税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第3回】 「農地法と農業委員会(その2)」 税理士 島田 晃一 前回は農地の定義と農地を売却する場合の許可又は届出(農地法第3条、農地法第5条)について見てきた。今回は、まず、農地の売却等をせず宅地等に転用する場合の手続きから見ていこう。 1 農地の転用に伴う許可(農地法第4条における許可) 農地を宅地等に転用するため、その農地や農地に対する賃借権を譲渡する場合は、前回述べたように農地法第5条の許可(5条許可)が必要である。 一方、農地等の所有権移転がなく自己がその農地を他の用途に転用する場合についても農地法の許可が必要になる。具体的には、農地法の第4条に規定されている許可(4条許可)を受けなければならない。 例えば、農地であった土地を宅地に転用し賃貸住宅を建築するといった場合には、この4条許可が必要になる。 4条許可と前回述べた5条許可に係る許可基準には、「立地基準」と「一般基準」がある。このうち立地基準は次のとおりである。 (※) 農林水産省ホームページより抜粋及び一部改訂 一方、一般基準は申請時の転用目的が実現可能かどうかや、周辺の他の農地や農業経営に何らかの支障を起こさないかどうかにより許可・不許可が判断される。 2 許可・届出のための手続き 4条許可、5条許可は都道府県知事から受けることになっているが、許可申請書は農業委員会を経由して都道府県知事等に提出する形になる。ただし、4ha以上の大規模な農地に関しては都道府県知事と農林水産大臣との協議が必要になるため、都道府県知事に申請書を提出する。 なお、市街化区域内の農地に関しては、4条許可及び5条許可ともに都道府県知事の許可は不要であり、農業委員会への届出を行えば転用することができる(農地法第4条1項7号又は農地法第5条1項6号による届出)。 3 登記地目の変更 農地転用許可を受けた後や転用届出を行った後は、転用許可書や届出受理書をもって登記地目変更を行う。ただし、全域が市街化区域になっている自治体の中には法務局登記官の照会だけで届出受理書の提出を省略している自治体もある。 不動産登記法上は、地目変更があった日から1ヶ月以内に地目変更登記を行わなければならないとされ、行わないときは10万円以下の過料が課される。ただし、この罰則が厳密に適用されることが少ないため、宅地転用された後であっても登記地目が農地(田・畑)となっている場合が散見される。 特に、4条許可による転用についてこのような事例が見受けられる(4条許可により宅地転用を行いその土地に建物を建築する際、金融機関から建築資金の融資を受けるときは地目変更が必要になる)。一方、5条許可を受け転用・売却を行うときは、通常、地目変更を行うことが売買条件になっているため地目変更登記が必須になる。 4 農業委員会 (1) 農業委員会とは 農業委員会とは各市町村に設置される機関で、「農業生産力の発展及び農業経営の合理化を図り、農民の地位向上に寄与されること」を目的としている。 農業委員会の電話番号は各市町村のホームページに掲載されている。もし分からなければ、代表電話で取り次いでもらえばよい。なお、東京都千代田区や中央区など農地がない自治体には農業委員会は設置されない。委員会の構成は各自治体により異なる。 例えば、東京都世田谷区の場合には、公職選挙法を準用した選挙による委員15名、農協等による選任委員2名、学識経験者3名の計20名により構成されている。また、委員の任期は3年となっている。 (2) 農業委員会に提出する申請書・届出書一覧 農業委員会に提出する農地の転用・所有権移転等に係る申請書・届出書については、前回を含めこの連載で述べてきたところであるが、ここで改めて一覧表としてまとめてみた。 (3) 農業委員会と税務(農地の納税猶予) 農地に係る相続税の納税猶予を受けるためには、農業委員会が発行する「適格者証明書」の相続税申告書への添付が必須である。「適格者証明書」の発行は、発行申請書に、納税猶予の適用を受ける農地に係る遺産分割協議書又は遺言書の写しを添付する必要がある。 この申請があった後、農業委員会の会合において承認を受け「適格者証明書」が発行される。ただし、農業委員会の会合は原則として月1回なので、相続税の申告期限から逆算し、早めに農業委員会に申請書を提出する必要がある。 * * * 以上、農地法と農業委員会について簡単にみてきた。いずれも農地を売却したり農地を相続する場面においては必須の知識である。したがって、農地を所有しているクライアントがいる場合には必ず抑えておきたいところである。 (了)
