給与計算の質問箱 【第1回】 「給与所得控除と基礎控除の見直し」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 今年(令和2年)から、給与所得控除が減額されると聞きました。 ということは、給与所得が増えることになりますから、所得税の負担が増えると考えてよいでしょうか。 A 給与所得控除が減額されると同時に基礎控除が増額されるので、すべての給与所得者において所得税の負担が増えるとはいえない。一定額以上の給与収入がある給与所得者のみ所得税の負担が増える。 * * 解 説 * * 1 給与所得控除の減額 令和2年(2020年)から、給与収入が850万円以下の場合は、給与所得控除が10万円減額になる(図表1参照)。給与収入が850万円超の場合は、給与所得控除が段階的に最大で25万円(220万円-195万円)減額になる。 【図表1】令和元年分と令和2年分以降の給与所得控除額 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 基礎控除の増額 令和2年(2020年)から、合計所得金額が2,400万円以下の場合は、基礎控除が10万円増額され48万円になる(図表2参照)。 【図表2】令和元年分と令和2年分以降の基礎控除額 (※) 合計所得金額2,400万円超からは控除額が段階的に引き下げられ、2,500円超からは適用ができない。 3 具体例 ① 令和元年、令和2年ともに年収300万円のケース ② 令和元年、令和2年ともに年収600万円のケース ③ 令和元年、令和2年ともに年収900万円のケース ④ 令和元年、令和2年ともに年収1,200万円のケース (了)
相続税の実務問答 【第43回】 「遺産分割協議が成立した後に遺言書が発見された場合」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出後に遺言書が発見され、分割協議によりあなたが取得することとなったA銀行B支店の定期預金は、従兄の甲さんに遺贈されたものであることが明らかになりました。そうしますとあなたはこの定期預金を取得することはできませんので、相続税の期限内申告書に記載された課税価格は過大であったことになります。そこで相続税法第32条第1項第4号の規定により、あなたは相続税の更正の請求をすることができます。 なお、甲さんは、自分に遺贈があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺言及び先行する遺産分割の効力 遺言者が亡くなると、原則としてその死亡の時から遺言は効力を生じることとなります。特定の財産を遺贈する旨の遺言があった場合には、その財産は遺言者の死亡とともに受遺者に帰属することとなります。 遺言が存在することが知れないまま、相続人間で遺産分割が行われることがあります。その後、遺産の全部又は一部を特定の者に遺贈する旨の遺言の存在が明らかになると、その受遺者はその遺贈の放棄をしない限り、先行する遺産分割の結果にかかわらず、遺贈の目的となった財産を取得することとなります。 2 相続税の申告後に遺言書が発見された場合の相続税の是正 相続税の申告後に遺言書が発見され、その遺言を執行することにより、当初申告において取得財産に含めていた財産を取得することができなくなったため、当初申告における相続税の課税価格が過大となった相続人は、相続税の更正の請求を行うことができます(相法32①四)。 また、この遺言によりはじめて財産を取得することとなった者は、そのことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出する必要があります(相法27①、相基通27-4(8))。 3 遺産分割協議の有効性 遺言の存在を知らずに遺産分割が行われ、その後に遺言書が発見された場合において、遺言の内容が分かっていれば異なった遺産分割が行われた蓋然性が高い場合には、遺贈の対象とされた財産を受遺者に引き渡すにとどまらず、錯誤があったことを理由に当該遺産分割は無効とされるものと考えられます(平成5年12月16日最高裁第一小法廷判決)。 この場合には、遺言内容を踏まえたところで再度の遺産分割が行われることとなりますが、無効が明らかになった時及び再度の分割協議が行われた時に更正の請求等により申告の是正の手続きを行うこととなります。 (参考判決)平成5年12月16日最高裁第一小法廷判決 4 ご質問の場合 あなたは、お姉様との間の遺産分割協議の結果に基づいて相続税の課税価格を計算して、相続税の申告書を提出しましたが、その後に、分割協議によりあなたが取得することとなっていたA銀行B支店の定期預金を従兄の甲さんに遺贈する旨のお父様の遺言書が発見されたとのことです。 そうしますと、あなたはこの定期預金を取得することはできませんので、この定期預金を取得財産に含めていた相続税の当初申告における課税価格は過大であったことになります。したがって、あなたは相続税法第32条第1項第4号の規定により、更正の請求をすることができます。 また、従兄の甲さんがA銀行B支店の定期預金を取得するのは、あなたからの贈与によるものではなく、あなたのお父様からの遺贈によるものです。したがって、甲さんに贈与税が課されることはありません。ただし、甲さんは、遺贈があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 なお、この遺言書の発見前にあなたとお姉様の間で遺産分割協議が成立していますが、この遺言書の内容が事前に分かっていれば、当該遺産分割協議とは異なった遺産分割協議が行われたであろう蓋然性が高い場合には、当初の遺産分割協議には錯誤があり、無効となると考えられます。