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組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第10回】「グループ通算制度におけるみなし共同事業要件」

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第10回】 (最終回) 「グループ通算制度におけるみなし共同事業要件」   公認会計士 佐藤 信祐   1 概要 グループ通算制度では、時価評価課税の対象にならない法人に対して日本版サーリールールが認められている(法法64の7②一)。日本版サーリールールとは、繰越欠損金の生じた通算法人の個別所得の範囲内で繰越欠損金の使用を認める制度である(このような繰越欠損金を「特定欠損金」という)。 ただし、組織再編税制との整合性の観点から、通算承認の効力が生じた日の5年前の日又は通算法人若しくは通算親法人の設立の日のうちいずれか遅い日から当該通算承認の効力が生じた日まで継続して通算親法人(※1)との間に支配関係があるとは認められず、かつ、みなし共同事業要件を満たさない場合には、繰越欠損金の使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入及び開始若しくは加入後の損失に対する損益通算制限がそれぞれ設けられている(法法57⑧、64の6①、64の14①、法令112の2③④、131の8①②、131の19①②)。 (※1) 上記の制限の検討を行う通算法人が通算親法人である場合には、他の通算法人のうちのいずれかの法人。 このように、みなし共同事業要件を満たす場合には、上記の制限が課されない。そして、みなし共同事業要件を満たすためには、以下の要件を満たす必要がある(法令112の2④、131の8②、131の19②)。 みなし共同事業要件については、組織再編税制との整合性の観点から設けられていることから、組織再編税制におけるみなし共同事業要件と同様の取扱いになっているものも多い。そして、法人税基本通達1-4-4~1-4-7に規定されている組織再編税制に係る通達を準用することとされている(グ通通2-12、2-23、2-59)。 ただし、組織再編税制におけるみなし共同事業要件と異なり、(イ)グループ通算制度の加入に伴う時価評価から除外される法人のうち共同事業を行うための適格組織再編成の要件に準ずる要件を満たす場合及び(ロ)共同事業を行うための適格株式交換等の要件のうち金銭等不交付要件以外の要件を満たす場合にも、上記の制限が課されないこととされている(法令112の2④五、131の8②、131の19②)。   2 事業関連性要件 通算前事業と親法人事業とが相互に関連するものであること。 なお、通算前事業とは、通算法人又は通算承認の効力が生じた日の直前において当該通算法人との間に完全支配関係がある法人(当該完全支配関係が継続することが見込まれているものに限る)の当該通算承認の効力が生じた日前に行う事業のうちのいずれかの主要な事業のことをいう。 すなわち、グループ通算制度に加入する場合には、当該通算法人とセットでグループ通算制度に加入する他の法人を含めて通算前事業の判定を行うが(グ通通2-14、2-24(2)、2-60(2))、グループ通算制度を開始する場合には、「通算承認の効力が生じた日の直前において当該通算法人との間に完全支配関係がある法人」とは、当該通算法人以外の通算グループ内のすべての法人を意味することから、通算グループ内のすべての法人が行う事業のうちのいずれかの主要な事業が通算前事業になる。 これに対し、親法人事業とは、当該通算法人に係る通算親法人(※2)又は通算承認の効力が生じた日の直前において当該通算親法人との間に完全支配関係がある法人(当該完全支配関係が継続することが見込まれているものに限るものとし、当該通算法人を除く)の当該通算承認の効力が生じた日前に行う事業のうちのいずれかの事業のことをいう。 (※2) 当該通算法人が通算親法人である場合には、他の通算法人のうちのいずれかの法人。 すなわち、グループ通算制度に加入する場合には、すでにグループ通算制度に加入している他の通算法人を含めて親法人事業の判定を行うが、グループ通算制度を開始する場合には、「通算承認の効力が生じた日の直前において当該通算親法人との間に完全支配関係がある法人」とは、当該通算親法人以外のすべての通算法人を意味するものの、「当該通算法人を除く」としていることから、当該通算法人を除く通算グループ内のすべての法人が行う事業のうちのいずれかの事業が親法人事業になる。 このように、グループ通算制度に加入する場合には、通算親法人が所属するグループと通算子法人となる法人が所属するグループの事業を比較するということを目的にしていることから、一応の合理性を説明することができるが、グループ通算制度を開始する場合において、通算親法人をA社、通算子法人をB社、C社、D社及びE社とし、E社に対して事業関連性要件を満たすかどうかの判定上、A社、B社、C社、D社及びE社の中で主要な事業を営んでいるのがA社であるとしたときに、A社との事業関連性を有する法人が、B社、C社又はD社のいずれでも構わないということになり、何を判定しようとしているのかよくわからない規定になっている。 この点については、現行法上、グループ通算制度の開始が任意となっている弊害であると思われる。いずれは、組織再編税制をグループ内再編税制とそれ以外の再編税制に分けたうえで、グループ内再編税制とグループ通算制度及びグループ法人税制を一体化させるとともに、それ以外の再編税制を移転資産に対する支配の継続ではなく、株主による投資の継続の観点から税制適格要件を組み直すことを検討すべきであるとも考えられるが、立法論としての検討になるため、いずれ研究を重ねたうえで公表したいと考えている。   3 事業規模要件 通算前事業と親法人事業(通算前事業と関連する事業に限る)のそれぞれの売上金額、従業者の数又はこれらの準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと。   4 事業規模継続要件 通算前事業(親法人事業と関連する事業に限る)が通算法人と当該通算法人に係る通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった時(※3、4)から通算承認の効力が生じた日まで継続して行われており、かつ、当該最後に支配関係を有することとなった時と当該通算承認の効力が生じた日における当該通算前事業の規模(事業規模要件の基礎とした指標に係るものに限る)の割合がおおむね2倍を超えないこと。 (※3) 当該通算法人又は当該通算法人との間に完全支配関係がある法人(以下、「通算法人等」という)が当該最後に支配関係を有することとなった時から通算承認の効力が生じた日の前日までの間に適格合併、適格分割又は適格現物出資(以下、「適格合併等」という)により当該通算法人等との間に完全支配関係がない法人から通算前事業の全部又は一部の移転を受けている場合には、当該適格合併等の時。 (※4) 通算前事業が通算承認の効力が生じた日の直前において当該通算法人との間に完全支配関係がある法人の事業であったとしても、通算法人と当該通算法人に係る通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった時により判定を行う。 このように、事業規模継続要件は通算前事業に対してのみ課され、親法人事業に対しては課されない。   5 特定役員継続要件 通算承認の効力が生じた日の前日の通算前事業を行う法人の特定役員である者のすべてが通算完全支配関係を有することとなったことに伴って退任をするものでないこと。 なお、特定役員とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいい、通算法人が当該通算法人に係る通算親法人との間に最後に支配関係があることとなった日前(※5)において当該通算前事業を行う法人の役員又は当該これらに準ずる者(同日において当該法人の経営に従事していた者に限る)であった者に限られる。 (※5) 当該支配関係が当該通算前事業を行う法人又は親法人事業を行う法人の設立により生じたものである場合には、同日。   6 本連載のまとめ 本連載では、組織再編成・資本等取引の税務についての最近のトピックについて解説を行った。 第1回で解説した特定関係子法人から受けた配当等の額に係る特例については、国内完結型の取引であっても租税回避が行われることは容易に予想できることから、立法上の再検討が必要になると思われる。 第2回及び第3回で解説した持分会社については、現行法上、合同会社に対する組織再編成・資本等取引に対して十分に配慮した規定になっておらず、平成17年改正前商法の時代の考え方がそのまま維持されている。実務上、合同会社に対する組織再編成・資本等取引はミスが生じやすい論点であるといえる。 第9回及び第10回で解説したグループ通算制度については、組織再編税制との整合性を意識した結果、理論的におかしなところが生じているということがいえる。立法論になってしまうが、いずれは組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の抜本的な見直しが必要になると考えられる。 そのほか、第4回から第8回で解説した内容については、あまり書籍で触れられることが多くないことから、実務に遭遇した場合には、参考にしていただけると幸いである。 (連載了)

