《速報解説》 4月23日の緊急事態宣言発令を受け、 金融庁、改めて有価証券報告書等の提出期限の取扱いを公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年4月26日、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、2021(令和3)年4月23日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことに伴うものである。 2021(令和3)年1月8日にも、金融庁は、同様のものを公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融庁の公表 次のことについて記載している。 (了)
《速報解説》 保険契約等に関する権利の評価を見直す所基通36-37の改正案がパブコメに付される ~令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給より適用予定~ Profession Journal編集部 先月にも一部新聞報道がなされていた、いわゆる低解約返戻金型保険を使った節税策への対応として、本日(2021年4月28日)付け、国税庁は所得税基本通達36-37を見直すパブリックコメントを公表した(意見募集は5月27日まで)。 現行では、使用者が役員や従業員に対し保険契約等(生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約)に関する権利を支給した場合、支給時において保険契約等を解約した場合に支払われることとなる解約返戻金の額で評価する取扱いとされている。 他方、「低解約返戻金型保険」や「復旧することのできる払済保険」など解約返戻金の額が著しく低いと認められる保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されないことから、支給時解約返戻金の額で評価することは適当ではないとして、今回の見直しに至った。 改正案では、保険契約等に関する権利について、支払保険料の一部を前払保険料として資産に計上する取扱いが定められている法人税基本通達の取扱いを踏まえ、使用者が、役員や従業員に対して、解約返戻金の額が著しく低いと認められる次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、それぞれ次の金額で評価することとしている。 (注) 「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうちその保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金などで処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいう。 今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としているが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討するとしている。 改正後の所得税基本通達の取扱いは、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用することが予定されている。 なお、法人税基本通達9-3-5の2は令和元年の改正通達によって新設されたものだが(詳しくは[こちら]を参照)、その取扱いは令和元年7月8日以後に締結する保険契約等について適用するとされていることから、同日前に締結した保険契約等は、原則として見直しの対象にならないとの見解を示している。 〈所得税基本通達36-37の新旧対照表〉 (了)
2021年4月28日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.417を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の 取消訴訟において全部取消が認められた事例 -東京地裁令和2年10月1日判決 (平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第3回】 (最終回) 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 5 本判決のポイント-今後の実務に与える影響等- (1) 定期傭船契約で見込まれる収益価値の評価の必要性の明確化 船舶、特に本件のように定期傭船契約の付された船舶の価値の評価については、船価鑑定の専門業者の見解もまちまちであり、不動産のように確立した鑑定の方法が存在しているわけではない。また、我が国において船価鑑定を行う専門業者は、極めて限られているという特殊な事情も存在する。本件は、そのような特殊性を有する船舶の価値の評価が正面から争点となった事例である。 