検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10482 件 / 5451 ~ 5460 件目を表示

平成30年度税制改正における「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第4回】

平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第4回】   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   (3) 平成30年度税制改正の内容 前回の(2)でみたような一般社団法人を用いた相続税・贈与税回避スキームに対する、平成30年度の税制改正の内容は以下の通りである。 ① 一般社団法人等(※1)に対する贈与税等の課税規定の明確化 (※1) 一般社団法人又は一般財団法人で、公益社団法人等の非営利型法人その他一定の法人を除く。 現行の相続税法によれば、個人から一般社団法人等に対して財産の贈与又は遺贈があった場合には、贈与等により、その贈与等を行った者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときには、その一般社団法人等を個人とみなして相続税又は贈与税が課税される(相法66④)。 ただし、次の要件を満たしている場合には、相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になるとは認められないものとされる(相令33③)。 (※2) さらに、法令解釈通達(昭和39年6月9日直(審)24、直資77、平成20年課資2-8改正)「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」の「15 その運営組織が適正であるかどうかの判定」において、例えば、定款等に法人の理事の定数が6人以上、監事の定数が2人以上であることが定められていることというように、「運営組織が適正である」かどうかの判断基準が細かく規定されている。 前回の(1)で見たとおり、一般社団法人等は持分が存在しないため、相続発生前に被相続人がその財産を法人に贈与することにより移転してしまえば、原則として、相続時において当該財産につき相続税が課されないこととなる。このような取扱いは、一般社団法人等に被相続人がその財産を移転すれば、以後当該財産は被相続人や相続人の支配下から外れることを前提としていると考えられるが、実際には、財産移転後も一般社団法人等の運営を相続人やその親族が担っている場合には、当該財産を相続人等が引き続き支配し続けることが可能となっており、租税回避を許容しているとも考えられるところである。 このような場合、現行税制の下でも課税庁は、上記(イ)の要件を満たしていないものとして、贈与税を課税するという対抗措置を採り得る。しかし、上記規定の文理解釈上、「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になるとは認められない」場合とは、(ア)~(エ)の「いずれもすべて満たす」場合なのか、それとも「いずれか1つを満たす」場合なのか、必ずしも明確ではなかったところである。 仮に、後者であるとした場合、いずれか1つの要件を満たせば十分(不当減少に該当しない)ということになり、贈与税の課税はかなり限定されたケースにとどまることから、多くの租税回避事例が放置されるという不合理な結果となることが懸念されるところであった。 そこで、今回の改正においては、このような文理解釈上の不明確さを解消するため、相続税法施行令33条3項で規定する「相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になるとは認められない」場合に挙げられた上記(ア)~(エ)の要件のうち、「いずれか1つでも満たさない」場合には課税されることが明確化されたところである(相令33④)。さらに、「贈与又は遺贈前3年以内に国税又は地方税について重加算税等を課されたことがないこと」という新たな要件も課されることとなった(相令33④三)。 そのため、例えば、理事の過半数が3親等内の親族により構成されている一般社団法人等に対して、理事が財産の贈与を行った場合、一般社団法人等に対して贈与税が課税されることとなる。 また、個人から一般社団法人等に対して財産の贈与又は遺贈があった場合において、その財産が譲渡所得の起因となる資産等の贈与(寄附)である場合には、贈与者に対しても所得税が課される点にも留意すべきであろう(みなし譲渡所得課税、所法59)。 なお、当該改正は平成30年4月1日以後に贈与又は遺贈により取得する財産に関する贈与税又は相続税に適用される。 ② 特定一般社団法人等に対する相続税の課税 一般社団法人等のうち、特定一般社団法人等(※3)に該当するものの役員(理事に限る)である者(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が死亡した場合には、以下により、特定一般社団法人等に相続税が課税されることとなる(新相法66の2)。 (※3) 以下に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいう。 ① 相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える。 ② 相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上である。 (ア) 課税対象額 特定一般社団法人等の純資産額をその死亡時における「同族理事(被相続人を含む)」の数に1を加えた額で除して計算した金額に相当する金額を、特定一般社団法人等が被相続人から遺贈により取得したものをみなして、相続税が課税される。この場合、特定一般社団法人等は一親等の法定血族及び配偶者以外の者であることから、相続税額の2割加算の対象となる(相法18①)。 なお、上記でいう「同族理事」とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人又はその配偶者、3親等内の親族その他の被相続人と特殊の関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)をいう(新相法66の2②二)。 (イ) 贈与税及び相続税の控除 上記(ア)により特定一般社団法人等に相続税が課税される場合には、その相続税の額から、贈与又は遺贈により取得した財産について既に特定一般社団法人等に課税された贈与税又は相続税の額が控除される(新相法66の2③)。 (ウ) 適用関係 当該改正は、平成30年4月1日以後の一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税に適用される。ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以後の当該一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用し、平成30年3月31日以前の期間は、特定一般社団法人等を判定する際の2分の1を超える期間(※4)に該当しないものとされる(改正法附則43⑤⑥)。 (※4) 前記(※3)の②の要件に係る期間をいう。   (了)

#No. 282(掲載号)
#安部 和彦
2018/08/23

〔Q&A・取扱通達からみた〕適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第3回】「適格請求書等保存方式の下での仕入税額控除の要件」

〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第3回】 「適格請求書等保存方式の下での仕入税額控除の要件」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   【請求書等の保存】 仕入税額控除の適用を受けるための請求書等に該当する仕入明細書等は、相手方の確認を受けたものに限られる。 この相手方の確認を受ける方法としては、例えば、以下のようなものがある。   任意組合の共同事業として課税仕入れを行った場合に、幹事会社が課税仕入れの名義人となっている等の事由により各構成員の持分に応じた適格請求書の交付を受けることができないときにおいて、幹事会社が仕入先から交付を受けた適格請求書のコピーに各構成員の出資金等の割合に応じた課税仕入れに係る対価の額の配分内容を記載したものは、その他の構成員における仕入税額控除のために保存が必要な請求書等に該当するものとして取り扱われ、その保存をもって、仕入税額控除のための請求書等の保存要件を満たすことになる。 また、任意組合の構成員に交付する適格請求書のコピーが大量となる等の事情により、立替払を行った幹事会社が、コピーを交付することが困難なときは、幹事会社が仕入先から交付を受けた適格請求書を保存し、精算書を交付することにより、幹事会社が作成した(立替えを受けた構成員の負担額が記載されている)精算書の保存をもって、仕入税額控除を行うことができる。   他社が立替払をした場合、その他社宛に交付された適格請求書をそのまま受領したとしても、当社の適格請求書とすることはできない。 この場合において、立替払を行った会社から、立替金精算書等の交付を受ける等により、経費の支払いを行った他社の課税仕入れが当社のものであることが明らかにされている場合には、その適格請求書及び立替金精算書等の書類の保存をもって、当社は、課税仕入れに係る請求書等の保存要件を満たすこととなる。   当社が事務所を賃借しており、口座振替により家賃を支払っている場合で、不動産賃貸契約書は作成しているが、請求書や領収書の交付は受けておらず、家賃の支払の記録としては、銀行の通帳に口座振替の記録が残るだけであっても、適格請求書の記載事項の一部(例えば、課税資産の譲渡等の年月日以外の事項)が記載された契約書とともに通帳(課税資産の譲渡等の年月日の事実を示すもの)を併せて保存することにより、仕入税額控除の要件を満たすこととなる。 なお、取引の都度、請求書等が交付されない取引について、取引の中途で取引の相手方(貸主)が適格請求書発行事業者でなくなる場合も想定され、その旨の連絡がない場合には貴社(借主)はその事実を把握することは困難となる可能性があるが、その場合には、国税庁のホームページで相手方が適格請求書発行事業者か否かを確認することとなる。   【帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合】 取引先への移動に際し、券売機で乗車券を購入し、公共交通機関である鉄道を利用した場合において、適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるが、3万円以上の公共交通機関を利用した場合には、その利用に係る適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となるので注意が必要である。 ただし、3万円以上であっても、公共交通機関である鉄道事業者から適格簡易請求書の記載事項を記載した乗車券の交付を受け、その乗車券が回収される場合は、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。   古物営業法上の許可を受けて古物営業を営む古物商が、適格請求書発行事業者以外の者から古物(古物商が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限る)を買い受けた場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。 なお、相手方が適格請求書発行事業者である場合は、適格請求書の交付を受け、それを保存する必要がある。   社員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するものとして取り扱われる。この金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。   従業員等で通勤する者に支給する通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分の金額については、課税仕入れに係る支払対価の額として取り扱われる。この金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。   【帳簿の保存】 平成31年10月1日から平成35年9月30日(適格請求書等保存方式の導入前)までの間は、仕入税額控除の要件について、現行の請求書等保存方式を基本的に維持しつつ、軽減税率の適用対象となる商品の仕入れかそれ以外の仕入れかの区分を明確にするための記載事項を追加した帳簿及び請求書等の保存が要件(区分記載請求書等保存方式)とされているが、適格請求書等保存方式では、現行の請求書等保存方式において必要とされている記載事項に、次の事項が追加される。   請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる。 この場合、帳簿の記載事項に関し、通常必要な記載事項に加え、以下の記載が必要となる。 【参考】 免税事業者からの仕入れに係る経過措置 適格請求書等保存方式導入から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられている。 なお、この経過措置の適用を受けるためには、次の事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が要件となる。 1 帳簿 区分記載請求書等保存方式の記載事項に加え、例えば、「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載が必要となる。 具体的には、次の事項となる。 2 請求書等 区分記載請求書等と同様の記載事項が必要となり、具体的には、次の事項となる。   (了)

#No. 282(掲載号)
#島添 浩
2018/08/23

平成30年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】「連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点(その2)」