#No. 471(掲載号)
#佐藤 信祐
2022/05/26

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例110(相続税)】 「宅地の分割から4ヶ月超経過後に更正の請求を行ったため、「小規模宅地等の特例」が認められず、「小規模宅地等の特例」により減額できた税額につき損害賠償請求を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例110(相続税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4①) 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続開始の直前において、被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた特例対象宅地等がある場合には、相続人が取得した全ての特例対象宅地等のうち、相続人が選択した特例対象宅地等については、次の区分に応じ限度面積要件を満たす小規模宅地等に限り、一定割合の評価減が受けられる。 ◆申告期限から3年以内に分割された場合(措法69の4④) 「小規模宅地等の特例」は申告期限までに分割されていない特例対象宅地等については適用しない。ただし、申告書提出時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、申告期限から3年以内に分割された場合には適用できる。 ◆未分割であることにつきやむを得ない事情がある場合(措法69の4④) 申告期限から3年以内に当該特例対象宅地等が分割されなかったことにつき、当該相続に関し訴えの提起がされたことその他やむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなった日の翌日から4ヶ月以内に分割された場合には「小規模宅地等の特例」は適用できる。 ◆国税通則法における更正の請求事由の場合(通則法23①) 申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正の請求をすることができる。 ◆更正の請求の特則(相法32) 相続税申告書を提出した者が、未分割遺産に対する課税の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分に従って課税価格が計算されていた場合において、その後未分割遺産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分に従って計算された課税価格と異なることとなったことにより当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき更正の請求をすることができる。 ◆申告書の提出期限後に分割された特例対象宅地等について特例の適用を受ける場合(措通69の4-26) 期限内申告書の提出期限後に特例対象宅地等が分割された場合には、当該分割された日において他に分割されていない特例対象宅地等があるときであっても、当該分割された特例対象宅地等について、「小規模宅地等の特例」の適用を受けるために更正の請求を行うことができるのは、当該分割された日の翌日から4ヶ月以内に限られており、当該期間経過後において当該分割された特例対象宅地等について更正の請求をすることはできない。       (了)

