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これからの国際税務 【第25回】「バイデン政権の国際課税改革とデジタル課税」

これからの国際税務 【第25回】 「バイデン政権の国際課税改革とデジタル課税」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 Made in America Tax Planの発表 本年3月末に米国バイデン大統領は、今後8年間にわたる2兆2,500億ドル規模のインフラ投資計画を発表し、そのための財源措置として財務省は”Made in America Tax Plan(以下「プラン」と略す)“と呼ばれる法人税増税措置案を4月に公表した。 その中心をなす施策は、トランプ前政権が行った大幅な法人税率引下げ(35%から21%へ)規模を半分に縮小する(中間点である28%に逆戻り)ものであるが、その際に、米国企業や米国労働者の税負担面での国際競争力維持にも配慮しながら、利益の海外流出の阻止を徹底化する方向での重要な国際課税ルールの改正も付加している。また、これらの国際課税ルールの改正案からは、現在G20/OECDが最終合意に向けて取り組んでいるデジタル経済の課税ルール作りを、米国がリードして合意に至りたいとの強い意欲もうかがわれる。 今回は、その同プランの国際課税改革の骨格を検証して、デジタル課税についての現在進行中の政治折衝に及ぼす影響を予測してみたい。   2 トランプ政権下での改正国際課税ルールに対する評価 トランプ政権による米国国際課税ルールの抜本改正(米国企業の国際競争力を確保するための法人税率引下げ及び外国子会社配当益金不算入制度(テリトリアル方式)の導入と、これに合わせた無形資産の海外移転を防止する趣旨を中心とするGILTI(グローバル無形資産低課税所得対策税制)、BEAT(税源浸食・濫用防止税)、FDII(外国由来無形資産所得税制)の3点セット税制の創設)に対して、今回のプランは、各種の統計データを示しつつ、以下の否定的な評価を行っている。   3 プランに含められた国際課税ルール改定案 (1) GILTI/FDII税制関係 以上の提案の背景には、トランプ改正が許容した国外投資の優遇扱い(実質10.5%までの税負担軽減)により、米国多国籍企業の利益の海外移転は高止まりしたままになっているとの認識がある。また、グローバルベースのGILTI所得のブレンディング計算についても、底辺への競争対策として不十分とされた。 (2) 法人の全世界ベースの会計上利益に対する代替ミニマム税(税率15%)の創設 トランプ税制で廃止されていた法人の代替ミニマム税を、全世界ベースで課すものである。米国では、純利益20億ドル以上の法人(200社)の多くは法人税を納付しておらず、この結果発生している、企業及びそのステークホールダーと、一般の勤労者との間の税負担格差を埋める方策として提案されたものである。 なお、G20/OECDで協議中の全世界ミニマム税のバックストップとしての機能も期待されている。 (3) BEAT税制の廃止 売上原価を控除し、適用対象を総控除の3%以上をBEAT支払いが占めるという閾値を設けた本税制は、立法目的に沿った成果が認められず、かつ予定された税収も上げられていないことから廃止すると提案した。代わりに、効果的なミニマム税を有しない国の関連者への支払いに適用される損金不算入制度(SHIELD)への置換えが提案されている。 なお、BEAT税制が目的としていた底辺への競争対応は、多国間の枠組みでのミニマム税(G20/OECD青写真中の第2の柱(本連載【第22回】参照))に期待するとした。   4 デジタル課税の協議に及ぼす影響 米国の税制改正の帰趨は、議会の審議にかかっており、これからロビー活動も本格化するものと思われる。両院でかろうじて多数を確保した民主党政権にとっても、法案成立までには協議の難航が予測されるという前提で、本プランがOECDでのデジタル課税ルールの国際協調に及ぼす影響を見通してみたい。 上記の提案のうち、デジタル課税の多国間協議に影響を及ぼすものは、なんといっても、GILTI改革(特別控除の引下げによる合算課税する際の実効税率の引上げ(21%)等)である。国際協調への復帰を宣言した米国にとっては、上述の青写真で、第2の柱の合算課税ルール(IIR)と併存しうると位置づけられていたGILTI税制について、同プランの内容がG20/OECDで達成される最終合意と平仄が合わせられることが望ましいであろう。 プランでは、G20/OECDが想定していた税率閾値レベルよりも高めではないかと思われる21%を提案していることもあって、イエレン財務長官によるミニマム税合意に向けた国際社会への働きかけが、最近強化されている。ミニマム税構想については、青写真でその骨格が煮詰まりつつあるとはいえ、根幹となる税率閾値を中心に、各国にとっては自国CFC税制との整合性を図るなどの視点があり、制度設計についての各論選択肢は必ずしも集約されていない。グローバルミニマム税構想の詳細設計と税率閾値を巡る議論は、米国が先出しした本件プランを踏み台にした政治折衝が続くと想定される。 なお、プランにみられる①GILTIの合算課税計算のベースとして、これまでのグローバルブレンディングから、青写真と同様の国別ブレンディングに修正されている点と、②BEAT廃止によって青写真の適用序列(IIRを優先しUTPR(軽課税支払いルール)をバックストップとする)とは整合性がとれている点は、合意促進の観点からは評価されると思われる。   〔追記〕 米国財務省は5月20日、デジタル課税の第2の柱で主張される全世界ミニマム税の税率を「少なくとも15%以上」とする提案をOECDに提出した。これは、プランのGILTIの閾値(21%)ではなく、代替ミニマム税の閾値(15%)まで譲歩しうるとしたもので、アイルランドなど欧州の低税率国への配慮を示したものとみられている。 なお、第1の柱のデジタル課税対象企業についても、利益率と売上高規模で全世界100社程度に限定する米国案をベースにOECDが最終調整に入ったとの報道がされている。 (了)

