《速報解説》 会計士協会、「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」の再公開草案を公表 ~草案に寄せられた財務報告の枠組みの考え方に対する意見を受け見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月8日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会研究報告「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」」(再公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2021年1月18日に公表し、意見募集していた公開草案を見直し、再公開草案として、意見募集を行うものである。 意見募集期間は2021年6月29日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 公開草案に対する意見 公開草案に対して、適用される財務報告の枠組みの考え方、特に、キャッシュ・フロー計算書の会社法上の取扱いを明示し、また、2つの財務報告の枠組みが同時に適用された財務諸表(監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」のA30項)の取扱いについても考慮すべきとの意見が寄せられた。 研究報告が対象としている一体書類に含まれる財務諸表に対する監査報告書については、適用される財務報告の枠組みをどう考えるか、また、会社法に基づく監査の対象をどう考えるかによって、様々な考え方があり、いまだ確立した考え方がないと考えられている(17項)。 様々な考え方があることから、研究報告(再公開草案)は、次の監査報告書の文例を示している(17項)。 2 適用範囲 研究報告は、金融商品取引法及び会社法に基づく監査において、一体書類として作成された「有価証券報告書兼事業報告書」に含まれる財務諸表及び連結財務諸表(以下「財務諸表」という)に対する監査報告書に関して、現時点で考えられる作成上の留意点及び文例を取りまとめたものである(1項)。 研究報告は有価証券報告書と事業報告等を一体の書類として同時に開示する「一体書類」としての有価証券報告書兼事業報告書に含まれる財務諸表に対する監査報告書を対象としている(3項)。 3 財務報告の枠組み 一体書類に含まれる財務諸表に対して監査を行う場合、財務報告の枠組みの組合せについて、次の2つの解釈があると考えられる(7項)。 研究報告は、新たな実務として、これらの方法のうち、金融商品取引法及び会社法それぞれの財務報告の枠組みに関して別個の監査報告書を発行せず、単一の監査報告書を発行する場合の監査報告書の文例を提供している(7項。付録文例1から文例4)。 研究報告においては、一体書類に「適用される財務報告の枠組み」は、金融商品取引法の財務報告の枠組み(金融商品取引法193条)及び会社法の財務報告の枠組み(会社法431条)の両方が「同時に」又は「組み合わせて」適用されるという考え方に拠っており、会計処理に関する基準は金融商品取引法及び会社法に共通であるものの、表示及び開示に関する規則は異なるものである(18項)。 4 キャッシュ・フロー計算書 キャッシュ・フロー計算書については、次の2つの考え方がある(8項)。 研究報告では、2つの財務報告の枠組みを同時に適用すると考えるがキャッシュ・フロー計算書を会社法に基づく監査の対象とする場合、及び単一の財務報告の枠組みを適用すると考えるがキャッシュ・フロー計算書を会社法に基づく監査の対象としない場合については、取り扱わないとのことである(8項)。 なお、詳しくは「財務報告の枠組みの考え方と監査報告の関係の整理」の図表をご確認いただきたい。 5 一体書類に含まれる財務諸表に対する監査報告書と内部統制監査報告書の一体作成 有価証券報告書提出会社が金融商品取引法及び会社法に基づき一体書類を作成する場合であっても、財務諸表監査に係る監査報告書と内部統制監査報告書を一体として作成することを妨げる重要な理由が見当たらないことから、研究報告においては一体として作成することとしている(22項)。 (了)
2021年6月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.423を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第96回】 「節税義務なるものの正体(その2)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 善管注意義務と節税義務 1 税理士法1条と税理士の責任 税理士法1条《税理士の使命》は次のように税理士の使命を規定する。 前述の東京地裁平成9年10月24日判決は、税理士法1条がこのように規定していることを示した上で、次のように説示している。 なぜ、税理士法1条から、このような具体的な税理士に課されるべき「有利な税務上の処理方法を選択すべき義務」まで導出することができるのであろうか。 「税務に関する専門家」であるから、そのような義務は当然のものというのであろうか。あるいは、「納税義務者の信頼にこたえ」る必要があるから、かかる応答義務の一環として、「有利な方法を選択すべき義務」が認められるというのであろうか。