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《速報解説》 中小企業向け各租税特別措置等における「みなし大企業」の範囲見直し~平成31年度税制改正大綱~

《速報解説》 中小企業向け各租税特別措置等における「みなし大企業」の範囲見直し ~平成31年度税制改正大綱~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   1 はじめに 与党による平成31年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)が、先週12月14日に公表された。本稿では、租税特別措置法(以下「措置法」と略称する)に規定する「みなし大企業」の範囲の見直しについて、概要をまとめたい。   2 現行の「みなし大企業」にかかる規定 (1) 措置法における「みなし大企業」の範囲 措置法第42条の4第8項第6号では、中小企業者とは、「中小企業者に該当する法人として政令で定めるものをいう」と定義し、これを受けて、措置法施行令第27条の4第12項で、以下のように定め、同項1号又は2号(下線部)において除外されている法人が、措置法上の「みなし大企業」に該当する。 (2) 法人税法における「みなし大企業」の範囲 一方、法人税法では、第57条第11項第1号において、「中小法人等」の範囲を以下のように定めている。 同項第1号イのカッコ書きで除外されている法第66条第6項第2号又は第3号については、以下のように規定されている。 (3) 「みなし大企業」の範囲の相違点 措置法と法人税法において「みなし大企業」の定義に相違が生じる第1の点は、措置法上の「大規模法人(資本金1億円超)」と法人税法上の「大法人(資本金5億円以上)」との定義に差があるということである。このため、資本金1億円超5億円未満の親会社に支配されている子会社については、措置法と法人税法との間で取扱いが異なることとなる。 〔例1〕 資本金1億円超5億円未満の法人に完全支配されている子会社の場合 第2の点は、措置法施行令第27条の4第12項第2号の規定が、「3分の2が大規模法人の所有に属している法人」となっていることにある。この規定では、大規模法人が直接所有していることを要件としているのに対し、法人税法上は、複数の完全支配関係がある大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人も含め除外していることで、相違が生じることとなる。 〔例2〕 資本金5億円以上の法人の孫会社の場合   3 「みなし大企業」の判定の見直し 上記〔例2〕で示したとおり、措置法上の中小企業者の中には、法人税法上の中小法人等に該当しない企業も含まれているため、中小企業関連税制が適正に機能するよう、「大規模法人」の範囲を拡大することが、大綱66ページに記されている。 (1) 大規模法人に加える法人 (2) 「みなし大企業」判定の見直しによる効果 上記〔例2〕のような資本関係にある孫会社については、これまで、中小企業関連税制の適用を受けることが可能であったが、平成31年度改正により、間接的に支配権を有する孫会社についても、「みなし大企業」として取り扱われることなる。 なお、本改正の施行時期については、大綱に具体的な記載は見られない。 (了)

#No. 299(掲載号)
#米澤 勝
2018/12/21

《速報解説》 消費税率10%引上げに合わせた車体課税の抜本見直し~平成31年度税制改正大綱~

 《速報解説》 消費税率10%引上げに合わせた車体課税の抜本見直し ~平成31年度税制改正大綱~   公認会計士・税理士 菊地 弘   平成30年12月14日に平成31年度税制改正大綱(与党大綱)が公表された。以下では自動車の車体課税等に関する主な改正事項等を概説する。   1 車体課税等の見直し (1) 自動車重量税(国税) 「自動車重量税のエコカー減税」(排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車に係る自動車重量税の免税等の特例措置)について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長する。 〇乗用自動車 (注1) 電気自動車等とは、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、天然ガス自動車、クリーンディーゼル乗用車を指す。なお、軽自動車税のグリーン化特例においては、電気自動車、燃料電池自動車、天然ガス自動車を指し、重量車においては、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、天然ガス自動車を指す。 (注2) 初回継続検査についても免税。 〇バス・トラック(重量車) (2) 自動車取得税(地方税) 「自動車取得税のエコカー減税」(排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車(新車に限る)の取得に対して課する自動車取得税に係る特例措置)について、次の見直しを行った上、その適用期限を6月延長する。 〇乗用自動車 (注3) 自動車取得税は消費税率引上げ時(H31.10.1)に廃止。 〇バス・トラック (3) 揮発油税及び地方揮発油税 揮発油税及び地方揮発油税の税率(1kl当たり)を次のとおりとする。 (※) 上記の改正は、平成46年4月1日から施行する。 (4) 自動車税環境性能割・軽自動車税環境性能割 平成31年10月1日に導入される環境性能割について一定の見直しを行い、平成31・32年度は次のとおりとする。 (注4) 平成31年10月1日から平成32年9月30日までの間に取得した自家用乗用車・自家用軽自動車に係る環境性能割については、税率1%分を軽減する特別措置を講ずる。 (5) 自動車税種別割 自家用乗用車(三輪の小型自動車を除く)に係る種別割の税率を次のとおりとし、平成31年10月1日以後に新車新規登録を受けたものから適用する(なお、軽自動車税の税率については、変更しない)。 (6) 自動車税・軽自動車税のグリーン化特例 平成31年度及び平成32年度において、現行制度のまま2年延長する。 (注5) 自家用乗用車、自家用軽自動車について、平成33年度以降(平成33年4月1日以後)は適用対象を電気自動車等に限定する。 (7) 都道府県自動車重量譲与税の創設 自動車重量税の一部を都道府県に対して譲与する都道府県自動車重量譲与税制度を新たに創設する。   2 復興支援のための税制上の措置 3 租税特別措置等 (了)

