令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第8回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 (8) 別表添付及び書類保存要件 資産調整勘定等対応金額の加算措置は、次の別表添付及び書類保存要件を満たした場合に適用することができる。 ① 別表添付要件 つまり、通算終了事由が生じた時の直前に離脱法人の株式を有する通算法人のすべてで資産調整勘定等対応金額の計算に関する明細(別表)の添付が必要となる。 また、これは、離脱法人の株式ごとに、その離脱法人の株式を有する通算法人全体で加算措置の適用を任意に選択することができることを意味している。また、その場合、加算措置を適用しない方が有利となる通算グループ全体で負債調整勘定対応金額が計算される場合においても不適用の選択をすることが可能となる。 また、連結納税制度では、別表添付は、投資簿価修正の対象となる株式の発行法人で行うが、グループ通算制度では、投資簿価修正の対象となる株式の保有法人で行う。その点も連結納税制度との相違点となる。 なお、ここでいう「離脱法人の簿価純資産価額及び資産調整勘定等対応金額の計算に関する明細を記載した書類」は「通算終了事由が生じた他の通算法人の株式につき資産調整勘定対応金額等がある場合の簿価純資産価額とする金額の計算に関する計算書」となり、【第5回】の〈図表9〉のケースについて記載例を示すと以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ② 書類保存要件 (注) 企業会計においては、連結子会社化に際し子会社の個別財務諸表上の資産及び負債の評価換えが必要となるが、この際の価額は上記一号のロの価額に該当し、その評価方法等を記載した書類は上記一号のハに該当するものと考えられる([法人税等]令和4年度税制改正の解説299頁)。なお、上記一号のイの対象株式の取得の時における価額として合理的であると認められる価額であれば、上記イの対象株式の各取得の時においてその取得した法人が実際に算定した価額に限られるものではない([法人税等]令和4年度税制改正の解説299頁)。 上記の保存書類は、資産調整勘定対応金額等を計算するための根拠となる書類を意味している。そして、この加算措置を適用するためには、離脱法人の株式を有する通算法人のいずれかで上記の書類を保存しておけばよいこととなる。 しかし、実際のところ、保存書類の入手、つまり、時価純資産価額の計算が難しいケースが多々あるものと思われる。 具体的には、資産調整勘定等対応金額(時価純資産価額)を算定するためには、取得時の離脱法人の貸借対照表、勘定科目内訳明細書、法人税申告書(貸借対照表等)を基礎にして、それらに計上されている資産及び負債を取得時の時価で評価する必要がある。 しかし、帳簿書類の保存期間である7年(青色繰越欠損金額又は災害損失欠損金額が生じた事業年度は10年)よりも前に離脱法人の株式を取得した場合には、その取得時の貸借対照表等が保存されていないこともあるだろう。 また、仮に、取得時の貸借対照表等が保存されていたとしても、土地や有価証券等を当時の時価で評価することが困難なケースも容易に想像できる。例えば、離脱法人がその取得時に未上場株式を所有していた場合は、当時のその株式の株価算定を行う必要があるが、それが困難なケースも多いと思われる。 そのため、取得時が古ければ古いほど、時価純資産価額の算定を行うことが困難となるだろう。 また、通算孫法人については通算子法人で保存書類を用意することになるが、通算親法人がその通算子法人の株式を取得する前にその通算子法人が通算孫法人の株式を取得している場合には、その通算子法人で通算孫法人の時価純資産価額に係る保存書類を用意することができないケースも生じるだろう。 なお、本来、加算措置を適用するためには、離脱法人の株式の取得時ごとに、資産調整勘定対応金額等を計算する必要があり、上記の保存書類もその取得時ごとに用意する必要があり、いずれかの通算法人で書類を用意できない場合(=計算できない場合)やいずれかの取得時に書類を用意できない場合(=計算できない場合)は、すべての通算法人で、その離脱法人の株式に関する資産調整勘定等対応金額の加算措置を適用することができないこととなる。 ただし、このような状況を考慮して、法人税基本通達2-3-21の4「資産調整勘定対応金額等の計算が困難な場合の取扱い」では「対象株式の取得後におけるその対象株式の保有割合が低い又はその取得の時期が古いなどの理由により、その取得の時における資産調整勘定対応金額等の計算が困難であると認められる場合において、その取得の時において計算される資産調整勘定対応金額等を0とし、その後に追加取得した対象株式について各追加取得の時における資産調整勘定対応金額等を計算し、その計算の基礎となる事項を記載した書類を保存しているときは、課税上弊害がない限り、加算措置の適用を受けることができる。ただし、負債調整勘定対応金額が計算されることが見込まれる場合に、その計算が困難であるとして、これを0としているときには、課税上弊害があるため、この取扱いの適用はない」という特例的な取扱いを設けており、この加算措置の実務での落としどころを図っている。 しかし、この法人税基本通達2-3-21の4があったとしても、必ず、少なくとも、いずれかの株式の取得時において時価純資産価額を算定し、資産調整勘定等対応金額の計算を行うことができなければ、結果的に資産調整勘定等対応金額の加算措置を適用することができないことに変わりはない。 以上より、加算措置の適用が事実上困難となるケースも想定されることから、各通算子法人について将来の離脱に備えて、事前に資産調整勘定等対応金額の計算(可能不可能の検討を含む)を行うとともに、将来、加入する可能性のある法人についても、取得時ごとに資産調整勘定対応金額等の計算(可能不可能の検討を含む)を行うことを検討する必要がある。 (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例114(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35) (1) 適用要件 個人が、次に掲げる場合に該当する居住用財産を譲渡したときは、居住用財産の譲渡所得の特別控除として、その譲渡所得の金額から3,000万円が控除される。なお、この特別控除は3年に1度しか適用できない。 (※) ③④については、居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限る。 (2) 適用除外 次のいずれかに該当する場合にはこの特例は受けられない。 ◆居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3) 個人が、その有する長期保有資産(譲渡した年の1月1日における所有期間が10年を超えるもの)で、一定の要件(原則として上記「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用要件と同じ)に該当する居住用財産を譲渡した場合のその課税長期譲渡所得金額については、他の土地建物等に係る譲渡所得と区分し、適用される税率が軽減される。 ◆居住用家屋の範囲(措通31の3-2) 「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。 