〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第57回】 「借地権譲渡契約書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 借地権を譲渡することについての契約書を作成しましたが、課税文書に該当しますか。 記載金額600万円の第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)に該当する。 [検討1] 借地権とは 借地権とは、地上権又は土地の賃借権とされており、契約書において、地上権であるか土地の賃借権であるか明らかでない場合においては、土地の賃借権として取り扱われる。 したがって、第1号の2文書に該当する。 [検討2] 債権譲渡に関する契約には該当しないか 一般的に借地権譲渡契約の場合、旧債権者と新債権者が連署する方式がほとんどであるが、債務者がこれを承諾することも併せて証明する三者契約のような場合は、土地の賃借権は債権に該当するので、第15号文書(債権譲渡に関する契約書)にも該当する。 [検討3] 第1号の2文書と第15号文書に該当した場合の所属の決定 第1号の2文書と第15号文書に該当した場合の所属の決定は通則3のイの規定により、第1号の2文書に所属が決定される。 ▷まとめ 借地権の譲渡について、その内容、譲渡代金、譲渡代金の支払方法などを定めるものであり、第1号の2文書に該当し、土地の賃借権は、債権であることから、第15号文書にも該当するが、通則3のイにより、第1号の2文書に該当する。 また、本事例の契約は甲乙丙の三者契約となっているが、納税義務者(作成者)は、借地権の譲渡の当事者である甲と丙になる。乙が所持する文書も含めて、課税文書に該当し、甲と丙の連帯納税義務となる。 (了)
連結会計を学ぶ 【第17回】 「子会社株式の一部売却①」 -支配が継続するケース- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 【第16回】では、連結子会社株式の追加取得について解説したが、今回は子会社株式の一部売却(支配が継続するケース)について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 子会社株式の一部売却(支配が継続するケース) 1 基本的な会計処理 子会社株式を一部売却したが、親会社と子会社の支配関係が継続している場合には、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分を増額する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)29項、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)42項)。 この際、売却による親会社の持分の減少額(以下「売却持分」という)と売却価額との間に生じた差額は、資本剰余金として処理する(連結会計基準29項)。 当該会計処理を行うに際して次のことに注意する(資本連結実務指針42項、44項)。 ③については、親会社と子会社の支配関係が継続している状況下で、子会社株式を一部売却した場合等におけるのれんの未償却額の取扱いについては、減額する方法及び減額しない方法のそれぞれに一定の論拠があると考えられるが、のれんを減額する場合における実務上の負担や、のれんを減額しないこととしている国際的な会計基準における取扱い等を総合的に勘案して、支配獲得時に計上したのれんの未償却額を減額しないこととしたものである(連結会計基準66-2項)。 2 考え方 平成20年12月に公表された「連結財務諸表に関する会計基準」では、子会社株式を、一部売却した場合に、損益を計上することとしていた。 平成25年に改正された連結会計基準では、親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として処理することとされた(連結会計基準53-2項(1))。 これは、それまでの会計処理方法の問題点を、最も簡潔に対応する方法が損益を計上する取引の範囲を狭めることであるとも考えられたことによる(連結会計基準51-2項)。 3 投資と資本の相殺消去(非支配株主持分のあるケース) 設例を用いて、子会社株式の一部売却に関する会計処理を説明すると次のようになる。 親会社と子会社の個別貸借対照表は次のとおりとする。 ① 連結財務諸表における投資と資本の相殺消去 子会社株式を取得した時(80%の株式を購入:持分比率80%)、子会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。 