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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第24回】「親族外の後継者と中小企業投資育成によるMBO」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第24回】 「親族外の後継者と中小企業投資育成によるMBO」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私は、自動車部品製造業を営むF社の専務取締役Bです。半年ほど前、後継者のいない創業オーナーW社長が1年後の任期満了をもって取締役を退任したい旨を公表しました。私Bを含む取締役5名による経営体制に移行し、F社株式を譲渡したい意向を示されています。 当社の顧問税理士が、株式の移転コストを抑えることを目的に役員持株会や従業員持株会に株式を低廉譲渡してもらい、W社長には役員退職慰労金で創業者利益を得るという提案を行いました。しかし、W社長から役員退職慰労金とは別に1億円程度でF社株式を新経営陣が取得するようなMBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)による株式承継計画を検討するように指示されました。 メインバンクからは、新経営陣が持株会社(SPC)を設立し、銀行借入100%で株式を取得するプランを提案されましたが、顧問税理士からは、自己資本を厚くして借入負担を抑えるとともに、次なる事業承継のことを意識して安定株主を入れてはどうかと提案がありました。 借入金の返済が今後の会社経営の重荷にならず、次なる事業承継の時に、私Bを含む新経営陣が過度に経済的な負担を被らなくて済むような資本政策の検討を顧問税理士に依頼しました。結果として、取締役5名が500万円ずつ2,500万円を出資してSPCを設立し、2,500万円を中小企業投資育成に出資してもらい、残りの5,000万円を金融機関から融資を受けてW社長から株式を取得するスキームを顧問税理士が提案してくれました。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 出所:「第三者承継支援総合パッケージ」(中小企業庁 令和元年12月20日)の15ページを基に筆者加工 この方法は、中小企業庁が「第三者承継支援総合パッケージ」として公表している親族外承継の方法の1つとのことで、将来的にはSPCをF社と合併させて銀行借入を返済することも視野に入れています。 当社の会社規模はそれほど大きくなく、また、W社長も私たち新経営陣も株式公開を考えていないため、ベンチャーキャピタルやMBOファンド等の、いわゆる外部株主に株式を保有してもらうことは想定していませんでした。また、新たな外部株主から役員派遣を受けたり、経営に過度の干渉をされることは望んでおりません。 顧問税理士から紹介された中小企業投資育成に私たちのMBOに参加してもらって本当に大丈夫でしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 中小企業投資育成 (1) 中小企業投資育成とは 中小企業投資育成は、昭和38年に中小企業投資育成株式会社法に基づき設立された経済産業省所管の政策実施機関で、中小企業の自己資本の充実と、その健全な成長発展を図るための投資等を行うことを目的としています。 原則として資本金3億円以下の企業(公序良俗に反するもの、投機的なものを除きます)を投資対象企業とし、東京・大阪・名古屋に本社を置く中小企業投資育成3社が全国の中堅・中小企業2,740社(2020年10月現在)に出資しています。 (※) 出所:大阪中小企業投資育成株式会社ホームページより筆者加工 (2) 投資ファンド等との違い 中小企業投資育成は、投資した株式を売却して利益を得ることは前提としておらず、安定した配当を期待する株主です。キャピタルゲインを目的とし、数年で出口(EXIT)を求める前提の投資ファンド等と異なり、数十年にわたる株式保有が期待できます。 経営陣に対するアドバイス等を通じて投資先企業を育成するという側面を持ち合わせているものの、出資先企業に対する経営干渉や役員派遣を行うことはありません。 (3) 引受価額 中小企業投資育成が増資等を引き受ける際の引受価額については、以下のとおり独自の株価算式が定められています。投資ファンド等が用いるDCF法等の収益還元方式とは異なる独自の株価算式で、財産評価基本通達188-2に定める配当還元価額に比較的近い価額(配当還元価額より若干高い価額)となることが多く、議決権の50%という引受限度との兼ね合いもあり多額の資金調達を目的とする場合には不向きです(1社当たりの投資額が3,000万円程度となることが一般的です)。 (※) 申告所得税関係個別通達「中小企業投資育成株式会社が第三者割当てに基づき引き受ける新株の価額および保有する株式を処分する場合の価額にかかる課税上の取扱いについて」(昭48直審3-126、直審4-109、直審5-53) (4) 引受限度 中小企業投資育成は、投資先企業の自主性を尊重するスタンスであり、増資等を引き受けるにあたって、投資先企業の議決権の50%超を保有することはできない旨が定められています。   [2] 中小企業投資育成の投資先における同族株主の判定 (1) 同族株主判定 財産評価基本通達188-6には、投資育成会社(中小企業投資育成)が株主である場合の同族株主等の判定に関する通達が存在しており、①中小企業投資育成が財産評価基本通達188に定める同族株主等(同族株主・中心的な同族株主・中心的な株主)の要件を満たす場合でも中小企業投資育成は同族株主等(同上)に該当しないこと、②中小企業投資育成の議決権を除いて同族株主の判定をした場合に同族株主に該当することとなる者があるときは、それ以外の者は同族株主以外の株主等に該当すること、が定められています。 (※) 財産評価基本通達188-6を筆者加工 (2) 本スキームの場合 顧問税理士から提案のあった本スキームは、5名の取締役が議決権の50%を均等に10%ずつ保有し、中小企業投資育成が50%の議決権を保有する株主構成となっており、各取締役が10%の株式を譲渡する際には、次なる取締役が「同族株主以外の株主等」として配当還元価額により取得することが可能です。 中小企業投資育成は、「同族株主」及び「中心的同族株主」の要件を満たしますが、財産評価基本通達188-6(1)及び(2)により「同族株主」及び「中心的同族株主」に該当しないものとして取り扱います。また、取締役5名は議決権割合が各10%であるため、「同族株主」に該当することはありません。したがって、新設するSPCは「同族株主のいない会社」となります。 同族株主のいない会社の判定を行うに当たって、中小企業投資育成は「中心的な株主」の要件を満たしますが、財産評価基本通達188-6(2)により「中心的な株主」に該当しないものとして取り扱います。また、取締役5名は議決権割合が各10%であるため、「中心的な株主」に該当することはありません。したがって、取締役5名は「同族株主以外の株主等」に該当することになります。 〈同族株主のいない会社の評価方式〉 (※) 財産評価基本通達188(3)(4)を元に筆者作成。   [3] 結論 非同族の取締役がMBOにより経営権を取得する場合、親族内で行われる事業承継に比べて後継者の年齢が高くなることが一般的です。また、役員や従業員への親族外承継に舵を切った会社は、次なる事業承継も役員・従業員への親族外承継となる可能性が高く、事業承継のスパンも短くなることが想定されますので、後継者となる役員・従業員の負担が継続的に少なくなるような事業承継対策を検討することが重要です。 その点、中小企業投資育成は長期安定株主として数十年にわたって株式を保有してもらうことが可能ですので、株主に迎えることで、次なる事業承継の際にも後継者の負担軽減に一役買ってくれるものと思われます。 国の政策実施機関である中小企業投資育成は、投資先企業の経営の自主性を尊重してくれる株主ですので、ベンチャーキャピタルやMBOファンドに比べると株式を保有してもらうことについて安心感があることは事実です。ただし、経営干渉しないと言っても外部株主であることに変わりはありません。株主総会の開催をはじめとする会社法等の法令順守が難しい場合や、毎期安定的に配当を行うことに抵抗がある場合には、投資育成制度の利用について再考が必要でしょう。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 398(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2020/12/10

