編】」を参照されたい。 2 空き家特措法の仕組み (1) 基本的な仕組み 空き家特措法は、市町村による空き家等に関する施策を推進するために必要な事項などを定めているが、その中核をなすのが、市町村長が特定空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という)に対して行う助言・指導、勧告、命令、行政代執行である(空き家特措法第14条)。 この権限行使の対象となるのは、「空家等」のうち「特定空家等」であるが、その定義は次のとおりである(同法第2条)。 「空家等」の定義にある「居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの」とは、おおむね1年利用されていない場合をいい、年に数回の利用がある場合には「常態」にないと解されている(北村喜宣ほか(編)『空き家対策の実務』(有斐閣・2016年)19頁参照)。 例えば、空き家を倉庫代わりに用いており、年に何回か訪れて整理等をしている場合には、空き家特措法が適用されないことになるものと解される。 (2) 特定空家等とは 上記のとおり、特定空家等は上記①から④の4類型からなるが、具体的内容は法令には規定されておらず、『「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)』の別紙1~別紙4に、具体的な判断基準が定められている。 当該ガイドラインの別紙2によれば、次のような状態にあるものは、上記②の「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態にある空家等」に該当するものとされている。 これに対して、当該ガイドラインの別紙3によれば、次のような状態にあり、周囲の景観と著しく不調和な状態にあるものは、上記③の「適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態にある空家等」に該当するものとされている。 上記の比較からも分かるように、空き家特措法が規定する「特定空家等」は、②のように、周辺住民の生命、身体、財産への危険が及ぶ可能性が高いものと、③のように、その程度にまで至っていないものが含まれていることが分かる。そして、この相違は、次の表のように、市町村長が特定空家等の所有者等に対して講じることができる措置の内容に表れている。 特定空家等の類型③や④から除却措置が除外されているのは、この類型の特定空家等は、地域住民への危険性が低く、それにもかかわらず、侵害程度の強い除却措置まで認めるのは、合理性を欠き、比例原則に反すると考えられているためである(前掲・北村37頁参照)。 (3) 市町村長の権限行使と代執行によって被る不利益 特定空家等の所有者等が市町村長からの助言・指導に応じない場合、市町村長は、勧告することができる(空き家や特措法第14条第2項)。そして、この勧告を受けると、特定空家等の敷地が住宅用地特例制度の対象から除外されることになり、固定資産税及び都市計画税の負担が増加することになる(地方税法第349条の3の2第1項)。 また、特定空家等の所有者等が正当な理由なく勧告に従わず、特に必要がある場合、市町村長は、勧告に係る措置を命じることができる(空家特措法第14条第3項)。この場合、特定空家等の所有者は、自ら又は代理人を通じて、市町村長に対して、意見書及び自己に有利な証拠を提出することができるほかに、これらの書面等の提出に代えて公開による意見聴取を求めることができる(同条第4項、第5項)。 市町村長は、措置命令を出したにもかかわらず、履行されない場合、行政代執行法に基づいて代執行を行うことができる(空き家特措法第14条第9項)。行政代執行法第2条によれば、代執行を行うためには、義務が不履行であることに加えて、「その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」という公益要件を満たす必要があった。しかし、空き家特措法は、公益要件を代執行の要件から外しているため、市町村長はより容易に代執行を行うことが可能となっている(同法第14条第9項)。 特定空家等について代執行が行われた事例は少ないが、実際に行われた場合、その費用は特定空家等の所有者等が負担しなければならない(行政代執行法第6条)。具体的には、代執行の作業員の賃金、請負人に対する報酬、資材費、第三者に支払うべき補償料が想定され、その総額が数千万円になる場合も生じうる。代執行に要した費用の請求権は、国税滞納処分の例による強制徴収が認められるため、特定空家等の所有者等は、この点にも留意しておく必要がある(同条第1項、第2項)。 