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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例25】「事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性と寄附金課税」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例25】 「事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性と寄附金課税」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、関東地方でいくつかの業態の飲食店チェーンを経営する株式会社Aにおいて、経営企画室長をしております。これまで当社グループは、創業の居酒屋チェーンを中心に、M&Aにより順調に事業を拡大してきましたが、中には伸び悩む業態もあり、特にファーストフード系の子会社であるB・Cの2社の業績が低迷しておりました。当該子会社の親会社であるA社は、これまで役員の派遣や低利融資などにより援助してきましたが、同業者との激しい競争に打ち勝てず、赤字体質からの脱却が困難な情勢が続いていました。 そこで、親会社であるA社は、子会社B社及びC社の2社の事業をグループ会社のD社に事業譲渡を行うとともに、当該子会社(いずれも事業譲渡後に清算)に対する金銭債権について債権放棄を行い、その金額をA社の法人税の申告上、損金に算入しました。法人税法には債権放棄や貸倒損失の損金性に関する特定の規定はないことから、当該金額が損金に算入されるのか会社内で議論はありましたが、A社を創業したオーナー社長による「債務免除しないとやっていけない会社への債権放棄なんて、わが社の損金じゃなかったら何なんだ!」という鶴の一声で、全額損金算入したというところです。なお、当該債権放棄は、子会社2社の特別清算手続において、A社と子会社2社との間の契約により行われたものです。 ところが、先日税務調査でA社を訪れた国税局の調査官は、A社が行った子会社2社に対する債権放棄は法人税基本通達の定める要件を満たしていないことから、損金算入可能な貸倒損失ではなく、むしろ法人税法第37条に規定される寄附金に該当するものと指摘してきました。社長はその主張に対して大層ご立腹で、最高裁まで争うと息巻いておりますが、私としましては勝ち目のない争いは避けるべきと考えております。社長をどのように説得すべきか、アドバイスをお願いします。 〇 取引関係図 【A】 法人税法には、確かに債権放棄や貸倒損失の損金性に関する規定はありませんが、債権が消滅したという事実が認定できれば、その金額は法人税法第22条第3項第2号にいう損金の額に算入すべき金額にほかならないといえます。しかし、債権が消滅したという事実の認定は容易ではなく、実務上、法人税基本通達の定める基準に該当するかどうかで判断するケースが大半であると考えられます。この場合、法律上の金銭債権が消滅した場合の貸倒れは、法人税基本通達9-6-1に照らして判断することとなりますが、本件のように、当該債権放棄が子会社2社の特別清算手続において、A社と子会社2社との間の契約により行われたものであるときには、個別和解によるものと解され、特別清算協定の認可の決定によるものではないことから、通達の定める要件には該当しないものと考えられます。 また、寄附金に該当するか否かについては、子会社の財務状況に関し単に赤字体質からの脱却が見通せないというだけでは不十分で、本件債権放棄が経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いと考えられることから、法人税基本通達9-4-1にいう「相当な理由」があったとはいえず、寄附金に該当するものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 債権放棄の損金性 取引先等に対する(金銭)債権が回収できない場合には、一般に、当該債権が法的に消滅したものとして貸倒損失を計上することとなる。問題は、どのような場合に貸倒損失を計上するのかの判断基準であるが、法人税法にはそれに関する明文の規定は存在しない。しかし、法人税法第22条第3項で規定される損金は、原則としてすべての費用及び損失を含む広い観念と理解すべきものと解されていることから(※)、債権が消滅したという事実が認定できれば、その金額は法人税法第22条第3項第2号にいう損金の額に算入すべき金額にほかならないといえるだろう。 (※) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)342-343頁参照。 しかし、貸付債権といった金銭債権が消滅したり回収不能となったという事実の認定は、実際には容易ではなく、 実務上、法人税基本通達の定める基準に該当するかどうかで判断するケースが大半であると考えられる。法人税基本通達では、このような貸倒れの損金算入につき、以下の区分により判断するとしている。 ① 法律上の金銭債権の消滅(法基通9-6-1) 更生計画認可の決定(会社更生法)又は再生計画認可の決定(民事再生法)があった場合や、特別清算に係る協定認可の決定(会社法)があった場合、債権者集会の協議決定で合理的なもの、公正な第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で合理的なものは、それらに基づき切り捨てられた金額が貸倒損失として損金の額に算入される。 同様に、債務者の債務超過が相当期間継続し、弁済不能であるため、書面により明らかにされた債務免除額も貸倒損失として損金の額に算入される。 当該通達の趣旨は、後掲東京地裁平成29年1月19日判決・税資267号-13(順号12962)(TAINSコード:Z267-12962)によれば、 とされている。 なお、①に該当する場合については、「損金経理」要件が付されていない。したがって、法人がその確定した決算で上記金額に関して貸倒処理を行うか否かに関わらず、損金に算入されることとなる。 ② 回収不能の金銭債権の貸倒れ(法基通9-6-2) 債務者の資産状況や支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合に、その金額を貸倒れとして損金経理することができる。なお、貸倒れとして損金経理することができるのは、担保物があるときはその処分後、保証債務は履行後であることが要件とされている。 ②に該当する場合は、法人が債務者に対する金銭債権の全額が回収できないと認識したときに、原則として損金経理を行うことで貸倒処理を行うというものである。ただし、あくまで損金経理することが「できる」のであり、損金経理が条件ではないという点には留意すべきであろう。 ③ 売掛債権の特例(法基通9-6-3) 金銭債権のうち売掛債権等については、債務者との取引停止後1年以上経過等の要件に該当した場合、その金額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、それが認められる。   (2) 事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性が争われた裁判例 それでは本件のように、事業譲渡に伴って行った債権放棄については、貸倒損失として損金算入ができるのであろうか。そのような場合における貸倒損失該当性が争われた裁判例(東京高裁平成29年7月26日判決・税資267号-89(順号13038)、TAINSコード:Z267-13038、控訴棄却・確定)があるので、以下で検討したい。 ① 事案の概要 本件は、控訴人が、控訴人の子会社であるB株式会社に対して有していた貸付金等債権3億5,155万3,294円(ただし、正確な合計額は3億5,201万7,720円)につき、B社が仙台地方裁判所に対して申し立てた特別清算手続において、同裁判所の許可を得て、平成22年3月1日、前記債権を放棄する旨の契約を締結し、控訴人の別の子会社である株式会社Cに対して有していた短期貸付金債権6億4,277万7,926円について、B社が青森地方裁判所に対して申し立てた特別清算手続において、同裁判所の許可を得て、同年3月3日、前記債権を放棄する旨の契約を締結し、前記各債権の放棄をし、放棄されたB社に対する3億5,201万7,720円及びC社に対する6億4,277万7,926円の各債権の合計額9億9,479万5,646円を「その他の特別損」勘定として損金の額に算入し、平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度に係る法人税の確定申告をしたところ、青森税務署長(処分行政庁)から、本件債権放棄額は本件子会社2社に対する法人税法第37条の寄附金の額に該当するとして、法人税の更正処分を受けた。 そこで、控訴人は被控訴人に対し、本件処分のうち、控訴人主張の所得金額マイナス11億8,294万6,785円を超える部分及び控訴人主張の繰越欠損金額マイナス11億8,294万6,785円を下回る部分の取消しを求める事案である。 ② 本件の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 (ア) 法基通9-6-1(4)(債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債務の弁済を受けることができないと認められる場合の債務免除額)について (イ) 法基通9-6-1(2)(特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額に係る貸倒れ)について 争点2 (ア) 法基通9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について (イ) 法基通9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について ④ 本裁判例からいえること 本裁判例の前提事実として、本件債務放棄は、原告・控訴人の臨時取締役会の決議において決定され、特別清算手続における「個別和解」によるものであり、裁判所の特別清算協定認可の決定を経たものではないと認められる点が重要である。このことから一審の東京地裁平成29年1月19日判決・税資267号-13(順号12962)(TAINSコード:Z267-12962)において裁判所は、本件債務放棄は、特別清算に係る協定の認可の決定を要件とする法人税基本通達9-6-1(2)の適用を受けるものではないと判断した。また、子会社2社の資産状況や支払能力等の債務者側の事情に照らし、直ちに本件債権放棄に係る債務の全額が回収不能であったとはいい難く、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債務の弁済を受けることができないと認められる場合を適用要件とする法人税基本通達9-6-1(4)の適用を受けるものでもないため、損金算入を認めることはできないとした。 また、寄附金に該当するか否かについては、本件債権放棄が経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いとし、法人税基本通達9-4-1にいう「相当な理由」があったとはいえず、寄附金に該当しないものとは認められないと判断したところである。 上記判断は基本的に控訴審でも維持されている。   (3) 本件への当てはめ 確かに法人税法には、債権放棄や貸倒損失の損金性に関する規定はないが、(金銭)債権が消滅したという事実が認定できれば、その金額は法人税法第22条第3項第2号にいう損金の額に算入すべき金額にほかならないといえる。しかし、債権が消滅したという事実の認定は容易ではなく、 実務上、法人税基本通達の定める基準に該当するかどうかで判断するケースが大半であると考えられる。 この場合、法律上の金銭債権が消滅した場合の貸倒れは法人税基本通達9-6-1に照らして判断することとなるが、本件のように、当該債権放棄が子会社2社の特別清算手続において、当事者であるA社と子会社2社との間の契約により行われたものであるときには、個別和解によるものと解され、特別清算協定の認可の決定によるときのような、合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意がされたものとはいえないことから、通達の定める要件には該当しないものと考えられる。 また、寄附金に該当するか否かについては、子会社の財務状況に関し単に赤字体質からの脱却が見通せないというだけでは不十分で、本件債権放棄が経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いと考えられることから、法人税基本通達9-4-1にいう「相当な理由」があったとはいえず、寄附金に該当するものと考えられる。 (了)