#No. 471(掲載号)
#齋藤 和助
2022/05/26

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第38回】「3年超の特定貸付事業の判定(貸付事業用宅地等の判定)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第38回】 「3年超の特定貸付事業の判定 (貸付事業用宅地等の判定)」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は令和4年5月18日に相続が発生し、その所有するAマンション、Bマンション、C宅地を配偶者である乙が相続しました。乙は甲と生計を一にする親族に該当します。 不動産の利用状況は、下記のとおりです。 平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く)」が除かれることになりましたが、上記不動産は、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当し、かつ、相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていないため、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の対象にならないと考えていいでしょうか。 [A] Aマンション及びBマンションの敷地は、被相続人が相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた場合の被相続人の貸付事業の用に供されていた敷地に該当しますので、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の対象となります。C宅地は、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当し、かつ、乙が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていないため、特例の適用を受けることができません。 なお、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の判定について詳しくは、本連載【第37回】で解説しています。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 貸付事業用宅地等の意義 貸付事業用宅地等とは、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(不動産貸付業その他駐⾞場業、⾃転⾞駐⾞場業及び準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)とする。以下「貸付事業」という)の⽤に供されていた宅地等で、次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たすその被相続⼈の親族が相続⼜は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業⽤宅地等を除く)をいいます。 なお、平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされました。ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち、準事業以外のものをいう)を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③四、措令40の2①⑦⑲)。   2 特定貸付事業の判定の留意点 相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち、準事業以外のものをいう)を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、貸付事業用宅地等の対象から除外されませんが、その判定については、次の点に留意する必要があります。 (1) 準事業の範囲 特定貸付事業から準事業が除かれていますが、貸付事業、特定貸付事業、準事業について整理すると下記の通りとなります。 〈貸付事業、準事業、特定貸付事業の整理〉 被相続人等の貸付事業が準事業に該当するかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で当該貸付事業が行われていたかどうかにより判定することとされていますが、具体的には、次に掲げる貸付事業の区分に応じて、下記の通り判定を行うことになります(措通69の4-24の4、所基通27-2)。 判断基準については、所得税における事業的規模か事業的規模以外かの判断に準じて行うことになります。準事業に該当するかどうかの具体的な判定については、次回(【第39回】)解説します。 (2) 判定単位と特定貸付事業の期間 判定単位は、被相続人の貸付事業、生計一親族の貸付事業ごと(被相続人の生計一親族が2人以上ある場合には、それぞれの生計一親族の貸付事業ごと)に判定を行い、期間は相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていたかどうかを確認することになります(措通69の4-24の6)。なお、本連載【第10回】で解説した特定事業用宅地等における特定事業の判定は、特定宅地等ごとに行いますので、判定単位の違いは整理しておきましょう。 判定単位と期間を図式化すると下記の通りとなります。 上記の3年超の特定貸付事業の判定は、被相続人の貸付事業、生計一親族の貸付事業ごとに行いますので、相続開始前3年以内に生計一親族の貸付事業の用に供された宅地等があるときは、その生計一親族が、相続開始の日まで3年超の特定貸付事業を行っていた場合には、その3年以内の貸付事業用宅地等は特例の対象となりますが、その生計一親族が3年以下の特定貸付事業を行っていた場合には、特例の対象になりません。 また、被相続人が相続開始の日から起算して3年以内に貸付事業を追加したことにより、事業的規模以外から事業的規模になった場合には、被相続人は3年超の特定貸付事業を行っていなかったことになります。同様に被相続人が相続開始前3年以内に貸付事業の一部の不動産を売却したことにより、被相続人の貸付事業が事業的規模から事業的規模以外になった場合には、特定貸付事業を相続開始の日まで継続していなかったことになりますので、相続開始前3年以内に新たに被相続人の貸付事業の用に供された宅地等がある場合には、その宅地等は特例の対象にはならないことになります。 ただし、特定貸付事業を⾏っていた被相続⼈(以下「第⼀次相続⼈」という)が、その第⼀次相続⼈の死亡に係る相続開始前3年以内に相続⼜は遺贈(以下「第⼀次相続」という)によりその第⼀次相続に係る被相続⼈の特定貸付事業の⽤に供されていた宅地等を取得していた場合には、その第⼀次相続⼈の特定貸付事業の⽤に供されていた宅地等に係る特例の適用については、その第⼀次相続に係る被相続⼈がその第⼀次相続があった⽇まで引き続き特定貸付事業を⾏っていた期間は、その第⼀次相続⼈が特定貸付事業を⾏っていた期間に該当するものとみなされます(措令40の2㉑)。これを図式化すると下記の通りとなります。   3 本問への当てはめ 被相続人である甲が相続開始の日まで3年超の特定貸付事業を行っていたかどうか、生計一親族である乙が相続開始の日まで3年超の特定貸付事業を行っていたかどうかをそれぞれ判定する必要があります。 まず甲は、父の特定貸付事業の用に供されていたAマンションの敷地を相続していますので、甲の父が特定貸付事業を行っていた期間は、甲が行っていたものとみなして合算することになります。そのため甲は、相続開始の日まで3年超の特定貸付事業を行っていたことになります。したがって、甲の貸付事業の用に供されていたAマンション敷地及びBマンション敷地は、特例の対象になります。 次に生計一親族である乙の貸付事業の判定ですが、乙は特定貸付事業を行っていますが、相続開始の日まで3年以下となりますので、3年超の特定貸付事業は行っていないことになります。したがって、C宅地は、3年以内に貸付事業の用に供された宅地等であり、かつ、乙が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていないため、特例の適用を受けることができません。   ★実務上のポイント★ 貸付事業が3年超の特定貸付事業を継続的に行っていたかどうかを被相続人、生計一親族ごとに確認することが重要となります。   (了)