したがって、上記特例の規定の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋、その居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋は除かれる。なお、譲渡した家屋に居住していた期間が短期間であっても、当該家屋への入居目的が一時的なものでない場合には、当該家屋は上記に掲げる家屋には該当しない。 ◆不服申し立て(通法75) (1) 再調査の請求 税務署長等が行った更正などに不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うことができる。また、納税者の選択により、直接国税不服審判所長に対して審査請求を行うこともできる。 税務署長等は、その処分が正しかったかどうか、改めて見直しを行い、その結果を「再調査決定書」により納税者に通知する。 (2) 審査請求 税務署長等が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことができる。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1ヶ月以内に審査請求を行うことができる。 国税不服審判所長は、税務署長等の処分が正しかったかどうかを調査・審理し、その結果を「裁決書」により納税者と税務署長等に通知する。 (3) 訴訟 国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁決の通知を受けた日の翌日から6ヶ月以内に裁判所に「訴訟」を起こすことができる。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第52回】 「二世帯住宅である建物(区分登記なし)に配偶者居住権を設定した場合の特定居住用宅地等の特例の適用」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年9月15日)は、下記の土地及び建物を所有していました。土地建物の生前の利用状況は、1階部分は甲と甲の配偶者である乙が居住の用に供し、2階部分は長女である丙家族が居住の用に供しています。区分登記はされていませんが、建物の各階ごとに玄関があります。また、甲は丙から賃料は収受していませんでした。 甲の相続発生に伴い、甲の所有していた土地及び建物について乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権を丙が取得した場合には、乙及び丙が適用できる特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 相続人は乙と丙の2人です。丙は甲と生計を別にしており、相続後は引き続き2階に居住しています。 (※) 配偶者居住権の存続年数に応じた複利現価率 [A] 乙が取得した敷地利用権198㎡(90㎡+108㎡)、丙が取得した敷地所有権132㎡(60㎡+72㎡)について、それぞれ小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。ただし、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書・③かっこ書、相令5の7)。 本問の場合には、2階部分は賃貸借ではなく使用貸借となりますので、建物の全部について配偶者居住権が及ぶことになります。したがって、配偶者居住権及び敷地利用権の及ぶ範囲をまとめると下記のとおりとなります。 2 特定居住用宅地等の特例の適否 一棟の建物で区分登記がされていない二世帯住宅の場合の特定居住用宅地等の特例の適否については、連載【第27回】で解説しています。特例の判定にあたっては、入口の要件として被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか、出口の要件として取得者の要件を確認することになります。 〔被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか〕 被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)。 したがって、区分登記がされていない場合には、1階部分及び2階部分が被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当することになります。 〔取得者の要件〕 乙は配偶者で要件はありませんので、特例対象者となります。 丙は生計一親族ではありませんので、同居親族の要件又は別居親族の要件を満たしているかを確認することになります。 同居親族の要件及び別居親族の要件は、下記のとおりとなります。 (1) 同居親族 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。 政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。 (2) 別居親族 当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 丙は上記(1)に記載されている「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」であり、かつ、「相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること」の要件を満たします。したがって、同居親族の要件を満たすことになりますので、他の要件を満たせば特例の対象になります。 なお、別居親族の要件については、上記(2)②の要件を満たしていないことから、丙は別居親族には該当しないことになります。 上記により特例対象宅地等の適否は、下記のとおりとなります。 3 利用区分ごとの相続税評価額の算定と面積の計算 本問の場合には、2階部分と1階部分の利用区分についてそれぞれ敷地利用権と敷地所有権がありますので、4つの区分に分けてそれぞれの相続税評価額及び面積を下記のとおり算定することになります。計算手順としてステップ❶で2階部分と1階部分に区分して計算し、ステップ❷で敷地利用権と敷地所有権に区分して計算することになります。 (※) 本問の場合には、2階部分と1階部分が特例の対象になりますので、必ずしも2階部分と1階部分に区分する必要はありませんが、分かりやすく解説をするため、区分して計算しています。 ステップ❶ 土地の相続税評価額について2階部分と1階部分に区分します。 ・2階部分の土地の相続税評価額 ・1階部分の土地の相続税評価額 ステップ❷ 2階部分と1階部分のそれぞれについて敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。 ・2階部分の敷地利用権の相続税評価額 ・2階部分の敷地所有権の相続税評価額 ・1階部分の敷地利用権の相続税評価額 ・1階部分の敷地所有権の相続税評価額 ・2階部分の敷地利用権の面積 ・2階部分の敷地所有権の面積 ・1階部分の敷地利用権の面積 ・1階部分の敷地所有権の面積 4 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 特定居住用宅地等の限度面積は330㎡であり、本問の場合の土地面積(330㎡)は限度面積以下となりますので、330㎡が選択特例対象宅地等の面積となります。