#No. 421(掲載号)
#青山 慶二
2021/05/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例98(所得税)】 「「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例」の適用ができたにもかかわらず、届出書の提出を失念したため、適用できなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例98(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆配当等とみなす金額(所法25①) 法人の株主等が当該法人の自己株式の取得により金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額の合計額が当該法人の資本金等の額を超えるときは、その超える部分の金額は、利益の配当等とみなされ、課税される。 ◆相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例(措法9の7) 相続又は遺贈により財産を取得した個人でその相続又は遺贈につき納付すべき相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日からその相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式を当該非上場株式の発行会社に譲渡した場合には、非上場株式の譲渡の対価として発行会社から交付を受けた金銭の額が発行会社の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額についてはみなし配当課税は行わず、一般株式等に係る収入金額とみなして、一般株式等に係る譲渡所得の課税の特例を適用する。 ◆相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書(措令5の2②・③) 「みなし配当課税の特例」の適用を受けようとする個人は、その非上場株式をその発行会社に譲渡する時までに、一定の事項を記載した書面を、その発行会社を経由してその発行会社の所轄税務署長に提出しなければならない。上記書面の提出を受けた発行会社は、一定の事項を記載した書類を、当該譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、上記書面とあわせて所轄税務署長に提出しなければならない。 〈みなし配当課税の特例の具体例〉 ※所得税及び復興特別所得税15.315%+住民税5%       (了)

#No. 421(掲載号)
#齋藤 和助
2021/05/27

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第31回】「第三者を介在させて特殊関係者へ譲渡した場合」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第31回】 「第三者を介在させて特殊関係者へ譲渡した場合」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、20年間居住の用に供して来た家屋とその土地を不動産業者Fに2,000万円で売却しました。 その約2ヶ月後に、Fは、その家屋と土地をXの長男であるZに30万円上積みして2,030万円で売却しました。 なお、登記は、XからZに直接しました。 他の適用要件が具備されている場合、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A その取引が名実共に、X⇒F、F⇒Zと譲渡されたものであれば、その譲渡損失について、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができますが、X⇒Zが真実の取引であるところ、特例を受けるために仮装したものである場合には、特例の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある親族などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 そして、その譲渡が適用除外の譲受者への譲渡に該当するかどうかについては、真実の事実関係に従って判定されることとなります。 なお、適用を受ける目的のもとで架空の契約書を作成するなど、真実の取引を仮装した場合には、その申告は、重加算税(国税通則法第68条)の対象となります。 おって、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められており(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)、真実の事実関係に基づきその適用の是否が判定されます。 (了)

