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プラス思考の経済効果 【第6回】「阪神タイガース優勝の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第6回】 「阪神タイガース優勝の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 経済効果の計算をはじめたきっかけ 今年の阪神タイガースは、開幕から連敗を重ねて一時は負け越しの数が16となり、今年の優勝は絶望的と思われました。しかし、少しずつ勝利を重ねて、オールスター前には借金を全部返済することに成功しました。ひょっとすると、クライマックスシリーズに出場して、さらに日本シリーズに出場できる可能性も出てきました。もしそうなると、歴史的な偉業と言えるでしょう。 今回は、筆者が「経済効果」を計算するきっかけとなった「阪神タイガース優勝の経済効果」についてお話をしましょう。 プロ野球球団優勝の経済効果とは、優勝しなかった時と優勝した時の経済効果の差額のことです。各球団は優勝しなくても、毎年多くの観客を集めて数百億円の経済効果を作り出しているのです。そして、優勝した年は優勝しなかった年と比べて、より多くの経済効果を作り出します。その差額が「優勝の経済効果」なのです。 2003年のプロ野球のシーズンが開始されると、星野監督が率いる阪神タイガースは素晴らしい勢いで優勝街道を驀進し始めました。筆者は、それまで大学で数理経済学を教えていたのですが、数理経済学とは微分や線形代数を用いて経済現象を分析する経済学で、理系ではない経済学部の学生は数学が得意ではないので、彼らにとってやや難解な経済学でした。それで、ゼミの学生諸君に経済学に関心を持ってもらうために、「阪神タイガースが優勝したら地元にどれだけの経済効果があるか、ゼミのみんなで計算してみようか」と問いかけると、学生は「やろう!やろう!」と大賛成してくれました。   2 2003年の阪神タイガース優勝の経済効果 2003年7月中旬の日曜日のお昼に阪神百貨店の「タイガースグッズ」売り場に、当時の阪神百貨店の社長さんの許可を得て、ゼミの学生10人と大学院の学生数人をつれて、阪神ファンのお客さんにアンケートを取りに行きました。 当日の「タイガースグッズ」の売り場は超満員で、ユニフォーム、帽子、メガホンなどのタイガースグッズを買い物かごにいっぱい詰め込んだ阪神ファンが、たくさんのレジの前に長い行列を作って並んでいました。行列の最後尾は、フロアーのレジの反対側の壁に突き当たり、そこから下に続く階段の中ほどまでありました。フロアーの主任さんに「あの最後尾のお客さんがレジまで来るのにどれほど時間がかかりますか?」と聞くと、「50分ほどかかるでしょうね」と答えられたのを覚えています。 行列に並んでおられる方や、買いたいタイガースグッズを選んでいるお客さんに、ゼミの学生はアンケート用紙を持ってお尋ねしました。「今日はどこから来られましたか」、「阪神ファンですか」、「今日はいくらぐらいお買い物されますか」、「優勝したら阪神百貨店は秋には優勝セールをされると思いますが、その時も買いに来られますか」など十数目の質問をしました。ゼミの学生が買い物客にアンケートの質問をするのを、大阪の数局のテレビ局がカメラで追いかけていました。テレビに映ると知ったゼミの学生は、気をよくして次から次へと買い物客に質問をしていました。 アンケートの結果で興味深かったのは、「どこから来られましたか?」という質問に対する答えで、アンケートに答えていただいた130人ほどの買い物客の半数は、なんと関西地域以外から来られていて、北は帯広市、南は熊本市から来たファンでした。そして、関東地域、中部地域から来られている人も多く、あらためて阪神タイガースが関西地域の人気球団から全国区の人気球団になったことを認識しました。 その後、尼崎商店街、甲子園球場、尼崎信用金庫などにも取材に出かけて、たくさんのデータを集めました。その結果をまとめて、ファンの消費額は、①球場の観客の消費増加額52.4億円、②阪神ファンのビアガーデンや飲み屋などでの飲食増加額416.4億円、③百貨店や商店街などでの優勝セールの売上増加額106.6億円、④放映権、広告収入の増加額24億円、⑤阪神グッズの売上増加額74億円、⑥優勝パレードのファンの消費額(2003年は計算の段階でパレードの計画が未定でしたので計算しませんでした)、⑦スポーツ新聞、雑誌の売上増加額32.4億円、⑧尼崎信用金庫のタイガース応援の定期預金増加額212.4億円、合計918.2億円のファンの消費、貯蓄(投資)額があると推察されました。 この金額を基にして、近畿地域全体の産業連関表を用いて経済効果を計算すると、近畿地域ではなんと1,481.3億円の経済効果があることがわかりました。この金額はプロ球団の優勝の経済効果としては空前絶後であり、当分の間この記録は破られないでしょう。これは、阪神が開幕からすごい勢いで優勝街道を驀進したこと、阪神が18年ぶりに優勝したこと、阪神ファンが全国で爆発的に急増したこと、各種マスコミがこぞって大きく取り上げたことなどが原因だと思っています。   3 主要球団の優勝の経済効果 それでは、主要球団が優勝した時の経済効果はどれほどの金額であったのでしょうか。それらを紹介しましょう。 〈主要球団の優勝効果〉 上表を見ていただくと、2003年の阪神タイガース優勝の経済効果は驚異的な金額であり、また阪神と巨人の優勝の経済効果は600億円を超える値になりますが、他の球団では500億円を超えるケースはないということがおわかりいただけたかと思います。   4 おわりに 筆者が2003年の阪神タイガース優勝の経済効果を計算して発表してから、各種マスコミ、そして経済界、地方自治体などから「経済効果」計算の依頼が殺到してきました。マスコミからは経済効果のみならず、有名なタレントやスポーツ選手の不祥事件による「経済的損失」の計算の依頼がたくさん舞い込みました。 しかし、有名人の個人的な不祥事件や失敗による経済的損失の計算はすべてお断りしています。ご本人やご家族はマスコミの批判にさらされてきっとつらい思いをされていると思います。ご本人も反省されていることだと思います。それに追い打ちをかけるように、「あなたの不祥事件で、業界や会社はこれだけの損失をこうむりました」という計算はしたくないのです。 私が計算する経済効果は、人々が元気になり、地域が活性化するのに役立つような計算であってほしいのです。これからも人々が明るくなり、そして楽しくなるような経済効果を計算したいと思っています。 (了)