平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】 「連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点(その2)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   〈5〉 連結納税を電子申告で行う場合、連結子法人は『連結子法人の個別帰属額等の届出書』(添付書類を含む)の提出をしなくてもよい。 連結親法人が電子申告を行った場合に、『連結子法人の個別帰属額等の届出書』(添付書類を含む)をe-Taxを使用する方法又は光ディスク等を提出する方法により当該連結親法人の納税地の所轄税務署長に提出した場合には、連結子法人が『連結子法人の個別帰属額等の届出書』(添付書類を含む)を当該連結子法人の所轄税務署に提出したものとみなし、連結子法人による提出を不要とする(法法81の25②、法規37の17②)。 この場合、『連結子法人の個別帰属額等の届出書』の記載事項のうち連結子法人の法人番号及び添付書類のうち連結子法人の会社事業概況書(又は法人事業概況説明書。以下、「会社事業概況書」とする)は、連結確定申告書の記載事項及びその添付書類とはなっていないため、連結親法人は電子申告に際し、各連結子法人の法人番号及び各連結子法人の会社事業概況書を提供する必要がある。 なお、法人の選択による電子申告の場合、添付書類を書面で送付することも可能であるが、添付書類を書面で提出した場合は、この提出省略の措置は適用されない。 また、この取扱いは、連結親法人が連結納税に係る修正申告書をe-Taxによる電子申告で提出した場合についても同様となる(法法81の25④)。 なお、資本金が1億円以下の連結親法人が書面申告を選択した場合、連結子法人は改正前と同じように自社で『連結子法人の個別帰属額等の届出書』(添付書類、会社事業概況書を含む)を所轄税務署に提出する必要がある。 【連結法人に係る個別帰属額等の届出書の提出先の一元化】 (出典) e-Taxホームページ「大法人の電子申告の義務化の概要について『2 電子申告の義務化に伴い導入する利便性向上施策等』」 〈6〉 連結納税システムについて、正確性・迅速性・効率性が確保された電子申告を実現できるシステムを使用することが重要となる。 特に、e-Tax又はeLTAXでの提出において、システムからe-Tax又はeLTAXに申告データを直接流し込む方式を取っている連結納税システムは問題ないが、システムで作成した申告データをいったんCSV形式へ変換し、それをe-Tax又はeLTAXに流し込む方式を取っている連結納税システムについては、①流し込む際にエラーチェックを行わなければならないこと、②複数の地方公共団体へ提出が必要な場合、1つの地方公共団体ごとに提出作業をしないといけないことから大きな事務負担が生じることが予想される。 〈7〉 連結子法人は連結納税の承認申請・加入・離脱に係る届出書の提出をしなくてよい(旧法令14の7①④、法令14の7③、14の9②)。 連結納税を開始する場合、連結納税に加入する場合、連結納税から離脱する場合、連結親法人は、『連結納税の承認の申請書』、『完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類』、『連結完全支配関係等を有しなくなった旨を記載した書類』を提出する必要がある(法法4の3①、法令14の7③、14の9②)。 また、改正前の現行制度では、連結子法人についても『連結納税の承認の申請書を提出した旨の届出書』、『完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類』、『連結完全支配関係等を有しなくなった旨を記載した書類』を提出する必要がある(旧法令14の7①④、14の9②)。 それが、改正後は、連結子法人について、『連結納税の承認の申請書を提出した旨の届出書』、『完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類』、『連結完全支配関係等を有しなくなった旨を記載した書類』の提出が不要となる(法令14の7③、14の9②)。 ただし、改正後も、地方税については、改正前と同様、各連結法人ごとに、各地方公共団体に『法人税に係る連結納税の承認等の届出書』の提出をする必要がある(ただし、その添付書類となっていた連結子法人の法人税に係る届出書の写しはなくなることになる)。 なお、従来から「完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類」及び「連結納税への加入時期の特例を適用する旨を記載した書類」※として利用されていた『完全支配関係を有することとなった旨等を記載した書類』は、平成30年6月29日付で新様式『完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類及び連結納税への加入時期の特例を適用する旨を記載した書類』に改められている。 ※ 連結子法人の加入時期の特例規定(完全支配関係発生日の前日の属する月次決算期間の末日の翌日に連結納税に加入したものとみなす取扱い)を適用する場合、その特例が適用されない場合の完全支配関係発生日の前日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、『連結納税への加入時期の特例を適用する旨を記載した書類』を提出する必要がある(法法14②)。 以上をまとめると次のとおりとなる。 【改正前】連結納税の電子申告又は書面申告を行うケース 【改正後】連結納税の電子申告を行うケース 【改正後】連結納税の書面申告を行うケース 【今後の改正動向の注意点】 控除対象個別帰属調整額に係る添付書類の提出について、電子申告における提出方法又は電子申告を行った場合にその提出を不要とする措置は、現時点の改正法では定められていないため、今後の改正の有無に注意する必要がある。 連結適用前欠損金額が生じた事業年度後最初の連結事業年度について、控除対象個別帰属調整額がある場合には、第6号様式別表2「控除対象個別帰属調整額の控除明細書」とともに、以下の連結法人税確定申告書の別表の写しを地方公共団体に提出する必要がある。 この提出がない場合には、以後の連結事業年度又は事業年度において、控除対象個別帰属調整額を個別帰属法人税額又は法人税額から控除することはできない(地法53⑧、321の8⑧)。 この控除対象個別帰属調整額に係る添付書類の提出について、電子申告における提出方法又は電子申告を行った場合にその提出を不要とする措置は、現時点の改正法では定められていない。 ただし、電子申告の義務化によって、国税と地方税の提出先の一元化が図られることになるが(例えば、事業税の申告に財務諸表の添付が不要になる)、仮に、今後、法人税の確定申告書の別表等について、税務署から地方公共団体に自動的に転送されることになった場合、控除対象個別帰属調整額に係る添付書類の提出が不要になるのか、今後の改正の有無に注意する必要がある。 また、地方税では、申告内容確認のため、地方公共団体から次の別表等の写しの提出を依頼される場合がある。 これらについても、電子申告の義務化にあたってその提出が不要になるのか、今後の改正の有無に注意する必要がある。 (了)

#No. 282(掲載号)
#足立 好幸
2018/08/23

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例65(法人税)】 「過大支払利子税制の適用を失念し、修正申告でこれを行ったため、超過利子額の損金算入ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例65(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆過大支払利子税制(措法66の5の2) 過大支払利子税制とは、所得金額に比して過大な利子を関連会社間で支払うことを通じた租税回避を防止するために平成25年4月1日以後に開始する事業年度より適用されるもので、関連会社等への支払利子等の額の合計額から一定の受取利子等の額の合計額を控除した残額(以下「関連者純支払利子等の額」という)が調整所得金額の50%相当額を超える場合には、その超える部分の金額は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないとするものである。 損金不算入額 = 関連者純支払利子等の額 - 調整所得金額 × 50% ◆調整所得金額 繰越欠損金の損金算入、受取配当等の益金不算入等一定の規定を適用せず、かつ、寄附金の全額を損金の額に算入して計算した場合の所得金額に、関連者純支払利子等の額、損金の額に算入された減価償却費及び貸倒損失の額を加算した金額をいう。 ◆適用除外 その事業年度の関連者純支払利子等の額が1,000万円以下である場合又は関連者支払利子等の額の合計額が総支払利子等の額の50%以下である場合には、過大支払利子税制は適用されない。この適用除外の適用を受けるためには、確定申告書に一定の書面及び計算に関する明細書の添付をし、かつ、計算に関する書類を保存する必要がある。 ◆超過利子額の損金算入(措法66の5の3) 過大支払利子税制の適用により損金不算入とされた超過利子額は、7年間繰り越され、調整所得金額の50%から関連者純支払利子等の額を控除した残額を限度として、損金の額に算入される。なお、この規定は、超過利子額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の確定申告書に当該超過利子額に関する明細書の添付があり、かつ、損金算入の規定の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に、これらの規定の適用を受ける金額の申告の記載及びその計算に関する明細書の添付がある場合に限り、適用する。       (了)

