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〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第43回】「アパート等の空室がある場合の貸付事業用宅地等の特例の適否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第43回】 「アパート等の空室がある場合の貸付事業用宅地等の特例の適否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は令和4年5月1日に相続が発生し、その所有する賃貸用のAマンションの土地(300㎡)及び建物を配偶者である乙が相続し、引き続き、貸付事業の用に供しています。 Aマンションは、昭和50年に被相続人が購入し、第三者に賃貸しています。Aマンションの建物は3階建てで部屋数15室ですが、各部屋の床面積は同一です。相続開始時点において、15室のうち3室(101号室、201号室、301号室)は空室となっていますが、その空室の状況は、下記の通りとなります。 Aマンションの貸家建付地の評価をする際には、101号室部分については空室の期間が長く、301号室については退去後募集も行っていないため、その2部屋は自用地として賃貸割合を13室/15室として評価を行うこととします。路線価は100,000円、借地権割合は60%、借家権割合は30%となりますので、Aマンションの評価額は下記の通りとなります。 賃貸割合が13室/15室であることから、101号室及び301号室部分について小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用を受けることはできないことになるのでしょうか。また、仮に特例の適用を受けることができる場合には、101号室及び301号室の自用地部分から優先的に特例の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] 101号室部分については、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の対象になりますが、301号室は特例の対象になりません。また、特例を適用するにあたって、101号室から優先的に特例を受けることは可能であると考えられます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 アパート等の空室がある場合の貸付事業用宅地等の特例の取扱い 貸付事業用宅地等の特例は、相続開始の直前において被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の用に供されていた宅地等に適用されます(措法69の4③四)ので、貸付事業の用に供されていない部分については、原則的には特例の適用を受けることができません。ただし、相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分については特例を認めるとされています(措通69の4-24の2)。 国税庁からの情報(資産課税課情報第9号 令和3年4月1日(事例6) 共同住宅の一部が空室となっていた場合(参考))においては、空室部分の特例が認められる場合として、下記の通り説明がなされています。 (下線部は筆者による)   2 空室がある場合の貸家建付地の取扱い 貸家建付地の評価は、原則として相続開始時点において賃貸されていなかったものは自用地として評価を行いますが、継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる部分は賃貸されていたものとして貸家減額を認めています(評価通達26)。 『継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる』部分に該当するかどうかについては、国税庁質疑応答事例において、下記の通り判断するとされています。 なお、上記の1ヶ月基準はあくまでも1つの事例であり、募集の状況、修繕等の状況、近隣周辺の状況等によってもその空室期間の長短の判断は異なることになりますが、最近の裁判事例では、空室期間の長短を重要な要素として位置付けています。 平成20年6月12日裁決(TAINSコード:F0-3-296)では、1年11ヶ月の空室があったマンションについて貸家減額を認めた事例となりますが、平成29年5月11日大阪高裁判決(TAINSコード:Z267-13019)では、空室期間5ヶ月について貸家減額を認めなかった事例であり、大阪高裁は下記の通り判示しています。 (下線部は筆者による)   3 アパート等の空室がある場合の小規模宅地等の特例と貸家建付地の比較 アパート等の空室がある場合の小規模宅地等の特例と貸家建付地の賃貸割合の取扱いは似ていますが、それぞれの趣旨が異なるため、判断基準も異なると考えられます。 貸家建付地の減額は、借家権を起因とするものであるため、相続開始前後の空室期間の長短を重要視して、賃貸割合を計算しますが、小規模宅地等の特例は、貸付事業の継続性を重要視し、相続開始の直前において被相続人等が貸付事業を行っていたかどうか、対象宅地等を取得した親族が相続税の申告期限までに貸付事業を継続していたかどうかが問題となります。 したがって、空室期間がある程度長い場合であったとしても、その期間の間、募集もしており、かつ、いつでも入居可能な状態であれば、貸付事業を継続していることになると考えられます。   4 本問の場合における特例の適用の可否 部屋ごとに特例の適否を判断すると、下記の通りとなります。   5 自用地からの優先適用の適否 上記4の判断により部屋ごとの貸家減額と特例の適否は、下記の通りとなります。 貸付事業用宅地等の特例の限度面積は200㎡であるのに対して、本問のAマンションは300㎡となります。原則的には比例配分的に特例を適用することになりますが、小規模宅地等の特例は、小規模宅地等の特例の対象となる宅地等を取得した親族全員の同意で選択したものについて特例を受けることができるものとされています(措法69の4①)ので、自用地部分から優先的に特例を受けることはできるものと考えられます。 それぞれの考え方に基づき、小規模宅地等の特例の計算をした場合には、小規模宅地等の減額金額は、下記の通りとなります。 (1) 比例配分的に特例を適用した場合 ① 貸家建付地部分の評価 ② 101号室部分の評価 ③ 貸家建付地及び101号室部分の評価額の合計 ④ 小規模宅地等の減額金額 (※) 300㎡ × 14室/15室 = 280㎡ (2) 自用地部分から優先的に特例を受けた場合 ① 貸家建付地部分の評価 ② 101号室部分の評価 ③ 小規模宅地等の特例金額 101号室の敷地部分20㎡(300㎡ × 1室/15室)から優先的に特例適用し、残りの180㎡(200㎡ - 20㎡)について貸家建付地部分から適用 (※) 300㎡ × 13室/15室 = 260㎡   ★実務上のポイント★ 貸家建付地として賃貸割合に含まれなかった部分についても特例は認められる可能性がありますので、その点は十分に注意する必要があります。   (了)

