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[無料公開中]〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第2回】「『実質的な退職』の判断」

筆者:中尾 隼大

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〈ポイント解説〉

役員報酬税務

【第2回】

「『実質的な退職』の判断」

 

税理士 中尾 隼大

 

【 質 問 】

当社は、今期、代表取締役が退任する予定であり、退任に伴い役員退職給与を支給します。退職給与の額は一般に認められている功績倍率法に準拠して支給することとしています。

現代表取締役は当社の創業者かつ多大な貢献があった人物であるため、今後も当社に対し的確なアドバイスを頂きたく、非常勤役員、かつ、役員報酬額を半額以下にすることで勤務を継続してほしいと考えています。

このような場合、役員退職給与を支給することについて注意すべき点があれば教えてください。

【 回 答 】

代表取締役を退任し、それに伴って役員退職給与を支給した場合でも、支給後の勤務実態によっては、その退職給与の損金算入が認められないことも考えられます。非常勤取締役となり、かつ、その後の役員報酬額を半額以下に設定したとしても同様です。

否認された場合、当該退職給与が損金不算入となることに加え、法人にとっては源泉徴収漏れも発生し、支給される者にとっては給与所得課税ともなることから、いわゆる「トリプルパンチ課税」となります。

このような否認リスクを避けるためには、実質的に経営に関与していない実態を保つことが肝要です。

○●○● 解 説 ●○●○

退職給与は、その人の過去の勤労に対する対価であったり、それまでの功労に報いるためのものであったりと、その性格は多岐にわたり、画一的な理解は困難であると一般に説明されている。

法人税法上においては、過大とされた役員退職給与は損金として認められないが、これに該当しない役員退職給与は損金算入が認められる。一般に役員退職給与は功績倍率法に基づいて支給されるケースが多いが、功績倍率法による役員退職給与は法基通9-2-27の2にて、法法34の役員給与の損金不算入の規定から除かれることが示されている。

そして、実際に退職を伴わない場合でも、例外的に分掌変更等が行われたことにより役員退職給与を支給することが可能である。すなわち、法基通9-2-32にて、役員の分掌変更等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものであれば、これを退職給与として取り扱うことができると示されている。

その具体的な判断の例示として、

 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。

 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で法令71①五《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。

 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

という内容が示されている。

問題は、形式的にこれらのいずれかの要件を満たせば直ちに損金算入が可能、というわけではない点にある。

例えば東京地裁平成20年6月27日判決(※1)では、「役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づいて判断する必要がある(下線部筆者)」と示しており、他の裁判例を俯瞰してもその役員の勤務実態等、実情を重視した判断がなされている傾向が見受けられる。

(※1) 判例タイムズ1292号161頁。

したがって、上記通達を形式的に満たすこと、例えば非常勤取締役となり、かつ、給与を50%以上減額しさえすれば、当該退職給与の損金算入が必ず認められるというわけではない。

この実質判断は、最高裁平成19年3月13日判決(地裁:京都地裁平成18年2月10日判決、高裁:大阪高裁平成18年10月25日判決)においても示されており(※2)、上記通達のまでの「いずれかに当たる事実がありさえすれば、当然に退職給与と認めるべきという趣旨と解することはできない。」とした。

(※2) 地裁:税務訴訟資料256号順号10309、高裁;税務訴訟資料256号順号10553、最高裁:税務訴訟資料257号順号10652。

この最高裁判決は、上記通達のうちの括弧書き「分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」というくだりが付け加えられる通達改正の契機ともなり、それまで実務上浸透していた「単に代表権を外し、役員報酬を半額以下にすれば退職給与を支給(損金算入)できる」という認識に対し、釘を刺す形となった。

役員退職給与は、単純な分掌変更を理由として支給される場合の他、法人税等の節税や株式価値の圧縮手段として活用されるケースも多々あるだろう。特に事業承継の場面では、後継者が経営を担う自信を未だ持つことができていない等を理由に、退職給与の支給を受けた役員が事実上留まることも想定される。このようなケースにおいて、給与を3分の1程度に減額して形式を整えてはいたが、稟議書の「相談役」欄に捺印し、金融機関等との折衝を担っていた等を理由として、役員としての地位又は職務内容が激変して実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められないとされた事例もある(東京地裁平成29年1月12日判決、東京高裁平成29年7月12日判決(※3))。

(※3) 判例集等未搭載、地裁:TAINS Z888-2115、高裁:TAINS Z888-2128。

したがって、実際に役員退職給与を支給する場合、対象となる役員について、取引先や金融機関との折衝、経営参画や部下への助言指導を行うなどの行為は控え、支給される者は経営から決別する心構えで支給を受けるべきであると考える。

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号

(了)

「〈ポイント解説〉役員報酬の税務」は、毎月第3週に掲載されます。

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役員報酬の税務

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筆者紹介

  • 中尾 隼大

    (なかお・しゅんた)

    税理士
    税理士法人中尾総合事務所 所長
    https://www.nakao-tax.com

    中国税理士会税務研究所 研究員

    平成22年 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(現:PwC税理士法人)入所
    平成24年 税理士登録
    平成25年 税理士法人中尾総合事務所設立 現在に至る

    【著作・論文】
    「一般社団法人を利用した租税回避スキームに関する試論」第40回 日税研究賞 税理士の部 入選
    「これで万全!!2019年10月 消費増税・軽減税率対策 転嫁・インボイスはこう進める」共著(ぎょうせい・2019)
    「個人版事業承継税制のポイントと有利判定シミュレーション」共著(日本法令・2019)
    「ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務」共著(日本法令・2020)

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