monthly TAX views -No.75- 「令和元年の消費増税は何をもたらすのか」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 平成31年度予算案が国会で成立し、税制改正法案も可決した。これで本年10月からの消費増税がほぼ確実になった、と言いたいところだが、直近の景気落ち込みや、中国・BRIXITなど海外リスクを理由として、再び消費増税延期論が出始めている。 消費増税が景気に悪影響を及ぼすかどうかは、以下述べるように、今回の増税スキームから判断する必要がある。 * * * 今回の8%から10%への消費増税による増収分は5.7兆円だが、国の一般会計に入るのは5.2兆円で、0.5兆円は地方消費税として地方に譲与される。 安倍総理は、「増収分の半分は社会保障に使う」という社会保障・税一体改革で決められていた使途の変更を行った。その結果、幼児教育の無償化・年金生活者支援給付金・介護人材の確保など社会保障充実に使われる費用は2.8兆円となった。 これに消費税率の引上げに伴い非課税の診療報酬を補填する(つまり仕入れにかかる消費税分を負担する)ための0.4兆円も加わり、合計3.2兆円が国民の受益に回る。これは約束以上の社会保障費への配分である。そのため、財政再建に回るのは差引5.2兆円-3.2兆円=2兆円ということになる。 ところが一方で、消費増税は景気を悪化させるということで、その経済対策として2.3兆円の歳出が行われることとなっている。内容は、ポイント還元(0.3兆円)とプレミアム商品券(0.2兆円)で0.5兆円、すまい給付金などを合わせて合計0.7兆円の歳出増が予定されている。 驚くべきは、“国土強靭化対策”と銘打った公共事業の追加である。2020年度までの3年間で事業規模は7兆円、そのうち1.3兆円が平成31年度分である。さらに住宅減税と自動車減税で0.3兆円という歳入減もある。これらをすべて合計すると、2.3兆円の経済対策となる。 改めて計算すると、5.2兆円(消費増税による増収)-3.2兆円(社会保障充実)-2.3兆円(経済対策)= ▲0.3兆円と、減収となるのである。経済対策は翌年度(令和2年度)も行われるので、ネットで増収になるのは2021年度(令和3年度)からということのようだ。 上記をまとめると、下図のようになる。 (※) 財務省資料より筆者作成 * * * このようなスキームを理解せず(又は知らず)に、一部のエコノミストからは、「消費増税は景気の腰を折る、3度目の延期をすべきだ」という声が聞かれる。 ただし今回の増税には、大きな意義がある。その使途には、従来型の社会保障(高齢者3経費(年金・医療・介護)+ 子育て支援)だけでなく、「教育」が入っているのだ。すなわち幼児教育の無償化(4,000億円)である。さらに2020年度からは、一部高等教育の無償化も始まる。 「教育」の強化は、人的資本の向上、格差拡大の是正、さらにはわが国潜在競争力の強化につながる。少子化の進むわが国の政策として、全世代型社会保障の充実は極めて重要なものであり、短期的な経済運営により右往左往する話ではない。 * * * 国連の関連団体が本年3月20日に発表した「世界幸福度ランキング 2019」において、わが国が世界の156カ国中58位に位置するという事実はショッキングだが、その原因は、わが国の社会的支援の少なさにあるという。 ちなみにランキング上位国は、フィンランド、デンマーク、ノルウェーなど国民負担率の極めて高い国々で、消費税率はそれぞれ24%、25%、25%である。短期的な経済への悪影響を乗り越えて、「幸福な国」を作ってきた証左である。 本当にリーマンショック級の経済変動が来るなら延期すべきだが、そうでない限り断行すべきだ。一部エコノミストによる「景気に悪影響を及ぼすので、消費増税延期」という近視眼的な見方は、わが国を「幸福でない国」にさせる一因となる。 「令和」の世は、ぜひ幸福度を上げる国になってほしいものだ。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第67回】 「消費税率等引上げに伴い作成される消費税額等増額分に係る変更契約書①」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 消費税率等が2019年10月1日より8%から10%に引き上げられる予定ですが、消費税率等引上げに伴い消費税額等増額分の変更契約書を作成した場合の、印紙税の取扱いはどうなりますか。 (事例1) (事例2) 事例1は第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、印紙税額は記載金額なしの200円となる。 事例2は事例1同様、第2号文書に該当し、印紙税額は記載金額2万円の200円となる。 [検討1] 変更契約書の記載金額 変更契約書の記載金額は、変更前の契約金額を証明した契約書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更金額が記載されている場合で、その変更金額が変更前の契約金額を増加させるものであるときは、その変更金額が変更契約書の記載金額となる。 今回の事例は上記内容に該当した場合であり、上記の内容に該当しない場合は記載金額の取扱いが異なる。 [検討2] 消費税額等に関する記載金額の取扱い 第1号文書、第2号文書及び第17号文書に消費税及び地方消費税の金額が区分記載されている場合又は税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、その取引に当たって課されるべき消費税額等が明らかである場合には、消費税額等は記載金額に含めない(平成元年3月10日 間消3-2「消費税の改正等に伴う印紙税の取扱いについて」1)。 したがって、記載金額に含めないとされている消費税額等が区分記載されている場合とは、以下のとおりである。 [検討3] 変更契約書の内容の変更とは 印紙税法上の契約の内容の変更とは、既に存在している契約の同一性を失わせないでその内容を変更するものをいい、重要な事項(基通別表第2「重要な事項の一覧表」)を変更する契約書が課税対象とされている。 ▷まとめ 印紙税は文書課税であり、作成した文書に記載された内容により判断される。したがって、消費税額等が区分記載されている、又は税込価格及び税抜価格が記載されていることによって、その取引に当たって課されるべき消費税額等の金額が明らかである場合には、消費税額等を記載金額に含めないこととされている。 消費税率が10%に引き上げられた場合に作成される変更契約書においても、考え方は変わらない。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例4】 「米国のリミテッドパートナーシップを通じた 不動産投資から生じた費用及び損失の取り込みの可否」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は都内で不動産の賃貸等を行う株式会社Xを経営する者です。私は現在、自分が築いた財産を国内のA証券を通じて運用していますが、当該証券会社の勧めで、米国に所在する中古の集合住宅を対象とした投資プラン(1口100万ドル)に投資することとしました。その際、A証券の発案で、B信託銀行との間で、当該投資プランに参加する投資家(私を含む)を委託者兼受益者、B信託銀行を受託者とする信託契約を締結し、これに基づいてB信託銀行に開設した口座に私を含む投資家が現金を振り込みました。 B信託銀行は、米国デラウェア州法に基づいて設立されたC有限責任会社との間で、C有限責任会社をジェネラルパートナー(GP)、B信託銀行をリミテッドパートナー(LP)とするパートナーシップ契約(デラウェア州改正統一リミテッドパートナーシップ法に基づく)を締結し、パートナーシップ持分を取得しました。当該リミテッドパートナーシップ(LPS)は、米国に所在する中古の集合住宅を購入し、それを第三者に賃貸する事業を営んでいます。 A証券から送付されてきた当該投資プランの実績によれば、昨年度は2万ドル(約220万円)の損失ということでした。