〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第39回】 「日本ガイシ事件 -立地特殊優位性がもたらす利益の取扱いについて- (高判令4.3.10)(その3)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、第2項1号ハ、同施行令39条の12第8項1号ハ~ 税理士 井藤 正俊 4 今後の実務への影響~本判決の射程 本判決をまとめると、次のとおり言えよう。 さて、今後の実務への影響であるが、①から、RPSMの分割要因が、単に重要な無形資産のみであるとの考え方に立った分析は、できないことになる。このことは今後、課税庁ばかりか納税者にとっては、超過収益の分析をより厳密に行う必要性が出てくるものと考える。 その結果、納税者にとっては⑤のように、利益分割要因が拡大したと言え、課税庁にとっては、納税者が訴訟等により権利救済を求めた場合、これまで以上に課税取消しのリスクが高くなったと言える。そのため、当該リスクを軽減・回避するために、超過収益の発生要因に関するより詳細な検討が、課税庁は税務調査時に必要となろう。その1つとして、本稿で扱うLS/LSAがあり、当該事項の一層の探求が求められるものと思料する。 ただ、納税者代理人を務めた南繁樹弁護士が述べるとおり、「いかなる支出でも分割要因になるというものではない。本件では、〔②の〕『本件超過利益の発生メカニズム』の認定が鍵となっている。そのようなメカニズムが正確に解明されて、はじめてそのメカニズムで機能している特定の事実(本件では〔④と⑤の〕設備投資)に対して分割要因としての地位が与えられるものと考えられる。」(※48)のであり、筆者も同感である。 (※48) 南繁樹「東京高裁3月10日判決で納税者勝訴 移転価格税制の残余利益分割法をめぐる確定判決の概要と実務への影響」経理情報No.1649(2022年)23頁 本件では、判決文の中で、再三にわたり②のフレーズを繰り返している。②の事実関係を認定しているがゆえに、設備投資に係る支出、ひいては減価償却費の一定額を分割要因として裁判所は採用したというわけである。これにより気づくことは、合算利益から基本的利益を控除した残り、すなわち残余利益は、複数の利益発生要因により形成されたとし、その要因が設備投資であると考えられたことになる。ただ、超過減価償却費以外の他勘定科目やオフバランス取引が、超過減価償却費と同様の効果をもたらしていることも想定されることから、分割要因の採用に当たっては、それらも考慮し行われることが求められよう。 また、本判決は、超過利益の発生メカニズムの中で、寡占市場下の経済取引であったことも大きく影響している。ただ、寡占市場であること自体、かなり特異なケースと評すべきものと言えよう。 なお、超過減価償却費を分割要因として採用することについては、減価償却費の本質から考えた場合、筆者としては疑問を抱いてることは、すでに触れた。 よって、本判決が、RPSMが選定される他の事案について、ストレートに適用できるかとなると、はなはだ疑問である(※49)。 (※49) 大野教授は、前掲(※7)の62頁で、「他の事案でも超過減価償却費が案分要素とされるべきかどうかは、個々の事案に即して判断されるべきであろう。」と述べている。 しかしながら、本判決が提示する発展的な課題として、以下に示す2点について、今後、実証的な研究も含め検討することは、大きな意義があるものと考える。とりわけ、片側検証への拡大の可否については、それが可能となるのであれば、実務の上で多くの事案に影響が及ぶものと考えるからである。 (1) 他のLS/LSA事案への拡大 第一は、他のLS/LSA事案に対しても、本判決と同じように考え得るのかの問題である。これについては、南弁護士が指摘する「本件においては資本集約度の高い生産構造によって、損益分岐点を大きく超える売上高が得られることにより、製品1個当たりの生産に必要な費用が大幅に減少し、規模の利益によって売上高営業利益率が増大したことや、そのような生産構造によって参入障壁が形成されたことが認定されている」ことが、「経済学的な考察に基づき、事案の実態に即した適切な解決を導いた点に大きな特色があ〔る〕」(※50)という点に着目したい。 (※50) 前掲(※48) 本件は、規模の経済が表れた典型的なケースであり、加えて、寡占市場であるがゆえに、他の制約条件が入り込む余地が少なく、規模の経済による利益を、誰が得るべきかをシンプルに捉えることができたものと考えられる。また、進出時のカントリーリスク、設備投資に絡む投資リスクなどのリスク要因の議論を捨象できたことも、経済分析を行う上では大きな要因であったものと考えられよう。 それだけに、仮に、完全自由競争下の経済状況で、海外進出や設備投資等の意思決定を日本の親会社等が行っていた場合、親会社が負担するリスクとの関係から、規模の経済などがもたらす利益が通常の利益を超えている場合には、当該利益の配分をどのように行うかとなれば、やはり一筋縄ではいかないであろう。 もっとも、南弁護士が指摘するように、「今後、このような(経済学的)アプローチにより、経済的現実を正しく反映した」(かっこ書きは筆者)ならば、「納税者にとっても納得感のある解決を得られることになろう」(※51)。はたして納得感のあるアプローチとなるか否かは、利益の発生態様が、経済学のモデルにシンプルに当て嵌められるか、また、その適合度合が決め手になるものと考えられる。その上で、経済学的なアプローチが、今後、他の事案においても用いられてもよいと、筆者は考える。 (※51) 前掲(※48) (2) 分割要因の選択と適用 第二の問題は、LS/LSAの利益が発生しており、TPMとしてRPSMを適用した場合、その利益の配分にあたり、分割要因として超過減価償却費を用いることの適否の問題を取り扱った。ただ、この問題は、本事件では、経済学的なアプローチが採用でき得たことにより導き出された分割要因であると捉えるべきではないかと、筆者は考えている。 そのため、より本質的な問いとしては、LS/LSAの利益を、RPSMの枠組みの中で考えた場合、分割要因をどのように決定するのかが問題となろう。