#No. 476(掲載号)
#柴田 健次
2022/07/07

〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第6回】「“役員報酬”に関する会計基準から勘定科目を考える」-混同しがちな「報酬等」の定義-

〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第6回】 「“役員報酬”に関する会計基準から勘定科目を考える」 -混同しがちな「報酬等」の定義-   公認会計士 阿部 光成   ◆はじめに 会社法361条では、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益を「報酬等」とし、定款に一定の事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定めると規定している(会社法361条)。 今回は、役員報酬に関する会計基準を取り上げ、勘定科目について考えるとともに、混同しがちな「報酬等」に関する用語も丁寧に確認していく。   ◆報酬等の定義 「報酬等」の定義には次のものがあり、法令や会計基準によって違いがある。   ◆会計基準に見る勘定科目 有価証券報告書などでは、「役員の報酬等」の記載が規定されており、提出会社の役員(取締役、監査役及び執行役をいい、最近事業年度の末日までに退任した者を含む)の報酬等(報酬、賞与その他その職務執行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったもの(最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書に記載したものを除く)をいう)について、記載する(開示府令 第二号様式、「記載上の注意」「(57)役員の報酬等」)。 また、「関連当事者の開示に関する会計基準」(企業会計基準第11号)では、「役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い」は、関連当事者との取引の開示対象外とされている(9項(2))。 このように、役員報酬に該当するかどうかは、開示に関する問題にも関連している。 以下で述べるように、株式に基づく報酬取引が多様化していることを考えると、「実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等に対するコメント」(19)に記載されているように、株式に基づく報酬取引に関する包括的な会計基準の開発が望まれるのではないだろうか。 〇ストック・オプション(株式報酬費用) 「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号)は、ストック・オプションを次のように定義し、「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号)の設例において、「株式報酬費用」の勘定科目を用いている。 〇有償ストック・オプション(株式報酬費用) 「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第36号)では、権利確定条件付き有償新株予約権はストック・オプション会計基準2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとしている(実務対応報告第36号4項)。 そして、「設例」において、「株式報酬費用」の勘定科目を用いている。 〇取締役の報酬等として株式を無償交付する取引(報酬費用) 「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(実務対応報告第41号)は、会社法202条の2において、金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等(金銭の払込み等を要しないもの)として株式の発行等をする場合の会計処理及び開示を規定している。 そして、「設例」において、「報酬費用」の勘定科目を用いている。 〇インセンティブ報酬 日本公認会計士協会の「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(会計制度委員会研究報告第15号)では、「インセンティブ報酬」の用語を用いている。 研究報告第15号は、「インセンティブ報酬」について、自社や親会社等(親会社及びその他の関係会社)の株価や業績に連動して、株式数又は金額が決定され給付される業務執行や労働等のサービスに対する対価であり、役員等に対して株価上昇や業績向上へのインセンティブを付与する性格の対価としている(「Ⅱ 現行の会計基準で定められている事項の概要」)。 〇役員賞与 「役員賞与に関する会計基準」(企業会計基準第4号)では、役員報酬は、確定報酬として支給される場合と業績連動型報酬として支給される場合があるが、職務執行の対価として支給されることにかわりはなく、会計上は、いずれも費用として処理されるとしている。そして、役員賞与は、経済的実態としては費用として処理される業績連動型報酬と同様の性格であると考えられるため、費用として処理することが適当であると規定している(12項(1))。 (了)

