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monthly TAX views -No.83-「OECDデジタル税制をめぐる政治・経済的背景」

monthly TAX views -No.83- 「OECDデジタル税制をめぐる政治・経済的背景」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   OECDの場で、130ヶ国・地域が参加して議論されている「経済のデジタル化に伴う新たな税制」だが、来年1月の基本合意に向けて、10月と11月に2つのコンサルテーションペーパー(「提案」)が公表された。 未だ詰めるべき課題が山積しているが、ここまでまとまってきたことの背景を考えてみたい。 *  *  * そもそもの問題意識は2つである。 第1に、GAFAに代表される米国IT企業が、膨大な利益をアイルランドやシンガポールなどの軽税率国やタックスヘイブンに留保して、税負担をしていないことである。その背景には、利益の根源となる無形資産を移転させるプランニングがある。 第2に、PEがなくても市場国で大規模なビジネスが可能なので、実際に利益を上げている市場国で十分な税の負担をしていないことである。 この結果、きちんと税の負担をしている企業や伝統的ビジネスとの競争条件(レベルプレイングフィールド)に問題が生じるとともに、市場国は税収不足に陥っており、全世界レベルでの対応が必要となった。 処方箋としては、軽税率国やタックスヘイブンに移転されたIT企業の「課税ベース」を、何らかのルールに基づいて、市場国である先進国や新興国・途上国に再配分し、課税することである。 *  *  * OECDにおける議論が、ここまでまとまってきたことの背景は、次の2つである。 1つは、課税ベースの再配分により、軽課税国以外は先進国も途上国も税収増になる可能性があるということだ。つまり、130ヶ国・地域の集まる包括的枠組みは、ウイン・ウインのプロジェクトだということで、これが成功に導く大きなインセンティブとなっている。 もう1つは、米国の「変身」である。当初は、「ユーザーの参加」をキーとして配分し直す英国案が有力であった。しかし今回の提案を見ると、「マーケティング上の無形資産」を重視する米国案が盛り返した内容となっている。 米国が本プロジェクトに対し積極姿勢に転じた背景は、英国やフランスなどが独自課税を導入すること(ユニラテラル・アプローチ)への危機感である。各国の独自課税はGAFA狙い撃ちで、米国の国益を大きく損なうばかりか、長年税務当局が構築してきた国際協力が台無しになれば、デジタル企業・経済にとっては大きな打撃だ。 したがって、今回の提案を合意するにあたっては、フランス、英国などの独自課税を取り下げさせることが重要となる。 *  *  * では、わが国にとっての利害関係はどうなのか。 ピラーワン(第1の柱)の“所得A”と呼ばれる部分(再配分される超過利益)については、営業利益率10%以上、海外子会社も含む連結売上高900億円(7億5,000万ユーロ)以上の「消費者向けビジネス」を行う多国籍企業を対象にする案が有力だ。 製造業全体への波及を抑えたという点に、わが国当局の努力の跡が見える。もっとも、自動運転などについては、対象となる可能性もあり、今後注意が必要だが。 企業レベルの税負担についていえば、無形資産を低税率国に移転させるなどのタックスプランニングを行っている多国籍企業の場合は税負担増となりうる。一方で、アグレッシブな租税回避を行っていない企業については、今回の提案に伴う納税額の変化はほとんどないと考えられる。 この点は重要なポイントだ。 (了)