そうであるとすれば、これも前述した②事件(東京高裁平成7年6月19日判決)が、「税理士は税務の専門家であるから、税務に関する法令、実務の専門知識を駆使して、依頼者の要望に適切に応ずべき義務がある。」と示したところと同様の理解であろう。 いずれにしても、説明の仕方としては、上記東京地裁平成9年10月24日判決の説示だけでは、かかる義務が導出されるとする法的根拠が必ずしも判然としないように思われる。むしろ、そのような義務があるとするならば、その根拠は、「善良な管理者として依頼者の利益に配慮する義務」として理解すべきなのではなかろうか(これも②事件の東京高裁が説示するところである。)。次に、かかる善管注意義務を考えてみたい。 2 善管注意義務 民法644条《受任者の注意義務》は次のように規定する。 委任者である納税義務者等と受任者である税理士との間には委任契約が締結されているため、通常の税理士業務は、民法644条の規定の適用に服することになろう。 この善良なる管理者としての注意義務、すなわち善管注意義務によって、これまで述べてきた税理士の節税義務なるものを説明することが一応可能であるように思われる。 すなわち、民法644条を根拠として、税理士には、「税理士法上の義務として、法令に適合した適切な申告をすべきことは当然であるが、法令の許容する範囲内で依頼者の利益を図る義務がある」ということになりそうである。 ところで、民法644条はあくまでも、委任契約を前提とした規定であり、税理士に節税となるように選択することまでをも要求されているのか否かについては、委任者と受任者が如何なる内容の契約を締結したかに大きく依存する。すなわち、民法644条が適用される委任契約があるからといって、それだけで個々の委任契約の内容を見ずに、「有利な税務上の処理方法を選択すべき義務」が税理士に認められることになるという点には不安を覚える。 やはり、個別具体的に如何なる委任が委任者からなされたのかという点にまで踏み込まなければ、受任者たる税理士の義務は明確にはならないのではないかという疑問も同時に惹起され得る。 これまでの裁判例は、その点に踏み込まずに、税理士法1条を根拠に、一般的な税理士の義務として、「有利な税務上の処理方法を選択すべき義務」なるものを説示しているように思われる。果たして、税理士法1条のような「使命」を示す訓示規定を根拠として、一般的な税理士の義務を導き出すことが可能なのであろうか。 3 信認義務 税理士への税務の依頼については、依頼者である納税義務者等が租税に関する専門的知識を持ち合わせていないことが多いため、依頼者が税理士を信頼した上で、税理士が多くの租税法上の選択を行うというケースが少なくない。 例えば、租税法上には、期末棚卸資産の評価方法、減価償却の評価方法、青色申告か白色申告かの選択、消費税法上の本則課税か簡易課税かの選択、租税特別措置法上の特別償却か税額控除かの選択など無数に種々の選択が必要となる。そこで、かかる租税法上の各種の選択や確定申告提出時期などの事務処理等を依頼者が税理士に一任する場面が多い。 このような選択的処理を一任するケースは他の事務領域においても見られる。代表的には、例えば、証券取引などの金融取引においては、顧客が事業者を信頼し、商品の選定、数量や金額、注文の方法や時期などの事務処理等を一任する場合が少なくない(村本武志「投資取引における信認義務の機能と役割」現代法学21号31頁(2012)参照。以下、同論文によるところが大きい。)。 これは、一般的に複雑困難といわれる税務上の取扱いと同様、商品の仕組みが複雑であるか、取引情報の収集や判断が困難である場合などといった取引形態の特殊性がその背景にあるといえよう。 かような取引においては、英米法では信認義務(fiduciary duty)が認められ、その前提としては、当事者間の信頼・依存関係に信認関係(fiduciary relation)が必要とされている。 ここにいう信認義務とは、信認関係の認められる当事者間において一方当事者(fiduciary:信認者)の信頼を受けた側の当事者(principal:受認者)に課されるものであり、これは、もっぱら信認者方の利益を図るために「最高度の信義誠実を尽くして行動」すべき義務、あるいは信認者の「利益の最大化のために働く」べき義務をいうと理解されている。 信認義務は、相当な注意義務(due care)、忠実義務(duty of loyalty)、及び最大誠実義務(utmost good faith)を内容とするものであるが、前述したとおり、この義務は英米法由来の考え方であり、我が国では、信認義務の中核をなす忠実義務が信託法上等に認められるほかは、法規定中でこれを定めるものはない。 しかし、金融取引においては、金融の自由化、国際化や金融不祥事の発生を背景に、さまざまな金融サービスを提供する者の義務を統一的に把握するための概念として注目されてもいるのである。 現に、法制審議会では、民法(債権法)改正のための議論が進められたなかにあって、中間論点整理上の検討課題として、忠実義務を民法上で規定することの適否が論じられたのである。そこでは、「忠実義務に関する明文の規定を設けるという考え方の当否について、善管注意義務との関係、他の法令において規定されている忠実義務との関係、忠実義務を減免する特約の効力などに留意しながら、更に検討してはどうか。」