金融・投資商品の税務Q&A 【Q66】 「株式交付制度により譲渡した株式の譲渡所得の特例」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 株式交付制度の概要 株式交付は2021年3月1日に施行された改正会社法において導入された制度で、ある企業を買収する際に、株式交付子会社(対象会社)の株主に対して、株式交付親会社(買収会社)の株式を交付するという、株式を対価としたM&A手法のひとつです。従来の株式交換と類似していますが、株式交換が買収の対象となる会社の発行済株式の100%を取得する場合にしか用いることができないのに対して、株式交付は、対象会社の発行済株式を部分的に取得し、当該対象会社に既存株主を残すことが可能となる制度です。 また、株式交付親会社は、株式交付子会社の株主に対して、株式交付親会社の株式に加えて、金銭等他の財産を交付することも認められています。 2 株式交付制度に基づく株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例 (1) 株式等に係る譲渡所得等の課税の繰延べ 上記1の株式交付制度の導入に伴い、2021(令和3)年度税制改正において、株式交付子会社の株主に生じる譲渡益について、課税を繰り延べる措置が講じられています。 具体的には、個人が有する株式を発行した法人を株式交付子会社とする株式交付によってその有する株式を譲渡し、その株式交付に係る株式交付親会社の株式の交付を受けた場合には、その株式の譲渡をなかったものとみなすというものです。 ただし、株式交付により交付を受けた株式交付親会社の株式の価額が、その株式交付により交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちに占める割合が80%に満たない場合は、この措置の対象外とされています。また、株式交付により交付を受けた金銭等の資産(株式交付親会社の株式を除きます)がある場合には、その金銭等の資産に対応する部分についても、この措置の対象外となります(つまり、課税の繰延べの対象となるのは、譲渡益のうち、株式交付割合(※1)を乗じて計算した金額に相当する部分のみです)。 (※1) 株式交付割合 (2) 株式交付親会社の株式の取得価額 上記(1)の適用を受けた個人が交付を受けた株式交付親会社の株式に係る取得価額は、次に掲げる金額の合計額とされています。 3 本件へのあてはめ 株式交付制度に基づいてA社株式の譲渡を行うとのことですので、譲渡益に対する課税の繰延べ措置の適用が考えられます。また、株式交付親会社の株式以外に、金銭の交付を受けることから、課税の繰延べの対象となるのは株式の交付に係る部分のみとなります。 (適用の可否判定) (1) 株式等の譲渡に係る譲渡所得の金額 (2) 株式交付親会社の株式の取得価額 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第41回】 「譲渡前に買換資産を取得している場合」 -買換資産の取得期間- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、18年程前から住んでいた家屋Aを買い換えるため不動産仲介業者に売却と購入を依頼していたところ、家屋Aの買手が見つかる前に希望どおりの物件が見つかったので、住宅ローンを組んで家屋Bを購入し、昨年の10月に家屋Aから家屋Bに転居しました。 転居後、家屋Aは空き家となっていましたが、本年4月に買手が見つかり家屋Aを売却したところ、多額の譲渡損失が発生しました。 買換資産の取得期間以外の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る買換資産については、譲渡の日の属する年の前年1月1日から、その譲渡の日の属する年の翌年12月31日までの間に取得をし、かつ、その取得の日からその取得の日の属する年の翌年12月31日までの間に譲渡した個人の居住の用に供すること、又は供する見込みであることとされています(措法41の5⑦一)。 また、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」にも、「居住用財産の特別控除(措法35②)」と同様に、その居住用家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合には当該譲渡に該当すると規定されています(措法41の5⑦一ロ)。 したがって、本事例の場合、Xは家屋Aの譲渡年の前年に家屋Bを取得し、また、家屋Aを居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する年の年末までに譲渡していることから、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができます。 (了)
〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第4回】 「再調査の請求(異議申立て)の効果的な利用の仕方」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 職権主義の審理の理解 (1) 再調査の請求は「税務調査」の延長線上 再調査の請求は、その上級に位置する審査請求・訴訟に比して、簡易迅速な納税者の権利救済を志向しているが故に、審査請求・訴訟のような納税者と原処分庁との対審構造を意識した制度設計とは異なるものとなっている。 具体的には、再調査の請求は、処分をした行政庁自身をして当該処分の当否について(その名のとおり)再調査をさせることを目的としており、国税通則法、国税徴収法及び租税特別措置法等の国税に関する法律の規定による当該職員の質問検査権等に基づいて行われる。 したがって、それには対立当事者といった概念の介入する余地はなく、二当事者の対立構造を前提とする主張や立証責任の法理の適用もないとされている。 (2) 審理面に精通した調査官による調査の見直し しかし、審理の公正を保障する趣旨から、原処分担当者以外の者(具体的には、各課税第1部門所属の不服申立担当調査官)を再調査審理の担当者とする取扱いをしており、仮に、原処分担当者の主観に多分に依拠した判断がなされていた場合には、その異なる(より審理面に精通した)調査官による判断の修正が期待される。 2 「違法性」のみならず「不当性」も審理の対象 (1) 処分の「違法」と「不当」 審査請求の条文である国税通則法第102条第2項は、「違法若しくは不当を理由として裁決で取り消され」と規定しており、裁判所の審理範囲である「違法」のみならず、「不当」が処分の取消事由になることを明記している。 再調査の請求は審査請求の前段階の審理であるが、行政庁による審理であることには変わりなく、同様に「違法」のみならず「不当」も審理対象とすべき(※)と考えられている。 (※) 中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所、1989)4342頁参照。 この「違法」と「不当」の審理範囲は以下の図で整理される。 (2) 違法な処分 違法な処分とは、法令に違反した処分のことで、具体的には以下の2つの類型がある。 (3) 不当な処分 これに対し、不当な処分とは、法令上必ずしも違法とまではいえないが妥当とはいえないものをいい、裁量権の逸脱・濫用に至らない程度の不合理な行使についても、処分を取り消すか否かの審理対象となる。 これは、税務行政が国民の財産を侵害する「課税」という徴税権力を有し、その権力行使に対する自己反省機能として再調査の請求(及び審査請求)が位置付けられていることに基因する。 (4) 「不当」の具体例 「不当」の具体例としては、青色申告の承認取消しが「できる」規定であることによる、税務署長が承認の取消しをしたことの適否を争う審理が挙げられ、このような原処分庁の裁量に委ねられている規定について「不当」を争うことになる。 (5) 「不当」を理由に裁判所で争うことができない 前述のとおり、裁判所の審理範囲は「違法」のみであり、「不当」を理由として出訴することができないことから、特に「不当」を理由として争う場合には、再調査の請求(及び審査請求)の段階で権利救済を求め、積極的に主張立証することが望まれる。 3 口頭意見陳述 (1) 口頭意見陳述とは 再調査の請求の審理手続は職権主義を基調としており、対審構造を意識した制度設計とは異なるといえども、不服申立てという事後的な納税者の救済であることを前提として、当事者主義的構造の長所はできる限り採り入れるべきとの思考に基づいて用意された手続が口頭意見陳述である。 すなわち、口頭で意見を述べる機会を付与することによって、以下の長所を制度的に取り込もうとしている。 (2) 申立てをすれば機会は与えられる 申立てがあった場合には、再調査審理庁はその機会を与えなければならないため、その陳述が行われないままされた再調査決定は違法となる。 日時はできる限り再調査の請求人の希望が尊重されるが、あまりに将来の日程を希望するといった審理の進行にネガティブな影響を与える希望は叶わないことがある。 (3) 対象となる事項 口頭意見陳述はその申立人が再調査の請求に係る事件に関する意見を述べるものであり、その事件に関係のない事項(原処分担当者に対する誹謗中傷など)については制限される。 具体的には、録取書の取りまとめの都合上、陳述内容の概要について事前に電話等で聴取され、その内容が事件に関係があるか否かを事前に判断し、関係がある事項の範囲内で当日の陳述を許可するといった運用が想定される。 (4) 職員による陳述事項の聴取 再調査審理庁は、必要があると認めるときは、その行政機関の職員に、申立人の意見の陳述を聴かせることができる。 審査請求の場合には、陳述の場に原処分庁側の職員(不服申立担当調査官及び国税局課税部審理課職員)を同席させて、自らの陳述を聞かせるか否かを決めることができるほか、請求人から当該職員に対して質問を発することができる。 一方、再調査の請求の場合には、原処分庁側の職員を同席させるか否かは審理庁の裁量に委ねられており、請求人からの質問は認められていない。 いずれにせよ、請求人から「原処分調査をした調査官本人を出席させて陳述を聴かせたい」という要望を行ったとしても、実際の運用においては、大方のケースで実現しないものと思料される。 4 再調査の請求に向く事案 再調査の請求は税務調査の延長線上であり、税務調査の見直し(再検証)という性格を帯びる以上、原処分調査時の調査官による「事実関係の把握の誤り」及び法令解釈に当該事実を当てはめる段階の「事実認定の誤り」を是正したい場合に向いている。 一方、事実関係に争いはなく、当該規定の法令解釈の相違に基づく事案は、再調査の請求における救済の可能性は遠く(付言すれば、審査請求における救済の可能性も遠く)、訴訟の提起を見据えた事前活動と考えた方がよい。 