#No. 347(掲載号)
#森信 茂樹
2019/12/05

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例12】「返品調整引当金の意義とその廃止の経緯」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例12】 「返品調整引当金の意義とその廃止の経緯」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は近畿地方のとある地方都市で、既製服の製造を行っている株式会社Aを経営しております。わが社の主たる取引先は全国各地の衣料専門店ですが、そこでの取引においては、得意先の求めに応じて商品を納入するものの、売り切りではなく、売れ残った商品は全品当社が引き取るというやり方を採っていました。これは商慣行であり、契約に基づくものではありません。 わが社の場合、これまで、得意先に商品を納入したときに売上げを計上し、売れ残った商品の返品を受けた際に販売した金額に返品数量を乗じた金額の費用を計上してきました。既製服は当たり外れが結構大きく、外れた場合、大量の返品を引き受けることを余儀なくされます。そのような場合、そもそも売上の計上金額が過大であったとさえ思えます。 しかし、ある会合で同業者に、当社のような取引形態を行っている法人は、法人税法上、返品調整引当金という耳慣れない名称の引当金を計上することができる旨教えられました。これにより、売上を計上したタイミングを実際に返品され費用を計上するタイミングとのずれが大幅に縮小されることとなりますので、わが社の正しい実力が財務諸表及び法人税の申告に反映されることとなります。 そこで、当社の顧問税理士に当該引当金について問い合わせてみたところ、平成30年度の税制改正で廃止されており、新たに適用を受けることはできないといわれました。ただし、改正前の法人税法の下では、わが社のケースについても適用の余地があったということなので、もっと早くこの引当金のことを知っておくべきだったと後悔しております。 そこで、今更ではありますが、返品調整引当金の内容と、廃止に至った経緯について教えてください。   【A】 平成30年度の税制改正で廃止される前の返品調整引当金は、出版業、出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業及び卸売業等の一定の事業を営む者のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、販売時の価額による買戻特約を結んでいる者が、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されていました。 当該引当金は、収益認識に係る会計基準の導入により、返品見込額が収益の額から差し引かれることとなり、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったため、平成30年度の税制改正で廃止されることとなりました。 なお、改正法の施行の日である平成30年4月1日において対象事業を営んでいる場合には、経過措置法人として所定の経過措置が受けられますので、本件の場合は当該経過措置の適用を検討すべきといえます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 引当金の意義 費用収益対応の原則の観点から、将来の費用又は損失の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該年度の負担に属する金額を費用又は損失として繰り入れて、正確な期間損益を把握し算定するための会計上の技術を引当金という。企業会計上、引当金は大きく以下の2種類に分類される。 ① 評価性引当金 将来において資産について生ずることとなる費用ないし損失が、当期の収益に対応する場合に計上する引当金(valuation allowance)である。 ② 負債性引当金 将来において生ずる債務ないし経済的負担が、当期の収益に対応する場合に計上する引当金(liability allowance)である。 一方、法人税法においても、上記企業会計の考え方を取り入れ、以下の3要件を満たすものについては引当金の計上を認めている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)415頁。 法人税法上認められている引当金としては、従来、評価性引当金としての貸倒引当金及び返品調整引当金、負債性引当金としての退職給与引当金、賞与引当金、製品保証等引当金及び特別修繕引当金の6種類があった。   (2) 法人税法における引当金の廃止・縮小 しかし、平成10年度の税制改正で、賞与引当金と特別修繕引当金(特別修繕準備金に移し替え)、製品保証等引当金が廃止され、平成14年度の税制改正で退職給与引当金(※2)が廃止された。 (※2) 退職給与引当金の廃止は賞与引当金等の廃止とタイミングがずれたが、平成14年7月の連結納税制度の導入に伴う法人税収の減少を緩和するため、そのタイミングで廃止されている。 このように法人税法において引当金が廃止・縮小されてきた理由としては、政府税調・法人課税小委員会報告(平成8年11月)において、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という観点からすると、引当金に関して以下の点が問題であるとした。 〈ア〉 引当金は、具体的に債務が確定していない費用又は損失の見積りであることから、常にその見積りが適正なものであるかどうかが問題となる。公平性、明確性という課税上の要請からは、そうした不確実な費用又は損失の見積り計上は極力抑制すべきである。特に、貸倒引当金及び製品保証等引当金は、法定率によって繰入限度額を計算することができ、適正な費用又は損失の見積りを超えた引当金となっているおそれがある。 〈イ〉 賞与引当金や退職給与引当金は、課税上、翌期の賞与や将来の退職金の一部を当期の労働の対価として支払われる賃金と同様に取り扱うものである。すなわち、従業員に対する賞与や退職金は、実際に支払いがなされた時に経費として損金の額に算入される。これらの引当金によって、賞与も退職金も、従業員が勤務を提供した期間に応じて損金の額に算入することができる。 このように、未だ支払いがなされていない賞与や退職金を、その支給原因が発生した事業年度において引当金繰入額という形で実際の支払いに先行して費用計上を認めている。このことから、税制が企業の給与の支給形態に対し、結果として何らかの影響を及ぼしていることも考えられる。 また、これらの引当金は巨額に上っており、企業ごとの利用状況にも開差がある。企業がこれらの引当金に相当する金額を一定期間自己資本のごとく自由に利用できることを考慮すると、引当金制度が企業・産業間の実質的な税負担の格差を生み出し、非中立的な影響を与えているおそれがあることにも留意する必要がある。 〈ウ〉 製品保証等引当金、返品調整引当金及び特別修繕引当金は、特定の業種に限られた引当金であり、適用業種にとって重要性の高いものであることから認められている。しかしながら、引き当てる費用又は損失の額が適用業種においてなお重要なものであるかどうかについては、これらが特定業種にのみ認められているものであるだけに、十分吟味する必要があろう。 *  *  * 上記〈ア〉から〈ウ〉は、いずれも一定の合理性がある理由ではあるが、引当金の存在意義を決定的に否定するほどの根拠とまでは言えないものばかりである。要は、当時、法人税率引下げという絶対的命題があり、そのための財源を捻出するための苦肉の策として引当金の廃止・縮小が俎上に載っただけであり、法人税制における理論的整合性は二の次であったと評価するよりほかないであろう。   (3) 返品調整引当金の意義と内容 それでは、法人税法上、返品調整引当金とはどのような引当金だったのであろうか。改正前の法人税法によれば、出版業等特定の事業を営む法人のうち、常時、その販売する事業に係る棚卸資産の大部分につき、買戻特約等を結んでいるものが、当該棚卸資産のその特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した場合には、その金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額は、損金の額に算入されることとされていた(旧法法53①)。 返品調整引当金の意義としては、一般に以下の通り説明される。すなわち、出版業や医薬品製造業においては、商品の販売に際し、買戻特約付きで販売店に売却することにより、販売店は一定の時期に売れ残った商品を仕入価額で売り戻すことができるケースがよくみられる。そのため、このような特約がある場合には、出荷基準による売上・収益の計上は暫定的で、過大な収益を表しているということになるため、買戻しによる損失を予め見越し計上することが、費用収益対応の原則の観点から合理的であるといえる。そこで認められたのが返品調整引当金の計上だったわけである(※3)。 (※3) 金子前掲(※1)書420頁参照。 そこで、以下では返品調整引当金制度の適用要件を確認しておく。 ① 特定の事業の意義 返品調整引当金の計上が認められている「特定の事業」とは、以下のものとされていた(旧法令99)。 ② 特約の意義 また、引当金の設定要件として、以下の事項を内容とする「特約」を結んでいることが必要であった(旧法令100)。 なお、上記特約の締結は、文書によることのみならず、慣習によりその販売先との間に当該特約があると認められるときには、特約を結んでいるものとして取り扱われる(旧法基通11-3-1の3)。 ③ 繰入限度額 返品調整引当金勘定への繰入限度額は、事業の種類ごとに、以下に掲げる(ア)又は(イ)のいずれかの方法により計算した金額の合計額である(旧法令101①)。 (ア) 売掛金基準による方法 (イ) 販売高基準による方法 なお、上記算式中の「返品率」及び「売買利益率」は、それぞれ以下の算式で計算することとなる(旧法令101②③)。 〈返品率〉 〈売買利益率〉   (4) 平成30年度税制改正 ① 改正の内容 上記(2)で触れた政府税調・法人課税小委員会報告にもかかわらず、返品調整引当金はその後も存続することとなった。それは、当時指摘された「引き当てる費用又は損失の額が適用業種においてなお重要なものであるかどうかについては、これらが特定業種にのみ認められているものであるだけに、十分吟味する必要がある」かどうかという点につき、結論が出なかったためであると考えられる。 それではなぜ、平成30年度の税制改正で返品調整引当金が廃止されることとなったのか。それは、わが国の企業会計基準委員会が平成30年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準29号)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針30号)を公表したことから、それを受けて法人税法において、同法第22条第4項の別段の定めとして第22条の2が創設されたことが契機である。 すなわち、法人税法第22条の2第5項において、資産の販売等に係る資産の買戻しの事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとして収益の額とするとされたことにより、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったためである。 したがって、返品調整引当金の廃止は、法人税法第22条の2の創設と一体ものであると解される(※4)。 (※4) 金子前掲(※1)書357頁参照。 ② 改正後の税務処理例 従来、返品調整引当金が認められてきた既製服販売業に関し、新収益認識基準に基づく売上処理と法人税法第22条の2に基づく売上処理を比較すると、概ね以下の通りとなる。 - 設 例 - A社は得意先B社に既製服(販売価格一着2,000円、原価一着1,200円)を100着販売したが、返品予想は20着である。なお、消費税は考慮しない。 上記のように、返品調整引当金廃止後は、A社の会計上の利益64,000円(=160,000円-96,000円)と法人税法上の所得80,000円(=200,000円-120,000円)との間に乖離が生じる(法人税法上の所得の方が16,000円多くなる)こととなる。これは、改正後の法人税法においては、売上の計上に際し、返品予想の見積金額を考慮する必要がないためである。 会計上の収益認識基準の導入により、返品調整引当金は廃止されることとなったが、これは法人税法の会計基準への接近という側面があるものの、一方で、会計基準の変更を契機に課税所得を増加させようという課税庁のしたたかな戦略であるとも考えられる。その意味で、課税所得の増加を意図した引当金廃止の流れを引き継ぐ改正であると評価できるであろう。 ③ 経過措置 改正法の施行の際、現に対象事業を営む法人(経過措置法人)は、経過措置の対象となる法人とされている(H30改正法附則25①)。また、経過措置法人の平成30年4月1日以後に終了する事業年度(平成42(令和12)年3月31日以前に開始する事業年度に限る)が、経過措置の対象となる事業年度とされている(経過措置事業年度、H30改正法附則25①)。 経過措置法人の経過措置事業年度においては、改正前の規定を従前どおり適用できることとされている(H30改正法附則25①)。この場合における返品調整引当金の繰入限度額は、平成30年4月1日から平成33(令和3)年3月31日までの間に開始する事業年度については改正前の規定による繰入限度額とされているが、次の事業年度については、改正前の規定による繰入限度額に対し、それぞれ次の割合を乗じて計算した金額とされている(H30改正法附則25①)。 〇経過措置事業年度における繰入限度額に乗ずる割合 なお、この経過措置の適用により、法人の令和12年4月1日以後最初に開始する事業年度の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された返品調整引当金勘定の金額は、その最初に開始する事業年度において益金の額に算入することとされている(H30改正法附則25②)。   (5) 本件へのあてはめ 平成30年度の税制改正で廃止される前の返品調整引当金は、出版業、出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業及び卸売業等の一定の事業を営むの者のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、販売時の価額による買戻特約を結んでいる者が、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されていた。 本件のように、買戻特約が文書による契約で明示的に裏付けられる場合でなくとも、慣習によりその販売先との間に当該特約があると認められるときには、通達により、特約を結んでいるものとして取り扱われていた。 当該返品調整引当金は、収益認識に係る会計基準の導入により、返品見込額が収益の額から差し引かれることとなり、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったため、平成30年度の税制改正で廃止されることとなった。その結果、改正後の法人税法上は、売上の計上に際し、返品予想の見積金額を考慮する必要がないため、今後は会計上の利益よりも課税所得の方が大きくなることが想定されるところである。 なお、改正法の施行の日である平成30年4月1日において対象事業を営んでいる場合には、経過措置法人として前述(4)③の経過措置を受けられるので、本件の場合は当該経過措置の適用を検討すべきであろう。 (了)