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第21回】「〔第5表〕借地権の計上」-個人から法人へ使用貸借があった場合-

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第21回】 「〔第5表〕借地権の計上」 -個人から法人へ使用貸借があった場合-   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲が所有しているA土地及びB土地は、甲が株式を100%保有している甲株式会社に賃貸していますが、その概要は下記の通りとなります。 経営者甲が甲株式を令和2年に後継者である乙に贈与する場合において甲株式会社の第5表の純資産価額の計算明細書の資産の部に計上するA土地及びB土地の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになるのでしょうか。 なお、甲株式会社はA土地及びB土地について借地権の認定課税を受けたことはありません。 A 第5表の純資産価額の計算明細書の資産の部に計上する借地権の内訳は下記の通りとなります。 (単位:千円)  ◆  ◆  ◆ ① 使用貸借取引 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生じ(民法593)、使用貸借においては、借主は借用物の通常の必要費を負担することになります(民法595①)。固定資産税は通常の必要費となりますので、A土地及びB土地については、私法上は使用貸借取引となります。   ② 借地権の認定課税 法人が土地を賃借する場合において、借地権の取引慣行があるにもかかわらず権利金を支払わないときは、次に掲げる場合を除き、その法人に対して借地権の認定課税が行われます(法法22、法令137、法基通13-1-2、13-1-3、13-1-7)。 ③ 借地権の認定課税の歴史 法人の借地権の認定課税は、昭和30年の前半から問題となるようになりましたが、当時は、権利金に種々の性質のものがあること、権利金の慣行が一様ではないことから、どのような場合に認定課税が行われるか否か明確ではなく、個々の取引に応じて審理がなされていました。 親子会社等の間で権利金を収受しない場合の権利金課税の問題等が昭和36年12月の税制改正調査会でも審議がなされ、昭和37年の法人税法施行規則の改正及びその取扱通達により、借地権課税が整理されました。その内容は、相当の地代を収受している場合には、借地権の認定課税がされない一方、権利金等の取引上の慣行がある場合において通常収受するべき権利金又は相当の地代を収受していない場合には、借地権の認定課税を行うことが明確になりました。 ところで、個人から法人への使用貸借があった場合には、昭和55年の法人税基本通達の改正以前においては営利を追求する法人を当事者とする使用貸借はあり得ず、使用貸借を擬制とする賃貸借取引において賃料が免除されたという解釈により、借地権の認定課税の対象とされていました。 昭和55年の法人税基本通達の改正により、通常収受するべき権利金又は相当の地代を収受しない土地の賃貸借取引又は使用貸借取引がある場合、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく土地所有者の納税地の所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、所轄国税局長)に届け出たときは、借地権の認定課税は行われないこととなりました(法基通13-1-7)。 この通達は、昭和55年12月25日以降の土地の賃貸等に適用されますが、同日前の土地の賃貸等については経過的な取扱いとして、借地権の認定課税が行われていない場合(認定課税の除斥期間を経過しているものを含む)において、この通達の適用を受けることにつき、遅滞なくその旨の届出を行っている場合には、上記の通達の適用を受けることができるものとされています。   ④ 借地権の計上の可否 ◇A土地について 借地契約を開始した昭和20年当時においては、権利金収受の慣行がないため、借地権の認識を法人でする必要はありませんが、昭和40年に権利金の収受が行われるようになったことから自然発生的に借地権が昭和40年当時から生じていることになります。借地権を認識しない場合には、その後の昭和55年の法人税基本通達の改正により土地の無償返還に関する届出書を提出する必要があり、その提出をしているため、法人に借地権はないものとして取り扱います。 使用貸借による土地の無償返還に関する届出書の提出があった場合には、土地所有者は自用地で評価されることになるため、A土地の借地権の価額は0となります(昭和60年6月5日付直資2-58「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」通達の5・8)。 ◇B土地について 借地契約を開始した昭和40年当時においては、権利金収受の慣行があるため、原始発生的に借地権が生じ、昭和40年に認定課税がされるべきであると考えられます。借地権を認識しない場合には、その後の昭和55年の法人税基本通達の改正により土地の無償返還に関する届出書を提出するべきところ、その提出もされていないことから、法人に借地権があるものとして財産評価を行うことになります。 したがって、B土地の借地権の価額は、「自用地評価額×借地権割合」により評価します。   ☆実務上のポイント☆ 使用貸借があった場合の借地権の計上については、土地賃借時に原始発生的に借地権が生じているのか、土地賃借後に自然発生的に借地権が生じているのか、土地の無償返還に関する届出書が提出されているのかにより、借地権に計上するべき金額を決定することになります。 (了)