#No. 471(掲載号)
#柴田 健次
2022/05/26

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第17回】「区分所有された複合ビルについて、住宅用地に対する課税標準の特例の適用は、建物全体を1個の家屋として居住部分の割合を算定するか、各専有部分自体を1個の家屋として算定するかで争われた事案」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第17回】 「区分所有された複合ビルについて、住宅用地に対する課税標準の特例の適用は、建物全体を1個の家屋として居住部分の割合を算定するか、各専有部分自体を1個の家屋として算定するかで争われた事案」   税理士 菅野 真美   土地や家屋を課税標準とする固定資産税は、その年1月1日に土地や家屋を所有している者に対して、土地や家屋の価格を課税標準として、市町村(東京都特別区の場合は東京都)が賦課決定するものである(地方税法第342条、第343条、第359条)。原則的に、土地や家屋の課税標準は3年間固定され、土地については、急激な固定資産税の納税負担の増加を緩和させるために負担調整措置が設けられている。 さらに住宅用地については、課税標準の特例という軽減措置が設けられている。すなわち、小規模住宅用地(住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分)については、価格の6分の1相当額が固定資産税の課税標準に、小規模住宅用地以外の住宅用地については、価格の3分の1相当額が固定資産税の課税標準となる。 それでは、「住宅用地とは何か」という点につき確認する。まず、土地が専用住宅の敷地の用に供されているか、併用住宅の敷地の用に供されているかに区分される。専用住宅(もっぱら人の居住の用に供する家屋)の敷地は、原則的には、その上にある家屋の床面積の10倍を超えている場合は、10倍までの土地が住宅用地となれる。 併用住宅(一部を人の居住の用に供する家屋)の敷地の用に供されている土地は、原則的には、家屋の種類に応じて区分し、それぞれの家屋のうち居住部分の割合に応じた率を乗じた面積(土地の面積が、その上にある家屋の床面積の10倍を超えている場合は、10倍までの土地)が住宅用地として軽減対象となる(地方税法第349条の3の2、地方税法施行令第52条の11)。 (※) 居住部分の割合 = 一部を人の居住の用に供する家屋のうち居住の用に供する部分の床面積/家屋の床面積 併用住宅の居住部分の割合の算式における家屋の床面積や居住部分の床面積は、家屋全体で判断するのだろうか。併用住宅の所有者が1人である場合は、全体の床面積のうち居住部分の床面積で判定するのは合理的である。それでは、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)の適用のある家屋についてはどうだろうか。 たとえば、区分所有法の適用された家屋に、居住用の専有部分と、居住用以外の専有部分があるとする。そして、居住用の専有部分のみを所有している人がいたとする。この所有者の有する敷地について、住宅用地の課税標準の適用のための居住部分の割合を判定するのは、その者の有する専有部分の床面積を基準にするのか、それとも家屋全体の床面積を基準にするのか。 このように区分所有法の適用された家屋について、住宅用地に対する課税標準の特例の算定基礎となる居住部分の割合を算出するための「家屋」が何に基づくのかで争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か 原告であるXは区分所有法の適用のある複合ビル(店舗、駐車場、住宅からなる)の敷地である土地の共有持分2,919/1,000,000(ただし居住用の床面積に対応する共有持分は1,493/1,000,000)を有していた。 本件建物の全床面積に対応する居住部分の床面積の割合は約13%であり25%未満だから、Xの平成16年度の固定資産税・都市計画税については、住宅用地に対する課税標準の特例を適用せずに賦課処分を行った。そこでこの処分に不服なXが平成16年10月28日に訴えを起こした。   ▷何が争点か この事案の争点は、住宅用地に対する課税標準の特例の算定基礎となる「家屋」は、建物全体を1個の家屋とみるか、区分所有権の目的である各専有部分を1個の家屋とみるかである。   ▷Xの主張は 地裁や高裁でのXの主張を簡単にまとめると、次のようなものである。   ▷裁判所の判断は 地裁と高裁のいずれもXの請求を棄却した。両裁判所の判決の要旨は次のようなものである。 *   *   * このようにしてXの請求は退けられた。区分所有法の適用のある家屋で商業用が4分の3以上であり、残りが居住用であるようなものは、実際問題、かなり少ないのではないか。だから、住宅用地に対する課税標準の特例の適用について、家屋全体の床面積を基準としても苦情が殺到することもなく、課税の公平と徴税コストのバランスがとれているのだろう。 (了)

#No. 471(掲載号)
#菅野 真美
2022/05/26

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第79回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第79回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     〈Q3〉 出荷基準と引渡基準の関係 法人税法の収益の計上時期の原則的ルールは、法人税法22条の2第1項の引渡基準であると理解しているが、関連する書籍に目を通すと、「出荷基準は引渡基準に含まれる」という見解と「出荷基準は引渡基準に含まれない」という見解がある。いずれの見解が妥当であるか。 〈A3〉 「出荷基準は引渡基準に含まれない」という見解には一定の理由があるが、(国税庁の立場でもある)「出荷基準は引渡基準に含まれる」という見解が妥当でないともいいきれない。 もっとも、個別の事例においては、出荷基準や引渡基準といった抽象的な概念ではなく、その法人における個々の「出荷した日」が、法人税法22条の2第1項の目的物の「引渡しの日」に該当するか否かが問題となる可能性がある。 また、商品を出荷した日をもって常に収益計上の日として認められるわけではない。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 収益認識会計基準と出荷基準 収益認識会計基準は、いわば「顧客」目線を重視した履行義務充足基準を採用している。 つまり、一時点で充足される履行義務については、資産に対する支配を顧客に移転することにより、その履行義務が充足される時に、収益を認識することとしている(基準39、40)。出荷基準はこの履行義務充足基準に必ずしも適合しない。 ただし、これまでの実務慣行に配慮して、例えば、顧客による検収時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時や着荷時などに収益を認識することも認められる(指針98、171)。   2 法人税法と出荷基準 法人税法22条の2第1項は、資産の販売等に係る収益の額は、別段の定めがあるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する、としている。すなわち、収益の計上時期の原則的な基準として、資産の場合には引渡基準、役務提供の場合には役務提供基準を採用している。 このうちの引渡基準に出荷基準が含まれるかという点は研究者や実務家等の間で見解が分かれており、出荷基準は法人税法22条の2第2項の近接日基準に含まれるという見解もある。相手方が商品を受領していないことを重視すると、出荷をもって引渡しといえるかについては疑問の余地が出てくる。 よって、「出荷基準は引渡基準に含まれない」という見解には一定の理由がある。 法人税基本通達2-1-2は、次のとおり、「出荷基準は引渡基準に含まれる」という立場であることを明らかにしている。 この立場は一定の妥当性を有することを確認してみたい。 まず、次のような理解がありうる。 これらのことを前提とすると、出荷基準は同項の引渡基準の範疇に含まれるという解釈の合理性を認めることは可能である。 立法者ないし立案担当者が出荷基準を引渡基準の範疇に含める既存通達の存在や蓄積されてきた実務慣行(商慣行)を無視して、法人税法上の収益計上時期を決する原則的な規定の法文(法人税法22条の2第1項であり、2項ではない)において引渡基準を明確化したと考えることも難しい。 このように考えると、実務や裁判例を通じて、今後、法人税法上の引渡しには商品の出荷ないし出荷基準も含まれるという理解が定着すると考える。 他方で、引渡概念が法律(法人税法)に明文化された以上、それは、より法的なものへと純化していく可能性は否めない。この場合の法とは法人税法を指すため、同法の引渡しは民法上の引渡概念(占有権の移転ないし目的物の占有の移転)を基層に置きつつも、法人税法固有の意義を帯びる。 もっとも、当事者間において出荷がどのような法的意味を有するか、所有権の移転時期や危険負担の問題などにどのような影響を与えるかという点は個別の契約内容や事情によるという理解を前提とすると、一律に出荷に係る課税上の取扱いを断定することは難しい側面もある。 稀なケースかもしれないが、出荷した日が、棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等を総合的に考慮した結果、引渡しの日として合理的であると認められないこともありうるのではないか。 もちろん、近接日基準による収益計上を定める法人税法22条の2第2項は、引渡基準を定める1項に優先して適用されるので、会計上、引渡基準と異なる近接日基準による収益計上をしているなど2項の適用があるときは、法人税法上、1項に基づいて出荷基準による収益計上を行うことは認められない。 さらにいえば、場合によっては上記通達の出荷の意義を狭義に解したり、特定の出荷を法人税法22条の2第2項の近接日基準の範疇で捉えたりするようなこともあるかもしれない。このような意味で、あるいは上記通達との関係において、商品を出荷した日をもって常に収益計上の日として認められるわけではない可能性があることに注意を要する。 (了)