#No. 476(掲載号)
#阿部 光成
2022/07/07

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第28回】「「中小PMIガイドライン」を積極活用しよう」~その3:失敗事例から学ぶ③~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第28回】 「「中小PMIガイドライン」を積極活用しよう」 ~その3:失敗事例から学ぶ③~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの目的や、PMIにかけられる経営資源等に応じて、「中小PMIガイドライン」の必要な取組を参照する。 売り手企業 ⇒M&Aの目的や、PMIにかけられる経営資源等に応じて、「中小PMIガイドライン」の必要な取組を参照する。 支援機関(第三者) ⇒支援先の企業が円滑に事業を引き継ぎ、M&Aの目的やシナジー効果等を実現するために必要な助言ができるように、「中小PMIガイドライン」を参照する。 その他の対象者 ⇒M&Aの目的や、PMIにかけられる経営資源等に応じて、「中小PMIガイドライン」の必要な取組を参照する。   〇 PMI「信頼関係構築」に起因する失敗事例 前回、前々回と、2022年3月17日に中小企業庁が取りまとめ公表した「中小PMIガイドライン」の中から、PMIに起因する失敗事例のうち、「経営統合」「業務統合」の領域に関する失敗事例を中心に取り上げ、対応上のポイントを紹介しました。今回も、前回までに続いて本ガイドラインに掲載されている失敗事例を見ていきます。 今回は、前回に一部を紹介した「信頼関係構築」の領域に関する失敗事例の続きを解説します。 (1) 「信頼関係構築」に関する失敗事例② (注) 本ガイドラインには失敗例に対する取組例が示されていますが、本稿では割愛し、私見ですがこのような失敗を回避ないしは防ぐためのポイントを簡単に紹介します。以降の失敗例についても同様です。 ① 従業員にとってM&Aは転職と同じくらい大きなイベント 転職経験がない方の多くも、直属の上司、部・課といった組織の上司、あるいは組織のトップが変わるだけで、業務の進め方が変化して混乱した、不安が増したという経験をお持ちではないでしょうか。 売り手従業員としては、「M&Aなんて自分の仕事人生で経験することはないだろう」「入社した勤め先で会社員人生を全うするだろう」と思っていたところに、M&Aによって、ある日突然、別会社に転職するほどの衝撃を受けることになります。買い手が「株主が変わりました」「組織のトップが変わります」「あなたの上司はこの方になります」「これまでの仕組みは大きく変わりますのでよろしく」という一方的な姿勢では、決してM&Aが上手くいくはずもありません。 本ガイドラインには、取組のポイントとして以下の内容が書かれています。 これらのヒントから、やはり当事者間の信頼関係構築がM&A成功への近道だと考えられます。 買い手の会社において、買い手従業員が経営者を信頼するから安心して労働力を提供するのと同じように、M&Aによる売り手の信頼なくして売り手従業員が買い手にとっての理想的な労働力の担い手となることはありません。M&Aによって後々に得られる効果を考慮するなら、目の前にいる売り手の信任の獲得を軽視せずに情熱を注ぐ姿勢が大切です。 少なくとも、多くの従業員は望まずして買い手の傘下に入る存在ですので、買い手の理屈だけでは動くはずがないと思って臨み、良好な関係を築くための努力を惜しんではいけません。 ② 売り手従業員が気にする処遇・待遇 ほとんどの売り手従業員は、M&Aを受けて、テレビドラマなどで見聞きする「買収された」という消極的なイメージしか抱かないと思います。そのイメージは、働く従業員自身と家族の生活への危機感につながっていきます。 M&Aに伴う従業員説明会などの場で多く耳にする声が、従業員自らの処遇や待遇に対する不安や不満です。大半の従業員は生活の原資を得るために仕事をしているわけですから、給与、賞与、昇格、昇給、手当、休日、福利厚生、社会保障といった生活に関わる待遇の状況と条件には当然敏感に反応します。 M&Aそのものは受け入れたとしても、今後、将来の自分と家族の生活に落とし込んだときに納得できない、腑に落ちない場合には、売り手従業員の意欲の低下、離職を招きやすく、統合後の大幅な戦力ダウンになります。 私見ですが、社内で優秀と思われている方は、他社でも重宝されうる人材ですので、さほど転職先には困らないようです。最近では転職年齢に関わらず有為な人材であれば他社での活躍の場が広がっているので、能力が高い方の退職へのハードルは一段と低くなっています。 このように、売り手というせっかくの力を得たと思ったら、人材という肝心の中身が空っぽになっていた、という事態に陥らないように気を付けたいところです。 本ガイドラインには、基本的な取組が多数の例示によって紹介されています。譲渡側従業員との信頼関係構築にあたって不安を覚える買い手の皆様は、本ガイドラインをその名の通り指針として活用されるのをお勧めします。 (2) 「信頼関係構築」に関する失敗事例③ 成功すると、失敗例とは逆の展開に至るケースもあるのが取引先との信頼関係構築です。取引先との早期かつ効果的な信頼関係構築の結果、以下の状況に発展するケースが考えられます。 M&Aによってこうした発展を期待したいですし、従業員との信頼関係構築とは違い、取引先であれば、法人としてM&Aの趣旨を理解してもらえれば取引の継続が期待できます。ただし、属人的な関係やつながりで成り立つ取引も多いはずですので、統合後の会社側の担当者の変更によって関係性が薄くなる可能性がある点には留意します。 M&Aという非日常の出来事の到来は、主要な取引先への挨拶、価格など今後の条件面を含む交渉、買い手の魅力を含んだ統合後の会社や商材のアピールなど、絶好のセールスチャンスにもなりますので、買い手がこのような出来事を好機と捉えられるかどうかが取引先との信頼関係構築成否のカギになります。 本ガイドラインでは、取引先との価格交渉時の参照資料として「中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」(中小企業庁)を紹介しており、必要に応じてM&Aに伴う取引先対応に活用できる内容となっています。 *  *  * これまで、3回続けてM&Aによる統合後の失敗事例に触れてきました。本ガイドラインに掲載された失敗事例はいずれも実務上よく遭遇するものばかりで、これからM&Aを行う方々の成功のために紹介されています。これらの事例を踏まえて、M&Aに関わる当事者の皆様がM&Aを成功に導かれることを願っています。 (了)

