これからの国際税務 【第5回】 「タックスヘイブンに対する国際協調の動き」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 激化する租税競争 税制でインセンティブを提供して投資等の経済活動を管轄地に誘導する試みを「租税競争」と定義すれば、それは古今東西、幅広く観察されてきた現象である。 最近では20世紀後半からのタックスヘイブン(租税回避地)の拡大と21世紀に入り加速化された先進国を含めた法人税率の引下げ競争が、国家間で展開される租税競争の典型例であるが、国内においても、返礼品の魅力を強調した自治体間のふるさと納税の過熱拡大もその一例となろう。 法人税率引下げや返礼品等は、管轄主権の枠組み内で行われる限り、「底辺へ向かう競争」等の批判を受けることはあっても、個別に是正対象とはされない。しかし、租税回避を可能にするタックスヘイブンによる便益提供と納税者によるその利用は、20世紀後半以降、一貫して国際協調の下、税制での対抗措置の対象とされてきた。 折しも、去る11月に国際調査情報ジャーナリスト連合が第2弾として公表した「パラダイス文書」は、タックスヘイブン取引に関する1,340万件の情報を含むとされ、富裕者や多国籍企業等による潜在的利用が根強いことを思い出させた。 本稿では、タックスヘイブンの隆盛に対する国際協調と国内法の対応を検討する。 2 主な国際協調 (1) OECD租税競争プロジェクト等 20世紀末に本格化された本プロジェクトは、タックスヘイブンの拡大を中心とする「税制の堕落」をもたらす租税競争を阻止せんとする試みである。 タックスヘイブンのメルクマールは「低税率又は無税の地域であること」プラス「税制と情報開示の双方で透明性を欠くこと」であったが、その後、課税上弊害をもたらす主因となる後者に軸足を移して、当該タックスヘイブンを名指しして透明性向上を促すとともに、それを利用する租税回避に対しては、条約・国内法両面で各国が合算税制など各種対抗策を導入するよう勧告された。 この活動はさらに、OECD加盟国を中核に拡大したグローバルフォーラムによって、タックスヘイブンも対象とした金融口座の情報交換などの国際協調プロジェクトとも連携し、現在も進行中である。 (2) BEPSプロジェクト タックスヘイブンに所得を迂回させる二重非課税効果を狙った多国籍企業の租税回避に対し、BEPSプロジェクトは、本社居住国など価値創造地に本来帰属すべき課税権を回復させる法制(タックスヘイブン税制:「CFC税制」と略す)の拡充を求める勧告を行った。 租税回避目的で利用されるタックスヘイブンの事業体のほとんどは、いわゆるキャッシュボックス(資本注入された商業上の実質活動を伴わない事業体で、資産管理の器の機能のみ果たすもの)であり、BEPS勧告もキャッシュボックス対策を強く意識したものとなっている。 本社所在地国のみならず欧州やアジアの中間持株会社所在国が有効なCFC税制を持たないことも租税回避を容認する結果となっているとして、CFC税制の標準装備を強く勧告している。 3 我が国の国内法制 (1) 外国子会社合算税制 我が国のCFC税制は「外国子会社合算税制(通称「タックスヘイブン税制」)」と呼ばれ40年前に導入されたものであるが、平成29年度税制改正でBEPS勧告に沿った大改正が行われた。 改正の中心理念は、「経済的価値を創造した管轄地に所得課税権を保証する」ことにあり、それまでの事業体別の適用基準を、所得区分を強く意識した経済活動基準に改めた。そこでは、負担率如何を問わず合算を要請されていた投資所得の範囲を拡大すると共に、特にキャッシュボックス法人につき、本社との税率格差が小さい場合でも合算義務を課すこととしている。 他の先進国改革に先駆けて行われた本改正は、タックスヘイブン税制の国際調和に向けた先行リーダーとしての役割を果たし得るものと評価できるであろう。 (2) その他の動向 国内法では、本社を海外移転することによりCFC税制の適用回避を狙う「インバージョン取引」を規制するインバージョン対策税制もCFC税制から派生する制度である。 また、租税条約の面では、そこで合意される課税権配分規定が、租税回避に悪用されるリスクを避けるために、「タックスヘイブンとは租税条約を締結せず」のポリシーを我が国もとってきた。しかし、前述した税の透明性拡充の一環として、課税権配分規定を持たず情報交換義務の合意に特化した条約のタックスヘイブンとの締結を、国際協調の下で我が国も推進している(12月初現在11ヶ国・地域対象に情報交換協定を締結)。 これらが有効に機能すれば、上記キャッシュボックスの認否を含めたCFC税制の適用が一層保障されると期待される。 4 当面の課題 税制面の国際協調は、タイムラグなく各国が処方箋を実行することが成功の秘訣であることは、過去の経験の教えるところである(米国での租税条約濫用対応が個別に行われたことによる、「〇〇サンドウィッチ構造」に対するもぐらたたき的対応の例)。 今回のBEPS下でのCFC税制改革も、未装備国を内包するEUでの取組みの遅れや、逆に独自の国内立法で租税回避に対応せんとする立法例(英国の迂回利益税等)など、タックスヘイブンとの戦いがうまく収斂することを不安視させる状況が散見される。 国際協調に関するポストBEPSの宿題の1つであり、真剣に取り組むべき課題と考える。 (了)
平成29年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「平成29年分の申告から取扱いが変更となるもの」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 平成29年分の確定申告の受付は、平30年2月16日(金)から3月15日(木)まで行われる。還付申告は、2月15日(木)以前であっても行うことができる。 なお、e‐Taxを利用する場合には、1月15日(月)から3月15日(木)の間であれば、メンテナンス時間(毎週月曜日午前0時~午前8時30分を予定)を除き24時間申告書を送信することが可能である。 今回から3回シリーズで、平成29年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 【第1回】は、平成29年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、多くの納税者の申告実務に影響がある「給与所得控除の改正」と「医療費控除の改正」について解説する。 