評価通達は、このような船舶の価額について、原則として売買実例価額又は精通者意見価格等を参酌して評価するものとしているが、これは、平成20年の評価通達改正時までに中古船舶の取引市場が形成されてきたことなどを踏まえたものであるとともに、評価時の市況や評価対象船舶の内容等によっては適切な売買実例が抽出できない場合があることも考慮して、船価鑑定を行い船舶取引の実情に通じた精通者による価格評価(精通者意見価格)を参酌するとしたものと解される。 もっとも、「精通者」と認定される者が算定した意見価格を参酌してさえいれば、課税処分がすべて適法とされるわけではなく、本判決も指摘するとおり、当該意見価格自体が合理性を有するものであることが前提となることは言うまでもない。 一方で、例えば、評価時に定期傭船契約が付されている船舶であっても、当該契約を解約して船舶を売却する前提で鑑定を依頼する場合や、金融機関が当該船舶の担保価値を把握するための参考として鑑定を依頼する場合など、一般的に、船価鑑定は、定期傭船契約の付されていない状態の船舶(カラ船)の鑑定を行うことも多い。そのため、船価鑑定の専門業者の中には、定期傭船契約付き船舶の鑑定を行う場合でも、船体自体の価値(カラ船としての価格)のみを評価するという取扱いを行っている専門業者も存在する。 本件でYが依拠した船価鑑定業者であるP社も、カラ船としての価格の算定を依頼されることが多く、船価鑑定において定期傭船契約が付されていることを考慮に入れた価値の評価を行ったという実績はほとんど有していなかった。 しかしながら、本件のように、株式の贈与時における定期傭船契約付き船舶の客観的な交換価値が評価の対象とされている場合には、当該契約が評価時以降も存続することが当然の前提となるといえるから、船体自体の価値(カラ船としての価格)を評価することのみでは足りず、評価対象船舶に付された定期傭船契約において見込まれる収益価値の評価を行うことが必要であり、この点を明確に判示したことが、本判決のポイントの1つといえる。 (2) 今後の実務に与える影響 かかる「見込まれる収益価値の評価」において、市場傭船料の指標となるデータが傭船期間3年までのものしか公表されていなかったことを理由に、契約上の残存傭船期間にかかわらず、調整期間を3年に限定したP社の鑑定方法は、合理性を欠くものと判断された。 今後、本件と同様に、相続税又は贈与税の決定処分において定期傭船契約付き船舶の評価が争点となる事案においては、処分行政庁の依拠する鑑定評価が、定期傭船契約において見込まれる収益価値を適切に評価しているかどうかが重要なポイントの1つとなるが、前述したとおり、我が国においては船価鑑定を行う専門業者が限られているという点も、実際の訴訟の場面においては留意を要する。 本件においても、訴訟提起後に、YがP社・Q社以外の船価鑑定業者5社に対して、船価鑑定の方法一般についてヒアリングを行い、その結果を証拠として提出していたこともあって、本件訴訟においては、いずれの当事者からも、別途、裁判上の鑑定の申請(民事訴訟法第212条、民事訴訟規則第129条参照)はなされなかった。 そのため、本件訴訟に顕出された精通者意見価格は、各当事者が提出するP社・Q社の2つの私的鑑定のみであったところ、裁判所は、これらの意見価格について、まず、Yが依拠するP社の価格評価の合理性を検討し、その合理性が否定される場合に、Xの依拠する価格評価を採用することができるか否かについて検討するという判断方法を用いた(P社・Q社の各意見価格を相対的に検討し、どちらの鑑定評価のほうがより合理的かを判断する方法を用いたわけではない)。 かかる判断枠組みについて、「固定資産評価基準」に基づく「土地」の価格に関して示された最高裁平成25年7月12日判決民集67巻6号1255頁(TAINSコード:Z999-8323)の射程が、「財産評価基本通達」に基づく「船舶」の価格についても及ぶことを前提とするものであるのか、本判決の内容からは明らかではないが、少なくとも、本判決が上記のような判断方法を用いて審理を行ったことは、今後の実務において、参考になるものと思われる。 納税者側としては、単に自らが依頼する船価鑑定業者の鑑定評価の合理性を主張立証するだけでは足りず、まずは、処分行政庁が依拠する船価鑑定業者の鑑定評価の不合理性を主張立証しなければならないが、船価鑑定業者が限られている(定期傭船契約が付されていることを考慮に入れた価値の評価を行っている専門業者は更に限られる)ことなどの事情も併せ考慮すると、かかる主張立証に困難を伴う場面も想定され得るところである。 (連載了)
