〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第37回】 「別表6(25) 革新的情報産業活用設備を取得した場合の 法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、前回解説した生産性の向上に関するいわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)」のうち、特別償却に代えて税額控除制度を適用する場合の「別表6(25) 革新的情報産業活用設備を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告法人で生産性向上特別措置法第29条に規定する主務大臣の確認を受けた場合におけるその革新的データ産業活用を行う事業者(以下「認定革新的データ産業活用事業者」という)であるものが、平成30年改正後の租税特別措置法第42条の12の6第2項(革新的情報産業活用設備を取得した場合の法人税額の特別控除)の適用を受ける場合に作成する。 すなわちこれは、青色申告を提出する認定革新的データ産業活用事業者が、指定期間内(平成30年6月6日から平成33年3月31日までの間)に、特定ソフトウエアの新設又は増設をする場合において、その新設又は増設に係る革新的情報産業活用設備の取得等をして、その事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、その革新的情報産業活用設備の取得価額の3%又は5%(注)の税額控除ができる制度である。 (注) 平成30年度の税制改正で改組された、いわゆる所得拡大促進税制でいうところの、継続雇用者給与等支給額から継続雇用者比較給与等支給額を控除した金額の継続雇用者比較給与等支給額に対する割合が3%以上である場合には、税額控除割合は5%となる。 この税額控除の対象となる資産(革新的情報産業活用設備)は、前回解説した特別償却の対象資産と同じである。 なお、本税額控除制度は、中小企業者等以外の法人が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度において、研究開発税制等の生産性の向上に関する税額控除制度を適用しようとする場合に、以下の(イ)及び(ロ)の要件のいずれにも該当しない場合には、適用ができないことになっている。詳細は、【第35回】の解説を参考にしていただきたい。 Ⅲ 「別表6(25)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年6月6日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔特定税額控除規定の適用可否〕欄 〔法人税額の特別控除額の計算〕欄 〔継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額の計算〕欄 〔設備の概要〕欄 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例73(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し(法法57) 内国法人の各事業年度開始の日前10年(平成29年3月31日以前に開始する事業年度においては9年)以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(欠損金の繰戻しによる還付の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く)がある場合において、次の要件を満たす場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。 ただし、中小法人等以外の法人は、当該各事業年度の所得の金額の100分の50に相当する金額を限度とする。 ◆中小法人等(法法57⑪-) 「中小法人等」とは、各事業年度終了の時において次の法人に該当するものをいう。 ◆資本金を1億円に減資した場合 資本金を1億円に減資し、中小法人等となった場合には、次のような税メリットを受けることができる。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第2回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 第Ⅱ部 法人税法上の収益計上時期・計上額①(概要) 第Ⅱ部では、収益認識会計基準の公表に伴い行われた法人税法等の改正内容を概観する。 1 法人税法の改正内容の概観と留意点 (1) 概観 平成30年度税制改正で創設された法人税法22条の2の細かな適用要件等については第Ⅲ部(連載【第4回】以降)で検討することとし、ここでは、その大まかな規定内容を確認する。 