なお、「確定申告実務の留意点」については毎年本誌上にて掲載しており、29年分の実務においても影響のある事項があるため、必要に応じ下記拙稿も合わせてご参照いただきたい。 【1】 給与所得控除の改正(上限の引下げ) 平成25年分以後、給与所得控除額の上限は段階的に引き下げられている。平成29年分の所得税については、給与等の収入金額1,000万円超に適用される220万円が上限となる(所法28②、別表第五)。 改正内容の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 【2】 医療費控除の改正(その1:セルフメディケーション税制の創設) (1) 制度の概要 健康の保持増進及び疾病の予防に対して一定の取組を行っている場合には、特定一般用医薬品等購入費について、次の算式によって計算した金額を所得金額から差し引くことができる(措法41の17の2)。本制度は、平成29年分から平成33年分の所得税について適用される。 セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例であり、通常の医療費控除との選択制である。したがって、セルフメディケーション税制の適用を受ける場合には、特定一般用医薬品等購入費以外の医療費があったとしても、通常の医療費控除を受けることはできない(措法41の17の2①)。 (2) 「特定一般用医薬品等購入費」・「一定の取組」とは ① 「特定一般用医薬品等購入費」とは 特定一般用医薬品等購入費とは、医師によって処方される医薬品から薬局等で購入できるOTC医薬品に転用された医薬品の購入費をいう(措法41の17の2②、措令26の27の2②)。 対象となる医薬品(※)は、薬局等から受け取る領収書に当該制度の対象であることが表示されている。 (※) 対象となる品目一覧は、次の厚生労働省のホームページに掲載されている。 「セルフメディケーション税制対象医薬品品目一覧(全体版)」 なお、特定一般用医薬品等購入費であっても、治療や療養に必要な医薬品の購入の対価に該当すれば、セルフメディケーション税制の適用を受けず、通常の医療費控除の対象とすることもできる。 ② 「一定の取組」 とは 一定の取組とは、次のものをいう(措法41の17の2①、措令26の27の2①、平成28年厚生労働省告示第181号)。 一定の取組に該当する健康診査や健康診断は、保険者や市区町村、勤務先が実施するものに限られていることから、全額自己負担で任意に受診する人間ドック等は一定の取組に含まれない(インフルエンザの予防接種は、任意に受けるものも含まれる)。 また、一定の取組は、セルフメディケーション税制の適用を受ける年に納税者本人が行ったものでなければならない。 (3) 適用を受けるための手続 本制度の適用を受けるには、確定申告書に次の2点を添付(②については提示も可)する。 なお、厚生労働省のセルフメディケーション税制特設ページには、「セルフメディケーション税制のQ&A」が公表されている。 【3】 医療費控除の改正(その2:医療費控除の明細書) (1) 改正の概要 平成29年分の確定申告から、申告書に医療費の領収書を添付(又は申告書を提出する際に提示)する必要がなくなり、代わりに「医療費控除の明細書」(※)を添付することとされた。 (※) セルフメディケーション税制の適用を受ける場合には「セルフメディケーション税制の明細書」 改正のポイントは、次の2つである。 (2) 「医療費控除の明細書」とは 「医療費控除の明細書」は、3つの区分から構成されている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 医療費通知とは 医療費通知とは、医療保険者が発行する医療費の額等を通知する書類(「医療費のお知らせ」等)である。 医療費通知は、次の6つのすべての事項が記載されているものに限られる。 (4) 領収書は5年間保管 「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付することにより、税務署に領収書を提出する必要はなくなるが、領収書は確定申告期限の翌日から起算して5年を経過する日までの間保存しておかなければならない。ただし、医療費控除の明細書に「医療費通知」を添付している場合には、領収書の保存義務はない。 なお、平成29年分から平成31年分までの確定申告においては、経過措置により「医療費控除の明細書」を添付せず、従来どおり医療費の領収書を添付(又は提示)する方法によることも認められる。 (5) 医療費通知を利用する場合の注意点 医療費通知には、1月から12月までの間に支払ったすべての医療費が記載されているとは限らない。医療費通知に記載されていない医療費を控除の対象にする場合には、「医療費控除の明細書」の「2 医療費(上記1以外)の明細」欄にその明細を記入することになる。 ◆ ◆ ◆ 給与所得控除と医療費控除以外にも、平成29年分の確定申告に影響のある改正事項としては、既存住宅のリフォームに係る特別控除や災害を受けた住宅の住宅借入金等特別控除等がある。これらについては、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第19回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) ⑤ 減資又は残余財産の一部分配・株式の消却・退社又は脱退等 (ⅰ) 株式の消却を伴わない無償減資 平成17年改正前商法では、現行会社法と異なり、①株式消却を伴う有償減資、②株式消却を伴わない有償減資、③株式消却を伴う無償減資、④株式消却を伴わない無償減資に分かれていた。 このうち、平成13年当時の法人税法2条17号リにおいて、 と規定することにより、④に掲げた株式消却を伴わない無償減資については、減少した資本の金額と同じだけの資本積立金額を増加させることが明らかにされた。すなわち、株式を消却しない無償減資を行ったとしても、税務上の資本等の金額は減少しないということになる。 (ⅱ) 株式消却を伴わない有償減資、残余財産の一部分配 そして、②株式消却を伴わない有償減資と残余財産の一部分配については、法人税法2条17号レ、18号ヌにおいて、プロラタ計算により、資本等の金額及び利益積立金額を減少させることが規定された。 具体的なプロラタ計算は、同法施行令8条の2第9項において、以下のように規定された。 このように、資本等の金額×交付金銭÷簿価純資産価額により、減少する資本等の金額を計算することが明らかにされている。この計算式を分解すると、交付金銭×資本等の金額÷簿価純資産価額になるため、交付金銭のうち、資本等の金額に対応するものが資本等の金額減少額となり、利益積立金額に対応するものが利益積立金額の減少額となる。 この点につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』71頁(日本租税研究協会、平成13年)では、 と解説されている。 なお、上記では小数点以下1位未満となっているが、その後の税制改正により、小数点以下3位未満と改正されている。そのほかにも、その後の税制改正により整備され、現在の形になったが、本連載のどこかで解説を行う予定である。 (ⅲ) 株式消却を伴う有償減資、無償減資、社員の退社又は脱退 ①株式消却を伴う有償減資について、法人税法2条17号ソ、18号ヌでは、株式の消却の直前の資本等の金額を当該直前の発行済株式又は出資の総数で除して計算した金額に当該消却に係る株式の数を乗じて計算した金額が、資本等の金額の減少額となり、交付金銭等の額から減少する資本等の金額を控除した金額が利益積立金額の減少額になることが明らかにされている。さらに、社員の退社又は脱退についても、同様の処理を行うこととされた(法法2十七ツ・十八ヌ)。 その後、平成13年6月の商法改正により、金庫株が解禁されるようになると、自己株式の取得を行った時点で利益積立金額を減少させ、当該自己株式を消却した時点で資本積立金額を減少させることになった。さらに、会社法が施行されると、平成18年度税制改正により自己株式の取得を行った時点で、平成17年改正前商法における株式消却を伴う有償減資と同じ処理を行うことになった。 なお、①株式消却を伴う有償減資では、消却資本等金額(資本等の金額のうち、株式消却に対応する部分の金額)から、減少した資本の金額を減算した金額が、資本積立金額の減少額と規定されている。しかし、厳密には、法人税法2条17号ソ括弧書において、 と規定されている。 すなわち、③株式消却を伴う無償減資の場合には、交付した金銭の額がゼロであることから、消却資本等金額-減少した資本の金額-消却資本等金額=減少する資本積立金額となる。結果として、△減少した資本の金額=減少する資本積立金額となるため、減少した資本の金額と同額の資本積立金額を増加させることになる。そのため、株式消却を伴う無償減資を行ったとしても、資本等の金額は変わらないものとされた。 (7) みなし配当の取扱い 法人税法24条では、みなし配当についての規定が定められている。従来、交付金銭等が旧株の帳簿価額を超える場合のその超える部分の金額について課されていたところ、平成13年度税制改正により、その基準は廃止されることになった。 この理由は、「法人がその活動により獲得した利益を還元したと考えられる部分の金額の有無や多寡は、本来、株主等の株式の帳簿価額とは関係がない」(※1)からであると説明される。そのため、株式の利益消却の場合の残存株主におけるみなし配当課税や、金銭等の交付がない場合のみなし配当課税についても、それぞれ廃止された。 (※1) 『平成13年版改正税法のすべて』162頁(大蔵財務協会、平成13年)。 平成13年度税制改正直後の法人税法24条1項では、非適格合併、非適格分割型分割、資本若しくは資本の減少又は解散による残余財産の分配、株式消却、社員の退社又は脱退による持分の払戻しがみなし配当事由として挙げられ、平成13年6月の改正により自己株式の取得が含まれることになった。また、【第6回】で解説したように、適格合併、適格分割型分割を行った場合には、みなし配当は発生しないことになった。 そして、みなし配当の計算は、前回、解説した利益積立金額の減少と足並みをそろえている。なお、非適格合併を行った場合には、被合併法人が解散することから、被合併法人で減少する利益積立金額の計算についての規定はないが、交付金銭等(合併法人株式を含む)が資本等の金額を超える場合の当該超える部分の金額として計算されることになる(法法24①一、法令23①一)。また、当然のことながら、反対株主の株式買取請求、端株の代り金及び配当見合いの合併交付金については、上記の交付金銭等から除外されることになる(※2)。 (※2) 前掲(※1)160―161頁。 さらに、非適格分割型分割を行った場合には、分子である移転簿価純資産については分割事業年度終了の時の簿価純資産価額である必要があるものの、分母である分割法人全体の簿価純資産価額については、分割事業年度だけでなく、分割前事業年度(分割の日以前6月以内に中間決算による中間申告書を提出し、かつ、その提出の日から分割の日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、その中間決算の期間)終了の時の簿価純資産価額を使用することも認められた。これは、前回、解説した資本等の金額、利益積立金額の計算と異なる点である。 このような特例が認められた理由は、「事業年度終了の時の全ての資産と負債の帳簿価額が明らかになるまでには一定の期間を要することが考慮された」(※3)ためであると説明されている。 (※3) 前掲(※1)161頁。 さらに、法人税法24条2項において、合併法人又は分割承継法人が合併又は分割型分割による株式の割当て及び当該株式以外の資産の交付をしなかった場合であっても、これらの株式の割当て又は当該株式以外の資産の交付を受けたものとして計算することが明らかにされた。そして、合併法人株式又は分割承継法人株式の割当てを受けたとみなされる場合には、直ちに資本積立金額を減少させて消却と同様の処理を行うことになった(法法2十七ネ)。 