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第8回】 「陥りがちなF/Sのワナ」 中小企業診断士 西田 純 前回は、「総合性」をキーワードにF/Sの結果を多面的に判断するうえでのポイントについて解説しました。今回はF/Sを実践するうえで担当者が陥りがちな情報共有面のワナについて触れます。 膨大なデータを処理して将来のビジネスをモデル化し、その帰趨を確かめるというF/Sのプロセスは、どうしても担当者を他から隔離しがちになります。外部とのコミュニケーションに気を付けていても、蓋を開けてみればお互いにビックリ、というようなパターンが珍しくありません。予想しなかった彼我の距離感は、やがて組織内の壁を生むことにもなりかねない要素です。なぜそんなことが起きるのか、そうしないためには何が求められるのかについて解説してみたいと思います。 ▷ 関係者が皆、同じ将来展望を共有できているわけではない 仮に今、あなたが社運を賭けたF/Sを担当していたとします。難しい地域で前例のないビジネスを立ち上げるための調査ということで、準備には万全を期そうとします。努力の甲斐あって、経営者の強いサポートも得られ、定期的に情報共有のための報告会も開催し、常に初期目的を振り返る体制も作ったとしましょう。でも、そこまでやればF/Sの結論は、たとえそれがどんなものでも100%社内で受け入れてもらえるものなのでしょうか? 社内外のさまざまな関係者の間には、そもそも将来展望に関する認識の時間差や温度差が存在しています。F/Sチームとしては、自らの仕事がどのような進捗を示しているのかについて情報開示することはできても、それをさまざまな関係者がどのように消化するかについてまで配慮することまではなかなか対応できないのが普通です。同じタネ、同じ肥料を同じように施しても、畑が異なれば野菜の収穫量が異なるように、それぞれの置かれた立場によってF/Sの受け取り方は異なってくるということを認識しておきましょう。 よくあるパターンですが、シナリオ作りで楽観論・中立論・悲観論の3パターンを設定するとして、立場によってその前提条件についての考え方が微妙に変化したりします。 また、楽観論および中立論で満足できる収益性が期待できるという結論になる場合でも、悲観論で同じことが言えるという保証はなく、むしろ「悲観論の場合は想定した収益が確保できない」という結論になることが珍しくありません。それを「3つのシナリオのうち2つが満足できるので、プロジェクトを前に進める」という結論にするのか、あるいは「3つのシナリオのうち1つが満足できないので、プロジェクトは棄却する」という結論にするのか、それはひとえに意思決定によるものだということです。 ▷ 意思決定とシナリオは相互的に関係していて、思わず先走りしてしまうことがある F/Sチームに所属して仕事をしていると、この意思決定を常に意識しながら仕事をする立場に置かれるのですが、そうすると思考はどんどん深化してしまい、事業のその後や客先との関係、担当者の将来といったことまで考えが及ぶようになります。半年も同じことを繰り返していると、今度はその深化した思考がシナリオそのものにも微妙に影響を与えるようになってきます。楽観論の場合でも、無視できない外部環境の変化に気づいたり、逆に悲観論の場合でも将来の役に立つような条件が現れてきたりします。 気づいた担当者としては、当然そのような変化を自らの仕事に反映させ、深化したシナリオに基づいた分析を進めようとするのですが、そうすると最初の段階で社内に説明したシナリオとはズレを持った状態で仕事を進めることになったりします(豊洲市場の盛り土についての事件は記憶に新しいところだと思います)。 ズレが懸念されるようになった段階でいったん立ち止まって情報共有が図れていれば問題ないのですが、忙しいと人間はどうしても短絡的な対応を取ってしまうことがあります。時間がない、面倒くさい、ややこしい、重要度が低い、後で話をすればよい、すぐに説明しなくても直接の影響はない等の判断や自己抑制が働いて、実際には違ってきているのにそれまでと同じ前提条件のまま説明を続けたり書類を作成したりする、という対応を取る例も少なくありません。 それが積み重なると、いつの間にかF/Sそのものの信頼性についてチーム内外で認識の差を生むことにつながったりします。「F/Sチームは勝手なことをやっている」といったような噂が立つ例は、案外このような小さなほころびが原因となる場合がありますので注意してください。 ▷ 忙しい中でどのように情報共有を進めるのか よく行われるのが定期的な報告会の実施ですが、それ以外にもF/Sチームの各メンバーが自ら各方面に出向くなどして積極的な情報開示に努めるという方法がありえるでしょう。ただし、この方法が機能するためにはメンバー間で進捗に関する認識が統一されている必要があり、そのためにはまずチーム内でしっかりとした情報共有がなされている必要があります。 チームリーダー、あるいはプロジェクトマネージャーと呼ばれる責任ある立場の人は、チーム内外との情報共有について常に注意を払うことにより、適切なタイミングで情報発信を行うよう目配りをすることが求められます。新規事業を確実に成功させるためのF/Sが、社内に無用な疑心暗鬼を招く根源になったりすることのないよう、コミュニケーションには十分注意を払うようにしてください。 * * * 次回は、情報の裏付け取りとその重要性についてお話しします。 (了)
税務ピンポイント解説 【第5回】 「金融庁が平成29年度税制改正で創設を要望している「積立NISA」とは?」 Profession Journal 編集部 年末に向けて平成29年度税制改正の議論が高まっていくなか、金融庁からの改正要望の中に「NISA(少額投資非課税制度)」を拡充した「積立NISA」の創設が盛り込まれ、注目を集めています。 NISAは平成26年に創設され、20歳以上の人を対象として、株や投資信託などの運用益や配当金を一定額非課税にする制度です。NISA口座で取引をすると、年間投資金額120万円までの株式投資や投資信託にかかる値上がり益や配当金(分配金)が最長5年間非課税となる税金面のメリットが受けられます。また、昨年度の税制改正では、19歳までの未成年者を対象とした「ジュニアNISA」が創設されていることは周知のとおりです。 NISA口座開設数(ジュニアNISAを含む)は、本年6月現在で1,030万口座を超えており着実に普及していますが、積立による利用は、総口座数の1割以下、口座を開設しただけで、株式等を全く購入していない口座が半数以上存在しており、一層の活用策が求められています。 金融庁は、こうした課題を克服すべく、開設したまま利用されていないNISA口座の活用化のために「積立NISA」を創設し、NISAのさらなる普及・改善を促したい考えです。 この「積立NISA」ですが、年間投資上限は現行制度の半分の60万円と少額で、非課税期間は現行制度の4倍の20年とされるなど、より少額で長期に分散した投資が行えることから、これまでに比べて投資しやすい制度となっています。新制度ですが、現行のNISAと選択適用となっています。 投資対象商品は、現行NISAが上場株式等・公募株式投信であるのに対して、積立NISAではバランス型ファンド、非毎月分配型ファンドなどと呼ばれる長期の積立・分散投資に適した一定の投資商品が見込まれています。 なお、現行NISAが平成35年までの時限立法であるのに対し、新制度は恒久的措置として要望されています。 (了)
《編集部レポート》 第43回日税連公開研究討論会が沖縄で開催 Profession Journal 編集部 日本税理士会連合会(神津信一会長)は、平成28年11月4日(金)、第43回日税連公開研究討論会を沖縄で開催した。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 討論会に先立ち行われた記者会見の席で、神津会長は、過去の討論会で提言された事項である三世帯同居特例などが税制改正に結実したしたことなどを挙げ、実務家ならではの視点から税制等の検討がなされる本討論会の意義を説明した。 (神津信一日本税理士会連合会会長(左から3人目)) 今回の研究発表の担当は、九州北部税理士会、南九州税理士会、沖縄税理士会の3税理士会(7グループ)が担当し、それぞれ次のテーマで発表を行った。 「税理士が行う租税教育等の意義と課題」(九州北部会) 「中小企業を巡る税制上の諸問題-区分、法人成り、役員給与-」(南九州会) 「地方創生における税理士の果たす役割」(沖縄会) 会場には、全国より900名以上の税理士が集まったほか、中里実政府税調会長も姿をみせ、2年にわたる研究の成果に聴き入っていた。 (了)