取得者ごとの内訳は、下記のとおりとなります。 ★実務上のポイント★ 本問の場合にように、配偶者が相続開始時に居住の用に供していた範囲と配偶者居住権の及ぶ範囲は異なることもありますので、まずは配偶者居住権の及ぶ範囲を確認してから小規模宅地等の特例の適否を検討する必要があります。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第21回】 「区分所有のマンションのうち事務所用の部分について、居住部分と異なる経年減点補正率を適用して評価額を計算することが違法か否かで争われた事案」 税理士 菅野 真美 ▷地方税法第352条と区分所有の家屋の評価 共有の財産の固定資産税は、共有者に連帯納付義務がある。共有財産について、共有持分に応じて、ある共有者が固定資産税を納付したが、他の共有者が納付しなかった場合は、他の共有者持分相当の固定資産税も納付しなければならない(地方税法第10条の2)。しかし、区分所有のマンションの居住者の1人が固定資産税を納付しなかったことにより、全く関係のない他のマンションの居住者が連帯納付義務を負わされることは不合理である。 このような問題を回避するために、地方税法第352条第1項において、専有部分の床面積の割合により按分した額を固定資産税として納付すれば足り、他の区分所有者の固定資産税まで連帯納付する必要はないとされている。 それでは、このような区分所有された家屋の評価額はどのように算定するのか。固定資産税評価額の算定は固定資産評価基準に基づく。財産評価基本通達と異なり、固定資産の価格は固定資産評価基準によって決定しなければならないとされている(地方税法第403条第1項)。 家屋は、原則的には一棟の家屋について再建築費評点数に経年減点補正率を乗ずること等を行って評価する。一棟の家屋について、区分して評価するのは、増築された家屋や非課税部分等のある家屋(固定資産評価基準第2章第1節四、五)に限られる。 それでは、市町村が、区分所有された家屋について区分ごとに異なる経年減点補正率を乗じて価額を求め、固定資産税の賦課決定処分を行ったことは適法であろうか。このことについて争われた事案について、今回は検討する。 ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。 ▷事案の争点 争点は、棄却決定の違法性と、固定資産税・都市計画税、不動産取得税の賦課決定の国家賠償法上の違法性及び被告らの過失の有無であるが、本稿では、固定資産評価審査委員会の棄却決定の違法性に絞って検討する。 ▷地裁の判決は 地裁はX社の主張を認め、札幌市の棄却決定は違法であるとした。 その理由は、概ね以下のとおりである。 そして、地裁の判決に不服な札幌市固定資産評価委員会等は控訴した。 ▷高裁の判決は 高裁は、札幌市固定資産評価審査委員会等の請求を認め、地裁での敗訴部分を棄却した。 その理由は、概ね以下のとおりである。 この高裁の判決には、次のような批判もある。 (※) 長島弘「一棟の区分所有建物に複数の補正率を適用することの可否(続)」税務事例Vol.49、No.4、28頁。 たしかに租税法律主義から考えると、この判決には疑問がないとはいえないところがある。高裁等は、違法であると判断したことによる地方自治体の負担の増大に配慮したのだろうか。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《収益・費用の計上-収益認識》編 【第1回】 「自社ポイントの付与」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 平成30年3月に「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」とします)が公表され、上場企業や会社法上の大会社等公認会計士又は監査法人の監査を受ける会社を対象に、令和3年4月1日以降開始する事業年度から強制適用されています。これを受けて、平成30年度税制改正において法人税法等の改正も行われました。 しかし、中小企業は、収益認識について、従来どおりの会計処理を継続できることとなりました。今回の『収益認識』編では、中小企業に適用義務化されなかった収益認識会計基準や平成30年度税制改正後の法人税等の取扱いによる会計処理をご紹介します。それらの中から今回は、「自社ポイントの付与」を取り上げます。 【設例1】 当社(家具量販店)はポイント制を採用しています。具体的には、法人・個人いずれの顧客にも、ポイント使用額を除く税込購入金額20円につき1ポイントを付与しています。当社家具商品購入に際して1ポイントで1円使用でき、このポイントを使用できる期間は、ポイント付与後3年間としています。 当社は、X4年4月4日に法人顧客H社へ応接セット400,000円(税抜)を販売・引渡して現金440,000円(消費税率10%)を受けとりました。 H社はそれで得た22,000ポイントのうち11,000ポイントを使用して、X4年5月6日に、当社から椅子11,000円(税込)を取得しました。 残りの11,000ポイントについては、当社は使用されると見込んでいましたが、その使用できる期間(3年間)において、当社に対して使用されることなく、X7年4月4日にポイントが失効しました。 1 収益認識会計基準を適用した場合の当社の仕訳 当社の仕訳は収益認識会計基準によった場合、次のとおりです。 〈X4年4月4日:応接セット販売時〉 〈X4年5月6日:椅子取得時〉 〈X7年4月4日:ポイント失効時〉 (4) これらの配分額を、履行義務を充足した時に収益を認識します(ステップ5)。「応接セットの販売」に対する履行義務は、販売・引渡したX4年4月4日に充足されているので、同日に379,147円を収益計上します。この時点では、「ポイント引き換えの商品引渡」に対する履行義務がまだなされていないため、その配分額20,853円は契約負債に計上します。 (5) その後、「22,000ポイント引き換えによる商品引渡」に対する履行義務は、そのうち11,000ポイントの使用により、当社が椅子11,000円(税込)を引き渡したX4年5月6日に充足されたため、同日に、20,853円×11,000ポイント/22,000ポイント=10,427円を収益計上します。 (6) この設例では、「残りの11,000ポイント引き換えによる商品引渡」に対する履行義務は、使用できる期間(3年間)に当社に対してポイントが使用されることなく、X7年4月4日を過ぎてポイントが失効したため、その時点で契約負債10,426円を収益に振替計上します。 以上(3)から(6)により、会計処理は、上記1の仕訳のとおりとなります。 2 収益認識会計基準により会計処理した場合の法人税法上の取扱い 既述のとおり、収益認識会計基準の公表を受けて、平成30年度税制改正において法人税法等の改正も行われ、ポイントを付与した場合の収益計上についても、次の①から④の要件のすべてを満たせば、継続適用を条件として、上記会計処理が法人税法上もできるとされました(法基通2-1-1の7)。 3 収益認識会計基準により会計処理した場合の消費税法上の取扱い 収益認識会計基準の公表を受けて、法人税法等の改正は行われたものの、消費税法の改正はありませんでした。したがって、収益認識会計基準の会計処理ではなく、それ以前の従来どおりの会計処理に合わせた仮受消費税の処理となります。この設例の場合、上記1の仕訳のとおり、X4年4月4日の応接セット販売時に40,000円(=440,000円×10/110)を仮受消費税処理します。