#No. 401(掲載号)
#安部 和彦
2021/01/07

〔Q&Aで解消〕診療所における税務の疑問 【第4回】「個人版及び法人版事業承継税制の適用可否と適用時の注意点」

〔Q&Aで解消〕 診療所における税務の疑問 【第4回】 「個人版及び法人版事業承継税制の適用の可否と適用時の注意点」   税理士法人赤津総合会計 税理士・医業経営コンサルタント 赤津 剛史   【Q1】 医師・歯科医師が個人事業で経営する診療所は、個人版事業承継税制の適用は可能でしょうか。 また適用できる場合には、その注意点を教えてください。 【A1】 個人事業の診療所については、個人版事業承継税制を適用することが可能です。ただし、同制度の適用を受けた診療所が医療法人を設立する際は、個人版事業承継税制による納税猶予期限が確定し、猶予税額及びこれに対応する利子税の納付が必要となります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● ① 個人版事業承継税制とは 個人事業を行っていた事業者(先代事業者等)の後継者として一定の認定を受けた者が、贈与又は相続等により、一定の事業用資産を取得した場合に、一定の要件をもとに、その資産に対する贈与税・相続税の全額の納税が猶予される制度です。また、猶予された贈与税・相続税は先代事業者や後継者の死亡等の一定の事由により納税が免除されます。 この制度は診療を行う個人診療所(医科・歯科)も適用の対象となります。   ② 個人版事業承継税制を適用する際の注意点 租税特別措置法第70条の6の8第6項及び同法第70条の6の10第6項では、贈与税及び相続税の納税猶予の対象となっている財産を会社・・の設立のために現物出資した場合の取扱いが規定されています。これによると、会社の設立のための現物出資については、一定の要件を満たすことにより、引き続き納税猶予が継続することが定められています。 しかし、医療法人は会社法に定める「会社」には該当しないことから、この条項の適用外であると考えられます。また、これ以外に医療法人の設立にあたり現物を拠出した際の条項は規定されていないため、医療法人の設立による現物を拠出した時点で、猶予期限が確定し、猶予税額及びこれに対応する利子税の納付が必要となると考えられます。 個人版事業承継税制の適用にあたっては、将来の医療法人成りの可能性も含めて検討する必要があります。   【Q2】 医療法人の出資持分は、取引相場のない株式の納税猶予制度(法人版事業承継税制)の適用は受けられるのでしょうか。 【A2】 医療法人は、取引相場のない株式の納税猶予制度(法人版事業承継税制)の適用を受けることはできません。 しかし、医療法で定める認定医療法人制度を活用することにより、相続税又は贈与税の納税猶予の適用を受けることができます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 平成19年3月31日以前に設立された医療法人(=持分の定めのある医療法人)の出資持分は、相続又は贈与時に、財産評価基本通達に従い時価によって評価されます。 株式会社については、相続又は贈与時にその納税が猶予される事業承継税制の適用が可能です。一方、医療法人は、この事業承継税制の適用の前提となる中小企業経営承継円滑化法において中小企業に該当しないことが明記されているため、適用を受けることができません。 医療法人については、医療法で定める認定医療法人制度を活用することにより、相続税又は贈与税の納税猶予の適用を受けることができます。認定医療法人制度の適用による相続税又は贈与税の納税猶予は、法人版事業承継税制と要件が全く異なるものとなっています。要件については次回に解説していきます。 (了)

