2018年3月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.260を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第53回】 「会社法改正と税制との関係」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 2月28日、法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会から中間試案が公表された。 今回の中間試案では、株主総会関係(株主総会資料の電子提供、株主提案権)、取締役関係(報酬、会社補償、役員等賠償責任保険契約、社外取締役)、社債、株式交付、その他(議決権行使書面の閲覧、会社代表者の住所が記載された登記証明書など)等に関する規律の見直し・創設が提案されている。 これらの中でいくつかの項目は、税制上の取扱いにも関連する事項が含まれている。 〇役員報酬(株式報酬等) 取締役に対し、いわゆるインセンティブ報酬を付与する場合については、すでに平成28年度税制改正、29年度税制改正において、利益連動給与から業績連動給与への損金算入対象の拡大や譲渡制限付株式を役員給与とする場合の取扱いなどの手当てがなされてきた。 一方、こうしたインセンティブ報酬について、会社法における取締役の報酬等に関する規律がどのように適用されることとなるかが必ずしも明確でないという指摘もあったことから、今回の中間試案では、例えば、会社法第361条第1項第3号の「具体的な内容」として財産上の利益をどこまで特定しなければならないか明確化を図っている。 また、現行法上、募集に係る株式の発行又は自己株式の処分においては、募集株式の払込金額又はその算定方法を常に定めなければならないこととされている(会社法199①②)。そのため、取締役の報酬として株式を交付する場合には、実務上、金銭を取締役の報酬等とした上で、同項の募集を行い、取締役に募集株式を割り当て、引受人となった取締役に会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付するということがされている(いわゆる相殺構成による交付)。 なお、新株予約権については、株式とは異なり、募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることが認められている(会社法238②)が、実務上は株式の場合と同様、いわゆる相殺構成による交付が行われている。また、現行法上、新株予約権については、その行使に際して必ず財産の出資をしなければならないこととされているため(会社法236①二)、実務上、行使価額を1円にすることにより、実質的に行使に際する財産の出資を要しない新株予約権を交付するということも行われている。 こうしたことを踏まえ、今回の中間試案では、取締役の株式報酬については、募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨を募集事項として定めることができるものとし、また、新株予約権による取締役の報酬については、新株予約権の行使に際して出資を要しない旨をその内容とすることができるものとしている。 このような払込みのない株式の交付を行った場合、税法上の取扱いを検討する必要が生じる。取締役の報酬として損金を計上することができるのか、また、株式を発行するものの払込みがないことから資本金等の額を変える必要があるのかどうか、株式の交付を受けた取締役は株式の時価で給与課税を受けるのか、などが課題となる。 〇役員等賠償責任保険(D&O保険)契約 会社法上、株式会社がD&O保険に係る契約を締結することに関する規定はないことから、今回の中間試案では、契約の内容の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならないものとすることを提案している。さらに、公開会社である場合には、①保険契約の被保険者、②保険契約の内容の概要、を事業報告の内容に含めなければならないものとすることを提案している。 すでに平成28年2月24日付で、経済産業省からの照会に対して、国税庁から、会社が株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料を、①取締役会の承認及び②社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全委員の同意の取得のもと会社法上適法に負担する場合には、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要はないとの見解が示されている。 今回の中間試案に基づき会社法上の手続きが明確化された場合、役員個人対する給与課税の有無に影響がないか検討する必要がある。 〇株式交付 今回の中間試案で創設が提案されている「株式交付」とは、株式会社が他の株式会社(これと同種の外国会社を含む)をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、その譲渡人に対して当該株式会社の株式を交付することをいう。つまり、株対価M&Aのことである。 すでに平成30年度税制改正では、事業者が、産業競争力強化法の認定特別事業再編事業者(産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行の日から平成33年3月31日までの間に産業競争力強化法の特別事業再編計画について認定を受けた事業者に限る)の行ったその認定に係る特別事業再編計画に係る特別事業再編によりその有する他の法人の株式を譲渡し、その認定特別事業再編事業者の株式の交付を受けた場合には、その譲渡した株式等の譲渡損益を計上しないこととする措置が創設されている(措法37の13の3、66の2の2、 68の86)。 平成30年度税制改正の措置は、あくまでも産業競争力強化法に基づく認定を前提とした租税特別措置として、買収に応じた株主の譲渡損益を計上しないこととするものであるが、会社法上の制度として「株式交付」が創設された場合、租税特別措置法ではなく、法人税法や所得税法で規定を設けることになるのであろうか。 (了)
〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第1回】 「押さえておきたい10のポイント」 税理士 長谷川 太郎 ▷ポイント1 租税負担割合が20%以上でも合算課税の対象となる規定が創設された 「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」とのBEPSプロジェクトの基本的な考え方に基づき、合算課税の対象を外国子会社の租税負担割合(トリガー税率)により把握する制度から、所得や事業の内容によって把握する制度に改められている。 これにより、租税負担割合が20%以上の場合でも、利子・配当・使用料等の「受動的所得」しか得ていないようなペーパー・カンパニー等は「特定外国関係会社」として、経済活動基準(改正前の適用除外基準)の判定を経ずに「会社単位の合算課税」が適用されることになった(ただし、租税負担割合が30%以上の場合を除く)。 「特定外国関係会社」となる外国関係会社の概要は以下の通りである。 ▷ポイント2 改正により制度が大幅に見直されたものの骨格は維持されている 改正前の制度においては、外国関係会社のうち、「本店所在地国における課税がない場合又は租税負担割合(トリガー税率)が20%未満の会社」を「特定外国子会社等」として定義し、合算対象となる外国法人を入口で絞っていたが、今回の改正で合算課税の有無を所得や事業の内容によって把握するという考え方に改めているため、入口での租税負担割合による判定基準は設けられていない。 しかしながら、事務負担等を勘案し、適用免除基準として租税負担割合を採用しているため、実務上の手続きに関しては改正前からの継続性がある程度担保されている。 なお、前述の特定外国関係会社については租税負担割合が30%以上の場合、特定外国関係会社以外の外国関係会社は租税負担割合が20%以上の場合には、合算課税は適用免除となる。 ▷ポイント3 50%:50%の合弁会社は、外国関係会社から除外されることが明確に 外国関係会社の判定における間接保有割合が、「掛け算方式」から50%超の株式の保有を通じた「連鎖方式」に改正されている。