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第130回】 三協フロンテア株式会社 「調査委員会調査報告書(2022年6月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【三協フロンテア株式会社調査委員会の概要】 【三協フロンテア株式会社の概要】 三協フロンテア株式会社(以下「三協」と略称する)は、1969年12月設立。ユニットハウスの製造・販売・レンタルを主たる事業とする。売上高53,346百万円、経常利益10,101百万円、資本金1,545百万円。従業員数1,511名。創業者である前会長の長妻和夫氏が代表を務める有限会社和幸興産が発行済株式の50.54%を保有する筆頭株主であり、代表取締役社長の長妻貴嗣氏(報告書上の表記はω氏、以下、長妻社長と略称する)以下の長妻一族が69%を超える株式を保有している(いずれも2022年3月期連結実績)。本店所在地は千葉県柏市。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人はEY新日本有限責任監査法人東京事務所(以下「新日本監査法人」と略称する)。 【調査報告書の概要】 1 調査委員会設置の経緯 三協は、2022年1月から開始された東京国税局の税務調査及び三協による調査の過程で、以下の事実が判明したため、これらの案件の実態究明とその範囲の拡大の程度を確定することを目的として、2022年3月23日に調査委員会を設置した。 2 調査委員会の調査により判明した不正の概要 調査委員会の調査により判明した不適切な行為は、以下の4つの類型に大別されている。 (1) 仕入代金の水増し・架空請求による横領事案(不正案件) 報告書によれば、2013年から2022年1月までの間に、営業担当者33名(延べ人数)が、11社の仕入れ先の協力を得て、約1億1,333万円の現金又は物品を着服して、三協に損害を与えたとのことである。 (2) 請求内容変更による原価の付け替え 調査委員会は、決算に影響を与える原価の付け替え案件としては、決算月を跨ぐような現場及び計上月の双方を付け替える原価の付け替えであると認定を行い、調査の結果、調査期間中の原価付け替えで決算に影響を及ぼした額を算定、年度単位では2020年3月期の29百万円が最大であり、同期の連結売上原価が26,438百万円であることから、「当社の原価総額に比して極めて少額である」と結論づけている。 (3) プール金設定による原価の付け替え 報告書によれば、三協の一部営業担当者は、目標の粗利率を上回る粗利率が達成可能な現場において、仕入先に対し、仕入価額に一定の水増し金額による請求書を出すことを依頼し、仕入先において、水増し価額分をプールしておき、別の現場で粗利率が目標値を下回るような事態が生じた場合に、プール金を預けてある仕入業者に依頼して、プール金の全部又は一部を当該現場における仕入代金に充当してもらい、当該現場における仕入に係る請求書の金額を充当分だけ減額して粗利率が目標値より下回ることを回避するという処理をするという手法を編み出していた。 調査委員会は、こうした手法について、「プール金の設定は将来における粗利率の悪い現場における粗利率の調整のために設定するとはいえ、当該現場における粗利率に達成目標との間で乖離があることを奇貨として架空請求をするのであるから、違法・不正な行為であることは明白である」と断じている。 (4) 売上の先行計上 調査報告書によれば、売上の先行計上の大半は、営業担当者が、仕入先に対して、工事進行基準適用案件における進捗度を偽装するために、未施工部分の工事に係る請求書を発行させたり、工事が全て終了していないにもかかわらず残工事部分を含む請求書を発行させたりしていたものであった。 調査委員会による調査の結果、売上の先行計上(期ずれ)による影響額は2021年3月期が234百万円で最大であったが、連結売上高48,183百万円に対する影響としては、-0.5%となっている。 3 原因分析 調査委員会は、不適切な行為の類型ごとに、次のように原因を分析している。 (1) 仕入代金の水増し・架空請求による横領事案(不正案件) 調査委員会は、原因分析として、次の2点を挙げている。 すなわち、三協では、新規の協力業者と取引するに先立ち、協力業社について調査が十分でない場合があったため、会社の実態が全く存在しない事業者に対しても、多額の発注を行うことができる状況にあったこと、一部の協力業社に対して発注が集中する場合があり、取引業者に対して極めて優越した関係に立つことから、本来であれば応じられないような上乗せ請求や架空請求をさせることができる関係が生じてしまっていたことを挙げている。 (2) 請求内容変更による原価の付け替え 調査委員会は、営業担当者が原価の付け替えを行う原因は、粗利率維持に関する強い意識の浸透と、追加の営業仕入に係る原価計上に関する事務手続の煩雑さという2つに整理している。 (3) プール金設定による原価の付け替え 調査委員会は、プール金の設定及びその取崩しは、営業担当者において、もっぱら現場ごとの粗利率の平準化を図るため、粗利率を下回る現場における原価の付け替えのために行なわれていたといえ、プール金設定のための請求書の作成にあたっては背任的ないし背信的要素は否めないものの、少なくとも私的流用の意図はなかったとしながら、その原因は三協における粗利率管理にあると考えられるが、それだけに止まらず、不正案件において顕在化した仕入先との癒着がそのベースにあるだけに、根本的な是正を要するところであるとまとめている。 (4) 売上の先行計上 調査委員会は、売上の先行計上案件が発生した背景となる環境について、統括部長制の導入により、売上予算の目標設定手法が、各統括部長が自ら売上目標を出し、それを合算して会社の目標に達成するかどうかを議論して決めるように変化した結果、専務取締役管理本部長である端山秀人氏(報告書上の記載は「λ氏」。以下、「端山専務」と略称する)及び各統括部長においては、売上目標に拘泥し、一度立てた目標の変更が許されないという考え方も共有されていたとの認定を行った。 そのうえで、統括部長において、当然に適切な会計処理のもとで許される営業活動に尽力するものの、最後の最後において、売上目標を達成するためのわずかな誤差を埋めるためには、会計的に不適切な行為を行うこともやむを得ないとの誤った認識も共有されていたことから、売上の先行計上が行われたと分析している。 そのうえで、結論としては、売上目標を設定する端山専務及び各統括部長が、何よりも自ら設定した売上目標達成に対する重圧を感じており、それと同等の重圧を営業担当者も感じていたことに起因するとまとめている。 4 再発防止策の提言(調査報告書41ページ以下) 調査委員会による再発防止策の提言は以下のとおりである。 【調査報告書の特徴】 創業者であるオーナー一族が発行済株式の70%近くを保有し、業績も順調に推移し、TVコマーシャルなどで知名度も上がっているはずの三協で、国税局の税務調査で不適切な行為が発見された。過年度損益の修正を行うまでの影響はないものの、調査委員会を設置して、調査結果を公表せざるを得なくなった三協は、2人の顧問弁護士を委員とした調査委員会に、元福岡高検検事長として刑事事件の捜査に多大の知見を有するとともに、多くの第三者委員会での調査経験が豊富な有田知德弁護士を委員長に招聘し、かつ、会計に関する知見が必要となったことから藤田大介公認会計士がメンバーとして加わったものである。