#No. 401(掲載号)
#税理士法人赤津総合会計
2021/01/07

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第2回】「比較対象取引の選定における差異調整の判断」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第2回】 「比較対象取引の選定における差異調整の判断」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 比較対象取引の選定において差異調整はどのような場合に行うのでしょうか。 〔A〕 対価の額に影響を及ぼすことが明らかな差異については調整を行い、比較対象取引としての合理性を確保する必要がある。 ●●●〔解説〕●●● 1 差異調整の意義 移転価格の検証において、有効な比較対象取引が選定された場合にも、検証対象取引と比較対象取引の間に差異が存在する場合には、当該差異を起因とする比較可能性の低下を補うため、合理的な差異調整を行わなければならないが、ここで問題となるのが、いかなる差異を調整しなければならないか、反対にいえば、いかなる差異は調整しなくてよいかという点である。この点につき争われた裁判例として、今治造船株式会社事件(※1)がある。 (※1) 第一審は松山地裁平成16年4月14日判決(訟月51巻9号2395頁、TAINSコード:Z254-9626)、控訴審は高松高裁平成18年10月13日判決(訟月54巻4号875頁、TAINSコード:Z256-10528)。なお、同高裁判決は最高裁の上告不受理により確定している。 《今治造船株式会社事件》 (1) 事件の概要 造船業を営むX(原告・控訴人)は、パナマ子会社との間で船舶の建造請負契約に基づき船舶を建造し販売していた(本件国外関連取引)が、原処分庁は、Xが、パナマ又はリベリアに所在する非関連者との間で行っていた本件国外関連取引と同様の船舶建造請負取引を比較対象取引として選定し、「独立価格比準法」を適用し、一定の差異調整を行った上で本件国外関連取引の独立企業間価格を算定して更正処分を行ったところ、Xはこれを不服としてその取り消しを求めた事案(※2)である。 (※2) 本件の争点は複数あり、第一審では、①国外関連取引の対価が原告の主張する経済合理性を有する場合には移転価格税制は適用されないのか、②本件国外関連取引に対する独立価格比準法適用の適否、③本件比較対象取引との差異調整の範囲、及び④移転価格税制の下、独立企業間価格幅を許容し得るか否かの4つが争われたが、控訴審では①以外について争われた。本稿ではこのうち③について検討している。 なお、本件で原処分庁が選定した比較対象取引は、いわゆる外部比較対象取引ではなく、X自身が非関連者との間で行っている取引(内部比較対象取引)が選定された点に特徴がある。 (2) Xの主張と判決の要旨 Xは、原処分庁が行った差異調整に対し、それ以外の全ての差異についても調整されるべきと主張したが、控訴審である高松高裁は、「(差異)調整は、選択された非関連者取引(比較対象取引)について、比較対象取引としての合理性を確保するために行われるものであるから、調整の対象の差異が取引価格の差に表れていることが客観的に明らかであると認められる場合に限って行われるべきものと解すべきである」としてXの主張を退け、対価の額に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるものに限られるという判断基準を示した(下線筆者)。 次に、控訴人による具体的な主張に対しては、①「空き船台」の解消によるコスト低減効果等(※3)について、原価の節約が値引きの一要因となり得るとしても、その場合、売手は必ず値引きをしなければならないというものではなく、値引きをするとしても節約された額と同額の値引きをしなければならないものでもないのであって、単に投下費用が少ないという一般的な事情のみでは、取引価格への影響が客観的に明らかであるとはいえず、また、具体的に節約された原価の金額、原価の節約分が具体的な取引対価に反映されたか否か、反映されたとしてどの程度影響があったのか等についてはそもそも定かでなく、結局のところ、投下費用の節約と取引対価の値引きとの客観的な対応関係は不明といわざるを得ないから、取引対価に影響を与えることが客観的に明らかであるとはいえず、投下費用に起因する差異の調整を行う必要があると認めることはできないとし、②取引数量に起因する差異について、国外関連者の一取引相手当たりの建造数が、非関連者の一取引相手当たりの建造数より多いとしても、それが取引価格に影響を与えることが客観的に明らかであるとまではいえないから、取引数量に起因する差異の調整を行う必要があるとは認められないと判示し、Xの主張を排斥した。 (※3) ここでのXの具体的な主張とは、「本件の検証対象取引は、空き船台で国外関連者船を建造することにより船台の完全操業を実現するという(X独自の)事業戦略に基づくものであるから、それによる差異を調整すべきである」というものであった。   2 規定等が定める差異調整の例示 以下では、移転価格税制上定められている差異調整の例について確認する。 (1) 措置法通達 同通達では、措置法66条の4の規定の適用上、独立企業間価格の算定について以下のように例示している。 ① 相殺取引(措置法通達66の4(4)-2) 取引に係る対価の額と独立企業間価格との差額に相当する金額を同一の相手方との他の取引の対価の額に含め、又は当該対価の額から控除することにより調整している場合には、それらの取引は、それぞれ独立企業間価格で行われたものとすることができる。 ② 為替差損益(措置法通達66の4(4)-3) 取引日の外国為替の売買相場と当該取引の決済日の外国為替の売買相場との差額により生じた為替差損益は、独立企業間価格には含まれない。 ③ 値引き・割戻し等(措置法通達66の4(4)-4) 国外関連取引と比較対象取引との間で異なる条件の値引き、割戻し等が行われている場合には、当該値引き、割戻し等に係る条件の差異を調整したところにより独立企業間価格との差額を算定する。 ④ 会計処理方法の差異(措置法通達66の4(4)-5) 国外関連取引と比較対象取引との間で用いられている会計処理方法(例えば、棚卸資産の評価方法、減価償却資産の償却方法)に差異があり、その差異が独立企業間価格の算定に影響を与える場合には、当該差異を調整したところにより独立企業間価格との差額を算定する。 (2) 移転価格事務運営指針 同指針4-4では、以下の4つにつき、国外関連取引と、比較対象取引又は措置法通達66の4(3)-1(5)に掲げる取引との差異について調整を行うことができるとしている。 (了)

