企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の制度解説 【第2回】 「対象となる寄附・寄附先等の要件」 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 今回は本制度を適用するための要件について確認していく。本制度は、各地方公共団体において地域再生計画を策定の上、内閣総理大臣の認定を受け、その上で、企業に寄附を募り、各企業がこれに応じ寄附を実施することで各企業において所定の税額控除を受けることができる。 1 対象法人 青色申告書を提出する法人であること。 2 対象となる寄附先 (1) 認定地方公共団体 地域再生法第8条第1項に規定する認定地方公共団体に対する一定の寄附であること。地域再生制度とは、地域経済の活性化、地域における雇用機会の創出その他の地域の活力の再生を総合的かつ効果的に推進するため、地域が行う自主的かつ自立的な取組みを国が支援するものである。 地域再生法に基づく認定制度は、地域が行う地域再生のための自主的・自立的な取組を総合的かつ効果的に支援するため、地方公共団体が作成しその認定を申請する地域再生計画について内閣総理大臣が認定し、国は認定を受けた地域再生計画に基づく事業に対し特別な措置を講じるものである。この内閣総理大臣の認定を受けた地方公共団体を「認定地方公共団体」という。 ただし、寄附を受ける地方公共団体が次に掲げる場合には、本制度の対象とはならないことに注意が必要である。 ① 都道府県 後述する「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」を行おうとする年度の前年度において、普通交付税の交付を受けていないこと。 ② 市町村 次のいずれにも該当すること。 具体的には、次に掲げる地方公共団体が本制度の対象外となる(「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P7)。 (2) 認定地方公共団体からの経済的利益供与の禁止 なお、認定地方公共団体は、まち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附を行う法人に対し、寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与してはならないとされる。 例えば、以下の行為を行ってはならないとされる(「地域再生計画認定申請マニュアル(抜粋版)〈地方創生応援税制関係〉(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P4)。 3 対象となる寄附(特定寄附金) 本制度の対象となる「特定寄附金」とは、認定地方公共団体に対して当該認定地方公共団体が行ったまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金をいう。 ただし、寄附をした者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものは除かれる。 「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」とは、認定地方公共団体の作成した認定地域再生計画に記載されているものをいう。 具体的には、次に掲げる要件をすべて満たした事業である。 本制度で想定される事業としては、例えば、次に掲げるようなものがある。 また、法人からの寄附については、次に掲げる要件を満たす必要がある。 寄附の払込みについては、地方公共団体がまち・ひと・しごと創生寄附活用事業を実施し、事業費が確定した後に行うこととなる。また、本制度の対象となる寄附は、確定した事業費の範囲内までとなる。 4 適用事業年度 特定寄附金を支出した日(平成28年4月20日~平成32年3月31日に支出したもの)を含む事業年度において税額控除が適用される。ただし、解散(合併による解散を除く)の日を含む事業年度と清算中の各事業年度は除かれる。 〈地方創生応援税制のフロー図〉 (※) 「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P4より (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第4回】 「別表6(21) 雇用者給与等支給額が増加した場合の 法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、最近創設された制度での中で比較的適用できるケースが多いにもかかわらず、書籍等での掲載頻度が少ない「別表6(21) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12の4第1項の規定(いわゆる「所得拡大促進税制」)の適用を受ける場合に作成する。 これは、平成25年4月1日から平成30年3月31日までに開始する事業年度において、以下の(イ)、(ロ)及び(ハ)の要件をすべて満たした場合、国内雇用者(注1)に対する給与等支給増加額について、その支給増加額の10%の税額控除ができる(当期の法人税額の10%、中小企業者等は20%が上限)制度である。 (イ) 給与等支給額(注2)が基準事業年度(注3)の給与等支給額と比較して次に掲げる事業年度の区分に応じた割合以上増加していること。 (※1) 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいう。 (ロ) 給与等支給額が前事業年度の給与等支給額を下回らないこと。 (ハ) 平均給与等支給額(注4)が前事業年度の平均給与等支給額を超えていること。 