#No. 421(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/05/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第5回】「造成中の墓地の固定資産税は非課税か否かで争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第5回】 「造成中の墓地の固定資産税は非課税か否かで争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の非課税 第4回において、学校法人等がその設置する学校において直接保育又は教育の用に供する固定資産の非課税(地方税法第348条第2項第9号)が争われた事案を検討したが、今回は、墓地(地方税法第348条第2項第4号)の非課税が争われた事案について検討する。 なぜ墓地が非課税かというと、今回検討する判決において「土地を死体や遺骨を埋葬し得る墓地としての現況を備え公共の用に供することによって、当該土地の所有者によるその他の使用収益の可能性がなくなり、ひいてはその資産価値を見い出せないから」と述べられている。 墓地として使用することが認められるためには、まず、墓地埋葬法第10条による許可が必要となる。造成工事が完了し、検査を受け、適合と証されてはじめて墓地としての使用が可能となる。   ▷どのような事案か この事例の経緯を時系列で並べると次のようになる。   ▷争点は何か 争点は、本件土地が、平成18年1月1日現在、固定資産税法上の「墓地」に該当していたか否かである。 ① 原告(X)の主張のポイント 固定資産税は、許可を受けて墓地としての用に供するために使用していれば非課税とされるべきだ。 平成18年1月1日の時点において、墓地にするべく造成中だから、墓地としての用に供するために使用されていた。だから、課税処分を行ったのは違法だ。 工事完了検査を受けていないことを理由にさいたま市は非課税を認めないが、検査は許可内容に適合しているかどうかの確認の手続であり、墓地該当性を認めるための要件ではない。 不動産取得税については、埼玉県大宮県税事務所から非課税とする旨の通知を受けており、非課税とされた趣旨は固定資産税も同様であると解されるから、固定資産税も非課税とされるべきだ。 ② 被告(さいたま市)の主張のポイント 固定資産税が非課税であるためには、賦課期日現在の土地が、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設として使用可能な状態であるとともに、墓地として使用するために必要な手続が行われていなければならない。 墓地等の経営許可を受けた者は、許可に係る墓地の工事が完了した場合は検査を受ける必要があり、検査が完了するまでは土地の使用が認められない。 賦課期日である平成18年1月1日現在、本件土地は造成工事中であり、墓地として使用できるようになったのは、検査後の平成18年3月27日以降のことである。したがって、賦課期日現在、墓地には該当せず、固定資産税は非課税とならない。   ▷裁判所の判断 裁判所は、以下のように言及し、原告の主張を退けた。 このように、今回の判決では、不動産取得税と固定資産税において造成中の墓地について非課税と課税の差がでてきたことにより、軽減や非課税の適用について賦課期日現在の状況で厳格に判断を求めている固定資産税の本質が見えやすい。 (了)