#No. 476(掲載号)
#荻窪 輝明
2022/07/07

空き家をめぐる法律問題 【事例40】「所有者不明土地管理制度を利用した悪臭問題対策」

空き家をめぐる法律問題 【事例40】 「所有者不明土地管理制度を利用した悪臭問題対策」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私の自宅の隣家は空き家となっており、成長した樹木の枝が境界を越えて侵入しているだけでなく、ごみも投棄され悪臭が漂う日が続いています。隣家の登記簿上の名義人は知らない方で、行方も分かりません。隣家の悪臭問題は自治会でも以前から話題になっているのですが、どのように対応すればよいですか。 (注) 本事例では行政法上の対応は検討対象から外している。   1 所有者不明・管理不全土地等の問題とごみ問題 隣家・隣地(以下「隣家等」という)の所有権者が行方不明である場合や、隣家等の管理が適切に行われない場合に、隣地にごみが投棄され、周囲に悪臭等の被害を及ぼすことがある。悪臭等の被害を受けた者は、当該隣家等の所有権者に対して、所有権侵害や人格権侵害又はそのおそれがあることを理由に、妨害排除や妨害予防等の請求をすることが考えられる。 しかし、当該隣家等の所有権者を特定できないこともあれば、特定して請求をしても改善されないこともある。また、これらの請求を受けて改善措置が講じられることがあっても、一時的な対応に留まり継続的に管理されないこともある。 そこで、今回は、原則令和5年4月1日から施行される予定の改正民法等を踏まえて、このような問題への対応策を検討したい。なお、便宜上、改正後の民法を「改正後民法」と表記する。   2 所有者不明土地・管理不全土地管理人選任の申立て (1) 所有者不明土地管理人と管理不全土地管理人 所有者不明の土地や管理不全の土地がある場合、利害関係人は、地方裁判所に対して、所有者不明土地管理人や管理不全土地管理人の選任を申し立てることができる。どの程度の被害が生じていれば利害関係人として認められるかは、事例の集積を待つことになるが、管理の必要性(改正後民法第264条の2第1項、同法第264条の9第1項)が要件として求められていることからすると、受忍限度を超えるような被害が生じている場合に限定されるように思われる。 これらの管理人選任の申立ては、各選任要件を満たす限り、どちらかを選択して申立てをすることができる。もっとも、所有者不明土地管理人の場合、当該土地の管理権限が当該管理人に専属するものとされているため、裁判所の許可を得れば、所有者の同意を得ることなく、当該土地の処分をすることもできる(改正後民法第264条の3。管理不全土地管理人の権限を規定する同法第264条の10第3項は、処分行為を行う場合に所有者の同意も要件としている)。そのため、当該土地を処分することまで想定して管理人選任を申し立てるような場合には、所有者不明土地管理人の選任を選択することになると考えられる。 なお、土地の管理だけでなく、隣家の建物も管理が必要な状態である場合には、別途、所有者不明建物管理人又は管理不全建物管理人の選任を申し立てる必要がある。 (2) 所有者不明土地管理人の権限 所有者不明土地管理人の権限は、①所有者不明土地管理命令の対象とされた土地、②所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産、③管理・処分その他の事由によって当該管理人が得た財産に及ぶ(改正後民法第264条の3)。 上記②のうち、所有者不明土地上にある動産は、当該土地の所有権者の所有する動産を意味するため、第三者の所有する動産には当然効力は及ばない。もっとも、不法に投棄されたごみのように、当該第三者が動産の所有権を放棄したとみられる事情がある場合には、当該動産も上記②の所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産と解することができる。 (3) 所有者不明土地管理人選任の申立人 上記のとおり、所有者不明土地管理人選任の申立人には、具体的な被害を受けている隣家の者が含まれうるが、当該土地が所在する自治会が含まれるのかが問題となりうる。直接的な関与を避けたい者にとっては、自治会を通じて問題解決を図ることができれば、心理的な面での負担も軽減することができる。 自治会が認可地縁団体(地方自治法第260条の2)になっている場合、当該自治会は法人格を有するため、当該自治会が申立人となりうる。また、当該自治会が認可地縁団体ではない場合でも、当該自治会が権利能力なき社団の要件(※)を満たしている場合には、当該自治会の代表者の名義で申し立てる余地もあると考えられる。 (※) ①団体としての組織をそなえ、②多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁参照)。   3 越境した枝の切除 所有者不明土地管理人は、当該土地を管理する義務を負うため、当該土地上の竹木の枝が越境している場合には、当該枝を切除する等の措置を講じる必要がある。また、改正後民法では、土地の所有権者に、隣地の竹木の枝が境界線を越えているにもかかわらず、隣地の竹木の所有権者を知ることができない場合や、その所在を知ることができない場合に、枝を切除する権利を認めたため(改正後民法第233条第3項第2号)、当該管理人によることなく、自ら枝の切除をすることもできる。 隣地と高低差があるなど隣地の竹木の枝を切除するために隣地を使用する必要がある場合、原則として隣地の所有権者と使用者に対してあらかじめ通知する必要がある(改正後民法第209条第3項本文)。 もっとも、あらかじめ通知することが困難なときは、使用後に遅滞なく通知をすれば足りる(同項ただし書)。「あらかじめ通知することが困難なとき」には、当該隣地の所有権者や使用者が不明である場合や、その所在を把握できない場合が含まれると解されており、この場合、当該所有権者や使用者が判明した後に通知をすれば足りる。そのため、通知をするためだけに所有者不明土地管理人の選任を申し立てる必要はない。   4 本件について 本件において隣家からの受忍限度を超える悪臭の被害を防ぐためには、所有者不明土地管理人の選任を(必要に応じて所有者不明建物管理人の選任も併せて)申し立てることが考えられる。 また、自治会が認可地縁団体になっている場合や権利能力なき社団としての要件を満たしている場合には、自治会(前者の場合)又はその代表者(後者の場合)が上記申立てをすることも考えられる。 もっとも、上記のいずれの場合でも、裁判所から予納金の納付を求められる可能性があるため、経済的負担があることに留意が必要である。 越境した枝については、所有者不明土地管理人が選任されている場合は、当該管理人に切除の請求をすれば足りるが、管理人の選任をしていない場合は、隣地の竹木の所有権者が不明又は行方不明の場合に該当することを理由に自ら切除することができる。この場合も、事実上、切除費用を負担することになる可能性が高いため留意が必要である。 (了)