したがって、 といった場合には、再調査の請求段階から主張・立証活動を行うことが効果的であろう。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第59回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (3) 法人税法施行令18条の2第1項・第2項 ア 法人税法施行令18条の2第1項 法人税法施行令18条の2第1項は次のとおり定めている。 これは、例えば、資産の販売等に係る収益について、引渡し等事業年度で値引きや割戻し等を見積もり、その分を差し引いて益金の額を計上し、その後、引渡し等事業年度後において、当初見積額等の修正を行った場合に、その修正を行った事業年度で、その修正を課税所得計算に反映させるための規定である。 条文を整理すると次のようになる。 法人税法施行令18条の2第1項について、立案担当者は、次の諸点を述べている(財務省『平成30年度 税制改正の解説』278頁)。 補足すると、上記要件④があるから、修正の経理をした事業年度の所得の金額の計算に反映するといっても、それは法人税法22条の2第4項の範囲内の額ということになる。 法律効果部分を見れば明らかなように、遡って修正することを認めているわけではない。 上記要件③にあるように引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算において修正の経理をしたことを前提として、その修正の経理により増加又は減少した収益の額相当額について、その修正の経理をした事業年度の益金の額又は損金の額に算入する、ということである。 もちろん、ご都合的に修正の時期を選択できる、どのような修正経理でもいい、というわけではない。上記要件②で、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを求めていることに注意が必要である。基本的には、収益認識会計基準がこれに含まれることを所与のものとしているのであろうか。 上記要件②に関連して、法人税基本通達2-1-1の11(注)2は、引渡し等事業年度における資産の販売等に係る収益の額につき、その引渡し等事業年度の収益の額として経理していない場合において、その後の事業年度の確定した決算において行う受入れの経理(その後の事業年度の確定申告書における益金算入に関する申告の記載を含む)は、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って行う修正の経理には該当しないことを留意的に定めている。 このような場合は、本来計上すべきであった事業年度、すなわち、引渡し等事業年度の収益の額として処理しなければならないという。 イ 法人税法施行令18条の2第2項 上記要件②では、引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算における修正の経理を求めているが、別途、申告調整による修正の経理も認めるための手当てが法人税法施行令18条の2第2項においてなされている。 同項は次のとおり定めている。 これは、当初申告による申告調整により、引渡し等事業年度後の事業年度の確定した決算において修正の経理をした場合と同様の所得の金額の計算を可能にさせるための規定である(財務省『平成30年度 税制改正の解説』279頁)。 法人税法22条の2第2項と第3項の関係を彷彿とさせる規定である(本連載第31回参照)。 つまり、この法人税法施行令18条の2第2項を適用する場合にも、第1項に係る一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことを求める同項の②の要件を満たす必要があるという議論をなしうる。このことは、法人税法22条の2第2項と第3項の場合と同様である。 この法人税法施行令18条の2第2項によって「みなされる」のは、「その増加させ、又は減少させる金額につき当該事業年度の確定した決算において修正の経理をした」ことにすぎず、第1項にいくつか定められている同項の適用要件のうちの一部にすぎないことに留意する必要があろう。 (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第10回】 「履行義務の充足による収益の認識②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、今回も、履行義務の充足による収益の認識について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 履行義務の充足 企業は約束した財又はサービスを顧客に移転することにより、①履行義務を充足した時に又は②充足するにつれて、収益を認識する(収益認識会計基準35項、38項、39項)。 Ⅲ 一時点で充足される履行義務(収益認識会計基準) 1 概要 収益認識会計基準38項(1)から(3)の要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識する(収益認識会計基準39項)。 資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定するにあたっては、収益認識会計基準37項の定めを考慮する。 