#No. 421(掲載号)
#菅野 真美
2021/05/27

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第54回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第54回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   キ 値引きや割戻し、貸倒れ見込みや返品権付きの販売 前記イ(本連載第51回参照)でも述べたとおり、値引きや割戻し、貸倒れ見込みや返品権付きの販売について、立案担当者は、次のとおり、説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 法人税法22条の2第5項は、4項の引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額は、同項の資産の販売等につき、❶「当該資産の販売等の対価の額に係る金銭債権の貸倒れ」又は❷「当該資産の販売等(資産の販売又は譲渡に限る。)に係る資産の買戻し」の事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合における価額とする旨定めている。 この5項について、立案担当者は次のように解説し、同項が留意的規定であること及び上記❷が返品権付きの販売であることを説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』276頁 上記❶について、収益認識会計基準では、顧客と約束した対価に変動対価(顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分)が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積もることになるところ(基準50)、かかる見積りとしてではなく、貸倒れの可能性や資産の買戻しの可能性を織り込んで対価の額が合意された場合の取扱いはどうなるのか、という問題がある。 例えば、金銭の貸付けを例に考えると、その貸付けが第三者間取引であれば、当然、債務者の貸倒れの可能性等を約定金利に反映させることとなるわけであって、貸倒れの可能性がある場合とない場合とで取引価格が異なるのは、当然のことである、という指摘がなされている(朝長英樹「『収益認識に関する会計基準等への対応』として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(3)」T&A master751号25頁参照)。 金銭の貸付けと貸倒れの可能性の例では、同項が対象としているのは元本債権ではなく収益たる利息債権である(1号は資産の販売等の「対価の額に係る」金銭債権の貸倒れと規定していることに注意)。 金銭消費貸借契約において、元本債権のみならず利息債権の貸倒れの可能性も考慮して金利を設定している場合に、同項がかかる金利部分を「通常得べき対価の額」の算定上考慮しないとすることまでを定めるものであるか、という問題を提起しうる。少なくとも、これを肯定することは上記解説が述べる同項の趣旨にそぐわない。 よって、運用面では、その趣旨に合わせた解釈ないし適用が行われる可能性がある。上記のような場合には貸倒れの可能性を考慮した金利の額が「通常得べき対価の額」として認められるということである。 流入する取引価格をベースとする収益認識会計基準と、流出するものの時価をベースとする法人税法では、収益の額の算定に係るベースが異なることを考慮した規定振りにすべきであったのではないか。 また、❷「当該資産の販売等(資産の販売又は譲渡に限る。)に係る資産の買戻し」が返品権付きの販売であることについて、「買戻し」と「返品権付きの販売」という用語法の不一致が問題となりうる。 買戻しは、いったん売買されたものが再売買されるものであるところ、返品は元の売買がなかったものとなるものであるにもかかわらず、法人税法22条の2第5項2号の「資産の買戻し」に返品を含むものと解すべきなのか、という疑問が提起されている(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号116頁参照)。 もっとも、返品調整引当金に係る旧法人税法53条1項は、当該販売の際の価額による「買戻し」に係る特約その他の政令で定める特約を結んでいるものが、当該棚卸資産の当該特約に基づく「買戻し」による損失の見込額として、各事業年度終了の時において損金経理により「返品」調整引当金勘定に繰り入れた金額という表現を採用していたことを指摘しておく。 「返品」という意味で「買戻し」という語を用いる慣例があったとすれば、上記のような解説も許容されるであろう。   (了)