私はA証券の担当者及び顧問税理士と相談した結果、当該投資プランから生じた所得及び損失は不動産所得に該当するため、私の他の所得(給与所得等)と損益通算が可能となり、所得税及び住民税がその分だけ軽減されます。 また、上記とは別にX社は、米国に所在する別の集合住宅への投資を目的に、米国ワシントン州の法律に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップの持分をリミテッドパートナーとして取得し、そこから生じた建物等の減価償却費をX社の所得の計算上、損金の額に算入しています。 ところが、先日私に対する税務調査で、税務署の調査官は、上記米国の不動産賃貸事業から生じた所得は不動産所得に該当せず、損益通算はできないとして、修正申告を求めてきました。さらにX社の法人税の調査においても、法人課税部門の調査官は、減価償却費を損金の額に算入することはできないと主張しております。このような場合、私はどのように対応すればよいのでしょうか、教えてください。 【A】 本件のうち個人投資分は、米国デラウェア州法に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップが、日本法(租税法)上の法人に該当するかが問題となりますが、本件のリミテッドパートナーシップは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が自らに帰属するものであるため、権利義務の帰属主体であると認められることから、所得税法2条1項7号に定める外国法人に該当するものと考えられます。 また、法人投資分についても、米国ワシントン州の法律に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップが法人税法2条4号に定める外国法人に該当する場合には、そこから生じた建物等の減価償却費をわが国の法人の所得の計算上損金の額に算入することはできないことになります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 米国リミテッドパートナーシップのわが国租税法上の取扱い 以下の図で示される本件は、米国デラウェア州法に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップが、日本法(すなわち租税法)上の法人に該当するかが問題となる。 なぜなら、米国の中古集合住宅に係る不動産賃貸事業から生じた所得は、リミテッドパートナーシップを通じて日本の投資家に帰属することとなるが、当該リミテッドパートナーシップが法人に該当すれば、不動産賃貸事業から生じた所得は一旦法人に帰属し、そこから配当という形で日本の投資家に分配されるという取扱いになるものと解される一方で、法人ではなく民法上の組合類似の組織体に該当するのであれば、不動産賃貸事業から生じた所得はリミテッドパートナーシップに帰属することなく、その構成員である日本の投資家に直接帰属するという取扱いになると解されるからである。 〇本件投資ストラクチャー(経営者本人投資分) 上記取扱いは、以下の最高裁判決でも明確に示されている(最高裁平成27年7月17日判決・民集69巻5号1253頁(※1))。 (※1) なお、当該最高裁判決の第1審(名古屋地裁平成23年12月14日判決・税資261号順号11833)及び原審(名古屋高裁平成25年1月24日判決・税資263号順号12136)はいずれも、LPSはわが国の租税法上の法人には該当せず、LPSの行う不動産賃貸事業から生ずる所得は出資者の不動産所得に該当するため、出資者の他の所得との損益通算が認められる旨判示している。 しかし、わが国の所得税法や法人税法は、「法人」そのものについて定義していないことから、外国の組織体や事業体がわが国租税法上の法人に該当するか否かは、解釈によるしかない(※2)。そこで、最高裁は上記判決において、次に、外国の組織体のわが国における租税法上の取扱いに関する具体的な判断方法として、以下で見る通り2つの「判断基準」を示している。 (※2) 衣斐瑞穂「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号に定める外国法人に該当するか否かの判断の方法」『ジュリスト 最高裁 時の判例Ⅸ』94頁参照。 (※3) ただし、例えばドイツにおいては、わが国の民法上の組合に相当する組織体に対しても、権利能力を認める判例法理が確立しているため、判断基準として妥当であるかにつき、今後更なる検討が必要となる可能性がある。田中啓之「リミテッド・パートナーシップ(LPS)の租税法上の扱い」『租税判例百選(第6版)』(有斐閣・2016年)47頁参照。 上記で示された2つの基準を表にまとめると以下の通りとなる。 〇外国法人認定の判断基準 ① 設立根拠法令の解釈(判断基準1) 対象となる外国の組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否か ② 権利義務の帰属主体(判断基準2) 対象となる外国の組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否か また、上記2つの判断基準の適用方法ないし順位であるが、最高裁は、まず判断基準1をスクリーニング的な方法として適用し、これが適用できない場合に、次いで判断基準2を適用するという手法を採っている。 (2) 個人が投資する米国リミテッドパートナーシップのわが国租税法上の取扱い それでは、上記(1)の最高裁判決の判断に基づくと、本件はどのように解されるのであろうか。 米国デラウェア州法に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップが、日本法(すなわち租税法)上の法人に該当するか否かに関し、まず判断基準1に照らしてみると、デラウェア州LPS法は、同法に基づいて設立されるリミテッドパートナーシップがその設立により「separate legal entity」となるものと定めているところ(201条(b)項)、デラウェア州法を含む米国の法令(※4)において「legal entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でなく、また、「separate legal entity」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではないといわざるを得ないことから、当該組織体(デラウェア州LPS)が当該外国の法令(デラウェア州法)において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かについては、明白であるとは言い難いものと考えられる。 (※4) わが国の法人に相当する法的地位を有する組織体としてまず疑いのないデラウェア州一般会社法(General Corporation Law of the State of Delaware)における株式会社(corporation)は、同法では「a body corporate」と称していることから(同法106条)、「separate legal entity」の法的地位は明確とは言えないということになるであろう。 次に、判断基準2に照らしてみると、デラウェア州LPS法は、リミテッドパートナーシップにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに(106条(a)項)、同法若しくはその他の法律又は当該リミテッドパートナーシップのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨を定めている(同条(b)項)。そのため、当該LPSは自ら法律行為の当事者となることができ、かつその法律効果が当該LPSに帰属するものということができることから、権利義務の帰属主体であると考えられる。したがって、本件のデラウェア州LPSは所得税法2条1項7号に定める外国法人に該当するといえる。 