〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第14話】 「内縁の妻と配偶者控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「統括官・・・どうして内縁の妻は、所得税法で配偶者控除の適用はないのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官に尋ねる。 昼休みで、今日も所得課税第三部門には2人しかいない。 「・・・配偶者控除の規定か・・・」 中尾統括官は、そう言いながら、税務六法を開く。 「配偶者控除については所得税法83条1項で規定していて・・・居住者が控除対象配偶者を有する場合には、その居住者の合計所得金額が900万円以下の場合は38万円(老人控除対象配偶者は48万円)、900万円超950万円以下の場合は26万円(老人控除対象配偶者32万円)、950万円超1,000万円以下の場合は13万円(老人控除対象配偶者16万円)の控除があり、1,000万円超になると控除はできない・・・こういう制度になっている・・・」 中尾統括官は、条文を読みながら、内容を確認する。 「ええ、その控除対象配偶者の定義は、所得税法2条1項33の2号で、次のように規定しています。」 「この配偶者については、所得税では、内縁、事実婚の配偶者は認められず、法律上の婚姻関係のみ控除ができる・・・とされていますが、私なんかは、実質的に夫婦関係があれば控除を認めてあげてもいいように思うのですが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の様子を伺うように見る。 「・・・そうだなあ・・・たとえば、離婚して・・・その後、再婚しようとする場合、子供や遺産相続などいろいろとやっかいな問題があると、入籍できないこともあり得るしなあ・・・」 中尾統括官はそう言いながら頷く。 「税法は法律婚主義を採っていますから、互いに婚姻意思を備えている内縁関係については、配偶者控除は適用できないとされています・・・でも・・・」 浅田調査官は不満そうに言う。 「これについてはたしか・・・最高裁の判決があったと思うが・・・」 そう言いながら、中尾統括官はノートパソコンを開いて判例を検索する。 「この最高裁平成9.9.9判決では、配偶者は、法律上の婚姻関係にある者に限るとしている。」 中尾統括官は、浅田調査官にパソコンの画面を見せる。 「その理由について・・・この判決では、次のように述べているね・・・」 「ちなみに、最高裁で上告棄却されているけれども、納税者は上告理由として、次のように主張している。」 中尾統括官は、画面を切り替える。 「なるほど・・・私も上告人と同じ考えで、配偶者控除等の制度の趣旨を鑑みると、事実上の配偶者も法律婚と同様に、その対象にしたらいいと思いますね・・・」 浅田調査官は頸を傾げる。 「・・・それに・・・年金の制度では、事実上の配偶者も対象になっています。ちょっといいですか・・・」 浅田調査官はそう断りを入れると、中尾統括官のパソコンを使って厚生年金保健法を検索する。 「・・・厚生年金保健法3条2項では、次のようになっています。」 「厚生年金保健法では、事実婚も配偶者として認めているんです。」 浅田調査官は、パソコンの画面を見ながら言う。 「・・・しかし、事実婚については・・・その判定が難しいなあ・・・たとえば、一週間前に2人で一緒に生活を始めたとか言われて、確定申告の時に配偶者控除を認めてくださいと言われても・・・現場でどのように判断をしてよいのか分からないし・・・収拾がつかなくなるよ。それに、内縁関係は、基本的に2人が婚姻意思を備えていれば成立してしまうことになる・・・2人の内心なんて・・・税務署じゃあ、とても判断できない・・・」 中尾統括官は渋い顔になる。 「でも・・・年金では認めています・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「年金は、厚生年金保健法1条でその目的を次のように規定しています。」 浅田調査官は続けて説明する。 「遺族の生活の安定等を目的とする厚生年金保健法と・・・適正な課税(徴収)を目的とする税法は・・・基本的に異なるからなあ・・・」 そう言うと、中尾統括官は苦笑しながら、浅田調査官を見る。 (つづく)
