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企業結合会計を学ぶ 【第2回】「取得の会計処理の概要」

企業結合会計を学ぶ 【第2回】 「取得の会計処理の概要」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第1回】では、企業結合の分類として、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引があることを解説した。 今回は、吸収合併の例を用いて、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号。以下「結合分離適用指針」という)に規定する「取得」の会計処理の概要について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 吸収合併 吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものである(会社法2条27号)。 〔例〕 次の条件による吸収合併を行った。   Ⅲ 取得の会計処理に関する論点 「取得」とは、ある企業が他の企業又は企業を構成する事業に対する支配を獲得することをいう(企業結合会計基準9項)。 取得の会計処理は、パーチェス法となり、被取得企業から受け入れる資産及び負債の取得原価を、原則として、対価として交付する現金及び株式等の時価を用いて会計処理する(企業結合会計基準17項、結合分離適用指針29項)。 パーチェス法は、取得企業の観点から企業結合をみるもので、取得企業は企業結合日において被取得企業が企業結合日前に認識していなかったものも含めて、受け入れた資産及び引き受けた負債のうち識別可能なものに取得原価を配分する(結合分離適用指針30項)。 取得原価と取得原価の配分額との差額がのれん(又は負ののれん)であり、のれんについては20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり、合理的な方法により規則的に償却する(企業結合会計基準32、33項)。 例えば、上記〔例〕の吸収合併を行う場合には、次の事項を検討し、会計処理することになる。   Ⅳ 取得企業の決定方法 取得とされた企業結合においては、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定する(企業結合会計基準18項)。 「結合当事企業」とは、企業結合に係る企業をいう。このうち、他の企業又は他の企業を構成する事業を受け入れて対価(現金等の財産や自社の株式)を支払う企業を「結合企業」といい、当該他の企業を「被結合企業」という。また、企業結合によって統合された1つの報告単位となる企業を「結合後企業」という(企業結合会計基準13項)。 取得企業の決定は次のように行う(企業結合会計基準18項、78項)。 (了)

#No. 287(掲載号)
#阿部 光成
2018/09/27

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第10回】「固定資産の分析(その3)」-その他固定資産-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第10回】 「固定資産の分析(その3)」 -その他固定資産-   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   ←(前回) | (次回)→   ▷その他固定資産 〔分析の対象となる主な勘定科目〕 その他固定資産は、貸借対照表上無形固定資産や投資その他の資産に表示されており、法律上の権利などの物理的な実体や具体的な形のないものである。主な会計上のその他固定資産の内容は、下記のとおりである(法律上の正確な定義ではなく、会計上の概念である)。   ▷通常の会計処理 特許権、意匠権、実用新案権、商標権、ソフトウェアなどの償却資産の償却については、以下のような特徴がある。 ソフトウェアについては、有形固定資産と同様に過去の投資の状況の確認が必要である。例えば、基幹システム等の重要なシステムに、適切なアップデートが行われていない場合に、投資後メンテナンス費用が多額にかかる場合がある。 また、地上権、借地権、電話加入権などについては、有形固定資産の土地と同様に減価償却を行わない。ただし、無形固定資産としては、のれんや借地権など、投資その他の資産としては長期前払費用に計上されている権利金などが減損処理の対象となることに留意を要する。 ◆主な対象資産の耐用年数表 (出典) 無形減価償却資産の耐用年数表(別表第三)   ▷その他固定資産のデューデリジェンスにおける主な調査手続 主な調査手続やポイントの考え方は、基本的に有形固定資産と概ね同一である。 例えば、借地権などについては、有形固定資産の土地同様に不動産鑑定評価のような時価評価が必要な場合がある(有形固定資産のデューデリジェンスにおける主な調査手続については【第8回】を参照)。   ▷重要な知的財産権を保有する場合の評価 対象会社が重要な知的財産権を保有している場合、必要に応じて法務デューデリジェンスチームと連携して、当該権利の内容や存続期間等を詳細に把握する必要が生じてくる。 つまり、通常であれば、知的財産権が生み出すキャッシュフローを独立して捉えるのではなく、他のキャッシュフローに含有し営業キャッシュフロー全体と捉えて評価すれば足りると考えられるが、重要であれば独立して捉えて評価する必要がある。 ◆知的財産評価フロー及び評価項目(例) (筆者作成) このような重要な知的財産権の評価は、一般的な他の資産の評価方法と同様、大きく分類してコストアプローチ、マーケットアプローチ及びインカムアプローチの3つの方法が存在する。評価対象となる知的財産権の性質や、評価目的等を勘案し、多面的な検討を行う必要がある。 例えば、特許権の場合は、特許を確立する技術開発資金と特許権価値の関連性を把握するのが困難であることや、類似特許の売買事例が検出不能であることから、コストアプローチ及びマーケットアプローチによる評価方法は採用されないことが多い。 特許権の評価においては、下記の条件がそろった場合に、インカムアプローチによる評価方法を採用することが一般的である。 また、例えば、商標権の場合は、広告宣伝費や販売促進費を費やしても現在と同じ商標の地位が確立され、同じ経済的便益が享受されるとは限らないこと、また、評価対象会社を含む商標権の関係当事者が価値構築のために支出した金額の推定も困難であることから、このような場合には、コストアプローチによる評価は採用されない。 また、評価対象会社が保有する商標権の譲渡やライセンス取引もないケースが多く、このような場合には、マーケットアプローチによる評価は採用されない。評価対象の商標権が、事業展開において中核をなす権利と考えられ、商標権を核とした製品・事業の収益性に着目してその価値評価を行うことが妥当である場合が多く、このような場合にはインカムアプローチを採用することが一般的である。 (了)