#No. 347(掲載号)
#安部 和彦
2019/12/05

相続空き家の特例 [一問一答] 【第41回】「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑨(この特例を受けるための目的のみで相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分)」-譲渡価額要件の判定-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第41回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑨ (この特例を受けるための目的のみで相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分)」 -譲渡価額要件の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年4月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地400㎡を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月に1億2,000万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家でした。 実は、父の生前中、「相続空き家の特例(措法35③)」には譲渡価額要件(1億円以下)があることを知り、相続の開始の直前、庭先の一部100㎡を柵で囲ってXの主宰するA社の資材置場として利用しました。 相続の開始の直前に一時的に居住の用以外に供した部分を除く300㎡に係る対価の額は9,000万円となります。 この場合、Xは、本特例の適用を受けることができるでしょうか。 A 庭先の一部100㎡も、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定の対象に含まれることから、譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 そして、居住用家屋取得相続人が譲渡した資産が「対象譲渡資産一体家屋等」に該当するかどうかは、社会通念に従い、対象譲渡をした資産と一体として被相続人の居住の用に供されていたものであったかどうかを、相続の開始の直前の利用状況により判定することとされています。 ただし、本特例の適用を受けるためのみの目的で相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分については、「対象譲渡資産一体家屋等」に該当します(措通35-22(「対象譲渡資産一体家屋等」の判定)(3))。 したがって、本事例の場合、庭先の一部100㎡も、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定に含めて判定することから、対象譲渡価額は1億2,000万円となって、その譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができないこととなります。 (了)

