〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第13回】 「証拠書類の閲覧謄写の活用」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 閲覧謄写範囲の拡大 (1) 国税通則法の改正 行政不服審査法の改正に伴い、国税の不服申立ての規定も歩調を合わせるように改正され、平成28年4月1日以後に行われた原処分から現行の規定が適用されている。この改正前後における証拠書類の閲覧謄写に関する規定を確認していきたい。 (2) 改正前後の規定 〈改正前の規定〉 〈改正後の規定〉 (※) 下線部筆者。 (3) 改正前後の比較 改正前は原処分庁が任意で提出した証拠のみが開示対象であったため、かつては、原処分庁が提出する証拠を最小限に抑制して開示対象を狭め、担当審判官による職権調査時に前広に開示することで、できるだけ原処分の維持を図ろうとする原処分庁側の慣行があったようだが、改正後はその垣根が外されている。 しかし、改正後においても「質問調書(国税通則法第97条第1項第1号を参照)」が開示対象外となっており、国税不服審判所が判断に用いる全ての証拠が開示されているとはいえない。 ちなみに、改正前は閲覧しか認められていなかったため、閲覧書類を閲覧者がひたすらに引き写すというにわかには措信しがたい実務が行われていたが、現在は写しの交付も許可されている。 2 担当審判官が収集した物件 新たに閲覧謄写が認められた担当審判官が原処分庁から収集した物件(国税通則法第97条第1項第2号を参照)は、以下のものが典型である。 このうち、①には、例えば、以下の書類が考えられる。 このほかに、以下の資料も存在するが、国税不服審判所は原処分庁の主張に拘束されずに判断する機関であることから、担当審判官が職権調査の現場で確認することはあっても、収集して留め置く例はあまりないものと思われる。 また、②については繊細な問題を孕んでいる。書類を提出した関係人からすると、「国税不服審判所の内部限りであれば提出に協力するが、審理関係人から閲覧請求される可能性があるとなれば、審査請求人とのこれまでの関係から提出の協力をためらう」というケースが考えられ、担当審判官による職権による証拠の収集そのものに支障を来す可能性がある。 3 閲覧請求の実務 (1) 閲覧等の請求書の提出 閲覧謄写を求める場合には、審査請求書の提出時から審理手続の終結時の前までに以下の様式の請求書を提出することになる。 (出典) 国税不服審判所「提出書類一覧」 なお、閲覧を請求するといっても、どのような証拠を担当審判官が保管しているかわからないことが通常であり、請求書の提出後に、担当審判官から目録(タイトルや提出者などが記載されている)の提供を受けて、これを基に閲覧を求める証拠の特定を行うことになる。 (2) 提出人の意見聴取 閲覧等の請求書を提出してから閲覧が実現するまでには概ね1ヶ月程度の期間を要している。閲覧を希望した書類を担当審判官に提出した者に対して について、意見を聴く機会を設けなければならないからである。 国税不服審判所は1ヶ月の流れを以下のように想定している。 例えば、審査請求人が上記2①の調査経過記録書の閲覧を求め、担当審判官もそれを収集していた場合、それを提出(作成)した原処分庁に対して、マスキングを求める範囲について意見を聴くことになり、その意見を踏まえて、担当審判官が同じ合議体に属する参加審判官や法規審査担当者と協議して最終的なマスキングの範囲(例えば、反面調査先や調査ノウハウに関する記載など)を決定して、その部分を黒塗りして審査請求人に開示することになる。 (3) 閲覧当日 日時の指定権は担当審判官にあるが、審査請求人又は代理人の都合はできる限り尊重される。当初閲覧のみを希望していた場合でも、閲覧後に写しの交付を求めることもできる。また、閲覧時にデジタルカメラ(スマートフォン)による撮影も認められる。 写しの交付を求める際は1枚10円の手数料を収入印紙で納付することになるが、事案を所管する国税不服審判所の徒歩圏内に郵便局があり、かつその郵便局が小規模で10円の収入印紙を取り扱っているか否かは定かではない。後日の納付となれば閲覧当日に写しの交付が受けられない可能性もあるため、注意が必要である。 4 今後の主張立証活動 証拠書類の閲覧謄写によって、原処分庁が原処分に及んだ根拠に係る「情報の非対称性」はそれなりに解消され、原処分庁の主張に対する反論やそれを裏付ける新たな証拠の提出がより的確に可能になると考えられる。 前述のとおり、閲覧請求は実現するまでに最低でも1ヶ月程度かかるため、当初から請求を希望する場合には、早期に(例えば、原処分庁からの答弁書を確認した段階で)請求書を提出しておき、その後は、担当審判官が職権で収集した資料を電話等で問い合わせて追加の請求をすべきか否かを検討すると良いだろう。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第75回】 「阪神・淡路大震災事件」 ~最判平成17年4月14日(民集59巻3号491頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 『経団連ひな型』が一部改訂 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)の一部改訂を行っている。 