この結果、内国法人と外国法人で出資割合が50%:50%となる合弁会社は原則として外国関係会社に該当しないこととなった。 改正前の「掛け算方式」においては、合弁会社のパートナーである相手方の外国法人の株式を内国法人や日本居住者が1株でも保有していれば外国関係会社に該当することになるため、外国法人が上場企業等の場合には実務上この取扱いが問題となっていた。 ▷ポイント4 外国関係会社の判定、納税義務者の判定及び課税対象金額の計算において実質支配基準を導入 改正前は、外国法人との資本関係を持たず、契約関係等により実質的に外国法人を支配すれば外国子会社合算税制を回避することが可能であったが、改正により居住者または内国法人と外国法人との間に実質支配関係がある場合におけるその外国法人が外国関係会社の範囲に追加されている。また、納税義務者の判定や課税対象金額の計算においても実質支配による影響を加味することとなっている。 なお、「実質支配関係」とは、 とされている。 ▷ポイント5 無税国に本店がある場合でも租税負担割合で判定 改正前は、法人の所得に対して課される税が存在しない国等に本店等を有する外国関係会社については、租税負担割合の判定をすることなく「特定外国子会社等」に該当することとされていた。改正後は、租税負担割合を使用する適用免除基準の判定において、このような規定は設けられていないため、本店所在地国において税が課されない場合であっても、租税負担割合を計算して適用免除の判定を行うこととされている。 ▷ポイント6 経済活動基準(改正前の適用除外基準)の見直し 適用除外基準が経済活動基準と改められ、一部見直し(緩和)が行われている。 主な改正内容は以下の通りである。 ▷ポイント7 推定課税制度の導入 税務調査等において、外国関係会社で租税負担割合が30%以上である事実が客観的に確認することができない場合には、実体基準及び管理支配基準を充足する(ペーパー・カンパニーに該当しない)事実を明らかにする書類等の提示または提出を求められることがあり、定められた期間内に書類等の提示または提出をしない場合には、当該外国関係会社について、特定外国関係会社に該当すると推定される(会社単位の合算課税が適用される)こととされている。 また、特定外国関係会社に該当しないことが確認され、かつ租税負担割合が20%以上である事実が客観的に確認することができない場合には、経済活動基準を充足する事実を明らかにする書類等の提示または提出を求められることがあり、定められた期間内に書類等の提示または提出をしない場合には、当該外国関係会社について、経済活動基準を充足しないと推定される(会社単位の合算課税が適用される)こととされている。 現在、法定税率ベースで税率が30%以上となっている国は限定的であり、企業側においては租税負担割合が明らかに20%以上でこれまで特に何も対応をしていなかった外国法人についても、今後はペーパー・カンパニーに該当しないことを明らかにする書面を予め準備しておく必要があると考えられる。 ▷ポイント8 受動的所得の見直し(対象範囲の拡大と複雑化) 部分合算対象所得である受動的所得(改正前の「資産性所得」)は、その対象範囲が拡大され、かつ制度が複雑化している。 改正前は資産性所得の合算課税が生じるケースはかなり限定的であり、特定外国子会社等の損益計算書等からデミニマス基準を超えないことを確認をする程度の作業で足りたケースも多くあったと思われるが、改正により対象範囲が拡大等されたことにより、合算課税の検討による事務負担が増加することが予想される。 また、部分課税対象金額が課税対象金額に相当する金額を超えるときは、改正前であれば課税対象金額に相当する金額が合算課税されることになっていたが、改正によりこの取扱いが廃止されているため、能動的所得が赤字となっている場合には、会社単位の合算課税制度よりも受動的所得の合算課税の金額が大きくなることもあり得る。 ▷ポイント9 外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用 改正後の規定は、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。合算課税を行うタイミングについては、従前通りとなっているため、内国法人における改正後の最初の適用事業年度は以下の通りとなる。 ▷ポイント10 平成30年度税制改正の内容も同じタイミングで適用開始 平成30年度税制改正(本稿執筆時点で法案未成立)において外国子会社合算税制の改正が予定されているが、適用開始時期については平成29年度税制改正と同様に外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用とされている。 改正内容は、平成29年度税制改正の内容を整備するような内容が主なものとなっているが、外国企業を買収した後に行うグループ内再編に伴い発生する株式譲渡益について、一定の要件・期間のもと、適用対象金額から控除する規定が創設されることが見込まれている。 * * * 本改正後の適用判定をフローチャートで示すと下図のようになる。 【適用判定フローチャート】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第29回】 公認会計士 佐藤 信祐 《第4章》 平成13年から平成17年までの議論 1 法人税基本通達の公表 (1) 1株に満たない端数の処理 すでに解説したように、平成14年2月15日に「法人税基本通達等の一部改正について」が公表された。山本守之氏が述べられたように、異論があるとして取り上げるようなことはほとんどなく、むしろ当然のことと思われる内容が記載されていたのがほとんどであった(※1)。 (※1) 山本守之(発言)阿部泰久ほか「企業組織再編通達をめぐって」税務弘報50巻5号61頁(平成14年)。 その後の会社法改正、グループ法人税制の導入により大幅に改正されたものもあるため、以下では、現行法上も有効なものについてのみ解説を行う。 まず、法人税基本通達1-4-2では、以下のように規定された。 すでに解説したように、1株に満たない端数の譲渡代金を株主に交付したとしても、金銭等不交付要件に抵触しないと解されていたが、本通達はこれを明らかにしたものであると言える。 さらに、(注)において、共同事業要件の1つである株式継続保有要件の判定では、1株に満たない端数について、議決権のないものに該当するとしている。株式継続保有要件では、議決権のある株式と議決権のない株式の両方を交付している場合には、議決権のある株式には株式継続保有要件が課されるものの、議決権のない株式には株式継続保有要件が課されないとしている。 本通達では、1株に満たない端数を議決権のない株式とすることで、株式継続保有要件の対象から除外することが明らかにされている。 (2) 名義株 法人税基本通達1-4-3、12-1-2、12の2-2-1では、支配関係、完全支配関係の判定において、「株主名簿又は社員名簿に記載されている株主等により判定する」ことを原則としながらも、「その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者が保有するものとして判定する」ことが明らかにされた。 この点については、結局は事実認定の問題になるため、通達で明記されたとしても、現場のトラブルが解消されるわけではないという指摘がある(※2)。 (※2) 山谷耕平(発言)前掲(※1)63頁。 (3) 従業者の範囲 法人税基本通達1-4-4、12-1-3、12の2-2-2では、「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、被合併事業等に現に従事する者をいうことを原則としながらも、これらの事業に従事する者であっても、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者について、法人が従業者の数に含めないこととしている場合は、これを認めることとしている。なお、「従事した日ごとに給与等の支払を受ける者」と規定されたため、月払い、週払いのパート、アルバイトについては、従業者に含めるべきであると考えられる。 