#No. 483(掲載号)
#宮本 勝浩
2022/08/25

プロフェッションジャーナル No.482が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年8月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.482を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/08/18

日本の企業税制 【第106回】「法人事業税の外形標準課税の見直し」

日本の企業税制 【第106回】 「法人事業税の外形標準課税の見直し」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   地方財政審議会のもとに、「地方法人課税に関する検討会」が設置され、第1回会合が8月2日に開催された。 今回の検討会の主たるテーマは法人事業税の外形標準課税とされている。   〇外形標準課税制度の創設 法人事業税は、外形標準課税導入以前は、電気供給業・ガス供給業・保険業を営む法人を除き、所得による課税(税率9.6%)のみであったが、平成15年度税制改正で(適用は平成16年度から)、資本金1億円超の普通法人に関しては、所得による課税(所得割)の一部分を外形基準による課税(付加価値割、資本割)に置き換えることとされた。 当時の平成15年度与党税制改正大綱では、「法人事業税への外形標準課税の導入は、すべての法人が、その事業活動規模に応じて薄く広く、かつ、公平に地方公共団体の幅広い行政サービスの対価を負担するものである。このことは、応益課税としての事業税の性格を明確にし、地方公共団体には、地方分権を支える安定的な地方税源を保障するものとなる等、地方税として望ましい方向の改革である」とされていた。 外形基準による課税部分は、従来の所得による課税の4分の1(平成3年から12年の平均税収の4分の1である5,100億円を外形基準による税収とするように設計)とされた。また、付加価値割と資本割の税収の比率は2対1となるように税率が設定された結果、導入当時の税率は、所得割7.2%、付加価値割0.48%、資本割0.2%であった。 付加価値割の課税標準となる付加価値額は、各事業年度の収益配分額(報酬給与額、純支払利子及び純支払賃借料の合計額)と各事業年度の単年度損益との合計額である。一方、資本割の課税標準となる「資本等の金額」は、資本の金額と資本積立金額の合計額であった(現行制度では法人税法上の「資本金等の額」)。なお、自己株式の取得などにより資本割の課税標準がゼロを下回ることを回避する観点から、平成27年度税制改正で、「資本金等の額」が会社法上の「資本金+資本準備金」を下回る場合には、会社法上の「資本金+資本準備金」を資本割の課税標準とすることとされている。   〇外形標準課税の拡大 その後、平成27年度及び28年度税制改正において、法人実効税率を20%台に引き下げる法人税改革の中、外形標準課税の拡大により財源を確保した上で所得割の段階的な税率引下げが行われ、所得割の税率は3.6%(うち2.9%相当部分は地方法人特別税(令和元年に地方法人特別税は廃止され、新たに2.6%相当部分として特別法人事業税が創設された))となる一方、付加価値割と資本割の税率はそれぞれ1.2%と0.5%に引き上げられ、この結果、所得割と外形標準課税の比率は8対5となった(付加価値割と資本割の比率は2対1のまま)。   〇外形標準課税対象法人の減少 今回の「地方法人課税に関する検討会」の資料によれば、外形標準課税対象法人数は、導入から間もない平成18年度の29,618社をピークに減少の一途をたどり、令和2年度には19,989社と2万社を割り込んでいる。全法人数(平成18年度:約247万社、令和2年度:約260万社)に占める割合も平成18年度1.18%から令和2年度には0.76%にまで減少している。 資本金階層別にみると、資本金1億円超10億円未満の階層で平成18年度から令和2年度にかけて8,390社減少しており、外形標準課税対象法人数の減少分約1万社の大半を占めていることがわかる。一方、外形標準課税の対象とはならない資本金1億円の法人は、平成18年度から令和2年度にかけて4,064社増加して13,086社を数える。   〇考えられる見直しの方向 このように減少傾向にある外形標準課税対象法人の数をいかにして回復させるかが今後の課題となる。 もっとも単純な方法としては、資本金1億円超という閾値を引き下げることが考えられる。例えば、1億円「超」を1億円「以上」とするだけで、現在資本金1億円の企業13,086社が外形標準課税対象法人となる。しかし、これらの法人の中で、外形標準課税を忌避して減資を行ったものがあるとすれば、さらなる減資をする可能性も否定できず、結局は対象法人の増加には効果がないかもしれない。また、法人住民税均等割において都道府県民税は資本金等の額によって5つの区分、市町村民税は資本金等の額・従業者数によって9つの区分に分けて税額が規定されているが、その区分の1つが「1億円超10億円以下」となっていることや、法人税法(及び租税特別措置法)の中小法人・中小企業者の定義上、1億円「以下」とされていることとの整合性を欠くことにもなる。 ただし、法人税法(及び租税特別措置法)では、資本金の規模は小さいものの、多額の所得を得て財政状態が脆弱でないものが特別措置の適用を受けることについて、平成29年度税制改正で課税の公平の観点から見直しが行われ「適用除外事業者」として中小法人・中小企業者から除外されている。また、大法人(資本金5億円以上)の傘下(完全支配関係)にある法人は中小法人から除かれ、大規模法人(資本金1億円超)の傘下(発行済株式総数の2分1以上)にある法人は中小企業者から除かれている。 こうした規律がすでにあるということは、今後の見直しの方向性を考える上で、1つのヒントとなるかもしれない。 (了)