#No. 476(掲載号)
#羽柴 研吾
2022/07/07

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第23回】「電機メーカーでの品質不正-内部通報制度が機能しなかったのはなぜか」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第23回】 「電機メーカーでの品質不正 -内部通報制度が機能しなかったのはなぜか」   弁護士 原 正雄   M電機の品質不正は重大な問題であった。そこで、本連載では、【第21回】で品質不正が起きた原因について論じ、【第22回】で3度にわたる点検でも不正を発見できなかった理由について論じた。第23回となる本稿では、M電機の内部通報制度について解説したい。 内部通報制度については、2022年6月、改正公益通報者保護法が施行されたことが大きなトピックである。改正法は、企業に対して内部通報窓口の設置義務を課すなど、内部通報制度に係る重大な内容を多々定めている。企業における内部通報制度の重要性はさらに高まった。 そうした中で、M電機は内部通報制度を整備していたにもかかわらず、今回問題となった品質不正を発見できなかった。なぜ、内部通報制度が効果を発揮できなかったのか。 本稿では、調査委員会が作成した調査報告書に基づき、M電機が整備していた内部通報制度の概要を確認しつつ、可児工場と長崎製作所を例として、M電機において品質不正についての内部通報がなされなかった原因について分析する。   1 M電機における内部通報制度の概要 M電機は、以下の2つの内部通報窓口を設置していた。 通報件数は、以下のとおりである。 2020年度で見ると、M電機の従業員数は約3万6,000人である。同年度の通報件数は65件なので、従業員554人当たり1件という状況である。 内部通報制度が活発に利用されている企業では、従業員100人未満当たりで1件ということもある。M電機の554人当たり1件という数字は、内部通報制度が活発に利用されていた、とは言えなかったことを示す。品質に関する通報もあったようだが、ごく少数であった。   2 内部通報がなされなかった原因 M電機の可児工場や長崎製作所では、長い間、品質不正が行われていた。しかし、そうした不正について内部通報が行われることはなかった。 (1) 現場の従業員たちが問題から目を背けてしまった M電機において内部通報がなされなかったことの1つの要因として、現場の従業員たちが問題から目を背けてしまったという事情がある。問題から目を背けたのでは、そもそも通報しようという話にならない。それでは、従業員たちは、なぜ品質不正という問題から目を背けてしまったのか。 ① 当事者意識の欠如 まず、M電機では、現場の従業員に当事者意識が欠けていた。可児工場の品質保証課の管理職経験者は、以下のとおり述べる。 ② 悪しき「事なかれ主義」 また、悪しき「事なかれ主義」に囚われていた従業員も複数いたようである。可児工場の従業員は、以下のとおり述べる。 また、長崎製作所の従業員は、以下のとおり述べる。 ③ 顧客とのトラブルを懸念した 内部通報をしなかった理由として、顧客とのトラブルを懸念したという事情もあった。長年にわたって品質不正を行って不正な製品を納品し続けてきたため、今になって公表すれば顧客との関係で収拾がつかなくなる、という発想である。 この点について長崎製作所の従業員は、以下のとおり述べる。 M電機では、多くの従業員は、最初に配属された製作所や工場にその後も属し続け、他に異動することは希である。その間に自らが属する製作所や工場に強い帰属意識を持つようになり、限定的な人間関係が構築される。そのため、製作所や工場単位で見るならば、従業員同士は極めて「仲が良い」とのことである。 しかし、濃密な人的関係の結果、顧客に対して誠実であるよりも、仲間に対して忠実であることを選択してしまったようである。そうした従業員たちが、品質不正の存在を認識していたにもかかわらず、問題から目を背けてしまったものと考える。 (2) 現場の従業員が内部通報制度を信頼していなかった とはいえ、品質不正という問題に直面した際、全ての従業員が、何らの葛藤もなく単純に目を背けていたとも思えない。中には、こうした問題を看過してしまってよいのか、悩んだ従業員もいたはずである。 しかし、結果として、可児工場や長崎製作所において品質不正を通報するに至った従業員は1人もいなかった。それはなぜか。 M電機において内部通報がなされなかったことのもう1つの要因として、現場の従業員が内部通報制度を信頼していなかったという事情がある。 ① 実効性があるとの信頼を得ていなかった まず、M電機の従業員は「内部通報制度を利用すれば問題を解決できる」という考えを有していなかった。