要するに、収益認識会計基準の公表に伴い、 に関する定めが、法人税法22条の2に設けられたのである。 同条の1項では、資産の販売等に係る収益の計上時期について、内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供に係る収益の額は、別段の定めがあるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することを規定している。2項及び3項では、確定決算又は申告調整により、目的物引渡日・役務提供日の近接日に収益計上することを認めている。 国税庁が作成したイメージ図により、法人税法22条の2の規定内容を確認しておく(国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係」12~13頁)。次のイメージ図は、法人税法22条の2によって、資産の販売等に係る収益の額が、次のいずれかの日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することを表している。 (※) 国税庁ホームページより 次のとおり、資産の販売等についての収益の額は、引渡し等の日又は近接する日において収益経理している場合には、申告調整によりこれらの日以外の日に変更することはできない。 (※) 国税庁ホームページより 4項では、資産の販売等に係る収益の計上額について、別段の定めがあるものを除き、販売若しくは譲渡をした資産の引渡時の価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額であることを規定している。5項では、この場合の引渡時の価額又は通常得べき対価の額は、貸倒れや買戻しの可能性がある場合でも、その影響を考慮しないことを明らかにしている。 平成30年度税制改正では、上記のほか次の改正もなされている。 (2) 留意点 国税庁は、平成30年度改正を踏まえて、収益の計上時期について、要旨次の留意点を示している(国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係」14頁)。 2 法人税法施行令の改正内容の概観 法人税法22条の2第7項を受けて定められた同法施行令18の2の細かな適用要件等については第Ⅲ部で検討することとし、ここでは、その大まかな規定内容を確認する。 ※変動対価・・・顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分。例えば、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等がこれに該当する(基準50、指針23)。ただし、法人税法施行令18の2の規定において、「変動対価」という語が用いられているわけではない。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第28回】 「国外居住財産の相続及び譲渡に係る帰国のタイミング」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私X(日本国籍)は8年前に夫Y(外国籍)と外国へ移住しました。今年初めに夫が死亡し、財産はすべて私が相続することになっています。相続する財産は外国の居住用不動産と外国にある預金、日本にある銀行の支店に預けている定期預金ですが、相続税の申告は必要ですか。 また、外国での一人暮らしはとても寂しいので、年末までに家を売却して日本に戻ろうと考えています。帰国のタイミングで課税関係は変わりますか。日本は税金が高いので、何か税金が安くなる規定を利用することはできますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷相続税の納税義務者 相続税や贈与税の納税義務者の定義については、平成時代において頻繁に改正が行われた。これは、制限納税義務者の場合、相続税課税の対象が国内財産に限定されることを利用して、国内財産を国外財産に転換させて贈与することによる節税策が目立ったことに起因する。 他方、節税防止策を過度に行ったことにより、外国籍の被相続人が相続時に日本に住んでいた場合は、外国居住の外国籍の相続人が取得した国外財産についても相続税が課されるという不合理さが生じた。 そこで現行の税制では、被相続人や相続人が外国籍か日本国籍かにより、日本での相続税の課税範囲が大きく異なり、被相続人も相続人も日本人の場合は、双方とも相続開始前10年超にわたって日本に住所を有していない場合に限り、国内財産のみに相続税が課されることになる(相法1の3①二イ)。 