3 条例に対する留意-神戸市の条例を参考に- (1) 条例を理解する必要性 空き家特措法は、全国に適用されるルールを定めたものであるが、市町村の条例による拡充を一切排除するものではなく、現に市町村において空き家特措法の内容を拡充する条例が定められている。 そこで、神戸市空家空地対策の推進に関する条例(以下「神戸市条例」という)を題材として、空き家特措法の内容を拡充している例を簡潔に説明しておくこととする。 (2) 神戸市条例の特徴 神戸市条例の特徴は、次の図のように、空き家特措法の規制対象に関する条項の他に、「類似空家等」、「特定類似空家等」のカテゴリを作り、空き家特措法と同様の助言・指導、勧告、命令、行政代執行の規制の仕組みを採用している点にある(空地等の説明は割愛する)。 【空き家特措法と神戸市条例との関係】 (出典) 神戸市住宅都市局安全対策課「神戸市空家空地対策の推進に関する条例(逐条解説)」(平成28年9月)3頁 神戸市条例の「類似空家等」とは、空家等に準じる状態のものであり、上記逐条解説によれば、「類似空家等」には、盆、正月だけ利用する住宅のように使用頻度が年に数回程度に留まるものや最近空き家になったものなどが含まれるものとされている。 これは、空き家特措法が想定する空家等にまで至っていない状態の空き家も規制することによって、より速い空き家の適正管理を達成しようとするものである。 (3) 神戸市条例独自の仕組み 神戸市条例は、空き家特措法第14条に基づく勧告について、同法が規定していない意見陳述の機会を付与している(同条例第12条)。これは、空き家特措法に基づく勧告は、上記2の(3)で指摘した地方税法上の不利益に直結するため、条例によって特定空家等の所有者の手続保障を充実させたものである。 一方で、神戸市条例は、空き家特措法に基づく勧告や同条例に基づく勧告を受けた場合に、その者が正当な理由なく従わなかった場合に、氏名、住所等を公表するものとしており、空き家特措法にない義務履行確保の手段を設けている(同条例第13条)。 4 まとめ 空き家の所有者等は、空き家特措法に基づいて、行政庁から規制権限を行使され、代執行にまで至った場合には多額の費用負担を強いられる可能性がある。また、市町村の定める独自の条例によって、より早期の段階から規制権限の行使が行われる可能性があることにも配慮しておく必要がある。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第10話】 「人生100年時代と賦課方式」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「中尾統括官・・・賦課方式って・・・なんですか?」 浅田調査官は遠慮がちに中尾統括官に尋ねる。 昼休みで新聞を読んでいた中尾統括官は顔を上げる。 「年金制度の・・・賦課方式のことかい・・・?」 浅田調査官は頷く。 「ええ・・・実はこの本で、我が国の賦課方式について書かれていまして・・・この賦課方式は、将来、破綻するというのです・・・」 浅田調査官は手に持っていた『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)-100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社、2016年)という本を見せる。 中尾統括官は表題に興味を持ったらしく、本を手に取る。 「なかなか面白そうだな・・・著者は、イギリスのリンダ・グラットン(心理学者)とアンドリュー・スコット(経済学者)か・・・」 そう言いながら、ページをめくる。 「浅田君が言うのは・・・この箇所のこと?」 中尾統括官は、その箇所(69頁)を指す。 「ええ・・・」 浅田調査官は本を覗きながら頷く。 「なるほど、そういうことか。つまり賦課方式というのは・・・」 中尾統括官は、ペンを持って、罫紙に図を描く。 「つまり、毎年の保険料収入は、同時にその年の年金給付に充てられるということで、この図を見ればわかるように、年金給付を受ける人は退職世代で、一方、その年金等を負担するのが現役世代になっている・・・これが賦課方式だ。したがって、この賦課方式は・・・世代間で不公平が生じている・・・」 浅田調査官は中尾統括官の説明をじっと聞いている。 「・・・そうすると、高齢化が進むことによって、現役世代が支える年金受給者が増加し、現役世代の負担が増大することになるので、近い将来、賦課方式は破綻するであろうと考えられる・・・この本は、そういうことを我々に忠告しているわけだね。」 中尾統括官は本をペラペラめくりながら説明をする。 「・・・僕なんかあと2年で退職するから・・・年金制度は切実な問題だよ・・・」 中尾統括官はつぶやくように言う。 