収益認識会計基準37項は、資産に対する支配について規定しており、それは当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む)のことである。 2 支配の移転を検討する際の指標 支配の移転を検討する際には、例えば、次の①から⑤の指標を考慮する(収益認識会計基準40項)。 Ⅳ 一時点で充足される履行義務(収益認識適用指針) 前述の収益認識会計基準40項の支配の移転を検討する際の指標については、次の事項を考慮する(収益認識適用指針14項)。 Ⅴ 資産に対する支配の概念の重要性 1 資産に対する支配 前述のように、財又はサービス(資産)を顧客に移転することにより、収益を認識するのであるが、資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する「支配」を獲得した時又は獲得するにつれてである(収益認識会計基準35項)。つまり、資産に対する支配の概念に基づいて収益を認識することになる。このため、収益認識会計基準を理解するためには、支配の概念を理解することが重要であると考えられる。 そして、収益認識会計基準37項では、資産に対する支配を定義し、それは当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの「便益」のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む)である(収益認識会計基準37項)。 なお、収益認識会計基準は、顧客との契約の対象となる財又はサービスについて、「資産」と記載していることがある(収益認識会計基準35項)。財又はサービスは、瞬時であるとしても、受け取って使用する時点では資産である(収益認識会計基準133項、134項)。 2 資産からの便益 資産からの便益とは、例えば、次の方法により直接的又は間接的に獲得できる潜在的なキャッシュ・フロー(インフロー又はアウトフローの節減)である(収益認識会計基準133項)。 3 顧客の観点からの支配の移転 収益認識会計基準37項における支配の移転は、財又はサービスを提供する「企業」、あるいは当該財又はサービスを受領する「顧客」のいずれの観点からも判定できる(収益認識会計基準132項)。 「企業」が支配を喪失した時、又は「顧客」が支配を獲得した時のいずれかであり、通常、両者の時点は一致する。 企業が顧客への財又はサービスの移転と一致しない活動に基づき収益を認識することがないよう、「顧客」の観点から支配の移転を検討する。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第17回】 「虚偽の被害申告への対応策」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社の社員Aから、「上司Bからハラスメントを受けている」との申告がありましたが、上司Bはこれを否定していました。そこで、社内調査を実施しましたが、上司Bが主張するとおりハラスメントはなかったのではないかと感じています。 しかし、他方で、社員Aは涙ながらに被害を訴えており、供述内容は自然で一貫していて、具体的で迫真性もあります。また、社員Aの普段の勤務態度は良好であり、嘘をつくような人間であるとは思えません。 このような場合、社員Aの申告を虚偽であると認定してよいのでしょうか。また、かかる結果を社員Aに共有する場合、どのような点に気をつけるべきでしょうか。 【Answer】 被害者の供述内容が自然で一貫しており、具体的で迫真性があったとしても、被害者の申告が事実でないと認定せざるを得ない場合はあります。被害者に対して被害者の申告が事実でないとの結論に達した旨を報告する際には、被害者の精神状態に配慮し、場合によっては医師のアドバイスを得たうえで行うのがよいでしょう。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 被害者の申告が事実でない場合 ハラスメントの被害申告がなされた場合、会社は事実関係の調査を実施することになるが、その結果、被害申告が事実ではないとの結論に至る場合は少なくない。ただし、被害申告が事実ではないからといって、必ずしも被害者が意図的に虚偽の被害を申告したことを意味するわけではない。被害申告が事実でないパターンとしては、大きく分けて次の2つがある。 まず、1つ目のパターンとしては、被害者自らが自分の申告が虚偽であることを理解しつつ意図的に虚偽の申告を行う場合である。供述の信用性については供述者単位ないし供述単位で判断し、供述単位の信用性判断基準としては、供述内容に変遷があるか、流れが自然で一貫しているか、具体的で迫真性があるかなどが挙げられるが(拙稿第6回参照)、被害者が意図的に虚偽の被害申告を行っている場合には、被害者の供述には変遷や不自然な点、矛盾などが見られることが多い。また、被害者がハラスメントの被害者として周囲の好奇の目にさらされるリスクを甘受し、加害者を貶めてまで意図的に虚偽の申告を行う以上、何らかの強い動機が認められることも多い(※)。 (※) 例えば、学校法人A学院ほか事件判決(大阪地裁平成25年11月8日判決)は、C女がD男に対して交際を求めたが、D男は交際を明言しないままC女と性的関係を持ち、最終的には一方的にC女との関係を絶ったとの事実認定に基づき、C女がD男に対する怒りからD男を加害者とする虚偽のセクハラ被害の申告をしたと判断している。