改訂点は次のとおりである。 Ⅲ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 ① 「企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」等」(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果の取扱いを示す) また、日本公認会計士協会から次のものが公表されている。 ② 「会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」、同7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」、同9号「持分法会計に関する実務指針」、同14号「金融商品会計に関する実務指針」及び金融商品会計に関するQ&Aの改正について(公開草案)」(内容:上記の企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)を受けたもの) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 ① 「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」(内容:ウクライナをめぐる国際情勢に関連して、監査上の留意事項を示す) ②「監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」の改正について」(公開草案)(内容:監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び同540「会計上の見積りの監査」の改正等に対応するもの) Ⅴ 監査役等の監査関係 日本監査役協会は、「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点-公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に-」を公表している。 これは、2022年6月1日に、公益通報者保護法の一部を改正する法律が施行されることから、監査役等としての留意点をまとめたものである。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第26回】 「新入社員に対するハラスメントにおける注意点」 弁護士 柳田 忍 【Question】 新入社員が入社し、4月から勤務していますが、新入社員の1人から、指導担当からパワハラを受けていると相談を受けました。そこで、当該指導担当の部下数人に対してヒアリングを行ったところ、皆「当該指導担当からパワハラを受けたことはないし、当該指導担当が他の社員にパワハラをしているところを見たこともない」と回答したのですが、そのうち1人の社員が「自分は指導担当の言動をパワハラだと思ったことはないが、新入社員であればパワハラだと思うかもしれない」と述べました。 ある言動について、一般社員との関係ではパワハラにならないが、新入社員との関係ではパワハラになるということはあるのでしょうか。 【Answer】 同じ言動をしたとしても、相手によってパワハラに該当するか否かの判断が変わる可能性があります。 パワハラやセクハラの判断に際しては、「新入社員」などの労働者の属性も考慮されるため、業務や職場環境に不慣れで社会人生活に対して不安を抱えているであろう新入社員への言動については、よりハラスメントであると評価されやすいという側面があると考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 ハラスメントの定義と新入社員 上記の質問について、まず、ハラスメントの定義上、新入社員であること等の労働者の属性を考慮することが想定されているかどうかというアプローチで検討する。 (1) パワハラについて パワハラについては、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針・令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)において、以下のとおり定義されている(赤字・下線は筆者による)。 まず、②については、「労働者の属性」が考慮要素とされていることから、新入社員であるといった属性も考慮されると思われる。 ③の「平均的な労働者」については、これがおよそ一般の平均的な労働者を指すのか、類似の属性を有する労働者の中における「平均的」な労働者を指すのかという点が問題となり得る。 この点、上記のとおり、パワハラ指針が「平均的な労働者」を「社会一般の労働者」と言い換えていること、また、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、パワハラ指針作成等に向けて議論がなされる中で、「パワハラの定義について、労働者の平均的な感じ方といったものをベースにしまして、多くの人が明らかにパワハラではないかという案件に限定しないと、業務上の必要な指導がパワハラと受けとめられる可能性がある」といった指摘がなされていることに照らすと(同分科会議事録(第8回・平成30年10月17日))、およそ一般の平均的な労働者を指すことが想定されているものと思われる。 