山本守之の法人税“一刀両断” 【第22回】「訴訟のわかれ道~認知症と損益通算」
筆者:山本 守之
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山本守之の
法人税 “一刀両断”
【第22回】
「訴訟のわかれ道~認知症と損益通算」
税理士 山本 守之
はじめに
平成28年2月1日最高裁第3小法廷は、平成19年愛知県大府市の認知症で徘徊中の男性A(当時91歳)が列車にはねられ死亡した事件をめぐりJR東海が家族に720万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、介護する家族に賠償責任があるかは「生活状況などを総合して決めるべきだ」とする画期的判断を示しました。
判決の推移は次のようになります。
一審判決 「妻と長男は720万円支払え」
⇓
二審判決 「妻は360万円支払え」
⇓
最高裁判決 「妻も長男も賠償責任なし」
民法第714条は、責任能力のない人(事例ではA)の損害賠償責任は「監督義務者が負う」としています。しかし、精神上の障害で責任能力がない人の監督義務者は改正前の「保護者」(精神障害者福祉法)や「後見人」(民法)による監督義務者に該当するとはいえません。
次に民法752条では夫婦に同居・協力・扶養の義務があるとしていますが、これは夫婦間相互の義務であり、第三者との関係で、夫婦の一方に何かの義務を課すものではないですから、夫婦の一方が監督義務者とはいえません。
(注) もっとも監督義務ではなくでも、責任能力がない人との関係や日常生活での接触状況に照らして特段の事情が認められる場合は、賠償責任を問えます。
また、「監督義務者」に準ずる立場は、生活状況や介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ、という基準を示しました。
事例について、これを考えると、妻は当時85歳で要介護1の認定を受け、長男は横浜在住で20年近く同居していなかったことなどから「準ずる立場」にも該当しないとしました。
妻の介護の状況に即した判決といえます。
なお、2人の裁判官(岡部喜代子・大谷剛彦の両裁判官)は、長男は「監督義務者に準じる立場」に当たるが、義務を怠らなかったための責任は免れるとの意見を述べました。
同じ裁判所の判断でも、本稿で取り上げる租税訴訟では、人間の温かみを感じる判決がないのはどうしてでしょうか。
Ⅰ 租税法の遡及適用
1 3つの訴訟
従来、土地建物の譲渡損益とその他の所得の譲渡損益は通算されていましたが、平成16年の税制改正でこれが禁止されたのは、税法の遡及禁止の原則に反するという納税者の主張が次のように否定されたことが問題でした。
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連載目次
山本守之の法人税“一刀両断”
▷2018年(第43回~54回)
▷2017年(第31回~42回)
▷2016年(第18回~30回)
- 【第18回】 実効税率はどのような経過で引き下げられたか
- 【第19回】 消費税の軽減税率を検証する
- 【第20回】 寄附金の課税要件を考える
- 【第21回】 土地と共に取得してから1年以内に取り壊した建物
- 【第22回】 訴訟のわかれ道~認知症と損益通算
- 【第23回】 税執行における洒落
- 【第24回】 租税法の解釈①-租税法律主義とその問題点-
- 【第25回】 租税法の解釈②-通達の読み方とその問題点(貸倒損失を事例として)-
- 【第26回】 租税法の解釈③-税務形式基準と事実認定-
- 【第27回】 課税要件法定主義を考える
- 【第28回】 売り上げの計上時期はどうなっているか
- 【第29回】 取引別にみた収益の認識基準①
- 【第30回】 取引別にみた収益の認識基準②
▷2015年(第7回~17回)
筆者紹介
山本 守之
(やまもと・もりゆき)
税理士。現在、日本税務会計学会顧問、租税訴訟学会副会長(研究・提言担当)、税務会計研究学会理事、日本租税理論学会理事を務め、全国各地において講演活動を行うとともに、千葉商科大学大学院(政策研究科、博士課程)でプロジェクト・アドバイザー(専門分野の高度な学術研究、高度な実務経験を持つ有識者)として租税政策論の教鞭をとっている。研究のためOECD、EU、海外諸国の財務省、国税庁等を約30年にわたり歴訪。2020年11月29日、逝去。
【著書】
・『時事税談-人間の感性から税をみつめる』(清文社)
・『役員給与税制の問題点-規定・判例・執行面からの検討』(中央経済社)
・『検証 税法上の不確定概念 (新版)』(中央経済社)
・『裁決事例(全部取消)による役員給与・寄附金・交際費・貸倒れ・資本的支出と修繕費』(財経詳報社)
・『法人税申告の実務全書』監修(日本実業出版社)
・『法人税の理論と実務』(中央経済社)
・『体系法人税法』(税務経理協会)
・『税金力-時代とともに「税」を読む』(中央経済社)
・『租税法の基礎理論』(税務経理協会)
他、多数
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