リース会計基準(案)を学ぶ 【第9回】 「貸手のリースの会計処理②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回(第8回)に引き続き、貸手のリースの会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リース ファイナンス・リースと判定されたもののうち、次の(1)から(3)のいずれかに該当する場合、「所有権移転ファイナンス・リース」に分類し、いずれにも該当しない場合、「所有権移転外ファイナンス・リース」に分類する(リース適用指針(案)66項、BC96項)。 Ⅲ 貸手のファイナンス・リースの会計処理 貸手は、ファイナンス・リースについて、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行う(リース会計基準(案)43項)。 企業会計基準適用指針第16号では、ファイナンス・リース取引の会計処理について、次の3つの方法を定めている(リース適用指針(案)BC98項)。 リース適用指針(案)は、上記の(2)の方法について、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性から廃止するとし(リース適用指針(案)BC100項、収益認識会計基準104-3項)、以下で述べる会計処理を提案している。 Ⅳ 所有権移転外ファイナンス・リースの会計処理 1 製品又は商品を販売することを主たる事業としている企業が、同時に貸手として同一の製品又は商品を原資産としている場合 製品又は商品を販売することを主たる事業としている企業が、同時に貸手として同一の製品又は商品を原資産としている場合で、貸手として行ったリースが所有権移転外ファイナンス・リースと判定されるとき、貸手は、次の会計処理を行う(リース適用指針(案)67項、BC99項)。 2 貸手が原資産と同一の製品又は商品を販売することを主たる事業としていない場合 貸手が原資産と同一の製品又は商品を販売することを主たる事業としていない場合で、貸手として行ったリースが所有権移転外ファイナンス・リースと判定されるとき、貸手は、次の会計処理を行う(リース適用指針(案)68項、BC101項)。 3 利息相当額の各期への配分 貸手における利息相当額の総額は、貸手のリース料及び見積残存価額(貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額)の合計額から、これに対応する原資産の取得価額を控除することによって算定する(リース会計基準(案)45項)。 利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として、利息法による(リース会計基準(案)45項、リース会計基準(案)69項~71項)。 この場合に用いる利率は、リース適用指針(案)62項の貸手の計算利子率とする(リース適用指針(案)69項)。 Ⅴ 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理については、基本的に、所有権移転外ファイナンス・リースと同様である(リース適用指針(案)74項、75項、BC102項)。 所有権移転ファイナンス・リースでは、リース適用指針(案)67項及び68項にある「リース投資資産」は「リース債権」と読み替えて適用することになる(リース適用指針(案)74項)。 Ⅵ オペレーティング・リースの会計処理 「オペレーティング・リース」とは、ファイナンス・リース以外のリースをいう(リース会計基準(案)13項)。 貸手のオペレーティング・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う(リース会計基準(案)46項)。 貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上する(リース適用指針(案)78項)。 フリーレント(契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)がある場合、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することに注意が必要と考えられる(リース適用指針(案)BC104項)。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年10月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年10月1日から10月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会は次のものを公表し、意見募集を行っている(意見募集期間はいずれも2023年12月6日まで)。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。 ① 企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等の公表 ② 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正について(公開草案) Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」」の改正(公開草案)(内容:品質管理システムの評価に当たっての具体的な手順や文書等について検討したもの。意見募集期間は2023年11月16日まで) Ⅳ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「グループ監査における親会社監査役会の役割と責務」(内容:グループガバナンスの視点から、グループ監査における監査役の役割と責務について研究活動を行い、取りまとめたもの。日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第44回】 「被害者が関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す場合の対応策」 弁護士 柳田 忍 【Question】 ハラスメント窓口に、「自分を含めて複数の社員がパワハラの被害を受けている」という相談がありました。当該相談者から事情を聞いたうえで、関係者や加害者に対してヒアリングを実施して事実確認を行おうと思ったのですが、当該相談者は、「報復が怖いから自分が相談したことが加害者に絶対に知られないようにしてほしい」、「加害者と通じている可能性があるから、関係者にも自分が相談したことが知られないようにしてほしい」などと強く希望しており、関係者や加害者の事情聴取に難色を示しています。どうすればよいでしょうか。 【Answer】 まずは、相談者に対して、部署異動など、相談者と加害者との間に場所的・業務上の距離を置くよう調整を行う旨を提案し、関係者や加害者の事情聴取に同意してもらえるよう、促すのがよいと思います。それでも相談者が難色を示す場合、複数の被害者に対するハラスメントを織り交ぜて聴取を行うことにより相談者の特定を避ける旨説明したり、複数の被害者から同意を取得するから相談者にも同意してほしい旨伝えたりして同意を促すことが考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 総論 被害者からハラスメントの相談や通報を受け、会社において調査の必要性があると判断した場合、関係者や加害者の事情聴取を行うことになる。しかし、関係者や加害者に対して被害者からの相談や通報にかかる事実を確認する過程で、いかに被害者の氏名を伏せたとしても、事案によっては自ずと被害者が誰であるかが聴取対象である関係者や加害者に知れてしまうことは多い。被害者が被害を相談ないし通報したことが関係者や加害者に漏れた場合、関係者や加害者による嫌がらせや報復などのおそれが生じることなどから、関係者や加害者の事情聴取に際しては、原則として被害者の同意を得るべきである。 特に、ハラスメントが公益通報者保護法の対象に該当する場合(すなわち、暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪、強制性交罪等の刑事罰の対象となる行為に該当する場合)、公益通報者保護法との関係が問題となる。 公益通報者保護法では、事業者において、公益通報者を保護する体制の整備として、範囲外共有(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為)の防止に関する措置を講じることを義務づけている(法11条2項、指針第4.2(2)(※))。また、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」という)又は従事者であった者は、正当な理由なく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないとされている(法12条)。前者の「必要最小限の範囲を超えて」共有する行為と後者の「正当な理由なく」漏らす行為は同等の行為と考えられており、例えば、通報者の同意がある場合や、調査又は是正措置を実施するにあたり、従事者の指定を受けていない者に対し、公益通報者を特定させる事項を伝えなければ調査又は是正措置を実施することができない場合などが想定されている。 (※) 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号) よって、目撃者のヒアリング実施のために目撃者に対して通報者を特定させる事項を伝えなければならない場合は範囲外共有や「正当な理由なく」漏らす行為には当たらないため、通報者の同意がなくても実施することは可能であると思われる。もっとも、通報者の同意を得られた方が望ましいことは言うまでもない。 2 被害者の同意を得る方法 関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す相談者からこれらの事情聴取について同意を取得する方法として、例えば以下の対応が考えられる。 (1) 相談者・通報者又は加害者の異動等を提案する 相談者・通報者が最も恐れるのは、自分が相談・通報したことが加害者に知られた挙げ句、相談・通報前と変わらず加害者と一緒に仕事を続けなければならないといった事態に陥ることである。 そこで、部署異動など、加害者と相談者・通報者との間に場所的・業務上の距離を置くよう調整を行う旨を提案し、関係者や加害者の事情聴取に同意してもらえるよう、促すことが考えられる。 (2) 複数の被害者に対してなされた行為を織り交ぜて聴取を行うことを提案する 相談者・通報者が受けたハラスメントのみを聴取の対象とすると、当該行為の被害者が相談・通報を行ったと推測されてしまう。そこで、相談者・通報者に対するハラスメントと相談者・通報者以外の被害者に対するハラスメントを織り交ぜて聴取を行うことにより、相談者・通報者が相談・通報を行ったことを相手に知られるリスクを減らすことができる旨提案して、関係者や加害者の事情聴取について相談者・通報者の同意を得ることが考えられる。 この方法をとる場合に注意すべき点は、各ハラスメントが行われた日時や具体的な行為内容などを明確にしたうえで聴取を行うと、聴取の相手方である関係者や加害者にどの被害者に対するハラスメントが調査の対象とされているかを知られてしまい、ひいては、当該ハラスメントの被害者が相談者・通報者ではないかと疑われてしまうおそれがあることである。相談者・通報者が相談者・通報者ではないかと疑われることも問題ではあるが、実際には相談者・通報者でない者が相談者・通報者ではないかと疑われてしまうことも避ける必要がある。 よって、この方法をとる場合には、被害者が特定されない程度にハラスメントの態様を抽象化したうえで聴取を行う必要があるが、抽象化しすぎるとヒアリングとしての意義をなさないことにもなりかねないため、注意が必要である。 (3) 他の被害者が関係者・加害者の事情聴取に同意している旨を伝える 加害者によるハラスメントについて複数の被害者が存在する場合、複数の被害者全員(ないし相当数)からそれぞれのハラスメントを聴取の対象とすることについての同意が得られた、又は、複数の被害者全員(ないし相当数)の同意をお願いしているところである、と伝えたうえで、あなたにもぜひ同意してほしい、と同意を促すことが考えられる。複数の被害者の同意を得たとしても、それぞれに対するハラスメントについて具体的に聴取を行えば、聴取の相手方に各ハラスメントの被害者が誰であるかが知られてしまうことになるので、嫌がらせや報復のおそれを完全に除去することはできない。しかし、他の被害者も勇気を出すのであれば、と勇気づけられる被害者も多い。また、被害者同士が連携して加害者の嫌がらせや報復行為を監視できるという利点もある。 (了)
《速報解説》 金融庁、「企業内容等開示ガイドライン」の改正案を公表 ~譲渡制限付株式の特例に関し、取締役等の死亡などの事由の取扱いを明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023(令和5)年11月6日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合に、有価証券届出書の提出を不要とする特例に関して、取締役等の死亡などの事由の取扱いについて明確化を図るものである。 意見募集期間は2023(令和5)年12月5日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 総額1億円以上の有価証券の募集又は売出しを行う際には、有価証券届出書の提出が必要とされている。 他方、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合(いわゆる譲渡制限付株式(RS:Restricted Stock))については、有価証券届出書の提出を不要とし、臨時報告書の提出で足りるとする特例が設けられている。 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(案)は、株式報酬について発行会社が定める株式報酬規程等において、次の事由が生じた際、当該株式の譲渡が禁止される旨の制限を解除する旨の定めが設けられている場合であっても、上記の特例の譲渡制限期間の要件を満たし、有価証券届出書の提出が不要であることを明確化するものである。 Ⅲ 適用日 パブリックコメント終了後、速やかに適用する予定である。 (了)