そして、その問いについては、LS/LSAとの相関関係を考慮し、決定することになると考える。とりわけ、LSAは、市場における需要曲線に影響を与えるものであるため、損益計算の費用項目等などと相関関係を見い出すことの困難さは、やはり伴うことであろう。 一定の貢献が認められる費用項目等について、本事案で採用された「超過」部分を採用する考え方については、基本的利益で用いた比較対象取引(企業)の同項目等の数値や割合を、他の事案で用いることについては、筆者としては懐疑的である。 その理由は、本事件は、経済学的アプローチを用いることができ、資本集約型産業であり、設備投資との因果関係が強く認識可能できたことから、検証対象と比較対象取引との間に比較可能性があることを前提に捉えられたものと考えられるからである。しかし、とりわけLSAについては、前述したように、因果関係を見い出すことが困難であり、一定の割り切りをもって、費用項目等を特定する必要が生じるものと思料される。つまり、費用項目等の選定に1つの仮定を置き、さらに、基本的利益で用いた比較対象取引に当該費用項目にも比較可能性があるとの2つ目の仮定を置くことになるためである。 そうしたケースにあっては、むしろ財務データをより多くの母集団から求めて、いわゆる外れ値の排除を可能とすると言われる、四分位法などの統計手法を用いることの方が、第2の仮定を設けることがない分、望ましいのではないかと考えるものである。 よって、本事案で採用された超過減価償却費を、製造業などのRPSM事案に対して、分割要因として機械的に適用することは難しく、分割要因として用いる際は、超過利益の有無の把握ばかりか、発生要因の特定など慎重に行う必要があろう。よって、適用可能な事案は、限られるものと考えられる。 (3) 片側検証への拡大の可否 第三の問題は、国外関連者に重要な無形資産とまではいかないものの、本件のように設備投資が行われた結果、国外関連者に超過利益が生じていたり、他のLS/LSAに起因する利益が生じている場合、当該利益部分の配分について、どのように扱うかの問題が考えられる。 これに関しては、国外関連者に超過利益が生じていれば、それは重要な無形資産ではないのか、と考える向きもあるかもしれないが、必ずしもそうとは限らないことを本判決は示した。具体的には、本件では、「重要な無形資産と共に他の複数の利益発生要因が重なり合い、相互に影響しながら一体となって得られた超過利益(残余利益)」が発生しているとしたのである。現実の経済取引では、国外関連者が海外に進出して久しく、一定レベルの製造ノウハウを有し、それが高い通常の利益を生んでいるものの、重要な無形資産とまでは認められないケースなどである。 考えてみれば、こうしたことは自然なことであろう。重要な無形資産は、いきなり形成されたり、突如、超過利益が発生するわけではない。通常の利益が一定の幅として認識され、相対的に高次な部分が、やがて超過利益を形成していくのである。それを色で例えれば、一種のグラデーションのようなものである。真っ白が通常の利益であり、真っ黒が超過利益であるとすれば、その間には彩度の異なる無数の灰色がある。利益発生要因は様々であっても、通常の利益と超過利益との間には、そうした無数の色が存在しており、それらを線引きできないのが現実の経済実態と言える。このように考えたとき、LS/LSAの利益が、片側検証の検証対象に発生することもあり得るのではないだろうか(※52)。 (※52) こうした考え方に対して、当該利益については、あくまでも通常の利益の差異調整として扱うべきではないか、との意見があるかもしれない。しかしながら、そのような差異調整を行うことは、今日、圧倒的多数のケースにおいて、TPMとしてTNMMが選択され、その際に用いられる財務データは、民間のデータベース企業が提供するものを用い、そのすべてが、全社ベースのデータであることを考えると、財務情報から差異を見出し調整をはかることには限界があるのも事実である。この点についてガイドラインでは、TPMの選定にあたり最適化手法を採用(パラグラフ2.2)しながらも、情報入手可能性について一定の制限があることをも認めており(パラグラフ1.13)、わが国の通達(租税特別措置法関係通達66の4(2)-1、66の4(3)-1、66の4(3)-3、指針4-1)においても同様の考え方が採られている。 そうしたケースでは、LS/LSAの利益の帰属は、国外関連者と日本親会社との、はたしていずれであると考えればよいのかが問題になる。そしてまた、分割要因を何に求めればよいのかが問題にもなろう。 そのような事案の場合、本件で扱った利益の分割要因としての超過減価償却費は、何ら回答を与えないだろう。なぜなら、本件では、重要な無形資産の超過利益にLS/LSAの利益を含有させ、他の分割要因と一緒に残余利益を分割しているからである。表現を変えれば、本件では、超過減価償却費を分割要因として用いているものの、結果的として、LS/LSAの分割を、重要な無形資産の配分となる分割要因に加えることで、相対化させて利益分割を行ったに過ぎない。つまり、新たなコンセプトとしての超過減価償却費の利用は、あくまでも分割要因の話に過ぎないのである。そして、本件は、既存のRPSMのフレームワークの中で、LS/LSAの利益の配分問題の解決をはかったのである。 だが、すでに示したように、経済学的アプローチを用いたのであれば、本件は、規模の経済によってもたらされる一連の利益を金額的に把握し得たと考えられる。そうであれば、あとは、誰に帰属させるのか、その裏返しの、配分割合が示されて然るべきであった。 そのため、本件は、LS/LSAを前面から扱っている事件であるものの、LS/LSA自体をどう配分すべきか、あるいは、RPSMのフレームワークで配分することが最適か否かなどの結論を示してはいない。また、他の案件へ応用可能な場合の判断基準を示すにも至っていないものと思料される。 よって、片側検証への拡大の可否については、扱い得るLS/LSAの問題とともに、今後、議論を深めていく必要があるものと考える。 なお、こうした問題意識に対しては、移転価格分析に基づいた、より適切な比較対象取引の選定を行えばよく、あくまでも比較可能性分析の問題として捉えて整理する考え方もあろう。だが、それを成すには、より厳密な定性分析を行う必要があり、そのための着眼点や判断基準、考慮要件などが何かを、納税者と課税庁との間で十分に共有することが望まれる。そうでなければ、比較対象取引(企業)の候補の利益率などを加味しただけの比較対象取引(企業)の選定の適否に関して、いわば空中戦の議論が、納税者と課税庁との間で展開されるだけになりかねないからである。このような事態を回避する上でも、課税庁からの基準等の公表が求められる。 (了)