そうなると、米国における不動産賃貸事業はデラウェア州のLPSが行うものであり、当該不動産賃貸事業により生じた所得は、当該LPSに帰属するものと認められることから、日本の出資者の課税所得の範囲には含まれないものと解するのが相当である。 結論として、本件の出資者(個人投資分)は、米国の不動産賃貸事業による所得の金額の計算上生じた損失の金額を各自の所得の金額から控除することはできないということになる。 (3) 法人が投資する米国リミテッドパートナーシップのわが国租税法上の取扱い 一方、以下の図で示される、米国ワシントン州の法律に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップの持分を取得し、そこから生じた建物等の減価償却費をX社の所得の計算上損金の額に算入しているほうはどうだろうか。 〇本件投資ストラクチャー(法人投資分) この点については、上記(1)の最高裁判決が出された後の、米国ワシントン州の法律に基づいて設立されたリミテッドパートナーシップに係る事案に対する判決(東京地裁平成28年12月22日判決・税資266号順号12949)において、裁判所は、最高裁の2つの判断基準(①設立根拠法令の解釈及び②権利義務の帰属主体)に従って判断している。 まず、①(判断基準1)について裁判所は、「改正州LPS法の発効の前後を通じて、米国ワシントン州のLPS法においては、LPSは「パートナーとは別個の主体」(an entity distinct from its partners(※5))である旨のエンティティ規定が定められているところ〔州PS法25.05.050、改正州LPS法25.10.021(1)〕、ワシントン州法を含む米国の法令において「entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でなく、また、パートナーとは別個の主体とされていることをもって直ちに日本法上の法人に相当するということはできないから、「an entity distinct from its partners」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではないといわざるを得ない(下線部筆者)」と判示し、判断基準1は採用できないとしている。 (※5) 当該地裁判決で裁判所は、前記最高裁判決における「separate legal entity」の“separate”と本件判決中の「distinct from its partners」とは同義であると解される旨指摘している。 次に、②(判断基準2)に関し裁判所は、LPSの法律行為の権限等及びその効果の帰属に関する規律について、「州LPS法及び州PS法又は改正州LPS法(以下「州LPS法等」という。)の定めの内容等に照らせば、2009年(平成21年)の州LPS法の改正の前後を通じて、本件各LPSの設立根拠法令である州LPS法等は、LPSに自らの名義で法律行為をする権限を付与するとともに、LPSの名義でされた法律行為の効果がLPS自身に帰属することを前提としているものと解するのが相当である。」と判示している。 また、LPSに係るパートナーシップの持分に関する規律について、 と判示して、判断基準2は採用することができ、米国ワシントン州のLPSは外国法人に該当するものとしている。 そうなると、本件のように、LPSを通じて行われている米国の不動産事業はLPS自身が行っているものであり、集合住宅等の所有権もLPSに帰属するものであるから、そこから生じた所得はLPSに帰属することとなり、わが国の法人である株式会社Xの課税所得の範囲には含まれない。すなわち、別人格の外国法人が計上した減価償却費は、わが国の法人が所得計算上損金経理により減価償却費として計上したとしても、法人税法上損金算入が認められないというわけである。 (了)
租税争訟レポート 【第42回】 「マンション管理組合が行う収益事業に対する課税関係 (第一審:東京地方裁判所平成30年3月15日判決、 控訴審:東京高等裁判所平成30年10月31日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 〈第一審〉 【事案の概要】 本件は、マンションの区分所有者全員によって構成される団体である原告が、マンションの共用部分及び敷地の各一部を賃貸した収益に係る法人税及び復興特別法人税(以下「法人税等」という)について、当該収益は各区分所有者に即時かつ最終的に帰属し、原告には当該収益に係る所得が生じていないとして、平成24年6月期から平成26年6月期の各事業年度の法人税等についてそれぞれ更正の請求をし、平成22年6月期及び平成23年6月期の各事業年度の法人税についてそれぞれ更正の申出をしたところ、金沢税務署長から、本件各更正の請求についてはそれぞれ更正をすべき理由がない旨の通知処分を受け、本件各更正の申出についてはそれぞれ「更正の申出に対する結果のお知らせ」と題する書面をもって更正をすべき理由がない旨の通知を受けたことから、これらの取消しを求める事案である。 争点は、上掲表に示したとおりであるが、本稿では、[争点3]であるマンション管理組合が締結した賃貸契約に基づく賃貸料収入が収益事業に該当するか否かを中心に、当事者の主張と裁判所の判断を検討したい。 【マンション管理組合が取得した賃貸料収入が収益事業に該当するか否か[争点3]】 1 原告における経理処理の状況 裁判所が行った事実認定によれば、本件各賃貸借契約に基づく設置料等、賃料又は土地使用料の収入については、原告が開設したマンション管理組合理事長名義の普通預金口座に振り込まれ、原告の管理費会計における「雑収入」の科目に該当するものとして経理処理がされており、原告は、受領予定の本件各賃貸収入につき、各会計年度の予算の収入に含めるとともに、各会計年度に受領した本件各賃貸収入については、各会計年度の決算の収入に含めている。また、各会計年度に係る原告の予算案及び決算は、いずれも定期総会の決議に付され承認を受けていることが認められる。 2 被告の主張の要旨 被告である国は、人格のない社団等に対する課税について、 などを根拠として、人格のない社団等が行う不動産貸付業が収益事業とされていると主張した。さらに、人格のない社団等に対する法人税課税の主要な要件事実として、 を挙げ、収益事業に係る課税物件(所得)の帰属については、租税法上、当該収益事業を行う主体に帰属することが当然の前提となっていると主張した。 そのうえで、原告の主張に対しては、人格のない社団等に係る法人税課税制度は、人格のない社団等が私法上の資産、負債、収益の帰属主体ではないにもかかわらず、これが行う収益事業から生じた所得につき課税の対象とするものであるから、本件において、収益事業(不動産貸付業)を行う主体が原告である以上、貸付けの対象となっている共用部分又は敷地の法的所有者が本件区分所有者であることや収益の私法上の帰属は、考慮すべき事情ではないと反論した。 3 原告の主張の要旨 原告は、資産から生ずる収益を実質的に享受する者は、管理組合ではなく区分所有者となるから、本件各賃貸による収益については、原告にではなく本件区分所有者に対して課税すべきものとなると主張して、次のように根拠を提示した。 また、原告は、本件各賃貸は、管理組合である原告の事業ではなく、本件区分所有者の事業であるとも主張して、次のように根拠を示した。 4 第一審の判断 第一審の東京地方裁判所は、マンション管理組合が行う共用部分又は敷地の一部を第三者に貸し付ける行為の収益事業該当性について、以下のように一般論を提示した。 そのうえで、人格のない社団等に対する法人税課税について、次のように解釈を示した。 こうした前提に立って、本件で争点になっている各賃貸借契約の事業主体について、次のように事実認定を行った。 