さらに調査補助に当たった弁護士も全て顧問弁護士事務所に所属することから、「顧問弁護士が主導して行われた調査」であるとの印象は拭えない。 また、調査委員会は、会計監査人である新日本監査法人とも、調査の方法及び進捗状況についての意見交換及びその時々の調査結果についての情報共有を行った(調査報告書7ページ)ということであるが、残念ながら、会計監査人のコメント等は、調査報告書にはまったく記載がなかった。 1 調査委員会の「独立性・中立性・客観性」は確保されているか 調査委員会は、報告書に「当委員会および当委員会の調査実施過程における独立性・中立性・客観性に関して」と名付けた項目を置き、調査委員会が独立性・中立性・客観性を確保するために、三協との間で、以下の事項を確認したことを説明している。 さらに、調査委員会は、調査を行うに際し、委員会の委員長であり、三協とは利害関係を有していない有田弁護士より、委員会の独立性・中立性を確保するための措置について、逐一監督を受けたうえで、調査を実施したことを明記している。 しかし、報告書の記述内容を検証すると、調査委員会の事実認定や事実認定に基づく分析がどうしても「会社寄り」になっているのではないかと思われる箇所が散見される。 (1) なぜ増収増益決算を続けてきた三協において、売上の先行計上や原価の付け替えといった粉飾行為が行われたのか 調査委員会は、売上の先行計上について、上述のような原因分析を行っているが、東日本大震災による特需以来、ほぼ一貫して増収増益基調にある三協において、売上高をわずかコンマ数パーセント増加させるために、工事進行基準適用案件において進捗度を仮装するため、仕入先に対して偽造した請求書の発行を要請するところまで、不適切な行為に及んだのか、十分に説明できているとは言い難い。 その一方で、全ての統括部長において、売上目標を達成するべく、適切な会計処理のもとで許される営業活動に尽力していることを強調し、売上の先行計上による影響額は極めて軽微なものであり、架空取引を含むものでもなく、その目的も悪質とまではいえないとも言及しており、原因を深く追及するよりは、「売上目標達成のためのやむを得ない行為」であるかのような印象を与えるように読めるのではないか。 (2) 不適切な行為を矮小化する印象を与える記述 調査委員会は、三協の営業担当者による不適切な行為を4つの類型に分けて分析し、決算への影響額を算定しているが、「違法・不正な行為である」と評価しているのは、プール金の設定による原価の付け替え行為のみである。横領罪又は業務上横領罪に該当する可能性が高い仕入れ業者からのキックバックを単なる「不正案件」と呼称して、その法的責任についての言及がないことや、有価証券報告書虚偽記載に問われる可能性のある売上の先行計上についても、「不適切な行為である」という評価は記述されているものの、過年度の有価証券報告書の訂正についての言及がないことなど、不適切な行為の「悪質性」を糊塗するかのような表面的な記述が目立っている。 (3) 代表取締役の関与と責任について 調査委員会は、報告書上では「ω氏」と記載されている長妻社長の売上先行計上案件への関与について、長妻社長は、2017年3月期以降、将来の事業収益を確保するため、海外事業を立ち上げて海外への渡航を繰り返し、また、経営戦略及び新製品の開発の指導に特化しており、国内におけるユニットハウスの販売を行う営業部門の実務は、端山専務に任せている状況であり、営業部門の統括部長会議に出席していることも確認されていないことから、売上の先行計上を指示しているという事実を基礎づける証拠は、一切存在せず、また、売上の先行計上を認識しながらこれを黙認していたという事情を推測させる証拠は何ら発見されなかったと結論づけている。 経営トップである長妻社長が「知らなかった」というだけで免責されるはずはなく、さらに、多数の社員による横領事件や原価の付け替え、プール金の設定というその他の不適切な行為に関しては、長妻社長の経営トップとしての責任にはまったく触れられていない。 (4) 結語 調査委員会による「結語」を全文引用する。 調査委員会は、調査報告書の末文で初めて「分断」という単語を使用し、「営業部門上位者と一部の営業担当者間の信頼関係の希薄化」が主たる要因であったと、ここまでの原因分析とはまったく異なる見解を表明しているように思える記述を連ねている。信頼関係の希薄化がどのように横領事件や売上の先行計上につながるかの説明は、ここには一切ない。 その一方で、「金額的影響は軽微」であることや、全社的な内部統制の不備が一部にとどまり、「財務報告に重要な影響を及ぼすものではない」ことが改めて強調されている点など、ここでも、不適切な行為をことさら「些少な影響しかない」ものであることが繰り返し表明されている。 2 役員の異動及び役員報酬の返上 三協は、「調査結果を重く受け止めるとともに、経営責任を明確にするため、以下のとおり処分を行うことを決議」したとして、調査報告書と同時に、社内処分を公表した。 役員の処分以外にも、「不正着服に関係した従業員につきましても、社内規定に基づき厳正に処分」するとの記載があるが、着服した金員の返還を求めるのかどうか、刑事告訴を行うかどうかについては言及がない。 なお、端山秀人氏及び三戸茂夫氏は、6月29日開催の定時株主総会終結の時をもって取締役を退任している。 3 三協による原因分析と再発防止策 三協が6月30日にリリースした「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」によれば、不適切な会計処理は、「売上及び原価計上に係る業務プロセスにおける取引内容及び工事進捗の確認が行われる体制、ならびに営業部門における職務権限の分離が不十分であったこと等に起因」するものであると同時に、「全社的な観点から、人員の配置転換が適切に行われず固定的になっていたこと、不適切な会計処理を防止又は検出する日常モニタリングが不十分であった点、及び内部監査が適切に機能していなかった点も認識して」いることから、「調査報告書の提言を踏まえ、以下の通り再発防止策を設定・実行し、適切な内部統制の整備・運用」を図ると説明している。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第3回】 「収益認識に関する注記②」 -収益を理解するための基礎となる情報- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における収益認識に関する注記のうち「収益を理解するための基礎となる情報」について、何を記載すればいいか教えてください。 Answer 連結注記表・個別注記表ともに、いわゆる5ステップに関する事項を注記することが求められます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2021年3月9日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも会計方針に関する注記を参照するような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) 注記事項の全体像 まずは【第2回】で説明した内容のおさらいです。 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき注記事項は次のとおりです(会社計算規則第115条の2第1項)。 (※) 連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表において注記を要しません。なお、連結計算書類の作成義務のある株式会社(会社法第444条第3項の株式会社)以外の株式会社は、連結計算書類を作成していなくても個別注記表において注記を省略できます。 (2) 個々の注記事項の解説 上記(1)の②では、次のような事項を注記して、収益を理解するための基礎となる情報を提供することが求められます。 (「収益認識に関する会計基準」第80-12項より抜粋) それぞれの項目で記載する内容は、例えば、次のようなものがあります。 (注) 会計基準では(1)~(5)で記載した事項以外にも詳細に規定されていますが、ここでは割愛しています。 収益を理解するための基礎となる情報の注記は、会計方針に関する注記の中の「収益及び費用の計上基準」で記載する内容と重複することが多く、注記する内容が同じ場合は、「収益及び費用の計上基準」を参照する旨を記載して具体的な注記を省略することができます(会社計算規則第115条の2第2項)。 実務上、収益認識に関する注記では詳細な記載を省略することが多い印象があります。 [株式会社熊谷組 2022年3月期 連結注記表] ◎会計方針(連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記等) ◎収益認識に関する注記 ※株式会社熊谷組「第85期定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」4頁及び12頁より抜粋。 会計方針に関する注記の中の「収益及び費用の計上基準」を参照して、具体的な注記の記載は省略する会社が多いですが、次のように詳細に注記している事例も見受けられます。 [橋本総業ホールディングス株式会社 2022年3月期 連結注記表] ◎会計方針(連結計算書類作成のための基本となる重要な事項に関する注記) ◎収益認識に関する注記 ※橋本総業ホールディングス株式会社「第85回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」6頁及び7頁より抜粋。 [アクシアル リテイリング株式会社 2022年3月期 連結注記表] ◎収益認識に関する注記 ※アクシアル リテイリング株式会社「第71期定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」24~26頁より抜粋。 * * * 今回の「収益を理解するための基礎となる情報」に関する注記は、基本的に一度作ってしまえば、翌年度以降はほとんど手を加えずに使い続けられるのではないでしょうか。だからこそ、初めは大変ですが、詳細に記載して財務諸表利用者にとっていかに親切な開示に仕上げられるかチャレンジしてもらいたいと思っています。 次回の第4回では、「収益認識に関する注記③-当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報-」をテーマに解説します。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例75】 株式会社アイ・アールジャパンホールディングス 「調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」 (2022.8.30) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社アイ・アールジャパンホールディングス(以下「IRJ」という)が2022年8月30日に開示した「調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」である。同社は、まず2022年6月6日に「調査委員会の設置に関するお知らせ」を開示しているが、最初に次のように記載している。 「『本日の一部報道について』記載のとおり」とあるが、同日に開示された「本日の一部報道について」の本文全文は次のとおりである。 2 何のための調査委員会? IRJの元役員が証券取引等監視委員会の調査対象になったため、調査委員会を設置したとのことだが、開示を読んでも、調査対象となっている同社の元役員が誰なのか、また、どのような嫌疑がかけられているのかもわからない(証券取引等監視委員会による調査なので、インサイダー取引かと思われるが)。 「調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」に添付された調査報告書を読むと、初めてそれらがわかる。元役員は同社前代表取締役副社長・COOである栗尾拓滋氏(以下「栗尾氏」という)であり、嫌疑はやはりインサイダー取引である(調査報告書5頁)。 栗尾氏は、「本日の一部報道について」の少し前に不自然な辞め方をしていた。2022年6月3日に開示された「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」には、「一身上の都合により2022年6月3日をもって代表取締役副社長・COO及び取締役を辞任したい旨の申し出」をして辞任したと記載されていた。 しかし、もともと同氏は、その2週間後の6月17日(定時株主総会開催日)に退任することとされていたのである(2022年5月13日開示「代表取締役及び役員の異動ならびに連結子会社等の役員の異動に関するお知らせ」)。証券取引等監視委員会による調査が及ぶことがわかって、辞任したのだろうか。 3 業績予想の修正に関する開示の遅延? 栗尾氏は、2022年3月30日から同年6月28日までの間に、所有していたIRJ株式の大半を譲渡しているのだが(調査報告書30頁)、どのような情報が公表される前に譲渡したのだろうか。証券取引等監視委員会の調査結果が公表されていないので、本当のところは不明なのだが、調査報告書を読む限り、業績予想の修正が問題とされているようである。 調査報告書では、次のような記載がなされ(調査報告書5頁)、同社の「業績予想値の算出及び公表に係る体制及び実態」も調査対象にされている。そして、調査報告書の半分ほどがそれに関する記載に費やされている。 他の開示事項と異なり、業績予想の修正に関する開示の遅延を認定するのは困難である。調査報告書でも、それを認定することはできないとされている(調査報告書33~34頁)。 ただし、あくまで「認定することはできない」であり、その理由は「適時開示基準を下回る売上高の予想値が算出された事実」が認められなかったからである。「適時開示基準を下回る売上高の予想値が算出された事実」が無いから、開示の遅延も無いとしているわけではない。 そもそも業績予想の修正の要否に関する検討は次のように行われており(調査報告書34頁)、「適時開示基準を下回る売上高の予想値が算出された事実」を確認しようがないのである。 4 IRJにとっての業績予想とは? しかし、2022年3月期の売上高については、2021年12月末の会議において95億4,600万円(予想値120億円に対してマイナス20.45%)という数値が示されていたはずである。それは、「適時開示基準を下回る売上高の予想値が算出された事実」ではないのだろうか(乖離が10%以上だと開示が必要に)。 IRJにおいて、その数値は「見通し」であり、「業績予想値」ではないというのである。