との提案がなされていた。 (※) 信認義務は、その議論の母国であるアメリカにおいてさえ、最もわかりにくい概念であると言われているのであるから(Deborah A.DeMott,Beyond Metaphor: An Analysis of Fiduciary Obligation,1988 Duke L.J. 879,879(1988))、明確な定義付けを行うのは難しいところではある。 もっとも、信認義務たる「最高度の信義誠実を尽くして行動」すべき義務、あるいは信認義務の機能と役割者の「利益の最大化のために働く」べき義務は、今回の民法(債権法)改正(平成29年5月)においては採用されてはいない。しかしながら、これまで述べてきた税理士に対する節税義務なるものの正体は、むしろ、我が国の民法が採用しなかった最高度の信義誠実を尽くして行動する義務に接近するものなのではなかろうか。 (続く)
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第10回】 「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その2)」 -容積率①- 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 容積率とは、建築物の延床面積が当該建築物の敷地の用に供されている宅地のうちに占める割合をいいます。これを算式で示すと、次のとおりとなります。 (算式) また、上記の容積率の計算事例を示すと、次のとおりとなります。 上記で求めた容積率の割合(数値)が高いほど、当該土地について階層的な高度利用が可能とされます。 相続税等における土地評価では、この容積率が大きく影響を与えており、その習得及び理解は不可欠なものとなっています。 解決への指針 建築基準法上では、対象地に適用される容積率には、『指定容積率』(建築基準法第52条第1項に規定)と『基準容積率』(建築基準法第52条第2項に規定)の2つの概念があります。実際に適用される容積率は、これらのうち、いずれか数値の低い方(厳しい方)の容積率が適用されるものとなっています。 (1) 指定容積率(都市計画の定めにより指定される容積率(用途地域別の容積率で、建築基準法第52条(容積率)第1項の規定に基づく容積率)) 都市計画法第8条(地域地区)第1項第1号の規定では、要旨、同法に規定する都市計画区域については、都市計画において用途地域(注)を定めるものとされています。また、同法同条第2号の規定では、当該用途地域については、その地域別に都市計画において容積率を定めるものとされています。これに基づいて定められた容積率を『指定容積率』といいます。 (注) 用途地域は、次に掲げる13区分に分類されます。 指定容積率は、具体的には、次に掲げる数値のうち、当該地域に関する都市計画において定められています。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注) 地域によっては、当該地域の独自の都市計画のなかで個別に容積率が規定されている場合がありますので、実務上においては必ず、市区町村役場等の担当部局において確認することが重要とされます。 (2) 基準容積率(前面道路の幅員制限に基づく容積率(建築基準法第52条(容積率)第2項の規定に基づく容積率)) 上記(1)に掲げる指定容積率が高く設定されている地域であっても、対象地が接道する前面道路の幅員が狭小な場合には、当該対象地に指定容積率どおりの容積率を用いて建築物を建築させることは防災等の観点から問題があるものと考えられます。 上記に掲げる問題点に対応するものとして、建築基準法第52条(容積率)第2項において、要旨、当該建築物の前面道路(前面道路が2以上あるときは、その幅員の最大のものをいいます。以下同項の規定の適用に関する部分について同じです。)の幅員が12m未満である場合における容積率の算定方法(前面道路幅員に基づく容積率の制限(この規定に基づいて計算された容積率を『基準容積率』といいます。))が定められています。 上記に掲げる基準容積率の具体的な計算方法を示すと、次のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 事例検討 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第3回】 「インボイス制度開始までに準備すべきこと」 ~請求書の記載事項の変更~ 税理士 石川 幸恵 【Q】 現在発行している請求書(区分記載請求書等)の記載事項を変更して、適格請求書等(インボイス)に対応しようと考えています。どこを変更すればよいですか。 〔ポイント〕 適格請求書等の記載事項は、区分記載請求書等と以下の点が違います。 請求書の発行にあたっては、手書き、表計算ソフトのテンプレート、市販の請求管理ソフトなど事業者ごとに様々な方法を使っていると思いますが、上記の変更ができるか確認が必要です。 システム改修やレジの買替えについては、関係省庁会議で補助金が検討されています。今後の情報にもご注目ください。 * * * 【A】 (1) 適格請求書等では、適用税率と消費税額等の記載が必須となる 区分記載請求書等と適格請求書等の記載事項の違いは、2つあります。