#No. 482(掲載号)
#小畑 良晴
2022/08/18

令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】

令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   3 中小通算法人の定額控除限度額の計算 (1) 中小通算法人に該当する通算法人の定額控除限度額の計算(下記(2)を除く) 通算親法人及び通算親法人の事業年度終了の日において通算親法人との間に通算完全支配関係がある通算子法人が、各通算法人の適用年度終了の日において中小通算法人に該当する場合、各通算法人の交際費等の定額控除限度額は次の算式により計算した金額(通算定額控除限度分配額)となる(措法61の4②③)。 この場合、通算子法人の適用年度は、通算親法人の適用年度終了の日に終了するその通算子法人の事業年度とする(措法61の4③)。 [通算定額控除限度分配額の計算方法] 上記の計算において、月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする(措法61の4④)。 また、上記の算式中、「800万円」は「通算定額控除限度額」といい、その通算法人の適用年度終了の日に終了する通算親法人の事業年度が12月に満たない場合は、800万円にその通算親法人の事業年度の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額を「通算定額控除限度額」とする。 (2) 中小通算法人に該当する中途離脱法人の定額控除限度額の計算 通算親法人の事業年度の中途において通算承認の効力を失った通算法人(中途離脱法人)の大通算法人の判定についても、その効力を失った日の前日に終了する事業年度(中途離脱法人の適用年度)終了の日において通算グループ全体で判定する(措法61の4②、措通61の4(2)-8)。 この場合、中途離脱法人の定額控除限度額は、800万円にその適用年度の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額とする(措法61の4②)。 月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする(措法61の4④)。 (3) 別表添付要件 その通算法人の適用年度終了の日においてその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人の同日に終了する事業年度において支出する交際費等の額がある場合におけるその適用年度に係る定額控除限度額の特例は、その交際費等の額を支出する他の通算法人のすべてにつき、それぞれ同日に終了する事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に通算定額控除限度分配額の計算に関する明細書の添付がある場合で、かつ、その適用年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に通算定額控除限度分配額の計算に関する明細書の添付がある場合に限り、適用される(措法61の4⑤)。 つまり、グループ通算制度において定額控除限度額の特例を適用するためには、通算グループ内の交際費等の額を支出する通算法人のすべてで別表添付が必要となる。 また、この場合、最終的に接待飲食費の額の50%の損金算入(上記1の❷の(B)(前回参照))を選択する他の通算法人についてもその明細書の添付が必要となることに留意が必要となる。 (4) 定額控除限度額(通算定額控除限度分配額)の特例と接待飲食費の額の50%の損金算入の選択 各通算法人の定額控除限度額(通算定額控除限度分配額)は通算グループ全体で計算し、各通算法人の金額が計算されるが、最終的に、定額控除限度額の特例(定額控除限度額以下の部分を損金算入)と原則的な取扱い(接待飲食費の額の50%部分を損金算入)のいずれを選択するかについては、各通算法人で選択できることとなる。   4 通算定額控除限度分配額の遮断措置 (1) 通算定額控除限度分配額の遮断措置 通算定額控除限度分配額の特例を適用する場合において、各通算法人の交際費等の額がその通算法人の適用年度又は他の通算法人のその通算法人の適用年度終了の日に終了する事業年度(通算事業年度)の確定申告書等(期限後申告書を除く)に添付された書類にその通算事業年度において支出する交際費等の額として記載された金額(当初申告交際費等の額)と異なるときは、当初申告交際費等の額を各通算法人の交際費等の額とみなす(措法61の4③)。 つまり、通算法人のいずれかで交際費等の額が事後的に修正されることとなっても、当初申告の通算定額控除限度分配額に変更はなく、通算定額控除限度分配額について、遮断措置が適用されることとなる。 (2) 通算定額控除限度分配額の全体再計算 通算事業年度のいずれかについて修正申告書の提出又は更正がされる場合において、次に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その通算法人の適用年度については、通算定額控除限度分配額の遮断措置が適用されない(措法61の4③)。つまり、各通算法人で全体再計算を行うこととなる。 [通算定額控除限度分配額の全体再計算を行う事由] (3) 期限内申告額の洗替え 通算事業年度について通算定額控除限度分配額の全体再計算(上記(2)の(ハ)の事由を除く)を適用して修正申告書の提出又は更正がされた後における通算定額控除限度分配額の遮断措置の適用については、その修正申告書又はその更正に係る更正通知書に添付された書類にその通算事業年度において支出する交際費等の額として記載された金額を当初申告交際費等の額とみなす(措法61の4③)。   5 通算定額控除限度分配額の計算例 通算定額控除限度分配額について、当初申告、全体再計算、遮断措置の計算例は、それぞれ次のとおりとなる。 〈図表1〉 通算定額控除限度分配額と交際費等の損金不算入額の計算例① ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表2〉 通算定額控除限度分配額と交際費等の損金不算入額の計算例② ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (続く)