#No. 287(掲載号)
#松澤 公貴
2018/09/27

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第3回】「法定利率」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第3回】 「法定利率」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 法定利率に関して改正があったようですが、具体的にどのような点が変更されるのでしょうか。 【A】 法定利率に関する主な変更点は次のとおりである。 (1) 法定利率の概要 法定利率とは、利息を生ずべき債権について、当事者間で合意した利率(約定利率)がない場合に適用される金利である。約定の弁済期より支払いが遅れた場合などに遅延損害金として適用されるケースや、交通事故のように不法行為による損害賠償金に対する遅延損害金として適用されるケースなどがある。 法定利率が存在することにより、債権者の立場から見れば、支払いが遅れてなされた場合でも、本来の期日に支払いがあれば生み出すことができた運用益が確保できるという利点がある。債務者の立場からみれば支払いが遅れることにより、支払う金額が多くなるため、定められた期日に支払いを行う動機づけとなる。 現行法における法定利率は年5%(民事法定利率、現行法404条)、商取引等商行為に基づく債権については年6%(商事法定利率、現行商法514条)とされている。 (2) 法定利率の引き下げと変動制の導入 現行法の法定利率は、民法が制定された明治期に定められたものであり、実勢金利と比較して非常に高いこと、また固定金利であるため、実勢金利の変動があっても反映できない点が問題点として指摘されていた。一方で、実勢金利に合わせて細かく金利を変更すると社会の混乱を招くことになる。 そこで改正法では、法定金利の引き下げを行い(施行時年3%、改正法404条2項)、3年ごとに、貸出約定平均金利の過去5年間の平均値を指標とし、この数値に前回の変動時と比較して1%以上の変動があった場合にのみ、1%刻みの数値で法定利率が変動される“緩やかな変動制"を導入することとした(改正法404条3項~5項)。 具体的には、まず日本銀行が公表している貸出約定平均金利の過去5年間における短期貸付けの平均金利の合計を60で除して計算した割合(0.1%未満は切捨て)を「基準割合」とする。「過去5年間」とは、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月のことを指し、例えば平成35年4月1日が期の初日である場合には、平成29年1月~平成33年12月の各月ということになる。そして、直近変動期の基準割合と当期の基準割合との差(1%未満は切捨て)に相当する割合を、直近変動期における法定利率に加算し、又は減算する。 変動のイメージは下記のとおりである。 【基準割合の上昇局面でのイメージ】 【基準割合の下降局面でのイメージ】 (出典) 法務省民事局資料「民法(債権関係)の改正に関する説明資料(p.14)」より 原則として、1つの債権には当該債権が発生した時点での法定利率が適用され、事後的に変動することはない。遅延損害金が発生した場合には、債務者が遅滞に陥った最初の時点での法定利率が適用され、交通事故の場合は、交通事故があった時点の法定利率が適用される(改正法419条1項)。 一方で、多数の債権を保有している場合、その債権の発生時期や弁済期により、債権ごとに適用される遅延損害金の利率が異なるということがありうる。 実務的には、各期の法定利率はウェブサイト等で容易に把握できるような形にはなると思うが、自社の保有する債権のうち、どの債権にどの金利が適用されるかは管理上明確にする必要がある。また、管理の統一のためには、約定で一律の遅延損害金を定めておく必要がある。 (3) 商事法定利率の廃止 商事法定利率は、商取引における法定利率だけを区別して定める合理的な理由が乏しい等の指摘もあり、廃止されることとなった。これにより商取引における法定利率も民法の法定利率が適用されることとなる。 (4) 中間利息控除 例えば、交通事故により後遺症が残ったときなど、後遺症がなく正常に稼働すれば得られていたはずの収入(逸失利益という)についても、交通事故の時点から請求が可能である。 このとき、将来の逸失利益全額をそのまま交通事故時に受け取ることができるとすれば、本来であれば将来においてしか受け取ることができなかった金銭を、現時点で一度に取得して運用することが可能となり、バランスを欠くこととなる。 そこで、将来において取得すべき利益の損害賠償の金額を算定するにあたっては、将来の運用益を控除するために、中間利息控除がなされる。そして、現行法においては、この中間利息控除をするときの控除の割合は、法定利率(年5%)とされている(最判平成17年6月14日第三小法廷判決)。 改正の議論においては、中間利息控除については現行法を維持するべきなどの意見が出されたが、結論としては損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率が適用されることとなった(改正法722条1項)。これにより少なくとも改正法の施行時は、現行法より法定利率が下がるため、被害者としては中間利息控除される金額が下がり、受け取る金額が多くなる。保険商品等の保険料等の金額の見直しが行われる可能性も考えられる。 (5) その他 法定利率の改正において、企業としては金利の把握、計算の事務が煩雑になる。約定利率が契約に定められていれば、約定利率が適用されるため、今後は契約において約定利率を定めておくことが望ましいといえる。 (了)