NPO法人の解散に必要な会計・税務の知識 税理士・中小企業診断士・行政書士 脇坂 誠也 はじめに 1998年の特定非営利活動促進法(以下「NPO法」という)の制定以降、NPO法人は増加の一途をたどり、2014年には5万法人を超えた。しかし、その後はおおむね横ばいに推移している。新たなNPO法人が設立される一方で、解散するNPO法人も増加していることがわかる。新型コロナウイルスの感染拡大により、多くのNPO法人がその運営や事業活動に大きな影響を受けていることから、今後は解散するNPO法人がより一層増加することが見込まれる。 そこで本稿では、NPO法人が解散するにあたって必要となる会計・税務の知識や手続きについて解説する。 1 NPO法人とは NPO法人は、正式には「特定非営利活動法人」という。1998年にできた法人格で、市民が行う自由な社会貢献活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする、公益法人の一種である(NPO法第1条)。 NPO法人の特徴として、以下のようなことが挙げられる。 なお、NPO法人の認証権及び監督権を持つ行政機関を「所轄庁」といい、原則として所轄庁は主たる事務所が所在する都道府県知事になるが、その事務所が一の指定都市の区域内のみに所在する場合は、その指定都市の長になる(NPO法第9条)。 2 NPO法人の現状 NPO法人は、2021年2月28日現在で、所轄庁に認証されている法人は、50,991法人ある(内閣府 NPOホームページ「認証申請受理数・認証数」より)。1998年にNPO法ができてから、右肩上がりで法人数が増加していたが、2014年に5万法人を超えてからは同じくらいの数で推移している。その理由としては、2008年に公益法人改革があり、一般社団法人として設立する法人が増えてきていること、所轄庁が認証を取り消す法人が増えてきたこと、解散する法人が増えてきたこと、などが挙げられる。 なお、解散数は20,404法人ある。かなり多くのNPO法人が、解散をしていることがわかる。 3 NPO法人の解散の方法 (1) NPO法人が解散をする方法 NPO法人が解散するのは、以下の7つの場合である。このうち、②の社員総会で解散の決議をすることが大部分だと思われる。 (2) 社員総会の決議で解散をする場合 社員総会で解散の決議をする場合には、社員の自主的な判断で解散することができる。この場合、原則として、総社員の4分の3以上の承諾による決議が必要である。この4分の3という数字は定款の定めにより増減することができる。 解散の総会で決議するのは、以下の事項である。 NPO法人は、構成員に利益を分配してはならないので、残余財産を一定の法人に分配する必要がある。NPO法では、残余財産の分配先は、以下の者から選定しなければならないとされている。 (3) 社員総会の開催が困難な場合 役員や社員が集まらず、解散に関する理事会及び総会の開催が困難である法人は、以下の方法で解散することができる。 ① 社員が1人も存在しない場合 非社員である者(役員)は存在するが、社員が1人も存在しない状況である場合、社員の欠亡を理由として解散をすることができる。この場合において、法務局で解散登記をする際は、社員の欠亡を証明する書類(全社員の退会届等)が必要となる。 ② 目的とする事業の成功が不能な場合 目的とする特定非営利活動に係る成功の不能を理由として、所轄庁でその事由について認定された場合は、解散をすることができる。この場合、成功の不能を証明する書類を所轄庁に提出する必要がある。なお、所轄庁の認定後、法務局において解散登記を行う際には、 成功の不能を証明する書面及び所轄庁の認定書が必要となる。 ③ 役員が存在しない場合 社員は存在するが、役員が1人も存在しない状況である場合は、定款に基づく社員総会の開催(役員の選任)や解散登記等もできない状況であり、これによって、法人運営が停滞することはもとより取引をする相手方にも損害を生じさせる恐れもあることから、NPO法第17条の3に基づき、まずは所轄庁に仮理事を選任してもらい、社員総会を招集し、新たな役員を選任した上で、解散議決を得ることが考えられる。 4 解散後、清算結了までの手続き 解散後、清算結了までの手続きを、社員総会の決議で解散した場合を例にしてみていくことにする。 (1) 解散及び清算人の登記 社員総会で解散の決議をしたら、2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局において解散及び清算人の選任の登記をする(登録免許税は非課税)。登記にあたって必要な書類は、以下の通りである。 (2) 所轄庁への解散届出書の提出 解散と清算人就任が登記された登記事項証明書の原本を添付して、所轄庁に解散届出書を提出する。解散届出書の様式は、各所轄庁のホームページに掲載されている。 (3) 解散の公告 解散をした場合には、官報に債権の申出の公告を行う。公告は、1回以上、官報掲載の日から少なくとも2ヶ月間掲載する。この官報による解散の公告は、たとえ債権者がいないと思われる場合でも、法人が把握できていない債権者がいる可能性もあるため、NPO法により必ず行わなければならない。 また、すでに法人で把握している債権者がいる場合は、この官報による解散の公告とは別に、個別に債権者に対して催告をしなければならない。 (4) 残余財産の確定、分配 公告の期間が終わり、債権債務の支払いがすべて終わったら、清算人は残余財産を確定して、残余財産の分配を行う。 (5) 清算の登記 残余財産の分配が終わったら、法務局に清算の登記を行う。その際に、清算事務報告書と財産目録、貸借対照表が必要である。 (6) 所轄庁へ清算結了届出書の提出 清算結了が登記された登記事項証明書の原本を添付して、所轄庁に清算結了届出書を提出する。 5 税務署及び都道府県税事務所、市町村役場への提出書類 次に、解散及び清算をした場合に、税務署、都道府県税事務所、市町村役場にどのような書類を提出すればいいのかを見ていくことにする。 収益事業を行っているかどうかにより、取扱いが違ってくるので、分けて説明することにする。 (1) 解散をした場合 ① 収益事業を行っている場合 収益事業を行っていて解散をした場合には、解散をした日で収益事業を廃止することになるので、収益事業廃止届出書を提出するとともに、解散の日までで法人税等の申告をする必要がある。 法人税法上は、みなし事業年度規定があり、事業年度開始の日から解散の日までを一事業年度とみなすことになるためである。 また、解散をした後については、収益事業を行っていないので、法人税の申告は不要である。 ② 収益事業を行っていない場合 収益事業を行っていない場合には、税務署への届出は不要である。都道府県税事務所及び市町村役場へは異動届出書を提出する。 (2) 清算をした場合 清算をした場合には、税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ異動届出書を提出する。 6 所轄庁への事業報告書、会計報告書の提出 (1) 解散をした場合 解散をした場合には、解散届出書の提出は必要だが、NPO法には法人税法のような「みなし事業年度規定」はないので、解散の日までの事業報告書や会計報告書の提出は不要である。ただし、事業年度末を解散の日としている場合には、その事業年度の事業報告書及び会計報告書を3ヶ月以内に提出しなければならない。 (2) 清算期間中の提出 清算期間中であっても、事業年度終了後3ヶ月以内に事業報告書と会計報告書を提出する必要がある。 NPO法には、会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律にあるような、清算期間を規定した条文がなく、清算期間中も定款に定める会計年度で提出をすることになる。 事業報告書や会計報告書の提出期限前に法人の清算が結了し、法人が存在しないこともあり得るので、そのような場合に事業報告書や会計報告書の提出が必要であるかどうかは、所轄庁に確認をしたほうがよいと思われる。 (了)
〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第12回】 (最終回) 「国税通則法の知識をどう活かすか」 弁護士 下尾 裕 本連載では、これまで国税通則法に関連する事柄の中でも特に重要性の高い議論を抽出して解説してきたが、本稿においては、連載の締めくくりとして、この連載でご説明した点をどのように今後の税理士業務等、特に税務調査対応に活かしていくかということを考えてみたい。 1 正確な知識をもって税務手続に関する知識格差に対抗する まず、最初に、国税通則法の実務運用を決めている国税当局と税務調査に対応する税理士等との間では、その手続の有効性等に関する知識等に格差があることを念頭におく必要がある。その結果、例えば、強気な税務調査官が国税通則法の考え方からはグレーな対応を行ったとしても、税理士等から明確なクレームがなければ、その調査は当該調査官のペースで進んでしまい、納税者に不利な証拠等を強引に確保されてしまうといったケースも想定される。 また、既に本連載【第1回】で言及したとおり、税務調査の違法性(国税通則法違反の事実)は課税処分の違法性には直結しないことから、もし違法な調査により納税者に不利な証拠を確保された場合、事後に国家賠償請求が認められることはあったとしても、納税者にとっては納得できない結果となる。 このような事態を避けるためにも、税理士等においては、重要な部分だけでも正確な国税通則法の知識を身につけたうえで、税務調査の場で又は問題のある調査等が行われた後、直ちに反論ができるよう、アンテナを張っておくことが重要になる。逆に、税理士等からの反論が適切であれば、当該税務調査官のその後の行き過ぎた調査に対するけん制効果が期待できる。 2 加算税等の賦課要件等を踏まえた先回りの対応 また、ご承知のとおり、国税通則法は、手続のみを定めるものではなく、加算税等においては直接に課税要件を定めている(【第7回】・【第8回】参照)。 その中でも、特に重加算税については、納税者のコンプライアンスの問題(上場会社又は上場準備中の会社における無限定適正意見への悪影響、公共入札参加への影響等)を生じさせるものであり、納税者や税理士等において、賦課処分の適法性を別途に検討する必要性が高い。国税通則法が定める課税要件の意味内容(例えば、【第7回】や【第8回】で言及した「隠蔽」又は「仮装」や「納税者」の意義)を正確に理解しておくことは、まさにこの検討において重要性を有する。 さらに言えば、これら課税要件充足の根拠となる証拠は、本税の課税と同様に税務調査を通じて収集される。