「そうですね・・・しかし、この調子だと、私たちの世代が退職するときには・・・間違いなく年金はもらえなくなる・・・ということですかね。」 浅田調査官は自嘲気味に言う。 「公務員は60歳で定年だけど・・・再雇用をしてもらって、まだ働かなければ・・・老後が心配だよ・・・」 中尾統括官は、真面目な顔になる。 「この本にも書いてあるけど・・・国連の推計によると、2050年までに、日本の100歳以上の人口は100万人を突破することになっている・・・今から32年後といえば、僕は90歳だ・・・しかし、そのときまで生きていれば、僕よりも年上の人は、少なくとも100万人以上いるということになるな・・・」 そう言うと、中尾統括官は苦笑する。 「・・・ところで、中尾統括官は、退職後、税理士になるのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「税理士?」 中尾統括官は、驚いたような表情になる。 「税理士になんて・・・なれないよ。」 中尾統括官は憮然という。 「でも、中尾統括官は、もう税理士の資格を取得しているのですから・・・当然、退職後は税理士になるのかと・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「バカを言え・・・税理士になっても・・・損害賠償が怖いし・・・それに、クライアントを獲得する自信もないよ・・・」 中尾統括官は、自嘲の笑みをもらす。 「僕は定年で退職しても、とりあえず、再雇用で65歳まで税務署で働いて・・・その後は、どこか小さな会社の経理などをしながら、ほそぼそと生きていく・・・ということを考えているんだ・・・」 「そうなんですか・・・この本では、これからの若い人の、人生100年時代においては、85歳まで働かなければ、人生の終焉をむかえるまでに破綻してしまうと・・・警告しています・・・」 浅田調査官は腕を組んでため息をつく。 「暗い話だね・・・」 中尾統括官はそうつぶやきながら、『LIFE SHIFT』と大きく書かれた表紙を見つめた。 (つづく)
AIで 士業は変わるか? 【追補】 「士業は変わり続ける」 -連載を終えて- Profession Journal編集部 税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナルの創刊5周年記念特集として本年2月から連載が開始され、全20回、計21名の方々にご寄稿いただいた『AIで士業は変わるか?』は、先週公開号をもって一旦その役目を終え、最終回の掲載を迎えた。 本連載ではAIを中心としたIT技術の急速な進化によって、会計・税務の世界がどのように変化するのか、あるいはすでに変化しているのか、また、公認会計士、税理士という職業自体が代替され消滅してしまうのか、各回の筆者による見解や本職に対する想いを披露していただいた。 諸般の事情により掲載が適わなかった方もおられたが、結果として上記のとおり21名の方々による原稿を掲載させていただいたなかで、編集部として意識したのは、一定の幅を設けつつも様々な立場の方々にご登場いただきたいというものだった(詳しくは後述)。 もちろん公認会計士又は税理士の有資格者が多いものの、その所属する組織(又は個人)や経歴・立場、職務内容、業務方針(人生設計)等がバラエティに富んだ筆者陣となっているのは、実際に同じ実務の現場で活躍されている会員読者の方々にはご理解いただけるものと思う。本当にこれら職業の働き方というのは幅広いものなのだなと、あらためて感じた次第である。 * * * そもそも本連載を企画するに至ったきっかけは、昨年秋頃から、そして現在においてもなお、多くの経済誌・ビジネス誌、新聞等において、AIによって士業、とりわけ公認会計士、税理士という職業が代替され成立し得なくなる未来が到来することを謳った特集が組まれていたものに対し感じた違和感によるものであった。 職業柄、執筆者を中心とした多くの公認会計士、税理士の方々にお会いする機会に恵まれているが、最新の法制度や時流をキャッチアップし、クライアントのために考え悩む先生方の姿を見るに、ロボットとはいえないまでも人間以外の何らかの機器がすべてを代替し解決するような状況は、想像しがたい。 一方で、AIを含むIT技術の進化は目覚しいどころの速さではなく、本誌創刊の2013年当時と比べてすら、社会経済を一変させるインパクトをもたらしており、すでに実務への導入が始まっているのも事実であり、我々の想像を超えた技術開発をめぐる現況も受け止めなくてはならない。 このような、いわば過渡期の状況を見るに、職業がなくなる、なくならない、といった極端に単純化された答えは、まさに現在、第一線で活躍しておられる実務家の方々にとっては意味を成さないのではないかと考えるようになった。 