この仕組みを設けたことによる副次的な効果として、①合併法人が保有する被合併法人株式の帳簿価額が低いことによる株式譲渡損益課税を回避する(つまり、一部をみなし配当課税とする)、②被合併法人株式に合併法人株式を割り当てないことにより課税を回避することを防ぐ、③被合併法人が保有する売却予定の資産の帳簿価額の引上げを防ぐといったことが挙げられているが(※4)、これを理由として設けられた制度ではないと思われる。 (※4) 前掲(※3)。 むしろ、【第15回】で解説したように、被合併法人が保有する資産及び負債を合併法人に移転し、その対価としての合併法人株式等が被合併法人に移転し、その後、その株主に分配されるという仕組みになっていることから、合併法人が保有していた被合併法人株式に対して、対価が割り当てられたとみなさざるを得なかったことが理由であると思われる。 (8) 株主等の旧株の譲渡損益の取扱い 平成13年度税制改正により、法人税法61条の2第2項、3項及び6項において、株式譲渡損益課税について規定された。【第6回】で解説したように、適格組織再編成に該当するかどうかではなく、合併法人株式又は分割承継法人株式以外の資産が交付されたかどうかで判定するという点に特徴がある。 なお、分割型分割を行った場合には、分割承継法人株式だけでなく、分割法人株式も保有し続けることから、譲渡原価の計算において、分割法人株式の帳簿価額の全額ではなく、一部の金額のみを配分する必要がある。この計算については、法人税法施行令119条の8第1項で規定されたが、基本的には、前述のみなし配当の計算で算定した移転純資産の割合で計算することになる。 さらに、前述のみなし配当の計算と同様に、法人税法61条の2第4項において、合併法人又は分割承継法人が合併又は分割型分割による株式の割当て及び当該株式以外の資産の交付をしなかった場合であっても、これらの株式の割当て又は当該株式以外の資産の交付を受けたものとして計算することが明らかにされている。 * * * 次回からは、『平成13年版改正税法のすべて』163頁以降に記載されている個別項目について解説を行う予定である。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第26回】 「「適用前譲渡」又は「適用後譲渡」をした旨の通知がなかった場合」 -他の相続人への通知- 税理士 大久保 昭佳 Q X(兄)は、昨年2月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)を単独で相続し、その敷地300㎡については、その庭部分100㎡をY(弟)が、残り200㎡をXが相続しました。 Xは、その家屋を取り壊し更地にした上で、相続した土地200㎡を昨年5月に8,000万円で売却しました。相続の開始の直前まで父親は一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 Xは、昨年分の確定申告に当たり「相続空き家の特例(措法35③)」を適用して申告しました。また、Yは、庭部分100㎡を本年9月に4,000万円で売却しましたが、譲渡をした旨等のXへの通知を失念したままでいます。 この場合、Xは、そのまま、「相続空き家の特例」の適用を受けることができるでしょうか。 A その通知の有無にかかわらず、Xの「対象譲渡」に係る対価の額とYの「適用後譲渡」に係る対価の合計額が1億円を超えることとなったため、Xは「相続空き家の特例」の適用を受けることができなくなります。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」を受けようとする者は、他の「居住用家屋取得相続人」(【第19回】の解説を参照)に対し通知をし、その通知を受けた者で「適用前譲渡」又は「適用後譲渡」があった場合には、その通知を受けた者からその通知をした者に対し通知をしなければならないこととされています(措法35⑦)。 そして、「適用前譲渡」と「対象譲渡」に係る対価の合計額が1億円以下であることから本特例の適用を受けて既に申告していた場合で、その後、「居住用家屋取得相続人」による「適用後譲渡」があってその合計額が1億円を超えた場合には、その譲渡の日から4ヶ月以内に修正申告書の提出と納税が必要となります(措法35⑧)。 ところで、この「適用前譲渡」又は「適用後譲渡」に係る通知がなかった場合の取扱いはどのようになるのでしょうか。 この点について、措通35-25(適用前譲渡又は適用後譲渡をした旨等の通知がなかった場合)において、その通知がなかったとしても、その合計額が1億円を超えることとなったときは、「相続空き家の特例」の規定の適用はないことが留意的に明らかにされています。 したがって、本事例の場合、Yは、「適用後譲渡」をした旨等の通知をXにしていませんが、その通知の有無にかかわらず、Xの「対象譲渡」に係る対価の額とYの「適用後譲渡」に係る対価の合計額が1億円を超えるこことなったことから、Xは「空き家の特例」の適用を受けられないことになり、修正申告書の提出と納税の義務が生じます。 そして、その「適用後譲渡」の日から4ヶ月以内に修正申告書の提出と納税が行われなかったときには、加算税や延滞税が賦課されることとなります。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第12回】 「職業・資産の所在による住所の判定」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(税理士)は、海外と日本を頻繁に行き来する経営者から税務の相談を受けました。 その経営者の外国にある事務所は、まだ本格的に業務が行われる状況ではなく、資産の規模としては、日本にある財産の方が、外国にある財産よりも大きな額となっています。 この場合、現段階での所得は居住者の所得として取り扱われる、つまり日本に住所があることになるのですか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷職業と住所判定 「どのような職業に就いていたか」「どこを拠点に業務を行っていたか」というのは、住所を判定する際の要素の1つである。 会社の従業員が業務命令で海外に転勤するような場合は、「その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること」に該当し、国内に住所を有しない者と推定される(所令15①一)。 