計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第11回】 「数字のケタ表示ミスを見落としていないか」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例11-1】 数字の表示単位を間違えている科目がある。 一見もっともらしく見える連結損益計算書ですが、誤りが1ヶ所あります。どこだかわかりますか。 ヒントを出しましょう。数字のケタが多すぎる項目がないか、注意してみてください。 2 百万円単位のPLに千円単位の金額を記入してしまった では、答えを見てみましょう。 間違っていたのは「法人税等調整額」の数字でした。 丸で囲んで示したとおり、正解では正しい数字「78」となっていますが、さきほどの【事例11-1】では「78,134」という数字が表示されていました。 「法人税等調整額」のすぐ上の「法人税、住民税及び事業税 4,298」と合計した結果が「4,376」にならなければいけないので、「78,134」は「78」であるとわかります。 おそらく「78,134」は、法人税等調整額の千円単位の金額なのでしょう。 3 これはアップデート・ミス このミスが起きた原因は何でしょうか。単なる転記ミスでしょうか。 こうしたミスに理由などないのかもしれませんが、少し考えてみると思い当たることがあります。 ミスが起きた「法人税等調整額」という科目は、税効果会計に関する勘定科目です。税効果というのは、決算作業の中で最後まで数字が決まらない事項です。税効果の計算自体に間違いがない場合でも、他の項目で何らかの修正仕訳が入ると、それに連動して税効果の数値を動かさなければならないことも多いのです。 計算書類の作成作業では、仮締めの決算数値で決算書のフォームに入力し、その後に変更された数値については個別にアップデートしていくということが実務ではよく行われています。 このアップデートの対象になりやすい項目の1つが、最後まで数字が固まらない「法人税等調整額」というわけです。 アップデート作業にはミスがつきものです。最も多いミスは、「アップデートしなければならない項目をアップデートし忘れる」というものです。 計算書類の作成作業では、数字等が1ヶ所変更になるとそれに連動して他にも変更すべき項目が複数出てくるということがよくあります。そんな場合、すべての要修正箇所をもれなく修正対応できるかというと、これがなかなか難しい。4ヶ所のうち3ヶ所はアップデートしたけれど、1ヶ所は直し忘れていたということはよくあります。 そのようなミスを筆者は「アップデート・ミス」と呼んでいます。 【事例11-1】のミスはアップデート時の修正漏れではありませんが、決算作業の終盤でアップデートの必要が生じ、慌てて数字を直した際にケタを間違えてしまった可能性が高いでしょう。広い意味でのアップデート・ミスです。 しかも、PLの場合、一番右端の列はよく見ますが、その左隣の「内訳を記載する列」は見ているようで見ていないということがありがちです。そのため間違っていても気づかないのですが、最終稿での計算チェックなどでこうしたミスを見つけるようにしたいものです。 4 類似事例の紹介 「数字のケタ表示を間違える」というミスは、【事例11-1】以外にもよくあることです。【事例11-1】はよく見れば気がつくレベルのミスでしたが、中にはどんなに見ていても気がつかないようなミスもあります。それは次のようなものです。 【事例11-2】 注記に記載された金額の表示単位が決算書の表示単位と異なっている。 上の事例は、丸で囲んだ「27百万円」というところが間違いです。 ところがこの注記文章をどんなに注意深く読んだとしても、この間違いには気づきません。 この文章自体は間違っていないからです。 これが間違いだと気がつくのは、この会社の決算書本体との整合性をチェックしたときです。以下のとおりです。 決算書本体は千円単位で作成されており、【事例11-2】で「27百万円」と記述されていた影響額も、「△27,710」と千円単位で載っています。おそらく注記のほうは、標準文例か他社の事例を丸写しして使ったのではないでしょうか。内容的には合っていますが、この会社の決算書とは単位が違ってしまったというわけです。 注記と決算書本体の金額単位を一致させなければいけないという規定はありませんが、ここはやはり一体をなすものである以上、そろえておくべきです。 〈今回のまとめ〉 数字のケタ間違いはよく起こります。