なお本別表の所得拡大促進税制と似たものに、雇用促進税制(「別表6(18) 雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」)がある。雇用促進税制は厚生労働省が所管であるが、所得拡大促進税制は経済産業省が所管であり、それぞれ異なる制度となっている。これらの制度はである。 Ⅲ 「別表6(21)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成27年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 [基準雇用者給与等支給額の計算]欄 [比較雇用者給与等支給額の計算]欄 [平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算]欄 〔22欄〕から〔27欄〕までの各欄は、「適用年度」の①欄、「前事業年度又は前連結事業年度」の②欄にそれぞれ分けて記入していく。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例38(財産評価)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆旗竿地 袋地から延びる細い敷地で道路(公道)に接するような土地をいい、その形が竿のついた旗に似ていることから旗竿地と呼ばれる。 ◆無道路地の評価(財産評価基本通達20-2) 無道路地とは、道路(注1)に接しない宅地又は接道義務(注2)を満たしていない宅地をいう。無道路地は、道路に面している画地に比べるとその利用価値が低いため、道路に面した画地の価額である路線価を補正してその価額を評価する。 具体的には、無道路地を不整形地として評価した価額から、接道義務に基づき最小限度の通路を設けた場合の通路開設費を控除して評価する。したがって、無道路地の評価額は通常の不整形地の評価額より低くなる。 (注1) 建築基準法における道路とは、原則として「幅員4m(特定行政庁指定区域内においては6m)以上の一定のもの」をいう(建築基準法第42条第1項)。 (注2) 建築基準法においては、原則として「建築物の敷地は、道路に2m以上接していなければならない。」と定められている(建築基準法第43条)。 接道義務は、地方公共団体が条例により、必要な制限を付加することができることとなっている。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第15回】 「不当の解釈」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、不動産関連で否認された事案として、東京地裁平成元年4月17日判決、福岡地裁平成4年2月20日判決、福岡高裁平成11年11月19日判決についてそれぞれ解説を行った。 本稿では、不当の解釈として、非同族対比説によるのか、合理的基準説によるのかが、第一審と控訴審、上告審でそれぞれ判断が分かれた事件である明治物産株式会社事件について解説を行う。 10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618) (1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068) (2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103) (3) 裁判所の判断 (4) 評釈 本事件は、同族会社が合併の前に行った株式の買取りが、清算所得税逋脱の目的があることを理由として、買取代金を合併交付金とみなして同族会社等の行為計算の否認を行った事件である。現在とは、法体系が大きく異なることから、現在の組織再編税制からは想像し難い事件である。また、本事件では、第一審から上告審まで納税者が勝訴しており、やや国側の主張に無理があるようにも思われる。 本事件では、「逋脱の目的」という文言が散見されるが、本事件が昭和20年の課税所得に対する事件であり、昭和25年税制改正前であったことを考えると、当時の同族会社等の行為計算の否認の規定ならではの内容であると思われる。もし、同一の事件が昭和25年税制改正後であれば、「逋脱の目的」という文言はこれほどまでに散見はされなかったであろう。 さらに、第一審では、非同族対比説を採用し、控訴審、上告審では経済合理的基準説を採用しているというのも本事件の特徴である。いずれ、本連載でも明らかにするが、ヤフー・IDCF事件までは経済合理的基準説を採用する租税法学者がほとんどであり、本稿校了段階でもその傾向はあまり変わっていないように思われる。 本事件そのものは、同族会社等の行為計算の否認に対する裁判所の考え方を知るうえで重要なのかもしれないが、最高裁判決にあるように、「右規定の施行前の案である本件についてはかかる課税はなし得ない」というのは当然であり、納税者が勝訴すべくして勝訴した事件であるということができる。 これに対し、上告理由として上告人たる芝税務署長が行った主張を見てみると、 といった主張がなされており、「逋脱の目的」を「制度の濫用」と置き換えれば、ヤフー・IDCF事件で新たに生じた租税回避の概念に近くなっていく。 また、斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号31頁において「純経済人を前提とすれば、『租税回避以外にまったく正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合』は、むしろ稀であり、通常は少なくともその行為又は計算には事業目的がないとはいえないこととなる。」