しかし、個人で事業をしている場合や、同族会社のオーナー経営者のように自分で業務内容を決め国内外を行き来することが可能な者の場合、安易にこの政令に当てはめて判断することは難しい。 そこで前回と同様に、非居住者、制限納税義務者の判定が争われた「ユニマット事件」(※1)、及び「武富士事件」(※2)を例にとり、職業がどのように判断されたかを考える。 (※1) ・東京地方裁判所平成18年(行ウ)第205号所得税決定処分取消等請求事件 ・東京高等裁判所平成19年(行コ)第342号所得税決定処分取消等請求控訴事件 (※2) ・東京地方裁判所平成17年(行ウ)第396号贈与税決定処分取消等請求事件 ・東京高等裁判所平成19年(行コ)第215号贈与税決定処分取消等請求控訴事件 ・最高裁判所(第二小法廷)平成20年(行ヒ)第139号贈与税決定処分取消等請求上告受理事件 (1) ユニマット事件 (日本の非居住者となり、シンガポールに滞在している期間中に株式を売却して、日本でのキャピタルゲイン課税を逃れた事件) ユニマット事件の原告は、日本においてインターネットを通じた株式取引を行い、シンガポール滞在中も引き続き同様の取引を行っていた。また、以前から原告は日本における2社の代表取締役であったが、これらは債務超過の状態であった。 原告は、シンガポールで平成12年12月4日に、Fと特別顧問契約及び投資顧問契約を締結したが、実際には平成13年3月21日にバックデートで作成していた。 課税当局は、このバックデートによる契約書作成は、将来の税務調査に備え、シンガポールにおける業務の必要性を仮装し、同日からシンガポールに住所があったことを作出するためのものであり、13年3月までの間は、シンガポールでの業務ができる環境が整っておらず、その期間のシンガポールでの株式取引は日本国内と同様の株式取引に過ぎないと主張した。 これに対し原告は、バックデートによる契約書作成は税務調査に備えるためでなく、シンガポールでの確定申告のために必要であり、日付を12月4日にしたのは、その時点で口頭により契約内容を確認していたためと主張した。 一審の判決では、Fとの顧問契約は、株式取引をして収益を上げることにより債務超過を回収する必然性があり、日本に滞在して株式取引をするよりも、シンガポールにおいて取引する方が収益が高まると期待したからであり、実際に収支も改善されたとした。 さらに、シンガポールにあるFの事務所の賃料の3分の1を負担し、原告の補助者や従業員は日本にはいなかったが、シンガポールには3人いたことから、株式譲渡時に業務は開始されていなかった(準備段階であった)としても、平成12年12月から職業上、生活の本拠がシンガポールに移転したとみることができるとされた。 (2) 武富士事件 (武富士の後継者が日本の非居住者となり国外財産であるオランダ法人である武富士の持株会社の株式の贈与を受け贈与税の非課税の適用とした事件) 武富士事件で問題になった後継者の長男は、ベンチャーキャピタル業務を中心とする投資業務を行うために香港に駐在したものとされる。しかし、本格的に業務を行うならば必要とされる人員も確保されず、投資案件で実施されたものも、父であるオーナー社長の了承の下に行われたものとされている。 そして、同時期において後継者は、一部上場会社である武富士の常務取締役、専務取締役と昇進している。香港滞在中も、毎月1回の取締役会に加え、営業幹部会、全国支店長会議、格付会社との面談等、会社の業務にとって重要な会議等に出席していた。 客観的にみて、後継者が香港で行った業務と日本で行った業務の「会社内外における影響力」という観点からみると、国内で行った業務の方が圧倒的に大きい。しかし、最高裁判決によると、会社内における地位ないし立場の重要性は、約2.5倍存する香港と国内との滞在日数の格差を覆して生活の本拠たる実態が国内にあることを認めるに足りる根拠とはいえないとされた。 * * * この2つの事件から考えると、「業務の重要性」という明確な基準が設けにくいものに基づいて住所がどこにあるかを判断することは難しく、また、契約の日付をバックデートしたことにつき、日本の所得税を回避すること以上の合理性が説明できるならば、住所が国外にあることを否定する要素にもならないことになる。 ▷資産の所在と住所判定 住所を判断するうえで重要なものは、資産の所在である。資産の額が相対的に大きなものとして不動産や有価証券があるが、これらの所在に関して、ユニマット事件や武富士事件ではどのように判断されたかを考える。 (1) ユニマット事件 ユニマット事件において、原告は、日本において複数の不動産や有価証券を有し、シンガポールにある資産の額と比較して大きかった。問題となった株式も譲渡の日の前日まで日本で保有し続け、担保解除の折衝や売却準備を原告が行っていた。しかし、保管管理は銀行が行い、担保の解除等はシンガポールへの渡航後に行ったものである。不動産についても賃貸や使用貸借の用に供されており、これらの不動産の管理は関連会社又は管理会社に委ねられていた。 このこと等から、高裁判決においては、国内に所在する資産についてシンガポールに居住しながら管理することが困難とまではいえないことなどを総合的に考慮すると、日本に住所を有していたと認めることはできないとされた。 (2) 武富士事件 武富士事件において、後継者の財産は、香港には預金が5,000万円程度であったが、国内には評価額1,000億円を超える武富士社の株式、23億円を超える預金、182億円を超える借入金等を有し、資産の大きさで比較すると、圧倒的に日本の方が大きい。 しかし、最高裁判決において、香港に銀行預金等の資産を移動しないとしても、海外赴任者に通常みられる行動となんら齟齬するものではないこと等から、香港に生活の本拠があることを否定する要素とはならないとされた。 * * * この2つの事件から考えて、いずれも日本にある資産の額が外国にある資産の額より大きくとも、それらの資産が外国に居住していても管理ができるものであり、外国での通常の生活に支障をきたさないならば、あえて外国に資産を移動しなかったとしても、外国に住所を有することが否定されるわけではないことになる。 このため、住所を判定するに際しては、職業や資産の所在よりも、前回検討した、滞在日数や生計を一にする親族の有無の方が、その判断に大きな影響があると考える。