その場合には、甲さんに遺贈された定期預金を除き、再度の遺産分割協議を行うことができるものと考えられます。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第10回】 「取締役との委任関係で黙示的な有償特約がないとされた事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 取締役と会社の関係 取締役等の役員は(※1)、従業員と異なり、会社と委任の関係にあると理解されている(会社法330)。つまり、所有と経営の分離を前提とし、役員は投資家である株主から経営を任され、会社に利益をもたらすことを期待される立場である。 (※1) ここにいう「役員」とは、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人やその他これらに類する者を意味する。 したがって、役員は職務執行を担うためのいわゆる“経営権”を有し、このような経営権は、会社が組織として企業利益を追求するために必要不可欠である一方、役員が自身の給与額をある程度自由に設定できる権限を有するという側面がある。 この権限を悪用することにより、いわば「お手盛り」で利益を圧縮しようとするケースも想定される。これを防止するため、会社法上・法人税法上共に、お手盛り防止規定を各種設けている。このうち法人税法上のお手盛り防止規定こそ、定期同額給与などの3類型や本連載【第3回】で触れた過大役員給与判断基準である。役員報酬・役員退職金の論点は、損金算入の可否判断がその主軸であり、法人税法上のお手盛り防止規定は、恣意性が介入するのであれば損金算入を認めないという構造になっている。 そして、会社法上のお手盛り防止規定としては、定款又は株主総会にて役員給与額等を定めるとされる規定である(会社法361)。 ここで、上述した「委任」は民法643条の委任を指すが、民法上、特約がなければ委任を受けた受任者は報酬を請求することができないと定められている。 したがって、理論上は委任契約が存在しなければ役員は会社に報酬を求めることができずに無償委任となる。しかし、実務上は、明示がなくとも黙示的に特約が存在するという理解が浸透し、運用がなされている。 (2) 黙示的な特約が存在しないとされた事例 ここで、裁決事例かつ所得税の領域ではあるが、黙示的な特約が存在せず、法人が支出した額が役員給与には当たらないとされた事例がある(※2)。 (※2) 国税不服審判所平成24年12月4日裁決(TAINS:J89-2-05) この事例は、同族会社が収入とした不動産賃借料の帰属が、当該同族会社と代表者である審査請求人のいずれであるかが主たる争点となった事例で、不動産の真の名義人は審査請求人(代表者)であると認定し、賃貸料は当該請求人に帰属すると示されたものである。 基礎事実として、請求人から同社に不動産を譲渡し、当該不動産から生じる賃借料を同社が収益として計上した上で、同社が請求人に役員給与を費用として計上していた。 特筆すべきは、当該事例のもう1つの争点として、当該役員給与が、審査請求人の給与所得を構成するか否かという点があったことである。 この論点に対して、審判所は、当該賃貸料は請求人に帰属するところ、当該賃貸料は同族会社の収入の全てであったため、同社は法人として行う事業を有しておらず、代表取締役であった請求人が行うべき業務はないとし、給与所得を構成しないと示した。 その上で、「会社法第330条及び民法第648条は、役員等と会社との関係について・・・規定しており、取締役は会社に対して特約がなければ無償委任となるところ、これらの職務(筆者注:株主総会の議長としての職務や同社の確定申告を行うという職務)は、法人が組織として存在する上での最小限の職務であるから、これらの職務に対して報酬を支払うことについて、取締役の委任契約において黙示的な支払の特約があったとまではいえず、したがって請求人は、これらの職務について役員給与の支払請求権を有していたとは認められない(下線部筆者)」とした。 この事例は、最低限の職務のみを行う取締役は、委任契約において黙示的な支払特約があったとは言えないと示されていることから、有償特約であるというためには、最低限以上の職務を担う必要があるといえそうである。翻せば、収益の帰属や事業の存在自体が否定されるようなペーパーカンパニーでない限り、黙示的な特約が否定されることは考えにくい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第12回】 「みなし共同事業要件」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、みなし共同事業要件について解説します。 1 みなし共同事業要件 支配関係が適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続していない場合でも、みなし共同事業要件を満たしているときは、欠損金の制限(【第10回】参照)や特定資産譲渡等損失額の損金算入制限(【第11回】参照)が適用されません。 