#No. 471(掲載号)
#泉 絢也
2022/05/26

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第58回】「金融商品のレベル別の時価開示」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第58回】 「金融商品のレベル別の時価開示」   史彩監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 2019年7月4日に企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準(以下、「時価会計基準」という)」及び企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(以下、「時価適用指針」という)」が公表され、また、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(以下、「時価開示適用指針」という)」が改正された。当該公表及び改正により、2022年3月期より金融商品のレベル別の時価開示が求められている。 今回は、金融商品のレベル別の時価開示について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 まず、「現金及び短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するもの」、「非上場株式、投資信託、組合等への出資」「それ以外の金融商品」の3つに分類する。 (1) 現金及び短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するもの 「現金及び短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するもの」は、時価開示が不要のため(時価開示適用指針4)、【STEP2】及び【STEP3】の検討は不要である。なお、「金融商品の時価等に関する事項」の注記で、以下の注記を行うことが考えられる。 (2) 非上場株式、投資信託、組合等への出資 「非上場株式、投資信託、組合等への出資」については、【STEP3】を検討する。 (3) それ以外の金融商品 「それ以外の金融商品」については、「貸借対照表計上額(BS価額)が時価の場合」と、「貸借対照表計上額(BS価額)は取得価額で注記のみ時価の場合」で注記内容が異なる場合があるため、金融商品ごとに貸借対照表価額(BS価額)を時価で計上しているか、貸借対照表価額(BS価額)は取得価額で注記のみ時価であるかを分類する。 また、時価はレベル1から3のどれに該当するかにより、注記内容が異なるため、時価がそれぞれのどれに当てはまるかを分類する。分類後、【STEP2】を検討する。 〈レベル1からレベル3のインプット(時価会計基準11)〉 〈例示〉 (※1) 各社の時価の算定方法により、レベルは異なる場合がある。 (※2) 総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業(以下、「企業集団等」という)以外の企業集団等(つまり、事業会社)においては、取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、の第三者が客観的に信頼性のある者で企業集団等から独立した者であり、公表されているインプットの契約時からの推移と入手した相場価格との間に明らかな不整合はないと認められ、かつ、レベル2の時価に属すると判断される場合には、以下のデリバティブ取引は、当該第三者から入手した相場価格を時価とみなすことができる(時価適用指針24)。 なお、オプションを含むような取引は、利用されるボラティリティの種類によってはレベル3の時価に分類されると考えられるため、上記の適用対象外となる。そのため、取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価会計基準に従って算定されたものであると判断できる場合には、当該価格を時価の算定に用いることができる(時価適用指針18)。 「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」として、以下の注記が必要である。連結財務諸表において注記している場合は、個別財務諸表においては、注記を省略することができる(時価開示適用指針5-2)。なお、適用初年度においては、比較情報の注記は、不要である(時価開示適用指針7-4)。 (※1) 時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理する。この場合であっても、会計上の見積り変更の注記は不要で、当該注記のみで足りる(時価開示適用指針39-9)。 (※2) 例えば、過去の取引価格又は第三者から入手した価格を調整せずに使用している場合をいう(時価開示適用指針5-2(4)①)。 (※3) 期首残高から期末残高への調整表を作成する際は、以下を区別して注記する(時価開示適用指針5-2(4)②、39-11、39-12)。 なお、期首残高から期末残高への調整表は、基本的に表形式により注記することが想定されているが、時価がレベル3の時価に分類される金融資産及び金融負債の期首残高から期末残高までの変動の大部分が単一の変動理由によって説明できる場合には、一般的な重要性の判断に基づき、表形式によらない注記も可能である(時価適用指針39-11)。 (※4) 企業の評価プロセスとは、例えば、企業における評価の方針及び手続の決定方法や各期の時価の変動の分析方法等をいう(時価開示適用指針5-2(4)③)。 (※5) 観察できないインプットと他の観察できないインプットとの間に相関関係がある場合、当該相関関係の内容及び当該相関関係を前提とすると時価に対する影響が異なる可能性があるかどうかに関する説明を注記する(時価開示適用指針5-2(4)④)。 【事例】日本通運(株)(2021年12月期 有価証券報告書) (1) 非上場株式 市場価格のない株式等(株式、出資金等)については、時価を注記せず、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を「金融商品の時価等に関する事項」の注記に併せて記載する(時価開示適用指針5)。 (2) 投資信託 投資信託の時価は、取引所の終値若しくは気配値又は業界団体が公表する基準価格が存在する場合には当該価格とし、当該価格が存在しない場合には投資信託委託会社が公表する基準価格、ブローカーから入手する評価価格又は情報ベンダーから入手する評価価格とすることができる。 また、投資信託の時価の注記については、以下の経過措置(2022年3月期のみ)が設けられている(時価適用指針26)。計算書類では、必ずしも以下の注記は求められていないが、重要性を考慮して注記を検討することが考えられる。 【事例】(株)三井住友フィナンシャルグループ(2021年3月期 有価証券報告書) (3) 組合等への出資 組合等への出資の時価の注記は、以下のとおりである(時価適用指針27)。計算書類では、必ずしも以下の注記は求められていないが、重要性を考慮して注記を検討することが考えられる。 *  *  * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 471(掲載号)
#西田 友洋
2022/05/26

〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第4回】「DXの推進は内部監査・内部統制の業務にどのような影響をもたらすのか」

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第4回】 「DXの推進は内部監査・内部統制の業務に どのような影響をもたらすのか」   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 ビジネス界で進むDX 以下は、データとデジタル技術を駆使して新たな価値を見出すDXの好例である。   2 社内で進むDX (1) リアル業務のデジタル化 テレワークが全面的に導入された企業では、対面の打ち合わせは、オンライン会議に変わった。紙媒体の決裁文書、伝票や帳票をはじめとする稟議文書は、全てPDFを使ったデジタルデータに変換され、メールで決裁に回される流れが、今や常態化している。 このような状況では、内部監査と内部統制の業務も同様に変化せざるを得ない。評価や監査の対象となるエビデンスや文書は、リアルから映像かPDFに変換され、精査されることとなる。これまで行ってきたリアルの業務をデジタル化する動きは、コロナ禍で本格化し、より一層進んでいる。 (2) 日常業務に見るDX リアルの業務情報をデジタル情報に転換するに留まらず、紙媒体の帳票や証憑による情報を、初めからシステムに入力し、加工、処理する段階をデジタルで行う、これが新たに社内で進むDXである。 例えば、紙媒体の請求書を手作業で作成して承認、押印したものをPDFに加工することが、これまで行われていたデジタル化である。 これに対し、DX化の典型例は以下の通りである。システムに登録された顧客リストによって請求書が自動作成され、顧客のアドレスに電子データとして自動送信される。また社内の稟議は、決裁システム上で担当者が作成し、手続上の権限者はシステム上で承認した後、最終的に決裁履歴はデータで保管される。業務に関する情報は、稟議書など手に取れる書類ではなく、全て電子情報としてシステムに落とし込まれる。そのため上席による決裁を求めてわざわざ出社する必要はなくなる。 クラウドサービスを上手く活用した、こうした試みがさかんに行われている。 (3) DXを後押しする法改正 デジタル化には取り組んでいても、システムの業務基盤が十分でない、IT投資に過度の負担感があるなどの理由から、日常業務のDXにまで手が回らない会社もあり、取組みの程度にはばらつきがある。 しかし、昨今の電子帳簿保存法の改正のように、リアル情報を単に電子化するだけでなく、国が主体となってDXの趨勢を取り入れる動きも目立つ。 【電子帳簿保存法の改正】 令和3年度の税制改正により、紙媒体による保存が義務づけられていた国税関係帳簿が、電磁的記録で保存できるようになった。改正前は、電磁的記録により保存するためには事前に税務署長の承認を得る必要があったが、改正により不要となった。 電磁的記録による保存方式は、主に以下の3種類に区分できる。   3 内部監査や内部統制の変化 日常業務のDX化により、従来の内部監査や内部統制の姿は大きく変化する。内部監査や内部統制の主役は、紙媒体の伝票や証憑等の情報から、システムに保管される電子データに取って代わるだろう。 (1) 情報リテラシーと情報セキュリティ 内部監査や内部統制を円滑に進めるために、情報リテラシーは必須である。リアルの伝票や証憑を使う評価や監査の時代は、今や去りつつある。システムの構成を理解し、どこにいかなる電子情報があり、評価や監査の対象としてどう解釈するか、ITに関わる専門的な知識が試される。 更に、社内の電子データのセキュリティは企業のアキレス腱となる。不当なアプローチやウイルス感染等による改ざん、漏えいに対しても十分な情報防衛が必要である。 (2) 監査アプローチの変化 コロナ禍で常態化したオンライン監査では、時間に制約がある。そのため、監査前のデータ分析により、あらかじめ異常値を探って監査ポイントを絞り込むアプローチが求められている。 DX化が進めば、こうした傾向は一層色濃くなる。データ分析専用ソフトを使う会社がある一方で、エクセル機能をフル活用して分析を試みる会社も目立つ。いまや監査部門では、監査に着手するメンバーを支援するために、データ支援部門を置くところが多くなっている。データ管理の徹底が進めば、サンプル抽出に基づく試査ではなく、全件を対象とした監査が実施できるようになる。 (3) 内部統制評価・監査の変化 DXの浸透によって、内部統制評価・監査のアプローチが変わる。プロセスの焦点となるキーコントロールを再検討したり、評価や監査の対象である帳票や証憑のサンプル数も劇的に変わったりする可能性がある。 ① ビジネスプロセスの焦点が変わる 売上プロセスを例にとると、システムに売上を入力する行為や紙媒体の請求書を承認する行為が、収益認識の大切なポイントであり、キーコントロールである。しかし、DXが進むと、収益認識の大切なポイントが変わることが想定される。 例えば、納品の完了と同時に、システム上の顧客リストに従い請求書が自動生成され、顧客にデータが転送されるようになると、正確な収益認識のための大切なポイントは異なってくる。つまり、売上計上や紙媒体の請求書の承認に代わり、顧客リストの正確な作成や納品の完了を誤りなくシステムに入力する行為こそが、収益認識上とても重要になり、キーコントロールになるはずである。こうしてプロセスの焦点が移り変わることになる。 ② 評価・監査に必要なサンプル数が変わる IT全般統制でシステムの有効性さえきちんと評価できれば、自動化統制を評価・監査する時に求められるサンプル数は1件である。DXが進めば、自動化による統制を行う場面がますます増え、評価や監査も効率化できると考えられる。 他方でデータの管理の仕方によっては、容易に全件を評価することも可能になる。例えば、顧客からの注文書を承認するのではなく、システムを使って権限者が承認入力するというキーコントロールがある場合、管理対象は紙媒体による注文書ではなくデータなので、膨大な注文書からサンプルを抽出する試査でなく、システム上の全件データを対象に検証することができる。 (了)