#No. 287(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2018/09/27

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例29】出光興産株式会社「経営統合に関する合意書の締結のお知らせ」(2018.7.10)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例29】 出光興産株式会社 「経営統合に関する合意書の締結のお知らせ」 (2018.7.10)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、出光興産株式会社(以下「出光興産」という)が、平成30年7月10日、昭和シェル石油株式会社(以下「昭和シェル石油」という)と連名で開示した「経営統合に関する合意書の締結のお知らせ」である。 この連載で出光興産の開示を取り上げるのは2回目であり、【事例19】で同社が平成29年7月5日に開示した「株主による新株式発行の差止め仮処分の申立てに関するお知らせ」を取り上げた。 今回の開示は、その平成29年7月5日の開示で問題とされていた昭和シェル石油との経営統合について、合意書を締結したという内容である。しかし、その合意の内容が、何ともすっきりとしない、いびつな印象を与えるものなのだ。   2 創業家への配慮 それは、平成29年7月5日の開示にも登場していた出光興産の創業家に配慮した結果である。同社は、今回の開示と同時に「当社大株主との間の合意書の締結に関するお知らせ」を開示しているが、そこには、以下のとおり、創業家から受け入れた、昭和シェル石油との経営統合を行うに当たってのいくつかの条件が記載されている。 なお、平成27年11月12日に出光興産と昭和シェル石油が連名で開示した「出光興産株式会社と昭和シェル石油株式会社の経営統合に関する基本合意書締結のお知らせ」では、「本経営統合の方式については、合併によることを基本方針」とするとされていたが、今回の開示では、出光興産が親会社、昭和シェル石油が子会社となる株式交換とすることになったとされている。これも創業家への配慮の1つだろう。   3 トレードネーム? 今回の開示には、「『出光昭和シェル』を本経営統合の実行後のトレードネームとする予定」とある。トレードネーム(trade name)とは、日本語では「商号」のことだが、「当社大株主との間の合意書の締結に関するお知らせ」では、経営統合後も出光興産の「商号は維持する」とされている。 出光興産と昭和シェル石油のそれぞれの正式な商号は変えず、両社共通のブランド名として「出光昭和シェル」を使用するという意図なのだろうか。しかし、「当社大株主との間の合意書の締結に関するお知らせ」では、経営統合後も出光興産の「ブランドは継続して使用する」ともされている。果たしてどうなるのか。   4 自己株式取得の本当の目的 創業家が提示した条件のうち、③と④の自己株式取得は、株主への利益還元のためであるとされている。出光興産が今回の開示と同時に開示した「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ(会社法第459条第1項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)」にも、次のように記載されている。 しかし、それは表向きの目的で、創業家の本当の意図が、自身の議決権比率の維持と向上であることは明らかだろう。昭和シェル石油との株式交換に当たり、同社の株主に対して新株を発行すれば、創業家の議決権比率は低下する。それを可能な限り避けるために、新株の発行に代えて、③で取得した自己株式を交付するのである。そして、更に④の自己株式取得を通じて(その後、消却してしまうかもしれない)、創業家の議決権比率を向上させようというのである。   5 創業家が推薦する者を取締役に 創業家が提示した条件のうち①は、自身が推薦する者(おそらく創業家の者)を出光興産の取締役に据えろというものである。経営統合後の同社の取締役は10名程度になるようであり、そのうち2名では、同社の経営に与える影響は小さいかもしれない。 しかし、創業家以外の株主が同社の取締役に対して求めるのは、当然のことながら、創業家出身であることではなく、取締役として必要な資質である。今回の開示には次のような記載があるが、創業家が推薦する者を取締役とするのは、この記載と矛盾するのではないだろうか。   6 経営理念を維持しようとするのか? 出光興産は、「当社大株主との間の合意書の締結に関するお知らせ」において、創業家を「出光という名を冠する当社にとって当社の象徴的存在である」としている。単なる象徴ならば、同社を精神的にまとめるといった存在意義を見出せるかもしれない。しかし、実際は、象徴としての存在にとどまらず、同社の経営に関わり続けようとしている。 今後、創業家は、同社の経営に関わり続け、本当に同社の従来の経営理念を維持しようとするのだろうか。同社にとってプラスとなるのかマイナスとなるのかは分からないが、同社の経営に関わり続けようとするならば、当初からの主張どおり、そうした姿勢をしっかりと見せて欲しいと思う。 (了)