#No. 421(掲載号)
#泉 絢也
2021/05/27

〈注記事項から見えた〉減損の深層 【第5回】「飲料メーカーが減損に至った経緯」-核心に迫れるか-

〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第5回】 「飲料メーカーが減損に至った経緯」 -核心に迫れるか-   公認会計士 石王丸 周夫   〈はじめに〉 缶コーヒーのメーカーで減損が実施されました。仕事の合間に自販機で買って飲む、あの缶コーヒーです。在宅勤務で働く人が増えて、缶コーヒーを飲まなくなったからだろうという話は確かにありますが、本当にそれだけでしょうか。注記を手掛かりに、そのあたりを探ってみましょう。   〈今回の注記事例〉 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者   〈減損やむなしの状況〉 サッポロホールディングスが食品飲料事業で大規模減損(計11,028百万円)を実施しました。サッポログループの食品飲料事業は、缶コーヒーや即席スープ等を製造、販売しています。ビール事業とは別の部門です。中心となっているのはポッカサッポロフード&ビバレッジという会社で、減損はこの会社の固定資産を対象に実施されたものです。 上掲の注記では、減損の原因は、「新型コロナウイルス感染症の影響」と記載されています。「新型コロナウイルス感染症の影響」について、この会社は、有価証券報告書の注記事項、「4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」で、こう述べています。 つまり、新型コロナウイルス感染症は一時的なものではなく、将来に向けて広範な影響が予想されるため、固定資産の減損が必要になったという説明です。冷静に将来への影響を分析して実施された減損という印象を受けます。 ただし、2020年12月期決算説明会資料「12/23 適時開示 補足説明資料」(2020年12月23日)によると、この減損の背景には、2期連続の赤字計上とコロナ感染再拡大があったと説明されています。 当該資料には、2期連続赤字の原因も記載されており、2019年は冷夏と暖冬、2020年はコロナ禍とのことです。つまり、コロナの前年に異常気象の影響を受けていたということです。 では、2019年の冷夏と暖冬というのは、どの程度深刻だったのでしょうか。   〈2019年の異常気象〉 まず冷夏の方ですが、これは2019年7月のことを指しているものと思われます。気象庁のホームページによると、2019年7月の気温は、東日本では7月としては12年ぶりの低温でした。しかし、6月~8月(夏)の期間で見ると、以下の図表のとおり、必ずしも記録的な冷夏ではありませんでした。 [夏(6-8月)の平均気温が低かった年] (※) 気象庁「日本の季節平均気温偏差(℃)」(最終更新2021/3/1)より筆者作成 上位10位以内の年は、だいぶ昔なのでピンとこないかもしれませんが、第4位の「1993年」だけは覚えている方も多いのではないでしょうか。記録的な冷夏によりコメ不足となって、全国で大騒ぎになった年です。これに比べれば、「2019年」はそもそも偏差がプラスであり、夏らしかったといえます。 次に2019年の暖冬についても確認してみます。こちらは、確かに暖冬でした。以下の表のとおり、記録的暖冬です。 [冬(前年12月-2月)の平均気温が高かった年] (※) 気象庁「日本の季節平均気温偏差(℃)」(最終更新2021/3/1)より筆者作成 そして、よく見ると、第1位は「2020年」です。この統計では、冬の期間は前年12月~当年2月ですので、「2020年」については2019年12月が含まれています。したがって、2019年12月決算は、6位の「2019年」だけでなく、1位の「2020年」の影響もあったというわけです。 飲料の販売と平均気温には相関関係があることがわかっていますので、この暖冬については、サッポロホールディングスの売上に影響があったことは否定できないでしょう。   〈その前から落ちていた業績〉 ところが、ポッカサッポロフード&ビバレッジの財務数値を分析すると、また少し違うことも見えてきます。以下のグラフを見てください。 (※) サッポロホールディングス(株)の有価証券報告書に記載されている「主要な損益情報等」より筆者算定 2019年は暖冬により、2020年はコロナ禍により業績が落ちていますが、トレンド的にはその前の2018年から右肩下がりになっているのです。 実は、この2018年というのは、缶コーヒー業界に変化が起きた年でした。その前年にサントリーからペットボトルコーヒーが発売され、大ヒットし、これを受けて他の飲料大手が競ってペットボトルコーヒーを市場に投入してきた年なのです。結果、この年を境に、コーヒー飲料市場ではペットボトルが定着したと言われています。上のグラフは、ポッカサッポロフード&ビバレッジが、その流れに乗り遅れた可能性を示唆しているようにも見えます。 これを裏付けるようなデータもあります。ポッカサッポロフード&ビバレッジの国内飲料の販売数量に関するデータです。 (※) サッポロホールディングス通期決算説明会資料より筆者作成 業績が落ちる前の2016年と現在(2020年)の比較なのですが、国内販売数量の減少のほとんどが、自販機販売数量の減少であり、コーヒー飲料の減少であることがわかります。 話はここで終わりません。さらにもう1つグラフを見てください。 (※1) サッポロホールディングス(株)の有価証券報告書に記載されている「主要な損益情報等」より筆者算定 (※2) 2020年のデータは執筆時点では未公表 上のグラフは、ポッカサッポロフード&ビバレッジの売上高経常利益率を日本企業の平均値と比べたものです。日本企業の平均値は法人企業統計調査によっており、資本金の規模別に3種類のグラフを載せていますが、ポッカサッポロフード&ビバレッジの売上高経常利益率は、そのいずれよりも低い値となっているのです。ポッカサッポロフード&ビバレッジの資本金は5,432百万円なので、このグラフで見る限り、売上高経常利益率はそもそも低空飛行だったといえます。 つまり、コロナ禍、異常気象、ペットボトルコーヒーとは別に、何か根本的な原因がそこにあるようにも見えますが、これ以上はわかりません。 減損の注記は奥が深いということだけは確かなようです。 (了)