#No. 282(掲載号)
#齋藤 和助
2018/08/23

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第20回】「著作権の譲渡対価か開発委託費か」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第20回】 「著作権の譲渡対価か開発委託費か」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 弊社はゲームソフトを製造販売している日本法人です。このたび外国でヒットしたソフトの日本バージョン制作のために、そのソフトを開発した外国法人X社と業務委託契約を結び、弊社のコントロールの下、日本バージョンのゲームソフトの開発を行いました。成果物であるソフトの著作権はX社と弊社が2分の1ずつ共有するものとするとします。 このX社に対する業務開発費の支払いは、外注費の支払いと考えて、非居住者や外国法人に支払ったとしても源泉税の対象とはならないのでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者や外国法人に著作権の使用料を支払った場合の課税関係 非居住者や外国法人に対して国内源泉所得となるような支払いが生じた場合、日本での課税権を確保するために、一定の国内源泉所得については支払時に所得税及び復興特別所得税を源泉徴収する。著作権収入が国内源泉所得となる要件は、所得税法で下記のように定められている。 上記によると、日本国内でソフトウェアの製造販売を行っている法人が国内業務に関連して外国法人に著作権の譲渡の対価を支払った場合は国内源泉所得に該当し、支払時に20.42%の税率で所得税等が源泉徴収されるのが原則である(所法213①一、復興財確法28)。 しかし、使用料等の支払いについては、租税条約において国内法と別段の定めが設けられている場合が多く、その場合は租税条約の定めに従うことになる(所法162)。 使用料の場合、国内法においては上記のように「どこで使用されるか」で決まるが、租税条約においては「債務者(使用料の支払者)がどこにいるか」で決まると定められているものもある。また、使用料の範囲も租税条約により国内法と異なる取扱いとなるケースもあるので、租税条約による確認が必要である。 なお、著作権については税法で定義されていないので、著作権法の定義を借用することになり、「著作物」「著作者」はそれぞれ次のように定められている。 以下では、今回のケースの元となった裁決事例から、外国法人への支払いは著作権の譲渡か業務開発費か、ひいては、著作権は最初誰にあったのかを検討する(平成14年7月、平成15年3月、平成15年11月、平成16年7月、平成16年11月及び平成16年12月の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分・棄却・平21-12-11裁決)。   ▷裁決事例の概要 この事案は、今回のケースと同様に、日本法人のZ社が、外国で販売されていたゲームソフトをベースに日本語のロールプレイングゲームを制作するにあたり、外国版のゲームソフトの著作権を有するY社に日本向けソフトの開発を委託し、その対価として開発委託費を支払い、著作権をZ社とY社がそれぞれ2分の1ずつ取得することを契約で定めた。 Z社のY社への開発委託費の支払金額は人工計算により行われ、国税職員から開発委託費については源泉徴収の必要はないという指導を受けた。しかし、税務調査によりこの開発委託費は著作権の譲渡対価であると指摘されたことから、Z社がその取消しを求めた。   ▷争点は・・・ この事案の争点の中心は、このソフトの著作権をY社とZ社が2分の1ずつ取得したか否かである。それぞれの主張は以下のとおり。 〈国税の主張〉 Y社単独で著作権を原始取得している。なぜならば、開発計画書等でソフトの制作を主体となって行っているのはY社であり、Z社が詳細な作業指示を与えた事実はない。支払いの基準が人工計算であったことが著作権の譲渡の対価とならない理由にはならず、国税職員から源泉徴収の必要性がないという指導があったという事実は認められない。 〈Z社の主張〉 開発委託費である。Z社は、試作品に対して日本における趣味嗜好の違い等詳細な指示を与えた上で完成まで導いている。開発委託費が請負の対価であり、著作権が発生と同時にY社とZ社に帰属すると契約書に明示している。国税職員から、開発委託費は源泉徴収不要だが、成功報酬は源泉徴収が必要という指導を受けた。   ▷結論は・・・ Y社とZ社が共に著作権を原始取得するのではなく、Y社単独で原始取得するものとした。 著作物は 思想又は感情を創作的に表現したものであり、このソフトウェアのシナリオ、プログラム、グラフィック、ムービーサウンドを制作していたのはY社であるから、このソフトウェアを具体的に表現し、創作したのはY社である。よってY社が著作権を原始的に取得した。 他方、Z社でこの開発に従事したのは1名の従業員だけであり、従事内容も日本で発売できる商品にするためのY社に対する指示にとどまり、ソフトウェアの思想又は感情を創作的に表現したということはできないことから、著作権を原始的に取得していない。 契約書における著作権の2分の1共有とは、両者が原始的に取得していることを意味するものではなく、Y社が原始取得した著作権の2分の1相当の譲渡とみるのが相当である。 請負の対価として支払う定めが開発委託契約書に記載されたとしても、目的や内容から対価の性質を考えると著作権の譲渡対価となる。課税庁から開発委託費の源泉所得税の取扱いについて指導を受けたとは認められない。   ▷事例から学ぶべきポイント 例えば、源泉税について当初不要と判断して開発委託費100を支払い、後に税務調査で否認され源泉税部分が20追徴課税されたとしても、この20部分の返金を支払先の外国法人に請求することは難しい。 ソフトウェアの開発委託費については、契約書等を表面的に読んで判断せず、実際にはどのような取引なのかを深掘り検討してアドバイスしなければ、将来的に大きな損害賠償責任を税理士が負う懸念があることをこの裁決事例は教えてくれる。   (了)