さらに、(注)において、①出向により受け入れている者等であっても、被合併法人の合併前に営む事業、分割事業又は現物出資事業に現に従事する者であれば従業者に含まれる、②下請先の従業員は、例えば自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しない、③分割事業又は現物出資事業とその他の事業とのいずれにも従事している者については、主として当該分割事業又は現物出資事業に従事しているかどうかにより判定することがそれぞれ明らかにされている。 ただし、上記②について、平成14年当時では、派遣社員についても従業者から除外されるのではないかという議論があった(※3)。これは、派遣社員という形態が新しく、国税庁も現状を認識していなかったためであると思われる(※4)。この点については、平成14年4月4日に公表された「平成14年2月15日付課法2-1「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明について(情報)」では、派遣社員を従業者に含めることが明らかにされている。 (※3) 山谷耕平(発言)前掲(※1)64-65頁。 (※4) 阿部泰久(発言)前掲(※1)65頁。 なお、上記①との関連により、同通達1-4-10において、 と規定された。分割法人から分割承継法人に出向したということは、分割承継法人の従業者になったことを意味するからである。 実務上、分割法人と分割承継法人との間の給与体系が異なることから、転籍ではなく、出向にしたいというニーズが強いが、本通達により従業者引継要件に抵触しないことが明確にされている。 (4) 主要な事業、売上金額等に準ずるもの 法人税基本通達1-4-5、12-1-3、12の2-2-2では、 と規定され、同通達1-4-6では、 と規定された。 これだけだと、あまり意味のない通達のように見えてしまうが、同通達1-4-6(注)において、 と規定されていることに注目したい。 条文上、事業規模要件の判定は、「若しくは」と規定されていることから、いずれか一の指標で判定することは明らかであるが、通達において、そのことを確認したものと思われる。 * * * 次回では、法人税基本通達1-4-7以降について解説を行う予定である。 (了)
「使用人兼務役員」及び「執行役員」の税務をめぐる考察 【第6回】 「執行役員に関する税務上の留意点②」 ~所得税基本通達30-2の2について~ 税理士 大塚 進一 今回は、所得税基本通達30-2の2《使用人から執行役員への就任に伴い退職手当等として支給される一時金》を見ることにより、執行役員制度の違いによって生じる差異から、執行役員は使用人か役員かについて、再度確認してみたい。 1 使用人から執行役員への就任に伴う退職金の取扱い ここまで述べてきたように、一般的に執行役員は使用人とされている。しかし、税務上は直ちに使用人とは言いきれず、役員であるとも言えない。そのあたりを本通達から読み解いていく。 執行役員制度を導入する場合、その執行役員との契約には委任契約と雇用契約がある。この契約の違いによりその執行役員がみなし役員とされることはないが、使用人から執行役員への就任による退職金の打ち切り支給に関しては差があり、(所基通30-2の2)において、以下のように取り扱われている(下線筆者)。 ここで執行役員との契約を「委任契約の場合」と「雇用契約の場合」とに分けている論拠は、「所得税基本通達30-2の2《使用人から執行役員への就任に伴い退職手当等として支給される一時金》の取扱いについて(情報)別紙」(以下、「所基通30-2の2情報」と略す)に詳しいので、順次見ていくことにする。 (a) 委任契約の場合 退職とは、 とされており(最高裁昭和58年12月6日判決)、その使用人から執行役員への就任が退職とみなせるか判断は、それぞれの執行役員制度に応じて、最高裁判決でいう「特別の事実関係」の有無によることとしている。 そこでこの通達要件を、次のように解説している。 よって、本通達要件を満たす執行役員制度では、その使用人から執行役員への就任について、単なる従前の勤務関係の延長ではなく「特別の事実関係」があると認められる。このため、打切支給される退職給与については、税務上も退職所得として取り扱うこととしている(所基通30-2の2情報【解説】)。 (b) 雇用契約の場合 執行役員が雇用契約の場合は、使用人から執行役員へ就任したとしても、雇用契約は継続しており、会社との契約関係には変動はない。たとえ役員に準じた報酬、福利厚生、服務規律等であっても、労働法上は労働者のままであり、労働者として保護を受けることとなるので、勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があるとは、一般的には認められない。すなわち、雇用契約である執行役員は、地位や役職が変更しただけで使用人には変わりないと言える。 よって、その執行役員就任時に支払われる退職手当は、原則として、給与所得(賞与)として取り扱われる(所基通30-2の2情報Q&A[問1])。 2 所基通30-2の2(情報)のうち執行役員と使用人に関して言及しているもの (a) 「取締役から執行役員へ」又は「執行役員から取締役へ」就任した場合の退職金 本通達要件を満たす執行役員制度において、執行役員は、会社法、法人税法及び所得税法上はあくまでも使用人であって役員ではないのに対し、取締役は会社法において各種の権限や義務が規定された純然たる役員であることから、①取締役から執行役員への就任、あるいは、②執行役員から取締役への就任については、いずれもその者の法令上の地位に明確な変動があるとして、原則いずれも退職所得として取り扱うこととしている。 ただし、執行役員と取締役との間の就任・退任を繰り返すような場合において、勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があると認められない場合は、たとえ打切支給するものでも、退職所得ではなく給与所得(賞与)として取り扱うこととなる(所基通30-2の2情報Q&A[問2])。 (b) 使用人の最上級職との位置付けから本通達要件を満たす執行役員制度に変更した場合 当該執行役員の位置付けは、役員に準じたものとされているものや使用人の最上級職とされるものなど区々となっている、としており、使用人の最上級職との位置付けである執行役員は、会社とは雇用契約の関係にあり、労働法上の労働者としての地位を有していることから、使用人から当該執行役員に就任したとしても、一般的には労働条件等に重大な変動があって「特別の事実関係」があるとは認められない。 これに対して、本通達に定める要件を満たす執行役員制度の下での執行役員は、会社とは委任契約の関係にあり、服務規律等も役員に準じたものとなっているため、労働基準法等の適用においても自ずと制限があり、使用人と当該執行役員とでは、労働条件等に重大な変動があって「特別の事実関係」があると認められる。 したがって、使用人の最上級職との位置付けである執行役員から上記通達に定める要件を満たす執行役員制度の執行役員に就任させた場合には、勤務関係の性質、内容、労働条件等に重大な変動があって従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があるといえるので、打切支給する制度改変までの勤続期間に係る退職手当は、退職所得として取り扱って差し支えないとしている。 なお、執行役員が使用人としての最上級職との位置付けのため、執行役員就任時に退職金を支給していない場合において、取締役等の役員に就任した時に使用人期間及び執行役員期間を通算して打切支給する退職金については、本通達により退職所得として取り扱われる(所基通30-2の2情報Q&A[問3])。 (c) 使用人としての職制上の地位を有する執行役員に就任させた場合 使用人との雇用契約をいったん解除し、新たに委任契約を締結して執行役員に就任させ、その業務執行範囲を明確にするため、「執行役員営業部長」といった使用人としての職制上の地位も付与する場合、 執行役員が使用人としての職制上の地位を有する場合であっても、本通達に定める要件を満たす執行役員制度の下での執行役員であれば、会社との法律関係、労働条件等及び会社に対する責任の違いから、一般の使用人とは労働条件等に重大な変動があって特別の事実関係があるといえる。 よって、打切支給される執行役員就任前の勤続期間に係る退職手当等は、原則として、退職所得として取り扱って差し支えないとしている(所基通30-2の2情報Q&A[問5])。 (d) 所基通30-2の2の要件を満たす執行役員はみなし役員に該当するか 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る)以外の者でその法人の経営に従事しているものは、税務上役員とされる。