#No. 421(掲載号)
#石王丸 周夫
2021/05/27

収益認識会計基準を学ぶ 【第5回】「契約変更」

収益認識会計基準を学ぶ 【第5回】 「契約変更」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 収益認識会計基準は、顧客と合意し、かつ、所定の要件を満たす契約に適用する(収益認識会計基準17項(1))。 いったん、顧客と締結した契約であっても、その後、契約内容を変更することがあるが、収益認識会計基準はこの「契約変更」について詳細に規定している。 そこで今回(第5回)は、この「契約変更」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 契約変更の定義 契約変更は、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更であり、契約の当事者が、契約の当事者の強制力のある権利及び義務を新たに生じさせる変更又は既存の強制力のある権利及び義務を変化させる変更を承認した場合に生じる(収益認識会計基準28項、126項)。   Ⅲ 契約変更の種類と会計処理 契約変更は、契約の当事者による承認により生じるものであるが、それによって新たに生じる又は変化する権利及び義務が強制力のあるものかどうかを判定するにあたっては、契約条件並びにすべての関連する事実及び状況を考慮する(収益認識会計基準122項)。 収益認識会計基準は、契約変更として、次の場合を規定している。 1 契約の範囲の変更を承認したが、変更された契約の範囲に対応する価格の変更を決定していない場合 契約の当事者が契約の範囲の変更を承認したが、変更された契約の範囲に対応する価格の変更を決定していない場合には、収益認識会計基準50項から52項及び54項に従って、当該契約変更による取引価格の変更を見積もる(収益認識会計基準29項)。 収益認識会計基準50項から52項及び54項は、変動対価に関する規定である。 2 契約変更を独立した契約とする場合 契約変更について、次の①及び②の要件のいずれも満たす場合には、当該契約変更を独立した契約として処理する(収益認識会計基準30項)。 これは、下記の要件のいずれも満たす契約変更は、追加的に約束した財又はサービスに関する独立した契約を締結した場合と取引の実態に相違がないためである(収益認識会計基準123項)。 3 契約変更を独立した契約としない場合 契約変更が収益認識会計基準30項の要件を満たさず、独立した契約として処理されない場合には、契約変更日においていまだ移転していない財又はサービスについて、それぞれ次の(1)から(3)のいずれかの方法により処理する(収益認識会計基準31項)。   (了)