本件の場合、相続人が日本国籍であり、移住してから10年以内に相続が発生していることから、Xは非居住無制限納税義務者となり、Yから相続した全財産を課税対象として、日本での相続税の納税義務が生ずることになる。 ▷小規模宅地等の減額特例の適用可否 本件のように、外国に居住している人で日本に財産がほとんどないとしても、全世界財産について相続税の納税義務が生ずることがある。 相続税の申告にあたって、国外財産の場合は、時価を評価する必要がある。不動産については日本国内のように路線価方式や倍率方式を採用することが難しいことから、相続時点の時価に関する情報を得て評価する必要がある。もし、現地で相続税の申告に類似したものを行い、そこで不動産の価額がわかるならば、その価額を採用することが合理的である(前回参照)。 居住用不動産については、小規模宅地等の減額特例(措法69の4)は、たとえ居住用不動産が外国不動産であったとしても、国内不動産に限定するという制度設計がなされていないため、適用は可能である。本件においては、配偶者Xが相続により居住用不動産を取得することになるので、相続後の居住要件等を満たさなくとも特定居住用宅地等として80%減額を適用することは可能である。 ▷居住者・非居住者の所得課税の範囲 本件において、Xは、日本に帰国するタイミングを見計らって、外国居住用不動産を売却する予定である。外国居住中のXは非居住者(所法2①五)であるが、帰国後は居住者(所法2①三)となるため、所得税の課税範囲が変わる。 非居住者である期間中に売却した場合の譲渡所得は国外源泉所得となることから、日本での課税関係は生じない(所法5②)。しかし、帰国後に売却した場合は、居住者の国外源泉所得であることから課税関係が生ずることになる(所法5①)。 ▷居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の適用可否 Xが日本へ帰国した後に居住用不動産を売却した場合は、譲渡所得について日本で課税関係が生ずることになるが、外国の居住用不動産を売却した場合の売却益から3,000万円の特別控除(措法35)が適用できるかという論点がある。 居住用不動産の3,000万円控除については、国内の不動産に限ると定められていないので、外国の居住用不動産であったとしても要件を充たす限り、控除は可能である。よってXの外国の居住用不動産の譲渡所得について、3,000万円の特別控除は適用できる。なお、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3)については、居住用不動産の範囲が国内財産に限定されている。 ▷相続税の取得費加算特例の適用可否 相続税の申告期限から3年以内の相続財産の譲渡所得の計算については、その譲渡財産に対応する部分の相続税額を取得費に加算して計算することができる(措法39)。この加算の対象となる相続税に係る相続財産については、国内財産に限るという縛りがないことから、外国の相続財産に係るものであっても対象となる。 ▷外国税額控除の適用可否 居住用不動産を外国で譲渡した場合は、日本だけでなく、現地でも課税関係が生ずる可能性がある。この場合、譲渡所得について二重課税となることから、二重課税を避けるためには日本において外国税額控除の適用が必要となる(所法95)。 外国の居住用不動産を譲渡した日の属する年と、譲渡所得について外国所得税を納付することとなる日の属する年が異なる場合、譲渡年に納付した外国所得税額を控除することができない。しかし、国外源泉所得が生じていることから、譲渡年に外国税額控除の控除余裕額を記載した確定申告書を提出した場合、その後3年間、控除余裕額を繰り越すことができる。このため、外国所得税を納付した年において繰り越した控除余裕額を利用して外国税額控除をすることができる場合もある(所法95②)。 なお、以前は当初申告において外国税額控除の控除余裕額を記載しなかった場合は、原則的には外国税額控除は適用できないとされていたが、現在では、修正申告による控除余裕額の記載があった場合においても外国税額控除の適用が可能となっている(所法95⑩)。 【参考】平成30年度税制改正後の相続税及び贈与税の納税義務 (※) 財務省「平成30年度税制改正の解説」P581より (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第9回】 「「公益目的事業の用に直接供される」とは①」 -賃貸アパートを寄附財産とする場合- 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該寄附を受けた法人の公益目的事業の用に直接供される」ことが課されています。 この「公益目的事業の用に直接供される」とは、具体的にどういうことですか。例えば、賃貸アパートを公益法人に寄附した場合、私は租税特別措置法40条の一般特例の適用を受けることができるのでしょうか。 - 回 答 - 租税特別措置法施行令第25条の17第5項第2号に規定する「当該贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該公益法人等の当該贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みである」かどうかの判定は、寄附財産そのものが公益目的事業において直接利用されることをもって行われます。したがって、建物が寄附財産である場合には、その建物そのものが公益目的事業において使われなければなりません。 ただし、その財産の性質から直接供することができないものについては、例外として、その運用果実のすべてが公益目的事業に供される必要があります(措置法40条通達13)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 財産等が贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供されるかどうかの判定は、原則として、当該財産等そのものが、当該贈与又は遺贈を受けた公益法人等の当該贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供されるかどうかにより行われます。 ただし、株式、著作権などのように、その財産の性質上その財産を公益目的事業の用に直接供することができないものである場合には、各年の配当金、印税収入など、その財産から生ずる果実の全部が当該公益目的事業の用に供されるかどうかにより、当該財産が当該公益目的事業の用に直接供されるかどうかを判定することとなります。 なお、この場合において、各年の配当金、印税収入などの果実の全部が当該公益目的事業の用に供されるかどうかは、例えば、奨学事業を行う公益法人等においては学資として支給され、助成金の支給事業を行う公益法人等においては助成金として支給されるなど、当該果実の全部が直接、かつ、継続して、当該公益目的事業の用に供されるかどうかにより判定されます(措置法40条通達13)。 今回のお問い合わせについては、建物を賃貸の用に供し、当該賃貸に係る収入を公益目的事業の用に供することとなり、建物そのものを公益目的事業の用に供していることにはならないため、租税特別措置法40条の適用を受けることはできません。 また、配当金などの果実が毎年定期的に生じない株式などについても、租税特別措置法40条の適用を受けることはできません(措置法40条通達13注書)。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第24回】 「事業環境の分析(その2)」 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ 本稿では前回に引き続き、事業環境の分析における各分析事項の解説を行う。 ▷内部環境分析のフレームワーク 買収対象企業の内部要因を分析するためのフレームワークとしては、以下のようなものが挙げられよう。 〈バリューチェーン分析〉 企業が生産/提供している製品/サービスの価値の源泉が、事業活動のどの工程をどのように経て創出されているかを把握・分析するものであり、いずれの工程の内製化が当該製品/サービスの提供にとって重要であるか、外部に委託可能な工程はいずれか等についても把握することでコア・コンピタンス(企業の中核となる強み)の把握にも有用な分析となり得る。 また、間接部門との関わり度合いについても合わせて検討することにより、経営資源の適正配分について同時に分析することも可能である。 バリューチェーン分析を行うことにより、買収に際して、価値の創出に重要な部門/人材の特定が可能となるだけでなく、場合によっては、分析の結果、M&Aによって買収すべき部門が部分的に留まるというケースも生じるかもしれない。 ▷収益性やコスト構造に関する分析 バリューチェーン分析等のフレームワークを用いた内部環境分析は一般的に定性的な分析と言えるが、他方、会計等の数値データを集計することで収益環境に関する定量的な分析を行うことも有益である。 例えば売上高や売上総利益、限界利益などの金額について以下のようなメッシュ(切り口)で把握・集計・分析することで、今後注力すべき分野を明確化したり、撤退を検討すべき領域を判断したりすることが可能となる場合がある。 こうした「収益力分析」及び「固変分解」などについては、次回以降の項で詳述する。 ▷競合他社とのベンチマーク分析 売上高利益率や原価率、人件費率、外注費率、1人当たり売上高等、主要な財務数値については、一般に公表されている経営指標との比較を行うことで、強みや弱みのありどころについて考察することも有益である。 比較対象となる経営指標は多く公表されているが、公益的なものや無償で利用可能な主なものを以下に掲げておく。 