#No. 398(掲載号)
#柴田 健次
2020/12/10

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第8回】「居住用家屋を取り壊して土地等のみを譲渡している場合」-居住用土地等のみの譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第8回】 「居住用家屋を取り壊して土地等のみを譲渡している場合」 -居住用土地等のみの譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、20年前に土地と家屋を購入し、居住の用に供してきました。 本年3月にその家屋を取り壊して、同年9月に土地を4,000万円で譲渡する契約を不動産会社Aと締結し、同年12月に引渡しが完了しましたが、多額の譲渡損失が発生しました。 なお、家屋を取り壊した後、譲渡契約締結日まで、その土地は貸付その他の用に供していません。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 居住用家屋を取り壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合において、その譲渡した土地等が次に掲げる要件の全てを満たすときは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用対象の譲渡資産に該当します(措通41の5-5(居住用土地等のみの譲渡))。 したがって、本事例における譲渡は、上記の適用要件を全て満たしていることから、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けられることになります。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(同条⑦一ロ、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)

#No. 398(掲載号)
#大久保 昭佳
2020/12/10

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第66回】「倉敷青果荷受組合事件」~最判平成30年9月25日(民集72巻4号317頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第66回】 「倉敷青果荷受組合事件」 ~最判平成30年9月25日(民集72巻4号317頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 398(掲載号)
#菊田 雅裕
2020/12/10

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第43回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第43回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (4) 譲渡した資産の「価額」と提供した役務につき「通常得べき対価の額」 法人税法22条の2第4項は、収益の額について、資産の販売又は譲渡の場合は資産の引渡時の「価額」相当額、役務提供の場合は提供した役務につき通常得べき「対価の額」相当額となることを定めている。資産については「価額」、役務については「対価の額」というように異なる文言を採用した趣旨は、必ずしも明らかではない。 例えば、南西通商株式会社事件の最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(民集49巻10号3121頁)は、法人税法22条2項について、「この規定は、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される」と判示する。 渡辺徹也教授は、この判決と同じように、法人税法22条の2第4項においても、「法人がどれだけの対価を受け取ったかではなく、法人が譲渡により手放した資産の時価が重視されている〔下線筆者〕」と指摘される(渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第2版〕』119頁(弘文堂2019)参照)。ここでは、役務提供ではなく資産の文脈ではあるが、時価とは異なる概念として「対価」という語が使用されている。 「対価」という語が時価とは異なる概念として用いられるとすると、法人税法22条の2第4項が、役務提供に係る収益の額として1項又は2項により益金の額に算入する金額は「その提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額」として、「対価」という語を使用していることをどのように理解すべきであろうか。 この場合、「対価の額」の直前に「通常得べき」という語が付加されていることに注意すべきである。役務提供に係る個別具体的な対価の額(契約上の対価の額)ではない。あくまで「通常得べき」対価の額となっているのである。このことから、「通常得べき対価の額」=「時価」ないし「適正額」という理解につながっていく。 金子宏教授も、「ここに通常得べき対価の額とは時価を意味している解すべきであろう」として(金子宏『租税法〔第23版〕』356頁(弘文堂2019))、「通常得べき」という部分を含めて「時価」を意味していると解釈されている。 法人税法22条の2第5項柱書は、「前項の引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額は、同項の資産の販売等につき次に掲げる事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合における価額とする。」としている。縮めて読むと、法人税法22条4項の「引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額は・・・価額とする。」となる。 このように条文を注意深く眺めてみると、「引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額」も広い意味で「価額」という時価を表す語にまとめられるという整理をしていることに気が付く。 ここでいう時価とは、第三者間で通常付される価額であると解されている。国税庁は、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とは、「一般的には第三者間で通常付される価額(いわゆる時価)をいう」と説明している(国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係」9頁。後述する立案担当者の解説も参照)。 通達は、「資産の引渡しの時の価額等の通則」と題して、「その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額」とは、「原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額」をいうとした上で、なお書で、「資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度終了の日までにその対価の額が合意されていない場合は、同日の現況により引渡し時の価額等を適正に見積もるものとする」と続けている(法基通2-1-1の10)。 上記説明や通達に表れているように、国税庁は、資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額を時価ないし適正額と判断することとしているが、それはあくまで原則論ないし一般論として位置付けられていることに注意が必要である。個別の状況によっては(特段の事情がある場合には)、上記と異なる判断がなされることもある。 第三者間で付された金額でありながら、「時価」について問題とされた事例が存在することから、この点を注視すべきであるという指摘がある(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号115頁参照)。 なお、本連載第42回で述べたとおり、法人税法22条の2第4項は、➊資産又は役務の時価そのものを対象としているのか、あるいは➋より広く、資産又は役務の時価をベースとしつつ取引条件等も考慮した場合に、第三者との取引において通常得べき対価の額(通常成立する価額)を対象としているのか、という疑問を投げかけうる。   (了)