と主張されているが、本事件の上告理由に記載されている「強いていえば概して会社の行為は合理的経済行為であるといいうる」という主張と極めて類似している。 ヤフー・IDCF事件では唐突に租税回避の定義が変わっていたが、本来であれば、より慎重な検討が必要になるように思われる。 なお、本稿では解説を行わなかったが、矢内一好著『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』(財経詳報社、平成27年)124-125頁では、非同族対比説の判例として、東京高裁昭和40年5月12日判決、合理的基準説の判例として、東京高裁昭和48年3月14日判決、東京高裁昭和49年10月29日判決、福岡高裁宮崎支部昭和55年9月29日判決が列挙されているため、興味のある読者は、それぞれの判決を一読されたい。 次回では、最高裁昭和53年4月21日判決について解説を行う予定である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第14回】 「ホステス報酬源泉徴収事件」 ~最判平成22年3月2日(民集64巻2号420頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第28回】 「見積書等に基づく注文書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は飲食業者です。店舗の新築工事を依頼するにあたり、注文書を建築施工業者へ提出しようと思いますが、工事注文書の場合であっても印紙税の課税文書に該当する場合があると聞きました。事例の場合はどうなりますか。 【事例1】 【事例2】 【事例3】 【事例1】及び【事例3】は第2号文書(請負に関する契約書)に該当する。 【事例2】は印紙税法上の契約書に該当せず、課税文書には該当しない。 [検討] 注文書は課税文書に該当するか 一般的に注文書、申込書などは、契約の申込みの事実を証明する目的で作成されるものであり、契約書には該当しないが、申込書等と表示された文書であっても契約の成立を証明する目的で作成されるものは、標題にかかわらず原則として印紙税法上の契約書に該当する。 【事例1】は、相手方当事者の作成した見積書に基づく申込みであることが記載されており、契約の成立を証明する目的で作成されたものと認められるため、印紙税法上の契約書に該当する。 【事例2】は、見積書に基づく申込みであることが記載されているが、別途、請書等の契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているため、契約の成立を証明する目的で作成された文書には該当しない。したがって印紙税法上の契約書には当たらない。 【事例3】は、契約当事者間の署名押印があるため、申込みとは異なり、契約の成立を証明する目的で作成された文書と認められるため、印紙税法上の契約書に該当する。 ▷ まとめ (了)
《編集部レポート》 東京税理士会、報道関係者との懇談会(2016・春)を開催 ~平成29年度税制改正や今後の消費税への対応をテーマに意見発表~ Profession Journal 編集部 東京税理士会は平成28年5月19日、日本プレスセンタービル内の日本記者クラブにおいて「報道関係者との懇談会2016・春」を開催。各報道関係者に対し平成29年度税制改正意見や今後の消費税への対応について意見発表を行った。 神津信一日本税理士会連合会会長の冒頭挨拶に続き、土屋栄悦調査研究部長より「平成28年度税制改正を踏まえた平成29年度税制改正意見」について、下記6項目の「重要な改正要望事項」を中心に、相続税の課税方式の見直しや業務用不動産の譲渡損失について損益通算・繰越控除を認めること等の要望事項について説明があった。 (出典) 東京税理士会「平成29年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」(H28.3.17) 続いて平井貴昭専務理事より「今後の消費税への対応について」発表があり、特にインボイス制度導入後の免税事業者との取引で起こりうる問題点について、事例を使った説明が行われた。 その後、報道関係者からの質疑応答・事前アンケートへの回答として、軽減税率の対象品目に関する問い合わせへの対応や消費税の滞納問題、タワーマンション節税、パナマ文書など話題のテーマについても丁寧な説明があった。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第26回】 「ゴルフ会員権の評価」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、ゴルフ会員権の評価について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ゴルフ会員権の形態は、多くの場合、株式方式と預託金方式に分かれる。株式方式の場合、ゴルフ場でのプレー権を持ち、かつ、株主総会で議決権を行使することができる。一方、預託金方式の場合、 施設利用権として、お金をゴルフクラブの経営(運営)会社に預けることで、ゴルフ場でのプレー権及び預託金返還請求権を持つが、経営に関しては一切関与することはできない。 そして、株式方式と預託金方式で評価の方法が異なるため、まず、自社の保有しているゴルフ会員権が株式方式か預託金方式かを判断する。 株式方式の場合、【STEP2】を検討する。預託金方式の場合、【STEP3】を検討する。 株式方式の場合、以下の検討を行う。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (1) 時価の有無 時価の有無によりゴルフ会員権の評価方法は異なるため、まず、時価の有無を検討する。 