#No. 347(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/12/05

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第75回】「印紙税納付計器設置承認申請及び印紙税納付計器使用請求書の書き方」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第75回】 「印紙税納付計器設置承認申請及び 印紙税納付計器使用請求書の書き方」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   銀行の窓口等で振込を行った際に受け取る「振込金受取書」には、収入印紙が貼付される代わりに赤色で税務署名と番号、金額等が表示された受取書を受領する場合がありますが、これはどのような仕組みになっているのでしょうか。   印紙税は原則として、収入印紙を貼付し、これに消印をすることにより納付するものであるが、印紙税納付計器による印紙税の納付方法も認められている。 印紙税納付計器により印紙税の納付を行う場合は、①事業所の所在地を管轄する税務署長に「印紙税納付計器設置承認申請」を行う。②税務署長から承認された場合は、承認番号が与えられる。これが赤色表示の税務署名と承認番号である。③承認後印紙税納付計器を購入し、設置後あらかじめセット金額を現金で納付し、印紙税納付計器をその納付額に合わせて使用できるようにセットする。 このセットは「印紙税納付計器使用請求書」及びセットに必要なカウンター等を持参し、税務署で所定の措置を行い、機種により異なるが封印等をすることにより、セット金額まで使用することができる。 (※) なお、印紙税納付計器又は納付印を製造しようとする者は、税務署長の承認が必要であり、納付計器の購入に関しても正規の販売業者から購入することが必要である。 ◎納付印 (出典) 国税庁HP [記載例] ◎印紙税納付計器設置承認申請書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (注) 交付を受ける課税文書に納付印を押すことの承認を併せて申請する場合(新たに納付計器を設置する場合)は、「印紙税納付計器設置承認・被交付文書納付印押なつ承認申請書」により承認を受けることとなる。 ◎印紙税納付計器使用請求書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 代理人が請求等の手続きをする場合は、「申告、申請等事務代理人届出書」を請求等の手続きをさせようとする時までに提出する。 ◎申告、申請等事務代理人届出書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。   印紙税納付計器使用請求に係る参考条文(法10、基通69・73・76) (了)

#No. 347(掲載号)
#山端 美德
2019/12/05

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第16回】(番外編①)「もし桃太郎が桃印を殿様に使用許諾したら~ライセンス売上」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第16回】 (番外編①) 「もし桃太郎が桃印を殿様に使用許諾したら ~ライセンス売上」 公認会計士 石王丸 周夫   今回からは番外編として、前回までの本編では説明できなかった新基準のポイントを取り上げます。桃太郎の正式な物語から話が少しそれますので、ご容赦ください。   1 「桃印」が殿様の旗印に? 桃太郎たちが、鬼退治を終えて帰ってくると、なんとそこにお殿様がやって来ていました。馬に乗ったお殿様は、宝物が載った車をチラリと見た後、桃太郎のほうを見下ろして言いました。 「桃太郎よ、大儀であった!」 「おほめに預かり、ありがとうございます。」 桃太郎はペコリと頭を下げました。 「実はな」馬を降りたお殿様は、声をひそめて言いました。「折り入って、そなたに頼みがあるのじゃが・・・」 「頼みといいますと?」 「そちの桃印を余の軍の旗印に使わせてもらいたいのじゃ。その方の今回の活躍は、国中で大評判じゃ。戦の時にこの桃印があれば、足軽どもの士気も上がるというものよ。むこう3年間でいい、ちょっと使わせてくれ。」 「・・・・。」 「なるほど、タダでは無理というわけか。それなら、小判3枚でどうじゃ、な、桃太郎。」 「ありがたき幸せにござりまする。」 桃太郎は、お殿様から小判3枚をもらい、桃印を使わせてあげることにしました。 「桃印」は、現代でいえば「商標」です。鬼をやっつけた桃太郎が使用した桃印は、縁起の良いものです。お殿様も自分の軍でこれを使用したいと思ったのでしょう。 桃太郎は、桃印の使用料として、お殿様から小判3枚をもらいましたが、これは桃太郎にとっては収益です。このような収益について、収益認識会計基準ではどのように会計処理するのでしょうか。 (本編の全15回では、収益計上する主体はイヌ・サル・キジでしたが、番外編では、その都度主体が変わります。今回は桃太郎が収益計上主体となります。)   2 桃印使用料はライセンス売上 収益認識会計基準では、知的財産のライセンス供与の会計処理について、指針が示されています。 知的財産のライセンスには、商標権に関するライセンスも含まれます。桃太郎の時代に商標登録の制度はありませんので、商標権として保護されているわけではありませんが、そこは問わないこととして、桃印の使用許諾料の受取りをライセンス売上と考えて説明していきます。 ライセンス売上の会計処理は、まず、ライセンスが他の財・サービスと一体となって供与されるかどうかを見極めます。「ライセンス」と「財・サービス」が別個でないかどうかを見極めるのです。 「別個かどうか」については、この連載の【第4回】で述べた要件を検討することになります(ポイントが2つありましたね)。その結果、「別個のものではない」と判断された場合は、ライセンスの供与と他の財・サービスを一括して単一の履行義務として捉え、その履行義務が一定期間で充足されるのか、一時点で充足されるのかを判定して、収益の認識をします。 一方、ライセンスを供与する約束が、他の財又はサービスを移転する約束と「別個のものである」場合は、また違った処理になります。桃印のライセンスは、単独で供与されていることから、こちらのケースに該当します。その場合は、以下の2つのいずれになるのかを判断します。 上記2つのケースのいずれに該当するかにより、それぞれ会計処理が定まってきます。 以下のとおりです。   3 アクセス権か使用権か では、桃印の使用許諾は、アクセス権と使用権のいずれになるのでしょうか。 判定のポイントは、以下の3点です。 これらの要件をすべて満たす場合、「アクセス権」と判定され、1つでも該当しなければ「使用権」となります。 そうすると、桃印というのは、桃太郎が強いからこそ旗印にする意味があるのであって、桃太郎が鬼退治終了後もその強さを維持するためには、日々精進していくことが合理的に期待されます。 もしそれを怠れば、桃太郎の評判も次第に薄れ、誰も桃印を恐れなくなることから、旗印に採用したお殿様は、桃太郎の活動の影響を受けるといえます。 といっても、精進の結果、財・サービスが桃太郎からお殿様に移転するわけではありません。 以上から、上記3つの要件をすべて満たすと考えられ、桃印の使用許諾はアクセス権と判定されます。アクセス権は、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理するので、桃太郎は、受け取った小判3枚を、使用許諾した3年間で期間按分するなどして収益計上していくことになります。 ▷今回のまとめ ライセンス供与が独立した履行義務である場合、アクセス権か使用権かを判定して、収益認識時期を決定します。 (了)