2023年11月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.542を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.129- 「岸田減税の問題点-給付付き税額控除の検討を」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 岸田総理は、「成長の成果である税収増などを国民に適切に還元する」として、所得税・住民税1人当たり4万円の減税と、住民税非課税世帯への10万円(世帯当たり、実施中の3万円を含む)の給付の具体案作りを与党に指示した。実施時期については、給付は補正予算通過後、減税は来年の通常国会での税制改正法案通過後の6月頃ということのようだ。 今回の減税は、国民からの評判が芳しくない。大手新聞の社説の見出しも、「意義も効果も疑問が拭えない」(10月25日読売新聞)、「選挙対策のばらまきか」(10月21日朝日新聞)と、さんざんな評判となっている上、自民党内からも違和感が指摘されている。 その理由を筆者なりに考えると、以下のとおりである。 * * * 最大の理由は、今回の所得減税の大義名分が薄いということである。デフレ対策というが世間はインフレに悩んでいる。物価対策としては時期が遅い。SNSで揶揄された「増税メガネ」のイメージを払しょくする人気取り、さらには選挙前のバラマキと受け止められている。減税の理由が、「税収増の還元」というだけでは国民に訴える力は弱い。 次に、年末には国民負担増の議論が避けられないということである。防衛財源については昨年暮れに所得税、法人税、たばこ税での1兆円の増税が決まっている。2024年度は何とかしのぐにしても、2025年度からは増税を実施しなければ、わが国の防衛が不安定な国債依存の「張り子の虎」になってしまう。 加えて異次元の少子化対策である3.5兆円の財源問題も控えている。支援金(仮称)制度の創設で対応することとされているが、その中身は社会保険料の上乗せで、1兆円(半分は企業負担)の負担増が予定されている。 総理は「実質的な国民負担は生じないようにする」と発言している。これは、負担増分は少子化対策の給付として国民に返す、ということを意味しているのであろうか。そうであれば社会保障費として全額返す消費税も、負担はないといえることになる。 国民負担増と減税という逆方向の議論が行われることは、政策の信頼性を大きく損なうことになる。 最後に、給付と減税との組み合わせで、「はざま」に落ちる人たちが数百万人存在することが判明したことだ。住民税は負担しているので給付金はもらえないが、所得税は4万円×世帯人数に満たない額しか負担していないという世帯に、10万円の給付がされる世帯と比べて不公平のないようにどう手当てするのか。 このような「はざま」を生じさせないためには、国がマイナンバーで捕捉している所得情報を給付に連携させる給付付き税額控除が有効だ。英米などでは、所得情報が社会保障給付と連携され、低所得世帯への様々な支援が行われている。先般のコロナ対策でも、この仕組みを活用して、迅速で申請なしのプッシュ型の給付が行われたことは記憶に新しい。 今回わが国でも、このような制度や仕組みを持つことの重要性・必要性が認識されたわけで、導入に向け本格的な検討を始めてほしいものだ。のど元を過ぎれば忘れてしまうということのないようにしなければならない。 * * * 所得税減税が国民から受け入れられない背景には、「新しい資本主義」の具体的な中身がいまだ不明ということがある。「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に記載されている実質賃金の継続的な増加のためには、勤労者のリスキリングの充実などによる人的資本の向上や生産性の上昇が必要である。そのための具体的な政策を明確に打ち出す必要がある。 (了)
〈令和5年度税制改正で創設された〉 パーシャルスピンオフ税制のポイント 【第2回】 「適用要件」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は、パーシャルスピンオフ税制創設の背景と制度概要について取り上げた。 【第2回】では、パーシャルスピンオフ税制の適用要件について確認する。 1 適用要件 パーシャルスピンオフ税制の適用要件は次の通りである。 以下でそれぞれの要件について詳しく取り上げる。 (1) 株式のみ按分交付要件 「株式のみ按分交付要件」とは、産業競争力強化法に基づく認定を受けた事業再編計画に従って行われる特定剰余金の配当であって、完全子法人株式の80%超が移転し、かつ、現物分配法人の各株主の持株数に応じて完全子法人株式のみが交付されることをいう(措法68の2の2、措令39の34の3①一)。 なお、認定株式分配実施後に現物分配法人や現物分配法人の株主に対して株式を継続保有することは求められていない。 (2) 従業者継続要件 ① 「従業者継続要件」とは 「従業者継続要件」とは、認定株式分配直前の完全子法人の従業者(下記②参照)のうち、その総数のおおむね90%以上に相当する数の者が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていることをいう(措令39の34の3①四)。 ② 「従業者」とは 「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、認定株式分配の直前において完全子法人の事業に現に従事する者をいう(措通68の2の2-1、法基通1-4-4)。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人の選択により従業者の数に含めないことができる。 (3) 事業継続要件 ① 「事業継続要件」とは 「事業継続要件」とは、完全子法人の認定株式分配前に行う主要な事業(下記②参照)が完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいう(措令39の34の3①五、法令4の3⑯四)。 ② 「主要な事業」とは 完全子法人の株式分配前に行う事業が2以上ある場合には、そのいずれが主要な事業に該当するかは、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定する(措通68の2の2-1、法基通1-4-5)。 (4) 役員継続要件 ① 「役員継続要件」とは 「役員継続要件」とは、認定株式分配前の完全子法人の特定役員(下記②参照)の全てが株式分配に伴って退任するものではないことをいう(措令39の34の3①三)。 ② 「特定役員」とは 「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(下記③参照)で法人の経営に従事している者をいう(措令39の34の3①三、法令4の3④二)。 ③ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいう(法基通1-4-7)。 (5) 非支配要件 ① 非支配要件とは 「非支配要件」とは、認定株式分配の直前に現物分配法人と他の者との間にその他の者による支配関係がなく、かつ、認定株式分配後に当該認定株式分配に係る完全子法人と他の者との間にその他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないことをいう(措令39の34の3①二)。 ② 「他の者」に含まれるものとは 他の者が個人の場合には、その個人との間に特殊関係のある者(親族等)も含まれる。また、他の者には、その者が締結している民法667条1項に規定する組合契約等及び次に掲げる組合契約に係る他の組合員である者を含むこととされている(措令39の34の3①二、法令4の3⑨一)。 (6) 事業再編計画認定要件 通常の事業再編計画の認定要件に加えて、事業の成長発展が見込まれるものとして経済産業大臣が定める次のいずれかの要件を満たしていることが確認できることをいう(措令39の34の3①六、令5経済産業省告示50、事業再編実施指針四)。 2 従来の適格株式分配の要件との違い 適格株式分配に該当する認定株式分配の要件と従来の適格株式分配の要件の違いは、(1)株式のみ按分交付要件、(2)従業者継続要件、(6)事業再編計画認定要件である。 認定株式分配については、適格株式分配とするための前提として産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることが必要なことと、従業者継続要件が従来の適格株式分配や他の組織再編のおおむね80%と比べて厳格になっている点に留意が必要である。 * * * 次回は、事業再編計画認定要件とその認定手続きについて詳しく解説する。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例57】 「法人の支出に係る事業関連性と寄附金の損金性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、九州地方の政令指定都市において、主として健康食品の製造・販売を行う株式会社X(資本金1億3,000万円で3月決算)に勤務し、現在総務部長を務めている者です。わが社の創業者Aは若い頃相当苦労したようで、地元宮崎県内の高校を卒業後福岡市に出て様々なアルバイトを経験し、その資金を元手にまずはゲームソフトの会社を立ち上げ、そこそこ成功したとのことです。しかし、従業員の巨額横領にあい当該ゲームソフトの会社は廃業を余儀なくされ、A自身も多額の借金を抱えることになったようです。その後、旅行先の韓国で出会った健康食品にほれ込み、その輸入販売を手掛けて再び会社経営を軌道に乗せ、現在に至っております。 わが社はその後、朝鮮人参の調達やその加工等を行う100%子会社を韓国に設立し、取引を行ってきましたが、ここ数年、当該子会社の業績が思わしくないため、わが社は親会社として様々な支援をしてきました。それに関し、今般の国税局の税務調査で問題となった事項があります。すなわち、2022年3月期に韓国の子会社に契約に基づき業務委託費として支出した2,400万円と、2023年3月期に同子会社に開発費として支出した3,000万円のいずれもが寄附金に該当し、また、それらの支出は国外関連者への寄附金であるため、全額損金不算入になると指摘されました。 わが社が韓国の子会社に対して支出した業務委託費と開発費は、子会社固有の営業能力や人材では収益を得られるような業務を獲得することができないため、やむを得ず親会社の業務の一部につきかなり無理をして委託したものであり、それは子会社に対する親会社の責任として当然のことをしたまでと考えます。したがって、契約自由の原則から、当該支出は業務の対価としての性格があるため、当然に経費・損金になるものと解しますが、法人税法上はどう考えるのが適切なのでしょうか、教えてください。 