登録番号を記載することと、金額の書き方として適用税率と消費税額等の記載が必須となることです。 (インボイスQ&A問52) ① 登録番号 登録番号はインボイス制度で新たに導入されるものです。記載場所などに指定はないようです。 ② 金額の書き方 区分記載請求書等では、税込価額の記載のみが求められており、適用税率や消費税額等の記載は求められていません。実務的には、多くの事業者が、既に請求書に適用税率(10%、8%)を記載していますが、上図の区分記載請求書等のように適用税率に一切触れていなくても問題ありません。 しかし、適格請求書等では、適用税率と消費税額等の記載が必須ですので、上図の区分記載請求書等のような請求書を発行していた事業者は、上図の適格請求書等のような記載に変更する必要があります(インボイスQ&A問72)。 なお、登録申請書を提出して登録番号の通知を受け、適格請求書等へのシステム対応も終えた場合は、令和5年9月30日以前であっても、上図の適格請求書等のように登録番号を記載したり、税込価額に代えて税抜価額と消費税額等を記載した請求書を交付しても問題ありません(インボイスQ&A問74)。 ③ 総額表示義務との関係 令和3年3月31日に消費税転嫁対策特別措置法が失効したため、4月1日からは、総額表示が義務となりました(消法63)。総額表示義務と適格請求書等の記載事項の関係については、総額表示義務は不特定多数の者が訪れる店舗などで商品やサービスの価格を表示する場合に適用されるものなので、適格請求書等に税込価額を記載しなくても問題ありません。 (2) 適格請求書等に記載する消費税額等の端数処理 インボイスQ&A問55では、「一の適格請求書等につき、税率ごとに一回の端数処理を行う」とされています。具体例で見てみましょう。 端数処理の方法は、切上げ、切捨て、四捨五入いずれも認められます。具体例では切捨てにしています。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 税抜価額で適格請求書等を作成した場合は、税抜価額の合計額に消費税率を乗じます。商品ごとに計算した消費税額等の合計ではありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 税込価額で適格請求書等を作成した場合は、税込価額の合計額を、軽減税率適用であれば8/108、標準税率適用であれば10/110で割り戻して消費税額等を計算します。商品ごとに割り戻した消費税額等の合計ではありません。 ただし、商品ごとの消費税額等を参考として記載することは差し支えないとされています。(国税庁ホームページ「適格請求書等保存方式の概要-インボイス制度の理解のために-」参照。) (3) 補助金等に関する情報 軽減税率導入時には、複数税率に対応するため、レジの買替えやシステム改修費用の補助金がありました。インボイス導入に向けても、令和3年4月16日に関係省庁会議が開かれ、軽減税率導入時と同様に補助金等の措置の検討が始められたようです(2021年4月15日付日本経済新聞電子版「インボイス導入、中小支援検討 16日に関係省庁会議」参照)。 時期や補助額など具体的な内容の発表が待たれます。 (了)
〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第2回】 「原処分を受けた後の不服申立ての道」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 不服申立ての対象となる処分 (1) 国税に関する法律に基づく処分 国税通則法第75条第1項の規定によれば、不服申立てをすることができる場合とは税務署長等が行った「国税に関する法律に基づく処分」に不服がある場合をいい、それがない限り不服申立てに及ぶことができない。 ここで問題となるのは、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長等が行った行為が、いわゆる行政処分性を有するか否かである。 通常は、課税関係の更正、決定、加算税の賦課決定、青色申告の承認取消し、更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知等の処分や、徴収関係の差押処分等は行政処分性を有するものとされている。 (2) 行政処分性がないとされているもの 代表例に「延滞税のお知らせ」があり、実務上はこれの取消しを求める不服申立てが行われることがある。 しかし、延滞税を通知する行為は延滞税の賦課決定でもなければ納税の請求手続でもなく、延滞税が「法定納期限までに納付がないこと」及び「時の経過」という事実によって自動的に計算される性質のものであることからすると、それは単に延滞税の納付義務が存在する旨の観念の通知にすぎず、行政処分に当たるものとは解されていない。 その他、申告・納付の慫慂、納税申告書の受理、還付金等の還付、予定納税額の通知、納税義務の承継通知等についても行政処分性が認められておらず、これらの取消しを求めて不服申立てに及んだとしても、審理庁から却下処分を受けることになる。 (3) 不利益処分が対象 不服申立ての対象となる処分は不利益処分に限られ、利益処分については、その利益が過少であるといった理由を付しても、処分の取消しを求める利益(請求の利益)はないとされている。 