最終稿での計算チェックや書類間での整合性チェックなどで、そうしたミスを見つけるようにしましょう。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第43回】 ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社 「独立調査委員会報告書(平成27年11月6日、12月8日及び18日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【独立調査委員会の概要】 【ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社の概要】 ジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社(以下「JFLA」と略称する)は、明治29年設立の若林合名会社(後に若林酒類販売株式会社から忠勇株式会社へと社名変更)と明治40年設立の丸金醤油株式会社が、2000(平成12)年4月に合併してマルキン忠勇株式会社と社名変更を行った後、持株会社化(平成18年2月)した。連結子会社において、食品類・酒類の製造販売事業及び輸入食品・酒類の販売事業を行っている。連結売上高24,425百万円、包括利益288百万円。従業員数557名(数字はいずれも平成27年9月期)。本店所在地、香川県小豆郡小豆島町。東京証券取引所二部上場。 【第1次調査報告書のポイント】 1 会計監査人による疑義の指摘 JFLAの会計監査人である栄監査法人は、平成27年9月期の監査の過程で、代表取締役会長盛田英夫氏(以下「盛田会長」と略称する)の経費支出について使途不明分が判明したこと、盛田会長が実質的に支配する法人に対する貸付金の回収処理の妥当性、盛田会長と一定の関係がある個人・法人に対する業務委託料の金額の合理性について疑義があることから、7月30日、外部調査が必要であることをJFLA役員に告知した。 これを受けてJFLAは、独立調査委員会を設置して、事実関係等の調査分析及びこれに対する法的評価を委嘱、10月15日付で調査報告書(以下「第1次報告書」と略称する)を受領した。 2 第1次報告書が認定した事実 (1) 盛田会長が実質的に支配する法人に対する貸付金の回収処理(第1次報告書p.11以下) JFLAはモリタフードサービス株式会社(以下「MFS」と略称する)への貸付債権227百万円について全額貸倒引当金を設定している(実質的に回収不能と判断)。MFSは盛田会長が実質的に支配する法人であり、2012年10月に事業の一部譲渡を行い、譲渡対価330百万円を得ている。が、これをJFLAからの貸付金弁済に充当するのではなく、盛田会長が代表取締役を務めている盛田アセットマネジメント株式会社(以下「MAM」と略称する)への貸付金に充てたため、返済ができない状況になっている。 こうした事実関係から、独立委員会は次のように結論づけた。 (2) 業務委託料の支払の問題(第1次報告書p.12以下) 盛田会長を一定の関係を有する者に対する業務委託料の支払いに関し、独立調査委員会は、「疑念を差し挟む余地がある」としながらも、「法的に見て著しく不当、違法であると断定する」には足りない、あるいは、「取締役としての忠実義務違反を認めるまでには至っていない」としている。 (3) 交通費の支払の問題(第1次報告書p.14以下) 盛田会長が使用したJRエクスプレスカードの使用履歴において、JRの回数券と思われる購入履歴235万6,000円分が記録されているが、盛田会長の説明からは、業務関連性、業務上の必要性は必ずしも明らかではない。 そこで、独立調査委員会は次のように結論づけた。 盛田会長も、「経費として取り扱うことが不適切なものについては自己負担する旨明言」しているということである。 3 原因分析(第1次報告書p.17) 独立調査委員会はJFLAの特殊性について、次のように説明する。 そして、「当主意識」の結果、盛田会長は、上場会社の代表者として有すべき株主に対する責任感や基本的な規範意識が欠如し、古くからの知己や血縁関係者で固められた取締役会は、当社の利益と会長ないし一族の利益が相反する状況において、「当社の利益を優先すべきである旨、会長に意見を言うことなど期待できない状況にあったことが容易に推察される」として、体制を抜本的に変えない限り、「当主意識」の払拭を完全になしえないことが明白である、と締め括っている。 