#No. 401(掲載号)
#霞 晴久
2021/01/07

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第108回】「2020年における調査委員会設置状況」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第108回】 「2020年における調査委員会設置状況」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としてきたが、本稿では、「第三者委員会ドットコム」が公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2020年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2020年において、調査委員会の設置を公表した会社は52社であり、2018年(68社)、2019年(67社)から大きく減少している。52社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社は下記のとおりである。この結果、設置が公表された調査委員会の数は56となる。 上記の会社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 調査委員会設置を公表した52社のうち14社については、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち6社については、調査委員会の設置そのものが12月であり、まだ調査が終わっていないと考えられる。 2020年の調査委員会設置会社の特徴を1つ加えると、過年度において、調査委員会を設置したことを公表している会社が多いことが挙げられよう。参考までに、過去、調査報告書を本連載で取り上げた会社は次のとおりである。   【市場別分類】 市場別分類では、東証1部上場会社が32社と約62%を占めた(複数市場に上場している会社は東証1部又は2部に含めている)。上場会社数は2020年12月31日現在。   【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた上場会社が33社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた社が19社となり、昨年に比べて中堅以下の監査法人のクライアントの比率が増加している。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、東陽監査法人が4社、太陽有限責任監査法人と監査法人大手門会計事務所が各2社であった。   【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員を選定していると認められる調査委員会は24社と、過半数を下回る水準であった。 また、2018年からの傾向であるが、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする会社が増加している。これらの会社では、調査報告書についても一切公表しないか、概要を公表するにとどまっていることを附言しておきたい。   【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。   【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された44件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 「会計不正」と分類できる内容で調査委員会を設置したのは41社(上述のとおり、五洋インテックス株式会社は2件の調査委員会を設置しているため、下表では42社となる)であり、その一覧は、次のとおりである(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2019年と比べ突出しているのが国内の連結子会社における不適切な会計処理(20件)であり、それ以外の不正類型は減少している。 (了)