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 2 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業と、合併法人の合併前に行ういずれかの事業とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、下記の①から③の通り、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 共同事業を行うための合併における適格合併の要件(【第8回】参照)と同様となっています。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」とは、下記のような場合のことをいいます(法規3①二・②)。 3 事業規模要件 「事業規模要件」とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業と合併法人の被合併事業と関連する合併事業のそれぞれの売上金額、従業者の数、被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。 共同事業を行うための合併における適格合併の要件(【第8回】参照)と同様となっています。 4 被合併事業の規模継続要件 「被合併事業の規模継続要件」とは、被合併事業が被合併法人と合併法人との間に最後に支配関係があることとなったときから適格合併の直前のときまで継続して営まれており、かつ、被合併法人と合併法人との間に支配関係が生じたときと適格合併の直前のときにおける被合併事業の規模(事業規模要件で判定した指標)の割合がおおむね2倍を超えないことをいいます。 被合併事業の規模継続要件は、みなし共同事業要件の事業規模要件を満たすために、事業規模を変化させることを防止するために設けられています。 〈資本金について事業規模継続要件を満たすと判定された場合〉 支配関係が生じたときの資本金が100で、合併直前に150となっており、変化の割合が2倍を超えないことから規模継続の要件を満たすこととなります。 5 合併事業の規模継続要件 「合併事業の規模継続要件」とは、合併事業が被合併法人と合併法人との間に最後に支配関係があることとなったときから適格合併の直前のときまで継続して営まれており、かつ、被合併法人と合併法人との間に支配関係が生じたときと適格合併の直前のときにおける合併事業の規模(事業規模要件で判定した指標)の割合がおおむね2倍を超えないことをいいます。 合併事業の規模継続要件は、4の被合併事業の規模継続要件と同様に、みなし共同事業要件の事業規模要件を満たすために、事業規模を変化させることを防止するために設けられています。 〈資本金について事業規模継続要件を満たすと判定された場合〉 支配関係が生じたときの資本金が200で、合併直前に250となっており、変化の割合が2倍を超えないことから、規模継続の要件を満たすこととなります。 6 経営参画要件 (1) 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、合併前の被合併法人の特定役員((2)参照)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが、合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていることをいいます。 基本的には共同事業を行うための合併における適格合併の要件と同様ですが、異なる点は、これらの特定役員は、合併法人と被合併法人との間に最後に支配関係があることとなった日前において経営に従事していた役員に限定されている点です。 (2) 特定役員とは 「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者((3)参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 (3) 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。 ◆みなし共同事業要件のポイント◆ みなし共同事業要件については、共同事業を行うための適格合併の要件と同じあるいは類似のものが多いため、異なる点を中心に理解しておく必要があります。 被合併事業の規模継続要件と合併事業の規模継続要件は、共同事業を行うための適格合併の要件にはないもので、事業規模要件を満たすために事業規模を変化させることを防止するものです。 経営参画要件において、共同事業を行うための適格合併の要件との違いは、特定役員が合併法人と被合併法人との間に最後に支配関係があることとなった日前において経営に従事していた役員に限定されていることです。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第34回】 「被結合企業の株主に係る会計処理①」 -受取対価が現金等の財産のみである場合- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、被結合企業の株主に係る会計処理のうち、受取対価が「現金等の財産のみ」である場合の会計処理を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 受取対価の時価 被結合企業の株主に係る会計処理では、交換損益を認識する場合の受取対価となる財の時価は、受取対価が現金以外の資産等の場合には、受取対価となる財の時価と引き換えた被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することになる(事業分離等会計基準33項、結合分離適用指針265項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針266項、267項)。 