そして様々な立場の方にご意見を伺えば、その共通するところが、この時代に士業が向かうべき道として浮かび上がってくるのではないかと考えた。 * * * 本連載では、大手の監査法人、税理士法人において会計監査、税務支援、さらには実際にAIをこれら業務に活用する最先端の取組みを行っている公認会計士、税理士の方々から、専門性の高いサービスを提供するためあえて個人もしくは小規模での事務所等にて活躍されている方々、さらにはこれら業界とも関係の深い研究者、会計ソフトベンダー、弁護士、不動産鑑定士、そして本サイトの運営会社プロフェッションネットワークの関連会社である資格の学校TACの代表取締役社長に至るまで、冒頭に述べたとおり、それぞれの考えを率直に書いていただいた。 そこでは、AIに関する最前線の取組みから、会計・税務の支援業務を棚卸ししAIに代替しうるものと代替しえないものを詳細に検証したもの、会計士・税理士の業界全体を見据えて問題提起を行うものまで、会員読者の方々へ今後の仕事への取組みのアドバイスとなるような玉稿が集まった。 そして、これらの中で共通していたのは、公認会計士、税理士という職業の本来の姿を捉えなおすこと、そして、その本来の姿さえ見失わなければ、「技術革新が職業を奪う」といったような情報に惑わされることはない、というものであったと考える。 すべてが手書きであった時代から、自動計算、デジタル化の時代まで、公認会計士、税理士の方々は時代ごとの最新の技術を取り込み、サービスを進化させつつも、その本来の姿を変えることはなかった。 だとすれば、AIという新たな存在に対しても、それらを吸収し進化を続けていくと考えるのが、現実的な回答ということになるのではないだろうか(そういう意味を込めて、本稿のタイトルを「士業は変わり続ける」とさせていただいた)。 * * * ある税理士の方とお会いした際、本連載について紹介したところ、次のような言葉をいただいた。 この方がおっしゃるように、今後、再びこのような問題が提起されるとき、それはAIの次に到来する“何か”なのかもしれない。冒頭に述べたとおり、本連載は一旦その役目を終えたものの、本誌ではこのテーマについて、今後も引き続き検証を行っていくこととしたい。 最後に、一見すると突拍子もない本テーマに関する原稿依頼にもかかわらず、真摯に受け止めていただき、ご自身の見解を余すところなくご紹介いただいた本連載の筆者の方々には、この場を借りて心よりお礼を申し上げたい。 (了)
《速報解説》 国税庁、平成30年分の路線価を公表 ~都市部は依然上昇傾向、地方も訪日客効果で一部上昇の兆し~ Profession Journal編集部 国税庁は7月2日、相続税や贈与税の算定基準となる平成30年分の路線価等を公表した。 平成30年分の全国平均路線価は対前年比0.7%の上昇となり、3年連続の上昇となった。また、路線価が上昇した都道府県数も昨年の13から18へと増加している。 路線価上昇の主な背景としては、訪日外国人客(インバウンド)の増加や都市部の大規模再開発の影響によるものとみられる。 なお、ここ3年の全国平均路線価の対前年比率をみると、下表のように今年が最も高い上昇率となっている。 〇都市部を中心に地価上昇続く 東京都は、企業のオフィス需要及び訪日客のインバウンド需要などを背景に路線価の上昇が続いており、昨年の3.2%を上回る4.0%の上昇率となった。 東京都のベッドタウンを擁する神奈川県(上昇率0.6%)、千葉県(0.7%)、埼玉県(0.7%)も住宅需要等により上昇が続いており、これら首都圏の4都県は5年連続の上昇となっている。 また、大阪府(1.4%)、愛知県(1.5%)といった大都市も依然上昇傾向にあり、大阪府は5年連続、愛知県は6年連続で前年より上回った。 なお、今年も地点別の最高路線価は、東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前が4,432万円(1㎡当たり)で33年連続のトップとなり、昨年に続き過去最高価格を更新した。 〇地方でも観光地や繁華街では路線価上昇 観光地や繁華街は訪日客のインバウンド需要により上昇がみられ、都道府県別の上昇率では沖縄県が5.0%と全国トップとなり、各都道府県庁所在地の最高路線価も水戸市を除いて、上昇がみられる。 なお、このように地方においても観光地化の影響で急激な路線価の上昇がみられる地域もあるため、思わぬ税負担が生じないよう留意しておきたい。 〇各国税局が最高路線価を公表 ちなみに、同日付で各国税局がそれぞれ平成30年分の国税局管内各税務署の最高路線価を公表している。 〈各局が公表した最高路線価(別表)のページ〉 (了)
