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家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第22回】「家族信託の活用事例〈不動産編③〉(2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を後妻に渡し、後妻の死後は収益物件自体を前妻との間の子に渡す事例)」

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第22回】 「家族信託の活用事例〈不動産編③〉 (2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を後妻に渡し、後妻の死後は収益物件自体を前妻との間の子に渡す事例)」   弁護士 荒木 俊和   今回解説するのは、「2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を後妻に渡し、後妻の死後は収益物件自体を前妻との間の子に渡す」という事例である。 - 相談事例 - 私(75歳)には今年70歳になる妻がおり、現在2人で暮らしています。 私は何棟か賃貸アパートを所有していますが、今年の春に脳の疾患で倒れて以来、体調が優れません。私に万が一のことがあった場合には、それ以降の家賃収入は妻に渡したいと思っています。 私には離婚経験がありまして、前妻との間には40歳になる長男がおり、今でもよく連絡を取っています。長男と今の妻とは、特に仲が悪いわけではありません。 賃貸アパートの建っている土地は曽祖父の代から引き継いできたものですので、今の妻の親族には渡したくないと思っており、今の妻が亡くなった後は、長男に引き継がせたいと考えています。   1 家族信託活用のポイント (1) 遺言の限界・アパート管理の問題 前回述べたように、本件のように2者に対して連続して財産を引き継ぎたいとの要望に関して遺言で対応しようとした場合、「後継ぎ遺贈」の問題として法的な安定性の面で疑問が残ることになる。 また、遺言で対応しようとした場合、本人の死亡時にアパートの所有権が移転することになるため、管理の引継ぎが問題となる点についても同様である。 (2) 人間関係の問題 本件の場合、本人には、自分の死後は賃料収入を後妻に渡し、後妻の死後には前妻との間の子にアパート自体を渡したいという希望がある。 ここで家族信託という法的な制度を活用した場合、これまで解説してきたとおり、受託者が受益者に対して各種の義務を負うことになるが、単純に法的な拘束があれば資産承継がうまく進められるかというと、そうではない。 契約当事者は委託者と受託者であるとはいえ、やはり受託者と受益者との間で人間関係の良好さが求められる部分がある。 本件ではアパートが問題の対象となっているが、本人がアパート以外にも財産を持っていた場合、後妻と長男は遺産分割協議を行わなければならないことになるため、人間関係がギクシャクしていると、相続発生時にトラブルが起こり、円滑な信託が継続できなくなるおそれがある。 例えば、アパートに関して家族信託を活用する場合、特に受託者は入居者から賃料を受け取るため、受託者が害意を持てば、その賃料を受益者に引き渡さない等といったことが容易にできてしまう。 現在のところ、後妻と長男とは仲が悪いわけではないが、家族信託において不公平な条件等を設定すると、それをきっかけに関係が悪化し、話が進められなくなるおそれがあるため注意が必要である。   2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のようなスキームが考えられる。 基本的には前回の事例と同様であるが、受託者兼帰属権利者と二次受益者に血縁がないという点に特色がある。 (2) 第1フェーズ 第1フェーズでは、本人から長男へ賃貸アパートを信託する。 この段階の受益者は本人であるため、所有者(受託者)となった長男は入居者から賃料を収受し、信託の利益を本人に配当する。 (3) 第2フェーズ 本人が死亡した場合、受益権が後妻に移転するものとされていることから、この段階で第2フェーズに入る。 このフェーズでは、長男が収受した賃料の収益を後妻に渡すことになる。 (4) 第3フェーズ 後妻も死亡した場合、本件での信託は「後妻の生活維持」という目的を失うことから、信託を終了させることになる。 信託契約上の終了原因としては、「本人と後妻の死亡」を条件とすることになる。 そして信託を終了させる場合に、帰属権利者である長男が名実ともにアパートの所有者となり、その後の賃料を収受することができることとなる。   3 注意点 (1) 後妻の家族に対する説明 家族信託は向こう何年又は何十年にもわたる長期間の契約であり、財産の移転が発生する際には、契約当初の経緯が不明確になっている可能性がある。 このため、後妻の親族は後妻がアパートの所有権を保有しているものであると誤信することにより、後妻の死亡時に長男との紛争に発展するようなリスクがある。 もちろん、不動産登記を確認すれば明確にはなるはずだが、後妻の死亡前からアパートの相続を期待する親族等がいる場合には、説明が困難になる場合もある。 このため、後妻から後妻の親族に対して、後妻にはアパートの所有権がなく、存命中に賃料を受領できる権利があるだけである旨を説明しておくことが望ましい。 (2) 遺産分割協議との兼ね合い 上記でも触れたが、本人が死亡した際、アパートに関する権利の問題とは別に、後妻と長男との間で遺産分割協議が必要となる。 このため、家族信託のスキーム検討の段階において、アパート以外の資産の承継についても公平感を持たせるよう検討しておくことが望ましい。 具体的には、後妻が収受する賃料収入と、後妻死亡時に長男が取得する不動産の残存価値がどの程度であるかを比較しておく必要があり、その多寡によっては、家族信託とは別に遺言を作成するなどして、預貯金等で調整する必要がある。 なお、家族信託において金銭を信託財産とするスキームもありうるが、頻繁に出し入れする金銭を信託した場合、毎回受託者側で支出しなければならない煩雑さもあるため、実際上のメリットを吟味しなければならない。 また、相続税が発生する可能性がある場合には、タックスプランニングを含めたスキームの検討が欠かせないこととなる。 (了)