結合企業の株式などの受取対価又は引き換えられた被結合企業の株式のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、次のいずれかを用いて算定された額を受取対価の額とすることができる(結合分離適用指針267項)。 この場合、識別可能な個々の資産及び負債の時価が、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、該当する資産及び負債について、その適正な帳簿価額を用いることができる。 Ⅲ 受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理 1 現金等の財産 ある子会社を被結合企業とし他の子会社を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、共通支配下の取引として取り扱う(結合分離適用指針268項、244項、245項)。 現金等の財産については、次のことに注意する(結合分離適用指針268項)。 2 子会社を被結合企業とした企業結合の場合 子会社を被結合企業とし子会社以外を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて、次のように会計処理する(結合分離適用指針269項、事業分離等会計基準35項)。 【子会社を被結合企業とした企業結合の会計処理】 (1) 個別財務諸表上の会計処理 ① 被結合企業の株主(親会社)が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。 ② ただし、交換した株式に対する買戻しの条件などの被結合企業の株主の重要な継続的関与によって、交換した株式に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、交換損益を認識することはできない(結合分離適用指針において、交換損益を認識するとしている場合には、同様の留意が必要である)(事業分離等会計基準32項、119項)。 (2) 連結財務諸表上の会計処理 関連会社を結合企業とする場合には、子会社株式である被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。 3 子会社以外を被結合企業とした企業結合の場合 子会社以外を被結合企業とする企業結合により、被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合、被結合企業の株主は、次のように会計処理する(結合分離適用指針270項、事業分離等会計基準36項、37項)。 【子会社以外を被結合企業とした企業結合の会計処理】 (1) 個別財務諸表上の会計処理 被結合企業の株主が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。 (2) 連結財務諸表上の会計処理 子会社又は関連会社を結合企業とする場合には、被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、連結会計基準及び持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q25】 会社分割した場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関してどのような手続きが必要か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関しては、会社分割により承継会社に承継される者について、原則として分割会社の適用事業所を管轄する年金事務所において被保険者資格を喪失する手続きを行い、承継会社の適用事業所を管轄する年金事務所において被保険者資格を取得する手続きを行う。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 ここでは、A社を分割会社、B社を承継会社とする吸収分割の前提で、必要な社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きを確認する。なお、健康保険は、A社、B社ともに全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していることとする。 A社の手続き 原則としてA社の適用事業所を管轄する年金事務所へ、会社分割の効力発生日から5日以内に、会社分割によりB社に承継される者に関して次の書類を提出する。 これは、被保険者資格を喪失する手続きとなり、会社分割によりB社に承継される者のうち健康保険・厚生年金保険の資格を取得している従業員について必要となる。また、本届出には、本人分及び被扶養者分の健康保険被保険者証の添付が必要となるため、会社分割以降手続き実施までに従業員から健康保険被保険者証を回収しておかなければならない。 なお、紛失等により健康保険被保険者証の回収ができない場合は、資格喪失届にその理由を付記するか、「健康保険被保険者証回収不能届」の提出が別途必要となる。 B社の手続き 原則としてB社の適用事業所を管轄する年金事務所へ、会社分割の効力発生日から5日以内に、会社分割によりB社に承継される者に関して次の2つの書類を提出する。 ①は、被保険者資格を取得する手続きとなり、会社分割によりB社に承継される者のうち健康保険・厚生年金保険の資格を取得する従業員について必要となる。 ②は、①の対象者に健康保険上の被扶養者がいる場合に提出が必要となる。なお、国民年金第3号被保険者関係届は、以前は、複写式様式の3枚目を指していたが、被扶養者(異動)届と一体化したため、該当する欄に必要事項を記載して提出する対応となる。 健康保険被保険者証の発行 B社における手続きは、健康保険被保険者証の発行に関わるものであるため、不備がないよう早めに準備してスムーズに進めるようにしたい。 通常、資格取得届を提出してから2週間前後で健康保険被保険者証が発行されるが、4月等の新入社員が多い時期に重なると通常よりも発行に時間を要することがある。当然のことながら、会社分割の効力発生日以降はA社における健康保険被保険者証は使用することができないため、新しい健康保険被保険者証が早めに発行されるよう、できるだけ早めに手続きを行いたい。 なお、資格取得届と合わせて「健康保険 被保険者資格証明書交付申請書」を提出すると、健康保険被保険者証が発行されるまでの間、その代わりとして使用できる証明書を発行してもらえるため、手続き書類は増えるが、当該申請書も合わせて提出することをお勧めしたい。 保険者の変更など ここでは、健康保険は、A社、B社ともに全国健康保険協会(協会けんぽ)の適用を受ける前提としたが、同じ全国健康保険協会(協会けんぽ)でも都道府県により健康保険料率が異なるため注意が必要となる。 また、一方又は双方が健康保険組合である場合には、保険料率のみならず給付内容等が異なることがあるため、それらの点も合わせて、会社分割の説明の際に従業員に周知されたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第1回】 「巷で言われる『簡易な鑑定』なるものは存在しない」 不動産鑑定士 黒沢 泰 ◆ ◆ ◆ 税理士の皆様、不動産鑑定士が土地や建物の評価を行う方法の1つとして、「簡易鑑定」なるものがあると思われている方はいらっしゃるでしょうか。 ちなみに筆者は、しばしば次のような質問を受けることがあります。 質問 簡易鑑定は、通常の鑑定とどのように違うのでしょうか。 もし簡易鑑定の方が料金が安いのであれば、そちらを依頼したいのですが。 このような場合、質問者の意図はおそらく、評価額の結論が分かりさえすれば、書類は料金のかからない簡単なものでよいと考えているところにあると思われます。 しかし、「鑑定」という言葉が、十分な見極めを行った上で、ものの価値を見定める意味で使用されることを踏まえれば、「簡易鑑定」という言葉自体、矛盾する概念を含んでいます。 ちなみに、鑑定評価の拠り所とされている不動産鑑定評価基準では、鑑定評価の本質を次のように捉えています。 (不動産鑑定評価基準総論第1章第3節) また、不動産の鑑定評価に関する法律でも、第2条でその定義を設けています。 先ほど「鑑定」という言葉の意味を一般的に述べましたが、一歩踏み込んで考えれば、「鑑定評価」という行為は、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に則って各種の評価手法を可能な限り併用して、不動産の経済価値を追求していくことを意味します。 このように捉えれば、「鑑定評価」という行為に、簡易なものは受け容れ難いということになります。 それにもかかわらず、従来からこのような言葉がしばしば用いられてきた理由は、どのようなところにあるのでしょうか。 これは本質的な内容ではありませんが、不動産鑑定業者が依頼者のニーズ(「簡易なものでよいから低料金でお願いしたい」)に即した対応を図る一方、適用する手法を不動産鑑定評価基準に規定されている一部のものにとどめ、正式なものとは区別する意味で「簡易・・鑑定」という言葉が俗に用いられてきたものと推測されます。 また、名称は異なるものの、「価格調査報告書」や「価格意見書」等も同様の理由で鑑定評価書とは区別されていますが、内容的には従来のいわゆる簡易鑑定書のイメージに近いものといえます。 以上、従来からのいきさつを述べてきましたが、ここで1つ、留意しなければならない点があります。 それは、平成22年1月から「価格等調査ガイドライン」(※)(国土交通省)が施行され(平成26年5月改正)、不動産鑑定評価基準に則って行われる鑑定評価(いわゆる正式な評価)と、不動産鑑定評価基準に則らないで行われる価格等調査(簡易な価格調査)とを明確に区別することが求められるようになった、ということです。 (※) 正式名称は、「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」及び「同運用上の留意事項」です。 すなわち、不動産鑑定評価基準に規定されている手法の一部のみを適用して不動産の価格を求めた場合、その結果を成果報告書に記載する際には、「鑑定評価書」あるいは「評価」と名の付くタイトルを用いてはならないことが強調されています。したがって、簡易的に価格を求めた場合、「簡易鑑定書」あるいは「簡易評価書」という名称を用いることはできません。 このような場合は、「調査報告書」あるいは「価格意見書」のような形式での発行が求められるとともに、そこで求めた価格も「鑑定評価額」でなく「調査価格」あるいは「意見価格」という名称を付して区別しなければなりません。それだけでなく、「調査報告書」や「価格意見書」の中に、「鑑定」とか「評価」という言葉を使用してはならないことも併せて規定されています。 以上述べてきたことを対比させれば、次のとおりです。 価格等調査ガイドラインが制定されてから不動産鑑定業者の間にこれが浸透するまで、ある程度の年数を要しましたが、現時点では「簡易鑑定書」というような名称を付した新たな報告書はほとんど見かけなくなりました。 