#No. 421(掲載号)
#阿部 光成
2021/05/27

〈事例から学ぶ〉不正を防ぐ社内体制の作り方 【第6回】「テレワーク拡大に伴い増加した不正から会社を守る」~ITに依存するリスク~

〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第6回】 「テレワーク拡大に伴い増加した不正から会社を守る」 ~ITに依存するリスク~ 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   はじめに 政府が国民にテレワークを強く推奨する現状を、今から1年以上前に誰が想像することができたでしょうか。出勤者を7割削減し、在宅勤務に要した費用の一部を経費として認めるといった以前には考えられなかった政策が打ち出されています。さらに国はハンコの削減によって行政システムを見直し、効率化だけでなく非接触や非対面も推進しようと試みています。 読者の方の中には、テレワークを継続する結果、もう1年も会社に通勤していないという方もいらっしゃるかもしれません。こうした生活や仕事の進め方を支える仕組みの1つは、まぎれもなく情報技術(IT)によるものです。世界的なパンデミックの影響によって、これまでにないくらい私たちの生活や仕事は、ITに強く依存することになりました。 私たちはITによって高い利便性を享受する一方で、これまでにないリスクに直面していることを忘れてはなりません。つい先日も、テレワークの際、会社のサーバーに繋げる時に使う接続機器がサイバーアタックのターゲットとなり、会社情報が漏えいするという事件が報道されていましたし、攻撃型のウイルスメールは常に私たちの隙を狙っています。連休明けにたまったメールを処理する時も、慌ててウイルスメールの添付ファイルを開封することがないようにしなければなりません。   《1》 ITに依存するリスクを考える 非対面、非接触が求められる中で、ITに依存するリスクが今までにないほど増大しています。これまでに指摘されてきた従来型のITに関わるリスクに加え、新たに直面するリスクをあわせ、今回次のように整理しました。リスクを新たに認識することで適切な対応を図ってほしいと思います。 (1) テレワーク時の脆弱なセキュリティが狙われる テレワークの際に用いる個人のパソコンが狙われています。ファイアウォールなどで厳重に守られる会社のサーバーとは異なり、個人のパソコンはセキュリティが比較的脆弱なため、それさえ破れば会社のサーバーに易々と侵入し会社の情報を入手されてしまいます。最近は、盗んだデータを使って脅迫を行う犯罪も頻発しています。 テレワークを継続している方は、実は毎日こうしたリスクに晒されているため、決して無防備のままではいられません。 (2) ITに関するリスクに晒される多くの会社 ① ウイルス感染によるシステムダウン ある会社は、日常からウイルス感染のリスクに注意を払っていたにもかかわらず、社員が不注意にも開いたメール(添付ファイルの開封)が、社内システムへのウイルス感染を招いてしまいました。メール機能は長きにわたり喪失、財務システムがダウンしたことで取引先への支払が危ぶまれる結果となりました。 ② 社内情報の漏えい こうしたリスクは外からの攻撃ばかりではありません。従来型のリスクにもきちんと対応できているかどうかを確認しておく必要があります。ある会社では退職した従業員のID、パスワードがシステム内に放置されたまま、無効化していなかったために、会社の情報が持ち出される被害が起きました。 人事とIT部門が適切に連携して、すみやかに該当のID、パスワードを削除しておけば、未然に防げたはずの事故です。こうした情報漏えいの被害をもたらす原因は、退職者のID、パスワードばかりではありません。退職した従業員が比較的長い期間、テレワークによって使っていた会社が貸与していた個人用パソコンも、情報漏えいの一因となるため迅速な回収を心がける必要があります。 ③ アクセス権限の不適切な付与 全ての社員があらゆるデータに対し自由にアクセスすることを避けるため、アクセス権限が設定されており、通常は会社にアクセス権限付与一覧表が備えられています。このアクセス権限付与をめぐっては、これまでに色々な問題が起きていますので、次のことに注意を払う必要があります。   《2》 ITに依存するリスクに備える 従前のリスクに加え、新たなリスクが増大しつつあることを実感できたら、次はリスクに対する方策を具体的に考えます。それには個人としてすべきことと、会社レベルで取り組むべきことがあります。 (1) テレワーク環境下で個人として守るべき最低限度のこと テレワークに取り組む個人としてITに関わるリスクに対応する必要があります。次に示す点に注意を払いましょう。 (2) テレワーク環境下で会社として対応すべきこと 会社として対応すべきことは数多くあります。内部統制報告制度の視点も加味し、取り組むべき対策のうちのいくつかを紹介します。 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(Ⅱ.3(2)①(参考1)) (了)