四半期報告書制度廃止に伴う開示実務のポイント 【後編】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 6 中間財務諸表に関する会計基準 1Q及び3Qの四半期報告書の廃止に伴い、ASBJより、以下の公開草案が公表されている。 基本的に企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、合わせて「四半期会計基準等」という)の会計処理及び開示が引き継がれる。 ただし、期首から6ヶ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従い第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性がある項目については、従来の四半期会計基準等に基づく取扱いが継続して適用可能となる取扱いを提案していて、そのうち以下の項目については経過措置が定められている(企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等の公表「開発にあたっての基本的な方針」)。 7 レビュー基準 金融庁企業会計審議会より、半期報告書のレビューに対応するために「四半期レビュー基準」の改正版として「期中レビュー基準(公開草案)」が公表されている。内容は、基本的に四半期レビュー基準と同様である。 また、日本公認会計士協会より四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正版として期中レビュー基準報告書第1号「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」(公開草案)が公表された。 また、1Qと3Qの決算短信の四半期(連結)財務諸表のレビューのために期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」(公開草案)が公表されている。 (1) 改正内容 期中レビュー基準報告書第1号「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」は、基本的に四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の内容を引き継いでいる。 期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」では、期中レビュー基準報告書第1号「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」と異なり、一般目的の財務報告の枠組みのみならず、特別目的の財務報告の枠組みも対象としている。また、適正表示の枠組みのみならず、準拠性の枠組みを対象としている。 (2) 適用時期 (3) 中間連結財務諸表に対するレビュー報告書 中間連結財務諸表に対するレビュー報告書のひな型は、日本公認会計士協会ホームページの「「四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正及び期中レビュー基準報告書「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」」(公開草案)の公表について」における「改正四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」(公開草案)」の31頁等にて、示されているため参考とされたい。 なお、決算短信に係る期中レビュー報告書の文例は、今後、別途公表予定である。 (4) レビュー対象と適用される基準 〈決算期ごとに適用されるレビュー基準の例示〉 (※) 決算短信に対してレビューを行う場合のみ。 8 決算短信における後発事象 1Qと3Qの決算短信において、レビューを行う場合、後発事象の手続に留意する必要がある。 四半期決算短信における後発事象の期中レビュー手続として、質問することが求められる。一方、四半期決算短信における重要な後発事象の注記は会社の任意である。 ここで、会社が重要な後発事象の注記を行わない場合、準拠性の枠組みにおいては、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項の遵守が求められるのみであるため、重要な開示後発事象の注記がなくても、質問以外の手続を実施することは基本的に求められない。 ただし、開示後発事象として注記しておらず、監査人が財務諸表の利用者の誤解を招くと判断するような重大な場合(例えば、会社が存続できなくなるような状況がある場合)は、以下の手続をすることが考えられる。 〈財務諸表の利用者の誤解を招くような開示後発事象が存在するが、開示されていない場合〉 9 非上場会社 非上場会社においても制度改正が行われている。特定事業会社以外の非上場会社の場合、改正前は原則、半期報告書に対して監査を受けなければいけなかったが、改正後はレビューも選択することができる。 そして、金融商品取引法では、半期報告書は1号から3号の3つに分類され(金融商品取引法24条の5第1項)、上場会社、非上場会社ごとの提出期限、中間財務諸表の種類、監査又はレビューの関係は、以下のとおりとなる。 (※1) 非上場会社は第3号の半期報告書が原則であるが、特定事業会社を除く非上場会社は、第1号を選択することも可能である。また、特定事業会社の非上場会社は第2号を選択することも可能である。 (※2) 第一種中間(連結)財務諸表は、中間会計基準及び中間適用指針に基づき作成する。第二種中間(連結)財務諸表は、中間連結財務諸表作成基準及び中間財務諸表作成基準に基づき作成する。 上場会社、非上場会社の改正前と改正後は、以下のとおり示すことができる。 (出所:金融庁「第54回企業会計審議会監査部会 資料1 事務局資料(2023年9月5日)」4頁) (注) 図中の(注1)の「改正法案(前頁)の法案」とは、「金融商品取引法」と読み替える。 10 最後に 改正前と改正後の要点を図に表すと、以下のとおり示すことができる。 (出所:金融庁「第55回企業会計審議会監査部会 資料1 事務局資料(2023年12月14日)」6頁、筆者一部改変) (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第45回】 「取締役等の報酬等の一覧表の誤記載検出法」 公認会計士 石王丸 周夫 1 業績連動報酬等の金額が誤っていた事例 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 事業報告で開示される取締役等の報酬の一覧表で、原因はわかりませんが、一部の数字が間違っていたというものです。これがうっかりミスだったのかどうかは第三者からはわかりませんが、訂正前の数字が何の数字だったのかを推測してみると、やはり作成過程における作業上の単純ミスだったのではないかと考えられる事例です。 なお、事業報告は計算書類ではありませんが、株主総会招集通知の添付書類として、計算書類と一体となって読まれるものです。したがって、会社法による開示書類の1つとして今回取り上げてみました。 では、早速、事例を見ていきましょう。 【事例45-1】 事業報告で開示される役員報酬等の金額の誤記載。 (出所) 株式会社デジタルハーツホールディングス「「第10回定時株主総会招集ご通知」の一部訂正について(2023年6月25日)」 この事例の会社は、2023年6月5日に本事例を含む第10回定時株主総会招集ご通知の電子提供を開始し、2023年6月25日に当該誤記載の訂正を公表しています。 間違っていたのは、【事例45-1】に示したとおり業績連動報酬等の金額で、その間違いに伴い、「報酬等の総額」の数字も訂正になっています。 業績連動報酬等の金額は、訂正前が「39,184」、訂正後が「19,662」であり、単純な入力ミスとは思えません。いったい何がミスの原因だったのでしょうか。 2 やはりヒューマンエラー このミスの原因を探るには、訂正前の業績連動報酬等の金額「39,184」が何の数字だったかを特定する必要があります。通常、第三者がそれを知ることは難しいのですが、今回の事例については、ある数字と一致していることにたまたま気づきました。その数字とは、以下の赤い枠線内の部分です。 (出所) 株式会社デジタルハーツホールディングス「第9回定時株主総会招集ご通知(2022年6月9日、ウェブサイトでの開示は2022年6月7日)」 上記の表は、【事例45-1】の会社の前年度(2022年3月期)に係る事業報告で開示された取締役等の報酬等の一覧表です。この表の赤い枠線内の記載が【事例45-1】の訂正前の記載と全く同じであることがわかります。 つまり、【事例45-1】の訂正前の記載は、前年の同じ部分の記載を更新することなく、そのまま残してしまったものであったと推測されます。そうなってしまった背景としては、これも推測にすぎませんが、業績連動報酬等の金額を算定するのに時間を要することから、他の箇所を先に入力し、この部分のみ更新待ちの状態にして結局そのままにしてしまったといったことが考えられます。 上記の推測が当たっているならば、このミスはうっかりミスです。人間につきもののエラー(ヒューマンエラー)ということで、防止することは困難です。したがって、作成後に何らかのチェックを行って、開示前にこのエラーを見つけてあげる必要があります。 3 他の箇所との整合性チェック では、その方法はというと、業績連動報酬等について開示書類の他の箇所との整合性をチェックすることです。 【事例45-1】の元資料(第10回定時株主総会招集ご通知)を見ると、取締役等の報酬等の一覧表の脚注として以下の記載があります。 (出所) 株式会社デジタルハーツホールディングス「第10回定時株主総会招集ご通知((発信日)2023年6月9日、(電子提供措置の開始日)2023年6月5日)」 この脚注の下線部分より、業績連動報酬等については役員賞与引当金の対象になっていることがわかります。そこで、個別貸借対照表を参照してみると、役員賞与引当金の残高は19,662千円であり、【事例45-1】の訂正後の業績連動報酬等の額と一致することがわかります。【事例45-1】については、このような方法で整合性チェックが可能でした。 他社においてもこのように数字の整合性を確認できるかというと、必ずしもそうではありませんが、取締役等の報酬等の開示金額について、計算書類等と整合性を確認できる箇所がないか探してみることは、実施してみる価値はあります。 なお、【事例45-1】と同様に、当該記載で前年の数字をそのまま残してしまったことにより訂正に至ったとみられる事例が、他社でも発生しています。当該記載については、前年度の記載と見比べるというチェック方法がかなり効果的だと思います。 〈今回のまとめ〉 事業報告の取締役等の報酬等の一覧表は、ミスが散見されるので、計算書類等との整合性チェックや前年度記載との比較検討等を実施するとよいです。 (了)
〈一問一答〉 副業・兼業に関する担当者のギモン 【第9回】 (最終回) 「副業・兼業と労災保険・雇用保険・社会保険」 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 労災保険 労働者災害補償保険法(労災保険法)は、労働者を使用する事業を適用事業としているため(労災保険法第3条)、労働者を1人でも雇用している場合には、原則として労災保険への加入手続を行う必要がある。このことは、副業・兼業を行う「複数事業労働者」(労災保険法第1条)であっても変わりはなく、複数事業労働者については本業先および副業・兼業先の双方においてそれぞれ労災保険への加入が必要となる。 複数事業労働者をめぐっては、1つの事業場で労災に遭った場合に、別の事業場の使用者から得られた賃金額が、労災保険給付の給付基礎日額(労災保険法第8条第1項)に含まれるかについて議論があり、判例はこれを否定していた(王子労基署長(凸版城北印刷)事件=最高裁昭和61年12月16日判決労判489号6頁)。