《速報解説》 関係4団体から中小企業会計指針の改正(公開草案)が公表される ~改正税効果会計基準等を受け見直し、収益認識基準に係る見直しは行わず~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年10月30日、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会は、「中小企業の会計に関する指針」の改正に関する公開草案を公表した。 これは、主に「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号、平成30年2月16日)等の公表に伴い、繰延税金資産と繰延税金負債の貸借対照表上の表示について見直しを行うものである。 なお、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号、平成30年3月30日)等が公表されているが、今回、「収益・費用の計上」の見直しは行っていない。 コメント募集期間は平成30年11月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法(65項等) 従来、繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した貸借対照表上の資産・負債の分類に基づいて流動区分と固定区分とに分けて表示するなどと規定していたが、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等に合わせて、次のように改正する。 2 その他 軽微な修正として次のものがある。 (了)
《速報解説》 会計士協会、最近のIT技術発展を踏まえた 研究報告「次世代の監査への展望と課題」(公開草案)を公表 ~AIやビッグデータ等を活用した監査に当たっての諸問題等を整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2018(平成30)年10月25日、日本公認会計士協会は、IT委員会研究報告「次世代の監査への展望と課題」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「ITを利用した監査の展望~未来の監査へのアプローチ~」(IT委員会研究報告第48号)の内容を踏まえつつ、最近のIT技術の進化を考慮して2030 年頃の次世代の監査の在り方を展望するとともに、それを現実のものとするに当たって想定される諸問題について取り扱っている。 意見募集期間は2018(平成30)年11月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告の概要 研究報告は、目次を含めて61ページに及ぶものであり、主に次の内容を扱っている。 以下では、主な内容について解説する。 1 次世代の会計業務と監査への影響 ERPシステム、クラウド化、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、RPA(Robotics Process Automation)、ブロックチェーンの活用などについて、会計業務と監査への影響が広範に取り上げられている。 RPAとは、これまで人が行っていた作業を機械学習やAIを含むコンピュータによる認知技術の活用により、自動化することである(12ページ)。 ブロックチェーンとは、仮想通貨であるビットコインの基盤となる技術として生まれた概念であり、分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology)の一形態と考えられている(15ページ)。 2 AIと会計・監査 現状のAIが得意な分野は、十分な訓練データがあり、それに基づく機械学習が可能であるといった分野であるとし、ある会計事象に対して、取引先や摘要や過去のデータから自動的に仕訳を生成するような会計システムについては、AIが活用しやすい世界と考えられている(25ページ)。 監査業務は、過去の数字を分析するだけでなく、将来の予測をしたり、見積りを行ったり、非定型的かつ高度な専門的な能力を必要とするものであり、また、経営者をはじめとする、被監査会社とのコミュニケーション能力も必要となるとのことである(25ページ)。 監査とは、場の雰囲気や個別の状況を踏まえた高度な判断が必要な業務と言え、現状、こういった役割を代替できるほど、AIの機能は進化していないことから、過去情報を活用した比較的定型的な判断は別にして、経営者の意図の理解や、会社の状況を踏まえた会計基準適用の妥当性判断といった事項は、引き続き監査人が担うことになると考えられるとしている(25ページ)。 監査の各フェーズに関して、AI等による代替可能性の難易度が図表化されている。 3 被監査会社の協力 監査人が被監査会社から経営活動に関する大容量のデータを受領して分析しようとする場合、被監査会社において分析目的に適したデータが取得及び保管されていること、監査人が被監査会社から当該データの提供を受けることが前提となる(45ページ)。 被監査会社において、真正性・完全性、検索性、機密性、見読性を満たす電子媒体の情報の管理を実施することや、ブロックチェーンの情報の帰属主体の検討に協力することなどは、監査人においては、信頼性ある監査証拠を効率的に入手することに寄与する(45ページ)。 4 次世代の監査実施のための監査報酬の在り方 次世代の監査の実施に当たっては、新たなデータ分析ツールの開発や活用、データ分析の専門家といった人材確保が不可欠なため、各法人における間接費が大きく増大すると考えられるとしている(49ページ)。 このため、従来のように各社への監査に費やされた時間を積み上げることによって計算されてきた監査報酬の計算に関する考え方を、大きく変える必要が生ずる可能性があるとのことであり、監査事務所内の原価計算はもとより、公認会計士は被監査会社とコミュニケーションを十分に行い、理解を図ることに努める必要が生ずるものと思われるとのことである(49、50ページ)。 5 監査技法の変化の時代に必要とされるスキル 例えば、以下のような知識、能力を身に着けることが、公認会計士には必要であると想定されている(50、51ページ)。 (了)