#No. 287(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/09/27

《速報解説》 証券取引等監視委員会、平成30年度版の「開示検査事例集」を公表~売上をめぐる不正会計等、最新7事例を追加~

 《速報解説》 証券取引等監視委員会、平成30年度版の「開示検査事例集」を公表 ~売上をめぐる不正会計等、最新7事例を追加~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   証券取引等監視委員会事務局は、去る9月19日、「開示検査事例集」を公表した。 一昨年まで、「金融商品取引法における課徴金事例集~開示規制違反編~」という名称で公表されてきたものを、昨年10月の公表から、「課徴金納付命令勧告を行った事例だけでなく、さまざまな事例を積極的にご紹介することとした」ために名称を変更したと説明されている。 本稿では、公表された「開示検査事例集(以下「事例集」と略称する)」のうち、最近の開示検査の動向を知るうえで参考になると思われるⅠからⅢまでを中心にその内容をご紹介したい。 とりわけ、「最新の検査事例」については、7つの事例について、開示規制違反の内容、その背景・原因やその是正策の概要がまとめられている(事例集冒頭「証券取引等監視委員会からのメッセージ」より)ということであり、本稿の解説もこの事例を中心としたい。   Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて 事例集「Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて」では、証券取引等監視委員会(以下「監視委」と略称する)の開示検査の取組みついて、以下の3項目を挙げている。 平成29事務年度(29年7月~30年6月)に、監視委が行った開示検査は30件であり、前年実績(25件)を5件上回っており、そのうち、開示検査終了件数は13件(うち、課徴金納付命令勧告が3件、訂正報告書の自主的提出2件)であった。   Ⅱ 最新の検査事例 次に、事例集は「最新の検査事例」として、具体的事例を7件、公表している。 なお、事例集では、会社名等は公表されていないが、課徴金納付命令勧告の対象となった開示書類の虚偽記載事例3件について会社名を記しておくと、【事例1】は株式会社ソフィアホールディングス、【事例2】は五洋インテックス株式会社、【事例3】はピクセルカンパニーズ株式会社である。 監視委は、「再発防止策の履行状況確認」の項で、過去に開示規制違反に関して課徴金納付命令勧告を行った上場会社等のうち、平成29事務年度に実施したヒアリング又は検査において、大きな問題は認められないとしている。 また、「内部統制の不備」の事例では、監視委による検査の結果、重要な虚偽記載等は認められなかったものの、公認会計士・監査審査会への情報提供や金融商品取引所に対する問題提起を行っていることが説明されている。   Ⅲ 最新の事例の特色・傾向 監視委によれば、平成29事務年度の開示規制違反はすべて、不適正な会計処理による有価証券報告書等の虚偽記載であり、架空売上の計上、売上の過大計上など、売上をめぐる不適正な会計処理が目立ったということである。 監視委は、開示検査では、開示規制違反が行われた会社自身による適正な情報開示を行うための実効性をもった体制整備が進められることを期待し、その開示規制違反が発生した根本原因及び背景について検査対象会社の経営陣幹部と議論を行い、認識の共有を図ってきた結果、開示規制違反の背景として、平成29年10月公開の事例集と同じく、 を挙げるとともに、次のような原因による開示規制違反を把握したということである。 事例集の最初に《証券取引等監視委員会からのメッセージ》として、事例集の目的と会計監査人に対する監視委の期待が述べられている。引用して、本稿を締め括りたい。 平成29年10月公開の事例集における「メッセージ」との大きな違いは、いずれも、上場会社経営陣との活発なコミュニケーションを通じて、開示規制違反の未然防止・再発防止を図っていきたいと監視委の姿勢が強調されていることである。 (了)

#No. 286(掲載号)
#米澤 勝
2018/09/27

プロフェッションジャーナル No.286が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年9月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.286を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/09/20

日本の企業税制 【第59回】「各府省庁の要望事項からみた「平成31年度税制改正」の課題」

日本の企業税制 【第59回】 「各府省庁の要望事項からみた「平成31年度税制改正」の課題」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇各府省庁からの税制改正要望事項の概況 8月末に、各府省庁からの平成31年度税制改正要望が出揃った。今回が「平成」最後の税制改正となる。 今回の要望項目数は、単純合計で、国税228項目、地方税230項目、重複排除ベースで、国税150項目、地方税157項目であった。なお、廃止・縮減項目数は国税・地方税ともに単純合計2項目、重複排除ベース1項目であった。 今回、廃止・縮減項目として挙げられたのは、国土交通省及び復興庁が挙げたもので、「特定被災区域内において都市計画事業に準ずる事業として行う一団地の津波防災拠点市街地形成施設の整備に関する事業のために土地等を譲渡した場合における所得の特別控除の廃止(所得税、法人税、個人住民税、法人住民税、事業税)」であった。   