従業員たちは「内部通報をしても会社が助けてくれるかは分からない、会社は何の支援もしてくれないかもしれない」と感じていた。 内部通報をしなかった理由につき、長崎製作所の従業員は、以下のとおり述べる。 M電機の内部通報制度は、実効性あるものとしての信頼を獲得できていなかった。経営陣による「内部通報制度を通じて不正を発見し、是正したい」という思いは、現場には伝わっていなかったのである。 ② 通報者保護についての信頼を得ていなかった また、M電機の従業員らは、内部通報制度を利用した場合、通報者が保護されないのではないか、という疑いを有していた。通報者が保護されるとの信頼がなければ、内部通報制度を利用しようとは思わない。この点についてある従業員は、以下のとおり述べている。 ③ 信頼を得られていなかったのは、周知が不十分であったから 内部通報制度は、上記のとおり十分な信頼を得ていなかった。それでは、なぜ、十分な信頼を獲得できなかったのか。 その理由として、周知が不十分であったことがあげられる。M電機では、内部通報制度の存在を知らない従業員や、内部通報制度がどのような仕組みなのか正しく理解していない従業員が複数いた。例えば、以下のとおり述べる従業員がいた。 経営陣が真に熱心に内部通報制度に取り組んでいたのであれば、周知活動についても熱心に行い、全ての従業員が内部通報制度を十分に理解するまで徹底したはずであった。その結果、周知が熱心に行われること自体が、経営陣が内部通報制度に真剣に取り組んでいるというメッセージになったはずであった。 しかし、実際には、M電機は、eラーニングや従業員研修、ポスター掲示等を通じて、内部通報制度の周知を図っていたようであるが、十分とは言えなかった。その結果、従業員たちは「経営陣は、内部通報制度についてさほど熱心ではない」と受け止めてしまったようである。そうだとすれば、内部通報制度が信頼を獲得できなかったことも当然であった。   3 結論 (1) 原因についてのまとめ 上記のとおり、M電機では、内部通報制度は設けられていたものの、活発には利用されていなかった。その結果、品質不正について通報がなされることもなかった。 その原因の1つとして、現場の従業員たちが問題から目を背けてしまったという事情があった。 そして、もう1つの原因として、内部通報制度の周知が不十分であった結果、現場の従業員が内部通報制度を信頼するに至らなかったという事情があった。 (2) 問題の解決に向けて 1つ目の原因である「従業員たちが問題から目を背けてしまった」という点は、企業風土の問題である。一朝一夕に解決することは難しい。 しかし、企業風土の改善という課題は、避けて通ることはできない。M電機は、企業風土の改善に全力で取り組まなければならない。 また、M電機においても、全ての従業員が問題から目を背けていたわけではない。中には心苦しい思いをしていた従業員もいた。そうした従業員は、2021年にM電機が調査委員会を設置したことで会社が品質不正問題に本気で取り組んだことを知った。そして、それまでの態度を転じて、品質不正の調査に積極的に応じている。 例えば、ある担当者は、調査委員会のヒアリングに対して、不正行為の存在を積極的に説明した。その理由について、以下のとおり述べている。 これは、2つ目の原因である「内部通報制度が信頼を獲得できていなかった」という問題にも関わるものである。 心ある従業員たちが声を上げやすくなるよう、経営陣は、内部通報制度に真剣に取り組まなければならない。そして、経営陣が内部通報制度に真剣に取り組めば、そのこと自体が、コンプライアンスの重要性についての経営陣から従業員に対するメッセージとなる。そうしたメッセージを受けて、現場の従業員たちも次第に経営陣のコンプライアンスに対する思いを受け止め、内部通報制度を信頼するようになる。そうした中で、従業員たちの考え方が少しずつ変わり、問題に正しく向き合う従業員も増えてくる。 すなわち、2つ目の原因である「内部通報制度が信頼を獲得できていなかった」という問題を解決するために内部通報制度の周知に熱心に取り組むということが、実は1つ目の原因である「現場の従業員たちが問題から目を背けてしまった」という事情を解消し、企業風土の改善につながるのである。 (3) 結語 コンプライアンス経営を実現して企業価値を維持向上するには、地道な取り組みが不可欠である。地道な取り組みの積み重ねによって、初めてより良い企業風土を構築できる。 そうした地道な取り組みの1つとして、内部通報制度がある。企業は、内部通報制度の構築と運用に真剣に取り組み、従業員への周知を徹底しなければならない。 M電機の品質不正問題は、多くの企業にとって、内部通報制度の重要性を認識するための貴重な機会であり、ひいては企業風土のさらなる改善の必要性を改めて認識するための重要な契機と言える。 (了)