以上の事実認定に基づき、裁判所は、各賃貸は、権利能力のない社団である原告が団体として行う活動としての実質を有するものといえるから、法人税法上、原告が不動産貸付業という収益事業を行っていると認めるのが相当であり、このように原告が主体となって行われた収益事業から生じた収益である各賃貸収入は、原告の団体としての活動目的に沿うよう管理・保管されていることも勘案すれば、原告の所得を構成するというべきであり、原告は、本件各事業年度における本件各賃貸収入による所得について、法人税を納付する義務を負うこととなると結論づけた。 各賃貸借契約に係る賃料は対象不動産の所有者である区分所有者が取得すべきものであるという原告の主張に対して、裁判所は、区分所有法19条は、共用部分から生ずる利益については規約に別段の定めがない限り各共有者がその持分に応じて収取すると定めるにとどまり、その「収取」が即時かつ最終的であることまでを定めるものではないこと、そのことは、人格のない社団等に対する法人税課税の妨げとなるものではないというべきであることを挙げて反証して、原告の主張は採用することができないと判断した。 さらに、原告による、実質的所得者課税の原則を根拠に、各賃貸料収入については、マンションの共用部分又は敷地という資産から生ずる収益を実質的に享受する区分所有者に対して課税すべきという主張については、各賃貸収入は、区分所有法上、区分所有者全員によって当然に構成されることになっている団体である原告が、団体において定められた手続による意思形成を経て、団体名義の契約を締結して、不動産貸付業という収益事業を行ったことによって生じたものであり、原告の構成員から分離されて、原告において管理・保管され、共用部分の管理等を行うことを目的とする団体である原告の活動のために費消されることが予定されるものとなっていることから、各賃貸収入に係る収益を享受する主体は、原告を構成する個々の区分所有者ではなく、団体である原告であると評価することは十分に可能であると反証して、この主張を斥けた。 〈控訴審〉 【控訴審における控訴人の主張の概要】 《1》 共用部分、敷地等の所有権が個々の区分所有者に帰属している以上、そこから発生する収益は各区分所有者が持分に応じて収受するものであり、控訴人には一度も帰属していない。一見、控訴人が所有しているように見える管理費、修繕積立金も、代理人である控訴人に一時的に滞留している預り金に過ぎず、各賃貸収入も同様である。各賃貸借契約は、「各区分所有者が主体となって、管理者を代理人として締結したもの」である。管理組合の決議は各区分所有者の全員が委任の内容を区分所有法上の集会で合意しているだけであって、個々の区分所有者の合意であり、団体の決議ではない。 《2》 本件のような「管理組合を契約当事者とする共用部分の賃貸借契約」の事例について、管理組合に利益が帰属するものとして法人税の課税対象とされるようになったのは、平成21年11月11日付け裁決の公表が契機であり、それまでは約46年間にわたり課税されていなかった。これは、一片の裁決により遡及的に課税要件を創設したもので、租税法律主義(憲法84条)の課税要件法定主義及び遡及立法の禁止に違反する。 また、「人格のない社団等は、法人とみなして、この法律の規定を適用する」と定める法人税法3条は、「法人とみなして」にいう「法人」がいかなる法人であるのか、「法人とみなす」とは「管理組合法人」とみなして法人税法を適用することか、いつまでの、いかなる法律行為を法人として行った行為とみなすのか等が不明であり、納税者に予期できない税務リスクを生じさせるから、租税法律主義(憲法84条)の課税要件明確主義に違背する。 《3》 控訴人は、管理者を設置しているところ、管理者と区分所有者は代理人と本人の関係にあるから、管理者が管理組合の名において契約を締結する行為は、そのまま各区分所有者全員の行為として、直接各区分所有者に帰属し、管理組合に帰属することはない。 《4》 「総有」「合有」状態の共有は、管理権能と収益権能が分離されていることに特徴がある。区分所有者から総会において承認された、各賃貸収入の管理費への振替支出は、区分所有者に各賃貸収入を個別的に分配したのと同意義であり、たとえ個別的に分配又は振替支出が行われていなくとも、控訴人に滞留することを規約、総会等で承認しているのであるから、控訴人が、区分所有者の指示の下、区分所有者の収入及び支出の管理を行っているとみるべきである。したがって、契約書等の名義ではなく、真実の所有者である各区分所有者に課税するのが当然である。 《5》 仮に、各賃貸収入が控訴人の収入と把握されるとしても、税務上、事業とは、一定規模以上の収入を想定しているから、屋上のごく一部をアンテナ設置場所に賃貸していること等の収入のみである各賃貸収入は、事業的規模とはほど遠く、「収益事業を行う場合」には当たらない。 【控訴審における裁判所の判断】 控訴審である東京高等裁判所は、第一審の判決を相当とすると判断したうえで、控訴審における控訴人の主張に対する判断を、次のとおり付加した。 1 共用部分、敷地等の所有権は個々の区分所有者に帰属しており、発生する収益は区分所有者が持分に応じて収受するものであり、控訴人には帰属していない旨の主張 裁判所は、以下の事実認定に照らせば、各賃貸は、権利能力のない社団である控訴人を事業主体とするものというべきである。控訴人の主張は、採用できないと判断した。 2 平成21年11月11日付け裁決の公表を機に、管理組合を契約当事者とする共用部分の賃貸借契約について管理組合に利益が帰属するものとして法人税の課税対象とされるようになったものであり、上記裁決により新たな課税要件が遡及的に創設されたのは、租税法律主義の課税要件法定主義、遡及立法の禁止に違反する旨の主張 裁判所は、各賃貸の事業主体は控訴人であり、各賃貸が、権利能力のない社団である控訴人が団体として行う活動としての実質を有するものといえることから、控訴人は、法人税法及び法人税法施行令の規定に基づき、本件各事業年度における各賃貸収入による所得について、法人税を納付する義務を負うものであって、課税が裁決によって創設され、遡及的に適用されたとの控訴人の主張は採用できないという判断を示した。 また、法人税法3条の「法人とみなして」との規定が課税要件明確主義に違背するとの主張に対しては、人格のない社団等を法人とみなして法人税法を適用するという同条の規定の趣旨及び目的(人格のない社団等が実質的に法人と異ならない社会的活動をしている実体に照らし、法人税の課税上、法人と同様に扱い、公平な税負担の配分に繋げること)を踏まえて解釈した場合、その判断基準が不明確とはいえず、租税行政庁の恣意を許すものとはいえないから、法人税法3条の規定は、課税要件明確主義に反するものではないという判断を示した。 3 管理者が管理組合の名において契約を締結する行為は、そのまま各区分所有者全員の行為として、直接各区分所有者に帰属する旨の主張 裁判所は、 事実関係に照らせば、各賃貸借契約は、控訴人の代表者である理事長により締結されたものと認められ、管理者が各区分所有者を代理して締結したものとは認められないことを理由に、控訴人の主張は採用できないと判断した。 4 各賃貸収入の管理費への振替支出は構成員に個別に分配されたことと全く同意義であり、たとえ個別的に分配又は振替支出が行われていなくとも、控訴人に滞留することを規約、総会等で承認しているのであるから、控訴人が、区分所有者の指示の下、本件区分所有者の収入及び支出の管理を行っているとみるべきである旨の主張 裁判所は、各賃貸収入は、社団の規約にしたがって、構成員の総会における団体的承認を受けながら管理、運営されていたものと認められるから、個別的に分配され、振替支出が行われたのとは同視できないとして、控訴人の主張は、その前提を欠くものと判断した。 5 税務上、事業とは一定規模以上の収入を想定しているから、屋上のごく一部をアンテナ設置場所に賃貸している本件各賃貸収入は、事業的規模とはほど遠く、「収益事業を行う場合」には当たらない旨の主張 裁判所は、各賃貸借契約は、契約締結後、電柱、携帯電話用電気通信施設ないし移動通信用基地局設備等が設置されている限り、継続して賃料収入が得られる契約であること、その他の事実に照らせば、各賃貸は、収益事業に該当すると認められることから、控訴人の主張は採用できないと判断を示した。 