2 救済を求めるルートは2つ (1) 現行の国税不服申立制度の概要 「国税に関する法律に基づく処分」であることを前提として、納税者が不服を申し立てる道が国税通則法によって規定されている。 1つは、その処分を行った税務署長等に対して不服を申し立てる「再調査の請求(平成28年3月31日以前にされた処分については「異議申立て」)」であり、もう1つは、国税不服審判所長に対して不服を申し立てる「審査請求」である。 審査請求は、納税者の選択により再調査の請求を経ずに直接行うことができるほか、再調査の請求を行った場合は、その決定後の処分になお不服があるときに改めて行うことができる。 《国税に関する不服申立制度の概要図》 (出典) 国税不服審判所「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし」5頁より抜粋。 (2) 再調査審理庁に対する再調査の請求 再調査の請求の本質は、その処分をした行政庁自身による処分判断の見直しであるといえる。 再調査の請求は、処分の通知を受けた日又は処分のあったことを知った日の翌日から3ヶ月以内に、原則として処分をした税務署長に対してしなければならず、その税務署長等が再調査の請求について理由があるかどうか審理し決定する。 なお、税務署長がした処分であっても、その前提となる調査が、例えば調査課所管法人等の場合のように国税局の職員によってされた場合には、国税局長に対して再調査の請求をすることになる。 (3) 国税不服審判所長に対する審査請求 審査請求は、処分の通知を受けた日又は処分のあったことを知った日の翌日から3ヶ月以内に国税不服審判(本部)所長に対してしなければならない。 ここで、審査請求の申立先(名宛人)は、上記のとおり国税不服審判(本部)所長であるが、審査請求書の提出先は各地域の国税不服審判所の所長(首席国税審判官)であり、処分を行った税務署長等を経由して提出することもできる。 また、納税者の選択により再調査の請求を経ている場合で、再調査の請求に対する決定後の処分になお不服がある場合に行う審査請求は、再調査決定書謄本の送達があった日の翌日から1ヶ月以内にしなければならないので注意が必要である。 なお、再調査の請求がされてから3ヶ月を経過しても、その再調査の請求に対する決定がない場合には、その決定を経ないで審査請求をすることができる。 ちなみに、国税庁、国税局、税務署及び税関以外の行政機関の長又はその職員がした処分(例えば、登録免許税について登記官がした処分等)については、国税不服審判所長に対する審査請求のみ行うことができる。 (4) 執行停止等の関係 再調査の請求又は審査請求がされた場合でも、原則として、その処分の効力、処分の執行又は手続の続行は停止されない。 しかし、その国税の徴収のため差し押さえた財産の換価については、その財産の価額が著しく減少する場合等を除き、再調査の請求に対する決定又は審査請求に対する裁決があるまで停止される。 3 ルートの選択に係る誤解 (1) 再調査の請求を経るか直接審査請求をするか 従前の国税不服申立制度は、青色申告書に係る更正処分等の一定の場合を除き、「異議申立て」を経なければ「審査請求」を経ることができないという「二段階前置」という制度設計を採用していたため、審査請求からスタートする不服申立ては全体の10%前後(※)にすぎなかった。 しかし、「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第69号)に基づき改正された国税通則法により、平成28年4月1日以降にされた処分に係る不服申立てから、「異議申立て」は「再調査の請求」と称するようになり、上述のとおり「再調査の請求からスタートするルート」と「直接審査請求からスタートするルート」を納税者が選択できるようになった。 その結果、改正後の国税不服申立制度においては、後者が60%前後(※)を占めるようになった。 (※) 国税庁「国税庁70年史(平成21年6月~令和元年7月)」269頁参照。 (2) 直接審査請求の割合の急上昇の要因 このように直接審査請求の割合が10%前後から60%前後に急上昇したのは、以下のような要因に基づくものと考えられ、納税者及び代理人である税理士としては、特に②の意識が強くあるものと推察される。 (3) 再調査の請求における取消しの判断基準 確かに、形式的には、処分をした行政庁は「原処分庁」、再調査の請求を審理する行政庁は「再調査審理庁」と区別するものの、両者とも処分をした税務署長であることに変わりなく、「自分で意思決定した処分をその自分が覆すはずがないではないか」と考えることは自然であろう。 しかし、再調査の請求を審理する担当者は、たとえ同じ税務署所属の職員であっても、当初の税務調査を担当した調査官とは異なる職員によって行われることになり、通常は、その課税(徴収)第1部門の統括国税調査官の命により、同部門に所属する不服申立担当(上席)調査官がその職務を担う。 そして、当初の税務調査による処分を取り消すか否かの判断基準は、その処分を維持した場合の後工程に控える審査請求にその事案が持ち込まれた際に、その審理を担う国税不服審判所が自分達の判断に与くみしてくれるか否かに懸かっている。 (4) 後工程に国税不服審判所が控えていることの牽制効果 仮に、審査請求において処分が取り消される可能性が高いと再調査審理庁が判断すれば、審査請求の前段階に位置する再調査の請求において事前に取り消しておかねばならないという思考が働く。 