#No. 299(掲載号)
#菊地 弘
2018/12/20

プロフェッションジャーナル No.299が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年12月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.299を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/12/20

日本の企業税制 【第62回】「平成31年度与党税制改正大綱における主な法人課税の改正点」

日本の企業税制 【第62回】 「平成31年度与党税制改正大綱における主な法人課税の改正点」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇平成31年度与党大綱の公表 平成31年度与党税制改正大綱が12月14日に取りまとめられた。今回の改正の最大の焦点は、2019年10月1日の消費税率10%への引き上げに伴う需要変動の平準化策としての住宅及び自動車関連税制であった。 住宅については、平成31年10月1日から平成32年12月31日までの間に居住の用に供した場合に、住宅ローン控除の控除期間を3年延長(現行10年)する。ただし、11年目以降の3年間については、各年において、①建物購入価格(上限4,000万円、認定住宅5,000万円)の3分の2%、②ローン残高の1%のいずれか少ない金額を税額控除することとする。 車体課税については、まず、自動車税が1台当たりの排気量に応じて1,000~4,500円/年引き下げられることに加え、需要平準化対策として、平成31年10月1日から平成32年9月30日の1年間に限り、乗用車(軽自動車を含む)について環境性能割の税率を1%分軽減する措置が講じられる。 以下では、平成31年度税制改正大綱における法人課税のポイントを紹介したい。   〇研究開発税制の見直し 研究開発税制については、総額型の控除率が見直され、より増加インセンティブの高い仕組みとなった。増減試験研究費割合がマイナスの層では、現行より控除率が低下し、約マイナス14%で、最低控除率の6%に到達する(現行はマイナス25%で到達)。一方、プラスの層では、0から8%の層で現行より控除率は向上し、8%超は現行どおりである。 また、試験研究費割合が平均売上高10%を超える部分の特例は、現行では、控除率及び控除上限の上乗せ(いわゆる高水準型)か控除上限の上乗せ(最大税額の10%まで)かのいずれかを選択適用することとされているが、大綱では、これらを一本化し、通常の総額型控除率に(試験研究費割合-10%)×0.5を乗じて計算した率を、通常の総額型控除率に上乗せ(控除率の上限は14%)する(控除上限は最大税額の10%)措置となる。 オープンイノベーションに関しては、研究開発型ベンチャーへの共同試験研究・委託試験研究について控除率を25%に引き上げる(現行20%)とともに、控除対象とされていなかった大企業への委託試験研究が一定の要件の下、控除対象となる(控除率20%)。また総額型とは別枠の控除上限が10%に引き上げられる(現行5%)。 さらに、研究開発を行うベンチャー企業(設立10年以内で翌期繰越欠損金を有することになる法人(大法人の子会社等を除く))の場合には、総額型の控除上限が40%に引き上げられる。   〇中小企業関連税制の延長・見直し 中小企業関連税制では、軽減税率(15%)の期限が2年延長されるほか、中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制も適用期限が2年延長される。また商業・サービス業・農林水産業活性化税制については、要件追加(売上高又は営業利益が1年間で2%以上向上)の上、2年延長される。 また、中小企業の事業活動に災害が与える影響を踏まえ、サプライチェーンや地域の雇用等を支える中小企業者の事前対策の取り組み強化の観点から、中小企業等経営強化法の改正を前提とする事業継続力強化計画(仮称)に基づく防災・減災設備への投資について、特別償却制度(20%)を創設することとなった。 あわせて、租税特別措置法のみなし大企業の範囲の見直しが行われる。 現行のみなし大企業は、①同一の大規模法人に発行済株式の2分の1以上を直接に保有されている法人、又は②複数の大規模法人に発行済株式の3分の2以上を直接に保有されている法人とされ、「大規模法人」とは①資本金1億円超の法人、②非出資で従業員数1,000人超の法人とされている。 今回の見直しでは、この「大規模法人」として新たに、100%グループ内の大法人(資本金5億円以上の法人、相互会社・外国相互会社、受託法人)に発行済株式の全部を直接・間接に保有されている法人を加えることとなる。   〇役員給与の損金算入要件の適正化 役員給与の損金算入要件について、昨今のコーポレートガバナンス・コードの改訂などの動向も踏まえ、適正化が図られることとなった。 現行では、業績連動給与について、報酬(諮問)委員会による決定を経る場合には、同委員会の構成員に1人でも業務執行役員が含まれていると損金不算入となることとされているが、構成員の過半数が「独立社外役員」であり、その「独立社外役員」全員が賛成することを要件に損金算入を認めることとする。 一方、監査役(会)設置会社や監査等委員会設置会社において認められている監査役の過半数の適正書面(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員の過半数の賛成)に基づく損金算入は、今後認められないこととなる。   〇組織再編税制の要件緩和 組織再編税制については、次の2点の要件緩和が行われる。 まず、株式交換等の後に、株式交換等完全親法人を被合併法人とし、株式交換等完全子法人を合併法人とする、いわゆる逆さ合併が見込まれる場合、現行制度では、当初の株式交換等について株式継続保有要件を満たすことができず非適格となる点、二次再編(逆さ合併)が適格再編である場合には、二次再編の直前のときまでで継続保有要件を判定することとする。 次に、三角合併等について、現行制度では、直接の100%親会社の株式を対価とすることのみが適格として認められているが、今回の見直しでは、「間接」の100%親会社の株式を用いた場合も適格として認めることとする。   〇地方法人課税の偏在是正 地方法人課税の税源の偏在是正のための新たな措置については、現行の地方法人特別税と同じく、法人事業税のうち所得割・収入割の一部を「特別法人事業税(仮称)」として分離し、これを「特別法人事業譲与税(仮称)」として分配することとされている。 なお、譲与基準については、現行の地方法人特別税とは異なり、人口のみを用いることで、偏在是正効果の向上を図っている。この改正は平成31年10月1日以後に開始する事業年度から適用される。 この結果、消費税率引上げ後、現行の地方法人特別税(事業税額の414.2%)が廃止され法人事業税に復元され、法人事業税の標準税率が3.6%(現行0.7%)となるところ、特別法人事業税の創設により、法人事業税の税率は1%、特別法人事業税の税率は事業税額の260%に分離されることとなる。 (了)