【解説】 マンションの共用部分又は敷地の一部を第三者に賃貸した場合、その賃貸料収入が誰に帰属するのか、課税上の取扱いはどうなるのかをめぐっては、国税庁も質疑応答事例や事前照会に対する回答などを公表しているところであるが、訴訟にまで至ったケースは多くないようである。本件は、特に控訴審における控訴人であるマンション管理組合理事長側の主張に対して、裁判所が正面から答えたうえで、これらの主張を斥けているところが興味深い。 1 マンション管理組合の行う収益事業に対する国税庁の基本的な考え方 もともと、マンション管理組合が携帯電話基地局の設置場所を貸し付けた場合の収益事業判定については、国税庁は質疑応答事例を公表してきた。回答要旨として「収益事業たる不動産貸付業に該当します」としたうえで、その理由を以下のように説明している。 本稿で取り上げた判決も基本的には、この質疑応答事例に沿ったものであることは、これまでに見てきたとおりである。 2 平成23年改正前の国税通則法による「更正の申出」 次に、争点の1つであった、第一審原告による「更正の申出」に対して金沢税務署長が発出した「お知らせ」が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか否かについて、裁判所の判断を検討しておきたい。 平成23年改正前の国税通則法では、申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨が定められていたところ、平成23年12月2日に施行された改正によって、更正の請求期間は法定申告期限から5年に伸長されたものの、施行日より前に法定申告期限が到来した国税については、なお従前の例によるものとされることとなった。 第一審原告は、平成22年6月期及び平成23年6月期の事業年度の法人税について、更正の請求期間を経過した平成26年11月18日において、更正の申出を行った。 裁判所は、平成23年12月2日より前に法定申告期限が到来する国税であって更正の請求の期限を経過したものであっても、税務署長において増額更正ができる期間内に「更正の申出書」の提出があれば、調査により過納の税金があると認められた場合などには、減額の更正を行うという運用上の措置が執られていることを認めたものの、このような「更正の申出」は、実務上の運用であって法令上の根拠に基づくものではないから、申出を受けた税務署長に応答義務が課せられていると解することはできず、減額の更正をするように職権の発動を促すものとみるほかないものと判示を行った。 そのうえで、原告がした更正の申出についても、金沢税務署長において減額の更正をするように職権の発動を促すものにすぎないというべきであると判断した結果、更正の申出に対する金沢税務署長のお知らせは、法令に根拠のない事実上の応答にすぎず、これにより原告の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきであるとして、お知らせの取消しを求める原告の訴えは不適法であり、却下を免れないと結論づけたものである。 3 今後のマンション管理組合会計 携帯電話基地局の設置については、一時のブームは下火になったようであるが、マンションの屋上を利用した太陽光発電設備の設置に伴う売電収入、特に都市部で車の所有者が減少していることに伴い空き駐車場が発生して第三者への賃貸を行う場合など、マンション管理組合が収益事業を行うことは増加傾向にあるものと考えられる。 また、入居者の高齢化に伴って、マンションの管理費会計の収入を補うという意味からも、積極的に収益事業を検討するマンション管理組合の増加も予想される。 問題は、こうしたマンション管理組合会計について、公的な指針が存在しない点にある。国土交通省が「マンション管理標準指針」を公表したのは平成17年12月のことであった。残念ながら、同指針では、収益事業について触れた個所はなく、また、公表から10年以上を経過して、マンション管理組合を取り巻く状況は大きく変化しているにもかかわらず、改定はされていないようである。国土交通省と財務省(国税庁・金融庁)などが協議を行い、マンション管理組合会計の指針を公表するとともに、収益事業を行った場合に発生する責任について、周知をしていくことが肝要ではないかと考える次第である。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第18回】 (最終回) 「電子申告の送信結果の確認・電子納税の方法」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 1 送信結果の確認について (1) データ形式等の審査 e‐Taxシステム及びeLTAXシステムでは、申告データを受信する際に2段階でチェックを行っています。利用者が申告データを送信すると、まず、データ形式等の最低限のチェックが行われ、e‐Taxの場合には「即時通知」、eLTAXの場合には「送信結果」という審査結果が画面表示されます。利用者は、まず、この第1段階の審査結果でエラー情報が無いことを確認します。 一般的に、電子申告対応ソフト等により作成されるデータは、データ変換や電子署名の際にソフト上で事前チェックが行われているため、当該形式審査でエラーになることはほとんどないと思いますが、「即時通知」画面及び「送信結果」画面は一度表示すると再表示することができませんので、万が一エラー情報が表示された場合には、必ず画面印刷または画面保存を行って、エラー対処、データ訂正等を行う必要があります。 (2) データ内容等の審査 データ形式等の即時的審査に引き続き、「法人基本情報等の必須項目が入力されているか」、「添付された電子証明書が有効期限内で、事前登録済みのものと一致するか」などのデータ内容等の審査が行われます。 この第2段階の審査結果は利用者のメッセージボックスに格納されますので、e‐Taxの場合には「メール詳細(受信通知)」、eLTAXの場合には「受付完了通知」と呼ばれる審査結果画面を開いて、エラー情報が無いことをあらためて確認していただければ、正常に申告データが送信できたということになります。なお、エラー情報が表示された場合には、エラー原因を解消し、申告データを再作成するなどして期限内に正常データを再送信しなければ期限後申告となってしまいますので、必ず審査結果の確認を行うようにしてください。 また、データ内容等の審査結果画面は、申告データが正常に受信された証となる「受付番号」や「受付日時」も表示されていますので、従前の書面申告の場合の文書受付印の代わりになるものですが、メッセージボックス上に「メール詳細(受信通知)」及び「受付完了通知」が保存される期間は最大120日間(e‐Taxのメール詳細(受信通知)については「過去分」ボタンで表示すれば最大1,900日間表示可能)となっていますので、当該保存期間中に必要に応じて印刷、保存等を行ってください。 【e‐Tax「メール詳細」画面サンプル】 2 電子納税の方法 e‐Taxの電子納税には、事前に税務署へ届出等をした預貯金口座からの振替により納付する方法(ダイレクト納付)と、インターネットバンキング等を利用して納付する方法(登録方式及び入力方式)があります。 (1) ダイレクト納付 ダイレクト納付とは、事前に所轄税務署に「ダイレクト納付利用届出(下図参照)」を提出し、e‐Taxで電子申告等をした後に、当該納付税額を届出済みの預貯金口座から振替納税する方法で、インターネットバンキング等の契約は必要ありません。 法人税等の申告データ送信後に利用者のメッセージボックスで受信する「納付区分番号通知確認」画面の「ダイレクト納付」ボタン(下図参照)をクリックすると、「今すぐ納付するか」、「納付日を指定して納付するか」を選択して納付することができます。 (2) インターネットバンキング等 ① 登録方式 登録方式とは、税目、課税期間、申告区分、税額等の納付情報をe‐Taxに事前登録し、当該納付情報に対応する「納付区分番号」等を取得して、インターネットバンキングやATM等から納付する方法で全税目の納付に対応しています。 