連結財務諸表の作成に際して、投資と資本の相殺消去を行う。 (※) 非支配株主持分100=子会社の資本(純資産額)500(=資本金400+利益剰余金100)×非支配株主の持分比率20% ② 子会社株式の一部売却(支配が継続するケース) 子会社株式20%を120千円で一部売却した(既取得分80%から一部売却分20%を差し引き、一部売却後の持分比率は60%)。 売却に係る支払手数料等は発生していないものとする。 ③ 親会社の個別財務諸表における会計処理 (※) 100=一部売却前の子会社株式の簿価400÷80%(既取得持分比率)×20%(一部売却持分比率) ④ 連結財務諸表における会計処理 (a) 売却簿価と売却持分の相殺消去 (※1) 100=一部売却前の子会社株式の簿価400÷80%(既取得持分比率)×20%(一部売却持分比率) (※2) 一部売却に係る非支配株主持分100=子会社の資本(純資産額)500(=資本金400+利益剰余金100)×一部売却により増加する非支配株主の持分比率20% (b) 子会社株式売却益の資本剰余金への振替 ⑤ 資本剰余金が負の値となる場合 上記設例では、資本剰余金は貸方に発生しているので、資本剰余金が負の値とはなっていない。 もし、連結会計基準28項、29項及び30項の会計処理の結果、資本剰余金の期末残高が負の値になる場合には、【第16回】で解説したように、連結会計年度末において、資本剰余金を零とし、当該負の値を利益剰余金から減額することになる(連結会計基準30-2項)。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -共通編- 【第4回】 「基礎的情報の分析」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 対象会社等のデューデリジェンスの実施と並行して、基礎的な情報より対象会社等の組織やビジネス概要を理解し、分析する必要がある。これにより、事前にリスク要因を特定し、効果的かつ効率的にデューデリジェンスを実施することが可能となるだけでなく、デューデリジェンスの検出事項と整合性分析が可能となる。 特に財務・税務デューデリジェンスとの関係では、基礎的な情報の中に、財務データの変動要因の背景が含まれていることも多く、非常に重要な前提情報である。 ▷沿革 対象会社等が設立(創業)以降、現在までに発生した出来事を把握しておくことは、非常に重要である。過去に発生した出来事は財務データの変動の重要な背景となっていることが多く、特に過去の組織再編における影響は把握しておく必要がある。なお、法務デューデリジェンスにおいては、過去の組織再編そのものの法的有効性も調査の対象となる。 ▷株主構成 各年度及び調査基準日における対象会社等の株主名簿を入手し、株式種類別の主要株主名と持分比率等は、買収戦略自体に影響を与える情報である。特に株式譲渡によるM&Aの場合は、対象会社等の株主構成がM&A自体の成否、交渉プロセスに決定的な影響を及ぼす可能性がある。そのため、過去の株式発行や株式譲渡等の有効性は、法務デューデリジェンスにおける重要な調査項目の1つとなる。 各株主との緊密度や、変動がある場合には変動理由等は、把握しておく必要がある。 ▷重要な経営指標(KPI) 売上高、営業利益(率)、純資産及び従業員数などの重要な経営指標(KPI)は、過去5年~10年程度の期間において、趨勢や増減理由、沿革等から受けた影響を把握しておくことが望ましい。一般的な財務分析数値を並べて分析することはさほど重要ではなく、経営者がどのKPIを重視して事業を行っているのかが重要である。 ▷重要な会計方針の把握と変更の有無 会社計算規則(平成18年2月7日法務省令第13号)では、重要な会計方針に係る事項に関する注記等の項目に区分して、個別注記表を表示するよう要求されている。また、これ以外で、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書により会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要な事項は注記が要求されている。 ◆会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く)の主な注記事項 1 重要な会計方針に係る事項に関する注記 (a) 資産の評価基準及び評価方法 (b) 固定資産の減価償却の方法 (c) 引当金の計上基準 (d) 収益及び費用の計上基準 (e) その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項 2 会計方針の変更に関する注記 (a) 会計方針の変更の内容 (b) 会計方針の変更の理由 (c) 計算書類の主な項目に対する影響額 3 表示方法の変更に関する注記 (a) 表示方法の変更の内容 (b) 表示方法の変更の理由 4 株主資本等変動計算書に関する注記 (a) 当該事業年度の末日における発行済株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類ごとの発行済株式の数) (b) 当該事業年度の末日における自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類ごとの自己株式の数) (c) 当該事業年度中に行った剰余金の配当(当該事業年度の末日後に行う剰余金の配当のうち、剰余金の配当を受ける者を定めるための会社法第124条第1項に規定する基準日が当該事業年度中のものを含む)に関する次に掲げる事項その他の事項 イ 配当財産が金銭である場合における当該金銭の総額 ロ 配当財産が金銭以外の財産である場合における当該財産の帳簿価額(当該剰余金の配当をした日においてその時の時価を付した場合にあっては、当該時価を付した後の帳簿価額)の総額 (d) 当該事業年度の末日における当該株式会社が発行している新株予約権(会社法第236条第1項第4号の期間の初日が到来していないものを除く)の目的となる当該株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類及び種類ごとの数) 5 その他の注記 重要な会計方針は、対象会社等の財務状況を理解するうえで重要であることはいうまでもない。特に注記内容のみを把握すれば良いというわけではなく、資産の評価や引当金の計上などの具体的な計算過程、計算根拠等を把握する必要がある。 特に、会計方針の変更及び表示方法の変更の有無は、調査や分析を実施するにあたり影響を与えるので、変更内容、変更理由及び影響額は把握しておく必要がある。 ▷監査の状況 上場会社、会社法上の大会社や委員会設置会社等は、会計監査人の会計監査を受けることが義務付けられている。このような会社が対象会社等であれば、ある程度財務諸表に信頼性があるものの、中小企業が対象会社等である場合は信頼性が低いであろう。 よって、過去の粉飾決算の有無だけではなく、提示された財務数値に不正が存在する前提でデューデリジェンスを実施する必要がある。筆者らの経験においてもデューデリジェンスの実施過程において、粉飾決算(不正)が発見された事例は、多数存在する。 【実務事例4-1】 買い手候補であるストンパディー社は、異業種であるサンシャイン社の買収を検討している。サンシャイン社の属する業界では、近年同業他社において粉飾決算が発覚して大きなニュースとなった。 サンシャイン社にも同様な粉飾決算の存在の懸念から、ストンパディー社は、財務・税務デューデリジェンスの専門家の起用において、不正調査の経験を重視して登用することにした。 会計監査に限らず、対象会社等が過去に外部専門家による調査を受けたことがあれば、マネジメントレターや報告書を入手(守秘義務解除が必要な場合がある)し、過去の対象会社等の経営上の課題が改善されているか否かを確認する必要がある。 ▷商流(ビジネスフロー)、内部統制 商流(ビジネスフロー)の把握をするにあたり、関係会社を含めた事業系統図を作成し、製品や資金の流れ、主要な取引先及び取引条件の把握や利益の源泉などを分析する必要がある。また、統合後を見通して、対象会社等の主要な業務プロセス(内部統制など)を分析する必要がある。 ▷市場動向、競合他社の状況 市場動向や競合他社等の分析は、外部経営環境を理解するうえで重要である。競合他社と対象会社等のデータの乖離が粉飾決算の実行を示唆している場合もある。 * * * 次回からはいよいよ、デューデリジェンスにおける具体的な調査手続とその実務的ポイントを、調査項目ごとに順次解説していく。ただしここからは、連載の進度を早めるため、「財務・税務編」と「法務編」とに分け、両編を同時並行的に掲載するという、構成を導入する。読者は、興味のあるコースだけを選んで読み進めてもよい。 ただし、本質論を言えば、ビジネス、財務・税務、法務及びその他の各デューデリジェンスは、それぞれの結果を有機的に関連づけ、総合的に評価することによって初めて、M&Aを失敗しないための近道となる。そうである以上、一方のコースのみでは満足せず、両コースを並行してお読みいただいた方が、「より有効なデューデリジェンス」の実務の理解と修得に繋がるものと思う。