#No. 299(掲載号)
#小畑 良晴
2018/12/20

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第5回】「租税法律主義と申告納税制度」-申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第5回】 「租税法律主義と申告納税制度」 -申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、租税債務関係説のパラドックスを論じ、その克服の試みの1つとして、最後に(Ⅳ)、課税処分取消訴訟における当事者間の「対等な攻撃防御」についてその重要性を説いたが、今回は、争訟手続を含む租税手続全般について、手続当事者としての納税者と税務官庁との対等性が、前回Ⅲ1でみた手続的保障原則から要請され、申告納税制度においては納税者と税務官庁との相互チェック構造としてある程度は具体化されていることを述べた上で、その対等性や相互チェック構造が、原理的には、前々回・前回でみてきた租税債務関係説によって正当化されることを明らかにすることにしたい。   Ⅱ 申告納税制度と手続的保障原則 1 手続的保障原則における「適正手続」の意義及び法的構成 憲法は、公権力が法律に基づき行使される場合、その手続が適正なものでなければならないことを命じている(13条・31条参照)。このことは租税の賦課徴収の手続についても妥当する。租税の賦課徴収に関する事前手続においても事後的な救済手続においても適正手続の保障を要請する原則は、租税法律主義の内容を構成する憲法原則の1つとして、手続的保障原則と呼ばれる(【27】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。 手続的保障原則にいう適正手続ないし手続の適正さは、租税手続における両当事者(納税者と税務官庁)の手続法上の関係が対称的・対等な権利義務の関係(法律関係)として構成されることを意味すると考えられる。すなわち、租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性こそが、手続的保障原則の要請するところであると考えられる。このことをより一般化すれば、公正な裁判を受ける権利(憲法32条)の保障の下で構築された裁判制度における両当事者の手続的権利義務の対等性をモデルとして、租税手続における納税者と税務官庁との関係を構成することが、手続的保障原則の要請であるといってもよかろう。 2 申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造 では、納税者と税務官庁との手続的権利義務の対等性は、どのような形で、どの程度、現行税法上具体化されているのだろうか。 これを租税の賦課徴収に関する現行税法上の原則的・中核的制度である申告納税制度についてみると、同制度は、納税者(本来の納税義務者)が成立した納税義務を納税申告によって確定することができ、かつ、確定しなければならないこと(第一次的確定権及び第一次的確定義務)を出発点とした上で、第一次的確定権が適正に行使されず第一次確定義務が適正に履行されていないと税務官庁が判断する場合、税務官庁が課税処分によって当該納税義務を確定することができ、かつ、確定しなければならないこと(第二次的確定権及び第二次的確定義務)を基本的内容とする制度である(税通15条1項、16条1項1号、17条・18条、24条・25条参照)。 申告納税制度の上記の基本的内容は、租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性を要請する手続的保障原則に適合するが、同制度の趣旨としては、理念的には日本国憲法の民主主義的租税観(第1回Ⅲ2、第3回Ⅱ参照)に、実際的には税務行政の負担軽減ないし租税の効率的な賦課徴収の考慮に基づくものである(【121】)。 申告納税制度は、以上のような基本的内容を前提にして、以下で概観するとおり、納税者及び税務官庁に対して、自己又は相手方の確定行為をチェックしその過誤を是正する権限を付与し、そうする義務を課している。 まず、自己の確定行為のチェック・是正については、納税者は、修正申告によって自己に不利に当初申告を変更することができ(税通19条1項)、また、自分自身で自己に有利に当初申告を変更することはできないものの、税務官庁に対してそのような変更(減額更正)を求める更正の請求をすることができる(同23条等)。他方、税務官庁は再更正によって自己の確定行為を変更することができる(税通26条)。 次に、相手方の確定行為のチェック・是正については、既に申告納税制度の基本的内容からして、税務官庁の前記の第二次的確定権及び第二次的確定義務がそのようなチェック・是正手続の一環として法定されている(税通24条、25条)とみることができ、さらに、税務官庁は更正の請求を受けて減額更正又は拒否通知をすることとされている(同23条4項)。他方、納税者は修正申告によって自己に不利に課税処分を変更することができ(税通19条2項)、また、自分自身で自己に有利に課税処分を変更することはできないものの、税務官庁に対してそのような変更(減額更正)を求める更正の請求をすることができ(同23条等)、さらには、税務官庁及び裁判所に対して課税処分の取消争訟を提起することができる(同75条、114条、115条)。 申告納税制度においては、以上のように、納税者及び税務官庁が自己の確定行為だけでなく相手方の確定行為をもチェックしその過誤を是正するための手続が定められている。その意味で、申告納税制度は、納税者と税務官庁との相互チェック構造を内包する制度であるとみてよかろう。 もっとも、納税者と税務官庁との相互チェック構造は、現行の申告納税制度においては、納税者と税務官庁との手続的権利義務の対等性を適正かつ十分に具体化するものとはなっていない。現行制度は、前述のとおり、納税者が自己に有利に先行の確定行為を自分自身で変更することを認めず、そのような変更を更正の請求や取消争訟という特別の手続にかからしめること(更正の請求の排他性、取消争訟の排他性)によって、法技術的な意味において税務官庁に優越的な地位を認めているといってよかろう。そのような意味での優越的地位は、納税者の確定行為(納税申告)には認められない公定力等の特別の効力が税務官庁の確定行為(課税処分)に認められているところにも、見いだされる。また、租税法律関係の早期安定の要請が強く働く各種の期間制限の点では、平成23年度[11月]税制改正によって更正の請求の期間制限に関しては一定の改善をみたものの、対等性が適正かつ十分に実現されているとは言い難い(【27】【132】参照)。