〇消費税率引上げに伴う需要平準化策 来年(2019年)10月1日に消費税率の引上げを控える中、6月15日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太方針)では、消費税率の引上げに併せて需要変動の平準化について「万全を期す」こととされ、具体的には、①消費税率引上げ分の使い道の見直し、②軽減税率制度の実施、③駆け込み・反動減の平準化策、④耐久消費財(自動車、住宅など)対策が掲げられていた。 特に④については、「税率引上げ後の自動車や住宅などの購入支援について、需要変動を平準化するため、税制・予算による十分な対策を具体的に検討する」こととされている。   〇自動車車体課税 上記のように消費税率引上げに際しての需要平準化策として自動車に関する税制のあり方が検討課題となっているが、それにとどまらず、今回の税制改正は、自動車車体課税についてのヤマ場となる。 消費税率の10%引上げ時期の延期に伴い、「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」(平成28年8月2日、自由民主党・公明党)において、「自動車取得税の廃止時期並びに自動車税及び軽自動車税における環境性能割の導入時期をそれぞれ平成31年10月に延期する」こととされている。 これを前提に、平成29年度与党税制改正大綱で、自動車税及び軽自動車税のグリーン化特例(軽課)については、「平成26年度及び平成28年度与党税制改正大綱に沿って必要な検討を行い、平成31年度税制改正において具体的な結論を得る」とされ、また とされているからである。 こうしたことから、経済産業省の要望では、自動車税の引下げ(軽自動車税の負担水準を基準とした税率引下げ)、自動車重量税の当分の間税率の廃止、消費税率引上げによる需要変動を平準化するための措置、廃止までの自動車取得税及び自動車重量税のエコカー減税、自動車税及び軽自動車税のグリーン化特例の延長が掲げられている。 国土交通省の要望でも、平成29年度与党税制改正大綱等に沿って、簡素化、自動車ユーザーの負担の軽減、グリーン化等を図る観点からの見直しが盛り込まれている。   〇住宅税制 自動車と並んで、消費税率引上げに伴う需要平準化策の対象として挙げられているのが「住宅」である。 前回(2014年4月)の消費税率引上げ時にも、住宅ローン減税の拡充等の措置が講じられるとともに、住宅着工を下支えするため、省エネ住宅に関するポイント制度の実施等の対策が追加的に講じられたところである。 こうしたことから、国土交通省要望では、住宅取得者の負担の増加等を勘案しつつ、住宅の取得について、住宅ローン減税の拡充等の税制措置及び財政措置を含めた総合的かつ十分な対策を講ずるよう求めている。   〇中小企業税制 31年度改正では、中小企業税制の多くが期限切れを迎える。こうしたことから、経済産業省は「地域経済の活性化、中小企業・小規模事業者の生産性向上」の観点から、中小企業税制の延長・拡充を多数盛り込んでいる。 具体的には、中小企業投資促進税制や商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業者等の法人税率の特例、中小企業等の貸倒引当金の特例の延長、中小企業経営強化税制の拡充・延長、地域未来投資促進税制の拡充・延長である。 また、30年度改正で中小法人の事業承継税制の10年間の特例が設けられたが、平成30年度与党税制改正大綱で検討課題として残されていた個人事業者の事業承継について負担軽減措置の創設が盛り込まれている。   〇研究開発税制 法人税関係の租税特別措置では最大規模となる研究開発税制の上乗せ措置が来年3月末で期限切れを迎える。 経済産業省の要望では、研究開発税制に関しては、総額型(試験研究費総額に係る控除制度)について、税額控除の上限(現行25%)の引上げや、税額控除率の最大値(現行10%、2018年度末までの時限措置で14%)のさらなる引上げ、「オープンイノベーション型」については、ベンチャー企業や中小企業と共同研究を行った場合の税額控除率(現行:特別試験研究費の20%)の引上げを求めている。研究開発税制は経済産業省のみならず、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省、防衛省も共同要望している。 研究開発税制と併せて、経済産業省の要望では、生産性革命の実現に向けたイノベーションの促進の観点から、ベンチャー企業の成長に必要な国内外の高度人材を確保するためのストックオプション税制の拡充、新設法人への繰越欠損金制度の拡充(100%控除できる期間を10年目まで延長)を求めている。   〇資産課税等 金融庁の要望では、家計の安定的な資産形成の実現の観点から、NISA制度(一般・ジュニア・つみたて)の恒久化、つみたてNISAの制度年限(2037年)の延長、NISA口座保有者の海外転勤等による一時的出国の場合の口座利用の継続、相続した株式の譲渡における相続税(株式分)の取扱いに関する見直し(売却期間の制限の撤廃)、前回紹介した教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の恒久化・拡充などが盛り込まれている。 この他、金融庁は、国際課税における過大支払利子税制について、BEPSの観点からの見直しを行うに際して、設備投資等の企業活動への影響を踏まえ金融機関からの借入れへの配慮を求めるとともに、収益のほとんどが受取配当金である金融持株会社への影響への配慮も求めている。この点、経済産業省の要望でも、企業に過度な負担を与えないような制度構築を求めている。 (了)