#No. 401(掲載号)
#米澤 勝
2021/01/07

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第10回】「買い手は「売り手探し」から始めてはいけない」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第10回】 「買い手は「売り手探し」から始めてはいけない」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒買い手が売り手探しの前にしておくことを理解する。 売り手企業 ⇒安心して手を組める買い手探しの参考にする。 支援機関(第三者) ⇒買い手が売り手探しをする事前準備や心構えに有益な助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒主に買い手の立場からのM&A前の準備と、M&A当事者の見方のポイントをつかむ。   1 売り手探しを後回しにする 中小企業のM&Aにおける買い手の中には、“成長"、“規模の拡大"、“持続可能性"、“シナジー"といった言葉に誘われて自らも買い手として名乗りを上げ、いきなり売り手候補探しに入る、という方もたくさんいらっしゃいます。 M&Aのマッチングの段階でよく見られる光景ですから、こうした状況が必ずしも間違いというわけではありません。しかし、M&Aはモノやサービスの売り買いとは違い、売り手の事業そのものや企業文化をなるべく損なわない形で買い手が承継して維持や成長につなげていくもので、取引が終わっても関係が継続します。 そのため、おのずと長いスパンでの見通し、計画性、戦略性が求められます。多くのケースで多額の資産を要するM&Aの成立が前提となりますので、失敗による危険性も伴うはずです。コスト、収益性、設備、人材、企業風土など、思い通りにいくとは限らないことが案外多く、想定以上にM&A後の企業の負担は大きいものです。 入り口の段階で「相性が良さそうだから・・・。」という印象だけを頼りに、M&Aの世界にいきなり飛び込むのは、なるべく避けた方がよさそうです。 “急がば回れ”とは皆さんもよくご存じの言葉だと思います。M&Aで求めるものは失敗ではなく“成功”です。買い手は多くの場合、M&Aによる成功の源泉を相手である売り手に求めるため、売り手探しに力を注ぎますが、成功のカギはほとんどの場合、買い手自身の中にあるもので、そこをおろそかにせずにじっくりと時間をかけて検討することが、意外と成功の近道であることも多いようです。 M&Aは手段であって目的にはせずに、今回は、売り手探しを後回しにして、まず買い手自身がどのようにM&Aと向き合うのがよいか、買い手による買い手自身の見方について解説します。売り手にとっても、望む買い手探しのヒントになるのではないでしょうか。   2 買い手の成長の内にあるM&Aのポジション 中小企業のM&Aにおける買い手の思考パターンとして比較的多いのが、買い手がM&Aを通じて自社(グループ)を成長させようというパターン(下図参照)です。 この場合は、買い手 ⇒ M&A ⇒ 成長 のベクトルとなり、“買い手がM&Aの結果として成長する"という成功の絵を描くことになります。極端に言えば、“M&Aが予想どおり上手くいけば結果論として企業が成長する”という意味です。「ウチはそんなことはない、成長をM&Aにばかり頼っていない」という経営者の方もいますが、そのような場合も含めて大半がこのケースです。 しかし、実際は「1 売り手探しを後回しにする」で触れたように、M&Aは思うようにいくとは限りません。むしろ、そうならないことが多いと思った方がよいくらいです。このパターンは、“買い手の成長はM&Aの結果に振り回される”という危険性があります。 対して、買い手が思い描く成長や事業拡大の姿を叶えるためのいくつもの選択肢が検討されていく中で、達成手段として望ましい対応策の1つにM&Aをチョイスするというパターン(下図参照)があります。 今後、M&Aを検討する中小企業の買い手の皆さんは、願わくは後者のパターンでM&Aと向き合うのがよいでしょう。自社の成長と拡大の姿を描く中でM&Aを選択するまでに至る思考や発想のプロセスとしては、通常、次のような段階を踏むことになります。 (1) 経営理念、ビジョンなど まず、買い手企業が何のために存在し、何を目指す企業なのかを明確にします。これがないのにM&A相手が先に決まることはあってはならないことです。企業の存在意義や究極の目的を叶えるのに合致しており、方向性に沿った相手と組むことが優先されるべきであって、売り手の企業ありきでこの大方針が転換されることは許されません。 (2) 戦略・目標 「(1) 経営理念、ビジョンなど」を達成するための戦略、計画、目標を立てます。何年後に達成するといった時間軸で捉えるもの、拠点数や事業部門といった組織形態に関するもの、売上高や利益のような業績に関するもの、人員数や設備投資などの事業計画に関するものなど、立てられる内容は多岐にわたり、広範に及ぶものです。 この段階まで降りてくると、「2030年の当社はこのような姿になっているだろう」というイメージが形になってくるはずです。しかし、この段階でもまだM&Aは出てきません。 (3) 達成手段 「(2) 戦略・目標」で検討する内容は「(1) 経営理念、ビジョンなど」に比べると定量的(数値や数量で把握可能)になっているものが多い印象でした。さらにこの段階に入ると、「2030年の戦略・目標を達成するためには、2025年までにあれをする、来年までにこれをする」といった、達成するためのより具体的な手段を検討していきます。 ここまできてようやくM&Aが選択肢の1つとして浮上しますが、それでもM&Aを手段の第一候補にしてよいわけではありません。M&Aを選択しない方がよいと思われる企業の状況を以下に挙げましたので、参考にしてください。 M&Aのある一面に注目すると、M&Aは“対価で時間を買う取引"にたとえられることがあります。つまり、成長・目的達成のための時間を短縮できるメリットがあるということです。これは“買い手に余裕”がある状態で力を発揮します。 戦略や計画の進捗度や目的の達成度合い、自力成長の可能性、資金や時間の余裕といった様々な面から「ゆとりがある」と買い手自身がいえるかどうか、売り手や第三者からそう見えるかどうかが、M&Aが選択肢になるかの判断において重要となります。 買い手にとって売り手探しは重要です。しかし、それ以前に、買い手による買い手自身を知る姿勢が欠かせません。買い手にとってM&Aが有効かどうか、売り手企業は買い手企業の目指す先に必要な存在かどうか、これらは、いきなり売り手探しをしていては見えてこないことばかりです。 売り手探しを後回しにすることは、売り手を軽視することではなく、お互いの今後にとって最善の選択をするために買い手が売り手探しの前に払う努力なのです。 (了)

#No. 401(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/01/07

税効果会計を学ぶ 【第20回】「退職給付に係る負債又は退職給付に係る資産に関する一時差異の取扱い、のれん又は負ののれんの取扱い」

税効果会計を学ぶ 【第20回】 「退職給付に係る負債又は退職給付に係る資産に関する一時差異の取扱い、のれん又は負ののれんの取扱い」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、次のものについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 退職給付に係る負債又は退職給付に係る資産に関する一時差異の取扱い 連結財務諸表における退職給付に係る負債に関する繰延税金資産又は退職給付に係る資産に関する繰延税金負債については、次のように会計処理する(税効果適用指針42項)。   Ⅲ 子会社株式等の取得に伴い認識したのれん又は負ののれんに係る繰延税金負債又は繰延税金資産の取扱い 1 会計処理 子会社株式等の取得に伴い、資本連結手続上、認識したのれん又は負ののれんについては、繰延税金負債又は繰延税金資産を計上しない(税効果適用指針43項)。 2 基本的な考え方 上記の会計処理(税効果適用指針43項)は、連結税効果実務指針に規定されていた次の考えを踏襲している(税効果適用指針145項)。 (了)