これだけでは言葉遊びのようだが、同社では、「見通し」は、皆が認識している案件に基づく数値であり、「業績予想値」は、それ以外の数値、すなわち皆が認識しているわけではない案件に基づく数値を加えたものなのだという(調査報告書23頁)。 「見通し」のほかに「業績予想値」があるものの、その根拠はよくわからないものなのである。同社では、業績予想の修正の要否は取締役会で検討するとされているものの(調査報告書20頁)、「業績予想値」の根拠がわからなければ、その修正の要否を検討することなどできないはずである。 実際にはどのように検討されていたのだろうか。上述のとおり、それを確認することはできないのだが、次のような形だったという(調査報告書24頁)。「寺下氏」とは、同社代表取締役社長の寺下史郎氏である。なお、同氏は、2022年3月31日現在、同社株式を50.97%所有している(第8期有価証券報告書)。 5 そもそも業績予想の修正を開示できる体制? IRJの「業績予想値」とは、寺下氏以外の同社関係者には根拠がよくわからない漠然とした数値であり、その修正の要否に関する検討過程も、確認のしようがないものである。 さらに、調査報告書によると、同社は売上高の予想値の修正の要否については、一応検討されていたようなのだが(確認のしようがないが)、利益の予想値の修正の要否については検討がなされる体制になっていなかったようなのである。売上高の予想値の修正に関する開示が不要でも(乖離が10%未満ならば不要)、利益の予想値の修正に関する開示が必要になることはあり得る(乖離が30%以上ならば必要)。 2021年3月期と2022年3月期の業績予想について、寺下氏により修正が必要と判断されてから、その開示が行われるまで、いずれも2週間ほどかかっているのだが、その理由は、「修正の開示を行う数値のうち、売上高のみならず当期純利益の数値の正確を期するため」とされている(調査報告書25頁、同30頁)。 2022年5月13日に開示された「2022年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」では、次のように記載され、2023年3月期の業績予想は掲載されていない。「算定が可能となった時点で速やかに開示」とされているが、現在の開示体制のままならば、ずっと開示しない方がいいのではないだろうか。 (了)
《速報解説》 倫理規則の改正のうち非保証業務等に関する項目について、 適用上の留意点や具体的な適用方法の例示を示したQ&Aの公開草案を 会計士協会が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年9月20日、日本公認会計士協会は、「倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務等に関する項目)(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 公開草案は、改正倫理規則の規定のうち、非保証業務等に関する項目を対象とするものである。非保証業務以外に関する項目については、「倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務以外の項目)の仮公表」が行われている。本公開草案を確定する際には、両者を一体の『倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」』として12月頃に公表する予定とのことである。 公開草案は、2022年7月25日開催の日本公認会計士協会の定期総会において承認された倫理規則の改正のうち非保証業務等に関する項目について、適用上の留意点や具体的な適用方法の例示を実務上の参考として示すためのものである。 意見募集期間は2022年10月20日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務ガイダンスの位置付け 実務ガイダンスの公表に伴い、現行の「職業倫理に関する解釈指針」は廃止する予定である。 実務ガイダンスは、倫理規則の適用上の留意点や具体的な適用方法の例示を実務上の参考として示すものである。 会則第48条に基づく会員が遵守すべき基準等には該当しない。 Ⅲ 主な内容 倫理規則の内容のうち、監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供、提供できる非保証業務の判断などに関して、Q&A形式で記載している。 1 監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供 会計事務所等が、監査業務の依頼人に対して非保証業務の提供の可否等を判断するには、倫理規則第600.6 A1項から第600.27 A1項までの要求事項及び適用指針に準拠して、非保証業務の提供の可否等を判断する。 2 非保証業務に関連する法令等 監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供に関連して、我が国における法令等が倫理規則セクション600の規定とは異なっている場合又はセクション600の規定の範囲を超えて定められている場合には、当該非保証業務を提供する会計事務所等は、それらの相違を把握し、最も厳格な規定を遵守する必要がある(倫理規則第600.6 A1項)。 公認会計士法施行規則第6条で同時提供が禁止されている非監査証明業務は、倫理規則においても禁止される。 3 阻害要因の識別及び評価 会計事務所等は、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体に該当するか否かにかかわらず、概念的枠組みを適用しなければならない(倫理規則R600.8項)。 倫理規則では、概念的枠組みに関する包括的な規定が適用されることを強調している。 例えば、監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供により生じる阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためにセーフガードを適用できない場合もある。 そのような状況では、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、概念的枠組みの適用により、次のいずれかを行うことが求められる(倫理規則第600.18 A4項)。 4 財務諸表における重要性 会計事務所等又はネットワーク・ファームは、財務諸表にとって重要ではないと判断した場合であっても、倫理規則R600.14項(2)のリスクの有無の評価を行うことが求められる。 倫理規則R600.14項に基づき、非保証業務の提供により独立性に対する自己レビューという阻害要因が生じる可能性があるかどうか、及び倫理規則R600.16項に基づき自己レビューという阻害要因が生じる可能性があるため非保証業務の提供が禁止されるかどうかを判断する際に、重要性は関連しない。 5 社会的影響度の高い事業体ではない監査業務の依頼人に対する助言及び提言 社会的影響度の高い事業体ではない監査業務の依頼人に対する助言及び提言の提供の可否は状況による。 6 非保証業務に関する監査役等とのコミュニケーション 会計事務所等は、監査業務の依頼人及びその関連事業体に対して非保証業務を提供する前に、社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人の監査役等から了解を得る必要がある。 