#No. 398(掲載号)
#泉 絢也
2020/12/10

会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第7回】「“連結子会社との付き合い方”について聞きたい!」

会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第7回】 「“連結子会社との付き合い方”について聞きたい!」   石王丸公認会計士事務所   《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 *  *  * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)

#No. 398(掲載号)
#石王丸公認会計士事務所
2020/12/10

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第107回】ハイアス・アンド・カンパニー株式会社「第三者委員会中間調査報告書(2020年9月28日付)、第三者委員会最終調査報告書(2020年10月26日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第107回】 ハイアス・アンド・カンパニー株式会社 「第三者委員会中間調査報告書(2020年9月28日付)、 第三者委員会最終調査報告書(2020年10月26日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【ハイアス・アンド・カンパニー株式会社第三者委員会の概要】   【ハイアス・アンド・カンパニー株式会社の概要】 ハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「ハイアス」と略称する)は、2005(平成17)年3月31日設立。事業内容は、不動産に関するコンサルティングと建築施工。売上高7,913百万円、経常利益174百万円、資本金433百万円、従業員数227名(いずれも2020年4月期連結実績)。本店所在地は東京都品川区。2016年4月、東京証券取引所マザーズ市場上場。会計監査人は有限責任あずさ監査法人東京事務所(以下「あずさ監査法人」と略称する)。 ◎経緯   【調査報告書の概要】 第三者委員会は、ハイアスの特別調査委員会による調査結果を引き継ぎ、「新たな疑義」に関わる事実関係の調査を中心に、準備期間を含めると2ヶ月を超える期間の調査を行っている。 なお、本稿における役職者の呼称について、あらかじめお断りをしておきたい。第三者委員会による中間調査報告書で、「〇〇取締役」と表記されている役職者のうち、中間報告書公表後に辞任した者について、最終報告書では「〇〇元取締役」と呼称表記が改められているが、本稿では、表記変更に伴う混乱を避けるため、第三者委員会設置時の呼称をそのまま使用することとしている。 1 第三者委員会設置の経緯 (1) 特別調査委員会の設置 ハイアス監査役会が、2020年6月17日に受けた外部からの情報提供を契機として調査したところ、2016年4月期に費用計上すべきであった上場支援に係るコンサルタント報酬約880万円について、当該期に費用計上せず、2017年4月期にシステム開発の委託先を経由して支払ったため、当該期にソフトウェア資産として計上され、また、かかる実態と異なる名目での支払い稟議について、複数の取締役及び執行役員らが関与していた疑いがあることが判明し、2020年7月15日、監査役会から取締役会に対してその中間報告が行われた。 ハイアスは、監査役会からの中間報告を受け、会計監査人とも協議の上で、本件の詳細及び類似の問題の有無等について、客観的かつ深度ある調査を行うため、当社独立役員2名(赤井厚雄社外取締役及び坂田真吾社外監査役)に外部専門家2名(伊藤信彦弁護士及び河江健史公認会計士)を加えた構成による不適切な会計処理に係る特別調査委員会を7月28日に設置した。 (2) 新たな疑義の判明 特別調査委員会の調査によって、上記コンサルタント報酬約880万円の一部は2015年4月期の第三者を介した架空売上の資金循環のスキームの精算に関係していることが判明するとともに、その他にも同期に第三者を介した資金循環のスキームを用いた又は相手方に対して売上高と同等の経済的利得の提供を約する架空売上が存在する可能性が生じ、金額として約2,700万円にのぼる複数の架空売上の新たな疑義が明らかとなった。 ハイアスは、こうした新たな疑義が生じている2015年4月期が上場直前期であったこと、架空売上の粗利率を考慮すると当該期の当社の連結営業利益約9,400万円及び連結当期純利益約4,800万円に対してそれぞれ17%以上及び45%以上になると見込まれること、経営陣の関与の観点でも稟議決裁への関与から上場直前期の架空売上計上が経営陣の主導により行われたのか否かという質的に全く異なる問題になることを認識した。 (3) 市場変更の審査における問題点と第三者委員会の設置 こうした事情に加え、ハイアスは、株式の東京証券取引所マザーズから東京証券取引所市場第一部への市場変更のための審査に際して、上記コンサルタント報酬約880万円の支出に係る費用計上の問題を認識していたにもかかわらず、当該事象の認識から市場変更日(2020年7月21日)まで日本取引所自主規制法人に対して報告を行わなかった経緯についても客観的な調査が必要と判断し、より透明性の高い枠組みで深度ある調査を行うため、ハイアス独立役員も委員となっている特別調査委員会から、会社から独立した中立・公正な社外委員のみで構成される第三者委員会へ移行することとし、8月31日付で第三者委員会を設置した。 