#No. 237(掲載号)
#荒木 俊和
2017/09/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例19】出光興産株式会社「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立てに関するお知らせ」(2017.7.5)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例19】 出光興産株式会社 「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立てに関するお知らせ」 (2017.7.5)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、出光興産株式会社(以下「出光興産」という)が平成29年7月5日に開示した「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立てに関するお知らせ」である。 同社は、平成29年7月3日、「公募による新株式発行に関するお知らせ」において、公募増資を実施すると開示したのだが、同社のいわゆる創業家が、東京地方裁判所に対してその差止め仮処分の申立てを行ったのである。   2 合併の障壁 出光興産は、平成27年7月30日、「ロイヤル・ダッチ・シェルからの昭和シェル石油株式会社の株式(33.3%議決権比率)の取得に関するお知らせ」において、昭和シェル石油株式会社(以下「昭和シェル石油」という)と「経営統合に向けて本格的な協議を進めることで合意」とした上で、平成27年11月12日に昭和シェル石油と連名で開示した「昭和シェル石油株式会社と出光興産株式会社の経営統合に関する基本合意書締結のお知らせ」において、「本経営統合の方式については、合併によることを基本方針」としていた。 しかし、出光興産の創業家は、この昭和シェル石油との合併に反対している。 合併は、規模が小さなものでない限り、株主総会の特別決議を経る必要があるが(総議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席株主の3分の2以上の議決権により可決)、出光興産の総議決権の3分の1超である33.92%の議決権を有する創業家は、株主総会の特別決議を否決することができる。したがって、彼らが反対している限り、昭和シェル石油との合併は不可能なのである。   3 障壁の除去? そうした状況のなか、今回の公募増資の実施が開示された。 現在の発行済株式総数が160,000,000株のところ、新たに48,000,000株の株式を発行するというこの公募増資が実施されれば、現在の創業家の所有株数が54,272,400株なので、創業家自身もこの公募増資に応じて株式を取得しない限り、創業家の議決権比率は26.09%(=54,272,400株/(160,000,000株+48,000,000株))に下がることになる。 そうなれば、創業家が反対していても、昭和シェル石油との合併を進められる。 当然、創業家はこの公募増資に反対するはずであり、差止め仮処分の申立てを行うに至ったのである。平成29年7月5日の開示の中の「本申立ての理由」は、次のように記載されている。彼らからすると、自分達の議決権比率を下げることを目的とした公募増資に見えるはずである。 それに対して、出光興産は、「今後の方針及び見通し」において、次のように反論している。   4 結果 出光興産はこのように反論したが、創業家の議決権比率を下げることを意図していたことは明らかだろう。しかし、彼らの主張は認められず、差止め仮処分の申立ては却下された。同社は、平成29年7月18日に「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立ての却下決定に関するお知らせ」を開示している。 創業家はその決定を不服とし、東京高等裁判所に対して即時抗告を行ったが、それも棄却されてしまった。同社は、平成29年7月18日に「新株式発行の差止め仮処分の申立ての却下決定に対する即時抗告に関するお知らせ」を、平成29年7月19日に「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立ての却下決定に対する即時抗告の棄却決定に関するお知らせ」を開示している。   5 創業家の反撃はあるか? 現時点では創業家の敗北といえる。このまま行けば、出光興産は昭和シェル石油と合併することになるだろう。今後、彼らが反撃に出てくることはあるのだろうか。出光興産の株式を買い増し、再び3分の1超の議決権比率を持ち、合併を阻止しようとする可能性はあるのだろうか。 そもそも創業家が合併に反対する理由は、理念に基づくものなのだろうか。それとも、私欲に基づくものなのだろうか。彼らは、両社の企業文化が異なり、合併しても上手くいかないから、反対するのだと主張している。しかし、周囲からすると、自分達の出光興産に対する影響力の低下を避けたいから、反対しているように見えてしまう。 合併に反対する本当の理由は創業家にしかわからないが、彼らの主張どおり理念に基づくものならば、反撃に出てくる可能性があるかもしれない。 (了)

#No. 237(掲載号)
#鈴木 広樹
2017/09/28

プロフェッションジャーナル No.236が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年9月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.236を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/09/21