さらには、税務官庁によるチェック・是正を支える税務調査手続をも視野に入れて考えると、質問検査手続をある程度整備した同税制改正後も、納税者と税務官庁との関係に非対称性がなお色濃く残されている(【27】【139】参照)。 そうすると、申告納税制度について、その基本構想においては、納税者と税務官庁との相互チェック構造を内包する制度として、(前記の制度趣旨の観点からだけでなく)手続的保障原則の観点からも高く評価すべきであるとはいえ、現行制度の個別的・具体的な内容からすると、納税者については確定義務の側面が、税務官庁については確定権の側面がそれぞれ前面に出るような、かなり(片面的・一方的という意味で)非対称的な制度とみる見方もあながち理由のないものではないように思われる。 そのような見方に対して「発想の転換」を迫るには、手続論(手続的保障原則の実現)の観点からだけでなく実体論(実体的租税法律関係、特に納税義務の成立)の観点からも、租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を正当化する必要があるように思われる。その際、原理的には租税債務関係説がその実体論的正当化の論拠を提供してくれるように思われる。   Ⅲ 申告納税制度と租税債務関係説 1 申告納税制度における租税法律関係明確化の要請 まず、租税債務関係説が申告納税制度とどのような意味で関係づけられるのか、あるいは関係づけられるべきなのかをみておこう。この点については、須貝脩一教授の次の見解(中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・追録第5号1990年7月加除済)E16頁)が示唆に富むように思われる。 租税法律関係の捉え方については租税債務関係説と租税権力関係説があることは第3回Ⅲで述べたが、租税権力関係説に基づいて租税法律関係の明確化を図ることは妥当でない。というのも、租税権力関係説は租税法律関係を権力関係(国家の優越的地位に基づく国民に対する一方的支配関係)として捉える考え方である以上、申告納税制度における納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を正当化することは困難であるからである。租税権力関係説は、むしろ、申告納税制度を権利義務の非対称的(片面的・一方的)な制度とみる前記の見方に馴染みやすいように思われる。 これに対して、租税債務関係説は、申告納税制度における納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を正当化するのに適した考え方である。 2 申告納税制度の租税債務関係説的構成 そもそも、租税債務関係説によれば、租税法律関係は公法上の債権債務関係として捉えられ、納税義務はその内容を定める法律要件(課税要件)の充足によって法律上当然に成立することとされる。納税義務の成立に関するこのような法的構成(租税債務関係説的構成。【88】)からすると、納税義務の成立の領域では、租税権力関係説による場合と異なり、税務官庁の(創設的・形成的な)裁量行為の介入する余地が完全に排除され(須貝・前掲E15頁によれば「まだ債権者たる国も、ましていわんや、税務署も、そこには顔を出してこない」とされる)、したがって、課税要件法に基づく課税という意味での租税法律主義(合法性の原則)が完全に実現されることになる(第3回Ⅲ参照)。このことは、納税義務の成立に関して納税者と税務官庁は「課税要件法に服する者」として対等の地位にあることを意味する。 国税通則法15条1項は、「国税を納付する義務(・・・・・・)が成立する場合」における納税義務の確定を定めているが、このことは、この規定が納税義務の成立に関する租税債務関係説的構成を前提として納税義務の確定を定めていることを意味すると解される。つまり、納税義務の確定も租税債務関係説に基づいて構成されていると解されるのである。このような納税義務の確定に関する租税債務関係説的構成(【118】)によれば、納税者と税務官庁は、納税義務の確定に関しても、「課税要件法に服する者」として対等の地位にある。 納税義務の確定に関して納税者と税務官庁が「課税要件に服する者」として対等の地位にあるということは、両者ともに対等な立場で、課税要件の充足によって法律上当然に成立した納税義務について、その内容どおりに(正しく)課税要件事実を認定しなければならないということを意味する。この要請(実体的真実主義。前回Ⅱ)を実現するためには、納税者も税務官庁も確定権をもつと同時に確定義務を負うこととし、もって対等の立場で相互にチェックし合いながら課税要件事実の正しい認定を追求していかなければならないと考えられる。 国税通則法が以上で述べた納税義務の成立及び確定の定め(15条1項)を前提にして確定の手続として申告納税方式(16条1項1号)を定めていることからすると、申告納税制度は、納税義務の成立及び確定に関する租税債務関係説的構成に基づく制度であると解される。 要するに、申告納税制度は、納税義務の成立及び確定に関する租税債務関係説的構成に基づき、納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を具体化すべき制度であると考えるところである。   Ⅳ まとめ 以上でみてきたとおり、申告納税制度は、納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を具体化するものである場合には、手続的保障原則に適合し、かつ、租税債務関係説によって正当化される合理的な制度である。 最後に、申告納税制度をめぐる最近の動きをみると、「納税環境整備」の名の下、「適正な課税の確保」のための法定調書制度等による協力義務の拡充・強化が図られ、「自主的な適正申告の実現」に向けた方策やその担保策等の検討が進められているが(税制調査会「納税環境整備に関する専門家会合」の議論等参照)、以上で述べた考え方からすると、それらの措置が過度にパターナリズム的な性格を帯び民主主義的租税観を損なうことにならないよう配慮しつつ、納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を具体化する措置を手続法上講じていくべきであろう。 なお、今回は、かつて公表した拙稿「納税義務の確定の法理」芝池義一・田中治・岡村忠生編『租税行政と権利保護』(ミネルヴァ書房・1995年)61頁をベースにして、その後の研究も踏まえ、その一部を再構成したものである。 (了)