2018年10月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.291を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第52回】 「消費増税を考える」 税理士 山本 守之 1 消費増税と経済対策 2019年度(平成31年)の税制改正は、同年10月から消費税率が10%に増税となることが予定されているため、その改正を下支えする税制に重点が置かれています。 2014年度に税率を5%→8%に引き上げた際、増税後の4~6月期の個人消費は、実質ベースで前期比年度率17.2%減となり、景気回復まで4年近くを要しました。この反省から、2019年度の税制改正では、消費増税前の駆け込み需要とその反動による消費消え込みを抑えることが最大のテーマとなり、今回は特に住宅、自動車の消費冷え込み対策に力を入れることになります。 消費増税に対する政府の需要の反動減を抑える対策は、早々にメニューが固まってきました。 菅官房長官は10月15日の臨時会議後の記者会見で「来年10月の消費税増税(8%~10%)は、リーマン・ショツクのようなものがない限り引き上げる」と述べました。 ただし、増税に向けた事業者の準備が遅れていることもあり、安倍首相は消費増税について「あらゆる政策を総動員し、経済に影響を及ぼさないように全力で対応する」と述べ、関係閣僚に対して駆け込み需要と反動減を抑えるための経済対策をまとめるよう以下のように指示しました。 また、「消費増税による税収のうち半分を国民に還元する」とし、「全世代型の社会保障制度へと大きく転換し、同時に財政健全化も確実に進めていく」と強調しています。19年10月1日からは幼児教育を認可・無認可あわせて無償化すると言明しました。 財務省では、過去の増税時には認めていなかった「消費税は私共が負担します」というような「消費税還元セール」を認めるようです。 2021年12月に期限が到来する住宅ローンの控除の延長や住宅資金贈与の特例を拡充する予定です。 2 軽減税率への懸念 2019年10月の消費税率10%への引き上げと同時に、食料品などの税率を8%に据え置く「軽減税率制度」が導入されます。この軽減税率制度により家計負担額は前回の5%→8%の引き上げ時では8兆円だったのに対し、今回は2.2兆円とも試算されており、消費者の負担を抑えているとしています。 軽減税率制度では商品の種類によって税率が変わるため、小売店ではレジや受発注システムの改修が必要になります。このため政府は、複数税率に対応できるよう早期の改修対応などを促すとしています。 ただし、準備に着手していない企業も多く、日本商工会議所が9月にまとめた中小企業約3,200社へのアンケート調査によると、軽減税率制度への対応について、約8割の企業は「準備に取りかかっていない」と回答しています。 特に小売りの現場では、消費者との直接の接点になるので、混乱を避けるよう関係業界は準備を迅速に進める必要があります。政府も制度の運用上、不明確な点は業界の意見なども聞きながら早期に明確にすべきでしょう。 酒を除く飲食料品は軽減税率の対象になりますが、外食(店内での飲食)は対象になりません。最近、コンビニやスーパーで急速に普及しているイートインコーナーでの飲食は外食とみなされ10%の標準税率がかかります。また外食店でもテイクアウトの場合は8%の軽減税率が適用されます。 欧州では既に付加価値税に軽減税率を導入していますが、初めて導入する日本では現場での混乱も予想されます。今年5月に政府は店内飲食への対応など軽減税率の価格表示法についての指針をまとめていますが、その指針では消費者が店内飲食と持ち帰りの2種類の価格で混乱しないように、事業者の判断により税込み価格で店内飲食と持ち帰りの金額を表示することも可能としています。 いずれにせよ、コンビニの現場などでは、販売時に店内で飲食するか持ち帰るかを客に確認する必要があるため、できるだけ簡便な仕組みを整えるべきです。これを契機にイートインコーナーが廃止されるようでは、消費者の利便性は損なわれてしまいます。 筆者は、EUではどうなっているかを調べるため、パリの外食店を訪ねたところ、会計の際に店員から「店内で飲食するのか、持ち帰りか」と尋ねられました。