日本の企業税制 【第47回】「平成30年度税制改正に向けた各省庁の要望事項のポイント」

日本の企業税制 【第47回】 「平成30年度税制改正に向けた各省庁の要望事項のポイント」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   9月18日に安倍総理が早期解散の検討を伝達したことから、平成30年度税制改正に向けた検討スケジュールにも少なからず影響が出てくることが予想される。 いずれにせよ、平成30年度税制改正の主要な検討課題は、8月末に、各府省庁から提出された要望事項が中心となることは間違いないことから、各府省庁要望をもとに主要事項を整理したい。   〇土地・住宅関連 平成30年度は、3年に一度の土地・家屋の評価替えの時期にあたることから、商業地に係る固定資産税の負担調整措置及び条例減額制度の延長が注目される。 アベノミクスの効果により、都市部を中心にこの3年間で地価は上昇傾向にある中、評価替えによる税負担の激変を緩和する負担調整措置の果たす役割は従前以上に大きくなっていると考えられる。 土地等に係る不動産取得税の特例措置(宅地評価土地の取得に係る課税標準の特例(2分の1)、土地等の取得に係る税率の特例(4%→3%))も、土地取引件数が依然として低水準で推移している現状からすると、デフレ脱却に向け、その延長は不可欠である。 また、住宅関連の特例措置が軒並み適用期限を迎えることから、①新築住宅に係る税額の減額措置の延長、②認定長期優良住宅に係る特例措置の延長、③買取再販で扱われる住宅の取得等に係る特例措置の延長・拡充、④既存住宅の耐震・バリアフリー・省エネ・長期優良住宅化リフォームに係る特例措置の延長、⑤居住用財産の買換え等に係る特例措置の延長、が要望されている。 このように特例措置の延長が要望の大半だが、新設要望項目として、都市のスポンジ化(低未利用土地)対策のための特例措置が注目される。 この他、相続登記の促進のための登録免許税の特例の創設が注目される。 具体的には、相続発生から30年以上経過している土地について相続登記をした場合の登録免許税の免除、及び、一筆当たりの課税標準額が20万円以下の土地について相続登記をした場合の登録免許税の免除、が法務省から要望されている。これは、昨今問題が指摘されている相続登記の未了土地の原因の1つとして相続登記に係る費用負担があることから、それに対応したものである。 民間有識者による所有者不明土地問題研究会が6月に公表した推計によれば、所有者不明土地は全国の20.3%、九州よりも広い約410万haに及んでいる。所有者不明土地の問題は、適切な管理がされていない空き家の増加の要因となったり、農地の集約化、公共事業用地の取得、森林の適切な管理など、様々な局面で障害となっている。   〇中小企業税制 中小企業税制として注目されるのが、中小企業の事業継続を促進する観点から、親族等への株式等の贈与・相続する場合の特例(事業承継税制)の抜本的な拡充はもとより、さらに他企業や親族外経営者に経営を引き継いだり、ファンドを通じて事業承継を行う場合についても税負担の軽減措置(中小企業・小規模事業者の再編・統合等に係る税負担の軽減措置の創設)が、経済産業省から要望されている。 後者は、中小企業が後継者不在のため事業承継が行えない、投資余力がないため事業継続をためらうといった課題を解消するために、売却やM&Aにより経営資源や事業の再編・統合を推進しようとするもので、事業の譲渡益課税の軽減、ファンドからの出資を受けた場合にも中小企業関連税制の適用を可能とする要件緩和を要望している。 また、個人事業者の事業用資産に係る事業承継時の負担軽減措置の創設も要望されている。 中小企業関連では、この他、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の延長や、交際費課税の特例の延長、事業承継税制の見直しなども要望されている。   〇組織再編税制 平成29年度税制改正でもスピンオフやスクイーズアウト等に関連して多くの改正が行われたところであるが、30年度改正でも、経済産業省から、一層の組織再編の促進のための措置が要望されている。 国税においては、①スピンオフの実施の円滑化のための適格要件の見直し等組織再編税制における所要の措置、②事業ポートフォリオの転換の円滑化措置の創設、③自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置の創設、④事業再編を円滑化するための組織再編税制における適格要件の見直し、⑤産業競争力強化法に基づく事業再編等に係る登録免許税の軽減措置の延長、が掲げられている。 地方税においても、⑥法人の期中合併による法人事業税の資本割の算定方法の見直し、⑦被合併法人に無償の資本変動が生じた場合の事業税の課税標準の合併法人への承継、が掲げられている。 ①のスピンオフについては、平成29年度税制改正で、単独新設分割型分割及び、既存の100%子会社の株式分配、単独新設分社型分割後の株式分配に係る手当てが行われた。しかし、これらの措置は、いずれも単独の子会社を前提としたものであったことから、今回の要望では、スピンオフの準備を目的としたグループ内再編(例えば、グループ内の兄弟会社の合併、既存の100%子会社への親会社からの吸収分割など)を行う場合を適格組織再編税制の対象に加えるよう求めている。 ②は、ノンコア事業の売却とあわせてコア事業の強化のために新たな事業買収等の取得を行う場合に、いわゆる買換特例(圧縮記帳)を求めるものである。なお、産業競争力強化法に基づく計画の認定が前提とされている。 ③は、自社株式(又は親会社株式)を対価とした株式取得(買収)を行った場合に、買収に応じた被買収会社の株主における譲渡益課税の繰延べを求めるものである。これは、被買収会社の株式を買収会社に現物出資をする取引とも見えることから、税制上の手当てのみならず、会社法上の現物出資に係る規律(現物出資財産に係る検査役の調査、取締役等の財産価額塡補責任)の見直しも含めた手当てが必要であろう。   〇主要な政策税制 期限切れを迎えるものとしては、まず、準備金関係では、海外投資等損失準備金及び金属鉱業等鉱害防止準備金の延長が挙げられる。 税額控除で大きいのが、所得拡大促進税制の拡充・延長である。減収規模が約2,700億円に上っており、アベノミクスの成功事例といえよう。今後、給与のみならず人材投資も含めた企業の取組みをどのように後押しするかが課題である。 投資減税としては、経済産業省から、データ利活用の取組やサイバーセキュリティ対策に必要なシステムの構築やサービスの利用促進に向けた税制措置が要望されている。 この他、国家戦略特区及び国際総合戦略特区の特例の延長、固定資産税関係では、国際船舶、国内線就航機、公害防止用設備、倉庫などの延長が課題となる。   〇廃止・縮減項目 各府省庁の要望ベースでの廃止・縮減項目は次の3項目である。 これらのうち①については、新たに先進的省エネ・再エネ投資促進税制の創設が要望されていることから、新たな制度に衣替えされるものと見られる。 (了)