税務調査に対応する税理士等は、これらの理解を通じて、どのような事実関係が課税につながるのかを把握することにより、将来の議論に先回りして税務調査に対応することが可能になる。 3 税務調査対応を通じたクライアントとの関係構築 納税者は、大企業のように毎年税務調査を受けるような例外ケースを除けば、一般に税務調査の対応には不慣れであり、税務調査官の言動がどのような意味を持つのか不安を持っているケースが多いと思われる。 この場合に、納税者の不安を払拭するためには、まさに税務の専門家である税理士等が説明を行い、予測可能性を担保する必要があるが、そのためには、その根拠法令である国税通則法の知識が不可欠である。逆に、この点に関して、税理士等が依頼者である納税者に対し的確な説明ができれば、納税者の強い信頼を勝ち取ることが可能だと思われる。 4 最後に 本連載において取り上げた国税通則法の手続及びその争点は、国税通則法全体の一部に過ぎないが、それでも【第1回】から【第12回】までをざっと一読いただければ、税務調査等において問題となることが多い議論については概ねその内容を把握できるようにしたつもりである。 本連載を通じて、読者の皆様が国税通則法を学ぶ1つの契機となれば幸いである。 (連載了)
街の税理士が「あれっ?」と思う 税務の疑問点 【第3回】 「長屋等のつながっている建物における判断(前編)」 ~二世帯住宅の小規模宅地等の特例~ 城東税務勉強会 税理士 大塚 進一 問 題 棟割長屋のうち1軒に父親が居住し、その家屋と土地を所有していましたが、その隣の1軒が空き家となったので、父親がその家屋と土地を購入し、平成27年に長男が入居しました。平成30年4月以降に父親が亡くなった時(母親が死亡し一人暮らしの時)は、その2軒の家屋と土地を長男が相続し相続税の申告期限までは所有し住み続ける予定です。この場合、上記長屋の敷地は、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は受けられますか。 なお、土地面積は2軒分あわせて200㎡、家賃や地代の支払はありません。また、父親と長男の生計は別で、当該長屋は区分所有で登記されている建物です。 また、路地で隔てられた隣家の家屋と建物を購入し、渡り廊下でつなげた場合(ほかの条件は上記と同じ)はどうなりますか。 回 答 1 区分所有建物について 平成25年度の税制改正大綱で「一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるものについて、被相続人及びその親族が各独立部分に居住していた場合には、その親族が相続又は遺贈により取得したその敷地の用に供されていた宅地等のうち、被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分を特例の対象とする。」とされ、内部で行き来できない二世帯住宅についても、その敷地全体が小規模宅地等の適用対象となるよう租税特別措置法ほかが改正されました。ただし、区分所有建物については、被相続人の居住の用に供されていた部分に対応する部分に限られることとされました。 つまり上記問題では、父居住部分のみが、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の要件を満たすかどうかになります。 ここで、長男が取得者の要件に該当するかどうかですが、長男は同居親族に該当しません。また、取得者の要件が平成30年度の改正で「相続開始前3年以内に自己やその配偶者の所有する家屋に居住したことがないこと」から、「相続開始前3年以内に自己やその三親等内の親族又は自己と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと他」(いわゆる「家なき子」要件)となったので、取得者の要件を満たさないことになります。よって、上記の長屋の敷地はすべて特定居住用宅地等に該当せず、小規模宅地等の特例は受けられません(※)。 (※) ただし「経過措置」により、平成30年4月1日から令和2年3月31日までに相続が発生した場合、平成30年3月31日において相続があったものとした場合に平成30年度改正前の要件を満たす宅地等に該当すれば、特例が受けられますので、父親の居住部分に対応する土地部分に限り、小規模宅地等の特例が受けられます。 2 渡り廊下でつながった建物について 別々の建物を渡り廊下で繋げたとしても、それぞれが1棟の建物とみなされます。そうすると、内部で行き来できたとしても、別個の建物に住んでいることとなるので、父居住部分のみが、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の要件を満たすかどうかになります。 長男は同居親族には該当しません。よって、「家なき子」要件に従い上記のように判定されるため、これらの敷地はすべて特定居住用宅地等に該当せず、小規模宅地等の特例は受けられません (「経過措置」の場合、父親の居住部分に対応する土地部分に限り、小規模宅地等の特例が受けられます)。 