#No. 471(掲載号)
#打田 昌行
2022/05/26

不動産の電子契約化に関する改正ポイント 【第1回】「不動産業界における電子化の現況と改正の概要」

不動産の電子契約化に関する改正ポイント 【第1回】 「不動産業界における電子化の現況と改正の概要」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 司法書士 奥村 圭祐    1 はじめに 令和3年5月12日、社会のデジタル化を促進するために関連する法律の改正を行う「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「デジタル改革法」という)が成立し、同月19日に公布された。デジタル改革法では、個人情報の取扱いルールの整備や、マイナンバーを活用した行政手続の効率化、各種の手続において電子化を進めるための押印・書面交付義務の廃止などを改正の内容としている。 原則的な施行日は令和3年9月1日とされているが、不動産契約等の電子化を可能とする宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)及び借地借家法の改正に関する部分は令和4年5月18日に施行された。本改正は不動産会社や不動産オーナーに与える影響も大きく、顧問を務める税理士・公認会計士としても、内容を把握しておく必要があるだろう。 本稿は、デジタル改革法による宅建業法及び借地借家法の改正を中心に、税理士等が知っておくべきポイントについて、できるだけ簡潔に解説を試みるものである。 2 不動産業界における電子化の取組み 不動産業界では、トラブルを防止する趣旨から、宅建業法等により重要事項説明書や売買契約書などの書面の作成や押印が義務付けられてきた。こうした厳格な取組みが不動産業界の健全性の向上と、取引の安全に寄与してきたことは確かであるといえる。一方、不動産取引の現場では、生活にITの活用が浸透していくなかで、変化に対応していくため、書面や押印を前提とした規律を見直すべきではないかという機運が高まっていた。 例えば、東京在住の会社員が大阪に転勤になり、大阪の賃貸物件を探す場合、インターネットを利用して探すことが大半だと思われる。こうした場合に、関連する手続をインターネット上で完結できれば、顧客の利便性が格段に向上することになる。このような時代の変化を背景に、不動産業界では様々な取組みを進めてきた。   3 IT重説の導入 不動産会社などの宅建業を営む者は、不動産の売買や賃貸の媒介等を行うに際して、重要事項説明書を交付して説明を行う必要があるとされている(宅建業法第35条)。重要事項の説明は、対面によることが原則とされていた。 そこで、不動産業界ではまず対面原則を見直し、オンライン上での重要事項の説明(IT重説)を可能とするために、平成27年から社会実験を実施してきた。賃貸取引に関するIT重説については平成29年10月から、売買取引に関するIT重説については令和3年3月から本格運用されている。 IT重説はあくまで重要事項の「説明」をオンライン上で可能とするものであり、別途書面として「重要事項説明書」を作成し、顧客に交付する必要があった。オンラインによる不動産の取引を促進させるためには、こうした書面の交付や押印義務を見直す必要があり、今回の改正で、不動産取引のオンライン化が促進されることとなった。   4 デジタル改革法による改正点 デジタル改革法による主な改正点について、宅建業法に関するものと借地借家法に関するものに分けてまとめると、次の通りである。 【宅建業法の主な改正点】 (※1) 実務上、売買契約書や賃貸借契約書に宅建業法第37条で求められる情報を記載している。 (※2) 書面による場合でも押印は不要。 (※3) 書面により媒介契約書を作成した場合には、記名押印は必要となる。 重要事項説明書などを電磁的方法によって作成し提供する場合には、交付を受ける相手方の承諾が必要である。具体的な提供方法や承諾を得る方法については、電子メールやウェブページ上でのやりとりによるなど、国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」において詳細が示されている。 【借地借家法の主な改正点】 借地借家法の改正は、一般の不動産オーナーにも直接影響が及ぶ改正である。一般定期借地契約など、書面によることが必要とされてきた契約が、電子契約サービスなどの電磁的方法により行うことが可能となった。電磁的方法によることで契約書に貼付していた印紙代の節約にもつながるため、負担が大きい不動産オーナーから相談が寄せられることも考えられる。 定期建物賃貸借契約に際して求められる事前説明書の交付については、宅建業法の各書面と同様に事前の承諾を得て、電磁的方法により提供することができる。 なお、事業用定期借地権(借地借家法第23条)の契約については、今回の改正の対象ではないため、従来通り「公正証書」により作成する必要がある。 次回は不動産契約の電子化を進めていくためのポイント等について解説を行う。 (了)