#No. 236(掲載号)
#小畑 良晴
2017/09/21

法人税における当初申告要件等と平成29年度税制改正 【第4回】

法人税における当初申告要件等と 平成29年度税制改正 【第4回】 (最終回)   税理士 谷口 勝司   (3) 補足事項 平成29年度改正に関して、何点か補足する。 前回の(2)で説明したように、平成29年度改正後の外国税額控除制度では、控除金額の計算の基礎となる「控除対象外国法人税の額」は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に添付した明細書に記載された金額が限度となる。 しかし、1つの例外がある。すなわち、平成29年度改正で、 と改正され(平29改正後の法69⑮)、税務署長において特別の事情があると認める場合には、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に添付した明細書に記載された控除対象外国法人税の額を基礎としないで税額控除額を計算する例外規定が置かれたからである。 また、このような例外規定は外国税額控除制度のみに置かれており、その規定振りも、税務署長において特別の事情があると認める場合と、かなり限定的である。 立法当局によると、 と解説されている(財務省HP「平成29年度税制改正の解説」766頁参照)。 「控除対象外国法人税の額」は、法文上、いわゆる高率負担部分等を除いたものとして定義されている(法69①)。このため、所得率に応じて高率負担部分の計算を行う利子等については、上述のケースのように、所得金額の増加によって控除対象外国法人税の額が増加することがあり得ることになるが、このようなケースについては、その増加した控除対象外国法人税の額を基礎として控除金額の計算を行うということである。 なお、「特別の事情」について上述以外のケースがあるかどうか、課税当局による今後の運用等を注目しておきたい。 もう1点補足する。外国税額控除制度と同じく法人税法上の制度である、受取配当等の益金不算入や所得税額控除等については、今回改正が行われていないことに留意しておきたい。 これらの制度は、増額更正による法人税額の増額に連動して益金不算入額や税額控除額が増加するものではないからである。 (4) 適用時期ほか 平成29年度の税制改正後の規定は、法人が平成29年4月1日以後に提出する修正申告書若しくは更正請求書に係る法人税又は同日以後にされる更正(同日前に提出された更正請求書に係るものを除く)に係る事業年度分の法人税について適用される(改正法附則62②、1)。 参考までに、法人税で適用が多い制度について、当初申告要件等の適用関係の一覧を次表に掲げておく。 〈法人税における当初申告要件等(主なもの) 適用関係一覧〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注1) 太枠が平成29年度改正部分。 (注2) 税務署長において特別な事情があると認める場合は、例外あり。   4 留意点 最後に、当初申告要件等に関連して、何点か述べておきたい。 (イ) みなし外国税額控除 実務で当初申告要件が一番話題になるのは、やはり外国税額控除であり、ときおり見受けるのが、みなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)の控除漏れである。 直接納付(源泉納付)した税額のみを控除対象として、租税条約で減免されたみなし外国法人税額を控除対象としなかったケースである。実際に納付行為がなく、また条約で減免されたものかどうか等の確認が難しいことが原因の1つであろう。みなし外国税額控除の対象となり得る中国の使用料等には気をつけておきたい。 控除漏れが判明した場合には、みなし外国税額であっても、前述のとおり、更正請求書又は修正申告書によって、事後的に税額控除を受けることができる。また、更正の請求は5年間可能である。 (ロ) 交際費等損金不算入における中小法人の定額控除の特例 交際費等の額のうち接待飲食費の50%相当額を超える金額は損金不算入となるが、中小法人については、この計算に代えて、年800万円を超える金額を損金不算入とする特例が認められており、中小法人は選択適用ができる(措置法61の4①②)。 この定額控除の特例の適用に当たっては、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に定額控除の明細書の記載・添付が必要である(措置法61の4⑤)。 もっとも、この定額控除の特例は、法人税法の受取配当等益金不算入、所得税額控除等と同様、当初申告要件が設けられていない。措置法のほとんどの規定に当初申告要件が設けられている中では、特別である。 したがって、確定申告後であっても、定額控除の特例の方が有利である場合には、修正申告書又は更正請求書に明細書を記載・添付することによってその適用が受けられることに留意しておきたい。 (ハ) 受取配当等の益金不算入、所得税額控除等 前述のとおり、受取配当等の益金不算入や所得税額控除等については、平成29年度の税制改正は行われていない。したがって、税務調査等によって増額更正となる場合には、例えば受取配当等の増額による益金不算入額の増額が可能となるときであっても、増額更正に際して益金不算入額の増額は行われず、その後更正の請求によって処理を行うという二段階処理となる。これは平成29年度税制改正後も同じである。 このことは、課税当局における適用要件確認や立証責任等の観点から、税制上はやむを得ないと思われる。ただ、税務調査で事実関係の確認が可能なケースにあっては、例えば、調査終了前に更正の請求を行わせて増額更正時に一括処理を行う、というような弾力的な取扱いは検討の余地があるように思われる。提言しておきたい。 (ニ) 保存要件、ゆうじょ規定等 本稿では、平成23年12月及び平成29年度で改正された制度を中心に説明したが、法人税法の中にも当初申告要件が存続されている制度があり、また、一定の証明書類(例えば、外国法人税額が課された書類等)の保存要件や、いわゆるゆうじょ規定がある制度もある。 詳しくは述べないが、制度の適用要件ともいえるこれらの規定は、手続規定でもあって、総じて厳格に取り扱われている。実務では留意する必要がある。 (連載了)