また、筆者の経験では、注目や同情を集めたいといった理由や、自己のパフォーマンスの低さをハラスメントの被害を受けたせいにする目的で虚偽の申告がなされたケースがあった。 よって、被害者が意図的に虚偽の被害申告を行っている場合は、被害者の申告が虚偽であることを見分けることが比較的容易である。 2つ目のパターンとしては、被害者自身には自分の申告が事実に反しているとの認識がない場合である。例えば、筆者が経験したケースでは、被害者が思い込みにより、上司の言動が全て自分を退職させるための言動であると受け止めていたケースや、折り合いの悪い上司からの異動命令を嫌がらせであると捉えて申告を行ったケースがあった。 このパターンにおいては、被害者本人は申告が事実であると信じているため、供述は一貫して自然であり、具体性・迫真性があることが多い。また、被害者自身、真面目で周囲からの評判も悪くないことが多い。よって、このパターンにおいては、会社が被害者の供述が事実に反していることを見抜くことが難しく、また、そのように認定することに躊躇いを覚える場合が多いため、ハラスメントの「えん罪」に繋がる可能性がある。そこで、会社においては、このような形で被害者の虚偽申告が行われることがありうることを念頭に置いて調査を進めるべきである。 2 被害者の申告が事実とは認められないとの結論に至った場合の留意点 被害者の申告が事実とは認められないとの結論に至った場合、会社において、被害者にその旨の調査結果を共有することになるが、この際に注意すべきは、被害者が精神的な不調を抱えている可能性が高いということである。特に上記2つ目のパターンの場合は、被害者自身はハラスメントを受けたと感じているのであるから、その精神的負担は実際にハラスメント被害を受けている場合と同程度であり、被害者は、会社がハラスメントを認定して適切な処理を行ってくれると信じて申告を行っているわけである。それにもかかわらず、自分の主張が事実でないと判断され、ハラスメントの加害者には何の処分も下らず、現状が改善することもないと知らされるわけであるから、そのショックは計り知れず、更なる精神的不調をもたらす可能性がある。よって、特に、被害者がメンタル不調であることを会社が把握している場合は、調査結果の共有に際しても十分に気をつける必要がある。 そこで、産業医がいる会社においては、被害者に調査結果を共有するに際して、産業医にアドバイスを求めることも一案である。医師のアドバイスを受けておくことで、実際に問題が起きるリスクを軽減することができるし、問題が起きた場合のリスクヘッジにもなるためである(筆者も、ハラスメント事案において、精神的な不調を抱える被害者に対して被害者の意に沿わない調査結果を報告する際に、産業医のアドバイスを得たことがある)。 他方、産業医がいない場合には、被害者の主治医にアドバイスを求めることが考えられるが、主治医は患者の診療内容について守秘義務及び個人情報保護法上の義務を負うことから、主治医にコンタクトをとるに当たっては、事前に被害者の同意を得ておく必要がある。 また、虚偽のハラスメントの被害申告は、加害者に対する誤った懲戒処分(重い場合は懲戒解雇)や加害者の名誉毀損を招くおそれのあるものであり、意図的にこれを行うことは到底許されるものではない。よって、少なくとも上記1つ目のパターンの虚偽申告については、被害者を懲戒処分等の対象にすることも検討するべきである。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第20回】 「電子的な受取証書の提供」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 鏡味 靖弘 〔質 問〕 民法486条2項の新設により可能となった「電子的な受取証書の提供の請求」とはどういった内容のものでしょうか。 〔回 答〕 現行法では「書面」の受取証書の交付請求権(交付義務)のみを規定していたが、今回の改正(民法486条2項の新設)により、弁済者は、書面の受取証書の交付又は電子的な受取証書の提供のいずれかを選択して請求することが可能になりました。 電子的な受取証書には、書面による場合と同様、受領文言及び債務を特定することができる情報が記録されていれば足り、弁済者がこれを保存あるいは閲覧し得る状態となれば、「提供」があったとされます。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 令和3年5月12日成立の「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)により、民法486条2項が新設され、受取証書(領収書)の交付請求に代えて、その内容を記録した電子データ(電子的な受取証書)の提供を請求することができることとなった。 電子商取引が増加する今日において、書面による受取証書を受領するよりも、保存等が容易な電子的記録の提供を受ける方が弁済者にとって便利とされる場面が増加している。他方、弁済受領者にとっても、受取証書の印刷・郵送等にかかる費用負担が増大するという場面が生じている。 このような社会状況の変化に加え、取引実務における一層のデジタル化に鑑み、今回の法改正がなされた。 1 民法486条2項(新設)の文言内容 今回新設される民法486条2項の文言は以下のとおりである。 