インターネットバンキングの場合には、ダイレクト納付のケースと同様に、法人税等の申告データ送信後にメッセージボックスで受信する「納付区分番号通知確認」画面の「インターネットバンキング」ボタン(下図参照)から実行することできます。「インターネットバンキング」ボタンをクリックして契約先金融機関のサイトにログインすると、事前登録した税目や税額等の情報が引き継がれて画面に表示されるので、内容を確認して払込処理を実行します。 また、ATMで納付する場合には、各金融機関等に設置されているPay-easy(「ペイジー」・・・税金・各種料金払込みサービス)対応のATM端末で、「納付区分番号通知確認」画面に記載されている収納機関番号、納付番号、確認番号及び納付区分の情報を入力すると、事前登録した税目や税額等の情報が引き継がれて画面に表示されるので、内容を確認して払込処理を実行します。 ② 入力方式 入力方式とは、事前の納付情報の登録は必要なく、インターネットバンキングやATM等から直接納付する方法で、申告所得税、法人税、地方法人税、消費税及地方消費税、申告所得税及復興特別所得税、復興特別法人税の納付に限って利用することができます。 入力方式の手順は、登録方式とほぼ同様ですが、事前に納付情報の登録を行わないため、納付指図をする際に、納付目的コード(税目番号、申告区分コード、元号コード、課税期間を組み合わせた番号)と納付税額を利用者自身が入力して、納付する必要があります。 eLTAXにおける電子納税についても、基本的にはe‐Taxと同様の方法でインターネットバンキング等による納付が可能ですが、ダイレクト納付については、2019年10月以降「地方税共通納税システム」のサービス開始に伴い利用可能となる予定です。 電子納税手続は、平成30年度税制改正における義務化対象手続ではありませんが、電子署名が不要な手続であることから、毎月の源泉所得税の納付や消費税の中間納付などに導入すると、納付書を手書きしたり、金融機関等へ出向く手間が無くなり、メリットを実感しやすいので、電子申告を始めるよりも先に電子納税を導入する企業もあります。 【「ダイレクト納付利用届出」サンプル】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 届出書提出後、実際にダイレクト納付が利用可能になるまで1ヶ月程度を要します。 【e‐Tax「納付区分番号通知確認」画面サンプル】 おわりに 2020年4月以後開始事業年度から、いよいよ大法人の電子申告義務化がスタートします。 電子申告の事前準備そのものには時間はかかりませんが、たとえば、3月決算法人が義務化の一事業年度前のテスト送信を検討している場合には、消費税増税前に法人税及び法人住民税等の予定申告を電子申告で行うこととなり、導入に向けた社内手続等の時間も考慮に入れると、それほど多くの時間が残されているとも言えません。 実務担当者の皆様におかれましては、是非、余裕を持ったスケジュールで対応していただければと思います。 (連載了)
〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第8回】 「もし桃太郎がきびだんごを忘れてしまったら ~資産負債アプローチという考え方」 公認会計士 石王丸 周夫 1 桃太郎がきびだんごを忘れてきてしまった! 『桃太郎』のお話を少し変えてみましょう。 桃太郎がイヌとサルを連れて歩いていると、キジがやってきました。 「桃太郎さん、きびだんごを1つ、私にくださいな!」 「いいとも。鬼退治について来るならあげよう。」 「ぜひ家来にしてください!」 「では、一緒に行こう。それで申し訳ないんだが・・・実はきびだんごを持ってくるのを忘れてしまったんだ・・・」 「えっ!!」 「きびだんごは鬼退治から帰ってきたら必ずあげるから、このまま一緒についてきてくれるかな。」 「・・・しかたがないですね。あとでいただくという約束で、鬼退治について行きましょう。」 これが桃太郎とキジの契約場面です。 この時のキジの貸借対照表を見てみましょう。 【第2回】にイヌのケースで見たものと同じですね。「きびだんご受取権」と「鬼退治同行義務」がそれぞれ生じますが、未履行のため、会計的には相殺され何もない状態です。 通常の『桃太郎』では、このあとすぐに、キジは桃太郎からきびだんごをもらいますが、今回のお話は上記のとおり、そうなりません。きびだんごをもらえるのは、鬼を退治して、宝物を無事に持って帰ってきたあとです。 2 貸借対照表から収益をとらえる考え方 ここで、宝物を無事に持って帰ってきた時点(鬼退治完了時)における、キジの財務諸表を見てみましょう。 鬼退治完了時の貸借対照表と損益計算書の上に、参考のため、契約時の貸借対照表も掲載しました。 契約時において、潜在的に負債に存在していた「鬼退治同行義務」は、キジが履行義務を果たしたことにより消滅します。同時に、潜在的に資産として存在していた「きびだんご受取権」は、履行義務の充足に伴って、きびだんごを確実に入手できる状態になり、貸借対照表上で営業未収金として顕在化します(便宜上、きびだんご1つを100円として貨幣額に換算しています)。 この段階で貸借対照表を見てみると、資産は営業未収金100円、負債は0円ということで、差額は100円。その差額は純資産です。純資産の額は、契約時の貸借対照表では0円でしたので、キジが鬼退治を履行したことによって、100円増えたことがわかります。この純資産の増分がキジの利益です。 貸借対照表に計上した営業未収金は、将来、キジにきびだんごをもたらすものです。したがって、損益計算書でこれに応ずるように収益を計上します。今回、キジはきびだんごを食べずに鬼と戦いましたので、戦いのためのエネルギー投入は0とみなして、原価は0。したがって、損益計算書においても利益は100円と計算されます。言うまでもなく貸借対照表の利益剰余金につながっています。 以上の流れから、あることが分かります。それは、収益の認識に係る話であるにもかかわらず、貸借対照表が主導するかのように損益が計上されていることです。 このように貸借対照表から収益をとらえる方法は、収益認識会計基準の極めて特徴的な考え方を示しています。 難しい用語ですが、『資産負債アプローチ』といいます。 要は、収益を損益計算書で直接とらえるのではなく、貸借対照表で権利と義務を認識するプロセスからとらえていくという考え方です。 会計処理の実務に必須の知識ではありませんが、予備知識として、上に述べた程度のことを知っていてもよいでしょう。 ▷今回のまとめ 収益の認識は、『貸借対照表の資産・負債の増減からとらえる』という考え方で説明されます。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第14回】 「事業分離の会計処理②」 -受取対価が現金等の財産のみである場合の分離元企業の会計処理- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、事業分離等会計基準における「受取対価が現金等の財産のみである場合の分離元企業の会計処理」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 分離元企業における移転した事業に係る適正な帳簿価額の算定 分離元企業では、事業分離により移転した事業に係る資産及び負債の帳簿価額は、事業分離日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した適正な帳簿価額のうち、移転する事業に係る金額を合理的に区分して算定する(事業分離等会計基準10項)。 この際、適正な帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれる(結合分離適用指針89項)。 また、【第13回】で述べたように、移転した事業について、「投資が清算されたとみる場合」と「投資が継続しているとみる場合」がある。 「投資が継続しているとみる場合」には、適正な帳簿価額の算定は、「事業分離が行われないものと仮定」して、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を適用する(結合分離適用指針90項)。 