《速報解説》 民泊新法による住宅宿泊事業の所得は原則雑所得に ~宿泊者への提供面積によっては住宅ローン控除の適用要件を充たさなくなるケースも~ Profession Journal編集部 急増する外国人観光客への対応等を目的として、本年6月15日から住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)が施行され、個人が都道府県知事等への届出手続を経ることで、住宅宿泊事業者として自己が居住する住宅を宿泊者へ提供できるようになった。 民泊というと一般的なホテルや旅館に比べ宿泊料がリーズナブルなイメージもあるが、この住宅宿泊事業を行うことで一定の収入も見込まれ、この所得に対する課税の取扱いが気になるところだ。 国税庁が公表している「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について(情報)」では、住宅宿泊事業を行うことによる所得税の取扱いを7問のFAQで解説している。 本情報では、まず、不動産の貸付けによる所得は原則として不動産所得に区分されるものの、住宅宿泊事業者には宿泊者の衛生・安全の確保義務や一定の設備要件が定められていること等から、住宅宿泊事業は一般的な不動産の貸付け(賃貸)とは異なるとし、また住宅宿泊事業に利用できる家屋は次のものに限定され宿泊日数も制限されている(年間180日を超えないもの)ことを説明している。 これらを踏まえ、住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業を行うことによる所得は、原則として雑所得に区分されるとし、住宅宿泊仲介業者に支払う仲介手数料や宿泊者用の日用品等購入費、水道光熱費、通信費など、必要経費として差し引くことのできるものの例を紹介している。 ただし、不動産賃貸業者が賃貸契約期間満了後、次の賃貸契約が締結されるまでの間に行う住宅宿泊事業による所得は不動産所得に含めることとして差し支えないとし、また専ら住宅宿泊事業による所得で生計を立てているなど所得税法上の事業として行われていることが明らかな場合は事業所得に該当するとした。 ここで上述の居住要件に基づき、いわゆる自宅を宿泊者に提供するとした場合、必要経費として例示された水道光熱費や通信費など、1つの支出が業務用部分と生活用部分の両方に関わりのある費用については、その取扱いに留意が必要だ。 本情報では、これら家事関連費のうち必要経費として認められる範囲について、住宅宿泊事業における届出書等に記載した事業に利用している部分の床面積の総床面積に占める割合や、実際に宿泊客を宿泊させた日数を基にするなど、合理的な方法により按分して計算する必要があるとし、計算例を示している。 さらに、住宅宿泊事業を行う住宅について住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用を受けようとする場合、住宅ローン控除は床面積の2分の1以上に相当する部分を専ら自己の居住の用に供しているなどの要件を満たす必要があるため、本情報ではこの点について、対象となる住宅の総床面積のうち生活用部分に占める割合が2分の1を超えるか否かで判断するとし、具体的な区分の仕方や生活・業務の併用部分の判定が難しい場合の算出方法、計算例などを紹介している。 このように、積極的に住宅宿泊事業に参画した結果、上記面積要件を充たさず、昨年まで受けられていた住宅ローン控除が受けられなくなるといったことのないよう、宿泊者への提供部分の面積についても気をつけておきたい。 本情報によると、自宅を特定の期間(年間合計で1ヶ月未満程度)に限って住宅宿泊事業に供している場合には、その家屋の全体を生活用部分として住宅ローン控除の適用が受けられるとしている。 ちなみに、年末調整済みの給与所得を有する方で、住宅宿泊事業を営むことで生じる所得が 20 万円以下の方については、その他に所得がない場合、確定申告は不要となる。 (了)
《速報解説》 IFRS9号を踏まえた金融商品会計基準の改正検討を前に 会計士協会より信用損失の会計処理に関する研究資料が公表される ~19の論点で日本基準と国際基準を比較、見直しに当たっての課題一覧も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年6月29日、日本公認会計士協会は、「我が国の銀行等金融機関の会計実務を踏まえた信用損失の会計処理に関する研究資料」(業種別委員会研究資料第1号)を公表した。 企業会計基準委員会では、今後、IFRS第9号「金融商品」の内容を踏まえた「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)の改正に着手するか否かを判断することとし、2018年夏を目途に意見募集文書を公表する予定である。 