現状では、一般に入手可能で一定の信頼性が確保されているゴルフ会員権に関する「時価」としては、ゴルフ会員権協同組合が日々作成している業者間の取引相場表、及びその相場表を元にして大手のゴルフ会員権売買業者が公表している「ゴルフ会員権相場表」がある。これらの情報は、日刊紙やインターネットを通しても、入手可能である(「金融商品会計に関するQ&A(以下、「Q&A」という)」45)。 時価がある場合、(2)を検討する。時価がない場合、(3)を検討する。 (2) 時価の著しい下落の有無 時価がある場合、時価の著しい下落の有無を検討する。時価の著しい下落がない場合、①を検討する。時価の著しい下落がある場合、②を検討する。 ① 時価が著しく下落していない場合 時価が著しく下落していない場合、取得価額で評価する(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」135)。 ② 時価が著しく下落している場合 時価が著しく下落している場合、回復可能性が合理的に立証できなければ、有価証券に準じて減損処理を行う(実務指針135、311)。 時価が著しく下落し、回復可能性が合理的に立証できなければ、取得価額と時価の差額を評価損として計上する。 時価が著しく下落しているが、回復可能性が合理的に立証できるならば、取得価額で評価する(実務指針135、311)。 (3) 実質価額の著しい下落の有無 時価がない場合、ゴルフ会員権発行会社の貸借対照表をもとに、実質価額の著しい下落の有無を検討する。実質価額の著しい下落がない場合、①を検討する。実質価額の著しい下落がある場合、②を検討する。 ① 実質価額が著しく下落していない場合 実質価額が著しく下落していない場合、取得価額で評価する(実務指針135)。 ② 実質価額が著しく下落している場合 実質価額が著しく下落している場合、有価証券に準じて減損処理を行う(実務指針135、311)。 取得価額と実質価額の差額を評価損として計上する。 預託金方式の場合、以下の検討を行う。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (1) 時価の有無 株式方式の場合と同様に、まず、時価の有無を検討する。 時価がある場合、(2)を検討する。時価がない場合、(3)を検討する。 (2) 時価の著しい下落の有無 時価がある場合、時価の著しい下落の有無を検討する。時価の著しい下落がない場合、①を検討する。時価の著しい下落がある場合、②を検討する。 ① 時価が著しく下落していない場合 時価が著しく下落していない場合、取得価額で評価する(実務指針135)。 ② 時価が著しく下落している場合 時価が著しく下落している場合、回復可能性が合理的に立証できなければ、有価証券に準じて減損処理を行う(実務指針135、311)。 この場合、預託保証金を上回る部分の下落分については、評価損として計上する。預託保証金を下回る部分の下落部分については、貸倒引当金を計上する(実務指針311)。なお、預託保証金の回収可能性がほとんどないと判断される場合には、貸倒損失額を預託保証金から直接控除する(Q&A46)。 時価が著しく下落しているが、回復可能性が合理的に立証できるならば、取得価額で評価する(実務指針135、311)。 (3) 回収可能性の疑義の有無 時価がない場合、預託保証金の回収可能性の疑義の有無を検討する。預託保証金の回収可能性に疑義がない場合、①を検討する。疑義がある場合、②を検討する。 ① 回収可能性に疑義がない場合 回収可能性に疑義がない場合、取得価額で評価する(実務指針135)。 ② 回収可能性に疑義がある場合 回収可能性に疑義がある場合、債権の評価勘定として貸倒引当金を設定する(実務指針135)。なお、預託保証金の回収可能性がほとんどないと判断される場合(例えば、ゴルフ場運営会社が破産法、会社更生法、民事再生法等の申立てをした場合)には、貸倒損失額を預託保証金から直接控除する(Q&A46)。 * * * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第21回】 「ヘッジ会計②」 公認会計士 阿部 光成 今回は「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計の要件について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ ヘッジ会計の要件-事前テスト 金融商品会計基準は、ヘッジ会計の要件として、①事前テストと②事後テストという要件を規定している(金融商品会計基準31項)。 ヘッジ会計を適用できるか否かの具体的な判定にあたっては、企業の利益操作の防止等の観点から、「先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について」における①事前テストと②事後テストというヘッジ会計の適用基準の考え方を踏まえて規定したものである(金融商品会計基準104項)。 Ⅱ ヘッジ会計の要件-事後テスト 金融商品会計基準及び金融商品実務指針は、次のようにヘッジ取引時以降(事後テスト)の要件を規定している。 (了)