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第54回】 「デビットカード取引による領収書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は小売業者です。デビットカード取引(即時決済型)による代金決済を始めるにあたり、下記のような文書を交付したいと考えていますが、印紙税の取扱いはどうなりますか。 【事例1】 顧客の銀行口座から支払代金が引き落とされたことを確認するために交付するもの 【事例2】 デビットカードを利用して買い物を行った顧客に領収書として交付するもの 【事例3】 【事例2】と同様にデビットカードを利用して買い物を行った顧客に領収書として交付するもの(現金とデビット取引を併用して支払いを受けた場合) 【事例1】は、小売店が銀行に代わって、デビットカードを利用して買い物を行った顧客に対して、預貯金口座から代金の引落しを確認した事実を通知する文書であり、金銭の受取書には該当しない。また、他の課税文書にも該当せず不課税文書となる。 【事例2】は、デビットカードが即時決済型(顧客の預金口座から即時に代金が引落しされる)のものであり、第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当し、記載金額は80,000円となる。 【事例3】は、【事例2】と同様に17号の1文書に該当し、現金とデビットカードの合計金額80,000円が記載金額となる。 [検討] 顧客との間で金銭の授受を行わないのになぜ金銭の受取書に該当するのか 即時決済型のデビットカードとは、銀行が消費者の預金口座から瞬時に引落しを行い、加盟店の預金口座に振り込まれることが確定されるものをいう。 直接金銭の授受を行わないため、クレジットカードにおける信用取引と混同しそうだが、デビットカード取引は即時決済を前提としているため、クレジットカードの場合とは異なる。 すなわち、顧客がATM等から引き出した現金を店舗で支払うという作業を省略しているに過ぎないと考えることができ、購入時に発行された領収書(レシート)は第17号の1文書に該当する。 なお、デビットカード取引には即時決済型の取引のほか、信用取引型(クレジットカード決済のシステムを利用した)のデビットカード取引がある。 信用取引型のデビットカード取引は、クレジットカード販売の場合と同じく信用取引により商品を引き渡すものであり、領収書等であっても金銭の受領事実はないため、第17号文書には該当せず、不課税文書となる。 ▷まとめ 即時決済型のデビットカード取引の場合、領収書等の金額が5万円以上であれば、印紙税がかかることとなる。しかし、信用取引型のデビットカード取引は、クレジットカードによる決済と同様に不課税文書となる。ただし、その場合であっても、クレジットカード利用等である旨を領収書等に記載しないと、第17号の1文書に該当することとなる。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例57(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(旧措法42の12の4) 青色申告法人が、平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において、①適用年度の「雇用者給与等支給額」が、「基準雇用者給与等支給額」(平成25年4月1日以後に開始する最も古い事業年度の給与支給額)より一定割合(平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度については3%)以上増加していること、②適用年度の「雇用者給与等支給額」が、前事業年度以上であること、③適用年度の継続雇用者に対する平均給与等支給額が前事業年度以上であることの要件を満たせば、「雇用者給与等支給増加額」(「雇用者給与等支給額」から「基準雇用者給与等支給額」を差し引いた金額)の10%相当額(ただし、その事業年度の法人税額の10%(中小企業者等については20%)が限度)の税額控除を受けることができる。 ◆特別控除の適用要件(旧措法42の12の4④) 「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」は、確定申告書等に特別控除の対象となる「雇用者給与等支給増加額」、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。この場合において、控除される金額の計算の基礎となる「雇用者給与等支給増加額」は、確定申告書等に添付された書類に記載された「雇用者給与等支給増加額」を限度とする。したがって、更正の請求による「雇用者給与等支給増加額」の訂正は認められない。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第22回】 「別表13(1) 国庫補助金等、工事負担金及び賦課金で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第22回目は、実務で比較的採用するケースがあるにもかかわらず一般的な書籍等では解説される機会があまり多くない、「別表13(1) 国庫補助金等、工事負担金及び賦課金で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、異なる3つの明細書が1つになっており、それぞれ「Ⅰ 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」、「Ⅱ 工事負担金で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入に関する明細書」、「Ⅲ 非出資組合が賦課金で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入に関する明細書」に分かれている。 今回は、特にこの中から「Ⅰ 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」の部分のみを採り上げる。 本制度は、いわゆる圧縮記帳と呼ばれるものである。特に法人税法上の圧縮記帳制度には次のものがある。 