2 会計不正の内容(中間調査報告書20ページ以下) 第三者委員会の主たる調査対象となった架空売上の疑義のある約2,700万円の取引は、いずれも2015年4月期に行われたものであり、調査の結果、いずれも実態のない取引により売上が過大計上されたものであった。 3 発生原因の分析(最終調査報告書124ページ以下) 第三者委員会による、発生原因の分析は約17ページに及ぶ詳細なものであり、「業務執行レベルの問題」「組織のガバナンスの問題」及び「組織風土や組織運営の問題」といった視点から、分析が試みられている。 第三者委員会による分析のうち、ハイアスの会計不正のキーとなった事象について、以下確認しておきたい。 まずは、「財務経理部門による牽制機能の欠如」の中の、「(2)CFOの機能不全による前財務経理部長への権限集中」の項目である。第三者委員会は、ハイアス経営陣が株式上場を目的とした短期業績至上主義的な業務運営を進める中、こうした経営陣を牽制する立場であったはずの財務経理部門トップ、CFOである取締役経営管理本部長西野敦雄氏(以下「西野取締役」という)は、「財務経理の知見に乏しかったことに加え、財務経理部門の責任者としての職責を果たす当事者意識が希薄だった」ことから、財務経理部長K氏に権限が集中する構造が産まれていたことを指摘し、さらに、K氏は、企業の財務経理担当者として株式上場を経験することをキャリアの目標としていたことから、「財務経理部長として牽制機能を発揮するよりも、営業部門を支援して当社株式の上場達成に向けて少しでも業績を良く見せるために種々の工作を巡らすことで当社に貢献する意識を強く持っており、不適切な会計処理を未然防止する役割を果たさなかった」と評価している。 次いで、「内部監査によるモニタリング機能の問題」を取り上げたい。ハイアスには、代表取締役直轄の内部監査室が置かれていたが、現在に至るまで一貫して1名体制であり、第三者委員会は、2019年8月に現内部監査室長が就任するまでの間、内部監査室長は他の業務を兼務する体制となっており、内部監査の実務経験も乏しかったと評価している。そのうえで、リソース不足から、内部監査として十分なモニタリング機能を発揮できる体制になかっただけではなく、内部監査室が代表取締役直轄の組織であり、内部監査計画は取締役社長の承認のみを要するとされ、監査報告書の提出先も社長とされていたことから、 内部監査として経営者をモニタリングすることを想定した制度にはなっていないことを指摘している。その結果として、監査役会による監視・監督として経営者をモニタリングする機能を発揮して本件の一連の不適切な会計処理の兆候を早期に把握して監査役会に情報提供するといった活動が行われることはなかった。 3番目のポイントとして、「取締役会の監督機能の問題」における「一部社外取締役の適格性の問題」を検討したい。第三者委員会が問題としたのは、社外取締役である荻原俊彦氏(以下「荻原社外取締役」という)である。調査報告書によれば、荻原社外取締役は、ハイアスの創業メンバーが独立前に所属した企業(株式会社エル・シー・エーホールディングス)で法務部長を務めた者であり、ハイアス設立後は顧問として管理部門の業務を支援し、監査役を経て2012年7月に社外取締役に就任しているが、社外取締役就任後も行政書士の資格を活用して代表取締役社長濱村聖一氏(以下「濱村社長」と略称する)の監督下で主に総務部関連の業務執行を行っており、そもそも会社法上の社外取締役に該当しないという意味で適格性に問題があり、業務執行に対する監督機能が期待できない取締役であったということである。 最後に、「市場のゲートキーパーとなるべき外部専門家(公認会計士)の問題」にも触れておきたい。第三者委員会の調査の結果、ハイアスが株式上場前、財務報告に係る内部統制の構築等のアドバイザーとして迎えていた大手監査法人出身の公認会計士が、2014年11月の実態のない取引による売上の過大計上とその後の返金スキームに関し、財務経理部長K氏からの依頼に応じて具体的な返金スキームを考案して実態のない売上取引を指南したことにとどまらず、その一部では自身が経営する会社を返金スキームに介在させて返金を一時的に立て替える形で具体的に関与し、スキーム策定等による報酬も得ていることが判明している。 第三者委員会は、「2014年11月の売上の過大計上とその後の返金スキームは当該公認会計士の指南や関与なくしては実行不可能であった取引であり、当該公認会計士が果たした役割は極めて大きい」と評価するとともに、「公認会計士として独立した立場で企業の財務情報の信頼を確保すべきプロフェッショナルとして役割や職責を放棄して市場のゲートキーパーとして機能しなかった点は本件の発生原因の1つとして指摘せざるを得ない」と結論づけている。 4 再発防止策・改善策(最終調査報告書141ページ以下) 上記の発生原因の分析を踏まえて、第三者委員会による再発防止策の提言を確認しておきたい。   