【第2次調査報告書のポイント】 1 金融商品取引法第193条の3 (1) 栄監査法人による「法令等違反事実の通知」 11月6日リリースには「別紙1」として、「金融商品取引法第193条の3第1項の規定による財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある法令等違反事実の通知」が添附されている。 これは、第1次報告書を受けて、「初期的調査のほか類似案件の存否も含め、速やかに事実関係を調査すること」を求める趣旨のものであり、適切な措置がとられなければ、法令等違反の事実を内閣総理大臣(金融庁長官)に申し出るという内容のものであった。 (2) 金融商品取引法第193条の3とは (※) 一部括弧書き等を省略している。 これを受けて、JFLAは、追加調査の必要性を認め、第1次独立調査委員会の委員に2人の公認会計士を加えて、第2次独立調査委員会を設置し、調査を行うことを、同日付のリリースにおいて発表している。 2 第2次報告書が認定した事実 (1) 業務委託契約に基づく委託料(第2次報告書p.21) 第1次独立調査委員会は、業務委託料について、「法的に見て著しく不当、違法であると断定する」には足りない、あるいは、「取締役としての忠実義務違反を認めるまでには至っていない」として判断を留保していた。これに対し、第2次独立調査委員会は、調査の過程において、業務委託の実態がなかったことが判明したと判断し、業務委託料を認識するのは不適切であると結論づけた。 (2) 盛田会長関連取引(第2次報告書p.22) 第1次報告書で指摘されたJRエクスプレスカードによる経費以外にも、コーポレートカードの使用実績、中元歳暮関連費、海外渡航費の中に「会社経費としての蓋然性に疑念を持たざるを得ない」と評されるものが含まれていたり、支出に疑義のある飲食店の掛払いがあったりと、「業務関連性が疑わしい取引が散見された」ことから、報告書に記載のないものも含めて、調査委員会からJFLAの社外監査役へ報告されたことが明記されている。 3 諮問委員会による意見 12月8日付リリースは、第2次報告書を受領したことを受けての再発防止策の策定が公表されているが、それと並行して、「新経営体制への移行」として、以下の施策が示されている。 なお、JFLAは、新役員の人選にあたって、諮問委員会を設置し、その意見を求めており、同日付のリリースには、諮問委員会の結論として、取締役候補者全員について、「独立性の確保」「会社法に定める監視監督機能等の取締役としての職務を遂行できる」という意見が、添附されている。 これを受けて、同じ12月8日付の別リリースで、盛田会長が代表取締役及び取締役を辞任すること、他の代表取締役2名(社長及び副社長)も定時株主総会終結の時をもって退任し、社外監査役を除く経営陣を一新することが公表されている。 【第3次調査報告書のポイント】 1 第3次調査が行われることとなった経緯 第2次報告書の公表に先立つ12月4日、JFLAは、「独立調査委員会からの追加調査報告書の受領の延期、並びに平成27年9月期決算短信の公表の再延期及び平成27年9月期(第79回)定時株主総会の開催の延期の決定等に関するお知らせ」というリリースを出した。その中で、「平成27年9月期決算の監査において検証する必要がある事項の指摘」として、以下の事実を公表している。 2 第3次調査報告書が認定した事実 (1) 2014年9月以降の拡売費の過少見積 第3次独立調査委員会によるヒアリングの結果、盛田株式会社では、2014年9月末以降、四半期末ごとに、拡売費について2,000万円から3,000万円の減額修正を行うよう、JFLAの社長、副社長及び子会社である盛田株式会社の社長によって指示が行われたことが判明した。 (2) 目的及び理由 JFLA社長は、過少見積の理由について、「盛田(株)において拡売費を調整することにより経常利益を確保して、金融機関の信頼を維持すること」が目的であったと説明しているとのことで、これを受けて、調査委員会は、「経営陣としては業績達成の必要性を強く感じていた」としている。 【再発防止策の概要】 JFLAが12月8日付リリースで公表した再発防止策の概要は以下のとおりである。 第1次報告書以降、独立調査委員会が今回の不正の原因としてきた「当主意識」については、2月23日に開催された定時株主総会の決議によって、監査等委員会設置会社への移行と新経営体制が発足したことで、一応の解決を見たと言えよう。