考 察 二世帯住宅にかかる小規模宅地等の特例の改正は、二世帯住宅を新たに定義したのではなく、区分所有建物を除いた上で、被相続人が一棟の建物に居住していた場合は、「被相続人の居住部分に」、その建物の敷地のうち、「親族の居住部分を含める」こととし、その宅地を取得した相続人たる親族がその一棟の建物に居住していればよい旨の改正のため、一棟の建物や被相続人の居住部分の判定が重要となります。 1 区分所有建物について 区分所有とは分譲マンションのように、各区分に構造上と利用上の独立性がある建物を区分ごとに所有することです。1棟の建物を壁で仕切り1区画に1戸ずつ数戸が居住するいわゆる棟割長屋は、区分建物として登記されている場合が多いですが、区分登記でなく1軒ずつがそれぞれ一の建物として登記されている場合もあります。また、区分登記された長屋の隣家を購入した時に、隔壁を除去する等して、もともと2軒の長屋を構造上一個として合体登記している場合や、隔壁を除去したが登記まではしていない場合など、様々な場合があります。 よって、長屋のように、壁や床天井ひとつで隣接し二世帯で居住している家屋の、どの部分が小規模宅地等の特例の対象になるかは、一棟の建物やそのうち被相続人の居住部分にあたる範囲を、その実態により確認した上で、対象となる家屋が区分所有されているか否かを登記で判断します。 その上で、それらを取得した親族の要件によって、その部分に小規模宅地等の特例が適用できるかどうかを判断します。なお、ケーススタディは次回考察します。 2 渡り廊下でつながった建物について 一般的に二棟の建物になりますが、下図のようにすべての階を渡り廊下でつなげた場合などは、全体として一棟とみなせるのかどうか判断が難しいところです。 また、母屋と離れのように、居室とキッチン・浴室・トイレが揃っていないような「附属建物」として登記されている場合は、効用上も母屋と一体なので、同居とみなされると思われます。一棟の建物の定義がなされていないため、それをどのように対応するかは、実態に即した判断が必要です。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第27回】 「生計を一にする親族でなくなった日から1年を経過した日以後に譲渡した場合」 -生計を一にする親族の居住用家屋の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、京都にあるX所有の家屋にZ(子)と一緒に居住していました。6年前、Xは東京本社へ転勤となったため東京の社宅へ転居し、京都にある家屋にはZだけが居住、Zは京都にある大学に通学していました。 2年前、Zは大学を卒業して京都の会社に就職し、引き続き京都にある家屋に居住していました。なお、就職後、Zは独立して生計を営んでいます。 本年、Zも東京に転勤となったことから、京都の家屋を売却したところ、多額の譲渡損失が発生し、銀行に新たな住宅ローンを組んで東京に新居を購入する見込みです。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 譲渡資産であるその所有する家屋が、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に定める家屋に該当しない場合であっても、措通31の3-6(生計を一にする親族の居住の用に供している家屋)に定める全ての要件を満たしているときは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができることとされています(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 しかしながら、本事例の場合は、ZがXの生計を一にする親族でなくなった日から1年を経過した日以後に行われた譲渡であることから、措通31の3-6の但書の適用要件を満たさないこととなり、Xの居住の用に供している家屋としては取り扱われません。したがって、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第3回】 「契約の識別」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 【第2回】で解説したように、収益認識会計基準は5つのステップに従って収益を認識すると規定している。その最初のステップが収益認識会計基準19項以下で規定する「契約の識別」である。 今回(第3回)は「契約の識別」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 契約の識別 収益認識会計基準の定めは、顧客と合意し、かつ、所定の要件を満たす「契約」に適用する(収益認識会計基準17項(1))。 1 契約 「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいい、契約における権利及び義務の強制力は法的な概念に基づくものである(収益認識会計基準5項、20項)。 収益認識会計基準の5つのステップは「契約の識別」から始まる(収益認識会計基準17項)。 