#No. 282(掲載号)
#菅野 真美
2018/08/23

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第8回】「固定資産の分析(その1)」-有形固定資産-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   第3節 固定資産の分析 【第8回】 「固定資産の分析(その1)」 -有形固定資産-   〔分析の対象となる主な勘定科目〕 ▷調査の対象となる有形固定資産 対象会社が保有する有形固定資産のうち、対象事業の遂行に不可欠なものは「事業用不動産」ないしは「事業用資産」とされ、買収対象として調査の対象となる。他方、買収対象となる事業に直接的な関連を有しないもの、例えば従業員の福利厚生目的で保有する保養施設や、副業的に営まれている賃貸用不動産及びこれらに付随する償却性資産等については、「事業外不動産」ないしは「事業外資産」とされ、通常の場合、買収対象から除外されることが多い。 ◆事業用資産と事業外資産の例 ※クリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) いずれも賃借物件については賃貸借契約の引継ぎ要否を検討することとなる。 対象会社の保有する有形固定資産のうち、いずれを買収対象として調査の対象に含めるかは、買い手側の意図する買収の目的やスキーム等により変わってくるが、買い手側が「明らかに不要」と判断した有形固定資産に関しては、買い手側が調査費用を負担する必然性はなく、通常の場合、調査対象からは除外される。 なお、法務面からみた「不動産」の調査については、〔法務編〕【第4回】にて解説を行っているので、詳しくはそちらを参照されたい。   ▷有形固定資産の調査のポイント M&Aによる買収の対象となる有形固定資産については、適正時価による評価額をもって買収(取得)者側で受入れ記帳を行うこととなるため、個別の有形固定資産の帳簿価額が適正時価とどの程度乖離しているか、すなわち含み損益の有無がポイントとなる。 この場合における適正時価は、土地・建物等の不動産については減損会計の適用後簿価、もしくは不動産鑑定評価額(場合によっては路線価や固定資産税評価額に基づく簡易評価額)等が採用されることが一般的である。 一方、機械装置・工具器具備品等の動産に関しては、中古市場における売買事例に基づく評価が可能な場合には当該評価額をもって評価額とすることもあるが、こうした中古市場が調達方法として普遍的に機能しているケースは多くはなく、通常は過年度における適正な減価償却実施後の「適正償却後簿価」を採用することが多いだろう。   ▷有形固定資産のデューデリジェンスにおける主な調査手続   ▷ M&Aスキームにより変動する買収対象不動産の範囲 M&Aに際して、買い手側が取得を望まない事業外資産であっても、M&Aのスキーム如何では買い手側でいったんこれを取得せざるを得ないケースも生じ得る。 買い手側が買収対象会社を吸収合併する場合や、創業家・役員等の株主が保有する全株式の買取りによって対象会社を買収する場合、対象会社名義の全ての不動産が買い手側の所有資産となるため、買い手側が必要としない事業外資産については、M&Aに先立って売り手側が事前に売却する必要が生じる。 しかしながら、M&A実行までのスケジュールがタイトなため売り手側による事前売却が困難である場合や、M&A実行で実務人材がそっくり買い手側に移管してしまい、売り手側に資産売却を行い得る人材が不在となるケースもあり得る。このようなケースでは、買い手側においても、M&A成立のために必要となる当該事業外資産の処分可能価格及び処分に伴い発生することが見込まれる損益、処分に必要な費用等を事前に見積もっておく必要があるだろう。 筆者らが以前関与した案件では、例えばこんな事例があった。 【実務事例8-1】 人口減少に悩む地方都市の公共インフラ網を担う会社同士が経営統合を行うこととなった。 両社の所有する土地のうち、遊休土地については統合前に各社で売却することとしたが、統合によって将来的に不要となる見込の広大なストックヤードについては、統合前段階での売却処分は困難なことから、統合後新会社に引き継がれた後、インフラ網再編後に売却することとなった。 当該ストックヤードの売却は、統合後新会社の財務内容に大きなインパクトを与えることから、経営統合時のデューデリジェンスに際しては、ストックヤードの売却時価の見積もりに際して、複数の開発業者から提案を募り、市街地としての最有効利用に基づく売却価値の増大余地を含め、多面的な切り口からの分析・議論が行われた。   【実務事例8-2】 後継者不在に悩んでいた老舗の中堅企業が、本業を同業他社に売却、撤退することとなった。 本業撤退後の創業家一族の生計維持のために、ノンコア事業として当該会社で営んでいる不動産賃貸業を残すこととなった。 本業における受注案件は採算が全般的に悪化していたことから、本業の売却見込価額が金融機関からの借入返済に満たないことが想定され、やむなく賃貸用不動産として創業家に残す予定であった不動産のうち一部を本業と合わせて売却することを条件として、買収希望者を募ることとなった。 複数の会社が買収に名乗りを上げたが、売却対象に含まれていなかった不動産についても買収検討の要望が出たことから、創業家一族の必要最低限の生計維持に欠かせない物件を除く全ての物件につき、売却対象として検討する余地を与え、改めて間口の広い買収提案を募った。 有形固定資産は通常の場合、M&Aによる取引金額が多額に上ることから、調査にあたっては、M&Aに際して当該固定資産をどのように取り扱うかによって生起する可能性のあるシナリオやメリット/デメリット、これらが有する含み損益や処分費用がM&A実行にどのような影響を及ぼすか、またその影響額の大きさ、発現時期による相違等について、選択可能な選択肢を可能な限り広げることで買い手がM&Aを有利に進めることができるよう、幅広い議論に資する情報を収集することが本質的な目的である、ともいえよう。 (了)