ところで、執行役員制度とは、取締役会の担う①業務執行の意思決定と②取締役の職務執行の監督、及び代表取締役等の担う③業務の執行のうち、この③業務の執行を「執行役員」が担当するというものである。 この執行役員制度の下での執行役員は、一般に、代表取締役等の指揮・監督の下で業務執行を行い、会社の経営方針や業務執行の意思決定権限を有していないことから、「法人の経営に従事しているもの」には該当しないものと考えられる。 したがって、本通達に定める要件を満たす執行役員制度の下での執行役員が、直ちにみなし役員に該当するとは限らない。なお、個々の執行役員制度によっては、その執行役員が会社の経営方針や業務執行の意思決定に参画することも予想され、その場合にはみなし役員に該当することとなる(所基通30-2の2情報Q&A[問7])。 3 所基通30-2の2の要件を満たす執行役員は使用人か 上記通達の解説である「所基通30-2の2情報」を見ていく限り、本通達要件を満たす執行役員が、使用人であるか否かがはっきりしない。 (a)では「執行役員は、会社法、法人税法及び所得税法上はあくまでも使用人であって役員ではない」と執行役員を区別せず使用人としているのに対し、(b)では「使用人の最上級職である執行役員は、会社とは雇用契約の関係にあり、労働法上の労働者としての地位を有し」、「本通達要件を満たす執行役員は、会社とは委任契約の関係にあり、使用人と当該執行役員とでは、労働条件等に重大な変動」と執行役員でも制度設計により、同様にできないとしており、(c)においても「本通達要件を満たす執行役員は、一般の使用人とは労働条件等に重大な変動」として一般の使用人とは異なる言及をしている。 しかし、(d)におけるみなし役員の判定では、使用人であるかどうかには直接言及せず、「法人の経営に従事している」ことのみで行っている。すなわち「法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事しているものは、税務上役員とされる。」としたところで、「一般に執行役員は、意思決定権限を有していないことから、「法人の経営に従事しているもの」には該当しない」ので「直ちにみなし役員に該当するとは限らない。」と結論付けしている。 このことから、執行役員なら直ちに使用人であるとの断定はできず、個々の判断が必要となる。 執行役員の地位により税務上の取扱いが違うため、執行役員の制度設計において、その位置づけに注意する必要がある。 以上をまとめると、おおよそ次の〈図6-1〉のようになると考えられる。 〈図6-1〉 「執行役員就任時の退職金」及び「みなし役員の判定」 (了)
相続税の実務問答 【第21回】 「遺産分割が調ったことによる相続税額の調整 (更正の請求をしない場合)」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出期限において、遺産が未分割であったため、法定相続分に従って遺産を取得したものとして相続税の申告をしていた場合に、その後の遺産分割により、法定相続分よりも少ない財産しか相続しないこととなり、遺産分割の結果に基づいて計算した相続税額が、当初申告において計算した相続税額よりも少なくなるときには、相続税の更正の請求を行うことにより、差額の相続税額の還付を受けることができます。 しかし、更正の請求をするかどうかは、その相続人の任意の選択に委ねられており、更正の請求を行わずに、当初の申告において計算した相続税額を各相続人の最終的な相続税額としたとしても、贈与税の課税の問題が生じることはありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産が未分割の場合の申告 相続税の申告書の提出期限までに、相続人間で遺産の分割がされなかった場合には、各相続人が民法に規定する相続分の割合(法定相続分)に従って遺産を取得したものとして、課税価格を計算して、相続税の申告をすることとされています(相法55)。 その後、遺産の分割が行われ、各相続人が遺産分割により取得した財産の額を基に計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した課税価格と異なることとなった場合には、遺産分割の結果に従って相続税の額の再計算をし、これに基づいて納税者が修正申告書を提出すること、もしくは更正の請求をすること、又は税務署長が更正処分若しくは決定処分を行うことができることとされ(相法55ただし書き)、相続税法にはその手続きが定められています。 2 遺産分割に伴う相続税額の調整 申告書の提出期限において、遺産が分割されていなかったことから、法定相続分に従って課税価格の計算をして相続税の申告が行われた場合において、その後、遺産分割がされ、遺産分割によって取得した財産の額を基に再計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した相続税の課税価格より小さくなったことにより、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときには、遺産分割があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、相続税の更正の請求を行うことができることとされています(相法32①一)。 また、遺産の分割が行われ、遺産分割によって取得した財産を基に計算した課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した相続税の課税価格より大きくなったことから、相続税額に不足が生じることとなったときには、修正申告書を提出することができることとされています(相法31①)。 このような相続税法の定めから、遺産分割の結果、既に行った申告に係る相続税額に過不足が生じることとなった場合において更正の請求や修正申告をするかしないかは、各相続人の任意の選択に委ねられているといえます。現行の相続税法がいわゆる「法定相続分課税方式」を採用しており、遺産分割がどのように行われたとしても、原則として相続税の総額に異動は生じないため、相続税法は相続税の再計算とそれに応じた調整の手続きを行うことを納税者の義務とはしていないものと考えられます。 したがって、更正の請求や修正申告を行わずに、当初の申告に係る各相続人の相続税額をもって、その相続人の最終的な相続税額とすることもできることとなります。 (注)遺産分割の結果、既に行った申告に係る相続税額が過大となった相続人から、相続税法第32条第1項第1号の規定による更正の請求が行われ、この更正の請求に基づき、税務署長が当該相続人の相続税額について減額更正を行った場合には、税務署長は他の相続人の相続税額について、更正処分を行うこととなります(相法35③一)。 3 相続税額の調整の手続きを行わない場合 上記2のとおり、遺産分割の結果生じた相続税額の過不足について、更正の請求や修正申告の手続きによる調整をすることなく、分割以前に行われた申告や更正処分等による相続税額が各相続人の最終的な相続税額となった場合に、当該過不足の調整をしなかったことにより、相続税額が過大となった者から相続税額に不足を生じることとなった者への贈与(みなし贈与)が生じることとなるのではないかとの疑義が生じます。 しかしながら、遺産分割前において確定している各相続人の相続税額は、相続税法等の規定により適法に確定した税額であり、また、遺産分割後に更正の請求又は修正申告による相続税額の調整の手続きは任意であり、これらの手続きを採らなかった場合には、遺産分割前に確定している各相続人の相続税額が、その者の相続税法等に基づく相続税額ということになり、一方の相続人の相続税額を他方の相続人が負担したという関係は生じません。したがって、贈与税の課税の問題は生じないと考えられます。 4 ご質問の場合 遺産分割の結果を基に相続税額の再計算を行うとすれば、法定相続分(2分の1)を下回る5分の2相当の遺産しか取得しなかったあなたにとっては、当初申告に係る相続税額は過大であり、反対に5分の3相当の遺産を取得した弟さんの相続税額には不足が生じることとなりますが、あなたが更正を行うかどうかは任意ですし、仮に更正の請求を行わないとすれば、法定相続分に従って遺産を取得したものとして既に行った相続税の申告に係る相続税が、あなたと弟さんの適法に確定したそれぞれの相続税額ということになります。 したがって、あなたが相続税の更正の請求を行わないとしても、弟さんへの贈与税の課税の問題は生じません。 (了)