【調査報告書の特徴】 ハイアスが、第三者委員会による中間報告書公表時に開示した過年度の財務諸表に対する影響額は、売上高が20百万円の減少となる一方、営業利益は11百万円の増加となっており、金額が決して大きくないだけでなく、東京証券取引所も、「財務数値の虚偽の程度は限定的であり、新規上場及び市場変更に係る数値基準の未達もなかったと考えられる」と評価している。 一方、ハイアス経営陣がこうした会計不正に手を染め、事実を隠蔽してきた代償としては、会社設立以来の経営トップが辞任せざるを得なかったことに加え、一連の調査委員会による調査費用と追加の会計監査に多額の費用(570百万円の特別損失の計上)を要したこと(※1)のみならず、特設注意市場銘柄指定と上場契約違約金の徴求という、上場会社としての信用を大きく失墜する結果を招くこととなった。 (※1) 「特別損失・法人税等調整額(益)の計上並びに連結業績予想及び配当予想(無配)の修正に関するお知らせ」(2020年10月26日付) 1 経営陣の刷新 ハイアスは、第三者委員会中間報告書を公表した翌日である9月30日に、「代表取締役の異動及び新経営体制に関するお知らせ」を公表して、代表取締役の濱村社長はじめ4名の取締役と荻原社外取締役の辞任を公表した。 さらに、11月16日には、「代表取締役及び役員の異動並びに新経営体制に関するお知らせ」と題されたリリースにより、12月23日開催予定の臨時株主総会の終結をもって、9月30日に代表取締役に就任したばかりの川瀬太志氏及び取締役の中山史章氏が、経営責任を明確化するため取締役を辞任するとともに、3名の監査役全員が辞任して、経営陣が一掃されることを公表している。 2 会計監査人の意見不表明 会計監査人であるあずさ監査法人は、9月30日に公表されたハイアスの2020年4月期有価証券報告書における監査報告書を「意見不表明」とした。その理由は次のとおりである。 その後、あずさ監査法人は、監査意見を表明する前提となる、経営者の誠実性について深刻な疑義を生じさせていることから、今後の監査契約を継続することが困難になったと判断したという説明とともに、辞任を申し入れた(※2)。 (※2) 「公認会計士等の異動に関するお知らせ」(2020年10月1日付) 同月5日、ハイアスは、「一時会計監査人の選任に関するお知らせ」をリリースして、監査法人アリアを一時会計監査人とすることを公表した。ハイアスは、監査法人アリアを12月23日開催予定の臨時株主総会において会計監査人として選任する付議を、取締役会で決議している(※3)。 (※3) 「会計監査人の選任に関するお知らせ」(2020年11月16日付) 3 株主からの取締役に対する責任追及訴訟提訴請求(中間調査報告書48ページ以下) 本件の発覚経緯として、ハイアスのリリースでは、「2020年6月17日に受けた外部からの情報提供を契機として調査」としか開示していなかったが、「外部」とは、ハイアスの株主であり、取締役に対する責任追及の訴えを求めるものであったことが、中間報告書に記載されている。 ハイアスの監査役会は、架空取引の関与者でもある株主から、2020年5月28日付書面を受領し、ハイアスの取締役が不正送金により損害を与えた可能性があることから、監査役が調査の上、支払いを指示したハイアス取締役に880万円の支払いを求める訴えを提起すべきという要請などが記載されていた。 その後、常勤監査役大津和幸氏は、6月17日、同じ株主から同月16日付で「取締役に対する責任追及訴訟提訴の請求書」を受領。その内容は、上記の支払いを指示した取締役は善管注意義務違反及び忠実義務違反による損害賠償責任を負うことから責任追及の訴えの提起を求めるものであった。こうした状況を受け、ハイアス監査役会は、会社法381条2項に規定された監査役の調査権を行使して調査を実施したことが、本件の会計不正が公になった契機となった。 4 ハイアスによる再発防止策 10月30日、ハイアスは「再発防止策等に関するお知らせ」を公表した。その内容について、以下検討しておきたい。 5 東京証券取引所による特設注意市場銘柄の指定と上場契約違約金の徴求 東京証券取引所は、11月26日、「監理銘柄(審査中)の指定解除、特設注意市場銘柄の指定、上場市場の変更(市場第一部からマザーズへの変更)及び上場契約違約金の徴求について:ハイアス・アンド・カンパニー(株)」と題されたリリースを公表した。その中で、東京証券取引所は、ハイアスの一連の開示を受けて、特設注意市場銘柄の指定と上場契約違約金の徴求処分に至った理由を次のように説明している。 6 株式会社エル・シー・エーホールディングス出身者で占められていた取締役会 ハイアスの2020年4月期有価証券報告書によれば、同社の取締役(社外取締役3名を含む)10名のうち、社外取締役2名を除く8名が株式会社エル・シー・エーホールディングスの出身で占められており、常勤監査役も同社出身である。株式会社エル・シー・エーホールディングスといえば、2015年12月1日に、東京証券取引所市場第二部を上場廃止になったことが思い出される。その際に、東京証券取引所が公表したリリースでは、次のように上場廃止の理由が述べられている。 東京証券取引所から、「内部管理体制等については改善の必要性が高い」ことを理由に、株式を「特設注意市場銘柄指定」とされたところまでは、多くの役員の出身母体である株式会社エル・シー・エーホールディングスと同じ道程をたどってしまったハイアスであるが、上場廃止という同じ轍を踏まないためには、新経営体制のもとで、内部管理体制を早急に整備する必要があることは間違いない。 (了)