#No. 482(掲載号)
#足立 好幸
2022/08/18

基礎から身につく組織再編税制 【第43回】「適格現物出資を行った場合の申告調整~親会社が子会社を設立した場合~」

基礎から身につく組織再編税制 【第43回】 「適格現物出資を行った場合の申告調整」 ~親会社が子会社を設立した場合~   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、親会社が子会社を適格現物出資により設立した場合の申告調整の具体例について解説します。   1 適格現物出資を行った場合の現物出資法人の処理 (1) 前提条件 現物出資法人A社の会計上の土地の帳簿価額と税務上の土地の帳簿価額には、下記の差異が生じています。 (2) 会計処理 現物出資法人A社の会計処理は、次のとおりです。 (3) 税務処理 現物出資法人A社の税務処理は、次のとおりです。 ① 資産の移転 現物出資法人が適格現物出資により被現物出資法人にその有する資産等の移転をしたときは、適格現物出資直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、譲渡損益は生じません(法法62の4①)。 したがって、移転する土地の会計上の帳簿価額の3,000と税務上否認した金額の評価損否認1,500の合計額(税務上の帳簿価額)である4,500で譲渡したものとされ、A社において譲渡損益は認識しません。 ② 被現物出資法人株式の取得価額 現物出資法人は被現物出資法人株式を適格現物出資直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額(付随費用があればその費用を加算した金額)により取得します(法令119①七)。 したがって、B社株式(被現物出資法人株式)の取得価額は、移転資産の帳簿価額(4,500)から移転負債の帳簿価額(0)を減算した金額である4,500となります。 ③ 資本金等の額・利益積立金額 適格現物出資があった場合には、現物出資法人において資本金等の額及び利益積立金額の増減はありません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。調整仕訳は、次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 現物出資法人A社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が0となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。   2 適格現物出資を行った場合の被現物出資法人の処理 (1) 会計処理 被現物出資法人B社の会計処理は、次のとおりです。 (2) 税務処理 被現物出資法人B社の税務処理は、次のとおりです。 ① 資産の取得価額 被現物出資法人が適格現物出資により現物出資法人から資産等の移転を受けたときは、現物出資法人の適格現物出資直前の帳簿価額により取得したものとします(法法62の4、法令123の5)。 したがって、土地の取得価額は、現物出資法人A社の適格現物出資直前の帳簿価額である4,500となります。 ② 資本金等の額 適格現物出資により増加する資本金等の額は、現物出資法人における移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額となります(法令8①八)。 したがって、B社において増加する資本金等の額は移転資産の帳簿価額(4,500)から移転負債の帳簿価額(0)を減算した金額である4,500となります。 ③ 利益積立金額 適格現物出資があった場合には、被現物出資法人において利益積立金額の増減はありません。 (3) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。調整仕訳は、次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (4) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 被現物出資法人B社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が4,500となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。   (参考:消費税の取扱い) 現物出資によって資産を移転した場合には、合併や分割による資産の移転(包括承継)と異なり、資産の譲渡等に該当し、消費税の課税対象となります。この場合の消費税の課税標準は、現物出資により取得する株式の取得時における価額に相当する金額となります(消令45②三)。 (了)