#No. 286(掲載号)
#小畑 良晴
2018/09/20

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第2回】「租税法律主義と租税平等主義」-税法上の「含み公平観」-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第2回】 「租税法律主義と租税平等主義」 -税法上の「含み公平観」-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回述べたとおり、本連載は租税法律主義を基軸に据えて「税法の基礎理論」(実定税法の体系及び諸規定を支える基本原則)について検討するものであるが、税法の基本原則としては、通常、租税法律主義と並んで租税平等主義ないし租税公平主義が挙げられる。今回は、両者の関係について検討しておきたい。特に、両者の「衝突」あるいは「トレードオフ」が論じられることがあるが、それは何を意味するのかを明らかにしておきたい。 租税平等主義ないし租税公平主義は、租税の分野における平等原則(憲法14条1項)の現れであり、租税負担の公平を要請する憲法原則である。租税は、少なくとも個別の具体的給付に対する反対給付(対価)ではなく、法律に基づき一方的義務として課される金銭給付である(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁、旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁参照)。それゆえ、租税負担が国民の間に公平に配分されない限り、納税・課税について真に国民の納得を得ることはできない。 「納得なくして同意なし」の理念ないし建前からすれば、租税負担の公平は、国民の同意に基づく課税を要請する租税法律主義の不可欠な前提条件である。そうであるが故に、租税法律主義は租税平等主義と両立するものでなければならない(【21】参照。なお、今回からは今月改訂・刊行された拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂)を参照する)。   Ⅱ 税法の制定の場面における租税法律主義と租税平等主義との関係 租税法律主義と租税平等主義との両立は、前記のような理念論ないし建前論の場面だけでなく、租税立法の場面でも要請される。租税平等主義に反する租税法律は違憲無効であり適用できないから、租税法律主義と租税平等主義との「衝突」は憲法のレベルで解消・回避される。つまり、租税立法の場面では、租税法律主義は、租税平等主義と両立し、租税法律の「内容」に関して、租税平等主義に適合する租税法律に基づく課税を要請する憲法原則(実質的租税法律主義)である(第1回のⅢ2参照)。 上で述べたことを租税平等主義の側からいえば、租税負担の公平は租税法律を通じて実現されなければならず、租税法律を離れて実現されてはならない、ということができよう。このような公平観は、租税負担の公平は租税法律に含まれているという意味で、「含み公平観」と呼ぶことができよう(【21】参照)。 含み公平観によれば、租税負担の公平の実現は、租税平等主義が租税立法者に命ずる目的論的価値判断であり、したがって、個々の租税法規が取り扱う問題の内容・態様等に応じて、各租税法規の趣旨・目的の中で考慮されるべきものである。   Ⅲ 税法の解釈の場面における租税法律主義と租税平等主義との関係 1 文理解釈による「含み公平」の実現 租税法律主義と租税平等主義との両立は、税法の解釈の場面でも要請される。税法の解釈については、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(ホステス報酬源泉徴収事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)として、文理解釈を基本とする解釈方法が一般に支持されているが、租税法規の文言がその趣旨・目的を適切に表現している場合には、文理解釈の結果、租税法律主義と租税平等主義とは両立する。この場合には、あたかも含み益(未実現のキャピタル・ゲイン)が資産の譲渡によって実現するかの如く、含み公平観にいう「含み公平」が租税法規の文理解釈によって実現するといってもよかろう。 しかし、租税法規の文言がその趣旨・目的を常に適切に表現しているとは限らない。人が「思い」をすべて過不足なく「言葉」で表現し尽くすことは極めて困難であり両者の間に不一致・ズレが生ずることがある(このようなことを考えるとき、若い頃のラヴ・レターに関する甘くほろ苦い想い出が蘇るところである)のと同様、租税法規について文言と趣旨・目的との不一致・ズレすなわち欠缺(けんけつ)が生ずることがあり得るのである(趣旨・目的の要件化の困難性)。 租税法規に欠缺がある場合、租税負担の公平を実現しようとする租税立法者の目的論的価値判断(を内容とする当該租税法規の趣旨・目的)は、当該租税法規の文言に適切には反映されていないことから、当該租税法規の文理解釈によっては「含み公平」は実現されないことになる。すなわち、当該租税法規の「含み公平」はいわば「未実現」のままになっているのである。 実現主義を採用する所得課税法において含み益(未実現のキャピタル・ゲイン)に課税するには、例えば所得税法59条1項のような明文の規定(別段の定め)が必要であると一般に考えられているが(【182】~【184】参照)、これと同様の考え方は、基本的には、含み公平観についても妥当する。租税法規の「含み公平」が文理解釈によって実現するようにするためには、租税立法者は当該「含み公平」を文言により適切に表現した明文の規定(当該租税法規に対する別段の定め)を定め、その規定の文理解釈によって当該「含み公平」が実現するようにしなければならない。このような立法的対応によって初めて、租税法律主義と租税平等主義との両立が、税法の解釈の場面において貫徹されることになる。 2 目的論的解釈の「過形成」による「含み公平」の実現の試み ところが、租税法規に欠缺がある場合、前記のような立法的対応によらずに法解釈の技法を駆使して当該租税法規の「含み公平」を実現させ、もって租税法律主義と租税平等主義との両立を(場合によっては無理矢理)貫徹させようとする試みがされることがある。 例えば、外国税額控除規定(法税69条)における外国法人税の「納付」という文言とその趣旨・目的との不一致・ズレが問題となった租税回避事案のうち、三井住友銀行事件では、大阪高判平成14年6月14日訟月49巻6号1843頁は、外国税額控除規定のような課税減免規定について「その趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」(いわゆる課税減免規定の限定解釈)をとる余地を認め、また、りそな銀行事件では、最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁は、外国法人税の「納付」という文言の解釈に言及することなく、その趣旨・目的違反の行為を「外国税額控除制度を濫用するもの」として外国税額控除規定の適用を否認した(その基礎にある考え方を筆者は課税減免規定の限定解釈と区別して「課税減免制度濫用の法理」と呼んでいる。【47】参照)。 これらのうち特に問題とすべきは後者である。課税減免規定の限定解釈は、租税法規の趣旨・目的の捉え方によっては、租税法律主義の下で許容される目的論的解釈の枠内にとどまるとみることもできる(【46】参照)。これに対して、課税減免制度濫用の法理は、そのような許容される目的論的解釈においては解釈の基準とされるべき租税法規の趣旨・目的を、それがあたかも法規範そのものであるかの如く用いる、租税法規の趣旨・目的の法規範化論ともいうべき考え方であり(【47】参照)、目的論的解釈の枠を逸脱し法創造(法の継続形成)の領域に踏み込むものといえよう(この点については回を改めて後日詳しく述べることにするが、差し当たり、拙稿「租税回避と税法の目的論的解釈の『過形成』」税経通信70巻14号(2015年)2頁参照)。 目的論的解釈の「過形成」ともいうべき、そのような法解釈の枠を逸脱した目的論的法創造によれば、確かに、当該租税法規の趣旨・目的から「含み公平」を取り出し実現させることはできるであろう。しかし、そのような法創造は、たとえ裁判官によるもの(司法的立法)であったとしても、「国民・・・・・・の総意を反映する租税立法」(前掲大嶋訴訟・最大判)でない以上、租税法律主義の要請を充たすものではない。 それゆえ、目的論的解釈の「過形成」による「含み公平」の実現の試みは、租税法律主義と抵触し、したがって、それでもって租税法律主義と租税平等主義との両立を図ることは許されない。そのような試みは、負担公平の原則の名の下で課税について明文の根拠規定の有無よりも公平を重視していたかつての経済的実質主義(【42】参照)への「先祖返り」と評価すべきものである。負担公平の原則は、含み公平観からの逸脱を許容する考え方であり、客観的な憲法原則としての租税平等主義(租税法律主義に従い租税法律によって実現される租税平等主義)とは「似て非なるもの」である(【21】参照)。   Ⅳ 税法の適用の場面における租税法律主義と租税平等主義との関係 租税法律主義と租税平等主義との両立は、税法の適用の場面でも要請される。この場面で一見すると両者が「衝突」するようにみえるのは、税務官庁が特定の納税者に対して租税法規に従った課税を行い、他の納税者に対しては一般に当該租税法規に反して有利な課税を行った場合である。この場合には、当該租税法規に従った課税の方が租税平等主義違反の故に違法とされ、当該租税法規に反する有利な課税が正当化されるが(スコッチライト事件・大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁参照)、このことは租税法律主義と租税平等主義との衝突を意味するものではない。 この点については、租税法律主義は執行上の原則(合法性の原則)としては、執行上の原則としての租税平等主義に従い租税法規が平等に適用されることを前提として成り立つ考え方であり、したがって、租税法規の不平等な適用は合法性の原則の枠外にありその内在的例外であると考えられる。「租税法律主義の当然の帰結である課・徴税平等の原則」(前掲スコッチライト事件・大阪高判)の意味はこのように理解すべきであろう(【81】参照)。このように理解すれば、この原則は税法の適用の場面における含み公平観の現れとみることができよう。   Ⅴ まとめ 以上で税法の制定・解釈・適用の各場面における、租税法律主義と租税平等主義との関係を簡単に検討してきたが、両者の衝突は、結局のところ、租税法規に欠缺がある場合にみられ、その場合に目的論的解釈の「過形成」による「含み公平」の実現の試みによって惹起される法状態を意味すると考えられる。そのような試みの「動機」となる経済的実質主義的な思考は、税法の解釈の場面における租税法律主義の貫徹により、排除すべきである。この点については、回を改め別の機会に検討することにしよう。 (了)