#No. 236(掲載号)
#谷口 勝司
2017/09/21

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第5回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第5回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第1章》 平成13年度税制改正前の議論) (ⅲ) 共同事業を行うための組織再編成 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の「第二 資産等を移転した法人の課税」では、共同事業を行うための組織再編成として、以下のように記載されている。 上記のうち、第2パラグラフの後半部分では、【第4回】で解説した企業グループ内の組織再編成と同様に、事業単位の移転であることを要求することが記載されている。それ以外のところであるが、第1パラグラフでは、事業関連性要件、事業規模要件及び従業者引継要件について記載されており、第2パラグラフの前半部分では、株式継続保有要件について記載されている。 ここで奇異に感じるところであるが、出来上がった条文では、従業者引継要件は、企業グループ内の組織再編成でも要求されているにもかかわらず、この段階では、共同事業を行うための組織再編成のところでしか明記されていないという点である。【第4回】で解説した企業グループ内の組織再編成についての記載では、事業単位の移転であることと、事業が継続することが見込まれていることしか記載されていない。 このことから、この段階では、従業者引継要件は、共同事業を行うための組織再編成における要件のひとつとして想定されたものであり、企業グループ内の組織再編成の要件のひとつとして想定されていなかったのではないかという疑いが生じてくる。それが故に、平成13年当時では、従業者引継要件は、組織再編成によるリストラを制限するために設けられた規定であるという噂も流れていた。 これに対し、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』28頁(日本租税研究協会、平成13年)では、「独立した事業単位で事業が移転するという場合には、当然、従業員の相当数が引き継がれることになるでしょうから、要件としてあってしかるべきものと考えられます。」と解説されており、この段階では、細かな要件までは議論が進んでいなかったとも推定される(※1)。平成13年当時では、このような議論があったものの、実際に実務が定着していくと、事業単位の移転であるかどうかを判断する要素のひとつとして従業者引継要件を捉えるようになったのも事実である。この点についても、本連載のどこかで触れていきたい。 (※1) 佐々木浩(発言)仲谷修ほか『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』69頁(大蔵財務協会、平成24年)では、「ちょうど平成13年は分割法制が入って、労働承継法ができたタイミングでしたので。今でも、従業者の引継ぎについては、どちらかというと税制上の必須事項ではないのではないかといった指摘もありますが、事業を移転するということであればそれを構成する要素の一つであるのでといったことで置かれている規定ですよね」と述べられている。さらに、阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』86頁(商事法務、平成14年)でも、「最初は、人を基準として要件を設定する意味があるのか、という議論がありました。しかし、事業というのは、やはり、人・物・金であるという考え方がありまして、独立した事業単位ということを考えるにあたっても、単なる資産・負債だけではなくて、従業者を含めることになりました。」と述べられている。 このほかにも、この段階では、事業規模要件については触れられているものの、特定役員引継要件については触れられていない。これは、事業規模要件を満たしていない場合の救済措置として特定役員引継要件が導入されたことを推定させるものである(※2)。それが故に、特定役員を1人だけ送り込むような租税回避を容易にしてしまい、ヤフー・IDCF事件(平成28年2月29日最高裁判決TAINSコードZ888-1984)が生じる原因になったとも考えられる。 (※2) 阿部前掲(※1)84頁、仲谷修(発言)仲谷修ほか『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』63-64頁(大蔵財務協会、平成24年)。 ② 資本金の部の金額の取扱い 「第二 資産等を移転した法人の課税」では、資本金の部の金額(純資産の部の金額)について、(ⅰ)合併、分割型分割、(ⅱ)分社型分割、現物出資に分けて記載されている。このうち、(ⅱ)については、「資産を移転し、その対価として株式を取得するものであり、これらにおいては、利益積立金額は引き継がないこととするのが適当である。」と記載されている。分社型分割、現物出資を行っても、非適格組織再編成に伴う譲渡損益を除き、分割法人、現物出資法人の純資産が変動しないことを考えると、すべてを資本金等の額の増加と捉えるのが相当であると考えられる。 これに対し、(ⅰ)については、以下のように記載されている。 このように、非適格合併、非適格分割型分割を行った場合には、資本金等の額として処理し、適格合併、適格分割型分割を行った場合には、資本金等の額、利益積立金額を引き継ぐという考え方になっている。前者は、現物出資説に対応する処理であり、後者は、人格合一説(人格承継説)に対応する処理である(※3)。 (※3) 『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』29-30頁。 当時の商法会計では、純資産の部の処理方法が明確ではなかったが、会社法の施行とほぼ同じタイミングで、企業結合会計の考え方が整備され、現在の会社法でも、資産及び負債を時価で引き継ぐべき場合には、資本金、資本準備金又はその他の資本剰余金として引き継ぎ、資産及び負債を簿価で引き継ぐべき場合には、被合併法人又は分割法人の純資産の部をそのまま引き継ぐことを容認する考え方が採用されている(会社計算規則35~38、45~51)(※4)。なお、分割型分割におけるみなし事業年度についても触れられているが、これは平成22年度税制改正により廃止され、現在では、合併におけるみなし事業年度のみが設けられている。 (※4) 企業結合会計において、資産及び負債を簿価で引き継ぐべき場合には、被合併法人又は分割法人の純資産の部をそのまま引き継ぐことを強制するのではなく、容認している理由は、現在の企業結合会計で持分プーリング法が認められておらず、逆取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等に該当するもののみが、資産及び負債を簿価で引き継ぐ場合に該当するからである。すなわち、これらは、純粋に人格合一説により処理されるものとは言い難いことから、被合併法人又は分割法人の純資産の部をそのまま引き継ぐことを強制することまではできなかったと考えられる。 このような純資産の部の処理方法は、株主におけるみなし配当課税にも影響を与えることになる。次回では、この点について解説を行う予定である。 (了)