フランス語が分からない筆者が答えられないでいると、店員はパンとサンドイッチを紙に包んでくれ、軽減税率(5.5%)の支払いを求められました。 筆者が周りを見てみると、トレーで食べている人(標準税率10%)と紙に包んだものを食べている人(軽減税率5.5%)に分かれていました。とはいうものの、半数くらいは紙に包んでもらいながら外食をしています。しかし「脱税だ!」と指摘する人は誰もいません。 これは洒落を知るフランス人の国民性でしょう。日本で洒落が分からず現場で岡っ引きのように対応すると、現場が混乱を生じないか心配です。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第8回】 「義務化の例外規定」 -特例の申請- SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 電子申告義務化後において、災害その他の理由(注)によって、e‐Taxにより法定申告期限までに申告書を提出することが困難な場合には、所轄税務署長の承認を得た上で、書面により提出することで、例外的に申告義務が履行されたものとみなされ、その書面による申告書は有効なものとして取り扱われます。 この承認を得るためには、事前に「e‐Taxによる申告が困難である場合の特例の申請書」及び「添付書類(e‐Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類)」を提出する必要があります。 なお、この申請に対する承認(却下)の処分については、所轄税務署長が書面によりその旨を通知することにより行われますが、申請書に記載した指定を受けようとする期間の開始の日までに承認(却下)の通知がなかったときは、その日においてその承認があったものとみなされます。 また、災害その他やむを得ない理由により、法定申告期限までに申告・納付できない場合は、従来からある「災害等による期限の延長(国税通則法第11条)」に基づく期限延長の申請が可能です。 (注) 「災害その他の理由」及び申請書とともに提出する必要がある e‐Taxを使用することが困難であることを明らかにする書類の具体例は以下のとおりです。 【記載例・・・経営成績の悪化によりインターネット契約を解約した場合】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第60回】 公認会計士 佐藤 信祐 《第10章》 平成23年度から平成28年度までの税制改正 1 平成23年度税制改正 平成23年度税制改正では、平成22年度税制改正を修正する形で、グループ法人税制、組織再編税制の見直しを行っている。 具体的には、平成22年度税制改正では、100%子会社を清算した際には、子会社株式消却損を認識できない一方で、繰越欠損金の引継ぎを認めることとしたのに対し、子会社株式評価損の計上を認めてしまうと、繰越欠損金と評価損の二重控除が可能になってしまうため、平成23年度税制改正では、完全支配関係のある内国法人のうち、清算中のもの、解散をすることが見込まれているもの、適格合併を行うことが見込まれているものについては、それぞれ評価損の計上が認められないことになった(『平成23年版改正税法のすべて』275頁)。 そのほか、①解散の場合の期限切れ欠損金の損金算入において、マイナスの資本金等の額を含めることとした、②自己株式について、移転時価資産が移転簿価資産を下回っている場合等の特例において、含み益がない資産として取り扱うことが明確化された、③外国法人が行う現物出資について税制適格要件の見直しを行った、④グループ法人税制が適用される場合には、非適格株式交換・移転に該当する場合であっても、適格株式交換・移転と同様の計算方法により完全子法人株式の取得価額を計算することになった、という点が改正事項として挙げられる。 2 平成24年度税制改正 平成24年度税制改正では、法人税の実効税率の引下げのための財源として、大法人等に対して、繰越欠損金の控除限度額が縮減されたため、子会社を解散した場合において、当該子会社の繰越欠損金の一部が使用されずに、期限切れ欠損金が使用される場合が生じるようになった。 そのため、期限切れ欠損金として損金の額に算入した金額に相当する部分の金額について、残余財産の確定により親会社に引き継ぐ繰越欠損金から除外する旨の規定が設けられた。 3 平成25年度税制改正 平成25年度税制改正前は、合併法人と被合併法人との間に支配関係が生じた後に、支配関係のある別の法人から適格組織再編成等により被合併法人に引き継いだ資産について、その後の適格合併により合併法人に引き継いだとしても、支配関係発生日前に有していた資産でないことから、特定引継資産から除外されていた。 平成25年度税制改正では、このような2段階組織再編成を利用して、繰越欠損金の引継制限を逃れるような行為について一定の制約を設けるために、適格合併の日以前2年以内に行われた適格組織再編成等により移転を受けた資産のうち、一定の要件を満たすものについて、特定資産譲渡等損失相当額として、繰越欠損金の引継制限の対象として規制することになった。 