違法な長時間労働に関するブラック企業に対し、初の「企業名公表」へ ~リスク回避に向けて企業ができること~ 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 日本の労働行政においては、長年にわたり、長時間労働による健康障害の防止が重要課題のひとつとして掲げられてきた。 「日本再興戦略」(改訂2014)において「働き過ぎ防止のための取組強化」が盛り込まれ、平成26年11月には「過労死等防止対策推進法」が施行、平成27年4月には東京・大阪の労働局に監督指導・捜査体制の専門部署「かとく(過重労働撲滅特別対策班)」が設置されその後全国展開される等、近年その課題への取組みが活発に行われている。 そして、平成27年5月18日より「企業名公表」の取組みが開始されており、このたび千葉労働局より5月19日付けで、その第1号となる企業名が公表された。 そこで、改めて複数の事業上で違法な長時間労働を行う企業に対する「企業名公表」の取組み概要を確認するとともに、公表に至らないようにするために、企業として何をすべきかを検討する。 1 「企業名公表」の取組み 厚生労働省は、長時間労働対策をより一層推進するため、平成26年9月に「長時間労働削減推進本部」を新設し、「過重労働等撲滅チーム」等を編成して、過重労働の撲滅に向けたさまざまな取組みを行ってきた。その取組みの1つが今回の「企業名公表」である。 この取組みは、平成27年5月18日に、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛に通知された「違法な長時間労働を繰り返し行う企業の経営トップに対する都道府県労働局長による是正指導の実施及び企業名の公表」という文書に基づいており、即日実施が指示されている。 実は、これまでも企業名の公表は送検事案について行われてきたが、この取組みにより、送検事案でなくても行政指導の段階で公表される可能性があることを意味する。 この取組みの目的は、「長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すこと」である。 というのも、労働基準監督業務を行っている人数は限られており、全国にあるすべての事業場の監督指導を実施しようとすればかなりの時間を要するため、現実的ではない。 そこで、効率的・効果的に法違反を是正する策としてとられたのが、障害者雇用促進法やパートタイム労働法でも取り入れられている「企業名公表」だ。やはり法違反企業として企業名を公表されることは、社会的に影響力が大きい企業ほど避けたいと考えるだろう。 指導・公表の対象となるのは、具体的には下表のすべてにあてはまる場合であり、この基準に該当した場合は「企業名」、「繰り返し認められた違法な長時間労働の実態」、「早期是正に向けた取組方針」等が公表される。 企業名が公表されればマスコミ各社に取り上げられることになり、企業が受けるダメージは相当大きいだろう。 (※) ここでいう「中小企業」とは、中小企業基本法に規定する「中小企業者」をいう。 (参考) 中小企業庁「中小企業者の定義」 今回企業名が公表された事案では、平成27年5月から違法な長時間労働への是正指導が行われ、4つの事業場で100時間を超える長時間労働が15名ないし18名認められている。 2 企業の対応 では、企業として何をすべきか。 企業名が公表されないようにするためには、長時間労働をなくし、労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法を遵守する体制を構築しなければならない。つまり、基本的な取組みとして次の4つが必要となる。 第一に、労働時間の把握体制の整備である。 労働時間を把握していなければ、当然のことながら長時間労働の有無を確認できず、企業の責務である安全配慮義務を履行できない。したがって、始業・終業時刻を記録する体制が必要となる。また、それは適正な方法によらなければならない。 なぜなら、労働時間を把握している企業でも、労働基準監督署の監督指導により不備が指摘され、多額の未払賃金を追加で支払っている現状があるからだ。 特に、社員の自己申告により労働時間を把握している場合は、適正に始業・終業時刻を記録していないことが多いため、サービス残業が生じる体制がないか点検が必要となる。 第二に、36協定(※)の整備である。 36協定の締結及び労働基準監督署への届出をしていることは最低限のこととして、次の方法等により遵守する体制が必要となる。 (※) 36協定とは、時間外労働・休日労働をするために必要な労使の取り決めで、1ヶ月や1年等の一定期間に可能な時間外労働・休日労働の上限時間等を定めたものをいう。 第三に、割増賃金の支払体制の整備である。 「年俸制であれば残業代の支払いは必要ない」などといった割増賃金に関する勘違いは意外と多い。気づかぬうちに法令違反となっているケースも散見されるため、法令に従って計算が行われているか点検した上で適切な支払体制を整備する必要がある。 最後に、労働時間短縮への取組みである。 労働時間の短縮には、ノー残業デーを設定する等の「意識面におけるアプローチ」と、業務フローを見直し無駄を排除する等の「業務面におけるアプローチ」がある。労使で知恵を絞って取組みを検討・実行する体制が必要となる。 上記4つの基本的な取組みを実施していたとしても、結果的に、上表の②の基準に該当する違法な長時間労働が生じていた場合には、企業名が公表される可能性があるが、「複数(3ヶ所以上)の事業場で繰り返されていること」が要件のひとつとなっているため、1つの事業場で是正指導を受けただけでは当該基準による企業名の公表には至らない。 したがって、1ヶ所の事業場で長時間労働に関する是正指導を受けた段階で、早期に徹底的な体質改善を図り、3ヶ所以上の事業場で是正指導を受ける状況を作らないようにしなければならない。 なお、中小企業は、今回の「企業名公表」の対象からは除外されているが、大企業同様に、法令遵守の体制が求められることは言うまでもない。 * * * 以上、今回は長時間労働の問題だが、企業が抱える労務課題はこれだけにとどまらず多岐にわたる。最もリスクが高いのは、「現状を把握できていないこと」である。ぜひこの機会に、さまざまな角度から労務課題の有無を総点検されることをおすすめしたい。 (了)