もっとも、同分科会においては、平均的な労働者の感じ方と一緒に被害者の認識も考慮すべきであるといった主張もなされており(同分科会議事録(第11回・平成30年11月19日及び第12回・同年12月7日))、また、令和元年5月28日付の参議院厚生労働委員会の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」において、「パワーハラスメントの判断に際しては、『平均的な労働者の感じ方』を基準としつつ、『労働者の主観』にも配慮すること」とされていることから、③の判断に当たっても労働者の主観が考慮されるものと解するべきである。 よって、③の判断に当たっても、新入社員であるという属性は、労働者の主観として考慮されるものと思われる。 (2) セクハラについて 職場におけるセクハラとは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり(対価型)、「性的な言動」により就業環境が害されたりする(環境型)ことであり「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号)においては、以下のように考えられている(下線は筆者による)。 上記のパワハラの定義に関する議論に照らすと、セクハラにおける「平均的な女性労働者」や「平均的な男性労働者」についても、およそ社会一般の平均的な女性労働者や男性労働者が想定されていると思われるが、上記のとおり「労働者の主観を重視しつつも」と明記されていることから、新入社員である属性は「労働者の主観」として考慮されるものと思われる。 もっとも、ある言動について性的な不快感を覚えるかどうかは平均的な新入社員とおよそ一般の平均的な女性労働者・男性労働者とでさほど差はないと思われることから、新入社員という属性がセクハラ該当性の判断に対して与える影響は大きくはないであろう。 2 新入社員に対するハラスメントと裁判例 次に、裁判例をベースに上記質問を検討する。 新入社員Aが、連日の長時間労働や、上司Y2からのパワハラにより精神障害を発症し、自殺するに至ったとして、遺族が会社Y1及び上司Y2に対して損害賠償を求めて訴訟を提起したケースにおいて、裁判所は以下のとおり損害賠償請求を認容した(岡山県貨物運送事件(仙台高判平成26年6月27日・労判1100号26頁))。 上記の判断に照らすと、裁判例においても、ハラスメントの判断に際して新入社員という属性が考慮されていると考えられる。 また、上記裁判例の判断に照らすと、ハラスメントの観点から新入社員との関係で気をつけるべき点は以下のとおりであるといえる。 3 まとめ 「新入社員に対しては、一般社員に対するよりも優しく接しなければならないのではないか」と漠然と感じている方は多いだろうが、本稿においては、ハラスメントの判断の際に新入社員であることが考慮されることを法的な見地から説明したものである。上記を参考に、新入社員とのコミュニケーションは慎重に行うべきであろう。 (了)
《編集部レポート》 近畿税理士会と日本政策金融公庫が 創業分野における連携支援スキーム「HOPE」を構築 ~コロナ禍に立ち向かう創業者や創業後間もない事業者を連携支援~ Profession Journal 編集部 2022年5月9日(月)、近畿税理士会と日本政策金融公庫は、「中小企業等支援に関する覚書」を締結し、創業分野における連携支援スキーム「HOPE」を構築した。 「HOPE」は、コロナ禍に立ち向かう「創業者」や「創業後間もない事業者」への支援をより一層強化していくための連携支援スキームで、近畿税理士会と日本政策金融公庫が近畿2府4県における創業分野での連携をさらに促進することで中小企業・小規模事業者の経営課題を解決し、事業の継続・成長を支援していくことが目的。 具体的な支援内容は、近畿税理士会においては創業に関する相談窓口(注)の設置、電話やウェブによる税金相談、個人事業者のための記帳申告指導など、日本政策金融公庫においては融資、創業計画書の作成支援、外部専門家への取次ぎなどとなっている。 (注) 近畿税理士会の「創業に関する相談窓口」は、2022年5月11日(水)より開設。 近畿税理士会館で行われた「中小企業等支援に関する覚書」締結式には、近畿税理士会から7名、日本政策金融公庫から4名が出席。近畿税理士会・杉田宗久会長と日本政策金融公庫国民生活事業本部南近畿地区統轄・三田祥弘氏による代表者挨拶の後、「中小企業等支援に関する覚書」の交換が行われた。 近畿税理士会会長 杉田宗久氏(写真左から2人目) 近畿税理士会副会長 永橋利志氏(写真左) 日本政策金融公庫国民生活事業本部南近畿地区統轄 三田祥弘氏(写真右から2人目) 日本政策金融公庫国民生活事業本部北近畿地区統轄 森田太郎氏(写真右) (了)