#No. 482(掲載号)
#川瀬 裕太
2022/08/18

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第41回】「役員報酬とデューデリジェンス」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第41回】 「役員報酬とデューデリジェンス」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) デューデリジェンスとは 中小企業の後継者不在問題等が背景となっているのか、昨今、M&A市場が急速に拡大しているといえる(※1)。M&Aを進めるプロセスの中で、売手側と買手側双方で諸条件にある程度の合意が形成された場合、基本合意書を締結することが一般的である。その後、最終合意やクロージングに至るまでの期間において、通常は買手側により、法務、税務、労務、不動産や事業そのもの等を対象として、デューデリジェンス(「DD」や「買収監査」等ともいわれる)が行われる。 (※1) M&Aの場面における役員報酬の論点としては、【第6回】、【第15回】、【第38回】を参照。 その目的はM&Aに向かうか否かの投資判断に資する情報を買手側が得るためであり、とりわけ、偶発債務をはじめとする対象会社の重要事項や正常収益力を洗い出すことを目的とした財務や税務デューデリジェンスについては、実施される優先度が最も高いと思われる。これらのデューデリジェンスの結果、譲渡価額を調整したり、売手側がリスクについて表明保証したりという対応が必要になることもあるため、財務・税務デューデリジェンスは慎重に行われる必要がある。 以下にて、財務・税務デューデリジェンスが行われる中で役員報酬にまつわる論点について触れる。   (2) 役員報酬額の妥当性の検証 対象会社が自社の役員に支給してきた、税務上の役員給与・役員退職給与におけるリスクの洗い出しである。内容については本連載の各回において触れてきている論点であるため割愛するが、過大役員給与等が発見された場合、対象会社は将来的に発生し得る租税債務として、譲渡価額の減額やM&Aスキームの変更が検討され得る。 この点、役員報酬に関してデューデリジェンスの対象となる場合、対象会社としてはまずすべきことは、株主総会等の議事録や各種規程を提供することである。   (3) 役員退職慰労引当金 M&Aの局面において、対象会社の財務諸表にて、当該企業の財政状態や経営成績を適切な形で示されていないことがある。特に、中小企業の場合、いわゆる税務会計にて財務諸表が作成されていることも多い。このような場合、財務デューデリジェンスにおいて各種の指摘がなされることとなるが、対象会社の将来的かつ潜在的な債務を貸借対照表に反映させる場合、基準日において本来計上すべき引当金という形で純資産額からの減額が行われることとなる。 役員退職慰労金においては、本来、株主総会等で決議がなされることで支払義務が確定するものである。しかし、仮に、役員退職慰労金規程が対象会社に既に存在し、過去に当該規程に準拠して役員退職慰労金が支給された事実があり、かつ対象会社の役員が当該規程に準拠して将来的に役員退職慰労金が支給される蓋然性が高い場合には、役員退職慰労引当金を計上すべき旨の指摘がなされることもある。この場合には、発生の可能性や合理的見積もりの可否等の、引当金の計上要件を念頭に判断されることとなるだろう(※2)。 (※2) なお、M&Aの場面で役員退職給与の支給が交渉材料となる場合に、売手側の個人において、退職所得と申告分離課税の税率差に留意する必要がある点については、【第38回】参照。   (4) プロフォーマ調整 「プロフォーマ調整」とは、M&Aが成立した後、株主兼役員の退任や事業の開廃業・縮小や拡大等の予定されることについて、実績値の存在する過年度に、これに関連する収支が発生していなかったものとして過去の損益を調整するものであり、事業計画と比較するために必要となる。 多くの場合には販管費に計上されている役員報酬においては、販管費のうち、本社部門の管理費や共通費などとして計上されている役員報酬を減額相殺するとともに、M&A成立後に新たに役員となる存在への役員報酬額を加え、過年度から当該役員が対象会社に存在していなかったものとして調整が行われることとなるだろう。   (5) 役員借入金及び役員貸付金 直接的な役員報酬の論点ではないが、本件も解説したい。 M&Aの対象会社には、役員貸付金や役員借入金が存在していることは往々にしてある。その場合、これらの解消方法、特に役員借入金について、M&Aの手順や採用すべきスキームに影響する可能性がある(※3)。例えば、①M&A後に対象会社が返済する、②役員が債務免除を行う、③対象会社が役員借入金を返済してから改めてM&Aに臨む、④事業譲渡スキームを採用して対象会社自体がM&Aの売手に転じ、当該キャッシュの中から対象会社が役員に返済する、等という選択肢があり得る。 (※3) M&Aが関連しない一般的論点については、【第31回】及び【第34回】参照。 なお、対象会社が債務超過である場合等、交渉次第では、対象会社の当該役員借入金を売手側である役員が買手側に債権譲渡することもある。この場合において、債権譲渡の価額を如何に設定するか、対象会社の財政状況(回収可能性)や簿価以外での譲渡に係る税務上の取扱いにも鑑みて決定する必要があるだろう。例えば、債権額を下回る価額で債権譲渡をすると、当該役員にとって譲渡損が発生することとなるが、当該譲渡損は損益通算ができず(所基通33-1)、貸倒れとしても事業の遂行上生じたものとは認められないと考えられる。 同様に、債権額を下回る価額で譲渡した場合において、M&A後、一般的には買手側と対象企業に100%支配関係が生まれるところ、双方で認識する債権債務の額が一致しないこととなる。この状態で子会社となった対象会社側の簿価に基づいて弁済が行われると、親会社となった買手側に収益が発生し、課税対象となることにも留意しなければならない。 また、役員貸付金に関しては、役員退職慰労金や株式譲渡で得た資金を以て、役員自身が返済することが定番といえる。   (了)

#No. 482(掲載号)
#中尾 隼大
2022/08/18

相続税の実務問答 【第74回】「住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続開始前3年以内の贈与加算」

相続税の実務問答 【第74回】 「住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続開始前3年以内の贈与加算」   税理士 梶野 研二   [答] 被相続人の相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産であっても、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例規定を適用して贈与税の非課税財産とされた金額は、相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ご質問の場合、令和3年中にお父様から贈与を受けた2,000万円のうち、この非課税の特例規定を適用した1,500万円を控除した残額(500万円)だけが相続税の課税価格に加算されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例 (1) 平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間の贈与 平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属から贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等(以下「新築等」といいます)の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」といいます)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、①住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日、②住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率、③新築等をした住宅用の家屋が省エネ等住宅であるかどうかの別により500万円から3,000万円の金額が非課税とされていました(令和4年法律第4号による改正前の租税特別措置法(以下「改正前租税特別措置法」といいます)70の2)。 (2) 令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間の贈与 令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属から贈与により自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、新築等をした住宅用の家屋が省エネ等住宅であるかどうかの別により500万円又は1,000万円が非課税とされます(措法70の2)。   2 生前贈与の相続税の課税価格への加算 (1) 相続税法の規定 相続又は遺贈により財産を取得した者がその相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額を、その者の相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして、相続税額を計算することとされています(相法19①)。 この場合の「贈与により取得した財産の価額」とは、相続税法の規定では、同法第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものの価額をいい、また、特定贈与財産(連載【第66回】及び【第67回】参照)の価額は除かれることとされています(相法19①かっこ書き、②)。 (2) 租税特別措置法の規定 住宅取得等資金の贈与を受け、この住宅取得等資金について上記1の(1)又は(2)の特例を適用した場合には、改正前租税特別措置法第70条の2第3項又は租税特別措置法第70条の2第3項の規定により、相続税法第19条第1項の規定が読み替えられ、「贈与により取得した財産の価額」とは、同法第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定並びに(改正前)租税特別措置法第70条の2の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものの価額をいうこととされ、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例を適用することにより非課税とされた金額は、その贈与が被相続人の相続開始前3年以内の贈与であったとしても、相続税の課税価格に加算する必要はないこととされています(改正前措法70の2③、措法70の2③)。   3 ご質問の場合 あなたが令和3年4月にお父様から贈与により取得した2,000万円については、お父様の相続開始前3年以内に贈与を受けた財産ですが、そのうち改正前租税特別措置法第70条の2第1項に規定する住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例の適用を受けた1,500万円については、同条第3項の規定により相続税の課税価格に加算する必要はありません。 したがって、相続税の課税価格に加算しなければならない金額は、令和3年中にお父様から贈与を受けた2,000万円のうち、この非課税の特例規定を適用した1,500万円を控除した残額の500万円だけということになります。 (了)