《速報解説》 ASBJより「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」が公表 ~移管に伴う実質的な内容変更は意図せず~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年11月9日、企業会計基準委員会は、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第59号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、日本公認会計士協会の「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第63号)などについて、企業会計基準委員会に移管するためのものである。 意見募集期間は平成29年1月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 次のものについて、基本的にその内容を踏襲した上で表現の見直しや考え方の整理等を行っており、実質的な内容の変更は意図していないとのことである。 1 範囲 次の事項に適用する。 以下のものは公開草案の適用範囲に含まれていない(公開草案24項~25項)。 2 会計処理 3 更正等による追徴及び還付 4 開示 上記のほか、貸借対照表における表示、受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税、外国法人税、更正等による追徴及び還付についても規定している。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 金融庁、リスク分担型企業年金に関する 財務諸表等規則等の改正(公開草案)を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年11月7日、金融庁は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、企業会計基準委員会が公表した「退職給付に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第58号)、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第47号)などに対応するものである。 意見募集期間は平成28年12月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 財務諸表等規則及び連結財務諸表規則 2 財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドライン 財務諸表等規則ガイドライン8の13の2において次のように規定する。 連結財務諸表規則ガイドライン15の8の2は、「財務諸表等規則ガイドライン8の13の2の取扱いは、規則第15条の8の2に規定する確定拠出制度に関する注記について準用する。」とする。 Ⅲ 適用時期等 企業会計基準委員会の公開草案の結果を踏まえ公表される企業会計基準「退職給付に関する会計基準」等の適用日と同日から施行予定である。 (了)
《速報解説》 東京局、サブリース物件の措置法65条の8適用時における 9号買換えの買換資産の範囲及び面積要件について 文書回答事例を公表 税理士 菅野 真美 東京国税局は10月20日付け(ホームページ公表は11月2日)で、サブリース物件が措置法65条の8の特例を受ける場合の、9号買換えにおける買換資産の範囲及び面積要件について、下記の文書回答事例を公表した。 ▷どのような事案を事前照会したのか? 当社は、40年以上国内に所有していた建物とその敷地を平成28年7月にA社に売却した。A社は建物を取り壊して9階建てのオフィスビルを建設し、完成後、当社は2階から4階までの3フロアの専有部分の区分所有権と区分所有する床面積合計1,491.93㎡に応じた土地の敷地利用権合計311.39㎡を取得し、1年以内に事業の用に供する予定である。なお、当社は3フロアのうち、2フロアは自社の事務所として利用し、1フロアはA社か賃借し、第三者に事務所として転貸する予定である。 この譲渡について措置法65条の8(特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例)の規定の適用を受けようと考えている。この特例の適用を受けるための要件として土地等は特定施設の敷地の用に供されていること、敷地面積が300㎡以上であることがある。この事案について、これらの要件を満たしているか。 ▷何が問題か? 措置法65条8の事業用資産の買換えの特例は、要件を満たした場合は、譲渡益の80%が繰り延べられるものである。 この要件の1つとして、土地等が特定施設の敷地の用に供されていることがある。