その理由は、審査請求で取り消されれば「取消裁決」の事績が残り、将来の課税庁を拘束することになりかねないからである。 一方、審査請求において処分が維持される可能性が高いと再調査審理庁が判断すれば、再調査の請求においても処分時の判断を維持するという思考に至るだろう。 そして、現在の国税不服審判所においては、国税プロパー出身の審判官のみならず、弁護士・税理士・公認会計士出身の国税審判官が担当審判官として事件審理に主体的に関与していることは課税庁側も承知しているところであり、民間出身者の存在が課税庁側に対する牽制効果の役割を果たしているともいえるだろう。 このように考えると、「自分で意思決定した処分をその自分が覆すはずがないではないか」という思考は、民間出身の国税審判官経験者からみれば、いささか早合点の印象を抱く。 (5) 再調査の請求を省略することのネガティブな側面 再調査の請求を省略して直接審査請求の舞台に立つことが必ずしもポジティブな判断ではない要素は他にも存在する。 まずもって、法律において用意された権利救済の舞台をみすみす1回放棄することになることを覚悟の上で省略の判断をすべきであろう。 また、審査請求に至れば、当初の税務調査を担当した調査官の行動・言動が、証拠の閲覧謄写請求等によって詳つまびらかになり、課税庁側がそれを嫌うべく再調査の請求で処分を取り消す可能性もあり得るが、直接審査請求になれば、そういった課税庁側の意思決定の可能性を摘み取ることになる。 更に、直接審査請求がされると、国税不服審判所の担当審判官は、相対的に争点が整理されていない段階で事案に着手しなければならず、審理不尽の結果として納税者に不利な裁決結果を招来しないとも限らない。 以上でみたように、再調査の請求は必ずしも権利救済が期待できない手続ではないし、筆者が不服申立ての代理人を受任する場合には、再調査の請求を経ることを納税者に勧めているケースが多いことをお伝えしたい。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第30回】 「子会社による親会社株式の取得」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕 相談内容 私Lは小売業A社のオーナー社長です。A社には15%の株式を保有する外部株主M氏がいます。M氏はA社の共同創業者ですが20年以上前にA社を退職し、現在は年1回の株主総会時に連絡を取り合う程度の付き合いとなっています。私は今年で70歳になるのでそろそろ息子Fへ社長を譲ろうと考えており、同時にM氏より15%の株式を買い取ろうと交渉していました。今般、交渉がまとまり、総額3億円でM氏が保有する全ての株式を買い取ることで合意しました。 現在、このM氏の所有する株式を誰が買い取るかで悩んでいます。私や息子は3億円もの現金は持っていませんし、資金が潤沢なA社で買い取ることを検討したのですが、顧問税理士よりM氏にみなし配当課税が生じ、最高税率で所得税等が課税されると指摘されました。もしそうなると、今回の株式を買い取るM氏との合意が破綻しかねません。 そこで、不動産賃貸業を営むA社の完全子会社であるB社に買い取らせようと考えていますが、会社法により子会社による親会社株式の取得は禁止されていると聞きました。A社、B社ともに自己資金が潤沢であり、M氏からの株式買い取り後は親族のみが支配する会社となるため、子会社が親会社株式を取得したとしても誰にも迷惑はかけないと考えています。本当に取得してはいけないのでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 会社法の規定 (1) 親会社株式の取得について 会社法は以下の会社再編等による例外的な事由を除いて、子会社の親会社株式の取得を禁止しています。もし、取得した場合でも、相当の時期に親会社株式を処分しなければなりません(会135③)。 《例外的事由(会135②)》 (2) 違反した場合 会社法135条1項に違反し、子会社が親会社株式を取得した場合は、子会社の取締役に対し100万円以下の過料が科せられます(会976十)。「過料」とは行政罰であり、刑事罰としての罰金、「科料」とは区別されています。したがって、過料が科せられたからといって、いわゆる前科となるわけではありません。 (3) 株式を相互保有する場合の議決権 会社法では、株主は、株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除いて、その有する株式について議決権を有する、とあります(会308①)。したがって、ご相談の場合、A社はB社の議決権の全てを保有していますので、上図の通りB社のA社に対する議決権(15%)は消滅します。 [2] 財産評価基本通達における規定 株式の持ち合いについては、財産評価基本通達188-4に言及されています。この通達では「評価会社の株主のうちに会社法第308条1項の規定により評価会社の株式につき議決権を有しないこととされる会社があるときは、当該会社の有する評価会社の議決権の数は0として計算した議決権の数をもって評価会社の議決権総数となる」とあります。 