なお、ベンチマーク分析は相対的な分析であって、比較結果が絶対的な真実を表しているとは限らない。指標の大小関係のみをもって、対象会社の損益構造を評価することはできない点に留意が必要である。 例えば、通常は売上原価として処理される費目が販売費及び一般管理費として処理されていれば、売上総利益率は業種平均よりも高く見えてしまう。 【実務事例24-1】 S社の「売上総利益率」は20.0%と、同業他社の経営指標である16.0%よりも格段に高い水準にあった。ただし、当該会社の会計処理として、副材料費などを含む消耗品費は売上原価でなく販売費及び一般管理費として計上されており、当該費目を売上原価とした場合の売上総利益率は14.0%であった。 さらに、対象会社が売上や費用の計上時期をズラして処理していたり、在庫を水増しして計上しているような場合には、当然ながら見かけ上の利益率は業種平均よりも高く見えることになる。 また、例えば対象会社が原材料については得意先から全て無償支給を受けていたり、自社生産は行わず全てを外注先に委託生産している等、同業他社とは異なるビジネスモデルを採用している場合にも、見かけ上の利益率は同業他社とは異なって見えるはずである。 いずれの場合においても、収益力・コスト/損益構造分析を行うことでこうした不整合を補正し、同業他社との相違点を把握しながら、業界平均値との乖離について、その原因を分析していくことで、対象会社の強み・弱みを把握していくことが必要である。 ▷ SWOT分析 外部環境と内部環境に関する分析手法として一般的なものに「SWOT分析」がある。 内部環境要因から「強み」と「弱み」、外部環境要因から「機会」と「脅威」を抽出、4象限に当てはまる項目を列挙することで、最終的には伸ばすべき強みや機会を認識し、一方で強化すべき弱みや守るべき脅威への対策を立案する手法である。 分析に際しては、例えば上記のような項目について列挙していくが、「強み」と「弱み」、「機会」と「脅威」はそれぞれ表裏一体となっている場合も多い。例えば「ベテラン設計者が多く在籍」という強みの裏には「人件費の高止まり」や「若年層の育成不足」といった弱みが見え隠れしているであろうし、「高齢者の健康志向の高まり」という機会の裏には「高齢化進展による人口減」という脅威が併存しているだろう。 強み、弱み、機会、脅威の4象限が出揃った後、さらに「クロスSWOT分析」と呼ばれる方法で、「伸ばすべき強みはいずれか」、「備えるべき脅威を低減させるために強化すべき弱みはいずれか」等、強化すべきポイントを明確にすることができる。 M&Aによる買収対象会社に対してSWOT分析/クロスSWOT分析を行うことの意義は、買収対象会社の強み・弱みなどを把握するため、というよりも、むしろ自社の弱みや脅威、伸ばすべき強みや捉えるべき機会を確実なものにするために、対象会社の買収によって自社の弱みをカバーすることが可能であるか、自社の強みをさらに伸ばすための経営資源を当該買収で得ることができるか、といった観点からの分析にあると言えよう。 その意味では、SWOT分析/クロスSWOT分析は、M&Aに際して実施すべきものであると同時に、M&Aに先立ち自社に対して行った分析結果を踏まえ、自社の強みをさらに強化したり、自社の弱点を補強するような相手先を見つけるために行われるものでもあると言えよう。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第149回】 ESOP③ 「従業員等に対する権利確定条件付き 有償新株予約権を付与する取引の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 小林 清人 今回は、上記の(1)と(2)に着目した事例を取り上げます。 なお、ストック・オプションの会計処理については本連載で過去に取り上げていますので、下記をご参照ください。 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (1) X4年7月1日(払込日/付与日)の仕訳 有償ストック・オプションの付与に伴う従業員からの本新株予約権の払込(金額4,000,000円)があった。 ◆新株予約権の計上 (2) X5年3月期の決算仕訳 付与日以降、失効数の見積りに変化はない。 ◆株式報酬費用の計上 (※) 本事例の場合、後述のとおり、報酬費用総額が発行当初よりゼロ円となるため、結果として「仕訳なし」となります。 ◆報酬費用総額の算定 ◆X5年3月期に属する費用額の算定 (3) X6年3月期の決算仕訳 付与日以降、失効数の見積りに変化はない。 ◆株式報酬費用の計上 (※) 本事例の場合、後述のとおり、報酬費用総額が発行当初よりゼロ円となるため、結果として「仕訳なし」となります。 ◆報酬費用総額の算定 ◆X6年3月期に属する費用額の算定 (4) X7年3月期の決算仕訳 業績条件を満たす可能性が高くなったことにより、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた。具体的には、権利確定が見込まれる有償ストック・オプションの数量は200千個であることが判明した。 ◆株式報酬費用の計上 ◆報酬費用総額の算定 ◆X7年3月期に属する費用額の算定 【新株予約権のB/S金額の推移】 〈会計処理の解説〉 1 払込金額の計上について 従業員等からの払込時において、有償ストック・オプションの付与に伴う従業員等からの払込金額を、純資産の部に新株予約権として計上する必要があります。本事例においては、X4年7月における払込金額4,000,000円を、新株予約権として純資産の部に計上します(X4年7月1日(払込日/付与日)の仕訳参照)。 2 報酬費用総額の算定について 報酬費用総額は権利確定すると見込まれるストック・オプションの数(付与当初80千個、X7年3月期に200千個に変更)に付与時のストック・オプションの公正な評価単価(50円)を乗じ、付与日の払込金額(4,000,000円)を控除して算定します。 3 各期の費用額の算定について 算定した報酬費用総額を、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき、当期に発生したと認められる額を算定し、当期の費用として計上します。本事例においては、対象勤務期間(A:X4年7月~X7年3月)を基礎とする方法で解説しています。 今回取り上げたケースの場合、X4年7月の付与日時点から、X7年3月期の業績条件を満たす可能性が高くなったことにより、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じる前までは、報酬費用総額と付与日の払込金額が同じ金額のため、株式報酬費用が発生しません。X7年3月期の見積数変更後には、報酬費用総額と払込金額に差額が生じるため、その部分を株式報酬費用とします。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第5回】 「見直し後の遺留分制度に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、見直しが行われる遺留分制度に関する留意点を解説する。 1 遺留分制度の主な改正点 遺留分制度の改正点のうち、まず、改正前民法の実務から大きく変わる点を確認しておくと、以下の通りである。 なお、下記の拙稿をあわせて参照されたい。 2 遺留分侵害額請求の金銭債権化による贈与の価額の評価・算定時期の考え方について (1) 改正前民法の下での規律 贈与は、被相続人の生存中、様々な時期に行われ得るため、例えば、相続開始の5年前に1,000万円で贈与した株式が、相続時には2,000万円となり、相続開始の5年後に遺産分割や遺留分の処理が終了した時点では3,000万円となる、ということがあり得る。 このため、贈与の価額の評価時期をいつと捉えるかという問題がある。 この点について、改正前民法の下では、以下のような運用がなされている。 (2) 改正後民法の下での考え方 改正前民法における遺留分減殺請求では、現物分割・価額弁償という2つの方法があり得たが、上記の通り、改正後民法の下では、侵害された遺留分については、遺留分侵害額請求による金銭債権に一本化された。 上記(1)の②の規律については、改正前民法の下における価額弁償に関する規定であり、改正後民法の下での規律にそのまま当てはめることはできない。しかし遺留分侵害額請求は、改正前民法の下における価額弁償に最も近い制度であり、②の規律が維持される可能性がある。 他方、①③の規律については、改正後民法の下でも同様の規律が維持される可能性がある。 また、改正前民法の下での規律も、「当事者間の公平」という観点が基礎にあることは明らかである。そして、この観点からすれば、贈与の価額の評価は、できるだけ遅く、すなわち遺留分権利者が遺留分侵害額の支払を受ける時期に近い時期の価額とすべきとも考えられる。 私見ではあるが、遺留分侵害額請求による金銭債権の一本化により、贈与目的物の「返還」という概念はなくなる。返還するということは、返還する物が現存することを前提としているところ、上記②の規律は、「返還する物が現存する以上、現存する物を返還する時の価格であるべき」という考え方を基礎とするが、遺留分侵害額請求においては返還という概念がなくなる以上、②のように金銭支払時を評価時期とする根拠は薄い。 また、当事者間の公平を考えるならば、遺留分権利者が複数いる場合、遺留分権利者相互間で、贈与価額の算定に差が生じるべきではない。