特定施設とは事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設に該当するものを除くとされている)と定義され、所有や使用の主体が誰かを規定していない。 本件においては、当社がA社に賃貸し、A社が転貸して事務所の用に供されることが予定されているが、このような権利関係の場合においても特定施設の敷地の要件を満たすことになるのか。 また、敷地の面積が300㎡以上に限るとされている。措置法通達65の7(1)-30の3(長期所有の土地等の買換えに係る面積判定)において、区分所有に係る特定施設の敷地の用に供されているものについては、土地等の総面積に法人の専有部分の床面積の総床面積に占める割合を乗じて計算するとされている。また、特定施設に該当するかは、区分所有建物については、最低単位である独立部分ごとに判定することになる。 このケースのように3フロアが別々に区分所有された建物の敷地利用権について、300㎡以上か否の判定は3フロアの合計面積で行うのか、1フロアごとに個別判断を行うのか。 ▷結論は? 〇誰が所有し誰が利用しているかではなく、何のために利用しているかで考える 敷地利用権は土地等の新たな取得に該当し、賃貸オフィスビルを主目的として建設された建物の2フロアを自社の事務所用として利用し、1フロアはマスターリース契約により転借人が事務所として利用する予定であると考えられることから、3フロアとも事務所の用に供される。よって、3フロアのすべての敷地利用権が、特定施設の敷地の用に供されられる土地等に該当する。 〇一の取引で複数の区分所有権等を取得した場合は、合計面積で判断する 区分所有された敷地利用権はすべて特定施設の敷地の用に供する土地等に該当し、一の取引で3つの専有部分をまとめて取得していることから、3フロアの敷地利用権の面積の合計額311.39㎡で判断し、300㎡以上であることから面積要件も満たされる。 (了)
《速報解説》 国税庁、「国際戦略トータルプラン」で 『重点管理富裕層』への取組みを明らかに Profession Journal編集部 国税庁が10月25日付けで公表した「国際戦略トータルプラン-国際課税の取組の現状と今後の方向-」は、経済社会が国際化する中で、いわゆる「パナマ文書」やBEPSの動向等を通じ国民の関心が高まっている国際的な租税回避行為に対し、国税庁の取組みと今後の方向を明らかにしたもの。 国税庁はこれらの取組みを通じ、富裕層や海外取引のある企業による海外への資産隠しや国際的な租税回避行為に適切に対処するとともに、新たに生じる国際課税上の課題に積極的に対応するとしている。 〇富裕層PTは平成29事務年度から全国展開へ トータルプランで注目すべきは、超富裕層に関する情報収集を行う「重点管理富裕層プロジェクトチーム(富裕層PT)」の取組みについて、公の資料によって明記された点だろう(p12)。 富裕層PTは、従来の富裕層に対する取組みに加え、富裕層に関する情報収集機能を更に強化するという観点から、平成 26(2014)事務年度(平成26年7月~)より、東京、大阪及び名古屋の各国税局に設置された。 富裕層 PT では、富裕層の中でも特に多額の資産を保有していると認められる納税者を「重点管理富裕層」とし、その関係者や主宰法人、関連する法人を「管理対象者グループ」として一体的に管理して情報を収集した上で、その情報の分析・検討を行っている。 この分析の結果、調査が必要と認められた場合には、「調査対象者の態様に応じ、複数の調査担当部署による連携調査を始めとした組織的な調査体制を編成し、関係部署と十分な連絡をとった上で、総合的な調査を的確に企画・実施する」としており、主宰する法人との取引等を含めた総合調査が想定される。 なお現在、富裕層PTは3つの国税局(東京・大阪・名古屋)にのみ設置されているが、平成29(2017)事務年度(平成29年7月~)からは他の国税局へも展開するなど、全国的な取組みとする方針であることが示されている。 〇目的は納税者への牽制効果? トータルプランには、国内外の資産の保有・移動状況を把握するための各方策について、制度概要及び現行の取組み状況や今後のスケジュール等が説明されている。記載された方策を列挙すると次のとおり。 財産債務調書の提出といった納税者からの直接的な情報収集だけでなく、国外送金等調書など金融機関からの報告や、租税条約等を通じた国家間による情報交換など、多方面からの情報収集策が整備されつつあることが見て取れる。 