#No. 282(掲載号)
#石田 晃一
2018/08/23

税効果会計における「繰延税金資産の回収可能性」の基礎解説 【第7回】「固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い」

税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第7回】 「固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   1 はじめに 前回は、解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異の取扱いについて、通常の将来減算一時差異とどのように異なるかを説明した。 今回は、固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱いについて説明する。   2 なぜ固定資産の減損損失が将来減算一時差異となるのか そもそも、なぜ固定資産の減損損失が将来減算一時差異となるのか、おさらいも兼ねて触れていきたい。 (1) 一時差異となる理由 固定資産について減損損失を計上した場合、会計上と税務上で次のように取り扱われる。 【図1】 減損損失を計上した場合の会計上と税務上の取扱い 固定資産の減損損失は会計上の見積項目であるため、税務上は損金として取り扱われない。そのため、会計上で計上した減損損失40は税務上で否認される。このように、会計上と税務上で取扱いが異なるため、固定資産の減損損失は一時差異となる。 (2) 将来減算一時差異となる理由 固定資産の減損損失を計上した後、会計上と税務上で次のように取扱いが異なる。 【図2】 減損損失を計上した後の会計上と税務上の取扱い 会計上は、減損損失計上後の帳簿価額160に基づき減価償却を行うが、税務上は、減損損失計上前の帳簿価額200に基づき減価償却を行うため、税務上の方が、減価償却の金額が大きくなる。これは、減損損失40に対応する帳簿価額から発生した減価償却が税務上で計上されているためである。 このように、減損損失は将来において税務上の費用(損金)の額を増やし、その結果、将来の課税所得を減らす効果があるといえるため、固定資産の減損損失は将来減算一時差異となる(将来減算一時差異についての詳細は連載【第1回】を参照されたい)。   3 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い さて、ここからが今回の本題である。 (1) 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異は、比較的大きな金額が発生しやすい上、解消までに長期間を要する可能性が高い等の理由で、個別に取扱いが定められている。 その取扱いは次のとおりである。 【図3】 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱い (注1) 償却資産とは、減価償却計算による費用化を予定している固定資産であり、建物や機械装置、自社利用のソフトウェアなどがあげられる。 (注2) 非償却資産とは、減価償却計算による費用化を予定していない固定資産であり、その代表例が土地である。 【図3】のとおり、減損損失が償却資産から発生したものか、非償却資産から発生したものかによって取扱いを分けている。これは、減損損失が計上された後、どのように一時差異が解消していくかといった性質が異なるためである。 つまり、償却資産の場合、基本的には減価償却計算により費用化されるため、減損損失に係る一時差異は、減価償却を通じて解消(上記【図2】参照)されるが、土地等の非償却資産は減価償却費を計上しないため、売却等によって処分されなければ一時差異は解消されないためである。 償却資産と非償却資産に分けて整理し、償却資産から発生した減損損失は「スケジューリング可能な差異」、非償却資産から発生した減損損失は「スケジューリング不能な差異」として取り扱い、繰延税金資産の回収可能性を判断することとなる。 なお、非償却資産から発生した減損損失であれば、必ずスケジューリング不能な差異となるわけではなく、当該非償却資産の売却等に係る意思決定や実施計画等によって、いつ一時差異が解消されるかが合理的に予測できる場合には、スケジューリング可能な差異として取り扱われる。 (2) 減損損失に係る繰延税金資産の回収可能性の判断 固定資産の減損損失に係る繰延税金資産の回収可能性の判断手順は、連載【第2回】で説明した手順と同じで、他の賞与引当金や未払事業税等の一時差異等と同様に解消見込年度のスケジューリングを行い、回収可能性を判断する。 回収可能性の判断にあたっては、連載【第3回】及び【第4回】で説明した会社の分類に応じて取り扱うこととなる。 ① 分類1に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、解消見込年度のスケジューリングができない減損損失に係る繰延税金資産も含め、すべての繰延税金資産に回収可能性があると判断する。 ② 分類2に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 このような会社では、将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得する収益力があるといえるため、一時差異等のスケジューリングが正しく行われている限り、繰延税金資産の回収可能性は問題ないと判断される。そのため、いつ解消するかが予測できない一時差異等は、一時差異等のスケジューリングを正しく行うことができないため、回収可能性はないと判断される。 よって、解消見込年度のスケジューリングができる減損損失に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断するが、解消見込年度のスケジューリングができない減損損失に係る繰延税金資産は回収可能性がないと判断する。 【図4】 減損損失に係る繰延税金資産の回収可能性の判断(分類1と分類2の違い) ③ 分類3に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、解消見込年度のスケジューリングを行い、その上で、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を判断する。 【図5】 減損損失に係る繰延税金資産の回収可能性の判断(分類3の場合) ④ 分類4に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、解消見込年度のスケジューリングを行い、その上で、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を判断する。 ⑤ 分類5に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、原則として、減損損失に係る繰延税金資産も含め、すべての繰延税金資産に回収可能性がないと判断する。 (3) 解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異との関係 前回の連載【第6回】で、減価償却超過額は「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」に該当し、会社分類が3に該当する会社では、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)を超えた期間であっても、当該減価償却超過額に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できることを説明した。 減価償却超過額が「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」に該当する理由(※)を鑑みると、償却資産から生じた減損損失にも「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」の取扱いを適用できそうだが、回収可能性適用指針では、これまでの実務慣行を重視し、償却資産から生じた減損損失には「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」の取扱いを適用しないと整理している。 (※) 減価償却超過額は、会計と税務の減価償却方法の相違によって発生するが、償却満了時の会計上と税務上の簿価は原則的に一致することから、最終的に償却期間にわたって会計と税務の相違が解消していくため、「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」に該当する。   4 まとめ 固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱いは、償却資産と非償却資産に分けて考える上記の【図3】が重要となるため、ぜひ見返していただきたい。 次回は、「役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い」について説明する。 (了)