研究資料は、今後、金融商品会計基準の検討を議論する際に、関係者が現状を理解した上で議論に臨めるよう、我が国における会計基準及び実務上の取扱いとIFRS及び米国基準における取扱いの違いが理解できるよう比較調査したものである。 表紙を含めて74ページあるので、以下では、主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 信用損失の会計処理 信用損失の会計処理は、我が国の会計基準においては、金融商品会計基準に「貸倒見積高の算定」として定められているが、IFRS及び米国基準のような国際的な会計基準改正の動向を踏まえた見直しは、現時点では行われていない(5項)。 なお、研究資料は、債務保証等に係る信用損失も範囲に含めるため、対象とする論点を「信用損失の会計処理」としている(7項)。 Ⅲ 論点の識別 次のように信用損失の会計処理に関する論点の識別を行っている。 以下では、基本的に、IFRS9号と比較しており、米国基準については割愛している。 なお、付録3として、「会計基準等の見直しに当たっての課題の一覧」が記載されている。 (了)
『税理士が知っておきたい「認知症」と相続・財産管理の実務』 発刊のお知らせ
《速報解説》 会計士協会、「仮想通貨交換業者の財務諸表監査に関する実務指針」を公表 ~ICO含むすべての仮想通貨を対象に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年6月29日、日本公認会計士協会は、「仮想通貨交換業者の財務諸表監査に関する実務指針」(業種別委員会実務指針第61号)を公表した。これにより、平成30年3月23日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、平成28年6月3日に資金決済法が改正され、仮想通貨交換業者が事業年度ごとに内閣総理大臣へ提出する財務に関する報告書に対して、公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付することが求められたことを受けたものであり、仮想通貨交換業者の財務諸表監査に固有と考えられる留意点について述べている。 「業種別委員会実務指針『仮想通貨交換業者の財務諸表監査に関する実務指針』(公開草案)に対するコメントの概要及び対応について」が公表されており、実務指針の理解に資するものと考えられる。 仮想通貨に関しては次のものが公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 適用範囲 実務指針は、仮想通貨交換業者の財務諸表監査に関する実務上の指針を提供するものである(1項)。 次のことに留意する(3項、4項、6項)。 実務指針では、次の付録が記載されている。 Ⅲ 仮想通貨交換業者 1 仮想通貨交換業者の行う取引 仮想通貨交換業者は、資金決済法が求める登録(資金決済法63条の2)を受けた者をいい、資金決済法2条7項に定められる以下の行為のいずれかを業として行う者である(実務指針10項(2)(3))。 実務指針は、《付録1 仮想通貨交換業者の理解に関する事項》において、仮想通貨交換業者の理解に関する事項を記載している。 2 財務諸表監査 仮想通貨交換業者の財務諸表監査においては、通常、仮想通貨の取引記録又は残高に関する監査証拠としてブロックチェーン等の記録を利用する(7項)。 公認会計士又は監査法人による監査の目的は、仮想通貨交換業者の作成する財務諸表の適正性に関する意見を表明することであり、仮想通貨交換業者が保有又は取引する仮想通貨及びその基盤となるブロックチェーン等の記録に関して何ら保証を与えるものではない(9項)。 監査契約の締結、企業及び企業環境の理解と重要な虚偽表示リスクの評価、内部統制の理解などについて記載されている。 3 特別な検討を必要とするリスク 仮想通貨交換業者の財務諸表監査では、実務指針15項に記載されている事業特性等に関連して識別された以下のアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスク(16項)は、通常、特別な検討を必要とするリスクであると判断される(23項)。 4 会計処理の検討に関する留意事項 仮想通貨交換業者の事業活動が変化している状況において、新しい会計事象や取引が発生し、適用すべき会計基準等が明確でない場合が想定される。 例えば、自己(自己の関係会社を含む)が発行した資金決済法に規定する仮想通貨に関しては、実務対応報告5項から15項における会計処理の対象外となっている。 監査人は、仮想通貨交換業者の財務諸表利用者が適正な判断を行うために必要と認められる場合には、会計処理の方法及びその他の説明情報が適切か否かについて検討しなければならないことに留意する(26項)。 実務対応報告3項において対象外となる自己(自己の関係会社を含む)の発行した資金決済法に規定する仮想通貨に関しては、次のことに留意する(27項)。 Ⅳ 適用時期等 実務指針は、平成30(2018)年6月29日以後に行われる監査から適用する(28項)。 (了)