倫理規則R600.21項からR600.23項までは、会計事務所等又はネットワーク・ファームが、社会的影響度の高い事業体がその一部を形成する企業グループ内の事業体に対して、会計事務所等の独立性に対する阻害要因を生じさせる可能性のある非保証業務を提供する前に、会計事務所等が、社会的影響度の高い事業体の監査役等とコミュニケーションを行うことを求めている。 事業体が様々なコーポレート・ガバナンスの構造を有することを考慮し、非保証業務を提供する前に監査役等の了解を得るという要求事項の遵守を促進するため、倫理規則は、社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人の監査役等との間で、会計事務所等がいつ、誰に対してコミュニケーションを行うかというプロセスについて合意するに当たって、柔軟性を認めている(倫理規則第600.20 A2項)。 7 監査業務受嘱前に提供した非保証業務 会計事務所等は、監査人として選任される前に社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人に対して非保証業務を提供したことがある場合、倫理規則R400.32項に定められている事項を満たす場合を除いて、監査人としての選任を受諾することはできないと考えられる。 8 国際財務報告基準(IFRS)の導入支援業務 会計事務所等又はネットワーク・ファームは、社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人に対して、国際財務報告基準(IFRS)の導入支援業務を一律に提供できないのかどうかについては、多くの場合は提供できないと考えられるが、業務の段階に応じて、依頼人との役割分担等を踏まえた業務の詳細な内容から阻害要因を識別及び評価した結果、自己レビューという阻害要因が生じる可能性がないと判断する場合は、その範囲内で業務を提供することは可能と考えられる。図表を用いて具体的に記載されている。 9 コーポレート・ファイナンスに関する業務 監査業務の依頼人が発行する株式、債券又はその他の金融商品への投資に関する助言を第三者に提供することが禁止されているのは、会計事務所等又はネットワーク・ファームが、監査業務の依頼人に対する投資のメリットを推奨又は助言した場合、利益相反が生じ、その状況が客観性の原則を阻害することになるためである。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 会計士協会、非保証業務以外の項目に関する 「倫理規則に関するQ&A」を仮公表 ~守秘義務や違法行為又はその疑いに気付いた場合の対応等について記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年9月20日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務以外の項目)の仮公表」を行った。 実務ガイダンスは、改正倫理規則の規定のうち、非保証業務以外に関する項目を対象とするものであり、別途公開草案を公表している「倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務等に関する項目)」の確定を待ち、2022年12月頃に一体として確定版を公表する予定であるので、仮公表とされている。 実務ガイダンスの公開草案については、2022年5月2日から意見募集されていた。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、2022年7月25日開催の日本公認会計士協会の定期総会において承認された改正倫理規則の適用上の留意点や具体的な適用方法の例示を実務上の参考として示すためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務ガイダンスの位置付け 実務ガイダンスの公表に伴い、現行の「職業倫理に関する解釈指針」は廃止する予定である。 実務ガイダンスは、倫理規則の適用上の留意点や具体的な適用方法の例示を実務上の参考として示すものである。 会則第48条に基づく会員が遵守すべき基準等には該当しない。 Ⅲ 主な内容 倫理規則の内容のうち、守秘義務、職業的専門家としての行動などに関して、Q&A形式で記載している。 1 守秘義務 守秘義務が解除される正当な理由があると考えられる状況は、倫理規則第114.1A1項(1)から(3)までの下に個別に列挙された事情((1)から(3)までの下に規定されている①・②・③・④の事情)に限られるものではないと解することが適切である。 2 勧誘 倫理規則に規定されている「勧誘」には、贈答及び接待が含まれる。 3 違法行為又はその疑いに気付いた場合の対応 監査業務の過程以外の状況において気付いた依頼人の違法行為又はその疑いでも、当該事項に明らかに重要性がないと判断される場合を除いて、倫理規則セクション360 に従った対応が求められ、依頼人の適切な階層の経営者(適切な場合には監査役等)と協議する必要がある。 4 報酬 会計事務所等は、監査業務の依頼人から受領した報酬によって生じる阻害要因の水準を評価するために、職業的専門家としての判断に基づいて、評価の時期と状況に応じて、報酬見積提示額、報酬請求額又は報酬受領額を検討することができる。 実務において報酬に関する取決めや支払方法は多様であるため、倫理規則は、例えば、会計事務所等が独立性に対する阻害要因を識別、評価及び対処するに当たり、報酬見積提示額、報酬請求額又は報酬受領額を検討すべきかどうかについて明示的に特定する等、会計事務所等が報酬及びその他の対価をどのように判断すべきかについての詳細な定めは設けていない。 5 報酬関連情報に関する監査役等とのコミュニケーション 倫理規則R410.23項等において、社会的影響度の高い事業体に対する監査業務では、監査業務の依頼人の監査役等に対する報酬関連情報のコミュニケーションの実施が求められている。 コミュニケーションを行うべき相手先は、依頼人の監査役等のほか、監査役等以外のガバナンスに責任を有する者が含まれる場合がある。 6 社会的影響度の高い事業体の監査業務における報酬関連情報の開示 報酬関連情報の開示に関しては、我が国においては、有価証券報告書等において法令等に基づく一定の報酬関連情報の開示が行われている。 ただし、法令等と倫理規則とでは、両者が求める報酬関連情報の開示の範囲が異なることがある。実務ガイダンスでは、報酬関連情報に関して、「有価証券報告書における開示」、「事業報告における開示」について詳細に記載している。 法令等により、倫理規則で求められる報酬関連情報の開示が社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人に求められていない場合、会計事務所等は、監査役等と協議しなければならない(倫理規則R410.30項)。 監査役等との協議により、依頼人又は会計事務所等が開示を行うことになるが、当該報酬関連情報を開示する方法が依頼人ごとに異なる場合、利害関係者の利便性を損なうおそれがあるため、基本的には、会計事務所等が監査報告書において倫理規則で求められる報酬関連情報全体の開示を行うことが適切と考えられる。 監査役等との協議の結果、依頼人が開示を行う場合は、有価証券報告書又は事業報告において開示されることになると考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