#No. 401(掲載号)
#阿部 光成
2021/01/07

空き家をめぐる法律問題 【事例30】「借家人が行方不明の空き家の残置物件の処理」

空き家をめぐる法律問題 【事例30】 「借家人が行方不明の空き家の残置物件の処理」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、Ⅹ氏に所有物件を賃貸していましたが、ある時期からⅩ氏の行方が分からなくなり、連絡もつかなくなりました。その後、賃料の支払いも滞るようになり、半年以上が経過しました。窓ガラスから室内をのぞき見ると、ガラクタのような物件が散乱していました。いつまでも空き家の状態にしておくと賃料収入が得られないので、契約を解除して室内を掃除したいのですが、どのような方法があるでしょうか。 なお、賃貸借契約書には、「賃借人は、賃貸借契約終了時に、当該賃借物件に残置物がある場合、当該残置物の所有権を放棄して、賃貸人が当該残置物の処分を行うことを承諾する」旨の特約を付けています。   1 はじめに 賃貸中の物件の賃借人が賃料未払いのまま行方不明になった場合、賃貸人としては、当該賃貸借契約を解除して明渡しを求めていく必要がある。また、賃借物件に賃借人の残置物がある場合、賃貸人の判断で、残置物を処分することの可否について相談を受けることも少なからずある。 そこで、今回は、賃借人が行方不明となり空き家となった場合の対処方法を検討することとしたい。   2 債務不履行解除と残置物撤去 賃借人が賃料未払いのまま行方不明になった場合、賃貸人は債務不履行を理由に賃貸借契約を解除することになる。もっとも、賃貸借契約は、人的信頼関係を基礎にしているため、解除をすることができるのは信頼関係が破壊された場合に制限されることになる。実務的には、3ヶ月程度の賃料不払いが一つの基準となる。 賃借人が行方不明の場合、賃貸借契約解除の意思表示を賃借人に現に伝えることができないため、公示送達(民法第98条)による必要がある。もっとも、後述するように、賃貸人が独自の判断で残置物を撤去することには法的に問題があるため、当該賃借人を被告として建物明渡請求及び未払賃料支払請求訴訟を提起することになる。 この場合、民事訴訟法上の公示送達(民事訴訟法第113条)によって訴状に記載された賃貸借契約解除の意思表示が到達したものと扱われることになるため、別途民法上の意思表示の公示送達を経ず、訴訟において賃貸借契約の解除をすることが可能となる。   3 賃貸人が残置物を撤去する条項の有効性 上記2のような訴訟を行うと、時間と費用を要するため、賃貸借契約書中に、契約終了時の残置物について、賃貸人によって当該残置物の処分が行われることを賃借人が承諾する旨の特約が定められていることがある(特約の内容には種々のパターンがあるが、以下、このような特約を便宜上「自力救済条項」という)。 しかしながら、現行法制上、自力救済は原則として禁止されているため、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合のみ、その必要の限度を超えない範囲で、例外的に認められるものと解されている(最判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁参照)。 問題は、上記最高裁を前提として、自力救済条項の有効性が認められるかという点にある。この点に関して、裁判例においては、①上記最高裁に定める「特別の事情」が認められる場合に限って有効と認めるものや(東京地判平成18年5月30日判時1954号80頁等)、②賃借人の占有に対する侵害を伴わない態様における限度で有効と認めるものなど(東京高判平成3年1月29日判時1376号64頁等)があり、おおむね自力救済条項を限定解釈した上で、個別事情に照らして残置物の搬出や処分の違法性を判断する手法がとられているものと思われる。 ①の裁判例の基準は相当限定して自力救済条項の有効性を認めるものであり、②の裁判例の基準は、賃借人が自ら賃借物件の占有を喪失した後の残置物は、賃借人が自らの意思で残置したものであるから、所有権を放棄した場合に準じて扱うことができるとの価値判断があるものと考えられる。②の基準によった場合、例えば、賃借人が自ら建物から退去した後の残置物を、賃貸人が自力救済条項に基づいて搬出等することは可能と考えられる(前記東京高判参照)。 これに対して、賃借人が行方不明である場合、当該賃借人の意思は明らかではないため、行方不明であることのみをもって当該賃借人が賃借物件の占有を喪失したものと認めることは難しいように考えられる。そのため、賃貸人が賃貸借契約を解除できたとしても、自力救済条項に基づいて、残置物の搬出や処分を行うことは違法と評価されるリスクが高い。このようなリスクを回避するためには、賃貸人としては、賃借人に対する建物明渡等請求訴訟を提起した上で、判決に基づいて強制執行を行わざるを得ない。   4 強制執行と残置物の撤去 上記2の訴訟において賃貸人が請求認容判決を得た場合、賃借物件の明渡し及び未払賃料の回収に向けた強制執行の申立てを行うこととなる。もっとも、未払賃料の回収手段として、残置物(動産)の強制執行を申し立てても、残置物に価値がないため動産執行自体が奏功しないことも多い。 そこで、賃借物件の明渡しを求める強制執行に付随して、強制執行の目的物ではない動産について、3つの例外的手段が設けられている。実務的には即日売却が利用されることが多く、賃貸人が当該残置物を買い受ければ、自ら処分することができる。もっとも、強制執行の申立てから残置物の処分に至るまで、賃貸人が一定の経済的負担が強いられることは否めない。   5 本件の場合 本件においては、賃借人Ⅹが半年分以上の賃料を滞納して行方不明となっているため、賃貸人は、Ⅹとの賃貸借契約を解除することができると思われる。もっとも、Ⅹが行方不明であることを理由に、自力救済条項に基づいて残置物の撤去をすることは法的に問題があるため、建物明渡請求及び未払賃料支払請求訴訟を提起することになる。民事訴訟法上の公示送達が認められれば、請求認容判決を得ることができるが、室内の残置物はガラクタのようなものであるため、動産執行は奏功しない可能性が高く、明渡しの強制執行に付随して目的外の動産を即日売却により取得し、処分をすることになるものと考えられる。 (了)