《速報解説》 ディスクロージャーWG、 報告書(「資本市場における好循環の実現に向けて」)を公表 ~MD&A等の非財務情報、役員報酬等のガバナンス情報の開示充実を促す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年6月28日、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」は、「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」を公表した。 これは、有価証券報告書における開示を念頭に、その他の開示(会社法開示、上場規則、任意開示等)との関係にも配意しつつ、企業情報の開示の包括的な検討を行ったものである。 以下では、主な内容について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「財務情報」及び「記述情報(非財務情報)」 投資判断に必要と考えられる記述情報が、有価証券報告書において、適切に開示されることが重要であると述べられている。 1 経営戦略・ビジネスモデル 2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A) 3 リスク情報 英国でみられる開示実務も参考に、経営者視点からみたリスクの重要度の順に、発生可能性や時期・事業に与える影響・リスクへの対応策等を含め、企業固有の事情に応じたより実効的なリスク情報の開示を促していく必要がある。 4 その他 ①人的情報等(ジェンダーを始めとする多様性の確保、労働環境といった従業員に関する情報など)、②重要な契約、③分かりやすい開示が議論されている。 5 「財務情報」及び「記述情報」の充実 自社の経営戦略・財務状況・リスク等に関する議論を促し、我が国企業における経営戦略・ビジネスモデル、MD&A、リスク情報、重要な契約、ガバナンスに関する情報等の記述情報の開示の充実を実現していくことが重要である。 そこで、次のことが述べられている。 Ⅲ 建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報の提供 1 役員報酬に係る情報 2 政策保有株式 3 その他のガバナンス情報の充実と提供 Ⅳ 提供情報の信頼性・適時性の確保 1 会計監査に関する情報 2 開示書類の提供の時期 投資家と企業の対話の促進、議決権のより実効的な行使という観点から、各企業において、投資家との対話の状況等を踏まえつつ、有価証券報告書の株主総会前提出への取組みが求められる。 四半期開示については、現時点において見直すことは行わず、今後、四半期決算短信の開示の自由度を高めるなどの取組みを進めるとともに、引き続き、我が国における財務・非財務情報の開示の状況や適時な企業情報の開示の十分性、海外動向などを注視し、必要に応じてそのあり方を検討していくことが考えられる。 3 英文による情報提供 以下の取組みを実施すべきであるとしている。 (了)
-お知らせ- いつもプロフェッションジャーナルをご愛読いただきありがとうございます。 2018年上半期(1月~6月)掲載分の目次をアップしました。 2018年上半期(1月~6月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、ご活用下さい(PDFファイル内の文字検索もできます)。 Back Number ページからもご覧いただけます。 ▷半年ごとの目次一覧 2018年 1月~6月(No.251~274)⇒[こちら] ★ 2017年 7月~12月(No.225~250)⇒[こちら] 1月~6月(No.201~224)⇒[こちら] 2016年 1月~6月(No.151~175)⇒[こちら] 7月~12月(No.176~200)⇒[こちら] 2015年 1月~6月(No.100~125)⇒[こちら] 7月~12月(No.125~150)⇒[こちら] 2014年 1月~6月(No.51~75)⇒[こちら] 7月~12月(No.76~100)⇒[こちら] 2013年 1月~6月(No.1~25)⇒[こちら] 7月~12月(No.26~50)⇒[こちら] 2012年 創刊準備1号~5号⇒[こちら]