#No. 299(掲載号)
#谷口 勢津夫
2018/12/20

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第5回】「法人税の課税所得計算と損金経理(その5)」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第5回】 「法人税の課税所得計算と損金経理(その5)」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   (8) 費用収益対応の原則と権利確定主義との関係 それでは、法人税法上、費用収益対応の原則と権利確定主義との関係はどうなっているのであろうか。この点について学説は明確ではないが、筆者は以下の通り理解すべきではないかと考えている。 すなわち、収益については、権利確定主義に基づき(費用を参照することなく単独で)計上すべき年度が決まる。一方で、費用については、前述の通り、償却費を除き債務の確定したものが損金に計上されることとなるが(債務確定主義ないし基準)、その確定の基準が明示されておらず、原則として収益を参照しないと年度帰属が決まらないのである。 そこで、費用の帰属年度を確定するための基準として登場するのが費用収益対応の原則である。すなわち、既に発生した費用及びこれから発生する費用のうち、当期の収益に対応するもの(直接的・個別的対応及び間接的・期間的対応)であれば、その発生が確実であり、かつその金額を正確に確認できるものについては、広く債務が確定したものと解して(※1)、当期の費用として計上するのである(※2)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)345頁参照。なお、法人税法22条3項3号は損失については債務確定を要求していない。 (※2) 酒井教授は当該原則につき、「実現主義によって認識された収益に、発生主義によって認識された費用を紐付けする基準であり」と解しているが、(工事進行基準のような例外を除き)収益が先、費用が後という意味で同旨であろう。酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』(中央経済社・2016年)34頁。 法人税法における両者の関係を図示すると以下の通りとなる。 〇法人税法における費用収益対応の原則と権利確定主義との関係   (9) 損金経理とは 損金経理とは、法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいい(法法②二十五)、昭和40年度の法人税法の抜本的改正において導入された規定である。ここで重要なのは、「確定した決算において」という要件である。すなわち、その確定した決算において計上した費用又は損金の金額(損金経理により計上した金額)は、申告調整により加減算することはできないということである。 一方、当該損金経理が適用される項目以外の項目については、法人の確定した決算においていかなる経理処理を行ったとしても、法人税の課税所得計算上は、法人税法の規定に従い適切な申告調整がなされることとなる。 法人税法においてこのような損金経理を要件とする項目がある趣旨としては、一般に、当該項目が一部に限定されていることに鑑み、法人の利益計算に際して、売上や仕入といった第三者が介在する取引のような外部取引とは異なり、減価償却費や引当金のような費用・損失に係る法人内部において発生する取引(内部取引)で、対外的な要素が介在しない場合については、株主総会等における承認という一定の手続き要件が課された計算書類において、法人の(対外的かつ最終の)意思を確認し経理処理を要求することで、課税所得計算の真実性が確保されるとともに、選択的・恣意的な経理処理を抑制し、もって適正な課税の実現を図ることにあると考えられる(※3)。 (※3) 濱田洋「国際化の中の確定決算主義」『租税法研究』40号68頁。また、損金経理要件を「自己拘束的規制」と解するものとして、谷口勢津夫『税法基本講義(第5版)』(弘文堂・2016年)400頁参照。 損金経理の意義について、裁判所は以下の通り判示している(大阪高裁昭和50年6月13日判決・税資81号822頁)。 法人税法における損金経理のイメージを図示すると以下の通りとなる。 〇損金経理のイメージ図 なお、外部取引に該当するものであっても、業績連動役員給与(法法34①三)のように利益処分性の強いものについては、損金経理が要求される場合があるので注意を要する。 (了)