具体的には、次のように適用する。 Ⅲ 受取対価が現金等の財産のみである場合(事業譲渡など)の分離元企業の会計処理 1 子会社を分離先企業として行われた事業分離の場合 現金等の財産のみを受取対価とする事業分離において、子会社へ事業分離する場合、分離元企業(親会社)は次の処理を行う(事業分離等会計基準14項、結合分離適用指針95項、223項、225項、設例26-1)。 当該取扱いは、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も同様である(結合分離適用指針223項)。 また、当該企業結合(事業分離)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する(結合分離適用指針223項)。 分離元企業の会計処理において、現金等の財産とは、移転した事業と明らかに異なる資産が該当し、分離先企業の株式は含まれない(結合分離適用指針95項、事業分離等会計基準10項(1))。 これには、分離先企業の支払能力に左右されない資産や、分離先企業の支払能力の影響を受けるものの、代金回収条件が明確かつ妥当であり、回収が確実と見込まれる資産が含まれる。ただし、分割比率等に端数があるために生じた交付金は現金等の財産に含めないこととする。また、利益配当の代替としての交付金の部分は、受取対価には含まれない(結合分離適用指針95項)。 2 関連会社を分離先企業として行われた事業分離の場合 現金等の財産のみを受取対価とする事業分離において、関連会社へ事業分離する場合、分離元企業は次の処理を行う(事業分離等会計基準15項、結合分離適用指針96項)。 3 子会社や関連会社以外を分離先企業として行われた事業分離の場合 現金等の財産のみを受取対価とする事業分離において、子会社や関連会社以外へ事業分離する場合、分離元企業が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上する(事業分離等会計基準16項、結合分離適用指針96項)。 移転した事業に係る株主資本相当額との差額は、原則として、移転損益として認識する。 (了)
「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第3回】 「残業時間の上限規制(その1)」 -改正前後における36協定の手続きの変更点- Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明 2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から、労働基準法の改正により、残業時間に上限が設定されます。 ということは、今までは残業時間に上限はなかったのでしょうか。 実は、今までも残業時間に上限は設定されていました。しかし、法律で定められているのではなく、「36協定」という会社と従業員の間の約束事の中で決めていたのです。 今回は法改正により新たに法定された残業時間の上限規制と、それに伴い変更となった36協定の手続きについて触れ、次回では上限規制を前提とした従業員の残業時間の管理等について解説していきます。 ▷36協定とは 36協定とは、法定労働時間を超える労働(時間外労働)及び法定休日における労働(休日労働)について、そのできる範囲を会社と従業員の間で取り交わす約束事のことをいいます。この約束事を文書にして所轄労働基準監督署に届け出ることによって「時間外労働」及び「休日労働」が可能となるのです。 つまり36協定とは、従業員が「時間外労働」と「休日労働」を行うためになくてはならないものといえます。 ここでいう「時間外労働」と「休日労働」について、以下でもう少し詳しく解説していきます。 まず、「時間外労働」とは「法定労働時間」である「1日8時間」及び「1週40時間」を超えて行う労働のことをいいます。例えば、所定労働時間が9時から17時30分(休憩1時間)の会社においては、8時間を超えた18時以降の労働があてはまります。 ちなみに17時30分から18時までの間の労働も「時間外労働」ではあるのですが、8時間以内の労働となりますので「法定内時間外労働」として、「時間外労働」とは区別します。 また、「休日労働」とは、週1日の「法定休日」に働くことをいいます。例えば、土曜日、日曜日を休日とする週休2日制の会社においては、いずれか一方の休日を「法定休日」とし、もう一方の休日を「所定休日」といいます。どちらを法定休日とするのかは、就業規則等に定めることが望ましいとされています。 なお、この法定休日が定められていない場合には、「後の休日」を法定休日とすることになります。原則として、週のスタートは日曜日となっているので、土日休みの場合には、土曜日が法定休日となります。 ▷36協定における時間外労働の限度時間 36協定においては、「1日」「1日を超えて3ヶ月以内の期間」「1年」について、時間外労働ができる時間を定めることとしています。また、休日労働に関する事項として、「1ヶ月における法定休日に労働できる日数の上限」とその場合の始業・終業の時間(もしくは労働時間)を定めることとしています。 これが、法改正後は「1日」「1ヶ月」「1年」について、時間外労働ができる時間を定めることとし、「1ヶ月45時間」「1年360時間」を限度時間とすることを法律に明記しました。 また、「臨時的な特別な事情」が生じ、この限度時間を超えて時間外労働を行わせる場合(特別条項)であっても、「1年720時間」を上限とします。 なお、特別条項の適用を受けるかどうかにかかわらず、常に時間外労働と休日労働の合計は、 としなければなりません。 また、特別条項の回数は1年間に6回までと定められています。 このように、例えば、1ヶ月の時間外労働が44時間である場合であっても(特別条項の対象でなくても)、その月の休日労働は56時間未満に抑えなければ法律違反となります。 ▷36協定の書式が変わる 2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以降に36協定が有効期限を迎え、新たに締結する場合は、新しい書式を用いて所轄労働基準監督署長に届け出ることとなります。 もちろん、中小企業が経過期間中(2020年4月1日以前)であっても上限規制を適用しようとする場合には、この新書式による届出も可能となっています。また、新書式において特別条項付き36協定(後述)を締結する場合には、書式が異なるため注意が必要です。 下記の厚生労働省のサイトでは36協定作成支援ツールが公表されているので、活用してみてください(36協定の新書式のダウンロードも可能)。 なお、旧書式と新書式の大きな違いは以下のとおりとなっています。 ▷特別条項付き36協定の場合 臨時的な特別の事情があるため、「原則となる時間外労働の限度時間」を超えて時間外労働を従業員に行わせる場合については、以下の事項についても協定が必要です。 ⑤の手続きについては、労使協議の上、通告、労働者代表に対する事前申し入れ等が挙げられます。この手続きを経ないで限度時間を超えてしまうと法律違反となるので注意が必要です。 * * * 次回は、上限規制を前提とした従業員の残業時間の管理等について解説します。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例12】 「空き家となった借家契約を終了させる場合の留意点」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、父から建物を相続していますが、その建物は築後70年以上経過した木造の建物で、若干歪んでいます。当該建物には入居者はおらず、私とは面識のない方が昭和の頃から物置として利用しています。毎月、低廉な賃料を振り込んでいただいておりますが、建物も危険な状態ですので、補助金等を使って取り壊したいと考えています。賃借人との借家契約を終了させるに当たっての留意点を教えてください。 1 はじめに 借家は、居住目的のように特定の目的をもって利用されるのが通常である。