#No. 286(掲載号)
#谷口 勢津夫
2018/09/20

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第55回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第55回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (5) 債務超過会社の組織再編成 ① 基本的な取扱い 実務上、100%子会社が債務超過である場合には、当該子会社を被合併法人とする吸収合併(救済合併)を検討することは少なくない。平成22年度税制改正前には、このような救済合併を行った場合には、合併法人から被合併法人に対する実質的な債権放棄があったものとして取り扱うべきであるという意見があった。 しかし、条文上、債務超過会社を被合併法人とする適格合併を行った場合における税務上の仕訳は、以下の通りであり、寄附金として取り扱われる余地がないことが分かる。 この点については、拙稿「ケース別処理を確認 債務超過会社との無対価組織再編成の税務ポイント」旬刊経理情報1213号52-56頁(平成21年)、「受贈益課税の議論をどう考えるか? 債務超過会社を被合併法人とする適格合併の論点整理」旬刊経理情報1229号49-53頁(平成21年)で指摘していた。 【合併法人における仕訳】 〈適格合併による資産及び負債の引継ぎ〉 〈抱き合わせ株式の消却〉 〈混合による消滅〉 さらに、被合併法人でも、条文上、資産及び負債を帳簿価額により引き継いだものとして課税所得の計算を行うことが規定されており、合併譲渡損益が発生しないことは明らかであった。 ② 武田昌輔教授の見解 これに対し、武田昌輔「100%子会社の合併と株式の消滅損」税経通信62巻3号237-238頁(平成18年)では、寄附金課税についての見解が示されていた。 本論文では、まず、合併法人が保有する被合併法人株式に対して合併法人株式の割当てをしたものとする当時の法人税法の規定について、「本来であれば割当てがあるのに特別な理由によって割当てをしなかったという場合に適用されることであって、割当てをすべきでない場合には、その適用がない」としていた。その結果、法人税法上、抱き合わせ株式消却損が生じるが、これは、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の議論であると整理している。 しかし、会社法上、被合併法人又は合併法人が保有していた被合併法人株式に対して、合併対価資産を割り当てることが認められていない(会社法749①三)。そのため、合併法人が保有する被合併法人株式に対して、「割当てがあるのに特別な理由によって割当てをしなかった」ということは、現行会社法ではあり得ない。さらに、その後の平成22年度税制改正により、合併法人が被合併法人株式を有する場合に、当該被合併法人株式の譲渡損益が計上されないことが明確化になった。 そして、武田教授は、被合併法人の債務超過相当部分に対して寄附金として処理するかについても、法人税基本通達9-4-1及び9-4-2の問題であると述べられたが、前述のように、合併法人では債務超過相当部分に対する損金は生じない。すなわち、寄附金として認定したとしても、合併法人で課税所得が増えないという問題がある。 このように、武田教授の見解は、合併法人側における寄附金の問題ではなく、被合併法人における受贈益の問題であるにもかかわらず、寄附金の通達である法人税基本通達9-4-1及び9-4-2を使って説明しようとする点に問題があったと言える。これは、武田教授の論文の主たる論点が、合併法人における被合併法人株式消却損の問題であったことが原因であると思われる。 ③ その後の議論 その後も、合併法人において寄附金、被合併法人において受贈益を認識すべきであるとする見解が主張されるようになった(掛川雅仁「債務超過の組織再編成」T&AMaster 267号37頁(平成20年)、佐藤増彦ほか「債務超過会社の吸収合併と税務上の問題点」税理52巻13号161頁以下(平成21年)、原一郎「子会社等の整理集約化と共同持株会社の新設」税務事例研究107号11頁以下(平成21年)、廣川昭廣『M&A・組織再編の税務処理』108-111頁(大蔵財務協会、平成22年))。 武田教授の見解と異なるのは、武田教授が合併法人において株式消却損の損金算入を認めようとしたのに対し、これらの論考は、合併法人において法人税基本通達9-4-2により損金算入をすることができないという点を強く主張した点にある。 そのため、これらの論文では、その根拠として以下の2つが挙げられている。 ④ 子会社支援税制との比較 前述のように、合併法人において寄附金を認識し、被合併法人において受贈益を認識すべきであると主張する見解の多くは、子会社支援税制との比較を強く意識している。しかし、子会社支援税制は、親会社(債権者)において生じた損失について、寄附金として処理するのか、損金として処理するのかという問題にしかなり得ない。 すなわち、債権放棄又は債務引受を行った場合には、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の要件を満たしたとしても、子会社(債務者)において受贈益は生じる。そのため、子会社支援税制を根拠としたとしても、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の要件を満たせば、被合併法人において受贈益課税が生じないということにはならない。 さらに、合併法人において寄附金を認識すべきであるという考え方にも大きな問題がある。なぜなら、そもそも、合併法人において損金は生じないのであるから、損金の額に算入しないという寄附金の規定が問題にならないからである。 このように、法人税基本通達9-4-1、9-4-2は、合併法人において寄附金、被合併法人において受贈益を認識すべきかどうかを議論する際に、何ら根拠にならないということが言える。 ⑤ 組織再編税制が等価な経済取引を前提としているという点について 組織再編税制が等価な経済取引を前提としていることを理由として、被合併法人に受贈益を認識させることについても問題がある。なぜなら、不平等合併を行ったとしても、適格合併に該当する限り、被合併法人において何ら損益が生じないからである。 そのため、対等合併を行った場合に比べて、被合併法人の課税所得は変わらないことから、被合併法人の法人税を不当に減少することにはならない。また、法人税法22条や132条を根拠として、租税回避に対して否認を行う事例は、かなり極端な事例であることからも、「債務超過会社を被合併法人とする適格合併を行った」ということがトリガーになるのではなく、より悪質な背景がある場合に限って問題になるということが言える。 このように、合併法人において寄附金、被合併法人において受贈益を認識すべきとする見解には、それぞれ問題があり、実際に否認された事例も公表されていない。この議論は、平成17年改正前商法から会社法に移行する中で、合併法人が保有する被合併法人株式の処理に対する誤解があったことがきっかけであり、本稿校了段階ではほとんど議論されていない。 *   *   * 次回では、平成18年から平成21年までの間に公表されている実務家の見解について解説する予定である。 (了)