【A】 私法上は契約自由の原則が採用され、当事者間で合意した内容(契約)により取引が実行されるのですが、 法人税法上は、その取引内容からみて、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与があった場合には、当該取引により経済的利益を供与した側から供与を受けた側に寄附があったものと取り扱われます。したがって、親会社から子会社(国外関連者)への業務委託契約に基づく支出についても、その内容と実態が乖離し、子会社が契約内容に基づく業務を履行せず、実質的に親会社が子会社に資金援助をしている場合などに関しては、親会社から子会社に対して経済的利益の供与があったものと認定されることから、当該支出は寄附金とされるとともに、国外関連者への寄附金であるため、全額損金不算入になるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 寄附金の法的性格 周知の通り、法人税法上の寄附金とは、その名義を問わず、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与のことをいう(法法37⑦)。したがって、それは、一般的に「寄附金」と解されている慈善のためや公益のための支出のカテゴリーに該当するものよりも、はるかに広範囲の概念であり(※1)、これが法人税法における損金概念を複雑化させている要因の1つであると考えられる。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)415頁。 もっとも、寄附金といえども法人の純資産が減少するのは当然のことであるから、損益法の考え方によれば費用になると解されよう。しかし、収益の獲得を目指して事業活動を営む、営利社団法人である会社において、その外部に対して経済的利益を無償で供与するということは一般的とはいえず、特異な行動であるともいえる。寄附金のような支出は一般に、法人の収益との関連性が見出し難く、事業との関連性もない場合が多い。仮に明確にそういえるのであれば、当該支出は本来、課税所得の算定において控除(損金算入)すべきものとはいえない。しかし、それが必ずしも客観的にかつ明確にいえるケースばかりではないことから(※2)、法人税法においては、行政的便宜及び公平の維持の観点から、一種の擬制として(※3)、寄附金に関し統一的な損金算入限度額を設定し、その範囲内で損金算入を認めるという措置を導入している(法法37①)。 (※2) 岡村忠生・酒井貴子・田中晶国著『租税法(第4版)』(有斐閣・2023年)175頁。 (※3) 岡村他前掲(※2)書175頁。 (2) 寄附金の無償性 上記(1)の通り、法人税法上の寄附金は、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与であり、金銭等の贈与を含む「無償」の供与があることが求められる。ここでいう無償とは、対価又はそれに相当する金銭等の流入を伴わない行為等を指すと考えられる(※4)。したがって、例えば、利益調整目的で行う、親子会社間でよくみられる取引形態であるが、親会社から子会社へ業務委託費等の名目で業務を発注し、契約通りそれに対する報酬を支払うものの、当該業務委託の内容に内実が伴っていない場合には、当該支払いは親会社から子会社に対する経済的利益の無償の供与ということになり、寄附金に該当することとなる。 (※4) 金子前掲(※1)書418頁。 なお、寄附金の支出先である子会社が親会社の国外関連者である場合には、当該国外関連者と独立企業間価格で取引をした場合であっても、親会社が別に当該子会社に寄附を行い、それが損金に算入されるとすると、独立企業間価格と異なる対価で取引を行ったのと同じこととなることから、当該寄附金は日本の親会社の課税所得計算上、全額損金に算入されないこととされている(※5)(措法66の4③)。 (※5) 金子前掲(※1)書607頁。 (3) 法人の支出に係る事業関連性と寄附金課税該当性が争われた事例 それでは、本件と同様に、法人の支出に係る事業関連性と寄附金課税該当性が争われた事例(福岡高裁平成14年12月20日判決・税資252号(順号9251)、TAINSコード:Z252-9251)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、昭和60年10月5日、ローヤルゼリー、プロポリス、蜂蜜等の蜂蜜関連健康食品の製造、販売を主たる目的として設立された株式会社である原告が、平成9年10月1日から平成10年9月30日までの事業年度にかかる法人税について、韓国のソウル市内に本店を有する原告の子会社B株式会社(100%原告出資、以下「B」という)に対して、業務委託契約に基づく業務委託費として支出した費用1,200万円、及び、平成8年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度に開発費として支出し、翌平成10年9月期に業務委託費に勘定科目を振り替えた300万円の合計1,500万円を損金に算入して確定申告していたところ、被告により上記業務委託費を寄附金であると認定され、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分がなされたため、これを不服として国税不服審判所に審査請求をし、同審判所長により審査請求を棄却する旨の裁決を受けたことから、本件更正処分のうち確定申告額を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。 ② 事案の争点 原告のBに対する本件支出が、法人税法第37条に規定される寄附金に該当するか否か。 ③ 裁判所の判断 〈一審(熊本地裁平成14年4月26日判決・税資252号(順号9117)、TAINSコード:Z252-9117)〉 〈控訴審(福岡高裁平成14年12月20日判決・税資252号(順号9251)、TAINSコード:Z252-9251)〉 なお、本件は上告されたが不受理となり(最高裁平成15年6月12日決定・税資253号(順号9363)、TAINSコード:Z253-9363)、納税者敗訴で確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 法人税法上の寄附金は、企業会計上は一般に費用となるものであっても、統一的な損金算入限度額の範囲を超えるものについては、損金算入が認められていない。これにつき裁判所は、租税法の通説を引用しつつ、法人の行う対価性のない支出については、そのうち「どれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつのかを客観的に判定することは困難であるため、法は、事業活動の費用であることが明らかな同条6項の括弧書きの支出を例外として寄附金から除くとともに、行政的便宜及び公平の維持の観点から一種の擬制として統一的な損金算入限度額を設け、その範囲内の金額には当然に費用性があるものとして損金算入を認め、それを超える部分については、仮に何らかの事業関連性があるとしても、損金算入を認めないものとしている(下線部筆者)」と解している。 また、裁判所は、親会社と子会社Bとで締結された業務委託契約の中身を検討してみたところ、それにより委託された業務を具体的に子会社自身が行ったという事実を確認することができず、その実態は「Bが行った役務の対価ではなく、経営状態の悪かったBを維持存続させるための」(親会社からの)「無償の資金供与であった」と認定した。これはとりもなおさず、親会社から子会社への経済的利益の無償の供与に該当するため、法人税法上の寄附金となり、国外関連者(100%子会社)への寄附金に該当することから、全額損金不算入であると判示された。海外子会社が業務不振に陥り、その日本親会社が資金援助を行う必要があるケースは珍しくないが、子会社の実態(実力・力量)に即した業務等を委託し、それに対する報酬を支払わないと、損金算入が否定される、極めて効率の悪い支出となることが想定されるため、十分注意する必要があるだろう。 (4) 本件へのあてはめ 私法上は契約自由の原則が採用され、当事者間で合意した内容(契約)により取引が実行されるものの、 法人税法上は、その取引内容からみて、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与があった場合には、当該取引により経済的利益を供与した側から供与を受けた側に寄附があったものとして取り扱われる。したがって、親会社から子会社(国外関連者)への業務委託契約に基づく支出についても、その内容と実態が乖離し、子会社が契約内容に基づく業務を履行せず、実質的に親会社が子会社に資金援助をしている場合などに関しては、親会社から子会社に対して経済的利益の供与があったものと認定できることから、当該支出は寄附金とされるとともに、それは国外関連者への寄附金であるため、全額損金不算入になるものと考えられる。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第29回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 ➤《更なる考察》 邦貨と外貨の交換(両替)と所得税法33条の「譲渡」 譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう(所法33①)。 したがって、暗号資産の譲渡による所得の譲渡所得該当性を論ずる際には、所得税法33条の「資産」のみならず、「譲渡」該当性も含めた考察が必要となる。 ところで、邦貨と外貨の交換(両替)は所得税法33条の「譲渡」となりうるのであろうか。 民法の領域では、当事者が相互に金銭の所有権の移転を約する両替は、一種の有償契約(無名契約)とみて売買の規定を類推すべきであると解されている(我妻栄『債権各論 中巻一』341頁(岩波書店1957)など参照)。 他方、両替契約とは、通貨媒体の種類を変更とすることを目的とした契約であり、このことは、現金通貨が種類の異なる通貨媒体間でも代替性があることを意味するとした上で、次のとおり指摘する見解もある(森田宏樹「電子マネーの法的構成(3)」NBL619号31頁、34頁の脚注41)。 