ただし、これらの規定は、合併前2年以内期間内の適格組織再編成等が行われていなければ、適用されない規定である。そのため、実際にこの規定の適用を受けることは稀であると思われるため、本稿では、この規定についての解説は省略する。 4 平成26年度及び平成27年度税制改正 平成26年度及び平成27年度税制改正では、組織再編税制についての重要な改正はなかった。 5 平成28年度税制改正 平成28年度税制改正では、共同事業を行うための株式交換・移転における特定役員引継要件について、完全子法人の特定役員のいずれかが退任しないこととしていたのに対し、全てが退任しないことと改められた。これにより、1人でも残っていれば、特定役員引継要件を満たすこととされた。 この点につき、『平成28年度税制改正の解説』326頁では、 と解説されている。 なお、同書326頁では、「株式交換に伴って退任」という意味は、「株式交換と同時期に、ないし付随して特定役員が退任をするものかどうかで判定される」と説明されている。「伴って」という文言から、株式交換・移転と特定役員の退任との間に相当因果関係がある場合に限定されていると解される。 そのほか、平成28年度税制改正では、①国際課税原則の帰属主義への変更に伴う適格現物出資の範囲の見直し、②適格要件に係る所要の整備の明確化、③期中で適格株式交換・移転が行われた場合における完全子法人株式の取得価額について、前期末を基準にすることによる簡便化、といった改正が行われている。 * * * 次回では、第11章として、平成22年度から平成28年度までの間に公表された国税局及び税務専門家の見解について解説を行う予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例67(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆原則課税における仕入税額控除額(消法30) 消費税の原則課税における仕入税額控除の計算は、課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満の場合には、全額控除は認められず、個別対応方式と一括比例配分方式のいずれかを選択しなければならない。 個別対応方式とは、その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額の全てを、①課税売上げにのみ要するもの(「課税対応」)、②非課税売上げにのみ要するもの(「非課税対応」)、③課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの(「共通対応」)に区分し、仕入控除税額を以下の算式により計算する。 ①に係る税額 + ③に係る税額 × 課税売上割合 一括比例配分方式は、個別対応方式のように課税仕入れ等に係る消費税額が区分されていない場合、又は区分されていてもこの方式を選択する場合に適用し、仕入控除税額を以下の算式により計算する。なお、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間の継続適用要件がある。 課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税売上割合 ◆課税売上割合(消法30、消令48) 課税売上割合の計算は以下の算式により計算する。 ◆非課税となる有価証券等の範囲と課税売上割合の関係(消法別表第一第2号、消令9①) 合同会社の持分譲渡は「有価証券の譲渡」に該当するため非課税売上である。なお、課税売上割合の計算においてはその全額を分母に含めて計算する。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第31回】 「別表6(19) 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」〈その1〉 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第31回目以降は、平成29年度をもって終了する従来の雇用促進税制(地方拠点強化税制における雇用促進税制へ改組)、及び平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、地方拠点強化税制における雇用促進税制の別表をあらためて採り上げる(※)とともに、改正点を踏まえながらその適用パターンごとに分けて順次解説していく。 (※) 改正前の様式については【第10回】及び【第11回】を参照。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12第1項ないし第2項(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)又は平成30年改正前の措置法第42条の12の2第1項から第3項まで(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定(平成28年改正後の「雇用促進税制」)の適用を受ける場合に作成する。 