通常、企業では、法務部において、契約に関する法的なチェックを行っていると考えられる。収益認識会計基準の最初のステップが「契約の識別」であることを考えると、実務上、法務部の協力も重要であると考えられる。 また、収益認識に関する会計処理については、基本的に、経理部が主体的に行動するとしても、契約の内容を理解するためには、経理部においても民法や会社法などに関する知識が重要と考えられる。 2 契約の形式 収益認識会計基準は、契約は書面、口頭、取引慣行等により成立すると規定している(収益認識会計基準20項)。 通常、企業が得意先(顧客)と契約する場合、「契約書」という書面の形式で作成するものと思われるが、「契約」は書面の形式だけでなく、口頭でも成立するものである。 収益認識適用指針は、IFRS第15号についてではあるが、契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分に関して、「契約書」の記載とは異なる収益認識の単位の識別及び取引価格の配分が求められる可能性があると記載している(収益認識適用指針174項)。収益認識会計基準の開発の基本的な方針は、IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れるというものである(収益認識会計基準98項)。 このため、収益認識会計基準を適用する際には、法的な観点から、顧客との合意が強制力のある権利及び義務を生じさせるのかどうか並びにいつ生じさせるのかを判断することが重要になると考えられる(収益認識会計基準20項)。 一方で、実務では、「契約書」において、すべての合意内容を詳細に定めているとは限らず、得意先(顧客)との暗黙の了解の上で取引を継続していることも考えられる。そこで、「契約」の内容を検討する際には、「契約書」に明文化された内容だけでなく、暗黙の了解なども含めて慎重に検討する必要があると考えられる。 3 契約の要件 収益認識会計基準を適用するにあたっては、次の(1)から(5)の要件のすべてを満たす顧客との契約を識別する(収益認識会計基準19項)。 4 契約の要件を満たすかどうか 顧客との契約が契約における取引開始日において収益認識会計基準19項の要件を満たす場合には、事実及び状況の重要な変化の兆候がない限り、当該要件を満たすかどうかについて見直しを行わない(収益認識会計基準23項、120項)。 一方、顧客との契約が収益認識会計基準19項の要件を満たさない場合には、当該要件を事後的に満たすかどうかを引き続き評価し、顧客との契約が当該要件を満たしたときに収益認識会計基準を適用する(収益認識会計基準24項)。 また、顧客との契約が収益認識会計基準19項の要件を満たさない場合において、顧客から対価を受け取った際には、次の①又は②のいずれかに該当するときに、受け取った対価を収益として認識する(収益認識会計基準25項)。 顧客から受け取った対価については、上記の①又は②のいずれかに該当するまで、あるいは、収益認識会計基準19項の要件が事後的に満たされるまで(収益認識会計基準24項)、将来における財又はサービスを移転する義務又は対価を返金する義務として、負債を認識する(収益認識会計基準26項)。 5 契約の期間 収益認識会計基準は、契約の当事者が現在の強制力のある権利及び義務を有している契約期間を対象として適用する(収益認識会計基準21項)。 契約の中には、固定された契約期間がなく、契約の当事者のそれぞれがいつでも終了又は変更できるものや、契約に定められた一定期間ごとに自動更新となるものがあるが、収益認識会計基準は、契約の当事者が現在の強制力のある権利及び義務を有している契約期間を対象として適用する(収益認識会計基準119項)。 6 完全に未履行の契約 契約の当事者のそれぞれが、他の当事者に補償することなく完全に未履行の契約を解約する一方的で強制力のある権利を有している場合には、当該契約に収益認識会計基準を適用しない(収益認識会計基準22項)。 完全に未履行の契約とは、次の①及び②のいずれも満たす契約である。 収益認識会計基準は、「顧客」との「契約」から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用し(収益認識会計基準3項)、前述のとおり、契約の識別に際しては、収益認識会計基準19項の5つの要件のすべてを満たしている「契約」であるかどうかを検討する必要がある。 このとき、契約の当事者のそれぞれが、他の当事者に補償することなく完全に未履行の契約を解約する一方的で強制力のある権利を有しているかどうかについても、検討する必要があると考えられる。前述のとおり、そのような権利を有している契約の場合には、収益認識会計基準を適用しないこととなるからである(収益認識会計基準22項)。