#No. 347(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/12/05

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第155回】固定資産に関する会計処理②「更新投資に関する会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第155回】 固定資産に関する会計処理② 「更新投資に関する会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 ① 公共施設等運営権の取得時 ◆X0年4月1日 ② X3年4月1日の更新投資の実施時 ◆X3年4月1日 ③ X7年4月1日の更新投資の実施時 ◆X7年4月1日 ④ X8年3月31日の減価償却 ◆X8年3月31日 (※) 設例のため便宜的に「更新投資に係る資産」「更新投資に係る負債」と表記していますが、その内容を示す他の科目をもって表示することも考えられます。   〈会計処理の解説〉 1 更新投資の概要 公共施設等運営事業における更新投資は、公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドラインによれば、いわゆる新設又は施設等を全面除却し再整備するものを除く資本的支出又は修繕とされており、例えば、経年劣化や老朽化した設備などを修理したり取り替えたりする投資などが考えられます。 2 会計処理の解説 (1) 更新投資に係る資産及び負債の計上に関する取扱い 更新投資については、その実施時に資本的支出に該当する部分に関する支出額を資産として計上します。そのため、上記〈会計処理〉②、③のように取り扱われます。 《X3年4月1日の更新投資の実施時》 ◆X3年4月1日 7,000:更新投資のうち資本的支出に該当する部分 《X7年4月1日の更新投資の実施時》 ◆X7年4月1日 1,500:更新投資のうち資本的支出に該当する部分 一方、更新投資の中でも、公共施設等運営権を取得した時において、大半の更新投資の実施時期及び対象となる公共施設等の具体的な設備の内容が、管理者等から運営権者に対して実施契約等で提示され、当該提示によって、更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額及び支出時期を合理的に見積ることができるものについては、当該運営権取得時に、支出すると見込まれる更新投資の額の総額の現在価値を負債として計上し、同額を資産として計上します。そのため、上記〈会計処理〉①のように取り扱われます。 《公共施設等運営権の取得時》 ◆X0年4月1日 10,000:公共施設等運営権を取得した時において、更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額の現在価値 (2) 更新投資に係る資産の減価償却 無形固定資産に計上した更新投資に係る資産は、当該更新投資を実施した時から経済的耐用年数(経済的耐用年数が残存する運営権設定期間を上回る場合は、当該残存運営権設定期間)にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、取得原価から残存価額を控除した額を各事業年度に配分します。 ここで、減価償却についてとで次のような差があります。 これは、更新投資の場合、経済的耐用年数が公共施設等運営権の残存する運営権設定期間を上回るために、運営権設定期間の終了後の期間に対応する部分として管理者等と運営権者との間で金銭の授受が行われることがあるといった実務を考慮したためです。 そのため、管理者等と運営権者との間で運営権設定期間の終了後の期間に対応する部分として金銭が授受されるような場合には、当該金銭を基礎として残存価額を算定することが考えられます。 《X8年3月31日の減価償却》 ◆X8年3月31日 1,850:1,000+700+150=1,850 1,000:公共施設等運営権の取得時に計上した更新投資に係る資産の減価償却費 取得原価10,000÷運営権設定期間10年=1,000 700:X3年4月1日の更新投資に係る資産の減価償却費 (取得原価7,000-残存価額2,100)÷残存する運営権設定期間7年=700 150:X7年4月1日の更新投資に係る資産の減価償却費 (取得原価1,500-残存価額1,050)÷残存する運営権設定期間3年=150 3 表示科目について 実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」では、公共施設等運営権については、【無形固定資産の区分に、公共施設等運営権などその内容を示す科目をもって】と定められていますが、更新投資に係る資産については、【無形固定資産の区分にその内容を示す科目をもって】としか定められておらず、具体的な例示はありません。 同様に負債についても、公共施設等運営権の場合は「公共施設等運営権に係る負債など」と例示がある一方、更新投資の場合は例示がありません。 そのため、実態に即した適切な名称の表示科目を決定しなければならない点に注意が必要です。 (了)

#No. 347(掲載号)
#竹本 泰明
2019/12/05

企業結合会計を学ぶ 【第31回】「①子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理と②子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第31回】 「①子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理と ②子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理 1 個別財務諸表上の会計処理 子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針254-2項、254-3項)。 ◎子会社(吸収分割会社) 吸収分割会社である子会社の会計処理は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の親会社の会計処理(結合分離適用指針226項)に準じて処理する。 子会社が他の子会社に会社分割により事業を移転する場合(会社分割の対価が吸収分割承継会社である他の子会社の株式である場合)、共通支配下の取引であるため、個別財務諸表上、吸収分割会社である子会社が受け入れる、吸収分割承継会社である他の子会社の株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する(結合分離適用指針447-2項)。 このため、吸収分割承継会社である他の子会社が、吸収分割会社である子会社の子会社及び関連会社となる場合のほか、それ以外となる場合(他の子会社の株式がその他有価証券に分類される場合)でも、移転損益を認識しない(結合分離適用指針447-2項)。 ◎子会社(吸収分割承継会社) 吸収分割承継会社である他の子会社の会計処理は、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の子会社の会計処理(結合分離適用指針227項、231項)に準じて処理する。 2 連結財務諸表上の会計処理 吸収分割会社である子会社が連結財務諸表を作成する場合、次のように会計処理する(結合分離適用指針254-4項、447-2項)。 (1) 吸収分割承継会社である他の子会社が吸収分割会社の子会社となる場合 【内部取引の消去】 事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準44項により、内部取引として消去する。 【親会社の持分変動による差額】 吸収分割会社は、移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)に基づいて算定された取得した子会社株式の取得原価(結合分離適用指針254-2項)と、これに対応する吸収分割承継会社の事業分離直後の資本(企業結合日における適正な帳簿価額による子会社となる吸収分割承継会社等の資本に事業分離により増加する吸収分割会社等の持分比率を乗じた額)との差額を、資本剰余金に計上する。 (2) 吸収分割承継会社である他の子会社が吸収分割会社の関連会社となる場合 吸収分割会社は、移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)に基づいて算定された受け入れた関連会社株式の取得原価(結合分離適用指針254-2項)と、これに対応する吸収分割承継会社の事業分離直後の資本(企業結合日における適正な帳簿価額による関連会社となる吸収分割承継会社等の資本に事業分離により増加する吸収分割会社等の持分比率を乗じた額)との差額を、関連会社株式の持分変動差額として処理する。   Ⅲ 子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合の会計処理 子会社が他の子会社に分割型の会社分割により事業を移転する場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針255項~257項、409項)。 ◎子会社(吸収分割会社) 吸収分割会社である子会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の親会社の会計処理(結合分離適用指針233項)に準じて処理する。 ◎子会社(吸収分割承継会社) 吸収分割承継会社である他の子会社の会計処理は、分割型の会社分割により親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社の会計処理(結合分離適用指針234項)に準じて処理する。 ◎親会社(吸収分割会社の株主) 事業分離等会計基準49項及び51項と同様に、吸収分割会社の株主(親会社)が受け取った吸収分割承継会社の株式は、受け取る吸収分割承継会社の株式と、これまで保有していた吸収分割会社株式とが実質的に引き換えられたものとみなし、被結合企業の株主に係る会計処理(結合分離適用指針294項~296項)に準じて処理する。 (了)