#No. 476(掲載号)
#原 正雄
2022/07/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第58話】「隠蔽仮装と必要経費の否認」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第58話】 「隠蔽仮装と必要経費の否認」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・この改正で、税務調査が、行いやすくなるのかなあ・・・」 浅田調査官は、令和4年度税制改正の「所得税法45条3項」の箇所を見ながらつぶやく。 上記の「一定の場合」とは、次①又は②に該当する場合である。 「・・・税制調査会では、この新たな規定について、次のような説明をしている・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、税制調査会(第7回総会)の議事録(寺﨑主税局調査課長の答弁)の一部を見る。 「・・・しかし、納税者が自らの所得金額を計算する際に、必要経費そのものを簿外にすることはないのでは・・・」 浅田調査官が首をかしげていると、中尾統括官が声をかける。 「何をそんなに真剣に考えているの?」 中尾統括官は、浅田調査官が開いている令和4年度税制改正のページを覗く。 「・・・ああ、所得税法45条か・・・」 中尾統括官は、大きく頷く。 「・・・これは税務調査の際に、納税者が不利になると、後出しジャンケン的に証拠書類を提示することなく簿外経費を主張する不心得な納税者に対して、一定の規制を行う規定なのだが・・・」 浅田調査官は、納得しない顔をしている。 「・・・しかし、必要経費を簿外にする納税者はいるのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「この制度の趣旨は、もともと記帳義務や申告義務を適正に履行させることを目的としたもので、そして、そのようなことをしない納税者には、必要経費を認めないことによって、適正な記帳と申告を促すということなのだ・・・」 中尾統括官は、所得税法45条の趣旨を説明する。 「そして、この制度は、税務調査の段階で、何らかの収入が発見されたときに、事後的に簿外経費を明らかにするといった不誠実な納税者への対応を図るものだともいわれている」 浅田調査官は、大きく頷く。 「そうでしょうね・・・簿外の収入が見つかったという前提でしょうね・・・納税者が必要経費のみ簿外にするなんてことは、とうてい考えられない」 中尾統括官は、傍らにある税務六法を手に取って、法人税法34条(役員給与の損金不算入)を開く。 「この条文の3項にも今回の改正と同じように、隠蔽・仮装に基づいて、役員に対して支給する給与は、損金の額に算入しないという規定がある」 そう言いながら、中尾統括官は、同条3項を読み上げる。 「この規定は、税務調査で簿外の売上が発見され、しかし、その売上から役員の定期同額給与が支給されていた場合、理論上、役員給与は、損金の額に算入され、その結果、簿外の売上に対して課税できないことになるので、平成10年度税制改正で、このように隠蔽・仮装して役員に支給する給与は、損金の額に算入しないと規定した・・・」 中尾統括官は、言葉を続ける。 「・・・それまでは、簿外収入による役員に対する定時・定額支給の訴訟が多かったと聞いている・・・」 中尾統括官は、名古屋地裁平成4年2月28日判決を紹介する。 「この平成10年度改正前の裁判では、役員への簿外(定時・定額)支給の給与は、臨時的給与=役員賞与として、否認されていたが、隠蔽・仮装に基づく役員報酬は、損金算入しないと立法で手当てし、課税庁は一つ一つ訴訟をしなくてもよくなった・・・今回の改正も同様の措置だろう」 浅田調査官は、大きく頷く。 (つづく)

#No. 476(掲載号)
#八ッ尾 順一
2022/07/07

令和3年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

令和3年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和3年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/07/04

《速報解説》 会計士協会、公認会計士のサステナビリティ教育に向けた検討事項をまとめ、報告書として公表~今後、シラバスの開発やプラットフォームの整備等も進める方針~

《速報解説》 会計士協会、公認会計士のサステナビリティ教育に 向けた検討事項をまとめ、報告書として公表 ~今後、シラバスの開発やプラットフォームの整備等も進める方針~ 公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年6月30日、日本公認会計士協会は、サステナビリティ教育検討プロジェクトチーム報告書「公認会計士のサステナビリティに関する知見及び能力の育成に向けた検討」を公表した。 これは、公認会計士がサステナビリティの知見・能力を高める必要性を認識し、公認会計士のサステナビリティ教育の在り方について包括的な検討を行ったものである。 公認会計士のサステナビリティ教育に関するシラバスを策定することが適当であるとしている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 サステナビリティ関連の教育に関する課題 公認会計士業界におけるサステナビリティ関連の教育に関する課題として、次の点が指摘されている。 2 公認会計士に求められるサステナビリティ関連の知見・能力 サステナビリティに関して公認会計士が具備すべき知見・能力(会計・監査に関する職業的専門家として共通的に備えるべきもの)について、次のように整理している。 3 財務諸表の監査に従事する者(外部監査人)に求められる知見・能力 公認会計士に共通的に求められる知見・能力を踏まえ、財務諸表の監査に従事する者(外部監査人)に求められる知見・能力として、次の整理を行っている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 475(掲載号)
#阿部 光成
2022/07/04

《速報解説》 「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」をJICPAが公表~企業・公認会計士双方の認識の差異を明らかにし、業務及びコミュニケーションの改善へ~