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例24】 積水ハウス株式会社 「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」 (2018.3.6) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、積水ハウス株式会社(以下「積水ハウス」という)が平成30年3月6日に開示した「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」であるが、最初に次のような記載がある。 まず、平成30年1月24日に受領した調査報告書を受けて、分譲マンション用地の取引事故の経緯概要と再発防止策を報告するとしているが、この開示が行われたのは平成30年3月6日であり、調査報告書受領から1月超が経過している。時間がかかり過ぎではないだろうか。 また、この分譲マンション用地の取引事故とは、同社が、東京都内の不動産を分譲マンション用地として購入し、その代金を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受けることができなかったというものなのだが、所有権移転登記申請が却下されたのは平成29年6月9日である。それに関する「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」が開示されたのも、2月ほどが経過した平成29年8月2日とかなり時間がかかっている。 2 要約を開示 そもそも平成30年1月24日に受領したという調査報告書自体は開示されていない。今回の開示のタイトルの中に「概要」とあるように、今回の開示はその調査報告書の要約版のようなものである。要約版の開示のみにとどめるのは、「捜査上の機密保持への配慮のため」とのことである。 「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」の本文の最後にも、同様に「本件につきましては、捜査上の機密保持のため、これ以上の詳細の開示は差し控えさせていただきますので、ご了承の程宜しくお願い申し上げます。」と記載されている。 しかし、捜査上の機密保持が目的ならば、固有名詞を伏せさえすればいいのではないだろうか。開示したくない情報が記載されているのではないかと思えてくる。 3 投資家にとって必要な情報とは? 積水ハウスは、調査報告書を受領した平成30年1月24日、「代表取締役の異動に関するお知らせ」を開示している。和田勇代表取締役の退任等がその内容だが、「異動の理由」は次のように記載されている(理由についての記載の仕方としては、若干違和感があるが)。 しかし、その後、今回の開示と同じ平成30年3月6日に開示した「当社取締役会の議事に関する報道について」において、補足説明を行っている。その開示の最初には次のような記載がある(下線は筆者による)。 同社が開示が必要と考える情報の範囲は、投資家が開示が必要と考える情報の範囲と一致していない。やはり同社の開示に対する姿勢は、開示したくない情報は開示しないでおこう、というもののようである。 4 経営体制強化は可能か? 積水ハウスは、おそらく読者の誰もが知っている著名なハウスメーカーであるが、今回の開示を見ると、不動産取引におけるリスク管理の体制が驚くほど脆弱だったことが分かる。また、「代表取締役の異動に関するお知らせ」と「当社取締役会の議事に関する報道について」からは、企業統治上の問題も見え隠れする。 同社は、今回の開示において再発防止策を示した上で、平成30年3月22日には「代表取締役及び役員の異動について」を開示し、社外取締役を2名から3名に、社外監査役を3名から4名に増やすとしている。その「異動の理由」には、「経営体制の一層の強化を図るため」とだけ記載されている。もとより、社外役員を増やせば、企業統治が本当に強化されるというわけではない。これまでこの連載で、いくつかの似非企業統治優等生を取り上げてきたとおりである。 企業統治及び内部統制上の問題を抱えた同社は、それを克服できるのだろうか。形だけを整えても問題は解決しない。企業統治と内部統制が機能する上で最も重要なのは、経営者の資質と意識だと思われるが、同社の現在の開示に対する姿勢を見る限り、危うさが感じられる。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第12回】 「税務会計の分野において、 AIに『代替し得るもの』と『代替し得ないもの』」 税理士法人レガシィ 代表社員・資産税法人税務部 統括パートナー 税理士 田川 嘉朗 アーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」(1968年)における人工知能・HAL9000型コンピュータの描写に見られるように「AIが人間に代替し得るか?」