2 電子的な受取証書に記録すべき情報(民法486条2項「その内容」) 電子的な受取証書に記録すべき情報については書面の場合と同様であり、受領文言と債務を特定することができる情報が記録されていれば足りる。金銭債務の場合であれば、通常は、①弁済受領者(債権者)、②弁済者(債務者)、③弁済の日付、④特定の債務の弁済として一定金額が受領された旨の情報、が記録されていれば十分であろう。 なお、上記はあくまで民法上の要件について述べるものであり、税務関係等、他の法令上の要件と合致するとは限らない。 3 電子的な受取証書の提供方法(民法486条2項「電磁的記録の提供」) 電子的な受取証書をどのような方法で提供する必要があるのかというと、弁済者が当該電子的受取証書を保存又は閲覧できる状態におけば足りる。 例えば、アプリを通じて弁済者がこれを見ることができるようにした場合、弁済者宛てにメール添付の方法で送信した場合、弁済者がオンライン上で見られるような状態にした場合等である。 電磁的記録の形式については定めがなく、弁済者が特定の形式を指定しなかった場合、一般的な形式(PDFファイル、メール本文への記載など)又は特殊な形式であっても弁済者が利用できるもの(弁済者が利用可能なアプリ上の画面表示)で提供すれば足りる。 4 弁済者から双方を請求された場合(民法486条2項「前項の受取証書の交付に代えて」) 弁済者から「書面受取証書の交付」及び「電子的受取証書の提供」の双方について請求があった場合、弁済受領者は両方に応じる義務はない。 ただし、特約によって双方に応ずべきこととされている場合にその特約に従うべきことは当然である。 5 「民法上の受取証書」と「消費税の仕入税額控除の適用を受けるために保存が必要となる請求書等」の関係性 「民法上の受取証書」と「区分記載請求書等」では、必要とされる記載事項が異なるが、「民法上の受取証書」に「区分記載請求書等」として必要な事項が記載されていれば、これを保存することで消費税の仕入税額控除の適用を受けることができる。 また、令和5年10月より、いわゆる「インボイス制度」が導入されるところ、「民法上の受取証書」に「適格請求書(インボイス)」として必要な事項が記載されていれば、これを適格請求書(インボイス)とすることが可能である。 6 施行日 この法律の施行日は令和3年9月1日である。 (了)
2021年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応 【後編】 PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー 公認会計士 北尾 聡子 2021年6月11日に公表された改訂コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)に対応して、上場会社は2021年12月30日までに「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」を提出することが求められている。また、プライム市場上場会社向けの原則に関する実施状況については、遅くとも2022年4月4日以降に開催される定時株主総会の終了後に提出することが求められている。 後編では、「1 取締役会の機能発揮」に続き、2021年改訂コードの主な内容とそれに対応する実務上のポイントについてご説明する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 2 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保 企業がコロナ後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現する上では、取締役会のみならず、経営陣にも多様な視点や価値観を備えることが求められる。そのためには、管理職層(中核人材)においてジェンダー・国際性・職歴・年齢等の多様性が確保され、将来的に取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが重要と考えられる。従前より【原則2-4】において、女性の活躍促進を含む社内の多様性確保が求められていたが、より強化する観点から、2021年改訂コードで【補充原則2-4①】が新設され、多様性確保の観点で「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用」が具体的に示された。取締役会が、主導的にその取組みを促進し監督することが期待される。 3 支配株主を有する上場子会社における少数株主保護 支配力を持つ主要株主(支配的株主)を有する日本の上場会社の割合は、諸外国に比べ高く、少数株主を保護するためのガバナンス体制の整備が重要との指摘がなされてきた。取締役会として、支配株主からの独立性と株主共同の利益の保護を確保するための手立てを講ずる必要があり、今回の改訂において【補充原則4-8③】が新設されている。 〈2021年改訂コードが求める独立社外取締役の選任割合〉 (※1) 業種・規模・事業特性・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して判断。 (※2) 独立社外取締役を一定割合選任するか、又は独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべき。 (出所) 2021年改訂コード(【原則4-8】及び【補充原則4-8③】)を基に筆者が作成。 4 サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み/事業ポートフォリオの検討 企業が、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を重要な経営課題として積極的・能動的に対応しなければ、中長期的な企業価値の向上の実現は難しいといえるだろう。人的資本への投資や知的財産の創出が企業価値に与える影響が大きいことから、経営資源の配分等が企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うことが必要となる。また、事業ポートフォリオ戦略(適時適切な見直しを含む)の実行に関しても、企業の持続的な成長に資するよう取締役会が実効的に監督し、かつ分かりやすく開示することで、建設的な対話が促進されることが期待される。 さらに、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動等に与える影響について関心が高まる中、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)又はそれと同等の枠組みに基づく開示を行うことが重要であると考えられる。実務上の対応としては、自社におけるサステナビリティへの取組み、事業ポートフォリオ戦略、これらの開示に関して2021年改訂コードに照らした対応を検討することが望まれる。 5 監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理 中長期的な企業価値の向上を実現するための基礎として、適切なコンプライアンスの確保と経営者による適切なリスクテイクを支える環境を整備し、全社的なリスク管理体制の構築と内部統制部門を活用した運用状況の監督が求められている。 また、現状内部監査部門がCEO等のみの指揮命令下となっているケースが大半を占めるが、内部統制部門から取締役会及び監査役会に直接報告を行う仕組みを構築することで、経営陣幹部による不正事案等の発見・防止に有効に機能することが期待される。監査に対する信頼性を確保するためには、監査役が取締役や経営者から独立した立場で監査を実施することが必要であり、適切な手続きを経て監査役が選任されるべきである。現状実務の再確認と2021年改訂コードに照らした必要な対応を検討することが求められる。 6 株主総会関係 株主がその権利を行使することができる適切な環境の整備、例えば議決権電子行使プラットフォームを活用することにより株主総会の招集通知を即日入手可能とし、議案内容を検討する時間を十分確保するといった対応を行うことにより、株主との建設的な対話の場である株主総会がより実効性の高いものとなると考えられる。 英語での情報開示・提供に関しては、従前より【補充原則1-2④】及び【補充原則3-1②】において、海外投資家比率等を踏まえ招集通知の英訳を進めるべきとされていたが、2021年改訂コードでは、海外投資家にとって魅力の高い市場を志向するプライム市場を選択する企業に対して、必要な開示書類を英文で開示することが求められることになった。プライム市場を選択する企業は、議決権電子行使プラットフォームの利用並びに英語での開示書類の範囲について検討することが求められることに留意が必要である。 7 株主との対話の対応者(監査役も追記) 監査役も取締役と同じく株主への受託者責任を有することに鑑みれば、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、機関投資家の希望と面談の主な関心事項も踏まえた上で、合理的な範囲で面談に臨むことを基本とすべきであるとの考え方から、株主との面談の対応者に、監査役を含める改訂が行われた。独立社外取締役とともに、経営陣から独立した立場で、監査役が株主との建設的な対話に臨むことが期待される。 〔おわりに〕 コードは「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)、「コンプライ・オア・エクスプレイン」を採用しているものの、まだ十分に理解されていない懸念があるとの意見が、パブリック・コメントにおいて見られた。投資家との建設的な対話の実現に向けて、コンプライ(実施)しない場合には、丁寧にエクスプレイン(説明)することが必要である。 また、ここでは触れなかったが、2021年コード改訂と一体的に改訂された「投資家と企業の対話ガイドライン」について、特にプライム市場を選択する上場企業においては、果敢に取り組むことが期待される。 (連載了)