#No. 482(掲載号)
#梶野 研二
2022/08/18

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第49回】「配偶者居住権がある場合の小規模宅地等の特例の有利選択」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第49回】 「配偶者居住権がある場合の小規模宅地等の特例の有利選択」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲の相続発生に伴い、甲が所有していた下記の土地建物について、配偶者乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権を乙、長男丙及び二男丁が共有で1/3ずつ取得しました。相続開始の直前において、乙及び丙は甲と同居しており、小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例対象者ですが、丁は甲と別居していたため、特例対象者ではありません。 小規模宅地等の特例の選択に当たっては、丙から優先的に特例を適用するとした場合には乙及び丙の特例の適用面積はそれぞれ何㎡になりますか。 [A] 小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)について、丙を優先的に適用した場合の選択特例対象宅地等の面積は、それぞれ次のとおりとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権、配偶者居住権の敷地利用権及び敷地所有権の特例の適用について 配偶者居住権が設定されている場合には、下記のとおり土地建物のそれぞれについて利用権と所有権を分けて考える必要があります。「配偶者居住権等の評価明細書」では、建物の利用権を「配偶者居住権」、建物の所有権を「居住建物」、土地の利用権を「配偶者居住権に基づく敷地利用権」、土地の所有権を「居住建物の敷地の用に供される土地」と記載されています。 (※) 本連載においては、「配偶者居住権」、「建物所有権」、「敷地利用権」、「敷地所有権」と記載します。 小規模宅地等の特例の対象になるものは、上記の4つの区分のうち、敷地利用権及び敷地所有権のみが対象となります。配偶者居住権自体は、建物の権利であり、宅地等ではありませんので、特例の対象になりません。 なお、敷地利用権及び敷地所有権の面積の計算は、下記のとおり、敷地利用権の価額と敷地所有権の価額の比で按分して計算することになります(措令40の2⑥、措通69の4-1の2)。 〈算式〉 (※) 宅地等の面積の留意点 被相続人が共有持分を有する時には、宅地等の面積に被相続人の持分を乗じて計算します。被相続人が借地権を有する時には、借地権割合を乗じる必要はなく、宅地等の面積をそのまま使用することになります。   2 取得者ごとの宅地等の面積 取得者ごとの宅地等の面積をまとめると下記のとおりとなります。 (※1) 900㎡×30,000,000円/90,000,000円=300㎡ (※2) 900㎡×60,000,000円/90,000,000円=600㎡ 本問の場合の特例対象者は、乙及び丙の2人となりますので、特例対象宅地等の面積は、乙が500㎡(300㎡+200㎡)、丙が200㎡となります。   3 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 特定居住用宅地等の限度面積は、330㎡となりますので、その範囲内で選択をすることになります。なお、相続税の計算に当たっては、同一の被相続人の相続人等に係る相続税の課税価格の合計額は、一致させる必要があるため、相続人が1人である場合などを除き、特例対象宅地等を取得した相続人等の全員の同意が必要とされています(措令40の2⑤)。したがって、乙及び丙は、話し合いにより取得した特例対象宅地等の面積の範囲内で選択することになります。 本問の場合には、優先的に丙が特例適用をすることが前提となっていますので、丙が200㎡を適用し、残りの面積130㎡(330㎡-200㎡)を乙が適用することになります。 なお、仮に丁も特例対象者であったとした場合には、乙、丙及び丁の3人が話し合いにより取得した特例対象宅地等の面積の範囲内で選択することになりますが、通常、配偶者の税額軽減の適用がない子である丙及び丁から優先的に特例を適用した方が全体の納付すべき相続税額は少なくなることになります。 また、仮に特例対象者が配偶者の乙のみで丙及び丁も特例対象者でない場合において、敷地所有権を丙及び丁が1/2ずつ取得した場合には、乙に係る敷地利用権の300㎡のみが特例の対象となり、限度面積未満での特例適用となります。配偶者が敷地利用権だけでなく、敷地所有権も取得した方がいいかどうかについては、敷地所有権を取得する配偶者以外の親族が特例の対象者であるか否かも含めて総合的に判断することになります。   ★実務上のポイント★ 配偶者居住権が設定されている場合には、宅地等を取得した者のそれぞれの面積を算定する必要があります。その面積を算定するためには、敷地利用権と敷地所有権のそれぞれの相続税評価額を基に按分することになります。配偶者居住権がある場合には、どの部分について配偶者居住権が設定されているのかが重要となりますので、表や図にして整理するといいでしょう。   (了)