#No. 282(掲載号)
#竹本 泰明
2018/08/23

土地問題をめぐる2018年法改正のポイント 【第1回】「所有者不明土地の円滑化等に関する特別措置法の仕組み」

土地問題をめぐる2018年法改正のポイント 【第1回】 「所有者不明土地の円滑化等に関する特別措置法の仕組み」   弁護士 羽柴 研吾   1 はじめに 近年、所有者不明の土地が様々な場面で問題になっている。所有者不明土地問題研究会の報告によれば、2016年時点の所有者不明の土地面積は、九州の面積を超える約410万ヘクタールに及んでおり、2040年頃には北海道の面積に迫る約720万ヘクタールにまで拡大すると言われている。 さて、2018年6月6日に、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(以下「所有者不明土地特措法」という)が成立した。同法は、所有者不明の土地が全国的に増加していることに伴い、公共事業の推進等の様々な場面において円滑な事業実施に支障が生じていることを踏まえ、これに対応するために制定されたものである。 また、これに先立つ同年4月25日には、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」(以下「都市再生特措法等改正法」という)が成立している。同法は、都市の内部で空き地・空き家等の低未利用地が時間的・空間的にランダムに発生する「都市のスポンジ化」が進行していることを踏まえ、その対策を総合的に進めるために、都市再生特別措置法、都市計画法、建築基準法及び都市開発資金の貸付けに関する法律を一部改正するものである。 本稿では、所有者不明土地特措法を解説するとともに、実務家として押さえておきたい今後の所有者不明の土地問題の動向に言及する。その後、都市再生特別措置法等改正法について解説することとしたい。 (※) 本稿では紙幅の関係上、上記法改正に関連する税制措置については割愛している。   2 所有者不明土地特措法について (1) 所有者不明土地特措法の概要 所有者不明土地特措法は、主として3つの仕組みから構成されている。 所有者不明土地特措法の中心をなす概念は、「所有者不明土地」と「特定所有者不明土地」である。その意味は次のとおりである。 (2) 所有者不明土地を円滑に利用する仕組み 特定所有者不明土地について、①地域住民等の共同の福祉又は利便の増進を図る事業(地域福利増進事業)のために使用権を設定する制度と、②公共事業における収用手続を合理化・円滑化(土地収用法の特例)する制度が創設された。 なお、地域福利増進事業は、具体的には、公園、広場、購買施設(いわゆる産直施設など)、駐車場などを運営する事業が想定されている。 ① 地域福利増進事業のために使用権を設定する制度 本制度は、都道府県知事が、地域福利増進事業を行おうとする者に対し、特定所有者不明土地上に、存続期間10年を上限とする使用権を認める制度である(なお、延長も認められている)。使用権が認められるための手続の流れは次のとおりである。 (※1) 権利者が当該土地を事業に供することについて異議を申し出なかった場合 (※2) 事業者が使用権の始期までに補償金を供託しない場合、使用権を認めた裁定の効力が失われる。 ② 収用手続を合理化・円滑化する制度 公共事業の用地取得を行うにあたって、地権者の同意が得られない場合等に、土地収用法に基づいて収用を行う方法がある。 土地収用法は、①事業認定手続(国や都道府県知事が、申請事業に土地を収用するに値する公益性が認められるかを判断する手続)と、②収用裁決手続(収用委員会が土地所有者等に対する補償金の額等を決定する手続)から構成されている。 これに対して、所有者不明土地特措法は、上記②の収用裁決手続に関して、収用委員会による審理手続を省略して、都道府県知事が補償金の額を裁定できるものとし、これが公告されることによって土地収用法の権利取得裁決及び明渡裁決があったものとみなすことにしている。 (3) 所有者の探索を合理化する仕組み ① 土地所有者等関連情報等の利用及び提供 地方公共団体の部局が土地の所有者を探索する場合、地方公共団体が保有する公簿等が有力な資料となる。しかし、たとえば、固定資産課税台帳には当該土地の所有者の情報が記載されているが、税務部局の職員は、地方税法の守秘義務を負っているため、これを別の部局に提供することができない問題があった。 そこで、所有者不明土地特措法は、地域福利増進事業等の実施のため、地方公共団体の保有する情報を内部で利用できることとした。 また、地域福利推進事業等を実施しようとする者は、地方公共団体の長に対して、当該土地の土地所有者等関連情報の提供を求めることができ、本人の同意がある場合には、提供を受けることができることとなった。 ② 相続登記等に関する不動産登記法の特例 所有者不明の土地が生じる原因の1つとして、数世代の相続が生じているにもかかわらず、相続登記が行われないままになっていることが指摘されている。このような相続登記未了の土地は、所有者の特定に多大な労力を要するため、地域福利増進事業等を実施する障害となるものである。 そこで、所有者不明土地特措法は、相続登記等がされておらず、かつ、公共の利益となる事業地になるような土地を「特定登記未了土地」と定義して、登記官に次の権限を与え、特定相続未了土地の解消を実現しようとしている。 まず、登記官は、特定登記未了土地について、登記名義人の死亡後10年以上30年以内において政令で定める期間を超えて相続登記がされていない場合に、職権でその旨を登記に付記することができる。また、登記官は、特定登記未了土地の登記名義人になり得る者を知ったときは、相続登記を申請するように勧告することができることになった。 (4) 所有者不明土地を適切に管理する仕組み 民法上の制度として、相続財産管理人と不在者財産管理人がある。これは、相続人の存在が明らかでない場合や所在が分からない者がいる場合に、利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任した管理人が財産の管理等を行う制度である。 この「利害関係人」とは、法的な利害関係が必要と解されており、行政機関が所有者不明土地を管理しようとしても、何らかの権利義務関係がなければ、財産管理人の選任を請求することができない問題があった。 そこで、所有者不明土地特措法は、国の行政機関の長や地方公共団体の長に、所有者不明土地に関して、財産管理人選任の請求権を認めることとした。 (5) 施行時期 所有者不明土地特措法は、公布の日(2018年6月13日)から起算して6月を超えない範囲で施行される予定である。 (了)