#No. 401(掲載号)
#羽柴 研吾
2021/01/07

〈知識ゼロからでもわかる〉ブロックチェーン技術とその活用事例 【第1回】「ブロックチェーンの基礎知識」

〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第1回】 「ブロックチェーンの基礎知識」   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   はじめに ブロックチェーンは、全ての取引履歴を信頼性のある形で保存し続けるための技術であり、透明性が高く、データの改ざんが極めて難しく、かつ仕組みが停止する可能性が極めて低い等の利点があることが実証されている。 株式会社グローバルインフォメーションの調査によると、世界のブロックチェーン市場規模は、2020年の30億米ドルから、2025年までに397億米ドルまで拡大し、予測期間中の年平均成長率(CAGR)は67.3%と予測されている。予測からもわかるように、ブロックチェーン技術は、暗号資産(仮想通貨)であるビットコインが生まれてから実際に活用され、その利便性から暗号資産(仮想通貨)以外においても、徐々に我々の日常に浸透してきており、今後も必要な技術であることがうかがえる。 本連載では、「ブロックチェーン」技術の特徴などを簡潔に説明し、暗号資産(仮想通貨)以外のあらゆる業界への応用が始まっているブロックチェーンの活用事例を紹介しながら、概説を行うこととする。   1 概要 ブロックチェーンとは情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録につき暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種であり、「ビットコイン」等の暗号資産(仮想通貨)に用いられている基盤技術である。一般社団法人日本ブロックチェーン協会は広義のブロックチェーンを「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノード(※1)に保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術」と定義している。 (※1) ノード(Node)とは、P2Pネットワークに参加するコンピュータ又は参加者のこと。 「分散型台帳」とも呼ばれるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラットであるという特徴を備えている。 【図1-1】ブロックチェーンによる分散管理のイメージ   2 ブロックチェーンの分類 ブロックチェーンの取引には「記録」と「承認」というプロセスが存在し、このプロセスの相違により、一般的に「パブリック型」「プライベート型」「コンソーシアム型」の3種類に分類できる。 (1) パブリック型 「パブリック型(パブリックチェーン)」は、中央集権的な管理機関を持たず、不特定多数の誰でも自由に参加でき、だれでも採掘(マイニング)(※2)に参加できるブロックチェーンである。「パブリック型」は管理者が不在で、分散型の管理ができるため強固なシステム構築ができる。 (※2) 採掘(マイニング)とはブロックチェーンの安全性を高めるために行う処理で、膨大な数学的計算を繰返し「ナンス(Nonce)」と呼ばれる数値を探すことを指す。 すなわち、「パブリック型」は取引記録の情報を世界中誰でも閲覧することができるため、取引の透明性が非常に高い。また、中央に管理者がいない「パブリック型」は、相手方が破綻するなどして、契約が履行されずに損失を被るカウンターパーティーリスクは生じないことになる。仮に、悪意ある採掘者(マイナー)がブロックチェーンの内容を改ざんしようとした時、全てのブロックを書きえなければならず、膨大な改ざん処理を行っている間に次のブロックが生成されるため、実質的には改ざんが不可能である。そのため、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は「パブリック型」が用いられている。 (2) プライベート型 「プライベート型(プライベートチェーン)」は、「パブリック型」と異なり、管理者が存在するのが特徴である。「プライベート型」は管理者が存在するものの、参加者も含めて単一の組織に限定され、合意形成がスムーズに行われるため、取引も迅速に行われるなどの特徴がある。 すなわち、「プライベート型」は、仕様変更やルールを簡単に変更できるため用途に応じカスタマイズ可能であり、ブロックチェーン上の情報を中央管理者が制限することが可能である。また、権限を与えられた少数の人が行うので、取引承認を早く行うことができることになる。 (3) コンソーシアム型 「コンソーシアム型」は単独で利用するのではなく複数の企業、もしくは組織、団体で活用するブロックチェーンである。すなわち、「プライベート型」に非中央集権の要素を取り入れた管理体制を持つことが特徴であり、プライベート型の持つ柔軟性と秘匿性、「パブリック型」の持つ非中央集権化が共存するブロックチェーンである。 【図1-2】ブロックチェーンの分類   3 市場規模予測 ブロックチェーンの概念は比較的新しく、将来的にも応用可能性が非常に広いと考えられる。そのため、多くの調査会社が市場規模予測レポートを発表しているものの、その技術的な達成可能性や実社会への応用可能性をどのようにみるか、どこからどこまでをブロックチェーンに関連した市場とみるかなどの視点により、想定している市場プレーヤーも異なり、市場規模の算出方法が大きく異なってしまっているようである。 例えば、株式会社グローバルインフォメーションは、市場調査レポート「ブロックチェーンの世界市場-2025年までの予測:アプリケーションプロバイダー、ミドルウェアプロバイダー、インフラプロバイダー」 (MarketsandMarkets) を2020年6月1日に公表している。当該レポートによると、ビジネスプロセスの簡素化と、ブロックチェーン技術とサプライチェーン管理のニーズの高まりが、ブロックチェーン市場全体を牽引することとし、ブロックチェーン市場規模は、2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大し、年平均成長率(CAGR)67.3%で成長を遂げると予測している。 また、IDC Japan 株式会社は、2019年3月28日に世界全体のブロックチェーンソリューション市場の支出額予測「IDC Worldwide Semiannual Block chain Spending Guide」を公表している。当該レポートではブロックチェーンへの支出は、2018年から2022年までの予測期間を通じて順調に増加し、5年間の年平均成長率(CAGR)は76.0%、2022年の支出額は124億ドルになると予測している。 さらに、アイルランドの市場調査企業Research and Marketsが2019年3月25日に公表した調査レポートによれば、銀行・金融を始め、医薬品や自動車、農業など、米国内の11業界におけるブロックチェーン支出は、米国におけるブロックチェーン技術の発展に関して、2025年までに年間16億5,100万ドル(約1,818億円)が投じられると予測し、2018年から2025年にかけてブロックチェーンに対する米国企業の支出が約13倍上昇するとの予測をしている。 どのレポートも米国及び中国、銀行を含む金融業を中心にブロックチェーン市場が牽引することにより今後成長することを予測しており、我が国においても今後同様にブロックチェーン市場は成長すると考えられる。ブロックチェーンは、インターネット以来の最大の発明だと言われることもあり、既存産業の仕組みや構造を根本から変革するポテンシャルを持ち、ブロックチェーンが主役となる世界が迫っている。 (了)