これによると、複数事業労働者が本業先で労災に遭い、副業・兼業先を含むすべての就業先での休業を余儀なくされたような場合であっても、労災保険の給付額は、本業先から支払われている賃金額のみを基礎として決定されることとなるため、副業・兼業を行うことで初めて生計が成り立っている労働者にとっては、生活に困窮するおそれが生じるという課題があった。 また、これと関連して、労災保険給付の要件である業務起因性の判断についても、従来の裁判例は、労災保険法に基づく補償は労働基準法に基づく個々の使用者の労働者に対する災害補償責任を前提にするとの立場から、複数事業労働者の場合であっても、業務起因性は使用者ごとに個別に判断すべきとしていた(国・大阪中央労基署長(大器キャリアキャスティング・東洋石油販売)事件=大阪地裁令和3年12月13日判決労判1265号47頁)。これによると、複数事業労働者の過労死のケースなど、本業先と副業・兼業先の双方における労働の負荷を総合的に考慮すれば業務起因性が認められるような場合であっても、個々の使用者の下での労働の負荷を個別的に評価すれば、業務起因性を認めるに足りないような場合には、労災保険の給付を受けることができないこととなる。 しかしながら、これらの点は、令和2年9月1日施行の改正労災保険法により、立法的な対処がなされた。 すなわち、同改正により、複数事業労働者については、1つの事業場のみの業務上の負荷を評価して業務災害に当たらない場合であっても、複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定されるときは、「複数業務要因災害」を支給事由として労災保険が給付されることとなった(労災保険法第7条第1項第2号)。また、複数事業労働者に対応したセーフティネットの整備を図るため、複数事業労働者については、災害発生事業場から支払われている賃金額だけでなく、非災害発生事業場から支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定されることとなった(労災保険法第8条第3項)。 なお、本業先と副業・兼業先の事業場間の移動中に起こった災害は、通勤災害の保護対象となり(労災保険法第7条第2項第2号)、当該移動の終点となる事業場の労災保険を使用して保険給付を受けることができる(平成18年3月31日基発第0331042号)。 2 雇用保険 雇用保険法は、労働者が雇用される事業を適用事業とし(雇用保険法第5条第1項)、適用事業に雇用される労働者が被保険者となるが(雇用保険法第4条第1項)、1週間の所定労働時間が20時間未満の者、同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者は適用が除外される(雇用保険法第6条第1号、同第2号)。 副業・兼業を行う複数事業労働者が、それぞれの使用者との間の雇用関係において被保険者要件を満たす場合、原則としてその者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係でのみ被保険者となる(「雇用保険に関する業務取扱要領(令和6年2月1日以降)」20352(2)イ(イ)a参照)。 雇用保険の適用要件は、使用者ごとに判断されるため、例えば、1つの事業主との間の雇用関係において週所定労働時間が20時間とされている労働者は雇用保険の被保険者となるのに対し、本業先の週所定労働時間が10時間、副業・兼業先の週所定労働時間が10時間という形態で就業している労働者は、合算した週所定労働時間が20時間以上であったとしても、雇用保険は適用されず、失業等に対する保険給付が受けられない。 ただし、令和4年1月1日施行の改正雇用保険法により、65歳以上の労働者については、本人からハローワークに申出を行うことで、2つの事業所での週所定労働時間を合算した結果として雇用保険の適用要件を満たす場合に、雇用保険を適用する制度(雇用保険マルチジョブホルダー制度)が試行的に開始されることとなった(雇用保険法第37条の5)。当該制度は、施行後5年を目途に効果検証を行い、65歳未満の労働者への適用拡大など制度の在り方を再度見直すこととされている。 3 社会保険 社会保険(厚生年金保険および健康保険)は、法人の事業所や従業員が5人以上いる場合の個人事業所は強制適用事業所として、被保険者となるべき従業員の加入手続を行わなければならない。 社会保険についても、雇用保険と同様に、1週間の所定労働時間等により社会保険の適用要件が定められているところ、この適用要件は使用者ごとに判断されるため、本業先および副業・兼業先で就労する労働者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合には、仮に週所定労働時間を合算して適用要件を満たしたとしても、社会保険は適用されない。 この点、雇用保険においては、上記のとおり、雇用保険マルチジョブホルダー制度の創設によって65歳以上の労働者につき所定労働時間の合算を行うこととされたが、社会保険との関係ではこのような法改正はなく、従来どおり、使用者ごとに社会保険の適用要件が判断されることとなる。 副業・兼業を行う複数事業労働者が、それぞれの使用者との間の雇用関係において被保険者要件を満たす場合、被保険者は、本業先または副業・兼業先のいずれかの事業所の管轄の年金事務所および健康保険の保険者を選択し、選択された年金事務所および健康保険の保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、社会保険料が決定される。そのうえで、各事業主は、被保険者に支払う報酬の額によって按分した社会保険料をそれぞれ納付することとなる。 (連載了)