《速報解説》 「公認会計士の社会的認識の分析を通じた 監査の現場力強化に向けた提言」をJICPAが公表 ~企業・公認会計士双方の認識の差異を明らかにし、業務及びコミュニケーションの改善へ~ 公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年6月30日、日本公認会計士協会のホームページにおいて、学校法人先端教育機構 社会構想大学院大学による研究報告書「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」が公表されている。 これは、企業及び公認会計士の双方の視点から「公認会計士による監査がどのように見られているか」について定量(量的)・定性(質的)の両面から調査し、双方の認識の差異(ズレ)を明らかにすることで、企業・公認会計士双方の業務及びコミュニケーションの改善につなげ、公認会計士の「現場力」の向上に寄与するためのものである。 日本公認会計士協会は、「学校法人先端教育機構 社会構想大学院大学による研究報告書「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」の公表を受けて」を公表し、所感を述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 研究報告書では、「公認会計士の社会的貢献」、「社会的期待」及び「行動」に関して、公認会計士と企業関係者それぞれに質問を実施し、t検定を用いてどのような認識の差異が存在するか量的に分析を行っている。 分析の方法及び結果については、研究報告書をお読みいただきたい(全体で139ページ)。 以下では、主に、研究報告書の「3.本研究の考察結果のまとめと監査の現場力強化に向けた提言」に記載されている事項について、その概要を述べることとする(研究報告書の69~72ページ)。 1 量的分析を通じた公認会計士視点と企業視点の比較 主に以下の分析結果について記載されている。 2 重回帰分析を通じた公認会計士に対する認識を規定する要因の探索 主に以下の分析結果について記載されている。 3 自由記述の質的分析を通じた公認会計士視点と企業視点の比較 主に以下の分析結果について記載されている。 監査のメタファーの分析では、公認会計士側は「公認会計士による監査」には「強制的な権限がない」ことを意識している一方で、企業側は必ずしもそうではない可能性があることが示唆されている(61ページ)。 また、企業関係者個々人が経験した公認会計士の「当たり外れ」が、個人的な視点からの公認会計士イメージに大きく影響している可能性についても理解する必要があるとのことである。公認会計士は人によって「レベルの差が大きい」ため、「世間知らず・常識に疎い」と見なされてしまうこと、専門家としての実態を伴う形で認識され、評価されていない場合には「先生と呼ぶに値しない」と受け止められていることなどがある(61ページ)。 企業側の不満が「必要な知識及び自社・業界理解の不足」「提言力の不足」「人材(人財)の不足」という3つの「不足」の形で示されていたことも注目に値するとのことである(61ページ)。 4 専門職としての公認会計士の専門性とその認識 主に以下の分析結果について記載されている。 公認会計士側に比べて、企業側は「公認会計士の業務内容や意義は公認会計士ではない人々に十分理解されている」と考えているが、同時に「公認会計士はAIにとって代替される可能性が高い職業だ」とも考えているとのことである(67ページ)。 5 監査の現場力強化に向けた提言 監査の現場力強化のために、「クライアントが、専門職が保有している知識やスキルを信用した上で業務を依頼したいと思える」ような関係性などについて述べており、公認会計士と企業とのコミュニケーションのあり方の改善(コミュニケーションにおいて企業のビジネスの理解を求める声があったことなど)など、企業に寄り添ったコミュニケーション活動を充実させることについて述べている。   Ⅲ 日本公認会計士協会の所感 日本公認会計士協会の所感として、主に次のことが述べられている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 475(掲載号)
#阿部 光成
2022/07/04

《速報解説》 令和4年分路線価を国税庁が公表~コロナ禍の影響緩み、全国平均路線価は0.5%の上昇~

《速報解説》 令和4年分路線価を国税庁が公表 ~コロナ禍の影響緩み、全国平均路線価は0.5%の上昇~   Profession Journal編集部   国税庁は7月1日、相続税及び贈与税の算定基準となる令和4年分の路線価(1月1日時点)を公表した。 昨年はコロナ禍の影響が路線価に反映された最初の年であり、一昨年までの上昇傾向から一転して全国平均路線価は0.5%の下落となっていた。 しかし、引き続きコロナ禍の影響を受けている令和4年分の全国平均路線価は0.5%の上昇に転じている。要因としては、昨年と比較してコロナ禍の影響が緩和されたことによる一部観光地や繁華街での需要回復や、リモートワークの浸透などにより都市部から離れた一部地域の需要が高まったことが考えられる。 ちなみに今年を加え、37年連続路線価トップとなったのは、東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり4,224万円となった。昨年に続き路線価自体は下落したものの、下げ幅は1.1%と昨年の7.0%と比べると緩やかになっている。 〇上昇地域と下落地域の特徴 昨年大幅下落となったインバウンド(訪日外国客)需要が牽引してきた地域については、下げ幅は緩やかになったものの、依然として今年も下落傾向にあり、大阪府の心斎橋筋2丁目は前年比マイナス10.6%となった。国内旅行の需要により回復傾向の観光地もある一方で、インバウンド需要の回復が望めないことで下落が続く地域もあり、観光地において2極化が進んでいる。 また、コロナ禍によるリモートワークの浸透などで、都市部のオフィス街は下落傾向にあり、東京都千代田区丸の内2丁目はマイナス1.3%となっているが、ワーケーションやセカンドハウス需要により、長野県白馬村の村道和田野線は前年比20.0%のプラスとなるなど、直近の生活様式の変化が反映されている地域もある。 なお、上記で取り上げた地域も含め、各国税局では国税局管内各税務署の最高路線価を下記のとおり公表している。 〈各局が公表した最高路線価(別表)のページ〉 (了)

#No. 475(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/07/04
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