#No. 236(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/09/21

相続税の実務問答 【第15回】「遺贈の放棄があった場合の課税関係」

相続税の実務問答 【第15回】 「遺贈の放棄があった場合の課税関係」   税理士 梶野 研二   [答] あなたが、遺贈を放棄し、弟さんが遺贈の対象だったA社の全株式を相続することとなったとしても、弟さんに贈与税が課されることはありません。   ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺贈により財産を取得した場合 人は、一定の方式に従った遺言によって、相続開始とともに、その所有していた財産を相続人又は相続人以外の者に引き継がせることができます(民法960)。これを「遺贈」といいます。また、遺言により財産の処分をする者を「遺言者」といい、遺言により財産を取得する者を「受遺者」といいます。 遺贈には、特定の財産を具体的に示して行う「特定遺贈」と、特定の財産を示すことなく、相続財産の全部又は相続財産の一定の割合を示して包括的に行う「包括遺贈」とがあります(民法964)。 遺言によって行われる遺贈は、停止条件が付されていない限り、相続開始とともに効力を生じます(民法985)。つまり、特定遺贈が行われますと、特定遺贈の対象となった財産は、相続開始時にその遺贈を受けた者に帰属することとなり、また、包括遺贈が行われますと、受遺者は、包括遺贈の割合に応じた権利義務を、相続人と同様に有することとなります(民法990)。 そして、相続税法上、遺贈によって被相続人の財産を取得すると、それが特定遺贈であるか、包括遺贈であるかを問わず、相続税が課されることとなります(相法1の3①)。   2 遺贈の放棄 遺贈があった場合において、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができ、遺贈の放棄があった場合には、遺言者の死亡の時に遡ってその効力を生ずることとされています(民法986)。 つまり、遺贈の放棄がされますと、遺言者による遺贈がそもそもなかったという状態になりますので、特定遺贈の対象となった財産は、被相続人が有していた他の財産と同様に、相続人の財産となり(相続人が2名以上いる場合には、遺産分割の対象となります)、また、包括遺贈の割合は、民法に定められた相続人の相続分に組み込まれることとなります。 つまり、遺贈の放棄がされますと、遺言者による遺贈がそもそもなかったという状態になりますので、特定遺贈の対象となった財産は、被相続人が有していた他の財産と同様に、相続人の財産となります(相続人が2名以上いる場合には、遺産分割の対象となります)。 (注) 包括遺贈の場合には、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有することとされ(民法990)、その放棄をするためには、自己のために包括遺贈のあったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に放棄の申述をする必要がありますので、上記の説明は該当しません。本稿では、以下、特定遺贈が行われた場合を前提として説明をしています。   3 遺贈の放棄があった場合の課税関係 上記1のとおり、遺贈の効力は遺言者の死亡の時から生じますので、特定遺贈があった場合に、その目的となった財産は、直ちに受遺者に帰属することとなりますが、受遺者による放棄の意思表示があったときには、その効力の発生時期は遺言者の死亡の時に遡りますから、その財産は、共同相続人に帰属することとなります。 また、包括遺贈の場合にも、遺言者に相続が開始すると、包括受遺者は、包括遺贈の割合に相当する権利義務を取得しますが、受遺者の放棄の意思表示により、包括遺贈ははじめからなかったものとして、この包括遺贈の割合に相当する権利義務は、民法の定める相続分に従って相続人に帰属することとなります。 このように遺贈の対象は、受遺者の一方的な意思表示により、受遺者から受遺者以外の者(相続人)に帰属することとなりますので、これが、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで、・・・利益を受けた場合」に該当し、「当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみな」されて、贈与税が課税されるのではないかとの疑問が生じます。 しかしながら、遺贈の放棄がなされると、遺言者の死亡の時に遡って放棄の効力が生じることとなり、相続財産は、受遺者を経由することなく、遺言者(被相続人)からその相続人が取得することとなり、具体的には、遺産分割の手続きを経て、各相続人に承継されていくこととなりますので、受遺者から各相続人が経済的利益を受けたと考える必要はありません。このことは、特定遺贈の場合であっても、包括遺贈の場合であっても同様です。   4 ご質問の場合 あなたは、遺産の約半分を占めるA社の株式の遺贈を受けましたので、お父様の死亡とともに、その権利はあなたが取得することとなるはずでしたが、受遺者であるあなたがそれを放棄することにより、A社株式は、お父様の相続開始時に遡って、遺贈の対象財産ではなくなり、共同相続人全員が民法に定める割合に応じて権利を有する財産となったわけです。 最終的にあなた及び弟さんを含む相続人全員の遺産分割手続きにおいて、A社株式及びその他の遺産の分割が行われましたので、それに従った相続税の課税が行われることとなり、弟さんに対する贈与税の課税の問題は生じません。 (注) 被相続人が相続人に特定の財産を与える旨の遺言をした場合に、これが遺贈であるか相続分の指定であるか、又は遺産の分割方法の指定であるかが問題となることがあります。学説上の見解も分かれるところですが、本稿では遺贈が行われたものとして説明しています。   (了)

#No. 236(掲載号)
#梶野 研二
2017/09/21

相続空き家の特例 [一問一答] 【第12回】「被相続人居住用家屋が店舗兼住宅等であった場合の居住用部分の判定」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第12回】 「被相続人居住用家屋が店舗兼住宅等であった場合の居住用部分の判定」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年9月に死亡した母親の店舗兼住宅(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 母親は、相続の開始の直前において、家屋(居住専用部分:60㎡、併用部分:20㎡、店舗専用部分:40㎡)と土地(居住専用部分:30㎡、併用部分:100㎡)の利用状況で一人暮らしをしながら雑貨屋を営んでいました。 Xは、その店舗兼住宅の全部を取り壊して、その土地の全てを売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用対象となる被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積はいくらでしょうか。 A 被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、90㎡となります。 ●○●○解説○●○● 被相続人居住用家屋の敷地等のうちに非居住用部分がある場合における「被相続人の居住の用に供されていた部分」の判定については、その相続の開始の直前における利用状況に基づき、措通31の3-7(店舗兼住宅等の居住部分の判定)に準じて判定するものとされています(措通35-15(被相続人居住用家屋が店舗兼住宅等であった場合の居住用部分の判定)。 (1) 当該家屋のうちその居住の用に供している部分は、次の算式により計算した面積に相当する部分とする。 (2) 当該土地等のうちその居住の用に供している部分は、次の算式により計算した面積に相当する部分とする。 本事例において、相続の開始の直前の、家屋及び土地の利用状況を上記の算式に当てはめると、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、次のとおりとなります。 (1) 当該家屋のうちその居住の用に供している部分の面積 (2) 当該土地のうち居住の用に供している部分の面積 したがって、当該土地全体130㎡のうちの90㎡が、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分として、「相続空き家の特例」の適用対象となります。 なお、当該算式により計算した「被相続人の居住の用に供されていた部分」の面積が、その被相続人居住用家屋又はその被相続人居住用家屋の敷地等の面積のおおむね90%以上となるときは、措通31の3-8(店舗等部分の割合が低い家屋)に準じて取り扱って差し支えないとされています(特定居住用財産の買換え特例[一問一答]【第4回】の解説前段を参照)。 (了)