というテーマに関する議論は古くからあったが、近年になって、インターネットが普及し、コンピュータが扱えるデータ量や演算速度などが飛躍的に向上し、実際に将棋や囲碁などの対局において、コンピュータがトップクラスの棋士に勝ってしまうような事例が増えてきたことなどから、より現実的な問題として、我々が考えなければならない重要な命題へと変貌を遂げてきているように思う。 例えば、症例数・手術数の多寡により、技術的な判断に優劣が生じやすい医療の世界においては、より多くの症例を持っており、さらに高度な解析技術や演算速度を備えたAIの方が、一人の優れた医師、あるいは総合病院の医師の集団などよりも、遙かに的確な判断を下せるといった近未来のイメージには一定の蓋然性があり、AIの登場によって、医療の現場は確実に変わっていくことが容易に予測し得る。 ただし、それはあくまで必要な判断材料が充分に揃った段階以降での話であり、初期段階の現場、すなわち検査項目を的確に判断し、正確な検査を行うといったアナログな業務にまで及ぶわけではない。つまり、医療におけるAIの優位性は、あくまで現場を統率する熟練医師が求められるような高度な判断を要するレベルでのみ意味を有するものであり、その判断材料を収集し、これを分類・整理して医師に提示することを主たる業務とする末端の検査などの現場においては、AIに代替し得るような業務がそれほどあるとは思えない。 * * * さて、この問題を税務会計業界に置き換えてみたらどうであろうか? 税務会計業界においても、顧客の自宅や事務所などに訪問して、原始資料を収集し、これを分類・整理して会計ソフトなどに入力して加工することを主たる業務とする末端の現場では、基本的にはデジタルに移行する前段階のアナログな作業を中心として行っているに過ぎない部分が多く、AIがその業務の多くを奪ってしまうといったことは考えにくい。 だが、資料収集後、通帳や業者の報告書など、原資資料の数値を直接読み取れたり、容易にパターン化できたりするものの集計・解析業務は容易にAIに代替され得るであろうし、現場を統率する熟練した税理士・会計士が行う高度な判断を要する業務であっても、将来、AIにその一部を奪われてしまう可能性は充分に考えられる。職業会計人の多くの判断は経験値に基づいており、その経験値がデータとしてパターン化され、AIの内部に取り込まれてしまえば、そうした判断の優劣に関しては、必ずしも人間の方が優れているということにはならないものと推測されるからである。 ただし、そこには基本的に個別性の少ないルーティンの業務や経常的な業務に関することに限られるという前提が付く。我々が扱う業務には、決して経常的とは言い難い臨時的な所得や資産評価を扱う資産税業務(譲渡・相続・贈与)があり、さらに言えば、経済の世界における価値基準や取引の形態、様々な需給バランスなどが日々変化している中で、例えば仮想通貨に関するもの、信託取引に関するものに代表されるように、行政が定める会計基準や税法などのルール自体が、必ずしも現実の取引実態に追いついていないものも少なくないからである。 つまり、AIが取り込むデータ自体が経験値として成熟していない、もしくは元となるデータの入手・分析をするのに一定のハードルが存するような分野においては、AIの業務やその判断はほとんど役に立たなかったり、その弾き出した判断が誤ったもの、あるいは近い将来有効性を失うものとなったりする危険性があるため、AIの優位性が必ずしも確定しているとは言い難く、結果として、熟練した税理士・会計士の判断の方が状況に対応し得るものとなるのではないだろうか。 * * * さて、筆者が専門としている資産税業務自体は前述した通り、元々、経常的に発生するものではないため、総論的に言えば経験値を蓄積しにくい分野と言える。それでも各論的にその個々の業務内容を見ていくと、パターン化に向く業務と向かない業務とが混在している。 例えば、相続税・贈与税の申告における単純な(個別性の低い)土地の評価業務、上場株式や公社債の評価業務、自社株式の評価業務(ただし、固有性の高い資産評価に関するものを除く)、過去の預金の入出金調査(被相続人及び親族・同族会社の過去5~6年分の取引記録の付け合わせ)業務、賃貸不動産に係る債務控除の対象となる敷金や土地・建物の評価に用いる賃貸割合のベースとなる床面積の集計業務などは、比較的容易に数値の拾い方をパターン化することが可能であるため、将来、AIに取って代わられる蓋然性は充分に考えられる。 これに対して、個別性の高い土地の評価(高低差のある土地、容積率の異なる二以上の地域にわたる土地、土壌汚染のある土地、敷地内の建物に居住用部分・事業用部分・賃貸部分が混在しているものなど)業務、脱税指向のある非協力的な顧客に税務上のリスクを伝えた上で、疑義のある親族名義の通帳や保険証券などを預かってくる業務、相続人や包括受遺者の遺産分割協議に同席して、税務上の観点や将来の生活設計の観点から様々なアドバイスを行う業務、納税に充てる資金を捻出する方法につき、想定し得る複数の案の中から顧客に合ったものを提示していく業務などは、いずれもホームメイドで行わざるを得ない部分が大きいため、基本的にAIが代替していくことは困難であろう。 * * * 最後に、AIが容易に予測し得ないものの存在について触れてこの稿を終えたい。 税務会計の世界においては、通常、経済的な利益の多寡が基本的な価値基準となるわけだが、一方で「人間は必ずしも損得勘定だけで行動するわけではない」という事実がある。 宮崎駿の映画「千と千尋の神隠し」(2001年)において、湯屋に勤める多くの者が川の神の置き土産の砂金を欲しがるのに対して、主人公の千尋は巨大化したカオナシから砂金を与えられようとしても何ら関心を示さず、これを拒絶する。同様に我々が損益分岐点を示し、明らかにこちらが有利であるといった分析をしても、全ての顧客がそうした有利な選択をするとは限らない。 人間には必ずしも合理的な構造を持っているとは言い難い〈心=内的世界〉があり、あるいは第三者には理解し得ない〈好悪の感情〉や〈地縁・血縁などによるしがらみ〉といったものに突き動かされて、敢えて不合理な選択をしてしまうケースもある。そうした〈心〉や〈感情〉や〈しがらみ〉といったものをデータ化し、パターン化し、数値化することは容易ではないものと推測されるため、AIには代替し得ない領域が必ず残ることとなる。 例えば、音楽の再生メディアとして、デジタルのCDがアナログレコードに取って代わり、さらにハイレゾ音源といったCDを遙かに上回る高音質のデータ音源が登場しても、相変わらず手間のかかるアナログレコードを聴く人々がいる。そこには合理性や利便性といったものだけでは説明のつかない人間の〈心〉が作用しているからであり、その意味において、おそらくAIには人間を完全に代替することはできないであろう。 (了)
《速報解説》 ディスクロージャーワーキング・グループ、検討中の論点に関し一般意見募集を開始 ~企業開示を巡る課題の例を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年4月20日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループは、より幅広い利用者のニーズを踏まえて議論を進める観点から、ワーキング・グループで取り扱う論点に関して、意見募集を開始した。 上記ホームページでは、意見募集にあたっての関連資料として「ディスクロージャーワーキング・グループにおける検討事項」を公表、企業開示を巡る課題の例示を行っている。 なお、意見募集期間は平成30年5月19日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「ディスクロージャーワーキング・グループにおける検討事項」で示された企業開示を巡る課題の例と具体的項目は、主に次の通り。 (了)
《速報解説》 従業員が海外へ出国した際の国際観光旅客税を 会社が負担した場合は損金算入可 ~国税庁がQ&Aを公表、取扱いを示す~ Profession Journal 編集部 既報のとおり4月18日付で関係法令が公布され、来年1月7日からの制度開始が決まった国際観光旅客税だが、国税庁ホームページではさっそく関係通達やQ&A、チラシ等を公表し制度の周知を始めている。 上記のページからは新設された「国際観光旅客税法取扱通達」や、よくある質問をまとめた「国際観光旅客税に関するQ&A」、さらに国際旅客運送事業者や出国者に向けたチラシなどを確認することができる。 この「国際観光旅客税」、名称からすると観光客だけが課税対象者のように見えるが、今回公表された下記の取扱通達第2条関係の4にもあるとおり、ビジネス目的の海外渡航でも出国者に対し定額1,000円が課せられる。 この点、従業員の海外出張の多い企業などは、企業が従業員の国際観光旅客税を負担した場合の税務上の取扱いが気になるところだ。また、定期的な海外研修・社員旅行などを実施している企業も下図のように、旅行会社を通じて航空券を手配する場合は航空運賃と合わせて国際観光旅客税を支払うことになるため、会社負担とするケースが一般的になるとも考えられる。 (※) 国税庁ホームページより 今回公表されたQ&Aの[問43]では、法人の従業員が出張や旅行などで海外に出国する際に支払う国際観光旅客税を法人が負担した場合の所得税や法人税の取扱いを明らかにした。 [問43]ではまず、法人負担の場合の所得税法上の取扱いについて、従業員の出国が法人の業務の遂行上必要なものである場合には、法人が負担した国際観光旅客税に相当する額は旅費として非課税とされるとし、従業員の出国が法人の業務の遂行上必要なものでない場合には、その従業員に対する給与として所得税の課税対象となるとした。 