#No. 471(掲載号)
#北詰 健太郎、奥村 圭祐
2022/05/26

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第6回】「新設された所有不動産記録証明制度の概要と注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第6回】 「新設された所有不動産記録証明制度の概要と注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 新たに創設された「所有不動産記録証明制度」について教えてください。 【A】 相続登記の漏れを防止する観点から、被相続人が所有権の登記名義人となっている不動産を相続人が一覧的に確認することができる所有不動産記録証明制度が創設された。 -《解説》- 1 所有不動産記録証明制度の概要 所有者不明土地の「発生の予防」のためには、相続登記申請の手続き負担を軽減する必要がある。この軽減のためにはそもそも自身(又は自身の被相続人)が所有している不動産を正確に把握する仕組みが求められる。そこで、所有不動産の情報を把握しやすくすることで、相続登記の漏れを防止し、相続登記の申請義務の実効性を確保するために、「所有不動産記録証明制度」が創設されることとなった(不動産登記法第119条の2)。 具体的な内容は以下のとおりである。 〈改正前後でどう変わるか〉   2 制度創設後の不動産の把握漏れ防止のための名寄帳取得の意義 相続税の申告実務に携わる税理士は、相続対象の不動産の把握漏れを防ぐために名寄帳を取得することが多いと思われる。今回の所有不動産記録証明制度の創設により名寄帳取得の意義は薄れるのだろうか。 結論としては、名寄帳を取得する意義は当分薄れないだろう。しばらくの間、名寄帳と所有不動産記録証明制度を共に取得することをお勧めする。 なぜなら、本稿公開時点では、所有不動産記録証明制度の対象に、表題部所有者が含まれず、将来の課題とされているからである。そもそも、自己資金のみで建築した建物は、表題部=表示に関する登記のみで、権利部=権利に関する登記まではなされていないことが多い。そうはいっても、表題部のみの建物も財産的価値を持ち、当然ながら相続の対象となる。この表題部のみの建物は所有不動産記録証明制度の対象に本稿公開時点では含まれていないのである。そのため、表題部のみの建物が相続財産から漏れないようにするには、依然として名寄帳の取得が必要となる。 また、登記簿に記録されている所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の更新がされていない場合、検索結果として抽出されず所有不動産記録証明制度から漏れてしまう。このように所有不動産記録証明制度の網羅性に関しては技術的な限界がある。この観点からも、不動産の把握漏れを防ぐために名寄帳取得の意義は存在する。 〈表題部のみの登記事項証明書の例〉 (※) 平成28年6月8日付法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」より抜粋。 (了)

#No. 471(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/05/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例71】株式会社吉野家ホールディングス 「当社役員の解任に関するお知らせ」 (2022.4.19)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例71】 株式会社吉野家ホールディングス 「当社役員の解任に関するお知らせ」 (2022.4.19)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社吉野家ホールディングス(以下「吉野家ホールディングス」という)が2022年4月19日に開示した「当社役員の解任に関するお知らせ」である。取締役会において同社執行役員および子会社である株式会社吉野家常務取締役の伊東正明氏の取締役解任を決議したという内容だ。 解任の理由は、「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があったため」とされている。新聞などの報道によると(2022年4月19日付日本経済新聞など)外部の社会人向け講座で女性蔑視の発言をしたとのことである(恥ずかしながら、筆者は「生娘」という言葉を知らなかった。おそらく学校では習わなかったと思うし、使用する場面に遭遇したこともない)。 なお、「吉野家が取締役を解任」という報道を目にした際「取締役の解任は株主総会で行うので、実際は辞任してもらったのかな?」と思ったのだが、伊東氏は、吉野家ホールディングスではなく、同社の完全子会社である株式会社吉野家の取締役であった。   2 今後の対応 吉野家ホールディングスは、今回の開示と同時に「役員報酬の減額に関するお知らせ」も開示している。「当社および当社子会社元役員の職務上著しく不適任な言動によってステークホルダーの皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことを重く受けとめ」、2022年の4月から6月までの3ヶ月間、代表取締役社長の固定報酬を30%減額するとしている。 また、今回の開示には、今後の対応について次のように記載されている。 「コンプライアンス研修」とは、どのような内容なのだろうか。「不適切な発言をしないように気を付けましょう」といった研修なのだろうか。発言に気を付けることも必要だとは思うが、果たしてそれだけでよいのだろうか。また、そうした研修を行うとしても、「当社及び当社グループ役員」に対してだけでよいのだろうか。   3 発言の背景 吉野家ホールディングスの役員構成は、取締役が5名、監査役が4名だが、そのうち女性は社外取締役の明石伸子氏1名のみである。社内出身の女性役員はゼロなので、おそらく同社には女性の管理職も少ないように思われる。 今回役員を解任された方の不適切な発言は、本人の個人的な資質によるものかもしれない。しかし、同社の現状(おそらく女性が活躍できていない状況)を見ると、もしかするとそうした不適切な発言が許容される雰囲気があったのではないかと思われてしまう。 なお、同社の有価証券報告書には、ただ1人の女性役員である明石氏について、「男女共同参画等の女性活躍推進を中心とした企業経営環境に関する深い見識を有しております」と記載されている(第64期有価証券報告書)。同氏は2019年5月に取締役に就任しているが、その「深い見識」は同社の経営に未だ活かされていないようである。   4 意識を変えるには 意識が変わらない限り、非公式な場では不適切な発言が繰り返されるだろう。ネット上にも、匿名で投稿された酷い表現があふれている。そのような環境に慣れてしまっていると、いくら発言に気を付けたとしても、ふとした拍子に不適切な表現が出てしまうだろう。 意識を変えるのは難しいが、意識が変わるように環境を変える努力は必要なはずである。吉野家ホールディングスは、今回の件への対応として、「コンプライアンス研修」を実施するだけでなく、もっと女性が活躍できる環境を整備するよう努める必要があるのではないだろうか。今後、そのための施策を考え、具体的な内容について開示した方がよいのではないだろうか。今回の開示では、「コンプライアンス研修」の内容すら分からない。 なお、2022年5月7日付の日本経済新聞に「資生堂、首位返り咲き 日経ウーマン『女性が活躍する会社』、上位管理職の層厚く」という記事があった。記事によると、「女性が活躍する会社」のランキングで資生堂が1位になったのだが、同社の女性管理職比率は2022年1月時点で37.3%だという。資生堂でさえ、管理職のうち女性は未だ3分の1に過ぎないというのは驚きである。 (了)

#No. 471(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/05/26
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