平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回) 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 Ⅸ 収益認識 日本では、現行、収益認識に関する規定としては、企業会計原則の損益計算書原則(売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る)及び企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準(以下、「工事基準」という)」、企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針(以下、「工事指針」という)」、実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「ソフト実務」という)」に規定があるだけで、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていない。 一方、IASB及びFASBは、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、IASBから平成26年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表されている。 (注) その後、平成28年4月12日にIFRS第15号の明確化が公表されている。IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から適用される 。 これらの状況を踏まえ、ASBJでは、平成27年3月に開催された第308回企業会計基準委員会において、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後、平成28年2月4日に、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表した。 その後、意見募集に寄せられた意見を踏まえ、検討を重ね、企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)(以下、「収益認識基準案」という)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「収益認識指針案」という)」を公表した。 公開草案に対するコメント募集は平成29年10月20日に終了し、「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」は、平成30年3月までに確定する予定である。 ここでは、収益認識基準案及び収益認識指針案の概略を解説する。 1 開発に当たっての基本的な方針 収益認識基準案及び収益認識指針案の基本的な方針は以下のとおりである。 (1) 基本的な方針 収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、IFRS第15号と整合性を図る便益の1つである財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準を定める。 これまで日本で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加する。 (2) 連結財務諸表における開発の方針 IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れる。 適用上の課題に対応するために、代替的な取扱いを追加的に定める。代替的な取扱いを追加的に定める場合、国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとすることを基本とする。 (3) 個別財務諸表における開発の方針 基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定める。 2 適用範囲 収益認識基準案及び収益認識指針案は、以下のものを除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(収益認識基準案3)。 (※1) 固定資産売却損益は適用対象には含まれない(収益認識基準案101)。 (※2) IFRS第15号における契約コスト(契約獲得の増分コスト及び契約を履行するためのコスト)については、収益認識基準案及び収益認識指針案の範囲に含まれていない(収益認識基準案102)。 (※3) 工事基準、工事指針、ソフト実務は廃止される(収益認識基準案86)。 3 収益認識のための5つのステップ 収益認識基準案及び収益認識指針案では、以下の5つのステップに従って収益を認識する。 4 適用時期等 (1) 適用時期 適用時期は以下のとおりである(収益認識基準案78~80)。 (2) 会計方針 会計方針の取扱いは以下のとおりである(収益認識基準案81) ① 原則的な取扱いの場合の実務上の負担を軽減する取扱い 原則的な取扱いに従って遡及適用する場合、以下の(ⅰ)から(ⅳ)の方法の1つ又は複数を適用することができる(収益認識基準案82)。 ② 容認処理の場合の実務上の負担を軽減する取扱い 容認処理を採用する場合、以下の方法を適用することができる(収益認識基準案83)。 Ⅹ 税効果会計の改正 日本における税効果会計に関する会計基準として、平成10年10月に企業会計審議会から「税効果会計に関する会計基準(以下、「税効果基準」という)」が公表され、当該会計基準を受けて、日本公認会計士協会から実務指針が公表された。 これらの会計基準及び実務指針に基づきこれまで財務諸表の作成実務が行われてきたが、ASBJは、基準諮問会議の提言を受けて、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)について、ASBJに移管すべく審議を行った。 このうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行うこととし、主として開示に関する審議が行われた。 そして、平成30年2月16日に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等がASBJから公表された。 改正前の日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針と改正後のASBJにおける会計基準等の関係は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【出所:ASBJ「企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表」P8に筆者加筆】 企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(以下、「税効果基準改正」という)」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(以下、「税効果指針」という)」、企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針(以下、「中間税効果指針」という)」が新たに作られ、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収可能性指針」という)」が改正されている。なお、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」は「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に統合されている。 1 表示・注記事項の取扱いの見直し 繰延税金資産及び繰延税金負債の表示方法等及び注記について、以下の3つについて見直しが行われている。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法 税効果基準改正では、税効果基準の「第三 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法」1及び2が、以下のとおり改正されている(税効果基準改正2)。 (2) 評価性引当額の内訳に関する情報 税効果基準注解(注8)が以下のとおり、改正されている(税効果基準改正4)。 ① 評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるもの 評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるものとして、以下の2つが挙げられている(税効果基準改正32、税効果指針98)。 ② 評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断 評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断として、以下の2つの観点が挙げられている(税効果基準改正30)。 なお、税効果基準改正では、具体的な重要性の数値基準を設けていない。企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、 税効果基準改正30(上記、表参照)の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正31)。 ③ 評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合における変動内容の記載内容 評価性引当額の変動の内容は企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該主な変動内容にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正では、特段定められていない(税効果基準改正35)。したがって、各企業が適切に判断して、記載する。 ④ 評価性引当額の変動内容の記載の要否に関する重要性の判断 評価性引当額の変動の主な内容(税効果基準改正4注解(注8)(2))については、主として税負担率の分析に資する情報であることを踏まえると、「重要な変動が生じている場合」には、例えば、税負担率の計算基礎となる税引前純利益の額に対する評価性引当額(合計額)の変動額の割合が重要な場合が含まれる。ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、企業の状況に応じて適切に判断する。 なお、税負担率と法定実効税率との間に重要な差異がなく、税率差異の注記を省略している場合(例えば、当該差異が法定実効税率の100分の5以下である場合)、当該変動の主な内容を注記することは要しない(税効果基準改正36)。 (3) 税務上の繰越欠損金に関する情報 税効果基準注解(注9)が新規に追加されている(税効果基準改正5(注9))。 繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別の数値情報、重要な繰延税金資産を計上している場合の回収可能と判断した主な理由(定性的な情報)を注記する。 ① 税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載する場合の年度の区切り方 税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載するにあたっては、主として株価予測を行う財務諸表利用者が将来2年から5年後の予想財務諸表を用いて税負担率の予測を行っていることを踏まえ、5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的短い年度に区切ることが考えられる。一方、企業における税務上の繰越欠損金の発生状況は様々であり、また、在外子会社の税制は多様であるため、繰越期間の年数や有無は様々であると考えられる。 そのため、年度の区切り方については、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるため、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正42)。そのため、各企業において、適切に判断する。 また、連結財務諸表作成会社において、繰越欠損金の「残高」の情報について親会社が子会社から入手していることは今までも多かったと考えられるが、今後は、子会社も含め、税務上の繰越欠損金の「繰越期限別」の情報を入手する必要がある。 ② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載内容 回収可能と判断した主な理由は、企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該理由にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正46)。したがって、各企業において、適切に判断する。 ③ 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載の要否に関する重要性の判断 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由は、主として繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資する情報であることを踏まえると、「税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合」における「重要な」場合には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合が重要な場合が含まれる。 ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、上記の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正47)。 【注記例】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【出所:ASBJ「「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表」P12に筆者加筆】 (4) 個別財務諸表における注記事項 財務諸表利用者の分析において、連結財務諸表における注記事項の理解に重要な影響が生じることは比較的限定的であると考えられるため、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において以下の注記事項の記載を要しない(税効果基準改正50)。 したがって、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報(上記(2)参照)のみを追加する(税効果基準改正51)。 2 会計処理の見直し 会計処理についても、以下の3つについて見直しが行われている。 (1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い 改正前では、個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異(会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合を除く)について、一律、繰延税金負債を計上することになっていたが、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社又は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上するという取扱いに見直している(税効果指針8(2))。 (※) 会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合や組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合の取扱いについては、改正はない。 (2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い 改正前は、(分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとなっていたが、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損(※)について、企業が当該子会社を精算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合に当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられるため、「原則として、」繰延税金資産の全額について回収可能性があるというように改正されている(回収可能性指針18、67-4)。 (※) 完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号)にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、一時差異(将来減算一時差異)に該当すると整理している(回収可能性指針67-2、67-3)。 (3) 投資時における子会社の留保利益の取扱い 投資「時」における子会社の留保利益の取扱いを引き継いでいない(税効果指針24、113)。なお、投資「後」における子会社の留保利益の取扱いは従前どおりである。 3 適用時期 適用時期は以下のとおりである(税効果基準改正6、7、税効果指針65、回収可能性指針49、中間税効果指針22、23)。 ▷補足POINT なお、【第2回】の「Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理」「Ⅴ 仮想通貨の会計処理(3月確定予定)」及び今回の「Ⅸ 収益認識(3月確定予定)」「Ⅹ 税効果会計の改正」で解説したとおり、新たに適用される会計基準がある。そのため、期末時点では、公表されているが、適用自体が、翌期となる場合、「未適用の会計基準」の注記が必要となる(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12)。 ⅩⅠ 監査報告書の透明化 日本では、今まで株主等に対して、会計監査の内容等に関する情報提供は充実していたわけではない。一方、諸外国では、監査報告書の透明化を進めるべく、制度変更が行われている。 そして、日本でも平成29年6月26日に金融庁より「「監査報告書の透明化」について」が公表され、「監査報告書の透明化」へ向けて議論が本格的にスタートしている。 そして、監査報告書の透明化の最大のポイントは、「KAM(Key Audit Matters)」である。 (注) 以下では、既に制度変更が行われている国際監査・保証基準審議会(IAASB)の基準をベースに解説している。 1 KAMとは 国際監査・保証基準審議会(IAASB)におけるKAMの定義、決定方法、監査報告書の記載事項は以下のとおりである。 2 監査報告書 現在は、無限定適正意見の場合、定型的な記述しか監査報告書に記載されないが、KAM導入後は、定型的な記述にプラスして、個々の会社ごとに監査上、特に重要なポイントが記載されることになる。 言い換えると、監査報告書が会社ごとに異なるということである。 3 KAMの具体的な記載例 海外の事例であるが、KAMと決定した理由の記載事例として、以下がある。 【出所:企業会計審議会第38回監査部会(2017年10月)配布資料1「「監査報告書の透明化」について(金融庁)」P15】 また、同様に海外の事例であるが、監査人の対応の記載事例として、以下がある。 【出所:企業会計審議会第38回監査部会(2017年10月)配布資料1「「監査報告書の透明化」について(金融庁)」P16】 4 適用時期 イギリスでは、2012年10月1日以後開始する事業年度から適用されている。また、EUでも2016年6月17日以後開始する事業年度から適用されている。そして、アメリカでも大規模早期提出会社(時価総額7億ドル以上の会社)は、2019年6月30日以降に終了する事業年度から適用され、それ以外のSEC登録会社は、2020年12月15日以降に終了する事業年度から適用されることが決定されている。 日本では現在、議論が行われているが、適用時期は決まっていない。また、対象も金融商品取引法監査のみとするか、会社法監査まで広げるか決まっていない。 (連載了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第28回】 「またしても「個別B/Sのその他利益剰余金」でミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例28-1】 表示すべき項目が抜け落ちている。 【事例28-1】は、計算書類の貸借対照表のうち「純資産の部」を抜粋したものです。この「純資産の部」には、抜け落ちている項目が1つあります。 どこだかわかりますか? 2 抜け落ちていたのはこの項目 抜け落ちているものを見つけるのは結構大変です。記載されている事項の正誤をチェックするのと違って、記載されていない事項に気がつくには、正しい姿がしっかりと頭に入っていなければなりません。 実務では、あらかじめ「抜け落ちている項目が1つある」と教えられているわけではありませんので、なおさらです。 ではさっそく、答えを見てみましょう。 抜け落ちていたのは、以下のとおり、「その他利益剰余金」でした。 【事例28-1】では、利益準備金のすぐ下に繰越利益剰余金が表示されていましたが、正しくは上の正答のとおり、利益準備金の次にその他利益剰余金を表示し、その他利益剰余金の内訳科目として繰越利益剰余金を表示します。 この事例では、内訳科目が1科目なので「その他利益剰余金=繰越利益剰余金」となり、その他利益剰余金をわざわざ表示する必要性を感じないかもしれませんが、その他利益剰余金は省略不可の項目なのです。 3 「その他利益剰余金」省略不可の根拠 その他利益剰余金が省略不可である根拠は、会社計算規則にあります。 会社計算規則76条5項により、その他利益剰余金は、利益剰余金の内訳項目として区分表示しなければならないとされています。また、同条6項では、その他利益剰余金は適当な名称を付した項目に細分することができるとあり、【事例28-1】では、繰越利益剰余金がこの細分した項目に該当します。 この条文を素直に読む限り、細分した場合に「その他利益剰余金」を表示しなくてよいとは受け取れませんので、【事例28-1】は誤りということになります。 4 うっかりミス多発箇所 【事例28-1】をご覧になった時、「またこの項目か」と思った方はいませんでしたか。 貸借対照表の純資産の部の中の「その他利益剰余金」は、ミスの多発箇所です。本連載でも【第1回】及び【第2回】で「その他利益剰余金」のところで起きたうっかりミスの事例を紹介しています。 【第1回】では、その他利益剰余金の数字が前期数値となっている事例を紹介しました。そして【第2回】は、その他利益剰余金の数字欄が未入力(空欄)になっている事例でした。 今回はこれに加えて、その他利益剰余金の項目そのものが抜け落ちている事例を紹介しましたが、もう1つ事例を紹介します。 【事例28-2】 繰越利益剰余金が1マス下がっていない。 繰越利益剰余金は、その他利益剰余金の内訳科目なので、その他利益剰余金よりも1マス下げてあげた方が見やすい表示になります。 そうしなければならないというルールは特にありませんが、実務上の常識のようなものです。【事例28-2】の状態だと、利益剰余金の内訳科目として、3つの科目(利益準備金・その他利益剰余金・繰越利益剰余金)が並列しているように受け取られる可能性があります。 以上のように「その他利益剰余金」は何かとミスが起こりやすいので、ミスがないかどうか必ず確認すべきところです。 なお、今回取り上げた【事例28-1】と【事例28-2】については、ミスを防げなかった要因が同じです。 それは、「その他利益剰余金の内訳科目が1つだけしかない」ということです。 その場合、今回のような事例のミスがあっても気がつきにくいです。 内訳科目が1つしかない場合は、こうしたミスがないかチェックしてみてください。 〈今回のまとめ〉 貸借対照表の「その他利益剰余金」はミス多発箇所なので、十分に注意しましょう。 (了)