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第55回】 「会計上の見積り開示」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 ASBJより2020年3月31日に「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実を目的として、企業会計基準第31項「会計上の見積りの開示に関する会計基準(以下、「見積基準」という)」が公表された。 適用時期は、以下のとおりである(見積基準10)。 また、適用初年度の取扱いは、以下のとおりである(見積基準11)。 上記のとおり、見積基準は、2021年3月期から適用される。また、有価証券報告書のみならず、計算書類においても注記が必要となるため、上場会社のみならず、非上場会社においても対応が必要となる。そのため、今回は、この見積基準について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 見積基準では、会計上の見積りの注記の内容は、見積基準に定められている「開示目的」に照らして判断するため、まず、「開示目的」を理解する必要がある(見積基準4、7)。 会計上の見積りの注記を行うにあたり、全ての会計上の見積り項目について注記が求められているわけではなく、比較的少数の項目を注記することが想定されている(見積基準25)。そのため、どの会計上の見積り項目を注記対象とするかを識別する必要がある。 ◎識別の判断基準 会計上の見積りの開示を行うにあたり、まず、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(開示対象項目)を識別する。 識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債である。ただし、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債を識別することもできる。 また、翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して判断する(見積基準5、23、24)。 (1) 注記項目 会計上の見積りの注記は独立して、注記する(見積基準6)。そして、上記【STEP2】で識別した開示対象項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(見積基準6)、各項目ごとに以下の事項を注記する(見積基準7、8、27、29、30)。 また、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名は単一の注記として記載する(見積基準6)。 ◎事例 IFRSや米国基準を適用している会社では、既に注記を行っている。「2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】「Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準」」に事例を掲載しているため、参照されたい。 (2) 連結財務諸表を作成している場合 連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において注記を行う場合は、上記(1)の注記項目について連結財務諸表における記載を参照することができる(下記表の容認開示①)。 なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって上記(1)②の注記項目に代えることができる。この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができる(見積基準9)(下記表の容認開示②)。 (3) KAMとの関連 監査上の主要な検討事項(KAM)として、会計上の見積り項目が選ばれる可能性が高いと考えられる。そして、監査人からKAMの記載にあたって、注記内容の充実を求められる可能性がある。 そのため、あらかじめ、会計上の見積りに関する注記のドラフトを作成し、監査人と事前に協議することにより、決算の早期化に役立てることができると考えられる。 (4) 有価証券報告書の「経理の状況」よりも前の記載 有価証券報告書の「経理の状況」よりも前において、「事業等のリスク」及び「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」でも会計上の見積りに関連する事項を記載するが、当該記載について、会計上の見積りに関する注記と内容が整合しているか確認する必要がある。 (5) 計算書類における注記 会計監査人設置会社においては、計算書類においても注記が必要である(会社計算規則102の3の2)。 ◆会計上の見積りに関する注記 (※1) 会社計算規則では「可能性」と記載されているが、見積基準の「リスク」と同義であると考えられる。 (※2) 個別注記表の注記が連結注記表の注記と同一であり、個別注記表にその旨を注記する場合は、上記(ⅲ)について個別での注記は不要である。 * * * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)