#No. 421(掲載号)
#打田 昌行
2021/05/27

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例59】楽天株式会社「第三者割当による新株式の発行及び自己株式の処分に関するお知らせ」(2021.3.12)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例59】 楽天株式会社 「第三者割当による新株式の発行及び自己株式の処分に関するお知らせ」 (2021.3.12)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、楽天株式会社(以下「楽天」という)が2021年3月12日に開示した「第三者割当による新株式の発行及び自己株式の処分に関するお知らせ」である。なお、同社は同年4月1日付で「楽天グループ株式会社」に商号を変更している(同年1月28日に「商号の変更及び定款の一部変更に関するお知らせ」を開示)。 第三者割当増資に関する開示だが、割当先の中に中国ネット大手のテンセントの子会社が含まれていることが注目を浴び、メディアでも取り上げられた(日本郵政株式会社も割当先なのだが、それについては別の機会に論じたい)。   2 本当に純投資? 外国為替及び外国貿易法(外為法)では、外国人投資家が、日本の安全保障において重要な日本企業の株式を1%以上取得する場合、事前審査が必要であるとされており(外為法26条2項3号・4号、27条)、楽天への出資もその対象とされている。 しかし、今回のテンセント子会社による出資は、その事前審査を受けることなく実行された(2021年3月31日に「第三者割当による新株式の発行及び自己株式の処分の払込完了のお知らせ」を開示)。事前審査には免除ルールがあり(外為法27条の2第1項)、それに該当すると判断したようである。2021年4月15日付の日本経済新聞によると、楽天側も「テンセントは純投資で、免除ルールをクリアしていると認識していた」と説明しているとのことである。 テンセント子会社による出資は本当に純投資なのだろうか。今回の開示の「2.募集の目的及び理由」には、次のような記載がある(下線は筆者による)。テンセント子会社を割当先とした理由とテンセント側のコメントである。 この記載を読む限り、テンセント子会社による出資を純投資と解するのは難しい。「資本・業務提携」の一環と捉えるべきだろう。テンセント側のコメントには、思いっきり「提携」という言葉が使われている。   3 なぜ資本・業務提携について開示しなかったのか? 楽天は、今回の開示と同時に「日本郵政グループと楽天グループ、資本・業務提携に合意」という開示も行っている。しかし、「テンセントと楽天グループ、資本・業務提携に合意」は開示していない。テンセント子会社による出資も「資本・業務提携」の一環のはずだが。 提携の内容が深まっていないので、後で開示する予定だったのだろうか。しかし、「日本郵政グループと楽天グループ、資本・業務提携に合意」も、詳細な内容は記載されていない。あくまで「提携に合意」したという程度の内容である。どうせならば、テンセントとの資本・業務提携も併せて開示した方がよかったのではないだろうか。 テンセントとの資本・業務提携については、あえて開示しなかったのだろうか。やはり外為法による事前審査が問題になると考えたのだろうか。しかし、そうだとすると、なぜ今回の開示に上掲のような記載を行ったのだろうか。何か深い意図があったのだろうか。それとも、あまり考えていなかったのだろうか。 楽天は、今回の増資で調達した2,418億円を第4世代移動通信システム(4G)や第5世代移動通信システム(5G)の基地局整備に使うとしている。それには巨額の資金が必要なようで、2021年4月19日には「米ドル及びユーロ建永久劣後特約付社債の発行について」を開示し、約3,200億円の永久劣後債も発行するとしている。 2020年12月期は1,141億円の赤字だったが(2021年2月12日に「2020年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」開示)、その原因はモバイル事業であった。「早く何とかしないと」といった焦りがあるのだろうか。それが、同社の開示のちぐはぐさに影響を与えているのだろうか。 なお、同社は、2021年2月12日、「2020年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」と同時に「2020年12月期当社連結業績の前期との差異に関するお知らせ」を開示している。もっと早くに業績予想として開示できたはずだが、こちらは良くない内容なので、開示したくなかったのだろうか。 (了)

#No. 421(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/05/27

プロフェッションジャーナル No.420が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年5月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.420を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/05/20
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