これは、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において、雇用者増加数5人以上(中小企業は2人以上)、かつ、雇用増加割合10%以上等の要件を満たす企業は、同意雇用開発促進地域(※1)内に所在する事業所において、新たに雇い入れた無期雇用(※2)かつフルタイム(※3)の雇用増加数(※4)1人当たり40万円の税額控除(当期の法人税額の10%、中小企業者等は20%が上限)が受けられる制度である。 (※1) 地域雇用開発促進法(昭和62年法律第23号)第7条に規定する同意雇用開発促進地域をいう。詳細はこちらの厚生労働省HPを参照のこと。 (※2) 労働契約法(平成19年法律第128号)第17条第1項に規定する有期労働契約以外の労働契約を締結していること。 (※3) 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第2条に規定する短時間労働者でないこと。 (※4) 適用年度の終了時においても、引き続き当該事業所に勤務している雇用保険一般被保険者に限る。また、適用年度中の全ての事業所における一般被保険者増加数及び同意雇用開発促進地域内に所在する事業所における一般被保険者増加数が上限になる。 [適用要件] この制度の適用を受けるためには、次の①から⑤までの要件を全て満たしている必要がある。なお、適用年度開始の日の前日における雇用者数が零である場合には、②の要件は不要となる。 ① 当期末の雇用者の数から適用年度開始の日の前日の雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を引いた数(以下「基準雇用者数」という)が5人以上(中小企業者等については2人以上)であること。 ② 基準雇用者数を適用年度開始の日の前日における雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数で除した数(以下「基準雇用者割合」という)が10%以上であること。 ③ 給与等支給額(当期の所得の金額の計算上損金の額に算入される雇用者に対して支給する給与等で、当期末に高年齢雇用者に該当する者に対して支給するものを除く)が「比較給与等支給額」以上であること。 比較給与等支給額=前期の給与等の支給額+(前期の給与等の支給額×基準雇用者割合×30%) ➡ 適用年度開始の日の前日における雇用者数が零である場合には、次の算式となる。 比較給与等支給額=前期の給与等の支給額+(前期の給与等の支給額×30%) ④ 雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業(一定の事業を除く)を行っていること。 ⑤ 前期及び当期に事業主都合による離職をした雇用者及び高年齢雇用者がいないこと。 ▼ 注意!▼ この制度の適用を受けるためには、確定申告書等に次の書類の添付が必要となる。 (1) 適用事業年度開始後2ヶ月以内に公共職業安定所に雇用促進計画の提出を行い、適用事業年度終了後2ヶ月以内に都道府県労働局又は公共職業安定所で計画の達成状況についての確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨の書類の写し。 (2) 控除の対象となる特定地域基準雇用者数(平成28年4月1日以後に開始する事業年度から適用となる)、地方事業所基準雇用者数又は地方事業所特別基準雇用者数、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類。 なお、本制度は賃上げ・投資促進税制(平成30年改正前 所得拡大促進税制)と重複して適用することができるようになっている(賃上げ・投資促進税制の様式については【第28回】~【第30回】を参照)。 Ⅲ 「別表6(19)」及び「別表6(19)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(19) ◆別表6(19)付表 〔基準雇用者数等の計算に関する明細〕 〔給与等支給額の計算に関する明細〕 〔比較給与等支給額の計算に関する明細〕 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第22回】 「海外の賃貸不動産に係る留意点」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本の居住者)は、不動産会社の営業の方に勧められて、海外の賃貸用不動産を購入しました。この不動産については、毎月現地から、その月の損益状況を記載したマンスリーレポートが送られてきます。 