#No. 236(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/09/21

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第5回】「収益の認識基準③」-契約変更-

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第5回】 「収益の認識基準③」 -契約変更-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第2回】において、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)における収益認識のためのステップとして、次の5つがあることを解説した。 今回は、ステップ1の「顧客との契約を識別する」のうち「契約変更」を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 契約変更 1 定義 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう(収益認識会計基準(案)4項)。 「契約変更」とは、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更をいう(収益認識会計基準(案)25項)。 以下に述べるように、収益認識会計基準(案)は、契約変更について、所定の要件に基づき複数の処理を定め、①独立した契約として処理する場合に加え、②独立した契約として処理しない場合には、既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する又は既存の契約の一部であると仮定して処理することを規定している(「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)145項)。 「契約変更」については、次のことに注意する(収益認識会計基準(案)25項、112項)。 2 契約変更が独立した契約のケース 契約変更について、次の①及び②の要件のいずれも満たす場合には、当該契約変更を「独立した契約」として処理する(収益認識会計基準(案)27項)。 3 契約変更が独立した契約ではないケース 契約変更が収益認識会計基準(案)27項の要件(上記2の①及び②)を満たさず、「独立した契約」として処理されない場合には、契約変更日において未だ移転していない財又はサービスについて、それぞれ次の(1)から(3)のいずれかの方法により処理する(収益認識会計基準(案)28項)。 4 契約変更と取引価格 契約の当事者が「契約の範囲の変更」を承認したが、変更された契約の範囲に対応する「価格の変更」を決定していない場合には、収益認識会計基準(案)47項から49項及び51項に従って、当該契約変更により変動する取引価格を見積る(収益認識会計基準(案)26項)。 契約変更から生じる取引価格の変更と、変動対価の見積りの変更は、異なる経済事象の結果である(収益認識会計基準(案)114項)。 変動対価の見積りの変更は、契約における取引開始日に識別され合意された変数の変化から生じるものであるが、契約変更から生じる取引価格の変更は、契約の当事者間での独立した事後的な交渉から生じるものである(収益認識会計基準(案)114項)。 5 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)の【図表4】では、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」について、次のフローチャートによって、契約に変更があった場合の取扱いを述べている。 〈契約の変更の会計処理に関するフローチャート〉 (出所:「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)p22【図表4】) 6 契約変更に関する意見 例えば、以下の取引について、契約変更の会計処理に係る要件の判断に迷う可能性があるとして議論されていた(第349回企業会計基準委員会(2016年11月18日)の審議事項(4)-3、12項、15項、21項)。 上記のうち「① 建設工事における追加変更契約」については、国内において広く見られる重要な取引であり、我が国における同一業種内の会計処理の多様性を軽減する観点からの検討が必要であるが、一方、②及び③の取引については、処理の多様性を軽減する可能性はあるものの、①の取引に比べると重要性はないと考えられ、設例を作成する必要性は乏しいと考えられるがどうかとして検討された。 収益認識会計基準(案)の「[設例4]累積的な影響に基づき収益を修正する契約変更」では、建設工事を例にして、会計処理が示されている。   Ⅲ 重要性等に関する代替的な取扱い 収益認識適用指針(案)は、重要性等に関する代替的な取扱いとして、次の規定を設けている。 取引価格の変更額に重要性が乏しい契約変更については、一般的な重要性の適用によりIFRS第15号の定めに従った契約変更の会計処理に対する判断を行う必要がない可能性があると考えられるが、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)などへの要望を踏まえ、重要性に関する定めを新基準に含めることが考えられるとして、検討された(第358回企業会計基準委員会(2017年4月10日)の審議事項(5)-3、7項~16項)。   Ⅳ 会計システム等への影響 次の影響が考えられる(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)37項~39項)。 (了)