これも「巷で言われる『簡易な鑑定』なるものは存在しない」という認識が、不動産鑑定士の間で共有されるに至ったということでしょうか。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第21回】 「会長又は顧問として報酬を得る場合」 税理士法人トゥモローズ 前回から引き続き、事業承継後の老後資金対策の第2回目として、会長や顧問として会社から報酬を受け取る場合について確認したい。 経営者が代表取締役を退任し、役員退職金の支給を受けた後、会長や相談役として会社から報酬をもらうケースだが、法人の税務調査の現場で論点とされることが少なくない。 今回は役職が変更になった際に支給する(1)役員退職金(分掌変更退職金)と退任後の(2)月額報酬の支給について見ていきたい。 (1) 役員退職金 ① 税務調査で否認されないための「実質的」な退職とは? 企業の代表者(以下、前経営者)が後継者にその座を譲り、自身は会長になるときに支給する役員退職金が、法人の損金として認められるか否かについては、まず法人税法34条1項に次のような規定がある。 損金不算入となる役員給与のうち、退職金で一定のものはその対象から除かれている。 また法人税基本通達において、役員退職金について次のような「形式的な基準」が設けられている。 形式的には(ⅰ)役員が非常勤役員となり、(ⅱ)給与が50%以上減少し、(ⅲ)地位や職務内容が激変し、“実質的に退職したと同様の事情にあると認められる”場合に、その役員に支払った退職金は税務上の退職金として認められる、と規定している。 しかしこの(ⅰ)~(ⅲ)はあくまでも形式的な例示に過ぎず、たとえこれらの要件を満たしていたとしても、「実質的」に退職したと認められない場合には税務上の損金とは認められない。では、“実質的に退職したと同様の事情”とは、どのようなことか。 平成29年1月12日の東京地裁の判決(TAINSコード:Z267-12952)に、退任した前経営者に支払った退職慰労金5,609万6,610円について、その損金性が問われ損金不算入とされた事案がある。 つまり“実質的に退職したと同様の事情”とは、本通達の形式的な基準を満たしていたとしても、社内的にも社外的にも職務内容が退任前と大きく変わっているかどうか、自社の経営判断に関わっていたかどうかにより総合的に判断されることとなる。 ② その他の税目にまで波及する役員退職金 上記のように、役員退職金が否認されれば、法人の損金に算入できないだけでなく、前経営者の退職所得の計算にも影響する。退職金として退職所得控除があり、有利に税額計算されていたものが、すべて給与所得として計算される。 (※) 法人側は増加部分の税額についても、源泉徴収義務を負うことになる。 また、相続税対策の一環として役員退職金の支給をして自社株式の評価額を引き下げた後に、後継者へ自社株の移転をしていた場合には、否認額に対応した部分が贈与とみなされる可能性がある点にも注意が必要である。 (2) 月額報酬の適正額とは? それでは、月額報酬をいくらにすれば妥当なのか。これまで見てきたように、法人税基本通達9-2-32(3)において“おおむね50%以上の減額”と規定されているのは、一定の基準を例示しているにすぎず、例えば50%以上減額後の金額が他の取締役と同程度である場合などは、量的な要件が満たされていないとして「実質的」な退職とは認められないであろう。上記判決においても、前経営者の退任後の報酬70万円は50%以上の減額ではあるものの、他の取締役と同水準であることが理由の1つとして述べられている。 また平成17年12月19日の裁決で、代表取締役の母(非常勤役員)に対して支払った役員報酬が過大役員給与として損金不算入とされた事例がある。母の業務内容は決まっておらず、「従業員の良き相談相手」ということであった。 その際、税務署側が算定した非常勤役員の適正給与額は、当該税務署管轄の類似業種の平均値である月額155,000円としており、判決においてもこの算定方法に合理性があるとして認められている。もちろん非常勤役員の職務内容や勤務実態、会社規模にもよるが、オーナー企業の親族が非常勤役員として報酬を得ている場合の一定の目安となろう。 このように、会長に退いた際に支給をする役員退職金、その後の月額報酬については、形式的な基準はもちろんだが、実質的にも社内外に退職の事実を明確にしておく必要がある。税務調査では実際の稟議書の押印や、席次表、名刺の肩書、取引銀行や主要取引先との面談履歴なども確認されると考えておいた方が良い。 また役員退職金には、本連載【第12回】・【第13回】で紹介した過大な役員退職金についての損金不算入の規定や、役員退職金の損金算入時期の取扱いなど、その論点は多い。支給には事前準備と税務リスクのケアが不可欠となる。 (了)