#No. 347(掲載号)
#阿部 光成
2019/12/05

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第11回】「『同一労働同一賃金』導入前に確認しておきたい基礎知識(その1)」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第11回】 「『同一労働同一賃金』導入前に確認しておきたい基礎知識(その1)」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   働き方改革関連法の1つとして、パートタイム・有期雇用労働法が改正され、2020年4月1日(中小企業については2021年4月1日)より正社員と非正規労働者との間の「不合理な待遇差」が禁止されます。これが、いわゆる「同一労働同一賃金」です。 本連載では今回から次回にかけて、この「同一労働同一賃金」という制度について、導入までに確認しておきたい基礎知識を解説していきます。   ▷「同一労働同一賃金」に求められること 「同一労働同一賃金」で求められるのは、「同一企業内」における「正社員」と「非正規労働者」との間の「不合理な待遇差」を解消することです。 「不合理な待遇差」ですから、必ずしも正社員と非正規労働者の賃金を同額にすることを求めているわけではなく、業務内容や責任の程度等を比較して、同一であれば「均等待遇」(同じ待遇)、異なっている場合であっても「均衡待遇」(その違いに応じた待遇)とすることが求められています。 今回の法改正では、「不合理な待遇差」を禁止することを含め、改正のポイントが主に3つあります。 《改正のポイント》 1 正社員等(契約期間の定めなし、かつフルタイム勤務)と非正規労働者(契約期間の定めあり、又は短時間勤務:有期雇用・短時間労働者)との間の不合理な待遇差の禁止 ① 均衡待遇規定・均等待遇規定の明確化 個々の待遇(※)ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。 (※) 基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練など ② 待遇ごとに判断することを明確化するため、同一労働同一賃金ガイドライン(指針)を策定 2 有期雇用・短時間労働者の待遇に関する説明義務の強化 ① 雇入れ時 有期雇用労働者に対する雇用管理上の措置の内容(賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、正社員転換の措置等)に関する説明義務を創設。 ② 説明の求めがあった場合 有期雇用・短時間労働者から求めがあった場合、正社員等との間の待遇差の内容・理由等を説明する義務を創設。 ③ 不利益取扱いの禁止 説明を求めた労働者に対する不利益取扱い禁止規定を創設。 3 裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備等 「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、行政ADRの対象となるよう整備。 なお、本改正の施行は、2020年4月1日からとなっていますが、中小企業(※)は2021年4月1日からと1年猶予されています(派遣労働者に対しては企業規模を問わず2020年4月1日から適用されます)。 (※) その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5,000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいいます。   ▷「同一労働」であることの判断と待遇是正までの流れ そもそも「同一労働」であるかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。また、その判断をした上で待遇差の是正をするにはどのようにすればよいのでしょうか。 以下では、これらについて詳しくみていきます。 1 誰と誰を比較するのか 「同一労働」の判断をするにあたっては、まず同一企業内における正社員と非正規労働者の待遇を比較することになります。 まず、パートタイム・有期雇用労働法の対象となる非正規労働者(雇用期間の定めがあり、又は短時間勤務である有期雇用・短時間労働者)を「」、不合理な待遇差の検証のために取組対象労働者と比較する正社員等(雇用期間の定めがなく、フルタイム勤務)を「」として、それぞれの待遇を確認していきます。 上図のように分けた上で、取組対象労働者と比較対象労働者を適当に選んで比較すればよいというわけではなく、取組対象労働者と職務の内容が最も近い比較対象労働者を選んで比較します。 なお、会社によっては比較対象労働者に複数のタイプがあるケースもあります。例えば、「総合職」、「一般職」、「エリア限定社員」などが考えられます。また、フルタイム勤務の契約社員が5年を超えて期間の定めのない社員となった場合も比較対象労働者に含まれることとなります。 このように比較対象労働者に複数のタイプがある場合には、取組対象労働者とすべてのタイプの比較対象労働者でそれぞれ比較することとなります。 2 職務の内容を比較する まず、取組対象労働者と比較対象労働者で比較するのは、次の2つです。 次のように、それぞれの職務の内容や配置転換のルール等を書き出して整理します。その上で違いがあるかどうかを判断します。 そして比較の結果に応じて、次のような判断を行います。 3 待遇の内容を比較する 職務の内容等についての比較の結果を踏まえ、次に、どのような待遇の違いがあるかどうかをみていきます。 手順としては、例えば次のような事項について、比較対象労働者の待遇を書き出し、次に、取組対象労働者に対して、これらの待遇の適用の有無等を確認していきます。また、適用している場合は、比較対象労働者と同一基準となっているかについて確認します。 4 待遇の違いが不合理でないかどうか 適用していない、又は比較対象労働者と違う水準で適用している待遇について、その待遇の「目的」・「支給内容」・「違いの理由」について整理をします。違いがある場合には、その理由が不合理でないといえるのかを検討する必要があります。 《検討例》 検討の結果、合理的な理由といえないのであれば、待遇を改善します。 上記のケースでは、パートタイマーであっても通勤費用は同様にかかるので、「不合理」であると考えられます。したがって、正社員と同様の支給に是正する必要があります。   ▷待遇差の説明 有期雇用・短時間労働者から求めがあった場合には、正社員等との待遇差の内容や理由などについて会社から説明する必要があります。 申し出があった有期雇用・短時間労働者と職務の内容等が最も近い正社員等を選び出した上で、 について就業規則や給与規程などを提示しながら説明します。 もちろん、待遇差の説明を求めた有期雇用・短時間労働者への不利益な取扱いは禁止されています。   ▷派遣労働者への適用 派遣労働者が、待遇について納得感を得るためには、就業場所である「派遣先」の正社員等との待遇の均等・均衡は重要です。しかし、必ずしも派遣先の賃金水準と職務の難易度に整合性があるとはいえません。派遣労働者の待遇差に関する規定の整備に当たっては、派遣元事業主は「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかを選択することが求められます。 派遣先事業主においては、派遣元事業主が①派遣先均等・均衡方式を採用している場合は、同様の業務に従事する正社員等の待遇情報を派遣元事業主に提供する義務があります。 また、いずれの方式を選択している場合においても、更衣室・休憩室・給食施設などの「福利厚生施設」と業務に必要な「教育訓練」については、派遣先の正社員等と同じように派遣労働者も利用できるようにしなければなりません。 (了)