《速報解説》 大阪国税局より米国永住権の放棄により米国出国税が課された場合の 有価証券の取得費について文書回答事例が示される 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 国税庁ホームページに、令和4年4月22日付で次の文書回答事例が公表された。 以下、本文書回答事例のポイントを解説する。 (1) 事前照会の内容 日本国籍を有し米国の永住権も有していた甲は、米国の永住権を放棄するに際し、所有する資産について時価で譲渡したものとみなして所得税に相当する税(以下「米国出国税」という)を課されることとなる。 甲は、米国出国税を課された後に、日本の居住者として有価証券等を譲渡する予定である。このとき、甲の有価証券等の譲渡に係る事業所得、譲渡所得又は雑所得(以下「譲渡所得等」という)の計算における取得費は、米国出国税の課税上、譲渡されたものとみなされた有価証券等の時価の金額(以下「米国出国税時価額」という)となるのか。 (2) 外国転出時課税の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例 ある国で国外転出時に未実現のキャピタルゲインに課税され、転出先の国でキャピタルゲインが実現した際にも課税されると、同一のキャピタルゲインに対して二重に課税されることになる。 そこで、日本への転入者(居住者)が、外国転出時課税の規定の適用を受けた有価証券等を譲渡した場合には、外国転出時課税の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例として、譲渡所得等の計算における取得費を国外転出元の国で課税された時の時価にアップすることにより、二重課税を調整することとされている(所法60の4①)。 〈外国転出時課税の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例〉 (3) 外国転出時課税の規定とは (2)の外国転出時課税の規定とは、国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう)に相当する事由、国籍その他これに類するものを有しないこととなること等の一定の事由がある場合に、所得税法第60条の2第1項から第3項に規定される「国外転出時課税の特例」に相当する当該外国の法令の規定により、その有している有価証券等又は未決済信用取引等若しくは未決済デリバティブ取引の譲渡又は決裁があったものとみなして外国所得税を課することとされている場合における当該外国の法令の規定をいう(所法60の4③、所令170の3②)。 〈外国転出時課税の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例の適用要件〉 (4) 本件への当てはめ 本事例について、外国転出時課税の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例の適用があるというためには、次の①と②のいずれにも該当する必要がある。 米国永住権と米国出国税の規定について検討を加えた結果、上記①と②のいずれにも該当することから、本事例は外国転出時課税の適用を受けた場合の譲渡所得等の特例の対象となり、甲は米国出国税時価額を取得費として譲渡所得等の金額を計算することになると回答されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、研究報告として「グループ通算制度と実務上の留意点」を取りまとめる ~税務実務の参考となるよう制度の改正趣旨含め、実務上の留意点等を示す~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 日本公認会計士協会から、2022年4月14日開催の常務理事会の承認を受けて、2022年4月27日に『租税調査会研究報告第38号「グループ通算制度と実務上の留意点」』(以下「本研究報告」という)が公表された。 本研究報告は、日本公認会計士協会の会員がグループ通算制度の税務実務を行う際の参考となるよう連結納税制度からグループ通算制度への移行の背景も踏まえ、実務上の留意点等などを取りまとめて報告したものである。 まず、本研究報告では、その取りまとめの視点として次の事項を挙げている。 【本研究報告の取りまとめの視点】 本稿では、本研究報告に関し、①その情報の位置づけと特徴、②その情報のうち、実務家が注目すべき点について、端的に解説したい。 -本研究報告の位置づけと特徴- 日本公認会計士協会の各委員会で公表している業務実施に係る研究報告は、それ自体に規範性はないものの、基本となる報告書等の理解を促進し適切な適用を支援するためのもの(例えば、概念的枠組み、Q&A、適用に当たっての留意点の解説、ツールやチェックリスト等の例示など)とそれ以外(公表時点における特定のテーマについての論点整理や現状分析など)に大別される。 本研究報告は「法人税法上のグループ通算制度の適用における実務上の問題点について調査研究されたい。」という諮問に対して租税調査会が行った研究報告であるため、同じく日本公認会計士協会から公表される実務において規範となる「実務指針」とも異なるため、最終的に実務を拘束するようなルールや判断基準を示すものではない。 また、租税調査会は、税務実務に関する研究報告を対象とするため、「通算税効果額の授受に関する会計上の留意点について」(46頁)を除いて、会計処理(通算税効果額に係る会計仕訳や税効果会計の取扱い等)については記載されていない。 -実務家が注目すべき点- グループ通算制度の概要と改正の背景・趣旨については、内閣府税制調査会、財務省、国税庁の公表資料に基づいてまとめられている。そして、それらを踏まえて実務上の留意点を述べている。 1 通算子法人株式の取扱い(投資簿価修正と通算法人の株式の評価損益)(19~25頁) 本研究報告では、通算子法人株式の取扱い(投資簿価修正と通算法人の株式の評価損益)について、連結納税制度の問題点を含めたその改正の趣旨を次の事例を使って数値で示している。 【事例:連結納税制度とグループ通算制度における投資簿価修正についての設例】 通算子法人株式の取扱い(投資簿価修正と通算法人の株式の評価損益)の改正の背景・趣旨についての計算例による説明は他の公表資料・解説書等を含めてなかなか見かけないため、それを理解する上で大変有意義なものとなっている。 2 修更正に関する疑問点及び注意点等(40~41頁) 本研究報告では、修更正に関する疑問点及び注意点等について意見を述べているが、それをまとめると次のとおりとなる。 連結納税制度の見直しの趣旨・目的は事務負担の軽減と修更正の遮断措置の導入の2つにあるが、グループ通算制度になると本当に事務負担が減るのか、修更正の遮断措置は複雑すぎるのではないか、という疑問や不安を持つ企業や専門家が多い。 その点について、租税調査会の意見が述べられているのは興味深い。 3 グループ内の税金精算(45~48頁) 本研究報告では、どちらかというと税務より会計に係る論点である通算税効果額について意見を述べているが、それらをまとめると次のとおりとなる。 上記のとおり、通算税効果額について、グループ内で税金精算が行われることが一般的であると考えること、事務負担の増加が想定されること、通算親法人を通じて精算されることが予想されることが述べられている。また、税務調査で修更正があった場合の通算税効果額についてのコメントも添えられている。さらに、試験研究費の支出が全くない法人で税額控除が可能となる点を不合理と考えて、通算税効果額の精算によりその不合理を解消することが望ましいとしているのは興味深い。 4 グループ通算制度における租税回避規定の構造(52~53頁) 最後に、グループ通算制度における租税回避規定の構造についても本研究報告は意見を述べているので、ご参照いただきたい(52~53頁)。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2022年5月6日(金)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.468を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.112- 「米国の超富裕層課税が示唆するもの」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 米国バイデン大統領は、今年3月に米予算教書の中で、「超富裕層課税」を提案した(※)。米国の場合、議会に立法権限・予算策定権があるので、この提案が実現するかどうかは今後の議会の動向次第ということになる。 (※) Budget of the United States Government, Fiscal Year 2023 概要は以下のとおりである。 最大の注目点は、未実現資産(株式等)を時価評価してその益に課税するという点である。「2021年に米国のTop 700の富裕層の資産は1兆ドル以上増加したが、実現・未実現の総所得に対しては、わずか8%の税しか負担していない。これは、教員や消防士の税負担の半分以下である」(ホワイトハウス ファクトシート)ことが導入の理由となっている。 * * * なぜそのようなことが起きるのだろうか。 フランスの経済学者ピケティが言うように、資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回る結果、資本を多く持つ富裕層は、所得税が課せられても、再投資によって富を雪だるま式に増やしていく。 資産が毎年5%の収益(資産所得)を生み出すとして、そこに40%の所得税をかけた場合、税引き後の投資収益率は「5% ×(1-0.4)=3%」となり、資産そのものは増え続けるのである。 一方勤労所得の方は経済成長並みの伸びなので、双方の格差はますます拡大する。 実例を挙げれば、米国有数の金持ちであるバフェット氏の資産は、自身の投資会社バークシャー・ハサウェイの株式である。同社は配当は一切支払わず、投資利益は有望会社に再投資されるので、株式価値は上がり富は増え続けるが、保有している限り「所得」は実現していないので、課税されない。 これを「是正」するには、いまだ実現していない富に課税することが必要だ、というのがバイデン大統領提案である。富・資産の値上がり(含み益)に対して課税できないことは、所得税のアキレス腱と呼ばれてきたが、富・資産を時価評価して課税すれば対応できるというわけだ。 * * * これは極端に所得・資産格差のある米国特有の考え方なのか、それともr>gの世界への対応として先進諸国にも受け入れられる考え方なのか。 わが国では、資産性所得課税が議論になっているが、それだけでは格差への対応は十分ではないという米国流の考え方は、今後わが国の税制議論に少なからず影響を与えるであろう。 (了)