令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第10回】 「営業に一番大切な気構えとは」 ~あなたの幸せが私の喜び~ (セールスマンシップ論①:知識≦スキル≦品格) 株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊 本連載で9回にわたりお伝えさせていただいている私の会計事務所経営論も、残すところあと3回となりました。 ここまで多くの方にお読みいただいておりますこと、心より感謝と御礼申し上げます。 最後の仕上げとして残りの3回は、私のビジネスそのものでもある「営業」についてお話していきます。営業マンに対する「営業の先生」、また、税理士先生の「パーソナルコーチ」をさせていただいている私が、30年に及ぶ営業経験から培った「営業における気構え」やセールスする上での精神論についてお伝えさせていただきます。 ➤「営業マン」も十人十色 ところで、先生方は「営業」と聞いてどんな印象・イメージをお持ちでしょうか。 「コミュニケーションが苦手で、営業をやりたくなかったから税理士になった」 「特に保険の営業マンなどはしつこくて会う気にもならない」 「お客様を増やすには営業しなければならないのはわかっているけど、どうも苦手だ」 千差万別、いろんなご意見をお持ちだと思います。 今も昔も私にとっては先生方が大切なお客様、ビジネスパートナーなのでお気持ち十分察しております。 でも、一言言わせてください。 営業マンにも善し悪しがあって、すべての営業マンが先生方の迷惑となる存在では決してありません。 むしろ、場合によっては貴重な営業マンとして、先生にとって戦力にもなり得る存在です。 ぞんざいに扱わず、「コイツ好きだな」と思えるような興味関心を惹く営業マンには、ぜひ会ってみてください。 先生方も十人十色ならば営業マンも十人十色です。 税法や会社法、民法から判例事例まで精通していて、場合によっては税理士先生の知識を凌駕するほどの保険マンも世の中には存在します。 さて、前置きが長くなりましたが、営業に情熱を持ち、長きにわたりお世話になっている先生方の営業を支援したい、そう思い仕事をしている私に免じて、私のセールスマンシップ論に少しだけお付き合いください。 ➤「聴く力」を高める ズバリ営業とは、「お客様のより良い意思決定のサポートをすること」です。 それを仕事としている水先案内人こそが「営業マン」なのです。 このことを聞いて、先生方も何か思い当たることがありませんか? 数々の営業マンに対応されてきた先生は、その時のことを思い出してみてください。 心地よいコミュニケーションをとれる営業マンは、どんな営業マンでしたか? 自分のことより先生のこと、自分の成果より先生の課題解決、結果より先生の笑顔、まさに「あなたの幸せが私の喜び」そんな営業マンではないでしょうか。 知識以上にスキル、スキル以上に品格、この「品格」とは、相手を慮る謙虚さからあふれ出てくる人間性にほかなりません。 そして実は、話が上手いから営業ができる、話が下手だから営業成績が伸びない、ということは決してなく、むしろ営業マンで成績が良い人ほど「聴き上手」だと言われています。 話をしっかり聞かなければ相手を理解できず、相手を理解しなければより良い提案などできません。営業の精度を上げていくには、ヒヤリング能力を高めていく必要があるのです。 また、コンサルティングに力を入れたい多くの先生方のうち、悩まれている方の特徴は「自ら答えを出そう」としている点だと感じています。 「答え」はお客様が持っていますので、それを導き出すための「聴く力」「質問力」が大切なのです。 どうしてもお客様から「答え」をうまく聞けない先生、ひょっとすると想定している答えを導き出すために聞いていませんか? シナリオが事前にあって、その答えありきでお客様の言葉を誘導していませんか? 「聴く力」に一番大事な素養は、相手への「興味関心を示す」ことです。 興味関心を持って相手の話を聞くととても疲れるはず、その良い疲れは相手には十分伝わっているものです。 「知りたい気持ち」こそ興味関心の出発点ですので、課題を知り、お客様の問題解決を図りたいのであれば、率直に聞いてみてください。 お客様としては「聞いてくれている」「親身になってくれている」ことから心地よさを感じ、信頼感が生まれてくることでしょう。 「聴く力」こそ知識以上に必要なスキルの1つです。 ➤お客様の理解を得るための「伝える力」 そしてもう1つ必要なスキルが「伝える力」です。 難しいことを難しく伝えるだけでは、お客様の理解は得られません。 先生方の専門領域はただでさえ難しい上に、税務の素人のお客様方からすると難解なものでしかありません。 その難しい物事を難しく伝えられてもお客様が消化できないのは当たり前です。そこで必要なスキルとして、難しいことを簡単に伝える工夫、理解しているからこそ咀嚼して伝えられる力が必要なのです。 また、「興味関心を惹く伝え方」というものもあります。 ところで、先生方はマンションギャラリーやカーディーラーに行ったことはありますか? どちらも存分に「興味関心を惹く伝え方」の工夫が施されている場所です。 購買動機の出発点はまず「右脳」と言われています。 お客様に「欲しい」と思っていただくためには、ここに働きかけが必要です。 「顧客ニーズ」とよく言われますが、そのニーズ(必要性)をウォント(欲しいという気持ち)に変える仕組み、巧みな演出がそこにあるのです。 モデルルームに入る、訪れた人は自分がさもそこに住んでいることを想像する、家族団欒の様子、笑顔で生活している姿を自ずと想像したうえで心地よさを感じて「住みたい」という気持ちが生まれるのです。 カーディーラーに行く、「試乗してみませんか」という言葉のままに乗ってみる。 ちょっとディーラーの周りを走っただけなのに、なぜか海や山をドライブしている姿がオーバーラップする、そうして自然と「乗りたい」という気持ちに駆られるのです。 「右脳」を刺激された方は「左脳」で納得し、購買行動に移ります。 マンションギャラリーでも、カーディーラーでも最後は見積もりになります。 買えるのか買えないのかの現実、でも「住みたい」「乗りたい」という夢の実現、ここからがお客様に買っていただくまで寄り添う、本来の営業マンの力が発揮される場面だと思います。 