#No. 482(掲載号)
#柴田 健次
2022/08/18

〈注記事項から見えた〉減損の深層 【第8回】「モノレールが減損に至った経緯」ー背景にある事業計画ー

〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第8回】 「モノレールが減損に至った経緯」 -背景にある事業計画-   公認会計士 石王丸 周夫   〈はじめに〉 減損処理は、これまで見てきたとおり、資産の今後の収益性を織り込む会計処理です。つまり、会社の将来の姿を現在の決算書に反映させる処理ともいえます。 そのため、減損を実施した時点では見えにくかった背景が、1~2年ぐらいたってようやく見えてくることがあるのです。 今回は、東京モノレールの減損処理について、その将来像との関係を見ていきたいと思います。   〈今回の注記事例〉 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 東京モノレールは、JR東日本の子会社です。JR東日本の連結財務諸表で連結されています。 そのJR東日本の2021年3月期決算では、東京モノレールの資産が大規模に減損処理されました。上記の注記がそれです。 JR東日本が2021年3月期に実施した減損処理は、総額で80,032百万円。そのうち53,179百万円がモノレール鉄道業に係る減損処理額です。 この結果、東京モノレールの主な資産の帳簿価額は、以下のように減少しました。 [主な設備の内訳] (出所:JR東日本有価証券報告書2021年3月期及び2020年3月期)   〈監査報告書に記載されている減損の理由〉 大規模な減損処理ですが、前掲の注記には、個々の減損の理由は具体的には記載されていません。会計基準の定めに従って粛々と減損を実施していることが述べられているのみです。JR東日本の総資産額が9兆円に迫る額(2021年3月期)なので、それに比べれば大規模ともいえず、こうした記載で十分であるということだと解されます。 一方、この年度の監査報告書を見ると、「監査上の主要な検討事項」の1つとして、「モノレール鉄道業固定資産の減損損失の計上額の妥当性」という項目が掲げられています。その中に以下のような記載があり、減損の経緯をうかがい知ることができます。 (出所:有価証券報告書) ここでは、減損の原因は主に2つだといっています。第一はコロナ禍による乗客減少、第二はライバル会社の値下げです。以下、順にその意味を確認していきます。   〈コロナと京急値下げが東京モノレールの減損理由だったのか〉 第一の原因であるコロナ禍による乗客減少は、説明するまでもありません。東京モノレールは羽田空港へのアクセス手段であり、コロナ禍で航空需要が激減してしまった以上、それに連動して乗客が減少します。2021年3月期決算の時点では、コロナがいつ収束するのかも予想できず、今後の収益性に疑問が生じたことは当然だったと考えられます。 しかし一方で、JR東日本は鉄道事業資産について特に減損を実施していません。2021年3月期において、鉄道事業やモノレール鉄道業等を含む運輸事業全体の売上高は前期比43.9%減で、営業損失となっています。にもかかわらず、モノレール鉄道事業のみについてコロナ禍の影響を重く見て減損した理由は、必ずしも明確ではありません。 第二の原因であるライバル会社の値下げは、具体的にいうと、京浜急行電鉄(以下、「京急」という)空港線の値下げのことだと思われます。同線では、2019年10月1日以降、値下げが実施されています。 都心から羽田空港へのアクセス方法はいろいろありますが、輸送人員的に多いのは東京モノレールと京急でしょう。東京モノレールは浜松町から、京急は品川からそれぞれ空港へとアクセスできます。一般に、ライバル会社2社の一方が値下げをすれば、もう一方はパイの取り合いで不利になることは予想がつきます。 しかし、空港へのアクセス経路を選ぶ場合もそうなるかというと、少し違うかもしれません。空港から飛行機に乗って出かける場合、空港までのアクセスにかかる交通費の旅費全体に占める割合は小さいからです。これから飛行機に乗ろうという人が、わずか何百円かのことでアクセス経路を変更するかというと、それは少数でしょう。むしろ、ほとんどの人が自宅や会社の所在地から最短のルートで空港へ向かいます。 羽田空港へ到着した人が都心にアクセスする場合も同じです。訪問先や宿泊先の場所に近いルートを選ぶでしょう。 以上から、東京モノレールの減損が不可避であった理由は、他にあったのではないかと思えてくるのです。   〈羽田空港アクセス線という衝撃〉 減損処理が会社の将来の姿を反映させた処理だという点に着目すると、減損実施理由のヒントは会社の事業計画から得られそうです。 JR東日本の場合、「JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」」(2018年7月3日)という資料が公表されています。そして、この資料に、「【トピックス】羽田空港アクセス線構想の推進」と題するページがあるのですが、これがヒントになります。 同資料によると、羽田空港へのアクセス新線として、3つのルートが新設されます。羽田空港と「新宿・池袋方面(西山手ルート)」、「東京・上野方面(東山手ルート)」、「臨海部方面(臨海部ルート)」の路線がそれぞれ直結されるのです。 2021年1月20日には、JR東日本ニュースとして、「羽田空港アクセス線(仮称)の鉄道事業許可について」という資料も公表されています。羽田空港から田町駅付近までを直結する路線図が示され、2029年度運航開始予定とあります。 これは東京モノレールにとって痛手です。 「JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」」によれば、東京~羽田空港間は、東京モノレール利用の場合は乗り換え1回で約28分、羽田空港アクセス線なら乗り換えなしで約18分です。コロナが過ぎ去り、さあこれからという時にこうなるのです。しかも、相手は親会社です。 これが東京モノレールの減損理由ではないでしょうか。 ただし、これは2021年3月期決算の時点での解釈です。その後また、新たな展望が明らかになりつつあります。 現在、東京モノレールの起点である浜松町駅では再開発工事が行われています。筆者はこの駅をときどき利用しますが、2022年に入って工事が本格化してきたようにみえます。駅前の象徴的建物であった世界貿易センタービルディングも建て替えられ、駅と一体的に生まれ変わるようです。 完成イメージは2022年5月18日に公表された「【浜松町駅西口開発計画・芝浦プロジェクト】歩行者ネットワークの構築・交通結節点の機能強化を目的とした浜松町駅エリアの整備計画について」で確認できます。この資料は、JR東日本と東京モノレールを含む5社の連名で発表されています。 同資料によると、浜松町駅は、「今後は更に駅利用者・来訪者・就労人口が増加し、都心部の拠点の一つとしてこれまで以上に重要な役割を担っていく」とされ、全面的な完成は2030年度と読めます。そのとおりであるならば、東京モノレールにとって起死回生のチャンスとなるでしょう。 以上のとおり、東京モノレールにとって、羽田空港アクセス線はマイナス要因、浜松町駅再開発はプラス要因です。そうした相反する計画が、これまで並行的に進められていたというわけです。これをどう解すればよいでしょうか。 1つの可能性としては、JR東日本が東京モノレールと羽田空港アクセス線の住み分けを考えている矢先にコロナ禍となってしまい、全体的なビジョンを欠いたまま、部分の工事が進んでしまったということが考えられます。 仮にそうであるならばですが、2021年3月期の東京モノレールの減損は、明確な青写真が描けていないが故の減損処理だったという見方もできそうです。 (了)