#No. 299(掲載号)
#安部 和彦
2018/12/20

相続税の実務問答 【第30回】「財産の取得の状況を証する書類(相続分がない旨の証明書を提出する場合)」

相続税の実務問答 【第30回】 「財産の取得の状況を証する書類 (相続分がない旨の証明書を提出する場合)」   税理士 梶野 研二   [答] 原則として、この「相続分がない旨の証明書」の添付のみでは、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4第1項)を適用することはできません。 ただし、この「相続分不存在証明書」が、お姉様が法定相続分を超える特別受益を受けているという事実に基づいて作成されたものであって、その特別受益の明細書や特例の適用を受ける土地の登記事項証明書など「相続分不存在証明書」に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類の提出があった場合には、それらの書類のすべてをもって、同特例の適用に必要な書類の添付があったものとして取り扱われるものと思われます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続分がない旨の証明書 共同相続人の中に、被相続人から民法第903条第1項に定められた特別受益を受けたことにより、相続分を有しない相続人がいる場合、被相続人から不動産を取得する相続人は、当該相続分を有しない相続人が作成した「相続分がない旨の証明書」(注)を登記原因を証する書類の一部とすることで、相続登記を行うことができます(昭和8年11月21日民事甲1314号民事局長回答、昭和28年8月1日民事甲1348号民事局長回答)。 (注) 「相続分がない旨の証明書」は、「民法903条により相続分がない旨の証明書」、「特別受益証明書」、「相続分不存在証明書」、「相続分皆無証明書」などと言われる場合もあります。   2 相続税の申告における添付書類としての「財産の取得の状況を証する書類」 相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する税額の軽減措置や租税特別措置法第69条の4第1項に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例等を適用するためには、「遺言書の写し、財産の分割の協議に関する書類(・・・省略・・・)の写し(・・・省略・・・)その他の財産の取得の状況を証する書類」を申告書に添付しなければなりません(相規1の6③一、措規23の2⑧一ハ)。 この「財産の取得の状況を証する書類」としては、財務省令に例示されている遺言書の写しや財産の分割の協議に関する書類(遺産分割協議書)の写しのほか、その財産が調停又は審判により分割されているものである場合には、その調停の調書又は審判書の謄本、その財産が相続税法の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされるもの(生命保険金や退職手当金など)である場合には、その財産の支払通知書等その財産の取得を証する書類が該当します(相基通19の2-18)。 1で述べた通り、「相続分がない旨の証明書」は、登記実務において登記原因を証する書類の一部として取り扱われているところですが、これが相続税の申告において上記の特例措置を適用するために添付が求められている「財産の取得を証する書類」に該当するかどうかが疑問となります。 この点について、一般的には、「相続分がない旨の証明書」は、財務省令に定める「財産の取得を証する書類」には該当しないものと考えられています。しかしながら、「相続分がない旨の証明書」を作成した相続人が、被相続人から法定相続分を超える特別受益を受けている事実があり、その事実に基づいて「相続分がない旨の証明書」が作成されたものであって、その証明書に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類(特別受益財産の明細を記載した書類及び登記事項証明書など各財産が相続人に名義変更されたことが確認できる書類など)の添付があった場合には、これらのすべての書類をもって「財産の取得を証する書類」として取り扱われることとされています(国税庁 質疑応答事例「配偶者に対する相続税額の軽減の規定の適用を受ける場合の「相続分不存在証明書」の適否」)。   3 ご質問の場合 お姉様がお母様から多額の贈与を受けていたため、お母様の相続について具体的相続分がないことから、あなたはお姉様の作成した「相続分がない旨の証明書」を登記原因証書の一部として、お母様名義の土地及び建物の相続登記を行うことができました。 しかしながら、あなたが相続により取得した土地について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しようとする場合、この「相続分がない旨の証明書」の提出のみをもって、「財産の取得の状況を証する書類」の提出があったとは認められません。 ただし、「相続分がない旨の証明書」に加え、お姉様がお母様から受けられた特別受益財産の明細を記載した書類やお姉様がお母様から相続分を超える金額の贈与を受けたことが確認できる書類、同特例を適用する土地の登記事項証明書などを併せて提出した場合には、これらのすべての書類をもって同特例を適用するために必要な「財産の取得の状況を証する書類」の提出があったものとして取り扱われます。 (了)

#No. 299(掲載号)
#梶野 研二
2018/12/20

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第9回】「一連の事業活動をグループ全体で遂行する場合の税負担の最適化」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第9回】 「一連の事業活動をグループ全体で遂行する場合の税負担の最適化」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社は、海外(A国)の製造子会社で商品を製造した上で、海外(B国)の販売子会社を通じて各国で販売しています。 グループ全体での税負担を最適化するために留意すべき点について教えてください。 [A] 製造から販売に至るまでの一連の事業活動をグループ全体で遂行する場合、各国の子会社にそれぞれどのような機能を担わせることがグループ全体として最適であるかを検討することが重要です。 それに加えて、外国子会社合算税制や移転価格税制などの国際課税制度の適用関係について検討することも重要となります。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 海外での製造や販売などの国際的な経済活動を展開する企業にとって、現地に子会社を設立した上で、製造から販売に至るまでの一連の事業活動をグループ全体で統括して遂行することが効率的である。その際、まずは事業上の観点から、いずれの国の子会社がグループ内でどのような機能を担うかを検討することになる。 そして、グループ内の機能配分については、これに加えて、税務上の観点からの検討が重要となる。すなわち、グループ内においてどのように機能を分配するかによって課税関係が異なり、グループ全体の税負担が異なることになることから、どのようにしてグループ全体での税負担を最適化するかを検討することが重要である。   2 最適モデルの検討 グループ内における機能配分のあり方には様々なモデルがありうるが、多国籍企業に推奨される効率的なモデルの1つとして、プリンシパルモデル(principal model)と呼ばれるものがある。これはグループ内で中核となる法人に重要な機能を集中させるモデルである。 このモデルでは、製造から販売に至るまでの一連の事業活動において重要と考えられる機能を中核法人が担い、重要ではないと考えられる機能を製造子会社や販売子会社が担うことで、多くの所得を中核法人に帰属させることになる。 例えば、製造に関する機能のうち、特許・ノウハウの提供、原材料の供給、品質管理、生産調整といった重要な機能を中核法人が担い、製造子会社は中核法人から受注した製造加工の業務のみを行うことになる。また、販売に関する機能のうち、商標・ブランドの提供、営業戦略、広告宣伝、販売網の構築、在庫調整などの重要な機能を中核法人が担い、販売子会社は販売支援、顧客サービスなどの業務のみを行うことになる。 そして、このモデルでは、いずれの国に所在する法人を中核法人にするかということが重要となる。すなわち、中核法人には重要な機能が集中して多くの所得が帰属することになるため、これに有利な税制が適用される国を中核法人の所在地国として選定することが重要である。   3 国際課税制度の検討 税負担について検討するに当たっては、最適モデルの検討に加えて、国際課税制度の適用関係についてもあわせて検討することが重要である。特に、日本の親会社が海外の中核法人にグループ内の機能を集中させ、かつ、その所在地国で適用される税率が低い場合、外国子会社合算税制の適用対象となりうることに留意が必要である。 この点、中核法人の稼得する所得に適用される実効税率が20%未満の場合、同税制の適用除外のための基準を満たす必要がある。なかでも中核法人が各国の製造子会社や販売子会社の株式を保有する場合には、主たる事業が「持株事業」であるとみられないように確保することが重要となる。何が主たる事業であるかは、事業に従事する人員構成、資産構成、所得構成などが総合的に考慮される。また、主たる事業が持株事業に該当しうる場合であっても、中核法人が統括会社に当たる場合には適用除外が認められうるので、その要件を確保することが重要である。 また、外国子会社合算税制のほか、移転価格税制についても留意が必要である。移転価格税制では、各国に所在する子会社がそれぞれ担っている機能に応じて適正な所得を帰属させることが求められる。そこで、グループ内における機能配分のあり方について検討するに当たっては、中核法人に重要な機能を集中させるとともに、各国の子会社が実際に担う機能を分析した上で、それに応じた適正な所得を帰属させることが必要となる。   (了)