#No. 347(掲載号)
#飯野 正明
2019/12/05

空き家をめぐる法律問題 【事例19】「廃棄物が不法投棄された空き家・空き地の所有者の法的責任」

空き家をめぐる法律問題 【事例19】 「廃棄物が不法投棄された空き家・空き地の所有者の法的責任」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私Aは、B市に空き家となった実家を所有しています。このたび隣地の所有者Cから、実家の庭に投棄されていた廃棄物が崩れて隣地(C宅地)に侵入し、植栽等を損壊させているので撤去するよう連絡を受けました。 実家には数年戻っておらず、何者かによって不法投棄がされていることを初めて知りましたが、不法投棄をしていない私が法的責任を負わなければならないのでしょか。 1 はじめに 空き家や空き地の管理を放置すると、敷地内に廃棄物を不法投棄される可能性がある。廃棄物の放置は、景観面や衛生面への悪影響だけでなく、隣地への流出や放火等、第三者に具体的な損害を与える可能性がある。 そこで今回は、空き家や空き地に廃棄物が投棄された場合に、空き家や空き地の所有者が民事・行政上、どのような法的責任を負うかを検討することとしたい。   2 投棄された廃棄物の民事上の撤去義務等 (1) 不法投棄された廃棄物の撤去義務 空き家に廃棄物が不法投棄され、これが隣地にもはみ出しているような場合、隣地の所有者は、土地の所有権を侵害されていることになる。そこで、隣地の所有者は、土地の所有権に基づいて、物権的妨害排除請求権を行使して、堆積した廃棄物の撤去を請求することができることになる。 問題は、誰が物権的妨害排除請求権の相手方となるかである。 一般に、物権的妨害排除請求権の相手方は、現にその妨害状態を生ぜしめている者とされており、その典型例は、妨害状態を生じさせている物の所有者である。しかし、不法投棄の事案の場合、廃棄物の所有者の特定は困難な問題となる。というのも、誰がその廃棄物を投棄したか明らかではないことが多い上に、複数名が廃棄物を投棄している場合には、廃棄物が混然一体となり、廃棄物の所有者を特定できない可能性が高いからである。 そこで、裁判例の中には、物権的妨害排除請求権の相手方を「その所有権を侵害し、あるいは侵害するおそれのある物の所有権を有するものに限らず、現に存する侵害状態を作出した者もその排除ないし予防の義務を負う」として、廃棄物が投棄された土地の所有者も、相手方となることを認めたものがある(産業廃棄物の撤去義務の有無が争われた事例として、東京地判平成6年7月27日判時1520-107、東京高判平成8年3月18日判タ928-154参照)。 もっとも、上記裁判例にいう「現に存する侵害状態を作出した者」は、廃棄物の投棄に関与をしていた土地の所有者に限る趣旨なのか、第三者による不法投棄に一切関与していない土地の所有者も含む趣旨なのかは明らかではない。 相手方の範囲は明らかでない部分もあるが、土地の所有者としては、撤去を求められるリスクがあることを留意しておく必要がある。 (2) 第三者に損害を生じさせた場合の損害賠償義務 次に、不法投棄された廃棄物を撤去しなかった結果、第三者に損害を生じさせた場合に、空き家の所有者(厳密には、土地の所有者)の損害賠償義務を負うかが問題となる。 この問題に関して、市が管理していた道路供用予定地に放置された廃棄物について第三者の放火により火災が発生した事案において、廃棄物が土地に固定していないこと等を理由に、営造物責任を否定した上で、無関係者の立入りを防止するために遮蔽措置を講じ、不法廃棄物が放置されているのであれば、これを撤去する義務がある旨判示したものがある(大阪地判平成22年7月9日判タ1338-79参照)。 当該事案は、市の管理責任が問題になった事案であり、市が周辺住民から陳情を受けており、可燃性の廃棄物が放置されていることを認識していた等の個別事情が詳細に認定された上での判断であるため、事例判断に留まる。しかし、土地の管理者に民事上の撤去義務が認められた点において、空き家や空き地の所有者にとっても意義のある裁判例である。 そうすると、空き家・空き地の所有者Aは、たとえ自身が不法投棄に関与していないとしても、第三者Cとの関係で撤去義務や損害賠償義務を負うリスクがあることから、自ら又は管理業者等を通じて、的確に状況を把握し、フェンス、バリケード等、不法投棄を予防するための適切な措置を講じる必要がある。   3 投棄された廃棄物の行政上の撤去義務等 廃棄物の処理及び清掃に関する法律は、第19条の4以降で、廃棄物の投棄等によって、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときに、措置命令の権限を規定している。 もっとも、措置命令の対象となるのは、一般廃棄物の収集・運搬・処分を行った者であり、産業廃棄物の場合は、産業廃棄物の不適切な保管・収集・運搬・処分を行った者等やこれらの者に処理を依頼や示唆をし、又は助長した者のように、産業廃棄物の不適切処理に関与した者である。 したがって、廃棄物を不法投棄されただけの空き家や空き地の所有者については、同法の措置命令の対象から外れることになる。 ただし、地方公共団体の条例の中には、明確に空き家の所有者や管理者の法的義務を規定するものが見受けられる。 例えば、「松江市空き家を生かした魅力あるまちづくり及びまちなか居住促進の推進に関する条例」によれば、①空き家の所有者及び管理者には、空き家が廃棄物の不法投棄場所にならないように管理義務とともに、②廃棄物が不法投棄された場合には、廃棄物を撤去し、予防措置を講じる義務を規定している。仮に、空き家の所有者及び管理者がこれらの義務に違反した場合には、指導・勧告・措置命令や公表の対象となるだけでなく、罰金が科される可能性もあるので留意が必要である。   4 本件の場合 本件のAのように、空き家となった実家から離れて生活している者も多くいることから、Aとしては、B市の条例にも配意し、管理義務等がないかを確認しておく必要がある。 (了)