《速報解説》 監基報315の改正を受け、 会計士協会がITに関する監査人の手続に係るQ&Aを取りまとめる ~「ITの利用から生じるリスクとは何か」に始まり、実務で参考となる全42問を収録~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年8月6日、日本公認会計士協会は、「ITの利用の理解並びにITの利用から生じるリスクの識別及び対応に関する監査人の手続に係るQ&A」(IT委員会研究報告第57号)を公表した。これにより、2021年4月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、2021年6月8日付けで改正された監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」の公表に伴い、ITに関連する実務上の留意事項をQ&A形式で取りまとめたものである。 同日付けで、「IT委員会報告第1号関係用語集」(IT委員会研究報告第24号)の廃止も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究報告は、目次を含めて69ページに及ぶものであるので、以下では主なものについて解説する。 1 ITの利用から生じるリスク ITの利用から生じるリスクとは、企業のITプロセスにおける内部統制のデザインもしくは運用が有効でないことにより、情報処理統制が有効にデザインもしくは運用されない可能性又は企業の情報システム内の情報のインテグリティ(すなわち、取引及びその他の情報(データ)の網羅性、正確性、正当性)に対し引き起こされるリスクをいう(Q1)。 2 監査人が理解する必要のある、企業のITの利用状況及びIT環境 監査人は、企業の事業上のリスクが財務諸表に与える影響を踏まえて、重要な虚偽表示リスクを識別することに役立てるために、企業のビジネスモデルにおけるITの利用状況を理解する必要がある(Q5)。 また、財務諸表の作成に関する企業の情報システムと伝達を理解するためや、ITの利用から生じるリスクとアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクとの関連性を考慮しつつ、それぞれに対応する内部統制のデザインの評価と業務に適用されているかの判断を実施するために、IT環境を理解する必要がある(Q5)。 3 監査業務にITの専門的なスキルを有するチームメンバーを関与させる際の留意点 例えば、企業においてIT化された環境が構築されていることにより、ITを利用した複雑な情報システムとなっている等、監査人の知識や技術では十分な対応が困難な場合や、監査人が実施するよりも効率的に実施可能と認められる場合には、ITの専門的なスキルを有するチームメンバーを関与させることを積極的に検討する(Q7)。 ITの専門家を関与させる際の考慮事項としては、①業務指示の際の合意及び②監督及び監査調書の査閲が挙げられる(Q7)。 4 自動化された情報処理統制のデザインと業務への適用の評価 業務プロセスの理解と業務への適用の評価は、通常は業務の主管部門、実施部門にて実施するが、システム上のデータの流れ等について、業務の主管部門、実施部門だけでは確認できない場合には、別途システム部門に確認することになる(Q13)。 システム上のデータの流れを追跡するには、例えば、次のような事項を実施する。 5 開発中のシステム 開発中の情報システムについて、ITの利用から生じるリスクに対応するIT全般統制についても、他の監査対象項目と同様に、財務諸表全体レベル及びアサーション・レベルの2つのレベルでのリスクを識別し評価することが重要となる(Q14)。 監査対象期間中は開発が完了せず、業務プロセスにおいて利用される見込みもない場合は、監査対象期間において財務諸表に影響を及ぼすリスクはないものと思われると記載されている(開発遅延や中止となった場合を除く)。 しかしながら、翌期以降に利用されることが予定されている情報システムについても、情報システムの開発が終了し実際に稼動してからではなく、企画段階又は開発段階から監査人が概要を把握し、財務諸表に重要な影響を与えるような課題を認識した場合は、是正を求めたり協議したりするなどの対応を行うことがある。 6 電子承認 承認行為に関する監査人にとっての基本的な留意点は、紙の伝票への押印による承認でも電子承認でも同じであり、次の事項を満たす承認行為でなければ有効な内部統制として機能しないことに留意する(Q16)。 7 売上を自動的に計上するシステム 売上を自動的に計上するシステムの場合は、企業の採用している会計方針や適用される収益認識に係る会計基準に従った処理が、システムによって実行可能であること、又は、適切な決算整理仕訳により調整可能であることが財務報告の信頼性を確保するための前提となる(Q18)。 次の事項について記載されている。 8 委託業務に関する内部統制の評価 委託業務の形態には、ハウジング、ホスティング、共同センター、ASP(Application Service Provider)、クラウドサービスがあげられる(Q29)。 委託業務に関する内部統制を検証する場合、委託会社監査人は、監査基準委員会報告書402「業務を委託している企業の監査上の考慮事項」に従って内部統制の評価を実施する(Q30)。 9 仕訳テスト 仕訳テストとは、監基報240「財務諸表監査における不正」 31項(1)にある財務諸表作成プロセスにおける特定の仕訳入力及び修正について検証するために仕訳データを対象として実施する手続である(Q33)。 仕訳テストを実施する際の留意点、コンピュータ利用監査技法(CAAT)の利用などが記載されている。 10 IT全般統制に不備があった場合の取扱い IT全般統制は、「IT環境の継続的かつ適切な運用を支援する企業のITプロセスに係る内部統制」(監基報315 第12項(4))をいう(Q36)。 IT全般統制の不備の存在が、ただちに情報システムの内部統制に依拠できないという結論につながるものではなく、当該不備が情報処理統制等の有効性に影響を与えているか否かを検討することが必要となり、次のような対応を取ることになる。 (了)