これは、同族会社の経営者が、自分が支配する会社の株式を相互保有させることにより、保有する株式の評価方法を配当還元方式とすることを防ぐための通達です。税務においては、株式の相互保有(子会社による親会社株式の取得を含む)を想定していると言えます。 [3] 結論 後継者へ会社を引き継ぐにあたり、現経営者世代の外部株主の整理は、最後の大仕事だと言えます。ご質問の子会社による親会社株式の取得は、会社法上禁止されていますので、実行することはお勧めしません。例えば、後継者F氏が新たに会社を設立し、そこへA社が3億円を貸付け、その資金をもってA社株式を購入するという方法もあります。 ただし、今回の事例では、A社株式を上記の新会社において購入するのと、子会社B社において購入するのとでは実体は何も変わりません。結局は全てL氏・F氏がA社・B社を支配することになりますので、リスクを理解したうえで、子会社による親会社株式を取得するのであれば、私見ではありますが、実行可能なスキームであると考えます。冒頭で申し上げた通り、実務上もこうした事例は見受けられます。 実際の手続きに際しては、弁護士・税理士等の専門家に相談することをお勧めします。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q64】 「非居住者が内国法人から配当を受領する場合の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 非居住者に対する課税の範囲 所得税法上、「非居住者」とは、居住者以外の個人をいいます。「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人とされ、1年以上の予定で海外転勤した場合には、一般的には非居住者に該当することになると考えられます。 居住者については、原則として、日本国内だけではなく国外で稼得した所得も課税対象になりますが、非居住者については、国内源泉所得(国内源泉所得の範囲については、【Q46】参照)のみが、日本において課税されることになります。この取扱いは、非居住者が日本人かどうかにかかわらず、同様です。 2 非居住者が受領する株式配当等に係る課税関係 非居住者が内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当等や、国内にある営業所等に信託された投資信託又は特定受益証券発行信託の収益の分配(以下、「内国法人から受ける配当等」といいます)は、国内源泉所得に含まれ、源泉徴収の対象となります。源泉徴収税率は、原則として、20.42%(所得税及び復興特別所得税)ですが、上場株式に係る配当(保有割合が3%以上である大口株主等を除きます)や受益権の募集が公募により行われた証券投資信託に係る分配金などは、15.315%(所得税及び復興特別所得税)の税率が適用になります。 また、非居住者に対する課税方法は、総合課税(居住者の確定申告に準じて累進税率で計算する方法)と分離課税(他の所得と区分して15.315%又は20.42%の税率で計算する方法)がありますが、内国法人から受ける配当等に係る所得は分離課税の対象とされています。 3 特定口座に関する手続き 特定口座は、居住者又は恒久的施設を有する非居住者にしか開設することが認められていませんので、恒久的施設を有しない非居住者に該当することとなる場合には、特定口座廃止届出書を提出したものとみなされます。 ただし、一定の要件を満たす場合には、特定口座に保管されていた上場株式等のすべてについて、出国をした後も引き続き証券会社等で開設する出国口座において保管し、かつ、帰国をした後に再びその証券会社等で設定する特定口座にその株式等を移管することが認められています。 4 本件へのあてはめ 3年間の任期で海外に居住する場合、所得税法上の居住者に該当しなくなることから、非居住者として取り扱われることになります。非居住者が受領する株式配当や投資信託の分配金は、所得税法に列挙される国内源泉所得に該当するため、居住者に対して支払われる場合と同様に、源泉徴収の対象となります。 源泉徴収税率は、お尋ねの上場株式や公募投資信託の場合は、15.315%(所得税及び復興特別所得税)です。非居住者が受領する株式配当等は、分離課税の対象となるため、この源泉徴収のみで課税関係は終了し、確定申告をする必要はありません。 なお、居住地国と日本との間に租税条約が締結されている場合には、軽減税率が適用される可能性があります。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第33回】 「特殊関係のある子会社に対する譲渡」 -特殊関係者に対する譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、従来から居住の用に供してきた家屋とその土地を、B社に売却しました。 B社の株主は、次の表のとおりであり、XはY社の株式の51%を所有しています。 