#No. 347(掲載号)
#羽柴 研吾
2019/12/05

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第27話】「必要経費と家事費」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第27話】 「必要経費と家事費」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「統括官、さっきから何を読んでいるのですか?」 浅田調査官は自席に座ったまま、中尾統括官に尋ねる。 中尾統括官は顔を上げて、苦笑いをする。 「・・・昔の税制調査会の答申を読んでいるのだが・・・」 中尾統括官は、コピーされた税制調査会の答申を浅田調査官に見せる。 「必要経費と家事費について・・・ですか・・・」 浅田調査官は、昭和38年12月の税制調査会の答申(所得税法及び法人税法の整備に関する答申)(43頁)をゆっくりと読む。 「この答申を読んで・・・君はどう思う?」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「なかなか難しいですね・・・個人の場合、法人と違って、事業と事業に関係しないプライベートな活動があるから・・・これらに関係する支出金を明確に分けるのは難しいですし・・・それに、家事費であっても、事業の収益に影響する場合も考えられるので・・・」 浅田調査官は、腕を組んで思案顔になる。 「・・・もっとも、この答申は、できるだけ広くこの種の経費又は損失を所得計算上考慮すべしとする考え方が望ましい・・・と述べているが・・・」 中尾統括官は、答申を見ながら、コメントする。 「しかし、必要経費と認められるためには・・・それが事業遂行上必要なものであって・・・かつ、その必要な部分の金額が客観的に明らかでなければならないでしょう・・・」 浅田調査官は、少し昂ぶった声で言う。 「この純資産増加説的な考え方というのは・・・包括的所得概念を前提とし、すべての増加所得を課税するもの・・・ということだから・・・その意味で、経費又は損失も広く認めようという考えになる・・・」 中尾統括官は、机に答申のコピーを置く。 「もっとも、最広義の包括所得概念は、資産の値上がり益や帰属所得も課税の対象にするが、現実には、これらは課税することが困難なので、最広義の包括所得概念は、基本的に採用されていない。」 中尾統括官は、昔、税務大学校で学んだ知識を思い出しながら説明する。 「・・・中尾統括官は、この答申と同様に、個人の納税者に対しては、できるだけ経費を認めてやったらと考えているのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 中尾統括官は黙ったまま、机の上に置かれているボールペンを取る。 「・・・事業と家事の『混合的な支出』って・・・具体的にどのようなものがあるのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「そうだなぁ・・・」 中尾統括官は、腕を組みながら、目を閉じる。 「・・・例えば、司法書士が支払ったロータリークラブの会費について、事業と直接関係し、事業遂行上必要であるとは認められない・・・として必要経費を否認された平成26年の裁決事例があるが・・・」 浅田調査官は中尾統括官の説明を聞いてすぐ、パソコンで平成26年3月6日の裁決事例を検索する。 「しかし・・・司法書士はロータリークラブに入会し、いろいろな業種の人と知り合うことによって、新規のクライアントを獲得することができることもある・・・これって、必要経費にならないのですか?」 浅田調査官は不満気に言う。 「司法書士の顧客獲得の活動は・・・業務に直接関係ないものなのでしょうか・・・またそれは、業務の遂行上必要なものではないのでしょうか?」 中尾統括官は頷く。 「私も・・・昭和38年の税制調査会の答申で示された考え方からすると・・・ロータリークラブの会費等は事業所得の必要経費として認めても良いように思う・・・それに、法人の場合、法人税基本通達9-7-15の2(ロータリークラブ及びライオンズクラブの入会金等)で、交際費などとして処理することを認めている。 ・・・もっともこの裁決では、私的な消費生活を行う個人と、それを観念できない法人とでは、支出に関する取扱いを異にすることは、当然に予定されているというべきである・・・と述べているが・・・」 浅田調査官は、まだ納得できない表情をしている。 「ということは、浅田君も・・・できるだけ広くこの種の経費又は損失を所得計算上考慮すべしとする考え方を支持するということなのだな。」 中尾統括官は、笑いながら答申のコピーを机の引き出しに入れる。 (つづく)

#No. 347(掲載号)
#八ッ尾 順一
2019/12/05
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