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[無料公開中]空き家をめぐる法律問題 【事例12】「空き家となった借家契約を終了させる場合の留意点」

筆者:羽柴 研吾

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空き家をめぐる法律問題

【事例12】

「空き家となった借家契約を終了させる場合の留意点」

 

弁護士 羽柴 研吾

 

- 事 例 -

私は、父から建物を相続していますが、その建物は築後70年以上経過した木造の建物で、若干歪んでいます。当該建物には入居者はおらず、私とは面識のない方が昭和の頃から物置として利用しています。毎月、低廉な賃料を振り込んでいただいておりますが、建物も危険な状態ですので、補助金等を使って取り壊したいと考えています。賃借人との借家契約を終了させるに当たっての留意点を教えてください。

 

1 はじめに

借家は、居住目的のように特定の目的をもって利用されるのが通常である。ところが、居住目的で契約が締結されたにもかかわらず、現在は物置等として利用されているなど、当初の目的とは異なる目的で利用されているものが存在する。

このような借家は、老朽化しているにもかかわらず、管理自体が曖昧になっていることがあるため、建物の現在の所有者(賃貸人)が、予期せず、民事上の責任や行政上の責任を負うリスクがある。このようなリスクを避ける方法の1つは、建物の取壊しを見据えて借家契約を終了させることである。

そこで今回は、空き家になっている借家契約の終了時の留意点について解説することにしたい。

 

2 適用法上の留意点

借家契約や建物所有目的の借地契約については、平成4年8月1日から施行された借地借家法が適用されるところ、同法は、施行前に締結された契約であっても適用される(借地借家法附則第4条)。もっとも今回の事例のように、同法施行前にされた借家契約の更新の拒絶の通知や解約申入れについては、旧借家法が適用される(借地借家法附則第12条)。

建物が老朽化し、空き家となっている状態の借家契約の中には、平成4年以前から賃貸されているものが少なからず存在する。しかも、契約締結当時の賃貸人及び賃借人のいずれにも相続が発生している場合には、現在の契約当事者は、契約内容を把握しておらず、契約書等の証拠も有していないことがある。このような事例においては、旧借家法が適用されるとしても、契約内容を特定すること自体に困難を伴うことになる。

このような場合に、合意解約をできれば問題ないが、そうでない場合には、調停申立てや訴訟提起を見据えて、解約申入通知を契約終了日から6ヶ月前までに送付することになるものと考えられる。そこで問題となるのが、旧借家法第1条の2に規定する「正当ノ事由」の有無である。

【参考】旧借家法第1条の2〔賃貸借の更新拒絶又は解約申入の制限〕
建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ非サレハ賃貸借ノ更新ヲ拒ミ又ハ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得ス

(※) 下線筆者

 

3 建物老朽化事例における解約申入れの正当事由について

旧借家法第1条の2に規定する「正当ノ事由」は、借地借家法第28条に規定する「正当の事由」の解釈や判断とおおむね同様であり、賃貸人及び賃借人が建物を使用する必要性を基本的要素として、これら以外の事情(立退料の支払等)を補充的要素として判断することになる。そうすると、賃貸人に建物を使用する必要性自体がない場合には、正当事由が認められないことになるが、建物が老朽化した事例については、やや異なる考慮がされている。

まず、旧借家法下の裁判例においては、建物が倒壊する現実的な危険性がある場合や、衛生面等で周辺住民に具体的な害悪を及ぼしているような場合には、賃貸人に建物を使用する必要性がない場合であっても、正当事由の存在が認められている(最判昭和29年7月9日民集8巻7号1338頁等)。

次に、建物は老朽化しているものの、上記のような危険や害悪が生じているとまで認められない場合には、建物取壊しの必要性という賃貸人側の事情と、賃借人が建物を使用する必要性を比較衡量して判断されていると考えられる。

今回の事例においては、建物自体は、倒壊する現実的な危険があるとまでは認められないものと考えられるが、借家人は当該借家を物置・倉庫代わりとして使用しており、空き家の状態であるため、借家人が当該建物を使用する必要性は低く、正当事由は比較的認められやすいといえる。もっとも、賃貸人に建物を取り壊す必要性がある場合であっても、賃借人は、当該借家から退去して所有物等を移動させる必要があるため、立退料の支払による補充が必要になる場合もあると考えられる。

これに対し、老朽化によって入居募集を停止しており、1室以外は空き室となっているような共同住宅の場合には、空き家状態になっていることは、当該入居者との関係では重視されない。例えば、建築後75年を経過し耐用年数を大幅に経過した木造建物の明渡請求事件においては、借家人が転居することが容易でないこと等を理由に、立退料の支払なしに正当事由を認めることはできない旨判示されている(東京地判平成29年5月11日)。

なお、裁判においては、立退料を支払うことによって正当事由の存在が認められ、賃貸人にも一定の立退料の支払意思があるような場合には、立退料の支払と明渡しとが引換給付の関係になる。そのため、建物の老朽化等によるリスクを回避するために多額の修繕費用を支払う場合に比べて、立退料を支払った方が経済的合理性がある場合もあるように思われる。

 

4 明渡請求訴訟と正当事由の判断基準時について

賃貸人が賃借人に対して解約申入れをする場合、正当事由は、解約申入れ時に具備していることが理想的であるが、必ずしも解約申入れ時に満たしている必要はない。交渉がまとまらず、賃貸人が賃借人に対して明渡請求訴訟を提起し、その間に正当事由を具備した場合には、解約申入れは、訴訟係属中も黙示的・継続的に行われているものとして、正当事由を具備してから6ヶ月を経過した時点で借家契約は終了することになる(最判昭和41年11月10日民集20巻9号1712頁)。

(了)

「空き家をめぐる法律問題」は、毎月第1週に掲載します。

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筆者紹介

  • 羽柴 研吾

    (はしば・けんご)

    弁護士
    弁護士法人東町法律事務所(神戸事務所所属)

    企業法務、金融法務、自治体法務(固定資産税含む)を中心に一般個人案件にも従事。
    現在は、企業の事業承継問題、研究開発税制、不動産投資を含む空家対策問題に関心を寄せる。

    【略歴】
    京都府出身
    平成17年 立命館大学法学部卒業
    平成19年 立命館大学法科大学院修了、新司法試験合格
    平成20年 弁護士登録
    平成24年 仙台国税不服審判所(国税審判官)
    平成27年 東京国税不服審判所(国税審判官)
    平成28年 日弁連法務研究財団「国税不服審査制度に関する研究」研究員

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