#No. 401(掲載号)
#松澤 公貴
2021/01/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第40話】「雑所得の業務収入」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第40話】 「雑所得の業務収入」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「令和2年分の確定申告書の様式なんですけど・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、中尾統括官の机の前にやって来る。 「令和2年分確定申告書の『収入金額等』の「雑所得」の区分表示が、次のように「業務」という欄が追加された形式になっていますが・・・これって・・・何か・・・改正があったのですか?」 浅田調査官は、令和2年分確定申告書のA様式を中尾統括官に差し出し、雑所得の欄を指さして見せる。 中尾統括官は、差し出された様式を見る。 「これは・・・令和2年度税制改正で雑所得の改正が行われたから・・・だろう。」 中尾統括官は、机の引き出しから「令和2年度税制改正」のパンフレットを取り出し、ページをめくる。 「最近・・・上場企業でも、給与所得者である社員の兼業や副業が認められ、それによって、確定申告書の提出件数が増加する・・・」 中尾統括官は、パンフレットを見ながら、説明する。 「・・・このようなサラリーマンがより簡便に所得金額の計算を行って、確定申告ができるように、雑所得を生ずべき業務について、所得税法67条2項で、現金主義を採用することができるようにした・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の机の上に置かれている「税務六法」を手に取り、条文を探そうとページをめくる。 「おいおい、その税務六法は令和元年度版だから・・・2項は載っていないぞ。」 そう言うと、中尾統括官は、パンフレットに載っている所得税法67条2項を見せる。 「・・・この『収入した金額及び支出した費用の額とすることができる』というのが、現金主義を採用できるということを意味するのだが・・・」 中尾統括官がコメントする。 「もともと所得税法67条は・・・小規模事業者の収入及び費用の帰属時期について定めたもので・・・青色申告者を前提として、不動産所得と事業所得について現金主義を採用できると定めた規定だ。・・・今回は、新たに雑所得についても同様の規定を、第2項に設けたわけだ。条文名も『小規模事業者等の収入及び費用の帰属時期』となっている。」 中尾統括官の説明に、浅田調査官は、黙って聞いている。 「・・・でも、この改正は令和4年1月1日から施行されるとなっていますから・・・令和2年分の確定申告には関係ないのでは・・・」 浅田調査官は頸を傾げる。 中尾統括官は、左右の肩を上下させながら、パンフレットをめくる。 「・・・ここに、所得税法施行令196条の2・・・というのがある・・・」 そう言うと、中尾統括官は、同施行令を読み上げる。 「・・・ということで、所得税法67条2項は令和4年1月1日から施行されるけれど、現金主義を採用できるかどうかの判断は、前々年分の業務に係る収入金額だから、令和2年分の確定申告書に『業務に係る収入金額』を書いておけば、令和4年分の確定申告をするときに、それを見れば、現金主義の適用について判定できる。」 中尾統括官は、机の上で、罫紙に図を描く。 「・・・何だか・・・消費税の免税業者の判定をするときの前々期の課税売上高(1,000万円以下)と同じような規定ですね・・・」 浅田調査官は、苦笑いをする。 「・・・それと、この雑所得の業務に係る収入金額の多寡については、収支内訳書の確定申告書への添付義務とも関係している・・・」 中尾統括官は、再びパンフレットをめくる。 「・・・今まで、雑所得については、業務に係る収入金額の多寡にかかわらず、確定申告書に収支内訳書を添付する必要はなかったのだけれど、令和2年度の改正で、前々年分のその業務に係る収入金額が1,000万円を超える場合には、雑所得を生ずべき業務に係る収支内訳書を確定申告書に添付しなければならなくなった・・・」 そして、中尾統括官は、根拠条文を説明する。 「すなわち、所得税法120条6項の規定の中に、次の文言が新たに挿入されている・・・」 「これらの改正は、令和4年分以後の所得税について適用されますが、令和2年分の確定申告の記載にも影響している・・・ということですね。」 浅田調査官は納得した様子で、大きく頷く。 (つづく)

#No. 401(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/01/07

《速報解説》東証、第二次制度改正事項として市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について公表~2022年4月に現在の市場区分を3つの新市場区分に見直すことを予定~

《速報解説》 東証、第二次制度改正事項として 市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について公表 ~2022年4月に現在の市場区分を3つの新市場区分に見直すことを予定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年12月25日、東京証券取引所は、「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)」を公表した。 東京証券取引所は、2022年4月に、現在の市場区分をスタンダード市場・プライム市場・グロース市場の3つの市場区分に見直すことを予定している。 今般の「第二次制度改正事項」は、新市場区分の上場制度の全体像、上場会社の市場選択の手続及び新市場区分の上場維持基準を充たさない場合の経過措置について、所要の制度整備を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 新市場区分 2022年4月4日(以下「移行日」という)付で、次の3つの市場区分に見直す。 上場会社は、2021年9月1日から12月30日までの期間に、移行日に所属する市場区分として、スタンダード市場、プライム市場又はグロース市場のいずれかの市場区分を選択し、その旨を東京証券取引所に申請する。 また、新市場区分における上場維持基準を新設し、上場維持基準に抵触し、改善期間内に改善が行われなかった場合を、上場廃止基準として定める。 なお、移行日の前日における上場会社のうち、所定の区分に該当する会社には、当分の間、緩和した上場維持基準を適用する経過措置を設ける。   Ⅲ スタンダード市場 公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの上場制度を設ける。 スタンダード市場の形式基準は次のとおりである。   Ⅳ プライム市場 多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの上場制度を設ける。 プライム市場の形式基準は次のとおりである。   Ⅴ グロース市場 高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの上場制度を設ける。 グロース市場の形式基準は次のとおりである。 (了)

#No. 400(掲載号)
#阿部 光成
2021/01/06
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