このレポートに基づいて、翌年の3月15日までに確定申告をしなければならないことは理解できますが、留意点を教えていただけませんでしょうか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷換算レートは何を採用するのか 海外の賃貸用不動産投資を行った場合、おそらく、現地において不動産管理会社が賃貸の管理を行い、オーナーに賃貸の状況を報告することになる。このレポートは、通常、現地の言語で、かつ、現地の通貨で表示されることになる。 日本の居住者であるオーナーは、国外で生じた所得についても日本で申告しなければならない。日本における確定申告であるから、税金の計算も円を使って計算しなければならない。そこで、現地の通貨を円に換算しなければならないことになる。 外貨建ての収益や費用を円換算する基本は、発生時のTTMとなる。為替換算レートにはTTS、TTB、TTMがあるが、簡単に言うと、TTSとは「円を売って外貨に換えるレート」であり、TTBとは「外貨を売って円に換えるレート」、TTMは「TTSとTTMの仲値(平均値)」である。 不動産所得については継続適用で、収益はTTB、費用はTTSで計上することができる。さらに月次で取引の報告がなされる場合、取引日の属する月の前月の末日又は当月の初日のTTSやTTB又はTTM、取引日の属する月の前月の平均相場のように1月以内の一定の期間におけるTTM、TTBやTTSの平均値を選択することもできる(所基通57の3-2)。 個人で海外の不動産所得を生ずべき業務を行っている者については、不動産所得に係る損益計算書や収支内訳書について、年末における為替相場により換算することができる(所基通57の3-7)。つまり、個人については毎月換算替えをせずに期末一括換算をすることができることから、事務処理の手間を省くことができる。 ただし減価償却については取得時の換算レートで円換算し、その金額に基づいて減価償却を行うことになる。 ▷減価償却は日本ベースで 外貨建ての資産を購入した場合、購入時の為替レートで換算替えを行い、取得価額を算定し、減価償却を行っていく。しかし、日本の税制で認められる減価償却の方法は所得税法等で定められたものであり、耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」において定められたものに限られる。 通常、海外からのレポートに記載された減価償却の方法は、現地の償却方法や耐用年数に基づくものと想定されるので、減価償却については、日本ベースの償却方法や耐用年数に基づいて再計算を行う必要が生じてくる。 海外の不動産と日本の不動産を比較した場合、所在地の状況にもよるが、建物価額の不動産価額に占める割合が高く、築年数が古いものもある。日本の場合、最長の耐用年数は事務所用の「鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの」で50年であるが、50年を超える中古建物が販売されることもある。 このような中古建物の耐用年数は、日本の中古資産の耐用年数のルールに従うことから、例えば建築してから60年経過した鉄骨鉄筋コンクリートのオフィスビルの耐用年数は50年×20%=10年となり、10年間での償却が可能となる。 ▷外国税額控除は3年間の繰越し可 海外において居住者が不動産賃貸を行う場合、不動産所在地でも所得税が発生するため、この二重課税状態を解消するためには、外国税額控除の適用を検討することになる(所法95)。 ここで、外国税額控除ができる時期と所得が生ずる時期に、差が生ずることがある。例えば、2018年から始めた個人の海外不動産の不動産所得については、2019年3月15日までに日本で所得税の確定申告を行わなければない。同時に海外でも不動産所得について申告・納税する場合、所得の発生時期が2018年であっても、納税が確定した時期が2019年となると、原則的には、外国税額控除の時期も2019年度となることから(所基通95-3)、所得発生年と外国控除適用年が1年ずれることになる。 外国税額控除は、外国で支払ったすべての所得税相当額について控除が認められるわけではなく、控除限度額の範囲に限られる。控除限度額とは、簡単にいうとその年分の所得税額のうち国外所得に対応する部分である。もし、国外所得や納付した外国税額控除を翌年以降に繰り越す制度がないならば、外国税額が生じた年度に国外所得が生じていない場合は外国税額控除が適用できないことになる。そこで外国税額控除については、3年間の繰越し控除が認められている。 たとえば、外国税額が発生しない年度において生じた控除限度額を繰越控除限度額として翌年以降3年間繰越しできることから、翌年以後に外国税額が生じ、その年において控除限度額が生じない場合であっても、その繰越控除限度額の範囲内で外国税額控除が適用できる(所法95②)。なお、控除限度額は所得税だけでなく、復興特別所得税や地方税にもあり、これらを一定のルールに従って使用し外国税額控除を行っていくことになる。 (了)