#No. 299(掲載号)
#木村 浩之
2018/12/20

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第2回】「桃太郎と契約したイヌの貸借対照表はこうなる」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第2回】 「桃太郎と契約したイヌの貸借対照表はこうなる」 公認会計士 石王丸 周夫   1 桃太郎とイヌの「権利」と「義務」を把握する イヌ・サル・キジたちは、桃太郎の鬼退治についていくことを約束しました。この約束が「契約」であるということは、【第1回】で見たとおりです。 では、その契約は、収益認識の対象となるものでしょうか。 これが次に考えるべきことです。 さっそく、桃太郎とイヌ・サル・キジたちの契約内容を見ていきましょう。 契約内容を見極めるにあたって大事なのは、「権利」と「義務」を識別することです。 桃太郎の権利と義務を書き出してみます。 〈桃太郎の権利と義務〉 イヌ・サル・キジの権利と義務も書き出してみます。イヌ・サル・キジは、それぞれが桃太郎と同様の契約を締結しているとみなしますので、以下ではイヌを代表として例示していくことにします。 〈イヌの権利と義務〉 これらの権利と義務が表裏一体になっていることも確認しておきましょう。 もうひとつです。 すると、この契約は次のように整理することができます。 収益認識会計基準によれば、こうした条件を満たす契約は、収益認識の対象となります。   2 イヌの貸借対照表をイメージしてみる 桃太郎とイヌの契約が収益認識の対象であることが分かったので、次は、これをどうやって会計的にとらえるかを考えていきます。 さきほど、桃太郎とイヌの契約を「権利」と「義務」に分解して理解しましたが、「権利」と「義務」という言葉は、実は、貸借対照表と結びついています。 権利は「資産」に、義務は「負債」につながっているのです。 まず「権利」ですが、一般に、権利というのは、「勝ち取る」とか「獲得する」などと表現されます。これは「資産」のイメージと重なります。「資産」もまた、「取得する」と表現されるからです。 実際、企業が何らかの権利を取得した場合、何でもいいのですが、例えば特許権を取得したとしましょう。その場合、特許権は資産に計上されます。 こうした例から考えても、「権利」は「資産」ということになります。 次に「義務」です。一般に「義務」というのは、「負う」と表現されます。「親は子を養う義務を負っている」などといった文脈で使われます。「負う」という字は負債の「負」です。 負債の代表格である借入金、すなわち借金は、「背負う」と表現されます。また、会社は納税の義務を負っていますが、納税予定の額は、未払法人税等として負債に計上されます。 こうした例から考えても、「義務」は「負債」ということになります。 以上を踏まえて、イヌの貸借対照表を考えてみましょう。権利が資産、義務が負債です。 そうすると、「きびだんご受取権」が資産サイド(借方)に、「鬼退治同行義務」が負債サイド(貸方)に現れます。両者は均衡しており、資産と負債が両建てされているイメージです。 ただし、契約締結時においては、契約は未履行であり、権利と義務が実際に仕訳計上されるわけではありません。イメージとしては貸借両建てですが、会計的には相殺されて貸借ゼロとなります。 これが契約時における会計的な状態です。 この状態から段階を経て、次回以降、収益の認識へと進んでいきます。 ▷今回のまとめ 収益認識の対象となる契約は、その契約による「権利」と「義務」を見極めて、会計的に把握していきます。 (了)