ところが、居住目的で契約が締結されたにもかかわらず、現在は物置等として利用されているなど、当初の目的とは異なる目的で利用されているものが存在する。 このような借家は、老朽化しているにもかかわらず、管理自体が曖昧になっていることがあるため、建物の現在の所有者(賃貸人)が、予期せず、民事上の責任や行政上の責任を負うリスクがある。このようなリスクを避ける方法の1つは、建物の取壊しを見据えて借家契約を終了させることである。 そこで今回は、空き家になっている借家契約の終了時の留意点について解説することにしたい。 2 適用法上の留意点 借家契約や建物所有目的の借地契約については、平成4年8月1日から施行された借地借家法が適用されるところ、同法は、施行前に締結された契約であっても適用される(借地借家法附則第4条)。もっとも今回の事例のように、同法施行前にされた借家契約の更新の拒絶の通知や解約申入れについては、旧借家法が適用される(借地借家法附則第12条)。 建物が老朽化し、空き家となっている状態の借家契約の中には、平成4年以前から賃貸されているものが少なからず存在する。しかも、契約締結当時の賃貸人及び賃借人のいずれにも相続が発生している場合には、現在の契約当事者は、契約内容を把握しておらず、契約書等の証拠も有していないことがある。このような事例においては、旧借家法が適用されるとしても、契約内容を特定すること自体に困難を伴うことになる。 このような場合に、合意解約をできれば問題ないが、そうでない場合には、調停申立てや訴訟提起を見据えて、解約申入通知を契約終了日から6ヶ月前までに送付することになるものと考えられる。そこで問題となるのが、旧借家法第1条の2に規定する「正当ノ事由」の有無である。 (※) 下線筆者 3 建物老朽化事例における解約申入れの正当事由について 旧借家法第1条の2に規定する「正当ノ事由」は、借地借家法第28条に規定する「正当の事由」の解釈や判断とおおむね同様であり、賃貸人及び賃借人が建物を使用する必要性を基本的要素として、これら以外の事情(立退料の支払等)を補充的要素として判断することになる。そうすると、賃貸人に建物を使用する必要性自体がない場合には、正当事由が認められないことになるが、建物が老朽化した事例については、やや異なる考慮がされている。 まず、旧借家法下の裁判例においては、建物が倒壊する現実的な危険性がある場合や、衛生面等で周辺住民に具体的な害悪を及ぼしているような場合には、賃貸人に建物を使用する必要性がない場合であっても、正当事由の存在が認められている(最判昭和29年7月9日民集8巻7号1338頁等)。 次に、建物は老朽化しているものの、上記のような危険や害悪が生じているとまで認められない場合には、建物取壊しの必要性という賃貸人側の事情と、賃借人が建物を使用する必要性を比較衡量して判断されていると考えられる。 今回の事例においては、建物自体は、倒壊する現実的な危険があるとまでは認められないものと考えられるが、借家人は当該借家を物置・倉庫代わりとして使用しており、空き家の状態であるため、借家人が当該建物を使用する必要性は低く、正当事由は比較的認められやすいといえる。もっとも、賃貸人に建物を取り壊す必要性がある場合であっても、賃借人は、当該借家から退去して所有物等を移動させる必要があるため、立退料の支払による補充が必要になる場合もあると考えられる。 これに対し、老朽化によって入居募集を停止しており、1室以外は空き室となっているような共同住宅の場合には、空き家状態になっていることは、当該入居者との関係では重視されない。例えば、建築後75年を経過し耐用年数を大幅に経過した木造建物の明渡請求事件においては、借家人が転居することが容易でないこと等を理由に、立退料の支払なしに正当事由を認めることはできない旨判示されている(東京地判平成29年5月11日)。 なお、裁判においては、立退料を支払うことによって正当事由の存在が認められ、賃貸人にも一定の立退料の支払意思があるような場合には、立退料の支払と明渡しとが引換給付の関係になる。そのため、建物の老朽化等によるリスクを回避するために多額の修繕費用を支払う場合に比べて、立退料を支払った方が経済的合理性がある場合もあるように思われる。 4 明渡請求訴訟と正当事由の判断基準時について 賃貸人が賃借人に対して解約申入れをする場合、正当事由は、解約申入れ時に具備していることが理想的であるが、必ずしも解約申入れ時に満たしている必要はない。交渉がまとまらず、賃貸人が賃借人に対して明渡請求訴訟を提起し、その間に正当事由を具備した場合には、解約申入れは、訴訟係属中も黙示的・継続的に行われているものとして、正当事由を具備してから6ヶ月を経過した時点で借家契約は終了することになる(最判昭和41年11月10日民集20巻9号1712頁)。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第19話】 「配偶者控除と配偶者特別控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「平成30年分の確定申告で、納税者から、配偶者控除が適用できなくなった理由について質問されることが多いんですよ。」 昼休みの時間に、浅田調査官は中尾統括官に伝える。 「そうか・・・たしか平成29年度の改正で・・・」 そう言いかけると、中尾統括官は税務六法をめくる。 「所得税法83条1項では・・・次の金額が・・・配偶者控除として認められている・・・」 「・・・ということは、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えると、即、配偶者控除が適用されなくなったと・・・」 中尾統括官は条文を見ながら言う。 「中尾統括官も高額所得者ですから、配偶者控除の適用はないのでしょうね。」 浅田調査官は笑いながら尋ねる。 「私は高額所得者ではないが・・・平成30年分の年末調整では、残念ながら、配偶者控除の適用はされなかったよ。」 中尾統括官は苦笑する。 「しかし、配偶者控除もこんなふうに細分化して控除額を定めるなんて、専ら税法を複雑にしているように・・・私なんか・・・思うのですが・・・」 浅田調査官は不満そうに言う。 「地方税(住民税)も同じように・・・納税者本人の所得金額に応じて制限が設けられていて・・・地方税法314条の2第1項10号には控除金額が書かれている。」 中尾統括官は「所得税」と「地方税」の「控除対象配偶者」と「老人控除対象配偶者」の金額を表にまとめて書いた。 「確かに・・・こんなに細分化することが適正な課税になるのか・・・甚だ疑問だな。」 中尾統括官は自ら書いた机上の表を見ながら、頸を傾げる。 「さらに配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額によって・・・所得税法83条の2第1項で、もっと細かく定められています・・・」 浅田調査官は口を尖らせながら言う。 中尾統括官は苦笑しながら、税務六法を再びめくる。 「この条文は、居住者本人の3つの合計所得区分を前提とし、さらに、配偶者の合計所得金額に応じて、控除額を細かく定めている・・・所得税法83条の2第1項1号のロの規定は、このようになっているけど・・・この条文を読んでも、すぐには理解できないな・・・」 そう言って、中尾統括官は条文を読み上げる。 「例えば、本人の合計所得金額が900万円以下で配偶者が110万円だったとすると・・・」 中尾統括官は、ペンをとって計算を始める。 1,100,000円-830,001円=269,999円 50,000円×5(整数倍)-30,000円=220,000円 380,000円-220,000円=160,000円(配偶者特別控除額) 「すなわち・・・条文のカッコ書きによって計算された22万円(5万円×5-3万円)を38万円から控除することになる・・・そうすると、配偶者特別控除額は16万円になる・・・」 中尾統括官は何度も条文を読みながら、計算の結果を確認する。 「地方税にも同じような控除額の規定がありますが・・・こんなに細かく区分する必要があるのでしょうか?」 浅田調査官は、しきりに頸を傾げる。 (つづく)