さらに、訴訟実務を考えれば、遺留分額侵害請求による金銭債権の額を早期に確定する必要もある(遺留分減殺請求が訴訟で行われる場合は、遺留分権利者が現物の返還を請求し、これに対して受贈者が抗弁として金銭賠償を主張するという流れになるため、訴訟提起時には必ずしも贈与価額の評価が確定している必要はない)。 したがって、上記①同様、明確な基準である相続時の価額をもって、贈与の価額と評価することになる可能性が高いと考えている。 もっとも、依頼者から遺留分侵害額請求についての相談を受けた場合には、遺留分侵害額請求による金銭債権の一本化により、改正前民法の下での規律に変更が生じる可能性があるという点を説明することが望ましく、また、例えば依頼者の代理人となって相手方と交渉するような場合は、依頼者にとって最も有利な考え方を主張しても良いだろう。 3 改正法の施行前後の取扱い 遺留分に関する改正については、特段の経過措置は設けられておらず(改正法附則2条以下)、改正後民法の施行日より前に発生した相続については、改正前民法が適用される(改正法附則2条)。 令和元年7月1日より改正後民法の遺留分に関する規定が施行されるため、令和元年6月30日以前に発生した相続については、上記のような遺留分減殺請求に関する規律が適用される。 したがって、例えば「相続人に対する贈与が遺留分算定の基礎となるか」という点については、改正前民法では期間制限なし、改正後民法では相続開始前10年に限定されるため、相続開始が6月30日以前か7月1日以降かによって大きな差が生じることとなる。 4 その他の留意事項 遺留分について、下記の点などは改正前と同様であるが、忘れがちであるので、これを機会に確認されたい。 ③については、例えば、相続人が父のみである場合に、被相続人(子)が相続財産3,000万円すべてを愛人に遺贈した場合、父の遺留分は1,000万円である。何となく、「遺留分は法定相続分の半分」と覚えていて、「遺留分は1,500万円」と思ってしまった方もいるのではなかろうか。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例34】 株式会社大塚家具 「監査役会設置会社への移行及び定款の一部変更に関するお知らせ」 (2019.3.11) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社大塚家具(以下「大塚家具」という)が平成31年3月11日に開示した「監査役会設置会社への移行及び定款の一部変更に関するお知らせ」である。監査等委員会設置会社から監査役会設置会社へ移行するというのだが、実は同社は平成29年に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しており、今回再び監査役会設置会社へ戻るのである。 2 国内最高レベルのガバナンス体制? 周知のとおり、平成27年、大塚家具の現代表の大塚久美子氏は、父親であり、同社の創業者でもある大塚勝久氏と、同社の経営をめぐり対立し、勝利した。そして、勝久氏が去った後の同社の企業統治について、次のように「国内最高レベルのガバナンス体制」と評していた(平成27年3月12日開示「コーポレートガバナンス・コードに対する当社の考え方と第44回定時株主総会における議決権行使のお願い」)。 新たな経営体制は、本当に「国内最高レベルのガバナンス体制」と言えるのだろうか。レベルの高いガバナンス体制とは、経営者をきちんと監督できる体制である。しかし、現任の社外取締役は、久美子氏の社長復帰を支持した方々であり、久美子氏の味方である。また、新任の取締役も、人選は久美子氏の意向によるはずであり、久美子氏の「お友達」である可能性が高い。そうした社外取締役が取締役の過半数を占める体制が、久美子氏をきちんと監督できるとは考えにくい。「国内最高レベル」どころか、むしろ低レベルではないだろうか。 3 なぜ監査等委員会設置会社へ移行したのか? 自称「国内最高レベルのガバナンス体制」は長く続かなかった。2年後、大塚家具は監査等委員会設置会社へ移行した。同社が平成29年2月10日に開示した「監査等委員会設置会社への移行及び定款の一部変更に関するお知らせ」における「移行の理由」は、次のように記載されている。 本当にこのように考えていたのだろうか。そうだとしたら、監査等委員会設置会社ではなく、指名委員会等設置会社へ移行すべきである。これが本当の理由だったのだろうか。 前の体制では、取締役10名、監査役3名だったが、同日に開示された「監査等委員会設置会社移行後の役員人事に関するお知らせ」によると、監査等委員会設置会社移行後は取締役8名という体制である。平成27年の定時株主総会で新たに選任されていた4名の社外取締役のうち3名の名前はなかった。その定時株主総会では、監査役も全員が新たに選任されていたのだが、その名前もなかった(通常、監査等委員は監査役の横滑りだが、そうではなかった)。 