#No. 482(掲載号)
#石王丸 周夫
2022/08/18

マスクと管理会計~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第7回】「設備投資・・・する? しない?」

マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第7回】 「設備投資・・・する? しない?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔登場人物〕 【自動調理鍋・製造ライン投資案】 (※) 簡便化のため税金の影響は考慮しないものとします。 ●  ●  ● 企業が設備投資や大規模なプロジェクトを行うには多額の資金を要し、いったん投資やプロジェクトを実行すれば、その後長期にわたって企業の業績に大きな影響を与えます。そのため、設備投資やプロジェクトを実行しようとする際には、その案全体での採算、すなわち経済性を評価して、採用する価値があるかどうかを判断する必要があります。 管理会計における設備投資の経済性計算の方法としては、回収期間法や投下資本利益率法、正味現在価値(NPV:Net Present Value)法や内部収益率法などが知られています(ファーストステップ管理会計【第14回】参照)。 このうち、正味現在価値法や内部収益率法といった割引キャッシュ・フロー法は、一般に理論的とされています。 ●  ●  ● 【投資案の正味現在価値】(資本コスト率10%として割引計算) ●  ●  ● 正味現在価値法などの割引キャッシュ・フロー法は合理的な計算方法ですが、得られる計算結果の信頼性は、割引計算の対象となる将来キャッシュ・フローの正確性に大きく左右されます。特に、現在のように企業環境が早いスピードで変化する状況では、将来キャッシュ・フローを正確に予測することは極めて難しく、正味現在価値法によって計算すると、信頼性の低い評価しか行えないおそれがあります。 ●  ●  ● ●  ●  ● 不確実性の高い状況においては、「もしも〇〇だったら」と様々なシナリオをシミュレーションし、投資案の妥当性や不確実性を検討することが有効な場合があります。想定される複数のシナリオをシミュレーションし、その結果を比較することで、意思決定をするメンバーが様々な情報を共有し多角的に投資案を検討することが可能です。 ●  ●  ● ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ●  ●  ● 将来キャッシュ・フローを変動させる要因が複数ある場合には、それぞれの要因による影響度を分析する「感度分析」も行うと、意思決定時の参考になります。「トルネードチャート」と呼ばれるツールが、視覚的にわかりやすく便利です。 トルネードチャートでは、各要因について下限値と上限値を想定し、要因の値がその範囲で変化することによって計算結果がどのように変わるかを横棒グラフで表します。 例えば、投資案の正味現在価値に影響を与える要因として、「販売単価」「市場全体の規模」「市場におけるシェア」「材料費など」「販売費など」「資本コスト率(割引率)」の6つがあるとしましょう(市場全体の規模と市場におけるシェアは、販売数量の変動を通じて、投資案の正味現在価値を変動させます)。これらの要因が変動することで、投資案の正味現在価値がどのように変化するかをまとめると次のようになりました。 ●  ●  ● 【トルネードチャート】 ●  ●  ● 各要因を変動させた場合の正味現在価値を算定して(その要因以外の要因は変動しないものとして算定します)、正味現在価値の下限値と上限値の間に横棒をひきます。横棒を長い順に並べれば、トルネードチャートの完成です。チャート上部の、横棒の長さが長い要因ほど、正味現在価値を大きく変動させるということがわかりやすくなりますね。 Excelのグラフ機能で「集合横棒」グラフを利用し表示を調整すれば、トルネードチャートを簡単に作成することができます。 ●  ●  ● ●  ●  ● 投資案の正味現在価値を変動させる要因としては様々なものが考えられますが、その影響は軽微なものと重大なものがあります。投資案の検討を行う際には、正味現在価値への影響度が高い要因に着目し、それについて重点的にリサーチをしたり検討したりするとよいでしょう。 ●  ●  ● ●  ●  ● たいていの場合、設備投資の案件に関する資料は、投資を実行する部門で作成されます。そのため、(無意識であっても)投資案を採用するという結論ありきで、その結論に都合のよい単一のシナリオやデータを用いて資料を作成しがちです。そうした資料に基づくと、適切な意思決定を行えないリスクがあります。不確実性の高い現代においては、先入観を持たずに、多角的な分析を踏まえて投資の意思決定を行う姿勢が大切です。 ●  ●  ● (了)

#No. 482(掲載号)
#石王丸 香菜子
2022/08/18
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