次に法人税法上の取扱いについては、「従業員の出国に伴い、法人が負担する「国際観光旅客税」に相当する額については、法人の業務の遂行上、必要なものか否かによって、旅費交通費やその従業員に対する給与として取り扱われますが、いずれの場合であっても法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入されます」と明記した。 さらに個人事業主が海外出張した際に支払う国際観光旅客税の所得税法の取扱いについても[問44]で解説されており、その出国が事業の遂行上直接必要であると認められる場合には、その支払った日の属する年の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入されるとした。 ただし、その海外出張の期間のうち事業の遂行上直接必要であると認められる期間と認められない期間がある場合には、「国際観光旅客税」に相当する額をそれらの期間の比率等によってあん分し、事業の遂行上直接必要であると認められる期間に係る部分の金額のみ必要経費に算入することとした。このようにプライベートの旅行を兼ねた海外出張の場合は取扱いに留意が必要だ。 (了)
2018年4月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.265を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第54回】 「所有者不明土地問題の解消に向けた施策」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇深刻化する所有者不明土地問題 近年、いわゆる所有者不明土地が増加している。この背景には、人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下や地方から都市への人口移動があると指摘されているところである。 実際、平成28年度地籍調査における所有者不明土地(不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地)の割合は約20%にも及んでいる(もっとも探索の結果、最終的に所有者の所在が不明な土地の割合は0.41%)。 こうしたことから、平成29年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2017」では、次のように指摘されていた。 〇税制上の措置の創設 所有者不明土地増加の要因の1つとして相続登記が未了のまま放置されていることがあることから、3月末に成立した所得税法等の一部を改正する法律の中で、土地の相続登記に対する登録免許税の免税措置が創設された(措法84の2の3)。 具体的には、次の2つの措置である。 〇法定相続情報証明制度の利用範囲の拡大 上記のような税制上の措置のほか、相続登記を促進する観点から、法定相続情報証明制度の利用範囲を拡大するための不動産登記規則の改正も行われる。 具体的には、現状、表題部所有者又は登記名義人の相続人が登記の申請をする場合において、法定相続情報一覧図の写しを提供したときは、当該写しの提供をもって、相続があったことを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報の提供に代えることができるとしているが、この場合に、当該写しに相続人の住所が記載されている場合には、登記官は、当該写しをもって、当該相続人の住所を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報としても取り扱って差し支えないこととする。 〇所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の創設 上述した税制措置のうち、②の前提となっている所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案は、3月9日に国会へ提出されている。 法案には、①反対する権利者がおらず、建築物がなく現に使用されていない所有者不明土地を円滑に利用するための措置(公共事業における収用手続の合理化・円滑化など)、②所有者の探索を合理化する措置(登記簿、住民票、戸籍などを調査)、③財産管理制度に係る民法の特例の創設(地方公共団体の長等が家庭裁判所に対して財産管理人の選任等を請求可能とする)、などが盛り込まれている。 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第1回】 「地域統括会社の設置に係る課税関係」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本のメーカーである当社は、世界各国で自社製品を販売しています。