嫌気が差して逃げたのか、言うことを聞かないからと久美子氏から切られたのかは定かでないが、少なくなってしまった人数で何とか外見を良く見せたいと思ったのだろうか。監査等委員会設置会社にすれば、取締役の半数は社外取締役になる。 本当にそうだとしたら、浅はか過ぎるが、前の体制を「国内最高レベルのガバナンス体制」などと自画自賛していたくらいなので、そんなところではと思えてきてしまう。 4 なぜ監査役会設置会社へ戻ったのか? 「国内最高レベルのガバナンス体制」は2年しか続かなかったが、監査等委員会設置会社も2年で終わることになった。再び監査役会設置会社へ戻ることになったのだが、今回の平成31年3月11日の開示における「移行の理由」は、次のように記載されている。 「第三者割当増資及び業務・資本提携等」については、平成31年2月15日に「第三者割当による新株式及び新株予約権の発行、業務・資本提携契約の締結並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」を開示しているが、監査役会設置会社移行後の役員の人選は、その相手先の意向によるものだろう。 平成31年3月11日に今回の開示と併せて開示された「監査役会設置会社移行後の役員人事に関するお知らせ」によると、監査役会設置会社移行後は、取締役7名、監査役3名という体制になり、そのうち、久美子氏を含む2名以外8名は新任であり、増資等の相手先の関係者も含まれている。 しかし、役員の人選は増資等の相手先の意向によるものであっても、監査役会設置会社への移行もそうであるのかは分からない。監査役会設置会社への移行が、果たして「経営の透明性を最大限確保しつつ経営戦略の確実な実行を期す」ことにつながるのだろうか。監査等委員会設置会社のままでも良さそうである。 大塚家具は業績が極めて悪化している。現在の同社の取締役に就任することはリスクが高い。もしかすると、今回新たに監査役に選任される方々は、「取締役は嫌だけど、監査役なら」と言ったのかもしれない。 監査役会設置会社への移行自体に意義は見出しにくいのだが、移行後の体制については、「国内最高レベルのガバナンス体制」とまではいかないが、これまでの体制よりはレベルが上がったと言えるかもしれない。これまでと異なり、久美子氏に対して周囲が意見を言える体制になった。もう久美子氏の周囲は味方だけではない。 (了)
《速報解説》 金融庁、金商法施行令・開示府令等の改正(案)を公表 ~譲渡制限付株式の募集等を臨時報告書の提出事由に、 監査人異動に際し異動する監査人等の意見をより積極的に記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年4月19日、金融庁は、「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、以下の事項を改正するものである。 意見募集期間は2019年5月20日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 株式報酬に係る開示規制の見直し 経営陣等にインセンティブを付与するための業績連動報酬としての株式報酬の導入が広がっており、労務の対価として一定期間の譲渡を制限した株式(譲渡制限付株式)を交付する企業が増加していることから、①交付対象者が発行会社等の役員等に限られていること、②発行する株式に譲渡についての制限に係る期間が設けられていることを条件として、当該譲渡制限付株式の募集又は売出しについて、ストック・オプションと同様に、有価証券届出書の提出を不要とし、臨時報告書の提出事由とする(「金融商品取引法施行令」2条の12、「企業内容等の開示に関する内閣府令」2条、19条、企業内容等開示ガイドライン)。 2 「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書を踏まえた見直し 監査人の異動に関して、臨時報告書へ監査役等の意見の記載や当該異動する監査人の意見をより積極的に記載できるようにする(「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条)。 臨時報告書へ監査人の異動の実質的な理由の記載がなされるように、企業内容等開示ガイドラインに具体的な交代理由を例示する。 企業内容等開示ガイドラインでは、監査公認会計士等の異動理由及び経緯について、次のように例示している。 3 電子開示手続等を行う場合の電子証明書の使用に関する留意事項の見直し 開示用電子情報処理組織を使用して電子開示手続又は任意電子開示手続を行う場合に、電子証明書を使用することができるとした留意事項を廃止する(電子開示手続等ガイドライン3-2)。 Ⅲ 適用時期等 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布・施行される予定である。 (了)