#No. 299(掲載号)
#石王丸 周夫
2018/12/20

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第10回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第10回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   18 買戻契約 (1) 買戻契約 買戻契約とは、企業が商品・製品を買い戻す義務(先渡取引)、企業が商品・製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合、又は、企業が顧客の要求により商品・製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合をいう。 買い戻す商品・製品には、以下の場合がある(適用指針153)。 会計処理は「先渡取引及びコール・オプション」の場合と「プットオプション」の場合で別に検討する必要がある。 ① 先渡取引及びコールオプションの場合 企業が商品・製品を買い戻す義務(先渡取引)又は商品・製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合、顧客は当該商品又は製品に対する支配を獲得していない(適用指針69)。そのため、買戻契約の場合、通常の取引と同じように収益を認識することはできない。 まず、当初の販売価格と買戻価格を比較する。なお、買戻価格を販売価格と比較する際には、金利相当分の影響を考慮する(適用指針69)。比較した結果、以下のように会計処理する(適用指針69、70)。 なお、オプションが未行使のまま消滅する場合、コール・オプションに関連して認識した負債の消滅を認識し、収益を認識する(適用指針71)。 ② プット・オプションの場合 企業が顧客の要求により商品・製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合、以下のとおり、会計処理する。 (ⅰ) 買戻価格と当初の販売価格の比較 買戻価格が当初の販売価格より低いかどうかにより、会計処理が異なるため、まず、買戻価格が当初の販売価格より低いかどうか比較する(適用指針72、73)。 買戻価格を販売価格と比較する際には、金利相当分の影響を考慮する(適用指針72、73)。 (ⅱ) 買戻価格が当初の販売価格以上の場合 買戻価格が予想される時価よりも高いかを判定する。買戻価格が予想される時価よりも高い場合、金融取引として会計処理する(上記①「商品・製品の買戻価格が当初の販売価格以上の場合」と同様)。一方、買戻価格が予想される時価以下の場合、下記(ⅲ)を検討する(適用指針73)。 (ⅲ) 買戻価格が当初の販売価格より低い場合 顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合、リース基準に従ってリース取引として会計処理する。したがって、買戻部分は契約負債(=買戻価格)として認識し、販売価格と買戻価格の差額を前受リース料等で認識する。そして、前受リース料等は、期間に応じて収益を認識する。 一方、重要な経済的インセンティブを有していない場合、返品権付きの販売(13.(連載第8回)参照)として会計処理する(適用指針72)。 重要な経済的インセンティブを有しているかどうかの判定にあたっては、買戻価格と買戻日時点での商品・製品の予想される時価との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮する。例えば、買戻価格が商品・製品の時価を大幅に上回ると見込まれる場合には、顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していることを示す可能性がある(適用指針72)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 なお、オプションが未行使のまま消滅する場合には、プット・オプションに関連して認識した負債の消滅を認識し、収益を認識する(適用指針74)。 (2) 買戻契約(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響    19 有償支給取引 (1) 有償支給取引 有償支給取引とは、企業が対価と交換に原材料等(支給品)を支給先に譲渡し、支給先における加工後、支給先から支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む)を購入する取引をいう(適用指針104)。 ① 支給品を買い戻す義務の有無の判断 有償支給取引に係る会計処理にあたっては、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かによって、会計処理が異なる。そのため、まず、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する(適用指針104)。 ② 企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合 有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は支給品の消滅を認識するが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない(指針104)。 ③ 企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合 有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しない。しかし、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。なお、この場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない(適用指針104)。 (2) 有償支給取引(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 20 委託販売契約 (1) 委託販売契約 委託販売契約とは、自社が商品・製品を最終顧客に販売するために、販売業者等の他の当事者に商品・製品を引き渡し、代わりに販売してもらう契約である。 契約が委託販売契約であることを示す指標には、例えば、以下の(ⅰ)から(ⅲ)がある(適用指針76)。 ① 収益の認識時点 自社から他の当事者に商品・製品を引き渡した時に、他の当事者が商品・製品に対する支配を獲得していない場合、「委託販売契約として」他の当事者が商品・製品を保有している可能性があるため、他の当事者への商品・製品の引渡時に収益を認識しない(適用指針75)。つまり、最終顧客に販売した時点で収益を認識する。 (2) 委託販売契約(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 21 請求済未出荷契約 (1) 請求済未出荷契約 請求済未出荷契約とは、企業が商品・製品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品・製品の物理的占有を保持する契約である(適用指針77)。 ① 収益の認識時点 商品・製品を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたっては、顧客が当該商品・製品の支配をいつ獲得したかを考慮する(適用指針78)。具体的には、請求済未出荷契約では、一時点で充足される履行義務の規定(【STEP5】参照、基準39、40)を適用したうえで、以下の(ⅰ)から(ⅳ)の要件(請求済未出荷契約の支配要件)のすべてを満たす場合、顧客が商品・製品の支配を獲得しているといえるため(適用指針79)、その時点で収益を認識する。 ② 残存履行義務 請求済未出荷の商品又は製品の販売による収益を認識する場合には、残存履行義務(例えば、顧客の商品又は製品に対する保管サービスに係る義務)を有しているかどうかを、【STEP2】(基準32~34)に従って判断する(適用指針160)。残存履行義務がある場合、履行義務に取引価格を配分する必要がある。 (2) 請求済未出荷契約(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 22 工事損失引当金 (1) 工事損失引当金 工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(工事損失)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する(適用指針90)。受注制作のソフトウェアについても、同様である(適用指針91)。 (2) 工事損失引当金の表示(適用指針106) (3) 従来との相違点 上記(1)及び(2)は、従来と変わりはない。 (了)

#No. 299(掲載号)
#西田 友洋
2018/12/20
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