#No. 236(掲載号)
#阿部 光成
2017/09/21

ファーストステップ管理会計 【第15回】「事業部の評価」~ベーカリーがカフェ事業を始めたら~

ファーストステップ 管理会計 【第15回】 「事業部の評価」 ~ベーカリーがカフェ事業を始めたら~ 〔業績評価編①〕 公認会計士 石王丸 香菜子   ファーストステップ管理会計も、残り3回となりました。最終までよろしくお願いします! 今回と次回は、最後のテーマとして「業績評価」を取り上げます。   ◆カフェをオープンしました! さて、みなさんが経営するベーカリーが年々規模を拡大したとしましょう。ベーカリー事業が成功したため、ベーカリー経営のノウハウを活かしてカフェをオープンすることにしました。 これまでは、「ベーカリー」という単一事業でしたが、「カフェ」という異なる事業も行うことになったわけです。 企業が成長すると、多角化して複数の事業を営むことが増えてきます。   ◆多角化すると組織も変わる 企業が多角化すると、企業内の構造が複雑になるので、それに合わせて組織も変化するのが一般的です。 単一事業の場合には、機能ごとに部門を設けて管理すれば足りることが多いと言えます。イメージとしては、(図A)のような職能別の組織です。 (図A)職能別組織 一方、企業が複数の事業を営むようになると、(図B)のように事業分野ごとに組織を作るほうが便利な場合があります。 (図B)事業部制組織   ◆何を尺度に業績を評価するか 企業内の組織やヒトの業績を評価する場合、「絶対にこうあるべき」という答えはありませんので、以下ではあくまでも一般論として考えてみます。 各部門の業績を評価する際は、「その部門がどのような責任を負っているか」を考えるべきです。 例えば、(図A)のような職能別組織の場合、店舗での売上高が低いからと言って、製造部の業績を低く評価するのはかわいそうですね。また、パンの製造過程を改良してコストを節減できた際に、店舗運営部のメンバーを高評価するというのも腑に落ちません。 つまり、職能別組織の場合には、各部門の職能に対応する責任を考え、コストについて責任を持つ部門(製造部や工場など)はコストを尺度として、売上について責任を持つ部門(営業部など)は売上を尺度として、それぞれ評価するのが合理的と言えます。   ◆事業部はどう評価するか 一方、(図B)のような事業部制組織の場合、各事業部をどのように業績評価すべきでしょうか。 この場合、各事業部はいわば小さな1つの企業のように機能するので、それぞれの事業部が利益(売上とコストの差額)について責任を負うと考えることができます。 さらに、事業部や事業部長に強い権限を与えて多くを任せている場合には、利益だけでなく利益を生み出すために行った投資についての責任も、各事業部が負うことになります。職能別組織のように、「コスト」や「売上」といった1つの尺度を用いて業績評価するわけにはいかないので、話がややこしくなりますね。   ◆ベーカリー事業部とカフェ事業部の業績を評価しよう 経営者であるみなさんは、ベーカリー事業部とカフェ事業部に投資判断を含めた多くの権限を与えて、自らは本社で経営に専念しているとします。 次の当期のデータをもとに各事業部の業績を評価してみましょう。 固定費のうち、個別固定費は、各事業部で個別に生じる固定費(例えばベーカリーやカフェの店舗賃借料など)です。事業部に直接跡付けることのできる固定費と言えます。 一方、共通固定費は、企業全体のために生じた固定費(例えば経理・総務担当者の給料など)です。共通固定費は、何らかの基準(例えば各事業部の人員数など)で便宜上割り振るほかありません。 また、各事業部で投下した資本(例えば製造設備や店舗備品など)の総額は、次の通りです。この投資を行ったことで、上記の利益を生み出すことができたと考えます。 ◆気になるカフェ事業部の業績は? 共通固定費は、企業全体としては生じてしまうものの、各事業部に直接的に跡付けることができませんので、各事業部の業績の評価の際には考慮すべきではありません。各事業部に直接的に跡付けることができる部門利益が重要です。部門利益を見ると、始めたばかりのカフェ事業部の業績も悪くないようにも思えます。 しかし、ここで注意したいのは、各事業部は、利益だけでなく、投資についての責任も負っているという点です。   ◆投下した資本を効率的に使っているか 同じ利益を上げるために、巨額の投資を行った事業部と、少額の投資で済ませた事業部とでは、どちらが業績が良いと評価できるでしょうか。 事業内容の違いがあるので、一概には言い切れませんが、一般的には、少額の投資で効率的に利益を稼いだ事業部のほうが、業績が良いと評価すべきですよね。 つまり、投資責任を負っている事業部の評価尺度には、投下した資本に対する利益の比率を利用するのが合理的です。 各事業部について、投下資本に対する利益の比率を求めてみます。 投下資本に対する利益の比率は、ベーカリー事業部のほうが大きいので、ベーカリー事業部のほうが効率的に資本を活用して利益を稼いでおり、業績が良いと評価できます。 このような投下資本に対する利益の比率を、投下資本利益率(Return On Investment:ROI)と呼びます。ROIは投下資本に対する利益を比率で表したものなので、規模の異なる事業部同士の比較も可能です。   ◆投資には資本コストがかかっています 前回も登場した考え方ですが、企業が投資のための資金を調達するには「資本コスト」がかかっています。負債で調達する場合には利息が、株式で調達する場合には配当と値上がり益が、調達の見返りとしてかかるのでしたね。 投資をして事業を行うからには、この資本コスト率を上回る利益率を達成する必要があります。つまり、事業部が最低限達成すべきROIの目安は資本コスト率であると考えることができます。 仮に、みなさんの企業の資本コスト率が11%とすると、カフェ事業部のROIはこれを下回っていますので、今後のカフェ事業部の運営の在り方を慎重に検討する必要があります。   ◆資本コスト率はどうやって計算するか 本題から少しそれますが、実際に資本コスト率を算定するのは、意外に厄介な作業です。 資本コスト率のうち、負債コスト率と株主資本コスト率の値は異なりますので、それぞれの構成割合に応じて各率の加重平均を取る方法が一般的です。 負債コストである利息は、税金の計算上、費用として扱われますので、節税効果(税金の支払を少なくする効果)があります。そのため、負債コスト率にはこの分を加味します。これに対し、株主資本コストである配当などは、税金の計算上、費用扱いにはなりません。 また、負債コスト率は借入などの利率ですので、容易に判明しますが、株主資本コスト率は、その値が明確ではありません。そのため、株主資本コスト率は、仮定を置いて推計することになります。CAPMという理論を用いる方法がよく知られていますので、あくまでも参考として紹介します。 ・・・資本コスト率の算定が厄介なことだけは一目瞭然(!)といったところでしょうか。 ここで理解していただきたいのは、難しい理論ではなくて、株主資本コスト率は多くの仮定や見積もりを含めて推計するほかないということです。 仮定や見積もりを多く含むので、最終的な資本コスト率は、経営者が総合的判断を含めて妥当な値として設定するのがよいと考えられます。   ◆ ROI以外の尺度はないの? 事業部やその責任者である事業部長の業績を評価する尺度は、ROI以外にもあります。特に、事業部長の業績を評価するにあたっては、ROIでは不都合なケースもあるのです。 次回も引き続き、業績評価について説明していきます。 (了)  

#No. 236(掲載号)
#石王丸 香菜子
2017/09/21
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