本別表では、①~③の制度をそれぞれ明細書のⅠ~Ⅲに記載するようになっている。ちなみに、「④ 保険金等で取得した場合」は【第15回】、「⑤ 交換により取得した場合」は【第16回】で、すでに採り上げている。 そもそも法人が国又は地方公共団体等から補助金等の交付を受けて、特定の固定資産を取得するような場合において、その補助金による収入を課税対象とすると目的資産の取得が資金的に困難となり、本来の補助金としての意義が損なわれてしまう。 このため、国庫補助金等の交付を受け、その交付の目的に適合した固定資産を取得等した場合に、国庫補助金等の額に相当する金額の範囲内で、固定資産の帳簿価額を損金経理により減額する方法等により、その課税の繰延べを認めるという制度である。 また、交付を受けた国庫補助金等について、その事業年度終了の時までに返還不要であることが確定していない場合には、その国庫補助金等の額に相当する金額以下の金額を特別勘定として損金経理しておき、実際に返還を要しないことが確定した事業年度で圧縮記帳を行うことになる。 国庫補助金等の交付を受けた事業年度に目的の固定資産の取得等をし、期末までに国庫補助金等の返還を要しないことが確定している場合は、その補助金相当額が圧縮限度額となる。特別勘定を設定している場合で、国庫補助金等の返還を要しないことが確定した場合の圧縮限度額の計算方法は次のとおり。 ▼ 注意!▼ この場合、返還を要しないことが確定した特別勘定の金額を取り崩して益金の額に算入することになる。 なお、国庫補助金等の交付の代わりとして固定資産を取得した場合も、圧縮記帳の対象となるが、この場合にはその固定資産の価額が圧縮限度額となる。 Ⅲ 「別表13(1)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 圧縮記帳に関する計算と仕訳例 (単位:円) 〔前期の補助金交付時の仕訳〕 〔前期末時の仕訳〕 〔当期末時の仕訳〕 〔圧縮限度額の計算〕 ◆機械の圧縮限度額 (5) 別表の各記載欄の説明 「帳簿価額の減額等をした場合(無条件の場合又は返還を要しないこととなった場合)」欄 「特別勘定に経理した場合(条件付の場合)」欄 「当期中に益金の額に算入すべき金額」 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第41回】 「100%子会社間の対価ありの会社分割」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、100%子会社間の対価ありの会社分割を解説する。企業グループとして、経営効率化のために会社分割により子会社間で対価を交付して事業の移転を行うことがある。このことを「対価ありの会社分割」という。 100%子会社間の対価ありの会社分割は、「共通支配下の取引」(【第18回】参照)に該当する。 なお、当該解説では、対価として、分割承継株式のみを、承継会社から分割会社に交付する場合で、会社分割後も承継会社は分割会社の関係会社とならない場合を前提に解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 分割子会社の個別財務諸表上では、以下の会計処理が必要である(企業会計基準適用指針第 10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「適用指針」という)」254-2、226、447-2、87(1)①②)。 移転事業に係る資産及び負債を個別財務諸表上の金額で取り崩し、取り崩した資産・負債の純額から移転事業に係る評価・換算差額等及び新株予約件を控除した額(株主資本相当額)から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負を控除して承継会社株式を算定する(※1)(※2)。 (※1) 移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、取得する承継会社株式の取得原価に含めずに、当該株式に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として計上する。 (※2) 分割会社が取得する承継会社株式は、分割会社にとってはその他有価証券に分類されることがあるが、共通支配下の取引であるため、他の子会社の株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定される。したがって、移転損益は認識されない。 承継子会社の個別財務諸表上では、以下の会計処理が必要である(適用指針254-3、227(1)、87(1)②、409、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準(以下、「基準」という)」41、注9)。 移転事業に係る資産及び負債を、会社分割の効力発生日直前に分割会社で付された適正な帳簿価額により計上する。また、株主資本相当額は、払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理し、移転された資産等に評価・換算差額等が含まれている場合には、それも引き継ぐ。 増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。 【親会社の会計処理】 分割会社は会社分割により移転事業に係る資産及び負債が減少するが、その対価として承継会社株式を取得するため、分割会社の純資産の額は変動しない(厳密には、評価・換算差額等や新株予約権の変動分は純資産額の額は変動する)。そのため、親会社は、分割会社株式の帳簿価額を変動させる必要はなく、特段の会計処理は不要である。 共通支配下の取引は、内部取引であるため、全て消去する(基準44)。そのため、分割会社が取得した承継会社株式と承継会社で計上した払込資本を消去する。 《設例》 P社の100%子会社であるY社は、同じく100%子会社であるX社へ、吸収分割により、A事業を移転した。 A事業を移転することにより、X社からY社へX社株式が交付された。なお、会社分割後、X社はY社の関係会社になっていない。 X社で増加する払込資本はその他資本剰余金とする。 親会社P社は連結財務諸表を作成している。 