賃上げ実施に伴う企業の労務上の留意点Q&A 【第2回】 「初任給を引き上げる場合の問題点と解決策」 社会保険労務士 富山 直樹 【Q】 人手不足を背景に、採用を強化するためにも初任給の引上げを検討していますが、既存社員の給与と同等(もしくは上回る)とした場合に問題はないでしょうか。 【A】 法的な問題はないが、筆者の見解としてはおすすめしません。 主な問題点と解決策は以下のとおりとなります。 ●○ 解 説 ○● ① 問題点 (1) モチベーションの低下と人材流出 問題点としてはまず、モチベーションの低下と人材流出の恐れが考えられる。 会社としては採用を強化するために初任給を引き上げたり、転職であれば前職の給与を基準として採用後の給与を決定したりすることは往々にしてありうる。 しかし、専門技術や資格、特殊な経験を伴うような職ならばともかく、一般企業の採用や転職であれば「採用後、即戦力!」というわけにもいかないであろう。 それにもかかわらず、既存社員のベースアップを行わずに、新入社員に既存社員と同等やそれ以上の給与を支給することは既存社員のモチベーション低下を招き仕事の質が低下する恐れがあるだけでなく、最悪の事態としては既存社員に転職されてしまう恐れもある。 そうなってしまっては、知識・技術の無い新入社員を獲得するために、何年もかけて育てて知識・技術を蓄積した会社の戦力となっている人材が流出してしまい、本末転倒である。 (2) 社内モラルの低下 次に社内モラルの問題もある。 社内のモラルを保つために、給与明細を見せ合うような行為を就業規則で禁止することも1つの方法ではあるが、今般、自社の採用情報などはインターネットを通じて簡単に入手することができてしまう。募集要項に記載された給与が自身の給与より高かった場合の既存社員の心境は計り知れない。 上記の状況の実例として、下記、⼤卒で銀⾏に就職した筆者のケースを取り上げる。 このような状況は新入社員、既存社員、双方にとって望ましいとは言えないだろう。 ② 解決策 長い目で採用、定着、そして長期間会社で活躍してくれるような人材を求めるのであれば、初任給を引き上げることよりも、賃金のベースが「年功序列型」なのか「成果主義型」なのか等の賃金体系を含め、内外に現実的なキャリアイメージを示し、価値観の合致する社員を採用することが肝要であると考える。 会社によっては、同業他社と比べて初任給を高めに設定し、就職説明会などで「30代で高年収が目指せる!」といった紹介をしているケースもある。 しかし入社後は、賃金上昇率が同業他社よりも低く、説明会で紹介していた高年収が目指せるケースもごく一部だけということが判明することがある。これは「高い初任給は就活生に対して会社を目立たせるため」といった理由が存在しており、大企業などで高い離職率となっている場合に大量採用のために行われていることがある。 こうした離職を想定した大量採用を行うために、高い初任給を設定するのも企業戦略の1つではある。しかし、中小企業で同じような戦略をとることは現実的ではない。 そのため、目先の初任給よりもこの先のキャリアプランを明確に、かつ現実的な内容で伝えたうえで、その価値観を共有できる人と働く方が会社の成長に寄与するのではないかと考える。 ③ まとめ 新規採用者の初任給を引き上げ、既存社員のベースアップを行わないことは、時給換算で最低賃金を下回らなければ法律に触れるような行為ではない。 したがって、「とにかく採用を増やしたい!」「なんとしても今、新入社員が欲しい!」ということであれば、実行に踏み切ることも一案である。 しかし、その代わりに上記①で提示したようなモチベーション低下や人材流出、社内モラルの低下を招くリスクも考えられる。 読者の皆様の会社はいかがであろうか。人手不足の会社も多く、採用を強化したいのはもっともである。では、採用を行ったうえで会社をどうしていきたいのか。もう一歩先まで踏み込んだ検討を是非行ってみていただきたい。 社員が長く活躍することができ、誰もが働きやすい職場となることを願っている。 (連載了)
プラス思考の経済効果 【第24回】 「2024年の恵方巻き等の経済効果と食品ロス」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 今年は、新型コロナが5類に移行してからはじめての「節分」でした。多くの人たちが恵方巻きを食べたのではないでしょうか。今年の立春は2月4日(日)で、立春の前日が節分ですから、今年の節分は2月3日(土)でした。 「恵方巻き」は、節分に恵方(その年の吉方、縁起の良い方角のことで、今年の恵方は「東北東やや東」)を向いて願い事をしながら無言で巻き寿司を食する風習のことで、この方法で恵方巻きを食するとその年の縁起が良いと言われています。 起源は大阪の花柳界、花街、船場などで、昔から行われていた風習と言われていますが、近年はマスコミが大々的に取り上げて、寿司業界、海苔業界、コンビニやスーパーの食品小売業界、百貨店などが積極的に宣伝・販売活動を行うことにより、売上高を拡大してきています。しかし、日持ちのしにくい寿司であるため、売れ残りが廃棄処分される食品ロスが問題になってきています。 今回は、2024年の恵方巻きをはじめとする「節分の寿司」の売上高と経済効果を予測し、さらに廃棄処分される食品ロスの金額を推計しました。 2 2024年の恵方巻き等の売上高の予測 以下の表は、一般社団法人日本市場規模協会 市場規模総合研究所が発表した「恵方巻きをはじめとする「節分の寿司」市場規模推移」を基に、恵方巻き等の総売上高を示したものです。 新型コロナ前の3年間及び新型コロナ流行期の3年間の確定値と、2023年と2024年の推定値となっています。 〈恵方巻き等の総売上高〉 (※) 総務省「家計調査」の「すし(弁当)」への支出データと、総務省「労働力調査」のデータを基にして2人以上の世帯と単身世帯の売上を推計し、その合計を総売上高として示しています。この金額には、恵方巻きの他、にぎり寿司、いなり寿司、ちらし寿司、折詰寿司が含まれています。ただし、節分の日における寿司の売上のほとんどは恵方巻きであると推察されますので、本稿では恵方巻き等の経済効果として分析します。 上記の表において、2023年と2024年の総売上高の対前年比は、2017年から2022年の6年間(新型コロナ前の3年間と新型コロナ流行期の3年間の合計6年間)の増減率の平均値4.2%を用いています。新型コロナ前は恵方巻きの風習は伸び悩み、どちらかというと伸び率は減少傾向にありましたが、新型コロナ流行期には外出を控えて、家庭内での飲食が増加したことなどの理由により売上高は急速に増加していることが分かります。 そして、2024年の恵方巻き等の売上も4.2%上昇すると予想します。