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第110回】 圧縮記帳② 「保険差益」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 直接減額方式 ① 保険金の受領時(X1年8月) ② 機械装置の取得時(X1年10月) ③-1 決算時(X2年3月末) (圧縮損の計上) (※1) 圧縮限度額=保険差益3,500,000(※3)×代替資産の取得に充てた金額6,000,000/改定保険金の額7,500,000(※2)=2,800,000 (※2) 改定保険金の額=保険金の額8,000,000-滅失経費の額500,000=7,500,000 (※3) 保険差益=改定保険金の額7,500,000(※2)-滅失資産の帳簿価額4,000,000=3,500,000 (減価償却費の計上) (※4) (取得価額6,000,000-圧縮限度額2,800,000)×0.333×6ヶ月/12ヶ月=532,800 2 剰余金処分方式 (①及び②は、直接減額方式を適用した場合と同じ。) ③-2 決算時(X2年3月末) (圧縮積立金の積立) (※5) 税効果の額=圧縮限度額2,800,000×35%=980,000 (※6) 圧縮積立金=圧縮限度額2,800,000-税効果の額980,000(※5)=1,820,000 (減価償却費の計上) (※7) 取得価額6,000,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月=999,000 (圧縮積立金の取崩) (※8) 圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)=圧縮限度額2,800,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月=466,200 (※9) 税効果の額(取崩)=圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)466,200(※8)×実効税率35%=163,170 (※10) 圧縮積立金(取崩)=圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)466,200(※8)-税効果の額(取崩)163,170=303,030 〈会計処理の解説〉 固定資産に係る国庫補助金、保険差益、交換差益等は、原則として益金となり課税所得を構成しますが、これを原則どおりに課税すると様々な弊害が生じます。 例えば、火災等により法人の保有する資産が滅失または毀損したため、取得した保険金をもって被害を受けた資産に代わる同一種類の資産を取得しようとしたときに、その差益部分(保険差益)に対して課税すると、代替資産の取得ができなくなり、災害からの復旧が困難になるおそれがあります。 このような事態を防ぐために、法人税法等では、圧縮記帳という制度が設けられています。 本事例で取り扱っている保険差益については、火災等による固定資産の滅失または損壊により保険金等の支払を受け、その保険金等をもって被害資産と同一種類の固定資産を取得または改良した場合に、取得または改良に充てられた部分について圧縮記帳の適用が認められます。 損金算入できる圧縮限度額は、保険金が支払われた事業年度末までに代替資産を取得している場合、以下の算定式により計算されます(法人税法第47条第1項、法人税法施行令第85条)。 保険差益の圧縮記帳の方法としては、 があります。 (なお、直接減額方式により取得価額を直接圧縮することは、取得原価主義に基づく費用の適切な期間配分の観点から適切ではないため、会計上は剰余金処分方式が望ましいと考えられます。) 本事例において、当社はX1年8月に保険金の支払いを受け、その保険金をもって同年10月に滅失資産と同一種類の代替資産(機械装置)を取得しています。そこで、保険金の支払いを受けたX1年8月に雑収入8,000,000円を、代替資産を取得した同年10月に機械装置6,000,000円をそれぞれ計上します(①及び②の仕訳)。 また、本事例では、保険金が支払われた事業年度末までに代替資産を取得しているため、圧縮限度額は以下の算定式で求めます。 決算時における処理は、1 直接減額方式及び2 剰余金処分方式ともに、国庫補助金の圧縮記帳の決算時の処理と同様の会計処理となります(前回を参照)。 * * * 次回は、圧縮記帳の会計処理のうち、交換について解説します。