他の適用要件が具備されている場合、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある法人などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、Xを判定の基礎となる株主にした場合は、Y社は法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)第2項第1号に掲げる当該他の会社に該当するため、B社は同項第2号に掲げる当該他の会社に該当し、つまり、特殊関係者への譲渡に該当することから、特例の適用を受けることはできません(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められています(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第55回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 7 法人税法22条の2第6項 (1) 概要等 法人税法22条の2第6項は次のとおり定めている。 法人税法22条の2第1項~5項、22条2項の適用場面において、無償による資産の譲渡に係る収益の額には、「金銭以外の資産による利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しその他これらに類する行為」としての資産の譲渡に係る収益の額が含まれることを明らかにしているのである。 「利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡し」という部分は、法人税法22条5項の資本等取引と関わりをもつ。同項によれば、資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引、法人が行う「利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡し」をいう。 法人税法22条2項は、益金の額に算入すべき収益の額について、「資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」とし、同条3項3号は、損金の額に算入すべき損失の額は「資本等取引以外の取引に係るもの」としている。 収益及び損失が資本等取引からも生じることを前提として、資本等取引に係る収益及び損失を益金及び損金の範囲から除外している。資本等取引により生じた収益及び損失は益金の額又は損金の額に算入されないというのであるから、課税所得計算上の重要な規定であることはいうまでもない(伊豫田敏雄「法人税法の改正(一)」『昭和40年版 改正税法のすべて』104頁(国税庁1965)参照)。 企業会計原則は、「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。」(第一・三)と定めている。 法人税法が、資本等取引による収入・支出を損益の範囲から除外しているのは、上記定めに従って、損益取引と資本等取引を峻別し、法人の収益と損失は、損益取引のみから生じ、資本等取引からは生じない、という考え方をとっていることを意味しており、法人税法が原則的に企業会計準拠主義を採用していることと首尾一貫しているとする見解もある(金子宏「法人税における資本等取引と損益取引」同編『租税法の発展』337頁(有斐閣2010))。 利益又は剰余金の分配については、いわゆる資本取引の概念からはやや遠いものだが、損益取引としない、つまり配当は損金の額に算入しないということを明らかにする意味で、資本等取引に含めたものと説明されている(前掲・伊豫田104頁参照)。 法人税法22条5項のシンプルな規定振りについて、立案担当者の次のような解説からは、あえて具体的な規定を設けなかったことがうかがわれる(前掲・伊豫田104頁)。 法人税法22条5項のシンプルな規定振りを遠因としているのであろう、同項の「利益の分配」該当性については実質判断を行うべきであることが、明文の規定ではなく、次のような立案担当者の解説によって補足されている(武田昌輔「全文改正法人税法の解説(上)」産業経理25巻6号51頁)。 ここでは、法人税法22条5項の利益又は剰余金の分配には、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含むことを定めている法人税基本通達1-5-4も想起しておきたい(もちろん、「利益又は剰余金の分配」の対象を株主以外の者に対するものにまで拡げるような解釈論をとることは慎重でなければならない)。 このような状況下において、どのような類型の取引が法人税法22条5項の資本等取引に該当するのかという点について、しばしば議論を招くことになった。とりわけ、資本等取引の要素と損益取引の要素が混合ないし混在している取引(混合取引。次回の(2)参照)に関する議論においては、租税法律主義の下で、混合取引の1つの類型である現物配当について、その課税関係を法律に明記すべきであるという指摘もなされていた。 このように法人の取引の中には混合取引が存在することを指摘していた論者は、法人税法22条の2第6項により、第1項~5項及び22条2項の場合には、無償による資産の譲渡に係る収益の額は、金銭以外の資産による利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しその他これらに類する行為としての資産の譲渡に係る収益の額を含むこととされたことを挙げた上で、「筆者がかねて提唱してきた混合取引の法理・・・が、この規定によって採用されたことになる」と整理されている(金子宏『租税法〔第23版〕』356頁(弘文堂2019)。 (了)