この辺りは、民法領域における議論の進展等に依存せざるをえない面があるが、所得税法の規定から議論を出発した場合には異なる様相を呈する可能性もある。 所得税法33条の「譲渡」とは、有償であると無償であるとを問わず所有権その他の権利の移転を広く含む観念で、売買や交換はもとより、競売、公売、収用、物納(ただし、譲渡はなかったものとみなされる。措法40の3参照)、現物出資等もこれに含まれるという見解が一般に支持されている(金子宏『租税法〔第24版〕』266頁(弘文堂2021)参照)。 このように所得税法33条の「譲渡」を広い意味に捉えるならば、両替契約の私法上の性質に議論があったとしても、邦貨と外貨の交換(両替)が所得税法33条の「譲渡」に包摂されるという結論に至るのに大きな障害はないのかもしれない。 他方で、外貨のような支払手段の譲渡、あるいは支払手段としての譲渡の場合は、所得税法33条の「譲渡」には含まれないという見方も検討する必要がある。 例えば、ある論者は次のような疑問を提起している(中里実『租税法の潮流第2巻 金融取引の課税』149頁(税務経理協会2021)(初出2002))。 暗号資産との関係では、同じ論者による次のような指摘も有益である(中里実『財政と金融の法的構造』132頁(有斐閣2018)の脚注61)。 暗号資産については、ここでいう金銭として使用できる範囲が極めて限られている通貨に該当する可能性がある。そうであれば、金銭と金銭の取引というよりも、売買に近い実態が存在し、それを円とドルの両替の場合と同様に考えるわけにはいかないということになるであろうか。 この議論の先には、外貨と暗号資産を支払手段として同列に扱うことの妥当性を問う見解が待ち受けている。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q84】 「税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を他の証券会社へ移管した場合のみなし譲渡」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 税制適格ストックオプションの行使により取得した株式に係る課税関係 法人の役員又は使用人等が当該法人の発行する税制適格ストックオプションを付与され、これを行使したことによって当該法人の株式を取得した場合、当該株式を取得したことによる経済的利益については、所得税を課さないこととされています。そして、当該株式を譲渡した場合には、当該譲渡による所得(譲渡収入からストックオプションの行使による払込金額を控除して計算した金額)は、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率で申告分離課税の対象となります。つまり、税制適格ストックオプションの行使により取得した株式に係る所得に対する課税は、原則として、譲渡時まで繰り延べられることとなります。 2 取得した株式の保管委託要件とみなし譲渡課税 ストックオプションが税制適格となるための要件の1つに、株式の保管委託に関するものがあります。これは、ストックオプションの行使により取得する株式について、当該ストックオプションを付与する法人を通じて、金融商品取引業者等の振替口座簿に記載若しくは記録又は金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託、又は管理及び処分に係る信託(保管の委託等)がされること、というもので、当該保管の委託等をされた株式を当該金融商品取引業者等への売委託等により譲渡した場合にのみ課税の繰延べを認めることとされています。 したがって、ストックオプションの発行法人と金融商品取引業者等との間で締結された当該株式に係る保管の委託等の契約が終了する場合、例えば、ストックオプションの発行法人と契約している証券会社に開設した証券口座から株式を引き出し、これを他の証券会社が開設する証券口座に移管する場合には、それ以降の課税の繰延べは認められなくなり、株式を譲渡したものとみなして、当該株式に係るキャピタルゲイン(含み益)について所得税が課されます。税制適格ストックオプションにより取得した株式は特定口座やNISA口座での保管が認められていないため、株式を譲渡したものとみなされる場合には確定申告が必要となります。 3 本件へのあてはめ 税制適格ストックオプションの行使により取得したA社株式は、A社が当該株式の保管の委託等に係る取決めを行ったB証券会社の証券口座に入庫されますが、その後、C証券会社の証券口座に移管する場合は、当該株式が譲渡されたものとみなして所得税が課されることになると考えられます。したがって、C証券会社に移管した時点での価額(時価)からストックオプションの行使に係る払込金額を控除した譲渡益相当額が、20.315%の税率で申告分離課税の対象となり、確定申告することになります。A社株式の保管先である証券口座を移管するのみで実際に譲渡をしたわけではありませんが、譲渡したものとみなされるため注意が必要です。 (了)