#No. 398(掲載号)
#米澤 勝
2020/12/10

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第9回】「加害者からの請求及び仮の地位を定める仮処分」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第9回】 「加害者からの請求及び仮の地位を定める仮処分」   弁護士 柳田 忍   拙稿第7回及び第8回においては、被害者からの請求とこれに関する裁判外・裁判上の紛争解決手続について説明した。 一方、会社はハラスメント事案に関連して、被害者からだけではなく加害者から請求を受ける場合もある。具体的には、会社がハラスメント事案の加害者に対して科した懲戒処分等について、「懲戒処分等の根拠とされたハラスメント事案が存在しない」「ハラスメント事案の深刻度に比べて懲戒処分が不当に重すぎる」といった理由により、加害者が会社に対して当該処分等の無効確認を求めることがある。 本稿では、ハラスメント事案の加害者からの請求及びこれに関する裁判外・裁判上の紛争解決手続について述べることにする。   1 加害者からの請求 ハラスメント事案について、加害者から会社に対してなされる請求としては、懲戒処分等が無効であることを前提として、労働契約上の地位の確認や、未払いの賃金(無効な懲戒解雇処分等がなされた場合には解雇時以後の未払賃金)の支払いの請求、無効な懲戒処分等を科されたことによる損害賠償請求などがなされることが考えられる。これらのうち典型的なものは、加害者に対して懲戒解雇処分や諭旨解雇処分がなされた場合に、加害者が、労働契約上の地位確認と(解雇時以後の)未払賃金の支払いを併せて請求する場合である。 通常訴訟においてこれらの請求が認められると、会社は当該労働者の復職を認めなければならないうえに、解雇から復職までの未払賃金の支払い及び遅延損害金(当面の間、年率3%(本稿公開時点))の支払いもしなければならなくなる。この点、懲戒解雇処分等が無効であったとしても、加害者はその期間は働いていないのであるから、ノーワーク・ノーペイの原則に従い、賃金を支払う必要はないのではないかと思われるかもしれないが、加害者が就労しなかったのは、会社が無効な懲戒処分を科して加害者の就労を妨げたためであるから、会社は労務の提供を受けていなくても、加害者に対して賃金を支払わなければならない。 なお、労働契約上の地位確認請求は消滅時効にかからないのに対し、賃金支払請求権は一定期間(当面の間は3年間(本稿公開時点))の経過によって時効により消滅する。   2 裁判外の紛争解決手段 加害者が会社に対する請求を実現するために利用する可能性のある裁判外の紛争解決手段の説明については、拙稿第7回をご参照いただきたい。   3 裁判上の紛争解決手段~仮の地位を定める仮処分 (1) 概要 加害者が会社に対する請求を実現するための裁判上の紛争解決手段としては、主に、仮の地位を定める仮処分、労働審判及び通常訴訟がある。このうち、労働審判と通常訴訟に関する説明については、拙稿第8回をご参照いただくものとし、本稿では仮の地位を定める仮処分について説明する。 仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために、暫定的な法律上の地位を定めるものであり(民事保全法第23条第2項)、通常訴訟に比べて簡易迅速な手続が予定されている。労働事件における仮の地位を定める仮処分の典型としては、労働契約上の地位を有することを仮に定める旨の地位保全の仮処分と、(解雇時から本案判決確定時までの)賃金仮払いを命ずる旨の賃金仮払いの仮処分があり、解雇の効力を争う労働者はこれらを併せて申し立てる場合が多い。 仮の地位を定める仮処分は、通常訴訟による解決を待っていては救済されない可能性のある労働者を暫定的に保護するための制度であり、その発令は通常訴訟に比べて簡易迅速になされるが、その代わり、「被保全権利」(保全されるべき権利関係。すなわち、労働契約上の地位や賃金支払請求権)が認められ、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法第23条第2項・保全の必要性)でなければ、仮の地位を定める仮処分の発令はなされない。 賃金仮払いの仮処分については、労働者やその家族らの生活が危機に瀕しており、仮処分の発令による一時的救済がなければ本案判決の確定を待てない状況に陥っているか否かが判断基準となるが、容易に保全の必要性は認められない。 また、賃金仮払いの仮処分が認められれば(少なくとも暫定的には)労働者は救済される場合が多いことから、賃金仮払いの仮処分に加えて地位保全の仮処分の保全の必要性が認められるのは特段の事情がある場合(社会保険の被保険者としての資格の継続の必要性が認められる場合など)に限られる。 (2) 手続の特徴 (3) 仮の地位を定める仮処分の手続におけるポイント 上記のとおり、仮の地位を定める仮処分において求められる疎明の程度は相当高度であると言われているが、筆者の感覚としては、やはり通常訴訟に比べて仮処分の方が幾分、労働者側の主張が認められやすくなっている印象がある。仮処分が暫定的な判断であるとはいえ、労働者側の請求(特に被保全権利)を認める判断がなされる場合、会社のレピュテーション(評判)に少なからぬダメージがあるものと思われるし、本案訴訟へのマイナスの影響も否定できない。 この点、仮の地位を定める仮処分を申し立てる労働者が必ずしも復職を希望しているとは限らず、和解交渉を有利に進めるための戦略として申立てを行っている場合もあることから、会社に不利な判断がなされる見込みが高まった場合は、和解での解決を検討することも一案であろう。 (了)