#No. 286(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/09/20

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第6回】「外国子会社への無形資産の移転」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第6回】 「外国子会社への無形資産の移転」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社は、現在、国内のみで研究開発を実施しています。 今般、海外に研究開発拠点を開設して知的財産の一部又は全部を海外に移転することを検討していますが、課税上の留意点について教えてください。 [A] 研究開発の成果物である知的財産がいずれに帰属するかによって将来の課税関係が異なることになります。 知的財産の移転には、知的財産そのものの譲渡のほか、研究開発機能の移転や共同開発による知的財産の共有などがあり得ますが、それぞれに課税関係を分析して検討することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 企業においては、どのような業種であるかを問わず、特許、ノウハウ、商標、ブランドといった知的財産(無形資産)が重要な財産として収益の柱となることも多いといえる。この点、海外にグループ会社を有する場合には、グループ内でいずれの会社が知的財産を保有するかによって、そこから生じる所得(超過収益力やロイヤルティ収入など)が帰属する国が異なり、それに伴って課税関係が異なることになる。 そこで、知的財産を保有する会社の所在地国において知的財産から生じる所得に適用される税制が有利とはいえない場合、その知的財産をより有利な税制が適用される国に所在するグループ会社に(一部又は全部)移転することが1つの戦略となり得る。その方法として、知的財産そのものの譲渡、研究開発機能の移転、共同開発による知的財産の共有などがあり得る。   2 知的財産の譲渡 知的財産を譲渡によって移転する場合、適切な対価の支払が必要となり、その譲渡益に対して課税がなされることから、その検討が必要である。すなわち、海外のグループ会社に資産を譲渡する場合には、移転価格の観点から適切な対価の設定をする必要がある。 この点、移転される知的財産がどのような価値を有するか、どのような対価が適切であるかという知的財産の評価には困難な問題を伴うことが多いと指摘されている。将来の予測される収益をもとに評価することが考えられるが、その場合、そのような収益予測が適正であることを説明するための文書化が重要であり、場合によっては事前確認制度を利用することが考えられる。 さらに、譲渡益に対しては、知的財産を譲渡する会社の所在地国で課税がなされることになる。この譲渡益に対する課税については、例えば、譲渡する会社に多額の累積欠損金がある場合には、その繰越控除を利用することが考えられる。   3 研究開発機能の移転 知的財産を譲渡によって移転するのではなく、研究開発機能を移転することで知的財産を移転することもあり得る。この場合、何らかの資産の移転が伴わない限り、機能の移転そのものは課税の対象にならないことが通常である。そして、いったん研究開発機能を移転した後、そこで新たに知的財産を開発することが考えられる。 各国では、国内での研究開発を促進するための優遇税制(研究開発費に対する特別の控除や知的財産から生じるロイヤルティ収入に対する特別税率など)が設けられていることも多い。そこで、研究開発やその成果物から生じる所得に有利な税制が適用される国を選定して機能を移転すれば、将来の税負担を軽減することが可能となる。   4 共同開発による共有 さらに、グループ会社間で共同開発契約を締結することによってグループ内で知的財産を共有することもあり得る。すなわち、新たな知的財産の開発に当たって、複数のグループ会社が共同で人的資源や資金を供給することで研究開発に係るリスクを共有し、その成果物も共有するというものである。 これにより、複数のグループ会社が知的財産を共有することになり、それぞれに知的財産から生じる所得の帰属が認められることになる。海外のグループ会社に適用される税制が有利なものであれば、やはり将来の税負担を軽減することが可能となる。 ただし、グループ間取引において、恣意的な内容の契約で海外のグループ会社に収益を移転することが認められるとすれば、容易にBEPSの問題が生じる。そこで、移転価格の観点から、適切に機能分析を実施した上で、共同開発研究といえるだけの実体ある取引であることが重要である。 例えば、海外のグループ法人が単に資金を供給するというのみでは十分ではなく、研究開発の内容をコントロールできるだけの機能(人員と権限)を有しており、実際にその機能が行使されていることが重要となる。   (了)

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#木村 浩之
2018/09/20
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