各国には販売子会社がありますが、今般、経営の最適化のためにグループ再編を実施し、アジア、ヨーロッパなどの地域ごとに統括会社を設置して、子会社管理機能と物流機能を集約することを検討しています。 どの国に地域統括会社を設置するかを検討するに当たって、税務上の観点から留意すべき点について教えてください。 [A] 地域統括会社の設置に当たっては、関係する各国における課税関係について総合的に検討することが重要です。 具体的には、次のような観点からの検討が重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 地域統括会社の所在地国での課税関係 地域統括会社は、子会社管理機能と物流機能を有することになるため、それに応じた所得を有することになる。そこで、当該所得に対して適用される税制、つまり法人税制について検討することが重要となる。 具体的には、所在地国の法人税率や優遇税制の有無などのほか、販売子会社からの配当や(将来的における)子会社株式の譲渡益がどのように課税の対象になるか(あるいは課税の対象から除かれるか)を検討する。 例えば、国によっては、一定の持株割合要件を満たした子会社からの配当や子会社株式の譲渡益について課税が免除されることがある(これを「資本参加免税」という)。こういった制度の有無や適用要件について検討する。 また、地域統括会社の性質上、国外に関連会社が複数存在し、関連会社間での取引も多くなるため、CFC税制(国外の関連会社の所得を合算する制度)や移転価格税制などの有無及び適用要件について検討することも必要になる。 さらに、地域統括会社から、本国における親会社その他の関連会社に対して、配当その他の支払がなされる際に、どのように源泉徴収されるかも重要な考慮要素となる。この場合、国内法と租税条約の双方を検討することが必要であり、国内法における源泉徴収の有無について検討した上で、関連する租税条約において課税の減免が受けられるかを検討することになる。 2 グループ子会社の所在地国での課税関係 一般に、グループ子会社は、その性質上、地域統括会社との間でグループ間取引をすることが多い。そこで、グループ子会社から地域統括会社に対して、配当その他の支払がなされる際、その支払に対して、どのような課税(源泉徴収)がなされるかを検討する。ここでも、子会社の所在地国の国内法のほか、関係する租税条約による課税の減免について検討することになる。 この点、配当、利子、使用料などの支払については、その支払をする子会社の所在地国において源泉徴収がなされることが多いといえる。これに対して、地域統括会社の所在地国と子会社の所在地国との間で締結されている租税条約によっては、課税の減免を受けることができる。 また、将来において、地域統括会社がグループ子会社の株式を譲渡することもあり得るが、子会社の所在地国によっては、譲渡されたのが自国の法人であることを理由に、その譲渡益に課税する場合がある。これに対しても、租税条約によっては、そのような課税について免除を受けることができる。 このように、租税条約によって、子会社の所在地国における課税の減免を受けることができるため、地域統括会社の拠点を選定するに当たって、グループ子会社の所在地国との間でどのような租税条約が締結されているかを検討することが重要である。 3 親会社の所在地国(日本)での課税関係 地域統括会社の所在地国での税負担率が低い場合、日本の親会社において外国子会社合算税制が適用される可能性がある。これが適用されると、地域統括会社の所得が親会社の所得に合算されることになるため、その適用の有無を検討することが特に重要となる。 例えば、地域統括会社の所得に対して、その所在地国で課せられる税の実効税率が20%未満の場合、一定の適用除外要件を満たさない限り、その全所得が親会社の所得に合算されることになる。また、適用除外要件を満たす場合であっても、一定の受動性所得については、なお合算の対象となり得る。この税制の適用要件は毎年のように税制改正の対象となっており、平成29年度税制改正でも大幅な見直しがなされた。常に最新の適用要件を確認した上で検討することが必要である。 なお、地域統括会社から日本の親会社に対して支払われる配当については、その多くが日本では課税されない所得となる。すなわち、日本の国内法では、25%以上の株式(又は議決権)を6ヶ月以上保有する外国子会社からの配当については、子会社の所在地国で配当が費用として控除されるものでない限り、配当所得の95%を課税所得から除外することが認められている(外国子会社配当益金不算入制度)。 (了)