#No. 398(掲載号)
#柳田 忍
2020/12/10

〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第12回】「時効に関するルールの変更と実務への影響」

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第12回】 「時効に関するルールの変更と実務への影響」   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 高橋 弘行   〔質 問〕 2020年4月1日から、民法の一部(債権法)が改正され、時効について大幅な変更があったと聞きました。時効は、権利の有無に関わる重要な問題ですので、是非とも把握しておきたいところです。改正のポイントと実務上の影響は、どういったものなのでしょうか。 〔回 答〕 改正前の民法は、消滅時効により債権が消滅するまでの期間(消滅時効期間)は、原則10年であるとしつつ、例外的に、職業別のより短期の消滅時効期間(弁護士報酬は2年、医師の診療報酬は3年など)を設けていました。 今回の改正では、消滅時効期間について、より合理的で分かりやすいものとするため、職業別の短期消滅時効の特例を廃止するとともに、消滅時効期間を、「債権者が権利を行使できることを知った時」(主観的起算点)から5年か、「権利を行使できる時」(客観的起算点)から10年としています。 また、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、「不法行為の時から20年間」という客観的起算点による規律は、消滅時効と位置づけられました。 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については、債務不履行と不法行為のいずれによるものであっても、主観的起算点から5年間、客観的起算点から20年間に統一されました。 また、改正前民法の時効の「中断」「停止」という概念は、新しく「更新」「完成猶予」という概念に改められ、内容も見直されました。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 消滅時効期間に関する原則的な規律 改正前民法には、職業別の短期消滅時効及び商行為によって生じた債権に関する短期消滅時効(商事消滅時効)の規定が存在していた。しかし、これらの各規定は、その適用範囲が不明確であるとともに、それらの規定の適用対象から外れる隣接職種との間で異なる取扱いをすることについて、現代社会においては合理的理由を見出し難くなっていた。 そこで、現行民法においては、これらの各規定を廃止したうえで、債権の消滅時効における時効期間と起算点に関する原則的な規律として、①権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年、又は②権利を行使できる時(客観的起算点)から10年、という二重の消滅時効期間が導入され、規律の単純化と統一化が図られた。 契約に基づく債権などの取引上の債権の場合、通常は契約締結の時点で債権者が権利を行使することができることを知るため、原則的な時効期間は債務の履行期間から5年ということができる。他方、債権者自身が自分が権利を行使することができることを知らないような債権(例えば、債務者が債権者に返済金を過払いした場合に生じる過払金の返還を求める債権については、過払いの時点では、その権利を有することを債権者自身が気付いていないことがある)については、権利を行使することができる時から10 年とされている。   2 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効 改正前民法では除斥期間(※)と解されていた不法行為時から20年の期間制限も、現行民法で消滅時効であることが法文上明文化され、主観的起算点から3年(民法724条1号)、客観的起算点から20年(同条2号)とその時効期間が定められた。 (※) 法定の期間内に権利を行使しない場合、その権利を失うことになる期間をいう。 これにより、主観的起算点と客観的起算点を組み合わせる時効期間制度が、一般の債権に関してもまた不法行為による損害賠償請求権にも採用されたことになり、消滅時効の期間及び起算点の枠組みにおける整合化が図られたものである。 実務上の影響としては、不法行為時から20年の間であれば、民法724条1号の時効期間を満了しない限り、時効の更新や完成猶予といった時効障害事由を発生させることにより、権利行使の機会を確保できるようになったという点が挙げられる。   3 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効 人の生命・身体に対する侵害に関しては、その損害賠償請求権が債務不履行と不法行為のいずれに基づくものであっても、客観的起算点から20年及び主観的起算点から5年という統一的かつより長期の時効期間の規律に服することになった。 実務上の影響としては、人の生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権については、従来、主観的起算点から3年とされていた時効期間が5年に延びて、被害者保護が拡充されたといえる。 また、債務不履行に基づく損害がある場合においては、損害が顕在化しないまま20年近く経過した場合であっても保護されることになり、この点でも、被害者保護が拡充されたといえる。   4 時効の更新及び完成猶予 時効の進行を妨げるための手段(時効障害事由)として、改正前民法では、時効の「中断」及び「停止」という2種類の事由が定められていた。現行民法においては、時効障害事由を再編成するにあたり、「中断」から「更新」へ、「停止」から「完成猶予」へと用語の変更がなされた。 更新・完成猶予をもたらす事由の捉え方につき、「裁判上の催告」に関する判例法理を取り込む形で体系的に再編され、①時効の更新事由については、従前の時効期間の進行が確定的に解消され新たな時効期間が進行を始める時点を示すべき事由を持って把握することとし、②その更新事由にかかる手続きの進行中(及びその手続きが更新事由を構成せずに終了した場合には、その終了時点から6ヶ月を経過するまで)は時効の完成が猶予されることになった。 仮差押え・仮処分については、改正前民法における「中断事由」から「完成猶予事由」に改められ、仮差押え・仮処分が終了した時から6ヶ月を経過するまでは時効は完成しない旨規定されている(民法149条)。 催告による時効の完成猶予に関し、その完成猶予期間内になされた再度の催告については完成猶予の効力を生じない旨の規定も新設された(民法150条)。 さらに、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度が、新たに導入された(民法151条)。当事者間で協議が継続されていても、時効完成間際にあって時効の完成を阻止するためには訴えの提起等のより強硬な手段を採らざるを得ないとすれば、協議による自律的・自発的解決を図ろうとする当事者のいずれにとっても不利益な取扱いとなり得ることに鑑みて、そのような自体を回避するために規定されたものである。   5 経過措置(改正前民法と現行民法のいずれが適用されるのか) (1) 消滅時効期間 「施行日前に債権が生じた場合」(つまり、2020年4月1日前に債権が生じた場合)については改正前民法が適用され(民法附則10条4項)、施行日以後に発生した債権に関しては現行民法が適用される。 注意しなければならないのは、「施行日前に債権が生じた場合」には、施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときも含む(民法附則10条1項)とされている点である。 例えば、施行日前に請負契約が締結され、施行日以後に請負工事が完成し、報酬債権が発生した場合などは、改正前民法の時効期間によることになるのである。 (2) 不法行為による損害賠償請求権 現行民法の施行日において不法行為時から既に20年が経過していなければ、現行民法が適用され、既に20年が経過していれば改正前民法が適用される(民法附則35条1項)。 また、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権のうち不法行為に基づくものの主観的起算点からの時効期間を5年とする特則を設ける改正については、現行民法の施行日において「損害及び加害者を知った時から3年間」の消滅時効が既に完成していた場合でなければ、現行民法が適用される(民法附則35条2項)。 なお、債務不履行に基づく損害賠償請求権の場合については、民法附則10条4項が適用されるため、客観的起算点からの時効期間を20年とする特則の適用を受けるのは、施行日以後に生じた契約関係に起因して発生した人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権ということになる。 (3) 時効の中断・停止(更新・完成猶予) 施行日前に時効の中断・停止事由(更新・完成猶予事由)が生じた場合については改正前民法が適用され(民法附則10条2項)、施行日以後にこれらの事由が生じた場合には現行民法が適用される。 したがって、施行日前に生じた債権であっても、施行日以後にこれらの事由が生じれば、現行民法が適用されるのである。 なお、協議をする旨の合意に時効の完成猶予の効力が生じるのは施行日以後に限られる(民法附則10条3項)。 (了)

#No. 398(掲載号)
#高橋 弘行
2020/12/10
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