連結会計を学ぶ 【第14回】 「未実現損益の消去」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 親会社と子会社で取引が行われる場合(連結会社相互間の取引高)、それは企業集団としては内部取引であることから、連結損益計算書の作成に際して、相殺消去する必要がある(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)35項)。 連結グループ(企業集団)の外部に、連結会社相互間の取引の対象となった棚卸資産などが売却されていない場合には、当該売却による利益は未実現ということになる。 今回は、未実現損益の消去に関する会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 未実現損益の消去 例えば、外部から仕入れた商品について、子会社から親会社へ売り上げたが、親会社ではまだ外部に売却しておらず棚卸資産(商品)として残っている場合を考える。 この場合、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産などの資産が、連結グループ(企業集団)内にとどまっており、連結グループの外部に売却されていないときには、子会社で計上した商品の売却益は、未実現ということになる。 連結会計基準は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益は、その全額を消去すると規定している(連結会計基準36項)。 この際、未実現損失については、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分は消去しないと規定されていることに注意が必要である(連結会計基準36項)。 公認会計士・監査審査会が公表した平成29年版の「監査事務所検査結果事例集」(平成29年7月26日公表)では、次の事例を紹介している(89ページ)。 連結会計基準は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益と規定しているが、例えば、次のような取引が考えられる。 (注) 親子会社間における利息の収受は、本シリーズ【第13回】の連結精算表との比較のために記載している。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結損益計算書の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 Ⅲ 連結精算表の作成 ① 親会社と子会社の個別損益計算書における商品取引 子会社(100%の持分比率)は親会社に商品を売上げ(20,000)、親会社では当該仕入れ分のすべてが商品(20,000)として期末に残っている。 連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別損益計算書と子会社の個別損益計算書を単純に合算すると、「売上高20,000」と「売上原価20,000」が二重計上となってしまうので、相殺消去する。 ② 未実現損益の消去 子会社から仕入れた商品(20,000)が、親会社では「商品」として個別財務諸表に計上されている。 当該商品に関して、子会社の個別損益計算書では、「売上高20,000」とこれに対応する「売上原価12,000」が計上されているものとする(利益率0.4=1-売上原価12,000/売上高20,000)。 当該取引に関して、子会社で計上した利益は8,000(=売上高20,000×利益率0.4)であるので、売上原価を増額する会計処理(利益としては減額になる)とともに、棚卸資産を減額する会計処理により、未実現損益の消去を行う。 未実現損益の消去に関する連結修正仕訳は次のとおりである。 ③ 親会社と子会社の個別損益計算書における利息の支払取引 子会社は、親会社から資金を借り入れ、利息を支払っている(300)。 親会社は、子会社に対する貸付金により、利息を受け取っている(300)。 連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別損益計算書と子会社の個別損益計算書を単純に合算すると、「受取利息300」と「支払利息300」が二重計上となってしまうので、相殺消去する。 連結損益計算書に関係する連結修正仕訳を示す趣旨から、貸付金と借入金の相殺消去については省略することとする(貸倒引当金の調整も同様に省略)。 ④ 連結精算表 連結精算表は次のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注) 上記の連結精算表には示していないが、連結貸借対照表では、商品(期末の棚卸資産)について未実現利益である8,000千円が減額されている。 Ⅳ 子会社に非支配株主が存在する場合 上記の設例は、100%の持分比率の子会社を前提に解説している。 もし、子会社の持分比率が80%のように、商品の売手側の子会社に非支配株主が存在する場合には、未実現損益は、親会社と非支配株主の持分比率に応じて、親会社の持分と非支配株主持分に配分することとなる(連結会計基準38項)。 この場合、Ⅲの「②未実現損益の消去」は次のようになる。 子会社で計上した利益は8,000(=売上高20,000×利益率0.4)であるので、売上原価を増額する会計処理(利益としては減額になる)とともに、棚卸資産を減額する会計処理により、未実現損益の消去を行う。 未実現損益8,000について、親会社(80%)と非支配株主(20%)の持分比率に応じて、親会社の持分(6,400=未実現損益8,000×80%)と非支配株主持分(1,600=未実現損益8,000×20%)に配分する。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q11】 企業が合併した場合、労働保険に関してどのような手続きが必要か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 労働保険に関しては、存続会社の事業所を管轄する労働基準監督署において、合併後の事業所の設置状況と指定事業・被一括事業の関係を整理した上で必要な手続きを行う。 継続事業の一括 労働保険においては、原則として労働者を1人以上雇用する事業所ごとに手続き事務(労働保険料の申告納付)を行うが、事務簡便の観点から事業の種類が同じ等の一定の要件を満たす場合は、所定の手続きを行うことにより、複数の事業所の手続き事務を1つの事業所でまとめて行うことができる。 これを「継続事業の一括」といい、手続き事務をまとめて行う事業所を「指定事業」、指定事業でまとめて手続き事務が行われる事業所を「被一括事業」という。 一般的には、同じ会社に複数の事業所がある場合でも、この継続事業の一括の手続きを行って、本社等で労働保険の手続き事務をまとめて行っていることが多い。 合併後の事業所の整理 合併後は、事業所の統廃合が行われたり、指定事業・被一括事業が変更となることが多いため、まずは、労働保険における事業所の関係を整理する必要がある。 ここでは、合併前後の事業所の設置状況が下記の前提で、必要な労働保険の手続きを確認する。なお、事業所はすべて継続事業で事業の種類は同一とする。 《合併前》 ◇A社(消滅会社) ◇B社(存続会社) 《合併後》 ◇B社(存続会社) ※a1事業所・a2事業所は廃止 労働保険の手続き 指定事業であるb1事業所を管轄する労働基準監督署において次の①から④の手続きを、また、a1事業所を管轄する労働基準監督署において⑤の手続きを行う。 ①は、a1からa4の4つの事業所に関する指定事業をb1事業所に変更する手続きとなる。①の申請による認可の通知を受領した後に、②から⑤の手続きを行う。 ②は、a3及びa4の合併後存続する2つの事業所に関する名称を合併後の名称に変更する手続きとなる。 ③は、a1及びa2の2つの事業所を廃止する手続きとなる。 ④は、労働保険概算保険料を追加申告する手続きとなり、合併によりb1の指定事業に関する労働保険概算保険料の基礎となる賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加し、かつ、概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合に必要となる。 ⑤は、消滅会社の廃止に関わる労働保険料の確定申告をする手続きとなる。確定申告により労働保険料の還付が必要となる場合は、合わせて還付請求書の提出が必要となるが、還付金の振込先を存続会社の金融機関の口座とする場合は、合併契約書等の添付が必要となる。 労働保険の手続きにあたっては、事業所の整理状況により取扱いが異なるため、事前に労働基準監督署等に確認することをお勧めしたい。 (了)