その結果、2024年の恵方巻き等の総売上高は約325億9,500万円となります。恵方巻き等の「節分の寿司」がたった1日で325億9,500万円の売上をあげることは驚異的であると言えます。 3 2024年の恵方巻き等の経済効果 これまで計算した325億9,500万円を直接効果として、総務省が作成した最新の全国の「産業連関表」(2019年に発表した2015年の「産業連関表」の修正版)を用いて経済効果を分析すると、2024年の恵方巻き等の経済効果は約703億520万円となりました。 〈2024年の恵方巻き等の経済効果〉 4 恵方巻き等の食品ロス 恵方巻きは、巻き寿司のため一般的には日持ちがしません。したがって、売れ残りが発生した時は、家畜のエサになったり、廃棄されたりすることになります。ひどい例としては、恵方巻きの製造会社から店頭に1度も並ぶことなく、作り過ぎたので直接廃棄場に運ばれることもあると言われています。 2017年には大量に廃棄された恵方巻きの写真がSNSで拡散されて問題となりました。行き過ぎた販売競争が「食品ロス」を生み出しているとして、2019年1月11日に農林水産省は「貴重な食料資源の有効活用」のために、需要に見合った販売をするように文書で呼びかけました。 それでは、どれほどの恵方巻きが毎年廃棄されてきたのでしょうか。百貨店や寿司屋では、消費者が購入に来た段階で恵方巻きを作るケースもあるので、廃棄率は低いと考えられます。他方、スーパーやコンビニではできあがった恵方巻きを店頭に並べて販売するので、売り切れない場合の廃棄率はかなり高いと想定されます。 筆者が2019年に入手したデータによると、いくつかのスーパーやコンビニから得られた廃棄率は1~7%でした。ある大手スーパーでは廃棄率が5%を切ると店舗で欠品の出る可能性があるので、廃棄率は6%以上にしているという意見もありました。 農林水産省の「貴重な食料資源の有効活用の要請」や「恵方巻きのロス削減に取り組む事業者の募集や公表」にもかかわらず、依然としてかなりの廃棄率があるのが現状のようです。取材の際も「恵方巻きのように1日だけの需要が非常に多く、また生もので日持ちのしないような品物については、ある程度の廃棄率は仕方がないですよ」という声を何度も聞きました。 今回は過去の取材やデータから廃棄率を4%と仮定します。その結果、2024年に廃棄される恵方巻き等の金額は約13億380万円となります。 5 廃棄される恵方巻き(食品ロス)を減らす方法 廃棄される恵方巻き(食品ロス)を減らす方法は、以下の通りです。 6 まとめ 今回の分析の結果は以下の通りです。 ウクライナへのロシアの侵攻、パレスチナとイスラエルの戦闘、アフリカなどでの干ばつなどにより世界的な食糧危機の時に、食品を廃棄するということは絶対に避けるべきだと思われますので、生産者、販売者、消費者は協力して食品ロスをなくすように努力するべきでしょう。 (了)
《速報解説》 JICPAから「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A」の草案が公表される ~独立監査人の四半期連結財務諸表に対する期中レビュー報告書の文例等も示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年2月21日、日本公認会計士協会は、「期中レビュー基準報告書実務ガイダンス「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューについて、Q&A形式によって解説するものである。独立監査人の四半期連結財務諸表に対する期中レビュー報告書の文例及び経営者確認書の記載例も示されている。 意見募集期間は2024年3月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等 東京証券取引所においては、金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しを受けて、次のように有価証券上場制度を見直している。 2 第1・第3四半期財務諸表等の財務報告の枠組み(Q1) 第1・第3四半期財務諸表等の財務報告の枠組みは、次のように整理される。 適正表示の枠組み又は準拠性の枠組みのいずれにより作成するかは、レビュー契約の受嘱時に確認する。 「適正表示の枠組み」に基づいて作成された四半期財務諸表に対するレビューと「準拠性の枠組み」に基づいて作成された四半期財務諸表に対するレビューは、いずれも限定的保証業務であり、保証水準に違いはない。 3 東証短信レビューに適用するレビュー基準等(Q2) 東証短信レビューを実施する場合(義務付けの場合も含む)、監査人は、「期中レビュー基準」に従う。 次のことに留意する。 4 適正性に関する結論と準拠性に関する結論を表明する場合の期中レビュー手続(Q3) 期中レビューを実施する際は、期中財務諸表の作成に当たって適用された会計基準に準拠しているかどうかに関して必要な質と量の証拠を入手する必要がある。 このことは、適正性に関する結論を表明する場合であっても、準拠性に関する結論を表明する場合であっても同様である。 このため、限定的保証を提供するための期中レビュー手続に違いはない。 適正性に関する結論の判断に際しては、期中財務諸表が表示のルールに準拠しているかどうかの評価と、期中財務諸表の利用者が財政状態や経営成績等を理解するに当たって財務諸表が全体として適切に表示されているか否かについての一歩離れて行う評価が含まれる。 準拠性に関する結論の判断に際しては、財務諸表が全体として適正に表示されているか否かについての一歩離れて行う評価は行われない。 適正表示の枠組みに比して、準拠性の枠組みにおける財務諸表等の開示量が少ない場合には、開示の検討に関する作業量は減少すると考えられる。 適正性に関する結論を表明するに当たっては、追加情報の記載の必要性を検討するなど、財務諸表が全体として適切に表示されているかという観点がある。 一方、準拠性に関する結論を表明する場合はその観点がないため、当該観点からの検討に対応する作業量は減少することが考えられる。 5 後発事象(Q5) 第1・第3四半期財務諸表等に係る財務報告の枠組みにおいては、重要な後発事象の注記の省略が可能である。 