#No. 282(掲載号)
#羽柴 研吾
2018/08/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例28】21LADY株式会社「定時株主総会における株主提案議案の承認可決による役員異動及び代表取締役の異動に関するお知らせ」(2018.6.27)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例28】 21LADY株式会社 「定時株主総会における株主提案議案の承認可決による役員異動及び代表取締役の異動に関するお知らせ」 (2018.6.27)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、21LADY株式会社(以下「21LADY」という)が平成30年6月27日に開示した「定時株主総会における株主提案議案の承認可決による役員異動及び代表取締役の異動に関するお知らせ」である。 同社の代表取締役の広野道子氏(本名は「藤井道子」。以下「広野氏」という)が、株主総会において取締役に再任されず、結果として代表取締役が別の方に交代することになったという内容である。 代表取締役の取締役再任が否決されるというのは珍しい。同氏も、そうなるとは夢にも思っていなかっただろう。同氏は、同社の創業者であり、かつ、議決権比率33.4%の筆頭株主でもあるのだ(したがって、同氏以外のほとんどの株主が、同氏の取締役再任に反対したということに)。   2 始まりは株主提案からであったが 21LADYはずっと赤字が続いている。そうしたなか、同社第2位の株主(議決権比率16.83%)であるサイアムライジングインベストメント1号合同会社(以下「サイアム」という)から、社外取締役を3名追加するという株主提案が出された(平成30年5月1日「株主提案権行使に関する受領について」開示)。 その提案理由は次のとおりである(平成30年5月28日開示の「株主提案に係る当社の対応に関するお知らせ」に掲載)。異論を挟む余地が無さそうな、極めて真っ当な理由といえるだろう。 この提案がきっかけとなって、広野氏の追放に至ることになるのだが、提案内容は、広野氏を含む現経営陣はそのままにして、社外取締役を3名追加するというものである。なぜこの提案が広野氏の追放につながったのだろうか。   3 なぜ再任されなかったのか? 広野氏は、サイアムの提案を受け入れていれば、追放されることはなかっただろう。しかし、平成30年5月28日に「株主提案に係る当社の対応に関するお知らせ」を開示し、サイアムの提案への反対を表明したのである。 反対が直ちに追放につながるわけではない。反対する理由が説得力のあるものであれば、追放されることはなかっただろう。しかし、次のとおり、そうではなかった。サイアムによる提案理由と異なり、こちらは突っ込みどころが満載である。 サイアムの提案では、広野氏を含む現経営陣はそのまま留任とされている。①の記載は不要だろう。また、サイアムは本心では現経営陣の退任を望んでいるはずだが、譲歩して、現経営陣留任のうえ、社外取締役追加という提案をしたのである。取締役の数を問題とするのはおかしい。 何よりも引っ掛かるのは、「違法ないし不適法な業務執行の可能性とは無縁の会社でありますので、監視機能を担う社外取締役をこれほど増員する必要はない」という記載である。取締役は、適法か否かを監督するだけではない。この記載により、企業統治に関する無理解が露呈している。 広野氏が追放されたのは、ずっと赤字続きで株主が怒ったからではない。サイアムの提案に対して、こんな理由を掲げて反対したからである。これを見た株主は呆れ果て、広野氏に任せてはいられないと思ったのだろう。   4 あの会社も 代表取締役の取締役再任否決という珍しい事態が、21LADYの他にも同時期に起こっていた。本連載の【事例23】で取り上げた株式会社JPホールディングスの株主総会においても、代表取締役の荻田和宏氏の取締役再任が否決された。同社は、平成30年6月28日に「第26回定時株主総会開催結果に関するお知らせ」と「代表取締役社長の異動に関するお知らせ」を開示している。 (了)

#No. 282(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/08/23

《速報解説》 「企業結合に関する会計基準」等の改正案が公表される~条件付取得対価に関連して対価の一部が返還される場合の取扱いを示す~

《速報解説》 「企業結合に関する会計基準」等の改正案が公表される ~条件付取得対価に関連して対価の一部が返還される場合の取扱いを示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年8月21日、企業会計基準委員会は、「企業結合に関する会計基準(案)」(以下「企業結合会計基準(案)」という)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(案)」(以下「結合分離適用指針(案)」という)を公表し、意見募集を行っている。 これは、次の改正について提案するものである。 意見募集期間は平成30年10月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 条件付取得対価に関する改正案 1 定義 条件付取得対価の定義を次のように改正し、対価の一部が返還される場合の取扱いを規定する。アンダーラインが改正部分である(企業結合会計基準(案)注解(注2)(注3))。 2 会計処理 条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、企業結合時ののれん又は負ののれんの金額を再計算し、再計算されたのれんの未償却残高が当初ののれんの未償却残高より小さいときは、のれんを減額する。減額されたのれんの金額と返還された対価の金額との差額は損益として処理する(企業結合会計基準(案)27項(1)、結合分離適用指針(案)47項(1))。   Ⅲ 結合分離適用指針に関する改正案 1 事業分離等会計基準の記載内容との整合性 結合当事企業の株主に係る会計処理に関する結合分離適用指針の記載について、事業分離等会計基準の記載内容との整合性を図るため改正する(結合分離適用指針(案)279項から289項)。 2 分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱い 分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱いについて、平成22年度税制改正において分割型会社分割のみなし事業年度が廃止されていることから、結合分離適用指針の関連する定めを削除する(結合分離適用指針(案)109項及び403項の削除)。   Ⅳ 適用時期等 (了)

#No. 281(掲載号)
#阿部 光成
2018/08/22
#