Y社のA事業の効力発生日直前における貸借対照表は以下のとおりである。 〈会計処理〉 1 分割子会社Y社の会計処理 (※1) 帳簿価額 (※2) 差額 2 承継子会社X社の会計処理 (※3) Y社のA事業の帳簿価額 (※4) 差額 3 親会社P社の会計処理 4 連結財務諸表における会計処理 企業結合年度において、共通支配下の取引等に係る重要な取引がある場合には、以下の(1)及び(2)を注記する。 なお、個々の共通支配下の取引等についての重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の共通支配下の取引等全体では重要性がある場合には、当該企業結合全体で注記する。 また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(基準52)。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 (了)
連結会計を学ぶ 【第9回】 「親会社及び子会社の会計方針」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 親会社及び子会社の会計方針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、原則として統一することとされている(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)17項)。 当該取扱いに関連して次のものが公表されているので、実務の適用に際しては、これらの規定をよく理解する必要がある。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 親子会社間の会計処理の統一 1 基本的な考え方 親子会社間の会計処理の統一は、平成9年6月6日に改訂された「連結財務諸表原則」において規定されたものであり、同一の環境下にあるにもかかわらず、同一の性質の取引等について連結会社間で会計処理が異なっている場合には、その個別財務諸表を基礎とした連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の適切な表示を損なうことは否定できないと考えられたことによる(連結会計基準57項)。 「原則として統一する」とは、①統一しないことに合理的な理由がある場合又は②重要性がない場合を除いて、統一しなければならないことを意味する(会計処理統一実務指針3項)。 会計処理統一Q&Aでは、次のように述べている(会計処理統一Q&AのQ2)。 持分法の適用対象となる非連結子会社についても、連結子会社と同様に、原則として統一する(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号)9項、21項、会計処理統一実務指針3項)。 2 基準性の原則 「連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない。」として、いわゆる「基準性の原則」を定めている。 「基準性の原則」の下では、親子会社間の会計処理の統一は、各個別財務諸表の作成段階で行うことが原則となる(会計処理統一Q&AのQ1)。 各連結会社の個別財務諸表の作成段階においては、適用されていない特定の会計方針を、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をより適正に表示するという観点から、連結決算手続上、個別財務諸表の処理を修正して適用する場合もある(会計処理統一Q&AのQ1)。 3 親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い 会計処理統一実務指針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親子会社間の会計処理を統一する手順を次のように規定している(会計処理統一実務指針4項、会計処理統一Q&AのQ3)。 【親子会社間の会計処理を統一する手順】 なお、親子会社間の会計処理の統一を目的として会計方針を変更する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表上、これを「正当な理由」による会計方針の変更として認めるものとされている(会計処理統一実務指針4項(4)、会計処理統一Q&AのQ7~Q9)。 4 個別の会計処理基準等に関する取扱い 会計処理統一実務指針は、(1)原則として統一すべき会計処理と(2)必ずしも統一を必要としない会計処理に分けて規定している。 (1) 原則として統一すべき会計処理 資産の評価基準、同一の種類の繰延資産の処理方法、引当金の計上基準及び営業収益の計上基準については、統一しないことに合理的な理由がある場合又は重要性がない場合を除いて、親子会社間で統一する。 例えば、営業収益の計上基準については、原則として事業セグメント単位等ごとに、企業集団内の親会社又は子会社が採用している計上基準の中で、企業集団の財政状態及び経営成績をより適切に表示すると判断される計上基準に統一する(会計処理統一実務指針5項(1))。 (2) 必ずしも統一を必要としない会計処理 資産の評価方法及び固定資産の減価償却の方法については、本来統一することが望ましいが、事務処理の経済性等を考慮し、必ずしも統一を要しないものとされている(会計処理統一実務指針5項(2))。 5 連結決算手続上、親会社の会計処理を修正した場合の取扱い 会計処理の統一にあたっては、より合理的な会計方針を選択すべきであり、子会社の会計処理を親会社の会計処理に合わせる場合のほか、親会社の会計処理を子会社の会計処理に合わせる場合も考えられる(連結会計基準58項)。 連結決算手続上、親会社の会計処理を修正した場合で、その影響額が重要なときには、その旨、修正の理由及び当該修正が個別財務諸表において行われたとした場合の影響の内容を連結財務諸表に追加情報として注記しなければならない。この場合の重要性の判断基準については、例えば、財務諸表項目の連単倍率等の算定において極めて重要な影響を及ぼす場合等が考えられている(会計処理統一実務指針6項、会計処理統一Q&AのQ10、Q11)。 (了)