監査人は、後発事象の手続として、財務報告の枠組みにかかわらず、期中財務諸表において修正又は開示すべき後発事象があるかどうかについて、経営者に質問しなければならない。 第1・第3四半期財務諸表等において、会社が「準拠性の枠組み」を選択し(決算短信作成基準3条2項に基づいて作成)、開示すべき後発事象(開示後発事象)の注記を行わないことを選択した場合、準拠性の枠組みにおいては、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項の遵守が求められるのみである。 このため、四半期財務諸表等において重要な開示後発事象の注記がなされていなくても、監査人は、質問は実施するが、基本的にはそれ以外の手続を追加で実施することは求められていない。 6 継続企業の前提(Q6) 東京証券取引所の決算短信作成基準において、継続企業の前提に関する注記が求められており、省略することは認められていない。 このため、適正性に関する結論を表明する場合であっても、準拠性に関する結論を表明する場合であっても、継続企業の前提に関する手続は同様である。 7 訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する期中レビュー(Q7) 訂正前に公認会計士等によるレビューを任意で受けた場合においては、訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する公認会計士等による期中レビューは任意となる(東京証券取引所の改正規則等参照)。 訂正前に公認会計士等によるレビューを受けていない場合にも、訂正第1・第3四半期財務諸表等に対する公認会計士等による期中レビューは任意となると考えられる。 公認会計士等によるレビューを受けた第1・第3四半期決算短信に添付される四半期財務諸表等を訂正する場合で、訂正後の四半期財務諸表等について公認会計士等によるレビューを受けていないときは、その旨を「決算発表資料の訂正」の開示において記載することに留意する(東京証券取引所の改正規則等参照)。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「財務諸表のレビュー業務」及び実務ガイダンスの改正案を公表 ~レビュー業務の対象範囲の整理等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年2月21日、日本公認会計士協会は、「保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」及び保証業務実務指針2400実務ガイダンス第1号「財務諸表のレビュー業務に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂及び監査に関する品質管理基準の改訂について(公開草案)」(2023年12月14日、企業会計審議会監査部会)を受けたものである。 意見募集期間は2024年3月21日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する会計期間に係る期中財務諸表の期中レビューから適用する予定である。 (了)
《速報解説》 令和5年分の所得税の確定申告で 令和6年能登半島地震に係る雑損控除等の適用可とする 特例法が公布、同日施行 Profession Journal編集部 令和6年能登半島地震の災害による損失について、令和5年分の所得税の確定申告で雑損控除等の適用を受けられる特例法(令和6年能登半島地震災害の被災者に係る所得税法及び災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の臨時特例に関する法律)が、同法の政令とともに2月21日付け官報特別号外第18号で公布、同日施行された(個人住民税の雑損控除を令和6年度分(令和5年所得)において適用対象とする地方税の特例法(地方税法の一部を改正する法律)も官報同号にて公布、施行)。 (※) 同法は2月16日に法案が国会へ提出され同月20日に衆議院、21日に参議院で可決・成立した。 令和6年能登半島地震の災害による損失ついては、同年1月1日の発生であるため、通常であれば令和6年分の所得税の確定申告において雑損控除等の適用を受けることになるが、広範囲において生活の基礎となるような家財や生計の手段に甚大な被害が生じており、かつ、発災日が1月1日と令和5年分所得税の課税期間に極めて近接していること等の事情を総合的に勘案し、臨時・異例の対応としてとられたもの(法律の概要は既報のとおり)。①雑損控除の他、②災害減免法の特例、③被災事業用資産等の損失の必要経費算入の特例の適用が可能とされる(①と②は選択適用)。 今回の特例法の適用を受けるかはその居住者が選択でき、確定申告書等にこの規定の適用を受けようとする旨の記載がある場合に限り、適用される。 なお、国税庁は1月12日付で、石川県及び富山県に納税地のある者を対象にすべての国税の申告・納付期限を自動的に延長することとし、具体的な期限は今後被災者の状況に十分配慮しつつ検討するとしている(上記対象外の地域でも「災害による申告、納付等の期限延長申請」(個別指定)で承認を受ければ延長可)。 一方で、今回の特例法で対象となる損失(令和6年能登半島地震により生じた損失の金額)については対象地を石川県及び富山県に限定していない。このため既に(特例法の施行前に)令和5年分の所得税の確定申告書を提出している場合も考えられるが、この場合は施行日(令和6年2月21日)から起算して5年を経過する日までに、更正の請求による適用も検討されたい(特例法附則第2条)。 また、国税庁の特設ページについても随時更新されていることから、最新の情報についても留意いただきたい。 〔編集部追記:2024/2/22〕 本稿公開後、上記特設ページにおいて、下記の判定表が公表されている。 (※) 国税庁ホームページより (了)
2024年2月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.557を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。