ここでは人の脳の働きについてこれ以上は触れませんが、「右脳 ⇒ 左脳」といった順序があることは覚えておいてください。 先生方の取り扱う財務諸表もどのように伝えればお客様の理解を得られるか、工夫はいくらでもできると思います。 ➤営業とは「小さなイエスの積み重ね」 さて、最後に「知識」についてですが一言だけで終わります。 知識は営業の世界では「ナタ」にしかならないことがあるということです。 「ナタ」とは暴力になること、関係を断ってしまう恐れのあることを指しています。 例えばお客様の理解度が浅いのに一方的に捲し立てるようにお話したとしましょう。 先生方がお客様だとしたらどう感じますか? 営業とは「小さなイエスの積み重ね」と言われます。 「ここまでどうですか?」 「ご不明な点はありませんか」 「なんでもご質問ください」 相手のペースに合わせて話せる営業マン、間が取れる営業マン、そんな目線でこれから営業マンをご覧ください。 もし、わかってなさそうなのに答えようとする営業マンがいれば、「後で良いから正確な答えをください」と窘めてください。 ➤思考の出発点は常にお客様 あえて言わせてください。 営業が苦手だと思われている先生。 ここまで読んで、できそうな気がしませんか? 先生方はお客様想いの方がとても多いです。優しいお客様想いの先生方に営業ができないわけがありません。 自信をもって、そのお客様が大切だという気構えでどうぞ寄り添って差し上げてください。 お客様の増収増益、先生方嬉しいですよね!? お客様が増収増益だからこそ、先生方の事務所も増収増益なのです。 思考の出発点がお客様であるのであれば、事務所の経営も必ずや発展していくことでしょう。 「お天道さんはいつも見ている」 最後に日本一の保険募集人さんの口癖を添えて、本稿を終わらせていただきます。 (了)
居住用財産の特例と住宅ローン控除の重複適用防止 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 分銅 雅一 はじめに 令和元年12月20日に令和2年度税制改正大綱が閣議決定された。その中で、居住用財産の特例と住宅ローン控除の重複適用を認めない旨の内容が示された。その背景としては、会計検査院からの「平成30年度の決算検査報告」の取りまとめが契機となっている。 本稿では、新たに重複適用が防止された今回の措置について両特例を概説しながら紹介する。 1 問題の所在 本件でいう居住用財産の特例の代表的なものは、租税特別措置法(以下「措法」という。)第35条に規定する「居住用財産の譲渡所得の特別控除」、いわゆる3,000万円特別控除といわれるもので、自己の居住用財産を譲渡した際に特例として認められている措置である。そして、本特例は、居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の年末までの間に譲渡した場合も特例の適用が認められている。 一方で、住宅ローン控除は、新たに自己の居住用物件を取得した際に、当該居住の用に供した年から10年間、当該住宅借入金等の年末残高の合計額(上限あり)の1%を乗じて計算した金額が、税額控除として認められている措置である(措法第41条)。 これらの規定は、居住用財産を買い替えた場合に、従前物件について3,000万円特別控除の適用と、新規取得物件について住宅ローン控除の適用の両方を認めないとする措置を同条第21項で定めている。 この規定により、3,000万円特別控除と住宅ローン控除については、基本的に併用適用することは困難であるが、従前物件である居住用財産を居住の用に供さなくなった年の3年目に新規住宅を取得した場合、両特例の併用適用が認められる期間が存在していた。 これを図示すると下記のとおりである。 図表 両特例の併用が可能となる例(平成25年に旧住宅から新住宅へ転居の場合) (※) 会計検査院「平成30年度決算検査報告の概要」p385 2 大綱の内容 今回の税制改正大綱において、上記[ケース3]の両特例が併用適用される期間について、その重複適用を防止する取扱いが新たに設けられた。その具体的な内容は下記のとおりである。 (※) 太字下線は筆者が加筆 (※) 自由民主党税制調査会資料より なお、本取扱いにおける措法第35条については、もともと第1項のみ重複適用防止の規定がされており、いわゆる空き家相続の3,000万円特別控除(同条第3項)については規定されていない。空き家相続の3,000万円特別控除は、そもそも被相続人居住用家屋が対象であるため、相続人居住の物件とは異なるためである。したがって、空き家相続の3,000万円特別控除と住宅ローン控除の併用適用は今後も認められることとなる。 3 今後について 今回の住宅税制の見直しにより、いわゆる譲渡特例等と住宅ローン控除の併用適用は事実上できなくなる。筆者は、両特例のうちどちらを利用した方が良いのかという相談を頻繁に受けるが、今後は、今まで以上にその相談が増えることが予想される。 その際にポイントになるのが、従前住宅等を取得した時の契約書等の資料の有無である。 当初取得時の資料が残っていれば、譲渡所得の計算上、取得費として計上できる余地がある。一方、例えば代々受け継がれてきたような不動産だと当時の取得費は存在していなかったり、存在していても当時の貨幣価値水準での金額のため、ほとんど取得費としては計上できないケースが多い。さらに、買替えのタイミングで、当時の資料を誤って廃棄してしまっている納税者も少なくない。 これらの点に留意しながら、今後は、両特例の制度をしっかりと理解して、どちらの制度を適用するのか、慎重な判断が求められる。 (了)