なお、トータルプランには取組みとしての記載はされていないが、いわゆるマイナンバー(個人番号)の導入は、国外送金等調書や財産債務調書、国外財産調書にもそれぞれ記載が求められることから、これらの実効性を強化するのは間違いないだろう。 ただし、今回のトータルプラン公表には、上記の方策を用いても国際的な課税逃れを実際に補足するのは困難なため、納税者への牽制効果を狙うという目的もあるのではないだろうか。特に国外財産調書及び財産債務調書はその年の12月31日における財産状況を把握する必要があり、これから年末にかけて、一定の資産を保有する者は国内外の財産状況を収集しなければならないことから、これらの動向に対する牽制の効果は大きいと考えられる。 〇金融商品を用いた租税回避阻止の取組みも また着目しておきたいのが、資料p13にある下記の記述だ。 国際的な租税回避の手段としてデリバティブ(金融派生商品)などの金融取引が利用されるケースも多いが、複雑・高度化する金融商品への課税の取組みに国税庁が本腰を入れ始めたという見方もできよう。今後の制度改正も含めた動向には注視が必要だ。 (了)
2016年11月2日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.192を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.46- 「アベノミクスのアキレス腱」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 安倍政権の本質がポピュリズムであることは、多くの識者が指摘しているところだが、今回の配偶者控除の見直し議論は、それを物語っている。 そもそも安倍政権が自ら掲げる一丁目一番地の政策は、働き方改革だ。同一労働同一賃金のガイドライン作り、無限定正社員システムの見直し、金銭解雇制度の是非など様々な論点があり、大きな議論と強いリーダーシップが必要な改革である。 労働力不足が深刻になりつつある中で、女性の就労を阻害している「103万円の壁」の原因となっている配偶者控除制度の見直しは、働き方改革として極めて重要なことと思われた。 ところが総選挙の風が吹き始めた途端、その議論がストップしてしまった。見直しにより、専業主婦家庭の税負担が増えると、選挙にマイナスだということのようだ。 他方で、配偶者控除の適用を150万円程度(収入ベース)に引き上げるという小手先の議論が進んでおり、そうなれば新たに「150万円の壁」が生じる。これを行っても、パート本人の収入が130万円を超えると「本人に税負担が生じる」という点は変わらない。 もう一つの壁である「130万円の壁」はどうか。こちらの方は、2016年10月より、従業員501人以上の企業では保険適用を拡大し、年収106万円以上となった。改正の方向は間違ってはいないが、中途半端な改革は新たに「106万円の壁」を作ることとなった。 安倍政権の下で行われているのは、パッチワークのような名前だけの改革であり、抜本的な改革には手が付けられていない。 * * * 欧米では、このような壁を「貧困の罠」(ポバティー・トラップ)と称して、抜本的な対策を導入している。それは、低所得者に対して勤労に応じて税と社会保険料負担を軽減する「勤労税額控除」という制度である。 有名なのは英国(ユニバーサルクレディット)とオランダの制度であるが、米国やスウェーデン、さらには韓国でも勤労奨励税制という名前で導入されている。 英国はブレア政権が導入し、保守党政権のキャメロン政権もそれを引き継ぎ、勤労インセンティブの向上に大きな成果を上げている。オランダでは、この制度で「オランダ病」を「オランダの奇跡」に変えた。 いずれの制度も、税と社会保険料負担を一体としてとらえて、勤労により一定の所得に達するまで負担軽減や給付をするという制度で、名前は「税額控除」だが、実態は「社会保障給付」である。 わが国でも、政府税制調査会が先進諸国の導入状況の調査を行っている。ホームページに掲載された報告書を一覧にまとめると、以下のとおりである。 勤労税額控除の評価(16年3月政府税制調査海外調査報告書からの抜粋) (※) 筆者作成 なぜわが国では、このような政策が導入されないのか。それは、税と社会保障が別の官庁で所管される「霞が関の壁」があるからだ。筆者はそれを「バカの壁」(自分の知りたくない情報は遮断し、それ以上の思考を停止させる自らの脳の行い)とも呼んでいる。 より根本的な原因は、安倍政権の税・社会保障への関心の低さである。ここにアベノミクスの落とし穴がある。金融政策で将来の「期待」に働きかけても、社会保障の将来に「不安」がある状況では、全く効果はないではないか。 (了)